説明

塗装建築板

【課題】インクジェット印刷した柄模様の欠損箇所を目立つことなく補修することが容易になる塗装建築板を提供する.
【解決手段】建築板1の表面にベース着色層2を設け、ベース着色層2の表面にインクジェット印刷によって柄模様3a,3b…を塗装して形成される塗装建築板に関する。柄模様3a,3b…をベース着色層2の複数箇所に部分的に形成すると共に、少なくとも一部の柄模様3a,3b…を他の柄模様3a,3b…と鮮明さを異ならせてインクジェット印刷する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷によって柄模様を塗装した塗装建築板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セメント系外装板などの建築板に塗装を施すにあたっては、従来からスプレー塗装機、ロールコーター塗装機、フローコーター塗装機などを用いて、建築板の表面にインクを塗布することによって行なうのが一般的である。しかしこのようなスプレー、ロールコート、フローコートなどでは、複雑な柄模様に塗装を施すことが難しく、特に外装板のように不規則な凹凸を設けた建築板に塗装を施すことは困難である。一方、凸版や凹版などの印刷ロールを用いて塗装することも行なわれているが、この場合には同じ柄模様が繰り返して表れる塗装になって、単調な模様になり易く、また塗装する柄模様を変更する場合には印刷ロールを取り替える必要があって、建築板ごとに異なる模様を塗装することはできない。
【0003】
そこで最近、インクジェットプリンターを塗装機として用い、建築板を送りながら、このインクジェットプリンターのノズルヘッドからインクを噴射させることによって、建築板の表面をインクジェット印刷で塗装することが提案されている(例えば特許文献1等参照)。
【0004】
インクジェットプリンターではノズルヘッドから噴射させたインクで、建築板の表面に対して非接触で印刷して塗装を行なうことができるものであり、またノズルヘッドからのインクの噴射を制御することによって、建築板の任意の位置に任意の柄模様となるようにインクを噴射することができるものであり、表面に凹凸を有する建築板に複雑な柄模様で印刷して塗装を行なうことができるものである。特に、ノズルヘッドからのインクの噴射を制御することによって、任意の鮮明さで柄模様を印刷することができるという利点を有している。
【特許文献1】特開2005−74686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のようにインクジェット印刷で柄模様を塗装する場合、インクジェット印刷を行なった後に建築板の表面が擦れたり、施工作業中に傷付いたりして、柄模様に欠損が生じると、補修を行なうことが難しいという問題があった。すなわち、スプレー、ロールコート、フローコートなどで塗装する場合には、欠損箇所に刷毛塗り等で塗料を塗布することによって、補修箇所が目立たないように補修することが可能である。一方、インクジェット印刷の場合は多数のドットの集まりとして柄模様が発現されるので、インクジェット印刷した柄模様の欠損箇所に刷毛塗り等で塗料を塗布すると、インクジェット印刷した柄模様と刷毛塗り等による塗装箇所の鮮明さなどが異なるために、補修箇所が目立つことになり、補修は困難である。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、インクジェット印刷した柄模様の欠損箇所を目立つことなく補修することが容易になる塗装建築板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る塗装建築板は、建築板1の表面にベース着色層2を設け、ベース着色層2の表面にインクジェット印刷によって柄模様3a,3b…を塗装して形成される塗装建築板であって、柄模様3a,3b…をベース着色層2の複数箇所に部分的に形成すると共に、少なくとも一部の柄模様3a,3b…を他の柄模様3a,3b…と鮮明さを異ならせてインクジェット印刷して成ることを特徴とするものである。
【0008】
また請求項2の発明は、請求項1において、解像度、インクドットの径、インクドットのピッチ、インクの噴射液滴量のうち少なくとも一つを変えてインクジェット印刷することによって、鮮明さを異ならせたインクジェット印刷を行なうことを特徴とするものである。
【0009】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、建築板1の表面に凹部4と凸部5を形成し、少なくとも一部の柄模様3a,3b…を凹部4から凸部5にかかる範囲で形成して成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
