説明

堆肥中の悪臭成分の回収利用方法及び装置

【課題】
堆肥から発生する窒素化合物含有ガスを吸引後、吸収させ、悪臭やアンモニア揮散を防ぐ方法において、効率的な酸化吸着法と、吸着した溶液が生じる効果によって植物栽培に有効な作用を及ぼす。
【解決手段】堆肥内の気体を吸引し水と接触させることにより、気体中の肥料成分及び堆肥由来の菌群を、水に吸収させ、水中で酸化作用を起こし硝酸化成させ、吸着後の液を、植物栽培に利用することで、液中の窒素分と堆肥由来の菌群を植物に供給し、植物について良好な生育環境を生み出すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機廃棄物を堆肥化する際に発生する悪臭物質を吸着・吸収させて処理する方法にかかり、特にこの方法について、この悪臭物質を植物栽培へ利用を図る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国で多く採用されている開放型堆肥化施設では、堆肥に通気下後の排気を直接大気中に放出するため、環境への負荷が大きい。特に堆肥化に伴う悪臭物質の大気中への揮散は、その主成分である窒素化合物含有ガス(アンモニア・アミン類など)により、悪臭や酸性雨の原因となる。これを回避するため、堆肥化過程で、窒素化合物含有ガスを含めた悪臭物質を回収する必要がある。
【0003】
そこで従来、有機廃棄物の堆肥化設備等から発生する窒素化合物含有ガスを、水に、アンモニア水として吸着させて固定化している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、リン酸含有水溶液に接触させて、リン酸アンモニウムとして、液中に吸収させることにより処理されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
これらの方法により生成された窒素化合物は、固形化して肥料としたり、水溶液を堆肥に水分調整のために散水し還元している。
【0006】
ガスの吸引方法としては、堆肥の底部からファンで空気を吸引し、窒素化合物含有ガスが堆肥表面から揮散することを防ぐ方法があり、この方式は、ガスの回収と同時に、堆肥に通気が行われることで、堆肥化微生物群の活動が活発化させることができる。さらに既存の開放型堆肥化施設や堆肥舎を、密閉型などへ大幅に改修することなく、揮散を低減できる(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
【表1】

【0008】
【特許文献1】特開2003-010632 生ゴミ処理機における脱臭装置
【特許文献2】特開2002-143639 アンモニア含有ガスの処理方法
【非特許文献1】http://nilgs.naro.affrc.go.jp/NEWS/No5/05-05.pdf 開放型堆肥化施設における吸引通気式堆肥化処理
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述の特許文献1に開示されているものは、生成される窒素化合物を、堆肥に戻すのみで、表1に示すような有用な特性のうち、「肥料として有効である」の点しか活用できていない。また、特許文献2に開示されているものは、溶液を肥料化するために設備が大規模複雑化し導入が難しく、リン酸の購入に伴うコストもかかる。
【0010】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決するためになされたものであって、表1に示す固形物を含まないという特性、窒素分を多く含むという特性、加えて堆肥由来の微生物群を含むという特性を備えた堆肥化装置、及びこの堆肥化装置を用いて構成された植物栽培システムを提供することを課題とする。
【0011】
また、本発明は、堆肥化方法、及びこの堆肥化方法を利用した植物栽培方法を提供することを課題とする。
【0012】
水耕栽培に用いる植物培養液は、栽培過程で、肥料バランスが崩れるため、栽培過程に合わせて更新を必要とする。更新が必要になった培養液廃液に含まれる残存肥料分は、畑の植物に、液肥として施肥可能である。しかし、栽培では適期施用が必要であり、水耕栽培の培養液更新と、畑の植物栽培に施肥するタイミングを合わせることは難しい。そのため、水耕栽培廃液の一部は、河川に排出され、周辺環境に付加を与えている。
