塑性加工品、塑性加工品の製造方法、トーションビーム、トーションビームAssy、トーションビーム式サスペンション装置、トーションビームの製造方法
【課題】筒状部を有する材料に筒状部の外方から内方に向かう変位が成形された塑性加工品に関して、筒状部の周方向に作用する捻り力等の外力に対する疲労強度が向上可能な塑性加工品、この塑性加工品の製造方法、この塑性加工品の製造方法を応用して製造したトーションビーム、トーションビームAssy、トーションビーム式サスペンション装置、及びトーションビームの製造方法を提供すること。
【解決手段】サスペンション装置において左右のアームを連結するトーションビームの製造方法であって、素材管の長手方向に外方から内方に向かう変位を与えて前記略V字状又は略U字状とし、前記略V字状又は略U字状の閉断面に周方向の引張応力を付与して、前記略V字状又は略U字状を構成する材料の厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけ、スプリングバック後の残留応力が低減することを特徴とする。
【解決手段】サスペンション装置において左右のアームを連結するトーションビームの製造方法であって、素材管の長手方向に外方から内方に向かう変位を与えて前記略V字状又は略U字状とし、前記略V字状又は略U字状の閉断面に周方向の引張応力を付与して、前記略V字状又は略U字状を構成する材料の厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけ、スプリングバック後の残留応力が低減することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、疲労を抑制することが可能な塑性加工品、塑性加工品の製造方法、トーションビーム、トーションビームAssy、トーションビーム式サスペンション装置、トーションビームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、プラント等の構成部材から自動車用部品まで、筒状部を有する材料の該筒状部に外方から内方に向かって変位する成形を施すことが、種々の産業分野で広く用いられている。
例えば、自動車用のトーションビーム式サスペンション装置は、トーションビームと、左右の車輪を支持する左右一対のアームと、スプリング受部と、スプリングと、アブソーバとを備えており、左右のアームはトーションビームにより連結され、トーションビームは車体の左右側から中央に伸びるピボット軸を介して車体と揺動可能に接続されている。
【0003】
トーションビームは、左右のトレーリングアームと接続される接合部と、トーションビームの長手方向と直交する閉断面が略V字状又は略U字状の閉断面とされ路面から車体が受ける外力を主に捻れ剛性により車体のロール剛性を確保するトーション部とを備え、例えば、パイプをその軸線方向に沿って塑性加工することにより成形されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、トーションビーム式サスペンション装置のトーションビームは、充分なロール剛性を備えていても、路面からの外力によって、車輪、アームを介して複雑な応力分布が発生して、車両の使用状況によりトーションビームの疲労が進展し易くなる場合があり、トーションビームに発生する疲労亀裂を抑制することに対する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−635号公報
【特許文献2】特開2007−76410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、トーションビームが、上述のように路面から受ける外力によって疲労が進展し易くなることは、筒状部を有する鋼材に成形を施した場合に共通している。そこで、発明者らは、筒状部を有する鋼材の該筒状部に外方から内方に向かう変位を成形し、この成形部における疲労を鋭意研究した結果、例えば、圧縮応力が減少して引張応力が増加した場合でも、成形部の厚さ方向に分布する周方向の応力(圧縮応力、引張応力)分布を均一に近づけて引張応力の平均値を低くすることにより、疲労の進展が抑制されて疲労強度が向上するとの知見を得た。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、筒状部を有する材料に筒状部の外方から内方に向かう変位が成形された塑性加工品に関して、筒状部の周方向に作用する捻り力等の外力に対する疲労強度が向上可能な塑性加工品、この塑性加工品の製造方法、この塑性加工品の製造方法を応用して製造したトーションビーム、トーションビームAssy、トーションビーム式サスペンション装置、及びトーションビームの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
請求項1に記載の発明は、金属材料、又は金属と樹脂とからなる複合材料により構成されて筒状部を有する材料に前記筒状部の外方から内方に向かう変位を与えて成形部とした塑性加工品の製造方法であって、前記筒状部を外方から内方に向かって変位する成形部を成形し、前記成形部に、前記成形部が構成する閉断面に周方向の引張応力を付与して、前記成形部の厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけ、スプリングバック後の残留応力を低減することを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、塑性加工品であって、請求項1〜4に記載の塑性加工品の製造方法を用いて製造したことを特徴とする。
【0010】
この発明に係る塑性加工品、塑性加工品の製造方法によれば、筒状部の外方から内方に向かう変位を与えて成形部とする場合に、筒状部に成形部を成形しながら、又は成形した後に、成形部が構成する閉断面に周方向(閉断面を構成する肉が延在する方向)の引張応力を付与するので、筒状部の厚さ方向に分布する周方向の応力(圧縮応力、引張応力)を均一に近づけることができる。その結果、スプリングバック後に対象部位における引張応力の最大値又は平均値を低くすることができ、圧縮応力が減少して引張応力が増加した場合でも、疲労亀裂の発生が抑制されて疲労強度を向上することができる。
【0011】
ここで、筒状部を外方から内方に向かって変位する成形部とは、筒状部に外方から内方に窪む凹部が形成されることにより、材料(例えば、素材管等)の厚さ方向に圧縮応力と引張応力を伴う変位が形成されることをいい、外方から内方への押圧によるプレス成形、ハイドロフォーム成形、押圧部材による成形の他、周方向の座屈等により成形させてもよい。また、閉断面の周方向における外方から内方への変位に加えて、長手方向において外方から内方に変位していてもよい。
【0012】
また、成形部が構成する閉断面における周方向の引張応力の付与とは、成形部の厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけるのみでもよく、引張応力により変位が形成されることが好適であり、形成された変位がスプリングバック後に復元することがさらに好適である。
また、成形部が構成する閉断面における周方向の引張応力の付与は、閉断面の周方向に引張力を付与して行なう場合のほか、閉断面の側部に外力(圧力を含む)を付与し、又は対象部位近傍にルータ等により変位を与えて引張応力を形成してもよい。さらに、軸方向に圧縮応力を加えることによって、周方向に引張応力を形成してもよい。
【0013】
また、この明細書において、金属材料、又は金属と樹脂とからなる複合材料により構成される材料とは、鉄鋼、アルミニウム等の金属(純金属、合金を含む)、これら金属と樹脂から構成される複合材料をいい、弾塑性変形が生じるものをいう。
複合材料の形態としては、複合材料の広がる方向に沿って、樹脂と金属が層状に配置されたクラッド構造、樹脂と金属繊維が配置されたもの、金属に樹脂板(クラッド)、樹脂繊維が配置されたもの、及び複合材料の広がる方向と交差(例えば、直交)する方向に沿って、樹脂材料と金属板が層状に配置されたもの、金属繊維が配置されたもの、金属内に樹脂板、樹脂繊維が配置されたもの、樹脂材料内に金属粒子が分散されたもの、金属内に樹脂が分散されたものを含むものとする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の塑性加工品の製造方法であって、前記成形部に対する前記周方向の応力は、前記成形部の対象部位の外方に隙間を設けて前記成形部により構成される閉断面の内方を加圧することを特徴とする。
【0015】
この発明に係る塑性加工品の製造方法によれば、成形部の外方に隙間を設けて、成形部により構成される閉断面の内方をハイドロフォームの液圧などにより加圧するので、厚さ方向に分布する周方向の応力を効率的に均一に近づけることができる。また、対象部位の外方に隙間を設けることにより、加圧によって対象部位の近傍のみが選択的に加工され、周方向の応力分布が大きい箇所のみ、厚さ方向に分布する周方向の応力を選択的に均一に近付けることができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の塑性加工品の製造方法であって、前記成形部に対する前記周方向の応力は、前記成形部により構成される閉断面の内方を加圧しながら、前記筒状部の端部から材料を軸押しすることによって与えられることを特徴とする。
