説明

基地局制御装置、無線通信システム、およびタイミング補正方法

【課題】基地局制御装置から基地局へのフレームのタイミング補正における二重補正の発生を抑制する。
【解決手段】本発明の基地局制御装置はデータ受信部とデータ送信部と伝送遅延算出部とガードタイム算出/判定部を有している。データ受信部は、基地局装置からのデータを受信する。データ送信部は、データ受信部で受信される基地局装置からのタイミング補正の要求に応じて補正したタイミングで、基地局装置にデータを送信する。伝送遅延算出部は、自装置から基地局装置までの伝送遅延時間と基地局装置から自装置までの伝送遅延時間とを含む往復伝送遅延時間を算出する。ガードタイム算出/判定部は、往復伝送遅延時間と、基地局装置から要求されたタイミング補正におけるタイミング補正量とに基づいてガードタイムを算出し、そのガードタイムの間に基地局装置から受信されるタイミング補正の要求を破棄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局制御装置から基地局へ送信するフレームのタイミングを補正することが可能な無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信システムにおける信号伝送では、送信機から受信機までの距離やトラヒック状況など環境の影響により信号の伝送遅延や揺らぎが生じる。これら信号の伝送遅延や揺らぎは基地局制御装置と基地局の間のトラヒック状況が変化するのに伴って経時的に変化する。
【0003】
基地局制御装置と基地局が信号およびデータを誤りなく送受信するために、W−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)システムでは、基地局制御装置と基地局が互いにトランスポートチャネルのフレーム同期をとり、各装置の基準のフレーム番号を用いてトランスポートチャネルにフレームを送信している。
【0004】
基地局制御装置からのフレームデータを受信した基地局は、受信したデータを移動端末に送信する。そのため、基地局は、無線インタフェースで移動端末にデータを送信するタイミングに応じたウィンドウを設け、基地局制御装置から受信されるデータとウィンドウのタイミング関係に関するタイミング制御を行う(特許文献1参照)。
【0005】
例えば、基地局は、基地局制御装置から受信したフレームデータがウィンドウ内に入らなかった場合に、基地局制御装置のフレームデータの送信タイミングの補正を実行する。このタイミング補正(TA: Timing Adjustment)は、基地局が基地局制御装置へフレーム送信タイミングの補正を要求することで行われる。基地局は、送信タイミング周期(TTI: Transmission Time Interval)の単位で、基地局制御装置にタイミング補正を要求することができる。
【0006】
基地局制御装置は、基地局からタイミング補正の要求を受けると、トランスポートチャネルフレーム同期のために、フレームに付与するコネクションフレーム番号(CFN)を変更することでタイミング補正を行う。
【0007】
その際、次の送信タイミングまでにタイミング補正が終わらなければ、基地局から基地局制御装置へタイミング補正の要求が重複して送られてしまい、タイミング補正が二重に行われてしまう。そこで、基地局制御装置はタイミング補正が二重に行われるのを防ぐために、タイミング補正の要求を受けてから一定時間は次のタイミング補正の要求を受け付けないようにGuard Timeを設けるのが一般的である。そして、このGuard Timeには一般に固定値が用いられる。
【0008】
しかし、設定されたGuard Timeが短すぎ、基地局制御装置と基地局の間の信号の伝送遅延や揺らぎにより、タイミング補正にGuard Time以上の時間がかかる場合がある。その場合、基地局制御装置が、基地局からのタイミング補正の要求によりタイミング補正を行った後、基地局から重複して発せられたタイミング補正の要求により、タイミング補正を二重に行ってしまう。
【0009】
そして、これにより基地局制御装置と基地局のトランスポートチャネルのフレーム同期が更に外れ、そのために基地局から基地局制御装置へタイミング補正が要求され、タイミング補正が繰り返されるという状態に陥る。その結果、音声通話では無音状態や強制切断が発生し、データ通信ではデータを受信できない状態になってしまう。
【0010】
一方、逆に、設定されたGuard Timeが長すぎた場合、Guard Timeの間はタイミング補正ができないので補正の応答性が低下し、伝送遅延または揺らぎの急激な変化にタイミング補正が追いつかず、トランスポートチャネルのフレーム同期がスムーズにとれなくなってしまう。
【0011】