【0013】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決するためになされたものであって、水耕栽培廃液の残存肥料分を、堆肥化装置を用いて、周辺環境に付加を与えず再資源化する植物栽培システムを提供することを課題とする。
【0014】
また、本発明は水耕栽培廃液の残存肥料分を、周辺環境に付加を与えず再資源化する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明にかかる堆肥化装置は、上記課題を解決するためになされたものであって、堆肥を堆積する堆肥舎と、前記堆肥内の気体を吸引する強制通気装置と、前記気体を水に接触させる曝気装置とを備えたことを特徴としている。
【0016】
このような構成によれば、前記堆肥舎で堆積している堆肥を、強制通気させることにより、前記堆肥中の好気性菌を活性化させ、堆肥化を促進できる。また、前記堆肥中の悪臭物質の大気への揮散を防ぐことができる。さらに、前記堆肥中の悪臭物質を吸引することができ、前記堆肥中の微生物群を吸引することができる。また、前記堆肥中の酸素を吸引することができる。
【0017】
さらに、前記強制通気により吸引した前記悪臭物質を、水に接触させることにより、悪臭物質を水に吸収することができる。また、前記強制通気により吸引した前記微生物群と前記酸素を、水に接触させることにより、前記微生物群と前記酸素を水に供給することができる。
【0018】
また、本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、上述した堆肥化装置と、水耕栽培装置とを備えた植物栽培システムであって、前記曝気装置で悪臭物質と堆肥由来の微生物群を溶かし込んだ水を、前記水耕栽培装置にて植物培養液として用いることを特徴としている。
【0019】
このような構成によれば、前記曝気装置で悪臭物質を溶かし込んだ水を(微生物群含有窒素溶液)を、前記水耕栽培装置の培養液タンクに供給することにより、前記培養液タンク内に、前記窒素物質(アンモニア・硝酸)を供給することができ、前記培養液タンク内に、微生物群を供給することができる。
【0020】
さらに、本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、上述した植物栽培システムに前記水耕栽培装置の廃培養液を前記堆肥に散水する散水装置を加えた構成であることを特徴としている。
【0021】
このような構成によれば、前記水耕栽培装置の廃培養液を前記堆肥に散水することにより、前記廃培養液の残存する肥料分を、廃棄することなく堆肥に添加することができ、前記廃培養液の水分を、堆肥に供給することができる。
【0022】
また、本発明にかかる堆肥化方法は、堆肥内の気体を吸引することによって、前記堆肥内の好気性菌の活動を活発化させ堆肥化を促進する工程と、吸引した前記気体を水に接触させ、前記堆肥から発生する悪臭物質を水に吸収させ、悪臭物質中の窒素化合物ガス(アンモニア・アミン類など)を、前記堆肥から吸引した微生物群の酸化作用により、水中で硝酸化成する工程とを備えたことを特徴としている。
【0023】
このような構成によれば、堆肥内の気体を吸引することによって、前記堆肥内の好気性菌の活動を活発化させ堆肥化を促進することができる。また、前記水に吸収された悪臭物質中の窒素化合物ガス(アンモニア・アミン類など)を、前記堆肥から吸引した微生物群の酸化作用により、硝酸化成することができ、この硝酸と堆肥由来の微生物群を成分とする溶液(微生物群含有窒素溶液と呼ぶ)を生成できる。
【0024】
さらに、この曝気処理時間の長短により、前記微生物群含有窒素溶液中におけるアンモニアと、硝酸化成された硝酸の割合をコントロールすることができる。
【0025】
さらに、本発明にかかる植物栽培方法は、前述の堆肥化の方法を加えて、さらに前記硝酸化した悪臭物質を含む水を、植物培養液として、植物に吸収させる工程を備えたことを特徴としている。
【0026】
このような構成によれば、前記微生物群含有窒素溶液は、水耕栽培装置で栽培している植物に対し窒素肥料分となることから、その他の窒素肥料の施肥量を減少できる。さらに、この養液に含まれる微生物群は、培養液タンク内で培養液を腐敗させる菌群に対し拮抗作用を示し、培養液タンク中の養液の腐敗によるぬめりを低減できる。
【発明の効果】
【0027】
堆肥から強制通気装置により空気を吸引することで、前記空気中に含まれる悪臭物質は、曝気装置により水と接触することで吸収される。このことで堆肥中の悪臭物質の、大気中への揮散を低減できる。
