説明

塗布装置、及びそれを用いた無端ベルトの製造方法

【課題】空気に触れることによって劣化しやすい塗液(皮膜形成樹脂)を用いても、芯体上にむらなく均一に塗液を塗布することが可能な塗布装置、及びそれを用いた無端ベルトを製造する無端ベルトの製造方法を提供すること。
【解決手段】塗液2を貯留するための環状塗布槽7と環状体5とを具備している塗布装置において、環状体5の外周部から環状塗布槽7上縁までの領域を覆う、円板状の覆い10(蓋部材)を取り付ける。そして、覆い10で覆われた環状塗布槽7の内部空間(塗液2液面、塗布槽7内壁、及び覆い10で囲まれた空間)に、不活性ガスを不活性ガス注入管18から注入して満たしておく。これにより、塗液2が空気に触れることがなくなるのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、空気中の酸素や水分の影響を受けやすい皮膜形成樹脂塗液を用い、芯体上にむらなく均一に塗液を塗布することが可能な塗布装置、及び該塗布装置を用いた無端ベルトの製造方法に関する。該無端ベルトは、特に複写機、プリンター等の電子写真方式を利用した画像形成装置の中間転写ベルトに好ましく用いられる。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置において、感光体、帯電体、転写体、及び定着体等の小型/高性能化のために、肉厚が薄いプラスチック製フィルムからなるベルトが用いられる場合がある。その場合、ベルトに継ぎ目(シーム)があると、出力画像に継ぎ目の跡が生じるので、継ぎ目がない無端ベルトが好ましい。無端ベルトの材料としては、強度や寸法安定性、耐熱性等の面でポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂が好ましい。以下、ポリイミドはPI、ポリアミドイミドはPAIと略す。
【0003】
PI樹脂で無端ベルトを作製するには、円筒体の内面にPI前駆体溶液を塗布し、回転しながら乾燥させる遠心成形法、円筒体内面にPI前駆体溶液を展開する内面塗布法が知られているが、これら円筒体の内面に成膜する方法では、PI前駆体の加熱の際に、皮膜を円筒体から抜いて芯体に載せ換える必要があり、工数がかかるという短所がある。
【0004】
他のPI樹脂無端ベルトの製造方法として、芯体の表面に、浸漬塗布法によってPI前駆体溶液を塗布して乾燥し、加熱反応させた後、PI樹脂皮膜を芯体から剥離する方法もある。この方法では、塗布による塗膜形成工程から、加熱反応させる皮膜形成工程まで、芯体は一貫して同じものが使用され、載せ換える工数が不要という利点があるが、PI樹脂の前駆体溶液は非常に粘度が高いため、浸漬塗布法で芯体上に塗布しようとすると、膜厚が所望値より厚くなりすぎることがある。
【0005】
これに対して、環状体により塗液の膜厚を制御する方法があり、この方法では、塗膜の厚さは、芯体と環状体の円孔との間隙によって規制される(特許文献1参照)。
【0006】
その場合、塗液の必要量を削減するため、環状塗布装置を用いる方法がある。環状塗布装置は、環状塗布槽の底部に、芯体の外径より若干小さい穴を有する環状シール材を設け、芯体を環状シール材の中心に挿通させ、環状塗布槽に塗液を収容する。これにより、塗液は漏れることがない。芯体への塗液の塗布時には、芯体の下に他の芯体をつなぎ、芯体を環状塗布槽の下部から上部に押し上げて、環状体の円孔を通過させることにより、芯体の表面に塗膜を形成する。他の芯体は、ベルトを作製しない中間体であってもよい。
【0007】
このような環状塗布装置では、環状塗布槽を浸漬塗布槽よりも小さくできるので、塗液の必要量が少なくて済む利点がある。
【0008】
上述の塗布方法において、PI前駆体溶液やPAI溶液は、種類により、空気に触れると、酸素や水分の影響により、加水分解して縮合反応が起きにくくなったり、皮膜強度が低下したり、又は溶液に析出物を生じて塗布しにくくなる等の劣化をきたすことがある。特に、芯体外面上に溶液を塗布する方法においては、広い面積で空気に触れるので劣化の影響を受けやすく、塗布前の溶液は極力、空気に触れさせない方が良い。
