説明

基体とその製造方法およびそれを用いた調理機器、調理容器

【課題】従来、基体に撥水撥油性を持たせるのに、その表面にアルキル基もしくはフルオロアルキル基を有するシロキサン膜を設けていたが、高温の基体上でのこの膜の安定性、すなわち高温でのこの膜の耐久性すなわち耐熱性に課題があった。
【解決手段】本発明は、表面上に少なくともシロキサン結合を有する膜が形成された熱膨張係数が7×10−7/K以下の基体である。この構成により、高温時にこの膜の熱膨張率と基体の熱膨張率の差、すなわちこの基体表面上のシロキサン結合を有する膜に蓄積される内部応力が小さいため、この膜の耐熱性を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面上に少なくともシロキサン結合を有する膜が形成された熱膨張係数が7×10−7/K以下の基体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基体に撥水撥油性を持たせるのに、その表面にアルキル基もしくはフルオロアルキル基を有するシロキサン膜を設けていた。(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第12500854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら高温の基体上でのこの膜の安定性、すなわち高温でのこの膜の耐久性すなわち耐熱性に課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記従来の課題を解決するため、表面上に少なくともシロキサン結合を有する膜が形成された熱膨張係数が7×10−7/K以下の基体とした。熱膨張係数が7×10−7/K以下の基体では、高温時のこの膜に蓄積される内部応力が小さいため、膜の耐熱性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0005】
本発明によって、基体表面上にシロキサン結合を有する膜の耐熱性が大幅に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
第1の発明は、表面上に少なくともシロキサン結合を有する膜が形成された熱膨張係数が7×10−7/K以下の基体である。この構成により、高温時にこの基体表面上のシロキサン結合を有する膜に蓄積される内部応力が小さいため、この膜の耐熱性を向上できる。
【0007】
第2の発明は、シロキサン結合を介して少なくともシロキサン結合を有する膜と基体表面が化学結合していることを特徴とする。この構成により、上記膜と基体が強固に結合するので、この膜の耐熱性を大幅に向上できる。
【0008】
第3の発明は、基体に表面水酸基を有することを特徴とする。この構成により、シロキサン結合を介して上記膜と基体表面が容易に化学結合できるので、この膜の耐熱性をさらにに向上できる。
【0009】
第4の発明は、基体が、ガラスもしくはセラミックであることを特徴とする。この構成により、ガラスもしくはセラミックのような汎用基体上でも、この膜の耐熱性を向上できる。
【0010】
第5の発明は、シロキサン結合を有する膜が少なくともアルキル基もしくはフルオロアルキル基を有することを特徴とする。この構成により容易に撥水、撥油性を有し、かつ耐熱性に優れた膜を提供できる。
【0011】
第6の発明は、シロキサン結合を有する膜が単分子膜であることを特徴とする。この構成により膜厚が数ナノメートルの光の干渉が起こらない透明で耐熱性に優れた膜が基体上に形成されるので、基体の色感を損なわない膜が形成された基体となる。
【0012】
第7の発明は、基体自身が透明であることを特徴とする。この構成により膜厚が数〜数十ナノメートルの光の干渉が起こらない透明で耐熱性に優れた膜が透明な基体上に形成されるので、まったくの透明な膜が形成された基体となる。
【0013】
第8の発明は、熱膨張係数が7×10−7/K以下の基体上に、少なくともシラン化合物を含む溶液を塗布する工程を少なくとも含む基体の製造方法である。この製造方法により、高温時にこの基体表面上のシロキサン結合を有する膜に蓄積される内部応力が小さくできるので、耐熱性が向上する膜が製造できる。
【0014】
第9の発明は、シラン化合物がハロゲン化シラン、アルコキシシラン、イソシアネートシラン、アミノシランであることを特徴とする基体の製造方法である。この製造方法により、表面上にこれらのシラン化合物同士が結合してできるシロキサン結合を有する膜を有する基体が製造できる。
【0015】