【0028】
前記水中で、前記悪臭物質中の窒素化合物ガス(アンモニア、アミン類)は、前記空気に含まれる前記堆肥中の微生物群により硝酸化成される。これにより、前記水中では前記窒素化合物ガス由来のアンモニアの濃度上昇と硝酸化成が並行して進む。この工程を継続することで、硝酸化成前のアンモニアと硝酸双方を含む溶液となり、この溶液は、前記堆肥中の微生物群も含有している微生物群含有窒素溶液となる。
【0029】
前記微生物群含有窒素溶液は、作物にとっては微生物群含有窒素液肥であり、栽培に利用できる。なお、水耕栽培においては、植物培養液として利用することで、窒素肥料と代替できる。また、前記曝気装置への曝気継続時間の長短により、前記水中のアンモニアと硝酸の含有割合をコントロールすることができ、栽培品目にあった割合及び濃度に調整し用いることができる。
【0030】
さらに、養液循環式の水耕栽培培養液に利用することで、前記堆肥由来の微生物群の働きにより、前記水耕栽培培養液のぬめりを抑制する効果と、収穫した作物の保存性を高め賞味期限を延長する効果を得ることができる。
【0031】
さらに、栽培に供した廃培養液を、堆肥に散水することで、河川等に捨て流すことなく、一方では廃培養液中の肥料分を堆肥に付加することができ、堆肥に含まれる肥料成分を増加できる。
【0032】
さらに、栽培に供した廃培養液を、堆肥に散水することで、堆肥を堆肥化菌の活動しやすい水分に調整することができ、堆肥化を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0034】
図1は、堆肥化装置と曝気装置と水耕栽培装置とを備えた堆肥化植物栽培システムの図面である。
【0035】
この図1において、堆肥化装置は、堆肥舎1と、強制通気装置と、散水装置によって
構成されている。
前記堆肥舎1は、具体的には、床面1aと、壁1bと、屋根1cを用いて構成されている。
床面1aは、コンクリート等の強固な材質とし、堆肥2の浸出液を地面に浸出させず、重機による作業を容易にすることを目的とした装置である。壁1bは、コンクリート等の強固な材質とし、堆肥2を沿わせて堆積することで堆積高を増すことと、重機による作業を容易にすることを目的とした装置である。屋根1cは、ポリカーボネイト波板等の軽量で光を通す強固な材質とし、堆肥2を雨水に濡らさず、堆積保管でき、雨天時の作業性を高め、堆肥材料が過湿である場合、堆肥2に日光を当てることで水分蒸発を助けることを目的とした装置である。
以上のように構成された堆肥化装置は、次のような作用効果を有する。
床面1aにより、堆肥2の堆肥化中に発生する浸出液の地面への浸透を防ぐことができる。壁1bに沿わせ堆積できる分、高く堆積でき同一体積の堆肥の体積面積を縮小できる。
屋根1cにより、堆肥2を雨水に濡らさず堆積でき、堆肥2に当たる日光が、水分蒸発を促すために、過湿になった場合の堆肥2の乾燥が容易になる。
【0036】
前記強制通気装置は、具体的には、吸引管3と、ドレントラップ4と吸引装置5を用いて、構成されている。
【0037】
吸引管3は、具体的には、堆肥2と接する管表面については網目状の構造を有し、堆肥2と接しない管表面については密閉構造を有し、ドレントラップ4に接続されている。
【0038】
図2は、ドレントラップ4の図面である。
図1と図2において、ドレントラップ4は、吸引管3の後流側に接続され、具体的には、吸引管4aと、ドレン管4bと、ドレンタンク4cと、ドレンコック4cと、ドレン管dを用いて構成されている。
【0039】
吸引管4aは、吸引管3の後流側、ドレンタンク4bの上部に接続され、吸引管3との高低差を利用してドレンをトラップし吸引装置5へのドレンの流入を防ぐことを目的とした装置である。ドレンタンク4bは、吸引管3の下部に接続され、光を通さず、開閉可能なふたを有し、内部の清掃等の作業性を確保した構造とし、ドレンを一定量、変質させず貯えることを目的とした装置である。ドレンコック4cは、ドレンタンク4bとドレン管4dとの間に接続され、ドレンタンク4bに、一定量ドレンを貯め、ドレン管4dと接続した廃液管15を経て散水装置17にドレンを供給することを目的とした装置である。
【0040】
吸引装置5は、堆積した堆肥2全域の含有空気の気圧を下げ、堆肥2周辺空気を堆肥2に流入させる吸引力を持つ圧力を持つ、ブロアー等の装置とし、吸引管4aの後流側に接続されている。
【0041】
