説明

塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物を処理する方法

【課題】ダイオキシンの発生を著しく低減することのできる、塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物を処理する方法を提供すること。
【解決手段】(a)塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物を、無酸素状態において、280〜350℃雰囲気で加熱し、該廃棄物から塩化水素と油分とを含有する乾留ガスを排出させ、
(b)加熱した廃棄物から燃料プラスチックを得、
(c)乾留ガスを水に接触させ、乾留ガスに含まれる塩化水素を水に溶解させる一方、塩化水素を含まない乾留ガスを排出させ、
(d)塩化水素を溶解させた水に水酸化カルシウムを添加して中和することにより塩化カルシウムを生成し、
(e)中和後の水から油分を分離し、
(f)油分と水とを混合することにより、エマルジョン燃料を得、
(g)工程(c)において排出させた乾留ガスを850℃以上の温度に2秒以上対流させ、次いで70℃以下の温度に急冷することを含む塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物を処理する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物を処理する方法に関する。詳しくは、特別管理産業廃棄物(感染性廃棄物)、非感染性医療系廃棄物、通常の産業廃棄物のうち塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物を乾留し、人体や環境に有害な塩素を該廃棄物から除去する一方、火力発電に利用できる燃料プラスチック類やエマルジョン燃料並びに融雪材、セメント材料等に利用できる塩化カルシウムを製造できる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汎用のプラスチック類は、使用後、通常、燃料として再利用されるか、プラスチック素材として再利用されている。
一方、通常使用される塩化ビニル樹脂には5%程度の塩素が含まれるが、腎臓透析等の医療行為に使用される塩化ビニル樹脂には30%程度と、通常の塩化ビニル樹脂に比べて多量の塩素が含まれている。このように多量の塩素を含む塩化ビニル樹脂は、燃焼するとダイオキシンが発生することから再利用が困難となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って本発明は、ダイオキシンの発生を著しく低減することのできる、塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物を処理する方法を提供することを課題とする。
本発明はまた、塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物を再利用する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らが鋭意検討した結果、塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物を特定温度で乾留し、発生した乾留ガスを水に溶解させ、次いで該乾留ガスを高温で燃焼後急冷することにより係る課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は、塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物を処理する方法であって、
(a)塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物を、無酸素状態において、280℃以上350℃以下の温度雰囲気で加熱し、該廃棄物から塩化水素と油分とを含有する乾留ガスを排出させる工程;
(b)工程(a)において加熱した廃棄物から燃料プラスチックを得る工程;
(c)工程(a)において排出させた乾留ガスを水に接触させ、乾留ガスに含まれる塩化水素を水に溶解させる一方、塩化水素を含まない乾留ガスを排出させる工程;
(d)工程(c)において得られた塩化水素を溶解させた水に水酸化カルシウムを添加して中和することにより塩化カルシウムを生成する工程;
(e)工程(d)における中和後の水から油分を分離する工程;
(f)工程(e)において得られた油分と水とを混合することにより、エマルジョン燃料を得る工程;及び
(g)工程(c)において排出させた乾留ガスを850℃以上の温度に2秒以上対流させ、次いで70℃以下の温度に急冷する工程;
を含む前記方法を提供する。
【0005】
