説明

塩化ビニル系重合体の製造方法

【課題】塩化ビニル系重合体の分解を抑制して、塩化ビニル系重合体の熱劣化を抑制することで、得られる塩化ビニル系樹脂成形体の物性を保持し、かつ、成形性をより良好とすることを課題とする。
【解決手段】塩化ビニル又は塩化ビニルを主成分とする単量体混合物を水性懸濁重合することにより塩化ビニル系重合体を製造する方法において、上記水性懸濁重合時に、熱安定剤及び滑剤を添加する。熱安定剤、滑剤は、分散剤を用いて分散液として添加すると、より効果的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塩化ビニル系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂成形体は、パイプや波板、電線等の建材土木材料や、食品用ラッピングフィルム、医療用血液パック等の食品・医療用分野等の幅広い用途に使用されている。
【0003】
この塩化ビニル樹脂成形体は、塩化ビニル系重合体に、可塑剤、熱安定剤、滑剤等の添加物を添加した樹脂混合物である塩化ビニル樹脂を成形したものであり、まず、塩化ビニルやこれを主成分とする単量体混合物を水中で懸濁重合することにより、塩化ビニル系重合体を製造し、次に、この塩化ビニル系重合体に、可塑剤、熱安定剤、滑剤等の添加物を添加し、次いで成形加工することにより得られる。
【0004】
このような熱安定剤としては、鉛系の安定剤、錫系の安定剤、カルシウム−亜鉛系の安定剤等が知られており(特許文献1参照)、また、滑剤としては、炭化水素系滑剤等が知られている(特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−122914号公報
【特許文献2】特開2003−2913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記塩化ビニル系樹脂成形体は、上記の通り、塩化ビニル系重合体に、可塑剤、熱安定剤、滑剤等の添加物を加え、加熱しながら成形することにより得られるが、上記塩化ビニル系重合体は、粒子として供与されるため、熱安定剤を加えても、粒子の内部まで、熱安定剤が浸透しにくい場合がある。このため、加熱した際、塩化ビニル系重合体粒子の内部で、熱分解が生じて着色するおそれがあり、あまり高温に加熱することが困難であった。
【0007】
また、塩化ビニル系重合体粒子を用いて成形する場合、加熱された成形機の金属面との接触による剪断力により、塩化ビニル系重合体粒子の階層的粒子構造を破壊し、十分に溶融混練する必要がある。階層的粒子構造中に、滑剤を添加しておくことで、金属面との滑性により剥離を容易にすることができるが、上記塩化ビニル系重合体粒子の成形加工前に滑剤を添加しても、必ずしも、粒子の内部まで、滑剤が浸透しにくい。このため、金属面との滑性が十分でなく、貼り付き、焼けなどが起こる場合があり、成形不良が生じる場合がある。
【0008】
そこで、この発明は、塩化ビニル系重合体の熱分解を抑制し、かつ、成形性をより良好とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、塩化ビニル系単量体を水性懸濁重合する際に、熱安定剤及び滑剤を添加することにより、上記課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によると、重合の際に熱安定剤及び滑剤を添加するので、得られる塩化ビニル系重合体中に、熱安定剤及び滑剤を含有させることができる。このため、成形時に加熱しても、内部に存在する熱安定剤で、塩化ビニル系重合体内部の熱分解を抑制し、かつ、内部に存在する滑剤で、金属面との滑性により剥離を容易にし、貼り付きが起こりにくく、熱分解を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明は、塩化ビニル系単量体を水性懸濁重合することにより塩化ビニル系重合体を製造する方法であり、この水性懸濁重合の時に、熱安定剤及び滑剤を添加することを特徴とする方法である。
【0012】
上記塩化ビニル系単量体とは、塩化ビニル単量体単独、又は塩化ビニル単量体を主成分とし、これに共重合可能な単量体を混合した単量体混合物をいう。そして、上記塩化ビニル系重合体とは、上記塩化ビニル系単量体の重合体、すなわち、塩化ビニル単独重合体又は塩化ビニル共重合体をいう。なお、上記の主成分とは、単量体混合物中における塩化ビニル単量体の含有割合が最大であることを意味する。
【0013】
この塩化ビニルと共重合可能な単量体としては、塩化ビニル単量体の重合において、従来一般的に用いられてきたものを使用することができ、特に限定されない。この共重合可能な単量体の例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル類、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類、(メタ)アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン等があげられ、これらは一種又は二種以上を用いることができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル又はメタクリル」を意味する。