以上のように構成された強制通気装置は、次のような作用効果を有する。
吸引装置5の生む吸引力により吸引管3を通じ、堆肥2から空気を吸引することにより、堆肥2から発生する悪臭物質の大気中への揮散を防ぐことができる。堆肥2の悪臭物質と微生物群と酸素を吸引装置5の後流側に供給できる。堆肥2内に強制的な通気を行うことで、好気性微生物を活性化させ、堆肥化を促進することができる。堆肥から吸引した空気中のドレンを分離し、ドレンタンク4bに前記ドレンを一定量貯めることができる。
【0042】
前記散水装置は、具体的には、廃液管15と、廃液タンク16と、吸引装置17と、散水装置18を用いて構成されている。
ドレン管4d下部後流側は、廃液管15を通じ、廃液タンク16とに接続され、ドレントラップ4のドレンを、廃液タンク16に供給する。廃液管15は培養液タンク10aに設続され、培養液9を廃液タンク16に供給する。吸引装置17は、廃液タンク16と散水装置18の間に接続され、廃液タンク16内のドレンを含む廃液を、散水装置18に供給する圧力を生じさせることを目的とした装置である。散水装置18は、吸引装置17の後流側に接続され、前記ドレンを含む廃液を、堆肥2に散水することを目的とした装置である。廃液タンク16は、ドレン管4d下部後流側と、廃液管14に接続され、前記ドレンと培養液9の廃液を一定量貯め、散水装置18に供給することを目的とした装置である。
【0043】
前記ドレンと培養液9の廃液を、堆肥2に散水することにより、堆肥2の堆肥化過程で不足する水分を補うことができる。さらに、堆肥2に散水することにより、前記ドレン及び廃液中に含まれる肥料分を堆肥2に還元できる。
図3は、曝気装置6の図面である。
【0044】
この図3において曝気装置は、排気管6aと、曝気タンク6bと、曝気部6cと、水6dと、ふた6eと、排気口6fと、注水管6gと、排水管兼培養液注水管7とで構成されている。
【0045】
排気管6aは、吸引ポンプ5後流側に接続され、吸引ポンプ5の圧力により、堆肥2から吸引した空気に含まれる悪臭物質と微生物と酸素を、曝気部6cを通じて水6dに供給することを目的とした装置である。
【0046】
曝気タンク6bは、光を通さず、清掃等の作業性を確保した構造とし、曝気の振動と水圧に耐え、水を一定量、変質させずに貯えることを目的とした装置である。
【0047】
曝気部6cは、排気管6aに接続され、吸引ポンプ5の圧力により、堆肥2から吸引した空気を、水6dに曝気し、前記空気と水6dがふれあう面積を最大限に生み出すことを目的とした装置である。
【0048】
水6dは、曝気量に応じた水量及び水深を有し、曝気部6cから曝気される前記空気に含まれた悪臭物質を前記微生物群と前記酸素を水に溶かし込むことを目的としている。また、前記悪臭物質は、アンモニアガスが主体であるため、水に溶けやすく、水6dの中で微生物群と酸素の働きにより硝酸化成されることを目的としている。
【0049】
ふた6eは、開閉可能な構造で、曝気タンク6b内部の、清掃等の作業性を確保しながら、雨水などの異物混入を防ぐことを目的とした装置である。
【0050】
排気口6fは、昆虫等の異物が曝気タンク6bに侵入しないような、網状の構造を有し、水6dに接触後の前記空気を大気中に放出することを目的とした装置である。
【0051】
注水管6gは、井戸水等の殺菌成分(塩素等)が含まれていない水6d供給源に接続され、開閉機構を有し、水6dの蒸発や排水による水位の減少に連動して開閉し、水6dを一定量保つことを目的とした装置である。
【0052】
排水管兼培養液注水管7は、開閉機構を有し、前記悪臭物質を吸収した水6dを、排水することを目的とした装置であり、植物栽培装置側に曝気処理後の水6dを供給する役割を兼ねる。
以上のように構成された曝気装置は、次のような作用効果を有する。
悪臭物質が含まれた空気を曝気し、水6dと接触させることで水6dに悪臭物質を吸収できる。特に、悪臭物質の主成分である窒素化合物ガス(アンモニア・アミン類)は水に溶けやすいため、吸収作用が大きい。さらに、堆肥2由来の微生物群と酸素が供給されるため、水6dを微生物群含有溶液にでき、水6d内において、前記微生物群のうち、好気性菌群の活動を活発化し、アンモニアが硝酸化成される。
【0053】
前記空気の曝気が継続されると、前記アンモニア水は、前記好気性菌群と前記空気により、硝酸化成が漸次起こり、硝酸化成前のアンモニアと硝酸化成された硝酸と前記微生物群含む溶液(微生物含有窒素溶液)ができる。