それらに対して、特許文献2にはガードタイムを固定値ではなく可変値とする技術が開示されている。特許文献2によれば、ICMP(Internet Contorol Protocol) ECHOを用いて伝送遅延時間を定期的に計測し、その計測値に基づいてGuard Timeが決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2007−525080号公報
【特許文献2】特開2009−17118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、特許文献2に記載された技術では、伝送遅延時間を定期的に計測し、その計測値に基づいてGuard Timeが決定される。しかし、伝送遅延時間は常に変化したり、揺らいだりする。伝送遅延時間が急激に変化した場合、タイミング補正に、伝送遅延時間の計測値から決定したGuard Timeを超える時間がかかってしまう可能性がある。タイミング補正にかかる時間がGuard Timeを超えれば、上述と同様にタイミングの二重補正が発生してしまう。
【0014】
本発明の目的は、基地局制御装置から基地局へのフレームのタイミング補正における二重補正の発生を抑制する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の基地局制御装置は、
基地局装置からのデータを受信するデータ受信部と、
前記データ受信部で受信される前記基地局装置からのタイミング補正の要求に応じて補正したタイミングで、前記基地局装置にデータを送信するデータ送信部と、
自装置から前記基地局装置までの伝送遅延時間と前記基地局装置から前記自装置までの伝送遅延時間とを含む往復伝送遅延時間を算出する伝送遅延算出部と、
前記往復伝送遅延時間と、前記基地局装置から要求されたタイミング補正におけるタイミング補正量とに基づいてガードタイムを算出し、該ガードタイムの間に前記基地局装置から受信されるタイミング補正の要求を破棄するガードタイム算出/判定部と、を有している。
【0016】
本発明の無線通信システムは、
基地局制御装置から受信するデータのタイミングを監視し、該タイミングが所定の範囲内となるように前記基地局制御装置にタイミング補正を要求する基地局装置と、
前記基地局装置からのタイミング補正の要求に応じて補正したタイミングで前記基地局装置にデータを送信し、自装置から前記基地局装置までの伝送遅延時間と前記基地局装置から前記自装置までの伝送遅延時間とを含む往復伝送遅延時間を算出し、前記往復伝送遅延時間と、前記基地局装置から要求されたタイミング補正におけるタイミング補正量とに基づいてガードタイムを算出し、該ガードタイムの間に前記基地局装置から受信されるタイミング補正の要求を破棄する基地局制御装置と、を有している。
【0017】
本発明のタイミング補正方法は、基地局制御装置から基地局装置にデータを送信する送信タイミングを補正するためのタイミング補正方法であって、
前記基地局装置からのタイミング補正の要求に応じて補正したタイミングで、前記基地局制御装置から前記基地局装置にデータを送信し、
前記基地局制御装置から前記基地局装置までの伝送遅延時間と前記基地局装置から前記基地局制御装置までの伝送遅延時間とを含む往復伝送遅延時間を算出し、
前記往復伝送遅延時間と、前記基地局装置から要求されたタイミング補正におけるタイミング補正量とに基づいてガードタイムを算出し、
該ガードタイムの間に前記基地局装置から受信されるタイミング補正の要求を破棄するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、基地局制御装置から基地局へのフレームのタイミング補正における二重補正の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の概略的な実施形態における移動体通信システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態による基地局制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施例による移動体通信システムの構成を示すブロック図である。
【図4】第1の実施例による基地局制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】第1の実施例による移動体通信システムの動作を説明するための図である。
【図6】第1の実施例の基地局制御装置が伝送遅延を算出する処理を示すフローチャートである。
【図7A】第1の実施例の基地局制御装置によるタイミング調整の処理を示すフローチャートである。
【図7B】第1の実施例の基地局制御装置によるタイミング調整の処理を示すフローチャートである。
【図8】第2の実施例による基地局制御装置の構成を示すブロック図である。
【図9A】第2の実施例によるガードタイム処理を示すフローチャートである。
