説明

塗布方法及び電子写真感光体の製造方法

【課題】塗布槽内の塗布液におけるポンプ由来の脈動がなく、かつ、塗布槽内の塗布液の流速を安定させることにより、連続塗布生産においても均一なコート層が安定して得られる塗布方法を提供する。
【解決手段】塗布液に被塗布体を浸漬し引上げることによって該被塗布体に塗膜を形成する塗布方法において、
該被塗布体を浸漬する塗布槽と、該塗布槽側壁の上端縁を越えて溢流した塗布液を受ける回収タンクと、液送手段を有する配管を通して該回収タンクから送られた塗布液を受ける貯留槽とを有する塗布装置を用い、
該貯留槽における塗布液は被塗布体を浸漬し引上げる間常時該貯留槽側壁の上端縁を越えて溢流しており、該貯留槽の塗布液溢流面は該塗布槽の塗布液溢流面よりも高い位置を保持し、該貯留槽の塗布液溢流面より低い位置から該塗布槽へ塗布液を流入させることによって、塗布液を循環させることを特徴とする塗布方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸漬塗布方法に関し、特に電子写真感光体の製造における連続浸漬塗布に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体の製造において、導電性支持体上に感光層、下引層、表面保護層等のコート層を形成する方法として、ロールコーター法、スプレー法、静電塗装法、浸漬塗布法等が挙げられる。このうち浸漬塗布法は、円筒体、シームレスベルト等の立体形状を有する感光体を製造する上で有利な方法であるため広く実施されている。この方法は塗布液の入っている塗布槽、及び被塗布体の保持と昇降をさせる装置を用い、被塗布体を塗布槽中に浸し、次いで適当な速さで引上げることにより、被塗布体の表面にコート層を形成させるものである。
【0003】
この浸漬塗布法では、塗布液の粘度、固形分、引上げ速度などの塗布条件を被塗布物に応じて適宜設定することによって所望の膜厚が得られる。しかし、浸漬塗布法において被塗布物を塗布槽中に単に浸漬し、引上げるだけでは被塗布物の排除体積により塗布液の液面が低下する。それによって塗布部上端の寸法精度が低下するばかりでなく、塗布液面は空気と接触しているため塗布槽上部の内部に塗布液が被膜として付着し、やがてそれが剥れて塗布液中に再混入することで塗布液が汚染される。さらに、塗布槽の液面では溶剤の揮発による濃度変化が著しく、塗布槽の上下方向に濃度勾配が生じ感光体の塗布ムラとなる。このように静置した塗布液を用いる浸漬塗布法では、上に示すような不都合が生じ、さらに大量生産の際にはこの不都合がより顕著にあらわれる。
【0004】
そこで、塗布槽とは別に設けられた回収タンクとの間で塗布液を連続的に循環させた状態で塗布する方法が考案され用いられてきた(特許文献1参照)。この方法は図1に示すように、液送手段103を用いて、塗布液を回収タンク102から塗布槽101の下部へ送液し、塗布槽の容量を越える塗布液はオーバーフローさせて回収タンクに循環される仕組みになっている。これにより塗布槽における液面の高さが一定に保たれ、さらに、塗布槽内の塗布液の濃度が均一となる。液送手段としては、フィルター104による圧力抵抗の影響を受けることなく、安定した塗布液の流速を維持するため、通常ダイヤフラムポンプ等の送液圧力の強いポンプが用いられる。
【0005】
しかし、このような液送手段には、塗布液の流れにおいて脈動を生じさせるという欠点があり、結果として塗布槽内の塗布液の流速が不安定なものとなる。浸漬塗布におけるコート層の膜厚は、塗布液に対する被塗布体の相対引上げ速度によって決定されるため、塗布槽における塗布液流速の乱れは、被塗布体表面に形成されるコート層におけるムラなどの欠陥原因となる。従って、図1に示した方法では均一な感光層が得られにくいという問題があった。
【0006】
また、この欠点を改善する方法として、図2に示すように、塗布槽201より高い位置に第三の槽である貯留槽205を設け、液送手段による脈動が塗布槽まで伝播されないよう、塗布液が貯留槽内に送られる際に一度大気圧下に開放させ、加圧状態を解除する方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法では、貯留槽から塗布槽への送液にはポンプ等の動力源を用いず、サイホンの原理に基づいた塗布液の重力のみを利用した送液方法とすることで、塗布槽における塗布液の脈動を防止している。この方式は、ポンプによる脈動が塗布槽内には及ばないという長所があるが、反面次の欠点がある。第一に塗布槽内の塗布液の流速を一定に維持することが困難である。すなわち、塗布槽内の塗布液の流速は塗布槽と貯留槽との液面高さの差によって影響を受け、塗布槽の液面206が常時オーバーフローし一定である限りにおいては、貯留槽の液面高さ207を安定させることが塗布液の流速を安定させる必要条件となる。しかし、図2に挙げた方法の場合、被塗布物を浸漬した際に被塗布物による排除体積分の塗布液が一時に回収タンクに送り込まれるため、被塗布物引上げ直後は、貯留槽における液面は浸漬前に比べて下がってしまう。また、連続塗布による塗布液の消費や補充、さらには、塗布液の粘度調整に伴う希釈溶媒の補充等による塗布液総量の増減も、貯留槽の液面高さを不安定にする要因となり、従って、連続塗布において貯留槽の液面高さを一定に維持して塗布槽内の塗布液流速を一定に維持するのは実質的に困難となる。そのために連続塗布生産においては、得られる膜厚の値に変動を生じやすくなる。
