説明

塗装物の生産方法及び塗装物生産設備

【課題】工数を削減できると共に、エネルギの使用量を削減できる塗装物の製造方法を提供すること。
【解決手段】被塗装物に水性の第1塗料を塗布する第1塗料塗布工程S1と、第1塗料による塗膜が形成された被塗装物に、水性の第2塗料を塗布する第2塗料塗布工程S3と、第2塗料により形成された塗膜を半乾燥させるフラッシュオフ工程S4と、第2塗料により形成された塗膜上にクリア塗料を塗布するクリア塗料塗布工程S5と、3つの塗膜を形成した後に、高温乾燥を行う乾燥工程S6と、を備える塗装物の生産方法において、フラッシュオフ工程S4は、40度以下の温度の半乾燥を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装物の生産方法及び塗装物生産設備に関する。詳しくは、被塗装物に形成された塗料塗膜を半乾燥するフラッシュオフ工程を備える塗装物の生産方法、及び被塗装物に形成された塗料塗膜を半乾燥するフラッシュオフ設備を備える塗装物生産設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車車体を構成するバンパ等のプラスチック素材の塗装方式として、3コート1ベーク(3C1B)方式が採用されている。一般的なプラスチック素材への3C1B方式の塗装方法は、プラスチック素材からなる被塗装物に対して、水性プライマ塗布工程、水性ベース塗料塗布工程、クリア塗料塗布工程、及び加熱工程を順次施して複層塗膜を形成するものである。この塗装方法は、被塗装物に対して、3種類の塗料塗布工程と1種類の加熱工程とを施すため3コート1ベーク(3C1B)と呼ばれる。
【0003】
この3C1B方式による塗装方式では、水性ベース塗料塗布工程とクリア塗料塗布工程との間に、被塗装物に塗布されたベース塗料を半乾燥させるフラッシュオフ工程が設けられている。
例えば、特許文献1には、水性ベース塗料を用いた塗膜の形成方法におけるフラッシュオフ工程において、高温(約80℃)の熱風を吹きつけることで被塗装物に形成された塗料塗膜中に含まれる水分を蒸発させて半乾燥させる手法が提案されている。
【特許文献1】特開2008−62118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で提案された手法では、高温の熱風により塗料塗膜中の水分を蒸発させるため、被塗装物の温度が上がってしまい、この温度が上がった被塗装物に冷風を吹き付けて被塗装物の温度を下げる工程を更に設ける必要があった。
そのため、従来の手法では、塗装物の製造に係る工数が多くなり、また、フラッシュオフ工程において加熱(熱風の吹きつけ)及び冷却(冷風の吹きつけ)を行うために多くのエネルギを必要とするという問題があった。
【0005】
従って、本発明は、工数を削減できると共に、エネルギの使用量を削減できる塗装物の生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の塗装物の生産方法は、被塗装物に水性の第1塗料(例えば、後述の水性プライマ塗料)を塗布する第1塗料塗布工程(例えば、後述の水性プライマ塗布工程S1)と、前記第1塗料による塗膜が形成された被塗装物に、水性の第2塗料(例えば、後述の水性ベース塗料)を塗布する第2塗料塗布工程(例えば、後述のベース塗料塗布工程S3)と、前記第2塗料により形成された塗膜を半乾燥させるフラッシュオフ工程(例えば、後述の第2フラッシュオフ工程S4)と、前記第2塗料により形成された塗膜上にクリア塗料を塗布するクリア塗料塗布工程(例えば、後述のクリア塗料塗布工程S5)と、3つの塗膜を形成した後に、高温乾燥を行う乾燥工程(例えば、後述の加熱工程S6)と、を備える塗装物の生産方法において、前記フラッシュオフ工程は、40度以下の温度の半乾燥を行うことを特徴とする。
【0007】
本発明の塗装物の生産方法は、被塗装物に水性の第1塗料を塗布する第1塗料塗布工程と、前記第1塗料による塗膜が形成された被塗装物に、水性の第2塗料を塗布する第2塗料塗布工程と、前記第2塗料により形成された塗膜を半乾燥させるフラッシュオフ工程と、前記第2塗料により形成された塗膜上にクリア塗料を塗布するクリア塗料塗布工程と、3つの塗膜を形成した後に、高温乾燥を行う乾燥工程と、を備える塗装物の生産方法において、前記フラッシュオフ工程は、湿度20%〜30%の空気で半乾燥を行うことを特徴とする。
