説明

基板冷却装置及び基板の冷却方法

【課題】 基板の温度上昇を抑え、材質劣化を回避すると共に、生産性を向上させる基板冷却装置及び基板の冷却方法を提供する。
【解決手段】 帯状の基板1に連続して蒸着を行う真空蒸着装置に用いられ、チャンバ2内に設けられ、基板1の走行を案内する冷却ロール7と、冷却ロール7の周囲に設けられ、チャンバ2を、蒸着を行う圧力室10と、圧力室10より高い所定圧力を有する圧力室8、圧力室9とに分離する圧力分離壁6a、6bとを有し、冷却ロール7は、圧力室8にて基板1を巻き付け、基板1と冷却ロール7との間にガス層15を形成して、基板の冷却を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜が形成される基板の冷却装置及び冷却方法に関し、例えば、真空蒸着装置により薄膜が蒸着される基板に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
真空蒸着では、蒸着材料を気化させるため、蒸着材料の温度及び蒸着材料を収容するるつぼの温度が高温となる。例えば、蒸着材料として銅を用いる場合、蒸着材料及びるつぼの温度は、銅の融点である1358K以上となる。そして、蒸着材料を基板に蒸着させるため、高温のるつぼの上方に基板が配置される。蒸着中は、一般的に、以下の理由により基板の温度が上昇する。
(1)高温のるつぼ及び溶融した蒸着材料の表面からの輻射熱により、基板の温度が上昇する。
(2)蒸着材料の蒸着時の潜熱により、基板の温度が上昇する。
ところが、基板に蒸着材料を蒸着する場合、基板温度の上昇を所定範囲内に抑えながら蒸着する必要性がある。例えば、プラスチックのフィルムに銅を蒸着する場合、フィルムが溶けたり、フィルム自身の特性が変わったりするような温度に達することなく、蒸着を行うことが必要である。
【0003】
そこで、従来は、以下のような工夫を行って、基板の温度を所定温度以下に抑えるようにしていた。これを、図10(a)に示す従来の真空蒸着装置を参照して説明する。
図10(a)に示す従来の真空蒸着装置は、帯状の基板81に蒸着を行うためのチャンバ82を有し、チャンバ82の内部に、ロール状に巻回された基板81を供給する払い出しロール83と、蒸着された基板81をロール状に巻回する巻き取りロール84と、走行する基板81を巻き付け、蒸着面を形成するロール85と、冷却ロール85が形成する基板81の蒸着面に対向して、ロール85の下方側に配設され、蒸着材料86を有するるつぼ87と、電子ビーム88aにより蒸着材料86を加熱、蒸発させ、蒸気86aを発生させる電子銃88とを有している。
【0004】
図10(a)に示すような真空蒸着装置において、基板81の温度を所定温度以下に抑えながら蒸着を行う場合、以下に示すような方法を用いて基板81の温度上昇を抑制している。
(1a)基板81とるつぼ87との間の距離lを離して、輻射熱を受けにくい構成とし、基板81が受ける輻射熱を減少させる。
(2a)基板81の走行速度を遅くし、単位時間あたりに付着する蒸気86aの量を減らして、基板81が受ける蒸気86aからの潜熱を減少させる。この場合、るつぼ87からの蒸気86aの量を減らすため、るつぼ87自体の温度を下げることになるので、基板81が受ける輻射熱も減少させることになる。
(3a)ロール85の内部に低温の冷媒を通して、冷却したロール85の表面に基板81を接触させて基板温度を下げる。
【0005】
【特許文献1】特開2001−20061号公報
【特許文献2】特開2004−156069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、生産性向上のために、蒸着中に基板温度を制御する技術、即ち、冷却する技術が必要となってきている。ところが、上記真空蒸着装置においては、上述した(1a)〜(3a)のような方法を用いているため、以下の問題点があり、生産性と冷却性を両立させることができなかった。
(1b)基板81とるつぼ87とが離れており、無効蒸気(基板81に付着せず、周りの機器に付着する蒸気)が多い。そのため、蒸着材料の歩留が低く、又、頻繁に装置のメンテナンス(大気開放しての清掃)が必要となり、生産性が低い。
(2b)必要な成膜量となる蒸気86aを付着させるためには、基板81の走行速度を低くせざるを得ず、結果として製品の生産性が低い。
(3b)基板81を冷却したロール85に直接接触させても、後述の理由により高い伝熱性能は期待できず、冷却効果は小さい。このため、同じ基板速度で成膜量を増加させたり、同じ成膜量の蒸着で基板速度を上げたりすることが困難であり、生産性を向上させることができない。
【0007】
ここで、図10(b)を用いて、従来の真空蒸着装置における基板81の冷却方法の問題点を説明する。
基板81及びロール85の表面には微視的な粗さがあり、図10(b)に示すように、基板81をロール85へ直接接触させても、基板81とロール85との間には、微細な間隙89が数多く存在する。通常、蒸着は真空中(1Pa以下)で行われるため、真空中では間隙89も真空となる。その結果、基板81とロール85間の伝熱は、微少な接触部分による熱伝達Aのみが支配的となり、真空の間隙89における熱伝達は、基板81からロール85への輻射以外ほとんどなく、輻射による伝熱量が小さいため、高い伝熱性能は期待できなかった。このように、基板81とロール85間の伝熱性能を大きくすることができないため、生産性を向上させるには、ロール85自体の温度を更に低温にする必要があり、例えば、液体窒素を使用するような大がかりな冷却装置が必要であった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、基板の温度上昇を抑え、材質劣化を回避すると共に、生産性を向上させる基板冷却装置及び基板の冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する第1の発明に係る基板冷却装置は、
