説明

基礎杭構造

【課題】杭穴の拡底部内での根固め部を有効活用して、鉛直支持力を発揮する。杭穴の軸部下端、拡底部の上端付近の掘削量を減らして、効率良い拡底部を構成する。
【解決手段】地面12から杭穴軸部15の下端15aに続いて円錐形の拡底部16を形成した杭穴14を形成し、杭穴14の軸部15の下端15a(拡底部16の上縁17a)を杭穴基準線20とする。杭穴基準線20に、各既製杭1の既製杭基準線10を合わせる。第1の既製杭1は、軸部3に続き、縮径して下面4aを有する段差部4、下方軸部5を形成し、軸部3の下端3aを既製杭基準線10とする(c)。第2の既製杭1は、中空ストレート状で、底面2はフラットに形成され、底面2が既製杭基準線10とする(a)(b)。第3の既製杭1は、軸部3に環状の突起6、6を形成し、一番下の突起6Aの下面7の上を既製杭基準線10とする(d)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地盤を掘削して形成した杭穴内に既製杭を埋設して、構成する基礎杭構造に関する。
【背景技術】
【0002】
基礎杭構造40では、杭穴14の軸部の下端に連続して、支持地盤に作用する根固め部を拡大掘削して拡底部16とし、杭穴14内に既製杭1を収めて、基礎杭構造40を構築していた。この場合、鉛直荷重が作用した場合に、既製杭1の底面2や突起部6の下方に向けた下面7、7から杭穴底面19に向けて、斜めに広がるせん断力が円錐形のように作用して杭穴底面19を介して支持地盤に伝達すると考えられている(特許文献1)。
【0003】
この場合、ストレート杭では、既製杭1の底面2から杭穴底面19(支持地盤)に向けて、円錐状にせん断力が作用して、拡底部16の許容強度を超えると、せん断力の作用線に沿って、ひび割れが生じていた(図3(a))。
【0004】
また、既製杭1の軸方向に突起6、6を形成したいわゆる節杭では、既製杭1の底面2と拡底部16内に位置する各突起6、6の下方に向けた下面7、7の両方から円錐状にせん断力が作用して、拡底部の許容強度を超えると、せん断力の作用線に沿って、ひび割れが生じていた(図3(b))。
【0005】
従って、既製杭1から導き出される円錐形の底面と杭穴底との位置を調節すれば、より効率的に高い鉛直支持力を確保できることが分かっている(特許文献1)。また、前記従来の技術で、拡底部16は、杭穴14の軸部15に続いて大径に掘削していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−97635
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来の技術で、引抜力を考慮しない場合には、杭穴14の軸部15の下端から拡底部16の上端部までに部分Aで、円錐形の外側に位置する部分には、既製杭1から杭穴底19(支持地盤)への支持力の作用に関与しないことになる。よって、本発明は、排土量や掘削効率を考慮して、杭穴14の軸部15の下端から拡大根固め部の上端部までの部分Aを効率よく形成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、杭穴の軸部下端に相当する杭穴基準線に、既製杭の下方向けた面を有する既製杭基準線を一致させて、既製杭を杭穴内に埋設するので、前記問題点を解決した。
【0009】
即ち、この発明は、以下のように、杭穴内に既製杭を埋設して構成したことを特徴とする基礎杭構造である。
(1) 前記杭穴は、軸部の下端に連続して、その下方に拡大根固め部を形成して構成し、前記軸部の下端を杭穴基準線とする。
(2) 前記既製杭は、下端部で、大径の軸部の下端から連続して、下方に向く面を有する段差部を介して、縮径した下方軸部を形成して、第1既製杭を構成する。
(3) 前記既製杭は、前記段差部及び前記先端支持部を形成しない構造で、下方に向く面である底面を有する第2既製杭を構成する。
(4) セメントミルク類が充填された前記杭穴内に、前記第1既製杭又は第2既製杭のいずれか一方を埋設する。
