説明

塗装用転写フィルム及び塗装用転写フィルムを用いた塗装方法

【課題】全く塗装経験の無い者が板金修理や簡易補修後の塗装を行う場合にも、ある程度のレベル以上の塗装が簡単に行え、また、塗装経験の浅い者が板金修理や簡易補修後の部分塗装を行う場合にも、部分塗装部分とその周辺との境界が分からないように仕上げることができる塗装用転写フィルム及び塗装用転写フィルムを用いた塗装方法を提供する。
【解決手段】塗装用転写フィルムは、ベースフィルムと、このベースフィルム上に積層されており所定の溶剤によって溶解可能な第1のクリヤー塗料層と、第1のクリヤー塗料層上に積層されていると共に多層構造を有しているカラー塗料層と、カラー塗料層上に積層されており所定の溶剤によって溶解可能な第2のクリヤー塗料層とを備えており、上述のカラー塗料層は要塗装領域に対応する中央部が最多の層数で構成されており、中央部の周辺部はこれより層数の少ないカラーぼかし部を構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車体等の表面の部分塗装に用いられる塗装用転写フィルム及びこの塗装用転写フィルムを用いた塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の車体を板金修理したり、簡易補修した場合、板金や補修後の車体表面に部分塗装を施すことが行われる。この部分塗装は、従来は、必要部分及びその周辺にスプレーガンやエアゾールスプレーから塗料を吹き付けることによって行われていた。
【0003】
しかしながら、このような吹き付けを行って塗装面を綺麗に仕上げるためには、かなりの訓練とそれなりの経験が必要であり、塗装経験の浅い者や無い者が美麗な外観を得るように塗装することは非常に困難であった。
【0004】
板金修理や簡易補修後の塗装用ではないが、車両のエンブレム等の樹脂部品の裏面側に立体的な図柄部を転写する転写フィルムは公知である(特許文献1)。この特許文献1に記載の転写フィルムは、ベースフィルム上に平面用金属蒸着面部と縦壁用塗装面部とを設けておき、これを型の内部に設けた後、型内に樹脂を射出して成形するものである。
【0005】
また、転写フィルムではないが、ポリマー材料から構成される車体部品に塗装するための乾燥塗料フィルムが提案されている(特許文献2)。この特許文献2に記載の乾燥塗料フィルムは、支持材料(ベースフィルム)上に第1の着色塗料層がナイフ塗布、ローリング、注入又は印刷により塗布され、その上に噴霧によって第2の着色塗料層が塗布され、その上に透明最上層が塗布されることによって形成される。この乾燥塗料フィルムは、塗料層を転写するものではなく、ベースフィルムごと塗装すべき部品に接着させて被着することによりそのまま塗装を完成するものである。
【0006】
【特許文献1】特開平07−024873号公報
【特許文献2】特開2004−136286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、板金修理や簡易補修後の塗装は、かなりの熟練を要するものであり、経験の浅い者や一般のユーザーが塗装面を綺麗に仕上げることは非常に難しく、しかも、部分塗装部分とその周辺との境界が分からないように仕上げることも非常に困難であった。
【0008】
また、特許文献1に記載の転写フィルムは、ベースフィルム上の塗料層を転写するものではないため、板金修理や簡易補修後の部分塗装に用いることはできない。
【0009】
さらに、特許文献2に記載の乾燥塗料フィルムは、ベースフィルムごと接着してしまうというその構成から、板金修理や簡易補修後の部分塗装に用いることが難しく、しかも、部分塗装部分とその周辺との境界が分からないように仕上げることがほとんど不可能であるため、使用することができない。
【0010】
