説明

塩及び淡水の併産装置及び方法

【課題】塩と水を安定して併産する塩及び淡水の併産装置及び方法を提供する。
【解決手段】前処理水13を電気透析する電気透析装置14と、電気透析装置で透析された濃縮かん水15を蒸発する蒸発器16と、蒸発器から供給される凝縮水17を乾燥して塩18とする乾燥器19と、酸が添加された希薄かん水から塩分を除去して透過水24である淡水を得るRO膜25aを有する逆浸透膜装置25と、塩分が濃縮された膜分離濃縮水26の一部を前処理装置12の後流側に戻すリサイクルラインと、残りの濃縮水を海域へ排水する排水ラインと、海域へ排出する排出膜分離濃縮水の排出量と、供給海水の供給量との割合を調整する制御を行う制御装置31とを具備してなり、酸21の添加によりpHを7.3以下とし、乾燥器19から塩18を得ると共に、蒸発器16からの蒸発水28と逆浸透膜装置25からの透過水24とを併合して製造水(淡水)29を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩及び淡水を一つの設備で製造することができる塩及び淡水の併産装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海水を最初に逆浸透装置に供給後脱塩し、透過水(造水)を得る一方、濃縮水を電気透析装置に供給し、濃縮水を蒸発器にてさらに濃縮し塩を得る(製塩)方法が提案されている(特許文献1及び2)。
【0003】
また、海水を最初に電気透析装置に供給後、濃縮かん水は蒸発装置でさらに濃縮後塩を得る一方、希薄かん水は、逆浸透装置に供給し透過水を得る方法が提案されている(特許文献3及び4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−276864号公報
【特許文献2】特開2004−33848号公報
【特許文献3】特開平8−318136号公報
【特許文献4】特開平8−89958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の逆浸透法の場合、透過水(造水)が得られる一方、濃縮海水が生じるが、塩分が高いため、そのまま環境に排出すると生態系に影響を与えるのでその処理が近年課題になっている。
【0006】
特に、特許文献2の提案では、電気透析装置から排出される希薄かん水を逆浸透装置に再供給する方法が提案されており、濃縮海水の排出問題は解決されているが、海水中のほぼ全量の塩分を回収せざるを得ず、造水量と製塩量比の調整ができない、という問題がある。さらに、水と塩の供給量と需要量に差がある場合には、対応しにくい、という問題がある。
【0007】
一方、特許文献3及び4の提案では、電気透析装置から排出される希薄かん水は逆浸透装置に供給され、透過水が得られる。また同時に濃縮海水が生じるが、透過水の回収率を調整することで、濃縮海水濃度が電気透析装置に供給される原海水濃度以下とできる。
その点においては、塩分の高い海水を環境中に排出する課題は解決されるが、以下の新たな課題が生じている。
1) 電気透析装置に使われているイオン交換膜はその一般的特性として、海水中の1価イオンに比較し2価イオンを通過させにくい性質をもつ。その結果海水の主成分である1価イオンのNa、Clは濃縮される一方、副成分のうち、2価のイオンとして溶解しているCa2+、Mg2+、CO32−、SO42−等は1価イオンに比較して濃縮されにくく、そのため希薄かん水中の上記イオン種の組成比は海水より高くなることとなる。
2) また、希薄かん水は後段の逆浸透膜に供給されて透過水を得るが、この際、濃縮側では上記2価イオンも濃縮され、これらは溶解度が小さいスケール成分として析出しやすく、逆浸透膜の表面に付着し、透過水量を減少させるいわゆるスケール付着が生じるという、問題がある。
【0008】
