説明

基材レス機能性部材の製造方法

【課題】特定の機能を発揮しうる機能性部材に関し、基材を有することにより生じる弊害、即ち、機能性部材のカールの発生を防止しつつ当該部材の薄型化が可能な基材レス機能性部材を、効率良く製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の基材レス機能性部材10は、(1)基材1と、所定の凹凸パターンを有する型2との間に、凹凸パターンを転写するための電離放射線硬化型樹脂を含む機能層3を充填する工程、(2)充填された機能層3に電離放射線を照射して機能層3を半硬化させた後、機能層3及び基材1を型2から剥離する工程、(3)機能層3の一部に接着シート4を貼り付け、接着シート4が貼り付いた部分を起点にして機能層3を基材1から剥離する工程を順に行うことにより製造するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の機能を発揮しうる機能性部材に関し、基材を有することにより生じる弊害、即ち、機能性部材のカールの発生を防止しつつ当該部材の薄型化が可能な基材レス機能性部材を、効率良く製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光拡散フィルム、光制御フィルム、プリズムシート、フレネルレンズシート、レンチキュラーレンズシート、無反射フィルム等の各種光学フィルム、細胞培養チップ、DNAチップ、バイオデバイス、エネルギーデバイス等の各種機能を発揮しうる機能性部材が提案されている。通常このような機能性部材は、当該部材の構成要素の一部に、基材として寸法安定性や機械的強度に優れるポリエステル系フィルムが用いられ、当該フィルム上に、光拡散層、マット層、バックコート層、無反射層、レンズ層等の各種機能を発揮しうる凹凸パターンを有する機能層が設けられている。
【0003】
このような機能性部材の一般的な製造方法としては、例えば、基材上に溶融状態の熱可塑性樹脂を連続的に押出して供給した後、当該熱可塑性樹脂に型ロールを押しあて、型ロール表面の凹凸パターンを当該熱可塑性樹脂に転写することで当該熱可塑性樹脂の表面に凹凸形状を賦形して機能層を形成する2T(Thermal−Transformation)法や、あらかじめ基材表面に形成された電離放射線硬化型樹脂層に型ロールを押圧した状態で、基材裏側から紫外線を照射し電離放射線硬化型樹脂層を硬化させて凹凸パターンを転写した機能層を形成する2P(Photo−Polymer)法等がある(特許文献1、2)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−84397号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平8−166502号公報(従来の技術)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
機能性部材を製造するには、上述したように通常機能層を形成するための基材が必要となる。当該機能層は、2P法の場合、電離放射線硬化型樹脂等により構成され、当該樹脂を硬化させるために電離放射線を照射する必要がある。このとき、電離放射線の照射による当該機能層の硬化、収縮によって、当該機能層と基材との間に収縮率の相違が生じ、機能性部材としてカールが発生する場合があった。
【0006】
また、近年、携帯電話、PDA等の各種機器においては、構成部材のさらなる薄型化が要求されている。これに対し、基材を薄くすることにより構成部材の薄型化が図られるが、そうすると基材の強度が低下し、上述したカールの発生がさらに顕著となってしまう。この点を改良するため、機能性部材の構成部材の一つである基材自体をなくすことができれば、カールの発生を抑えることができる。
【0007】
このように、特定の機能を発揮しうる機能性部材において、カールが発生することなく、構成部材のコンパクト化に対応した機能性部材を効率良く製造することが切望されていた。
【0008】
これに対し、特願2007−186097は、機能層の略全面に保護シートを貼り付け、当該保護シートをきっかけにして機能層から基材を剥離することで、基材のない機能性部材を製造する技術に関するものである。当該技術によれば、確かに上述した課題が達成可能である。しかし、当該技術は、保護シートを機能層の略全面に貼り付けるものであるため、機能性部材を製造する際に別途保護シートを機能層から剥離する工程が必要となり、必ずしも効率の良いものとはいえなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、電離放射線の照射量を制御して電離放射線硬化型樹脂からなる機能層を半硬化状態とし、かつ、機能層の一部にのみ接着シートを貼り付けることにより、効率よく基材レスの機能性部材を製造できることを見いだした。