従って本発明の目的は、全く塗装経験の無い者や塗装経験の浅い者が板金修理や簡易補修後の塗装を行う場合にも、ある程度のレベル以上の塗装が簡単に行える塗装用転写フィルム及び塗装用転写フィルムを用いた塗装方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、全く塗装経験の無い者や塗装経験の浅い者が板金修理や簡易補修後の部分塗装を行う場合にも、部分塗装部分とその周辺との境界が分からないように仕上げることができる塗装用転写フィルム及び塗装用転写フィルムを用いた塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、ベースフィルムと、このベースフィルム上に積層されており所定の溶剤によって溶解可能な第1のクリヤー塗料層と、第1のクリヤー塗料層上に積層されていると共に多層構造を有しているカラー塗料層と、カラー塗料層上に積層されており所定の溶剤によって溶解可能な第2のクリヤー塗料層とを備えており、上述のカラー塗料層は要塗装領域に対応する中央部が最多の層数で構成されており、中央部の周辺部はこれより層数の少ないカラーぼかし部を構成している塗装用転写フィルムが提供される。
【0013】
ベースフィルム上の第1のクリヤー塗料層、カラー塗料層及び第2のクリヤー塗料層を溶剤によって溶解し、塗装すべき対象物の表面に転写できるように構成されているため、全く塗装経験の無い者が板金修理や簡易補修後の塗装を行う場合にも、ある程度のレベル以上の塗装を簡単に行うことができる。しかも、カラー塗料層は要塗装領域に対応する中央部が最多の層数で構成されており、中央部の周辺部はこれより層数の少ないカラーぼかし部を構成しているので、転写するのみで、部分塗装部分とその周辺との境界が分からないように仕上げることができる。
【0014】
カラーぼかし部が、外方向に向かって層数が徐々に減少するように構成されていることが好ましい。
【0015】
第2のクリヤー塗料層は、中央部が最大の膜厚を有しており、中央部の周辺部がこれより薄い膜厚を有するクリヤーぼかし部を構成していることも好ましい。
【0016】
第1のクリヤー塗料層は、中央部が最大の膜厚を有しており、中央部の周辺部がこれより薄い膜厚を有するクリヤーぼかし部を構成しているか、又は中央部とその周辺部とがほぼ同一の薄い膜厚を有していることが好ましい。
【0017】
第1のクリヤー塗料層及び第2のクリヤー塗料層が1液型塗料材料で形成されている及び/又はカラー塗料層が2液型塗料材料で形成されていることが好ましい。
【0018】
本発明によれば、さらに、塗装すべき対象物の表面に所定の溶剤を塗布し、この塗布した溶剤上に、上述した塗装用転写フィルムを第2のクリヤー塗料層側から被着させ、ベースフィルム上からローラー掛けして乾燥させた後、このベースフィルムを剥離する塗装用転写フィルムを用いた塗装方法が提供される。
【0019】
塗装すべき対象物の表面に塗布した溶剤によって第2のクリヤー塗料層の一部を溶解し、第2のクリヤー塗料層、カラー塗料層及び第1のクリヤー塗料層を転写した後、ローラー掛けして混合溶剤の一部及び気泡を追い出し、乾燥させた後、ベースフィルムを剥離している。塗装処理が無いので、全く塗装経験の無い者が板金修理や簡易補修後の塗装を行う場合にも、簡単な転写作業を行うのみで、ある程度のレベル以上の塗装を容易に行うことができる。しかも、カラー塗料層は要塗装領域に対応する中央部が最多の層数で構成されており、中央部の周辺部はこれより層数の少ないカラーぼかし部を構成しているので、転写するのみで、部分塗装部分とその周辺との境界が分からないように仕上げることができる。
【0020】
塗装すべき対象物の表面を足付け処理した後、その表面に所定の溶剤を塗布することが好ましい。
【0021】
所定の溶剤として、溶剤と脱脂剤との混合溶剤を用いることも好ましい。
【0022】
ベースフィルムを剥離した後、第1のクリヤー塗料層上からコンパウンドを用いた研磨を行うことも好ましい。
【0023】
ベースフィルムを剥離した後、第1のクリヤー塗料層上に追加のクリヤー塗料層を塗布することも好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、全く塗装経験の無い者が板金修理や簡易補修後の塗装を行う場合にも、ある程度のレベル以上の塗装を簡単に行うことができ、しかも、部分塗装部分とその周辺との境界が分からないように仕上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は本発明の一実施形態としての塗装用転写フィルムの構成を概略的に示す断面図である。ただし、同図においては、理解を容易にするため、各層の厚さや大きさを誇張して表している。
