説明

塗布フィルム

【課題】 優れた塗布外観および透明性を有し、かつ良好な耐水性を示す塗布層をも有し、気記録媒体のベースフィルム、製版用フィルム、包装用フィルム、各種ディスプレイに用いる光学用フィルムおよびその表面保護フィルムなど幅広い用途において、好適に利用することができるポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 下記一般式の構造を有する高分子化合物と、シランカップリング剤とを含有する塗布液を塗布して形成された塗布層をポリエステルフィルムの片面に有することを特徴とする塗布フィルム。
【化1】


(上記一般式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Xは1価のカチオンを表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布フィルムに関し、さらに詳しくは、優れた塗布外観および透明性を有し、かつ良好な耐水性を示す塗布層をもつポリエステルフィルムに関するものである
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、機械的強度、寸法安定性、平坦性、耐熱性、耐薬品性、透明性等の優れた特性を有することから、磁気記録媒体のベースフィルム、製版用フィルム、包装用フィルム、各種ディスプレイに用いられる光学用フィルムおよびその表面保護フィルムなど幅広い用途に使用されている。
【0003】
しかし、プラスチックフィルム共通の問題として、静電気が発生して帯電しやすいと言う点が挙げられる。そのため、フィルム加工時あるいは加工製品の走行性不良や、周囲の埃等を引きつけるという問題を起こす。
【0004】
一般に、ポリエステルフィルムの帯電防止方法としては、有機スルホン酸塩等の低分子量のアニオン性界面活性剤タイプの化合物を練り込む方法、金属化合物を蒸着する方法、アニオン性化合物やカチオン性化合物、あるいはいわゆる導電性化合物を表面に塗布する方法等がある。
【0005】
アニオン性化合物を練り込む方法は、安価に製造できるという利点があるものの、帯電防止効果において限界がある。さらに低分子量化合物を用いるため、いわゆるブルーミングによりアニオン性化合物がポリエステルフィルム表面に集まり、ポリエステルフィルムと上塗り層との接着力が低下したり、アニオン性化合物がフィルムや搬送ロールに転着したりする等の問題が生じる。また、このため、帯電防止性能も低下する。
【0006】
金属化合物を蒸着する方法は、帯電防止性が優れ、近年は透明導電性フィルムとして用途が拡大しているものの、製造コストが高く、特定の用途には向いているが、一般の帯電防止フィルムとしては利用し難い。
【0007】
帯電防止剤として高分子量のカチオン性化合物またはアニオン性化合物をフィルムに塗布する方法は、上記のような欠点が少なく優れた方法として採用されている。
【0008】
塗布法による帯電防止フィルムとして、例えば、アニオン性帯電防止樹脂としてポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩等の高分子量の帯電防止剤を塗布したフィルムが知られているが、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩の単独重合体は、塗布延伸法に適用した場合、条件によっては塗布層が不連続となるため、帯電防止効果が十分発揮されないことがある。さらに、塗布層に無数のクラックが入り、フィルムが白化する欠点があるため、透明性の要求される用途には不適格である。
【0009】
ポリビニルスルホン酸ナトリウム塩に代表される脂肪族モノマーのスルホン酸塩を塗布したフィルムは帯電防止効果の湿度依存性が大きく40%RH以下の湿度下では、期待された帯電防止効果が発揮されない場合がある。
【0010】
ポリスチレンスルホン酸とポリチオフェンの複合体等に代表される導電性高分子を塗布したフィルムは、帯電防止効果は十分に得ることができるが、導電性高分子の値段が高く、さらにこれら導電性高分子は色を有しているため、塗布フィルムの着色も問題になることがあり、帯電防止効果を有するフィルムを安価に製造するには不適格である。
【0011】
4級アンモニウム塩等に代表されるカチオン系帯電防止剤を塗布したフィルムは、アニオン性帯電防止剤に比べ熱的安定性に劣るため、通常の条件で塗布延伸を実施した場合は、延伸、熱処理工程で揮散あるいは熱分解が生じて、期待された帯電防止効果が発揮されない場合がある。
【0012】
上記課題に対しては、特許文献1にポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩を用いたフィルムの透明性が比較的良好な帯電防止フィルムが開示されている。
