説明

塗布装置

【課題】 塗布膜の膜厚バラツキを抑制し得る塗布装置を提供する。
【解決手段】 第1の方向に搬送される透明のフィルム(16)の一方の面(16a)に接触する第1ローラー(12)と、前記第1ローラーに対して前記第1の方向に、前記第1ローラーに隣接して配置され、前記一方の面に接触する第2ローラー(14)と、前記第1ローラーと前記第2ローラーの間に位置する前記フィルムの他方の面に対向するように配置され、前記他方の面に塗布液を塗布する塗布ノズル(20)と、を有し、前記塗布ノズルにおいて前記塗布液を放出する開口(22)と、前記第2ローラーの中心軸である第2中心軸(14a)との前記第1の方向に沿う間隔である第2間隔(L2)は、前記第2ローラーの半径(R)以上であって50mm以下であり、前記開口と、前記第1ローラーの中心軸である前記第1中心軸(12a)との前記第1方向に沿う間隔である第1間隔(L1)は、前記第2間隔より長い塗布装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムに塗布液を塗布する塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムに対して塗布液を塗布し、フィルム上に塗布膜を形成する塗布装置の一つとして、塗布液を吐出する塗布ノズルを使用するものが知られている。塗布ノズルを用いる塗布装置は、磁気記録媒体の製造を始め、各種産業分野において用いられている。このような塗布装置に関しては、塗布膜の欠陥である塗布スジ及び塗布ムラを抑制するための技術や、塗布ノズルの角度調整機構に関する技術等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−173892号公報
【特許文献2】特開平10−227461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来技術に関する塗布装置では、フィルム上に形成される塗布膜の膜厚バラツキが大きく、特に薄い塗布膜の製造時など、塗布膜の均一性を要求される場合に問題となっている。また、塗布ノズルの角度調整が難しく、調整に時間を要するとともに、塗布装置の安定的な稼働に支障があった。
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、塗布膜の膜厚バラツキを抑制するとともに、装置の調整を容易に行うことができる塗布装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る塗布装置は、
第1の方向に搬送される透明なフィルムの一方の面に接触する第1ローラーと、
前記第1ローラーに対して前記第1の方向に、前記第1ローラーに隣接して配置され、前記一方の面に接触する第2ローラーと、
前記第1ローラーと前記第2ローラーの間に位置する前記フィルムの他方の面に対向するように配置され、前記他方の面に塗布液を塗布する塗布ノズルと、を有し、
前記塗布ノズルにおいて前記塗布液を放出する開口と、前記第2ローラーの中心軸である第2中心軸との前記第1の方向に沿う間隔である第2間隔は、前記第2ローラーの半径以上であって50mm以下であり、
前記開口と、前記第1ローラーの中心軸である前記第1中心軸との前記第1方向に沿う間隔である第1間隔は、前記第2間隔より長いことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る塗布装置では、塗布ノズルがローラー間に配置されており、塗布ノズルに対して搬送方向にある第2ローラーから塗布ノズルの開口までの間隔(第2間隔)が、第2ローラーの半径以上であって50mm以下である。第2間隔を第2ローラーの半径以上とすることによって、塗布ノズルの開口付近に形成される液だまりの状態を、フィルムの第2面側(塗布面の反対面の側)から、フィルムを通して容易に視認することができる。したがって、発明に係る塗布装置は、液だまりの状態を確認しながら、容易に塗布ノズルの角度調整等を行うことができる。
【0008】
また、第2間隔を50mm以下とすることによって、本発明に係る塗布装置は、塗布膜の膜厚バラツキを抑制し、フィルム上に厚さの均一性の高い塗布膜を形成することができる。さらに、塗布ノズルに対して搬送方向とは反対側にある第1ローラーから塗布ノズルまでの間隔である第1間隔は、第2間隔より大きい。これにより、本発明に係る塗布装置では、塗布ノズルの開口が、第1ローラーより第2ローラーに近接することになり、塗布膜のバラツキを効果的に抑制することができる。また、本発明に係る塗布装置では、第2間隔を所定の範囲に保ちつつ、第1間隔を大きくすることにより、塗布膜のバラツキを抑制しつつ、良好な塗布膜を形成することができる塗布ノズルの角度調整範囲を広げることができる。