【0007】
図2の方法における第二の欠点として、塗布液が貯留槽に入る前に加圧状態から大気圧下に解放される構成をとっているために、この部分で塗料がエアを巻き込み、気泡が生じやすくなる。気泡は塗布槽に送られて被塗布物に付着する可能性があり、塗工欠陥の要因となる。
【0008】
また、図2同様に貯留槽が塗布槽より高所に位置しながら、図2と異なり塗布液が貯留槽に送られる際に大気圧下に開放されない構成の装置が提案されている(特許文献3参照)。この方法においても、図2の方法同様に貯留槽の液面高さを一定に維持するのは困難であり、塗布槽における塗布液の流速安定性の観点からは充分とはいえない。
【特許文献1】特開昭59−90667号公報
【特許文献2】特開平09−122551号公報
【特許文献3】特開平02−140751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、浸漬塗布における塗布液循環方法において従来問題となっている、塗布槽内の塗布液におけるポンプ由来の脈動がなく、かつ、塗布槽内の塗布液の流速を安定させることにより、連続塗布生産においても均一なコート層が安定して得られる塗布方法、及び該塗布方法を用いた電子写真感光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、塗布液に被塗布体を浸漬し引上げることによって該被塗布体に塗膜を形成する塗布方法において、
該被塗布体を浸漬する塗布槽と、該塗布槽側壁の上端縁を越えて溢流した塗布液を受ける回収タンクと、液送手段を有する配管を通して該回収タンクから送られた塗布液を受ける貯留槽とを有する塗布装置を用い、
該貯留槽における塗布液は被塗布体を浸漬し引上げる間常時該貯留槽側壁の上端縁を越えて溢流しており、該貯留槽の塗布液溢流面は該塗布槽の塗布液溢流面よりも高い位置を保持し、該貯留槽の塗布液溢流面より低い位置から該塗布槽へ塗布液を流入させることによって、塗布液を循環させることを特徴とする塗布方法である。
【0011】
また本発明は、上記塗布方法を用いたことを特徴とする電子写真感光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、浸漬塗布における塗布液循環方法において従来問題となっている、塗布槽内の塗布液におけるポンプ由来の脈動がなく、かつ、塗布槽内の塗布液の流速を安定させることにより、連続塗布生産においても均一なコート層が安定して得られる塗布方法、及び該塗布方法を用いた電子写真感光体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明による塗布方法に用いる浸漬塗布装置を図3に示す。以下図3に従って説明する。300は被塗布物であり、その上部は不図示の昇降装置によって接続されている。301は被塗布物を浸漬塗布するための塗布槽である。塗布槽を常時オーバーフローしている塗布液は、配管を経て回収タンク302に移動する。回収タンクの塗布液は、液送手段303によって貯留槽305に送られる。液送手段としては、ダイヤフラムポンプ、マグネットポンプなどが挙げられる。貯留槽においては、塗布槽同様、塗布液が常時オーバーフローしている。また、貯留槽の塗布液溢流面307は塗布槽の塗布液溢流面306よりも高い位置になるよう、両槽を配置する。貯留槽の塗布液は、塗布液溢流面307より低い位置に設けられた流出口309から重力によって塗布槽に送られる。塗布液の流速を決定する2つの溢流面306及び307は、いずれも常時オーバーフローしているため、両者は常に一定の高さ差を維持し、従って塗布槽における塗布液の流速は一定の値を維持することが可能となる。また、貯留槽において塗布液をオーバーフローさせることにより、液送手段による塗布液の脈動は貯留槽のオーバーフロー側に吸収され、塗布槽には伝達されずにすむ。さらに、貯留槽における塗布液の流入口308を塗布液溢流面307よりも低い位置に設けることにより、塗布液流入時におけるエアのまき込みや塗布液溢流面307の揺れを防ぐことができる。また、貯留槽からオーバーフローした塗布液は、直接塗布槽には送られず、再度液送手段によってフィルター304を経由するように配管を構成してある。従って、貯留槽において塗布液にゴミ・ホコリ等の異物が混入した場合、これらは直接塗布槽には送られず、貯留槽におけるオーバーフローにより排出され、フィルターにより異物がろ過されたのち再度貯留槽に流入する。