【0010】
本発明は、上述の事情に鑑みなされたもので、機能性部材のカールの発生を防止しつつ当該部材の薄型化に対応した機能性部材を、効率良く製造する方法を提供することを目的とする。
【0011】
即ち、本発明の基材レス機能性部材の製造方法は、(1)所定の凹凸パターンを有する型と基材との間に、電離放射線硬化型樹脂を含む機能層を形成する工程、(2)機能層に電離放射線を照射して機能層を半硬化させた後、機能層及び基材を型から剥離する工程、(3)機能層の一部に接着シートを貼り付け、接着シートが貼り付いた部分を起点にして機能層を基材から剥離する工程を順に行うことを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の基材レス機能性部材の製造方法は、好ましくは(1)の工程は、基材と、所定の凹凸パターンを有する型との間に、凹凸パターンを転写するための電離放射線硬化型樹脂を含む機能層を充填する工程を含むことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の基材レス機能性部材の製造方法は、好ましくは(3)の工程後、(4)機能層に電離放射線を再照射して機能層をさらに硬化させる工程を行うことを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の基材レス機能性部材の製造方法は、好ましくは前記基材を連続的に供給することにより、基材レス機能性部材を連続的に製造するように構成したことを特徴とするものである。
【0015】
また、好ましくは機能層を半硬化させた状態における基材と機能層との接着力が、2.5N/25mm以下である。また、機能層と接着シートとの接着力が、5N/25mm以上である。
【0016】
また、好ましくは本発明の製造方法により得られる機能性部材が、プリズムシートであ
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上述の(1)〜(3)の工程を順に行うことで基材レス機能性部材が製造可能なものであり、従来のように基材を有することにより生じる弊害、即ち、機能性部材のカールの発生を防止しつつ当該部材の薄型化が図れる基材レス機能性部材を製造することができる。
【0018】
また、上述の工程によれば、機能層の一部にのみ接着シートを貼り付けるため、機能層から接着シートを除去する際の手間や、接着シートを剥離除去する際に生じうる剥離帯電をなくすことができ、作業性良く基材レス機能性部材を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の基材レス機能性部材の製造方法の実施の形態について説明する。
【0020】
本発明の基材レス機能性部材の製造方法は、(1)所定の凹凸パターンを有する型と基材との間に、電離放射線硬化型樹脂を含む機能層を形成する工程、(2)機能層に電離放射線を照射して機能層を半硬化させた後、機能層及び基材を型から剥離する工程、(3)機能層の一部に接着シートを貼り付け、接着シートが貼り付いた部分を起点にして機能層を基材から剥離する工程を順に行うものである。
【0021】
なお、(1)の工程における機能層を形成する手法としては、当該機能層を充填する手法や、積層する手法等が挙げられるが、当該(1)の工程を、基材と、所定の凹凸パターンを有する型との間に、凹凸パターンを転写するための電離放射線硬化型樹脂を含む機能層を充填する工程とすることが好ましい。以下、本実施の態様を基にした、基材レス機能性部材の製造方法の実施の形態について説明する。
【0022】
図1は、本発明の基材レス機能性部材10の製造方法の一つの実施形態を示す断面図を表したものである。本発明の基材レス機能性部材10は、(1)基材1と、所定の凹凸パターンを有する型2との間に、凹凸パターンを転写するための電離放射線硬化型樹脂を含む機能層3を充填する工程、(2)充填された機能層3に電離放射線を照射して機能層3を半硬化させた後、機能層3及び基材1を型2から剥離する工程、(3)機能層3の一部に接着シート4を貼り付け、接着シート4が貼り付いた部分を起点にして機能層3を基材1から剥離する工程を順に行うものである。なお、図1における10は、機能層3単層からなる本発明の基材レス機能性部材を表している。また、(3)の工程後、(4)機能層3に電離放射線を再照射して機能層3をさらに硬化させる工程を行うことが、当該機能層3の強度を十分確保させる観点から好ましい。
【0023】
本発明の基材レス機能性部材の製造方法は、まず(1)基材と、所定の凹凸パターンを有する型との間に、凹凸パターンを転写するための電離放射線硬化型樹脂を含む機能層を充填する工程を行う。
【0024】
