説明

基板搬送治具用粘着ゴムシートおよび基板搬送治具

【課題】フッ素ゴム系のエラストマーシートでありながら、半田リフロー温度においても、被着体である基板および支持ボードに対して十分に高い粘着力を有し、半田リフロー工程において、基板を確実に固定保持するとともに、支持ボードから剥離されることもない基板搬送治具用粘着ゴムシートを提供すること。
【解決手段】支持ボード20上に固定されて基板搬送治具を構成する粘着ゴムシート10であって、フッ素ゴム100質量部と、有機過酸化物0.2〜0.6質量部と、共架橋剤0.5〜1.5質量部とを含有し、ポリマー純度が85.0質量%以上であるゴム配合物を成形加工して得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板搬送治具用粘着ゴムシートおよび基板搬送治具に関し、さらに詳しくは、FPC基板などの基板に電子部品を実装する際に使用する基板搬送治具を構成する粘着ゴムシート、およびそのような粘着ゴムシートを支持ボード上に積層してなる基板搬送治具に関する。
【背景技術】
【0002】
FPC(Flexible Printed Circuit)基板は薄くて柔軟性に富んでいるために、近年、小型電子機器の回路を構成する基材として中心的な役割を果たしている。
【0003】
FPCには各種の電子部品が実装される。FPC基板への電子部品の実装は、クリーム半田印刷工程、電子部品マウント工程、半田リフロー工程、カッテイング工程などから構成されている。電子部品の実装ラインにおいて、FPC基板は、平坦化された状態で保持され、各工程内および各工程間を搬送される。
【0004】
FPC基板の搬送治具として、粘着性のあるシリコーンエラストマーからなるシートを支持体上に接着固定してなる搬送パレットが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかし、特許文献1記載の搬送治具においては、通常200〜260℃の高温環境下で実施される半田リフロー工程において、シリコーンエラストマーに含有されている低分子シロキサンがアウトガスとして放出され、これが電子部品の接点部に接触して接点不良を引き起こすという問題がある。
【0006】
このような問題に対して、シロキサンを含まないフッ素ゴム系のエラストマーシート(回路基板保持層)を支持ボード上に設けた基板搬送治具が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、フッ素ゴム系のエラストマーシートは、半田リフロー温度(通常200〜260℃)において、被着体であるFCP基板および支持ボードに対して十分な粘着力を有するものとならない(高温環境下における粘着性に劣る)。このため、半田リフロー工程において、エラストマーシートに保持されているFPC基板が剥離したり、エラストマーシートが支持ボードから剥離したりすることがある。
【0008】
一方、基板搬送治具を構成するエラストマーシートは、絶縁性が高くて帯電しやすいため、環境中のゴミやホコリを吸着してFPC基板を汚染したり、電子部品を静電破壊したりすることがある。このような問題を解決するため、導電性カーボンブラックなどの導電性物質を配合させることにより、エラストマーシートに導電性(例えば、表面抵抗≦108 Ω)を付与することが行われている。
【0009】
しかしながら、導電性物質の配合によって、エラストマーシートの粘着力(常温下および高温下)がさらに低下する傾向がある。
このため、基板搬送治具を構成する粘着ゴムシートとして、所期の導電性(帯電防止性)と、被着体に対する十分な粘着力(常温下および高温下)とを兼ね備えている粘着ゴムシートの開発が望まれていた。
【特許文献1】特開2003−273581号公報
【特許文献2】特開2004−363438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の目的は、フッ素ゴム系のエラストマーシートでありながら、半田リフロー温度においても、被着体である基板および支持ボードに対して十分に高い粘着力を有し、半田リフロー工程において、基板を確実に固定保持するとともに、支持ボードから剥離されることもない基板搬送治具用粘着ゴムシートを提供することにある。
本発明の他の目的は、所期の導電性(帯電防止性)と、被着体に対する十分な粘着力とを兼ね備えた基板搬送治具用粘着ゴムシートを提供することにある。
