説明

塗布ヘッド及び該塗布ヘッドを備えた塗膜形成装置

【課題】簡便な構成で、段取り時の塗料の漏れを防止でき、かつ、均一な厚みの塗膜を形成できる塗布ヘッド及び該塗布ヘッドを備えた塗膜形成装置を提供する。
【解決手段】塗膜形成装置1は保持部と移動部12と塗布ヘッド13を備えている。保持部は軸芯Pが鉛直方向と平行な状態に基体4を保持する。塗布ヘッド13は円環の箱状に形成されて塗料7を収容しかつ内周面に全周に亘って開口部を設けているとともに基体4を内側に通して塗料7を基体4の外周面4cに塗布するヘッド本体37とヘッド本体37内の塗料7の液面7aの高さを測定する液面検知センサ53とヘッド本体37内の塗料7を収容可能な容積を変更自在な容積変更部14と液面検知センサ53が測定した液面7aの高さに基づいて容積変更部14を制御してヘッド本体37内の塗料7の液面7aの高さを適宜変更する制御装置18を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物の円筒面状の外周面に塗料を塗布して塗膜を形成する塗布ヘッド及び該塗布ヘッドを備えた塗膜形成装置に関する。例えば、PPC(普通紙複写機)、LBP(レーザビームプリンタ)、ファクシミリなどの電子写真方式を採用した画像形成装置において、転写紙上の未定着トナー像を加熱、加圧により定着させる定着部材(定着ローラ、定着ベルト)の離型層やプライマ層を形成するのに好適な塗布ヘッド及び該塗布ヘッドを備えた塗膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真の原理に基づく複写機およびプリンタなどの画像形成装置では、転写紙を狭厚し、熱によりトナーを溶融して該転写紙に定着させる定着プロセスを行う。近年、その定着プロセスで用いられる部品(定着ローラあるいは定着ベルト)には、基体上にシリコーンゴムなどの耐熱性ゴムで構成された弾性層(厚みが100μm〜300μm程度)と、該弾性層上に形成されたプライマ層と、フッ素樹脂で構成された離型層(厚みが20μm〜30μm程度)などが順に形成されて得られる。
【0003】
前述した離型層を形成するための工法としては、一般的に、スプレー噴霧して塗装するスプレーコーティング塗装が用いられてきた。しかし、スプレーによる噴霧は、塗着効率が20%〜30%(実際に塗装対象物に付着する塗料の割合)程度であり、塗装に用いる塗料のうち70%〜80%程度の塗料をすてていることとなり、非常に塗料の効率が悪く、非常に多くの塗料が必要となる。また、フッ素樹脂は、塗装が難しく、一度に20μm〜30μmの塗膜を吹き付けると、塗料をはじくなど表面欠陥ができてしまうため、前述した離型層を形成するためには薄い層を何層も重ねて塗装する必要があり作業時間が長時間化する傾向であった。
【0004】
一方これらの欠点を補う工法として浸漬塗装が考えられる。この浸漬塗装は、塗料を収容した液槽に被塗装物を浸し引き上げることで塗料を被塗装物に付着して塗膜を形成する方式であるため塗着効率が90%以上と非常に高く塗装時の塗料の無駄が少ない。しかしながら、この浸漬塗装では、液槽内に完全に被塗装物が浸るだけの液量の塗料が必要となり、前述した画像形成装置の定着プロセスで用いられる部品を、その軸方向に完全に浸すためには、500mm程度の深さの液槽が必要となり、大量の塗料が必要になるという問題があった。
【0005】
上記の問題の全てを回避する塗膜形成装置としての塗工装置(例えば特許文献1乃至3参照)が提案されている。この種の塗工装置は、液槽部としての塗布ヘッドを密閉して被塗装物と相対的に動かすことにより少ない塗料での浸漬塗装を実現している。前述した特許文献1乃至3に示された塗工装置は、同軸に配置された複数の被塗装物を連続的に塗装することも可能であり、勿論、被塗装物を一本ずつ塗装することも可能である。
【特許文献1】特開平8−23698号公報
【特許文献2】特開2004−279918号公報
【特許文献3】特開2004−290853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した特許文献1乃至3に示された塗工装置を用いて、被塗装物を一本ずつ塗装する際には、被塗装物を塗布ヘッドから取り外すと、該塗布ヘッド内からの塗料の漏れを防止するために、被塗装物を保持する保持部に前述した塗膜と同等の厚みのマスクを設けている。この場合、マスクに塗料が付着するために、塗装の度に該マスクを洗浄する必要があって、被塗装物を塗装するためにかかる工数が増加するという問題があった。
【0007】
また、特許文献1乃至3に示された塗工装置では、塗布ヘッド内の容積が小さいので、塗装中に該塗布ヘッド内の塗料の液面が低下して、塗膜の厚みが被塗装物の軸方向に異なることとなる。この種の問題を解決するためには、塗布ヘッド内の塗料を送り出すポンプや、該塗布ヘッド内の塗料を外部タンクなどに送り返すポンプなどを備えて、塗布ヘッド内と外部タンクとの間で塗料を循環させるための機構が必要となる。このように、塗膜の厚みを被塗装物の軸芯方向に均一とするためには、塗工装置が大型化するという問題があった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、簡便な構成で、段取り時の塗料の漏れを防止でき、かつ、均一な厚みの塗膜を形成できる塗布ヘッド及び該塗布ヘッドを備えた塗膜形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するために請求項1に記載の塗布ヘッドは、被塗装物の軸芯に沿って、当該被塗装物に相対的に移動し、当該被塗装物の円筒面状の外周面に塗料を塗布して、塗膜を形成する塗布ヘッドにおいて、円環の箱状に形成されて前記塗料を収容し、かつ内周面に全周に亘って開口部を設けているとともに、前記被塗装物を内側に通して前記塗料を前記被塗装物の外周面に塗布するヘッド本体と、前記ヘッド本体内の前記塗料の液面の高さを測定する測定手段と、前記ヘッド本体内の前記塗料を収容可能な容積を変更自在な容積変更手段と、前記測定手段が測定した前記液面の高さに基づいて、前記容積変更手段を制御して、前記ヘッド本体内の前記塗料の液面の高さを適宜変更する制御部と、を備えたことを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の塗布ヘッドは、請求項1に記載の塗布ヘッドにおいて、前記制御部が、前記塗料の塗布中の前記測定手段が測定した前記液面の高さが一定となるように、前記容積変更手段を制御する制御部であることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の塗布ヘッドは、請求項1又は請求項2に記載の塗布ヘッドにおいて、前記容積変更手段が、前記ヘッド本体内に侵入したり前記ヘッド本体内から離脱する方向に前記ヘッド本体に対して移動自在に設けられた侵入子と、前記制御部からの命令通りに前記侵入子を前記ヘッド本体内に侵入したり前記ヘッド本体内から離脱する方向に移動させる侵入子移動部と、を備えたことを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載の塗布ヘッドは、請求項3に記載の塗布ヘッドにおいて、前記侵入子内に設けられた冷媒を循環する冷媒循環部と、前記冷媒循環部内の冷媒の温度を一定に保つ熱交換機と、を備えたことを特徴としている。