【0014】
上記の水性懸濁重合とは、水等の水性媒体中に、単量体を分散剤等で分散させ、重合開始剤等を用いて重合する重合方法をいう。
【0015】
上記重合開始剤としては、特に限定されないが、油溶性の重合開始剤として、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、α−クミルパーオキシネオデカノエート等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物などがあげられる。これらの重合開始剤は、一種又は二種以上を用いることができる。
【0016】
上記分散剤としては、特に限定はされないが、例えば、水溶性の部分ケン化ポリ酢酸ビニル(いわゆるポリビニルアルコール)、ヒドロキシイソプロピルメチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体等があげられ、これらは、一種又は二種以上を用いることができる。また、これらの分散剤に加えて油溶性の部分ケン化ポリ酢酸ビニル、ゼラチン類、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤等をあげることができる。これらは、一種又は二種以上を用いることができる。
【0017】
上記の水性懸濁重合においては、必要に応じて、通常の塩化ビニル系単量体の重合に用いられる連鎖移動剤、酸化防止剤、架橋剤、pH調整剤、スケール付着防止剤等の各種の重合助剤を適宜使用することができる。
【0018】
さらに、塩化ビニル系単量体の仕込み方法、スケール付着防止剤の適用の方法、重合を停止させる方法、塩化ビニル系重合体から残留した塩化ビニル系単量体を除去する方法、生成した塩化ビニル系重合体を水性媒体から分離・乾燥する方法等については、通常の塩化ビニル系単量体の懸濁重合方法において採用されている方法を適用することができる。
【0019】
上記の塩化ビニル系単量体の仕込み方法の例としては、初期の仕込み時に、塩化ビニル系単量体の全てを仕込む方法の他、初期の仕込み時に、塩化ビニル系単量体の一部を仕込み、上記水性懸濁重合の途中で、上記塩化ビニル系単量体の残りの一部を、追加して仕込む方法を採用することができる。
【0020】
さらにまた、上記の水性懸濁重合に用いられる重合装置の撹拌翼やバッフル等の撹拌装置の形状等は、特に限定されるものではなく、前者としては、タービン翼、ファンタービン翼、ファウドラー翼、及びブルーマージン等があげられ、後者としては、板型、円筒型、D型、ループ型、フィンガー型等があげられる。
【0021】
上記塩化ビニル系樹脂を構成する塩化ビニル系重合体の平均重合度は、特に限定されないが、500以上1500未満が好ましく、600以上1400以下がより好ましい。500より小さいと、粘度が低く、粘着性が大きくなる傾向がある。一方、1500より大きいと、剪断による発熱が大きくなる傾向がある。この平均重合度を得る方法としては、重合温度を制御する方法があげられる。
【0022】
上記の水性懸濁重合時において、熱安定剤及び滑剤が添加されることが必須である。この熱安定剤としては、ハイドロタルサイト化合物、エポキシ化合物、亜リン酸エステル、多価アルコール、ケト化合物、鉛系安定剤、有機錫安定剤、金属石鹸系安定剤等があげられる。
【0023】
上記ハイドロタルサイト化合物としては、合成ハイドロタルサイト、天然ハイドロタルサイト等があげられる。また、上記エポキシ化合物としては、エポキシ樹脂、エポキシ化アマニ油、エポキシ化大豆油等があげられる。さらに、上記亜リン酸エステルとしては、ポリホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト等があげられる。さらにまた、上記多価アルコールとしては、ソルビトール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等があげられる。また、上記ケト化合物としては、アセト酢酸エステル、デヒドロ酢酸、β−ジケトン等があげられる。
【0024】
上記鉛系安定剤としては、ステアリン酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、三塩基性硫酸鉛等があげられる。また、上記有機錫安定剤としては、ジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー等があげられる。さらに、金属石鹸系安定剤としては、カルシウム−亜鉛系安定剤、バリウム−亜鉛系安定剤、バリウム−カドミウム系安定剤等があげられる。これらの熱安定剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
これらのなかでも、上記ハイドロタルサイト化合物を用いるのが、この発明の効果をより有効に発揮させ、また、毒性等の観点からもより好ましい。