本発明の更に他の目的は、上記のような粘着ゴムシートが、支持ボード上に固定されてなる基板搬送治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために本発明者が鋭意検討を重ねた結果、過酸化物架橋タイプのフッ素ゴムに対し、有機過酸化物および共架橋剤の各々を、従来の配合量とは異なる特定の範囲内で配合し、ポリマー純度が一定以上の割合であるゴム配合物を成形加工することにより、フッ素ゴム系のエラストマーシートでありながら、高温環境下においても高い粘着力を有する粘着ゴムシートが得られることを見出し、かかる知見に基いて本発明を完成するに至った。
【0012】
請求項1に係る基板搬送治具用粘着ゴムシートは、支持ボード上に固定されて基板搬送治具を構成する粘着ゴムシートであって、フッ素ゴム100質量部と、有機過酸化物0.2〜0.6質量部と、共架橋剤0.5〜1.5質量部とを含有し、ポリマー純度が85.0質量%以上であるゴム配合物を成形加工して得られることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る基板搬送治具用粘着ゴムシートは、支持ボード上に固定されて基板搬送治具を構成する粘着ゴムシートであって、フッ素ゴム100質量部と、有機過酸化物0.2〜0.5質量部と、共架橋剤0.5〜1.2質量部とを含有し、ポリマー純度が90.0質量%以上であるゴム配合物を成形加工して得られることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る基板搬送治具用粘着ゴムシートは、前記有機過酸化物が2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンであり、前記共架橋剤がトリアリルイソシアヌレートであることを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る基板搬送治具用粘着ゴムシートは、前記フッ素ゴムが、側鎖を有する共重合体からなることを特徴とする。
【0016】
請求項5に係る基板搬送治具用粘着ゴムシートは、前記フッ素ゴムが、ビニリデンフルオライド/パーフルオロアルキルビニルエーテル/テトラフルオロエチレン系共重合体からなることを特徴とする。
【0017】
請求項6に係る基板搬送治具用粘着ゴムシートは、前記フッ素ゴムが、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン系共重合体からなることを特徴とする。
【0018】
請求項7に係る基板搬送治具用粘着ゴムシートは、前記ゴム配合物が、導電性カーボンブラックを0.5〜10質量部含有することを特徴とする。
【0019】
請求項8に係る基板搬送治具用粘着ゴムシートは、前記導電性カーボンブラックがケッチェンブラックであることを特徴とする。
【0020】
請求項9に係る基板搬送治具用粘着ゴムシートは、表面抵抗が108 Ω以下であることを特徴とする。
【0021】
本発明の基板搬送治具は、耐熱性のある支持ボードと、本発明の粘着ゴムシートとを積層することにより構成される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の基板搬送治具用粘着ゴムシートは、フッ素ゴム系のエラストマーシートでありながら、半田リフロー温度(例えば200〜260℃)においても、被着体(基板および支持ボード)に対して十分に高い粘着力を有する。
また、所定量の導電性カーボンブラックを含有するゴム配合物を成形加工して得られる請求項7〜請求項9に係る基板搬送治具用粘着ゴムシートは、所期の導電性(帯電防止性)と、被着体に対する十分な粘着力(常温下および高温下)とを兼ね備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
<粘着ゴムシート>
本発明の基板搬送治具用粘着ゴムシートは、支持ボード上に固定されて基板搬送治具を構成する粘着ゴムシートである。
【0024】
本発明の粘着ゴムシートが固定される支持ボードの構成材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、マグネシウム合金、繊維強化エポキシ樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリアクリレート、ポリイミド、アルミナ、窒化アルミニウムなどを挙げることができる。
【0025】
本発明の粘着ゴムシートの支持ボードへの固定方法としては、粘着ゴムシートの有する粘着力を利用する方法(粘着固定)を挙げることができる。これにより、粘着ゴムシートが劣化した際に、これを支持ボードから取外して新品に交換することができるので、支持ボードを再利用することができる。
【0026】
なお、本発明の粘着ゴムシートを支持ボード上に接着固定(架橋接着などにより強固に固定)してもよい。これにより、得られる基板搬送治具を用いて実施される半田リフロー工程において、粘着ゴムシートが支持ボードから剥離されることを確実に防止することができる。