【0013】
請求項5に記載の塗布ヘッドは、請求項1又は請求項2に記載の塗布ヘッドにおいて、前記容積変更手段が、前記ヘッド本体内に位置付けられて加圧された流体が供給されると膨張する弾性材料で構成された弾性袋と、前記制御部からの命令通りに前記弾性袋内に供給される加圧された流体の圧力を変更する圧力変更部と、を備えたことを特徴としている。
【0014】
請求項6に記載の塗布ヘッドは、請求項1又は請求項2に記載の塗布ヘッドにおいて、前記容積変更手段が、前記ヘッド本体内に侵入したり前記ヘッド本体内から離脱する方向に前記ヘッド本体に対して移動自在に設けられた磁石と、前記ヘッド本体に前記磁石と相対して取り付けられ、かつ電圧が印加されると前記磁石と異なる極性の磁力を発生する電磁石と、前記制御部からの命令通りに前記電磁石に印加される電圧を変更する電圧変更部と、を備えたことを特徴としている。
【0015】
請求項7に記載の塗布ヘッドは、請求項1乃至請求項6のうちいずれか一項に記載の塗布ヘッドにおいて、前記ヘッド本体の底面には、該ヘッド本体の中央に向かうにしたがって徐々に上方に向い、かつ前記軸芯に対して傾斜した傾斜面が設けられていることを特徴としている。
【0016】
請求項8に記載の塗膜形成装置は、被塗装物の円筒面状の外周面に塗料を塗布して塗膜を形成する塗膜形成装置において、前記外周面を露出させかつ前記被塗装物の軸芯が鉛直方向と平行な状態で当該被塗装物を保持する保持部と、前記塗料を収容し、かつ、前記被塗装物に対して相対的に移動して前記塗料を前記被塗装物の外周面に塗布する塗布ヘッドと、前記保持部と前記塗布ヘッドとを前記軸芯に沿って相対的に移動させる移動部と、を備え、前記塗布ヘッドとして請求項1乃至請求項7のうちいずれか一項に記載の塗布ヘッドを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の塗布ヘッドによれば、容積変更手段にヘッド本体内の容積を適宜変更させることで、ヘッド本体内の塗料の液面の高さを適宜変更できるので、段取り時にはヘッド本体内の塗料の液面を降下させることができるとともに、被塗装物の塗布時には容積変更手段にヘッド本体内の容積を徐々に減少させて塗料の液面の高さを一定に保つことができる。よって、容積変更手段を設けるという簡便な構成で、段取り時の塗料の漏れを防止でき、そのために被塗装物の着脱時にマスクを用いる必要が無くなり段取り時の所要工数を削減できるとともに、均一な厚みの塗膜を確実に形成することができる。
【0018】
請求項2に記載の塗布ヘッドによれば、制御部が被塗装物の塗布時にヘッド本体内の塗料の液面の高さを一定に保つように容積変更手段を制御するので、均一な厚みの塗膜を確実に形成することができる。
【0019】
請求項3に記載の塗布ヘッドによれば、制御部からの命令通りに侵入子移動部が侵入子をヘッド本体内に出し入れするので、ヘッド本体内の塗料の液面の高さの微細な変化にも追従させて侵入子をヘッド本体内に出し入れすることができ、そのために、ヘッド本体内の塗料の液面を確実に一定に保つことができる。よって、均一な厚みの塗膜をより確実に形成することができる。
【0020】
請求項4に記載の塗布ヘッドによれば、侵入子内に設けられた冷媒を流す冷媒循環部と冷媒を一定の温度に保つ熱交換機を備えているので、塗料の粘度にムラが生じることを防止するために該塗料を攪拌しても、塗料の温度が上昇して該塗料の粘度が変化することを防止でき、そのために、高精度な厚みの塗膜を形成することができる。
【0021】
請求項5に記載の塗布ヘッドによれば、制御部からの命令通りに圧力変更部が弾性袋内の加圧された流体の圧力を変更するので、ヘッド本体内の塗料の液面の微細な変化にも追従させて弾性袋を膨らませることができ、そのために、ヘッド本体内の塗料の液面を確実に一定に保つことができる。よって、均一な厚みの塗膜をより確実に形成することができる。
【0022】
請求項6に記載の塗布ヘッドによれば、制御部からの命令通りに電磁石が発生する磁力を変更して、ヘッド本体内への磁石の侵入量を変更するので、ヘッド本体内の塗料の液面の微細な変化にも追従させて磁石をヘッド本体に出し入れすることができ、そのために、ヘッド本体内の液面を確実に一定に保つことができる。よって、均一な厚みの塗膜をより確実に形成することができる。
【0023】
請求項7に記載の塗布ヘッドによれば、ヘッド本体の底面が被塗装物のほうから同心円状に遠ざかるほど低くなるため、塗装終了後にヘッド本体内の塗料の液面を降下させると塗料がヘッド本体内に確実に戻り、そのために、被塗装物をヘッド本体の内側から抜いても、塗料がヘッド本体から溢れることがなくなり、よって、マスクなどでヘッド本体をシールする必要がなくなるためマスクレスで塗装することが可能となる。したがって、マスクを洗浄する必要がないので、段取り作業にかかる工数が増加することを防止できる。
【0024】
請求項8に記載の塗膜形成装置によれば、前述した塗布ヘッドを備えているので、容積変更手段を設けるという簡便な構成で、段取り時の塗料の漏れを防止できるとともに、均一な厚みの塗膜を確実に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の第1の実施形態を、図1乃至図4、図11及び図12を参照して説明する。なお、図1は本発明に係る一実施形態の塗膜形成装置の構成図であり、図2乃至図4は図1に示された塗膜形成装置の塗布ヘッドなどの断面図である。
【0026】
図1に示された塗膜形成装置1は、コピー機などの画像形成装置を構成する定着ベルト2(図11に示す)のプライマ層3(図12に示す)と弾性層5とが形成された被塗装物としての基体4に塗膜としての離型層6を形成する装置である。
【0027】
定着ベルト2は、図11に示すように、無端状に形成されている。定着ベルト2は、図12に示すように、ポリイミド、Niなどで構成された無端ベルト状の基体4と、プライマ層3と、シリコーンゴムなどの耐熱性ゴムで構成された弾性層5と、プライマ層3と、フッ素樹脂で構成された離型層6とが順に積層されて構成されている。弾性層5の厚みTは、100〜300μm程度に形成されている。離型層6の厚みは、20〜30μm程度に形成されている。前述した離型層6が形成される前の被塗装物としての基体4の前述したプライマ層3と合わせた厚みは、200μm〜400μm程度に形成されている。即ち、前述した基体4は、全体として比較的薄肉で変形しやすくなっている。