本発明は、前記問題に鑑み、逆浸透工程におけるスケールトラブルを抑制しつつ、環境に影響を与えないよう海水より濃度の高い濃縮水を排出することなく、塩と水を安定して併産する塩及び淡水の併産装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、原水中の濁質分を濾過する前処理装置と、前記前処理装置からの前処理水を電気透析する電気透析装置と、前記電気透析装置で透析された濃縮かん水を蒸発する蒸発器と、該蒸発器からの凝縮水を乾燥して塩とする乾燥器と、前記電気透析装置からの希薄かん水に酸を添加する酸添加部と、前記酸が添加された希薄かん水から塩分を除去して透過水である淡水を得る逆浸透膜を有する逆浸透膜装置と、前記逆浸透膜装置からの塩分が濃縮された膜分離濃縮水の一部を前処理装置の後流側に戻すリサイクルラインと、分岐した残りの濃縮水を海域へ排水する排水ラインと、リサイクルするリサイクル膜分離濃縮水中の2価のイオン及びSO42-イオンのイオン濃度を検出し、これらのイオン濃度が石膏の飽和濃度以下となるように、海域へ排出する排出膜分離濃縮水の排出量と、原水の供給量との割合を調整する制御を行う制御装置とを具備してなり、前記酸添加部からの酸の添加により酸添加希薄かん水のpHを7.3以下としてスケールの発生を防止し、前記乾燥器から塩を得ると共に、前記蒸発器からの蒸発水と逆浸透膜装置からの透過水とを併合して製造水を得る、ことを特徴とする塩及び淡水の併産装置にある。
【0010】
第2の発明は、原水中の濁質分を濾過する前処理装置と、前記前処理装置からの前処理水を電気透析する電気透析装置と、前記電気透析装置で透析された濃縮かん水を蒸発する蒸発器と、蒸発器からの凝縮水を乾燥して塩とする乾燥器と、前記電気透析装置からの希薄かん水に酸を添加する酸添加部と、酸が添加された希薄かん水から2価のイオンを除去するナノ濾過膜分離装置と、該ナノ濾過膜分離装置からの処理水中の塩分を除去して透過水である淡水を得る逆浸透膜を有する逆浸透膜装置と、前記逆浸透膜装置からの塩分が濃縮された膜分離濃縮水の全量を前処理装置の後流側に戻すリサイクルラインと、前記ナノ濾過膜分離装置からの膜分離濃縮水の全量を海域へ排水する排水ラインと、リサイクルするリサイクル膜分離濃縮水中の2価のイオン及びSO42-イオンのイオン濃度を検出し、これらのイオン濃度が石膏の飽和濃度以下となるように、海域へ排出する排出膜分離濃縮水の排出量と、原水の供給量との割合を調整する制御を行う制御装置とを具備すると共に、酸添加部からの酸の添加により酸添加希薄かん水のpHを7.3以下としてスケールの発生を防止し、前記乾燥器から塩を得ると共に、前記蒸発器からの蒸発水と逆浸透膜装置からの透過水とを併合して製造水を得る、ことを特徴とする塩及び淡水の併産装置にある。
【0011】
第3の発明は、第2の発明において、前記電気透析装置からの希薄かん水に酸を添加した後、その一部がナノ濾過膜分離装置を迂回して逆浸透膜装置へ供給するバイパスラインを有することを特徴とする塩及び淡水の併産装置にある。
【0012】
第4の発明は、第1又は第2の発明において、前記イオン濃度をイオン濃度計で計測することを特徴とする塩及び淡水の併産装置にある。
【0013】
第5の発明は、原水中の濁質分を前処理装置で濾過し、その前処理水を電気透析し、得られた濃縮かん水を蒸発して塩を製造すると共に、前記電気透析後の希薄かん水に酸をし、酸添加希薄かん水から逆浸透膜装置で塩分を除去して透過水である淡水を得る塩及び淡水の併産方法において、前記逆浸透膜装置からの塩分が濃縮された膜分離濃縮水の一部を前処理装置の後流側に戻すと共に、分岐した残りの濃縮水を海域へ排水する際、前記酸添加希薄かん水のpHを7.3以下としてスケールの発生を防止すると共に、リサイクルするリサイクル膜分離濃縮水中の2価のイオン及びSO42-イオンのイオン濃度を検出し、これらのイオン濃度が石膏の飽和濃度以下となるように、海域へ排出する排出膜分離濃縮水の排出量と、原水の供給量との割合を調整することを特徴とする塩及び淡水の併産方法にある。
【0014】