【0009】
また、本発明の塗布装置において、前記塗布ノズルの前記開口は、前記開口より前記第1ローラー側に配置される第1ノズル端面と、前記開口より前記第2ローラー側に配置される第2ノズル端面に挟まれて形成されており、
前記塗布ノズルは、前記第2ノズル端面における前記第2ローラー側の端部である後方端部を中心として、回動可能であっても良い。
【0010】
後方端部を中心として、塗布ノズルを回動させることによって、塗布装置は、良好な塗布膜を形成することができる塗布ノズルの角度調整範囲を広げることができる。このような塗布装置によれば、塗布ノズルの角度調整が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る塗布装置の概略を表す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す塗布装置におけるローラー及び塗布ノズルの配置関係を表す模式図である。
【図3】図3は、図1に示す塗布装置に含まれる塗布ノズルの分解斜視図である。
【図4】図4は、図3に示す塗布装置の一部を拡大した拡大図である。
【図5】図5は、図1に示す塗布装置における塗布ノズルの角度調整方法を説明した概念図である。
【図6】図6は、実施例1で測定された塗布ノズルの位置と膜厚バラツキの関係を表すグラフである。
【図7】図7は、実施例4で測定された押込量の変化に伴う塗布ノズルの角度調整範囲の広さを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る塗布装置10の概略を表す斜視図である。塗布装置10は、第1ローラー12、第2ローラー14及び塗布ノズル20を有する。塗布ノズル20は、第1ローラー12と第2ローラー14間を矢印50で示す搬送方向に沿って搬送される透明のフィルム16に対して、塗布液を塗布する。
【0013】
フィルム16は、帯状に連続した形状を有しており、不図示の送り出しローラーから送り出され、塗布ノズル20によってその表面に塗布膜18を形成されたのち、不図示の巻き取りローラーで巻き取られる。ただし、フィルム16は、送り出されてから巻き取られるまでの間に、複数の塗布装置を通過しても良く、必要に応じて乾燥装置等を通過しても良い。また、フィルム16は、塗布膜18を形成されたのち、巻き取りローラーで巻き取られずにシート状に切断されても良い。
【0014】
フィルム16としては、PETやその他の樹脂によって作製されたものを用いることができるが、特に限定されない。また、フィルム16は透明であるが、ここで言う透明であるとは、フィルム16を通して塗布ノズル20の開口22が視認できる程度に光を透過できるという意味である。したがって、ある程度着色等されたフィルムであっても、本願における透明なフィルム16に含まれる。
【0015】
図1に示すように、塗布ノズル20は、互いに隣接する2つのローラーである第1ローラー12と第2ローラー14の間に配置されている。第1ローラー12と第2ローラー14は、共にフィルム16の第2面16bに接触している。ここで、フィルム16の第2面16bとは、塗布ノズル20によって塗布が行われる塗布面である第1面16aとは反対側の面である。したがって、第1ローラー12及び第2ローラー14は、フィルム16を塗布面とは反対側から支持する。
【0016】
図1における矢印50は、フィルム16の搬送方向を表している。すなわち、フィルム16は、まず第1ローラー12を通過した後、第1ローラー12から第2ローラー14へ搬送される間に塗布膜18を形成され、その後第2ローラーを通過する。
【0017】
塗布ノズル20は、フィルム16に対して、第1ローラー12及び第2ローラー14が接する第2面16bとは反対側の第1面16aに対向するように配置される。塗布ノズル20は、塗布液を放出するための開口22を有している。塗布ノズル20は、開口22からフィルム16の第1面16aに対して塗布液を放出し、フィルム16の第1面16aに、塗布膜18を形成する。
【0018】