【0028】
また、プライマ層3と弾性層5と離型層6は、基体4の幅方向の一端部(塗膜形成装置1によって後述の塗料7が塗布される際には上端部)4aと、基体4の幅方向の他端部(塗膜形成装置1によって塗料7が塗布される際には下端部)4bとに亘って形成されている。前述した定着ベルト2は、加熱されてトナーを転写紙に押圧して、該トナーを転写紙に定着させる。
【0029】
塗膜形成装置1は、表面にプライマ層3と弾性層5とが形成された基体4(特許請求の範囲の被塗装物に相当)の外表面即ち前述したプライマ層3上に、前述したフッ素樹脂と周知の溶媒などを含んだ塗料7(図2に示す)を塗布して、前述した離型層6を形成する。
【0030】
塗膜形成装置1は、図1に示すように、装置本体10と、保持部11と、移動部12と、塗布ヘッド13を備えている。
【0031】
装置本体10は、工場のフロア上などに設置される。装置本体10は、複数の水平板19と、一つの鉛直板20と、複数の連結柱21と、を備えている。水平板19は、三つ設けられている。水平板19は、それぞれ両表面が水平方向と平行に配置されている。水平板19は、互いに鉛直方向に沿って、互いに間隔をあけて配置されている。鉛直板20は、両表面が鉛直方向と平行に配置されている。鉛直板20は、最も下方に配置された水平板19と、最も上方に配置された水平板19とを連結している。中央に位置する水平板19は、鉛直板20の中央部に連なっている。連結柱21は、四角柱状に形成され、かつ、複数の水平板19同士を連結している。
【0032】
保持部11は、図1に示すように、マンドレル22と、一つの保持棒24と、一つのチャックシリンダ25と、を備えている。マンドレル22は、前述した基体4内に圧入されて、基体4を内側から支持する。また、マンドレル22は、基体4よりも十分に長く形成されている。
【0033】
保持棒24は、円柱状に形成され、かつ三つの水平板19のうちの中央に配置された水平板19から立設した状態で該水平板19に固定されている。保持棒24は、その軸芯が鉛直方向と平行に配置され、かつ、その上端部が上方に向かうにしたがって徐々に先細に形成されている。
【0034】
チャックシリンダ25は、シリンダ本体30と、該シリンダ本体30から凸没自在なロッド31とを備えている。シリンダ本体30は、鉛直方向に沿って下方に向かってロッド31が伸長する状態で、最も上方に位置する水平板19に取り付けられている。ロッド31は、円柱状に形成され、かつその軸芯が鉛直方向と平行に配置されているとともに、その下端部が下方に向かうにしたがって徐々に先細に形成されている。ロッド31は、鉛直方向に沿って、保持棒24と間隔をあけて相対する位置(保持棒24と同軸となる位置)に配置されている。
【0035】
保持棒24とチャックシリンダ25は、該チャックシリンダ25のロッド31が伸長することで、互いの間にマンドレル22を挟む。
【0036】
前述した保持部11は、マンドレル22が基体4内に圧入されて、これらの基体4とマンドレル22を、保持棒24とチャックシリンダ25との間に配置して、該チャックシリンダ25のロッド31を伸長させる。そして、保持部11は、保持棒24とチャックシリンダ25のロッド31との間に、マンドレル22を挟んで、前述した基体4を保持する。
【0037】
保持部11が、基体4を保持すると、基体4の軸芯P(図1中に一点鎖線で示す)が、鉛直方向と平行になる。保持部11が、基体4を保持すると、該基体4の外周面4cが円筒面状(軸芯Pに直交する方向の断面形が円弧状)となる。このように、保持部11は、軸芯Pが鉛直方向と平行な状態で基体4を保持する。また、保持部11は、チャックシリンダ25のロッド31を伸長して、前述したマンドレル22などを介して基体4を保持するとともに、チャックシリンダ25のロッド31を縮小して、マンドレル22などを介して基体4を着脱自在とする。さらに、保持部11は、基体4を保持する際には、勿論、基体4の外周面4cを露出させる。
【0038】
移動部12は、図2乃至図4に示すように、リニアアクチュエータ32と、移動速度検出手段としてのリニアエンコーダ33などを備えている。リニアアクチュエータ32は、長手方向が鉛直方向と平行な状態で鉛直板20に取り付けられたレールと、該レールの長手方向即ち鉛直方向に沿ってレールに対し移動するスライダとを備えている。スライダには、後述する支持ベース34が取り付けられている。
【0039】
リニアアクチュエータ32即ち移動部12は、ヘッド本体37を昇降させる。即ち、リニアアクチュエータ32即ち移動部12は、保持部11とヘッド本体37とを前記軸芯Pに沿って相対的に移動させる。リニアエンコーダ33は、前述したスライダ即ちヘッド本体37の移動速度を検出して、該移動速度に応じた情報を制御装置18に向けて出力する。
【0040】
塗布ヘッド13は、図2乃至図4に示すように、支持ベース34と、移動支持部35と、ヘッド本体37と、測定手段としての液面検知センサ53と、温度測定部としての温度センサ53と、容積変更手段としての容積変更部14と、塗料供給部15と、冷却部16と、制御部としての制御装置18とを備えている。
【0041】
支持ベース34は、平板状に形成されている。支持ベース34は、リニアアクチュエータ32のスライダに取り付けられている。支持ベース34は、その両表面が水平方向と平行に配置されている。即ち、支持ベース34の表面は、軸芯Pに対して直交する方向に沿って平坦に形成されている。支持ベース34は、ボールローラ36を介して、ヘッド本体37を支持している。支持ベース34は、ヘッド本体37の下方に配置される。
【0042】
移動支持部35は、複数のボールローラ36を備えている。ボールローラ36は、ローラ本体38と、該ローラ本体38の先端(下端)に転動自在設けられた玉39と、を備えている。ローラ本体38は、円筒状に形成され、ヘッド本体37の後述する本体部43の底板部45の外縁部に取り付けられている。ローラ本体38は、その軸芯が前述した軸芯P即ち鉛直方向と平行に配置されている。玉39は、球状に形成され、かつローラ本体38の下端即ち支持ベース34寄りの端に設けられている。また、玉39は、支持ベース34の表面上に配置され、かつ該支持ベース34の表面上を転動自在となっている。移動支持部35は、玉39が支持ベース34上を転動することで、支持ベース34上に前述した軸芯Pに対し直交する方向に沿って、ヘッド本体37を移動自在に支持する。
【0043】