【0009】
従来、特許文献2に記載のように、PI前駆体組成物をスピン塗布する際に不活性ガスを吹き付ける発明もあるが、膜厚が厚い部分での凹みを防止するためであり、溶液の劣化を防止するために、溶液に不活性ガスを流入させるものではなかった。
【0010】
【特許文献1】特開2002−91027号公報
【特許文献2】特開平8−37142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、空気に触れることによって劣化しやすい塗液(皮膜形成樹脂)を用いても、芯体上にむらなく均一に塗液を塗布することが可能な塗布装置、及びそれを用いた無端ベルトを製造する無端ベルトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
本発明の塗布装置は、
塗液を貯留する塗布槽と、該塗液を塗布する芯体の外径よりも大きな内径の孔が設けられている環状体とを具備し、前記塗布槽に貯留した塗液に浸漬させた芯体を、芯体の軸方向を垂直にして、該塗液から相対的に上昇させて前記孔を通過させることにより、前記芯体表面に塗液を塗布する塗布装置であって、
該環状体の外周部から前記塗布槽上縁までの領域を覆う、蓋部材を具備し,
且つ、前記蓋部材、前記塗布槽の内壁及び前記塗液の液面で囲まれた空間に不活性ガスを注入する不活性ガス注入手段を更に具備する、
ことを特徴としている。
【0013】
本発明の塗布装置では、前記蓋部材、前記塗布槽内壁及び前記塗液の液面で囲まれた空間に不活性ガスを注入して充満させることで、塗液に空気に曝露させるとこなく塗布が行える。このため、液(皮膜形成樹脂溶液)の劣化を防止しつつ、芯体上にむらなく均一に塗液を塗布することが可能となる。
【0014】
本発明の塗布装置において、前記蓋部材は前記管状体の上縁を覆うように設けられと共に、その前記芯体の軸方向の移動を規制する規制部材を具備することがよい。蓋部材を環状体の上縁を覆うように設ける場合でも、蓋部材の芯体軸方向の移動が規制されるので、蓋部材と環状体との間隙又は蓋部材少なくなり、注入する不活性ガスの漏れが防止され、効率のよい塗液劣化が防止される。
【0015】
一方、本発明の無端ベルトの製造方法は、上記本発明の塗布装置を用いて、前記芯体表面に皮膜形成用塗液を塗布した後、乾燥、加熱硬化、焼成の何れか、又は全ての処理を施して皮膜を形成し、前記芯体から該皮膜を取り外すことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、空気に触れることによって劣化しやすい塗液(皮膜形成樹脂)を用いても、芯体上にむらなく均一に塗液を塗布することが可能な塗布装置、及びそれを用いた無端ベルトを製造する無端ベルトの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の塗布装置について、図面を用いて説明する。なお、実質的に同様の機能を有するものには、全図面通して同じ符号を付して説明し、場合によってはその説明を省略することがある。
【0018】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る塗布装置の停止時を示す概略構成図である。図2は、本発明の第1実施形態に係る塗布装置の塗布時を示す概略構成図である。但し、図1及び図2は一部破断断面図で示すと共に、主要部のみを示し、芯体の保持機構や、他の装置は省略する(以下の図においても同様)。
【0019】
図1に示すように、第1実施形態に係る塗布装置は、塗液2を貯留するための環状塗布槽7と環状体5とを具備している。環状塗布槽7の底部には、芯体の外径より若干小さい穴を有する環状シール材8を設けて、塗液2の漏洩を防止する。環状体5には被塗布物である芯体1の外径よりも大きな内径の円孔3が設けられている。
【0020】