帯状の基板に連続して蒸着を行う真空蒸着装置に用いられる基板冷却装置であって、
チャンバ内に設けられ、前記基板の走行を案内する冷却されたロールと、
前記ロール周囲の前記チャンバ内の空間を、少なくとも、蒸着を行う第1圧力室と、前記第1圧力室より高い所定圧力を有する第2圧力室とに分離する分離手段とを有し、
前記ロールは、前記第2圧力室にて前記基板を巻き付け、前記基板と前記ロールとの間にガス層を形成するものであることを特徴とする。
つまり、所定圧力を有する第2圧力室にて基板をロールに巻き付けると、基板とロールが接触し始める部分の周囲に所定圧力のガスが存在するので、基板とロールとの間の微小な間隙にガスが自然に巻き込まれてガス層が形成される。そして、このガス層が熱伝達に寄与し、基板の冷却効果をもたらすことになる。
なお、第1圧力室と第2圧力室との圧力差が大きい場合には、分離手段により更に多くの圧力室に分離する。
【0010】
上記課題を解決する第2の発明に係る基板冷却装置は、
第1の発明に係る基板冷却装置において、
前記ロールの周方向の表面に、該ロールの周方向に連通する複数の溝を形成したことを特徴とする。
つまり、ロール表面の周方向の溝により、所定圧力のガスが第2圧力室から基板とロールとの間に容易に流入し、ロール全周に渡ってガスの流入が可能であるので、蒸着を行う第1圧力室においても、形成されたガス層が維持される。
【0011】
上記課題を解決する第3の発明に係る基板冷却装置は、
第1の発明に係る基板冷却装置において、
前記ロールの周方向の表面に、柔構造物を設けたことを特徴とする。
つまり、ロールの周方向の表面の柔構造物により、基板との密着性を向上させると共に基板との間に形成される微小な間隙の密閉性が向上し、蒸着を行う第1圧力室においても、形成されたガス層が維持される。
【0012】
上記課題を解決する第4の発明に係る基板冷却装置は、
第1の発明に係る基板冷却装置において、
前記基板と前記ロールとの間の両端部に、シール部材を配置したことを特徴とする。
つまり、基板とロールとの間の両端部にシール部材を配置し、形成したガス層からのリークを抑えることで、蒸着を行う第1圧力室においても、形成されたガス層が維持される。
なお、シール部材は、基板側又はロール側に予め形成しておいてもよいし、基板をロールに巻込む際に、基板とロールの間の両端部に挟み込むようにしてもよい。
【0013】
上記課題を解決する第5の発明に係る基板冷却装置は、
帯状の基板の両面に連続して蒸着を行う真空蒸着装置に用いられる基板冷却装置であって、
チャンバ内に設けられ、前記基板の走行を案内する冷却された2つのロールと、
前記2つのロール周囲の前記チャンバ内の空間を、少なくとも、蒸着を行う第1圧力室と、前記第1圧力室より高い所定圧力を有する第2圧力室とに分離する分離手段とを有し、
一方の前記ロールは、前記第2圧力室にて前記基板の一方側の面を外周面にして前記基板を巻き付け、前記基板と該ロールとの間にガス層を形成するものであり、
他方の前記ロールは、前記第2圧力室にて前記基板の他方側の面を外周面にして前記基板を巻き付け、前記基板と該ロールとの間にガス層を形成するものであることを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決する第6の発明に係る基板冷却装置は、
第1〜5の発明に係る基板冷却装置において、
前記第2圧力室の所定圧力を13Pa以上、望ましくは100Pa以上とすることを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決する第7の発明に係る基板冷却装置は、
第1〜6の発明に係る基板冷却装置において、
前記第2圧力室のガスは、水素ガス又はヘリウムガスよりなることを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決する第8の発明に係る基板冷却装置は、
所定形状に切断された基板に蒸着を行なう真空蒸着装置に用いられる基板冷却装置であって、
前記基板を保持する保持手段と、前記基板の蒸着されない側の面に配設された冷却部材と、前記基板と前記冷却部材との間に配設され、前記基板と前記冷却部材との間を封止するシール部材とを有し、
前記基板と前記冷却部材との間に所定圧力のガス層を形成したことを特徴とする。
つまり、基板、ガス層、冷却部材が層構造をなし、所定圧力のガス層による熱伝達により基板からの熱を冷却部材に伝熱することが可能となる。
【0017】
上記課題を解決する第9の発明に係る基板冷却装置は、
第8の発明に係る基板冷却装置において、
前記ガス層の所定圧力を13Pa以上、望ましくは100Pa以上とすることを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決する第10の発明に係る基板冷却装置は、
第8、9の発明に係る基板冷却装置において、
前記ガス層は、水素ガス又はヘリウムガスよりなることを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決する第11の発明に係る基板の冷却方法は、
帯状の基板に連続して蒸着を行う真空蒸着装置に用いられる基板の冷却方法であって、
前記基板の走行を案内する冷却されたロールの周囲のチャンバ内の空間を、分離手段により、少なくとも、蒸着を行う第1圧力室と前記第1圧力室より高い所定圧力を有する第2圧力室とに分離し、
前記第2圧力室にて、前記基板を前記ロールに巻き付け、前記基板と前記ロールとの間にガス層を形成することを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決する第12の発明に係る基板の冷却方法は、
第11の発明に係る基板の冷却方法において、