【0026】
上記熱安定剤の添加量は、上記塩化ビニル又は塩化ビニルを主成分とする単量体混合物の全仕込量に対し、50ppm以上5000ppm以下がよく、100ppm以上3000ppm以下が好ましい。50ppm未満だと、熱安定剤の添加効果を発揮し得ない。一方、5000ppmより多いと、重合安定性を阻害し、また粗粒化するため、目的とする品質の塩化ビニル系重合体粒子を得ることが困難となる傾向がある。
【0027】
上記滑剤としては、ポリエチレンワックス、パラフィン系ワックス、モンタン酸ワックス、ステアリン酸等の脂肪酸、ステアリルアルコール等の脂肪族アルコール、ステアリン酸ブチル等の脂肪酸のアルコールエステル、脂肪酸のポリグリコールエステル、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記滑剤の添加量は、上記塩化ビニル又は塩化ビニルを主成分とする単量体混合物の全仕込量に対し、100ppm以上5000ppm未満がよく、200ppm以上3000ppm以下が好ましい。100ppm未満だと、滑剤の添加効果を発揮し得ない。一方、5000ppm以上だと、重合安定性を阻害し、また粗粒化するため、目的とする品質の塩化ビニル系重合体粒子を得ることが困難となる傾向がある。
【0029】
上記熱安定剤や滑剤の添加方法としては、粉体状のまま添加してもよく、水性媒体に微分散させた分散液として添加してもよい。特に、上記熱安定剤や滑剤の少なくとも一方を、分散液として添加すると、重合時において、熱安定剤や滑剤の分散性がよくなるので、得られる塩化ビニル系重合体中への熱安定剤や滑剤の混合状態が均一となりやすく、後の成形加工時における熱分解をより効率的に抑制することができたり、後の成形加工時における滑り性をより均一にしたりすることができる。
【0030】
上記水性媒体としては、水や、水とメタノールやエタノール等の水溶解性アルコールとの混合溶媒等があげられる。
【0031】
上記分散液には、上記の熱安定剤や滑剤を分散させるための分散剤を含有するのが好ましい。この分散剤としては、前記した塩化ビニルの重合に使用される分散剤を用いると、塩化ビニルの重合の分散剤としても利用できるので、効率的である。この場合、塩化ビニルの重合に用いる分散剤の量の全量を、これらの熱安定剤や滑剤の分散剤として用いても、又はその一部を用いてもよいが、操作の簡便さの点と添加効率の点から、全量を用いることが好ましい。
【0032】
この分散剤としては、上記の記載の中でも、水溶性の部分ケン化ポリ酢酸ビニル、油溶性の部分ケン化ポリ酢酸ビニル、水溶性セルロース誘導体が好ましい。また、この水溶性の部分ケン化ポリ酢酸ビニルとしては、ケン化度が60〜100%、平均重合度が500〜3000のものがより好ましく、上記油溶性の部分ケン化ポリ酢酸ビニルとしては、ケン化度が30〜55%、平均重合度が100〜1000のものがより好ましい。
【0033】
上記熱安定剤や滑剤として、水との親和性の低いものを用いる場合、上記分散剤として、油溶性の部分ケン化ポリ酢酸ビニルを用いて分散すると、重合後の塩化ビニル系重合体粒子中に熱安定剤や滑剤がより均一に分散するので、分散性が向上し、より好ましい。
【0034】
上記の方法で得られる塩化ビニル系重合体は、この塩化ビニル系重合体からなる粒子の内部まで、熱安定剤や滑剤を含有するので、これを用いて成形加工する際の加熱によって、分解が生じるのを効果的に抑制することができると共に、ゲル化の過程や溶融状態で、金属面に樹脂が貼り付くことを抑制し、成形加工性を向上させることができる。
【0035】
特に、上記の塩化ビニル系重合体の製造工程で熱安定剤及び滑剤を添加するという本発明の方法を用いると、従来の成形加工工程のみでこれらの両方を加える場合より、熱安定剤や滑剤の添加量を全体で少なくして、同様の効果を得ることができる。
【0036】
次に、上記の方法で得られる塩化ビニル系重合体を用いて成形加工する方法について説明する。まず、上記塩化ビニル系重合体に、熱安定剤や滑剤、及び必要に応じて、可塑剤、改質剤、充填剤等を添加して、塩化ビニル系樹脂組成物を得る。次いで、この塩化ビニル樹脂組成物を、押出成形、射出成形、カレンダー成形、プレス成形等にかけることにより成形加工され、成形体を得ることができる。
【0037】
上記可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート等をあげることができる。また、上記改質剤としては、MBS(メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン樹脂)、ABS(アクリロニトリル・ブタンジエン・スチレン樹脂)、塩素化ポリエチレン、アクリル系ポリマー、EVA(エチレン・酢酸ビニル樹脂)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、NBR(ニトリルブチレンゴム)等をあげることができる。さらに、上記充填剤としては、炭酸カルシウム、クレー、タルク等をあげることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