【0008】
また、前記第2塗料により形成された塗膜の厚さは10〜15μmであることを特徴とすることが好ましい。
【0009】
また、前記フラッシュオフ工程は、温度を25〜33度、湿度を20〜30%とすることが好ましい。
【0010】
また、前記クリア塗料は、イソシアネート架橋剤を含んだ2液型のクリア塗料であることが好ましい。
【0011】
本発明の塗装物生産設備(例えば、後述の塗装設備1)は、被塗装物に水性プライマを塗布してプライマ塗膜を形成する水性プライマ塗布設備(例えば、後述の水性プライマ塗布設備30)と、前記プライマ塗膜を乾燥させる第1フラッシュオフ設備(例えば、後述の第1フラッシュオフ設備)と、前記プライマ塗膜上にベース塗料を塗布してベース塗料塗膜を形成するベース塗料塗布設備(例えば、後述のベース塗料塗布設備)と、前記ベース塗料塗膜を乾燥させる第2フラッシュオフ設備(例えば、後述の第2フラッシュオフ設備)と、前記ベース塗料塗膜上にクリア塗料を塗布してクリア塗料塗膜を形成するクリア塗料塗布設備(例えば、後述のクリア塗料塗布設備50)と、前記クリア塗料塗膜を乾燥させる乾燥設備(例えば、後述の加熱設備60)と、を有する塗装物生産設備において、前記第2フラッシュオフ設備は、温度が25〜33度で湿度が20〜30%の空気を被塗装物に吹き付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フラッシュオフ工程において、40度以下の温度で被塗装物に形成された水性塗料塗膜を半乾燥させた。よって、フラッシュオフ工程を経て半乾燥された被塗装物の温度は上昇しないので、被塗装物を冷却する工程を要せず、塗装物の製造に係る工数を削減できる。また、フラッシュオフ工程において被塗装物に対して加熱(熱風の吹きつけ)及び冷却(冷風の吹きつけ)を行わないのでエネルギの使用量を削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の塗装物の生産方法の一実施形態を示すフロー図である。図2は、本発明の塗装物生産設備の概略を示す図である。
【0014】
本実施形態の塗装物の生産方法は、図1に示すように、ウェット オン ウェットプロセスによる3C1B方式の塗装物の生産方法である。
具体的には、本実施形態の塗装物の生産方法は、被塗装物の一例としての合成樹脂製のバンパ等に対して、第1塗料としての水性プライマを塗布する水性プライマ塗布工程S1、水性プライマにより形成された塗料塗膜を乾燥させる第1フラッシュオフ工程S2、水性プライマにより塗膜が形成された被塗装物に第2塗料としての水性ベース塗料を塗布する第2塗料塗布工程としてのベース塗料塗布工程S3、水性ベース塗料により形成された塗料塗膜を乾燥させるフラッシュオフ工程としての第2フラッシュオフ工程S4、水性ベース塗料により形成された塗膜上にクリア塗料としての2液型クリア塗料を塗布するクリア塗料塗布工程S5、及び3つの塗膜が形成された被塗装物に高温乾燥を施す乾燥工程としての加熱工程S6を備える。
【0015】
また、本発明の塗装物生産設備1は、図2に示すように、水性プライマ塗布工程S1を行うプライマ塗布設備10、第1フラッシュオフ工程S2を行う第1フラッシュオフ設備20、ベース塗料塗布工程S3を行うベース塗料塗布設備30、第2フラッシュオフ工程S4を行う第2フラッシュオフ設備40、クリア塗料塗布工程S5を行うクリア塗料塗布設備50及び加熱工程S6を行う加熱設備60を備える。
【0016】
[被塗装物]
被塗装物としては、例えば、二輪車及び四輪車の外板部品に用いられるバンパ、モール、カウル等のプラスチック素材等が挙げられる。本実施形態に係る塗装物の生産方法によれば、良好な仕上がり外観を有する塗装物が得られることから、特に良好な仕上がり外観が求められる自動車車体の外板部材が好適に用いられる。
【0017】
[水性プライマ塗布工程]
水性プライマ塗布工程S1では、被塗装物に水性プライマが塗布される。水性プライマを使用することで、水性であるがゆえに、後述の第2フラッシュオフ工程S4においても、低温且つ低湿度の空気により、被塗装物に形成された塗料塗膜を好適に半乾燥できる。