【0054】
前記空気を、水6dに曝気する時間の長さを、注水管6gによる注水と、排水管兼培養液注水管7よる排水とによって制御することで、水6dの悪臭物質吸収量と水6dのアンモニアと硝酸の含有濃度及び割合を、一定の範囲内で目的の値にできる。
【0055】
堆肥化装置と曝気装置と水耕栽培装置を備えた植物栽培システムは、前記堆肥化装置と、前記曝気装置と、水耕栽培装置によって構成されている。
【0056】
水耕栽培装置は、具体的には、培養液供給装置と、植物栽培装置12によって構成されている。
【0057】
培養液供給装置は、排水管兼培養液注水管7と、電気伝導度計連動肥料供給装置8aと、pH計連動酸・アルカリ供給装置8bと、培養液9と、培養液タンク10aと、培養液タンクふた10bと、吸引装置11と、培養液循環管13とによって構成されている。
植物栽培装置12は、培養ベッド12a、栽培植物12b、定植板12cとによって構成されている。
【0058】
排水管兼培養液注水管7は、手動開閉機構と、培養液9の水位が下がると自動で開き、水位が上がると閉じる自動開閉機構を有し、曝気装置6の排水目的も兼ねると同時に、培養液タンク10aに、培養液溶媒(原水)として微生物含有窒素溶液を供給することを目的とした装置である。
【0059】
電気伝導度計連動肥料供給装置8aは、培養液タンク10a内の前記微生物含有窒素溶液の電気伝導度を測定することで、溶解している肥料分をイオンの総量で測定する。そして、設定された電気伝導度値になるように、肥料供給装置が作動し、前記微生物含有窒素溶液中に不足している肥料分を溶液中に補い、植物栽培に適する培養液9とすることを目的とした装置である。
【0060】
pH計連動酸・アルカリ供給装置8bは、培養液タンク10a内の前記微生物含有窒素溶液のpHを測定する。そして、設定されたpHにするために、酸・アルカリ供給装置が作動し、前記微生物含有窒素溶液に、酸性溶液もしくはアルカリ性溶液が供給され、植物栽培に適するpHを持つ培養液9とすることを目的とした装置である。
【0061】
培養液9は、前記微生物含有窒素溶液を溶媒(原水)とし、電気伝導度計連動肥料供給装置8aにより、植物栽培に必要な肥料分が追加され、pH計連動酸・アルカリ供給装置8bにより、植物栽培に適するpHに調整されたもので、植物の栽培を目的として利用される。
【0062】
培養液タンク10aは、光を通さない構造で、温度を一定に保つため、地下に埋設される。地下埋設により、より高い位置に設置された曝気装置6からの前記微生物含有窒素溶液の供給も容易となる。また、清掃等の作業性を確保した水圧に耐える構造とし、培養液を一定量、変質させず貯えることを目的とした装置である。
【0063】
培養液タンクふた10bは、開閉可能な構造で、培養液タンク10a内部の、清掃等の作業性を確保しながら、雨水などの異物混入を防ぐことを目的とした装置である。
【0064】
吸引装置11は、吸引管とその間に接続された吸引ポンプとによって構成され、培養液9を培養液タンク10aから吸引し、培養液タンク10a上部に設置された植物栽培装置12に、培養液9を供給することを目的とした装置である。
【0065】
培養液循環管13は、植物栽培装置12の培養液後流側に接続されている。また培養液循環管13の後流側は、培養液9の水面より高い位置で培養液タンク10aと接続されている。上部の植物栽培装置12を通過した培養液9を、培養液タンク10aに戻すことを目的とした装置である。
【0066】
培養ベッド12aは、培養液上流側から下流側へと僅かな傾斜を備え、培養液が漏れないための、防水構造を有し、栽培植物12bに培養液9を供給することを目的とした装置である。
【0067】
栽培植物12bは、培養ベッド12aに定植板12cにより支持されており、培養ベッド12a内を流れる培養液を根から吸収し生長する。
【0068】
定植板12cは、栽培植物12bを植え付けるための孔を備え、培養ベッド12aの上面に設置され、かつ取り外しが容易な構造を有し、栽培植物12bの支持と、培養ベッド12aを流れる培養液に光を当てないことを目的とした装置である。
以上のように構成された水耕栽培装置は、次のような作用効果を有する。
微生物群含有窒素溶液を、水耕栽培培養液の溶媒(原水)として、アンモニア・硝酸以外の肥料分を追加し、pHを調整することで、植物培養液として、栽培植物12bに供給できる。