【0013】
しかし、光学フィルム用途での使用は、さらに高度な透明性や塗布外観が要求されるため、上記の帯電防止フィルムでは依然として性能が不十分である。
【0014】
また、表面保護フィルム用途での使用は、加工工程において粘着剤が付着した場合、水や有機溶剤などで表面を拭い取る作業が通常行われるため、耐水性等も要求されるが、上記の帯電防止フィルムはこれらの要求を考慮していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平9−1752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、優れた塗布外観および透明性を有し、かつ良好な耐水性を示す塗布層をもつポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、特定の種類の化合物の組み合わせからなる塗布層を設けることによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明の要旨は、下記一般式の構造を有する高分子化合物と、シランカップリング剤とを含有する塗布液を塗布して形成された塗布層をポリエステルフィルムの片面に有することを特徴とする塗布フィルムに存する。
【0019】
【化1】

【0020】
(上記一般式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Xは1価のカチオンを表す)
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、優れた塗布外観および透明性を有し、かつ良好な帯電防止性と耐溶剤性を示す塗布フィルムを提供することができ、その工業的な利用価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の
塗布フィルムの基材フィルムは、ポリエステルフィルムである。かかるポリエステルとは、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸のようなジカルボン酸またはそのエステルとエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールのようなグリコールとを溶融重縮合させて製造されるポリエステルである。これらの酸成分とグリコール成分とからなるポリエステルは、通常行われている方法を任意に使用して製造することができる。例えば、芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとの間でエステル交換反応をさせるか、あるいは芳香族ジカルボン酸とグリコールとを直接エステル化させるかして、実質的に芳香族ジカルボン酸のビスグリコールエステル、またはその低重合体を形成させ、次いでこれを減圧下、加熱して重縮合させる方法が採用される。その目的に応じ、脂肪族ジカルボン酸等を共重合しても構わない。
【0023】
本発明におけるポリエステルとしては、代表的には、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート等が挙げられるが、その他に上記の酸成分やグリコール成分を共重合したポリエステルであってもよく、必要に応じて他の成分や添加剤を含有していてもよい。
【0024】
本発明におけるポリエステルフィルムには、フィルムの走行性を確保したり、キズが入ることを防いだりする等の目的で粒子を含有させることができる。このような粒子としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化アルミニウム、酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン等の無機粒子、架橋高分子粒子、シュウ酸カルシウム等の有機粒子、さらに、ポリエステル製造工程時の析出粒子等を用いることができる。
【0025】
用いる粒子の粒径や含有量は、フィルムの用途や目的に応じて選択されるが、平均粒径に関しては、通常は0.01〜5.0μmの範囲である。平均粒径が5.0μmを超えるとフィルムの表面粗度が粗くなりすぎたり、粒子がフィルム表面から脱落しやすくなったりすることがある。平均粒径が0.01μm未満では、表面粗度が小さすぎて、十分な易滑性が得られない場合がある。粒子含有量については、ポリエステルに対し、通常0.0003〜1.0重量% 、好ましくは0.0005〜0.5 重量%の範囲である。粒子含有量が0.0003重量%未満の場合には、フィルムの易滑性が不十分な場合があり、一方、1.0重量%を超えて添加する場合にはフィルムの透明性が不十分な場合がある。
