基質の代謝を定量的に計測することによって生物の肝臓の働きを測定する方法
【課題】個人ごとに肝臓の代謝性能の定量化を可能にする方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法は、生物、特にヒトの肝臓の働きを測定する方法である。この方法は、少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物を放出するように肝臓で変換される、少なくとも1種の13Cで標識された基質を投与する過程と、少なくとも1つの評価部を有する少なくとも1つの測定装置を用いて、所定の時間間隔のあいだに呼気に含まれる少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物の量を測定する過程とを含む。さらに、呼気に含まれる少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物の量に関して、その測定された初期増加を一階の微分方程式で表し、この一階の微分方程式の解から、13Cで標識された代謝産物の最大濃度の数値Amaxおよび13Cで標識された代謝産物の増加の時定数tauを決定することを特徴とする。
【解決手段】本発明の方法は、生物、特にヒトの肝臓の働きを測定する方法である。この方法は、少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物を放出するように肝臓で変換される、少なくとも1種の13Cで標識された基質を投与する過程と、少なくとも1つの評価部を有する少なくとも1つの測定装置を用いて、所定の時間間隔のあいだに呼気に含まれる少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物の量を測定する過程とを含む。さらに、呼気に含まれる少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物の量に関して、その測定された初期増加を一階の微分方程式で表し、この一階の微分方程式の解から、13Cで標識された代謝産物の最大濃度の数値Amaxおよび13Cで標識された代謝産物の増加の時定数tauを決定することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載のとおり、生物の肝臓の働きを測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、生物(特にヒト)が機能するうえで必要不可欠な臓器である。というのも、大量の物質(例えば、薬剤など)が肝臓内で酵素分解されるからである。このような物質分解の大半は、シトクロムファミリー(特に、P450−オキシゲナーゼ類)によって触媒作用が及ぼされる。種々のシトクロムがさまざまな物質を代謝することは良く知られている。また、代謝物質濃度を測定することによって肝機能を予測できることも知られている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、健全な患者および肝臓に障害を有する患者の双方に13C−メタセチンを経口投与することが記載されており、13C−メタセチンは肝臓で変換されることによって13CO2を放出する。呼気に含まれる13CO2の量を測定することにより、肝臓障害の程度について述べることができる。
【0004】
非特許文献2には、13C−メタセチンを経口投与された個人の呼気に含まれる13CO2/12CO2比を測定することが記載されている。この方法では、最大酵素活性を判定したい場合、測定を60分間連続で実行するのが望ましいとされる。
【0005】
しかし、上記の方法では、臨床現場に応用するには不十分である。というのも、13C−メタセチンの経口投与からは、肝機能が良好であるか、あるいは、今のところ肝機能は良好であるという情報しか得られないからである。つまり、医者の治療方針を直接導き出すことができない。
【0006】
さらに、従来の肝臓診断方法は個人に特化したものではなく、複数の患者に対して統計学的な見解を下すだけのものであった。つまり、前述した測定方法では、特定の測定結果に基づいて、診断結果が望ましくないものとなる可能性が高まるか、それとも低くなるかを述べることしかできない。また、個人ごとに測定結果から肝臓の働きについて結論を下すことができない。
【0007】
したがって、肝臓細胞組織の残存機能についての予後的な見解を下すことを可能にする簡便な試験法の開発が望まれている。従来の臨床検査項目では、肝臓内の複雑な生物学的プロセスおよび疾患時の当該プロセスの変化を高い信頼性で評価するには精度が不十分である。
【0008】
特許文献1には、肝機能の定量的測定を可能にする解析方法が記載されている。この方法では、肝臓内で代謝される基質の流入および当該基質の最大変換率の測定値に基づき、患者の肝機能容量について見解を下すことができる。
【0009】
個人ごとに臓器(特に、肝臓)の代謝性能の定量化を可能にする方法は、実施形態の違いに関係なく、以下の特徴を有する:
1)患者の肝臓における基質の代謝動態をリアルタイムかつ高分解能で測定することができる。ただし、これは代謝開始が代謝増加よりも高速で生じることを条件とする。すなわち、代謝開始の70%が少なくとも2倍の速度で生じるのが望ましい。
2)代謝を直接測定することができる。すなわち、代謝産物を直接的に測定値とすることができるか、あるいは、代謝産物に対して一定の比例関係を有する他の数値を直接測定することができる。つまり、例えば呼吸気試験の場合、1分間あたり少なくとも2回の呼吸(好ましくは全呼吸)を測定することができる。これにより、呼吸気試料の中間的貯蔵または呼吸気の部分消失がなくなるので、生じる可能性がある手順ミスを回避できる。
3)生理学的なファクタによる測定値の変化が約20%以下である。すなわち、生理学的なファクタ(例えば、血液による体内での基質の分配など)の影響が低いほど、代謝産物の定量的な測定結果の精度が高まる。
4)投与される基質の代謝プロセスが明確であり、かつ、それが肝臓細胞内でのみ生じるか、あるいは、その90%超が肝臓細胞内で生じるものであり、体内の他の箇所では全く生じない。
5)代謝プロセスの反応効率に個人差がない。というのも、個人差があると、個人ごとの定量的な測定を妨げる。したがって、遺伝的変異(遺伝子間の差)が大きい代謝プロセスは除外される。しかし、万が一遺伝的変異のある代謝プロセスを利用する場合には、少なくとも遺伝的に変わらない代謝プロセスの変化の大きさを把握すべきである。
6)代謝プロセスは、肝臓内の全ての肝臓細胞に均等に分布した肝臓酵素または肝臓補酵素によって生じるものであるのが最も望ましい。もし肝臓の特定の領域に肝臓酵素または肝臓補酵素が集中していると、それらの部位における肝臓の働きについて述べることしかできない。また、肝臓酵素または肝臓補酵素は、他の代謝反応の負荷による代謝プロセスの変化規模が30%を超えるものであってはいけない。つまり、肝臓酵素または肝臓補酵素は、代謝動態の変動が30%を超えるものであってはいけない。
【0010】
従来知られている方法では、前記の特徴を実現することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2007/000145号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Matsumoto et al. Digestive Diseases Science, 1987, Vol. 32, p. 344 - 348
【非特許文献2】Braden et al. Aliment Pharmacol. Ther.,2005, Vol. 21 , p. 179 - 185
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上を踏まえて、本発明の目的は、個人ごとに肝臓の代謝性能の定量化を可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的は、請求項1に記載された、生物の肝臓の働き、特にヒトの肝臓の働きを測定する方法によって達成される。
【0015】
本発明にかかる上記の方法は、少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物、特に13CO2を放出するように肝臓で変換される、少なくとも1種の13Cで標識された基質を投与する過程と、少なくとも1つの評価部を有する少なくとも1つの測定装置を用いて、所定の時間間隔のあいだに呼気に含まれる、形成される前記少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の量を測定する過程と、を含む。好ましくは、前記呼気に含まれる、形成される前記13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の量は、前記少なくとも1種の投与される基質の量に比例する。本発明にかかる方法は、測定された測定ポイントに基づいて、前記呼気に含まれる少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の量に関して、その測定された初期増加を一階の微分方程式で表すことを特徴とする。この一階の微分方程式の解から、前記13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の最大値Amax(DOBmaxとも称される(DOBは「ベースラインを超えるΔ値」を意味する))および前記13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の増加の時定数tauを決定する。
【0016】
最大値AmaxまたはDOBmaxは最大時の代謝動態に相当し、時定数tauは代謝動態の増加の時定数に相当する。本発明により、13Cの量の経時変化について実際に測定した測定値を、少なくとも2種類の数値(すなわち、最大値Amaxおよび時定数τ(tau))を有する一階の微分方程式の解を表した曲線に当て嵌める(いわゆるフィッティング)ことができる。特に、この微分方程式の解は、呼気に含まれる少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物の量の初期増加を近似的に表した指数関数とされる。前記微分方程式の解における数値Amaxおよび時定数tauは、増加の初期挙動を特徴付ける特性パラメータである。したがって、本発明は、測定された初期増加における2つのパラメータを決定することにより、肝臓の臨床像の極めて精密でかつ高分解能な解析を可能にする。詳細には、パラメータtauおよび最大値を分析することにより、そのような極めて精密な評価が可能となる。このようにして、本発明は、医者が診断を行う際に用いられる生データを改良することができる。
【0017】