本発明はまた、塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物から燃料プラスチックを製造する方法であって、
(a)塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物を、無酸素状態において、280℃以上350℃以下の温度雰囲気で加熱し、該廃棄物から塩化水素と油分とを含有する乾留ガスを排出させる工程;及び
(b)工程(a)において加熱した燃料プラスチックを得る工程;
を含む前記製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、塩化ビニル樹脂を含有する特別管理産業廃棄物(感染性廃棄物)、非感染性医療系廃棄物、普通の産業廃棄物から、人体や環境に有害な塩素を効率良く除去することができる。
本発明によればまた、廃棄物処理後の排ガス中に含まれるダイオキシンの量を極度に低減することができる。
本発明によればまた、高カロリーの燃料プラスチックを低コストで得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
工程(a)
本発明において利用できる塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物は、特別管理産業廃棄物、特に医療機関,試験研究機関等から医療行為,研究活動等に伴い発生した産業廃棄物のうち、排出後に人に感染性を生じさせるおそれのある病原微生物が含まれ,若しくは付着し、又はそのおそれのある感染性廃棄物、非感染性医療系廃棄物、及び一般産業廃棄物のなかで、塩化ビニル樹脂を含有する廃プラスチック等である。塩化ビニルを原料とする樹脂はもちろん利用可能であり、塩化ビニル樹脂が他の原料の樹脂と混在していてもそのまま利用可能である。
これらの廃棄物を、無酸素状態において、280℃以上350℃以下、好ましくは280℃以上320℃以下の温度雰囲気で加熱する。廃棄物の温度が180℃になると塩化ビニル樹脂中の塩素が塩化水素として分離し始める。280℃以上の温度雰囲気においては、塩化ビニル樹脂以外の樹脂は分解しにくいので、塩化ビニル樹脂中の塩素を効率的に分離することができる。一方、350℃超の温度雰囲気になると油分等の高カロリー成分が廃棄物より分離しやすくなる為350℃以下とするのが好ましい。また、廃棄物が感染性及び非感染性医療系廃棄物の場合、280℃以上の温度で加熱すると、人に感染性を生じさせるおそれのある病原微生物を死滅させることも出来るので好ましい。
燃焼時間は温度や加熱する廃棄物の量などに依存するが、280℃を超えた時から、通常約2〜3時間、好ましくは約2時間である。
【0008】
本工程において廃棄物を加熱する炉としては、無酸素状態で処理物を加熱でき、温度コントロールが可能であり、乾留ガスを管理排出できれば特に制限されるものではない。加熱エネルギーとしては当業界において通常使用されているもの、例えばLPGガス、電熱、過熱蒸気、A重油等を使用することができる。
廃棄物を加熱するための炉としては、廃棄物を無酸素状態で加熱できる処理室を有し、該処理室が、廃棄物を出し入れするための扉、乾留ガス排出口及びその電磁弁、窒素投入口及びその電磁弁を備える構造を有するものを使用できる。
【0009】
上記構造を有する炉を参照して廃棄物を加熱する工程について説明すると以下のとおりである。
(1)処理室の扉を開け、加熱対象である廃棄物を処理室扉より処理室へ投入する。
(2)扉を閉鎖し、乾留ガス排出口及び窒素投入口を除き、処理室の開口部を封鎖して、処理室内を完全密封とする。
(3)処理室の乾留ガス排出口電磁弁を開放して処理室内部より空気吸引開始し、処理室内をマイナス圧にする。
(4)処理室の窒素投入口電磁弁を開放して窒素を約2分聞投入すると、乾留ガス排出口電磁弁が開放された状態で吸引されているため処理室内の酸素が窒素と置換されて無酸素状態となる。
(5)処理室内を、280℃以上350℃以下の間の温度雰囲気へ昇温する。
(6)処理室内が280℃になったときより約2時間処理室内を無酸素状態に維持する。
(7)該廃棄物から発生した塩素と油分とを含有する乾留ガスを、処理室内より吸引排出してスクラバー装置へ導く。
(8)約2時間経過後、処理室内を無酸素状態に維持したまま処理室内の温度を70℃以下にゆっくりと冷却する。
(9)処理室内の温度が70℃以下になったら処理室扉を開放し、加熱した廃棄物を取り出す。

【0010】
工程(b)
工程(a)において加熱した廃棄物から燃料プラスチックを得る。廃棄物中にガラス類及び金属類が含まれている場合、これらを除去するのが望ましい。除去されたガラス類は粉砕し、金属類は溶解後インゴット処理して再利用することができる。
燃料プラスチックは、高カロリーの火力発電の燃料としてそのまま使用することができるし、400℃以上に加熱することにより油化することもできる。