(5) 前記既製杭の軸部の下端を既製杭基準線として、該既製杭基準線を、前記杭穴基準線と上下方向で一致させた。
【0010】
また、他の発明は、以下のように、杭穴内に既製杭を埋設して構成したことを特徴とする基礎杭構造である。
(1) 前記杭穴は、軸部の下端に連続して、その下方に、円錐状に徐々に径が拡大する拡大根固め部を形成して構成する。前記軸部の下端を杭穴基準線とする。
(2) 前記既製杭は、下端部で、大径の軸部の下端から連続して、下方に向く面を有する段差部を介して、縮径した下方軸部を形成して、第1既製杭を構成する。前記第1既製杭の軸部の下端を既製杭基準線とする。
(3) 前記既製杭は、前記段差部及び前記先端支持部を形成しない構造で、下方に向く面である底面を有する第2既製杭を構成する。前記第2既製杭の軸部の下端を既製杭基準線とする。
(4) 前記既製杭は、少なくとも下端部で、軸部に、上下方向で所定間隔を空けて突起を突設して構成し、第3既製杭を構成する。前記第3既製杭で、前記突起の内で、最下端の突起、あるいは最下端の突起から2番目又は3番目の突起の上縁を、前記第3既製杭の既製杭基準線とする。
(5) セメントミルク類が充填された前記杭穴内に、前記第1既製杭、第2既製杭及び第3既製杭のいずれか一つを埋設する。
(6) 前記杭穴基準線に、前記既製杭の軸部の下端を、上下方向で一致させた。
【0011】
前記におけるセメントミルク類とは、杭穴に充填する水硬性材料の総称であり、セメントミルクの他、必要な固化強度を確保できればソイルセメント等でも可能である。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、既製杭の軸部の下端を既製杭基準線として、既製杭基準線を、杭穴基準線と上下方向で一致させたので、杭穴の拡底部内での根固め部を有効活用して、鉛直支持力を発揮できる。また、円錐状に徐々に径が拡大する拡大根固め部を形成した場合には、杭穴の軸部下端、拡底部の上端付近の掘削量を減らして、効率良い拡底部を構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(a)〜(d)はこの発明の実施例の基礎杭構造の縦断面図である。
【図2】図2(a)〜(g)は、この発明の実施例の基礎構造の構築手順を表す縦断面図である。
【図3】図3は、従来の基礎杭構造の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1) 第1の既製杭1は、径D10の軸部3に続き、縮径して下面4aを有する段差部4を形成し、段差部4の下端に連続して、径D11(D10<D11)の下方軸部5を形成して構成する(図1(c))。この場合には、軸部3の下端3a(段差部4の上端)を既製杭基準線10する(図1(c))。
第2の既製杭1は、円筒形の中空ストレート状で、底面2はフラットに形成され、既製杭1の下端(底面2)が、既製杭基準線10を構成する(図2(b))。
第3の既製杭1は、径D12の軸部3で軸方向に所定間隔で、径D13(D12<D13)の環状の突起6、6を形成して構成する。この場合、実線図示の既製杭1において、一番下の突起6Aの下方へ向く下面7の上を既製杭基準線10とする。
【0015】
(2) 地面12から径Dの杭穴軸部15の下端15aに続いて、下方に、円錐形の拡底部16を形成した杭穴14を掘削する。拡底部16の底19は径Dで形成される(図2(a)〜(e))。また拡底部16内には、セメントミルク又はソイルセメント等による根固め層が形成されている。杭穴14の軸部15の下端15a(=拡底部16の上縁17a)を杭穴基準線20とする。
【0016】
(3) 続いて、第1、第2、第3のいずれかの既製杭1を杭穴14内に下降して(図2(f))、既製杭基準線10を、杭穴基準線20の高さに合わせた状態で、既製杭1を定着させる(図2(g))。第1の既製杭1を使った基礎杭構造30を図1(c)、第2の既製杭1を使った基礎杭構造構造30を図2(a)(b)、第3の既製杭1を使った基礎杭構造30を図1(d)に示す。
【実施例1】
【0017】
図1、図2に基づいて、この発明の実施例を説明する。
【0018】