【0017】
この発明に係る塑性加工品の製造方法によれば、材料の軸押しによって周方向に引張応力が形成されるので、厚さ方向に分布する周方向の応力を効率的に均一に近づけることができる。また、材料を軸押しすることにより、周方向に材料を伸延せずに引張応力を付与することができ、材料の肉厚の減少を伴わずに、厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近付けることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の塑性加工品の製造方法であって、前記成形部に対する前記周方向の応力は、前記成形部の対象部位の外方に隙間を設けて、前記成形部により構成される閉断面の内方を加圧しながら、前記筒状部の端部から材料を軸押しすることによって与えられることを特徴とする。
【0019】
この発明に係る塑性加工品の製造方法によれば、成形部の外方に隙間を設けて、成形部により構成される閉断面の内方を液圧などにより加圧するので、厚さ方向に分布する周方向の応力を効率的に均一に近づけることができる。また、対象部位の外方に隙間を設けることにより、加圧によって対象部位の近傍のみが選択的に加工され、周方向の応力分布が大きい箇所のみ、厚さ方向に分布する周方向の応力を選択的に均一に近付けることができる。さらに、対象部位の外方に材料が塑性加工されて周方向に材料が伸延するが、材料を軸押しすることにより、材料の肉厚の減少を伴わずに、厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけることができる。
【0020】
請求項6に記載の発明は、サスペンション装置において左右のアームを連結し、車体の幅方向と直交する断面において、前記車体の前後方向における前端及び後端間が上下方向のいずれかに突出する略V字状又は略U字状の閉断面とされたトーションビームの製造方法であって、素材管の長手方向の少なくとも一部に前記素材管の外方から内方に向かう変位を与えて前記略V字状又は略U字状の閉断面を成形し、前記略V字状又は略U字状の閉断面に周方向の引張応力を付与して、前記略V字状又は略U字状を構成する材料の厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけることを特徴とする。
【0021】
請求項10に記載の発明は、トーションビームであって、請求項6〜9に記載のトーションビームの製造方法を用いて製造したことを特徴とする。
【0022】
請求項11に記載の発明は、トーションビームAssyであって、請求項10に記載のトーションビームを備えることを特徴とする。
【0023】
請求項12に記載の発明は、トーションビーム式サスペンション装置であって、請求項11に記載のトーションビームを備えることを特徴とする。
【0024】
この発明に係るトーションビームの製造方法、トーションビーム、トーションビームAssy、トーションビーム式サスペンション装置によれば、トーションビームに略V字状又は略U字状の閉断面を成形した後に、閉断面に周方向の引張応力を付与するので、材料の厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけることができる。
その結果、スプリングバック後に圧縮応力が減少して引張応力が増加した場合でも、対象部位における引張応力の平均値を低くなって疲労亀裂の発生が抑制され、ひいては所望のサスペンション性能を確保しつつトーションビームの疲労強度を向上することができる。
【0025】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のトーションビームの製造方法であって、前記略V字状又は略U字状の閉断面における周方向の引張応力を付与するために、疲労強度向上の対象とされる前記略V字状又は略U字状の閉断面の外方に隙間を設けて、前記閉断面の内方を加圧することを特徴とする。
【0026】
この発明に係るトーションビームの製造方法によれば、疲労強度向上の対象とされる閉断面の外方に隙間を設けて、閉断面の内方をハイドロフォームの液圧などにより加圧して閉断面内方から外方に向かう均一な力により略V字状又は略U字状の閉断面の周方向に引張応力を付与するので、厚さ方向に分布する周方向の応力を効率的に均一に近づけることができる。また、対象部位の外方に隙間を設けることにより、加圧により対象部位の近傍のみが選択的に加工され、周方向の応力分布が大きい箇所のみ、厚さ方向に分布する周方向の応力を選択的に均一に近付けることができる。
【0027】
請求項8に記載の発明は、請求項6に記載のトーションビームの製造方法であって、前記略V字状又は略U字状の閉断面における周方向の引張応力を付与するために、疲労強度向上の対象とされる前記略V字状又は略U字状の閉断面の内方を加圧しながら、前記素材管の端部から材料を軸押しすることを特徴とする。
【0028】
この発明に係るトーションビームの製造方法によれば、材料の軸押しによって周方向に引張応力が形成されるので、厚さ方向に分布する周方向の応力を効率的に均一に近づけることができる。また、材料を軸押しすることにより、周方向に材料を伸長せずに引張応力を付与することができ、材料の肉厚の減少を伴わずに、厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近付けることができる。
【0029】
請求項9に記載の発明は、請求項6に記載のトーションビームの製造方法であって、前記略V字状又は略U字状の閉断面における周方向の引張応力を付与するために、疲労強度向上の対象とされる前記略V字状又は略U字状の閉断面の外方に隙間を設けて、前記成形部により構成される閉断面の内方を加圧しながら、前記素材管の端部から材料を軸押しすることを特徴とする。
【0030】
この発明に係るトーションビームの製造方法によれば、疲労強度向上の対象とされる閉断面の外方に隙間を設けて、閉断面の内方をハイドロフォームの液圧などにより加圧して閉断面内方から外方に向かう均一な力により略V字状又は略U字状の閉断面の周方向に引張応力を付与するので、厚さ方向に分布する周方向の応力を効率的に均一に近づけることができる。また、対象部位の外方に隙間を設けることにより、加圧により対象部位の近傍のみが選択的に加工され、周方向の応力分布が大きい箇所のみ、厚さ方向に分布する周方向の応力を選択的に均一に近付けることができる。さらに、対象部位の外方に材料が塑性加工されて周方向に材料が伸長するが、材料を軸押しすることにより、材料の肉厚の減少を伴わずに、厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけることができる。
【発明の効果】
【0031】
この発明に係る塑性加工品、塑性加工品の製造方法によれば、成形部の厚さ方向に分布する周方向の応力(圧縮応力、引張応力)を均一に近づけることができる。その結果、スプリングバック後に対象部位における引張応力の最大値又は平均値を低くすることができ、圧縮応力が減少して引張応力が増加した場合でも、疲労亀裂の発生が抑制されて疲労強度を向上することができる。
また、この発明に係るトーションビーム、トーションビームAssy、トーションビーム式サスペンション装置、トーションビームの製造方法によれば、トーションビームの疲労強度を向上することができ、ひいてはトーションビームAssy、トーションビーム式サスペンション装置の耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るトーションビーム式リアサスペンション装置の概略を示す斜視図である。
【図2】第1の実施形態に係るトーションビームAssyの概略を示す斜視図である。
【図3】第1の実施形態に係るトーションビームAssyの概略を示す上面図である。
【図4】第1の実施形態に係るトーションビームAssyの概略を示す下面図である。
【図5】第1の実施形態に係るトーションビームの概略断面を示す図であり、(A)、(B)、(C)、(D)は、図2の矢視A−A、B−B、C−C、D−Dと対応する閉断面を示している。
【図6】第1の実施形態に係るトーションビームの閉断面の詳細を示す図である。
【図7】第1の実施形態に係るトーションビームの製造工程の概略を説明するブロック図である。
【図8】第1の実施形態に係るトーションビームの製造工程の概略を説明する図である。
【図9】第1の実施形態に係るトーションビームの作用を説明する図である。
【図10】第1の実施形態に係るトーションビームの作用の変形例を説明する図である。
【図11】第2の実施形態に係る塑性加工品を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図1から図10を参照して、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るトーションビーム式リアサスペンション装置(トーションビーム式サスペンション装置)の概略を示す図であり、符号1はトーションビーム式リアサスペンション装置を、符号10はトーションビームAssyを、符号12はトーションビームを示している。なお、図に示した符号Fは車両の前方を、符号Rは後方を示している。