一方、環状体5の外周部から環状塗布槽7上縁までの領域を覆う、円板状の覆い10(蓋部材)を取り付けられている。覆い10は、環状体の孔径よりも大きく環状体外径よりも小さい穴を有しており、環状体5上縁を覆うと共に環状塗布槽7の内壁及び塗液2の液面で囲まれた空間を覆うように、環状体5上縁に固定して取り付けられている。そして、環状塗布槽7の側壁(塗液2液面よりも上方側の側壁)には、不活性ガス注入管18が連結されている。
【0021】
このような環状塗布装置は、浸漬塗布法よりも塗液の必要量が少なくて済む利点がある。更に、本実施形態に係る本発明の塗布装置には、図示しないが、芯体1を保持する芯体保持手段、並びに、該保持手段を上下方向に移動する第1の移動手段及び/又は塗布槽を上下方向に移動する第2の移動手段を有してもよい。
【0022】
本実施形態に係る塗布装置を用いて芯体1の表面へ塗液2を塗布するには、環状塗布槽7に芯体1を通し、塗液2を入れた後、図2に示すように、芯体1の下にもう一本の他の芯体1’を設置し、塗液2から相対的に上昇させる。その際の上昇速度は、0.1〜1.5m/minが好ましい。
【0023】
尚、「芯体の表面へ塗液を塗布する」とは、芯体の外周面の表面、及び該表面に層を有する場合は、その層の表面に塗布することをいう。また、「芯体を上昇」とは、塗布時の液面との相対関係であり、「芯体を停止し、塗布液面を下降」させる場合を含む。
【0024】
芯体1を塗液2から上昇させると、溶液の粘性による摩擦抵抗により、環状体5は覆い10と共に持ち上げられる。環状体5は水平方向には自由移動可能であるため、芯体1と環状体5との摩擦抵抗が周方向で一定になるように、すなわち芯体1表面と環状体5の円孔との間隙が均一になるように環状体5は動き、芯体1上には均一な膜厚の塗膜4が形成される。このように、環状体5により膜厚を規制するので、高粘度の溶液を用いることができ、芯体1上端での重力による塗膜の垂れも少ないので、周方向でも軸方向でも膜厚を均一にすることができる。
【0025】
芯体1の外径と円孔の間隙により、塗膜4の膜厚が決まるので、円孔の径は、所望の膜厚により調整する。一方、環状体5はある高さまで持ち上げられているが(言い替えれば、芯体1軸方向に環状体5が塗液2液面と離れるように移動するが)、本発明では、覆い10と環状塗布槽7に隙間が多くあかないよう、覆い10には少なくとも3箇所の高さ規制部材16を取り付ける。高さ規制部材16は、環状塗布槽7の外壁に設けた固定部材17により、ある高さ以上には持ち上がらないようにしておく(即ち、芯体1軸方向に覆い10が塗液2液面からある一定以上離れないようにしておく)。
【0026】
そして、覆い10で覆われた環状塗布槽7の内部空間(塗液2液面、環状塗布槽7内壁、及び覆い10で囲まれた空間)に、不活性ガスを不活性ガス注入管18から注入して満たしておく。これにより、塗液2が空気に触れることがなくなるのである。
【0027】
ここで、不活性ガスとは、塗液2(皮膜形成樹脂溶液)に対して不活性であるものを示し、具体的には、例えば窒素、アルゴン、二酸化炭素等が挙げられる。
【0028】
覆い10の持ち上がりを規制する高さ(芯体軸方向に塗液2液面から離れる距離)は、即ち環状体5の持ち上がりを規制する高さは、1〜5mm程度が好ましく、これが大きいと不活性ガスがより多く漏れて空気が侵入しやすくなる。
【0029】
不活性ガスは常時、少しずつ流し続けるのが好ましいが、塗布しない時は、流量をごく少なくするか、停止しても良い。流し続ける流量が多すぎると、環状塗布槽7内の溶液から溶剤の蒸発が多くなり、組成が変化する。そこで、環状塗布槽7内の溶液から溶剤の蒸発を少なくするために、環状塗布槽7には溶剤蒸気量が飽和状態の不活性ガスを注入することがよい。このような溶剤蒸気量が飽和状態の不活性ガスを環状塗布槽7に注入するためには、例えば、塗液と同種の溶剤を貯留した溶剤貯留槽(溶剤蒸気量飽和手段)を通した後、不活性ガスを環状塗布槽7に注入することがよい。
【0030】