本発明の基材は、電離放射線に対し透過性を有する材料であれば特に限定されず、ガラスやプラスチックからなる板或いはフィルム等を使用することができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアリレート、アクリル、アセチルセルロース、ポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルム或いはシートが使用でき、寸法安定性の点で、延伸加工、特に二軸延伸加工されたものが好ましい。
【0025】
基材の厚みは、後述する機能層に形成される凹凸パターンによって適宜選択されるが、通常25〜200μmであることが好ましい。
【0026】
なお、基材には、帯電防止剤を混練させることが好ましい。当該基材に帯電防止剤を混練させることにより、後述するように基材を機能層から剥離する際に生じうる剥離帯電を防止することができるからである。
【0027】
また、基材には機能層と接する面において易接着処理が施されていることが好ましい。基材に易接着処理を施すことにより、基材と機能層との接着力を、型と機能層との接着力よりも強くさせ易くすることができる。
【0028】
また、基材には、機能層と接する面においてマット処理を施してもよい。マット処理を施すことで、基材に機能層を形成し、後述する(3)の工程で基材を剥離すると、機能層の基材と接する面にマット形状が転写されることになる。そうすることで、当該機能層の凹凸面とは反対面に、ニュートンリング防止機能等の特定の機能を付加させることもできる。
【0029】
次に本発明に用いられる型は、所定の凹凸パターンが施されてなるものである。所定の凹凸パターンを有する型は、例えば、レーザー微細加工技術により、任意の型に特定形状の凹部或いは凸部を配置密度が例えば数千個/mm2となるように形成し、これを雄型として成型用の型(雌型)を作製する、或いは、所定の粒子径の粒子を分散させた樹脂を基材に塗布・乾燥して凹凸層を有する樹脂型を作製し、これを雄型として成型用の型(雌型)を作製すること等により得られる。
【0030】
所定の凹凸パターンとしては、例えば、機能性部材として光制御フィルムとすることを想定した場合では、ピッチが数〜100μm程度の凸部を、10〜200000個/mm2程度形成されるように作製したものが好ましい。
【0031】
また、プリズムシートを想定した場合では、従来公知のプリズムシートの形状と同様に、頂角が80〜105°の範囲内において、ピッチが平均値で20〜50μm程度の凹凸パターン(プリズム面)が形成されるように作製したものが好ましい。
【0032】
なお、本発明の基材レス機能性部材は、携帯電話、PDA等の各種機器を構成する部材の一つとして用いられるものであり、当該部材の中でも特に薄型化が要求されるプリズムシートを製造する場合に本発明が好適に用いられる。また、本発明によれば、カールが発生することなく平面性に優れた機能性部材が得られるため、光の高精度な指向性が要求されるプリズムシートを製造する場合に好適に用いられる。
【0033】
本発明の基材と型との間に充填される機能層は、型が有する凹凸パターンとは相補的な凹凸パターンが転写されることにより、特定の機能を発揮しうる層である。このような機能層としては、機能性部材全体として光拡散フィルム、光制御フィルム、プリズムシート、フレネルレンズシート、レンチキュラーレンズシート、無反射フィルム等の各種光学フィルム、細胞培養チップ、DNAチップ、バイオデバイス、エネルギーデバイス等のような各種機能を発揮しうる光拡散層、マット層、バックコート層、無反射層、レンズ層等が挙げられる。
【0034】
上述した機能層は、電離放射線硬化型樹脂を含むものである。本発明においては、後述するように当該電離放射線硬化型樹脂に対する電離放射線の照射量を制御して機能層を半硬化させることで、基材と機能層とが強固に接着することなく剥離可能な状態のまま、機能層及び基材を型から剥離することができる。これにより、基材レス機能性部材を形成する際に、機能層を基材から層の破壊に起因した機能低下等を生じさせることなく剥離することができる。また、当該機能層が半硬化状態であるから、後述する接着シートとの密着性が向上し、本発明の基材レス機能性部材を製造する作業性が良好なものとなる。
【0035】
当該機能層に用いるこのような電離放射線硬化型樹脂としては、例えば電離放射線の照射によって架橋硬化することができる光重合性プレポリマーや光重合性モノマーを用いることができる。光重合性プレポリマーとしては、1分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、架橋硬化することにより3次元網目構造となるアクリル系プレポリマーが特に好ましく用いられる。このアクリル系プレポリマーとしては、ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエポキシアクリレート、メラミンアクリレート、ポリフルオロアルキルアクリレート、シリコーンアクリレート等が挙げられ、型や基材の種類、用途等に応じて適宜選択することができる。