微生物群含有窒素溶液を、水耕栽培培養液の溶媒として、利用することで、栽培植物12bの根域に対し、堆肥2由来の微生物群を供給でき、根域周辺の微生物層を多様化するため、病気の発生や培養液及び植物の腐敗を起こす菌群に拮抗作用を起こすことができる。
吸引装置11の圧力と、培養ベッド12aの培養液タンク10aより高い設置と、培養ベッド12a傾斜により、培養液9を最小の動力で循環させることができる。
培養ベッド12aに定植板12cでふたをしていることで、培養液9に光に当たることを防ぎ、藻の発生等による培養液9の劣化を抑制することができる。また、培養ベッド12aと定植板12cとが脱着可能なため、培養ベッドの清掃等の作業性を確保することができる。
培養液9の循環利用により、肥料成分及び微生物層が偏った場合、培養液9を廃液管14に排出する。すると、培養液タンク10a内の水位の低下を感知した排水管兼培養液注水管7の、開閉機構が開き、微生物群含有窒素溶液が曝気装置から、培養液タンク10aに流入し、培養液9を更新することができる。この動作により、培養液タンク10a内の廃液が廃液タンク16に供給される。
【0069】
本実施形態にかかる堆肥化装置と曝気装置と水耕栽培装置を備えた植物栽培システムは、図1に示すように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
前記堆肥舎で堆積している堆肥を、強制通気させることにより、前記堆肥中の好気性菌を活性化させ、堆肥化を促進でき、前記堆肥中の悪臭物質の大気への揮散を防ぐことができる。さらに、前記堆肥中の悪臭物質及び微生物群と酸素を吸引することができる。
また、前記強制通気により吸引した前記悪臭物質を、水に接触させることにより、悪臭物質を水に吸収することができる。
【0070】
前記強制通気により吸引した前記微生物群と前記酸素を、水に接触させることにより、前記微生物群と前記酸素を水に供給することができる。
前記曝気装置の後流側の水(微生物群含有窒素溶液)を、前記水耕栽培装置の培養液タンクに供給することにより、前記培養液タンク内に、前記窒素成分(アンモニア・硝酸)と微生物群を供給することができる。
前記水耕栽培装置の廃培養液を前記堆肥に散水することにより、前記廃培養液の残存する肥料分と水分を、堆肥に付加することができる。
堆肥内の気体を吸引することによって、前記堆肥内の好気性菌の活動を活発化させ堆肥化を促進することができ、前記水に吸収された悪臭物質中の窒素化合物ガス(アンモニア・アミン類など)に、硝酸化成を起こすことができ、微生物群含有窒素溶液を生成できる。
さらに、前記強制通気により吸引した前記微生物群と前記酸素を、水に接触させる期間の、長短により、前記微生物群含有窒素溶液の硝酸化成前のアンモニアと、硝酸化成された硝酸の割合をコントロールすることができる。
さらに、記微生物群含有窒素溶液は、水耕栽培装置で栽培している植物に対し窒素肥料分となり、その他の窒素肥料の量を減少できる。
以上のとおり、前記強制通気により吸引した前記悪臭物質は、微生物群含有窒素液肥となり、栽培に利用できる。水耕栽培においては、培養液溶媒(原水)として利用することで、窒素肥料と代替でき、リン酸、カリなどの他の肥料分を補えば、水耕栽培培養液となる。
さらに、前記水耕栽培溶液に含まれる微生物群は、培養液タンク内に繁殖する培養液を腐敗させる菌群や野菜の病原菌に対し拮抗作用を示し、培養液タンク中の養液の腐敗によるぬめりを低減することと、野菜の病原菌による腐敗を防ぎ、収穫した野菜の保存性を高めることができる。
【0071】
本実施形態にかかる堆肥化装置と曝気装置と水耕栽培装置を備えた植物栽培システムは、図4〜9に示すような効果を得ることができる。
【0072】
図4は、400ml/分で吸引した気体の原臭(曝気処理前)と、曝気装置(20Lの水に20cmの水深)で曝気処理後の主要悪臭物質を示した表であり、曝気により水と接触した悪臭物質のうち、アンモニア、アミン類は水に吸収され大気中には揮散せず、硫化メチルは、半分適度吸収される。
【0073】
図5は、400ml/分で吸引し、アンモニアトラップ(20Lの水に20cmの水深)に曝気処理を行い、処理1週間後と2ヶ月後の曝気装置内の水について、主要肥料成分を示した表である。曝気期間が長ければ、よりアンモニアと硝酸の合計濃度は高まり、また、アンモニアの硝酸化成は進む。
図6は、微生物含有窒素溶液(曝気溶液)を水耕栽培に利用した場合と、利用しなかった場合(慣行農法)との収量を比較したグラフであり、施肥量を減らしても、増収させる効果があることがわかる。