【0026】
また、本発明のフィルム中には、適宜、各種安定剤、潤滑剤、帯電防止剤を加えることもできる。
【0027】
本発明のフィルムの製膜方法としては、通常知られている製膜法を採用でき、特に制限はない。例えば、まず溶融押出によって得られたシートを、ロール延伸法により、70〜145 ℃ で2〜6倍に延伸して、一軸延伸ポリエステルフィルムを得、次いで、テンター内で先の延伸方向とは直角方向に80〜160℃で2〜6倍に延伸し、さらに、150〜250℃で1〜600秒間熱処理を行うことでフィルムが得られる。さらにこの際、熱処理の最高温度ゾーンおよび/または熱処理出口のクーリングゾーンにおいて、縦方向および/または横方向に0.1〜20%弛緩する方法が好ましい。
【0028】
本発明におけるポリエステルフィルムは、単層または多層構造である。多層構造の場合は、表層と内層、あるいは両表層を目的に応じ化学組成や配合組成が異なるポリエステルを使用することができる。
【0029】
本発明のポリエステルフィルムは塗布層を有するが、塗布層はフィルムの片面のみに設けていても、両面に設けていても、本発明に当然含まれるものである。
【0030】
本発明のフィルムの
塗布層を設けるための塗布液には、下記一般式の構造を有する高分子化合物を含む必要がある。
【0031】
【化2】

【0032】
上記一般式中、Rは水素原子またはメチル基であり、透明性および塗布外観の観点から、Rに水素原子を用いることが好ましく、Xは1価のカチオンであり、工業的利用の観点から、通常水素イオン(H)、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン,アンモニウムイオン(NH)などを用いる。本発明においては、帯電防止効果の観点から、Xに水素イオン(H)を用いた構造の化合物を用いるのが好ましい。
【0033】
本発明においては、上記一般式の構造を有する高分子であれば、合成上可能な、どのような高分子化合物でも使用することが可能であるが、帯電防止性能の観点から上記一般式の構造を60%以上含有している高分子化合物が好ましく、上記一般式の構造のみで構成される高分子化合物を使用することはさらに好ましい。
【0034】
上記一般式の構造を有する高分子化合物の重量平均分子量は、通常は1000以上、好ましくは2000以上、さらに好ましくは5000以上である。分子量がこの範囲より低い場合は、塗布層中から容易に除去されて経時的に性能の低下を引き起こしたり、塗布層がべたついたりするおそれがある。また、分子量が低いと耐熱安定性に劣る場合もある。
【0035】
また一方で、かかる化合物は分子量が高すぎる場合は、塗布液の粘度が高くなりすぎて塗工性を悪化させる等の不具合を生じる場合がある。そのような不具合を生じないためには、重量平均分子量が500000以下、好ましくは100000以下であることが好ましい。
【0036】
塗布液中の不揮発分中での上記一般式の構造を有する高分子化合物の比率は、5〜90%の範囲が好ましく、より好ましくは10〜80%の範囲、さらに好ましくは20〜70%の範囲である。帯電防止剤の比率が、この範囲より小さい場合には、塗布層の帯電防止性能が不十分となる傾向があり、この範囲より大きいと塗布層の透明性や塗布層の耐久性が劣る場合がある。
【0037】
本発明
における塗布層を設けるための塗布液には、シランカップリング剤を含む必要がある。シランカップリング剤とは、分子中に反応性基部位Yとアルコキシル基部位ORの2つを含有する、Y―Si(ORで表されるアルコキシシラン化合物のことであるが、分子中に反応性基部位Yとアルコキシル基部位ORを含有しているシラン化合物であれば、合成上可能である、どのようなシランカップリング剤でも本発明において使用することが可能である。
【0038】
シランカップリング剤が有する反応性基部位Yに関しては二重結合基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、ウレイド基、クロロプロピル基、ヒドロキシル基等の反応性基を含んでいる構造となっていれば、どの様な構造でも反応性基部位Yとして用いることが可能である。
【0039】
本発明においては、シランカップリング剤の中でも、塗布外観および透明性を改善する効果の観点から、エポキシ基を含有する構造のシランカップリング剤の使用が好ましい。 塗布液中の不揮発分中でのシランカップリング剤の比率は、1%〜90%の範囲が好ましく、より好ましくは3%〜50%の範囲、さらに好ましくは4%〜30%の範囲である。シランカップリング剤の比率が、この範囲より小さい場合には、塗布層の塗布外観や耐溶剤性が不十分となる傾向があり、この範囲より大きいと帯電防止性能や塗布外観および透明性の悪化が起きる場合がある。
