説明

塗布装置

【課題】塗布装置において基板上に塗布液を均一に塗布する。
【解決手段】塗布ヘッドを主走査方向に往復移動するヘッド移動機構は、主走査方向に伸びるガイド部に係合しつつガイド部との間にエアを噴出することにより非接触状態にてガイド部に支持されるスライダを有する。スライダにはエアチューブ331を介してエアが供給され、スライダに取り付けられる塗布ヘッドの複数の吐出口には複数の塗布液チューブ332を介して塗布液が供給される。エアおよび塗布液の供給源と塗布ヘッドとの間において、エアチューブ331の周囲には複数の塗布液チューブ332が配置され、結束材333が複数の塗布液チューブ332の全体の外周に密着して当該外周を覆うことにより、これらのチューブが結束されてチューブ群33が構築される。チューブ群33では基板上への塗布液の塗布時における変形が抑制され、基板上に塗布液を均一に塗布することが実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に塗布液を塗布する塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塗布液を吐出するノズルを走査することにより基板に塗布液を塗布する塗布装置が従来より用いられており、近年では、平面表示装置用のガラスの基板に対して画素形成材料を含む塗布液を塗布する際にも応用が検討されている。典型的な例では、基板上に形成された隔壁に沿う主走査方向にノズルを移動し、主走査方向への移動が完了する毎に基板を主走査方向に垂直な副走査方向に移動することにより、塗布液が所定のピッチにて配列されるストライプ状に塗布される。このような、塗布装置では、塗布液の供給源とノズルとの間が可撓性を有する塗布液チューブにて接続されることにより、移動するノズルに塗布液を常時供給することが可能とされる。また、塗布装置では、吐出部に複数のノズルを配列して設け、ノズルの配列方向に交差する主走査方向に吐出部を移動することにより、基板上に塗布液を短時間にて塗布することも行われる。
【0003】
なお、特許文献1では、チューブ間に屈曲自在な介在体を介在させつつ多数のチューブを全体的にねじったもの(集合体)を結束テープにて螺旋状に仮巻し、集合体に溶融状態にある樹脂の貯溜部内を通過させることにより結束テープの外面に保護カバーを形成して集合配管を作製する際に、結束テープを構成する樹脂の融点を、保護カバーを構成する樹脂の融点よりも低くして結束テープと保護カバーとを溶着させることにより、集合配管において結束テープと保護カバーとを一体的に剥離可能とする手法が開示されている。
【特許文献1】特開平7−71662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、吐出部に複数のノズルが設けられる塗布装置では、それぞれが塗布液供給源から伸びて複数のノズルに接続される複数の塗布液チューブが設けられるが、吐出部の主走査方向への往復移動を繰り返す際に、仮に複数の塗布液チューブを結束した場合であっても、塗布液チューブが大きく変形して塗布液の流量が変化し、基板上に塗布液を均一に塗布することができなくなることがある。
【0005】
一方で、塗布装置において、主走査方向に伸びるガイド部に係合しつつガイド部との間にエアを噴出することにより非接触状態にてガイド部に支持されるスライダを設け、吐出部をスライダに固定することにより吐出部の高速移動を実現する場合には、エアの供給源とスライダとの間にエアチューブが設けられるが、吐出部の主走査方向への往復移動を繰り返す際に、当該エアチューブや塗布液チューブの振れの影響により吐出部の移動速度が一定とならなくなり、基板上における塗布液の塗布の均一性が低下する場合もある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、複数の吐出口を有する吐出部を高速に移動しつつ塗布を行う塗布装置において、基板上に塗布液を均一に塗布することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、基板に塗布液を塗布する塗布装置であって、基板を保持する基板保持部と、前記基板に平行な副走査方向に関して等間隔にて配列された複数の吐出口から前記基板に向けて塗布液を吐出する吐出部と、前記副走査方向に垂直かつ前記基板に平行な主走査方向に伸びるガイド部、および、前記ガイド部に係合しつつ前記ガイド部との間にガスを噴出することにより非接触状態にて前記ガイド部に支持されるスライダを有し、前記スライダに取り付けられた前記吐出部を前記主走査方向に移動する主走査機構と、前記吐出部の前記主走査方向への移動が完了する毎に前記基板を前記吐出部に対して前記副走査方向に相対的に移動する副走査機構と、前記吐出部の前記複数の吐出口に前記塗布液を供給するとともに、前記スライダに前記ガスを供給するチューブ群とを備え、前記チューブ群が、ガス供給源から導入される前記ガスを前記スライダに導くとともに可撓性を有するガスチューブと、それぞれが可撓性を有し、塗布液供給源から一定の流量にて導入される前記塗布液を前記複数の吐出口に導くとともに前記ガスチューブの周囲に配置される複数の塗布液チューブと、前記複数の塗布液チューブの全体の外周に密着して前記外周を覆うことにより前記ガスチューブおよび前記複数の塗布液チューブを結束する結束材とを備える。