前記ロールの周方向の表面は、該ロールの周方向に連通する複数の溝を有することを特徴とする。
【0021】
上記課題を解決する第13の発明に係る基板の冷却方法は、
第11の発明に係る基板の冷却方法において、
前記ロールの周方向の表面は、柔構造物を有することを特徴とする。
【0022】
上記課題を解決する第14の発明に係る基板の冷却方法は、
第11の発明に係る基板の冷却方法において、
前記基板と前記ロールとの間の両端部に、シール部材を配置することを特徴とする。
【0023】
上記課題を解決する第15の発明に係る基板の冷却方法は、
帯状の基板の両面に連続して蒸着を行う真空蒸着装置に用いられる基板の冷却方法であって、
前記基板の走行を案内する冷却された2つのロールの周囲のチャンバ内の空間を、分離手段により、少なくとも、蒸着を行う第1圧力室と前記第1圧力室より高い所定圧力を有する第2圧力室とに分離し、
一方の前記ロールが、前記第2圧力室にて前記基板の一方側の面を外周面にして、前記基板を巻き付け、前記基板と一方の前記ロールとの間にガス層を形成し、
他方の前記ロールが、前記第2圧力室にて前記基板の他方側の面を外周面にして、前記基板を巻き付け、前記基板と他方の前記ロールとの間にガス層を形成することを特徴とする。
【0024】
上記課題を解決する第16の発明に係る基板の冷却方法は、
第11〜15の発明に係る基板の冷却方法において、
前記第2圧力室の所定圧力を13Pa以上、望ましくは100Pa以上とすることを特徴とする。
【0025】
上記課題を解決する第17の発明に係る基板の冷却方法は、
第11〜16の発明に係る基板の冷却方法において、
前記第2圧力室のガスは、水素ガス又はヘリウムガスよりなることを特徴とする。
【0026】
上記課題を解決する第18の発明に係る基板の冷却方法は、
所定形状に切断された基板に蒸着を行なう真空蒸着装置に用いられる基板の冷却方法であって、
保持手段により保持される基板と前記基板の蒸着されない側の面に配設された冷却部材との間を、シール部材により封止し、
前記基板と前記冷却部材との間に、所定圧力のガス層を形成することを特徴とする。
【0027】
上記課題を解決する第19の発明に係る基板の冷却方法は、
第18の発明に係る基板の冷却方法において、
前記ガス層の所定圧力を13Pa以上、望ましくは100Pa以上とすることを特徴とする。
【0028】
上記課題を解決する第20の発明に係る基板の冷却方法は、
第18、19の発明に係る基板の冷却方法において、
前記ガス層は、水素ガス又はヘリウムガスよりなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
第1、5の発明に係る基板冷却装置によれば、又は、第11、15の発明に係る基板の冷却方法によれば、圧力分離壁によりチャンバ内に複数の圧力室を設け、基板とロールとの間に簡単にガス層を形成するようにしたので、ガス層により基板と冷却されたロールとの間の熱伝達率を向上させて、基板の温度上昇を低減することができる。
又、第8の発明に係る基板冷却装置によれば、又は、第18の発明に係る基板の冷却方法によれば、基板と冷却部材との間にガス層を形成したので、ガス層により基板と冷却部材との間の熱伝達率を向上させて、基板の温度上昇を低減することができる。
その結果、蒸着の際、るつぼ側からの輻射及び蒸着材料の潜熱による基板の温度上昇を小さくすることができるため、基板に蒸着された蒸着材料、基板の劣化を抑制することができる。又、るつぼと基板との間の距離を小さくすることができるため、無効蒸気を減らすことができ、蒸着材料の歩留りを高くすることができる。従って、従来と比較して、より高速で基板に蒸着することができ、蒸着時間が短縮されるので、生産性の向上を図ることができる。
【0030】
第2の発明に係る基板冷却装置によれば、又は、第12の発明に係る基板の冷却方法によれば、ロール表面に周方向の溝を形成したので、所定圧力を有する第2圧力室から基板とロールとの間へのガスの流入が促進され、蒸着を行う第1圧力室においても、形成されたガス層を維持することができる。この結果、ガス層による熱伝達も維持されて、ガス層による冷却を行うことができる。
【0031】
第3の発明に係る基板冷却装置によれば、又は、第13の発明に係る基板の冷却方法によれば、ロールの周方向の表面に柔構造物を設けたので、基板とロールとの接触面積を増大させると共に、基板とロールの柔構造物との間に形成されたガス層が柔構造物により密閉されるので、蒸着を行う第1圧力室においても、形成されたガス層を維持することができる。この結果、ガス層による熱伝達も維持されて、ガス層による冷却を行うことができると共に、接触による冷却も向上させることができる。
【0032】
第4の発明に係る基板冷却装置によれば、又は、第14の発明に係る基板の冷却方法によれば、基板とロールと間の両端部にシール部材を設けたので、基板とロールと間に形成されたガス層からのリーク量を減少することができ、蒸着を行う第1圧力室においても、形成されたガス層を維持することができる。この結果、ガス層による熱伝達も維持されて、ガス層による冷却を行うことができる。
【0033】
第6、9の発明に係る基板冷却装置によれば、又は、第16、19の発明に係る基板の冷却方法によれば、ガス層の圧力を13Pa以上、望ましくは100Pa以上としたので、ガス層による熱伝達率が真空の場合と比較して数倍以上となり、大きな冷却効果を実現することができる。
【0034】
第7、10の発明に係る基板冷却装置によれば、又は、第17、20の発明に係る基板の冷却方法によれば、ガス層に熱伝達率のよい水素、ヘリウムを用いるので、ガス層による熱伝達率が向上し、より大きな冷却効果を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