代謝される前記基質は肝臓細胞に移送される。肝臓細胞への基質の移送を表した微分方程式は、以下のように表される:
【0018】
【数1】
【0019】
三次元で表すと、以下のようになる:
【0020】
【数2】
【0021】
式中、Xは代謝される基質の濃度を表し、Cは拡散係数を表す。
【0022】
拡散係数Cは、第一近似で、位置に依存しないと仮定する。代謝動態を評価するにあたっては、特定の位置についてのみ分解を実行したり、全位置の平均を取ったりしないので、位置依存性を見かけの拡散係数Caveに書き換えることができる。これにより、以下の式が得られる:
【0023】
【数3】
【0024】
なお、酵素による代謝過程が拡散動態に比べて高速(少なくとも2倍の速度)で進行することが重要である。そのため、例えば、シトクロムCYP P450 1A2による代謝は平均1ミリ秒以内である。
【0025】
基質が代謝で肝臓に取り込まれることにより、基質の濃度Xは低下する。基質が完全に分解されるまでの間、細胞内部と細胞外部との間の濃度勾配は維持される。
【0026】
長時間スケールに関する因子は、関数f(X,Y,Z,..)によって与えられる。この影響因子は、代謝動態の開始時において当該代謝動態の20%未満となるのが望ましい。これにより、以下のような一階の微分方程式(DE)を表すことができる:
【0027】
【数4】
【0028】
この微分方程式(DE)の解は、以下の方程式に相当する:
【0029】
【数5】
【0030】
式中、Caveは変換の時定数tauを表し、Xは投与される基質の濃度を表す。
【0031】
時間ポイントt=0は、動態の当て嵌めによって導き出されるものであり、すなわち、代謝の開始時である。13Cで標識された代謝産物(例えば13CO2)が測定されると、代謝産物の濃度Aの増加は投与される基質Xの減少に比例する。したがって、以下の式で表すように、基質の指数関数的減少を代謝産物の指数関数的増加に変換することができる:
【0032】
【数6】
【0033】
式中、Amaxはフィッティング関数の最大値であり、代謝産物の最大濃度または最大量を意味する。tauは変換の時定数である。このようにして、増加を示す指数曲線が得られる。
【0034】
好ましい一実施形態において、前記一階の微分方程式の解は以下の式に相当する:
【数7】
【0035】
式中、y(t)は少なくとも1種の基質の代謝動態を意味し、tは測定時間を意味し、t0は代謝の開始時を意味し、tauは変換の時定数を意味し、Amaxはフィッティング関数の最大値または代謝産物の最大濃度を意味し、A0は代謝産物の開始濃度を意味する。このようにして、上記の式からAmaxおよび時定数tauを決定することができる。
【0036】
好ましくは、上記の指数関数に、前記呼気に含まれる前記少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物の量の前記初期増加の数値を当て嵌める。その後、この当て嵌めから、前記最大値Amaxおよび前記時定数tauを導き出す。
【0037】
生物の肝臓の働きを定量的に決定するために重要なのは、数値Amaxが、代謝に関わる肝臓細胞の数に比例すること、そして、時定数tauにより、代謝される基質の肝臓酵素または肝臓補酵素に対する到達可能性についての情報が与えられることである。
【0038】
本発明の一実施形態において、前記呼気に含まれる13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の増加は、一階の微分方程式により、前記13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の増加の最大値の70%の数値まで、好ましくは、前記13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の増加の最大値まで表される。
【0039】
本発明の特に好ましい実施形態では、数値AmaxまたはDOBmaxに基づいて、前記肝臓における前記少なくとも1種の基質の最大変換が、以下の式によって決定される:
【0040】
【数8】
【0041】
式中、RPDBは0.011237(Pee−Dee−Belemnite標準の13CO2/12CO2比)に相当し、PはCO2生成量に相当し、Mは前記投与される基質のモル質量に相当し、BWはヒトの体重に相当する。
【0042】
本発明にかかる肝臓の働きの測定する方法を適用した際に、時定数tauが大きいと、代謝プロセスまたは代謝動態の直接読み取り可能な最大値が、前記一階の微分方程式から決定される最大値AmaxまたはDOBmaxと異なる場合があることに留意されたい。これは、代謝量の増加が低速であると、他の因子(例えば、基質の体内分配など)の影響が増大し得るという事実に基づいている。そのため、代謝は素早く開始するのが望ましく、これは例えば代謝される基質の静脈内投与などによって達成することができる。基質を静脈内投与することにより、基質を肝臓に素早く供給することができ、かつ、それに伴って基質の代謝を確実に素早く開始させることができる。また、静脈内投与により、肝臓細胞と血液との間の基質勾配を十分に高く設定できるので、代謝動態の開始後の基質の代謝回転速度を最大にすることができる。
【0043】
さらに好ましくは、代謝される基質は、図1に示す構造に相当する構造単位を含む。特には、13Cで標識された基質として使用される化合物は、アルコキシ基R1、特にメトキシ基の脱アルキル反応によって13CO2を放出可能な化合物であるのが望ましい。一般的に、使用される基質は、アルコキシ基を有する炭素原子または炭素同位体の六員環を含む、小分子または大分子であってもよい。まず、アルコキシ基が肝臓内に存在するP450−シトクロム類によってヒドロキシ化された後、13CO2が分離される。好適な基質の例として、13C−メタセチンおよび/またはフェナセチンおよび/またはエトキシクマリンおよび/またはカフェインおよび/またはエリスロマイシンおよび/またはアミノピリンが挙げられる。また、炭素原子が例えば窒素、硫黄などの他の原子に置き換えられてもよい。さらに、使用される基質を、少なくとも1つのアルコキシ基R1で置換された五員環を含む化合物に基づくものとしてもよい。当然ながら、その五員環の1つまたは2つの炭素原子を、例えば窒素、硫黄などの他の原子に置き換えてもよい。また、当然ながら、使用される基質を、複数の異なる置換基を有するものとしてもよい。つまり、図1に示す部位R2、R3,R4,R5,R6は、ハロゲン、アルキル基、カルボキシ基、エーテル基およびシラン基からなる群から選択されたものであってもよい。当然ながら、想定される置換基のリストは上記のみに限定されず、当業者に知られた他の置換基にも拡張可能である。
【0044】
好ましくは、前記13Cで標識された基質は、濃度0.1〜10mg/kg体重で投与される。代謝される基質の濃度は、直線範囲内の代謝動態が飽和域から十分に離れるように選択されるのが望ましい。基質の濃度が特定の数値を超えると、呼気に含まれる13Cで標識された代謝産物の量の増加、特に13CO2の増加を、一階の微分方程式で表すことができなくなる。そのため、代謝される基質として13C−メタセチンを使用する場合、投与量は10mg/kg体重以下が望ましい。
【0045】
本発明にかかる方法では、好ましくは、前記呼気に含まれる前記13Cで標識された代謝産物の絶対量、特に13CO2の絶対量が測定される。したがって、前記呼気に含まれる前記13Cで標識された代謝産物の量、特に13CO2の量の測定は、リアルタイムかつ連続的に実行される。前記呼気に含まれる前記13Cで標識された代謝産物の濃度、特に13CO2の濃度を、測定装置を用いて連続的に測定することにより、より多くのデータポイントの測定になり、当該測定されたデータポイントによって形成される測定曲線の分解能および精度が向上する。最大値AmaxまたはDOBmaxと時定数tauとを、高い信頼性をもって決定したいのであれば、少なくとも5つの測定ポイント、好ましくは少なくとも7つの測定ポイントに基づくのが望ましい。
【0046】
特に好ましい実施形態において、本発明にかかる方法は、さらなる解析方法、特に、CT容積測定法(CTvolumetry法、CT画像を用いた検索法)と組み合わされる。これにより、患者の健康状態について詳細に述べることができ、また、例えば腫瘍発生などの場合に具体的な手術戦略を立てることができる。
【0047】
さらに他の実施形態において、本発明にかかる方法は、さらなる解析方法、特に核磁気共鳴画像法(MRI)と組み合わされる。これにより、代謝対象の13Cで標識された基質の位置を、MRI画像によって特定することができる。また、本発明にかかる方法で測定される代謝動態を、時間分解されたMRIと比較することができる。双方の方法を組み合せることにより、(特に肝臓内の)各酵素による代謝を空間的および時間的に分析して解析することができる。一般的に、MRIの時間分解は低速なので、代謝動態を監視するには不十分である。しかし、MRI画像のデータと本発明にかかる方法の代謝動態とを同期させることにより、例えば、MRI画像のデータに対して複数の時間ポイントで重み付けを行うことにより、代謝像がを向上させることができる。
【0048】
また、一変形例では、代謝対象の13Cで標識された基質として、肝臓全体に均質に分布せずに特定の領域に集中して存在する酵素または補酵素によって代謝される基質を選択してもよい。これにより、肝臓における特定の部位の代謝性能を測定することができる。
【0049】
肝臓内に均質に分布した酵素または補酵素による代謝動態および代謝プロセスの空間画像を得るためには、基質が肝臓細胞に極めて迅速に到達すること、そして、当該基質を、MRIを用いて歪みなく捉えると同時に本発明にかかる方法によって代謝動態を測定すること、の両方を確実に達成する必要がある。
【0050】
一実施形態は、13Cで標識されたメタセチンである。13Cで標識されたメタセチンは、可溶化剤としてのプロピレングリコールを用いることにより、十分に高い濃度で水溶液に溶解させることができる。濃度10〜100mg/mlのプロピレングリコールにより、メタセチン0.2〜0.6%の濃度のメタセチン溶液を得ることができる。このような13Cで標識された基質(メタセチン)と可溶化剤としてのプロピレングリコールとの特定の組合せに基づく水溶液により、13Cで標識されたメタセチンについての、ほぼバックグラウンドのないMRI測定が可能となる。MRI測定は、13Cの天然同位体比による悪影響を強く受ける場合がある。メタセチン、可溶化剤および肝臓細胞内の残りの有機物質における全ての炭素原子が、強大かつ邪魔なバックグラウンド信号の原因となる。メタセチンにエーテル基を介して結合したメチル基(つまり、メトキシ基)に13Cで標識を施すという特定の選択により、メタセチン中の13Cで標識された同位体シフトは可溶化剤の炭素原子のMRI信号およびアミノ酸の炭素原子のMRI信号と差別化することができ、すなわち、肝臓細胞内の残りのほとんどの有機物質のMRI信号と差別化することができる。他の位置に13Cで標識を施した場合には、このような利点は得られず、有益なMRI測定の邪魔になるだけである。また、カップリング効果(例えば、NOE、DEPTなど)を利用してパルスを賢く選択することにより、MRI画像のコントラストを向上することができる。