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の塗布装置であって、前記結束材が、前記ガスチューブおよび前記複数の塗布液チューブが挿入される管状の収縮性部材を収縮させることにより形成されたものである。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の塗布装置であって、前記複数の塗布液チューブが前記ガスチューブの外周上に等間隔に配置される。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の塗布装置であって、前記塗布液チューブの断面の外形が、直径2ミリメートル以下の円形であり、前記ガスチューブの断面の外形が、前記塗布液チューブの前記直径の3倍以上の直径の円形である。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の塗布装置であって、前記チューブ群の前記吐出部とは反対側の端部が、前記主走査方向に関して前記吐出部の移動経路のほぼ中央、かつ、前記基板の上方の位置に固定される。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の塗布装置であって、前記塗布液の塗布時において、前記主走査機構による前記吐出部の最大移動速度が毎秒1メートル以上10メートル以下である。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし6のいずれかに記載の塗布装置であって、前記塗布液が、有機EL表示装置用の有機EL材料または正孔輸送材料を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の吐出口を有する吐出部を高速に移動しつつ塗布を行う塗布装置において、基板上への塗布液の塗布時におけるチューブ群の変形を抑制することにより基板上に塗布液を均一に塗布するとともに、万一、塗布液チューブまたはガスチューブが損傷した場合であっても、塗布液またはガスの漏れを抑制することができる。
【0015】
また、請求項2の発明では、チューブ群を容易に作製することができ、請求項3の発明では、チューブ群の変形に対する剛性をチューブ群が伸びる方向に垂直な全ての方向に関してほぼ均等に増大することができ、請求項7の発明では、有機EL表示装置において表示の質を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る塗布装置1を示す平面図であり、図2は塗布装置1の正面図である。塗布装置1は、平面表示装置用のガラス基板9(以下、単に「基板9」という。)に、平面表示装置用の画素形成材料を含む塗布液を塗布する装置である。本実施の形態では、塗布装置1において、アクティブマトリックス駆動方式の有機EL(Electro Luminescence)表示装置用の基板9に、揮発性の溶媒(本実施の形態では、芳香族の有機溶媒の1つである4−メチルアニソール)、および、一の色の発光材料として基板9上に付与される有機EL材料を含む塗布液が塗布される。
【0017】
塗布装置1は、図2に示すように、基板9の一の主面(図2中の(−Z)側の主面)に当接して基板9を保持する基板保持部11を備え、図1および図2に示すように、基板保持部11を基板9の主面に平行な所定の方向(すなわち、図1中のY方向であり、以下、「副走査方向」という。)に水平移動するとともに垂直方向(すなわち、Z方向)に向く軸を中心として回転する基板移動機構12を備える。基板保持部11は、基板9を下側から加熱する基板加熱部であるヒータ(図示省略)を内部に備える。基板9の(+Z)側の主面90上の塗布領域91(図1中において細線の矩形にて示す。)には、それぞれが図1中のX方向に伸びる複数の隔壁がY方向に一定のピッチ(例えば100〜150マイクロメートル(μm)のピッチ)にて配列形成されている。なお、基板保持部は、基板9の(−Z)側の主面に当接して基板9を保持するもの以外に、基板9のY方向の端部を把持することにより基板9を保持するもの等であってもよい。
【0018】