第6の発明は、原水中の濁質分を前処理装置で濾過し、その前処理水を電気透析し、得られた濃縮かん水を蒸発して塩を製造すると共に、前記電気透析後の希薄かん水に酸をし、酸添加希薄かん水から逆浸透膜装置で塩分を除去して透過水である淡水を得る塩及び淡水の併産方法において、逆浸透膜装置の前段側において、前記酸添加希薄かん水のpHを7.3以下としてスケールの発生を防止すると共に、ナノ濾過膜分離装置を用いて希薄かん水中の2価イオンを除去し、前記逆浸透膜装置からの塩分が濃縮された膜分離濃縮水の全量を前処理装置の後流側に戻すと共に、前記ナノ濾過膜分離装置からの膜分離濃縮水の全量を海域へ排水し、且つ、リサイクルするリサイクル膜分離濃縮水中の2価のイオン及びSO42-イオンのイオン濃度を検出し、これらのイオン濃度が石膏の飽和濃度以下となるように、海域へ排出する排出膜分離濃縮水の排出量と、原水の供給量との割合を調整することを特徴とする塩及び淡水の併産方法にある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、イオン濃度計により、リサイクルする膜分離濃縮水中のイオン濃度が石膏の飽和濃度以下となるように、海域へ排出する排出膜分離濃縮水の排出量と、原水の供給量との割合を調整する制御を制御装置で行うことにより、膜分離濃縮水の一部を海域に排出し、残部を前処理装置の後段側にリサイクルさせている。これによって、逆浸透膜装置におけるRO膜のスケールトラブルを抑制しつつ、環境に影響を与えないよう海水より濃度の高い濃縮水を排出することなく、塩と水を安定して併産することができるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例1に係る塩及び淡水の併産装置の概略図である。
【図2】図2は、実施例2に係る塩及び淡水の併産装置の概略図である。
【図3】図3は、実施例2に係る他の塩及び淡水の併産装置の概略図である。
【図4】図4は、膜分離濃縮水の排出量/供給海水量と、石膏飽和度との関係を示す図である。
【図5】図5は、希薄かん水中のpHとStiff and. Davis Stability Indexとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0018】
本発明による実施例1に係る塩及び淡水の併産装置について、図面を参照して説明する。図1は、本実施例に係る塩及び淡水の併産装置の概略図である。
図1に示すように、塩及び淡水の併産装置10Aは、ラインL1により供給される原水である供給海水11中の濁質分を濾過する前処理装置12と、前記前処理装置12からラインL2を介して供給される前処理水13を電気透析する電気透析装置14と、前記電気透析装置14で透析され、ラインL3を介して供給される濃縮かん水(濃縮塩水)15を蒸発する蒸発器16と、該蒸発器16からラインL4を介して供給される凝縮水17を乾燥して塩18とする乾燥器19と、前記電気透析装置14からラインL5を介して供給される希薄かん水(Ca塩とMg塩が多くて、Na塩が少ない)20に酸(例えば硫酸又は塩酸等)21を添加する酸添加部22と、前記酸21が添加された酸添加希薄かん水23から塩分を除去して透過水24である淡水を得る逆浸透膜(RO膜)25aを有する逆浸透膜装置25と、前記逆浸透膜装置25からの塩分が濃縮された膜分離濃縮水26の一部26−1を前処理装置12の後流側のラインL2に戻すリサイクルラインL6と、分岐した残りの濃縮水26−2を海域へ排水する排水ラインL7と、前記リサイクルするリサイクル膜分離濃縮水26−1中の2価のイオン(Ca2+、Mg2+)及びSO42-イオンのイオン濃度をイオン濃度計30で検出し、これらのイオン濃度が石膏の飽和濃度以下となるように、海域へ排出する排出膜分離濃縮水26−2の排出量と、供給海水11の供給量との割合を調整する制御を行う制御装置31とを具備してなり、前記酸添加部22からの酸21の添加により酸添加希薄かん水23のpHを7.3以下として前記逆浸透膜装置25でのスケールの発生を防止し、前記乾燥器19から塩18を得ると共に、前記蒸発器16からラインL9を介して供給される蒸発水28と逆浸透膜装置25からの透過水24とを併合して製造水(淡水)29を得るものである。
【0019】