1.基礎杭構造30の構築
【0019】
(1) 既製杭1は、円筒形の中空ストレート状で、底面2はフラットに形成され、既製杭1の下端(底面2)が、既製杭基準線10を構成する(図1(b))。
【0020】
(2) 地面12から所定径Dの杭穴軸部15を所定深さHまで掘削する(図2(a))。この際、使用する掘削ロッド25は下端部に掘削ヘッド26を有し、掘削ヘッド26は揺動する掘削腕27、27を有し、揺動角度を所定角度に設定して、掘削する。
【0021】
(3) 続いて、杭穴軸部15の下端15aから、掘削腕27、27の揺動角度を一気に広げ又は徐々に広げながら、杭穴軸部15の下端15aに連続して、部分円錐形の拡底部円錐部17を掘削する(図2(b))。
拡底部円錐部17に連続して、拡底部円錐部17の最下端の径を最大径として、径Dの拡底部円柱部18を掘削する(図2(c))。
従って、円錐形の拡底部円錐部17では、上端17aで最小径Dで、下端17bで最大径Dで形成される。また、杭穴軸部15の下端15a(即ち拡底部円錐部17の上端17a)が杭穴基準線20を構成する。
【0022】
(4) 杭穴拡底部16の底19が支持地盤に充分に至り、杭穴拡底部16の掘削が完了したならば、杭穴拡底部16内にセメントミルクを充填して掘削泥土と置換して杭穴拡底部16内に根固め層を形成する。あるいは、置換に代えて、セメントミルクと掘削泥土を撹拌混合して杭穴拡底部16内に根固め層を形成する。
その後、掘削腕27、27を閉じて、掘削ロッド25を掘削ヘッド26と共にを地上12に引き上げる(図2(d))。掘削ロッド25を引き上げながら、セメントミルクを杭穴軸部16内に充填してあるいは撹拌混合して、杭周固定層を形成しながら、掘削ロッド25を地上12に引き上げる(図2(e))。
【0023】
(5) 続いて、杭穴14内に、既製杭1を徐々に下降して(図2(f))、既製杭基準線10(既製杭の底面の高さ)を、杭穴基準線20(杭穴の軸部の下端=根固め部円錐部の上端)に位置させる。この際、地上12から杭穴基準線20までの距離はHであり、既製杭1の長さLと既製杭1の上端と地上12の位置を考慮して、両線10、20の高さを一致させる。
この状態を保持して、根固め層、杭周固定層が固化したならば、この発明の基礎杭構造30を構成する(図2(g)、図1(b))。ここで、拡底部円錐部17と拡底部円柱部18を合わせて杭穴拡底部16とする。また、拡底部円柱部18が無く、拡底部円錐部17のみで底まで形成する場合には、拡底部円錐部17が拡底部16となる。また、杭穴軸部15と杭穴拡底部16を合わせて、杭穴14とする。
【0024】
(6) この場合、形成する拡底部円錐部17は、鉛直と為す角度θで形成され、既製杭1の底面2から作用するせん断力の円錐の角度θが予想される(通常は角度θ=30度程度で、地盤強度、根固め部の大きさ・強度等により異なる)。この場合、角度θの拡底部円錐部17に続く拡底部円柱部18が底面19に結ぶ円は、角度θが杭穴底に結ぶ円と同等とすることもできる。
【0025】
2.他の実施例
【0026】
(1) 前記実施例において、拡底部円柱部18を形成したが、拡底部円柱部18を省略して、拡底部16の全体を部分円錐で形成した(即ち、拡底部円錐部17のみ)構造とすることもできる(図1(a))。従って、この場合には、θ=θ、となる。
【0027】
(2) また、前記実施例において、ストレート状の既製杭1としたが、他の構造の既製杭1を使用することもできる(図1(c)(d))。
例えば、既製杭1を、径D10の軸部3の下端3aに続き、下方に向けて縮径して下面4aを有する段差部4を形成し、段差部4の下端に連続して、径D11(D10<D11)の下方軸部5を形成して既製杭1とする(図1(c))。この場合には、軸部3の下端3a(段差部の上端)を既製杭基準線10として、杭穴基準線20に合わせる(図1(c))。また、この場合で、引抜力を強化する場合には下方軸部5に追加突起8、8を設けることもできる(図1(c)鎖線図示8)