【0036】
また、光重合性モノマーとしては、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート等の単官能アクリルモノマー、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート等の2官能アクリルモノマー、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチルプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等の多官能アクリルモノマー等の1種若しくは2種以上が使用される。
【0037】
これら光重合性プレポリマーや光重合性モノマーはそれぞれ単独でも使用可能であるが、架橋硬化性の向上や、粘度の調整等、種々の性能を付与するために、適宜組み合わせて用いることが好ましい。
【0038】
また、当該機能層を紫外線照射によって硬化させて使用する場合には、上述した光重合性プレポリマー及び光重合性モノマーの他、光重合開始剤や光重合促進剤等の添加剤を用いることが好ましい。
【0039】
光重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルメチルケタール、ベンゾイルベンゾエート、α−アシルオキシムエステル、チオキサンソン類等が挙げられる。
【0040】
また、光重合促進剤は、硬化時の空気中の酸素による重合障害を軽減させ硬化速度を速めることができるものであり、例えば、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルなどが挙げられる。
【0041】
また、当該機能層の樹脂成分としては、以上のような電離放射線硬化型樹脂の他、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、熱可塑性樹脂や熱硬化型樹脂等の他の樹脂を含有させてもよい。
【0042】
なお、機能層には、帯電防止剤を含有させることが好ましい。当該機能層に帯電防止剤を含有させることにより、後述するように機能層を型から剥離する際や、機能層から基材を剥離する際に生じうる剥離帯電を防止することができるからである。
【0043】
また、当該機能層中には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、架橋剤、粘着付与剤、酸増殖剤、希釈溶剤、充填剤、着色剤、マット剤、易滑剤、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、レベリング剤、顔料分散剤、流動調整剤、消泡剤等を含有することもできる。
【0044】
機能性部材を構成する機能層全体の厚みは、各々の機能に応じて適宜設計されるが、200μm以下であることが好ましく、さらに50μm以下の薄型のものであるときに、本発明の製造方法により作業性良く製造することができる。また、当該機能層の構造中の平坦部分の厚みは、機能層全体の厚みを薄くしつつ所望の機能を発揮する凹凸部分が不意に分離・脱落してしまうことを防止する観点から、2〜12μm程度の厚みとすることが好ましい。なお、ここで平坦部分の厚みcとは、図3に示すように、機能層の凹凸面とは反対側の平滑面から機能層の凹凸部分の下端部までの厚みをいい、機能層全体の厚みaとは、機能層の凹凸部分の厚みbと平坦部分の厚みcとの合計厚みをいう。ここで、例えば機能性部材がプリズムシート(プリズムのピッチが50μm、頂角が90°)であれば、機能層全体の厚みを27〜37μm(平坦部分の厚みが、2〜12μm)程度とすることが好ましい。
【0045】
基材と凹凸パターンを有する型との間に機能層を充填する方法としては、上述の電離放射線硬化型樹脂や他の樹脂成分等から構成される材料を混合させてなる機能層用塗布液を、従来から公知の方法、例えば、バーコーター、ブレードコーター、スピンコーター、ロールコーター、グラビアコーター、フローコーター、ダイコーター、スプレー、スクリーン印刷などにより上述の基材上に塗布し、基材の機能層用塗布液が塗布されている側と凹凸パターンを有する型の凹凸面とを対向させて充填することができる。或いは、上述した機能層用塗布液を、上記と同様の塗布方法により凹凸パターンを有する型に塗布し、型の当該機能層用塗布液が塗布されている面に基材を対向させて充填することもできる。
【0046】
次に、本発明の基材レス機能性部材の製造方法では、(2)充填された機能層に電離放射線を照射して機能層を半硬化させた後、機能層及び基材を型から剥離する工程を行う。
【0047】