具体的には、例えば、図3に示すように、塗液2と同種の溶剤20を貯留した溶剤貯留槽21を不活性ガス注入管18に連結し、溶剤20液面と溶剤貯留槽21の内壁に囲まれた空間に不活性ガス供給管19から不活性ガスを供給して通過させた後、不活性ガス注入管18へ送る形態が挙げられる。また、例えば、図4に示すように、塗液2と同種の溶剤20を貯留した溶剤貯留槽21を不活性ガス注入管18に連結し、貯留された溶剤20中に不活性ガス供給管19から不活性ガスを供給して発泡させた後、不活性ガス注入管18へ送る形態も挙げられる。
【0031】
以上説明した本実施形態に係る塗布装置では、覆い10、環状塗布槽7内壁及び塗液2液面で囲まれた空間に不活性ガスを注入して、塗液に空気に曝露させるとこなく塗布が行えるので、塗液2(皮膜形成樹脂溶液)の劣化を防止しつつ、芯体1上にむらなく均一に塗液を塗布することが可能となる。
【0032】
また、覆い10には、芯体1の軸方向の移動を規制する規制部材を具備しているので、覆い10を環状体5の上縁を覆うように設ける場合でも、覆い10の芯体1軸方向の移動が規制されるので、覆い10と環状体5との間隙が少なくなり、注入する不活性ガスの漏れが防止され、効率のよい塗液劣化が防止される。
【0033】
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態に係る塗布装置の停止時を示す概略構成図である。図6は、本発明の第2実施形態に係る塗布装置の塗布時を示す概略構成図である。
【0034】
第2実施形態に係る塗布装置は、図5に示すように、環状体5の外周部から環状塗布槽7上縁までの領域を覆う、覆い11(蓋部材)を取り付けられている。具体的には、覆い11は、環状体5の外径よりわずかに大きな内径の穴11Aが設けられており、当該穴11Aに環状体5が入り込むと共に環状塗布槽7の内壁及び塗液2の液面で囲まれた空間を覆うように配設している。なお、覆い11は、環状塗布槽7の側壁上端に固定して配設している。
【0035】
また、環状体5上縁には、覆い11に上面に乗っかる腕15を取り付け、環状体5が塗液2の中に沈むことがないようにしている。
【0036】
本実施形態に係る塗布装置の場合は、図6に示すように、芯体1を塗液2から上昇させた際、環状体5はある高さまで持ち上げられる。この場合、覆い11は環状塗布槽7に固定しているので持ち上がることはなく、環状体5と覆い11の穴11Aとの隙間は変化しない。環状塗布槽7の上部空間に、不活性ガスを満たしておくのは第1実施形態と同様である。
【0037】
環状体5と覆い11の穴との隙間は、1〜5mm程度が好ましく、これが大きいと空気が侵入しやすくなる。また、環状体5が持ち上がる高さは、10〜50mm程度が好ましい。この高さは、環状体5の重量で調節することができる。なお、環状体5に第一実施形態と同様に高さ規制部材を取り付けて、環状体5の持ち上がりを規制しても良い。
【0038】
以上説明した本実施形態に係る塗布装置でも、覆い11、環状塗布槽7内壁及び塗液2液面で囲まれた空間に不活性ガスを注入して、塗液に空気に曝露させるとこなく塗布が行えるので、塗液2(皮膜形成樹脂溶液)の劣化を防止しつつ、芯体1上にむらなく均一に塗液を塗布することが可能となる。
【0039】
なお、本実施形態に係る塗布装置は、上記説明した以外は、第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0040】
以下、上記本発明の実施形態に係る塗布装置の各部材について詳細に説明する。
【0041】
芯体1としては、アルミニウムやステンレス、ニッケル、銅等の金属円筒が好ましい。また、後述するように無端ベルトを製造する場合は、芯体の軸方向の長さは、目的とする無端ベルトの幅以上の長さが必要であるが、端部に生じる無効領域に対する余裕幅を確保するため、目的とする無端ベルトの幅より、10〜40%程度長いことが好ましい。芯体の外径は、目的とする無端ベルトの直径に合わせ、肉厚は芯体としての強度が保てる厚さとする。
【0042】
更に、芯体1の両端には、図示しないが、芯体1を保持する保持板を取り付けてもよい。保持板には、任意形状の通風孔や、中央に心棒を通す穴、又は軸があってもよい。また、吊り下げや載置のための部品を取り付けてもよい。