通常、真空蒸着を行う際、基板は真空下で蒸着されるため、冷却部材(例えば、冷却ロール等)に基板を接触させて冷却しようとしても、基板及び冷却部材の表面の粗さにより微少な間隙が形成され、これにより、冷却部材に直接接触する面積が小さくなる上、形成された間隙が真空となるため、接触部分、間隙部分での熱伝達は大きくなかった。そこで、本発明に係る基板冷却装置及び基板の冷却方法においては、基板と冷却部材との間に形成された間隙に所定圧力のガス層を形成、維持し、ガス層による熱伝達(ガスの対流及び熱伝導)を用いることで、冷却効率を向上させるものである。上記特徴を有する本発明に係る基板冷却装置及び基板の冷却方法の実施形態例を、以下に示す図面を参照して説明を行う。
【実施例1】
【0036】
図1は、本発明に係る基板冷却装置の実施形態の一例であり、図1(a)に、本発明に係る基板冷却装置を有する真空蒸着装置の構成図を示し、図1(b)に、本発明に係る基板冷却装置及び冷却方法を説明する図を示す。
【0037】
図1(a)に示すように、本発明に係る基板冷却装置を有する真空蒸着装置は、帯状の基板1に連続して蒸着を行うためのチャンバ2を有し、チャンバ2の外部(大気中)に、ロール状に巻回された基板1をチャンバ2内部へ供給する払い出しロール3と、蒸着された基板1をロール状に巻回する巻き取りロール4と、チャンバ2と払い出しロール3及び巻き取りロール4との間に設けられ、チャンバ2内部の真空度を維持するシール装置5とを有する。シール装置5では、基板1をチャンバ2内部に供給する際及び基板1をチャンバ2内部から巻き取る際に、シール用ロール5aと複数の補助ロール5bの間のギャップを最適とすることで、チャンバ2内部の真空度を維持している。
【0038】
チャンバ2の内部には、所定温度に冷却された冷却ロール6が設けられており、その周方向に基板1を所定の張力で巻き付け、冷却ロール6の回転運動により基板1の走行を案内している。又、冷却ロール6周囲のチャンバ2内部の空間は、複数の圧力分離壁7a、7b(分離手段)により、蒸着を行う圧力室8(第1圧力室)、中間の圧力室9、圧力室8、9より高い所定圧力を有する圧力室10(第2圧力室)に複数に分離されている。チャンバ2には、真空ポンプ(図示せず。)が接続されており、適切に排気を行うことにより、チャンバ2内部の圧力が適切に制御される。又、基板1と冷却ロール6の間に挟み込むガスを空気以外(例えば、水素やヘリウム等)とする場合は、チャンバ2にガス供給装置(図示せず。)を接続し、ガス供給装置から供給される所定ガスの流量を調整し、真空ポンプにより適切に排気を行うことにより、チャンバ2内部の圧力が適切に制御される。具体的には、圧力室8、9、10では、シール装置5側の圧力室10が一番高い所定圧力に制御され、圧力室9、そして、圧力室8に行くに従い、圧力が真空側へ減圧するように制御され、圧力室8は、蒸着に最適な真空度に制御される。なお、圧力室9は、圧力室8と圧力室10との間の中間圧力室の役割を果たす。本実施例の場合、2つの圧力分離壁7a、7bにより、3つの圧力室8、9、10に分離され、1つの中間の圧力室9を有する構成であるが、圧力室8と圧力室10との差圧に応じ、差圧が大きいときは圧力分離壁を増やし、より多くの中間圧力室を設けるようにする。
【0039】
冷却ロール6に巻き付けられた基板1の蒸着領域に対向して、圧力室8には、蒸着材料11を有するるつぼ12が配置されており、例えば、電子銃13からの電子ビーム13aにより蒸着材料11を加熱し、蒸発させ、蒸発された蒸着材料11の蒸気11aを基板1に蒸着させる。なお、蒸着材料11の加熱法としては、電子銃13から発生させる電子ビーム13aに限らず、例えば、抵抗加熱や誘導加熱等でもよい。
【0040】
上記構成により、払い出しロール3から供給された基板1は、冷却ロール6に巻き付けられてチャンバ2内部を走行する際、各々圧力が異なる全ての圧力室10、9、8を通過し、圧力室8において蒸着が行われ、蒸着後、圧力室8、9、10を通過して、巻き取りロール4に巻き取られる。
【0041】
ここで、本発明に係る基板冷却装置おける基板の冷却方法を、図1(b)を参照して説明を行う。
図1(b)に示すように、基板1及び冷却ロール6は、各々その表面に所定の粗さを有しており、冷却ロール6に基板1を巻き付けた際、基板1と冷却ロール6の表面との間に間隙14が形成される。従来の真空蒸着装置では、真空中において、基板1を冷却ロール6に巻き付けていたため、間隙14も真空状態となり、基板1の冷却は、冷却ロール6の表面との接触部分における熱伝達Aと基板1から冷却ロール6への輻射しか行われなかった。これに対して、本発明では、チャンバ2内部に複数の圧力室8、9、10を形成しており、所定圧力を有する圧力室10において、基板1を冷却ロール6に巻き付けているので、圧力室10内部に存在するガスを基板1と冷却ロール6の間に巻き込み、基板1と冷却ロール6の表面の間の間隙14にガス層15を形成することとなる。そして、基板1は冷却ロール6との間にガス層15を保持した状態でるつぼ12の上を通過し、蒸着されることとなる。この際、基板1の冷却は、冷却ロール6の表面との接触部分による熱伝達Aと基板1から冷却ロール6への輻射に加えて、ガス層15の対流及び熱伝導による熱伝達Bにより行われることになり、基板1と冷却ロール6との熱伝達率が向上されて、より効果的に冷却を行うことができ、基板1の温度上昇を抑制することができる。なお、圧力室10の好適な圧力範囲、そして、本発明による冷却の効果については、後述の図7、8のグラフを用いて説明を行う。
【実施例2】
【0042】
