説明

塗装方法

【課題】マスキング材の除去を容易に行うことができる塗装方法を提供すること。
【解決手段】本発明の塗装方法は、被塗装物をマスキング材で被覆する工程と、マスキング材の表面上にマスキング部材を配置する工程と、被塗装物を塗装する工程と、マスキング部材を取り外し、溶剤で洗浄してマスキング材を取り除く工程と、を有することを特徴とする。本発明の塗装方法は、マスキング材の除去を容易に行うことができる塗装方法となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物に塗料を塗装する塗装方法に関し、詳しくは、塗装すべきでない表面をマスキング材で被覆する塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の各種の物体に塗装を行う場合には、塗装すべきでない表面にはマスキングテープやマスキング材を取り付けてマスキングを行い、塗装を行った後にマスキングを取り除いていた。これにより、塗装すべきでない部分には塗料が付着せず、所望の表面が得られるようになっていた。
【0003】
そして、マスキングの除去には、被塗装物を溶剤で洗浄する方法がある。このような塗装方法は、例えば、特許文献1〜2に開示されている。
【0004】
特許文献1には、熱可塑性樹脂を材料とし、表面に水溶性樹脂からなる耐溶剤性被膜をもつマスキング材が開示されている。ここで、耐溶剤性被膜の耐溶剤性とは被塗装物に塗布される塗料を構成する溶剤である。
【0005】
特許文献2には、水溶性あるいは水分散性をもつ基材と、水溶性あるいは水分散性をもつ粘着層と、をもつマスキングテープが開示されている。
【0006】
特許文献1〜2に開示されたマスキングテープおよびマスキング材は、水溶性の物質よりなることから、水での洗浄により被塗装物の表面から取り除くことができる。
【0007】
しかしながら、マスキング材を用いる塗装方法は、マスキング材の表面の全面に塗料が塗布されて塗膜が形成されると、マスキング材の除去が困難になるという問題があった。具体的には、マスキング材は、被塗装物に塗布される塗料が溶解しない溶剤により洗浄除去されるように材料選択をなされている。そして、塗料は、マスキング材を除去する溶剤に対しては不溶性をもつ。このため、マスキング材の全面に塗料の塗膜が形成されると、マスキング材が塗膜で覆われて溶剤と接触できなくなり、マスキング材を溶剤で除去することが困難となっていた。
【特許文献1】特開2002−361134号公報
【特許文献2】特開平10−60395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、マスキング材の除去を容易に行うことができる塗装方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者らはマスキング材を配置した状態で塗料を塗装する方法について検討を重ねた結果、本発明をなすに至った。
【0010】
本発明の塗装方法は、被塗装物の塗装すべきでない表面をマスキング材で被覆する工程と、マスキング材の表面上に、マスキング材の表面の少なくとも一部を被覆するマスキング部材を配置する工程と、被塗装物を塗装する工程と、被塗装物に塗布された塗料が流動性を消失した状態であり、かつマスキング部材を取り外した状態で、塗料は不溶でありかつマスキング材が溶解可能な溶剤で洗浄してマスキング材を取り除く工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の塗装方法は、マスキング材の表面にマスキング部材を配置した状態で塗装を行うことで、塗料が付着しないマスキング材の表面を形成している。そして、この塗料が付着しないマスキング材の表面から溶剤によりマスキング材の除去が進行する。すなわち、本発明の塗装方法は、マスキング材の除去を容易に行うことができる塗装方法となっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の塗装方法は、まず、被塗装物の塗装すべきでない表面をマスキング材で被覆する。これにより、塗装すべきでない表面がマスキング材で被覆され、塗装すべきでない表面が露出しなくなる。これにより、その後の工程において、塗料を被塗装物に塗装したときに、塗装すべきでない表面に塗料が付着しなくなる。