塗布装置1は、また、基板9上に形成されたアライメントマーク(図示省略)を撮像して検出するアライメントマーク検出部13、基板保持部11(図2参照)に保持された基板9の主面90に向けて塗布液を吐出する吐出部である塗布ヘッド14、塗布ヘッド14を基板9の主面90に平行かつ副走査方向に垂直な方向(すなわち、図1中のX方向であり、以下、「主走査方向」という。)に水平移動するヘッド移動機構15(ただし、図2では後述のガイド部151のみを図示している。)、および、塗布ヘッド14の移動方向(すなわち、X方向)に関して基板保持部11の両側に設けられるとともに塗布ヘッド14からの塗布液を受ける2つの受液部16を備え、図1に示すように、これらの構成を制御する制御部2を備える。
【0019】
図1に示すヘッド移動機構15は副走査方向に並んで設けられるとともにそれぞれが主走査方向に伸びる棒状の2つのガイド部151を有し、各ガイド部151には1つのスライダ152が設けられる。図3に示すように、スライダ152には貫通孔152aが形成されており、ガイド部151が貫通孔152aに挿入される。実際には、図1に示すように、(−Y)側のスライダ152には後述のチューブ群33(図1中にて1本の太線にて示す。)に含まれるエアチューブを介して、また、(+Y)側のスライダ152には図示省略のエアチューブを介してエア供給源31から一定圧力のエアが供給されており、図3に示すように、貫通孔152aの内周面とガイド部151の外周面との間にエアが噴出され(図3では、エアの噴出方向を符号A1を付す矢印にて示している。)、スライダ152がガイド部151に非接触状態にて係合しつつ主走査方向に移動可能に支持される。
【0020】
図1に示す2つのガイド部151の間において、ガイド部151の両端部の近傍には、環状のタイミングベルト153が掛けられる2つのプーリ154がそれぞれ設けられる。各スライダ152はタイミングベルト153に固定されており(図3参照)、(−Y)側のスライダ152には塗布ヘッド14が取り付けられる。ヘッド移動機構15では、一方のプーリ154に接続されるモータが駆動されることによりタイミングベルト153が時計周りまたは半時計回りに回転し、塗布ヘッド14が(−X)方向または(+X)方向に高速にかつ滑らかに移動する。
【0021】
塗布装置1では、ヘッド移動機構15が、塗布ヘッド14を主走査方向に移動する(すなわち、主走査する)主走査機構となり、基板移動機構12が、塗布ヘッド14の主走査方向への移動が完了する毎に基板9を副走査方向に移動する(すなわち、副走査する)副走査機構となる。なお、塗布ヘッド14の主走査時には、受液部16の近傍にて加速または減速が完了し、基板9の上方では塗布ヘッド14はほぼ一定の速度(例えば、毎秒3〜5メートル(m))にて移動する。
【0022】
図1および図2に示すように、塗布ヘッド14は、同一種類の塗布液を連続的に吐出する複数のノズル17を備える。本実施の形態では、塗布ヘッド14には16本のノズル17が取り付けられるが、図1および図2では図示の都合上、5本のノズル17のみを示している。
【0023】
複数のノズル17は、X方向(すなわち、主走査方向)に略直線状に配列されるとともにY方向(すなわち、副走査方向)に僅かにずれて配置される。塗布装置1では、複数のノズル17のY方向の位置が個別に調整可能とされており、複数のノズル17の吐出口171(ただし、図2では2つの吐出口のみに符号171を付している。)は副走査方向に関して等間隔にて配列され、互いに隣接する2本のノズル17の吐出口171の副走査方向の中心間距離は、例えば基板9上の隔壁のY方向のピッチの3倍に等しくされる。複数のノズル17には一端が塗布液供給源32に接続される複数の塗布液チューブの他端がそれぞれ接続される。後述するように、複数の塗布液チューブはチューブ群33に含まれる。
【0024】
図4は塗布液供給源32の構成を示す図である。塗布液供給源32は、塗布液を貯溜する容器321に一端が接続される供給管322を有し、供給管322には、ポンプ323、マスフローコントローラ324、圧力計325およびフィルタ326が、容器321側から(他方の端部に向かって)順に設けられる。供給管322の容器321とは反対側の端部は複数の分岐管327に分岐しており、複数の分岐管327がそれぞれ複数の塗布液チューブに接続される。これにより、塗布液供給源32から複数の塗布液チューブに塗布液が一定の流量にて導入され、複数の塗布液チューブを介して複数のノズル17に塗布液が供給される。
【0025】
図5はチューブ群33の構成を示す斜視図であり、図5では、各チューブが伸びる方向に垂直なチューブ群33の断面を示している。
【0026】