本発明において、第1に重要なことは、蒸着が行われる圧力室8より高い所定圧力を有する圧力室10において、基板1を冷却ロール6へ巻き付け、基板1と冷却ロール6との間の間隙14に所定圧力のガス層15を形成することである。ところが、図2に示すように、冷却ロール6の回転により基板1が走行する際に、圧力室10の圧力PHより低い圧力PC、PLを有する圧力室9、8において、基板1と冷却ロール6との間に形成したガス層15は、ガス層15の圧力と圧力室8、9の圧力PL、PCとの差圧により、基板1の端部からリークし(図2中Lで示す。)、蒸着中にガス層15の圧力が低下し、冷却効果が低減するおそれがある。例えば、実施例1の真空蒸着装置において、所定の張力にて基板1を冷却ロール6側へ押し付けるようにしていても、基板1の表面が粗い場合、形成されたガス層15が基板1の両端部から圧力室8、9へリークし、間隙14のガスが減圧された状態となり、冷却効果を持続することができない場合がある。つまり、第2に重要なことは、如何にガス層を維持するかということである。そこで、実施例2〜4に、ガス層を維持するための構成を示して、その説明を行う。
【0043】
図3は、本発明に係る基板冷却装置の実施形態の他の一例であり、本発明に係る基板冷却装置及び冷却方法を説明する図である。
図3に示す本実施例の基板冷却装置は、実施例1に示した真空蒸着装置(図1参照)に用いられるものであり、図3に示すように、冷却ロール6の構成が異なる以外、実施例1と同等の構成である。従って、重複する説明は省略して、本実施例に係る部分を中心に説明を行う。
【0044】
図2に示すように、本実施例の基板冷却装置は、冷却ロール6の表面に、冷却ロール6表面の全周(周方向)に溝を切り、周方向に連通する複数の溝6aを形成したものである。従って、溝6aにより形成された基板1と冷却ロール6との間隙21は、溝6aにより圧力室8より大きい圧力を有する圧力室10と連通され、圧力室10からのガスが容易に流入されて、ガス層22が形成されている。従って、蒸着が行われる圧力室8において、基板1と冷却ロール6との間にリークがあっても、ガス層22が維持され、ガス層22による冷却効果(熱伝達B)が低減されない構成となっている。このように、溝6aは、ガス層22を形成すると共に圧力室10とのガスの流路も兼ねるものであり、本実施例では、圧力室10に連通する溝6aにより、ガス層22を維持することが可能となる。
【実施例3】
【0045】
図4は、本発明に係る基板冷却装置の実施形態の他の一例であり、図4(a)に、本発明に係る基板冷却装置を有する真空蒸着装置の構成図を示し、図4(b)に、本発明に係る基板冷却装置及び冷却方法を説明する図を示す。
なお、図4において、実施例1に示した真空蒸着装置(図1参照)と同等の構成には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0046】
図4(a)、図4(b)に示すように、本実施例の基板冷却装置は、冷却ロール6の周方向の表面に、ゴム等の柔らかい材料によるライニング31(柔構造物)を設けたものである。従って、基板1を冷却ロール6に巻き込む際、基板1とライニング31との接触面積が多くなり、ライニング31を介した基板1から冷却ロール6への直接接触による熱伝達Aが多くなる。又、基板1を冷却ロール6に巻き込む際、基板1とライニング31との間に形成される間隙32は、実施例1の場合と比較して小さくなるが、ライニング31により間隙32が密閉されて、ガス層33が形成されるので、蒸着が行われる圧力室8において、ガス層33からのリークをより低減して、ガス層33をより維持するようにしている。この結果、熱伝達Aの増大に加えて、ガス層33による冷却効果(熱伝達B)が維持され、さらに熱伝達性の向上を図ることができる。このように、本実施例では、ライニング31でガス層33(間隙32)を密閉することにより、ガス層を維持することが可能となる。
【実施例4】
【0047】
図5は、本発明に係る基板冷却装置の実施形態の他の一例であり、本発明に係る基板冷却装置及び冷却方法を説明する図である。
図5に示す本実施例の基板冷却装置は、実施例1に示した真空蒸着装置(図1参照)に用いられるものであり、図5に示すように、基板1−冷却ロール6間の構成が異なる以外、実施例1と同等の構成である。従って、重複する説明は省略して、本実施例に係る部分を中心に説明を行う。
【0048】
図5に示すように、本実施例の基板冷却装置は、基板1と冷却ロール6との間の両端部にシリコンゴム等のシール42(シール部材)を配置したものである。このため、シール42により間隙41が圧力室8、9に対して封止され、間隙41に形成されたガス層43から圧力室8、9へのリークが低減される。従って、圧力室8、9においても、ガス層43が維持され、ガス層43による冷却効果(熱伝達B)を低減させることがない。更に、圧力室10に対しては、圧力室10に連通する流路が形成されることとなり、実施例2と同様に、圧力室10から間隙41へのガスの流入が促進され、ガス層43の維持に寄与する。このように、本実施例では、シール42により圧力室8、9へのリークを防止すると共に圧力室10へ連通する流路が形成されるので、ガス層43を維持することが可能となる。
【0049】
なお、シール42の配置方法としては、冷却ロール6上の基板1の両端部に対応する位置に、予めシール42を設けたり、基板1側の両端部に予めシール42を設けたり、基板1を冷却ロール6に巻込む際に、基板1と冷却ロール6の間の両端部に挟み込むように、シール42を別途供給するようにしたりしてもよい。例えば、図1に示すような、エアツーエア式の真空蒸着装置(大気圧側の払い出しロール3から真空側のチャンバ2に連続的に基板1を供給し、蒸着後、チャンバ2から基板1を連続的に送り出し、大気圧側の巻き取りロール4で巻き取る真空蒸着装置)の場合、真空側のチャンバ2に入る前に、大気圧下で連続塗布装置等によりシール42を基板1にコーティングすることで、シール42が基板1と冷却ロール6との間の両端部に配置されるようにする。
【実施例5】
【0050】
図6は、本発明に係る基板冷却装置の実施形態の他の一例であり、本発明に係る基板冷却装置を有する真空蒸着装置の構成図である。
【0051】
