説明

塗布液組成物

【課題】高硬度、高耐湿性の導電膜が得られる塗布液組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の塗布液組成物は、分散媒と、導電性有機化合物と、下記式(1)で表わされるポリビニルアルコールと、を含有する塗布液組成物であって、前記ポリビニルアルコールは、z/(x+y+z)×100で表わされる共重合比率が5mol%〜20mol%であることを特徴とする。
−[CH−CH(OCOCH)]x−[CH−CH(OH)]y−[CH−CH(R)]z−…式(1)
(式(1)中でのRは、水素またはCHを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明電極などに用いられる塗布液組成物及びそれを用いた導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ、太陽電池、タッチパネルなどに透明電極が用いられている。透明電極に用いられる導電膜の材料としては、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)との高分子錯体が主流となっている。PEDOT/PSSは成膜性がよく、種々の用途で使用できるので、期待されている材料である。従来、PEDOT/PSSを用いた導電膜の機械的強度及び耐湿性などを改善するため、ポリビニルアルコール(PVA)を添加した導電性コーティング組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
かかる導電性コーティング組成物は、PEDOT/PSS及びPVAを溶媒中で混合・分散して塗布液を調製し、得られた塗布液を基材上に塗布するウェットプロセスにより成膜される。PVAは、塗膜内でバインダーとして作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−324143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、PVAは分子鎖内における水酸基の含有量が高く、高い結晶性及び高い親水性を有する。PVAをバインダーとして用いた場合、その結晶性によりPEDOT/PSSの分子鎖を結着し、導電膜の機械的強度及び耐湿性を改善している。
【0006】
しかしながら、PVAをバインダーとして用いた場合、その親水性のため導電膜が吸湿し、耐湿性能が不十分となる問題があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、高硬度、高耐湿性の導電膜が得られる塗布液組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の塗布液組成物は、分散媒と、導電性有機化合物と、下記式(1)で表わされるポリビニルアルコールと、を含有する塗布液組成物であって、前記ポリビニルアルコールは、z/(x+y+z)×100で表わされる共重合比率が5mol%〜20mol%であることを特徴とする。
−[CH−CH(OCOCH)]x−[CH−CH(OH)]y−[CH−CH(R)]z−…式(1)
(式(1)中でのRは、水素またはCHを表す。)
【0009】
この構成によれば、ポリビニルアルコールの分子鎖中の疎水基により、ポリビニルアルコールの結晶性を損なうことなく吸湿性を抑制できるので、機械的強度が高く、耐湿性が高い導電膜を得ることができる。
【0010】
本発明の塗布液組成物においては、前記ポリビニルアルコールは、y/(x+y)×100で表わされる鹸化率が92%〜99%であることが好ましい。
【0011】
本発明の塗布液組成物においては、前記導電性有機化合物90重量部〜60重量部と、前記ポリビニルアルコール10重量部〜40重量部と、を含有することが好ましい。
【0012】
本発明の塗布液組成物においては、前記導電性有機化合物は、PEDOT/PSSであることが好ましい。
【0013】
本発明の導電膜は、上記塗布液組成物を基材上に塗布してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高硬度、高耐湿性の導電膜が得られる塗布液組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)PVAの分子鎖の構造を示す模式図であり、(b)PVAの結晶構造を示す概念図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る導電膜の模式図である。
