説明

塗布方法及び塗布装置並びに塗布膜製品の製造方法

【課題】ウエブ耳部に塗布される塗布液の厚みの不安定さを効果的に抑制することのできる塗布方法を提供する。
【解決手段】
スロットダイのポケット部26の一方端から他方端に向けてサイド給液した塗布液を、スロットダイのスリット12から吐出し、スリット先端と走行するウエブ16との間のクリアランスに形成した塗布液架橋を介してウエブ16に塗布液を塗布する塗布装置において、ポケット部26の両端部にポケット栓28a、28bが挿設されると共に、ポケット栓28a、28bの塗布液と接液する側の端面が他方端側に傾斜したテーパを有する縦向きな円弧形状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロットダイのポケット部の一方端から他方端に向けてサイド給液した塗布液を、該スロットダイのスリットから吐出し、スリット先端と走行するウエブとの間のクリアランスに形成した塗布液架橋を介してウエブに塗布液を塗布する塗布方法及び塗布装置並びに塗布膜製品の製造方法において、ウエブ耳部の故障を減らし、製品ロスを解消するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ウエブに写真感光液、磁性液、溶剤塗料など水や溶剤を溶媒とする塗布液を塗布する塗布方法には、塗布ヘッド内のポケット部に送液した塗布液を、ポケット部に連通するスリットを介して外部に押し出し、走行するウエブに塗布するスロットダイが多用されている。スリットダイの両端部には液漏れを防止するため、ポケット部を塞ぐポケット栓、又は、開口を閉じる側板を設け、塗布液をスリットに流し込んでいる。
【0003】
しかし、このポケット栓又は側板によって、エッジ部は影響を受けてウエブ幅方向の端部(耳部)の塗布膜の厚みが不安定になるという欠点があった。特に、液晶表示装置に用いる光学フィルム(例えば光学補償フィルム、反射防止フィルム等)のように塗布液を走行するウエブに湿潤膜厚が10μm以下の超薄膜で高速塗布する場合には、ウエブ端部の塗布膜厚が中央部よりも薄くなり、ウエブ端部の膜厚が不安定になり、塗布欠陥が生じ易い。そこで、ウエブ幅方向の端部の塗布膜の厚みが不安定という欠点を解消するために、特許文献1では、スリット吐出口に近いほどポケット部の幅寸法が広がるようにテーパ部を形成することが開示されている。そして、特許文献2では、側板を撥水性の材料とするか、撥水性の材料にて被覆した構成とすることが開示されている。また、特許文献3では、ウエブ上流側を減圧チャンバーで減圧しながら塗布液を塗布するとともに、減圧チャンバーのウエブ幅方向の外幅をA(mm)とし、スロットの吐出幅をB(mm)としたときに、外幅Aの中心と吐出幅Bの中心を一致させた状態で、B≦A≦B+50(mm)を満たすようにすることが開示されている。
【特許文献1】特開2003−71357号公報
【特許文献2】特開2005−152885号公報
【特許文献3】特開2006−95456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、スロットダイでの塗布は、特許文献1〜3の方法においても、ウエブ耳部に塗布される塗布液の厚みの不安定さによって引き起こる耳部の故障を抑制することはできないという欠点がある。特に、塗布液が低粘度である場合には、耳部の厚みがふらついたり、耳切れ故障が発現したりすることで、塗布故障が生じ、製品得率が低下してしまうという欠点がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ウエブ耳部に塗布される塗布液の厚みの不安定さを効果的に抑制することのできる塗布方法及び塗布装置並びに塗布膜製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、前記目的を達成するために、スロットダイのポケット部の一方端から他方端に向けてサイド給液した塗布液を、該スロットダイのスリットから吐出し、スリット先端と走行するウエブとの間のクリアランスに形成した塗布液架橋を介して前記ウエブに塗布液を塗布する塗布方法において、前記ポケット部の前記一方端と前記他方端との端面形状を、前記他方端側に傾斜したテーパを有すると共に曲率半径Rが45〜90mmの縦向きな円弧形状に形成することにより、前記ウエブの中央部に塗布される塗布液の厚みを1としたとき、前記ウエブの端部に塗布される塗布液の厚みが0.94未満の薄膜にならないように塗布することを特徴とする。