【0043】
また、芯体1は、形成される皮膜が芯体表面に接着するのを防ぐため、芯体の表面には離型性を付与するのがよい。それには、芯体表面をフッ素樹脂やシリコーン樹脂で被覆したり、芯体表面に離型剤を塗布する方法がある。
【0044】
塗液2の種類によっては、後述する無端ベルトの製造において、加熱時に溶剤の揮発物や、反応時に発生する気体があり、加熱後の樹脂皮膜は、発生する気体のために、部分的に膨れを生じることがある。これは特に、塗液としてPI前駆体の溶液を用い、皮膜の膜厚が50μmを越えるような場合に起こることがある。
【0045】
上述の膨れを防止するために、特開2002−160239号公報に記載されているように、芯体表面をRa0.2〜2μmに粗面化することが好ましい。粗面化の方法には、ブラスト、切削、サンドペーパーがけ等の方法がある。これにより、塗膜から生じる気体は、芯体と塗膜との間に形成されるわずかな隙間を通って外部に出ることができ、膨れを生じない。
【0046】
塗液2としては、後述するように、更に無端ベルトを製造する場合、PI前駆体溶液又はPAI樹脂溶液が好ましく用いられる。前記PI前駆体及びPAI樹脂としては、種々公知のものを用いることができる。PI前駆体又はPAI樹脂の溶液の濃度、粘度等は、適宜選択されるが、好ましく用いられる溶液の固形分濃度は10〜40質量%、粘度は1〜100Pa・sである。塗液の溶剤は、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド、等の非プロトン系極性溶剤であるが、これらは空気中の水分を吸収しやすい。塗液が水分を吸収すると、塗液中の樹脂分が析出して白濁したり、PI前駆体やPAI樹脂は加水分解を起こすことがあるので注意を要する。また、PI前駆体は酸素の影響によって着色が強くなったり、粘度が変化するほか、縮合反応が起こりにくくなることもある。本発明では、塗布槽への不活性ガス注入によってこれらを防止するのである。
【0047】
環状体5の材質は、塗液2の溶剤によって侵されない金属やプラスチック等から選ばれることが好ましい。また、環状体5は中空構造であってもよい。環状体5の内壁面は、溶液に浸る下部が広く、上部が狭い形状であれば、直線的傾斜面(図1参照)のほか、階段状や曲線的でもよい。
【0048】
以下、本発明の無端ベルトの製造方法について詳細に説明する。
本発明の塗布装置を用いて無端ベルトを製造するには、既述の芯体の表面に皮膜形成用塗液を塗布した後、乾燥、加熱硬化、焼成の何れか、又は全ての処理を施して皮膜を形成し、芯体から該皮膜を取り外すことを特徴とする。
【0049】
次に、本発明の無端ベルトの製造方法を、皮膜形成用塗液としてPI前駆体溶液、或いはPAI樹脂溶液を用いる場合について説明する。
【0050】
無端ベルトの製造においては、本発明の塗布装置を用いて皮膜形成用塗液を塗布した塗膜を加熱し、該塗膜中に存在する溶剤を除去し、塗膜が変形しない程度に乾燥させる。加熱条件は、90〜170℃の温度で20〜60分間が好ましい。その際、温度が高いほど加熱時間は短くてよく、温度は、段階的、又は一定速度で上昇させてもよい。
また、加熱中に塗膜に垂れが生じる場合には、芯体の長手方向を水平にして、ゆっくり回転させることが有効である。その際には、保持板の穴に心棒を通し、回転台に載せた状態で乾燥器に入れるのがよい。皮膜形成用溶液がPAI樹脂溶液である場合には、溶剤の乾燥だけで皮膜を得ることができる。
【0051】
一方、前記皮膜形成用溶液がPI前駆体溶液の場合、塗膜から溶剤を除去しすぎると、塗膜はまだ強度を保持していないので、割れを生じやすい。そこで、ある程度(PI前駆体皮膜中に15〜45質量%)の溶剤を残留させておくことが好ましい。前記皮膜形成用溶液がPI前駆体溶液の場合は、その後、250〜450℃前後、好ましくは280〜350℃で20〜60分間、PI前駆体皮膜を加熱して縮合反応させることで、PI樹脂皮膜が形成される。その際、温度を段階的に上昇させてもよい。