【0011】
工程(c)
工程(a)において排出させた乾留ガスを水に接触させ、乾留ガスに含まれる塩化水素を水に溶解させる。本工程においてはまた、塩化水素を含まない乾留ガスを排出させる。水の色が黄緑色に変化することで塩化水素が水に溶解したことを確認することができる。
乾留ガスを水に接触させる方法としては、乾留ガスに含まれる塩化水素を水に溶解させることができれば特に限定されないが、例えばスクラバーにより行うことができる。
本工程において乾留ガスに含まれる塩化水素を水に溶解させる装置としては、棚式水幕及び、シャワーリング、解けにくい媒体を利用した媒体表面を流れる水を利用した冷却及び洗浄を行うことのできるスクラバー装置を用いるのが好ましい。
工程(a)において用いることのできる炉と、本工程において用いることのできるスクラバー装置との間にダクトを配置し、ダクト内においてシャワーリングにて乾留ガスを100℃以下まで冷却するのが好ましい。
【0012】
上記構造を有するスクラバー装置を参照して乾留ガスに含まれる塩素を水に溶解させる工程について説明すると以下のとおりである。
(1)スクラバー装置に連結しているダクト内において、乾留ガスをシャワーリング及びスワール水流に供する。シャワーリングにより、高温で発生する乾留ガスと水とが接触することによる気化熱を利用して乾留ガスを冷却する。スワール水流により、シャワーリングにて発生する塩酸等による腐食物からダクト配管内部を保護する。
(2)スクラバー直上にある送風ファンによりスクラバーより前工程の乾留ガスを吸引することによって、スクラバー内が負圧となりスクラバー下部タンクの水面が上昇し、スクラバー内のシャワーリング、棚式水幕との相乗効果によってスクラバー内に水の飛沫が充満し半爆気状態となる。なお、スクラバー内の塩化カルシウム搬出装置側については隔壁により遮蔽されており、水の飛沫は発生せず、水面も穏やかである。
スクラバー内の負圧はスクラバー直上の送風ファンにより決定され、その数値については、乾留ガスの排出量により決定される。
(3)その後スクラバー内において、棚式水幕、シャワーリング、水に解けにくい媒体を利用した媒体表面を流れる水を利用して、乾留ガスを冷却及び洗浄する。棚式水幕の段数は2段〜4段程度が好ましい。水に解けにくい媒体としては、例えばガラス球、河川の中流の石があげられる。このうち、ガラス球が好ましい。これらの処理後に、乾留ガスの温度が20〜30℃の範囲にあるのが好ましい。乾留ガスを洗浄することにより、塩素、炭化水素等を除去することができる。
【0013】
工程(d)
工程(c)において得られた塩化水素を溶解させた水に水酸化カルシウムを添加して中和することにより塩化カルシウムを生成する。
水酸化カルシウムは、飽和水溶液の状態で添加するのが好ましい。添加する水酸化カルシウム飽和水溶液の量は、塩化水素を溶解させた水のpH値によって変動する。得られた塩化カルシウムは、沈殿により回収することができ、融雪材、寒剤、土質の改良剤等として再利用することができる。本工程は、工程(c)で用いることができるスクラバー装置内で行うことができる。
【0014】
工程(e)
工程(d)における中和処理後の水から油分を分離する。
水から油分を分離する方法としては、例えば水と油分の比重の違いを利用して行うことができる。分離した油分に含まれる水の量が多い場合、例えば油分100gに対して水が30g程度含まれているような場合、水の量が3g程度になるように分離処理を繰り返し行うことができる。
分離した水は、循環させて、工程(a)と工程(b)との間に配置することができるダクトにおけるシャワーリング及びスワール水流に、及び工程(c)において使用することができるスクラバー装置におけるシャワーリング、棚式水幕に再利用することができる。また、分離前の水に水酸化カルシウム、水酸化ナトリウムを作用させることにより、塩化カルシウム、塩化ナトリウムを得ることができる。これらはコンクリート材料等に再利用することができる。
本工程において水と油分とを分離する装置としては、スクラバー装置に連結し、且つ水酸化カルシウム飽和水溶液を収容した薬液タンクと貯水槽とが連結された第一油水分離装置、第一油水分離装置に連結され、水酸化ナトリウム水溶液を収容した薬液タンクと貯水槽と貯油槽とが連結された第二油水分離装置を使用することができる。
【0015】
上記構造を有する油水分離装置を参照して水と油分とを分離させる工程について説明すると以下のとおりである。
(1)工程(d)において得られた中和された水を第一油水分離装置に導入する。次いで、pH値によっては薬液タンクから水酸化カルシウム飽和水溶液を該装置に添加及び混合する。第一油水分離槽において水酸化カルシウムで中和すると、塩化水素を十分に中和することができ好ましい。その後、分離装置下部から水を静かに放出して水と油分とを分離し、油分の多い水を第二油水分離装置に導入する。水は貯水槽に導く。