ヘッド本体37は、図2乃至図4に示すように、本体部43と、蓋体44とを備えている。本体部43は、円環状の底板部45と、該底板部45の径方向の中央から立設した円筒状の外周壁46と、底板部45の内縁の全周から立設した内周壁47とを備えている。底板部45と、外周壁46と、内周壁47とは、互いに同軸に配置されている。底板部45即ち本体部43の内径は、基体4の外径よりも大きい。外周壁46の底板部45からの高さが、内周壁47の底板部45からの高さよりも高い。
【0044】
内周壁47の内面には、底板部45から上方に向かうにしたがって、徐々に底板部45の内側に向かう方向に傾斜した傾斜面48が全周に亘って形成されている。傾斜面48は、ヘッド本体37の中央に向かうにしたがって、徐々に上方に向かって前述した軸芯Pに対して傾斜している。底板部45の表面と内周壁47の内面は、特許請求の範囲に記載されたヘッド本体37の底面をなしている。即ち、ヘッド本体37の底面には、傾斜面48が設けられている。傾斜面48によって、ヘッド本体37の底面が基体4から同心円状に遠ざかるほど低くなっている。
【0045】
蓋体44は、円環状の蓋本体49と、仕切壁50とを備えている。蓋本体49は、外径が本体部43の底板部45と略等しく形成され、かつ内径が本体部43の底板部45よりも大きく形成されている。蓋本体49即ち蓋体44は、その外縁部が本体部43の外周壁46に重ねられて、該本体部43に取り付けられる。蓋体44は、本体部43の塗料の溶媒などが揮発することを防止するとともに、本体部43内の塗料7にゴミなどの異物が侵入することを防止する。蓋本体49の内縁は、内周壁47と間隔をあける。このため、ヘッド本体37は、その内周面の上端部が全周に亘って切り欠かれている。即ち、ヘッド本体37は、その内周面の上端部に内外を連通する開口部が全周に亘って設けられている。
【0046】
仕切壁50は、円筒状に形成され、蓋体44と同軸に配置されている。仕切壁50は、蓋本体49の内縁と外縁との間の中央部から底板部45に向かって立設している。仕切壁50の蓋本体49からの高さは、外周壁46の底板部45からの高さよりも低い。このため、仕切壁50は、本体部43の底板部45と間隔をあけて相対している。仕切壁50は、本体部43と蓋本体49とで囲まれるヘッド本体37内の空間51を、二つに仕切っている。仕切壁50は、塗料供給部15によって供給される際などにヘッド本体37内の塗料7に生じた気泡と干渉して、該気泡が基体4側に移動して該基体4に付着することを防止する。
【0047】
前述したヘッド本体37は、本体部43と蓋体44との間に囲まれる前述した空間51内に前述した塗料7を収容する。ヘッド本体37は、塗料供給部15から塗料7が供給される。また、ヘッド本体37の本体部43の内周壁47の内面即ちヘッド本体37の内周面には、全周に亘ってシール部材52が取り付けられている。シール部材52は、ゴムなどの弾性変形自在な合成樹脂で構成されており、円環状に形成されている。シール部材52の厚みは、周方向に一定に形成されている。シール部材52は、ヘッド本体37と同軸に配置されている。シール部材52の弾性変形していない中立状態での内径は、基体4の外径よりも小さい。
【0048】
このため、シール部材52は、ヘッド本体37内に通された基体4に当接して、該基体4を通すことができる状態まで弾性変形する。シール部材52は、前述したように弾性変形すると、基体4の外周面4cを該基体4の径方向に沿って内側に押圧するとともに、該基体4の外周面4cとの間を水密に保つ。即ち、シール部材52は、基体4との間からヘッド本体37内の塗料7が該ヘッド本体37外に漏れることを防止する。なお、シール部材52自体が円環状に形成されているので、ヘッド本体37を支持ベース34に対して移動自在とすると、シール部材52の基体4の外周面4cを押圧する力は、該基体4の周方向に均一となる。
【0049】
ヘッド本体37は、本体部43内に基体4を通すことで、該基体4の外周面4cを本体部43の塗料7に浸漬させて、図3及び図4中の平行斜線で示すように、外周面4cに塗膜としての離型層6を形成する。
【0050】
液面検知センサ53は、蓋体44の蓋本体49に取り付けられ、ヘッド本体37内に収容された塗料7の液面7aに向かって超音波などを照射することで、該液面7aの高さを計測する。液面検知センサ53は、ヘッド本体37内の塗料7の液面7aの高さを示す情報を制御装置18に向けて出力する。
【0051】
温度センサ53は、本体部43の内面などに取り付けられ、ヘッド本体37内に収容された塗料7の温度を計測する。温度センサ53は、ヘッド本体37内の塗料7の温度を示す情報を制御装置18に向けて出力する。
【0052】
容積変更部14は、図2乃至図4に示すように、侵入子40と、侵入子移動部としてのリニアアクチュエータ41と、を備えている。侵入子40は、円環状に形成されている。侵入子40の外径は、蓋体44の蓋本体49の内径よりも小さく形成されている。侵入子40の内径は、基体4の外径よりも大きく形成されている。侵入子40は、基体4及びヘッド本体37と同軸に配置されるとともに、蓋本体49即ちヘッド本体37に対して軸芯Pに沿って移動自在に設けられている。
【0053】
侵入子40は、蓋本体49の内縁を通して、ヘッド本体37内に侵入したり、該ヘッド本体37内から離脱する方向に移動自在となっている。また、侵入子40の傾斜面48と相対する内縁部には、該傾斜面48と並行(略平行)な第2傾斜面42が設けられている。侵入子40は、第2傾斜面42によって、ヘッド本体37の奥に侵入しても、塗料7がヘッド本体37の内周面から基体4に向かって移動することを許容する。
【0054】
リニアアクチュエータ41は、長手方向が鉛直方向と平行な状態で支持ベース34から立設したレールと、該レールの長手方向即ち鉛直方向に沿ってレールに対し移動するスライダとを備えている。スライダには、前述した侵入子40が取り付けられている。リニアアクチュエータ41は、制御装置18からの命令とおりに、侵入子40をヘッド本体37内に侵入させたり該ヘッド本体37内から離脱する方向に移動させる。
【0055】
容積変更部14は、リニアアクチュエータ41が侵入子40を降下して、該侵入子40のヘッド本体37への侵入量(侵入した部分の質量)を増加させることで、ヘッド本体37内の塗料7を収容可能な容積(ヘッド本体37内に収容できる塗料7の量)を減少させる。また、容積変更部14は、リニアアクチュエータ41が侵入子40を上昇して、該侵入子40のヘッド本体37への侵入量(侵入した部分の質量)を減少又は無くすることで、ヘッド本体37内の塗料7を収容可能な容積(ヘッド本体37内に収容できる塗料7の量)を増加させる。このように、容積変更部14は、リニアアクチュエータ41が侵入子40を昇降することで、ヘッド本体37内の塗料7を収容可能な容積を変更自在である。