【0052】
上述のように形成された皮膜は、冷却後に、芯体から剥離することにより無端ベルトとなる。無端ベルトには、さらに必要に応じて、穴あけ加工やリブ付け加工等が施されることがある。
【0053】
無端ベルトを転写ベルトや接触帯電ベルトとして使用する場合には、前記皮膜形成用溶液の中に導電性物質を分散させる。導電性物質としては、例えば、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素系物質、銅、銀、アルミニウム等の金属又は合金、酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモン、SnO−In複合酸化物等の導電性金属酸化物、等が挙げられる。前述したように皮膜が収縮すると抵抗値にむらを生じるが、収縮を防止することにより、抵抗値も均一にすることができる。
【0054】
これらの用途に好ましい無端ベルトの膜厚は30〜150μm程度である。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、各実施例は、本発明を制限するものではない。
【0056】
(実施例1)
N,N−ジメチルアセトアミドを溶剤とし、ピロメリト酸二無水物とパラフェニレンジアミンからPI前駆体溶液を作製した(固形分濃度20質量%、粘度10Pa・s)。これに、カーボンブラック(商品名:スペシャルブラック4、デグザヒュルス社製)を固形分質量比で30%混合し、次いで対向衝突型分散機により分散した。更に、界面活性剤(商品名:LS009、楠本化成製)を、濃度が500ppmになるよう添加し、皮膜形成樹脂溶液とした。
【0057】
別途、外径366mm、肉厚10mm、長さ450mmのアルミニウム製円筒を用意し、球形アルミナ粒子によるブラスト処理により、表面をRa1.0μmに粗面化した。また、厚さが15mm、外径が前記円筒に嵌まる径、100mm径の通風孔が4つ、中央に20mm径の穴を設けた保持板を同じアルミニウム材で作製し、前記円筒に嵌め、TIG溶接により溶接し、芯体とした。
【0058】
芯体の表面には、シリコーン系離型剤(商品名:セパコート、信越化学製)を塗布した。芯体の端部には、幅10mmのポリエステル粘着テープを巻き付けた。これは塗膜が芯体端部に付着しないようにするためである。
【0059】
次いで、第1実施形態に係る環状塗布装置(図1〜図2参照)により、PI前駆体溶液(塗液2)を芯体の表面に塗布する。この際、外径420mm、円孔の最小部の内径367.1mm、高さ50mmのアルミニウム製の環状体5を用いる。環状体の内壁は直線傾斜状であり、鉛直線との傾斜角は7°とした。上端には芯体と平行になる部分を2mm形成した。
【0060】
また、厚さ1mm、外径500mmのアルミニウム製円板の中央に、内径380mmの穴をあけ、環状体の上縁に取り付けて固定し、覆いとした。その外壁には、太さ0.5mmの針金からなる高さ規制部材を120°毎の間隔で3つ取り付けた。
【0061】
一方、内径460mm、外径480mm、高さ100mmの環状塗布槽の底面に、内径364.5mmの穴を有する厚さ0.5mmの硬質ポリエチレン樹脂製の環状シール材8を取り付け、中央に芯体を通した。環状塗布槽の外側には、底面から15mmの位置に120°毎の間隔で3つ、太さ3mmのピンを差し込んで固定部材とし、上記高さ規制部材16が嵌められるようにした。これにより、環状体(及び覆い)は2mm以上、持ち上がらないよう規制されるが、水平方向の移動は妨げられない。
【0062】
環状塗布槽に溶液を入れ、環状体を配置した。次いで、環状塗布槽の空間に窒素ガスを不活性ガス注入管から約2l注入して充満させた後、毎分約10mlの流量で注入し続けた。なお、この窒素ガスは、N,N−ジメチルアセトアミド(溶剤)が貯留された貯留槽を通して、溶剤蒸気量を飽和状態にした後、注入した(図3参照)。
【0063】
次に、芯体の下に、芯体と同じ形状の他の芯体を配置し、0.8m/分で押し上げて、芯体表面にPI前駆体溶液の塗布を行った(図2参照)。その際、環状体は2mmだけ持ち上げられた。これにより、芯体の上には、濡れ膜厚が約500μmのPI前駆体の塗膜が形成された。