【0051】
特に、肝臓の働きが極めて悪い場合に、上述したように複数の方法を組み合わせることで、有意な相乗効果がもたらされる。また、このような組合せにより、肝臓内の微小循環の空間分解を得ることもできる。
【0052】
本発明にかかる方法で決定される数値Amaxおよび時定数tauは、数多くの用途に利用することができる。特に重要な用途として、次に述べる利用法および用途を挙げる:肝臓の働きの測定、術後における肝臓再生の経過観察、(特に、障害のある肝臓についての)手術計画の組立て、移植肝臓の肝機能の測定、(特に、集中治療患者の)敗血症の評価、新薬承認過程での薬剤による肝臓障害の判定、肝臓の長期的な障害の観察、遺伝子組換え食品による肝臓障害の判定、化学産業での操業安全性の分野、職場健康管理、肝臓ガン予防の健康診断、肝臓疾患の監視、薬剤の投与量の調節、動物における肝臓障害の判定、環境医学、肝機能のルーチン検査など。
【0053】
本発明を、図面を参照しながら下記の例を用いて説明する。なお、下記の例は、本発明の保護範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明にかかる方法を実施するのに適した物質を示す概略図である。
【図2】本発明にかかる測定方法の流れを示す概略図である。
【図3】測定時間に対するDOB測定値の増加変化を示すグラフである。
【図4A】正常な肝臓の働きの場合の前記増加変化を示すグラフである。
【図4B】肝硬変の場合の前記増加変化を示すグラフである。
【図4C】重度の肝臓障害の場合の前記増加変化を示すグラフである。
【図4D】肝不全の場合の前記増加変化を示すグラフである。
【図5】正常な肝臓の働きの場合、低下した肝臓の働きの場合、および肝不全の場合のそれぞれについて、最大変換率LiMAxの対時間変化を示すグラフである。
【図6】投与された基質の、肝臓への移送を示す概略図である。
【図7】最大値Amaxおよび時定数tauのデータを決定するための上昇変化を示すグラフである。
【図8】代謝対象基質の濃度の低下および代謝産物の血中濃度の増加を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明にかかる方法の好ましい一実施形態において、ヒトの肝臓の働きの測定は、図2に示す様式で行われる。この測定過程では、代謝対象基質(特に、13Cメタセチン1)と生理食塩液1aとの組合せの静脈内投与により、代謝が開始する。
【0056】
静脈内投与により、解析を行うにあたって必要な、基質の迅速な流入および基質代謝の素早い開始の両方を確実に達成することができる。したがって、肝臓内の基質の酵素変換によって生じる基質代謝は、呼吸リズムよりも早く開始する。
【0057】
図6に、投与される基質の、肝臓への移送および肝臓内での変換又は分解を概略的に分かり易く示す。投与される基質(網目模様の入った円)(例えば、13Cメタセチンなど)は、特定の移送定数で肝臓細胞に移送され、対応する酵素(斜線の入った六角形)(特に、P450オキシゲナーゼ類)により、例えば特定の反応定数の脱アルキル化反応を経て変換され、脱アルキル化生成物(斜線の入った円)(例えば、パラセタモールなど)が特定の移送定数で移送されるとともに、13Cで標識された代謝産物(斜線の入った円)(例えば、13CO2など)が特定の移送定数で肝臓細胞から血液に移送される。
【0058】
酵素(特に、P450オキシゲナーゼ類)による基質の活性化のほかにも、照射または他の高速なプロセスによる基質の放出または活性化も考えられ得る。放出された代謝産物(例えば、13CO2など)は血液を介して肺に移送されて、肺から呼出される。呼気は、(好ましくは、呼吸マスクおよび連結管を介して)測定装置2に連続的に移送され、コンピュータ3によって解析される(Stockmann et al., Annals of Surgery, 2009, 250: col. 119-125)。本発明にかかる方法に適した測定装置は、例えば国際公開第2007/107366号に記載されている。
【0059】
特定の測定装置を適用することにより、各呼吸ごとの基質の代謝をリアルタイムで観察することができる。このことは、図3に明確に示されている。図3には、呼気中の13CO2濃度の増加がDOB値で表されており、この増加が一階の微分方程式に相当する。ここで、DOB値が1つ変化することは、12CO2に対する13CO2の比が、13CO2/12CO2の天然比から、約千分の一に変化することを意味する。また、前述したように、前記DOB値の増加から、AmaxまたはDOBmaxと時定数tauとを導き出すことが可能である。13CO2の増加が最大値に達すると13CO2濃度の低下が始まるが、これは体内の別の動的プロセスが原因と考えられる。そのような動的プロセスは測定信号の質を低下させる。
【0060】
上記の代謝動態により、投与される基質の、肝臓内に存在する酵素による代謝を直接かつ即座に観察することができる。投与される基質として好ましいメタセチンは、酵素CYP1A2によって脱メチル化される。一階の微分方程式に相当する、投与されるメタセチンの増減変化を解析し、パラメータAmaxおよびtauを導き出すことにより、肝臓の働きを直接測定することができる。この最大値Amaxから、代謝に利用可能である健全な肝臓細胞の数および肝容積について述べることができる。他方、時定数tauの形態の増加変化から、肝臓細胞への基質の到達率について述べることができる。詳細には、時定数tauから、肝臓が実際に基質を取り込むことができるか否かについて述べることができる。
【0061】
図7に、13Cで標識されたメタセチンを与えられた後の呼吸気中の13CO2の増加を表す曲線に基づき、関係パラメータを決定する一例を示す。なお、図3に関する説明も参照されたい。最大測定値A:22.01DOBを含む複数の測定データポイント(曲線A)に基づき、前述のとおり、一階の微分方程式の解(曲線B)を当て嵌める(フィッティングさせる)。この微分方程式の解:
【0062】
【数9】
【0063】
に基づき、フィッティング関数の最大値Amax:22.09DOBおよび変換の時定数tau:2.42分が決定される。2.42分といった小さい時定数は、肝臓透過性が良好なことを示す。他方、複数の測定ポイントに基づく曲線の緩やかな増加は、時定数が5分を超える範囲にあることを示し、これは肝臓細胞の硬化およびそれに伴う肝臓透過性の悪化を意味する。
【0064】
肝臓の働きを推定するうえで、呼気に含まれる13Cで標識された代謝産物(例えば、13CO2など)の量を測定する構成の変形例として、あるいは、この構成に加えて、血液中の脱アルキル化生成物の濃度低下を観察し、その増加変化から時定数tauを導き出すことも考えられる。
【0065】
図8に、上記の変形例に基づく方法を示す。投与される13Cで標識された基質(例えば、13Cメタセチンなど)の濃度変化、および肝臓内で形成された脱アルキル化生成物(例えば、パラセタモールなど)の濃度変化を、適切な分析方法(例えば、HPLC(高速液体クロマトグラフィ)など)を用いて観察する。13Cメタセチンの濃度は、代謝を経て低下する(指数関数的に減少する曲線の開始濃度は、13Cメタセチン20μg/mlである)。逆に、パラセタモールの濃度は増加する(図8の下側の曲線)。ここでも、濃度の初期変化を、一階の微分方程式で表すことができる。このようにして表した一階の微分方程式の解から、パラセタモールの初期の高速な濃度増加の時定数τ1:1.3分と、その後の、血液中へのさらなる分配に起因する減速した濃度増加の時定数τ2:16分とを導き出すことができる。
【0066】
肝臓の働きを測定する本発明にかかる方法は、数多くの用途に適用可能である。
【0067】
例えば、本発明にかかる方法により、患者の総合的な健康状態(特に、患者の肝臓の働き)を推定することが可能になる。図4A〜図4Dに、代謝の増加を時間の関数として示す。異なる臨床像ごとに、それぞれ異なる最大値Amaxおよび時定数τを有する増加変化が得られる。前述したように、数値Aから、肝臓の働きに直接比例する最大変換率LiMAxを決定することができる。図4Aには、最大変換率:504μg/h/kgの正常な肝臓の働きが示されている。他方、図4B〜図4Dには、それとは異なる臨床像が示されている。肝硬変の場合、投与される基質の代謝が低下し、最大変換率LiMAxも307μg/h/kgにしか達しない。さらに重度な肝臓障害ないし肝不全の場合、投与される基質の最大変換率は、それぞれ144μg/h/kg(図4C)、55μg/h/kg(図4D)にまで低下する。
【0068】
また、本発明にかかる方法により、術後(例えば、肝切除後)の肝臓再生の予測または経過観察、さらには、肝臓状態の検査が可能となる。つまり、本発明にかかる方法により、肝臓手術後数分も経たないうちに、さらには、手術の最中に、肝臓が働いているか否か及び肝臓の働きの程度を調べることが可能になる。
【0069】
図5に、肝臓手術後の各肝臓の働きを示す。最大変換率LiMAxは、健全かつ正常な肝臓、弱った肝臓、および重度の障害を有する肝臓の間で大きく異なる。通常、肝臓が再生するまでに術後数日はかかる。したがって、術後の時点で既に最大変換率LiMAx、すなわち、肝臓の働きが極めて低い場合には、肝臓が回復しないまま患者が死亡する可能性が高いと予測することができる。しかしながら、本発明にかかる方法では、重篤な症状を迅速に認識することができるので、症状の重い患者を、例えば肝臓移植などの代替的な方法で治療することによって助けることもできる。
【0070】
また、本発明にかかる方法により、術前に手術結果の予測を行うことができるので、適切な手術計画を立てることが可能になる。例えば、CT容積測定法(CTvolumetry法)と組み合せることにより、障害のある組織(例えば、腫瘍組織など)のみならず、切除が必要になるであろう組織を、手術前に決定することができる。例えば腫瘍治療の場合、腫瘍周辺の組織をできる限り切除して腫瘍の拡散リスクを抑えなければならないため、上記のような切断作業は必要である。しかしながら、切除される肝容積が多すぎると、患者が死亡する可能性が生じる。切除すべき肝容積のサイズは、切除後の肝容積による肝臓の働きに依存する。既存の肝容積による肝臓の働きを正確に測定することができるので、細部に至るまで精密に手術計画を立てることができ、患者の生存および回復の機会が最適化される。
【0071】