【0014】
次に、本発明による塗布方法に用いる浸漬塗布装置の別の実施形態を図4に示す。貯留槽405における塗布液流入口408と流出口409を結ぶ直線の間に、仕切り板等の遮蔽物410が設けてあり、流入口から流出口への塗布液のショートパスを防止している。また、塗布槽401における塗布液の流速を、塗布液の種類や性質、若しくは所望膜厚等に応じて調整できるよう、貯留槽の高さ位置を高さ調整手段411によって可変とすることで、塗布槽−貯留槽各々の塗布液溢流面406と407の高さ差を調整可能な仕組みにしてある。ここで、塗布槽と貯留槽における各溢流面高さの差は、好ましくは10〜1000mm、より好ましくは10〜400mmの間で調整可能となるような構成とする。塗布槽における塗布液流速の別の調整手段として、貯留槽と塗布槽の間に流量調整用のバルブ412を配置してもよい。塗布槽における塗布液の流速としては、好ましくは50〜600mm/min、より好ましくは100〜500mm/minの範囲である。ここで流速は、塗布槽における塗布液の液面を塗布槽の下部に一度下げた後、塗布液が塗布槽内を上昇する距離と時間の測定値から算出した値である。塗布槽における流速が小さ過ぎると、塗布液に濃度勾配を生じやすく、過剰に大きいと塗布に乱れを生じやすくなる。本発明による塗布方法では、貯留槽から塗布槽への送液は重力のみによるため、送液の圧力は弱い範囲でしか制御できない。両槽の間の配管が、特に水平に配置されている箇所415においては、気泡が配管内に滞留する場合があり、メンテナンスの際に気泡を強制的に塗布槽側に排出させるエア抜き循環を行うにあたって、重力による送液だけでは、圧力が不足することがある。従って、液送手段の圧力を利用した強制的な気泡排出メンテナンスを可能とするために、液送手段403の二次側から貯留槽を経由せずに直接塗布槽側に通じるバルブ416を有した分岐配管413、及びバルブ417、418を配置し、エア抜き循環が可能な構成としてある。
【0015】
また、回収タンクの液受け部分414にはメッシュを用いてあり、ゴミ等の異物、及び気泡をトラップできる構成となっている。
【0016】
本発明による塗布方法は、100mPas以下、とりわけ10mPas以下の比較的低い粘度を有する塗布液に対して、特に有効に機能する。
【0017】
本発明における貯留槽の容積は10〜30リットル、配管の太さは20〜60mmの範囲、また配管一箇所の長さが3000mmを越えないように構成してある。
【0018】
次に、本発明による塗布方法を用いた電子写真感光体の製造方法について説明する。
【0019】
本発明の電子写真感光体は、円筒状支持体上に電荷発生層及び電荷輸送層を有する、いわゆる積層型感光層を有する電子写真感光体である。積層型感光層には、支持体側から電荷発生層、電荷輸送層の順に積層した順層型感光層と、支持体側から電荷輸送層、電荷発生層の順に積層した逆層型感光層があるが、電子写真特性の観点からは順層型感光層が好ましい。
【0020】
円筒状支持体(以下、単に「支持体」ともいう。)としては、導電性を有していればよく(導電性支持体)、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛、ステンレス、バナジウム、モリブデン、クロム、チタン、ニッケル、インジウム、金、白金などの金属製(合金製)の支持体を用いることができる。また、これら金属(合金)を真空蒸着によって被膜形成した層を有する上記金属製支持体やプラスチック(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂など)製支持体を用いることもできる。また、カーボンブラック、酸化スズ粒子、酸化チタン粒子、銀粒子などの導電性粒子を適当な結着樹脂と共にプラスチックや紙に含浸した支持体や、導電性結着樹脂を有するプラスチック製の支持体などを用いることもできる。
【0021】
また、支持体の表面は、レーザー光などの散乱による干渉縞の防止などを目的として、切削処理、粗面化処理、アルマイト処理などを施してもよい。
【0022】
支持体と電荷発生層もしくは電荷輸送層または後述の中間層との間には、レーザー光などの散乱による干渉縞の防止や、支持体の傷の被覆を目的とした導電層を設けてもよい。
【0023】
導電層は、カーボンブラック、金属粒子、金属酸化物粒子などの導電性粒子を結着樹脂に分散させて形成することができる。
【0024】
導電層の膜厚は、1〜40μmであることが好ましく、特には2〜20μmであることがより好ましい。
【0025】