【0064】
塗布後の芯体は、保持板の中央穴に20mmφのステンレス製シャフトを通し、回転台に載せて水平にし、6rpmで回転させながら、80℃で20分間、130℃で20分間、加熱してPI前駆体塗膜を乾燥させた。これにより、厚さ約150μmのPI前駆体の皮膜を得た。この時点で、芯体端部の粘着テープは除去した。
【0065】
次いで、芯体を垂直にし、シャフトを外して加熱台に載せ、加熱炉に入れて200℃で30分、300℃で30分加熱反応させ、芯体の表面にPI樹脂皮膜を形成した。
【0066】
芯体を室温にて冷ました後、芯体とPI樹脂皮膜との間にエアーを吹き込みながら、芯体からPI樹脂皮膜を抜き取り、無端ベルトを得た。膜厚は75μmで均一であった。
【0067】
得られた無端ベルトは、100Vにおいて体積抵抗率を測定すると、約1010Ωcmの半導電性を有しており、電子写真用転写ベルトとして使用することができる。
更に、窒素ガスの流入を停止させ、上述の工程を24時間中断した後、再び同様にして無端ベルトを作製したが、中断後に得られた無端ベルトは、最初に得たものと同品質であった。
【0068】
(比較例1)
実施例1において、環状体に覆いを設けず、窒素ガスの流入も行わなかった以外、実施例1と同様にして無端ベルトを作製した。最初に得られた無端ベルトは、実施例1にて最初に得た無端ベルトと同品質であった。
【0069】
しかし、実施例1と同様に24時間中断した後、再び同様にして作製しようとしたところ、溶剤の乾燥により、溶液の表面に皮膜が生じており、塗布するには不適切な状態であった。
【0070】
(比較例2)
実施例1において、環状体に覆いを設けたが、窒素ガスの流入を行わなかった場合、最初に得られた無端ベルトは、実施例1にて最初に得た無端ベルトと同品質であったが、24時間の中断後に作製したベルトは、表面に光沢がない部分が部分的にむらになって生じていた。むらの部分の膜厚は厚めに不均一であるほか、体積抵抗率も高めに不均一であった。これは、この溶液が空気中の酸素と水分により、わずかながら変質(加水分解)があったためと考えられる。
【0071】
(実施例2)
第2実施形態に係る環状塗布装置(図5〜図6参照)を用いた以外は実施例1と同様にして無端ベルトを得た。具体的には、実施例1において、環状体に覆いを設置するかわりに、塗布槽の上縁に、覆いを取り付けた固定した。この覆いは、厚さ1mm、外径500mm、内径424mmのアルミニウム製円板からなり、環状体の外径部分との隙間は2mmである。
【0072】
環状体の上縁には、厚さ1mmのSUS板からなる腕を120°毎の間隔で3つ取り付け、覆いに乗せて、環状体が沈まないようにした。
【0073】
その他は実施例1と同様に、環状塗布槽に溶液を入れ、環状体を配置し、環状塗布槽の空間に窒素ガスを約2l注入して充満させた後、毎分約10mlの流量で注入し続けた。なお、この窒素ガスは、N,N−ジメチルアセトアミド(溶剤)が貯留された貯留槽を通して、溶剤蒸気量を飽和状態にした後、注入した(図3参照)。
【0074】
次いで、芯体の下に、芯体と同じ形状の他の芯体を配置し、0.8m/分で押し上げて、芯体表面にPI前駆体溶液の塗布を行った(図6参照)。その際、環状体は最大約30mm持ち上げられた。これにより、芯体の上には、濡れ膜厚が約500μmのPI前駆体の塗膜が形成された。その後、実施例1と同様にして乾燥と加熱をして無端ベルトを得た。
【0075】
得られた無端ベルトは、実施例1と同じ結果であったほか、窒素ガスの流入を停止させ、上述の工程を24時間中断した後、再び同様にして無端ベルトを作製しても、中断後に得られた無端ベルトは、最初に得たものと同品質であった。
【0076】
(実施例3)
皮膜形成樹脂溶液として、N,N−ジメチルアセトアミドを溶剤とし、トリメリット酸無水物と4・4′―ビス(3―アミノフェノキシ)ビフェニルとから合成されたPAI樹脂(固形分濃度20質量%、粘度10Pa・s)を使用した。