【0027】
本発明の粘着ゴムシートは、フッ素ゴム100質量部と、有機過酸化物0.2〜0.6質量部と、共架橋剤0.5〜1.5質量部とを含有し、ポリマー純度が85.0質量%以上であるゴム配合物(以下、「特定のゴム配合物」ともいう)を成形加工することにより得られる。
【0028】
本発明においては、特定のゴム配合物を構成する原料ゴムとしてフッ素ゴムを使用する。これにより、低分子シロキサン(アウトガス)に起因する、電子部品の接点不良などの問題を回避することができる。
【0029】
特定のゴム配合物を構成するフッ素ゴムは、過酸化物架橋が可能なフッ素ゴムであれば特に制限されるものではない。
フッ素ゴムを構成する共重合体としては、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン(VDF/HFP)系共重合体、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン(VDF/HFP/TFE)系共重合体、ビニリデンフルオライド/パーフルオロアルキルビニルエーテル/テトラフルオロエチレン(VDF/PAVE/TFE)系共重合体、ビニリデンフルオライド/パーフルオロアルキルビニルエーテル/ヘキサフルオロプロピレン(VDF/PAVE/HFP)系共重合体、ビニリデンフルオライド/パーフルオロアルキルビニルエーテル/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン系(VDF/PAVE/HFP/TFE)系共重合体などを例示することができる。なお、これらの共重合体には、架橋点モノマー(例えば臭化オレフィン)が共重合されている。
【0030】
これらのうち、パーフルオロアルキルビニルエーテルにより側鎖(−ORf)が導入された共重合体(VDF/PAVE/TFE系共重合体、VDF/PAVE/HFP系共重合体、VDF/PAVE/HFP/TFE系共重合体)は、粘着力の高いゴムシートを得ることができる観点から好ましく、VDF/PAVE/TFE系共重合体が特に好ましい。また、ヘキサフルオロプロピレンにより側鎖が導入されたVDF/HFP/TFE系共重合体も好ましい。
【0031】
フッ素ゴムの市販品としては、バイトン(登録商標)GLT、同GLT−S、同GFLT、同GFLT−S、同GF、同GF−S、同GBL、同GBL−S(以上、デュポンエラストマー(株)製)などを例示することができる。
【0032】
特定のゴム配合物を構成する有機過酸化物としては、ゴムの過酸化物架橋に架橋剤として使用されるものを挙げることができる。具体的には、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンなどを例示することができる。これらのうち、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。
【0033】
有機過酸化物の配合量としては、フッ素ゴム100質量部に対して、通常0.2〜0.6質量部とされ、好ましくは0.2〜0.5質量部、更に好ましくは0.2〜0.48質量部、特に好ましくは0.2〜0.4質量部とされる。
【0034】
過酸化物架橋タイプのフッ素ゴムの典型的な配合処方において、有機過酸化物の配合量は、フッ素ゴム100質量部に対して1.2〜1.8質量部程度とされる。このように、本発明における有機過酸化物の配合量(0.2〜0.6質量部)は、完全な架橋物を得るための典型的な配合処方における配合量と比較してかなり少ないものである。
【0035】
そして、有機過酸化物の配合量を、このような数値範囲に規定することによりはじめて、得られる粘着ゴムシートは、高温環境下における粘着性に劣るものとされていたフッ素ゴム系のエラストマーシートでありながら、半田リフロー温度(通常200〜260℃)においても被着体(基板および支持ボード)に対して十分に高い粘着力を示すようになる。
【0036】
有機過酸化物の配合量が0.2質量部未満である場合には、十分な架橋反応を行うことができず、架橋ゴムシート(弾性体)を得ることができない(後述する比較例4参照)。一方、この配合量が0.6質量部を超える場合には、得られる粘着ゴムシートが、高温環境下において十分な粘着力を有するものとならない(後述する比較例5参照)。
【0037】
特定のゴム配合物を構成する共架橋剤(架橋助剤)としては、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルイソシアヌレートプレポリマー(TAICプレポリマー)、トリメタアリルイソシアヌレート(TMAIC)、トリアリルシアヌレート、トリアリルトリメリレート、N,N’−m−フェニレンジマレイミド、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどを例示することができる。これらのうち、トリアリルイソシアヌレートが好ましい。