この成形加工工程において、熱安定剤や滑剤を加えることにより、熱安定剤や滑剤の効果をより的確に発揮させることができる。このとき使用される熱安定剤や滑剤としては、上記したものと同様のものを用いることができる。また、塩化ビニル系重合体の製造工程で使用した熱安定剤や滑剤と同じものを用いてもよく、異なるものを用いてもよい。それらの中でも、水性懸濁重合時に上記ハイドロタルサイト化合物を用い、かつ、成形加工時に金属石鹸系安定剤、特にカルシウム−亜鉛系安定剤(ステアリン酸カルシウム−ステアリン酸亜鉛)を用いるのが、さらに好ましい。
【0039】
従来において、塩化ビニル系重合体粒子を用いて成形加工を行う場合、熱安定剤や滑剤等を添加するが、その際、110℃程度に加温する、いわゆるホットブレンドが行われる場合がある。この際、鉛系安定剤として一般的に用いられるステアリン酸鉛は、溶融状態となるので、塩化ビニル系重合体粒子の内部に含浸しやすい。また、有機錫安定剤は、液状であるので、塩化ビニル系重合体粒子の内部に含浸しやすい。これに対し、金属石鹸系安定剤、特に一般的に用いられるカルシウム−亜鉛系安定剤(ステアリン酸カルシウム−ステアリン酸亜鉛)は、融点が120℃以上と高いため、従来の方法では、ホットブレンドであっても、塩化ビニル系重合体粒子の内部に含浸し難い。このため、本願発明の方法、すなわち、水性懸濁重合時において、ハイドロタルサイト化合物を用いることは、ブレンド時に塩化ビニル系重合体粒子の内部に含浸し難い金属石鹸系安定剤、特にカルシウム−亜鉛系安定剤を成形加工時に添加・配合して用いる場合でも効果を発揮することができる。
【0040】
上記の通り、塩化ビニル系重合体の製造工程、及び成形加工工程の両方で熱安定剤や滑剤を加えると、従来の成形加工工程のみでこれらを加える場合より、熱安定剤や滑剤の添加量を全体で少なくして、同様の効果を得ることができる。
【0041】
上記の成形加工工程においては、上記の添加剤以外に、必要に応じて、安定化助剤、改質剤、加工助剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料、充填剤等を添加してもよい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例によりこの発明を具体的に説明する。まず、下記の実施例及び比較例での物性や評価の方法、及び使用した原材料について記載する。
【0043】
[物性・評価]
(平均重合度)
塩化ビニル系重合体200mgをニトロベンゼン50mlに溶解し、得られた溶液を30℃恒温水槽中に保持したウベローデ型形粘度計へ入れ、標線間の落下秒数を測定し、比粘度から平均重合度を求めた。
【0044】
(動的熱分解性)
得られた塩化ビニル系重合体100重量部にステアリン酸カルシウム0.8重量部、ステアリン酸亜鉛0.4重量部、エポキシ化大豆油2重量部、リン系キレーター(旭電化工業製Mark1500)0.5重量部を混合して樹脂組成物を調整した後、この樹脂組成物59gをラボプラストミル(東洋精機製作所(株)製:30C150)R60に充填し、温度170℃、回転数40rpmで混練を行い、樹脂組成物が熱分解しトルクが上昇し始めるまでの時間を測定した。
【0045】
(オーブン熱分解性)
動的熱分解性の評価に用いた樹脂組成物を、150℃ロール上で5分混練した後、厚さ0.75mmのシートとして取りだした。このロールシートを190℃のオーブンに入れ、シートが熱分解して黒化するまでの時間を測定した。
【0046】
[原材料]
(重合開始剤)
・tert−ブチルパーオキシネオデカノエート
【0047】
(分散剤)
・分散剤1…部分ケン化ポリ酢酸ビニル(ケン化度89モル%、重合度2300)
・分散剤2…部分ケン化ポリ酢酸ビニル(ケン化度71モル%、重合度700)
【0048】
(熱安定剤)
・ハイドロタルサイト…協和化学工業(株)製:アルガマイザー
【0049】
(滑剤)
・脂肪酸ポリオールエステル…コグニス社製:Loxiol G15、以下、「G15」と略する。
・ヒドロキシステアリン酸…コグニス社製:Loxiol G21、以下、「G21」と略する。
【0050】
(実施例1〜2、比較例1〜3)
内容積400リットルの撹拌機及びジャケット付のステンレス製重合缶に、表1に記載の仕込1を仕込み、真空ポンプにて脱気した。次いで、分散剤として、仕込2を仕込んだ。その後、仕込3を仕込み、重合缶ジャケットに温水を循環させて、56.5℃に昇温して重合を開始した。なお、実施例2においては、重合転化率が50%に達した時点で、表1に示す量の塩化ビニル単量体を、22kg/hrの添加速度で追加に仕込んだ。
そして、重合缶内圧が、56.5℃での塩化ビニル単量体の飽和蒸気圧より0.15MPa低下したところで、未反応単量体を回収して、重合を終了させた。
得られた塩化ビニル系重合体の粒子について、上記の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0051】