【図9B】第2の実施例によるガードタイム処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の概略的な実施形態における移動体通信システムの構成を示すブロック図である。図1を参照すると、移動体通信システムは基地局制御装置110と基地局111を有している。基地局111は、無線回線で移動端末112の送受信するデータを中継する。基地局制御装置110は基地局111と接続し、移動端末112が送受信するデータを、基地局111と送受信する。
【0022】
そして、基地局111は、基地局制御装置110から受信するデータのタイミングを監視し、そのタイミングが所定の範囲内となるように基地局制御装置110にタイミング補正を要求する。
【0023】
基地局制御装置110は、基地局111からのタイミング補正の要求に応じて補正したタイミングで基地局111にデータを送信する。また、基地局制御装置110は、自装置から基地局111までの伝送遅延時間と基地局111から自装置までの伝送遅延時間とを含む往復伝送遅延時間を算出する。そして、基地局制御装置110は、往復伝送遅延時間と、基地局111から要求されたタイミング補正におけるタイミング補正量とに基づいてガードタイムを算出し、そのガードタイムの間に基地局111から受信されるタイミング補正の要求を破棄する。
【0024】
図2は、本実施形態による基地局制御装置の構成を示すブロック図である。図2を参照すると、基地局制御装置110は、データ送信部121、データ受信部122、伝送遅延算出部123、およびガードタイム算出/判定部124を有している。
【0025】
データ受信部122は、基地局111からのデータを受信する。
【0026】
データ送信部121は、データ受信部122で受信される基地局111からのタイミング補正の要求に応じて補正したタイミングで、基地局111にデータを送信する。
【0027】
伝送遅延算出部123は、上述した往復伝送遅延時間を算出する。
【0028】
ガードタイム算出/判定部124は、往復伝送遅延時間と、基地局111から要求されたタイミング補正におけるタイミング補正量とに基づいてガードタイムを算出し、そのガードタイムの間に基地局111から受信されるタイミング補正の要求を破棄する。
【0029】
本実施形態によれば、基地局制御装置110と基地局111の間の往復伝送遅延時間に加えて、タイミング補正量に基づいてガードタイムを決定する。タイミング補正量は、伝送遅延時間の変化や揺らぎの影響を受けるパラメータなので、これをガードタイムの算出に用いることで、伝送遅延時間が急激に変化した場合でもタイミング補正がガードタイムを超えないで行われるような、ガードタイムを算出することが可能である。その結果、基地局制御装置110から基地局111へのデータのタイミング補正における二重補正の発生を抑制することができる。
【0030】
具体例としては、基地局制御装置110は、往復伝送遅延時間と、過去のタイミング補正量の最大値とに基づいてガードタイムを算出すればよい。より具体的には、基地局制御装置110は、往復伝送遅延時間とタイミング補正量の最大値と所定のマージンの合計時間をガードタイムとすればよい。また、基地局制御装置110は、ガードタイムが満了してから一定時間が経過するまでに基地局111から次のタイミング補正の要求がなければ、タイミング補正量の最大値をゼロに戻すことにしてもよい。
【0031】
次に、本実施形態のより具体的な実施例について説明する。
【0032】
(第1の実施例)
図3は、第1の実施例による移動体通信システムの構成を示すブロック図である。図3を参照すると、本実施例のよる移動体通信システムを構成するノードは基地局11と基地局制御装置10である。
【0033】
基地局制御装置10と基地局11の間ではノード間のトランスポートチャネルフレーム同期がとられる。トランスポートチャネルフレーム同期をとるために、基地局制御装置10は、基地局制御装置10と基地局11の間の往復の伝送遅延時間(以下、RTT:Round Trip Time)を計測する。RTTは、基地局制御装置10から基地局1へフレーム到達時間と、基地局11から基地局制御装置10へのフレーム到達時間の合計時間である。
【0034】
基地局制御装置10から基地局11へフレームの到達時間は、NSYNC(Node Synchronaization)のDL_NSYNC(Down Link NodeSynchronaization)13を用いて計測される。基地局11から基地局制御装置10へのフレームの到達時間は、NSYNCのUL_NSYNC(Up Link Node Synchronaization )14を用いて計測される。
【0035】
また、基地局制御装置10は、基地局11へのフレーム送出のタイミングを決定する。また、基地局制御装置10は、ノード間のトランスポートチャネルフレーム同期がずれた場合、基地局11からの要求で基地局制御装置10がフレーム送出のタイミングを補正する。具体的には、フレーム同期が外れると、基地局11は、基地局制御装置10に対してTA15を送信し、基地局制御装置10にフレーム送信タイミングのずれ幅を通知し、タイミング補正を要求する。基地局制御装置10は、基地局11からのTA15を受信すると、その要求に応じてフレーム送出のタイミングを補正する。