【0038】
共架橋剤の配合量としては、フッ素ゴム100質量部に対して、通常0.5〜1.5質量部とされ、好ましくは0.5〜1.2質量部、更に好ましくは0.5〜1.0質量部とされる。
【0039】
過酸化物架橋タイプのフッ素ゴムの典型的な配合処方において、共架橋剤の配合量は、フッ素ゴム100質量部に対して3〜4質量部程度とされる。このように、本発明における共架橋剤の配合量(0.5〜1.5質量部)は、典型的な配合処方と比較してかなり少ないものである。
【0040】
共架橋剤の配合量が0.5質量部未満である場合には、得られる粘着ゴムシートの物性がきわめて劣るものとなる(後述する比較例6参照)。
一方、この配合量が1.5質量部を超える場合には、得られる粘着ゴムシートが高温環境下において十分な粘着力を有するものとならない(後述する比較例7参照)。
【0041】
特定のゴム配合物には、本発明の目的を損なわず、後述するポリマー純度の要件を具備する範囲内で各種の任意成分が含有されていてもよい。
かかる任意成分としては、導電性粒子、受酸剤、充填剤等を例示することができる。
【0042】
特定のゴム配合物を構成する導電性粒子は、本発明の粘着ゴムシートに所期の導電性(帯電防止性)を付与するために配合される。
かかる導電性粒子としては、導電性カーボンブラック、黒鉛、金属粒子などを挙げることができ、これらのうち、安価で、耐摩耗性の良好なゴムシートを形成することができる観点から、導電性カーボンブラックを使用することが好ましい。
【0043】
導電性カーボンブラックの種類としては特に限定されるものではないが、導電性の付与性能に優れている観点から、ケッチェンブラックおよびアセチレンブラックが好ましく、特に好ましくはケッチェンブラックである。
【0044】
導電性カーボンブラックの粒径は20〜50nmであることが好ましく、更に好ましくは30〜40nmとされる。
導電性カーボンブラックの粒径が20nm未満である場合には、加工性が悪くなり、得られるゴムシートの粘着力も低下する傾向がある。一方、この粒径が50nmを超える場合には、導電性カーボンブラック粒子がゴムシートより脱落する可能性があり、また、得られるゴムシートの粘着力の低下を招く。
【0045】
導電性カーボンブラックの比表面積(N2 吸着量)は、使用する導電性カーボンブラックの種類によっても異なるが、40〜2000m2 /gであることが好ましく、更に好ましくは55〜1500m2 /gとされる。
比表面積(N2 吸着量)が40m2 /g未満である導電性カーボンブラック粒子は、粒径が過大となって、ゴムシートより脱落する可能性があり、また、得られるゴムシートの粘着力の低下を招く。一方、比表面積が2000m2 /gを超える導電性カーボンブラック粒子は、粒径が過小となり、加工性が低下し、得られるゴムシートの粘着力も低下する。
【0046】
導電性カーボンブラックの配合量としては、フッ素ゴム100質量部に対して、0.5〜10質量部であることが好ましく、更に好ましくは5〜10質量部とされる。
導電性カーボンブラックの配合量が過少である場合には、得られるゴムシートに十分な導電性(帯電防止性)を付与することができない。一方、導電性カーボンブラックの配合量が過剰である場合には、ゴム配合物の加工性が低下するとともに、得られる粘着ゴムシートの粘着力の低下を招く。
【0047】
任意成分として特定のゴム配合物を構成する受酸剤としては、酸化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどを挙げることができる。
また、任意成分として特定のゴム配合物を構成する充填剤としては、絶縁性カーボンブラックを例示することができる。
【0048】
特定のゴム配合物のポリマー純度としては、通常85.0質量%以上とされ、好ましくは90.0質量%以上とされる。
ここに、「ポリマー純度」とは、ゴム配合物に占めるフッ素ゴムの質量割合をいう。
ポリマー純度が85.0質量%未満である場合には、得られる粘着ゴムシートが、高温環境下において十分な粘着力を有するものとならない。
【0049】
本発明の粘着ゴムシートは、特定のゴム配合物を成形加工することにより得られる。
ここに、「成形加工」とは、所定の形状(シート状)に成形するとともに、フッ素ゴムの架橋反応を行わせる(配合物を架橋処理する)ことをいう。
【0050】
特定のゴム配合物をシート状に成形する方法としては、カレンダや押出機を用いる方法を挙げることができる。
【0051】