また、支持体または導電層と電荷発生層または電荷輸送層との間には、バリア機能や接着機能を有する中間層を設けてもよい。中間層は、感光層の接着性改良、塗工性改良、支持体からの電荷注入性改良、感光層の電気的破壊に対する保護などのために形成される。
【0026】
中間層は、アクリル樹脂、アリル樹脂、アルキッド樹脂、エチルセルロース樹脂、エチレン−アクリル酸コポリマー、エポキシ樹脂、カゼイン樹脂、シリコーン樹脂、ゼラチン樹脂、フェノール樹脂、ブチラール樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリルエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ユリア樹脂などの樹脂や、酸化アルミニウムなどの材料を用いて形成することができる。また、中間層には、金属、合金、それらの酸化物、塩類、界面活性剤などを含有させてもよい。
【0027】
中間層の膜厚は0.05〜7μmであることが好ましく、特には0.1〜2μmであることがより好ましい。
【0028】
電荷発生層は、電荷発生物質を結着樹脂及び溶剤と共に分散して得られる電荷発生層用塗布液を塗布し、加熱及び/または放射線の照射などにより乾燥及び/または硬化することによって形成することができる。分散方法としては、ホモジナイザー、超音波分散機、ボールミル、サンドミル、ロールミル、振動ミル、アトライター、液衝突型高速分散機などを用いた方法が挙げられる。
【0029】
電荷発生物質としては、例えば、モノアゾ、ジスアゾ、トリスアゾなどのアゾ顔料や、金属フタロシアニン、非金属フタロシアニンなどのフタロシアニン顔料や、インジゴ、チオインジゴなどのインジゴ顔料や、ペリレン酸無水物、ペリレン酸イミドなどのペリレン顔料や、アンスラキノン、ピレンキノンなどの多環キノン顔料や、スクワリリウム色素や、ピリリウム塩及びチアピリリウム塩や、トリフェニルメタン色素や、セレン、セレン−テルル、アモルファスシリコンなどの無機物質や、キナクリドン顔料や、アズレニウム塩顔料や、シアニン染料や、キサンテン色素や、キノンイミン色素や、スチリル色素や、硫化カドミウムや、酸化亜鉛などが挙げられる。これら電荷発生物質は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0030】
電荷発生層に用いる結着樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アリル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、スチレン−ブタジエンコポリマー、フェノール樹脂、ブチラール樹脂、ベンザール樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリルエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリプロピレン樹脂、メタクリル樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー、酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。特には、ブチラール樹脂などが好ましい。これらは単独、混合または共重合体として1種または2種以上用いることができる。
【0031】
電荷発生層中の結着樹脂の割合は、電荷発生層全質量に対して90質量%以下であることが好ましく、特には50質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
電荷発生層用塗布液に用いる溶剤は、使用する結着樹脂や電荷発生物質の溶解性や分散安定性から選択されるが、有機溶剤としてはアルコール、スルホキシド、ケトン、エーテル、エステル、脂肪族ハロゲン化炭化水素、芳香族化合物などが挙げられる。
【0033】
電荷発生層の膜厚は0.001〜6μmであることが好ましく、特には0.01〜1μmであることがより好ましい。
【0034】
また、電荷発生層には、種々の増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。
【0035】
次に、電荷輸送層は、電荷輸送物質、結着樹脂を溶剤に溶解して得られる電荷輸送層用塗布液を塗布し、加熱及び/または放射線の照射などにより乾燥及び/または硬化することによって形成することができる。電荷輸送層用塗布液に含有させる電荷輸送物質としては、例えば、トリアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、スチルベン化合物、ピラゾリン化合物、オキサゾール化合物、チアゾール化合物、トリアリールメタン化合物などが挙げられる。これら電荷輸送物質は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0036】