図5に示すチューブ群33は、エア供給源31(図1参照)から導入されるエアをスライダ152に導くガスチューブであるとともに可撓性を有するエアチューブ331、および、それぞれが可撓性を有するとともに塗布液供給源32から導入される塗布液を複数の吐出口171に導く複数の塗布液チューブ332を有し、それぞれがテフロン(登録商標)系材料にて形成される複数の塗布液チューブ332はウレタン樹脂にて形成されるエアチューブ331の周囲に配置される。もちろん、可撓性を有するエアチューブ331および塗布液チューブ332は、他の材料にて形成されてもよい。
【0027】
実際には、複数の塗布液チューブ332はエアチューブ331の外周上にて等間隔に(すなわち、エアチューブ331の中心軸を中心とする周方向に等角度間隔にて)配置される。本実施の形態では、エアチューブ331の外径(直径)が6ミリメートル(mm)とされ(内径4mm)、塗布液チューブ332の外形が1.5mmとされ(内径0.5mm)、16本の塗布液チューブ332はエアチューブ331の外周上にて密に配列される。なお、塗布装置1では、エア供給源31に代えて他の種類のガスを供給するガス供給源が設けられ、当該ガスがガスチューブを介してスライダ152に導かれてもよい。
【0028】
また、チューブ群33は複数の塗布液チューブ332の全体の外周(すなわち、エアチューブ331の周囲に配置される複数の塗布液チューブ332を1つの部材と捉えた場合の外周)に密着して当該外周を覆う結束材333(ただし、図5では、図示の都合上、結束材333を太い破線にて示している。)を有し、結束材333によりエアチューブ331および複数の塗布液チューブ332がほぼ一体的に結束される。実際には、複数の塗布液チューブ332をエアチューブ331の周囲に配置したものを、テフロン(登録商標)系の材料にて形成される管状の熱収縮性部材に挿入し、熱を付与して熱収縮性部材を収縮させることにより、塗布液チューブ332間のすき間にも進入しつつエアチューブ331および複数の塗布液チューブ332を強固に結束する結束材333が形成される。このような構造により、チューブ群33では変形に対する剛性が極めて大きくなる。
【0029】
図1に示すように、エア供給源31および塗布液供給源32は供給ユニット30として、ヘッド移動機構15の(+Y)側に配置されており、供給ユニット30における供給口群(エアの供給口および塗布液の供給口)は塗布ヘッド14よりも上方、かつ、X方向に関してガイド部151のほぼ中央に位置している。したがって、供給口群に接続されるチューブ群33の塗布ヘッド14とは反対側の端部は、主走査方向に関して塗布ヘッド14の移動経路のほぼ中央、かつ、基板9の上方(基板9の真上ではない。)の位置に固定される。実際には、供給ユニット30における供給口群は上下方向および左右方向に僅かに移動(または、回動)可能とされており、供給口群に取り付けられるチューブ群33の端部も塗布ヘッド14の主走査に伴う供給口群の微小移動に従ってその位置が僅かに変動する。すなわち、チューブ群33の端部は供給口群に対して固定されるものであり、当該端部は厳密に一定の位置に配置される必要はない。本実施の形態では、塗布ヘッド14の主走査方向の移動経路の長さは約1メートル(m)、チューブ群33の長さは約1.5mとされ、チューブ群33の塗布ヘッド14とは反対側の端部は、主走査方向に関して塗布ヘッド14の移動経路の中央、かつ、基板9の上方1mの位置に固定される。
【0030】
次に、塗布装置1による塗布液の塗布について述べる。図1に示す塗布領域91に塗布液が塗布される際には、各ノズル17から主面90上における隔壁間の領域(すなわち、主走査方向に伸びる領域であり、以下、「線状領域」という。)に塗布液が吐出されて塗布される。後述するように、塗布装置1では副走査方向に一定のピッチ(隔壁のピッチに等しいピッチであり、以下、「領域ピッチ」という。)にて配列される複数の線状領域において、副走査方向に2つ置きに存在する線状領域に塗布液が塗布される。すなわち、塗布装置1にて塗布液が塗布される2つの線状領域の間には、他の塗布装置等により他の種類の塗布液が塗布される2つの線状領域が挟まれている。以下、塗布装置1における具体的な塗布動作について説明する。
【0031】
図6は、塗布装置1における塗布液の塗布の流れを示す図である。塗布装置1では、基板9が基板保持部11にて保持されると、アライメントマーク検出部13からの出力に基づいて基板移動機構12が駆動されて基板9が移動および回転し、図1中に実線にて示す塗布開始位置に位置する(ステップS11)。既述のように、基板9の主面90上には互いに平行な複数の隔壁が配列形成され、主面90上の隔壁間の領域として線状領域が規定されており、基板9が塗布開始位置に配置されることにより、塗布装置1において、それぞれが主走査方向に伸びる複数の線状領域が主走査方向に垂直な副走査方向に一定の領域ピッチにて主面90上に配列設定された状態で、処理対象の基板9が準備されることとなる。このとき、塗布ヘッド14は、副走査方向に関して基板9の(+Y)側の端部近傍であり、主走査方向において、図1および図2中に実線にて示す待機位置(すなわち、図1中の(−X)側の受液部16の上方)に予め配置されている。