水性プライマは、プライマ用樹脂及び水を主成分として含み、適宜、顔料等が含まれている。プライマ用樹脂は、水性プライマにより形成される塗膜と被塗装物とを密着させ、塗膜の耐水性、耐溶剤性等を向上させるものであり、エマルション及び/又は水溶性樹脂組成物の形態で水性プライマに含まれる。
【0018】
エマルションとしては、例えば、プライマ用樹脂としてアクリル樹脂を用いたアクリル樹脂エマルションや、同様にプライマ用樹脂としてそれぞれの樹脂を用いた、ポリエステル樹脂エマルション、ポリウレタン樹脂エマルション、ポリオレフィン樹脂エマルション、エポキシ樹脂エマルション、アミノ樹脂エマルション等が挙げられ、1種のみ、又は、2種以上を併用してもよい。更に、必要に応じて、これらの樹脂を変性したものを含むものでもよく、諸性能を向上させるのに有効である。中でも、エマルションが、アクリル樹脂エマルション、ポリウレタン樹脂エマルション及びポリオレフィン樹脂エマルションから選ばれる少なくとも1種のものであると、水性プライマにより形成される塗膜と、被塗装物との密着性が更に向上するため好ましい。
【0019】
水溶性樹脂組成物は、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、エーテル基等の極性官能基を有し、その親水性によって水媒体中に溶解することができる水溶性樹脂をプライマ用樹脂として含む組成物である。水溶性樹脂組成物に用いられるプライマ用樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アミノ樹脂、ビニル樹脂、繊維素樹脂等を基本構造として有する水溶性樹脂が挙げられ、1種のみ、又は、2種以上を併用してもよい。中でも、水溶性樹脂組成物に含まれるプライマ用樹脂が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂及びアミノ樹脂から選ばれる少なくとも1種を基本構造として有する水溶性樹脂であると、被塗装物に対する密着性を更に向上させることができるため好ましい。
【0020】
水性プライマ中の水の配合割合は、水性プライマ全体に対して、好ましくは50〜90重量%、更に好ましくは60〜80重量%である。水の配合割合が50重量%未満であると、塗料粘度が高くなり、貯蔵安定性や、塗装作業性が低下する。他方、水の配合割合が90重量%を超えると、水性プライマ中の不揮発分量の割合が低下し、塗装効率が悪くなり、タレ、ワキ等の外観異状が生じやすくなる。なお、水性プライマは、有機溶剤を更に含んでもよく、その配合割合は、通常、水性プライマに含まれる水に対して40重量%以下である。
【0021】
また、水性プライマ塗布工程S1において被塗装物に塗布される水性プライマの塗料塗膜の厚さ(半乾燥前の厚さ)は、後述の第1フラッシュオフ工程S2において、塗料塗膜を好適に半乾燥させる観点から、好ましくは9〜12μmである。
塗料塗膜の厚さが12μmを超えた場合には、第1フラッシュオフ工程S2において、塗料塗膜が好適に半乾燥されないおそれがある。
また、塗料塗膜の厚さが9μm未満の場合には、生産された塗装物の仕上がり外観が低下するおそれがある。
【0022】
[第1フラッシュオフ工程]
第1フラッシュオフ工程S2では、水性プライマ塗布工程S1において被塗装物に形成された塗料塗膜が半乾燥される。乾燥は、第1フラッシュオフ設備20において、被塗装物に約80度の空気を吹き付けて行われる。この第1フラッシュオフ工程S2では、水性プライマ中に含まれる水分の約80%を蒸発させることが好ましい。
第1フラッシュオフ工程S2で用いられる空気は、例えば、外気を約80度に加温することにより調整される。そして、この調整された空気は、空気吹きつけ手段としてのブロア装置(図示せず)によって被塗装物に吹き付けられる。
また、被塗装物に吹き付けられた空気は、第1フラッシュオフ設備20に設けられた排気ファン及び配管(いずれも図示せず)を介してリサイクルされる。
また、第1フラッシュオフ工程S2では、約80度の空気を吹き付けた後に、被塗装物に約30度の低温の空気を吹き付けて、被塗装物の温度を低下させる。