本実施例に係る塩及び淡水の併産装置は、イオン濃度計30により、リサイクルする膜分離濃縮水26−1中のイオン濃度が石膏の飽和濃度以下となるように、海域へ排出する排出膜分離濃縮水26−2の排出量と、供給海水11の供給量との割合を調整する制御を制御装置31で行うことにより、膜分離濃縮水26の一部26−2を海域に排出し、残部26−1を前処理装置12の後段側にリサイクルさせている。これによって、逆浸透膜装置25におけるRO膜25aのスケールトラブルを抑制しつつ、環境に影響を与えないよう海水より濃度の高い濃縮水を排出することなく、塩と水を安定して併産することができるものとなる。
【0020】
また、スケールトラブルを解消するには、排水膜分離濃縮水(海域へ排水)26−2の海域への排出量)/膜分離濃縮水(リサイクル)比を0.32以上1未満の範囲に調整するようにしている。
これは、図4に示すように、0.32以上であると、石膏飽和度が100%を超えることとなり、好ましくないからである。
【0021】
また、逆浸透膜装置25に供給する希薄かん水20への酸の供給は、pHは7.3以下となるよう酸添加部22により調整するようにしている。
これは、希薄かん水20中のpHとStiff and. Davis Stability Indexとの関係を示す図5に示すように、pHが7.3を超えると0を超えることとなり、好ましくないからである。
【0022】
よって、本発明によれば、供給海水塩濃度と同程度かそれ以下の膜分離濃縮水とすることで、高塩濃度のものを供給することがないので、海底に高塩濃度高密度の水塊が沿岸海底に滞留することによる生物環境への悪影響を防止することができる。
また、電気透析装置14からの希薄かん水20を逆浸透膜装置25に供給することで、逆浸透膜装置25の供給圧力を下げられることとなり、エネルギー効率の省力化を図ることができ、また装置のコンパクト化が図れる。
【0023】
また、膜分離濃縮水26の一部26−1を前処理装置12と電気透析装置14との間のラインL2にリサイクルすることで、原水である海水の供給量を減らせることとなるので、前処理装置12のコンパクト化を図ることができる。
よって、膜分離濃縮水をリサイクルしない場合に比較して、前処理装置は最大50%にまでコンパクト化が可能となる。
【0024】
逆浸透膜装置25からの膜分離濃縮水26の一部26−1をリサイクルして、残り26−2を海域へ排出することで、電気透析装置14からの希薄かん水20及び膜分離縮水26中のCa2+及びSO42-濃度が飽和濃度以下とすることができるので、CaSO4が電気透析装置14のイオン交換膜及び逆浸透膜装置25のRO膜25a上に析出付着することを防止し、安定運転が可能となる。
【0025】
ここで、本実施例においては前記イオン濃度を計測するためにイオン濃度計30を設けているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば原水である供給海水11中の電気伝導度を伝導度計で求め、2価イオン(Ca2+、Mg2+)の濃度を求め、また添加する酸の添加量からSO42-濃度を求めるようにしてもよい。
【0026】
また、pHを下げることで同様に発生が懸念されるCaCO3による逆浸透膜装置25のRO膜25a上のスケール発生を防止することができる。
ここで、酸添加部22から添加する酸21としては、実用的には硫酸とするのが好ましく、スケール除去の点からは塩酸とするのが好ましい。
【0027】
これに対し、先願のRO濃縮水の海域への排出量をゼロとし、全量リサイクルする方法では、上記のスケール発生による不都合が起きる、実用化できないものとなる。
【0028】
電気透析装置14と逆浸透膜装置25の運転条件、イオン交換膜、逆浸透膜の特性や経年変化によっては、Ca2+及びSO42-イオン濃度の膜透過特性が異なる。
そこで、Ca2+及びSO42-イオン濃度が最も高くなるRO濃縮液中のそれぞれの濃度を運転中に検出し、石膏飽和濃度以下となるよう、「排出膜分離濃縮水(海域へ排水)26−2の海域への排出量」/「供給海水11の供給量」比を0.32以上1未満の範囲で、できるだけ小さくなるよう制御装置31でバルブV1、V2を微調整するようにしている。