【0032】
続いて、複数のノズル17から塗布液の吐出が開始され(ステップS12)、さらに、ヘッド移動機構15が制御されて塗布ヘッド14の主走査方向の移動(すなわち、図1中の(−X)側から(+X)側への主走査)が開始される。これにより、複数の吐出口171のそれぞれから基板9の主面90に向けて塗布液を一定の流量にて連続的に(途切れることなく)吐出しつつ、塗布ヘッド14が主走査方向に連続的に一定の速度にて移動し、基板9の塗布領域91の16個の線状領域に塗布液がストライプ状に塗布される(ステップS13)。
【0033】
そして、塗布ヘッド14が図1および図2中に二点鎖線にて示す待機位置(すなわち、(+X)側の受液部16の上方)まで移動することにより、塗布液によるストライプ状のパターンが形成される。なお、図1中における塗布領域91の(+X)側および(−X)側の非塗布領域(並びに、必要に応じて(+Y)側および(−Y)側の非塗布領域)は図示省略のマスクにより覆われているため塗布液は基板9上に直接には塗布されない。
【0034】
塗布ヘッド14が待機位置まで移動すると、基板移動機構12が駆動され、基板9が基板保持部11と共に(+Y)方向(すなわち、副走査方向)に領域ピッチの48倍に等しい距離だけ移動する(ステップS14)。このとき、塗布ヘッド14では、複数のノズル17から受液部16に向けて塗布液が連続的に吐出されている。
【0035】
副走査方向における基板9の移動が終了すると、基板9および基板保持部11が図1中に二点鎖線にて示す塗布終了位置まで移動したか否かが制御部2により確認される(ステップS15)。そして、塗布終了位置まで移動していない場合には、ステップS13に戻って塗布ヘッド14が複数のノズル17から塗布液を吐出しつつ基板9の(+X)側から(−X)方向(すなわち、主走査方向)に移動することにより、基板9上の線状領域に塗布液が塗布される(ステップS13)。その後、基板9が副走査方向に移動し、塗布終了位置まで移動したか否かの確認が行われる(ステップS14,S15)。
【0036】
塗布装置1では、基板保持部11および基板9が塗布終了位置に位置するまで、塗布ヘッド14の主走査方向への移動が完了する毎に、基板9が副走査方向に相対的に移動され(すなわち、塗布ヘッド14の主走査方向における移動、および、基板9の(+Y)側へのステップ移動が繰り返され)、これにより、基板9の塗布領域91において、塗布液が領域ピッチの3倍に等しいピッチにて配列されたストライプ状に塗布される(ステップS13〜S15)。塗布装置1では、副走査方向に関し、基板9上において塗布液の塗布が進行する方向(すなわち、塗布ヘッド14の基板9に対する相対移動方向)は、基板移動機構12による基板9の移動方向とは反対向きとなっている。
【0037】
実際には、塗布装置1では塗布ヘッド14の主走査方向への移動、および、基板9の副走査方向への移動が高速に繰り返されるが(すなわち、塗布ヘッド14の主走査方向への往復移動が高速に繰り返される。)、チューブ群33の変形に対する剛性が高いことにより、基板9上への塗布液の塗布時においてチューブ群33はほとんど変形しない。したがって、図7に抽象的に示すように、チューブ群33がほぼ一定の形状を維持したままで(いわゆる剛体モードにて)塗布ヘッド14が振動運動する。なお、図7では、塗布ヘッド14が(−X)側の受液部16(図1参照)上に位置する状態を実線にて示し、(+X)側の受液部16上に位置する状態を細線にて示し、移動途上におけるチューブ群33を二点鎖線にて示している(後述の図8において同様)。正確には、塗布ヘッド14がヘッド移動機構15のX方向の中央(ガイド部151の中央)に位置する状態にて、チューブ群33の供給ユニット30側の端部と塗布ヘッド14との間の直線距離が最短となるため、供給ユニット30から塗布ヘッド14に垂れ下がるチューブ群33がその曲率が大きくなるように僅かに変形する。
【0038】
そして、基板9が塗布終了位置まで移動すると、複数のノズル17からの塗布液の吐出が停止され(ステップS15,S16)、塗布装置1による基板9に対する塗布液の塗布が終了する。塗布装置1による塗布が終了した基板9は、他の塗布装置等へと搬送され、塗布装置1により塗布された塗布液以外の他の2色の塗布液が塗布される。そして、基板9に対して所定の工程が行われた後、他の部品と組み合わされて有機EL表示装置が製造される。なお、塗布装置1では、実際には複数の基板9に対して連続的に塗布液の塗布が行われる。
【0039】