【0007】
請求項1によれば、ポケット部の一方端(供給液側)と他方端(反供給液側)との端面形状を、他方端側に傾斜したテーパを有すると共に曲率半径Rが45〜90mmの縦向きな円弧形状に形成し、ポケット部の一方端から塗布液をサイド給液するようにした。これにより、塗布液の流れが滞留し易いポケット部の一方端と他方端において、塗布液がテーパを有する円弧形状に沿ってスムーズにスリット方向に方向転換し、スリット先端から吐出される。この結果、ウエブの中央部に塗布される塗布液の厚みを1としたとき、前記ウエブの端部(耳部とも言う)に塗布される塗布液の厚みが0.94未満の薄膜にならないように塗布することができるので、塗布液架橋(ビードともいう)の両端部であるビード耳部が安定化し、安定した連続塗布を行うことができる。
【0008】
ここで、ポケット部の一方端と他方端との端面形状を、他方端側に傾斜したテーパを有するとは、ポケット部の一方端から他方端をみたときに、一方端側ではスリット方向のポケット径が大きくなるように傾斜したテーパを有し、ポケットの他方端側ではスリット方向のポケット径が小さくなるように傾斜したテーパを有することを言い、以下同様である。また、縦向きな円弧形状とは、円弧の方向がポケット部の横に向いているのではなく、下から上に向いていることをいい、以下同様である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記ポケット部の前記一方端と前記他方端との端面形状を、前記ポケット部の両端部に挿設するポケット栓の塗布液が接液する側の端面に形成することを特徴とする。
【0010】
請求項2によれば、ポケット部の一方端と他方端との端面形状を、ポケット部の両端部に挿設するポケット栓の端面に形成するようにしたので、端面形状を容易に形成することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記目的を達成するために、スロットダイのポケット部の一方端から他方端に向けてサイド給液した塗布液を、該スロットダイのスリットから吐出し、スリット先端と走行するウエブとの間のクリアランスに形成した塗布液架橋を介して前記ウエブに塗布液を塗布する塗布装置において、前記ポケット部の両端部にポケット栓が挿設されると共に、該ポケット栓の前記塗布液と接液する側の端面が前記他方端側に傾斜したテーパを有する縦向きな円弧形状に形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3によれば、ポケット部の両端部に挿設されたポケット栓の塗布液と接液する側の端面が他方端側に傾斜したテーパを有する縦向きな円弧形状に形成されているので、塗布液の流れが滞留し易いポケット部の一方端と他方端において、塗布液が円弧形状に沿ってスムーズにスリット方向に方向転換し、スリット先端から吐出される。これにより、ウエブの中央部に塗布される塗布液の厚みを1としたとき、ウエブの端部に塗布される塗布液の厚みが0.94未満の薄膜にならないように塗布することができる。この結果、スリット先端と走行するウエブとの間のクリアランスに形成する塗布液架橋両端部のビード耳部を安定化することができるので、ウエブ耳部における塗布液の塗布厚みがフラツイたり、塗布液が塗布されない耳切れ現象を起こすことがなく、安定塗布を行うことができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3において、前記円弧形状の曲率半径Rは、45〜90mmの範囲内であって、円弧形状の上端線と下端線とが前記テーパの上端線と下端線と一致することを特徴とする。
【0014】
請求項4は、ポケット栓の端面に形成する円弧形状の好ましい曲率半径Rを規定したものであり、45〜90mmの範囲内とすることが好ましい。この場合、円弧形状の上端線と下端線とがテーパの上端線と下端線と一致するように形成することが好ましい。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項3又は4の何れか1において、前記クリアランスをD(μm)とし、前記ウエブに塗布される塗布液の湿潤膜厚をt(μm)としたときに、t/D<0.11であることを特徴とする。
【0016】