【0023】
この第1フラッシュオフ工程S2により、水性プライマ塗膜中の水分が効果的に蒸発して、この水性プライマ塗膜と、後述のベース塗料塗布工程S3において塗布される水性ベース塗料との混和を防止できる。このように、この第1フラッシュオフ工程S2を設けることによって、より良好な仕上がり外観を有する塗装物が得られる。
【0024】
[ベース塗料塗布工程]
第1フラッシュオフ工程S2において塗料塗膜が乾燥された被塗装物には、ベース塗料塗布工程S3において、水性ベース塗料が塗布される。
水性ベース塗料としては、従来用いられていたものを、特に制限なく用いることができる。水性ベース塗料中に配合される樹脂成分としては、例えば、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の基体樹脂と、アミノ樹脂、ポリイソシアネート樹脂、カルボン酸樹脂等の硬化(架橋)樹脂とを配合したものが挙げられる。
【0025】
水性ベース塗料は、光輝性顔料を含有するものであってもよい。光輝性顔料としては、例えば、アルミニウムフレーク、蒸着アルミニウム、着色顔料被覆アルミニウムフレーク、金属酸化物被覆アルミナフレーク、金属酸化物被覆シリカフレーク、グラファイト顔料、金属酸化物被覆マイカ、チタンフレーク、ステンレスフレーク、塩化オキシビスマス、板上酸化鉄顔料、金属めっきガラスフレーク、金属酸化物被覆ガラスフレーク、ホログラム顔料等が挙げられる。これらの光輝性顔料を単独使用又は2種以上を併用することができる。
【0026】
また、水性ベース塗料は、光輝性顔料以外にも着色顔料を含有するものであってもよい。着色顔料としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、亜鉛華、モリブデンレッド、プルシアンブルー、コバルトブルー、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、キナクリドン顔料、イソインドリン顔料、スレン系顔料、ペリレン顔料が挙げられる。これらの着色顔料を単独使用又は2種以上を併用することができる。
【0027】
また、ベース塗料塗布工程S3において被塗装物に塗布される水性ベース塗料の塗料塗膜の厚さ(半乾燥前の厚さ)は、後述の第2フラッシュオフ工程S4において、塗料塗膜を好適に半乾燥させる観点から、好ましくは10〜15μmである。
塗料塗膜の厚さが15μmを超えた場合には、第2フラッシュオフ工程S4において、塗料塗膜が好適に半乾燥されないおそれがある。
また、塗料塗膜の厚さが10μm未満の場合には、製造された塗装物の仕上がり外観が低下するおそれがある。塗料膜の厚さが15μmを超えた場合には次の第2フラッシュオフ工程で、塗膜の内部に含まれる水分が十分発散しないことが確認できた。
【0028】
[第2フラッシュオフ工程]
第2フラッシュオフ工程S4では、ベース塗料塗布工程S3において被塗装物に形成された塗料塗膜が半乾燥される。半乾燥は、第2フラッシュオフ設備40において、被塗装物に低温且つ低湿度の空気を吹き付けて行われる。この第2フラッシュオフ工程S4では、水性ベース塗料中に含まれる水分の約80%を蒸発させることが好ましい。第2フラッシュオフ工程S4で用いられる低温且つ低湿度の空気は、例えば、外気を除湿装置(図示せず)で除湿することにより調整される。そして、この調整された空気は、空気吹きつけ手段としてのブロア装置(図示せず)によって被塗装物に吹き付けられる。
また、被塗装物に吹き付けられた空気は、第2フラッシュオフ設備40に設けられた排気ファン及び配管(いずれも図示せず)を介して除湿装置に供給されてリサイクルされる。
【0029】
除湿装置としては、冷却式除湿装置、吸収式除湿装置、吸着式除湿装置等が用いられる。冷却式除湿装置は、冷却コイル等の冷却器を用いて、除湿装置に導入した空気を露点温度以下まで冷却することで除湿を行う。吸収式除湿装置は、水分を吸収する性質をもった塩化リチウム、トリエチレングリコール等の水溶液を除湿装置に導入した空気と接触させて空気中の水分を吸収し除湿を行う。吸着式除湿装置は、シリカゲルや活性アルミナ等の吸着剤を用いて、除湿装置に導入した空気中の水分を吸着して除湿を行う。
【0030】