ここで、仮に複数の塗布液チューブの集合がバンド状部材にて複数箇所にて結束されているチューブ群を有する比較例の塗布装置では、塗布ヘッド14の主走査方向への往復移動が高速に繰り返されることにより、図8に示すようにチューブ群95が固有振動モードにて振動することがあり、この場合、塗布液の塗布途上においてチューブ群95が主に主走査方向に大きく変形して(うねって)塗布液チューブ内における塗布液の流量が変化するとともに、チューブ群95の振動の影響によりヘッド移動機構15における塗布ヘッド14の移動の等速性能や真直性能が低下することがあり、基板上に塗布液を均一に塗布することができなくなる。また、塗布液チューブ同士が擦れ合うことによる発塵が問題となることもある。その結果、製品となった後の有機EL表示装置における表示の質が低下してしまう。チューブ群95とエアチューブとを並べて結束することも考えられるが、この場合でも、チューブ群95のみの場合と同様の問題が生じることがある。
【0040】
なお、複数の塗布液チューブをケーブルベアに収容することも考えられるが、この場合、塗布液チューブが主走査方向に折り返されるようにケーブルベア内に配置されるため、塗布ヘッドの移動方向や位置に従って塗布液チューブ内における塗布液の流量が変化してしまう。また、塗布ヘッド14の移動速度によっては、ケーブルベアを用いることができないこともある。さらに、コイル状のチューブを塗布液チューブとして利用することも考えられるが、この場合も、コイル状のチューブが伸びた状態と縮んだ状態とで塗布液の流量が変化してしまう。
【0041】
これに対し、図1の塗布装置1では、スライダ152にエアを供給するエアチューブ331の周囲に塗布ヘッド14の複数の吐出口171に塗布液を供給する複数の塗布液チューブ332が配置され、結束材333が複数の塗布液チューブ332の全体の外周に密着して当該外周を覆うことにより、エアチューブ331、および、複数の塗布液チューブ332が互いに固定されてチューブ群33が構築される。これにより、チューブ群33において変形に対する剛性を大幅に増大することができ、基板9上への塗布液の塗布時におけるチューブ群33の振動や変形の発生が抑制され、ヘッド移動機構15の等速性能や真直性能の低下が防止される。その結果、基板9上に塗布液を均一に塗布することが実現される。また、塗布液チューブ同士が擦れ合うことが防止されるとともに、仮に擦れ合って不要物が発生したとしても、結束材333により外部に出ることが抑制される。その結果、基板9を用いて製造される有機EL表示装置において表示の質を向上することができる。
【0042】
また、比較例の塗布装置において、例えばチューブ群95とエアチューブとを並べて結束する場合に、万一、エアチューブが破損した場合には、瞬時にエアをスライダに供給することができなくなり、高圧のエアを利用した高価なガイド機構(スライダおよびガイド部)が破損してしまう。同様に、塗布液チューブが破損した場合も、当該塗布液チューブ内を流れる塗布液が直ぐに外部に漏出してしまい、塗布途上の基板に不要な塗布液が付着するとともに、基板移動機構等の塗布装置の構成要素に塗布液が付着して、動作に不具合が生じてしまう可能性がある。これに対し、図5のチューブ群33では、エアチューブ331および複数の塗布液チューブ332の全体が結束材333にて覆われることにより、万一、塗布液チューブ332またはエアチューブ331が損傷した場合であっても、塗布液またはエアの漏れを抑制する(緩やかにする)ことができる。これにより、塗布装置の構成要素に影響が生じる前に対策を講じる、または、ガイド機構が損傷する前にヘッド移動機構15の駆動を安全に停止することができる。なお、本実施の形態では、耐薬品性を有するテフロン(登録商標)系の材料にて結束材333が形成されることにより、塗布液チューブが破損した場合でも、塗布液の漏れを確実に抑制することが可能となる。
【0043】
さらに、チューブ群33では、複数の塗布液チューブ332がエアチューブ331の外周上に等間隔に配置されることにより、チューブ群33の変形に対する剛性をチューブ群33が伸びる方向に垂直な全ての方向に関してほぼ均等に増大することができる。
【0044】
ところで、塗布液チューブ332の断面の外形が直径2mm以下(例えば0.5mm以上)の円形とされると、塗布液チューブ332の変形に対する剛性が極めて弱くなるため、このような場合に、エアチューブ331の周囲に複数の塗布液チューブ332を配置し、さらに結束材333にて結束してチューブ群33を構築する上記手法が用いられることが好ましく、この場合に、チューブ群33にて一定の剛性を確保するには、エアチューブ331の断面の外形が、塗布液チューブ332の直径の3倍以上(例えば6倍以下)の直径の円形であることが好ましい。