インクジェット印刷によって形成される複数箇所の柄模様3a,3b…は鮮明さが異なっているために、柄模様3a,3b…に生じた欠損箇所を刷毛塗り等で塗料を塗布して補修するにあたって、補修箇所の鮮明さと柄模様3a,3b…との鮮明さの相違が、柄模様3a,3b…同士の鮮明さの相違に紛れて、目立たなくなるものであり、インクジェット印刷した柄模様3a,3b…の欠損箇所を目立つことなく補修することが容易になるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0012】
本発明において建築板1としては、例えばセメント等の窯業系の外装材を用いることができるものであり、建築板1の表面には凹部4と凸部5を設けて凹凸が形成してある。この凹部4と凸部5は、例えば凹部4を目地溝の形状に、凸部5をレンガやブロックの形状に形成することができる。
【0013】
そしてまず、この建築板1の表面の全面にベース着色層2を設ける。このベース着色層2は、着色塗料をスプレー、ロールコート、フローコートなどの任意の塗装方法で塗布することによって形成することができる。勿論、後述のインクジェットプリンターを用いてインクジェット印刷することによってベース着色層2を形成することも可能である。
【0014】
次に、このベース着色層2の上に柄模様3a,3b…を塗装する。本発明はこの柄模様3a,3b…の塗装を、インクジェットプリンターを用いてインクジェット印刷することによって行なう。
【0015】
インクジェットプリンターは、図2に概略構成を示すように、ノズルヘッド9、ノズルヘッド9にインクを供給するインク供給タンク11、ノズルヘッド9からのインクの噴射を制御する印刷制御システム12などを設けたプリンター本体13と、建築板1を送る送りコンベア14とを備えて形成されるものである。
【0016】
ノズルヘッド9はプリンター本体13の下端に設けられているものであり、建築板1の送り方向と垂直な方向に長いラインヘッドとして形成してある。ノズルヘッド9の下面には図3のように複数(例えば30個)の単体ヘッド16が、ノズルヘッド9の長手方向に一列に配列して取り付けてある。単体ヘッド16は下面形状が矩形に形成してあり、単体ヘッド16の下面に開口して多数の噴射ノズル10が形成してある。噴射ノズル10は所定の一定間隔で単体ヘッド16の長手方向に配列されるものであり、図4の実施の形態では噴射ノズル10は単体ヘッド16に4列設けるようにしてある。このように噴射ノズル10を設けた単体ヘッド16をノズルヘッド9にその長手方向に複数取り付けることによって、ノズルヘッド9の長手方向に配列されるように多数の噴射ノズル10をノズルヘッド9に設けることができるものである。ここで、単体ヘッド16はその長手方向を建築板1の送り方向に対して所定角度で傾斜させた状態で塗装ノズルヘッド3に取り付けてあり、このように単体ヘッド16を傾斜させることで建築板1の送り方向に対して垂直な方向(建築板1の幅方向)での隣合う噴射ノズル4のピッチを小さくして、高密度のdpiで塗装を行なうことができるようにしてある。
【0017】
ここで、ノズルヘッド9はイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色のインクを噴出する4種類のノズルヘッド9y,9c,9m,9kから形成してあり、フルカラー印刷による塗装を行なうことができるようにしてある。インク供給タンク11も同様に4種類のものからなるものであり、イエローのインクを供給するインク供給タンク11yはノズルヘッド9yに、シアンのインクを供給するインク供給タンク11cはノズルヘッド9cに、マゼンタのインクを供給するインク供給タンク11mはノズルヘッド9mに、ブラックのインクを供給するインク供給タンク11kはノズルヘッド9kにそれぞれ接続してある。そして各ノズルヘッド9y,9c,9m,9kは建築板1の送り方向に沿って配列してある。
【0018】
印刷制御システム12は、各種のCPU、ROM、RAM等から構成されるものであり、印刷データ作成部、印刷制御部、噴射ノズル制御部等を備えて形成してある。印刷データ作成部は、原画をスキャナ等して得た模様パターンのデータを入力して保存するものであり、印刷制御部は、塗装を行なう建築板1に応じた模様パターンのデータを印刷データ作成部から取り出し、この模様パターンのデータに基づいて、噴射ノズル制御部に制御信号を出力するものである。また噴射ノズル制御部はノズルヘッド9y,9c,9m,9kの各噴射ノズル10に接続してあり、噴射ノズル制御部から入力される制御信号に基づいて各噴射ノズル10を制御するものである。各噴射ノズル10は例えばピエゾ制御方式により噴射を制御されるようになっており、噴射ノズル制御部で各噴射ノズル10を制御することによって、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各インクの噴射と停止を個別に制御して、印刷パターンに対応したフルカラー印刷によるインクジェット印刷を行なうことができるものである。