【図3】(a)本実施の形態に係る変性PVAの膨潤性を示す図であり、(b)本実施の形態に係る変性PVAの溶出性を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る導電膜の耐湿試験の結果を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る導電膜の鉛筆硬度試験の結果を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る導電膜のバインダーの添加量と抵抗値変化割合を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る導電膜の製造工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者は、高硬度、高耐湿性の導電膜が得られる塗布液組成物について鋭意研究した。まず、導電膜の硬度及び耐湿性の改善のため、バインダーとして用いられるPVAの特性について調べた。PVAは、高い結晶性及び高い親水性を有する。これは、PVAの分子鎖中の水酸基含量が高いことに由来する。
【0017】
図1(a)、図1(b)を参照してPVAの結晶構造の概念について説明する。図1(a)はPVAの分子鎖の構造を示す模式図である。同図に示すように、PVAは、炭素原子が連続して結合する炭素主鎖を有し、その炭素主鎖は、炭素上に水素が二つ結合したCH2と、炭素上に水素及び水酸基が結合したCHOHと、が交互に連なる構造を有している。このように、PVAは分子鎖中における水酸基の含量が高く、水酸基が規則的に配列していることに加え、炭素主鎖上に水酸基の他に置換基がないので分子鎖間に強固な水素結合が形成される。この分子鎖間の水素結合により分子鎖が規則的に配向し、PVAの結晶性が発現する。
【0018】
図1(b)は、PVAの結晶構造を示す概念図である。図1(b)においては、実線がPVAの分子鎖を示している。PVAは、分子量が大きく長大な分子鎖を有するので、分子鎖が完全に配向することがなく、分子鎖が配向する部分と配向しない部分とが生じる。PVAの分子鎖が規則的に配向した部分には結晶化部11が形成され、分子鎖が規則的に配向しない部分には非晶質部12が形成される。結晶化部11では、PVAの分子鎖間に強固な水素結合が形成され、分子鎖が一定方向に配列されて密度が高い状態となっている。結晶化部11は、PVA分子鎖の一部または複数部に形成される。各結晶化部11の間には所定の間隔Dが形成され、間隔Dの部分は分子鎖が不規則に配向した非晶質部(アモルファス)12となる。非晶質部12では、PVAの分子鎖間の水素結合が弱く、PVAの分子鎖が複雑に絡み合う状態となり、密度が低い状態となっている。
【0019】
このように、PVAは、分子鎖中に結晶化部11と非晶質部12とが混在する。結晶化部11は、分子鎖が規則的に配向して密度が高い状態となるので、硬度が高くなると共に吸湿しにくい状態となる。一方、非晶質部12は分子鎖が配向せず、密度が低い状態となるので硬度が低くなると共に吸湿しやすい状態となる。
【0020】
一方、PVAなどのポリマーは、モノマー成分を混合して共重合することにより、分子鎖中に種々の官能基を導入することができる。このため、共重合により高分子鎖中にエチレン、ポリプロピレンなどの疎水基を導入した場合、得られるポリマーの疎水性を向上させることが期待できる。
【0021】
そこで、本発明者は、PVAをバインダーとして用いた場合、導電膜の機械的強度を向上できる反面、耐湿性に関しては不十分であること、また、PVAなどの高分子化合物は共重合により物性を制御できること、に着眼し、本発明を完成させるに至った。
【0022】
すなわち、本発明は、PEDOT/PSSの導電膜に、PVAの分子鎖に疎水基を導入したPVA(以下、変性PVAという)をバインダーとして用いることにより、PVAに由来する結晶性と、疎水基に由来する疎水性と、を共に発現することにより、導電膜の高硬度化及び高耐湿化を共に達成できる塗布液組成物を提供するものである。
【0023】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図2は、本実施の形態に係る塗布液組成物により成膜された導電膜を示す模式図である。同図に示すように、本実施の形態に係る導電膜21は、基材22上に塗膜されるPEDOT23及びPSS24と、バインダーとしての変性PVA25と、を含有する。
【0024】