【0036】
図4は、第1の実施例による基地局制御装置の構成を示すブロック図である。図4を参照すると、基地局制御装置10は、データ処理装置22、記憶装置23、および周期処理装置24を有している。
【0037】
データ処理装置22は、データ送受信制御を行う処理装置であり、データ送信部25、データ受信部26、伝送遅延算出部27、およびガードタイム算出/判定部28を有している。記憶装置23は、実制御の情報を記録する記憶装置であり、ToA記憶部2aおよびガードタイム記憶部2bを有している。周期処理装置24は、周期起動で各制御を行う処理装置であり、TTI起動部2cを有している。
【0038】
データ処理装置22において、データ送信部25は、DL_NSYNC(2d)を含むデータを基地局11に送信する。データ受信部26は、UL_NSYNC(2e)を含むデータを基地局11から受信する。伝送遅延算出部27は、基地局制御装置10と基地局11の間のRTTを算出する。ガードタイム算出/判定部28は、TA(2f)に応じて、DL_NSYNC(2d)とUL_SYNC(2e)とを用いてガードタイムを算出する。
【0039】
特に、伝送遅延算出部27は、DL_NSYNC(2d)に付与した時刻情報T1と、UL_NSYNC(2e)に付与された時刻情報T2およびT3と、UL_NSYNC(2e)を受信した時刻T4に基づいて、基地局11と基地局制御装置10の間の伝送遅延RTTを算出し、算出結果を記憶装置23の伝送遅延記憶部29に記録する。
【0040】
T1は、基地局制御装置10がDL_NSYNC(2d)を送信した時刻を示す。T2は、基地局11がDL_NSYNC(2d)を受信した時間を示す。T3は、基地局11がUL_NSYNC(2e)を送信した時刻を示す。T4は、基地局制御装置10がUL_NSYNC(2e)を受信した時刻を示す。
【0041】
記憶装置23において、伝送遅延記憶部29は、伝送遅延算出部27が算出したRTTの情報を保持する。ToA記憶部2aは、ガードタイム算出/判定部28から通知されたToA(Time of Arrival)の値に基づいて、Negative ToAの絶対値の最大値を記憶する。Negative ToAは、TA内のパラメータでありフレーム到着の時間差を示すToAのうち、負の値を示すものである。
【0042】
ガードタイム記憶部2bは、ガードタイム算出/判定部28で算出されたガードタイムを記憶し、またガードタイムの残時間情報を保持する。
【0043】
特に、ガードタイム算出/判定部28は、基地局制御装置10にて受信したTA(2f)のToA値からNegative ToAの絶対値を算出し、算出した絶対値が、ToA記憶部2aに格納されている過去のNegative ToAの絶対値の最大値よりも大きければ、算出した絶対値を新たな最大値としてToA記憶部2aに格納する。
【0044】
周期処理装置24において、TTI起動部2cは、周期的な各種処理を実行する。例えば、TTI起動部2cは、DL_NSYNC(2d)の送信を起動する。また、TTI起動部2cは、UL_NSYNC(2e)の受信タイミングを監視する。また、TTI起動部2cは、TA(2f)の受信タイミングを監視する。また、TTI起動部2cは、ガードタイム記憶部2bからガードタイムを読み出し、ガードタイムのタイマー減算処理を行う。
【0045】
以下、本実施例による移動体通信システムの動作について説明する。
【0046】
図5は、第1の実施例による移動体通信システムの動作を説明するための図である。図5を参照すると、基地局制御装置10と基地局11の間でノード間の伝送遅延時間(以下「NSYNC」という)の算出を行なう。
【0047】
基地局制御装置10では、基地局制御装置10内で共通に使用しているフレームタイミングを基にフレーム送信時のタイミングT1(32)をDL_NSYNC(36)のフレームに載せ、基地局11に向けて送信する。
【0048】
基地局11は、基地局11内で共通に使用しているフレームタイミングを基にDL_NSYNC(36)フレームの受信時を示すタイミングT2(33)と、基地局制御装置10に向けたフレーム送信のタイミングT3(34)をUL_NSYNC(37)に載せて基地局制御装置10に送信する。
【0049】
さらに基地局制御装置10では、基地局11からのUL_NSYNC(37)フレーム受信のタイミングT4(35)を計測し、T1〜T4を用いてNSYNCを以下の(式1)によって算出する。なお、この動作は、3GPP TS25.402 v5.4.0(2005−06)の6.1.1項によるものである。
(T2−T1)+(T4−T3)・・・・(式1)
次に、本実施例では、トランスポートチャネルフレーム同期が用いられる。
【0050】