【0026】
本実施形態の塗装用転写フィルムは、自動車の車体の凹みを板金修理又は簡易修理して表面を平坦化し、表面処理を行った後、その修理部分に部分塗装を施すための転写フィルムである。例えば、塗装色及び大きさの互いに異なる多数の転写フィルムをあらかじめ用意しておき、その車体の要塗装部分の色及び大きさに応じて適切なものを選択して使用する。自動車の車体用の場合、色はその車体色に応じたもの、大きさは例えばA3サイズ、A4サイズ、B2サイズ等にカットされたものが用意される。部分塗装可能な大きさは最大で3dm(300cm)程度である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の塗装用転写フィルム(第1のタイプの転写フィルム)10は、例えばポリエチレンフィルム等の溶剤であるシンナー(一般的なラッカーシンナー、例えば、関西ペイント株式会社のセルバ51)に溶けない柔軟性のある樹脂フィルムであるベースフィルム11と、このベースフィルム11上に、1液性であって硬化後もシンナーによって溶解する自動車用クリヤー(例えば、関西ペイント株式会社のアクリック1000)である透明な塗料を塗布することによって積層された第1のクリヤー塗料層12と、この第1のクリヤー塗料層12上に所望の色を有し、2液性であって硬化後は溶解しない塗料(例えば、関西ペイント株式会社のPG2K)を複数回(この例では4回)重ねて塗布することによって多層構造に積層されたカラー塗料層13と、このカラー塗料層13上に1液性であって硬化後もシンナーによって溶解する自動車用クリヤー(例えば、関西ペイント株式会社のアクリック1000)である透明な塗料を塗布することによって積層されている第2のクリヤー塗料層14とを備えている。なお、カラー塗料層13の塗料は2液性であることが望ましいが、1液性の塗料(例えば、関西ペイント株式会社のPGハイブリットエコ)を用いることも可能である。
【0028】
カラー塗料層13は、第1層13a、第2層13b、第3層13c及び第4層13dをベースフィルム側からこの順序で積層した4層構造を有している。第1層13aは要塗装領域に対応する中央部のみに形成されており、第2層13bは第1層13aより広くその周囲に渡って形成されており、第3層13cは第2層13bより広くその周囲に渡って形成されており、第4層13dは第3層13cより広くその周囲に渡って形成されている。従って、要塗装領域に対応する中央部が最多の層数で構成されており、中央部の周辺部は外方向に向かって層数が徐々に減少するカラーぼかし部を構成することとなる。
【0029】
第1のクリヤー塗料層12は、本実施形態では単層構造を有しており、その中央部が最大の膜厚を有しており、中央部の周辺部は外方向に向かって膜厚が徐々に減少するクリヤーぼかし部を構成している。このクリヤーぼかし部は、クリヤー塗料をシンナーで薄めたものを塗布することによって形成される。
【0030】
第2のクリヤー塗料層14も、本実施形態では単層構造を有しており、その中央部が最大の膜厚を有しており、中央部の周辺部は外方向に向かって膜厚が徐々に減少するクリヤーぼかし部を構成している。このクリヤーぼかし部は、クリヤー塗料をシンナーで薄めたものを塗布することによって形成される。
【0031】
ベースフィルム及び各塗料層の膜厚は、本実施形態においては、単なる一例であるが、ベースフィルム11が約20〜60μm、好ましくは約30μmであり、第1のクリヤー塗料層12が約20〜25μmであり、カラー塗料層13が約50〜60μmであり、第2のクリヤー塗料層14が約20〜25μmである。
【0032】
本実施形態においては、第1のクリヤー塗料層12及び第2のクリヤー塗料層14が単層構造で構成されているが、これらを多層構造としても良い。この場合、クリヤーぼかし部は、中央部の周辺部について、外方向に向かって層数が徐々に減少することによって膜厚を徐々に減少させるように構成する。
【0033】
また、本実施形態では、カラー塗料層13の第1層13a、第2層13b、第3層13c及び第4層13dを、この順序で、即ちベースフィルム11に近い側から遠い側へ向かうに従って面積が順次広くなるようにしてカラーぼかし部を形成しているが、この順序で、即ちベースフィルム11に近い側から遠い側へ向かうに従って面積が順次狭くなるようにしてカラーぼかし部を形成しても良いことは明らかである。