【0077】
他は実施例1と同様にして、無端ベルトを得ることができた。但し、PAI樹脂は溶剤乾燥だけで皮膜形成されるので、加熱条件は200℃で30分、250℃で30分とした。
【0078】
(比較例3)
実施例3において、環状体に覆いを設けず、窒素ガスの流入も行わなかった以外、実施例1と同様にして無端ベルトを作製した。最初に得られた無端ベルトは、実施例1にて最初に得た無端ベルトと同品質であった。
【0079】
しかし、実施例1と同様に24時間中断した後、再び同様にして作製しようとしたところ、溶剤の乾燥により、溶液の表面に皮膜が生じており、塗布するには不適切な状態であった。
【0080】
(比較例4)
実施例3において、環状体に覆いを設けたが、窒素ガスの流入を行わなかった場合、最初に得られた無端ベルトは、実施例1にて最初に得た無端ベルトと同品質であったが、24時間の中断後に作製したベルトは、表面に光沢が見られなく、濁った状態になっていた。これは、この溶液が空気中の水分の影響を受けて、樹脂分の析出を生じたためと考えられる。
【0081】
以上の実施例及び比較例より、本実施例では、空気に触れることによって劣化しやすい塗液(皮膜形成樹脂)を用いても、芯体上にむらなく均一に塗液を塗布することが可能であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の第1実施形態に係る塗布装置の停止時を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る塗布装置の塗布時を示す概略構成図である。
【図3】溶剤蒸気量が飽和状態の不活性ガスを塗布槽に注入する溶剤蒸気量飽和手段の一例を示す概略構成図である。
【図4】溶剤蒸気量が飽和状態の不活性ガスを塗布槽に注入する溶剤蒸気量飽和手段の他の一例を示す概略構成図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る塗布装置の停止時を示す概略構成図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る塗布装置の塗布時を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0083】
1 芯体
2 塗液
4 塗膜
5 環状体
7 塗布槽
8 環状シール材
10、11 覆い(蓋部材)
11A 穴
15 腕
16 規制部材
17 固定部材
18 不活性ガス注入管
19 不活性ガス供給管
20 溶剤
21 溶剤貯留槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗液を貯留する塗布槽と、該塗液を塗布する芯体の外径よりも大きな内径の孔が設けられている環状体とを具備し、前記塗布槽に貯留した塗液に浸漬させた芯体を、芯体の軸方向を垂直にして、該塗液から相対的に上昇させて前記孔を通過させることにより、前記芯体表面に塗液を塗布する塗布装置であって、
前記環状体の外周部から前記塗布槽上縁までの領域を覆う、蓋部材を具備し,
且つ、前記蓋部材、前記塗布槽の内壁及び前記塗液の液面で囲まれた空間に不活性ガスを注入する不活性ガス注入手段を更に具備する、
ことを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
請求項1に記載の塗布装置を用いて、前記芯体表面に皮膜形成用塗液を塗布した後、乾燥、加熱硬化、焼成の何れか、又は全ての処理を施して皮膜を形成し、前記芯体から該皮膜を取り外すことを特徴とする無端ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−125491(P2007−125491A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319954(P2005−319954)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】