これを、以下の例を用いて詳細に説明する。例えば腫瘍の容積を153mlとすると、腫瘍以外にトータルで約599mlの肝容積を切除するのが妥当である。肝容積が全部で1,450mlであるとすると、残存容積は698mlとなり、患者の生存は保証される。ここで、投与される13Cメタセチンの術前の最大変換率LiMAxを307μg/h/kgとする。なお、所望の残存容積:698mlは最大変換率LiMAx:165μg/h/kgに相当する。本発明にかかる方法によって手術中に変換率を連続的に測定するので、生存に必要な残存容積:698mlに達することが保証される。実際には、術後の肝臓の残存容積625mlで、最大変換率169μg/h/kgが得られる。健全な肝臓の肝容積とそのLiMAxの数値とを直接対比させたうえで、三の法則(the rule of three)を用いることにより、目的のLiMAx数値を得るための切除後の肝容積を決定することができる。
【0072】
また、本発明にかかる方法により、移植された肝臓について、その機能または術後の機能不全(PNS)を判定することができる。肝臓移植のうち約5%において、例えば不十分な血液循環などが原因で、移植された肝臓が機能しない場合がある。従来、このような症状は、数日経った後でしか検出できなかった。しかし、本発明にかかる方法により、時定数τが投与される基質の肝臓に対する到達性についての情報を提供するので、数分後には肝臓の機能不良を検出することが可能になる。これにより、それに応じて患者を治療し、例えば、移植を新たに実行することができる。
【0073】
また、本発明にかかる方法により、肝臓移植後の手術成功の測定および今後の治療方針の決定が可能になる。つまり、本発明にかかる方法により、肝臓移植後に直接かつ迅速に肝臓の働きを測定することができ、患者ごとに今後の治療を最適化することができる。
【0074】
また、本発明にかかる方法により、集中治療患者の敗血症リスクの評価が可能になる。集中治療医療において敗血症で死亡するリスクが極めて高いことは既知のとおりである。そこで、本発明にかかる測定方法により、入院時および治療時に、肝臓細胞に障害があるか、それとも正常に機能しているかを直接判定することができる。
【0075】
肝臓障害の有無の判定は、特に、新薬承認において重要である。すなわち、本発明にかかる方法の最も重要な用途の一つは、新薬承認過程で薬品および薬剤によって引き起こされる肝臓障害の検査方法としての用途である。新薬承認過程では、承認を請求する薬剤が、肝臓に障害を引き起こさないことが毒性試験で証明されなければならない。通常、そのようなリスク評価は、一連の各種動物試験から導き出される。しかし、ヒトに対して予測不可能な副作用が生じる場合があり、これは動物試験のみでは検出が困難である。対照的に、本発明にかかる方法を用いると、動物およびヒトの双方に対する毒性作用を正確にかつ定量的に測定することができる。本発明にかかる方法は肝臓の働きについての定量的な測定を高い信頼性を持って行うことができるので、薬剤の投与量試験をより迅速にかつ正確に実行することが可能になる。
【0076】
また、本発明にかかる方法により、薬品(例えば、避妊薬など)に起因する肝臓置換に関連した長期的な障害を観察することが可能になる。定期的に接種される薬品(例えば、避妊薬など)の場合、肝臓に変化が発生し、まず肝臓細胞への到達性に影響が生じた後に、肝臓の働きが低下する可能性がある。このような肝臓の変化は、肝臓細胞への物質の到達率を決定することのできる増加時間τ、および健全な肝臓細胞の数について述べることのできる最大値Aによって判定可能である。つまり、本発明にかかる測定方法を用いて定期的に検査することにより、上記のような肝臓の変化を検出することができる。医者は、測定データに基づき、さらなる肝臓の変化が生じないように投薬を変更することができる。
【0077】
現在、生物、特にヒト、に対する遺伝子組換え物質及び食品の影響を検出することは困難である。その理由として、特に、有害な生体物質の濃度が検出限界未満または検出限界のほんの僅か下であったり、あるいは、そのような物質の有害性が今日まで判明していない等が挙げられる。本発明にかかる方法により、遺伝子組換え食品による肝臓障害を明確に検出することが可能になる。
【0078】
また、本発明にかかる方法により、化学産業または製薬産業における化学物質の影響を観察、監視および特定することが可能になる。これにより、職場でのヒトの健康診断を高い信頼性を持って行うことが可能になる。
【0079】
本発明にかかる方法のさらなる用途として、職場での健康リスクを推定するための職場医療の分野、肝臓ガンのスクリーニング検査、肝臓疾患(例えば、肝炎など)のモニタリング、動物の肝臓障害(例えば、植物Senecio jacobaea Iの接種によって引き起こされる馬の肝臓障害など)の検出、中毒、土壌および/または食品および/または飲み水に含まれる肝臓に障害を引き起こす物質を探し出すための環境医学などが挙げられる。
【0080】
本発明にかかる方法の特に好ましい用途として、薬剤の調節が挙げられる。投与された薬剤は全て肝臓によって代謝されるので、肝臓の働きが良好な場合、それらの薬剤の大半を代謝することができる。他方、肝臓の働きが悪い場合、少量の薬剤しか代謝することができない。しかし、このことは、肝臓の働きによって患者の体内の薬剤用量が異なること、すなわち、同じ投薬量であっても効果が異なることを意味する。そのため、薬剤の最適な効果は、肝臓の働きに合わせて調節されるのが望ましい。一例として、臓器移植後の拒絶反応を抑える免疫抑制剤であるタクロリムスの投与を挙げる。タクロリムスは、投与量が多過ぎると毒性を示し、反対に投与量が少な過ぎると効果がないので、タクロリムスの投与量の正確な調節は極めて重要である。肝臓の働きを正確に把握できるので、投薬量を正確に調節し、薬剤の効果を最適化することができる。
【0081】
さらに、本発明にかかる方法は、簡便かつ迅速なので、主治医が健康状態の一項目として肝臓の働きを調べる肝臓の定期検査に使用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載のとおり、生物の肝臓の働きを測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、生物(特にヒト)が機能するうえで必要不可欠な臓器である。というのも、大量の物質(例えば、薬剤など)が肝臓内で酵素分解されるからである。このような物質分解の大半は、シトクロムファミリー(特に、P450−オキシゲナーゼ類)によって触媒作用が及ぼされる。種々のシトクロムがさまざまな物質を代謝することは良く知られている。また、代謝物質濃度を測定することによって肝機能を予測できることも知られている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、健全な患者および肝臓に障害を有する患者の双方に13C−メタセチンを経口投与することが記載されており、13C−メタセチンは肝臓で変換されることによって13CO2を放出する。呼気に含まれる13CO2の量を測定することにより、肝臓障害の程度について述べることができる。
【0004】
非特許文献2には、13C−メタセチンを経口投与された個人の呼気に含まれる13CO2/12CO2比を測定することが記載されている。この方法では、最大酵素活性を判定したい場合、測定を60分間連続で実行するのが望ましいとされる。
【0005】
しかし、上記の方法では、臨床現場に応用するには不十分である。というのも、13C−メタセチンの経口投与からは、肝機能が良好であるか、あるいは、今のところ肝機能は良好であるという情報しか得られないからである。つまり、医者の治療方針を直接導き出すことができない。
【0006】
さらに、従来の肝臓診断方法は個人に特化したものではなく、複数の患者に対して統計学的な見解を下すだけのものであった。つまり、前述した測定方法では、特定の測定結果に基づいて、診断結果が望ましくないものとなる可能性が高まるか、それとも低くなるかを述べることしかできない。また、個人ごとに測定結果から肝臓の働きについて結論を下すことができない。
【0007】
したがって、肝臓細胞組織の残存機能についての予後的な見解を下すことを可能にする簡便な試験法の開発が望まれている。従来の臨床検査項目では、肝臓内の複雑な生物学的プロセスおよび疾患時の当該プロセスの変化を高い信頼性で評価するには精度が不十分である。
【0008】
特許文献1には、肝機能の定量的測定を可能にする解析方法が記載されている。この方法では、肝臓内で代謝される基質の流入および当該基質の最大変換率の測定値に基づき、患者の肝機能容量について見解を下すことができる。
【0009】
個人ごとに臓器(特に、肝臓)の代謝性能の定量化を可能にする方法は、実施形態の違いに関係なく、以下の特徴を有する:
1)患者の肝臓における基質の代謝動態をリアルタイムかつ高分解能で測定することができる。ただし、これは代謝開始が代謝増加よりも高速で生じることを条件とする。すなわち、代謝開始の70%が少なくとも2倍の速度で生じるのが望ましい。
2)代謝を直接測定することができる。すなわち、代謝産物を直接的に測定値とすることができるか、あるいは、代謝産物に対して一定の比例関係を有する他の数値を直接測定することができる。つまり、例えば呼吸気試験の場合、1分間あたり少なくとも2回の呼吸(好ましくは全呼吸)を測定することができる。これにより、呼吸気試料の中間的貯蔵または呼吸気の部分消失がなくなるので、生じる可能性がある手順ミスを回避できる。
3)生理学的なファクタによる測定値の変化が約20%以下である。すなわち、生理学的なファクタ(例えば、血液による体内での基質の分配など)の影響が低いほど、代謝産物の定量的な測定結果の精度が高まる。
4)投与される基質の代謝プロセスが明確であり、かつ、それが肝臓細胞内でのみ生じるか、あるいは、その90%超が肝臓細胞内で生じるものであり、体内の他の箇所では全く生じない。
5)代謝プロセスの反応効率に個人差がない。というのも、個人差があると、個人ごとの定量的な測定を妨げる。したがって、遺伝的変異(遺伝子間の差)が大きい代謝プロセスは除外される。しかし、万が一遺伝的変異のある代謝プロセスを利用する場合には、少なくとも遺伝的に変わらない代謝プロセスの変化の大きさを把握すべきである。
6)代謝プロセスは、肝臓内の全ての肝臓細胞に均等に分布した肝臓酵素または肝臓補酵素によって生じるものであるのが最も望ましい。もし肝臓の特定の領域に肝臓酵素または肝臓補酵素が集中していると、それらの部位における肝臓の働きについて述べることしかできない。また、肝臓酵素または肝臓補酵素は、他の代謝反応の負荷による代謝プロセスの変化規模が30%を超えるものであってはいけない。つまり、肝臓酵素または肝臓補酵素は、代謝動態の変動が30%を超えるものであってはいけない。
【0010】