【0029】
これにより、石膏の膜への析出付着を防止し、安定運転を確保しながら、供給海水量を最小とできるので、前処理の負荷が減少し、前処理部の省エネ運転が可能となる。
【0030】
前記イオン濃度計30により、Ca2+及びSO42-イオン濃度の検出には、例えばキレート法、重量法等の既存の方法が適用可能である。石膏の飽和濃度はあらかじめ計算あるいは実験的に求めている。
膜分離濃縮水と排出海域の電気伝導度を検出する装置も、既存の液密度計あるいは電気伝導度計が適用可能である。
【0031】
また、逆浸透膜装置25に供給する酸添加希薄かん水23の圧力を変化させることで透過水回収率を調整するようにしてもよい。
【0032】
このように、本発明の塩及び淡水の併産方法によれば、原水である供給海水11中の濁質分を前処理装置12で濾過し、その前処理水13を電気透析装置14で電気透析し、得られた濃縮かん水15を蒸発して塩18を製造すると共に、前記電気透析後の希薄かん水20に酸21をし、酸添加希薄かん水23から逆浸透膜装置25で塩分を除去して透過水24である製造水(淡水)29を得る塩及び淡水の併産方法において、前記逆浸透膜装置25からの塩分が濃縮された膜分離濃縮水26の一部26−1を前処理装置12の後流側に戻すと共に、分岐した残りの濃縮水26−2を海域へ排水する際、前記酸添加希薄かん水23のpHを7.3以下としてスケールの発生を防止すると共に、リサイクルするリサイクル膜分離濃縮水26−1中の2価のイオン及びSO42-イオンのイオン濃度を検出し、これらのイオン濃度が石膏の飽和濃度以下となるように、海域へ排出する排出膜分離濃縮水の排出量と、原水の供給量との割合を調整するようにするので、逆浸透膜装置におけるRO膜のスケールトラブルを抑制しつつ、環境に影響を与えないよう海水より濃度の高い濃縮水を排出することなく、塩と水を安定して併産することができるものとなる。
【実施例2】
【0033】
本発明による実施例2に係る塩及び淡水の併産装置について、図面を参照して説明する。図2は、本実施例に係る塩及び淡水の併産装置の概略図である。
図2に示すように、塩及び淡水の併産装置10Bは、図1に示す塩及び淡水の併産装置10Aにおいて、さらに、電気透析装置14からの希薄かん水20に酸21が添加された酸添加希薄かん水23から2価のイオンを除去するナノ濾過膜分離装置41を設けたものである。そして、該ナノ濾過膜分離装置41からの第1の透過水24A中の塩分を除去して第2の透過水24Bである淡水を得る逆浸透膜(RO膜)25aを有する逆浸透膜装置25をその後段側に設けている。なお、図2中、L10はナノ濾過膜分離装置41からの第1の透過水24Aを供給するラインである。
【0034】
そして、前記逆浸透膜装置25からの塩分が濃縮された第2の膜分離濃縮水26Bの全量をリサイクルラインL6により前処理装置12の後流側のラインL2に戻すと共に、前記ナノ濾過膜分離装置41からの第1の膜分離濃縮水26Aの全量を排水ラインL7により海域へ排水するようにしている。
【0035】
本実施例によれば、電気透析装置14からの希薄かん水の全部をナノ濾過膜分離装置41に通過させることで、2価イオンを除去処理し、第1の膜分離濃縮水26Aとして、2価イオン濃縮水を海域へ排水するようにしている。これと共に、第1の透過水24Aである処理水を該逆浸透装置25に供給し、第2の膜分離濃縮水26Bの全量を電気透析装置14側にリサイクルすることで、供給海水量を減すことができる。
【0036】
また、逆浸透膜装置25からは海域に排水をしないので、製造水29の回収率及び塩素(塩18)の製造量を向上できる。
【0037】
また、逆浸透膜装置25からの第2の膜分離濃縮水26Bの全部をリサイクルすることで、系内にCa2+及びSO42-イオン濃度が蓄積し、石膏スケール生成の懸念が生じるが、ナノ濾過膜分離装置41により、2価イオンのCa2+及びSO42-イオンを除去し、系外に排出するので飽和濃度以下とすることができ、その不都合が解消できる。