【0034】
図2は本実施形態の塗装用転写フィルムを用いて板金修理した車体の部分塗装を行う場合の処理手順を説明するフローチャートであり、図3はその処理手順における塗装箇所の状態を示す断面図であり、図4は図3(F)の状態をより詳細に示す断面図である。
【0035】
まず、車体の凹み部に対してパテ等を用いた板金処理を行い、表面を平坦に仕上げる(ステップS1)。次いで、この表面に対してプラサフ(プライマー・サーフェサー)により下塗処理する(ステップS2)。図3(A)はこの状態を示しており、同図において、30は車体の鋼板、31は旧塗膜、32は凹み部、33は凹み部32に充填されたパテ、34は下塗されたプラサフをそれぞれ示している。
【0036】
次いで、転写フィルムの貼付け面に足付け処理を行う(ステップS3)。この足付け処理は、足付け用コンパウンド又は2000番程度のサンドペーパーで、表面を研磨することにより、プラサフ34の表面及び旧塗膜31の表面に細かいキズを入れ、塗膜の密着性を向上させる処理である。図3(B)はこの足付け処理を行った後の状態を示しており、プラサフ34及び旧塗膜31の表面に細かいキズ35が入っていることが分かる。
【0037】
次いで、シリコンオフのような脱脂剤を用いて、貼付け面の脱脂処理を行う(ステップS4)。
【0038】
その後、貼付け面に混合溶剤を塗布する処理を行う(ステップS5)。この混合溶剤は、転写フィルム上の塗料層を溶解可能な溶剤であるシンナーと、溶剤蒸発速度を調整するために使用する溶剤であるシリコンオフとをその塗料を溶かすのに適した割合で混合した溶剤である。この混合溶剤を、スプレーガン又は霧吹き器に入れ、車体の貼付け面より広い範囲に渡って吹き付けする。この場合の吹き付け塗布量は、混合溶剤がたれるまでとする。図3(C)はこのようにして混合溶剤の層36が塗布された状態を示している。
【0039】
次いで、この混合溶剤の層36上に、本実施形態の転写フィルム(第1のタイプの転写フィルム)10を第2のクリヤー塗料層14が混合溶剤の層36に密着するように、従ってベースフィルム11が上となるように貼付ける(ステップS6)。その際、下塗り塗装(プラサフ)の中心が転写できる転写フィルム10のカラー塗料層中央部に一致するように貼付けを行う。図3(D)は転写フィルム10が貼付けられた状態を示している。
【0040】
同図から分かるように、混合溶剤の層36と転写フィルム10との間には気泡37がどうしても入り込む。そこで、次の工程として、転写フィルム10のベースフィルム11の上からスポンジローラーを押し当て、ローラー掛けによるエアー抜き処理を行う(ステップS7)。このローラー掛けにより、気泡37が押し出されると共に不要な混合溶剤も押し出される。さらに、残った少量の混合溶剤が、転写フィルム10の第2のクリヤー塗料層14の表面を溶解させるので、その部分が膨張してプラサフ34及び旧塗膜31の足付けによるキズ35内に入り込む。このため、転写フィルム10とプラサフ34及び旧塗膜31との密着性が大幅に高まる。図3(E)はこのローラー掛け後の状態を表している。
【0041】
次いで、転写フィルム10が丸まらないように、その周囲の一部をマスキングテープ等でテープ止めした状態で、適当な時間(例えば15分)放置して乾燥させる(ステップS8)。
【0042】
次いで、転写フィルム10からベースフィルム11を剥離する処理を行う(ステップS9)。この剥離処理は、ベースフィルム11の端縁をつかんで引き剥がすことによって行われ、これによって転写処理が終了する。図3(F)及び図4は転写処理終了後のこの状態を示しており、車体の部分塗装する領域上に、ベースフィルム11を剥離して残った第2のクリヤー塗料層14、カラー塗料層13及び第1のクリヤー塗料層12が車体側(下側)からこの順序で積層されている状態となる。
【0043】
その後、ポリッシャとコンパウンドとを用いた研磨処理を行う(ステップS10)。この研磨処理によって、図4に示されているように旧塗膜31上に残っている足付けによるキズ35を平滑にし、さらに、第1のクリヤー塗料層12の端縁部12aのざらつき部分も平滑化する。