従来知られている方法では、前記の特徴を実現することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2007/000145号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Matsumoto et al. Digestive Diseases Science, 1987, Vol. 32, p. 344 - 348
【非特許文献2】Braden et al. Aliment Pharmacol. Ther.,2005, Vol. 21 , p. 179 - 185
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上を踏まえて、本発明の目的は、個人ごとに肝臓の代謝性能の定量化を可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的は、請求項1に記載された、生物の肝臓の働き、特にヒトの肝臓の働きを測定する方法によって達成される。
【0015】
本発明にかかる上記の方法は、少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物、特に13CO2を放出するように肝臓で変換される、少なくとも1種の13Cで標識された基質を投与する過程と、少なくとも1つの評価部を有する少なくとも1つの測定装置を用いて、所定の時間間隔のあいだに呼気に含まれる、形成される前記少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の量を測定する過程と、を含む。好ましくは、前記呼気に含まれる、形成される前記13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の量は、前記少なくとも1種の投与される基質の量に比例する。本発明にかかる方法は、測定された測定ポイントに基づいて、前記呼気に含まれる少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の量に関して、その測定された初期増加を一階の微分方程式で表すことを特徴とする。この一階の微分方程式の解から、前記13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の最大値Amax(DOBmaxとも称される(DOBは「ベースラインを超えるΔ値」を意味する))および前記13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の増加の時定数tauを決定する。
【0016】
最大値AmaxまたはDOBmaxは最大時の代謝動態に相当し、時定数tauは代謝動態の増加の時定数に相当する。本発明により、13Cの量の経時変化について実際に測定した測定値を、少なくとも2種類の数値(すなわち、最大値Amaxおよび時定数τ(tau))を有する一階の微分方程式の解を表した曲線に当て嵌める(いわゆるフィッティング)ことができる。特に、この微分方程式の解は、呼気に含まれる少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物の量の初期増加を近似的に表した指数関数とされる。前記微分方程式の解における数値Amaxおよび時定数tauは、増加の初期挙動を特徴付ける特性パラメータである。したがって、本発明は、測定された初期増加における2つのパラメータを決定することにより、肝臓の臨床像の極めて精密でかつ高分解能な解析を可能にする。詳細には、パラメータtauおよび最大値を分析することにより、そのような極めて精密な評価が可能となる。このようにして、本発明は、医者が診断を行う際に用いられる生データを改良することができる。
【0017】
代謝される前記基質は肝臓細胞に移送される。肝臓細胞への基質の移送を表した微分方程式は、以下のように表される:
【0018】
【数1】
【0019】
三次元で表すと、以下のようになる:
【0020】
【数2】
【0021】
式中、Xは代謝される基質の濃度を表し、Cは拡散係数を表す。
【0022】
拡散係数Cは、第一近似で、位置に依存しないと仮定する。代謝動態を評価するにあたっては、特定の位置についてのみ分解を実行したり、全位置の平均を取ったりしないので、位置依存性を見かけの拡散係数Caveに書き換えることができる。これにより、以下の式が得られる:
【0023】
【数3】
【0024】
なお、酵素による代謝過程が拡散動態に比べて高速(少なくとも2倍の速度)で進行することが重要である。そのため、例えば、シトクロムCYP P450 1A2による代謝は平均1ミリ秒以内である。
【0025】
基質が代謝で肝臓に取り込まれることにより、基質の濃度Xは低下する。基質が完全に分解されるまでの間、細胞内部と細胞外部との間の濃度勾配は維持される。
【0026】
長時間スケールに関する因子は、関数f(X,Y,Z,..)によって与えられる。この影響因子は、代謝動態の開始時において当該代謝動態の20%未満となるのが望ましい。これにより、以下のような一階の微分方程式(DE)を表すことができる:
【0027】
【数4】
【0028】
この微分方程式(DE)の解は、以下の方程式に相当する:
【0029】
【数5】
【0030】
式中、Caveは変換の時定数tauを表し、Xは投与される基質の濃度を表す。
【0031】
時間ポイントt=0は、動態の当て嵌めによって導き出されるものであり、すなわち、代謝の開始時である。13Cで標識された代謝産物(例えば13CO2)が測定されると、代謝産物の濃度Aの増加は投与される基質Xの減少に比例する。したがって、以下の式で表すように、基質の指数関数的減少を代謝産物の指数関数的増加に変換することができる:
【0032】
【数6】
【0033】
式中、Amaxはフィッティング関数の最大値であり、代謝産物の最大濃度または最大量を意味する。tauは変換の時定数である。このようにして、増加を示す指数曲線が得られる。
【0034】
好ましい一実施形態において、前記一階の微分方程式の解は以下の式に相当する:
【数7】
【0035】
式中、y(t)は少なくとも1種の基質の代謝動態を意味し、tは測定時間を意味し、t0は代謝の開始時を意味し、tauは変換の時定数を意味し、Amaxはフィッティング関数の最大値または代謝産物の最大濃度を意味し、A0は代謝産物の開始濃度を意味する。このようにして、上記の式からAmaxおよび時定数tauを決定することができる。
【0036】
好ましくは、上記の指数関数に、前記呼気に含まれる前記少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物の量の前記初期増加の数値を当て嵌める。その後、この当て嵌めから、前記最大値Amaxおよび前記時定数tauを導き出す。
【0037】
生物の肝臓の働きを定量的に決定するために重要なのは、数値Amaxが、代謝に関わる肝臓細胞の数に比例すること、そして、時定数tauにより、代謝される基質の肝臓酵素または肝臓補酵素に対する到達可能性についての情報が与えられることである。
【0038】
本発明の一実施形態において、前記呼気に含まれる13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の増加は、一階の微分方程式により、前記13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の増加の最大値の70%の数値まで、好ましくは、前記13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の増加の最大値まで表される。
【0039】
本発明の特に好ましい実施形態では、数値AmaxまたはDOBmaxに基づいて、前記肝臓における前記少なくとも1種の基質の最大変換が、以下の式によって決定される:
【0040】
【数8】
【0041】
式中、RPDBは0.011237(Pee−Dee−Belemnite標準の13CO2/12CO2比)に相当し、PはCO2生成量に相当し、Mは前記投与される基質のモル質量に相当し、BWはヒトの体重に相当する。
【0042】
本発明にかかる肝臓の働きの測定する方法を適用した際に、時定数tauが大きいと、代謝プロセスまたは代謝動態の直接読み取り可能な最大値が、前記一階の微分方程式から決定される最大値AmaxまたはDOBmaxと異なる場合があることに留意されたい。これは、代謝量の増加が低速であると、他の因子(例えば、基質の体内分配など)の影響が増大し得るという事実に基づいている。そのため、代謝は素早く開始するのが望ましく、これは例えば代謝される基質の静脈内投与などによって達成することができる。基質を静脈内投与することにより、基質を肝臓に素早く供給することができ、かつ、それに伴って基質の代謝を確実に素早く開始させることができる。また、静脈内投与により、肝臓細胞と血液との間の基質勾配を十分に高く設定できるので、代謝動態の開始後の基質の代謝回転速度を最大にすることができる。
【0043】
さらに好ましくは、代謝される基質は、図1に示す構造に相当する構造単位を含む。特には、13Cで標識された基質として使用される化合物は、アルコキシ基R1、特にメトキシ基の脱アルキル反応によって13CO2を放出可能な化合物であるのが望ましい。一般的に、使用される基質は、アルコキシ基を有する炭素原子または炭素同位体の六員環を含む、小分子または大分子であってもよい。まず、アルコキシ基が肝臓内に存在するP450−シトクロム類によってヒドロキシ化された後、13CO2が分離される。好適な基質の例として、13C−メタセチンおよび/またはフェナセチンおよび/またはエトキシクマリンおよび/またはカフェインおよび/またはエリスロマイシンおよび/またはアミノピリンが挙げられる。また、炭素原子が例えば窒素、硫黄などの他の原子に置き換えられてもよい。さらに、使用される基質を、少なくとも1つのアルコキシ基R1で置換された五員環を含む化合物に基づくものとしてもよい。当然ながら、その五員環の1つまたは2つの炭素原子を、例えば窒素、硫黄などの他の原子に置き換えてもよい。また、当然ながら、使用される基質を、複数の異なる置換基を有するものとしてもよい。つまり、図1に示す部位R2、R3,R4,R5,R6は、ハロゲン、アルキル基、カルボキシ基、エーテル基およびシラン基からなる群から選択されたものであってもよい。当然ながら、想定される置換基のリストは上記のみに限定されず、当業者に知られた他の置換基にも拡張可能である。
【0044】
好ましくは、前記13Cで標識された基質は、濃度0.1〜10mg/kg体重で投与される。代謝される基質の濃度は、直線範囲内の代謝動態が飽和域から十分に離れるように選択されるのが望ましい。基質の濃度が特定の数値を超えると、呼気に含まれる13Cで標識された代謝産物の量の増加、特に13CO2の増加を、一階の微分方程式で表すことができなくなる。そのため、代謝される基質として13C−メタセチンを使用する場合、投与量は10mg/kg体重以下が望ましい。
【0045】