また、未架橋ゴムシートの架橋方式としては、加硫缶による架橋方式、加熱ドラムプレス加硫(ロートキュア)などの連続架橋方式、金型による架橋方式などを挙げることができる。架橋条件(加熱条件)としては、1次加熱が150〜200℃で5〜20分間、2次加熱が180〜250℃で2〜6時間である。
【0052】
なお、得られた粘着ゴムシートを直ちに使用せず、保管したり、これを製品として出荷したりする場合は、両面に離型シート(離型フィルム)を貼り付ることが好ましい。
本発明の粘着ゴムシートは、ロールまたは枚葉の状態で製品化され、支持ボードの形状などに応じて適宜裁断して使用することができる。
【0053】
本発明の粘着ゴムシートの厚さは0.05〜1mmであることが好ましく、更に好ましくは0.1〜0.5mmとされる。
【0054】
本発明の粘着ゴムシートの硬さ(JIS−A硬度)は、40以上(導電性カーボンブラックを配合して得られるものにあっては60以上)であることが好ましい。また、本発明の粘着ゴムシートの引張強度は、3.0MPa以上(導電性カーボンブラックを配合して得られるものにあっては6.0MPa以上)であることが好ましい。本発明の粘着ゴムシートの引張強度は、過酸化物架橋タイプのフッ素ゴムの典型的な配合処方による架橋ゴムシート(完全に架橋されたゴムシート。例えば、後述する比較例3に係る粘着ゴムシート)の引張強度よりも低いものであるが、このような引張強度であっても、本発明の用途(基板搬送治具の構成部品)としては十分な強度である。
【0055】
本発明の粘着ゴムシートは、ゴム系粘着剤からなるシートのように、粘着性樹脂(粘性体)を必須成分とするものではない。
本発明の粘着ゴムシートは、ゴムが本来的に有する微粘着力(ゴム系粘着剤により発現される粘着力より小さいものの、基板や支持ボードを固定するのに十分な粘着力)を有している。
【0056】
本発明の粘着ゴムシートの粘着力は、常温下で測定されるステンレスに対する粘着力が5.0gf/mm2 以上であることが好ましく、更に好ましくは7.0gf/mm2 以上、特に好ましくは7.0〜20.0gf/mm2 とされる。この粘着力が5.0gf/mm2 以上であることにより、常温環境下において、搬送すべき基板を確実に粘着固定することができる。
【0057】
本発明の粘着ゴムシートの高温環境下での粘着力としては、200℃の温度条件で測定されるステンレスに対する粘着力が3.0gf/mm2 以上であることが好ましく、更に好ましくは3.5gf/mm2 以上とされる。この粘着力が3.0gf/mm2 以上であることにより、当該粘着ゴムシートを備えた基板搬送治具を用いて実施される半田リフロー工程において、当該粘着ゴムシートが基板を確実に固定保持するとともに、当該粘着ゴムシートが支持ボードから剥離されることもない。
【0058】
ここに、「ステンレスに対する粘着力」は、粘着ゴムシートの粘着力の指標値であり、直径=5.1mm(20.4mm2 )のステンレス製のピンを試験片(粘着ゴムシート)に当接し、50gfの荷重を3秒間印加した後、120mm/minの速度で引き離したときに生じる力(単位面積あたりの力)を粘着力とする。
【0059】
導電性カーボンブラックを配合して得られる本発明の粘着ゴムシートの表面抵抗は、108 Ω以下であることが好ましく、更に好ましくは106 Ω以下、特に好ましくは103 Ω以下とされる。
表面抵抗が108 Ω以下の粘着ゴムシートであれば、帯電されにくく、環境中のゴミやホコリを吸着して基板を汚染したり、電子部品を静電破壊したりすることを確実に防止することができる。
本発明において「表面抵抗」は、JIS K 6271に準拠した二重リング電極法によって測定される表面抵抗である。
【0060】
本発明の粘着ゴムシートは、高温環境下における粘着性に劣るものとされていたフッ素ゴム系のエラストマーシートでありながら、高温環境下において高い粘着力を有し、当該粘着ゴムシートを備えた基板搬送治具を用いて実施される半田リフロー工程において、基板を確実に固定保持することができるとともに、支持ボードから剥離されることもない。
【0061】
<基板搬送治具>
本発明の粘着ゴムシートは、支持ボード上に固定(積層)されることにより基板搬送治具を構成する。
【0062】
図1(A)は、本発明の粘着ゴムシートを固定する支持ボードの一実施形態を示す平面図であり、図1(B)は、同図(A)のX−X断面図である。
図1に示すように、支持ボード20には、粘着ゴムシートを積層する際に、支持ボード20と粘着ゴムシートとの間の空気を吸引して両者の密着性を向上させるための吸引用の貫通孔25(5箇所)と、基板搬送治具を、実装装置の所定位置に載置するための位置合わせ用の貫通孔22(4箇所)とが形成されている。この支持ボード20の厚さは0.3〜5mm程度とされる。