【0038】
このように、本発明に係る塩及び淡水の併産方法によれば、原水である供給海水11中の濁質分を前処理装置12で濾過し、その前処理水13を電気透析装置14で電気透析し、得られた濃縮かん水15を蒸発して塩18を製造すると共に、前記電気透析後の希薄かん水20に酸21をし、酸添加希薄かん水23から逆浸透膜装置25で塩分を除去して透過水である淡水を得る塩及び淡水の併産方法において、前記酸添加希薄かん水のpHを7.3以下としてスケールの発生を防止すると共に、逆浸透膜装置25の前段側において、ナノ濾過膜分離装置41を用いて希薄かん水23中の2価イオンを除去し、前記逆浸透膜装置25からの塩分が濃縮された第2の膜分離濃縮水26Bの全量を前処理装置12の後流側に戻すと共に、前記ナノ濾過膜分離装置41からの第1の膜分離濃縮水26Aの全量を海域へ排水し、且つ、リサイクルするリサイクル膜分離濃縮水中の2価のイオン及びSO42-イオンのイオン濃度を検出し、これらのイオン濃度が石膏の飽和濃度以下となるように、海域へ排出する排出膜分離濃縮水の排出量と、原水の供給量との割合を調整するので、逆浸透膜装置25におけるRO膜のスケールトラブルを抑制しつつ、環境に影響を与えないよう海水より濃度の高い濃縮水を排出することなく、塩と水を安定して併産することができるものとなる。
【0039】
また、図3に本実施例の変形例を示す。
図3に示すように、塩及び淡水の併産装置10Cは、図2に示す塩及び淡水の併産装置10Bにおいて、さらに、電気透析装置14からの希薄かん水20を供給する供給するラインL5から分岐して、ナノ濾過膜分離装置41をラインL10にバイパスするバイパスラインL11を設け、酸添加希薄かん水23を直接逆浸透膜装置25に供給するようにしている。
【0040】
これは、海域へ排出するための第1の膜分離濃縮水26Aの処理量以上をナノ濾過膜分離装置41に送ることなく、リサイクルするためである。
バイパスするバイパス量は、酸添加希薄かん水23の2/3程度とすればよい。
よって、ナノ濾過膜分離装置41へは酸添加希薄かん水23を1/3程度供給するようにしている。
これにより、ナノ濾過膜分離装置41の設備のコンパクト化を図ることができる。
【0041】
[試験例]
塩と淡水を併産する実施例1の装置を用いた試験例1、実施例2の装置を用いた試験例2、リサイクルを全くしない比較例1、及び塩のみを製造する比較例2の淡水製造量比(対供給海水)、排水量比(対供給排水)及び塩素回収率(濃縮かん水/供給海水)について、試験した結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
このように、試験例1の装置は、比較例1及び比較例2に較べて、淡水の製造量の比率及び塩素回収率が共に向上した。また排水量比は低減した。
また、試験例2においては、ナノ膜分離装置41を用いない試験例1に較べて、生産水量(対供給海水)は55.1から63.4%に向上した。また、塩素(塩の回収率に比例)は72.9から85.8%に向上した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明に係る塩及び淡水の併産装置によれば、供給海水塩濃度と同程度かそれ以下の排水をすることで、海底に高塩濃度高密度の水塊が沿岸海底に滞留することによる生物環境への悪影響を防止することができる。
【符号の説明】
【0045】
10A、10B 塩及び淡水の併産装置
11 供給海水
12 前処理装置
13 前処理水
14 電気透析装置
15 濃縮かん水(濃縮塩水)
16 蒸発器
17 凝縮水
18 塩
19 乾燥器
20 希薄かん水
21 酸
22 酸添加部
23 酸添加希薄かん水
24 透過水
25a 逆浸透膜(RO膜)
25 逆浸透膜装置
26、26−1、26−2 膜分離濃縮水
26A 第1の膜分離濃縮水
26B 第2の膜分離濃縮水
28 蒸発水
29 製造水(淡水)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水中の濁質分を濾過する前処理装置と、