第2フラッシュオフ工程S4において被塗装物に吹き付けられる空気の温度は、20〜40℃、好ましくは25〜33℃である。
空気の温度が20℃未満の場合には、吹き付ける空気による塗料塗膜の半乾燥効果が低下すると共に、空気を冷却するためのエネルギコストが増加してしまう。
空気の温度が40℃を超える場合には、直後の塗装時に塗膜に欠陥が生じる可能性がある。
【0031】
被塗装物に吹き付けられる空気の湿度は、好ましくは、20〜30%である。
空気の湿度が30%を超える場合には、吹き付ける空気による塗料塗膜の半乾燥効果が低下してしまうおそれがある。
【0032】
また、第2フラッシュオフ工程S4における低温且つ低湿度の空気の吹きつけ時間は、吹き付ける空気の温度及び湿度により異なるが、好ましくは、3〜5分である。また、低温且つ低湿度の空気の吹きつけ速度は、好ましくは1〜3m/sである。
【0033】
この第2フラッシュオフ工程S4では、水性プライマ塗膜及び水性ベース塗料塗膜を半乾燥することにより、これらの塗膜が半硬化状態となることを妨げない。即ち、2液型クリア塗料を塗布する前に、水性プライマ塗膜及び水性ベース塗料塗膜の硬化を開始するものであってよい。これにより、2液型クリア塗料塗膜との混層を効果的に回避でき、より良好な仕上がり外観を有する塗装物が得られる。
温度調整を行うことにより、第2フラッシュオフ工程S4における2段階の温度調整(例えば、80℃の空気を4分吹き付けた後、20℃の空気を3分吹き付けるといった温度調整)がなくなり、この工程により、省エネ効果が向上すると共に、二酸化炭素排出量の削減を図れる。
【0034】
[クリア塗料塗布工程]
第2フラッシュオフ工程S4を経た被塗装物には、クリア塗料塗布工程S5において、2液型クリア塗料が塗布される。
2液型クリア塗料としては、例えば、イソシアネート化合物を架橋剤とする2液型のスーパーハイソリッドクリア塗料が好適に用いられる(硬化剤はベルガンの塗料噴射口の近傍で主剤と混合する)。
【0035】
2液型のハイソリッドクリア塗料に用いられるイソシアネート化合物としては、例えば、脂環式、芳香族基含有脂肪族又は芳香族の多官能イソシアネート化合物を用いることができ、好ましくは、ジイソシアネート又はそのイソシアヌレート(ジイソシアネートの三量体)が用いられる。
【0036】
基剤樹脂としては、イソシアネート化合物と架橋反応を生じるものであれば特に制限されず、従来公知のものを用いることができるが、水酸基含有樹脂が好適に用いられる。水酸基含有樹脂としては、水酸基を含有する重合体であれば特に限定されず、例えば、水酸基含有アクリル共重合体、水酸基含有ポリエステル共重合体、水酸基含有アルキド樹脂、水酸基含有シリコン樹脂等が挙げられる。これらの水酸基含有樹脂は、更にカルボキシル基、エポキシ基等を有していてもよい。また、基剤樹脂の分子量も特に限定されない。
【0037】
また、イソシアネート架橋反応を促進させる硬化触媒をクリア塗料中に配合してもよい。具体的には、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクテート等の有機スズ化合物硬化触媒を配合してもよい。これにより、予備加熱工程を設けることなく、常温下でも架橋反応がある程度進行し、クリア塗料塗膜の粘度が上昇して下層との混層を回避できるため、仕上がり外観を向上させることができる。
尚、基剤樹脂と架橋剤とは、クリア塗料の塗装に用いられる塗装ガン(図示せず)の塗料噴射口の近傍にて混合される。
【0038】
[乾燥工程]
クリア塗料塗布工程S5を経た被塗装物は、加熱工程S6において加熱乾燥される。
加熱工程S6は、未硬化又は半硬化である水性プライマ塗膜、水性ベース塗料塗膜、及びクリア塗料塗膜の3つの塗膜を完全硬化させる工程である。加熱手段としては、熱風乾燥や赤外線乾燥等の従来公知の手段が用いられる。加熱条件は、水性プライマ、水性ベース塗料、及び2液型クリア塗料の組成に応じて適宜設定される。具体的には、例えば、加熱温度が80℃〜85℃で、加熱時間が35分〜40分の加熱条件が挙げられる。
【0039】
以上の塗装物の生産方法及び塗装物生産設備によれば、以下のような効果を奏する。
【0040】