【0040】
本発明で使用する塗布液中には、架橋剤を含んでいてもよい。架橋剤は主に、他の樹脂や化合物に含まれる官能基との架橋反応や、自己架橋によって、塗布層の凝集性、表面硬度、耐擦傷性、耐溶剤性、耐水性等を改良することができる。
【0041】
本発明において、使用することのできる架橋剤には特に制限は無く、どの様な種類の架橋剤でも使用することが可能で、例えばメラミン系、ベンゾグアナミン系、尿素系などのアミノ樹脂や、オキサゾリン系、エポキシ系、グリオキサール系、イソシアネート系、カルボジイミド系などが好適に用いられるが、シランカップリング剤との組合せによる塗布外観および耐水性の改善効果の観点から、エポキシ系の架橋剤を用いることが好ましい。
また、これら架橋剤には他のポリマー骨格に反応性基を持たせた、ポリマー型架橋反応性化合物も含まれており、さらに本発明においては、これら架橋剤を2種以上併用して使用することも可能である。
【0042】
塗布液中の不揮発分中での架橋剤の比率は、1〜90%の範囲が好ましく、より好ましくは3〜50%の範囲、さらに好ましくは5〜30%の範囲である。
【0043】
本発明で使用する塗布液中には、シランカップリング剤との組合せによる塗布外観および耐水性の改善効果の観点から、水酸基を1つ以上有する化合物を1種以上含んでいてもよい。水酸基を1つ以上有する化合物としては、前記改善効果の観点から、ポリアルキレンオキサイド、グリセリンを使用することが好ましく、ポリグリセリン、グリセリンまたはポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物の使用はさらに好ましい。
【0044】
本発明で使用するグリセリン、ポリグリセリンとは、例えば、下記一般式で表される化合物である。
【0045】
【化3】

【0046】
上記式中のnが1の化合物がグリセリンであり、nが2以上の化合物はポリグリセリンである。また、グリセリンまたはポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物とは、すなわち、上記一般式で表されるグリセリンまたはポリグリセリンのヒドロキシル基にアルキレンオキサイドまたはその誘導体を付加重合した構造を有するものである。
【0047】
グリセリンまたはポリグリセリン骨格のヒドロキシル基ごとに、付加されるアルキレンオキサイドまたはその誘導体の構造は異なっていても構わない。また、少なくとも分子中一つのヒドロキシル基に付加されていればよく、全てのヒドロキシル基にアルキレンオキサイドまたはその誘導体が付加されている必要はない。
【0048】
グリセリンまたはポリグリセリンに付加されるアルキレンオキサイドまたはその誘導体として好ましいものは、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド骨格を含んだ構造である。アルキレンオキサイド構造中のアルキル鎖が長くなりすぎると、疎水性が強くなり、塗布液中での均一な分散性が悪化し、帯電防止性塗布層の帯電防止性や透明性が悪化する傾向がある。
【0049】
ポリグリセリンとしては、上記一般式の化合物において、nが2〜20のものが特に好ましい。また、グリセリンまたはポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物としては、上記式の化合物においてnが2のものにエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイドを付加した構造のものが好ましく、また、その付加数は、最終的な化合物としての重量平均分子量で300〜2000の範囲になるものが特に好ましい。
【0050】
塗布液中の不揮発分中での水酸基を1つ以上有する化合物の比率は、1〜90%の範囲が好ましく、より好ましくは3〜50%の範囲、さらに好ましくは5〜30%の範囲である。
【0051】
本発明で使用する塗布液は、本発明を阻害しない範囲において、界面活性剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、有機粒子、無機粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料等の添加剤を含有していてもよい。これらの添加剤は単独で用いてもよいが、必要に応じて二種以上を併用してもよい。
【0052】
本発明における塗布液は、取扱い上、作業環境上、また塗布液組成物の安定性の面から、水溶液または水分散液であることが望ましいが、水を主たる媒体としており、本発明の要旨を越えない範囲であれば、有機溶剤を含有していてもよい。