【0056】
塗料供給部15は、図1に示すように、収容容器としての塗料タンク67と、攪拌用モータ68と、図示しない送液用ポンプと、粘度測定部としての粘度計69と、供給管70(図2に示す)とを備えている。塗料タンク67は、装置本体10の最も下方の水平板19上に設置されている。塗料タンク67は、前述した塗料7を収容する。攪拌用モータ68は、塗料タンク67に固定されているとともに、その塗料タンク67内に位置付けられた出力軸に羽根車が取り付けられている。攪拌モータ68は、塗料タンク67内の塗料7を攪拌して、該塗料7の粘度にむらが生じることを防止する。
【0057】
送液用ポンプは、塗料タンク67内の塗料7を、供給管70を通してヘッド本体37の本体部43内に送り出す。粘度計69は、塗料タンク67内に設けられ、該塗料タンク67内の塗料7の粘度を測定可能である。粘度計69は、塗料タンク67内の塗料7の粘度を示す情報を制御装置18に向けて出力する。供給管70は、塗料タンク67と、ヘッド本体37の本体部43とを連結している。
【0058】
前述した塗料供給部15は、送液用ポンプが塗料タンク67内の塗料7をヘッド本体37の本体部43内に送り出すことで、ヘッド本体37内に前述した塗料7を供給する。
【0059】
冷却部16は、冷媒循環部としての冷媒循環用の通路71(図2に示す)と、熱交換機としての冷却水循環装置72(図1に示す)とを備えている。通路71は、侵入子40内に形成された空間であり、侵入子40の全周に設けられて、平面形状が円環状にされている。通路71は、冷媒としての水を通して、該水を侵入子40内に循環する。通路71は、水を循環することで、侵入子40を介して、ヘッド本体37内の塗料を冷却又は加熱する。
【0060】
冷却水循環装置72は、最も下方の水平板19上に設置されている。冷却水循環装置72は、通路71内の水を一旦溜めて、該水の熱を外部の熱と交感して、該水を所望の温度に冷却又は加熱する。そして、冷却水循環装置72は、冷却又は加熱した水を再度通路71内に送り出す。こうして、冷却水循環装置72は、通路71内の冷媒としての水の温度を一定に保つことで、前述したヘッド本体37内の塗料7を冷却又は加熱して、該塗料7の温度を一定に保つ。
【0061】
制御装置18は、周知のRAM、ROM、CPUなどを備えたコンピュータである。制御装置18は、図1に示すように、鉛直板20の上端部と最も上方の水平板19との双方に取り付けられている。制御装置18は、保持部11と、移動部12と、容積変更部14と、塗料供給部15と、冷却部16などに接続しており、これらを制御して、塗布ヘッド13及び塗膜形成装置1全体の制御を司る。即ち、制御装置18には、移動部20のリニアエンコーダ33からの情報と液面検知センサ53からの情報などが入力するとともに、これらのリニアエンコーダ33からの情報と液面検知センサ53からの情報などに基づいて、各部位を制御する。
【0062】
制御装置18には、起動スイッチ75と、各種の操作スイッチ76が取り付けられている。起動スイッチ75は、塗膜形成装置1全体のオン・オフを切り換えるために用いられる。操作スイッチ76は、塗膜形成装置1全体の操作を行うために用いられる。制御装置18は、操作スイッチ76によって、塗膜形成装置1全体を動作させる。
【0063】
制御装置18は、基体4に離型層6を形成する時には、以下のように、塗布ヘッド13などの各部位を動作させる。まず、制御装置18は、チャックシリンダ25のロッド31を縮小させ、かつリニアアクチュエータ41に侵入子40を最も上昇させて、塗料供給部15に所定の量(1回の塗布に必要な量)の塗料7をヘッド本体37内に供給させながら、移動部12にヘッド本体37を最も上方に移動させる。このとき、液面7aと侵入子40とが互いに接触しない(間隔をあける)とともに、液面7aが内周壁47よりも下回るように、塗料7を供給させかつ侵入子40を上昇(ヘッド本体37内から離脱する方向に移動)させる。このとき、液面7aが内周壁47よりも下方に位置するので、ヘッド本体37の内周面から塗料7が漏れることがない。
【0064】
ヘッド本体37が最も上方に位置付けられた状態で、マンドレル22が圧入された基体4が、保持棒24とチャックシリンダ25のロッド31との間に位置付けられる。制御装置18は、保持棒24と、チャックシリンダ25のロッド31との間に基体4とマンドレル22が位置付けられると、チャックシリンダ25のロッド31を伸長させる。すると、保持棒24とチャックシリンダ25のロッド31との間にマンドレル22などを挟んで、図2に示すように、保持部11が基体4を軸芯が鉛直方向と平行に状態で保持する。
【0065】
そして、制御装置18は、移動部12に塗布ヘッド13を徐々に降下させるとともに、リニアアクチュエータ41に侵入子40をヘッド本体37内に侵入させて、液面7aを内周壁47よりも上方に位置付ける。すると、図3に示すように、基体4の外周面4cに上端部4aから下端部4bに向かって順に塗料7が塗布されて、該塗料7が乾燥して、該塗料7が液だれすることなく、離型層6が形成される。制御装置18は、塗料7の基体4の外周面4cへの塗布中、液面検知センサ53が測定した液面7aの高さが一定となるように、侵入子40がヘッド本体37内に徐々に侵入するように、容積変更部14のリニアアクチュエータ41を制御する。
【0066】
制御装置18は、リニアエンコーダ33からの情報に基づいて、ヘッド本体37が最も下方に位置付けられたと判定すると、図4に示すように、移動部12を停止するとともに、容積変更部14のリニアアクチュエータ41に侵入子40を上昇させて、該侵入子40をヘッド本体37内から離脱させる。このとき、塗布ヘッド13のヘッド本体37内の塗料7は、塗布前よりも勿論減少しているので、液面7aが内周壁47よりも遙かに下回る。
【0067】
そして、制御装置18は、チャックシリンダ25のロッド31を縮小する。そして、離型層6が形成された基体4と、基体4を支持したマンドレル22とが取り除かれた後、制御装置18は、ヘッド本体37を上昇させながら塗料供給部15に塗料7をヘッド本体37内に供給させて、先ほどの図2の状態に戻って、前述した工程と同様に、基体4を塗装する。また、制御装置18は、前述した冷却部16に冷媒としての水の温度を一定に保たせて、前述したヘッド本体37内の塗料7の温度を一定に保つ。
【0068】
このように、制御装置18は、基体4の着脱時には、容積変更部14にヘッド本体37内の容積を増加させて、ヘッド本体37内の塗料7の液面7aを降下させる。制御装置18は、基体4への離型層6の形成時には、塗布した面積が増加するにしたがって容積変更部14にヘッド本体37内の容積を徐々に減少させて、ヘッド本体37内の塗料7の液面7aを基体4の外周面4cを塗布可能な一定の高さに保つ。こうして、制御装置18は、容積変更部14を制御して、ヘッド本体37内の塗料7の液面7aの高さを適宜変更する。