PEDOT23及びPSS24は相溶性がなく、基材22上では互いの分子鎖が不規則に絡み合う状態で塗膜されている。この状態では、PEDOT23の分子鎖とPSS24の分子鎖とは、互いに解れやすく、機械的強度及び耐湿性が不十分な状態となっている。一方、変性PVA25は、PEDOT23及びPSS24の分子鎖間に分散した状態となっている。この状態で、変性PVA25の分子鎖の水酸基が多い部分で図1(b)に示した結晶化部11が形成され、変性PVA25の分子鎖の疎水基が多い部分で非晶質部12が形成される。そして、結晶化部11によってPEDOT23及びPSS24の分子鎖が結着され、導電膜の機械的強度及び耐湿性が向上する。一方、非晶質部12は密度が低い状態となるが疎水基に由来する疎水性が発現され、耐湿性が高い状態となっている。
【0025】
本実施の形態においては、下記の一般式(1)に示す構造の変性PVAを用いる。下記式(1)中のRとしては、結晶化度を確保する観点から、例えば、水素またはメチル基を用いることができる。
−[CH−CH(OCOCH)]x−[CH−CH(OH)]y−[CH−CH(R)]z−…式(1)
【0026】
なお、Rとして用いることができる置換基としては、疎水性を有する置換基であれば、特に限定されない。例えば、水素の代わりにハロゲン原子が置換したものでもよく、また、メチル基上に置換基を有するものであっても良い。また、メチル基以外にも水酸基による水素結合の形成を阻害しない範囲で炭素数2〜炭素数3程度の脂肪族置換基を用いても良い。
【0027】
式(1)で表わされる変性PVAは、酢酸ビニルとエチレンまたはプロピレンとの共重合によって、疎水基を導入したポリ酢酸ビニルを合成し、次いで、ポリ酢酸ビニルのアセトキシ基の加水分解(鹸化)により合成することができる。
【0028】
本実施の形態においては、共重合率=z/(x+y+z)が1mol%〜30mol%の変性PVAを用いる。共重合率が5mol%以上であれば、疎水基導入の効果が発現し、導電膜の耐湿性が向上する。また、共重合率が20mol%以下であれば、変性PVAの結晶性を維持できるので、機械的強度が確保できる。共重合率は、より好ましくは、5mol%〜20mol%であり、さらに好ましくは、5mol%〜10mol%である。
【0029】
また、本実施の形態においては、鹸化率=y/(x+y)×100が92%〜99%の変性PVAを用いる。鹸化率が92%以上であれば、ポリ酢酸ビニル由来のアセトキシ基が水酸基に変換されるので、PVAの結晶化度を向上させることができ、導電膜の機械的強度や耐湿性を改善することができる。鹸化率は、より好ましくは、92%〜99%であり、さらに好ましくは、95%〜99%である。
【0030】
次に、図3(a)、図3(b)を参照して熱処理後の変性PVAと無変性PVAの耐水性について説明する。図3(a)は、30℃、10時間水中に浸漬した時の膨潤性を示す図であり、図3(b)は、30℃、10時間水中に浸漬した時の溶出性を示す図である。なお、図3(a)、図3(b)では、互いに組成が異なる2種類の変性PVA31a、31b及び互いに組成が異なる2種類の無変性PVA32a、32bの耐水性及び膨潤性を示している。
【0031】
図3(a)に示すように、変性PVA31a、31bは、全域に亘って無変性PVA32a、32bより低い膨潤性となる。例えば、50℃で処理した場合、変性PVA31a、31bが約3倍程度の膨潤性であるのに対し、無変性PVA32a、32bは、約10倍程度の膨潤性となる。また、図3(b)に示すように、変性PVA31a、31bは、全域に亘って無変性PVA32a、32bより低い溶出性となる。例えば、100℃で処理した場合、変性PVA31a、31bが5%程度の溶出性になるのに対し、無変性PVA32aは10%程度、無変性32bは約25%程度の溶出性となる。このように、変性PVA31a、無変性PVA31bは、無変性PVA32a、32bより膨潤性及び溶出性が低下し、耐水性が向上するので、吸湿性が低下する。
【0032】
次に、変性PVA及び無変性PVAを用いて導電膜M1〜導電膜M11を作成し、架橋剤成分の効果について調べた結果について説明する。なお、導電膜M1〜導電膜M7に用いた塗布液組成物の配合について表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
図4は、本実施の形態に係る導電膜の耐湿試験の結果を示す図である。同図には、バインダーを添加しない導電膜M1、変性PVAを導電膜100重量部に対して所定の割合添加した導電膜(M2:10重量部、M3:20重量部、M4:30重量部、M5:40重量部)、無変性PVAを導電膜100重量部に対して所定の割合添加した導電膜(M6:20重量部、M7:40重量部)の耐湿試験の結果を示している。なお、図4は、抵抗変化率の経時変化を示し、抵抗変化率の値が低いほど耐湿性能が高いことを示している。