【0013】
本発明の塗装方法は、その後、マスキング材の表面上に、マスキング材の表面の少なくとも一部を被覆するマスキング部材を配置する。被塗装物の表面を被覆したマスキング材の表面上にマスキング部材を配置することで、マスキング材の表面であってマスキング部材が配置された部分が露出しなくなる。これにより、その後の工程において、塗料を被塗装物に塗装したときに、少なくともマスキング部材の配置した部分のマスキング材の表面には、塗料が付着しなくなる。
【0014】
そして、被塗装物を塗装する。被塗装物に塗装を行うことで、被塗装物の表面に所望の塗膜を形成できる。本発明において、被塗装物の塗装に用いられる塗料の材質および塗装方法については特に限定されるものではない。塗料には、たとえば、合成樹脂エナメル塗料を用いることができる。また、塗装方法としては、ハケ塗り、ローラー塗り、スプレー塗り等の方法をあげることができ、スプレー塗装であることが好ましい。
【0015】
その後、被塗装物に塗布された塗料が流動性を消失した状態であり、かつマスキング部材を取り外した状態で、塗料は不溶でありかつマスキング材が溶解可能な溶剤で洗浄してマスキング材を取り除く。被塗装物に塗布された塗料が流動性を消失することで、マスキング材を取り除いても塗料が被塗装物の表面上を流れなくなる。塗料の流動性が消失した状態でありかつマスキング部材を取り外した状態では、マスキング部材に被覆されていたマスキング材の表面が新たに露出している。この新たに露出したマスキング材の表面には、マスキング部材が存在したことで塗料が付着していない。この被塗装物を溶剤で洗浄すると、少なくともマスキング材の塗料が付着していない表面からマスキング材が溶剤に溶解(あるいは分散)し、マスキング材が被塗装物の表面から除去できる。そして、マスキング材が被塗装物の表面から除去できると、マスキング材の表面上に付着した塗料の塗膜も被塗装物の表面上から除去される。ここで、一部でもマスキング材が除去できれば、マスキング材の塗料が付着した部分にも、除去された部分から被塗装物の表面にそって溶剤が含浸し、マスキング材を溶解するため、マスキング材および塗膜を除去できる。
【0016】
マスキング材の除去を行うための溶剤は、塗料は不溶でありかつマスキング材が溶解可能な溶液よりなる。この溶剤で洗浄すると、溶解(あるいは分散)可能なマスキング材が溶剤に溶解(あるいは分散)し、塗膜は溶剤に溶解しない。このため、マスキング材のみを被塗装物の表面から除去でき、この結果、マスキング材の表面上の塗膜を除去できる。
【0017】
本発明の塗装方法において、マスキング材および溶剤の材質については特に限定されるものではない。つまり、被塗装物および被塗装物に塗装される塗料の材質などにより適宜選択することができる。また、マスキング材の形態についても、基材と接着層とをもつマスキングテープの形態であっても、溶液状の組成物を被塗装物に塗布する形態であってもいずれでもよい。
【0018】
マスキング材は、溶液状の組成物を被塗装物に塗布して形成された被膜をもつことが好ましい。マスキング材が溶液状の組成物より形成された被膜をもつことで、少なくともこの被膜が被塗装物の塗装すべきでない表面を被覆して塗装時に塗料が被塗装物に付着することを抑える。
【0019】
マスキング材は、水溶性の被膜をもつことが好ましい。水溶性の被膜は、水に溶解するため、安価かつ取り扱いの容易な水を溶剤に使用することができる。このとき、溶剤を構成する水には、マスキング材を溶解可能な性能を維持した状態で添加剤を適宜添加してもよい。マスキング材は、水溶性の被膜をもつものであれば従来公知のマスキング材を用いることができる。たとえば、市販の液状糊、水溶性のマスキングテープ、でんぷん糊をあげることができる。そして、溶剤は、水を主成分とする溶液よりなることが好ましい。
【0020】
また、マスキング材を被塗装物の表面から取り除く洗浄方法についても特に限定されるものではない。たとえば、マスキング材を溶剤に浸漬して溶剤に溶解させる方法、スプレーガン等で溶剤を吹き付けてマスキング材を溶解しつつマスキング材自身の圧力により除去する方法、溶剤をマスキング材に含浸させた状態でスポンジ等でマスキング材をふき取る方法等をあげることができる。