塗布ノズル20の開口22から放出される塗布液としては、磁性粉末を含む磁性塗布液の他にも、誘電体粉末や導電性粉末を含む塗布液が挙げられるが、特に限定されない。
【0019】
図2は、塗布装置10における第1ローラー12、第2ローラー14及び塗布ノズル20の配置を表す模式図である。図2において、第1間隔L1は、塗布ノズル20の開口22と、第1ローラーの中心軸である第1中心軸12aとの搬送方向に沿う間隔を表す。また、第2間隔L2は、塗布ノズル20の開口22と、第2ローラーの中心軸である第2中心軸14aとの搬送方向に沿う間隔を表す。また長さRは、第2ローラー14の半径である。なお、図2に示す塗布装置10の搬送方向は、搬送とともにフィルム16が上昇する上昇方向であるが、塗布ノズル20を設置する位置におけるフィルム16の搬送方向は特に限定されず、水平方向や下降方向であっても良い。
【0020】
塗布装置10において、第2間隔L2は、長さR以上であって50mm以下とすることが好ましい。第2間隔L2を第2ローラー14の半径である長さR以上とすることによって、開口22付近に形成される液だまりの状態を、矢印54で示すようにフィルム16の第2面16b側から、フィルム16を通して容易に視認することができる。したがって、塗布装置10は、液だまりの状態を確認しながら、容易に塗布ノズル20の角度調整等を行うことができる。また、第2間隔L2を50mm以下とすることによって、塗布装置10は、塗布膜18(図1参照)の膜厚バラツキを抑制し、フィルム16上に厚さの均一性の高い塗布膜18を形成することができる。
【0021】
また、図2において、第1間隔L1は、第2間隔L2より大きいことが好ましい。これにより、塗布ノズル20の開口22が、第1ローラー12より第2ローラー14に近接することになり、塗布膜のバラツキを効果的に抑制することができる。塗布装置10は、第2間隔L2を所定の範囲に保ちつつ、第1間隔L1を大きくすることにより、塗布膜18のバラツキを抑制しつつ、塗布膜18を形成することができる塗布ノズル20の角度調整範囲を、広げることができる。
【0022】
第2ローラー14の半径である長さRは、特に限定されないが、例えば20mm〜40mm程度とすることができる。第1ローラー12の半径についても、第2ローラー14と同様である。なお、第1ローラー12の半径が、第2ローラー14の半径である長さRより大きい場合は、第1間隔L1は、第1ローラー12の半径より長いことが好ましい。
【0023】
図3は、塗布ノズル20の分解斜視図である。塗布ノズル20は、フロントバー30、バックバー40、サイドプレート24a,24bを有する。フロントバー30とバックバー40はボルトによって連結され、サイドプレート24a,24bは幅方向の両側に配置される。
【0024】
フロントバー30は、開口22に対して第1ローラー12側に配置され、バックバー40は、開口22に対して第2ローラー14側に配置される。フロントバー30とバックバー40の間には、開口22や、塗布液を格納する液室26が形成されている。
【0025】
図4は、図3に示す塗布ノズル20の開口22付近を拡大した拡大図である。フロントバー30におけるフィルム16に近接する端部には、第1突起32が形成されている。第1突起32は、フィルム16に対向する表面である第1端面34を有している。第1端面34は、第1ローラー12側の端部である前方端部36と、開口22側の端部である第1開口端部38の間に延在している。
【0026】
バックバー40におけるフィルム16に近接する端部には、第2突起42が形成されている。第2突起42は、フィルム16に対向する表面である第2端面44を有している。第2端面44は、開口22側の端部である第2開口端部46から、第2ローラー14側の端部である後方端部48の間に延在している。
【0027】
塗布ノズル20の開口22は、開口22より第1ローラー12側に配置される第1端面34と、開口22より第2ローラー14側に配置される第2端面44に挟まれて形成されている。したがって、流路28から開口22に供給される塗布液は、第1端面34の第1開口端部38と第2端面44の第2開口端部46の間から、フィルム16の第1面16aに向かって放出される。
【0028】
図5(a)〜図5(c)は、塗布装置10における塗布ノズル20の角度調整方法を説明した概念図である。図5(a)〜図5(c)に示すように、塗布ノズル20は、フィルム16の搬送方向(矢印50)に対して、角度調整を行うことができる。
【0029】