t/Dを大きくして塗布した方がビード耳部を安定化でき、安定した連続塗布を行うことができるが、ウエブに塗布される塗布膜面が滑らかにならず面質が悪くなる。逆に、塗布膜面の面質を良くするには、t/Dを小さくする必要があり、ビード耳部が不安点になり易い。しかし、上記したポケット栓を有する本発明の塗布装置を用いることで、t/D<0.11の小さい場合であっても、ビード耳部を安定化でき、連続した安定塗布が可能となる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項3〜5の塗布装置を用いて、ウエブに塗布液を塗布した塗布膜製品を製造することを特徴とする塗布膜製品の製造方法であり、請求項7に記載の発明は、前記塗布膜製品は液晶表示装置に用いる光学フィルムであることを特徴とする請求項6の塗布膜製品の製造方法である。
【0018】
本発明の塗布装置を用いて製造した塗布膜製品は、ウエブ端部でも塗布故障が少ないので、光学フィルムの製造に好適である。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の塗布方法及び塗布装置によれば、スロットダイの塗布において、ウエブ耳部に塗布される塗布液の厚みの不安定さを効果的に抑制することができる。従って、本発明の塗布装置を用いて製造した塗布膜製品は、ウエブ端部でも塗布故障が少ないので、光学フィルムの製造に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下添付図面に従って本発明に係る塗布方法及び塗布装置並びに塗布膜製品の製造方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0021】
図1は本発明に係る塗布装置10であって、塗布ヘッド14の上流側と下流側にウエブ16を塗布ヘッド側に押し付ける押圧ローラ18,18を配設した場合の側面断面図である。そして、図2は本発明に係る塗布装置10’の別の態様であって、塗布ヘッド14’先端に対向させてウエブ16’を係合支持するコーティングローラ11を配設した場合の側面図である。また、図3及び図4は、本発明の要部を説明する説明図である。
【0022】
図1の塗布装置10は、主として、塗布液をスリット12を介してスリット吐出口12Aから吐出する塗布ヘッド14と、矢印方向に連続走行するウエブ16を塗布ヘッド14の先端部に押圧状態で近接させる一対の押圧ローラ18、18とで構成される。
【0023】
塗布ヘッド14は、第2エッジ部20と第1エッジ部22とから成る2つのブロックで構成され、第2エッジ部20は、スリット12を境にしてウエブ走行方向の下流側に、第1エッジ部22は上流側に位置し、第2エッジ部20と第1エッジ部22のエッジ面24が連続走行するウエブ16と近接された状態で対向配置される。塗布ヘッド14の内部には、ウエブ16の幅方向に沿って筒状のポケット部26が形成され、前記スリット12に連通される。そして、ポケット部26に供給された塗布液は、塗布幅に対応する幅に拡流された後、スリット12を上昇してエッジ面24から吐出され、ウエブ16に塗布される。これにより、ウエブ16面に塗布液膜が形成される。
【0024】
一方、図2の塗布装置10’は、主として、塗布液をスリット12’を介してスリット吐出口12A’から吐出する塗布ヘッド14’と、該塗布ヘッド14’先端の近傍位置に対向配置されて、矢印方向に連続走行するウエブ16’を係合支持するコーティングローラ11とで構成され、塗布ヘッド14’が移動台13に搭載されている。
【0025】
塗布ヘッド14’は、第2エッジ部20’と第1エッジ部22’とから成る2つのブロックで構成され、その内部にウエブ16’に幅方向に平行な筒状のポケト部26’が形成されると共に、ポケット部26’に連通して塗布ヘッド14’先端のリップ先端15に至るスリット12’が形成される。そして、ポケット部26’に供給された塗布液は、塗布幅に対応する幅に拡流された後、スリット12’を上昇してリップ先端15のスリット吐出口12A’から吐出され、ウエブ16’に塗布される。これにより、ウエブ16’面に塗布液膜が形成される。
【0026】
そして、本発明では、図3(A)に示すように、ポケット部26の一方端から他方端に向けて塗布液がサイド供給されている。
【0027】