【0074】
図7は、微生物含有窒素溶液(曝気溶液)を水耕栽培に利用した場合と、利用しなかった場合(慣行農法)との野汁液中の硝酸塩濃度を比較したグラフである。このグラフから生物含有窒素溶液(曝気溶液)を水耕栽培に用いると、野菜に含まれる人体に有害な硝酸を、減少させる効果があることがわかる。
【0075】
図8は、水耕栽培養液のぬめりに伴う泡の発生を栽培期間中(1ヶ月間)に1日1回調査し、平均値を示したものである。微生物群含有窒素養液(曝気養液)を水耕栽培に利用した場合と、このグラフから微生物含有窒素溶液(曝気溶液)を用いると泡の発生が少ないことから、腐敗を抑制する効果があることがわかる。
【0076】
図9は、この方法で生産された堆肥を用いた場合と、その他の堆肥を利用した場合(慣行農法)との、土耕栽培での生育を比較した表である。この表から、本堆肥化装置で生産した堆肥は、他の堆肥に比べ収量を増やす効果があることがわかる。
【0077】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されず、必要に応じて、種々の変更を行うことが可能である。
【0078】
例えば、上記実施形態においては、堆肥舎1は、床面1aと、壁1bと、屋根1cとを用いて構成したが、本発明はこの構成に限定されず、堆肥を密閉するタンクを用いて構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の水への堆肥悪臭物質の曝気で硝酸化成を起こさせ植物培養液を作る方法は、簡易で扱いやすく、現有する堆肥化施設に安価に設置可能である。
【0080】
本発明の曝気装置で生成される植物培養液は、水耕栽培において、減肥、生育促進、溶液の腐敗抑制、収穫後の鮮度保持、野菜汁液中の硝酸濃度低減など、幅広い効果を示し、耕種農業分野での利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明による堆肥化装置と吸引装置と曝気装置と植物栽培装置を備えた植物栽培システムの概略側面図である。
【図2】ドレントラップ4の概略側面図である。
【図3】曝気装置6の概略側面図である。
【図4】400ml/分で吸引した気体の原臭(曝気処理前)と、曝気装置(20Lの水に20cmの水深)で曝気処理後の主要悪臭物質を示した表である。単位はppm。検出装置は、上段2成分はガステック検知管。下段3成分はガスクロマトグラフ。
【図5】400ml/分で吸引し、アンモニアトラップ(20Lの水に20cmの水深)に曝気処理を行い、処理1週間後と2ヶ月後のアンモニアトラップ内の水について、主要肥料成分を示した表である。単位はmg/kg。RQフレックス法による測定。
【図6】微生物含有窒素溶液(曝気溶液)を水耕栽培に利用した場合と、利用しなかった場合(慣行農法)との収量(25株/m)を比較したグラフである。
【図7】微生物含有窒素溶液(曝気溶液)を水耕栽培に利用した場合と、利用しなかった場合(慣行農法)との野汁液中の硝酸塩濃度を比較したグラフである。
【図8】微生物含有窒素溶液(曝気溶液)水耕栽培に利用した場合と、利用しなかった場合(慣行農法)との、培養液の腐敗を比較するために養液のぬめりに伴う培養液面の泡の発生を、1ヶ月の葉菜類栽培期間について比較したグラフである。測定1ヶ月間の平均値を示している。
【図9】この方法で生産された堆肥を用いた場合と、その他の堆肥を利用した場合(慣行農法)との、土耕栽培での収穫した株を比較した表である。
【符号の説明】
【0082】
1 堆肥舎
1a 床面
1b 壁
1c 屋根
2 堆肥
3 吸引管
4 ドレントラップ
4a 吸引管
4b ドレンタンク
4c ドレンコック
4d ドレン管
5 吸引装置
6 曝気装置
6a 排気管
6b 曝気タンク
6c 曝気装置
6d 水
6e ふた
6f 排気口
6g 注水管
7 排水管兼培養液注水管
8a 電気伝導度計連動肥料供給装置
8b pH計連動酸・アルカリ供給装置
9 培養液
10a 培養液タンク
10b 培養液タンクふた
11 吸引装置
12 植物栽培装置
12a 培養ベッド
12b 栽培植物
12c 定植板
13 培養液循環管
14 廃液管
15 廃液管
16 廃液タンク
17 吸引装置
18 散水装置
19 堆肥の悪臭を含まない空気の流れ
20 堆肥の悪臭を含む空気の流れ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆肥を堆積する堆肥舎と、