本発明にかかる方法では、好ましくは、前記呼気に含まれる前記13Cで標識された代謝産物の絶対量、特に13CO2の絶対量が測定される。したがって、前記呼気に含まれる前記13Cで標識された代謝産物の量、特に13CO2の量の測定は、リアルタイムかつ連続的に実行される。前記呼気に含まれる前記13Cで標識された代謝産物の濃度、特に13CO2の濃度を、測定装置を用いて連続的に測定することにより、より多くのデータポイントの測定になり、当該測定されたデータポイントによって形成される測定曲線の分解能および精度が向上する。最大値AmaxまたはDOBmaxと時定数tauとを、高い信頼性をもって決定したいのであれば、少なくとも5つの測定ポイント、好ましくは少なくとも7つの測定ポイントに基づくのが望ましい。
【0046】
特に好ましい実施形態において、本発明にかかる方法は、さらなる解析方法、特に、CT容積測定法(CTvolumetry法、CT画像を用いた検索法)と組み合わされる。これにより、患者の健康状態について詳細に述べることができ、また、例えば腫瘍発生などの場合に具体的な手術戦略を立てることができる。
【0047】
さらに他の実施形態において、本発明にかかる方法は、さらなる解析方法、特に核磁気共鳴画像法(MRI)と組み合わされる。これにより、代謝対象の13Cで標識された基質の位置を、MRI画像によって特定することができる。また、本発明にかかる方法で測定される代謝動態を、時間分解されたMRIと比較することができる。双方の方法を組み合せることにより、(特に肝臓内の)各酵素による代謝を空間的および時間的に分析して解析することができる。一般的に、MRIの時間分解は低速なので、代謝動態を監視するには不十分である。しかし、MRI画像のデータと本発明にかかる方法の代謝動態とを同期させることにより、例えば、MRI画像のデータに対して複数の時間ポイントで重み付けを行うことにより、代謝像がを向上させることができる。
【0048】
また、一変形例では、代謝対象の13Cで標識された基質として、肝臓全体に均質に分布せずに特定の領域に集中して存在する酵素または補酵素によって代謝される基質を選択してもよい。これにより、肝臓における特定の部位の代謝性能を測定することができる。
【0049】
肝臓内に均質に分布した酵素または補酵素による代謝動態および代謝プロセスの空間画像を得るためには、基質が肝臓細胞に極めて迅速に到達すること、そして、当該基質を、MRIを用いて歪みなく捉えると同時に本発明にかかる方法によって代謝動態を測定すること、の両方を確実に達成する必要がある。
【0050】
一実施形態は、13Cで標識されたメタセチンである。13Cで標識されたメタセチンは、可溶化剤としてのプロピレングリコールを用いることにより、十分に高い濃度で水溶液に溶解させることができる。濃度10〜100mg/mlのプロピレングリコールにより、メタセチン0.2〜0.6%の濃度のメタセチン溶液を得ることができる。このような13Cで標識された基質(メタセチン)と可溶化剤としてのプロピレングリコールとの特定の組合せに基づく水溶液により、13Cで標識されたメタセチンについての、ほぼバックグラウンドのないMRI測定が可能となる。MRI測定は、13Cの天然同位体比による悪影響を強く受ける場合がある。メタセチン、可溶化剤および肝臓細胞内の残りの有機物質における全ての炭素原子が、強大かつ邪魔なバックグラウンド信号の原因となる。メタセチンにエーテル基を介して結合したメチル基(つまり、メトキシ基)に13Cで標識を施すという特定の選択により、メタセチン中の13Cで標識された同位体シフトは可溶化剤の炭素原子のMRI信号およびアミノ酸の炭素原子のMRI信号と差別化することができ、すなわち、肝臓細胞内の残りのほとんどの有機物質のMRI信号と差別化することができる。他の位置に13Cで標識を施した場合には、このような利点は得られず、有益なMRI測定の邪魔になるだけである。また、カップリング効果(例えば、NOE、DEPTなど)を利用してパルスを賢く選択することにより、MRI画像のコントラストを向上することができる。
【0051】
特に、肝臓の働きが極めて悪い場合に、上述したように複数の方法を組み合わせることで、有意な相乗効果がもたらされる。また、このような組合せにより、肝臓内の微小循環の空間分解を得ることもできる。
【0052】
本発明にかかる方法で決定される数値Amaxおよび時定数tauは、数多くの用途に利用することができる。特に重要な用途として、次に述べる利用法および用途を挙げる:肝臓の働きの測定、術後における肝臓再生の経過観察、(特に、障害のある肝臓についての)手術計画の組立て、移植肝臓の肝機能の測定、(特に、集中治療患者の)敗血症の評価、新薬承認過程での薬剤による肝臓障害の判定、肝臓の長期的な障害の観察、遺伝子組換え食品による肝臓障害の判定、化学産業での操業安全性の分野、職場健康管理、肝臓ガン予防の健康診断、肝臓疾患の監視、薬剤の投与量の調節、動物における肝臓障害の判定、環境医学、肝機能のルーチン検査など。
【0053】
本発明を、図面を参照しながら下記の例を用いて説明する。なお、下記の例は、本発明の保護範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明にかかる方法を実施するのに適した物質を示す概略図である。
【図2】本発明にかかる測定方法の流れを示す概略図である。
【図3】測定時間に対するDOB測定値の増加変化を示すグラフである。
【図4A】正常な肝臓の働きの場合の前記増加変化を示すグラフである。
【図4B】肝硬変の場合の前記増加変化を示すグラフである。
【図4C】重度の肝臓障害の場合の前記増加変化を示すグラフである。
【図4D】肝不全の場合の前記増加変化を示すグラフである。
【図5】正常な肝臓の働きの場合、低下した肝臓の働きの場合、および肝不全の場合のそれぞれについて、最大変換率LiMAxの対時間変化を示すグラフである。
【図6】投与された基質の、肝臓への移送を示す概略図である。
【図7】最大値Amaxおよび時定数tauのデータを決定するための上昇変化を示すグラフである。
【図8】代謝対象基質の濃度の低下および代謝産物の血中濃度の増加を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明にかかる方法の好ましい一実施形態において、ヒトの肝臓の働きの測定は、図2に示す様式で行われる。この測定過程では、代謝対象基質(特に、13Cメタセチン1)と生理食塩液1aとの組合せの静脈内投与により、代謝が開始する。
【0056】
静脈内投与により、解析を行うにあたって必要な、基質の迅速な流入および基質代謝の素早い開始の両方を確実に達成することができる。したがって、肝臓内の基質の酵素変換によって生じる基質代謝は、呼吸リズムよりも早く開始する。
【0057】
図6に、投与される基質の、肝臓への移送および肝臓内での変換又は分解を概略的に分かり易く示す。投与される基質(網目模様の入った円)(例えば、13Cメタセチンなど)は、特定の移送定数で肝臓細胞に移送され、対応する酵素(斜線の入った六角形)(特に、P450オキシゲナーゼ類)により、例えば特定の反応定数の脱アルキル化反応を経て変換され、脱アルキル化生成物(斜線の入った円)(例えば、パラセタモールなど)が特定の移送定数で移送されるとともに、13Cで標識された代謝産物(斜線の入った円)(例えば、13CO2など)が特定の移送定数で肝臓細胞から血液に移送される。
【0058】
酵素(特に、P450オキシゲナーゼ類)による基質の活性化のほかにも、照射または他の高速なプロセスによる基質の放出または活性化も考えられ得る。放出された代謝産物(例えば、13CO2など)は血液を介して肺に移送されて、肺から呼出される。呼気は、(好ましくは、呼吸マスクおよび連結管を介して)測定装置2に連続的に移送され、コンピュータ3によって解析される(Stockmann et al., Annals of Surgery, 2009, 250: col. 119-125)。本発明にかかる方法に適した測定装置は、例えば国際公開第2007/107366号に記載されている。
【0059】
特定の測定装置を適用することにより、各呼吸ごとの基質の代謝をリアルタイムで観察することができる。このことは、図3に明確に示されている。図3には、呼気中の13CO2濃度の増加がDOB値で表されており、この増加が一階の微分方程式に相当する。ここで、DOB値が1つ変化することは、12CO2に対する13CO2の比が、13CO2/12CO2の天然比から、約千分の一に変化することを意味する。また、前述したように、前記DOB値の増加から、AmaxまたはDOBmaxと時定数tauとを導き出すことが可能である。13CO2の増加が最大値に達すると13CO2濃度の低下が始まるが、これは体内の別の動的プロセスが原因と考えられる。そのような動的プロセスは測定信号の質を低下させる。
【0060】
上記の代謝動態により、投与される基質の、肝臓内に存在する酵素による代謝を直接かつ即座に観察することができる。投与される基質として好ましいメタセチンは、酵素CYP1A2によって脱メチル化される。一階の微分方程式に相当する、投与されるメタセチンの増減変化を解析し、パラメータAmaxおよびtauを導き出すことにより、肝臓の働きを直接測定することができる。この最大値Amaxから、代謝に利用可能である健全な肝臓細胞の数および肝容積について述べることができる。他方、時定数tauの形態の増加変化から、肝臓細胞への基質の到達率について述べることができる。詳細には、時定数tauから、肝臓が実際に基質を取り込むことができるか否かについて述べることができる。
【0061】
図7に、13Cで標識されたメタセチンを与えられた後の呼吸気中の13CO2の増加を表す曲線に基づき、関係パラメータを決定する一例を示す。なお、図3に関する説明も参照されたい。最大測定値A:22.01DOBを含む複数の測定データポイント(曲線A)に基づき、前述のとおり、一階の微分方程式の解(曲線B)を当て嵌める(フィッティングさせる)。この微分方程式の解:
【0062】
【数9】
【0063】
に基づき、フィッティング関数の最大値Amax:22.09DOBおよび変換の時定数tau:2.42分が決定される。2.42分といった小さい時定数は、肝臓透過性が良好なことを示す。他方、複数の測定ポイントに基づく曲線の緩やかな増加は、時定数が5分を超える範囲にあることを示し、これは肝臓細胞の硬化およびそれに伴う肝臓透過性の悪化を意味する。
【0064】
肝臓の働きを推定するうえで、呼気に含まれる13Cで標識された代謝産物(例えば、13CO2など)の量を測定する構成の変形例として、あるいは、この構成に加えて、血液中の脱アルキル化生成物の濃度低下を観察し、その増加変化から時定数tauを導き出すことも考えられる。
【0065】