【0063】
図2(A)は、図1に示した支持ボードを備えた本発明の基板搬送治具の一実施形態を示す平面図であり、図2(B)は、同図(A)のY−Y断面図である。
粘着ゴムシート10を支持ボード20上に貼り合わせることにより、図2に示したような基板搬送治具50(本発明の基板搬送治具)が得られる。
粘着ゴムシート10を貼り合わせる方法としては、支持ボード20上に粘着ゴムシート10を載置した後、ローラなどにより圧着する方法、吸引用の貫通孔25から空気を吸引しながらプレス圧着する方法などを挙げることができる。
【0064】
ここに、支持ボード20と粘着ゴムシート10との貼り合わせ(固定)は、粘着ゴムシート10の有する粘着力を利用するものであるため、粘着剤・接着剤などを使用する必要はない。このため、簡単に基板搬送治具50を製造することができる。
【0065】
図2に示すように、基板搬送治具50には、FPC基板の位置合わせ用の貫通孔24が形成されている。この貫通孔24は、支持ボード20と粘着ゴムシート10とを貼り合わせた後、ドリルなどを用いて形成することができる。
【0066】
<基板搬送治具の使用方法>
図3は、図2に示した基板搬送治具の使用状態を示す断面図である。
図3に示すように、基板搬送治具50を構成する粘着ゴムシート10の表面には、搬送されるFPC基板70が粘着固定されている。
FPC基板70の固定は次のようにして行われる。すなわち、FPC基板70に形成された貫通孔73と、基板搬送治具50に形成された貫通孔24とを一致させてピン42を挿入することにより、FPC基板70の位置合わせを行い、この位置において、粘着ゴムシート10の粘着力によりFPC基板70を固定する。
【0067】
また、FPC基板を粘着固定した基板搬送治具50は、実装装置60の所定の位置(載置部61)に固定されている。
基板搬送治具50固定は次のようにして行われる。すなわち、基板搬送治具50を構成する支持ボード20に形成された貫通孔22と、実装装置60の載置部61に形成された孔62とが一致するよう、基板搬送治具50を載置部61に載置し、貫通孔22と孔62にピン41を挿入することにより固定する。
【実施例】
【0068】
以下、実施例および比較例により本発明を説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0069】
<実施例1>
下記1に示す処方に従って、VDF/PAVE/TFE系共重合体からなるフッ素ゴム「バイトン(登録商標)GLT−200S」(デュポンエラストマー(株)製)100質量部と、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを含有する架橋剤「パーヘキサ(登録商標)25B−40」(日本油脂(株)製、純度=40%)1.0質量部(有機過酸化物として0.4質量部)と、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)からなる共架橋剤(日本化成(株)製)0.5質量部と、ケッチェンブラック(平均粒径=34nm,比表面積(N2 吸着量)=1270m2 /g)5.0質量部とを配合混練して特定のゴム配合物(ポリマー純度=93.9質量%)を調製し、これをカレンダによりシーティングして厚さ0.50mmの未架橋ゴムシートを作製した。得られた未架橋ゴムシートを、型面が鏡面状態の金型を用いて、170℃×10分間(1次)および200℃×4時間(2次)の条件で架橋処理することにより、厚さ0.50mmの粘着ゴムシート(本発明の粘着ゴムシート)を製造した。
【0070】
<実施例2〜4>
下記表1に示す処方に従って、架橋剤「パーヘキサ(登録商標)25B−40」および共架橋剤(TAIC)の少なくとも一方の配合量を変更したこと以外は実施例1と同様にして、特定のゴム配合物を調製し、得られたゴム配合物の各々をシーティングして未架橋ゴムシートを作製し、これを架橋処理することにより、厚さ0.50mmの粘着ゴムシート(本発明の粘着ゴムシート)を製造した。
【0071】
<実施例5>
下記表1に示す処方に従って、「バイトン(登録商標)GLT−200S」に代えて、VDF/HFP/TFE系共重合体からなるフッ素ゴム「バイトン(登録商標)GBL−200S」(デュポンエラストマー(株)製)100質量部を使用したこと以外は実施例1と同様にして特定のゴム配合物を調製し、これをシーティングして未架橋ゴムシートを作製し、これを架橋処理することにより、厚さ0.50mmの粘着ゴムシート(本発明の粘着ゴムシート)を製造した。
【0072】
<実施例6>
下記表1に示す処方に従って、水酸化カルシウム3.0質量部および酸化亜鉛3.0質量部を配合したこと以外は実施例1と同様にして特定のゴム配合物を調製し、これをシーティングして未架橋ゴムシートを作製し、これを架橋処理することにより、厚さ0.50mmの粘着ゴムシート(本発明の粘着ゴムシート)を製造した。