第2フラッシュオフ工程S4において、被塗装物に低温且つ低湿度の空気を吹き付けてこの被塗装物に形成された塗料塗膜を半乾燥させた。これにより、吹き付けられた空気が低温であっても、被塗装物に形成された塗料塗膜中の水分は急速に蒸発する。よって、第2フラッシュオフ工程S4を経た被塗装物の温度は上昇しないので、被塗装物を冷却する工程を要せず、塗装物の製造に係る工数を削減できる。また、第2フラッシュオフ工程S4において被塗装物に対して加熱(熱風の吹きつけ)及び冷却(冷風の吹きつけ)を行わないのでエネルギの使用量を削減できる。
【0041】
また、第2フラッシュオフ設備40において、被塗装物に吹き付けた空気を、排気ファン及び配管を介して除湿装置に供給してリサイクルさせた。よって、除湿装置により温度及び湿度が調整された空気を効率的に利用でき、エネルギの使用料をより削減できる。
【0042】
次に、本発明の第2実施形態について、図3を参照しながら説明する。尚、以下の各実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
図3は、本発明の第2実施形態に係る塗装物の生産方法を示すフロー図である。
第2実施形態では、第2フラッシュオフ工程S4において、湿度調整のされていない低温の空気が吹き付けられる点で、第1実施形態とことなる。
尚、吹き付けられる空気の温度は、第1実施形態と同様である。
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0043】
次に本発明の第3実施形態について、図4を参照しながら説明する。図4は、本発明の第3実施形態に係る塗装物の生産方法を示すフロー図である。
第3実施形態では、水性プライマ塗布工程S1において低温硬化型水性プライマを用いる点、第1フラッシュオフ工程S2で吹き付けられる高温の空気の温度が約50度である点、及び第2フラッシュオフ工程S4において湿度調整のされていない低温の空気が吹き付けられる点で、第1実施形態と異なる。
第3実施形態によれば、低温硬化型水性プライマを用いたので、第1フラッシュオフ工程S2において、第1実施形態よりも低い温度にて水性プライマ塗膜の乾燥を行える。
【0044】
尚、本発明は上述した実施形態に制限されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、第1実施形態では、第2フラッシュオフ工程S4のみで、低温且つ低湿度の空気を吹き付けて塗料塗膜を半乾燥させたが、これに限らない。即ち、第1フラッシュオフ工程S2及び第2フラッシュオフ工程S4の両者で、低温且つ低湿度の空気を吹き付けて塗料塗膜を半乾燥させてもよい。
【0045】
また、本実施形態では、本発明を、3C1B方式の塗装物の製造方法に適用したが、これに限らない。即ち、本発明を、4C2B方式の塗装物の製造方法や5C2B方式の塗装物の製造方法に適用してもよい。
【0046】
4C2B方式の塗装物の製造方法は、上述した3C1B方式の加熱工程S6の後に、更に第2クリア塗料を塗布する第2クリア塗料塗布工程、及び第2クリア塗料塗布工程を経た被塗装物を加熱乾燥する第2加熱工程を有する。
また、5C2B方式の塗装物の製造方法は、4C2B方式の塗装物の製造方法における加熱工程S6と上塗り第2クリア塗料塗布工程との間に、更に第2ベース塗料を塗布する第2ベース塗料塗布工程、及び第2ベース塗料塗布工程を経た被塗装物を半乾燥する第3フラッシュオフ工程を有する。
【0047】
これら4C2B方式及び5C2B方式の塗装物の製造方法は、3C1B方式における塗装工程をベースとして、更に厚み感、高外観を出すための第2クリア塗料を塗布したり(4C2B方式)、高彩度、高陰影感を出すための第2ベース塗料を塗布したりするもの(5C2B方式)であり、主に高級仕様の車の生産に用いられるものである。これに対し、3C1B方式の塗装物の製造方法は、主に大衆仕様の車の生産に用いられるものである。
【0048】
これら4C2B方式及び5C2B方式の塗装物の製造方法によれば、3C1B方式における塗装工程において平滑性に優れた塗装面が形成されるため、極めて良好な仕上がり外観を得ることができる。
【0049】
尚、第2ベース塗料、第2クリア塗料としては、上述した水性ベース塗料、2液型クリア塗料として用いたものを特に制限なく用いることができる。