図3(A)、(B)は、図1及び図2の塗布装置10、10’ともに共通なので、図1の例で説明する。尚、図3(B)は、図3(A)の塗布装置10要部の断面図である。図3(A)に示すように、ポケット部26の貫通した両端開口部にはポケット栓28a、28bが設けられる。そして、一方のポケット栓28aに塗布液をサイド供給するための給液口29を設け、この給液口29に給液管30を接続することによりポケット部26に塗布液を供給する。尚、給液管30に塗布液を送液する送液ラインは、ポケット部26に塗布液を連続的に且つ一定の液量で送液可能なものであればよい。
【0028】
スリット12は、ポケット部26とエッジ面24とを繋ぐ狭隘な流路であり、ウエブ幅方向に延設される。また、ウエブ16に塗布される塗布幅規制は、一対の塗布幅規制板32、32をスリット12の両端に挿入することにより行われる。スリット12のスリット吐出口12A方向への流路長さは、塗布液の液組成、物性、供給流量、供給液圧等の塗布条件を考慮して適宜設定される。
【0029】
本発明は、スロットダイのポケット部の一方端から他方端に向けてサイド給液した塗布液を、該スロットダイのスリットから吐出し、スリット先端と走行するウエブとの間のクリアランスに形成した塗布液架橋を介してウエブに塗布液を塗布する塗布装置を前提とした場合のウエブ耳部(端部)に塗布される塗布液の厚みの不安定さを抑制することを課題とするものであり、本発明によれば、図3(A)、(B)及び図4に示すように、ポケット部26の両端部にポケット栓28a、28bが挿設されると共に、ポケット部26の塗布液と接液する側の端面が他方端側に傾斜したテーパ31を有する縦向きな円弧形状33に形成されているスロットダイを用いてウエブ16に塗布する。
【0030】
従って、ポケット部26の両端部に挿設されたポケット栓28a、28bの塗布液と接液する側の端面が他方端側に傾斜したテーパ31を有する縦向きな円弧形状33に形成されているので、塗布液の流れが滞留し易いポケット部の一方端と他方端において、塗布液が円弧形状に沿ってスムーズにスリット方向に方向転換し、スリット先端から吐出される。これにより、ウエブの中央部に塗布される塗布液の厚みを1としたとき、ウエブの端部に塗布される塗布液の厚みが0.94未満の薄膜にならないように塗布することができる。この結果、スリット先端と走行するウエブとの間のクリアランスに形成する塗布液架橋両端部のビード耳部を安定化することができるので、ウエブ耳部における塗布液の塗布厚みがフラツイたり、塗布液が塗布されない耳切れ現象を起こすことがなく、安定塗布を行うことができる。
【0031】
尚、ここで、ポケット部の一方端と他方端との端面形状を、他方端側に傾斜したテーパを有するとは、ポケット部26の一方端から他方端をみたときに、一方端側(図4参照)ではスリット方向のポケット径が大きくなるように傾斜したテーパ31を有し、ポケットの他方端側(図示省略)ではスリット方向のポッケット径が小さくなるように傾斜したテーパを有することを言う。また、縦向きな円弧形状33とは、円弧の方向がポケット部の横に向いているのではなく、図4に示すように下から上に向いていることを言う。
【0032】
そして、円弧状のポケット栓28a、28bは、供給側のポケット栓28aはスリット12に向かって幅寸法が大きくなるテーパ形状であるとともにポケット部26に凸の円弧の部材であり、反供給側のポケット栓28bは、スリット12に向かって幅寸法が小さくなるテーパ形状であるとともにポケット部26に凹の円弧の部材である。
【0033】
また、円弧形状の曲率半径Rは、45〜90mmの範囲内であって、円弧形状の上端線と下端線とが前記テーパの上端線と下端線と一致することが好ましい(図4参照)。ポケット栓の端面に形成する円弧形状の好ましい曲率半径Rを規定したものであり、45〜90mmの範囲内とし、円弧形状の上端線と下端線とがテーパの上端線と下端線と一致するように形成することで、更にウエブ耳部に塗布される塗布液の厚みの不安定さを抑制することができる。
【0034】
更に、スリット12先端部とウエブ16とのクリアランスをD、ウエブ16に塗布される塗布液の厚みをtとしたとき、t/D<0.11であることが好ましい。t/Dを大きくして塗布した方がビード耳部を安定化でき、安定した連続塗布を行うことができるが、ウエブに塗布される塗布膜面が滑らかにならず面質が悪くなる。逆に、塗布膜面の面質を良くするには、t/Dを小さくする必要があり、ビード耳部が不安点になり易い。しかし、上記したポケット栓を有する本発明の塗布装置を用いることで、t/D<0.11の小さい場合であっても、ビード耳部を安定化でき、連続した安定塗布が可能となる。
【0035】