【0073】
<実施例7>
下記表1に示す処方に従って、ケッチェンブラックを使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして特定のゴム配合物を調製し、これをシーティングして未架橋ゴムシートを作製し、これを架橋処理することにより、厚さ0.50mmの粘着ゴムシート(本発明の粘着ゴムシート)を製造した。
【0074】
実施例1〜7で得られた本発明の粘着ゴムシートの各々について、引張強度(Tb)、伸び(Eb)、硬度(JIS−A)、表面抵抗(JIS K 6271に準拠)、SUSピンに対する粘着力(粘着面積=20.4mm2 、印加荷重=50gf×3秒間、剥離速度=120mm/min、測定温度:25℃および200℃)を測定した。結果を併せて下記表1に示す。
【0075】
<比較例1>
下記表2に示す処方に従って、架橋剤「パーヘキサ(登録商標)25B−40」の配合量を0.3質量部(有機過酸化物として0.12質量部)に変更し、共架橋剤(TAIC)の配合量を0.3質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にしてゴム配合物を調製し、これをシーティングして未架橋ゴムシートを作製した。得られた未架橋ゴムシートを、実施例1と同一の条件で架橋処理したが、架橋ゴムシート(弾性体)を得ることはできなかった。この比較例は、有機過酸化物および共架橋剤の配合量が本発明の範囲外(過少)となる比較例である。
【0076】
<比較例2〜3>
下記表2に示す処方に従って、架橋剤「パーヘキサ(登録商標)25B−40」および共架橋剤(TAIC)の配合量を変更したこと以外は実施例1と同様にしてゴム配合物を調製し、得られたゴム配合物の各々をシーティングして未架橋ゴムシートを作製し、これを架橋処理することにより、厚さ0.50mmの粘着ゴムシート(比較用の粘着ゴムシート)を製造した。これらの比較例は、有機過酸化物および共架橋剤の配合量が本発明の範囲外(過剰)となる比較例である。
【0077】
<比較例4>
下記表2に示す処方に従って架橋剤「パーヘキサ(登録商標)25B−40」の配合量を0.3質量部(有機過酸化物として0.12質量部)に変更したこと以外は実施例1と同様にしてゴム配合物を調製し、これをシーティングして未架橋ゴムシートを作製した。得られた未架橋ゴムシートを、実施例1と同一の条件で架橋処理したが、架橋ゴムシート(弾性体)を得ることはできなかった。この比較例は、有機過酸化物の配合量が本発明の範囲外(過少)となる比較例である。
【0078】
<比較例5>
下記表2に示す処方に従って架橋剤「パーヘキサ(登録商標)25B−40」の配合量を2.0質量部(有機過酸化物として0.8質量部)に変更したこと以外は実施例1と同様にしてゴム配合物を調製し、これをシーティングして未架橋ゴムシートを作製し、これを架橋処理することにより、厚さ0.50mmの粘着ゴムシート(比較用の粘着ゴムシート)を製造した。この比較例は、有機過酸化物の配合量が本発明の範囲外(過剰)となる比較例である。
【0079】
<比較例6〜7>
下記表2に示す処方に従って共架橋剤(TAIC)の配合量を変更したこと以外は実施例1と同様にしてゴム配合物を調製し、得られたゴム配合物の各々をシーティングして未架橋ゴムシートを作製し、これを架橋処理することにより、厚さ0.50mmの粘着ゴムシート(比較用の粘着ゴムシート)を製造した。これらの比較例は、共架橋剤の配合量が本発明の範囲外(比較例6が過少、比較例7が過剰)となる比較例である。
【0080】
<比較例8>
下記表2に示す処方に従ってケッチェンブラックの配合量を10.0質量部に変更したこと以外は比較例2と同様にしてゴム配合物を調製し、これをシーティングして未架橋ゴムシートを作製し、これを架橋処理することにより、厚さ0.50mmの粘着ゴムシート(比較用の粘着ゴムシート)を製造した。この比較例は、有機過酸化物および共架橋剤の配合量が本発明の範囲外(過剰)となる比較例である。
【0081】
<参考例>
支持ボード上にシリコーン系の粘着樹脂層が積層されてなる基板搬送治具「マジキャリー」((株)京写製)を準備した。
【0082】
比較例2〜3および比較例5〜8で得られた比較用の粘着ゴムシートの各々について、引張強度(Tb)、伸び(Eb)、硬度(JIS−A)、表面抵抗(JIS K 6271に準拠)、SUSピンに対する粘着力(粘着面積=20.4mm2 、印加荷重=50gf×3秒間、剥離速度=120mm/min、測定温度:25℃および200℃)を測定した。