【0034】
トーションビーム式リアサスペンション装置1は、図1に示すように、トーションビームAssy10と、トーションビームAssy10と車体とを連結するスプリング20と、アブソーバと30とを備え、トーションビームAssy10は車体の左右側から少し前側中央に伸びるピボット軸JL、JRを介して車体と接続され、車体に対して左右の車輪WL、WRが揺動可能とされている。なお、ピボット軸JL、JRの向きは、車体の前後方向と直交する構成であってもよい。
【0035】
トーションビームAssy10は、図1、図2に示すように、左右の車輪WL、WRを回転自在に支持する左右一対のトレーリングアーム(アーム)11L、11Rと、トレーリングアーム11Lとトレーリングアーム11Rとを連結するトーションビーム12と、スプリング20を支持する左右一対のスプリング受部16L、16Rとを備えている。
また、トーションビーム12を挟んでピボット軸JL、JRの反対側には、スプリング20の一端側を支持するスプリング受部16L、16Rが形成されている。また、緩衝装置であるアブソーバの一端側が、図示しない緩衝受部に接続されるようになっている。
【0036】
第1の実施形態では、トーションビーム12は、図3、図4、図5に示すように上方を頂部とする略V字状(一部略U字状)とされており、例えば、パイプをその軸線方向に沿って、例えば、プレス成形により塑性加工して形成されている。
【0037】
また、トーションビーム12は、略V字状とされたトーション部12A、12B、12Cと、トレーリングアーム11L、11Rと接続される接続部12Dとを備え、トーション部12A、12B、12Cは、トーションビーム12の長手方向と直交する断面が車両前後方向に対称なトーション部12Aから接合部12Dに向かい漸次変位する構成とされている。なお、図5(A)、(B)、(C)、(D)は、図2の矢視A−A、B−B、C−C、D−Dと対応する閉断面を示している。
【0038】
図6は、トーション部に含まれる閉断面の一例として、閉断面12B(以下、トーション部12Bという)の詳細を説明する図である。
トーション部12Bは、図6に示すように、略V字状の突出(上側)外面13Aをなす第1壁部14と、くぼみ(下側)外面13Bをなす第2壁部15により囲まれた略V字状(又は略U字状)の閉断面とされており、第1壁部14には頂部14Tが形成され、第2壁部15には頂部15Tが形成されている。ここで、頂部は、第1壁部14、第2壁部15の屈曲部により構成されている。また、トーションビーム12の外壁部14と内壁部15とは、U字状の折返形状部12Kにより接続されている。
【0039】
接続部12Dは、トーションビーム12をトレーリングアーム11L、11Rと接続する部位であり、図5(D)に示すように、トレーリングアーム11L、11Rの形状と接続可能な閉断面とされている。
【0040】
次に、図7、図8を参照して、第1の実施形態に係るトーションビーム12の製造方法について説明する。
図7は、トーションビーム12の製造方法の概略を示すブロック図である。
(1)まず、鋼管W0をプレス加工して、トーションビーム12の中間成形品(以下、トーションビームの中間成形品12Lという)を構成する略V字状(又は略U字状)のトーション部12A、12B、12Cと、接続部12Dを成形する(S1)。
トーションビーム12を成形する際のプレス加工の工程数は、任意に設定することができる。
(2)次に、プレス加工により形成された略V字状(又は略U字状)の疲労強度向上対象部位の外方に隙間を設ける(S2)。
前記S1のプレス加工に用いる金型に、あらかじめ外方に隙間を設けることにより、S1とS2の工程を同一としてもよい。
(3)次いで、トーションビームの中間成形品12Lの両端開口部を液密に密封して内方をハイドロフォームの液圧により加圧する。(S3)その結果、対象部位の閉断面における周方向の引張応力が付与され、対象部位の厚さ方向に分布する周方向応力が均一に近づき、スプリングバック後の周方向応力の平均値または最大値が低減する。
【0041】
図8は、トーションビーム12の製造方法の概略を示す図であり、図8(A)、(B)は図7のS1と、図8(C)は、図7のS2、S3と対応している。
(1)図8(A)に示すように、鋼管W0をプレス金型PAの下型P1と上型P2の間に配置し、下型P1と上型P2を相対移動させて型締し、上型P2の中子P3を前進させて鋼管W0をプレス成形する。
(2)図8(B)は、プレス成形の最終工程においてプレス金型PBにおいて、トーションビームの中間成形品12Lが成形された状態を示している。プレス成形の回数は、1回でも複数回でもよい。
(3)次に、図8(C)に示すように、トーションビームの中間成形品12Lを、U字状の折返形状部12Kの外方に金型の間に隙間Tが設けられた型P4、P5内に配置して、トーションビームの中間成形品10Aの内方をハイドロフォームにより加圧することにより対象部位に周方向の引張応力を付与する。
【0042】
次に、図9を参照して、トーションビーム12の作用について説明する。
図9(A)、(B)、(C)は、鋼管W0をプレス加工してトーションビームの中間成形品12Lを成形した場合の折返形状部12Kの厚さ方向に分布する周方向の応力を示す図である。なお、図中に示す矢印は右向きが引張応力を、左向きが圧縮応力を表している。
【0043】
図9(A)は、鋼管W0をプレス加工した後の折返形状部12Kの厚さ方向に分布する周方向の応力を示しており、中立線Zを挟んでトーションビームの中間品12Aの突出外側に引張応力S1が、内側に圧縮応力S2が形成されている。
【0044】
図9(B)は、ハイドロフォームによりトーションビーム12Aの内方を加圧することで、折返形状部12Kに周方向の引張力Rを与え、周方向の引張応力S3を発生させた状態を示している。
【0045】
図9(C)は、折返形状部12Kに周方向の引張応力S3を与えたことにより、折返形状部12Kの圧縮応力S2が引張応力S11となり、折返形状部12Kが周方向に伸延された状態を示している。
【0046】
図9(D)は、ハイドロフォームにより折返形状部12Kに形成された引張応力S11及び周方向の伸延が、ハイドロフォームによる加圧を解除することにより矢印SP方向にスプリングバックするのを示す概略図である。
【0047】
図9(E)は、引張応力S11及び周方向の伸延がスプリングバックした後の一例を示す概略図であり、例えば、スプリングバック後の厚さ方向に分布する引張応力S12がプレス成形時の引張応力S1よりも小さくなる。また、圧縮応力S21、22が、プレス成形時の圧縮応力S2より小さくなることがより好適である。ここで、中立線Zは折返形状部12Kの外(凹側)に変位していることが好適であり、この変位は引張応力S3が付与されることにより実現される(図9(C)〜(E)参照)。
【0048】
このように、スプリングバック後の引張応力の平均値、好適には局所的な引張応力の最大値を低減することにより、金属疲労の進展が抑制される。なお、図9(E)に示すスプリングバック後の厚さ方向の応力分布は一例を示すものであり、例えば、引張応力S21がプレス成形時の引張応力S1よりも小さければ、図9(E)に示す応力分布に限定されない。
【0049】
なお、図10は、トーションビーム12の作用の変形例を示す図であり、図9(E)と対応している。図10が、図9(E)と異なるのは、ハイドロフォームによる加圧を解除した後に、折返形状部12Kの厚さ方向に引張応力S31と一部に圧縮応力S32が分布し、中立線Zが折返形状部12Kの厚さ方向の内部に位置している点である。
このように、圧縮応力S32が一部に残留した場合であっても、スプリングバック後の引張応力の平均値、好適には局所的な引張応力の最大値が材料の降伏点以下とされることにより金属疲労が抑制される。なお、残留する引張応力の平均値又は局所的な引張応力の最大値が降伏点よりも大きい場合であっても、金属疲労を抑制することができる点で有効である。
【0050】
以上のように、折返形状部12Kが拡管されて、折返形状部12Kにトーションビーム中間品12Aの周方向に引張応力を発生させることにより、折返形状部12Kの厚さ方向に分布する応力に均一に近づけることができ、スプリングバック後に、引張応力の平均値、好適には局所的な引張応力の最大値を低減することができる。
【0051】
第1の実施形態に係るトーションビーム12によれば、折返形状部12Kの厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけて残留させ、スプリングバック後の引張応力を低減することで、金属疲労が抑制されて疲労強度を向上することができ、ひいては、所望のサスペンション性能を確保しつつトーションビームの金属疲労を効果的に低減することができる。
【0052】
また、外形形状に関する変化は小さいため、トーションビームの形状が設定された後においても、車両部品の空間的な取り合いを気にすることなく疲労強度を向上することができる。
【0053】
<実施例>
次に、本発明を実施例でさらに説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0054】