【0021】
溶剤を吹き付けてマスキング材を除去するときには、溶剤を吹き付ける圧力は、被塗装物、マスキング材、溶剤の材質等により異なるため、一概に決定できるものではないが、2.0MPa(20.4Kgf/cm2)以上の圧力で溶剤を吹き付けることが好ましい。溶剤を吹き付けると、溶剤自身がマスキング材にあたるときにマスキング材に応力を付与し、この圧力により短時間でマスキング材が剥離することとなる。吹き付けられる溶剤の圧力が2.0MPa(20.4Kgf/cm2)未満では、吹きつけの効果が発揮されなくなる。また、吹き付けられる溶剤の圧力が過剰に高くなると、溶剤の圧力により被塗装物の表面を損傷することとなる。溶剤を2.0〜10.0MPa(20.4〜102.0Kgf/cm2)の圧力で吹き付けることがより好ましい。なお、本発明において、溶剤の吹きつけ圧力は、高圧洗浄機の圧力の設定値としてよい。
【0022】
本発明において、マスキング材の表面に配置されるマスキング部材は、塗装時にマスキング材の表面上に配置されその後マスキング材の表面から脱離できるように形成されていれば、その材質が特に限定されるものではない。
【0023】
マスキング部材は、その対向面が被塗装物の外周面形状と一致するように形成されたことが好ましい。マスキング部材の対向面とは、マスキング材の表面上に配置したときにマスキング材(被塗装物の表面)と対向する表面である。この対向面が被塗装物の外周面形状と一致するように形成されることで、マスキング部材をマスキング材の表面上に配置したときに、マスキング部材とマスキング材(被塗装物)とが密着し、両者の間にすき間が生じなくなる。すき間が生じなくなると、塗装時に塗料が両者の間に侵入しなくなり、マスキング材の清浄な表面が確保できる。とくに、塗装が、塗料をミスト状にして被塗装物の表面にスプレーする時には、数μmのすき間にも塗料のミストが侵入する。このため、マスキング部材とマスキング材(被塗装物)とのすき間が生じないようにマスキング部材の対向面を形成することが好ましい。マスキング部材は、電鋳あるいは真空成形により形成された対向面をもつ部材であることが好ましい。
【0024】
マスキング部材は、マスキング材が被覆した表面の全面を被覆することが好ましい。マスキング部材がマスキング材の全面を被覆することで、マスキング材の表面上に塗料の塗膜が形成されなくなり、マスキング材の洗浄除去を簡単に行うことが可能となる。
【0025】
マスキング材は、所望の色に着色したことが好ましい。マスキング材を所望の色に着色しておくことで、マスキング材を取り除くときに、マスキング材の除去を目視により確認できるようになる。ここで、マスキング材の所望の色は、被塗装物、被塗装物に塗布される塗料などの色から適宜選択することができる。着色したマスキング材としては、たとえば、墨汁や食紅等の食用色素が含有あるいは分散したマスキング材とすることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を用いて本発明の塗装方法を説明する。
【0027】
(実施例)
本発明の実施例として、自動車用フロントグリルに塗装を行った。
【0028】
まず、樹脂(具体的には、ABS)をフロントグリルの形状に成形して基材1を形成した。そして、基材1の所定の位置にメッキ処理を施してメッキ層2を形成した。
【0029】
つづいて、メッキ層2の表面をマスキング材3で被覆した。マスキング材3は、市販の液状糊(アサヒ晶脳株式会社製、商品名:アサヒ糊P)をローラーで塗布し、乾燥させて形成された。これにより、基材1の表面上にメッキ層2が形成され、メッキ層2の全面がマスキング材3に被覆された。
【0030】
そして、あらかじめ製造されたマスキング部材4をマスキング材3の表面上に密着した状態で配置した。ここで、マスキング部材4は、基材1との対向面40がメッキ層2の表面の外周形状と一致するように、電鋳によりメッキされた表面を反転させて製造された対向面をもつ部材である。
【0031】