【0045】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0046】
チューブ群33では、エアチューブ331および複数の塗布液チューブ332が挿入される管状の収縮性部材を収縮させて結束材を形成することにより、エアチューブ331および複数の塗布液チューブ332を強固にかつ容易に結束することが可能となり、チューブ群33を容易に作製することができるが、例えば、エアチューブ331の周囲に配置される複数の塗布液チューブ332の全体の外周から粘着テープを隙間なく巻き付けることにより、結束材が形成されてもよい。
【0047】
塗布装置では、例えば、塗布ヘッド14においてY方向に関して3α本(αは正の整数)のノズル17が配列されるとともに、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の3種類の有機EL材料をそれぞれ含む3種類の塗布液の供給源が設けられ、最も(+Y)側のノズル17から2つ置きに存在するノズル17にRの塗布液が供給され、Rの塗布液が供給されるノズル17の(−Y)側に隣接するノズル17にGの塗布液が供給され、残りのノズル17にBの塗布液が供給されることにより、塗布ヘッド14の一度の主走査により基板9上に3種類の塗布液が同時に塗布されてもよい。
【0048】
また、塗布ヘッド14では、塗布液を吐出するノズル17が2本以上とされるのであるならばいかなる本数とされてもよいが、複数の塗布液チューブ332をエアチューブ331の外周上に等間隔に配置してチューブ群33の変形に対する剛性をチューブ群33が伸びる方向に垂直な全ての方向に関してほぼ均等に増大するという観点では、ノズル17が3本以上とされて塗布液チューブ332が3本以上とされることが好ましい。この場合に、エアチューブ331の周囲を複数の塗布液チューブ332が捻られつつ(螺旋状に)巻かれることにより、チューブ群の剛性がさらに高められてもよい。また、塗布液チューブ332の数によっては、エアチューブ331の周囲に塗布液チューブ332が多層に配置されてもよい(すなわち、エアチューブ331上の塗布液チューブ332に重ねて塗布液チューブ332が配置される。)。
【0049】
上記実施の形態では、発光材料を含む塗布液を用いて基板9上に発光材料のパターンを適切に形成することが実現されるが、揮発性の溶媒(例えば、水)に加えて正孔輸送材料を含む塗布液が基板9に塗布されてもよい。この場合も、塗布装置では、基板9上に正孔輸送材料を含む塗布液を均一に塗布することが実現される。なお、「正孔輸送材料」とは、有機EL表示装置の正孔輸送層を形成する材料であり、「正孔輸送層」とは、有機EL材料により形成された有機EL層へと正孔を輸送する狭義の正孔輸送層のみを意味するのではなく、正孔の注入を行う正孔注入層も含む。
【0050】
また、塗布装置では、塗布ヘッド14の主走査方向への移動速度が高い場合に、接触式のガイド機構では安定して(長期間精度よく)駆動することが困難となり(すなわち、寿命(耐久性)という点で問題が生じ)、高圧のエアを利用したガイド機構(スライダおよびガイド部)が必要となる。したがって、スライダに接続されるエアチューブの周囲に複数の塗布液チューブを配置してチューブ群を構築する上記手法は、塗布液の塗布時において、ヘッド移動機構15による塗布ヘッド14の最大移動速度が高い場合に、具体的には、塗布ヘッド14の最大移動速度が毎秒1m以上10m以下である場合に特に適しているといえる。
【0051】
塗布装置では、基板移動機構12による基板9および基板保持部11の移動に代えて、塗布ヘッド14が副走査方向に移動することにより、副走査方向における基板9の塗布ヘッド14に対する相対移動が行われてもよい。
【0052】
上記実施の形態における処理対象の基板9では、線状領域が隔壁により規定されるが、塗布装置1では隔壁が形成されていない基板9上に塗布液を塗布することも可能である。
【0053】
塗布装置は、1枚の基板から複数の有機EL表示装置を製造する(いわゆる、多面取りを行う)場合にも利用できる。また、上記実施の形態では、基板9上に付与する材料として有機EL表示装置用の画素形成材料(有機EL材料または正孔輸送材料)を含む塗布液が塗布装置1を用いて基板9上に均一に塗布されるが、ノズルプリンティング方式の塗布装置1は、例えば、液晶表示装置やプラズマ表示装置等の他の平面表示装置用の基板に対し、着色材料や蛍光材料等の他の種類の画素形成材料を含む塗布液を塗布する場合に利用されてもよい。この場合も、平面表示装置において、表示の質の低下を抑制することが可能となる。
【0054】
また、複数の吐出口171を有する塗布ヘッド14を高速に移動しつつ塗布を行う塗布装置1は、平面表示装置用の基板以外に、半導体基板等の様々な基板に対する様々な種類の塗布液の塗布に利用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】塗布装置の平面図である。