【0044】
以上説明したように、本実施形態によれば、塗装すべき車体表面に塗布した混合溶剤の層36上に転写フィルム10を貼付けることにより、この混合溶剤によって第2のクリヤー塗料層14の一部を溶解し、対象物の表面に第2のクリヤー塗料層14、カラー塗料層13及び第1のクリヤー塗料層12を転写した後、ローラー掛けして混合溶剤の一部及び気泡を追い出し、乾燥させた後、ベースフィルムを剥離している。塗装処理が無いので、塗装経験の全く無い者であっても、簡単な転写作業を行うのみで、ある程度のレベルの塗装を容易に行うことができる。また、板金塗装を行わない修理工場であっても、軽補修と転写作業を行うのみで簡単に修理塗装を行うことができる。しかも、カラー塗料層13は要塗装領域に対応する中央部が最多の層数で構成されており、中央部の周辺部は外方向に向かって層数が徐々に減少するカラーぼかし部を構成しており、また、第1のクリヤー塗料層12及び第2のクリヤー塗料層14も、その中央部が最大の膜厚を有しており、中央部の周辺部は外方向に向かって膜厚が徐々に減少するクリヤーぼかし部を構成しているので、転写するのみで、部分塗装部分とその周辺との境界が分からないように簡単に仕上げることができる。さらにまた、塗料を塗布することなく、転写作業のみが行われるので、揮発性有機物の発生が少なくなり、環境問題に対しても有意義である。
【0045】
図5は本発明の他の実施形態としての塗装用転写フィルムの構成を概略的に示す断面図である。ただし、同図においても、理解を容易にするため、各層の厚さや大きさを誇張して表している。
【0046】
本実施形態の構成及び作用効果は、第1のクリヤー塗料層が薄く均一の膜厚となっている第2のタイプの転写フィルムを用いている点、そのために、転写後に追加のクリヤー塗料層を塗布する必要がある点を除いて、図1〜4の実施形態の場合と同様である。
【0047】
本実施形態の塗装用転写フィルムは、自動車の車体の凹みを板金修理又は簡易修理して表面を平坦化し、表面処理を行った後、その修理部分に部分塗装を施すための転写フィルムである。例えば、塗装色及び大きさの互いに異なる多数の転写フィルムをあらかじめ用意しておき、その車体の要塗装部分の色及び大きさに応じて適切なものを選択して使用する。自動車の車体用の場合、色はその車体色に応じたもの、大きさは例えばA3サイズ、A4サイズ、B2サイズ等にカットされたものが用意される。部分塗装可能な大きさは最大で3dm(300cm)程度である。
【0048】
図5に示すように、本実施形態の塗装用転写フィルム(第2のタイプの転写フィルム)50は、例えばポリエチレンフィルム等の溶剤であるシンナー(一般的なラッカーシンナー、例えば、関西ペイント株式会社のセルバ51)に溶けない柔軟性のある樹脂フィルムであるベースフィルム51と、このベースフィルム51上に、1液性であって硬化後もシンナーによって溶解する自動車用クリヤー(例えば、関西ペイント株式会社のアクリック1000)である透明な塗料を塗布することによって積層された第1のクリヤー塗料層52と、この第1のクリヤー塗料層52上に所望の色を有し、2液性であって硬化後は溶解しない塗料(例えば、関西ペイント株式会社のPG2K)を複数回(この例では4回)重ねて塗布することによって多層構造に積層されたカラー塗料層53と、このカラー塗料層53上に1液性であって硬化後もシンナーによって溶解する自動車用クリヤー(例えば、関西ペイント株式会社のアクリック1000)である透明な塗料を塗布することによって積層されている第2のクリヤー塗料層54とを備えている。なお、カラー塗料層13の塗料は2液性であることが望ましいが、1液性の塗料(例えば、関西ペイント株式会社のPGハイブリットエコ)を用いることも可能である。
【0049】
カラー塗料層53は、第1層53a、第2層53b、第3層53c及び第4層53dをベースフィルム側からこの順序で積層した4層構造を有している。第1層53aは要塗装領域に対応する中央部のみに形成されており、第2層53bは第1層53aより広くその周囲に渡って形成されており、第3層53cは第2層53bより広くその周囲に渡って形成されており、第4層53dは第3層53cより広くその周囲に渡って形成されている。従って、要塗装領域に対応する中央部が最多の層数で構成されており、中央部の周辺部は外方向に向かって層数が徐々に減少するカラーぼかし部を構成することとなる。