電荷輸送層中の電荷輸送物質の割合は、電荷輸送層全質量に対して20〜80質量%であることが好ましく、特には30〜70質量%であることがより好ましい。従って、電荷輸送層用塗布液には、電荷輸送層形成後の電荷輸送物質の割合が上記範囲になるように電荷輸送物質を含有させることが好ましい。
【0037】
電荷輸送層用塗布液に含有させる結着樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アクリロニトリル樹脂、アリル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ブチラール樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリルエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリプロピレン樹脂、メタクリル樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。特には、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂などが好ましい。これらは単独、混合または共重合体として1種または2種以上用いることができる。
【0038】
電荷輸送物質と結着樹脂との割合は、5:1〜1:5(質量比)の範囲が好ましい。
【0039】
電荷輸送層用塗布液に用いる溶剤としては、モノクロロベンゼン、ジオキサン、トルエン、キシレン、N−メチルピロリドン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、メチラールなどが挙げられる。
【0040】
また、電荷輸送層には、すなわち電荷輸送層用塗布液には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。
【0041】
電荷輸送層(順層型感光層の場合)または電荷発生層(逆層型感光層の場合)上には、これを保護することを目的とした保護層を設けてもよい。保護層は、上述した各種結着樹脂を溶剤に溶解して得られる保護層用塗布液を塗布し、加熱及び/または放射線の照射などにより乾燥及び/または硬化することによって形成することができる。
【0042】
また、本発明の電子写真感光体の表面層には、潤滑剤を含有させてもよい。潤滑剤としては、例えば、ケイ素原子やフッ素原子を含むポリマー、モノマー及びオリゴマーなどが挙げられる。具体的には、N−(n−プロピル)−N−(β−アクリロキシエチル)−パーフルオロオクチルスルホン酸アミド、N−(n−プロピル)−(β−メタクリロキシエチル)−パーフルオロオクチルスルホン酸アミド、パーフルオロオクタンスルホン酸、パーフルオロカプリル酸、N−n−プロピル−n−パーフルオロオクタンスルホン酸アミド−エタノール、3−(2−パーフルオロヘキシル)エトキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、N−n−プロピル−N−2,3−ジヒドロキシプロピルパーフルオロオクチルスルホンアミドなどが挙げられる。また、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリジクロロジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフッ素原子含有樹脂の粒子なども挙げられる。これらは単独または混合して1種または2種以上用いることができる。また、潤滑剤の数平均分子量は、3000〜5000000であることが好ましく、特には10000〜3000000であることが好ましい。潤滑剤が粒子である場合、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、特には0.05〜2.0μmであることが好ましい。
【0043】
また、本発明の電子写真感光体の表面層には、抵抗調整剤を含有させてもよい。抵抗調整剤としては、例えば、SnO、ITO、カーボンブラック、銀粒子などが挙げられる。また、これらに疎水化処理を施したものを用いてもよい。抵抗調整剤を添加した場合の表面層の抵抗は10〜1014Ω・cmであることが好ましい。
【0044】
なお、保護層を設ける場合は保護層が電子写真感光体の表面層であり、保護層を設けない場合であって感光層が順層型感光層の場合は電荷輸送層が電子写真感光体の表面層であり、保護層を設けない場合であって逆層型感光層の場合は電荷発生層が電子写真感光体の表面層である。
【0045】
図5に、本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す。