【0069】
本実施形態によれば、容積変更部14にヘッド本体37内の容積を適宜変更させることで、ヘッド本体37内の塗料7の液面7aの高さを適宜変更できるので、基体4を着脱する段取り時にはヘッド本体37内の塗料7の液面7aの高さを降下させることができるとともに、基体4の塗料7の塗布時には容積変更部14にヘッド本体37内の容積を徐々に減少させて塗料7の液面7aの高さを一定に保つことができる。よって、容積変更部14を設けるという簡便な構成で、基体4を着脱する段取り時の塗料7の漏れを防止できるとともに、均一な厚みの塗膜としての離型層6を確実に形成することができる。
【0070】
制御装置18は、基体4への塗料7の塗布時にヘッド本体37内の塗料7の液面7aを一定に保つように容積変更部14を制御するので、基体4への塗料7の塗布時には塗料7の液面7aの高さを一定に保つことができる。よって、均一な厚みの塗膜としての離型層6を確実に形成することができる。
【0071】
制御装置18からの命令通りに侵入子移動部としてのリニアアクチュエータ41が侵入子40をヘッド本体37内に出し入れするので、ヘッド本体37内の塗料7の液面7aの高さの微細な変化にも追従させて侵入子40をヘッド本体37内に出し入れすることができ、そのために、ヘッド本体37内の塗料7の液面7aを確実に一定に保つことができる。よって、均一な厚みの塗膜としての離型層6をより確実に形成することができる。
【0072】
侵入子40内に設けられた冷媒としての水を流す通路71と冷媒としての水を一定の温度に保つ冷却水循環装置72を備えているので、塗料7の粘度にムラが生じることを防止するために該塗料7を攪拌しても、塗料7の温度が上昇して該塗料7の粘度が変化することを防止でき、そのために、高精度な厚みの塗膜としての離型層6を形成することができる。
【0073】
ヘッド本体37の底面が基体4から同心円状に遠ざかるほど低くなるため、塗装終了後にヘッド本体37内の塗料7の液面7aを降下させると塗料7がヘッド本体37内に確実に戻り、そのために、基体4をヘッド本体37の内側から抜いても、塗料7がヘッド本体37から溢れることがなくなり、よって、マスクなどでヘッド本体37をシールする必要がなくなるためマスクレスで塗装することが可能となる。したがって、マスクを洗浄する必要がないので、段取り作業にかかる工数が増加することを防止できる。
【0074】
移動支持部35が支持ベース34に対してヘッド本体37を軸芯Pに直交する方向に移動自在とし、かつヘッド本体37の内縁の全周に弾性変形自在なシール部材52を設けているので、該シール部材52の弾性復元力によって、該シール部材52の弾性復元力が周方向に均一となる位置にヘッド本体37が位置付けられる。そのために、シール部材52が被塗装物としての基体4を押圧する力が周方向に均一となって、該シール部材52の押圧する力が一部に集中することを防止でき、被塗装物としての基体4が薄肉であっても、該基体4が変形することを防止できる。
【0075】
前述したシール部材52の弾性復元力によって、ヘッド本体37と基体4との間隔が周方向に均一となるので、基体4の外周面4cに一定の厚みの離型層6を形成できる。よって、比較的薄肉で変形しやすい基体4の外周にも一定の厚みの離型層6を容易に形成することができる。このように、移動支持部35とシール部材52の弾性復元力によって、離型層6の厚みを一定にできる位置に、ヘッド本体37を容易に位置決めすることができる。
【0076】
塗料7を貯める塗料タンク67の内部に塗料7の粘度を測定する粘度計69を備えているので、塗膜としての離型層6の厚みを一定に管理することが可能となる。
【0077】
次に、本発明の第2の実施形態を、図5乃至図7を参照して説明する。なお、前述した第1の実施形態と同一部分には、同一符号を付して説明を省略する。
【0078】
本実施形態では、塗布ヘッド13の容積変更部14は、図5ないし図7に示すように、弾性袋55と、圧力変更部としてレギュレータ56などを備えている。弾性袋55は、ゴムなどの弾性材料で構成されて、袋状に形成されている。弾性袋55は、円環状に形成され、ヘッド本体37の上端部内に位置付けられているとともに、該ヘッド本体37と同軸に配置されている。弾性袋55には、図示しない加圧流体供給源と、電磁弁57と、レギュレータ56とを順に介して、加圧された流体としての加圧気体が供給される。弾性袋55は、加圧気体が供給されると勿論膨張するとともに、該加圧気体の圧力が高くなるのにしたがってより膨張する。
【0079】
レギュレータ56は、制御装置18からの命令通りに、弾性袋55内に供給される加圧気体の圧力を変更する。電磁弁57は、開くことで、弾性袋55内に加圧気体が供給されることを許容するとともに、該弾性袋55内から加圧気体が排出されることを許容する。電磁弁57は、制御装置18からの命令とおりに、開閉される。
【0080】
容積変更部14は、電磁弁57が開いて、レギュレータ56が加圧気体の圧力を高めることで、弾性袋55を膨張させて、ヘッド本体37内の塗料7を収容可能な容積(ヘッド本体37内に収容できる塗料7の量)を減少させる。また、容積変更部14は、電磁弁57が開いて、弾性袋55内の加圧気体を排出又はレギュレータ56が加圧気体の圧力を低くすることで、弾性袋55を縮小させて、ヘッド本体37内の塗料7を収容可能な容積(ヘッド本体37内に収容できる塗料7の量)を増加させる。このように、容積変更部14は、レギュレータ56が弾性袋55内に供給される加圧気体の圧力を変更することで、ヘッド本体37内の塗料7を収容可能な容積を変更自在である。
【0081】
本実施形態では、前述した第1の実施形態と同様に、ヘッド本体37を徐々に降下させて基体4の上端部4aから下端部4bに向かって順に外周面4cに塗料7を塗布する。また、本実施形態では、基体4の着脱時即ち段取り時には、制御装置18は、図5及び図7に示すように、電磁弁57を開いて、弾性袋55内の加圧気体を排出又はレギュレータ56に加圧気体の圧力を低くさせて、弾性袋55を縮小させて、該弾性袋55を塗料7の液面7aから間隔をあけさせて、塗料7の液面7aを内周壁47よりも低くさせる。また、本実施形態では、基体4の外周面4cへの塗料7の塗布時には、制御装置18は、図6に示すように、電磁弁57を開いて、弾性袋55内の加圧気体を排出又はレギュレータ56に加圧気体の圧力を徐々に高くさせて、弾性袋55を膨張させて、塗料7の液面7aを内周壁47よりも高い一定の高さに保つ。
【0082】