【0035】
図4に示すように、バインダー無添加の導電膜M1に対し、バインダーを添加した導電膜M2〜導電膜M6は、耐湿性が向上する。また、変性PVAを10重量部添加した導電膜M2及び無変性PVAを20重量部添加した導電膜M6に示すように、導電膜M2は、初期の耐湿性が導電膜M6と同等であり、また、200時間経過以降は、導電膜M6を上回る耐湿性を有する。また、導電膜M2〜導電膜M5に示すように、変性PVAの添加量が多くなるにつれて、耐湿性が向上し、変性PVAを40重量部用いた導電膜M5は、特に高い耐湿性が発現する。このように、変性PVAは、少なくとも10重量部の添加量で導電膜の耐湿性が発現することが分かる。なお、300時間経過後の抵抗値変化率は、導電膜M1(+25.1%)、導電膜M5(+2.8%)、導電膜M6(+8.2%)であった。
【0036】
図5は、本実施の形態に係る導電膜の鉛筆硬度試験の結果を示す図である。同図には、バインダーを添加しない導電膜M1、変性PVAを導電膜100重量部に対して変性PVAを所定の割合添加した導電膜(M3:20重量部、M5:40重量部)、無変性PVAをPEDOT/PSS100重量部に対して無変性PVAを所定の割合添加した導電膜(M6:20重量部、M7:40重量部)の鉛筆硬度試験の結果を示している。
【0037】
図5に示すように、導電膜M1に対し、変性PVAを添加した導電膜M3、M5〜M7は、硬度が向上する。また、変性PVAの添加量が増えるにつれ硬度が上昇する(M3:硬度ランク4、M5:硬度ランク7)。変性PVAを40重量部添加した場合(M5:硬度ランク7)、無変性PVAを40重量部添加した場合(M7:硬度ランク8)に匹敵する硬度が得られる。このように、変性PVAをバインダーとして用いることにより、無変性PVAと同様の硬度向上の効果が発現することが分かる。
【0038】
図6は、バインダーの添加量と抵抗値変化割合を示す図である。同図には、比較対象としてのポリウレタンを添加した導電膜M8、変性PVAを添加した導電膜M9、無変性PVAを添加した導電膜M10のバインダーの濃度と導電膜の抵抗値変化割合を示している。
【0039】
図6に示すように、導電膜M9及び導電膜M10は、導電膜M8より抵抗値変化割合が低い値を示す。また、導電膜M9と導電膜M10の抵抗値変化割合は、同程度の値となっている。このように、バインダーとしての変性PVAを用いた場合においても無変性PVAと同様の抵抗値変化割合を示し、変性PVAの添加による導電膜の性能への影響がないことが分かる。なお、導電膜M9及び導電膜M10の各バインダー濃度における抵抗値変化割合は、20重量部で抵抗変化率割合60%程度、40重量部で抵抗変化率割合150%程度、60重量部で抵抗変化率割合400%程度となっている。
【0040】
本実施の形態において、変性PVAの添加量は、PEDOT/PSS90重量部〜60重量部に対して10重量部〜40重量部である。変性PVAの添加量が10重量部以上であれば、導電膜の高硬度化、高耐湿化が実現できる。また、変性PVAの添加量が40重量部以下であれば、導電膜の導電性能を損ねることなく高硬度化、高耐湿化を実現できる。変性PVAの添加量は、より好ましくは、20重量部〜40重量部であり、さらに好ましくは、30重量部〜40重量部である。
【0041】
以上のように、本実施の形態においては、PVAの分子鎖に疎水基を所定の割合で導入した変性PVAを用いることにより、結晶性と疎水性とを共に有するバインダーを得ることができる。そして、変性PVAをバインダーとして用いることにより、高硬度、高耐湿性の導電膜が得られる塗布液組成物を得ることができる。
【0042】
なお、本実施の形態において、変性PVAとしては、エクセパール(商品名、クラレ社製)など、各種市販のPVA共重合品を用いることができる。
【0043】
次に、本実施の形態に係る導電膜の製造工程について説明する。
図7は、本実施の形態に係る導電膜の製造工程を示すフロー図である。本実施の形態に係る導電膜の製造工程は、バインダー溶液を調合する調合工程と、バインダー溶液とPEDOT/PSS分散水溶液を混合して塗布液組成物を調液する調液工程と、塗布液組成物をPETフィルム基材上へ塗布する塗布工程と、フィルム基材を加熱処理するベーク工程などからなる。
【0044】