また、参考例で準備した基板搬送治具の粘着樹脂層について、SUSピンに対する粘着力(測定温度:25℃および200℃)を測定した。結果を併せて下記表2に示す。
【0083】
【表1】

【0084】

【表2】

【0085】
*1)「GLT−200S」:
VDF/PAVE(PMVE:パーフルオロメチルビニルエーテル)/TFE系共重合体からなるフッ素ゴム「バイトン(登録商標)GLT−200S」(デュポンエラストマー(株)製)。
*2)「GBL−200S」:
VDF/HFP/TFE系共重合体からなるフッ素ゴム「バイトン(登録商標)GBL−200S」(デュポンエラストマー(株)製)。
*3)「25B−40」:
2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを含有する架橋剤「パーヘキサ(登録商標)25B−40」(日本油脂(株)製、純度=40%)
*4)「TAIC」:
トリアリルイソシアヌレートからなる共架橋剤(日本化成(株)製)
*5)「ケッチェンブラック」:
導電性カーボンブラック(ケッチェンブラック・インターナショナル(株)製,平均粒径=34nm,比表面積(N2 吸着量)=1270m2 /g)
*6)基板搬送治具「マジキャリー」((株)京写製)
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】(A)は、本発明の粘着ゴムシートが固定される支持ボードの一実施形態を示す平面図、(B)は、同図(A)のX−X断面図である。
【図2】(A)は、本発明の基板搬送治具の一実施形態を示す平面図、(B)は、同図(A)のY−Y断面図である。
【図3】図2に示した基板搬送治具の使用状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0087】
10 粘着ゴムシート
20 支持ボード
22 位置合わせ用の貫通孔
25 吸引用の貫通孔
24 位置合わせ用の貫通孔
41 ピン
42 ピン
50 基板搬送治具
60 実装装置
61 載置部
62 孔
70 FPC基板
73 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持ボード上に固定されて基板搬送治具を構成する粘着ゴムシートであって、
フッ素ゴム100質量部と、
有機過酸化物0.2〜0.6質量部と、
共架橋剤0.5〜1.5質量部とを含有し、ポリマー純度が85.0質量%以上であるゴム配合物を成形加工して得られる基板搬送治具用粘着ゴムシート。
【請求項2】
支持ボード上に固定されて基板搬送治具を構成する粘着ゴムシートであって、
フッ素ゴム100質量部と、
有機過酸化物0.2〜0.5質量部と、
共架橋剤0.5〜1.2質量部とを含有し、ポリマー純度が90.0質量%以上であるゴム配合物を成形加工して得られる基板搬送治具用粘着ゴムシート。
【請求項3】
前記有機過酸化物が2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンであり、前記共架橋剤がトリアリルイソシアヌレートである請求項1または請求項2に記載の基板搬送治具用粘着ゴムシート。
【請求項4】
前記フッ素ゴムが、側鎖を有する共重合体からなる請求項1乃至請求項3の何れかに記載の基板搬送治具用粘着ゴムシート。
【請求項5】
前記フッ素ゴムが、ビニリデンフルオライド/パーフルオロアルキルビニルエーテル/テトラフルオロエチレン系共重合体からなる請求項4に記載の基板搬送治具用粘着ゴムシート。
【請求項6】
前記フッ素ゴムが、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン系共重合体からなる請求項4に記載の基板搬送治具用粘着ゴムシート。
【請求項7】
前記ゴム配合物が、導電性カーボンブラックを0.5〜10質量部含有する請求項1乃至請求項6の何れかに記載の基板搬送治具用粘着ゴムシート。
【請求項8】
前記導電性カーボンブラックが、ケッチェンブラックである請求項7に記載の基板搬送治具用粘着ゴムシート。
【請求項9】
表面抵抗が108 Ω以下である請求項7または請求項8に記載の基板搬送治具用粘着ゴムシート。
【請求項10】
耐熱性のある支持ボードと、請求項1乃至請求項9の何れかに記載の粘着ゴムシートとを積層してなる基板搬送治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−170487(P2009−170487A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4003(P2008−4003)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】