本発明の基材レス機能性部材の製造方法によれば、上述した機能層に対する電離放射線の照射量を制御して機能層を半硬化状態とすることで、基材と機能層とが強固に接着することなく剥離可能な状態のまま、機能層及び基材を型から剥離することができる。これにより、基材レス機能性部材を層の破壊に起因した機能低下等を生じさせることなく製造することができる。また、基材が半硬化状態の機能層から剥離可能であるため、機能層に接する基材への電離放射線の照射量を従来に比べ少なくさせることができ、電離放射線の照射を理由とした基材の熱変形や、それに接する機能層の変形を少なくすることができ、より精度の高い機能性部材を製造することができる。
【0048】
なお、仮に、機能層を完全硬化させた後、熱変形が生じた基材を剥離することができれば、これに接する機能層の変形も緩和されるとも考えられる。しかし、上述したように機能層を破壊することなく基材を剥離することは困難であり、また、剥離できたとしても、当該機能層は基材の熱変形に追従した形体で完全硬化しているため、機能層の変形は緩和されないこととなる。したがって、本発明のように機能層が半硬化する程度に電離放射線の照射量を制御して、基材の熱変形を少なくさせる技術は、有用なものといえる。
【0049】
また、上述した電離放射線は、通常基材側から照射するが、本発明で用いる型が透過性を有するものであれば、型側から照射しても構わない。
【0050】
本発明でいう「半硬化」とは、機能層として用いられる材料や機能層の厚み、機能層へ照射する電離放射線の種類等によっても左右されるため一概にはいえないが、機能層をさらに硬化させるのに要する電離放射線の積算照射量を100%とした場合の、1.5〜70%程度、好ましくは1.5〜25%程度の照射量で硬化させたものをいう。
【0051】
機能層を構成する電離放射線硬化型樹脂に対して電離放射線を照射する方法としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプなどから発せられる100〜400nm、好ましくは200〜400nmの波長領域の紫外線を照射する、または走査型やカーテン型の電子線加速器から発せられる100nm以下の波長領域の電子線を照射することにより行うことができる。
【0052】
機能層に対し上述のような電離放射線の照射により半硬化させた状態における基材と機能層との接着力は、凹凸パターンを有する型と機能層との接着力よりも強いものであり、かつ、機能層と後述する接着シートとの接着力よりも弱いものであれば特に限定されないが、上限としては2.5N/25mm以下であることが本発明の基材レス機能性部材の製造上好ましい。また、機能層を半硬化させた状態における、凹凸パターンを有する型と機能層との接着力は、上述した基材と機能層との接着力よりも弱いものであれば特に限定されないが、2N/25mm以下とすることが機能層を型から剥がし易くさせる観点から好ましく、さらに下限として0.2N/25mm以上であることがより好ましい。
【0053】
次に、本発明の基材レス機能性部材の製造方法では、(3)機能層の一部に接着シートを貼り付け、接着シートが貼り付いた部分を起点にして機能層を基材から剥離する工程を行う。
【0054】
(3)の工程では、機能層の一部にのみ接着シートを貼り付け、当該接着シートが貼り付いた部分を起点にして接着シートを引っ張ることにより、機能層と基材との層間で乖離が生じ、機能層を基材から剥離することができる。当該方法によれば、機能層を基材から剥離する際に、当該機能層に貼る接着シートを従来の方法に比べ極力少なくすることができ、接着シートを機能層から剥離する手間や、接着シートを剥離除去する際に生じうる剥離帯電をなくすことができ、作業性良く基材レス機能性部材を効率的に製造することができる。
【0055】
なお、機能層に接着シートを一切貼り付けることなく、さらに歩留まり良く基材レス機能性部材を製造する観点から、接着シートを基材側に貼り付け、基材を機能層から剥離することも考えられる。しかし、基材に接着シートを貼り付けて引っ張るにしても、そのままでは機能層が基材に追従してしまい、機能層を基材から剥離することができないため、何らかの手段により機能層を固定しなければならない。当該機能層は、上述したように未だ十分に硬化していないため、これを固定すると機能層が変形等の悪影響を受けてしまい、接着シートを機能層に貼り付ける場合より結果として歩留まりが悪くなってしまう。したがって、接着シートを基材に貼り付ける方法は、適切なものとはいえない。
【0056】
また、ここでいう「一部」とは、機能性部材の製造の歩留まりを低下させることなく、効率良く製造する観点から、機能層の機能面に対し30%以下を覆う程度、好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下を覆う程度を指す。また、「一部」の位置は、機能層のいずれの部分であっても良いが、好ましくは機能層の一端部であることが好ましい。例えば図2に示すように、(a)機能層の長辺方向一端部や、(b)長辺方向一端部の一つの角付近のみであってもよい。