まず、変性PVAをアルコール溶媒中で混合・溶解してバインダー溶液を調合する(ステップST1)。次いで、PEDOT/PSSの分散液、エンハンサーとしてのDMSOを順に添加・混合して塗布液組成物を調製する(ステップST2)。次に、得られた塗布液組成物を濾過する(ステップST3)。導電膜を塗布する基材は、PETフィルムを所定の大きさに切り取り、切り取ったPETフィルムをガラスウエハーに貼り付けて調製する(ステップST4)。
【0045】
次に、スピンコーターにより、基材上に塗布液組成物を塗布する(ステップST5)。この時に、スピンコートの条件により導電膜の膜厚を調整することができる。本実施の形態においては、スピンコートを3秒間かけて600rpmとし、600rpmで10秒間保持する。次いで、5秒間かけて1400rpmとしたのち、1400rpmで20秒間保持して塗膜する。このような条件で成膜することにより、200nm程度の膜厚に調整することができる。また、膜厚は、スピンコートの条件を500rpmとした場合、12900nm程度となり、1000rpmとした場合、300nm程度となる。また、2000rpmとした場合は、150nm程度となる。このように、スピンコートの条件を調整することにより、塗膜を所望の膜厚に調製することができる。
【0046】
次いで、塗膜を90℃で10分間プリベークし(ステップST6)、最後に120℃でベーク(ステップST7)して導電膜を製造する。
【0047】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0048】
<評価方法>
導電膜の評価は、下記の条件に従って実施した。
【0049】
<面積抵抗試験>
面積抵抗試験は、導電膜の表面抵抗を4端子式面積抵抗計(三菱化学社製、LORESTA EP MCP−1360)を用いて測定した。抵抗変化率は、バインダー未添加の導電膜の比抵抗値を100%とし、バインダーを添加した導電膜の測定値を百分率で表した。また、抵抗変化率は、試験前の導電膜の性能を100%とし、試験中における導電膜の比抵抗値の変化率を百分率で表した。
【0050】
<低荷重鉛筆硬度試験>
低荷重鉛筆硬度試験は、電子天秤(saltorius社製、品名:CP6201)を用いて実施した。試験方法は、電子天秤上に導電「膜を形成したフィルムを設置し、電子天秤の数値が100g±20gの範囲になるようして膜を鉛筆(三菱鉛筆社製)で擦ることにより、塗膜の強度を測定した。
【0051】
<恒温恒湿試験>
恒温恒湿試験は、ガラス基板上に成膜した導電膜を、湿度60度、相対湿度95RH%の環境下に導電膜を240時間保持し、その後、取り出して、この導電膜の表面抵抗を再度測定した。そして、この導電膜の恒温恒湿試験前後における表面抵抗の変化率ΔRを、下記の式(1)により算出した。
ΔR(%)=(恒温恒湿試験後の表面抵抗/恒温恒湿試験前の表面抵抗)×100 式(1)
【0052】
(実施例1)
<塗布液組成物調整工程>
エタノール50g及び変性PVA(クラレ社製、商品名:エクセパール、型番:RS−2117)0.2gを混合してバインダー溶液を調製した。次いで、バインダー溶液とPEDOT/PSS水性分散液(H.C.Starck社製、商品名:PH510)100gとを混合して塗布液組成物を調整した。次にエンハンサーとして、塗布液組成物に対して5重量部のDMSOを添加した。混合溶解した後、塗布液組成物をクリーンルーム内で孔0.45μmのフィルターでろ過して塗布液組成物を調製した。塗布液組成物中のバインダー濃度は、PEDOT/PSS100重量部に対して10重量部であった。
【0053】
<基材の調整>
クリーンルーム内でPETフィルムをカットした(長さ60mm×幅60mm×厚さ0.2mm)。次いで、このPETフィルムをガラスウェハー(外径φ100mm×厚さ0.7mm)に貼り付けて導電薄膜の基材を調整した。
【0054】
<塗布工程>
スピンコーター(ミカサ社製)を用いて回転数1400rpm、回転時間20秒の条件下、基材上に塗布液組成物を塗布した。
【0055】
<ベーク工程>
得られた薄膜を90℃で10分プリベークし、次いで、120℃で20分間本ベークした。得られた導電膜の膜厚は、200nmであった。また、全光線透過率は76.6%、面積抵抗は140Ω/□、低荷重鉛筆硬度試験は3B、高温高湿試験はΔR=+6%以下であった。結果を表2に示す。
【0056】
(実施例2)
塗布液組成物中のバインダー濃度が、PEDOT/PSS100重量部に対して20重量部となるようにバインダー溶液を調整したこと以外は、実施例1と同様にして導電膜を得た。結果を表2に示す。