本実施形態によれば、制御装置18からの命令通りにレギュレータ56が弾性袋55内の加圧気体の圧力を変更するので、ヘッド本体37内の塗料7の液面7aの微細な変化にも追従させて弾性袋55を膨らませることができ、そのために、ヘッド本体37内の塗料7の液面7aを確実に一定に保つことができる。よって、均一な厚みの塗膜としての離型層6をより確実に形成することができる。
【0083】
また、ヘッド本体37の底面が基体4から同心円状に遠ざかるほど低くなるため、塗装終了後にヘッド本体37内の塗料7の液面7aを降下させると塗料7がヘッド本体37内に確実に戻り、そのために、基体4をヘッド本体37の内側から抜いても、塗料7がヘッド本体37から溢れることがなくなり、よって、マスクなどでヘッド本体37をシールする必要がなくなるためマスクレスで塗装することが可能となる。したがって、マスクを洗浄する必要がないので、段取り作業にかかる工数が増加することを防止できる。
【0084】
なお、本実施形態では、加圧気体以外の加圧された流体として例えば加圧液体を用いても良い。
【0085】
次に、本発明の第3の実施形態を、図8乃至図10を参照して説明する。なお、前述した第1及び第2の実施形態と同一部分には、同一符号を付して説明を省略する。
【0086】
本実施形態では、塗布ヘッド13の容積変更部14は、図8ないし図10に示すように、磁石58と、電磁石59と、電圧変更部としての磁力コントローラ60とを備えている。磁石58は、所謂永久磁石であり、円環状に形成されている。磁石58の外径は、蓋体44の蓋本体49の内径よりも小さく形成されている。磁石58の内径は、基体4の外径よりも大きく形成されている。磁石58は、基体4及びヘッド本体37と同軸に配置されるとともに、蓋本体49即ちヘッド本体37に対して軸芯Pに沿って移動自在に設けられている。磁石58は、リニアガイド61によって、蓋本体49の内縁を通して、ヘッド本体37に侵入したり、該ヘッド本体37内から離脱する方向に移動自在に支持されている。
【0087】
リニアガイド61は、長手方向が鉛直方向と平行な状態で支持ベース34から立設したレールと、該レールの長手方向即ち鉛直方向に沿ってレールに対し移動自在なスライダとを備えている。スライダには、前述した磁石58が取り付けられている。リニアガイド61は、磁石58をヘッド本体37に侵入させたり該ヘッド本体37内から離脱する方向に移動させる。
【0088】
電磁石59は、ヘッド本体37の底板部45に取り付けられ、磁石58と軸芯Pに沿って相対する位置に配置されている。電磁石59は、図示しない電源から電圧が印加されると、磁石58と相対する側に前記磁石58のヘッド本体37の底板部45と相対する側の極性と異なる極性(逆の極性)の磁力を発生する。即ち、磁石58と電磁石59とは、互いに反発しあう。この反発力即ち磁石58を持ち上げる力は、該電磁石59に印加される電圧の大きさによって変更される。磁力コントローラ60は、制御装置18からの命令通りに電磁石59に印加する電圧を変更する。
【0089】
容積変更部14は、制御装置18からの命令通りに磁力コントローラ60が電磁石59に印加する電圧をゼロ又は小さくすると、前述した反発力が弱くなって、磁石58が降下して、該磁石58のヘッド本体37への侵入量(侵入した部分の質量)を増加させることで、ヘッド本体37内の塗料7を収容可能な容積(ヘッド本体37内に収容できる塗料7の量)を減少させる。また、容積変更部14は、制御装置18からの命令通りに磁力コントローラ60が電磁石59に印加する電圧を大きくすると、前述した反発力が強くなって、磁石58が上昇して、該磁石58のヘッド本体37への侵入量(侵入した部分の質量)を減少又は無くすることで、ヘッド本体37内の塗料7を収容可能な容積(ヘッド本体37内に収容できる塗料7の量)を増加させる。このように、容積変更部14は、電磁石59の磁力を強く又は弱くすることで、磁石58を昇降させることで、ヘッド本体37内の塗料7を収容可能な容積を変更自在である。
【0090】
本実施形態では、前述した第1及び第2の実施形態と同様に、ヘッド本体37を徐々に降下させて基体4の上端部4aから下端部4bに向かって順に外周面4cに塗料7を塗布する。また、本実施形態では、基体4の着脱時即ち段取り時には、制御装置18は、図8及び図10に示すように、磁力コントローラ60に電磁石59の発生する磁力を強くさせて、磁石58を上昇させて、該磁石58を塗料7の液面7aから間隔をあけさせて、塗料7の液面7aを内周壁47よりも低くさせる。また、本実施形態では、基体4の外周面4cへの塗料7の塗布時には、制御装置18は、図9に示すように、磁力コントローラ60に電磁石59の発生する磁力を弱くさせて、磁石58を徐々に降下させて、塗料7の液面7aを内周壁47よりも高い一定の高さに保つ。
【0091】
本実施形態によれば、制御装置18からの命令通りに電磁石59が発生する磁力を変更して、ヘッド本体37内への磁石58の侵入量を変更するので、ヘッド本体37内の塗料7の液面7aの微細な変化にも追従させて磁石58をヘッド本体37に出し入れすることができ、そのために、ヘッド本体37内の塗料7の液面7aを確実に一定に保つことができる。よって、均一な厚みの塗膜としての離型層6をより確実に形成することができる。
【0092】
また、ヘッド本体37の底面が基体4から同心円状に遠ざかるほど低くなるため、塗装終了後にヘッド本体37内の塗料7の液面7aを降下させると塗料7がヘッド本体37内に確実に戻り、そのために、基体4をヘッド本体37の内側から抜いても、塗料7がヘッド本体37から溢れることがなくなり、よって、マスクなどでヘッド本体37をシールする必要がなくなるためマスクレスで塗装することが可能となる。したがって、マスクを洗浄する必要がないので、段取り作業にかかる工数が増加することを防止できる。
【0093】
前述した実施形態では、粘度計69を塗料タンク67内に配置している。しかしながら、本発明では、粘度計69を供給管70内に配置しても良い。さらに、前述した実施形態では、離型層6を形成したが、本発明の塗膜形成装置1は、プライマ層3を形成しても良い。
【0094】
前述した実施形態では、定着ベルト2の離型層6を形成する場合を示しているが、本発明は、定着ベルト2に限ることなく種々の無端ベルトや円筒状の物品に塗膜を形成しても良いことは勿論である。また、前述した実施形態では、無端ベルト状の定着ベルト2の例を示したが、本発明は、勿論、金属などで構成された円筒状の被塗装物としてのローラ芯金の外周面に、塗料7を塗布して、塗膜を形成して得られる定着ローラなどに適用しても良い。
【0095】
