説明

塗布装置の制御方法およびそれを用いた塗布装置

【課題】テーブル移動タイプあるいはガントリータイプの移動装置において、テーブルあるいはガントリーの移動制御をおこない精度を高める制御方法およびそれを用いた塗布装置を提供する。
【解決手段】近年製品として、代表となる液晶パネルのサイズが逐次大型化し且つコストの低減化要求も強くなり、材料のガラス板そのもののサイズが逐次大型化して来た。その大型化したガラス板への塗布工程において、テーブル移動タイプだけでなくガントリータイプの塗布装置が発展して来た。テーブル移動装置あるいはガントリー移動装置に関する塗布ムラを回避する方法として、該テーブルあるいはガントリーの移動に際し加速度フィードバック制御方式を用いテーブルあるいはガントリーの速度、偏差ムラを最小化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
横木で連動された個々に独立の左右の支柱、脚から構成されたガントリータイプおよび/またはテーブル移動タイプの塗布装置の制御方法およびその塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガントリータイプ精密テーブルは近年大型化されつつある材料のガラス板が使用されるフラットパネルディスプレーの分野において、検査や樹脂塗布等に使用される。例えば、液晶用塗布装置を例にとると、液晶パネルを製造する際、レジストなどを塗布し、露光、現像を繰り返す工程において該ガラス板の上にコーティング樹脂を塗布するために、今までは対象となるガラス板サイズが比較的小さかった為、例えば、第五世代(ガラス板サイズ約1100mmx1300mm)くらいまではガラス板そのものを回転させて、樹脂を均一に塗布するいわゆるスピンコーター方式が主流であった。
【0003】
近年製品としての液晶パネルのサイズが大型化し且つコストの低減化要求も強くなり、その材料のガラス板そのもののサイズが逐次大型化して来た。
【0004】
【特許文献1】特開2007−144267公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記理由により、材料のガラス板そのもののサイズが逐次大型化して来た。その為、材料のガラス板を回転させて樹脂を均一に塗布する手法の採用が難しくなった。ガラス板サイズの大型化に伴なって、前記の様に装置が大型化し、第六世代(ガラス板サイズが約1500mmx1850mm)くらいからは、ガラス板をテーブルの上に固定し、ガラス板に樹脂を塗布するスリットダイを搭載し、ガントリーを移動させながら塗布するガントリー移動タイプのテーブルを用いた装置が提唱されてきた。
【0006】
図1にある、横木と左右の支柱、脚で構成されたガントリータイプの塗布装置において、従来は左右各々にリニアーサーボモータを設けて個々に別々のコントローラーを用いて駆動する速度フィードバック制御方式が採用されていた。各々の軸の制御方式を図2に示す。
【0007】
図2に示す制御方式では、各軸の指令速度を積分したものに対して、その値から各軸の現在位置座標を減じたものにK(位置ループゲイン)を乗じる。その値に各軸の指令速度をフィード・フォワード入力として加え、さらに現在速度を減じたものにK(速度ループゲイン)を乗じた値をサーボモーターの伝達関数Gm(s)への入力としていた。
【0008】
図2に示す様に、その入力に対してサーボモーターの伝達関数Gm(s)の特性を加味したものが、サーボモーターの出力となりガントリーの各軸を駆動させる。
【0009】
ところで、図4や図5において、定速度に達して塗布している時に速度偏差や左右の脚の偏差が大きいと、図10に示す様に、大型化傾向にある材料のガラス板20の塗布エリア21に塗布した場合、筋状の塗布ムラ22となり塗布品質は上がらない。又、図6に示されるように外乱が入った場合もその影響が大きいと同じく塗布品質は上がらない。
【0010】
速度偏差や左右の脚の偏差を小さくしたり、外乱に対する影響を少なくするために加速度補償方式を採用することが考えられるが、加速度を精度良く推定できないと、加速度補償ゲインを高くすることが出来ず、その効果を充分に確認することはできない。また、加速度を精度よく検出できる機器は一般的に高価で産業用には摘要が難しいという問題がある。リニアスケールからの信号を用いて加速度を推定した場合、精度を上げて、ノイズの除去を適切に行なわないと、加速度補償ゲインを高くすることが出来ないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明では、横木で連動された個々に独立の左右の支柱、脚から構成されたガントリータイプの塗布装置において、図3に示す様に、ガントリーの移動に際し、加速度補償制御方式を用いることを提案している。
【0012】