【図2】塗布装置の正面図である。
【図3】ヘッド移動機構のスライダの断面図である。
【図4】塗布液供給源の構成を示す図である。
【図5】チューブ群の構成を示す斜視図である。
【図6】塗布液の塗布の流れを示す図である。
【図7】塗布液の塗布途上におけるチューブ群の形状を示す図である。
【図8】比較例の塗布装置での塗布液の塗布途上におけるチューブ群の形状を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 塗布装置
9 基板
11 基板保持部
12 基板移動機構
14 塗布ヘッド
15 ヘッド移動機構
31 エア供給源
32 塗布液供給源
33 チューブ群
151 ガイド部
152 スライダ
171 吐出口
331 エアチューブ
332 塗布液チューブ
333 結束材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に塗布液を塗布する塗布装置であって、
基板を保持する基板保持部と、
前記基板に平行な副走査方向に関して等間隔にて配列された複数の吐出口から前記基板に向けて塗布液を吐出する吐出部と、
前記副走査方向に垂直かつ前記基板に平行な主走査方向に伸びるガイド部、および、前記ガイド部に係合しつつ前記ガイド部との間にガスを噴出することにより非接触状態にて前記ガイド部に支持されるスライダを有し、前記スライダに取り付けられた前記吐出部を前記主走査方向に移動する主走査機構と、
前記吐出部の前記主走査方向への移動が完了する毎に前記基板を前記吐出部に対して前記副走査方向に相対的に移動する副走査機構と、
前記吐出部の前記複数の吐出口に前記塗布液を供給するとともに、前記スライダに前記ガスを供給するチューブ群と、
を備え、
前記チューブ群が、
ガス供給源から導入される前記ガスを前記スライダに導くとともに可撓性を有するガスチューブと、
それぞれが可撓性を有し、塗布液供給源から一定の流量にて導入される前記塗布液を前記複数の吐出口に導くとともに前記ガスチューブの周囲に配置される複数の塗布液チューブと、
前記複数の塗布液チューブの全体の外周に密着して前記外周を覆うことにより前記ガスチューブおよび前記複数の塗布液チューブを結束する結束材と、
を備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
請求項1に記載の塗布装置であって、
前記結束材が、前記ガスチューブおよび前記複数の塗布液チューブが挿入される管状の収縮性部材を収縮させることにより形成されたものであることを特徴とする塗布装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塗布装置であって、
前記複数の塗布液チューブが前記ガスチューブの外周上に等間隔に配置されることを特徴とする塗布装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の塗布装置であって、
前記塗布液チューブの断面の外形が、直径2ミリメートル以下の円形であり、
前記ガスチューブの断面の外形が、前記塗布液チューブの前記直径の3倍以上の直径の円形であることを特徴とする塗布装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の塗布装置であって、
前記チューブ群の前記吐出部とは反対側の端部が、前記主走査方向に関して前記吐出部の移動経路のほぼ中央、かつ、前記基板の上方の位置に固定されることを特徴とする塗布装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の塗布装置であって、
前記塗布液の塗布時において、前記主走査機構による前記吐出部の最大移動速度が毎秒1メートル以上10メートル以下であることを特徴とする塗布装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の塗布装置であって、
前記塗布液が、有機EL表示装置用の有機EL材料または正孔輸送材料を含むことを特徴とする塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−131735(P2009−131735A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307806(P2007−307806)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ケーブルベア
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】