上記3GPP TS25.402 v5.4.0(2005−06)の7.2項によれば、ToAは、基地局制御装置10からフレームデータを受信したタイミングの、基地局11の受信ウィンドウの終点(ToAE: Time of Arrival Endpoint)からのずれを示すタイミング差の情報である。
【0051】
基地局11が基地局制御装置10からのフレームデータを受信したタイミングが基地局1におけるToAEより前であれば、即ちフレームデータが早着であれば、ToAは正の値を示すPositive ToAとなる。逆に、基地局11が基地局制御装置10からフレームデータを受信したタイミングが基地局11におけるToAEより後であれば、即ちフレームデータが遅着であれば、ToAは負の値を示すNegative ToAとなる。
【0052】
基地局11は、基地局制御装置10から受信したフレームデータが受信ウィンドウから外れると、移動端末12へフレームデータを送信できなくなるため、基地局制御装置10に対して、ToAをパラメータとするTAを送信してタイミング補正を要求する。TAを受信した基地局制御装置10は、基地局11から受信したTAに含まれているToAに基づいて送信タイミングを補正する。
【0053】
また、基地局制御装置10では、TAを受信した次のTTI周期で到達するTAによって重複してタイミング補正を行ってしまうのを防止するために、TAを受信した後からあるガードタイム内にTAを受信してもタイミング補正を行わない。
【0054】
本実施例の基地局制御装置10は、上記(式1)に基づいて、ノード間の伝送遅延(RTT)とToAとを用いてこのガードタイムを算出し、動的に更新する。
【0055】
図6は、第1の実施例の基地局制御装置が伝送遅延を算出する処理を示すフローチャートである。
【0056】
基地局制御装置10は、基地局11からUL_NSYNC(2e)を受信すると、伝送遅延算出部27にて、UL_NSYNC(2e)からパラメータT1、T2、T3を抽出する(ステップS41)。なお、ここでは、基地局制御装置10はパラメータT1をUL_NSYNC(2e)から取得することとしたが、自装置がDL_NSYNC(2d)を送出した時刻を保持しておき、それを用いることにしてもよい。
【0057】
さらに、基地局制御装置10は、伝送遅延算出部27にて、UL_NSYNC(2e)の受信タイミングであるT4を取得する(ステップS42)。
【0058】
次に、基地局制御装置10は、(式1)を用いて、T1、T2、T3、T4から基地局制御装置10と基地局11の間のRTTを算出する(ステップS43)。そして、基地局制御装置10は、算出したRTTを伝送遅延記憶部29へ登録する(ステップS44)。ここで算出された伝送遅延がガードタイムを決定するときの基準値となる。
【0059】
図7A、7Bは、第1の実施例の基地局制御装置によるタイミング調整の処理を示すフローチャートである。なお、図7Bのガードタイム更新処理は、図7Aのガードタイム処理から起動される処理である。
【0060】
図7Aのガードタイム処理を参照すると、基地局制御装置10と基地局11の間のトランスポートチャネルのフレーム同期が外れ、基地局制御装置10は基地局11からのTAを受信する。
【0061】
TAを受信すると、基地局制御装置10は、ガードタイム算出/判定部28にて、ガードタイム中であるかを判定する(ステップS50)。ガードタイム中とは、ガードタイムのタイマー減算処理が起動され、タイマーが満了していない状態である。
【0062】
ガードタイム中であれば、基地局制御装置10は、受信したTAを破棄して処理を終了する。
【0063】
ガードタイム中でなければ、基地局制御装置10は、ガードタイム記憶部2bからガードタイムの値を読み出し、ガードタイムのタイマー減算処理を起動する(ステップS51)。基地局制御装置10は、タイマーによってガードタイムのカウント値を減算し、カウント値が0になったら処理を終了する(ステップS52)。
【0064】
一方、基地局制御装置10は、ガードタイム更新処理も実行する(ステプS53)。
【0065】
図7Bに示すように、基地局制御装置10は、TA(2f)を受信すると、ToA記憶部2aに格納されているToAの最大値(ToA′)を読み出す(ステップS54)。次に、基地局制御装置10は、受信したTAよりパラメータToAを抽出する(ステップS55)。そして、基地局制御装置10は、受信したTAから抽出したToAと、ToA記憶部2aから読み出したToA′とが(式2)および(式3)を満たすか否か判定する(ステップS56)。
ToA<0 ・・・・(式2)
(受信したTAから抽出したToAの絶対値)>ToA′ ・・・・(式3)
ここで、(式2)は、受信したTAのToAがNegative ToAである場合、即ちフレームデータが遅着の場合に二重補正が発生し得るため、受信したTA内のToAが、Negative ToAを意味する0未満であるか否かを判定するものである。Positive ToAが1以上であれば、それはフレームデータの早着を意味するので、重複補正は発生し得ない。