前記堆肥内の気体を吸引する強制通気装置と、
前記気体を水に接触させる曝気装置と
を備えたことを特徴とする堆肥化装置。
【請求項2】
請求項1に記載の堆肥化装置と、
水耕栽培装置とを備えた植物栽培システムであって、
前記曝気装置の後流側の水を、前記水耕栽培装置にて植物培養液として用いる
ことを特徴とする植物栽培システム。
【請求項3】
前記水耕栽培装置の廃培養液を前記堆肥に散布する散布装置を備えた
請求項2に記載の植物栽培システム。
【請求項4】
堆肥内の気体を吸引することによって、前記堆肥内の好気性菌の活動を活発化させ堆肥化を促進する工程と、
吸引した前記気体を水に接触させ、前記堆肥から発生する悪臭物質を水に吸収させ、水中で硝酸化成を起こさせる工程と
を備えたことを特徴とする堆肥化方法。
【請求項5】
堆肥内の気体を吸引することによって、前記堆肥内の好気性菌の活動を活発化させ堆肥化を促進する工程と、
吸引した前記気体を水に接触させ、前記堆肥から発生する悪臭物質を水に吸収させ、水中で硝酸化成を起こさせる工程と
前記悪臭物質を硝酸化した水を、植物培養液として、植物に吸収させる工程と
を備えたことを特徴とする植物栽培の方法。
【請求項6】
請求項5に記載の前記悪臭物質を硝酸化した水を、植物培養液として、植物栽培に吸収させる工程と
水耕栽培利用後の植物培養廃液を堆肥に散水することによって、植物培養廃液中の残留肥料分と水分を堆肥に付加することを特徴とする堆肥化の方法。
【請求項7】
請求項6に記載の工程により、水耕栽培利用後の植物培養液を処理することを特徴とする植物栽培の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆肥化装置と、水耕栽培装置とを備えた植物栽培システムであって、前記堆肥化装置が、堆肥を堆積する堆肥舎と、前記堆肥内の気体を吸引する強制通気装置と、前記気体を水に接触させる曝気装置とを有し、前記堆肥化装置にて得られた微生物群含有窒素溶液である培養液を貯える培養液タンクと、前記培養液タンクと前記水耕栽培装置との間で前記培養液を循環させる培養液循環管と、前記培養液タンク中の廃培養液を前記堆肥舎に還元させる散水装置とを備えたことを特徴とする植物栽培システム。
【請求項2】
前記培養液タンク中の培養液水面より高い位置で、前記培養液循環管の後流側と前記培養液タンクとが接続さている
請求項1に記載の植物栽培システム。
【請求項3】
前記培養液タンク内の前記培養液の電気伝導度を測定し、設定された電気伝導度値になるように肥料分を補う、電気伝導度計連動肥料供給装置を有する請求項1または2に記載の植物栽培システム。
【請求項4】
前記培養液タンク内の前記培養液のpHを測定し、設定されたpHになるように酸性溶液もしくはアルカリ性溶液が供給される、pH計連動酸・アルカリ供給装置を有する請求項1から3のいずれか1項に記載の植物栽培システム。
【請求項5】
堆肥内の気体を吸引することによって、前記堆肥内の好気性菌の活動を活発化させ堆肥化を促進する工程と、吸引した前記気体を水に接触させ、前記堆肥から発生する悪臭物質を水に吸収させ、水中で硝酸化成を起こさせて、微生物群含有窒素溶液である培養液を得る工程と前記培養液を、植物に吸収させる工程と、前記培養液を循環させる工程と、前記培養液の廃液を前記堆肥に還元させる工程とを備えたことを特徴とする植物栽培方法。
【請求項6】
前記培養液を循環させる工程において、前記培養液水面より高い位置から、植物の根域通過後の培養液を、前記培養液水面に接触させる請求項5に記載の植物栽培方法。
【請求項7】
前記培養液の電気伝導度を測定して設定された電気伝導度値になるように肥料分を補う工程と、前記培養液のpHを調整する工程とを有する請求項5または6に記載の植物栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−89362(P2006−89362A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101949(P2005−101949)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(504320341)
【出願人】(504320396)
【出願人】(504320400)
【出願人】(504320411)
【出願人】(504320422)
【出願人】(504320433)
【Fターム(参考)】