第10の発明は、ハロゲン化シラン化合物がクロロシランであることを特徴とするの基体の製造方法である。この方法によると表面上にクロロシラン化合物同士が結合してできるシロキサン結合を有し、かつシロキサン結合を介して表面と化学結合する膜を有する基体が製造できる。
【0016】
第11の発明は、シラン化合物を含む溶液の溶媒が非水溶媒であることを特徴とする基体の製造方法である。この方法によるとシラン化合物が水と反応することがないので、表面上にこれらのシラン化合物同士が結合してできるシロキサン結合を有する膜、またはシロキサン結合を介して表面と化学結合した膜を有する基体を安定して製造できる。
【0017】
第12の発明は、非水溶媒がシリコーンであることを特徴とする基体の製造方法である。この方法によると、さらにシリコーンによりシラン化合物は溶媒和されるので、外部からの水の影響を受けにくく、優れた非水溶媒となる。
【0018】
第13の発明は、シラン化合物を含む溶液を塗布する工程が湿度35%以下の無水雰囲気下であることを特徴とする基体の製造方法である。この方法によると、シラン化合物が外気からの水と反応することがないので、表面上にこれらのシラン化合物同士が結合してできるシロキサン結合を有する膜、またはシロキサン結合を介して表面と化学結合する膜を有する基体が安定して製造できる。
【0019】
第14の発明は、シラン化合物を含む溶液を塗布する工程の後に溶媒を除去する乾燥工程を含むことを特徴とする基体の製造方法である。この方法によると、乾燥工程においてシラン化合物が濃縮されるため、表面上にこれらのシラン化合物同士が結合してできるシロキサン結合を有する膜、またはシロキサン結合を介して表面と化学結合する膜が高密度にでき、その結果耐熱性を大幅に向上できる。
【0020】
第15の発明は、シラン化合物を含む溶液を塗布する工程の後に溶媒を除去する乾燥工程が湿度35%以下の無水雰囲気下であることを特徴とする基体の製造方法である。この方法によると、乾燥工程においてシラン化合物が濃縮される過程で、外部の水とシラン化合物とが反応することがないから、表面上にこれらのシラン化合物同士が結合してできるシロキサン結合を有する膜、またはシロキサン結合を介して表面と化学結合した膜がさらに高密度にでき、その結果耐熱性をさらに大幅に向上できる。
【0021】
第16の発明は、シラン化合物を含む溶液を塗布する工程の後に過剰な未反応のシラン化合物を洗浄する工程を含むことを特徴とする基体の製造方法である。これにより表面上にこれらのシラン化合物同士が結合してできるシロキサン結合を有する膜が単分子膜になる。
【0022】
第17の発明は、シラン化合物を含む溶液を塗布する工程の後に過剰な未反応のシラン化合物を洗浄する工程が湿度35%以下の無水雰囲気下であることを特徴とする請求項14に記載の基体の製造方法。これにより表面上にこれらのシラン化合物同士が結合してできるシロキサン結合を有する膜が単分子膜になるとともに、過剰なシラン化合物と水との反応物が残らないので、単分子膜が表面に露出する。
【0023】
第18の発明は、表面上に少なくともシロキサン結合を有し、かつ少なくともフルオロアルキル基もしくはアルキル基を有する膜が形成された熱膨張係数が7×10−7/K以下の基体を少なくとも天面、壁面、底面のいずれかに用いた調理機器である。この構成にすると、調理機器の底面、たとえば加熱されるクッキングヒータのプレート面に用いて、調理物が焼き付いても容易に除去することができ、かつ、耐熱性が良好のため、長期にわたりこれを維持できる。
【0024】
第19の発明は、基体が透明であることを特徴とする調理機器である。この構成によると、さらに基体を通して調理物を観察できるので、調理しやすくもなる。
【0025】
第20の発明は、表面上に少なくともシロキサン結合を有し、かつ少なくともフルオロアルキル基もしくはアルキル基を有する膜が形成された熱膨張係数が7×10−7/K以下の基体を少なくとも内面に用いた調理容器である。この構成にすると、調理容器内面、たとえばセラミック鍋に用いて加熱調理し、調理物が焼き付いても容易に除去することができ、かつ、耐熱性が良好のため、長期にわたりこれを維持できる。
【0026】
第21の発明は、基体が透明であることを特徴とする調理容器である。この構成によると、さらに基体を通して調理物を観察できるので、調理しやすくもなる。
【0027】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0028】
図1は本発明の第1の実施形態における基体とその製造プロセスを示す。
【0029】
窒素雰囲気(無水)下で熱膨張係数が1×10−7/Kのガラス基板1にへプタデカフルオロデシルトリクロロシラン2を含む溶液3に浸漬し、浸漬後過剰なヘプタデカフルオロデシルトリクロロシラン2を溶媒4で洗浄し、通常雰囲気で乾燥することで、本発明のガラス基体5が作製される。そしてこのガラス基体は基体表面にヘプタデカフルオロデシル基による防汚性をを付与することができる。