マスキング部材4をマスキング材3の表面上に配置した状態で、スプレーガン5を用いて基材1の表面に塗料を塗布した。塗装は、プライマー(神東塗料株式会社製、商品名:神東35Uプライマー)、メタリックやマイカ等の顔料を含む塗料(日本ビー・ケミカル株式会社製、商品名:R160)、クリアーコート(関西ペイント株式会社製、商品名:ソフレックス900)をこの順序で行った。塗装時の様子を図1に示した。
【0032】
そして、マスキング部材4を取り外し、塗料を乾燥させた。
【0033】
基材1のマスキング材3で被覆した表面に高圧洗浄機で7.0MPa(71.4Kgf/cm2)の圧力で水を吹き付けて、吹き付けられた水の水圧も利用してマスキング材3を取り除いた。その後、エアブロー機でエアを吹き付けて水滴を吹き飛ばして乾燥させた。
【0034】
以上の手順により、本実施例の自動車用フロントグリルへの塗装が行われた。
【0035】
上記した自動車用フロントグリルへの塗装において、マスキング部材を配置した状態で塗料を塗布した後にマスキング部材を取り外したときに、マスキング材の表面にわずかに塗料のミストの粒が付着していた。このミストは、自動車用フロントグリルとマスキング部材との間に生じたすき間から侵入したものである。このすき間は、大型の樹脂成形品である自動車用フロントグリルにおいて、製造工程において生じる製品のバラツキにより生じるものであり、数μm程度のすき間であった。しかしながら、マスキング材の表面に付着した塗料のミストは、わずかであり、マスキング材自身の表面が広い面積にわたって存在した。そして、マスキング材に高圧洗浄機で水を吹き付けると、マスキング材が水に溶解するとともに水の圧力によりマスキング材が簡単に除去できた。
【0036】
また、マスキング材を用いて塗装を行ったことで、塗装後の自動車用フロントグリルは、メッキ処理の施された表面と塗装が施された表面との境界(見切り)がはっきりと確認できた。また、塗装後の自動車用フロントグリルにおいて、メッキされた表面に塗料の付着は見られなかった。つまり、実施例の塗装方法は、所望の塗装面を形成できるとともにマスキング材の除去を簡単に行うことができる塗装方法である。
【0037】
なお、実施例ではミストが侵入したすき間は樹脂成形品の製造工程において生じたものとしたが、マスキング部材とマスキング材(被塗装物(基材))とが完全に密着できずに生じたすき間であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例の自動車用フロントグリルの塗装時の様子を示した断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1:基材 2:メッキ層
3:マスキング材 4:マスキング部材
5:スプレーガン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物の塗装すべきでない表面をマスキング材で被覆する工程と、
該マスキング材の表面上に、該マスキング材の表面の少なくとも一部を被覆するマスキング部材を配置する工程と、
該被塗装物を塗装する工程と、
該被塗装物に塗布された塗料が流動性を消失した状態であり、かつ該マスキング部材を取り外した状態で、該塗料は不溶でありかつ該マスキング材が溶解可能な溶剤で洗浄してマスキング材を取り除く工程と、
を有することを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
前記マスキング材は、水溶性の被膜をもつ請求項1記載の塗装方法。
【請求項3】
前記溶剤は、水を主成分とする溶液よりなる請求項2記載の塗装方法。
【請求項4】
前記マスキング部材は、その対向面が前記被塗装物の外周面形状と一致するように形成された請求項1記載の塗装方法。
【請求項5】
前記マスキング部材は、前記マスキング材が被覆した表面の全面を被覆する請求項1記載の塗装方法。
【請求項6】
スプレー塗装を行う請求項1記載の塗装方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−144376(P2007−144376A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346216(P2005−346216)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】