実施例として、第1の実施形態の要領において、表1に示す素材管を用いて、表2に示すような複数の加工条件下でトーションビーム12を製造し、該トーションビームの折返形状部12Kにおける肉厚減少率と、残留応力の最大値およびと表層部における最大値を調べた。その結果を表2に示すが、本発明例のいずれもが比較例に比べて残留応力の最大値が低減し、疲労強度を向上することができると分かる。また、表層部の最大残留応力も減少し、疲労亀裂の発生を抑制できると分かる。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
次に、図11を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。
図11は、本発明の第2の実施形態に係る、例えば、プラントに使用されて周方向の回動を繰り返す中空の回動軸(塑性加工品)50を示す図であり、図11(A)は、回動軸50の斜視図を、図11(B)は図11(A)におけるX−X断面を、図11(C)は図11(A)におけるY−Y断面を示している。
【0058】
次回動軸50は、回動軸外周に配置するセンサ(不図示)の頭部を回動軸50の外周面より内周側に配置するために回動軸50の内方に膨出する球面の一部からなる取付凹形状部(成形部)55が形成され、取付凹形状部55には、回動軸50の側方から見た場合の中央にセンサの取付孔56が形成されている。
【0059】
取付凹形状部55は、例えば、鋼管に押圧部材を外方から当接して、外方から内方に向かって押圧することにより成形されている。
取付凹形状部55を成形した後に、回動軸50の両端開口部を液密に封じし、取付凹形状部55における対象部位(疲労強度を向上させるべき対象部位)の外方に隙間を設けて外型を配置し、内方をハイドロフォームにより加圧して対象部位を外方に拡管して変位させる。
ハイドロフォームによる加圧を解除して、外方に変位した部位がスプリングバックする。
なお、取付孔56は、ハイドロフォームによる加圧終了後に、機械加工等により加工する。
【0060】
第2の実施形態に係る回動軸50によれば、取付凹形状部55が構成する閉断面に周方向の引張応力が付与されることにより、対象部位の厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけることができ、スプリングバック後の残留応力が低減して疲労強度を向上することができる。また、第2の実施形態によれば、対象部位の厚さ方向に分布する周方向の応力に加えて、鋼管の長手方向における応力についても均一に近づけることができる。
【0061】
なお、第2の実施形態においては、取付凹形状部55を押圧部材により成形する場合について説明したが、プレス成形等により成形させてもよいし、内方に膨出する球面の一部からなる取付凹形状部55に代えて他の形状に成形してもよい。
【0062】
また、ハイドロフォームにより取付凹形状部55を拡管することにより付与する場合について説明したが、例えば、閉断面の周方向に直接引張力を加えてもよいしルータ等により変位を与えて引張応力を付与してもよい。
【0063】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更をすることが可能である。
例えば、上記実施の形態においては、トーションビーム12の頂部14Tが上方に形成され、閉断面が車両の前後方向において対称とされた場合について説明したが、頂部14Tが下方に形成された構成としてもよい。また、閉断面を略V字状と略U字状のいずれとするかは任意に設定可能であり、閉断面が車両の前後方向において非対称に形成されていてもよい。また、引張応力S3を折返形状部12Kに付与する場合について説明したが、折返形状部12K以外の部位に適用してもよいことはいうまでもない。
【0064】
また、上記実施の形態においては、周方向の引張応力をハイドロフォームにより与える場合について説明したが、閉断面内方から拡管する機械的手段等、ハイドロフォーム以外の閉断面の側部に外力(圧力を含む)を付与する手段、対象部位近傍にルータ等により変位を与えて引張応力を形成してもよい。
【0065】
また、上記実施の形態においては、トーションビーム式サスペンション装置がトーションビーム式リアサスペンション装置1である場合について説明したが、例えば、リーディングアーム式サスペンション装置に適用してもよい。
【0066】
また、上記第2の実施形態においては、塑性加工品が全長にわたって筒状とされた回動軸50である場合について説明したが、回動軸に限定されないことはいうまでもなく、鋼材の筒状部が、例えば、テーパを有している場合、鋼材の長さ方向の一部に筒状部が形成されている場合、成形部が長さ方向の一部に形成されている場合、又は成形部が複数形成されている場合に適用できることはいうまでもない。また成形部の位置、大きさは任意に設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
この発明に係る塑性加工品、塑性加工品の製造方法、トーションビーム、トーションビームAssy、トーションビーム式サスペンション装置、トーションビームの製造方法によれば、疲労強度が向上されるので、産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
W0 鋼管
1 トーションビーム式リアサスペンション装置(トーションビーム式サスペンション装置)
10 トーションビームAssy
12 トーションビーム
12K 折返形状部(対象部位)
50 回動軸(塑性加工品)
55 取付凹形状部(成形部)
【技術分野】
【0001】
この発明は、疲労を抑制することが可能な塑性加工品、塑性加工品の製造方法、トーションビーム、トーションビームAssy、トーションビーム式サスペンション装置、トーションビームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、プラント等の構成部材から自動車用部品まで、筒状部を有する材料の該筒状部に外方から内方に向かって変位する成形を施すことが、種々の産業分野で広く用いられている。
例えば、自動車用のトーションビーム式サスペンション装置は、トーションビームと、左右の車輪を支持する左右一対のアームと、スプリング受部と、スプリングと、アブソーバとを備えており、左右のアームはトーションビームにより連結され、トーションビームは車体の左右側から中央に伸びるピボット軸を介して車体と揺動可能に接続されている。
【0003】
トーションビームは、左右のトレーリングアームと接続される接合部と、トーションビームの長手方向と直交する閉断面が略V字状又は略U字状の閉断面とされ路面から車体が受ける外力を主に捻れ剛性により車体のロール剛性を確保するトーション部とを備え、例えば、パイプをその軸線方向に沿って塑性加工することにより成形されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、トーションビーム式サスペンション装置のトーションビームは、充分なロール剛性を備えていても、路面からの外力によって、車輪、アームを介して複雑な応力分布が発生して、車両の使用状況によりトーションビームの疲労が進展し易くなる場合があり、トーションビームに発生する疲労亀裂を抑制することに対する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−635号公報
【特許文献2】特開2007−76410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、トーションビームが、上述のように路面から受ける外力によって疲労が進展し易くなることは、筒状部を有する鋼材に成形を施した場合に共通している。そこで、発明者らは、筒状部を有する鋼材の該筒状部に外方から内方に向かう変位を成形し、この成形部における疲労を鋭意研究した結果、例えば、圧縮応力が減少して引張応力が増加した場合でも、成形部の厚さ方向に分布する周方向の応力(圧縮応力、引張応力)分布を均一に近づけて引張応力の平均値を低くすることにより、疲労の進展が抑制されて疲労強度が向上するとの知見を得た。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、筒状部を有する材料に筒状部の外方から内方に向かう変位が成形された塑性加工品に関して、筒状部の周方向に作用する捻り力等の外力に対する疲労強度が向上可能な塑性加工品、この塑性加工品の製造方法、この塑性加工品の製造方法を応用して製造したトーションビーム、トーションビームAssy、トーションビーム式サスペンション装置、及びトーションビームの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
請求項1に記載の発明は、金属材料、又は金属と樹脂とからなる複合材料により構成されて筒状部を有する材料に前記筒状部の外方から内方に向かう変位を与えて成形部とした塑性加工品の製造方法であって、前記筒状部を外方から内方に向かって変位する成形部を成形し、前記成形部に、前記成形部が構成する閉断面に周方向の引張応力を付与して、前記成形部の厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけ、スプリングバック後の残留応力を低減することを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、塑性加工品であって、請求項1〜4に記載の塑性加工品の製造方法を用いて製造したことを特徴とする。