【0030】
なお、本発明のシラン化合物としては、次のものが有効である。
【0031】
(1)SiX (n=0に相当)
(2)SiX−O−SiX (n=1に相当)
さらに具体的な化合物としては
(3)Si(OC
(4)Si(OCH−O−Si(OCH
(5)Si(OC−O−Si(OCH
(6)Si(OC−O−Si(OC
(7)Si(NCO)
(8)Si(NCO)−O−Si(NCO)
(9)SiCl
(10)SiCl−O−SiCl
が挙げられる。
【0032】
また、本発明で用いることができるシラン化合物としては、下記のものを例示することができる。
【0033】
(11)SiYpCl4−p
(12)CH(CHO(CHSiYqCl3−q
(13)CH(CH−Si(CH(CH−SiYCl3−q
(14)CFCOO(CHSiYCl3−q
但し、pは1〜3の整数、qは0〜2の整数、rは1〜25の整数、sは0〜12の整数、tは1〜20の整数、uは0〜12の整数、vは1〜20の整数、wは1〜25の整数を示す。また、Yは、水素、アルキル基、アルコキシル基、含フッ素アルキル基または含フッ素アルコキシ基である。
【0034】
さらに、具体的なシラン系化合物として下記に示す(15)−(21)が挙げられる。
【0035】
(15)CHCHO(CH15SiCl
(16)CH(CHSi(CH(CH15SiCl
(17)CH(CHSi(CH(CHSiCl
(18)CHCOO(CH15SiCl
(19)CF(CF−(CH−SiCl
(20)CF(CF−(CH−SiCl
(21)CF(CF−C−SiCl
また、上記クロロシラン系化合物の代わりに、全てのクロロシリル基をイソシアネート基に置き扱えたイソシアネート系化合物、例えば下記に示す(22)−(26)を用いてもよい。
【0036】
(22)SiY(NCO)4−p
(23)CH−(CHSiY(NCO)3−p
(24)CH(CHO(CHSiY(NCO)q−P
(25)CH(CH−Si(CH(CH−SiY(NCO)3−q
(26)CFCOO(CHSiY(NCO)3−q
但し、p、q、r、s、t、u、v、wおよびXは、前記と同様である。
【0037】
前記のシラン系化合物に変えて、下記(27)−(33)に具体的に例示するシラン系化合物を用いてもよい。
【0038】
(27)CHCHO(CH15Si(NCO)
(28)CH(CHSi(CH(CH2)15Si(NCO)
(29)CH(CHSi(CH(CH2)Si(NCO)
(30)CHCOO(CH15Si(NCO)
(31)CF(CF−(CH−Si(NCO)
(32)CF(CF−(CH−Si(NCO)
(33)CF(CF−C−Si(NCO)
また、シラン系化合物として、一般に、SiY(OA)4−k(Yは、前記と同様、Aはアルキル基、kは0、1、2または3)で表される物質を用いることが可能である。中でも、CF−(CF−(R)−SiY(OA)3−q(nは1以上の整数、好ましくは1〜22の整数、Rはアルキル基、ビニル基、エチニル基、アリール基、シリコンもしくは酸素原子を含む置換基、lは0または1、Y、Aおよびqは前記と同様)で表される物質を用いると、よりすぐれた防汚性の被膜を形成できるが、これに限定されるものではなく、これ以外にも、 CH−(CH−SiY(OA)3−qおよびCH−(CH−0−(CH−SiY(OA)3−q、CH−(CH2)−Si(CH−(CH−SiY(OA)3−q、CFCOO−(CH−SiY(OA)3−q(但し、q、r、s、t、u、v、w、YおよびAは、前記と同様)などが使用可能である。
【0039】
さらに、より具体的なシラン系化合物としては、下記に示す(34)−(57)を挙げることができる。
【0040】
(34)CHCHO(CH15Si(OCH
(35)CFCHO(CH15Si(OCH
(36)CH(CHSi(CH(CH15Si(OCH
(37)CH(CHSi(CH(CHSi(OCH3)
(38)CHCOO(CH15Si(OCH
(39)CF(CF(CHSi(OCH
(40)CF(CF−C−Si(OCH
(41)CHCHO(CH15Si(OC
(42)CH(CHSi(CH(CH15Si(OC
(43)CH(CHSi(CH(CHSi(OC
(44)CF(CHSi(CH(CHSi(OC
(45)CHCOO(CH15Si(OC
(46)CFCOO(CH15Si(OC
(47)CFCOO(CH15Si(OCH
(48)CF(CF(CHSi(OC
(49)CF(CF2)(CH2)Si(OC
(50)CF(CF2)(CH2)Si(OC
(5l)CF(CFSi(OC
(52)CF(CF(CH)2Si(OCH