本実施例の真空蒸着装置は、全ての構成機器がチャンバ2内部に配置されるロールツーロール式の真空蒸着装置である。図6に示すように、本実施例の真空蒸着装置は、帯状の基板61の両面に連続して蒸着を行うためのチャンバ62を有し、チャンバ2の内部に、ロール状に巻回された基板61を供給する払い出しロール63と、蒸着された基板61をロール状に巻回する巻き取りロール64とを有する。
【0052】
又、チャンバ62の内部には、所定温度に冷却された2つの冷却ロール65a、65bが設けられており、その周方向に基板61を所定の張力で巻き付け、冷却ロール65a、65bの回転運動により基板61の走行を案内している。又、2つの冷却ロール65a、65bの周囲のチャンバ2内部の空間は、複数の圧力分離壁66a、66b、66c(分離手段)により、蒸着を行う圧力室67(第1圧力室)、2つの中間圧力の圧力室68、69、圧力室67、68、69より高い所定圧力を有する圧力室70(第2圧力室)に複数に分離されている。チャンバ62には、所定ガスを供給するガス供給装置71とチャンバ62内部の排気を行う真空ポンプ(図示せず。)が接続されており、ガス供給装置71から供給される所定ガスの流量を調整し、真空ポンプにより適切に排気を行うことにより、チャンバ62内部の圧力が適切に制御される。具体的には、圧力室70が一番高い所定圧力に制御され、圧力室69、68、そして、圧力室67に行くに従い、圧力が真空側へ減圧するように制御され、圧力室67は、蒸着に最適な真空度に制御される。本実施例の場合、圧力室67と圧力室70との差圧を考慮して、3つの圧力分離壁66a、66b、66cにより、4つの圧力室67、68、69、70に分離し、2つの中間の圧力室68、69を有する構成である。
【0053】
2つの冷却ロール65a、65bに巻き付けられた基板61の各々の蒸着領域に対向して、圧力室67には、蒸着材料を有するるつぼ72a、72bが2つ配置されており、電子銃73a、73bからの電子ビームにより蒸着材料を加熱し、蒸発させ、蒸発された蒸着材料の蒸気を基板61に蒸着させる構成である。
【0054】
上記構成により、払い出しロール63から供給された基板61は、圧力室70にて一方の冷却ロール66aにより基板61の一方側の面を外周面にして巻き付けられ、基板61と一方の冷却ロール66aとの間にガス層が形成される。そして、各々圧力が異なる全ての圧力室70〜67を通過し、圧力室67において基板61の一方側の面の蒸着が行われる。蒸着後、圧力室67〜70を通過して、再び圧力室70に戻る。その後、基板61は、圧力室70にて他方の冷却ロール66bにより基板61の他方側の面を外周面にして巻き付けられ、基板61と他方の冷却ロール66bとの間にガス層が形成される。そして、圧力室70〜67を通過し、圧力室67において基板61の他方側の面の蒸着が行われる。蒸着後、圧力室67〜70を通過して、巻き取りロール64に巻き取られる。
【0055】
このように、本実施例の真空蒸着装置では、基板61の両面に蒸着を行うものであるが、いずれの場合でも、基板61と冷却ロール65a、65bとの間にガス層が形成された後、蒸着が行われており、蒸着時に基板61の温度上昇を抑制することができる。更に、実施例1の場合と同様に、実施例2〜4に示す基板冷却装置を本実施例にも適用可能であり、その場合、蒸着が行われる圧力室67においてもガス層を維持し、冷却効果を維持できるため、基板の温度上昇を更に抑制して、生産性を更に向上させることができる。
【0056】
本実施例は、冷却ロール65a、65bにおける基板61の巻き取り方向を変更することにより、るつぼ72a、72bに対して、基板61を反転させて、両面に蒸着を行う構成である。これに対して、実施例1に示した真空蒸着装置(図1(a)参照)のように、シール装置を設け、払い出しロール、巻き取りロールをチャンバの外部に配置した場合には、基板61を反転させる装置をチャンバ62の圧力室70に設けるようにすれば、本実施例と同様に、ガス層による冷却効果を用いた蒸着が可能となる。
【0057】
ここで、上記圧力室10、70に好適な圧力範囲及び本発明による冷却の効果を図7、図8を用いて説明を行う。
【0058】
図7は、圧力に対する気体の等価熱伝達率を示すグラフである。具体的には、0.2mmの隙間を有する同じ物体間に、150℃の空気層を挟み込み、空気層の圧力を変化させたときに、空気層(若しくは真空)の等価熱伝達率がどのように変化していくかを調べたものである。図7に示すように、所定圧力Ps以上(図7における条件の場合、約200Pa(約1.5Torr)以上)の場合、空気層の等価熱伝達率は一定であり、100W/m2K以上の高い等価熱伝達率を有している。このように、空気層の圧力が高い場合、等価熱伝達率は一定であり、その大きさは、物体間の隙間の大きさによって変化する。
【0059】
一方、所定圧力Ps以下の場合、空気層の等価熱伝達率は、物体間の隙間の大きさにかかわらず、空気層の圧力に比例して、圧力が減少するに従い低下し、通常の真空蒸着が行われる1Pa(約0.0075Torr)では、1以下の等価熱伝達率となってしまう。そこで、本発明では、空気層、つまり、ガス層の等価熱伝達率を、少なくとも10以上、望ましくは80以上にするべく、ガス層の圧力を13Pa(約0.1Torr)以上、望ましくは100Pa(約0.75Torr)以上にするようにしている。従って、圧力室10、70の圧力が13Pa以上、望ましくは100Pa以上あれば、基板1と冷却ロール6との間に形成されるガス層の圧力も同等の圧力にすることができる。
【0060】
なお、図7では、ガス層として空気を用いて説明を行ったが、空気より高い熱伝達率の気体、例えば、水素やヘリウム等をガス層のガス種として用いれば、同じ圧力でもより高い等価熱伝達率を得ることができる。
【0061】
次に、図8に、真空蒸着を行った場合の熱伝達率比による基板の最高到達温度を示し、従来と本発明の場合とを比較して、本発明の効果を説明する。