【0010】
この発明に係る塑性加工品、塑性加工品の製造方法によれば、筒状部の外方から内方に向かう変位を与えて成形部とする場合に、筒状部に成形部を成形しながら、又は成形した後に、成形部が構成する閉断面に周方向(閉断面を構成する肉が延在する方向)の引張応力を付与するので、筒状部の厚さ方向に分布する周方向の応力(圧縮応力、引張応力)を均一に近づけることができる。その結果、スプリングバック後に対象部位における引張応力の最大値又は平均値を低くすることができ、圧縮応力が減少して引張応力が増加した場合でも、疲労亀裂の発生が抑制されて疲労強度を向上することができる。
【0011】
ここで、筒状部を外方から内方に向かって変位する成形部とは、筒状部に外方から内方に窪む凹部が形成されることにより、材料(例えば、素材管等)の厚さ方向に圧縮応力と引張応力を伴う変位が形成されることをいい、外方から内方への押圧によるプレス成形、ハイドロフォーム成形、押圧部材による成形の他、周方向の座屈等により成形させてもよい。また、閉断面の周方向における外方から内方への変位に加えて、長手方向において外方から内方に変位していてもよい。
【0012】
また、成形部が構成する閉断面における周方向の引張応力の付与とは、成形部の厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけるのみでもよく、引張応力により変位が形成されることが好適であり、形成された変位がスプリングバック後に復元することがさらに好適である。
また、成形部が構成する閉断面における周方向の引張応力の付与は、閉断面の周方向に引張力を付与して行なう場合のほか、閉断面の側部に外力(圧力を含む)を付与し、又は対象部位近傍にルータ等により変位を与えて引張応力を形成してもよい。さらに、軸方向に圧縮応力を加えることによって、周方向に引張応力を形成してもよい。
【0013】
また、この明細書において、金属材料、又は金属と樹脂とからなる複合材料により構成される材料とは、鉄鋼、アルミニウム等の金属(純金属、合金を含む)、これら金属と樹脂から構成される複合材料をいい、弾塑性変形が生じるものをいう。
複合材料の形態としては、複合材料の広がる方向に沿って、樹脂と金属が層状に配置されたクラッド構造、樹脂と金属繊維が配置されたもの、金属に樹脂板(クラッド)、樹脂繊維が配置されたもの、及び複合材料の広がる方向と交差(例えば、直交)する方向に沿って、樹脂材料と金属板が層状に配置されたもの、金属繊維が配置されたもの、金属内に樹脂板、樹脂繊維が配置されたもの、樹脂材料内に金属粒子が分散されたもの、金属内に樹脂が分散されたものを含むものとする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の塑性加工品の製造方法であって、前記成形部に対する前記周方向の応力は、前記成形部の対象部位の外方に隙間を設けて前記成形部により構成される閉断面の内方を加圧することを特徴とする。
【0015】
この発明に係る塑性加工品の製造方法によれば、成形部の外方に隙間を設けて、成形部により構成される閉断面の内方をハイドロフォームの液圧などにより加圧するので、厚さ方向に分布する周方向の応力を効率的に均一に近づけることができる。また、対象部位の外方に隙間を設けることにより、加圧によって対象部位の近傍のみが選択的に加工され、周方向の応力分布が大きい箇所のみ、厚さ方向に分布する周方向の応力を選択的に均一に近付けることができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の塑性加工品の製造方法であって、前記成形部に対する前記周方向の応力は、前記成形部により構成される閉断面の内方を加圧しながら、前記筒状部の端部から材料を軸押しすることによって与えられることを特徴とする。
【0017】
この発明に係る塑性加工品の製造方法によれば、材料の軸押しによって周方向に引張応力が形成されるので、厚さ方向に分布する周方向の応力を効率的に均一に近づけることができる。また、材料を軸押しすることにより、周方向に材料を伸延せずに引張応力を付与することができ、材料の肉厚の減少を伴わずに、厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近付けることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の塑性加工品の製造方法であって、前記成形部に対する前記周方向の応力は、前記成形部の対象部位の外方に隙間を設けて、前記成形部により構成される閉断面の内方を加圧しながら、前記筒状部の端部から材料を軸押しすることによって与えられることを特徴とする。
【0019】
この発明に係る塑性加工品の製造方法によれば、成形部の外方に隙間を設けて、成形部により構成される閉断面の内方を液圧などにより加圧するので、厚さ方向に分布する周方向の応力を効率的に均一に近づけることができる。また、対象部位の外方に隙間を設けることにより、加圧によって対象部位の近傍のみが選択的に加工され、周方向の応力分布が大きい箇所のみ、厚さ方向に分布する周方向の応力を選択的に均一に近付けることができる。さらに、対象部位の外方に材料が塑性加工されて周方向に材料が伸延するが、材料を軸押しすることにより、材料の肉厚の減少を伴わずに、厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけることができる。
【0020】
請求項6に記載の発明は、サスペンション装置において左右のアームを連結し、車体の幅方向と直交する断面において、前記車体の前後方向における前端及び後端間が上下方向のいずれかに突出する略V字状又は略U字状の閉断面とされたトーションビームの製造方法であって、素材管の長手方向の少なくとも一部に前記素材管の外方から内方に向かう変位を与えて前記略V字状又は略U字状の閉断面を成形し、前記略V字状又は略U字状の閉断面に周方向の引張応力を付与して、前記略V字状又は略U字状を構成する材料の厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけることを特徴とする。
【0021】
請求項10に記載の発明は、トーションビームであって、請求項6〜9に記載のトーションビームの製造方法を用いて製造したことを特徴とする。
【0022】
請求項11に記載の発明は、トーションビームAssyであって、請求項10に記載のトーションビームを備えることを特徴とする。
【0023】
請求項12に記載の発明は、トーションビーム式サスペンション装置であって、請求項11に記載のトーションビームを備えることを特徴とする。
【0024】
この発明に係るトーションビームの製造方法、トーションビーム、トーションビームAssy、トーションビーム式サスペンション装置によれば、トーションビームに略V字状又は略U字状の閉断面を成形した後に、閉断面に周方向の引張応力を付与するので、材料の厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけることができる。
その結果、スプリングバック後に圧縮応力が減少して引張応力が増加した場合でも、対象部位における引張応力の平均値を低くなって疲労亀裂の発生が抑制され、ひいては所望のサスペンション性能を確保しつつトーションビームの疲労強度を向上することができる。
【0025】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のトーションビームの製造方法であって、前記略V字状又は略U字状の閉断面における周方向の引張応力を付与するために、疲労強度向上の対象とされる前記略V字状又は略U字状の閉断面の外方に隙間を設けて、前記閉断面の内方を加圧することを特徴とする。
【0026】
この発明に係るトーションビームの製造方法によれば、疲労強度向上の対象とされる閉断面の外方に隙間を設けて、閉断面の内方をハイドロフォームの液圧などにより加圧して閉断面内方から外方に向かう均一な力により略V字状又は略U字状の閉断面の周方向に引張応力を付与するので、厚さ方向に分布する周方向の応力を効率的に均一に近づけることができる。また、対象部位の外方に隙間を設けることにより、加圧により対象部位の近傍のみが選択的に加工され、周方向の応力分布が大きい箇所のみ、厚さ方向に分布する周方向の応力を選択的に均一に近付けることができる。
【0027】
請求項8に記載の発明は、請求項6に記載のトーションビームの製造方法であって、前記略V字状又は略U字状の閉断面における周方向の引張応力を付与するために、疲労強度向上の対象とされる前記略V字状又は略U字状の閉断面の内方を加圧しながら、前記素材管の端部から材料を軸押しすることを特徴とする。
【0028】
この発明に係るトーションビームの製造方法によれば、材料の軸押しによって周方向に引張応力が形成されるので、厚さ方向に分布する周方向の応力を効率的に均一に近づけることができる。また、材料を軸押しすることにより、周方向に材料を伸長せずに引張応力を付与することができ、材料の肉厚の減少を伴わずに、厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近付けることができる。