【0057】
本発明で用いる接着シートは、少なくとも機能層に対し接着性を有するものであり、また、基材と機能層との接着力よりも、機能層と接着シートとの接着力が強いものである。当該接着シートは、接着層単層からなるものであってもよいが、支持体上に接着層を形成した層構造の方が本発明を実施する作業上の観点や、製造後の基材レス機能性部材の取り扱い性の観点から好ましい。
【0058】
機能層と接着シートとの接着力は、5N/25mm以上とすることが本発明の基材レス機能性部材の製造上好ましく、特に5〜20N/25mmとすることが好ましい。
【0059】
接着シートが支持体と接着層とから構成されてなる場合には、支持体としては上述した基材と同様のものを用いることができる。支持体の厚みとしては、特に限定されないが、搬送時等の取扱い性を考慮すると30〜100μmであることが好ましい。
【0060】
接着層としては、接着剤として挙げられる従来公知の樹脂を用いることができる。例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、エチレン・酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フェノール系樹脂、シアノアクリレート系樹脂等の合成樹脂、天然ゴム系、再生ゴム系、クロロプレンゴム系、ニトリルゴム系、スチレン・ブタジエンゴム系等のゴム系樹脂などの電離放射線硬化型樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。また、当該接着層には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、接着性を有しない他の電離放射線硬化型樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の樹脂を含有させてもよい。
【0061】
さらに、接着層中には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、架橋剤、接着付与剤、酸増殖剤、希釈溶剤、充填剤、着色剤、マット剤、易滑剤、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、レベリング剤、顔料分散剤、流動調整剤、消泡剤等を含有させることもできる。
【0062】
接着層の厚みは、5〜40μm程度とすることが好ましい。このような範囲とすることにより、所望の接着能力を得易くすることができる。
【0063】
本発明における接着シートは、機能層を基材から剥離するために用いられるものであり、通常接着シートが貼り付いた部分の機能層は廃棄し、接着シートが貼り付いていない部分のみを使用する。しかし、接着シート(の接着層)を構成する材料として、外部エネルギーを加えることにより接着力が低下する硬化型樹脂を含有するものを用いた場合には、接着シートが貼り付いていた機能層の部分も廃棄することなく利用することが可能である。このような接着力が低下する硬化型樹脂としては、電離放射線硬化型樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。当該硬化型樹脂に加える外部エネルギーとしては、光(電離放射線)、熱等が挙げられる。
【0064】
次に、本発明の基材レス機能性部材の製造方法では、(4)機能層に電離放射線を再照射して機能層をさらに硬化させる工程を行うことが好ましい。
【0065】
本発明で用いられる機能層は、基材レス機能性部材を製造する観点から(3)の工程まで半硬化状態であるが、機能層の強度を十分確保させる観点から、機能層を基材から剥離した後電離放射線を再照射して、機能層をさらに硬化させる。なお、機能層をさらに硬化させる程度については、機能層の強度をより十分なものとさせる観点から、機能層を完全硬化させることが好ましい。
【0066】
また、上述のように、電離放射線を一度照射して機能層から基材を剥離した後、再度、機能層にのみ電離放射線を照射して基材レス機能性部材を製造するため、基材への電離放射線の照射量を従来に比べ少なくすることができる。したがって、電離放射線の照射を原因とした基材の熱変形を極力抑えることができ、同時に、基材に接する機能層に対しても、当該基材の熱変形による悪影響を少なくすることができ、より精度の高い機能層を製造することができる。
【0067】
当該機能層を完全硬化させるために電離放射線を照射する方法としては、上述した機能層を半硬化させる際に照射する方法と同様に行うことができる。
【0068】