【0066】
また、(式3)は、(式2)を満たすToAが0未満の値であるため、最大値を絶対値で判定するものである。
【0067】
(式2)と(式3)の論理積が成立しない場合、基地局制御装置10は処理を終了する。
【0068】
(式2)と(式3)の論理積が成立した場合、基地局制御装置10は、次にToA記憶部2aに格納されているToA′を新たなToAの最大値に更新する(ステップS57)。さらに、基地局制御装置10は、ガードタイム記憶部2bからガードタイムを読み出し、(式4)にToAの最大値を代入して得られた値に更新し、ガードタイム記憶部2bに格納し、処理を終了する(ステップS58)。
【0069】
伝送遅延時間+ToA+TTI ・・・・(式4)
なお、ここでTTIを加算しているのは、ガードタイムにマージンを付加する意味を持つものである。
【0070】
一般的な方法では、基地局制御装置10と基地局11の間のトランスポートチャネルフレーム同期の補正処理が伝送遅延によってガードタイムを超える場合においては、基地局制御装置10が既に行なったTA処理を要求するTAを再度受信し、補正後のタイミングを更に補正するという重複補正が発生しうる。重複補正が発生すると、基地局制御装置10と基地局11の間のトランスポートチャネルフレーム同期が更に外れ、タイミング補正の処理が繰り返されるという状態となってしまう。
【0071】
それに対して、本実施例では、以上に説明したように、予め測定した伝送遅延時間に、それまでのタイミング補正値の最大値と、送信タイミング周期分の時間とを加算してガードタイムとして動的に更新するので、信号伝送の状況に応じて適切に重複補正の発生を抑制することができる。
【0072】
また、重複補正を防ぐことは、同時に、トランスポートチャネルフレーム同期外れからの復旧のための処理を効率良く実行することにもなる。その結果、タイミング補正にかかる時間を短縮することもでき、また基地局制御装置10と基地局11の間の無駄な信号が送受信されるのを軽減することもできる。
【0073】
なお、上述した本実施例では1つの基地局11が示されたが、基地局11が複数合っても基地局11および基地局制御装置10の基本的な動作は同じであり、基地局数に制限はない。
【0074】
また、本実施例では、一回のノードの同期処理について説明したが、同じ処理を複数繰り返してもよく、また周期的に繰り返してもよいことは言うまでもない。
【0075】
(第2の実施例)
第1の実施例は、基地局制御装置10が受信したTAのパラメータToAを基に、(式4)を用いて、ToAの最大値に応じたガードタイムを設定してフレーム送信タイミングの重複補正を抑止するものであり、ガードタイムの算出に用いるToAは最大値のままであった。
【0076】
急激な伝送遅延や揺らぎに対してフレーム送信タイミングの重複補正を抑止する目的を達成するだけであれば第1の実施例による構成および動作で十分である。しかし、一旦、大きな伝送遅延や揺らぎに対応すると、その後で伝送遅延や揺らぎが減少しても、短い時間単位で補正を変化に追従させることができなくなる。
【0077】
そこで、第2の実施例では、伝送遅延や揺らぎが低減した場合にはガードタイムを適正値に戻して効率的な補正を実現する。
【0078】
図8は、第2の実施例による基地局制御装置の構成を示すブロック図である。図8を参照すると、第2の実施例の基地局制御装置10は、図4に示した第1の実施例のものに加えて、記憶装置23にToA記憶部更新用ToA記憶部61とToA記憶部更新用Time記憶部62を有している。
【0079】
また、データ処理装置22のガードタイム算出/判定部28と周期処理装置24のTTI起動部2cは、ToA記憶部更新用ToA記憶部61およびToA記憶部更新用Time記憶部62を制御する点において、図4に示した第1の実施形態のものと異なる。
【0080】
ToA記憶部更新用Time記憶部62は、ガードタイムのタイマーが満了したとき、基地局制御装置10内で共通に使用しているフレームタイミングのTimer値を設定し、タイマーの減算処理を開始する。設定されるTimer値としては、一例としてW−CDMAシステムの基地局制御装置RNC(Radio Network Controler)内でネットワーク同期をとる際に使用される基準フレーム番号(RFN:RNC Frame Number)の1周期分である40.96秒を用いることにする。以下、このタイマーを40.96秒Timerと称する。
【0081】
ToA記憶部更新用ToA記憶部61は、40.96秒Timerが起動されてから満了までに、基地局11から受信されたTA(2f)内のToAがNegative ToA(負の値)であり、かつToAの絶対値がToA記憶部更新用ToA記憶部61に保持されているToAの最大値より大きい値の場合に、ToA記憶部更新用ToA記憶部61のToAの最大値を更新する。
【0082】