図1の塗布装置10の場合、塗布ヘッド14のポケット部26に供給された塗布液は、ポケット部26でウエブ幅方向に拡流された後、スリット12を上昇してスリット吐出口12Aから吐出される。吐出された塗布液は、押圧ローラ18により塗布ヘッド14側に押圧されて連続走行するウエブ16とエッジ面24との間で一種のビードを形成しながらウエブ16に塗布される。即ち、スリット先端部から吐出した塗布液の吐出力とウエブ16が塗布ヘッド先端を押圧する押圧力がバランスした状態で塗布液がウエブ16に塗布される。図2の塗布装置10’の場合にも略同様であるが、スリット12’を上昇してリップ先端15から吐出した塗布液は、コーティングローラ11に係合支持されて連続走行するウエブ16’とリップ先端15との間で一種のビードを形成しながらウエブ16’に塗布される。このとき、上述した本発明の塗布方法によって、ウエブ耳部のビードを安定にすることができるので、ウエブ耳部に塗布される塗布液の厚みの不安定さを抑制することができ、製品ロスの少ない塗布方法を提供することができる。尚、本発明は、塗布幅がいかなる場合においても有効である。
【0036】
そして、本実施形態は、ポケット部26の両端部に挿設するポケット栓28a、28bの例で説明したが、ポケット部26の端面形状において塗布液と接液する側の端面が他方端側に傾斜したテーパを有する縦向きな円弧形状に形成されていれば、ウエブの中央部に塗布される塗布液の厚みを1としたとき、ウエブの耳部に塗布される塗布液の厚みが0.94未満の薄膜にならないように塗布することができるので、塗布液架橋の両端部であるビード耳部が安定化し、安定した連続塗布を行うことができる。
【0037】
また、本実施形態において、筒状のポケット部26の断面形状が台形形状のものを示しているが、台形形状に限られるものでなく丸や五角形の形状であってもよい。
【0038】
本発明で使用するウエブ16としては、一般に、その幅が300〜2000mm、長さが45〜10000m、厚さが2〜200μmのポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6 −ナフタレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド等のプラスチックフィルム、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンブテン共重合体等の炭素数が2〜10のα−ポリオレフィン類を塗布又はラミネートした紙等からなる可撓性帯状物あるいは該帯状物を基材としてその表面に加工層を形成した帯状物が含まれる。
【0039】
また、塗布液としては、光学フィルムや磁気テープの塗布液のような非ニュートン流体にかぎらず、写真感光層の比較的低粘度のゼラチン溶液をバインダとしてなるようなニュートン流体であってもよい。塗布液の粘度としては、0.8〜10cp(0.8〜10mPa・s)の範囲が好ましく採用できる。
【実施例】
【0040】
次に、図1に示す塗布装置による本発明に係るスロットダイ(実施例)と、従来のスロットダイ(比較例)とについて、ウエブ端部の塗布耳フラツキ及び耳ギレ故障の有無を試験した試験結果を説明する。尚、ここで、「塗布耳フラツキ」とは、耳部ビードが架橋しており破断はしていないが、耳位置が長手方向でふらつく状態をいい、「耳キレ故障」とは、耳部ビードが架橋せず、ビードが破断する状態をいう。
【0041】
塗布ヘッドは、塗布幅が1500mmになるようにスリット幅が形成されると共に、ポケット部の一端から塗布液をサイド供給するものを用い、ポケット部の端部には以下の表1及び表2に示す形状のポケット栓28a、28bを設けた。尚、本試験においては、給液側のポケット栓28aの形状の効果と、反給液側のポケット栓28bの形状の効果を別々に評価した。尚、評価の耳耐性は、耳フラツキ/耳キレなく、耳部塗布液厚みが0.96より大きい状態を◎、耳フラツキ/耳キレなく、耳部塗布液厚みが0.94以上0.96以下の状態を○、耳キレはないが、耳フラツキが発生している状態を△、耳キレが発生している状態を×、と記載している。
【0042】
塗布する際のライン速度を50m/分とした。実験で使用した塗布液は、ディスコティック化合物TE−8のR(1)とR(2)の重合比率4:1の混合物に、光重合開始剤(商品名;イルガキュア907、日本チバガイギー(株)製)を3重量%添加した混合物を30重量%メチルエチルケトン溶液とした、液晶性化合物を含む溶液を用いた。