【0053】
本発明による塗布層は、特定の化合物を含有する塗布液をフィルムに塗布することにより設けられ例えば、インラインコーティング等が好適である。
【0054】
インラインコーティングは、ポリエステルフィルム製造の工程内でコーティングを行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押出ししてから二軸延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸シート、その後に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルムの何れかにコーティングする。これらの中では、一軸延伸フィルムにコーティングした後にテンターにおいて乾燥および横方向への延伸を行い、さらに基材フィルムと共に熱処理をする方法が優れている。かかる方法によれば、製膜と塗布層塗設を同時に行うことができるため製造コスト上のメリットがあり、コーティング後に延伸を行うために薄膜コーティングが容易であり、コーティング後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温であるために塗布層の造膜性が向上し、また塗布層とポリエステルフィルムが強固に密着する。特に、塗布層に架橋反応性化合物を含有する場合には、インラインコーティングの高温の熱処理により、反応残基が残りにくくなるというメリットがある。塗布層中に反応残基があることは、フィルムをロール状に巻いたときのブロッキングや、後の工程で塗布層の上に別の層を設けた際に、上塗り層の成分と反応を起こすことがあり好ましくない。
【0055】
ポリエステルフィルムに塗布液を塗布する方法としては、例えば、原崎勇次著、槙書店、1979年発行、「コーティング方式」に示されるような塗布技術を用いることができる。具体的には、エアドクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、リバースロールコーター、トランスファロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、キャストコーター、スプレイコーター、カーテンコーター、カレンダコーター、押出コーター、バーコーター等のような技術が挙げられる。
【0056】
塗布層の厚さは、最終的な被膜としてみた際に、通常0.003〜1.5μm、好ましくは0.005〜0.5μm、さらに好ましくは0.01〜0.3μmである。塗工量が0.003μm未満の場合は十分な性能が得られない恐れがあり、1.5μmを超える塗布層は、外観の悪化や、コストアップを招き好ましくない。
また、実際の塗布層の厚みは、塗布フィルムをルテニウム化合物やオスミウム化合物等の重金属を用いて染色を行い、超薄切片法により塗布フィルムの断面を調整した後、透過型電子顕微鏡にて塗布フィルム断面の塗布層を複数個所観測し、その実測値を平均することで確認することができる。
【0057】
本発明のフィルムの塗布層の反対面には他の塗布層や処理が設けられていても構わない。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における評価方法やサンプルの処理方法は下記のとおりである。
【0059】
(1)塗布外観
塗布フィルムを暗室でハロゲンランプを用いて目視検査し、フィルム表面の塗布ムラを下記の基準により判定した。
○:塗布ムラが確認できない
○△:ほとんど塗布ムラが確認できない
×:明確な塗布ムラが確認できる
製品としての性能を鑑みた結果、○△以上を合格とした。
【0060】
(2)透明性
JIS−K7136に準じて、日本電色工業社製積分球式濁度計NDH−2000によりフィルムのヘーズを測定し、塗布層を設けていないフィルム(ヘーズ0.7%)に対するヘーズの上昇値(ΔH)を求めた。塗布層を設けていないフィルムに対して、塗布層を設けることによるヘーズの上昇値(ΔH)が小さいほど、塗布層の透明性が優れるといえる。製品としての性能を鑑みた結果、○△以上を合格とした。
○:ΔHが0%以下
○△:ΔHが0.3〜0.1%以下
×:ΔHが0.4%以上
【0061】
(3) 帯電防止性能
アジレントテクノロジー社製高抵抗測定器:HP4339Bおよび測定電極:HP16008Bを使用し、23℃,50%RHの測定雰囲気でサンプルを30分間調湿後、印可電圧100Vで1分後の塗布層の表面固有抵抗値を測定した。
試行回数は2回で、その平均を表面固有抵抗値とした。
製品としての性能を鑑みた結果、表面固有抵抗値が5×1012Ω未満の値を合格とした。