また、前述した実施形態では、基体4を固定して、塗布ヘッド13の支持ベース34を移動させている。しかしながら、本発明では、塗布ヘッド13の支持ベース34を固定して、基体4を移動させても良く、塗布ヘッド13の支持ベース34と基体4との双方を移動させても良い。
【0096】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。即ち、保持部11と移動部12と移動支持部35などは、実施形態に記載された構成及び配置に限定されることなく、種々の構成及び配置にしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態にかかる塗膜形成装置の概略の構成を示す正面図であり、(b)は、図1(a)に示された塗膜形成装置の概略の構成を示す側面図である。
【図2】図1(a)に示された塗膜形成装置の塗布ヘッドのヘッド本体が塗布開始位置に位置付けられた状態を示す説明図である。
【図3】図2に示された塗布ヘッドのヘッド本体が徐々に降下しながら基体の外周面に塗料を塗布している状態を示す説明図である。
【図4】図3に示された塗布ヘッドのヘッド本体が塗布終了位置に位置付けられた状態を示す説明図である。
【図5】本発明の第2の実施形態にかかる塗膜形成装置の塗布ヘッドのヘッド本体が塗布開始位置に位置付けられた状態を示す説明図である。
【図6】図5に示された塗布ヘッドのヘッド本体が徐々に降下しながら基体の外周面に塗料を塗布している状態を示す説明図である。
【図7】図6に示された塗布ヘッドのヘッド本体が塗布終了位置に位置付けられた状態を示す説明図である。
【図8】本発明の第3の実施形態にかかる塗膜形成装置の塗布ヘッドのヘッド本体が塗布開始位置に位置付けられた状態を示す説明図である。
【図9】図8に示された塗布ヘッドのヘッド本体が徐々に降下しながら基体の外周面に塗料を塗布している状態を示す説明図である。
【図10】図9に示された塗布ヘッドのヘッド本体が塗布終了位置に位置付けられた状態を示す説明図である。
【図11】本発明の塗膜形成装置によって塗膜が形成されて得られる定着ベルトの斜視図である。
【図12】図11中のXII−XII線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0098】
1 塗膜形成装置
4 基体(被塗装物)
4c 外周面
6 離型層(塗膜)
7 塗料
7a 液面
11 保持部
12 移動部
13 塗布ヘッド
14 容積変更部(容積変更手段)
18 制御装置(制御部)
37 ヘッド本体
40 侵入子
41 リニアアクチュエータ(侵入子移動部)
48 傾斜面
53 液面検知センサ(測定手段)
55 弾性袋
56 レギュレータ(圧力変更部)
58 磁石
59 電磁石
60 磁力コントローラ(電圧変更部)
71 通路(冷媒循環部)
72 冷却水循環装置(熱交換機)
P 軸芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物の軸芯に沿って、当該被塗装物に相対的に移動し、当該被塗装物の円筒面状の外周面に塗料を塗布して、塗膜を形成する塗布ヘッドにおいて、
円環の箱状に形成されて前記塗料を収容し、かつ内周面に全周に亘って開口部を設けているとともに、前記被塗装物を内側に通して前記塗料を前記被塗装物の外周面に塗布するヘッド本体と、
前記ヘッド本体内の前記塗料の液面の高さを測定する測定手段と、
前記ヘッド本体内の前記塗料を収容可能な容積を変更自在な容積変更手段と、
前記測定手段が測定した前記液面の高さに基づいて、前記容積変更手段を制御して、前記ヘッド本体内の前記塗料の液面の高さを適宜変更する制御部と、
を備えたことを特徴とする塗布ヘッド。
【請求項2】
前記制御部が、前記塗料の塗布中の前記測定手段が測定した前記液面の高さが一定となるように、前記容積変更手段を制御する制御部であることを特徴とする請求項1記載の塗布ヘッド。
【請求項3】
前記容積変更手段が、
前記ヘッド本体内に侵入したり前記ヘッド本体内から離脱する方向に前記ヘッド本体に対して移動自在に設けられた侵入子と、
前記制御部からの命令通りに前記侵入子を前記ヘッド本体内に侵入したり前記ヘッド本体内から離脱する方向に移動させる侵入子移動部と、を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の塗布ヘッド。
【請求項4】
前記侵入子内に設けられた冷媒を循環する冷媒循環部と、前記冷媒循環部内の冷媒の温度を一定に保つ熱交換機と、を備えたことを特徴とする請求項3記載の塗膜形成装置。
【請求項5】
前記容積変更手段が、
前記ヘッド本体内に位置付けられて加圧された流体が供給されると膨張する弾性材料で構成された弾性袋と、
前記制御部からの命令通りに前記弾性袋内に供給される加圧された流体の圧力を変更する圧力変更部と、
を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の塗布ヘッド。
【請求項6】
前記容積変更手段が、
前記ヘッド本体内に侵入したり前記ヘッド本体内から離脱する方向に前記ヘッド本体に対して移動自在に設けられた磁石と、
前記ヘッド本体に前記磁石と相対して取り付けられ、かつ電圧が印加されると前記磁石と異なる極性の磁力を発生する電磁石と、
前記制御部からの命令通りに前記電磁石に印加される電圧を変更する電圧変更部と、
を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の塗布ヘッド。
【請求項7】
前記ヘッド本体の底面には、該ヘッド本体の中央に向かうにしたがって徐々に上方に向い、かつ前記軸芯に対して傾斜した傾斜面が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のうちいずれか一項に記載の塗布ヘッド。
【請求項8】
被塗装物の円筒面状の外周面に塗料を塗布して塗膜を形成する塗膜形成装置において、
前記外周面を露出させかつ前記被塗装物の軸芯が鉛直方向と平行な状態で当該被塗装物を保持する保持部と、
前記塗料を収容し、かつ、前記被塗装物に対して相対的に移動して前記塗料を前記被塗装物の外周面に塗布する塗布ヘッドと、
前記保持部と前記塗布ヘッドとを前記軸芯に沿って相対的に移動させる移動部と、を備え、
前記塗布ヘッドとして請求項1乃至請求項7のうちいずれか一項に記載の塗布ヘッドを備えたことを特徴とする塗膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−252976(P2007−252976A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76975(P2006−76975)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】