【0057】
(実施例3)
塗布液組成物中のバインダー濃度が、PEDOT/PSS100重量部に対して30重量部となるようにバインダー溶液を調整したこと以外は、実施例1と同様にして導電膜を得た。結果を表2に示す。
【0058】
(実施例4)
塗布液組成物中のバインダー濃度が、PEDOT/PSS100重量部に対して40重量部となるようにバインダー溶液を調整したこと以外は、実施例1と同様にして導電膜を得た。結果を表2に示す。
【0059】
(比較例1)
バインダーを添加せずに塗布液組成物を調整したこと以外は、実施例1と同様にして導電膜を得た。結果を表2に示す。
【0060】
(比較例2)
変性PVAの代わりにPVA(ポバール)をPEDOT/PSS100重量部に対して20重量部用いたこと以外は、実施例1と同様にして導電膜を得た。結果を表2に示す。
【0061】
(比較例3)
塗布液組成物中のバインダー濃度が、PEDOT/PSS100重量部に対して40重量部となるようにバインダー溶液を調整したこと以外は、比較例2と同様にして導電膜を得た。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2に示すように、本実施の形態に係る塗布液組成物を用いた実施例1〜実施例4によれば、変性PVAをバインダーとして用いることにより、高い耐湿性を有する導電膜を得ることができる。また、導電膜の硬度についても実施例1〜実施例4及び比較例2、比較例3に示すように、無変性PVAを用いた場合と比較し、同程度の導電膜を得ることができる。また、実施例1〜実施例4及び比較例2、比較例3に示すように、変性PVAは、PEDOT/PSS100重量部に対し、10重量部以上添加することにより効果が発現され、40重量部まで添加しても導電膜の性能を損なうことがない。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態によれば、PVAの分子鎖の一部に疎水基を導入した変性PVAをバインダーとして用いることにより、バインダーの吸湿性を抑制することができるので、高耐湿の導電膜を形成できる塗布液組成物を得ることができる。
【0065】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、有機EL、太陽電池など、各種透明電極を用いたデバイスに適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
11 結晶化部
12 非晶質部
21 導電膜
22 基材
23 PEDOT
24 PSS
25 変性PVA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒と、導電性有機化合物と、下記式(1)で表わされるポリビニルアルコールと、を含有する塗布液組成物であって、前記ポリビニルアルコールは、z/(x+y+z)×100で表わされる共重合比率が5mol%〜20mol%であることを特徴とする塗布液組成物。
−[CH−CH(OCOCH)]x−[CH−CH(OH)]y−[CH−CH(R)]z−…式(1)
(式(1)中でのRは、水素またはCHを表す。)
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールは、y/(x+y)×100で表わされる鹸化率が92%〜99%であることを特徴とする請求項1記載の塗布液組成物。
【請求項3】
前記導電性有機化合物90重量部〜60重量部と、前記ポリビニルアルコール10重量部〜40重量部と、を含有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の塗布液組成物。
【請求項4】
前記導電性有機化合物は、PEDOT/PSSであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の塗布液組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の塗布液組成物を基材上に塗布してなることを特徴とする導電膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−277888(P2010−277888A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130298(P2009−130298)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】