図5(a)は、塗布ノズル20が適正に角度調整された状態を表している。この場合、塗布ノズル20の後方端部48が塗布膜18の表面に適切に接触し、フィルム16の第1面16aには、膜厚バラツキの少ない塗布膜18が形成される。また、塗布ノズル20とフィルム16の間には適正な形状の液だまり52が形成される。
【0030】
図5(b)は、塗布ノズル20の開口22が第2ローラー14側を向くように傾きすぎており、塗布ノズル20が適正に角度調整されていない状態を表している。この場合、塗布ノズル20の後方端部48は、塗布膜18の表面から浮いた状態となり、塗布膜18に欠陥である塗布スジ及び塗布ムラ等が形成され、塗布膜18の膜厚が不均一となる。また、塗布ノズル20とフィルム16の間に形成される液だまり52は、第2ローラー14側に偏った不適正な形状となる。
【0031】
図5(c)は、塗布ノズル20の開口22が第1ローラー12側を向くように傾きすぎており、塗布ノズル20が適正に角度調整されていない状態を表している。この場合、塗布ノズル20の後方端部48とフィルム16の間を、塗布液が適正に通過していくことができずに第1ローラー12側に流れ出し、フィルム16には正常な塗布膜18が形成されない。また、塗布液が第1ローラー12側に流れ出すため、塗布ノズル20とフィルム16の間には適正な液だまり52が形成されない。
【0032】
ここで、塗布装置10における塗布ノズル20は、図5(a)に示す後方端部48を中心として回動可能である。したがって、図5(a)〜図5(c)に示すような調整を行ったとしても、塗布ノズル20の開口22の搬送方向に沿う位置はほとんど変化しない。したがって、塗布装置10は、塗布ノズル20の角度調整を行った結果、塗布ノズル20の開口22が、第1ローラー12や第2ローラー14の影に隠れて、フィルム16の第2面16b側から観察しにくくなるのを防止できる。
【0033】
また塗布ノズル20は、後方端部48を中心に回動するため、図5(a)に示すような良好な塗布膜18を形成することができる塗布ノズル20の角度調整範囲を広げることができる。したがって、塗布装置10によれば、塗布ノズル20の角度調整を容易に行うことができる。
【0034】
実施例
以下にさらに詳細な実施例に基づき説明を行うが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1〜実施例3
実施例1〜実施例3では、図2に示す塗布装置10における第1間隔L1,第2間隔L2及び長さRの各寸法を変更し、各状態において作製された塗布膜18の表面粗さを測定した。
【0036】
実施例1
実施例1では、図2に示す第1間隔L1と第2間隔L2の和で表される第1ローラー12と第2ローラー14の間隔を225mmに固定した状態で、第2間隔L2を20〜175mmの間で変化させ、それぞれの状態において塗布膜18を作製した。第2ローラー14の半径(長さR)及び第1ローラー12の半径は、20mmとした。
【0037】
実施例1において塗布膜18の形成に用いた塗布液は、金属磁性粉を2500重量部、アクリル系樹脂を600重量部、ソルビトール系分散剤を250重量部、メチルエチルケトンを3000重量部、メチルイソブチルケトンを600重量部、シクロヘキサンを1300重量部、トルエンを200重量部配合した磁性塗料を用いた。塗布膜18の幅は、160mm、膜厚(狙い値)は0.5μmとした。
【0038】
次に、作製した塗布膜18について、幅方向(搬送方向に垂直な方向)の膜厚の変動を計測し、膜厚バラツキを測定した。結果を図6に示す。図6において、縦軸は、Rmax(幅方向に膜厚を計測し、最大値から最小値を引いた値(JIS B 0601-1982参照))、横軸は第2間隔L2(図2参照)である。
【0039】
図6に示す実施例1の結果から、第2ローラー14と塗布ノズル20の間隔が小さいほど、膜厚バラツキが小さいことが解る。特に、第2間隔L2が50mm以下である場合には、Rmaxが0.017μm以下であり、極めて膜厚バラツキの少ない塗布膜18が得られた。
【0040】
実施例2