(53)CF(CF(CHSi(OCH
(54)CF(CF(CHSiCH(OC
(55)CF(CF(CHSiCH(OCH
(56)CF(CF(CHSi(CHOC
(57)CF(CF(CHSi(CHOCH
(22)−(57)の化合物を用いた場合には、塩酸が発生しないため、装置保全および作業上のメリットもある。
【0041】
なお、図1のシラン化合物を浸漬する工程に示す最初の反応ステップ(脱塩化水素反応)は、一般に化学吸着反応と呼ばれている。
【0042】
次に、溶媒としては、活性水素を含まない非水系溶媒を用いるのが好ましく、水を含まない炭化水素系溶媒、フッ化炭素系溶媒、シリコーン系溶媒などを用いることが可能である。なお、石油系の溶剤の他に具体的に使用可能なものは、石油ナフサ、ソルベントナフサ、石油エーテル、石油ベンジン、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、デカリン、工業ガソリン、灯油、リグロイン、ジメチルミリコーン、フェニルシリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエステルシリコーンなどを挙げることができる。また、フッ化炭素系溶媒には、フロン系溶媒や、フロリナート(3M社製品)、アフルード(旭ガラス社製品)などがある。なお、これらは1種単独で用いてもよいし、よく混合するものなら2種以上を組み合わせてもよい。
【0043】
また、基板としては、熱膨張係数が7×10−7/K以下であれば、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属、ガラス、セラミック、陶器等の酸化物、また、製膜の溶媒等、焼成等に耐えられるのであれば、樹脂などが適用できる。
【0044】
また、本発明の基体に適用できる調理機器としては、クッキングヒータ、オーブン、電子レンジ、ホットプレート、トースタ、ガスレンジなどで、特に加熱部分に絶大な効果がある。
【0045】
また、本発明の基体に適用できる調理機器としては、炊飯器の鍋、ジャーポット容器、セラミック鍋、セラミック皿、ガラス皿で、特に加熱部分に絶大な効果がある。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
窒素雰囲気(無水)下で基板として、日本電気硝子製ネオセラムN−0(熱膨張係数が1×10−7/K)にへプタデカフルオロデシルトリクロロシランと溶媒ヘキサメチルシロキサンを含む溶液に浸漬し、浸漬後、無水雰囲気で乾燥することで、本発明のガラス基体Aを作製した。
【0047】
(比較例1)
基板として、フロートガラス(熱膨張係数が1×10−6/K)を使用したことを除き、実施例1と同様に本発明のガラス基体aを作製した。
【0048】
(基板の熱膨張係数の影響)
ガラス基体Aとガラス基体aを300℃雰囲気下で所定の時間放置し、その後、その表面に純水10μlを滴下して水の接触角を測定した。その結果を図2に示す。
【0049】
この結果より明らかに、ガラス基体Aの撥水膜のほうがガラス基体aのものより耐熱性に優れていることがわかる。
【0050】
(実施例2)
基板として、石英(7×10−6/K)を使用したことを除き、実施例1と同様に本発明のガラス基体Bを作製した。
【0051】
(基板の表面水酸基の有無の影響)
300℃に加熱したガラス基体Aとガラス基体Bの表面上に、砂糖/醤油=1/1(重量比)のシロップを0.1ml滴下し、シロップ乾燥後これを水で濡れたふきんでふき取った。この動作を砂糖醤油がこびりついてとれなくなるまで同じ場所に滴下してで繰り返して、その繰り返し回数を測定した。その結果、ガラス基体Aは21回に対しガラス基体Bは5回であった。これはガラス基体Aには表面水酸基を多く有し、それとシラン化合物が反応してできるシロキサン結合を介し基板と膜が強固に結合するのに対し、ガラス基体Bには表面水酸基はほとんどないために、基板と膜が強固にしていないためと考えられる。
【0052】
(実施例3)
窒素雰囲気(無水)下で基板として、日本電気硝子製ネオセラムN−0(熱膨張係数が1×10−7/K)にへプタデカフルオロデシルトリクロロシラと溶媒ヘキサメチルシロキサンンを含む溶液に浸漬し、浸漬後過剰なヘプタデカフルオロデシルトリクロロシランを溶媒で洗浄し、通常雰囲気で乾燥することで、無水雰囲気で乾燥することで、本発明のガラス基体Cを作製した。
【0053】
(単分子膜の性能)
ガラス基体AとCの表面に純水10μlを滴下して水の接触角を測定した。その結果をガラス基体Aの接触角が103°に対し、ガラス基体Cの接触角は112°であった。これは、ガラス基体C上の過剰な浸漬後過剰なヘプタデカフルオロデシルトリクロロシランを溶媒で洗浄し、ガラス基体C上に表面にCF基が露出した単分子膜のみが形成されているためと考えられる。