【0029】
請求項9に記載の発明は、請求項6に記載のトーションビームの製造方法であって、前記略V字状又は略U字状の閉断面における周方向の引張応力を付与するために、疲労強度向上の対象とされる前記略V字状又は略U字状の閉断面の外方に隙間を設けて、前記成形部により構成される閉断面の内方を加圧しながら、前記素材管の端部から材料を軸押しすることを特徴とする。
【0030】
この発明に係るトーションビームの製造方法によれば、疲労強度向上の対象とされる閉断面の外方に隙間を設けて、閉断面の内方をハイドロフォームの液圧などにより加圧して閉断面内方から外方に向かう均一な力により略V字状又は略U字状の閉断面の周方向に引張応力を付与するので、厚さ方向に分布する周方向の応力を効率的に均一に近づけることができる。また、対象部位の外方に隙間を設けることにより、加圧により対象部位の近傍のみが選択的に加工され、周方向の応力分布が大きい箇所のみ、厚さ方向に分布する周方向の応力を選択的に均一に近付けることができる。さらに、対象部位の外方に材料が塑性加工されて周方向に材料が伸長するが、材料を軸押しすることにより、材料の肉厚の減少を伴わずに、厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけることができる。
【発明の効果】
【0031】
この発明に係る塑性加工品、塑性加工品の製造方法によれば、成形部の厚さ方向に分布する周方向の応力(圧縮応力、引張応力)を均一に近づけることができる。その結果、スプリングバック後に対象部位における引張応力の最大値又は平均値を低くすることができ、圧縮応力が減少して引張応力が増加した場合でも、疲労亀裂の発生が抑制されて疲労強度を向上することができる。
また、この発明に係るトーションビーム、トーションビームAssy、トーションビーム式サスペンション装置、トーションビームの製造方法によれば、トーションビームの疲労強度を向上することができ、ひいてはトーションビームAssy、トーションビーム式サスペンション装置の耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るトーションビーム式リアサスペンション装置の概略を示す斜視図である。
【図2】第1の実施形態に係るトーションビームAssyの概略を示す斜視図である。
【図3】第1の実施形態に係るトーションビームAssyの概略を示す上面図である。
【図4】第1の実施形態に係るトーションビームAssyの概略を示す下面図である。
【図5】第1の実施形態に係るトーションビームの概略断面を示す図であり、(A)、(B)、(C)、(D)は、図2の矢視A−A、B−B、C−C、D−Dと対応する閉断面を示している。
【図6】第1の実施形態に係るトーションビームの閉断面の詳細を示す図である。
【図7】第1の実施形態に係るトーションビームの製造工程の概略を説明するブロック図である。
【図8】第1の実施形態に係るトーションビームの製造工程の概略を説明する図である。
【図9】第1の実施形態に係るトーションビームの作用を説明する図である。
【図10】第1の実施形態に係るトーションビームの作用の変形例を説明する図である。
【図11】第2の実施形態に係る塑性加工品を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図1から図10を参照して、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るトーションビーム式リアサスペンション装置(トーションビーム式サスペンション装置)の概略を示す図であり、符号1はトーションビーム式リアサスペンション装置を、符号10はトーションビームAssyを、符号12はトーションビームを示している。なお、図に示した符号Fは車両の前方を、符号Rは後方を示している。
【0034】
トーションビーム式リアサスペンション装置1は、図1に示すように、トーションビームAssy10と、トーションビームAssy10と車体とを連結するスプリング20と、アブソーバと30とを備え、トーションビームAssy10は車体の左右側から少し前側中央に伸びるピボット軸JL、JRを介して車体と接続され、車体に対して左右の車輪WL、WRが揺動可能とされている。なお、ピボット軸JL、JRの向きは、車体の前後方向と直交する構成であってもよい。
【0035】
トーションビームAssy10は、図1、図2に示すように、左右の車輪WL、WRを回転自在に支持する左右一対のトレーリングアーム(アーム)11L、11Rと、トレーリングアーム11Lとトレーリングアーム11Rとを連結するトーションビーム12と、スプリング20を支持する左右一対のスプリング受部16L、16Rとを備えている。
また、トーションビーム12を挟んでピボット軸JL、JRの反対側には、スプリング20の一端側を支持するスプリング受部16L、16Rが形成されている。また、緩衝装置であるアブソーバの一端側が、図示しない緩衝受部に接続されるようになっている。
【0036】
第1の実施形態では、トーションビーム12は、図3、図4、図5に示すように上方を頂部とする略V字状(一部略U字状)とされており、例えば、パイプをその軸線方向に沿って、例えば、プレス成形により塑性加工して形成されている。
【0037】
また、トーションビーム12は、略V字状とされたトーション部12A、12B、12Cと、トレーリングアーム11L、11Rと接続される接続部12Dとを備え、トーション部12A、12B、12Cは、トーションビーム12の長手方向と直交する断面が車両前後方向に対称なトーション部12Aから接合部12Dに向かい漸次変位する構成とされている。なお、図5(A)、(B)、(C)、(D)は、図2の矢視A−A、B−B、C−C、D−Dと対応する閉断面を示している。
【0038】
図6は、トーション部に含まれる閉断面の一例として、閉断面12B(以下、トーション部12Bという)の詳細を説明する図である。
トーション部12Bは、図6に示すように、略V字状の突出(上側)外面13Aをなす第1壁部14と、くぼみ(下側)外面13Bをなす第2壁部15により囲まれた略V字状(又は略U字状)の閉断面とされており、第1壁部14には頂部14Tが形成され、第2壁部15には頂部15Tが形成されている。ここで、頂部は、第1壁部14、第2壁部15の屈曲部により構成されている。また、トーションビーム12の外壁部14と内壁部15とは、U字状の折返形状部12Kにより接続されている。
【0039】
接続部12Dは、トーションビーム12をトレーリングアーム11L、11Rと接続する部位であり、図5(D)に示すように、トレーリングアーム11L、11Rの形状と接続可能な閉断面とされている。
【0040】
次に、図7、図8を参照して、第1の実施形態に係るトーションビーム12の製造方法について説明する。
図7は、トーションビーム12の製造方法の概略を示すブロック図である。
(1)まず、鋼管W0をプレス加工して、トーションビーム12の中間成形品(以下、トーションビームの中間成形品12Lという)を構成する略V字状(又は略U字状)のトーション部12A、12B、12Cと、接続部12Dを成形する(S1)。
トーションビーム12を成形する際のプレス加工の工程数は、任意に設定することができる。
(2)次に、プレス加工により形成された略V字状(又は略U字状)の疲労強度向上対象部位の外方に隙間を設ける(S2)。
前記S1のプレス加工に用いる金型に、あらかじめ外方に隙間を設けることにより、S1とS2の工程を同一としてもよい。
(3)次いで、トーションビームの中間成形品12Lの両端開口部を液密に密封して内方をハイドロフォームの液圧により加圧する。(S3)その結果、対象部位の閉断面における周方向の引張応力が付与され、対象部位の厚さ方向に分布する周方向応力が均一に近づき、スプリングバック後の周方向応力の平均値または最大値が低減する。
【0041】
図8は、トーションビーム12の製造方法の概略を示す図であり、図8(A)、(B)は図7のS1と、図8(C)は、図7のS2、S3と対応している。
(1)図8(A)に示すように、鋼管W0をプレス金型PAの下型P1と上型P2の間に配置し、下型P1と上型P2を相対移動させて型締し、上型P2の中子P3を前進させて鋼管W0をプレス成形する。
(2)図8(B)は、プレス成形の最終工程においてプレス金型PBにおいて、トーションビームの中間成形品12Lが成形された状態を示している。プレス成形の回数は、1回でも複数回でもよい。
(3)次に、図8(C)に示すように、トーションビームの中間成形品12Lを、U字状の折返形状部12Kの外方に金型の間に隙間Tが設けられた型P4、P5内に配置して、トーションビームの中間成形品10Aの内方をハイドロフォームにより加圧することにより対象部位に周方向の引張応力を付与する。
【0042】
次に、図9を参照して、トーションビーム12の作用について説明する。
図9(A)、(B)、(C)は、鋼管W0をプレス加工してトーションビームの中間成形品12Lを成形した場合の折返形状部12Kの厚さ方向に分布する周方向の応力を示す図である。なお、図中に示す矢印は右向きが引張応力を、左向きが圧縮応力を表している。