ガントリーの左右それぞれの支柱の中心速度において、指令速度からの速度の偏差を左右脚速度偏差と云い、また、左右それぞれの支柱の中心座標の差を左右偏差と云い、高分解能を具備したリニアスケールを用いて、適切なフィルターを用いて的確にノイズ除去を行い、加速度補償ゲインを高く設定することにより、左右脚速度偏差や左右偏差を抑制することが可能となる。また、外乱に対する影響も少なくすることができ、塗布の品質を向上させることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明では、ワークのガラス板の寸法がある寸法以下の場合においては、請求項1に記載の発明とは異なり、塗布時にガントリーを移動するのでは無く、テーブルを移動する機構の塗布装置においても、テーブルの移動に際し、加速度補償制御方式を用いることを提案し、塗布装置テーブル上のガラス板に塗布する際に品質を向上させることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明では、請求項1に記載の発明による制御方法である加速度補償制御方式による制御方法を用いた塗布装置であり、ガントリーの左右の支柱の速度偏差や位置偏差を小さくすることができ、又、外乱に強くすることが可能で、塗布装置テーブル上のガラス板に塗布する際に塗布品質を向上させることができる塗布装置である。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の発明による制御方法を用いることを特徴とするものであり、塗布時にガントリーを移動するのでは無く、テーブルを移動する機構の塗布装置においてテーブルの移動に際し、加速度補償制御方式による制御方法を用いた塗布装置であり、テーブルの速度偏差を抑えることができ、塗布装置テーブル上のガラス板に塗布する際に塗布品質を向上させることができる塗布装置である。ここでいうテーブルの速度偏差とはテーブルの中心座標の指令速度と実際のテーブルの中心座標の移動速度の差をさす。
【発明の効果】
【0016】
近年製品として、代表となる液晶パネルのサイズが逐次大型化し且つコストの低減化要求も強くなり、材料のガラス板そのもののサイズが逐次大型化して来た。その大型化したガラス板への塗布工程において、ガントリータイプの塗布装置が発展して来たが、その塗布品質を向上させるために、加速度補償制御方式を用いてそのガントリーの速度偏差や左右の脚の偏差を小さくすることができ、かつ、外乱に対する影響を少なくすることができた。ここでいうガントリーの速度偏差とはガントリーの中心座標の指令速度と実際のガントリー移動速度の差をさし、ガントリーの中心座標の速度は左右の支柱の中心座標の速度を加えて2で除したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ガントリータイプ塗布装置1の外観を図1に示す。その装置の概要は、石を素材とするテーブル11の上に図示していないがワークのガラス板20を固定する。ガラス板20の両サイドには石製のレール10が配置され、レール10の上をエアーベアリング7によって支えられた門型のガントリー2が前後に移動する。ガントリー2の上にはスリットダイ3が搭載され、スリットダイ3からコーティング樹脂が吐出される。ガントリー2の移動には、固定子、可動子からなるリニアサーボモータ8,9が用いられ、リニアサーボモータ8,9は左右個々独立に配置されている。
【0018】
また、リニアサーボモータ8,9に並列してリニアスケール6が配置され、現在のガントリー2の脚5の位置を光学的に検出する為に用いられている。リニアスケール信号はコントローラのカウンター回路に入力されている。
【0019】
次に、該塗布装置におけるガントリー2の左右の脚5は、一般的なガントリーとは異なり、その上の支柱4より上の部分とは固定ではなく、自在に回転する構造になっている。この様な構造を採用することにより、左右の脚5の位置が個々に指令位置と不一致が生じてきた場合でも補正が可能となり、指令位置に近づけることが可能となっている。
【0020】
コーティング樹脂をガラス板20に均一に塗布する際の塗布品質の向上には、左右脚5の速度偏差や左右脚5の位置偏差は小さければ小さいほど良いし、また外乱に対しても影響の少ない方が望ましい。本願では、加速度補償制御方式を用いてこれらの目的を達成している。
【0021】
次に、加速度補償制御方式について示す。加速度補償制御方式の特徴を図3に示す。ここでは、m=m=m、D=D=Dとしている。
また、
(s)=sX(s)
d3(s)=βs(s)+k(X(s)−X(s))/l
但し、i=1のときはj=2であり,i=2のときはj=1とする。
d3(s)は横木のヨー運動と左右偏差により、第i脚に加わる力であるが、
d1(s)やd2(s)と同様に入力外乱とみなすこととする。
Gm(s)はモータの伝達関数であるが、その静的ゲインはm+αとなるよう
スケーリングされている。KpとKvはそれぞれ位置と速度の補償ゲインであ
る。
すなわち、図2に示す速度フィードバック制御方式に加速度補償信号の処理を加えたもので加速度補償のゲインKaや加速度補償の積算時間Taが主要なパラメータである。Hは加速度補償を行っても速度制御系における制御対象の静的ゲインが加速度補償を行わなかった場合のそれと同じになる様に挿入された係数であり、