図8に、上記の変形例に基づく方法を示す。投与される13Cで標識された基質(例えば、13Cメタセチンなど)の濃度変化、および肝臓内で形成された脱アルキル化生成物(例えば、パラセタモールなど)の濃度変化を、適切な分析方法(例えば、HPLC(高速液体クロマトグラフィ)など)を用いて観察する。13Cメタセチンの濃度は、代謝を経て低下する(指数関数的に減少する曲線の開始濃度は、13Cメタセチン20μg/mlである)。逆に、パラセタモールの濃度は増加する(図8の下側の曲線)。ここでも、濃度の初期変化を、一階の微分方程式で表すことができる。このようにして表した一階の微分方程式の解から、パラセタモールの初期の高速な濃度増加の時定数τ1:1.3分と、その後の、血液中へのさらなる分配に起因する減速した濃度増加の時定数τ2:16分とを導き出すことができる。
【0066】
肝臓の働きを測定する本発明にかかる方法は、数多くの用途に適用可能である。
【0067】
例えば、本発明にかかる方法により、患者の総合的な健康状態(特に、患者の肝臓の働き)を推定することが可能になる。図4A〜図4Dに、代謝の増加を時間の関数として示す。異なる臨床像ごとに、それぞれ異なる最大値Amaxおよび時定数τを有する増加変化が得られる。前述したように、数値Aから、肝臓の働きに直接比例する最大変換率LiMAxを決定することができる。図4Aには、最大変換率:504μg/h/kgの正常な肝臓の働きが示されている。他方、図4B〜図4Dには、それとは異なる臨床像が示されている。肝硬変の場合、投与される基質の代謝が低下し、最大変換率LiMAxも307μg/h/kgにしか達しない。さらに重度な肝臓障害ないし肝不全の場合、投与される基質の最大変換率は、それぞれ144μg/h/kg(図4C)、55μg/h/kg(図4D)にまで低下する。
【0068】
また、本発明にかかる方法により、術後(例えば、肝切除後)の肝臓再生の予測または経過観察、さらには、肝臓状態の検査が可能となる。つまり、本発明にかかる方法により、肝臓手術後数分も経たないうちに、さらには、手術の最中に、肝臓が働いているか否か及び肝臓の働きの程度を調べることが可能になる。
【0069】
図5に、肝臓手術後の各肝臓の働きを示す。最大変換率LiMAxは、健全かつ正常な肝臓、弱った肝臓、および重度の障害を有する肝臓の間で大きく異なる。通常、肝臓が再生するまでに術後数日はかかる。したがって、術後の時点で既に最大変換率LiMAx、すなわち、肝臓の働きが極めて低い場合には、肝臓が回復しないまま患者が死亡する可能性が高いと予測することができる。しかしながら、本発明にかかる方法では、重篤な症状を迅速に認識することができるので、症状の重い患者を、例えば肝臓移植などの代替的な方法で治療することによって助けることもできる。
【0070】
また、本発明にかかる方法により、術前に手術結果の予測を行うことができるので、適切な手術計画を立てることが可能になる。例えば、CT容積測定法(CTvolumetry法)と組み合せることにより、障害のある組織(例えば、腫瘍組織など)のみならず、切除が必要になるであろう組織を、手術前に決定することができる。例えば腫瘍治療の場合、腫瘍周辺の組織をできる限り切除して腫瘍の拡散リスクを抑えなければならないため、上記のような切断作業は必要である。しかしながら、切除される肝容積が多すぎると、患者が死亡する可能性が生じる。切除すべき肝容積のサイズは、切除後の肝容積による肝臓の働きに依存する。既存の肝容積による肝臓の働きを正確に測定することができるので、細部に至るまで精密に手術計画を立てることができ、患者の生存および回復の機会が最適化される。
【0071】
これを、以下の例を用いて詳細に説明する。例えば腫瘍の容積を153mlとすると、腫瘍以外にトータルで約599mlの肝容積を切除するのが妥当である。肝容積が全部で1,450mlであるとすると、残存容積は698mlとなり、患者の生存は保証される。ここで、投与される13Cメタセチンの術前の最大変換率LiMAxを307μg/h/kgとする。なお、所望の残存容積:698mlは最大変換率LiMAx:165μg/h/kgに相当する。本発明にかかる方法によって手術中に変換率を連続的に測定するので、生存に必要な残存容積:698mlに達することが保証される。実際には、術後の肝臓の残存容積625mlで、最大変換率169μg/h/kgが得られる。健全な肝臓の肝容積とそのLiMAxの数値とを直接対比させたうえで、三の法則(the rule of three)を用いることにより、目的のLiMAx数値を得るための切除後の肝容積を決定することができる。
【0072】
また、本発明にかかる方法により、移植された肝臓について、その機能または術後の機能不全(PNS)を判定することができる。肝臓移植のうち約5%において、例えば不十分な血液循環などが原因で、移植された肝臓が機能しない場合がある。従来、このような症状は、数日経った後でしか検出できなかった。しかし、本発明にかかる方法により、時定数τが投与される基質の肝臓に対する到達性についての情報を提供するので、数分後には肝臓の機能不良を検出することが可能になる。これにより、それに応じて患者を治療し、例えば、移植を新たに実行することができる。
【0073】
また、本発明にかかる方法により、肝臓移植後の手術成功の測定および今後の治療方針の決定が可能になる。つまり、本発明にかかる方法により、肝臓移植後に直接かつ迅速に肝臓の働きを測定することができ、患者ごとに今後の治療を最適化することができる。
【0074】
また、本発明にかかる方法により、集中治療患者の敗血症リスクの評価が可能になる。集中治療医療において敗血症で死亡するリスクが極めて高いことは既知のとおりである。そこで、本発明にかかる測定方法により、入院時および治療時に、肝臓細胞に障害があるか、それとも正常に機能しているかを直接判定することができる。
【0075】
肝臓障害の有無の判定は、特に、新薬承認において重要である。すなわち、本発明にかかる方法の最も重要な用途の一つは、新薬承認過程で薬品および薬剤によって引き起こされる肝臓障害の検査方法としての用途である。新薬承認過程では、承認を請求する薬剤が、肝臓に障害を引き起こさないことが毒性試験で証明されなければならない。通常、そのようなリスク評価は、一連の各種動物試験から導き出される。しかし、ヒトに対して予測不可能な副作用が生じる場合があり、これは動物試験のみでは検出が困難である。対照的に、本発明にかかる方法を用いると、動物およびヒトの双方に対する毒性作用を正確にかつ定量的に測定することができる。本発明にかかる方法は肝臓の働きについての定量的な測定を高い信頼性を持って行うことができるので、薬剤の投与量試験をより迅速にかつ正確に実行することが可能になる。
【0076】
また、本発明にかかる方法により、薬品(例えば、避妊薬など)に起因する肝臓置換に関連した長期的な障害を観察することが可能になる。定期的に接種される薬品(例えば、避妊薬など)の場合、肝臓に変化が発生し、まず肝臓細胞への到達性に影響が生じた後に、肝臓の働きが低下する可能性がある。このような肝臓の変化は、肝臓細胞への物質の到達率を決定することのできる増加時間τ、および健全な肝臓細胞の数について述べることのできる最大値Aによって判定可能である。つまり、本発明にかかる測定方法を用いて定期的に検査することにより、上記のような肝臓の変化を検出することができる。医者は、測定データに基づき、さらなる肝臓の変化が生じないように投薬を変更することができる。
【0077】
現在、生物、特にヒト、に対する遺伝子組換え物質及び食品の影響を検出することは困難である。その理由として、特に、有害な生体物質の濃度が検出限界未満または検出限界のほんの僅か下であったり、あるいは、そのような物質の有害性が今日まで判明していない等が挙げられる。本発明にかかる方法により、遺伝子組換え食品による肝臓障害を明確に検出することが可能になる。
【0078】
また、本発明にかかる方法により、化学産業または製薬産業における化学物質の影響を観察、監視および特定することが可能になる。これにより、職場でのヒトの健康診断を高い信頼性を持って行うことが可能になる。
【0079】
本発明にかかる方法のさらなる用途として、職場での健康リスクを推定するための職場医療の分野、肝臓ガンのスクリーニング検査、肝臓疾患(例えば、肝炎など)のモニタリング、動物の肝臓障害(例えば、植物Senecio jacobaea Iの接種によって引き起こされる馬の肝臓障害など)の検出、中毒、土壌および/または食品および/または飲み水に含まれる肝臓に障害を引き起こす物質を探し出すための環境医学などが挙げられる。
【0080】
本発明にかかる方法の特に好ましい用途として、薬剤の調節が挙げられる。投与された薬剤は全て肝臓によって代謝されるので、肝臓の働きが良好な場合、それらの薬剤の大半を代謝することができる。他方、肝臓の働きが悪い場合、少量の薬剤しか代謝することができない。しかし、このことは、肝臓の働きによって患者の体内の薬剤用量が異なること、すなわち、同じ投薬量であっても効果が異なることを意味する。そのため、薬剤の最適な効果は、肝臓の働きに合わせて調節されるのが望ましい。一例として、臓器移植後の拒絶反応を抑える免疫抑制剤であるタクロリムスの投与を挙げる。タクロリムスは、投与量が多過ぎると毒性を示し、反対に投与量が少な過ぎると効果がないので、タクロリムスの投与量の正確な調節は極めて重要である。肝臓の働きを正確に把握できるので、投薬量を正確に調節し、薬剤の効果を最適化することができる。
【0081】
さらに、本発明にかかる方法は、簡便かつ迅速なので、主治医が健康状態の一項目として肝臓の働きを調べる肝臓の定期検査に使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物の肝臓の働き、特にヒトの肝臓の働きを測定する方法であって、
−少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物を放出するように肝臓で変換される、少なくとも1種の13Cで標識された基質を投与する過程と、
−少なくとも1つの評価部を有する少なくとも1つの測定装置を用いて、所定の時間に呼気に含まれる前記少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物の量を測定する過程と、 を含む、肝臓の働きの測定方法であって、