【0043】
図9(A)は、鋼管W0をプレス加工した後の折返形状部12Kの厚さ方向に分布する周方向の応力を示しており、中立線Zを挟んでトーションビームの中間品12Aの突出外側に引張応力S1が、内側に圧縮応力S2が形成されている。
【0044】
図9(B)は、ハイドロフォームによりトーションビーム12Aの内方を加圧することで、折返形状部12Kに周方向の引張力Rを与え、周方向の引張応力S3を発生させた状態を示している。
【0045】
図9(C)は、折返形状部12Kに周方向の引張応力S3を与えたことにより、折返形状部12Kの圧縮応力S2が引張応力S11となり、折返形状部12Kが周方向に伸延された状態を示している。
【0046】
図9(D)は、ハイドロフォームにより折返形状部12Kに形成された引張応力S11及び周方向の伸延が、ハイドロフォームによる加圧を解除することにより矢印SP方向にスプリングバックするのを示す概略図である。
【0047】
図9(E)は、引張応力S11及び周方向の伸延がスプリングバックした後の一例を示す概略図であり、例えば、スプリングバック後の厚さ方向に分布する引張応力S12がプレス成形時の引張応力S1よりも小さくなる。また、圧縮応力S21、22が、プレス成形時の圧縮応力S2より小さくなることがより好適である。ここで、中立線Zは折返形状部12Kの外(凹側)に変位していることが好適であり、この変位は引張応力S3が付与されることにより実現される(図9(C)〜(E)参照)。
【0048】
このように、スプリングバック後の引張応力の平均値、好適には局所的な引張応力の最大値を低減することにより、金属疲労の進展が抑制される。なお、図9(E)に示すスプリングバック後の厚さ方向の応力分布は一例を示すものであり、例えば、引張応力S21がプレス成形時の引張応力S1よりも小さければ、図9(E)に示す応力分布に限定されない。
【0049】
なお、図10は、トーションビーム12の作用の変形例を示す図であり、図9(E)と対応している。図10が、図9(E)と異なるのは、ハイドロフォームによる加圧を解除した後に、折返形状部12Kの厚さ方向に引張応力S31と一部に圧縮応力S32が分布し、中立線Zが折返形状部12Kの厚さ方向の内部に位置している点である。
このように、圧縮応力S32が一部に残留した場合であっても、スプリングバック後の引張応力の平均値、好適には局所的な引張応力の最大値が材料の降伏点以下とされることにより金属疲労が抑制される。なお、残留する引張応力の平均値又は局所的な引張応力の最大値が降伏点よりも大きい場合であっても、金属疲労を抑制することができる点で有効である。
【0050】
以上のように、折返形状部12Kが拡管されて、折返形状部12Kにトーションビーム中間品12Aの周方向に引張応力を発生させることにより、折返形状部12Kの厚さ方向に分布する応力に均一に近づけることができ、スプリングバック後に、引張応力の平均値、好適には局所的な引張応力の最大値を低減することができる。
【0051】
第1の実施形態に係るトーションビーム12によれば、折返形状部12Kの厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけて残留させ、スプリングバック後の引張応力を低減することで、金属疲労が抑制されて疲労強度を向上することができ、ひいては、所望のサスペンション性能を確保しつつトーションビームの金属疲労を効果的に低減することができる。
【0052】
また、外形形状に関する変化は小さいため、トーションビームの形状が設定された後においても、車両部品の空間的な取り合いを気にすることなく疲労強度を向上することができる。
【0053】
<実施例>
次に、本発明を実施例でさらに説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0054】
実施例として、第1の実施形態の要領において、表1に示す素材管を用いて、表2に示すような複数の加工条件下でトーションビーム12を製造し、該トーションビームの折返形状部12Kにおける肉厚減少率と、残留応力の最大値およびと表層部における最大値を調べた。その結果を表2に示すが、本発明例のいずれもが比較例に比べて残留応力の最大値が低減し、疲労強度を向上することができると分かる。また、表層部の最大残留応力も減少し、疲労亀裂の発生を抑制できると分かる。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
次に、図11を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。
図11は、本発明の第2の実施形態に係る、例えば、プラントに使用されて周方向の回動を繰り返す中空の回動軸(塑性加工品)50を示す図であり、図11(A)は、回動軸50の斜視図を、図11(B)は図11(A)におけるX−X断面を、図11(C)は図11(A)におけるY−Y断面を示している。
【0058】
次回動軸50は、回動軸外周に配置するセンサ(不図示)の頭部を回動軸50の外周面より内周側に配置するために回動軸50の内方に膨出する球面の一部からなる取付凹形状部(成形部)55が形成され、取付凹形状部55には、回動軸50の側方から見た場合の中央にセンサの取付孔56が形成されている。
【0059】
取付凹形状部55は、例えば、鋼管に押圧部材を外方から当接して、外方から内方に向かって押圧することにより成形されている。
取付凹形状部55を成形した後に、回動軸50の両端開口部を液密に封じし、取付凹形状部55における対象部位(疲労強度を向上させるべき対象部位)の外方に隙間を設けて外型を配置し、内方をハイドロフォームにより加圧して対象部位を外方に拡管して変位させる。
ハイドロフォームによる加圧を解除して、外方に変位した部位がスプリングバックする。
なお、取付孔56は、ハイドロフォームによる加圧終了後に、機械加工等により加工する。
【0060】
第2の実施形態に係る回動軸50によれば、取付凹形状部55が構成する閉断面に周方向の引張応力が付与されることにより、対象部位の厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけることができ、スプリングバック後の残留応力が低減して疲労強度を向上することができる。また、第2の実施形態によれば、対象部位の厚さ方向に分布する周方向の応力に加えて、鋼管の長手方向における応力についても均一に近づけることができる。
【0061】
なお、第2の実施形態においては、取付凹形状部55を押圧部材により成形する場合について説明したが、プレス成形等により成形させてもよいし、内方に膨出する球面の一部からなる取付凹形状部55に代えて他の形状に成形してもよい。
【0062】
また、ハイドロフォームにより取付凹形状部55を拡管することにより付与する場合について説明したが、例えば、閉断面の周方向に直接引張力を加えてもよいしルータ等により変位を与えて引張応力を付与してもよい。
【0063】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更をすることが可能である。
例えば、上記実施の形態においては、トーションビーム12の頂部14Tが上方に形成され、閉断面が車両の前後方向において対称とされた場合について説明したが、頂部14Tが下方に形成された構成としてもよい。また、閉断面を略V字状と略U字状のいずれとするかは任意に設定可能であり、閉断面が車両の前後方向において非対称に形成されていてもよい。また、引張応力S3を折返形状部12Kに付与する場合について説明したが、折返形状部12K以外の部位に適用してもよいことはいうまでもない。
【0064】
また、上記実施の形態においては、周方向の引張応力をハイドロフォームにより与える場合について説明したが、閉断面内方から拡管する機械的手段等、ハイドロフォーム以外の閉断面の側部に外力(圧力を含む)を付与する手段、対象部位近傍にルータ等により変位を与えて引張応力を形成してもよい。
【0065】
また、上記実施の形態においては、トーションビーム式サスペンション装置がトーションビーム式リアサスペンション装置1である場合について説明したが、例えば、リーディングアーム式サスペンション装置に適用してもよい。
【0066】
また、上記第2の実施形態においては、塑性加工品が全長にわたって筒状とされた回動軸50である場合について説明したが、回動軸に限定されないことはいうまでもなく、鋼材の筒状部が、例えば、テーパを有している場合、鋼材の長さ方向の一部に筒状部が形成されている場合、成形部が長さ方向の一部に形成されている場合、又は成形部が複数形成されている場合に適用できることはいうまでもない。また成形部の位置、大きさは任意に設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
この発明に係る塑性加工品、塑性加工品の製造方法、トーションビーム、トーションビームAssy、トーションビーム式サスペンション装置、トーションビームの製造方法によれば、疲労強度が向上されるので、産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
W0 鋼管
1 トーションビーム式リアサスペンション装置(トーションビーム式サスペンション装置)
10 トーションビームAssy