P補償のときは(1+Ka)/Ka、PI補償の場合は1とする。W(s)は速度推定用,W(s)とW(s)は加速度推定用のローパス一次フィルターである。Vref(s)は速度目標を表わす。
【0022】
加速度補償では加速度を位置信号を2回微分して求めるが、加速度の推定の精度を向上させるためには位置情報の検出に精度の良いリニアスケールを採用することが重要で、本発明の場合は0.02μmの分解能を持ったものを採用している。
【0023】
更に位置信号は、時間軸方向には時間ディスクリート分割ノイズや値方向には量子化ノイズを含んでいるために、これらを除去するためのフィルターの役割が大きい。
図3においては、W(s)とW(s)の一次ローパス・フィルターがこの目的に使用されている。W(s)やW(s)の位置が適切でないと、又W(s)やW(s)のカットオフ周波数の値が適切でないと加速度補償制御方式は上手く機能しない。
【実施例1】
【0024】
上述のガントリータイプ塗布装置1の制御方法としての加速度補償制御方式による効果を示す為に、加速度補償制御を行わない事例を図4に示す。この時の速度偏差は、±0.02%となっている。
【0025】
同じく図5に於いて加速度補償制御を行わなかった場合、左右の脚5の偏差は0.7μmとなっている。
【0026】
同じく図6において加速度補償制御を行なわなかった場合、入力外乱に対する速度の乱れは0.436mm/secとなっている。
【0027】
これらに対して加速度補償制御方式を行なった場合は図7より速度偏差は±0.013%まで改善された。
【0028】
同じく図8において加速度補償制御を行なった場合は、左右の脚5の偏差は0.3μmまで改善された。
【0029】
同じく図9において加速度補償制御を行なった場合、入力外乱に対する速度の乱れは0.22mm/secまで改善された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
上記実施例に記載の結果に示す様に、ガントリータイプの精密テーブルにおいて速度偏差や左右の脚の偏差をより少なくし、外乱に対する影響を少なくするには加速度補償制御が有効である。
【0031】
加速度補償制御方式を用いることにより、塗布ムラが軽減されより品質の高い塗布が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ガントリータイプ塗布装置の概略図。
【図2】速度フィードバック制御方式について説明する図。
【図3】加速度補償制御方式を説明する図。
【図4】加速度補償制御を行なわない場合のガントリー中心の速度偏差。
【図5】加速度補償制御を行なわない場合の左右脚の偏差。
【図6】加速度補償制御を行なわない場合の入力外乱に対する速度。
【図7】加速度補償制御を行った場合のガントリー中心の速度偏差。
【図8】加速度補償制御を行った場合の左右脚の偏差。
【図9】加速度補償制御を行った場合の入力外乱に対する速度。
【図10】速度ムラや外乱を起因とする塗布ムラを表す図。
【符号の説明】
【0033】
1 ガントリータイプ塗布装置
2 ガントリー
3 スリットダイ
4 支柱
5 脚
6 リニアスケール
7 エアーベアリング
8 リニアサーボモータ(固定子)
9 リニアサーボモータ(可動子)
10 レール
11 テーブル
12 横木
20 ガラス板
21 塗布エリア
22 筋状の塗布ムラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横木で連動された個々に独立の左右の支柱、脚から構成されたガントリータイプの塗布装置において、ガントリーの移動に際し加速度フィードバック制御方式を用いて制御することを特徴とするガントリータイプの塗布装置の制御方法。
【請求項2】
横木で連動された個々に独立の左右の支柱、脚から構成されたテーブル移動タイプの塗布装置において、テーブルの移動に際し加速度フィードバック制御方式を用いて制御することを特徴とするテーブル移動タイプの塗布装置の制御方法。
【請求項3】
横木で連動された個々に独立の左右の支柱、脚から構成されたガントリータイプの塗布装置において、ガントリーの移動に際し加速度フィードバック制御方式を用いて制御することを特徴とするガントリータイプの塗布装置。
【請求項4】
横木で連動された個々に独立の左右の支柱、脚から構成されたテーブル移動タイプの塗布装置において、テーブルの移動に際し加速度フィードバック制御方式を用いて制御することを特徴とするテーブル移動タイプの塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−142705(P2008−142705A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294633(P2007−294633)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】