図8は、所定の基板の走行速度(ロールの周速度)にて基板を走行させた場合、基板とロール間の熱伝達率比に応じて、基板の最高到達温度がどのように変化するかを示したものである。ここで、熱伝達率比とは、異なる物体に対する気体の等価熱伝達率同士の比をとったものであり、図8の場合、基板に対する気体の等価熱伝達率と冷却ロールに対する気体の等価熱伝達率の比をとったものである。
【0062】
前述したように、従来の真空蒸着装置における真空度は1Pa程度であり、その場合、気体(真空)の等価熱伝達率は1以下となり、これを、基板とロール間の熱伝達率比として換算すると1以下となる。従って、従来の場合、図8に示すように、基板の走行速度が速い場合(V=5m/min、10m/min)には、基板の温度上昇が大きく、一番低い場合でも500℃まで最高到達温度が上昇してしまう。一方、基板の走行速度が遅い場合(V=1m/min)には、最高到達温度を200℃程度までの上昇に抑えることができるが、この場合、基板の走行速度が遅く、生産性の向上は望めない。
【0063】
これに対して、本発明の場合、ガス層の圧力を100Pa程度にしているので、気体の等価熱伝達率は100近くなり、これを、基板とロール間の熱伝達率比にすると2以上(2〜5)となり、従来と比較すると、少なくとも2倍以上の熱伝達率があることがわかる。例えば、従来は、基板の走行速度をV=10m/minとした場合、基板の最高到達温度は750℃以上になってしまうが、本発明では、基板の最高到達温度を450℃以下に抑えることができる。従って、本発明の場合、基板の走行速度が速い場合でも、基板の最高到達温度を450℃以下まで低減することができ、基板の温度上昇を抑制すると共に、生産性の向上を図ることができる。
【実施例6】
【0064】
図9は、本発明に係る基板冷却装置の実施形態の他の一例を示す構成図である。
図9に示す基板冷却装置は、所定形状に切断された基板に蒸着を行う真空蒸着装置に好適なものである。本実施例の基板冷却装置は、図9に示すように、所定形状に形成された基板75を保持するホルダ76(保持手段)と、基板75の一方側の面、即ち、蒸着が行われない側の面に配設された冷却板77(冷却部材)と、基板75と冷却板77との間の端部に配設され、基板1と冷却板77との空間を封止するシール79(シール部材)とを有し、基板1、冷却板77、シール79により、所定圧力を有するガス層78が形成されている。ホルダ76は、基板1の蒸着面側に単数若しくは複数の開口部を有しており、蒸着時には、開口部を通して蒸着材料の蒸気が、基板75上に蒸着される。なお、基板75としては、例えば、ガラス基板等を用い、冷却板77としては、例えば、Cu等の金属製の材料を用いる。又、冷却板77は、放熱性が良好なものが望ましく、例えば、放熱性の高い材料を用いたり、複数のフィンを設けたりすることにより、冷却性を持たせるようにする。
【0065】
本実施例の場合も、ガス層78の圧力、ガス層78のガス種として、前述したような条件を用いれば、図8に示したような熱伝達率比を得ることができ、ガス層78により冷却板77へ熱伝達が行われることとなり、蒸着中の基板の温度上昇を抑えることが可能となる。その結果、基板の温度を制限値以上に上昇させることなく、基板と蒸発源との距離を近づけることが可能となり、無効蒸気を低減して、蒸着速度を向上させると共に、生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る基板冷却装置の実施形態の一例(実施例1)を示す図であり、(a)は、本発明に係る基板冷却装置が用いられる真空蒸着装置の構成図、(b)は、本発明に係る基板冷却装置及び基板の冷却方法を説明する図である。
【図2】基板と冷却ロールとの間のガス層のリークを説明する図である。
【図3】本発明に係る基板冷却装置の実施形態の他の一例(実施例2)を示し、本発明に係る基板冷却装置及び基板の冷却方法を説明する図である。
【図4】本発明に係る基板冷却装置の実施形態の他の一例(実施例3)を示す図であり、(a)は、本発明に係る基板冷却装置が用いられる真空蒸着装置の構成図、(b)は、本発明に係る基板冷却装置及び基板の冷却方法を説明する図である。
【図5】本発明に係る基板冷却装置の実施形態の他の一例(実施例4)を示し、本発明に係る基板冷却装置及び基板の冷却方法を説明する図である。
【図6】本発明に係る基板冷却装置の実施形態の他の一例(実施例5)を示し、本発明に係る基板冷却装置が用いられる真空蒸着装置の構成図である。
【図7】圧力に対する気体の等価熱伝達率を示すグラフである。
【図8】基板−ロール間の熱伝達率比に対する基板の最高到達温度を示すグラフである。
【図9】本発明に係る基板冷却装置の実施形態の他の一例(実施例6)を示す図である。
【図10】従来の真空蒸着装置の構成図である。
【符号の説明】
【0067】
1 基板
2 チャンバ
6 冷却ロール
6a 溝
7a、7b 圧力分離壁
14 間隙
15 ガス層
21 間隙
22 ガス層
31 ライニング
32 間隙
33 ガス層
41 間隙
42 シール
43 ガス層
61 基板
62 チャンバ
65a、65b 冷却ロール
66a、66b、66c 圧力分離壁
71 ガス供給装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の基板に連続して蒸着を行う真空蒸着装置に用いられる基板冷却装置であって、
チャンバ内に設けられ、前記基板の走行を案内する冷却されたロールと、
前記ロール周囲の前記チャンバ内の空間を、少なくとも、蒸着を行う第1圧力室と、前記第1圧力室より高い所定圧力を有する第2圧力室とに分離する分離手段とを有し、
前記ロールは、前記第2圧力室にて前記基板を巻き付け、前記基板と前記ロールとの間にガス層を形成するものであることを特徴とする基板冷却装置。
【請求項2】