前記呼気に含まれる少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物の量に関して、その測定された初期増加を一階の微分方程式で表し、この一階の微分方程式の解から、前記13Cで標識された代謝産物の最大濃度の数値Amaxおよび前記13Cで標識された代謝産物の増加の時定数tauを決定することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記呼気に含まれる少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物が13CO2であることを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記呼気に含まれる13C代謝産物の13CO2の増加を、一階の微分方程式により、前記13Cで標識された代謝産物の最大値の70%の数値まで、特に、前記13Cで標識された代謝産物の最大値まで表すことを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、形成される前記13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の量が、前記少なくとも1種の投与される基質の量に比例することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記一階の微分方程式の解として、
【数1】
式中、y(t)は前記少なくとも1種の基質の代謝動態を表し、Amaxはフィッティング関数の最大値または前記代謝産物の最大濃度であり、A0は前記代謝産物の開始濃度であり、tauは時定数であり、t0は代謝の開始時を表し、tは測定時間で表される式を使用することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記指数関数に前記呼気中の前記少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物の量の前記初期増加の測定データを当て嵌めて、この当て嵌めから、前記最大値Amaxおよび前記時定数tauを決定することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記数値Amaxに基づいて、前記肝臓における前記少なくとも1種の基質の最大変換率を、
【数2】
で表し、式中、RPBDはPee−Dee−Belemnite標準の13CO2/12CO2比として0.011237に相当し、PはCO2生成量に相当し、Mは前記投与される基質のモル質量に相当し、BWはヒトの体重に相当し、この式によって決定することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記13Cで標識された基質を濃度0.1〜10mg/kg体重で投与することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、13Cで標識された基質として、アルコキシ基、特にメトキシ基の脱アルキル反応によって13CO2を放出する基質を使用することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、基質として、13Cで標識されたメタセチンおよび/またはフェナセチンおよび/またはアミノピリンおよび/またはカフェインおよび/またはエリスロマイシンおよび/またはエトキシクマリンを使用することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記呼気に含まれる前記13Cで標識された代謝産物の絶対量、特に13CO2の絶対量を測定することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、形成される前記13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の測定をリアルタイムで実行することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記呼気に含まれる、形成される前記13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の量を、前記測定装置を用いて連続的に測定することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記呼気の一部または全部を、呼吸マスクおよび連結管を介して前記測定装置に連続的に移送することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、当該測定方法を、他の解析方法、特に、CT容積測定法または核磁気共鳴画像法と組み合わせることを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項1】
生物の肝臓の働き、特にヒトの肝臓の働きを測定する方法であって、
−少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物を放出するように肝臓で変換される、少なくとも1種の13Cで標識された基質を投与する過程と、
−少なくとも1つの評価部を有する少なくとも1つの測定装置を用いて、所定の時間に呼気に含まれる前記少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物の量を測定する過程と、 を含む、肝臓の働きの測定方法であって、
前記呼気に含まれる少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物の量に関して、その測定された初期増加を一階の微分方程式で表し、この一階の微分方程式の解から、前記13Cで標識された代謝産物の最大濃度の数値Amaxおよび前記13Cで標識された代謝産物の増加の時定数tauを決定することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記呼気に含まれる少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物が13CO2であることを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記呼気に含まれる13C代謝産物の13CO2の増加を、一階の微分方程式により、前記13Cで標識された代謝産物の最大値の70%の数値まで、特に、前記13Cで標識された代謝産物の最大値まで表すことを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、形成される前記13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の量が、前記少なくとも1種の投与される基質の量に比例することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記一階の微分方程式の解として、
【数1】
式中、y(t)は前記少なくとも1種の基質の代謝動態を表し、Amaxはフィッティング関数の最大値または前記代謝産物の最大濃度であり、A0は前記代謝産物の開始濃度であり、tauは時定数であり、t0は代謝の開始時を表し、tは測定時間で表される式を使用することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記指数関数に前記呼気中の前記少なくとも1種の13Cで標識された代謝産物の量の前記初期増加の測定データを当て嵌めて、この当て嵌めから、前記最大値Amaxおよび前記時定数tauを決定することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記数値Amaxに基づいて、前記肝臓における前記少なくとも1種の基質の最大変換率を、
【数2】
で表し、式中、RPBDはPee−Dee−Belemnite標準の13CO2/12CO2比として0.011237に相当し、PはCO2生成量に相当し、Mは前記投与される基質のモル質量に相当し、BWはヒトの体重に相当し、この式によって決定することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記13Cで標識された基質を濃度0.1〜10mg/kg体重で投与することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、13Cで標識された基質として、アルコキシ基、特にメトキシ基の脱アルキル反応によって13CO2を放出する基質を使用することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、基質として、13Cで標識されたメタセチンおよび/またはフェナセチンおよび/またはアミノピリンおよび/またはカフェインおよび/またはエリスロマイシンおよび/またはエトキシクマリンを使用することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記呼気に含まれる前記13Cで標識された代謝産物の絶対量、特に13CO2の絶対量を測定することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、形成される前記13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の測定をリアルタイムで実行することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記呼気に含まれる、形成される前記13Cで標識された代謝産物、特に13CO2の量を、前記測定装置を用いて連続的に測定することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、前記呼気の一部または全部を、呼吸マスクおよび連結管を介して前記測定装置に連続的に移送することを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の肝臓の働きの測定方法において、当該測定方法を、他の解析方法、特に、CT容積測定法または核磁気共鳴画像法と組み合わせることを特徴とする、肝臓の働きの測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公表番号】特表2013−515951(P2013−515951A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545299(P2012−545299)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070408
【国際公開番号】WO2011/076804
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(511239362)ヒューメディックス ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070408
【国際公開番号】WO2011/076804
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(511239362)ヒューメディックス ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】
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