また、第2ベース塗料塗布工程、第2クリア塗料塗布工程、及び第3フラッシュオフ工程における各種処理条件は、それぞれ、上述したベース塗料塗布工程S3、クリア塗料塗布工程S5、及び第2フラッシュオフ工程S4における各種処理条件と同様である。
【0050】
また、本発明により製造される塗装物は、上述した二輪車及び四輪車のプラスチック製外板部品に限られず、ATV(全地形対応車)、飛行機、船舶等に用いられる部品等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の塗装物の生産方法の第1実施形態を示すフロー図である。
【図2】本発明の塗装物生産設備の概略を示す図である。
【図3】本発明の塗装物の生産方法の第2実施形態を示すフロー図である。
【図4】本発明の塗装物の生産方法の第3実施形態を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0052】
1 塗装設備
30 ベース塗料塗布設備
40 第2フラッシュオフ設備
50 クリア塗料塗布設備
S1 水性プライマ塗布工程(第1塗料塗布工程)
S2 第1フラッシュオフ工程
S3 ベース塗料塗布工程(第2塗料塗布工程)
S4 第2フラッシュオフ工程(フラッシュオフ工程)
S5 クリア塗料塗布工程
S6 加熱工程(乾燥工程)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物に水性の第1塗料を塗布する第1塗料塗布工程と、
前記第1塗料による塗膜が形成された被塗装物に、水性の第2塗料を塗布する第2塗料塗布工程と、
前記第2塗料により形成された塗膜を半乾燥させるフラッシュオフ工程と、
前記第2塗料により形成された塗膜上にクリア塗料を塗布するクリア塗料塗布工程と、
3つの塗膜を形成した後に、高温乾燥を行う乾燥工程と、を備える塗装物の生産方法において、
前記フラッシュオフ工程は、40度以下の温度の半乾燥を行うことを特徴とする塗装物の生産方法。
【請求項2】
被塗装物に水性の第1塗料を塗布する第1塗料塗布工程と、
前記第1塗料による塗膜が形成された被塗装物に、水性の第2塗料を塗布する第2塗料塗布工程と、
前記第2塗料により形成された塗膜を半乾燥させるフラッシュオフ工程と、
前記第2塗料により形成された塗膜上にクリア塗料を塗布するクリア塗料塗布工程と、
3つの塗膜を形成した後に、高温乾燥を行う乾燥工程と、を備える塗装物の生産方法において、
前記フラッシュオフ工程は、湿度20%〜30%の空気で半乾燥を行うことを特徴とする塗装物の生産方法。
【請求項3】
前記第2塗料により形成された塗膜の厚さは10〜15μmであることを特徴とする請求項1又は2記載の塗装物の生産方法。
【請求項4】
前記フラッシュオフ工程は、温度を25〜33度、湿度を20〜30%とすることを特徴とする請求項1又は2記載の塗装物の生産方法。
【請求項5】
前記クリア塗料は、イソシアネート架橋剤を含んだ2液型のクリア塗料であることを特微とする請求項1又は2記載の塗装物の生産方法。
【請求項6】
被塗装物に水性プライマを塗布してプライマ塗膜を形成する水性プライマ塗布設備と、
前記プライマ塗膜を乾燥させる第1フラッシュオフ設備と、
前記プライマ塗膜上に水性ベース塗料を塗布してベース塗料塗膜を形成するベース塗料塗布設備と、
前記ベース塗料塗膜を乾燥させる第2フラッシュオフ設備と、
前記ベース塗料塗膜上にクリア塗料を塗布してクリア塗料塗膜を形成するクリア塗料塗布設備と、
前記クリア塗料塗膜を乾燥させる乾燥設備と、を有する塗装物生産設備において、
前記第2フラッシュオフ設備は、温度が25〜33度で湿度が20〜30%の空気を被塗装物に吹き付けることを特徴とする塗装物生産設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−75839(P2010−75839A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246833(P2008−246833)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】