【0050】
第1のクリヤー塗料層52は、本実施形態では薄く均一の膜厚の単層構造を有している。
【0051】
第2のクリヤー塗料層54は、本実施形態では単層構造を有しており、その中央部が最大の膜厚を有しており、中央部の周辺部は外方向に向かって膜厚が徐々に減少するクリヤーぼかし部を構成している。このクリヤーぼかし部は、クリヤー塗料をシンナーで薄めたものを塗布することによって形成される。
【0052】
ベースフィルム及び各塗料層の膜厚は、本実施形態においては、単なる一例であるが、ベースフィルム51が約20〜60μm、好ましくは約30μmであり、第1のクリヤー塗料層52が約10〜20μmであり、カラー塗料層53が約50〜60μmであり、第2のクリヤー塗料層54が約20〜25μmである。
【0053】
本実施形態においては、第2のクリヤー塗料層54が単層構造で構成されているが、これを多層構造としても良い。この場合、クリヤーぼかし部は、中央部の周辺部について、外方向に向かって層数が徐々に減少することによって膜厚を徐々に減少させるように構成する。
【0054】
また、本実施形態では、カラー塗料層53の第1層53a、第2層53b、第3層53c及び第4層53dを、ベースフィルム51に近い側からこの順序で面積が順次広くなるようにしてカラーぼかし部を形成しているが、ベースフィルム51に近い側からこの順序で面積が順次狭くなるようにしてカラーぼかし部を形成しても良いことは明らかである。
【0055】
図6は本実施形態の塗装用転写フィルムを用いて板金修理した車体の部分塗装を行う場合の処理手順を説明するフローチャートである。ただし、以下の説明は、前の実施形態において用いた図3をも参照して行う。
【0056】
まず、車体の凹み部に対してパテ等を用いた板金処理を行い、表面を平坦に仕上げる(ステップS11)。次いで、この表面に対してプラサフ(プライマー・サーフェサー)により下塗処理する(ステップS12)。図3(A)はこの状態を示しており、同図において、30は車体の鋼板、31は旧塗膜、32は凹み部、33は凹み部32に充填されたパテ、34は下塗されたプラサフをそれぞれ示している。
【0057】
次いで、転写フィルムの貼付け面に足付け処理を行う(ステップS13)。この足付け処理は、足付け用コンパウンド又は2000番程度のサンドペーパーで、表面を研磨することにより、プラサフ34の表面及び旧塗膜31の表面に細かいキズを入れ、塗膜の密着性を向上させる処理である。図3(B)はこの足付け処理を行った後の状態を示しており、プラサフ34及び旧塗膜31の表面に細かいキズ35が入っていることが分かる。
【0058】
次いで、シリコンオフのような脱脂剤を用いて、貼付け面の脱脂処理を行う(ステップS14)。
【0059】
その後、貼付け面に混合溶剤を塗布する処理を行う(ステップS15)。この混合溶剤は、転写フィルム上の塗料層を溶解可能な溶剤であるシンナーと、溶剤蒸発速度を調整するための脱脂剤であるシリコンオフとをその塗料を溶かすのに適した割合で混合した溶剤である。この混合溶剤を、スプレーガン又は霧吹き器に入れ、車体の貼付け面より広い範囲に渡って吹き付けする。この場合の吹き付け塗布量は、混合溶剤がたれるまでとする。図3(C)はこのようにして混合溶剤の層36が塗布された状態を示している。
【0060】
次いで、この混合溶剤の層36上に、本実施形態の転写フィルム(第2のタイプの転写フィルム)50を第2のクリヤー塗料層54が混合溶剤の層36に密着するように、従ってベースフィルム51が上となるように貼付ける(ステップS16)。その際、塗装部分の中心が転写フィルム50の中央部に一致するように貼付けを行う。図3(D)は転写フィルム50が貼付けられた状態を示している。
【0061】