【0046】
図5において、1は円筒状の電子写真感光体であり、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。
【0047】
回転駆動される電子写真感光体1の表面は、帯電手段(一次帯電手段:帯電ローラーなど)3により、正または負の所定電位に均一に帯電され、次いで、スリット露光やレーザービーム走査露光などの露光手段(不図示)から出力される露光光(画像露光光)4を受ける。こうして電子写真感光体1の表面に、目的の画像に対応した静電潜像が順次形成されていく。
【0048】
電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、現像手段5の現像剤に含まれるトナーにより現像されてトナー像となる。次いで、電子写真感光体1の表面に形成担持されているトナー像が、転写手段(転写ローラーなど)6からの転写バイアスによって、転写材供給手段(不図示)から電子写真感光体1と転写手段6との間(当接部)に電子写真感光体1の回転と同期して取り出されて給送された転写材(紙など)Pに順次転写されていく。
【0049】
トナー像の転写を受けた転写材Pは、電子写真感光体1の表面から分離されて定着手段8へ導入されて像定着を受けることにより画像形成物(プリント、コピー)として装置外へプリントアウトされる。
【0050】
トナー像転写後の電子写真感光体1の表面は、クリーニング手段(クリーニングブレードなど)7によって転写残りの現像剤(トナー)の除去を受けて清浄面化され、さらに前露光手段(不図示)からの前露光光(不図示)により除電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。なお、図5に示すように、帯電手段3が帯電ローラーなどを用いた接触帯電手段である場合は、前露光は必ずしも必要ではない。
【0051】
上述の電子写真感光体1、帯電手段3、現像手段5、転写手段6及びクリーニング手段7などの構成要素のうち、複数のものを容器に納めてプロセスカートリッジとして一体に結合して構成し、このプロセスカートリッジを複写機やレーザービームプリンターなどの電子写真装置本体に対して着脱自在に構成してもよい。図5では、電子写真感光体1と、帯電手段3、現像手段5及びクリーニング手段7とを一体に支持してカートリッジ化して、電子写真装置本体のレールなどの案内手段10を用いて電子写真装置本体に着脱自在なプロセスカートリッジ9としている。
【0052】
本発明の塗布方法は、導電層、中間層、電荷発生層、電荷輸送層、及び保護層の形成における浸漬塗布に用いることが可能であり、特に材料や所望膜厚の理由から塗布液を比較的低粘度に設定することが多い中間層、電荷発生層及び保護層において特に適している。
【実施例】
【0053】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
【0054】
(実施例1)
直径30mm、長さ254mmのアルミニウムシリンダーを支持体(円筒状支持体)とした。
【0055】
次に、酸化スズコート処理酸化チタン10部、酸化チタン10部、フェノール樹脂10部、シリコーンオイル0.001部、メタノール15部及びメチルセロソルブ15部をサンドミル装置で3時間分散して、導電層用塗布液を調製した。
【0056】
この導電層用塗布液を、図1に示す塗布装置を用いて支持体上に浸漬塗布し、140℃で30分乾燥・硬化して、膜厚が15μmの導電層を形成した。
【0057】
次に、ポリアミド樹脂(商品名:M−4000、東レ(株)製)10部を、メタノール100部/イソプロパノール90部の混合溶剤に溶解して、8mPa・sの粘度を有する中間層用塗布液を調製した。
【0058】
この中間層用塗布液を、図4に示した本発明による塗布装置を用いて前記導電層上に浸漬塗布し、90℃で10分間乾燥して、膜厚が0.6μmの中間層を形成した。この時、塗布槽の溢流面406と貯留槽の溢流面407の高さの差は、70mmであり、塗布槽における塗布液の流速は380mm/minであった。
【0059】
次に、CuKαのX線回折におけるブラッグ角2θの7.4°±0.2°、28.1°に強いピークを有するHOGaPc結晶9部とポリビニルブチラール(商品名:エスレックBX−1、積水化学(株)製)3部をテトラヒドロフラン100部に溶解した液を、1mmφのガラスビーズを用いたサンドミル装置で3時間分散した。これに200部の酢酸ブチルを加えて希釈した後回収して、1mPa・sの粘度を有する電荷発生層用塗布液を得た。これを、図4に示した本発明による塗布装置を用いて前記中間層上に浸漬塗布し、80℃で15分間乾燥して、膜厚が0.15μmの電荷発生層を形成した。この時、塗布槽の溢流面406と貯留槽の溢流面407の高さの差は、50mmであり、塗布槽における塗布液の流速は310mm/minであった。