【0054】
(比較例2)
通常雰囲気(湿度50%)下で基板として、日本電気硝子製ネオセラムN−0(熱膨張係数が1×10−7/K)にへプタデカフルオロデシルトリクロロシランと溶媒ヘキサメチルシロキサンを含む溶液に浸漬し、浸漬後、無水雰囲気で乾燥することで、本発明のガラス基体bを作製した。
【0055】
(比較例3)
窒素雰囲気(無水)下で基板として、日本電気硝子製ネオセラムN−0(熱膨張係数が1×10−7/K)にへプタデカフルオロデシルトリクロロシランと溶媒ヘキサメチルシロキサンを含む溶液に浸漬し、浸漬後、通常雰囲気(湿度50%)で乾燥することで、本発明のガラス基体bを作製した。
【0056】
(湿度の影響)
300℃に加熱したガラス基体Aとガラス基体bとガラス基体cの表面上に、砂糖/醤油=1/1(重量比)のシロップを0.1ml滴下し、シロップ乾燥後これを水で濡れたふきんでふき取った。この動作を砂糖醤油がこびりついてとれなくなるまで同じ場所に滴下してで繰り返して、その繰り返し回数を測定した。その結果、ガラス基体Aは21回に対しガラス基体bは11回、ガラス基体cは2回であった。
【0057】
これはガラス基体Aの場合に比べて、ガラス基体bの場合は浸漬工程で、ガラス基体cの場合は乾燥工程で通常雰囲気と接触、つまり空気中の水分とへプタデカフルオロデシルトリクロロシランが優先的に反応するため、ガラス基体Aのように表面水酸基とへプタデカフルオロデシルトリクロロシランとが反応してできるシロキサン結合を介し基板と膜が強固に結合することができないためと考えられる。
【0058】
(比較例4)
シラン化合物としてへプタデカフルオロデシルトリクロロシランの代わりに、へプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン使用したことを除き、実施例1と同様に本発明のガラス基体dを作製した。
【0059】
(試薬の影響)
300℃に加熱したガラス基体Aとガラス基体dの表面上に、砂糖/醤油=1/1(重量比)のシロップを0.1ml滴下し、シロップ乾燥後これを水で濡れたふきんでふき取った。この動作を砂糖醤油がこびりついてとれなくなるまで同じ場所に滴下してで繰り返して、その繰り返し回数を測定した。その結果、ガラス基体Aは21回に対しガラス基体dは2回であった。これはガラス基体Aの場合、表面水酸基とへプタデカフルオロデシルトリクロロシランが反応してできるシロキサン結合を介し基板と膜が強固に結合するのに対し、ガラス基体Cの場合、表面水酸基とへプタデカフルオロデシルトリエトキシシランがほとんど反応せず、そのためシロキサン結合を介し基板と膜が強固に結合しないためであると考えられる。
【0060】
(比較例5)
溶媒としてヘキサメチルジシロキサンの代わりに、アセトン使用したことを除き、実施例1と同様に本発明のガラス基体eを作製した。
【0061】
(溶媒の影響)
300℃に加熱したガラス基体Aとガラス基体eの表面上に、砂糖/醤油=1/1(重量比)のシロップを0.1ml滴下し、シロップ乾燥後これを水で濡れたふきんでふき取った。この動作を砂糖醤油がこびりついてとれなくなるまで同じ場所に滴下してで繰り返して、その繰り返し回数を測定した。その結果、ガラス基体Aは21回に対しガラス基体eは11回であった。
【0062】
これはガラス基体Aの場合に比べて、ガラス基体eの場合は浸漬工程で、アセトンに含有した水とへプタデカフルオロデシルトリクロロシランが優先的に反応するため、ガラス基体Aのように表面水酸基とへプタデカフルオロデシルトリクロロシランとが反応してできるシロキサン結合を介し基板と膜が強固に結合することができないためと考えられる。
【0063】
(実施例4)
本発明の基体を用いたセラミック天板クッキングヒータDに用い、その上に本発明の基体を用いたガラス鍋Eをもちいて、1年間各種調理(焼きもの、揚げ物、焚き物など)を行った。
【0064】
(比較例6)
無処理の基体を用いたセラミック天板クッキングヒータfの加熱面に用い、その上に無処理の基体を用いたガラス鍋gをもちいて、1年間各種調理(焼きもの、揚げ物、焚き物など)を行った。
【0065】
(調理機器および調理機器に対する実用性)
ガラス鍋は透視性がよく調理しやすかった。さらに両クッキングヒータ調理面および両ガラス鍋内面ともにこびりつきがあったもののクッキングヒータDおよびガラス鍋Eはふきんで拭き取るレベルで容易に除去できたものの、クッキングヒータfおよびガラス鍋gは、金属たわしやクレンザーを用いてもこびりつきを取り除くことができなかった。したがって本発明の効果は絶大である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、耐熱性が要求される調理機器、調理容器に広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1の実施の形態における基体とその製造プロセスを示す図