同図から分かるように、混合溶剤の層36と転写フィルム50との間には気泡37がどうしても入り込む。そこで、次の工程として、転写フィルム50のベースフィルム51の上からスポンジローラーを押し当て、ローラー掛けによるエアー抜き処理を行う(ステップS17)。このローラー掛けにより、気泡37が押し出されると共に不要な混合溶剤も押し出される。さらに、残った少量の混合溶剤が、転写フィルム50の第2のクリヤー塗料層54の表面を溶解させるので、その部分が膨張してプラサフ34及び旧塗装膜31の足付けによるキズ35内に入り込む。このため、転写フィルム50とプラサフ34及び旧塗装膜31との密着性が大幅に高まる。図3(E)はこのローラー掛け後の状態を表している。
【0062】
次いで、転写フィルム50が丸まらないように、その周囲の一部をマスキングテープ等でテープ止めした状態で、適当な時間(例えば15分)放置して乾燥させる(ステップS18)。
【0063】
次いで、転写フィルム50からベースフィルム51を剥離する処理を行う(ステップS19)。この剥離処理は、ベースフィルム51の端縁をつかんで引き剥がすことによって行われ、これによって転写処理が終了する。図3(F)は転写処理終了後のこの状態を示しており、車体の部分塗装する領域上に、ベースフィルム51を剥離して残った第2のクリヤー塗料層54、カラー塗料層53及び第1のクリヤー塗料層52が車体側(下側)からこの順序で積層されている状態となる。
【0064】
その後、追加のクリヤー塗料層を塗布する処理を行う(ステップS20)。この処理は、自動車用クリヤー(例えば、関西ペイント株式会社のレタンPGマルチHX(Q))である透明な塗料を、スプレーガン等により、部分塗装領域及びその周辺に吹き付けることによって行う。なお、レタンPGマルチHX(Q)は、2液性ウレタン塗料であり、これを使用することにより、耐候性が向上し、艶引けを起こし難くなるので、本格的塗装に近い状態が得られる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態によれば、塗装すべき車体表面に塗布した混合溶剤の層36上に転写フィルム50を貼付けることにより、この混合溶剤によって第2のクリヤー塗料層54の一部を溶解し、対象物の表面に第2のクリヤー塗料層54、カラー塗料層53及び第1のクリヤー塗料層52を転写した後、ローラー掛けして混合溶剤の一部及び気泡を追い出し、乾燥させた後、ベースフィルムを剥離している。簡単なクリヤー塗装のみであるため、塗装経験の浅い者であっても、簡単な転写作業を行うのみで、ある程度のレベルの塗装を容易に行うことができる。また、板金塗装を行わない修理工場であっても、軽板金(修理)と、簡単なクリヤー塗装及び転写作業を行うのみで簡単に修理塗装を行うことができる。しかも、カラー塗料層53は要塗装領域に対応する中央部が最多の層数で構成されており、中央部の周辺部は外方向に向かって層数が徐々に減少するカラーぼかし部を構成しており、また、第2のクリヤー塗料層54も、その中央部が最大の膜厚を有しており、中央部の周辺部は外方向に向かって膜厚が徐々に減少するクリヤーぼかし部を構成しているので、追加のクリヤー塗装を行っても、ぼかし際が分からないように仕上げることができる。さらにまた、転写という工法を行なうことにより、塗料塗布量が低減され、揮発性有機物の発生が少なくなり、環境問題に対しても有意義である。
【0066】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施形態としての塗装用転写フィルムの構成を概略的に示す断面図である。
【図2】図1の実施形態の塗装用転写フィルムを用いて板金修理した車体の部分塗装を行う場合の処理手順を説明するフローチャートである。
【図3】図2の処理手順における塗装箇所の状態を示す断面図である。
【図4】図3(F)の状態をより詳細に示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態としての塗装用転写フィルムの構成を概略的に示す断面図である。
【図6】図5の実施形態の塗装用転写フィルムを用いて板金修理した車体の部分塗装を行う場合の処理手順を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0068】
10、50 塗装用転写フィルム
11、51 ベースフィルム
12、52 第1のクリヤー塗料層
13、53 カラー塗料層
13a、53a 第1層
13b、53b 第2層
13c、53c 第3層