実施例2では、図2に示す第1間隔L1と第2間隔L2の和で表される第1ローラー12と第2ローラー14の間隔を50mmに固定した状態で、第2間隔L2を20mm、25mm、30mmに変化させ、それぞれの状態において塗布膜18を作製した。第2ローラー14の半径(長さR)及び第1ローラー12の半径は、20mmとした。その他の条件は、実施例1と同様である。また、実施例1と同様に、作製したサンプル2−1〜2−3に係る塗布膜18について、幅方向(搬送方向に垂直な方向)の膜厚の変動を計測し、膜厚バラツキを測定した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示すように、第2間隔L2が第1間隔L1より小さいサンプル2−1は、第2間隔L2と第1間隔L1が同じであるサンプル2−2や、第2間隔L2が第1間隔L1より大きいサンプル2−3より、膜厚バラツキが小さい。このことから、第2間隔L2を第1間隔L1より小さくすることにより、塗布膜18のバラツキを効果的に抑制できることが解る。
【0043】
実施例3
実施例3では、図2に示す第2間隔L2を50mmに固定した状態で、第1間隔L1を50mm、151mmに変化させ、それぞれの状態において塗布膜18を作製した。第2ローラー14の半径(長さR)及び第1ローラー12の半径は、第1間隔L1が50mmの場合は20mm、第1間隔L1が151mmの場合は40mmとした。その他の条件は、実施例1と同様である。また、作製したサンプル3−1及び3−2に係る塗布膜18について、搬送方向の膜厚の変動を100cmの長さにわたって計測し、膜厚バラツキを測定した。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2から、第1間隔L1が151mmであるサンプル3−2は、第1間隔L1が50mmであるサンプル3−1に対して、膜厚バラツキが僅かに低減していた。この結果から、第2間隔L2を50mmという小さい値に設定すれば、第1間隔L1を大きくしても膜厚のバラツキは増加しないと認められる。
【0046】
実施例4
実施例4では、図2に示す塗布装置10における第1間隔L1,第2間隔L2及び長さRの各寸法がそれぞれ異なる3つの状態(第1状態〜第3状態)について、良好な塗布膜18を形成することができる塗布ノズル20の角度調整範囲の広さを調査した。
【0047】
実施例4の第1状態では、図2に示す第1間隔L1及び第2間隔L2を50mmとし、第2ローラー14の半径(長さR)及び第1ローラー12の半径は、20mmとした。各ローラー12,14及び塗布ノズル20の配置を決めた後、図5(a)〜図5(c)に示すように、塗布ノズル20の角度調整を実施し、図5(a)に示すような良好な塗布膜18を形成することができる角度調整範囲の広さを調査した。また、この際、塗布ノズル20によるフィルム16の押込量を、2mm〜6mmの範囲で変化させ、それぞれの状態で角度調整範囲の広さを調査した。ここで押込量とは、塗布ノズル20の先端が、フィルム16を、塗布ノズル20が存在しない場合における通過位置から、搬送方向とは垂直方向(図1の矢印56で示す方向)に押し込む量である。
【0048】
実施例4の第2状態では、図2に示す第2間隔L2を101mmとし、第2ローラー14の半径(長さR)及び第1ローラー12の半径は、40mmとした。その他の条件及び評価内容は第1状態と同様である。また、実施例4の第3状態では、図2に示す第2間隔L2を151mmとした他は、第2状態と同様の条件及び評価内容である。実施例4の第1状態から第3状態の評価条件及び評価結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
また、図7は、表3に示す実施例4の結果をグラフに表したものであり、図7の縦軸は角度調整範囲の広さであり、横軸は押込量である。表3及び図7に示すように、塗布ノズル20の角度調整範囲は、第3状態が最も広く、第1状態が最も狭いことが解った。このことから、第2ローラー14と塗布ノズル20の開口22の間隔を一定にしておけば、第1ローラー12と第2ローラー14の間隔を広げた方が、塗布ノズル20の角度調整範囲は広くなることがわかる。実施例1〜実施例4の結果から、塗布装置10は、第2間隔L2を所定の大きさ(50mm)以下にして、第1間隔L1を大きくすることによって、膜厚バラツキを抑制し、かつ塗布ノズル20の角度調整範囲を広げることができることが解る。
【0051】
実施例5
実施例5では、まず、良好な塗布膜18を形成することができる塗布ノズル20の角度調整範囲を調査し、その中心調整位置を決定した。次に、塗布ノズル20の角度を、中心調整位置からプラス1deg及びマイナス1deg変化させた状態で、塗布膜18を作製し、塗布膜18の表面粗さRa(中心線平均粗さ(JIS B 0601-1982参照))を調査した。このような調査により、塗布ノズル20が中心調整位置からプラス1deg及びマイナス1deg変化することによって、塗布膜の表面粗さRaが悪化するか否かを確認した。