また、本発明の基材レス機能性部材の製造方法において、(1)〜(3)の工程で用いられる基材を連続的に供給することで、基材レス機能性部材を連続的に製造することができる。本発明の基材レス機能性部材を連続製造するための製造装置の一例を図4に示す。図4の製造装置では、基材1の供給ロール41および巻取りロール42と、基材1の搬送路において基材1と圧接される位置に配置された型ロール43(2)と、この型ロール43に対し、基材供給路の上流側に配置された機能層用塗布液供給手段44と、型ロール43、機能層3および基材1の積層体に対し電離放射線を照射し機能層3を半硬化させるための電離放射線照射手段45、機能層3の樹脂をさらに硬化させるための電離放射線照射手段46とを備えている。
【0069】
この製造装置では、供給ロール41から基材1を連続的に供給しながら、(1)基材1と、型ロール43との間に、機能層用塗布液供給手段44により供給された電離放射線硬化型樹脂を含む機能層を充填し、(2)当該機能層3に電離放射線照射手段45により電離放射線を照射して機能層3を半硬化させた後、機能層3及び基材1を型ロール43から剥離し、(3)機能層3の一部に接着シート4を貼り付け、接着シート4が貼り付いた部分を起点にして機能層3を基材1から剥離する。機能層3が剥離された基材1は、巻取りロール42により巻き取られる。次いで、基材1が剥離された機能層3に対し、電離放射線照射手段46により電離放射線を再照射して機能層3をさらに硬化させる。当該工程を連続的に行うことにより、基材レス機能性部材を効率良く連続的に製造することができる。
【0070】
型の形状としては、基材レス機能性部材を連続的に製造可能なものであれば、どのような形状であってもよい。例えば図4に示したロール状の型に限定されず、ベルト状のものやスタンパ等であっても構わない。また、型の材料としては、例えばゴム材、樹脂材、金属または複合材等を用いることができる。
【0071】
前記基材の流れの速度については、安定的に基材レス機能性部材を連続的に製造する観点から、1〜40m/minの速度とすることが好ましい。なお、図4に示す製造装置では、基材1は供給ロール41から巻取りロール42に搬送される構成としたが、基材1を例えばベルト状のエンドレスとし、処理工程で巡回するようにしても良い。
【0072】
また、(3)の工程において、機能層を基材から剥離する際には、機能層の一部にのみ貼り付けた接着シートを、基材が供給されている流れ方向とは異なる方向に引っ張るとともに基材の搬送を連続させることにより、機能層と基材との層間で乖離を生じさせてもよいし、機能層をフラットな状態なまま流通させ、一方基材を適宜変形させながら剥離するようにしてもよい。機能層の過度な変形を防止する観点からは、後者によるものが好ましい。
【0073】
当該方法によれば、機能層と基材とを剥離するためのきっかけに過ぎない接着シートを機能層の流れの一部にのみ貼り付ければよいため、接着シートの使用を極力少なくしつつ、連続的に基材レス機能性部材を効率良く製造することができる。なお、接着シートは、機能層を供給する流れ方向先端部に貼り付けることが基材レス機能性部材を効率良く連続的に製造する観点からより好ましい。
【0074】
以上のように、本発明の製造方法によれば、基材レスの機能性部材を、層の破壊等の何らの影響を及ぼすことなく、効率良く製造することができる。したがって、カールの問題が生じずに、部材要素の薄型化が求められている光拡散フィルム、光制御フィルム、プリズムシート、フレネルレンズシート、レンチキュラーレンズシート、偏光フィルム、位相差フィルム、電磁波シールドフィルム、光反射フィルム、無反射フィルム等の各種光学フィルム、細胞培養チップ、DNAチップ、バイオデバイス、エネルギーデバイス等の分野において好適に用いることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明を更に説明する。なお、「部」、「%」は特に示さない限り、重量基準とする。
【0076】
[実施例1]
頂角90°、ピッチが50μmの単位プリズム形状が複数規則的に配列されてなる型に、下記処方の機能層用塗布液を塗布し、厚み100μmの基材であるポリエチレンテレフタレートフィルム(コスモシャインA4100:東洋紡績社)を密着させ、ポリエチレンテレフタレートフィルムと型との間に、型のプリズム形状とは相補的なプリズム形状が形成された機能層(機能層全体の厚み:30μm、平坦部分の厚み:5μm)を充填した。なお、ポリエチレンテレフタレートフィルムは、10m/minの速度にて、連続的に供給されている。
【0077】
<機能層用塗布液>
・アクリルモノマー 50部
(メタクリル酸メチル:和光純薬社)
・多官能性アクリルモノマー 45部
(NKエステルA-TMPT-3EO:新中村化学工業社)
・光重合開始剤 5部
(イルガキュア184:チバ・ジャパン社)
【0078】