(比較例4)
比較例1で得られた塩化ビニル系重合体の粒子の一部に、表1に記載の量の熱安定剤及び滑剤を添加した。得られた粒子について、上記の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0052】
(実施例3)
ハイドロタルサイト、G15及びG21を、予め分散剤1及び分散剤2と混合して、水分散液を調製した(配合比率は、実施例1と同様。)。
これの全量を仕込2として用い、仕込1を用いなかったこと以外は、上記実施例1と同様にして、塩化ビニル単量体の重合を実施し、得られた塩化ビニル系重合体の粒子について評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
(評価の結果)
表1に示される結果から以下の点が観察される。
(1)熱安定剤及び滑剤を重合時に添加した実施例1の動的熱分解性は、熱安定剤のみ重合添加した比較例2や滑剤のみ重合添加した比較例3よりも良好であり、また、それぞれ単独での熱分解性の向上よりも、両成分を併用して添加した方が向上幅が大きく、相乗効果があることを見出した。また、両成分をブレンド時添加した比較例4よりも実施例1の効果が大きいことが判る。同様の効果がオーブン熱分解性でも確認できた。これらより、熱安定剤と滑剤を重合添加し、塩化ビニル系重合体中に微分散させることで、樹脂組成物の成形機の金属面との貼り付きを抑えて滑性をより均一に発現させることで剪断を抑え、分解した塩酸ガスも微分散させた熱安定剤が極初期に捕捉できるため、初期の熱劣化が抑制され、相乗効果が発現するものと考えられる。
【0055】
(2)実施例2は、塩化ビニル単量体を重合中追加仕込みすることで、追加仕込みをしない実施例1よりも更に熱安定性が良好になっている。これは、重合末期に塩化ビニル単量体を後添加することにより、塩化ビニル系重合体粒子表面に塩化ビニル単量体が存在し、結果として粒子中に微分散している熱安定剤や滑剤が粒子中央側に微分散していると考えられる。このため、成形初期に熱安定効果や滑性が消費されず、粒子が破壊された成形後期に効果を発揮するためと考えられる。
【0056】
(3)実施例3は、熱安定剤及び滑剤を分散液中に分散させたものである。これを用いることにより、熱安定剤及び滑剤がより均一に分散され、これにより、上記の(1)と(2)の効果がさらに相乗的に発揮することができたものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体を主成分とする単量体混合物からなる塩化ビニル系単量体を水性懸濁重合することにより塩化ビニル系重合体を製造する方法において、
上記水性懸濁重合時に、熱安定剤及び滑剤を添加することを特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項2】
上記滑剤の添加量が、上記塩化ビニル系単量体の全仕込量に対し、100ppm以上5000ppm未満であることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項3】
上記熱安定剤が、ハイドロタルサイト化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項4】
上記滑剤及び熱安定剤の少なくとも一方を、分散液として添加することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項5】
上記分散液は、分散剤を含むことを特徴とする請求項4に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項6】
上記塩化ビニル系重合体の平均重合度が500以上1500未満であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項7】
上記水性懸濁重合の途中で、上記塩化ビニル系単量体の一部を、追加して仕込むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項8】
熱安定剤及び滑剤を含有する塩化ビニル系重合体。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載の塩化ビニル系重合体の製造方法で得られる塩化ビニル系重合体、又は請求項8に記載の塩化ビニル系重合体に、さらに熱安定剤及び滑剤を添加し、次いで、成形加工する塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法。

【公開番号】特開2007−119764(P2007−119764A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265078(P2006−265078)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(500280076)ヴイテック株式会社 (8)
【Fターム(参考)】