(2)第二油水分離装置に、第一油水分離層から得られた中和された油分を導入する。導入された油分のpH値によっては薬液タンクから水酸化ナトリウム水溶液を添加する。水酸化ナトリウムにより、塩素分を更に十分に中和することができるので好ましい。その後、分離装置下部から水を静かに放出し、水と油分とを分離し、水が少量入った油分を貯油槽に導入する。貯油槽では、水が少量入った油分をエマルジョン燃料にしやすくする為に攪拌しつつ貯油するのが好ましい。水は貯水槽に導く。
【0016】
工程(f)
工程(e)において得られた油分と水とを混合することにより、エマルジョン燃料を得る。このとき乳化剤を使用することができる。使用できる乳化剤としては、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤があげられる。親油性及び親水性いずれの非イオン界面活性剤も使用することができる。このうち、機器の耐久性の点から油中水滴タイプ(W/O型)になるもの(HLB値(親水性親油性バランス)が3〜6のもの)が好ましく、ソルビタン脂肪酸エステルが特に好ましい。
工程(e)において得られた油分には少量の水が含まれているが、この少量の水を含む油分と水とを、質量比にして、例えば、6:4で混合することによりエマルジョン燃料を得ることができる。乳化剤は、少量の水を含む油分と水との総質量に対して、通常1〜2質量%程度の量を使用する。混合装置は市販品を使用することができる。得られたエマルジョン燃料は、本発明の方法においてオフガスを燃焼する際の廃液バーナーの燃料とすることができる。
【0017】
工程(g)
工程(c)において排出させた乾留ガスを850℃以上、好ましくは1000〜1200℃の温度に2秒以上、好ましくは2.5〜3秒対流させ、次いで70℃以下に急冷する。
対流後、70℃以下まで、好ましくは50〜100℃の温度に、好ましくは2秒程度で急冷すると、実質的にゼロである程度にダイオキシンの発生量を極度に低減することができる。このとき、実験装置による排出ガス計測にてダイオキシンの発生量を確認する。冷却したガスを大気中に放出する前に、遠心力を利用する脱水サイクロン、金属製の脱水フィルターにガスを供し、水分を除去するのが好ましい。除去された水は、高圧ポンプで循環させて、工程(c)におけるスクラバー、工程(g)における急冷に利用することができる。本工程は、通常燃焼搭及び急速冷却塔において行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の方法を概略的に示すブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物を処理する方法であって、
(a)塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物を、無酸素状態において、280℃以上350℃以下の温度雰囲気で加熱し、該廃棄物から塩化水素と油分とを含有する乾留ガスを排出させる工程;
(b)工程(a)において加熱した廃棄物から燃料プラスチックを得る工程;
(c)工程(a)において排出させた乾留ガスを水に接触させ、乾留ガスに含まれる塩化水素を水に溶解させる一方、塩化水素を含まない乾留ガスを排出させる工程;
(d)工程(c)において得られた塩化水素を溶解させた水に水酸化カルシウムを添加して中和することにより塩化カルシウムを生成する工程;
(e)工程(d)における中和後の水から油分を分離する工程;
(f)工程(e)において得られた油分と水とを混合することにより、エマルジョン燃料を得る工程;及び
(g)工程(c)において排出させた乾留ガスを850℃以上の温度に2秒以上対流させ、次いで70℃以下の温度に急冷する工程;
を含む前記方法。
【請求項2】
塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物から燃料プラスチックを製造する方法であって、
(a)塩化ビニル樹脂を含有する廃棄物を、無酸素状態において、280℃以上350℃以下の温度雰囲気で加熱し、該廃棄物から塩化水素と油分とを含有する乾留ガスを排出させる工程;及び
(b)工程(a)において加熱した廃棄物から燃料プラスチックを得る工程;
を含む前記製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−229660(P2007−229660A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56396(P2006−56396)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(506073959)砂押プラリ株式會社 (1)
【Fターム(参考)】