請求項1記載の基板冷却装置において、
前記ロールの周方向の表面に、該ロールの周方向に連通する複数の溝を形成したことを特徴とする基板冷却装置。
【請求項3】
請求項1記載の基板冷却装置において、
前記ロールの周方向の表面に、柔構造物を設けたことを特徴とする基板冷却装置。
【請求項4】
請求項1記載の基板冷却装置において、
前記基板と前記ロールとの間の両端部に、シール部材を配置したことを特徴とする基板冷却装置。
【請求項5】
帯状の基板の両面に連続して蒸着を行う真空蒸着装置に用いられる基板冷却装置であって、
チャンバ内に設けられ、前記基板の走行を案内する冷却された2つのロールと、
前記2つのロール周囲の前記チャンバ内の空間を、少なくとも、蒸着を行う第1圧力室と、前記第1圧力室より高い所定圧力を有する第2圧力室とに分離する分離手段とを有し、
一方の前記ロールは、前記第2圧力室にて前記基板の一方側の面を外周面にして前記基板を巻き付け、前記基板と該ロールとの間にガス層を形成するものであり、
他方の前記ロールは、前記第2圧力室にて前記基板の他方側の面を外周面にして前記基板を巻き付け、前記基板と該ロールとの間にガス層を形成するものであることを特徴とする基板冷却装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の基板冷却装置において、
前記第2圧力室の所定圧力を13Pa以上、望ましくは100Pa以上とすることを特徴とする基板冷却装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の基板冷却装置において、
前記第2圧力室のガスは、水素ガス又はヘリウムガスよりなることを特徴とする基板冷却装置。
【請求項8】
所定形状に切断された基板に蒸着を行なう真空蒸着装置に用いられる基板冷却装置であって、
前記基板を保持する保持手段と、前記基板の蒸着されない側の面に配設された冷却部材と、前記基板と前記冷却部材との間に配設され、前記基板と前記冷却部材との間を封止するシール部材とを有し、
前記基板と前記冷却部材との間に所定圧力のガス層を形成したことを特徴とする基板冷却装置。
【請求項9】
請求項8記載の基板冷却装置において、
前記ガス層の所定圧力を13Pa以上、望ましくは100Pa以上とすることを特徴とする基板冷却装置。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載の基板冷却装置において、
前記ガス層は、水素ガス又はヘリウムガスよりなることを特徴とする基板冷却装置。
【請求項11】
帯状の基板に連続して蒸着を行う真空蒸着装置に用いられる基板の冷却方法であって、
前記基板の走行を案内する冷却されたロールの周囲のチャンバ内の空間を、分離手段により、少なくとも、蒸着を行う第1圧力室と前記第1圧力室より高い所定圧力を有する第2圧力室とに分離し、
前記第2圧力室にて、前記基板を前記ロールに巻き付け、前記基板と前記ロールとの間にガス層を形成することを特徴とする基板の冷却方法。
【請求項12】
請求項11記載の基板の冷却方法において、
前記ロールの周方向の表面は、該ロールの周方向に連通する複数の溝を有することを特徴とする基板の冷却方法。
【請求項13】
請求項11記載の基板の冷却方法において、
前記ロールの周方向の表面は、柔構造物を有することを特徴とする基板の冷却方法。
【請求項14】
請求項11記載の基板の冷却方法において、
前記基板と前記ロールとの間の両端部に、シール部材を配置することを特徴とする基板の冷却方法。
【請求項15】
帯状の基板の両面に連続して蒸着を行う真空蒸着装置に用いられる基板の冷却方法であって、
前記基板の走行を案内する冷却された2つのロールの周囲のチャンバ内の空間を、分離手段により、少なくとも、蒸着を行う第1圧力室と前記第1圧力室より高い所定圧力を有する第2圧力室とに分離し、
一方の前記ロールが、前記第2圧力室にて前記基板の一方側の面を外周面にして、前記基板を巻き付け、前記基板と一方の前記ロールとの間にガス層を形成し、
他方の前記ロールが、前記第2圧力室にて前記基板の他方側の面を外周面にして、前記基板を巻き付け、前記基板と他方の前記ロールとの間にガス層を形成することを特徴とする基板の冷却方法。
【請求項16】
請求項11乃至請求項15のいずれかに記載の基板の冷却方法において、
前記第2圧力室の所定圧力を13Pa以上、望ましくは100Pa以上とすることを特徴とする基板の冷却方法。
【請求項17】
請求項11乃至請求項16のいずれかに記載の基板の冷却方法において、
前記第2圧力室のガスは、水素ガス又はヘリウムガスよりなることを特徴とする基板の冷却方法。
【請求項18】
所定形状に切断された基板に蒸着を行なう真空蒸着装置に用いられる基板の冷却方法であって、
保持手段により保持される基板と前記基板の蒸着されない側の面に配設された冷却部材との間を、シール部材により封止し、
前記基板と前記冷却部材との間に、所定圧力のガス層を形成することを特徴とする基板の冷却方法。
【請求項19】
請求項18記載の基板の冷却方法において、
前記ガス層の所定圧力を13Pa以上、望ましくは100Pa以上とすることを特徴とする基板の冷却方法。
【請求項20】
請求項18又は請求項19に記載の基板の冷却方法において、
前記ガス層は、水素ガス又はヘリウムガスよりなることを特徴とする基板の冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−89782(P2006−89782A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274450(P2004−274450)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(502251784)三菱日立製鉄機械株式会社 (130)
【Fターム(参考)】