次に、型上に機能層、ポリエチレンテレフタレートフィルムが順に積層された状態で、ポリエチレンテレフタレートフィルム側から、高圧水銀灯により紫外線を75mJ/cm2照射して機能層を半硬化させ、その後、ポリエチレンテレフタレートフィルムが供給されている流れに沿ってポリエチレンテレフタレートフィルム及び機能層から型を剥離させた。なお、このときの機能層と型との接着力は、1N/25mmであり、ポリエチレンテレフタレートフィルムと機能層との接着力は2.1N/25mmであった。
【0079】
次いで、図2(a)のように機能層の流れ方向の先端部にポリエステルテープ(ニチバン社)を貼り付け、当該ポリエステルテープが貼り付いた部分を起点にして、機能層をポリエチレンテレフタレートフィルムの流れ方向とは異なる方向に引っ張ることにより、機能層をポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離させた。このとき、層の破壊等の何らの影響を及ぼすことなく、機能層をポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離することができた。なお、このときのポリエステルテープと機能層との接着力は、20N/25mmであった。
【0080】
そして、機能層に対し、再度高圧水銀灯により紫外線を600mJ/cm2照射して機能層を完全硬化させた。上記作業を流れに沿って連続的に行うことで、基材(ポリエチレンテレフタレートフィルム)の存在しない機能層(本発明の基材レス機能性部材)を効率良く連続的に製造することができた。本実施例で得られた基材レス機能性部材は、カールが発生せず、総厚みが30μmであり、薄型が要求される用途に適したものであった。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の基材レス機能性部材の製造方法の一実施形態を示す断面図
【図2】本発明の機能層の一部に接着シートを貼り付ける一実施形態を示す斜視図
【図3】本発明の機能層の厚みの関係を示す断面図
【図4】本発明の基材レス機能性部材を連続製造するための製造装置の一例を示す図
【符号の説明】
【0082】
1・・・・基材
2・・・・型
3・・・・機能層
4・・・・接着シート
10・・・基材レス機能性部材
a・・・・機能層全体の厚み
b・・・・凹凸部分の厚み
c・・・・平坦部分の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)から(3)の工程を順に行うことを特徴とする基材レス機能性部材の製造方法。
(1)所定の凹凸パターンを有する型と基材との間に、電離放射線硬化型樹脂を含む機能層を形成する工程、
(2)機能層に電離放射線を照射して機能層を半硬化させた後、機能層及び基材を型から剥離する工程、
(3)機能層の一部に接着シートを貼り付け、接着シートが貼り付いた部分を起点にして機能層を基材から剥離する工程。
【請求項2】
請求項1記載の基材レス機能性部材の製造方法であって、
(1)の工程は、基材と、所定の凹凸パターンを有する型との間に、凹凸パターンを転写するための電離放射線硬化型樹脂を含む機能層を充填する工程を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の基材レス機能性部材の製造方法であって、
(3)の工程後、(4)機能層に電離放射線を再照射して機能層をさらに硬化させる工程を行うことを特徴とする製造方法。
【請求項4】
請求項1から3何れか1項に記載の基材レス機能性部材の製造方法であって、
前記基材を連続的に供給することにより、基材レス機能性部材を連続的に製造するように構成したことを特徴とする製造方法。
【請求項5】
請求項1から4何れか1項に記載の基材レス機能性部材の製造方法であって、
前記機能層を半硬化させた状態における前記基材と前記機能層との接着力が、2.5N/25mm以下であることを特徴とする製造方法。
【請求項6】
請求項1から5何れか1項に記載の基材レス機能性部材の製造方法であって、
前記機能層と前記接着シートとの接着力が、5N/25mm以上であることを特徴とする製造方法。
【請求項7】
請求項1から6何れか1項に記載の基材レス機能性部材の製造方法であって、
前記基材レス機能性部材が、プリズムシートであることを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−83469(P2009−83469A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182152(P2008−182152)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000125978)株式会社きもと (167)
【Fターム(参考)】