13d、53d 第4層
14、54 第2のクリヤー塗料層
30 鋼板
31 旧塗膜
32 凹み部
33 パテ
34 プラサフ
35 キズ
36 混合溶剤の層
37 気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルムと、該ベースフィルム上に積層されており所定の溶剤によって溶解可能な第1のクリヤー塗料層と、該第1のクリヤー塗料層上に積層されていると共に多層構造を有しているカラー塗料層と、該カラー塗料層上に積層されており前記所定の溶剤によって溶解可能な第2のクリヤー塗料層とを備えており、前記カラー塗料層は要塗装領域に対応する中央部が最多の層数で構成されており、該中央部の周辺部はこれより層数の少ないカラーぼかし部を構成していることを特徴とする塗装用転写フィルム。
【請求項2】
前記カラーぼかし部が、外方向に向かって層数が徐々に減少するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の塗装用転写フィルム。
【請求項3】
前記第2のクリヤー塗料層は、中央部が最大の膜厚を有しており、該中央部の周辺部がこれより薄い膜厚を有するクリヤーぼかし部を構成していることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装用転写フィルム。
【請求項4】
前記第1のクリヤー塗料層は、中央部が最大の膜厚を有しており、該中央部の周辺部がこれより薄い膜厚を有するクリヤーぼかし部を構成していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の塗装用転写フィルム。
【請求項5】
前記第1のクリヤー塗料層は、中央部とその周辺部とがほぼ同一の薄い膜厚を有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の塗装用転写フィルム。
【請求項6】
前記第1のクリヤー塗料層及び前記第2のクリヤー塗料層が1液型塗料材料で形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の塗装用転写フィルム。
【請求項7】
前記カラー塗料層が2液型塗料材料で形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の塗装用転写フィルム。
【請求項8】
塗装すべき対象物の表面に所定の溶剤を塗布し、該塗布した溶剤上に、請求項1から7のいずれか1項に記載の塗装用転写フィルムを前記第2のクリヤー塗料層側から被着させ、前記ベースフィルム上からローラー掛けして乾燥させた後、該ベースフィルムを剥離することを特徴とする塗装用転写フィルムを用いた塗装方法。
【請求項9】
塗装すべき対象物の表面を足付け処理した後、その表面に前記溶剤を塗布することを特徴とする請求項8に記載の塗装方法。
【請求項10】
前記所定の溶剤として、溶剤と脱脂剤との混合溶剤を用いることを特徴とする請求項8又は9に記載の塗装方法。
【請求項11】
前記ベースフィルムを剥離した後、前記第1のクリヤー塗料層上からコンパウンドを用いた研磨を行うことを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の塗装方法。
【請求項12】
前記ベースフィルムを剥離した後、前記第1のクリヤー塗料層上に追加のクリヤー塗料層を塗布することを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−125630(P2009−125630A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301020(P2007−301020)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【特許番号】特許第4195496号(P4195496)
【特許公報発行日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(592018320)あいおい損害保険株式会社 (21)
【出願人】(500413272)株式会社あいおい保険自動車研究所 (3)
【Fターム(参考)】