【0052】
実施例5の第4状態では、塗布装置10に関連して実施形態で述べたように、第2端面44の後方端部48(図4参照)を回転中心として、塗布ノズル20の角度調整を行った。これに対して、実施例5の第5状態では、第4状態とは異なり、第2端面44の第2開口端部46(図4参照)を回転中心として、塗布ノズル20の角度調整を行った。また、実施例5の第6状態では、第1端面34の前方端部36(図4参照)を回転中心として、塗布ノズル20の角度調整を行った。
【0053】
実施例5の第4〜第6状態では、図2に示す第1間隔L1を100mm、第2間隔L2を50mmとし、第2ローラー14の半径(長さR)及び第1ローラー12の半径は、40mmとした。実施例5の第4状態から第6状態の評価条件及び評価結果を表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
表4に示すように、第2端面44の後方端部48を中心に塗布ノズル20を回転させた第4状態では、中心調整位置からいずれの方向に塗布ノズル20を回転させても、塗布膜19の表面粗さRaは殆ど変化せず、良好な状態に保たれた。それに対して、第2端面44の第2開口端部46を中心に塗布ノズル20を回転させた第5状態では、中心調整位置から一方の方向(プラス方向)に回転させた場合に、塗布膜19の表面粗さRaが悪化した。また、第1端面34の前方端部36を中心に塗布ノズル20を回転させた第6状態でも、第5状態と同様に、中心調整位置から一方の方向(プラス方向)に回転させた場合に、塗布膜18の表面粗さRaが悪化した。
【0056】
実施例5の結果から、第2端面44の後方端部48を中心に塗布ノズル20を回転させて角度調整を行う塗布装置10は、塗布膜18の表面状態が良好に保たれる塗布ノズル20の角度調整範囲が広く、角度調整が容易であることが解る。
【符号の説明】
【0057】
10…塗布装置
12…第1ローラー
12a…第1中心軸
14…第2ローラー
14a…第2中心軸
16…フィルム
16a…第1面
16b…第2面
18…塗布膜
20…塗布ノズル
22…開口
24a,24b…サイドプレート
26…液室
28…流路
30…フロントバー
32…第1突起
34…第1端面
36…前方端部
38…第1開口端部
40…バックバー
42…第2突起
44…第2端面
46…第2開口端部
48…後方端部
L1…第1間隔
L2…第2間隔
R…長さ(第2ローラーの半径)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に搬送される透明なフィルムの一方の面に接触する第1ローラーと、
前記第1ローラーに対して前記第1の方向に、前記第1ローラーに隣接して配置され、前記一方の面に接触する第2ローラーと、
前記第1ローラーと前記第2ローラーの間に位置する前記フィルムの他方の面に対向するように配置され、前記他方の面に塗布液を塗布する塗布ノズルと、を有し、
前記塗布ノズルにおいて前記塗布液を放出する開口と、前記第2ローラーの中心軸である第2中心軸との前記第1の方向に沿う間隔である第2間隔は、前記第2ローラーの半径以上であって50mm以下であり、
前記開口と、前記第1ローラーの中心軸である前記第1中心軸との前記第1方向に沿う間隔である第1間隔は、前記第2間隔より長いことを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記塗布ノズルの前記開口は、前記開口より前記第1ローラー側に配置される第1ノズル端面と、前記開口より前記第2ローラー側に配置される第2ノズル端面に挟まれて形成されており、
前記塗布ノズルは、前記第2ノズル端面における前記第2ローラー側の端部である後方端部を中心として、回動可能であることを特徴とする請求項1に記載の塗布装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−179553(P2012−179553A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44221(P2011−44221)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】