【0043】
【化1】

【0044】
尚、塗布液の液密度は0.8990g/ml、液粘度は1.9mPa・s、表面張力は22mN/mであった。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
また、図5は、表2の反給液側のポケット栓28bの評価において、クリアランスDが70μmのときのウエブ端部からの塗膜の厚みの比較である。尚、図中のAve.膜厚は、ウエブ中央部の平均膜厚を示している。
【0048】
表1及び表2から分かるように、ポケット栓の塗布液と接液する側の端面が他方端側に傾斜したテーパを有する縦向きな円弧形状に形成されているスロットダイを用いてウエブに塗布した実施例1−1〜3及び実施例2−1〜3は、耳耐性の評価が○以上であった。
【0049】
また、表2及び図5から分かるように、ウエブの中央部の塗布液の厚みを1としたとき、ウエブの端部の塗布液の厚みが0.94未満の薄膜にならないように塗布することができるので、耳耐性の評価の良い光学フィルムを提供することができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る塗布装置の側面断面図
【図2】本発明に係る塗布装置の別の態様を示す側面断面図
【図3】本発明に係る塗布装置の要部を説明する説明図
【図4】本発明に係る塗布装置の要部のテーパを有する縦向きな円弧形状を説明する説明図
【図5】実施例における反供給側ポケット栓の違いによる塗膜分布を示すグラフ
【符号の説明】
【0051】
10、10’…塗布装置、12、12’…スリット、14、14’…塗布ヘッド、16、16’…ウエブ、18…押圧ローラ、24…エッジ面、26、26’…ポケット部、28a、28b…ポケット栓、30…給液管、31…テーパ、32…塗布幅規制板、33…円弧形状

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットダイのポケット部の一方端から他方端に向けてサイド給液した塗布液を、該スロットダイのスリットから吐出し、スリット先端と走行するウエブとの間のクリアランスに形成した塗布液架橋を介して前記ウエブに塗布液を塗布する塗布方法において、
前記ポケット部の前記一方端と前記他方端との端面形状を、前記他方端側に傾斜したテーパを有すると共に曲率半径Rが45〜90mmの縦向きな円弧形状に形成することにより、前記ウエブの中央部に塗布される塗布液の厚みを1としたとき、前記ウエブの端部に塗布される塗布液の厚みが0.94未満の薄膜にならないように塗布することを特徴とする塗布方法。
【請求項2】
前記ポケット部の前記一方端と前記他方端との端面形状を、前記ポケット部の両端部に挿設するポケット栓の塗布液が接液する側の端面に形成することを特徴とする請求項1の塗布方法。
【請求項3】
スロットダイのポケット部の一方端から他方端に向けてサイド給液した塗布液を、該スロットダイのスリットから吐出し、スリット先端と走行するウエブとの間のクリアランスに形成した塗布液架橋を介して前記ウエブに塗布液を塗布する塗布装置において、
前記ポケット部の両端部にポケット栓が挿設されると共に、該ポケット栓の前記塗布液と接液する側の端面が前記他方端側に傾斜したテーパを有する縦向きな円弧形状に形成されていることを特徴とする塗布装置。
【請求項4】
前記円弧形状の曲率半径Rは、45〜90mmの範囲内であって、円弧形状の上端線と下端線とが前記テーパの上端線と下端線と一致することを特徴とする請求項3の塗布装置。
【請求項5】
前記クリアランスをD(μm)とし、前記ウエブに塗布される塗布液の湿潤膜厚をt(μm)としたときに、t/D<0.11であることを特徴とする請求項3又は4の塗布装置。
【請求項6】
請求項3〜5の塗布装置を用いて、ウエブに塗布液を塗布した塗布膜製品を製造することを特徴とする塗布膜製品の製造方法。
【請求項7】
前記塗布膜製品は液晶表示装置に用いる光学フィルムであることを特徴とする請求項6の塗布膜製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−45513(P2009−45513A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211414(P2007−211414)
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】