【0019】
そして、建築板1を送りコンベア14で送ってノズルヘッド9y,9c,9m,9kの下を順に通過させ、この際に、印刷制御システム12で上記のように制御しながらノズルヘッド3y,3c,3m,3kの各噴射ノズル10からインクを噴射させて、建築板1の表面に塗着させることによって、図1に示すように、ベース着色層2の表面に柄模様3a,3b…をインクジェット印刷することができるものである。ここで、柄模様3a,3b…はベース着色層2の表面の複数箇所に印刷されるものであり、また部分的に柄模様3a,3b…を印刷することによって、柄模様3a,3b…の間にベース着色層2が露出されるようにしてある。また、柄模様3a,3b…のうち、一部の柄模様3a,3b…は凹部4から凸部5に亘って形成されるようにしてある。
【0020】
このように柄模様3a,3b…をインクジェット印刷するにあたって、各柄模様3a,3b…は鮮明さが異なるようにインクジェット印刷を行なうものである。柄模様3a,3b…の総てにおいて鮮明さを異ならせるようにしてもよいが、柄模様3a,3b…のうち一部のものと他のものとの鮮明さが異るようにしてもよい。
【0021】
柄模様3a,3b…を鮮明さが異なるようにインクジェット印刷するには、各柄模様3a,3b…において異なる解像度のノズルヘッド9を用いてインクジェット印刷することによって行なうことができる。インクジェット印刷は30〜600dpiの範囲の解像度で行なうことが望ましいが、この範囲で解像度が異なるノズルヘッド9を用いるのが好ましい。柄模様3a,3b…のうち最も高い解像度で印刷するものに対して1/2〜1/20の範囲で解像度を異ならせて印刷することができるものであり、例えば図1において、柄模様3aを300dpiのノズルヘッド9でインクジェット印刷する場合、柄模様3bを100dpiのノズルヘッド9でインクジェット印刷することによって、柄模様3aよりも柄模様3bのほうが不鮮明になるように印刷を行なうことができるものである。
【0022】
また、インクジェット印刷は、ノズルヘッド9の噴射ノズル10から噴射されたインクの液滴がドットとしてベース着色層2の表面に塗着することによって行なわれるが、このインクドットの径を変えることによっても、柄模様3a,3b…を鮮明さが異なるようにインクジェット印刷することができる。インクドット径が大きくなると、隣合うインクドットの重なりが大きくなってインクドットの輪郭が不鮮明になり、印刷の鮮明さが低くなるものであり、柄模様3a,3b…のうち最もインクドット径が大きいものに対して1/2〜1/5の範囲でインクドット径を異ならせることによって、柄模様3a,3b…を鮮明さが異なるようにインクジェット印刷することができるものである。例えば、図1において、柄模様3aを2〜10μmのインクドット径でインクジェット印刷する場合、柄模様3bを4〜20μmのインクドット径でインクジェット印刷することによって、柄模様3aよりも柄模様3bのほうが不鮮明になるように印刷を行なうことができるものである。インクドット径の調整は、例えば、噴射ノズル10からのインクの噴射回数を変えることによって行なうことができる。
【0023】
また、インクドットのピッチを変えることによっても、柄模様3a,3b…を鮮明さが異なるようにインクジェット印刷することができる。インクドットのピッチが小さいほうが、単位面積当たりのインクドットの密度が高くなって、鮮明さが高くなるものであり、柄模様3a,3b…のうち最もインクドットピッチが大きいものに対して4/5〜1/5の範囲でインクドットピッチを異ならせることによって、柄模様3a,3b…を鮮明さが異なるようにインクジェット印刷することができるものである。例えば、図1において、柄模様3aを10μmのインクドットピッチでインクジェット印刷する場合、柄模様3bを20μmのインクドットピッチでインクジェット印刷することによって、柄模様3aよりも柄模様3bのほうが不鮮明になるように印刷を行なうことができるものである。インクドットピッチの調整は、例えば、ノズルヘッド9に多数設けた噴射ノズル10のうち総ての噴射ノズル10からインクを噴射させるようにしたり、一つおきの噴射ノズル10から噴射させるようにしたりして、噴射させる噴射ノズル10を選択することによって行なうことができる。