(3) また、既製杭1の径D12の軸部3で軸方向に所定間隔で、径D13(D12<D13)の環状の突起6、6を形成して、既製杭1(いわゆる節杭)とすることもできる(図1(d))。この場合、実線図示の既製杭1において、一番下の突起6Aの下方へ向く下面7の上を既製杭基準線10として、杭穴基準線20に合わせる。
この場合、引抜力が作用した際に、上方に向けた抵抗力(引抜力)を増大させたり、拡底部16と既製杭1との一体性を図る効果を発揮することを目的として、前記図1(c)の場合と同様に、既製杭1の軸部を下方に延長して、追加突起6Dを形成することもできる(図1(d)鎖線図示6D)。即ち、換言すれば、実線図示の既製杭1で、一番下の突起6Aではなく、下から2番目の突起6Bや下から3番目の突起6Cの下方へ向く下面7の上を、既製杭基準線10として、杭穴基準線20に合わせる。
【符号の説明】
【0028】
1 既製杭
2 既製杭の底面
3 既製杭の軸部
3a 軸部の下端
4 既製杭の段差部
4a 段差部の下面
5 既製杭の下方軸部
6 既製杭の突起
6A 一番下の突起
6B 下から2つ目の突起
6C 下から3つ目の突起
6D 追加突起
7 突起の下面
8 追加突起
10 既製杭基準線
12 地面
14 杭穴
15 杭穴の軸部
15a 軸部の下端
16 杭穴の拡底部
17 拡底部円錐部
17a 拡底部円錐部の上縁
17b 拡底部円錐部の下縁
18 拡底部円柱部
19 拡底部の底
20 杭穴基準線
25 掘削ロッド
26 掘削ヘッド
27 掘削ヘッドの掘削腕
30 基礎杭構造
40 基礎杭構造(従来例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のように、杭穴内に既製杭を埋設して構成したことを特徴とする基礎杭構造。
(1) 前記杭穴は、軸部の下端に連続して、その下方に拡大根固め部を形成して構成し、前記軸部の下端を杭穴基準線とする。
(2) 前記既製杭は、下端部で、大径の軸部の下端から連続して、下方に向く面を有する段差部を介して、縮径した下方軸部を形成して、第1既製杭を構成する。
(3) 前記既製杭は、前記段差部及び前記先端支持部を形成しない構造で、下方に向く面である底面を有する第2既製杭を構成する。
(4) セメントミルク類が充填された前記杭穴内に、前記第1既製杭又は第2既製杭のいずれか一方を埋設する。
(5) 前記既製杭の軸部の下端を既製杭基準線として、該既製杭基準線を、前記杭穴基準線と上下方向で一致させた。
【請求項2】
以下のように、杭穴内に既製杭を埋設して構成したことを特徴とする基礎杭構造。
(1) 前記杭穴は、軸部の下端に連続して、その下方に、円錐状に徐々に径が拡大する拡大根固め部を形成して構成する。前記軸部の下端を杭穴基準線とする。
(2) 前記既製杭は、下端部で、大径の軸部の下端から連続して、下方に向く面を有する段差部を介して、縮径した下方軸部を形成して、第1既製杭を構成する。前記第1既製杭の軸部の下端を既製杭基準線とする。
(3) 前記既製杭は、前記段差部及び前記先端支持部を形成しない構造で、下方に向く面である底面を有する第2既製杭を構成する。前記第2既製杭の軸部の下端を既製杭基準線とする。
(4) 前記既製杭は、少なくとも下端部で、軸部に、上下方向で所定間隔を空けて突起を突設して構成し、第3既製杭を構成する。前記第3既製杭で、前記突起の内で、最下端の突起、あるいは最下端の突起から2番目又は3番目の突起の上縁を、前記第3既製杭の既製杭基準線とする。
(5) セメントミルク類が充填された前記杭穴内に、前記第1既製杭、第2既製杭及び第3既製杭のいずれか一つを埋設する。
(6) 前記杭穴基準線に、前記既製杭の軸部の下端を、上下方向で一致させた。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−196154(P2011−196154A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67088(P2010−67088)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000176512)三谷セキサン株式会社 (91)
【Fターム(参考)】