【0060】
次に、下記式で示される構造を有するスチリル化合物(電荷輸送物質)10部及び、ポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロンZ−400、三菱ガス化学(株)製)10部を、モノクロロベンゼン120部に溶解して、電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を、図1に示す塗布装置を用いて電荷発生層上に浸漬塗布し、120℃で60分間乾燥して、膜厚が30μmの電荷輸送層を形成した。このようにして、表面層が電荷輸送層である電子写真感光体を連続的に100本作成した。10本ごとに中間層及び電荷発生層の膜厚を確認したところ、中間層は0.6μm、電荷発生層は0.15μmの膜厚を維持し安定した状態を保った。また、中間層及び電荷発生層の塗膜における乱れ、気泡、異物等の塗膜欠陥はみられなかった。
【0061】
また、前記中間層用塗布液の塗布において、図4に示した高さ位置調整手段411を用いて塗布液溢流面406と407の落差を変化させた際の塗布槽内における塗布液流速を図6に示す。図6からわかるように、塗布液溢流面406と407の落差調整により流量は自在に制御可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】従来の浸漬塗布法を説明するための図である。
【図2】従来の浸漬塗布法を説明するための図である。
【図3】本発明の浸漬塗布法を説明するための図である。
【図4】本発明の浸漬塗布法を説明するための図である。
【図5】本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す図である。
【図6】図4の塗布装置における溢流面落差と中間層用塗布液の塗布槽内流速との相関図である。
【符号の説明】
【0063】
1 電子写真感光体
2 軸
3 帯電手段
4 露光光
5 現像手段
6 転写手段
7 クリーニング手段
8 定着手段
9 プロセスカートリッジ
10 案内手段
P 転写材
100、200、300、400 被塗布体
101、201、301、401 塗布槽
102、202、302、402 回収タンク
103、203、303、403 液送手段
104、204、304、404 フィルター
205、305、405 貯留槽
106、206、306、406 溢流面(塗布槽)
207、307、407 溢流面(貯留槽)
308、408 塗布液流入口(貯留槽)
309、409 塗布液流出口(貯留槽)
410 遮蔽物
411 高さ位置調整手段
412 バルブ
413 メンテナンス用分岐配管
414 液受け部(回収タンク)
415 配管水平配置部
416、417、418 バルブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液に被塗布体を浸漬し引上げることによって該被塗布体に塗膜を形成する塗布方法において、
該被塗布体を浸漬する塗布槽と、該塗布槽側壁の上端縁を越えて溢流した塗布液を受ける回収タンクと、液送手段を有する配管を通して該回収タンクから送られた塗布液を受ける貯留槽とを有する塗布装置を用い、
該貯留槽における塗布液は被塗布体を浸漬し引上げる間常時該貯留槽側壁の上端縁を越えて溢流しており、該貯留槽の塗布液溢流面は該塗布槽の塗布液溢流面よりも高い位置を保持し、該貯留槽の塗布液溢流面より低い位置から該塗布槽へ塗布液を流入させることによって、塗布液を循環させることを特徴とする塗布方法。
【請求項2】
前記回収タンクから送られた塗布液が、前記貯留槽の塗布液溢流面より低い位置から該貯留槽に流入することを特徴とする請求項1に記載の塗布方法。
【請求項3】
前記貯留槽における前記回収タンク側の配管連結口と前記塗布槽側の配管連結口を結ぶ直線が、遮蔽物によって遮蔽されていることを特徴とする請求項1に記載の塗布方法。
【請求項4】
前記貯留槽及び前記塗布槽の一方または両方が、該一方または両方の高さ位置を調整する手段を有することを特徴とする請求項1に記載の塗布方法。
【請求項5】
前記貯留槽で溢流した塗布液が、直接前記塗布槽には送られず、配管を経由して前記回収タンク若しくは該貯留槽に戻されることを特徴とする請求項1に記載の塗布方法。
【請求項6】
請求項1に記載の塗布方法を用いたことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−320791(P2006−320791A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144070(P2005−144070)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】