【0024】
さらに、ノズルヘッド9の噴射ノズル10から噴射されるインクの液滴の量を変えることによっても、柄模様3a,3b…を鮮明さが異なるようにインクジェット印刷することができる。インクの噴射液滴量によってインクドット径を異ならせることができるので、インクの噴射液滴量を変えることによって、異なる鮮明さで柄模様3a,3b…をインクジェット印刷することができるものである。インクの噴射液滴量は4〜15ピコリットル程度が一般的であるので、この範囲でインクの噴射液滴量を変えることができるものであり、柄模様3a,3b…のうち最もインクの噴射液滴量が多いものに対して4/5〜1/10の範囲でインクの噴射液滴量を異ならせることによって、柄模様3a,3b…を鮮明さが異なるようにインクジェット印刷することができるものである。
【0025】
上記のようにベース着色層2の上に鮮明さが異なるようにインクジェット印刷して柄模様3a,3b…を形成することによって、各柄模様3a,3b…を画一的でなく微妙な差を付けて表現することができ、自然感のある意匠表現をすることができるものである。特に、鮮明さが低くなるように形成した柄模様3a,3b…は、その輪郭がぼやけるようにすることができるので、より自然感のある柄模様となるものである。
【0026】
また、インクジェット印刷で形成される柄模様3a,3b…は、スプレー、ロールコート、フローコートなどで塗装されるベース着色層2よりも膜厚が薄いので、擦れたりすると欠損が生じ易い。そしてこのように柄模様3a,3b…の部分に欠損が生じると、欠損箇所に刷毛塗り等で塗料を塗布することによって補修を行なうが、補修箇所の塗装は刷毛塗り等であってインクジェット印刷ではないので、補修箇所と補修した柄模様3a,3b…との鮮明さが異なる。しかし上記のように各柄模様3a,3b…は鮮明さが異なるので、補修箇所の鮮明さと柄模様3a,3b…との鮮明さの相違は、柄模様3a,3b…同士の鮮明さの相違に紛れて、目立たなくなるものであり、不自然な感じを与えることが少なくなるものである。従って、インクジェット印刷した柄模様3a,3b…の欠損箇所を刷毛塗り等でのインクドット径で目立つことなく補修することが容易になるものである。補修箇所に刷毛塗り等で塗布する塗料は、柄模様3a,3b…の色に合わせた塗料を用いることが多いが、欠損箇所の位置や面積によっては、ベース着色層2の色に合わせた塗料を用いるようにしてもよい。
【0027】
上記のようにインクジェット印刷で柄模様3a,3b…を印刷した後、必要に応じて、その上から表面保護用のクリアー塗料を塗装し、またその上に無機質塗料を塗装するようにしてもよい。さらにその上に光触媒を含有する無機質塗料を塗装するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】インクジェットプリンターの構成を示す概略図である。
【図3】同上のノズルヘッドの拡大した下面図である。
【図4】同上の単体ヘッドのさらに拡大した下面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 建築板
2 ベース着色層
3a,3b,3c,3d 柄模様
4 凹部
5 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築板の表面にベース着色層を設け、ベース着色層の表面にインクジェット印刷によって柄模様を塗装して形成される塗装建築板であって、柄模様をベース着色層の複数箇所に部分的に形成すると共に、少なくとも一部の柄模様を他の柄模様と鮮明さを異ならせてインクジェット印刷して成ることを特徴とする塗装建築板。
【請求項2】
解像度、インクドットの径、インクドットのピッチ、インクの噴射液滴量のうち少なくとも一つを変えてインクジェット印刷することによって、鮮明さを異ならせたインクジェット印刷を行なうことを特徴とする請求項1に記載の塗装建築板。
【請求項3】
建築板の表面に凹部と凸部を形成し、少なくとも一部の柄模様を凹部から凸部にかかる範囲で形成して成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装建築板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−229957(P2007−229957A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51096(P2006−51096)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】