○:表面固有抵抗値が5×1012Ω未満
×:表面固有抵抗値が5×1012Ω以上
【0062】
(4)耐水性(帯電防止性能)
40℃の温水に24時間サンプルフィルムを浸した後、定性濾紙(TOYOアドヴァンテック製「No2」)で軽く挟んで付着した水分を取り除き、室温で一昼夜乾燥した後に、上記(3)に示すとおりの方法にて表面固有抵抗を測定した。
製品としての性能を鑑みた結果、○△以上を合格とした。
○:表面固有抵抗値が5×1011Ω未満
○△:表面固有抵抗値が5×1011Ω以上〜5×1012Ω未満
×:表面固有抵抗値が5×1012Ω以上
【0063】
実施例、比較例中で使用したポリエステル原料は次のとおりである。
(ポリエステル1)
実質的に粒子を含有しない、極限粘度0.66のポリエチレンテレフタレートのチップ
(ポリエステル2)
平均粒径2.5μmの非晶質シリカを0.2重量部含有する、極限粘度0.66のポリエチレンテレフタレートのチップ
【0064】
また、塗布組成物としては以下を用いた。
(A−1):ポリスチレンスルホン酸、重量平均分子量が約70000
(B−1):3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、平均分子量236
(C−1):グリシジルエーテルを有する多官能エポキシ化合物。
(D−1):前記一般式でn=2であるポリグリセリン骨格への、ポリエチレンオキサイド付加物。平均分子量350
【0065】
・ポリエステルフィルムの製造例
ポリエステル1とポリエステル2とを重量比で95/5でブレンドし、十分に乾燥した後、280〜300℃に加熱溶融し、T字型口金よりシート状に押し出し、静電密着法を用いて表面温度40〜50℃の鏡面冷却ドラムに密着させながら冷却固化させて、未延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを85℃の加熱ロール群を通過させながら長手方向に3.7倍延伸し、一軸配向フィルムとした。次いでこのフィルムをテンター延伸機に導き、100℃で幅方向に4.0倍延伸し、さらに230℃で熱処理を施し、フィルム厚みが100μmの二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。なお、この二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムのヘーズを日本電色工業社製積分球式濁度計NDH−2000により測定したところ0.7%であった。
【0066】
比較例1、実施例1〜3:
上記のポリエステルフィルムの製造例において、一軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した後、この一軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムに、下記の表1の比較例1および実施例1〜3の塗布組成物を塗布し、次いで上記のポリエステルの製造例と同様の操作を行うことで、フィルム厚みが100μmの二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、表1中に記載の塗工量の塗布層を有する塗布フィルムを得た。
なお、表1中に記載してある比の数値は、不揮発分重量比を表している。
【0067】
【表1】

【0068】
上記で得た塗布フィルムの評価特性を下記の表2に示す。
【0069】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のフィルムは、磁気記録媒体のベースフィルム、製版用フィルム、包装用フィルム、各種ディスプレイに用いる光学用フィルムおよびその表面保護フィルムなど幅広い用途において、好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式の構造を有する高分子化合物と、シランカップリング剤とを含有する塗布液を塗布して形成された塗布層をポリエステルフィルムの片面に有することを特徴とする塗布フィルム。
【化1】

(上記一般式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Xは1価のカチオンを表す)

【公開番号】特開2013−81899(P2013−81899A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223510(P2011−223510)
【出願日】平成23年10月8日(2011.10.8)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】