また、ToA記憶部更新用ToA記憶部61は、40.96秒Timerが起動されてから満了までに基地局11からTA(2f)が受信され、そのTAから抽出されるパラメータToAが、ToA記憶部更新用ToA記憶部61に保持されているToA値を超えなければ、40.96秒Timerの起動から満了までに受信したTA(2f)から抽出されたToAの中で最大のToAの値を保持する。
【0083】
また、ToA記憶部更新用ToA記憶部61は、40.96秒Timerの起動から満了までに一度もTA(2f)が受信されなかった場合には、ToA記憶部更新用ToA記憶部61のToAの最大値を0に設定する。
【0084】
ToA記憶部更新用ToA記憶部61のToA値を(式4)のToAの最大値として反映させることで、伝送遅延および揺らぎの減少にともないガードタイムを適正な値に制御することができる。
【0085】
図9A、9Bは、第2の実施例によるガードタイム処理を示すフローチャートである。ステップS70、S72、S73、およびS74は、図7Aに示したガードタイム処理におけるステップS50、S51、S52、およびS53と同様の処理である。ステップ7dは、図7Bに示したガードタイム更新処理の(S57)と同様の処理である。図9A、9Bのそれ以外の処理が、第2の実施例に特有の処理である。
【0086】
ステップS71において、基地局制御装置10は、ガードタイムのタイマーが満了した後に次回のガードタイムの更新を行なうための40.96秒Timerが起動中か否か判断する。40.96秒Timerが起動中であれば、基地局制御装置10は、その間にTAを受信したことを示すTA受信フラグをONに設定する(ステップS77)。
【0087】
ステップS77〜7aの処理は、ガードタイムを更新するための処理である。基地局制御装置10は、受信したTA(2f)内のパラメータToAとToA記憶部更新用ToA記憶部61に格納されているToAの最大値を比較する(ステップS78)。
【0088】
ステップS78の判定において(式2)と(式5)の論理積が成立すれば、基地局制御装置10は、ToA記憶部更新用ToA記憶部61に、TA(2f)内のToA値を上書きして処理を終了する(ステップS79)。これは即ち以前に記憶したToA値以上のToAを生じさせるような伝送遅延が発生したことを示し、ガードタイムを伸ばす方向に働くものである。
(TAから抽出したToA)>(ToA記憶部更新用ToA記憶部のToA)・・(5)
(式2)と(式5)の論理積が成立しない場合は、基地局制御装置10はそのまま処理を終了し、以前のToA値を保持する。
【0089】
ステップS71にて、基地局制御装置10は、40.96秒Timerが起動していなければ、図7Aの処理と同様にステップS72、ステップS73でガードタイムの起動、ステップS74でガードタイム更新処理を実施する。そして、基地局制御装置10は40.96秒Timerを起動する(ステップS75)。
【0090】
さらに、基地局制御装置10は40.96秒Timerの満了を監視し(ステップS76)、満了した後に40.96秒Timerが動作している間に新たなTA(2f)が受信されたか否かをTA受信フラグにて判断する(ステップ7a)。
【0091】
40.96秒Timerが動作している間に新たなTA(2f)が受信されていた場合、基地局制御装置10はTA受信フラグをOFFして(ステップS7d)、処理を終了する。
【0092】
40.96秒Timerが動作している間に新たなTA(2f)が受信されなかった場合、基地局制御装置10はトランスポートチャネルのフレーム同期が安定したと判断し、TA受信フラグをOFFすると共にToA記憶部更新用ToA記憶部61のToA値を0に設定する(ステップS7c)。さらに、基地局制御装置10は、ガードタイム記憶部2bのガードタイムを、(式4)による演算結果に更新する(ステップS7d)。
【0093】
これにより、(式4)の演算に、40.96秒Timerによって更新されたToA値を反映させることで、一度大きくなったガードタイムの算出に用いるToAの最大値を伝送遅延および揺らぎの減少にともない適正に制御することができる。
【0094】
また、その他、(式4)によるガードタイムの演算においてパラメータとなるNSYNCをDL_SYNC(2d)とUL_SYNC(2e)を用いて周期的に測定して更新することにより、更に安定したガードタイムを算出することができる。
【符号の説明】
【0095】
10、110 基地局制御装置
11、111 基地局
12、112 移動端末
121 データ送信部
122 データ受信部
123 伝送遅延算出部
124 判定部
22 データ処理装置
23 記憶装置
24 周期処理装置
25 データ送信部
26 データ受信部
27 伝送遅延算出部
28 判定部
29 伝送遅延記憶部
2a ToA記憶部
2b ガードタイム記憶部
2c TTI起動部
61 ToA記憶部更新用ToA記憶部