12 トーションビーム
12K 折返形状部(対象部位)
50 回動軸(塑性加工品)
55 取付凹形状部(成形部)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料、又は金属と樹脂とからなる複合材料により構成されて筒状部を有する材料に前記筒状部の外方から内方に向かう変位を与えて成形部とした塑性加工品の製造方法であって、
前記筒状部を外方から内方に向かって変位する成形部を成形し、
前記成形部に、前記成形部が構成する閉断面に周方向の引張応力を付与して、前記成形部の厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけ、スプリングバック後の残留応力を低減することを特徴とする塑性加工品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の塑性加工品の製造方法であって、
前記成形部に対する前記周方向の周方向の引張応力を付与するために、前記成形部の対象部位の外方に隙間を設けて前記成形部により構成される閉断面の内方を加圧することを特徴とする塑性加工品の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の塑性加工品の製造方法であって、
前記成形部に対する前記周方向の引張応力を付与するために、前記成形部により構成される閉断面の内方を加圧しながら、前記成形部の管端部から材料を軸押しすることを特徴とする塑性加工品の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の塑性加工品の製造方法であって、
前記成形部に対する前記周方向の引張応力を付与するために、前記成形部の対象部位の外方に隙間を設けて、前記成形部により構成される閉断面の内方を加圧しながら、前記成形部の管端部から材料を軸押しすることを特徴とする塑性加工品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の塑性加工品の製造方法を用いて製造したことを特徴とする塑性加工品。
【請求項6】
サスペンション装置において左右のアームを連結し、車体の幅方向と直交する断面において、前記車体の前後方向における前端及び後端間が上下方向のいずれかに突出する略V字状又は略U字状の閉断面とされたトーションビームの製造方法であって、
素材管の長手方向の少なくとも一部に前記素材管の外方から内方に向かう変位を与えて前記略V字状又は略U字状の閉断面を成形し、
前記略V字状又は略U字状の閉断面に周方向の引張応力を付与して、前記略V字状又は略U字状を構成する材料の厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけ、スプリングバック後の残留応力を低減することを特徴とするトーションビームの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のトーションビームの製造方法であって、
前記略V字状又は略U字状の閉断面における周方向の引張応力を付与するために、疲労強度向上の対象とされる前記略V字状又は略U字状の閉断面の外方に隙間を設けて、前記閉断面の内方を加圧することを特徴とするトーションビームの製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載のトーションビームの製造方法であって、
前記略V字状又は略U字状の閉断面における周方向の引張応力を付与するために、前記閉断面の内方を加圧しながら、前記成形部の管端部から材料を軸押しすることを特徴とするトーションビームの製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載のトーションビームの製造方法であって、
前記略V字状又は略U字状の閉断面における周方向の引張応力を付与するために、疲労強度向上の対象とされる前記略V字状又は略U字状の閉断面の外方に隙間を設けて、前記閉断面の内方を加圧しながら、前記成形部の管端部から材料を軸押しすることを特徴とするトーションビームの製造方法。
【請求項10】
請求項6〜9に記載のトーションビームの製造方法を用いて製造したことを特徴とするトーションビーム。
【請求項11】
請求項10に記載のトーションビームを備えることを特徴とするトーションビームAssy。
【請求項12】
請求項11に記載のトーションビームAssyを備えることを特徴とするトーションビーム式サスペンション装置。
【請求項1】
金属材料、又は金属と樹脂とからなる複合材料により構成されて筒状部を有する材料に前記筒状部の外方から内方に向かう変位を与えて成形部とした塑性加工品の製造方法であって、
前記筒状部を外方から内方に向かって変位する成形部を成形し、
前記成形部に、前記成形部が構成する閉断面に周方向の引張応力を付与して、前記成形部の厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけ、スプリングバック後の残留応力を低減することを特徴とする塑性加工品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の塑性加工品の製造方法であって、
前記成形部に対する前記周方向の周方向の引張応力を付与するために、前記成形部の対象部位の外方に隙間を設けて前記成形部により構成される閉断面の内方を加圧することを特徴とする塑性加工品の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の塑性加工品の製造方法であって、
前記成形部に対する前記周方向の引張応力を付与するために、前記成形部により構成される閉断面の内方を加圧しながら、前記成形部の管端部から材料を軸押しすることを特徴とする塑性加工品の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の塑性加工品の製造方法であって、
前記成形部に対する前記周方向の引張応力を付与するために、前記成形部の対象部位の外方に隙間を設けて、前記成形部により構成される閉断面の内方を加圧しながら、前記成形部の管端部から材料を軸押しすることを特徴とする塑性加工品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の塑性加工品の製造方法を用いて製造したことを特徴とする塑性加工品。
【請求項6】
サスペンション装置において左右のアームを連結し、車体の幅方向と直交する断面において、前記車体の前後方向における前端及び後端間が上下方向のいずれかに突出する略V字状又は略U字状の閉断面とされたトーションビームの製造方法であって、
素材管の長手方向の少なくとも一部に前記素材管の外方から内方に向かう変位を与えて前記略V字状又は略U字状の閉断面を成形し、
前記略V字状又は略U字状の閉断面に周方向の引張応力を付与して、前記略V字状又は略U字状を構成する材料の厚さ方向に分布する周方向の応力を均一に近づけ、スプリングバック後の残留応力を低減することを特徴とするトーションビームの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のトーションビームの製造方法であって、
前記略V字状又は略U字状の閉断面における周方向の引張応力を付与するために、疲労強度向上の対象とされる前記略V字状又は略U字状の閉断面の外方に隙間を設けて、前記閉断面の内方を加圧することを特徴とするトーションビームの製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載のトーションビームの製造方法であって、
前記略V字状又は略U字状の閉断面における周方向の引張応力を付与するために、前記閉断面の内方を加圧しながら、前記成形部の管端部から材料を軸押しすることを特徴とするトーションビームの製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載のトーションビームの製造方法であって、
前記略V字状又は略U字状の閉断面における周方向の引張応力を付与するために、疲労強度向上の対象とされる前記略V字状又は略U字状の閉断面の外方に隙間を設けて、前記閉断面の内方を加圧しながら、前記成形部の管端部から材料を軸押しすることを特徴とするトーションビームの製造方法。
【請求項10】
請求項6〜9に記載のトーションビームの製造方法を用いて製造したことを特徴とするトーションビーム。
【請求項11】
請求項10に記載のトーションビームを備えることを特徴とするトーションビームAssy。
【請求項12】
請求項11に記載のトーションビームAssyを備えることを特徴とするトーションビーム式サスペンション装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−91433(P2013−91433A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234995(P2011−234995)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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