【図2】ガラス基体Aとガラス基体aの300℃耐熱時間に対する撥水膜に起因する水の接触角の変化を示す図
【符号の説明】
【0068】
1 ガラス基板
2 へプタデカフルオロデシルトリクロロシラン
3 へプタデカフルオロデシルトリクロロシランを含む溶液
4 溶媒
5 ガラス基体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上に少なくともシロキサン結合を有する膜が形成された熱膨張係数が7×10−7/K以下の基体。
【請求項2】
シロキサン結合を介して少なくともシロキサン結合を有する膜と基体表面が化学結合していることを特徴とする請求項1に記載の基体。
【請求項3】
表面水酸基を有することを特徴とする請求項1および2に記載の基体。
【請求項4】
ガラスもしくはセラミックであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の基体。
【請求項5】
シロキサン結合を有する膜が少なくともアルキル基もしくはフルオロアルキル基を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の基体。
【請求項6】
シロキサン結合を有する膜が単分子膜であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の基体。
【請求項7】
基体自身が透明であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の基体。
【請求項8】
熱膨張係数が7×10−7/K以下の基体上に、少なくともシラン化合物を含む溶液を塗布する工程を少なくとも含む基体の製造方法。
【請求項9】
シラン化合物がハロゲン化シラン、アルコキシシラン、イソシアネートシランであることを特徴とする請求項8に記載の基体の製造方法。
【請求項10】
ハロゲン化シラン化合物がクロロシランであることを特徴とする請求項9に記載の基体の製造方法。
【請求項11】
シラン化合物を含む溶液の溶媒が非水溶媒であることを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の基体の製造方法。
【請求項12】
非水溶媒がシリコーンであることを特徴とする請求項11に記載の基体の製造方法。
【請求項13】
シラン化合物を含む溶液を塗布する工程が湿度35%以下の無水雰囲気下であることを特徴とする請求項8から12のいずれか1項に記載の基体の製造方法。
【請求項14】
シラン化合物を含む溶液を塗布する工程の後に溶媒を除去する乾燥工程を含むことを特徴とする請求項8から13のいずれか1項に記載の基体の製造方法。
【請求項15】
シラン化合物を含む溶液を塗布する工程の後に溶媒を除去する乾燥工程が湿度35%以下の無水雰囲気下であることを特徴とする請求項14に記載の基体の製造方法。
【請求項16】
シラン化合物を含む溶液を塗布する工程の後に過剰な未反応のシラン化合物を洗浄する工程を含むことを特徴とする請求項8から15のいずれか1項に記載の基体の製造方法。
【請求項17】
シラン化合物を含む溶液を塗布する工程の後に過剰な未反応のシラン化合物を洗浄する工程が湿度35%以下の無水雰囲気下であることを特徴とする請求項16に記載の基体の製造方法。
【請求項18】
表面上に少なくともシロキサン結合を有し、かつ少なくともフルオロアルキル基もしくはアルキル基を有する膜が形成された熱膨張係数が7×10−7/K以下の基体を少なくとも天面、壁面、底面のいずれかに用いた調理機器。
【請求項19】
基体が透明であることを特徴とする、請求項18記載の調理機器。
【請求項20】
表面上に少なくともシロキサン結合を有し、かつ少なくともフルオロアルキル基もしくはアルキル基を有する膜が形成された熱膨張係数が7×10−7/K以下の基体を少なくとも内面に用いた調理容器。
【請求項21】
基体が透明であることを特徴とする、請求項20記載の調理容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−8420(P2006−8420A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183269(P2004−183269)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】