62 ToA記憶部更新用Time記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局装置からのデータを受信するデータ受信部と、
前記データ受信部で受信される前記基地局装置からのタイミング補正の要求に応じて補正したタイミングで、前記基地局装置にデータを送信するデータ送信部と、
自装置から前記基地局装置までの伝送遅延時間と前記基地局装置から前記自装置までの伝送遅延時間とを含む往復伝送遅延時間を算出する伝送遅延算出部と、
前記往復伝送遅延時間と、前記基地局装置から要求されたタイミング補正におけるタイミング補正量とに基づいてガードタイムを算出し、該ガードタイムの間に前記基地局装置から受信されるタイミング補正の要求を破棄するガードタイム算出/判定部と、を有する基地局制御装置。
【請求項2】
前記ガードタイム算出/判定部は、前記往復伝送遅延時間と、過去の前記タイミング補正量の最大値とに基づいてガードタイムを算出する、請求項1に記載の基地局制御装置。
【請求項3】
前記ガードタイム算出/判定部は、前記ガードタイムが満了してから一定時間が経過するまでに前記タイミング補正の要求がなければ、前記タイミング補正量の最大値をゼロにする、請求項2に記載の基地局制御装置。
【請求項4】
前記ガードタイム算出/判定部は、前記往復伝送遅延時間と前記タイミング補正量の最大値と所定のマージンの合計時間を前記ガードタイムとする、請求項2または3に記載の基地局制御装置。
【請求項5】
前記ガードタイム算出/判定部は、前記基地局装置から受信されたTiming Adjustment情報に含まれている、前記基地局装置における受信ウィンドウのエンドポイントと前記基地局装置におけるデータの受信タイミングとのずれを示すTime of Arrivalが、該受信タイミングが該エンドポイントより遅れていることを示す負の値であり、かつ絶対値がそれまでの最大値であるTime of Arrivalの前記絶対値を前記タイミング補正量の最大値として用いる、請求項2から4のいずれか一項に記載の基地局制御装置。
【請求項6】
前記伝送遅延算出部は、前記データ送信部からDL_NSYNC情報が送信された第1の時刻から、前記DL_NSYNC情報が前記基地局装置にて受信された第2の時刻までの時間と、前記基地局装置からUL_NSYNC情報が送信された第3の時刻から、前記UL_NSYNC情報が前記データ受信部で受信された第4の時刻までの時間の合計時間を前記往復伝送遅延時間とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の基地局制御装置。
【請求項7】
基地局制御装置から受信するデータのタイミングを監視し、該タイミングが所定の範囲内となるように前記基地局制御装置にタイミング補正を要求する基地局装置と、
前記基地局装置からのタイミング補正の要求に応じて補正したタイミングで前記基地局装置にデータを送信し、自装置から前記基地局装置までの伝送遅延時間と前記基地局装置から前記自装置までの伝送遅延時間とを含む往復伝送遅延時間を算出し、前記往復伝送遅延時間と、前記基地局装置から要求されたタイミング補正におけるタイミング補正量とに基づいてガードタイムを算出し、該ガードタイムの間に前記基地局装置から受信されるタイミング補正の要求を破棄する基地局制御装置と、を有する無線通信システム。
【請求項8】
前記基地局制御装置は、前記往復伝送遅延時間と、過去の前記タイミング補正量の最大値とに基づいてガードタイムを算出する、請求項7に記載の無線通信システム。
【請求項9】
基地局制御装置から基地局装置にデータを送信する送信タイミングを補正するためのタイミング補正方法であって、
前記基地局装置からのタイミング補正の要求に応じて補正したタイミングで、前記基地局制御装置から前記基地局装置にデータを送信し、
前記基地局制御装置から前記基地局装置までの伝送遅延時間と前記基地局装置から前記基地局制御装置までの伝送遅延時間とを含む往復伝送遅延時間を算出し、
前記往復伝送遅延時間と、前記基地局装置から要求されたタイミング補正におけるタイミング補正量とに基づいてガードタイムを算出し、
該ガードタイムの間に前記基地局装置から受信されるタイミング補正の要求を破棄する、タイミング補正方法。
【請求項10】
前記往復伝送遅延時間と、過去の前記タイミング補正量の最大値とに基づいてガードタイムを算出する、請求項9に記載のタイミング補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【公開番号】特開2012−60374(P2012−60374A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201026(P2010−201026)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000232254)日本電気通信システム株式会社 (586)
【Fターム(参考)】