前記前処理装置からの前処理水を電気透析する電気透析装置と、
前記電気透析装置で透析された濃縮かん水を蒸発する蒸発器と、
該蒸発器からの凝縮水を乾燥して塩とする乾燥器と、
前記電気透析装置からの希薄かん水に酸を添加する酸添加部と、
前記酸が添加された希薄かん水から塩分を除去して透過水である淡水を得る逆浸透膜を有する逆浸透膜装置と、
前記逆浸透膜装置からの塩分が濃縮された膜分離濃縮水の一部を前処理装置の後流側に戻すリサイクルラインと、
分岐した残りの濃縮水を海域へ排水する排水ラインと、
リサイクルするリサイクル膜分離濃縮水中の2価のイオン及びSO42-イオンのイオン濃度を検出し、これらのイオン濃度が石膏の飽和濃度以下となるように、海域へ排出する排出膜分離濃縮水の排出量と、原水の供給量との割合を調整する制御を行う制御装置とを具備してなり、
前記酸添加部からの酸の添加により酸添加希薄かん水のpHを7.3以下としてスケールの発生を防止し、
前記乾燥器から塩を得ると共に、前記蒸発器からの蒸発水と逆浸透膜装置からの透過水とを併合して製造水を得る、ことを特徴とする塩及び淡水の併産装置。
【請求項2】
原水中の濁質分を濾過する前処理装置と、
前記前処理装置からの前処理水を電気透析する電気透析装置と、
前記電気透析装置で透析された濃縮かん水を蒸発する蒸発器と、
蒸発器からの凝縮水を乾燥して塩とする乾燥器と、
前記電気透析装置からの希薄かん水に酸を添加する酸添加部と、
酸が添加された希薄かん水から2価のイオンを除去するナノ濾過膜分離装置と、該ナノ濾過膜分離装置からの処理水中の塩分を除去して透過水である淡水を得る逆浸透膜を有する逆浸透膜装置と、
前記逆浸透膜装置からの塩分が濃縮された膜分離濃縮水の全量を前処理装置の後流側に戻すリサイクルラインと、
前記ナノ濾過膜分離装置からの膜分離濃縮水の全量を海域へ排水する排水ラインと、
リサイクルするリサイクル膜分離濃縮水中の2価のイオン及びSO42-イオンのイオン濃度を検出し、これらのイオン濃度が石膏の飽和濃度以下となるように、海域へ排出する排出膜分離濃縮水の排出量と、原水の供給量との割合を調整する制御を行う制御装置とを具備すると共に、
酸添加部からの酸の添加により酸添加希薄かん水のpHを7.3以下としてスケールの発生を防止し、
前記乾燥器から塩を得ると共に、前記蒸発器からの蒸発水と逆浸透膜装置からの透過水とを併合して製造水を得る、ことを特徴とする塩及び淡水の併産装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記電気透析装置からの希薄かん水に酸を添加した後、その一部がナノ濾過膜分離装置を迂回して逆浸透膜装置へ供給するバイパスラインを有することを特徴とする塩及び淡水の併産装置。
【請求項4】
請求項2において、
前記イオン濃度をイオン濃度計で計測することを特徴とする塩及び淡水の併産装置。
【請求項5】
原水中の濁質分を前処理装置で濾過し、その前処理水を電気透析し、得られた濃縮かん水を蒸発して塩を製造すると共に、
前記電気透析後の希薄かん水に酸をし、酸添加希薄かん水から逆浸透膜装置で塩分を除去して透過水である淡水を得る塩及び淡水の併産方法において、
前記逆浸透膜装置からの塩分が濃縮された膜分離濃縮水の一部を前処理装置の後流側に戻すと共に、
分岐した残りの濃縮水を海域へ排水する際、
前記酸添加希薄かん水のpHを7.3以下としてスケールの発生を防止すると共に、
リサイクルするリサイクル膜分離濃縮水中の2価のイオン及びSO42-イオンのイオン濃度を検出し、これらのイオン濃度が石膏の飽和濃度以下となるように、海域へ排出する排出膜分離濃縮水の排出量と、原水の供給量との割合を調整することを特徴とする塩及び淡水の併産方法。
【請求項6】
原水中の濁質分を前処理装置で濾過し、その前処理水を電気透析し、得られた濃縮かん水を蒸発して塩を製造すると共に、
前記電気透析後の希薄かん水に酸をし、酸添加希薄かん水から逆浸透膜装置で塩分を除去して透過水である淡水を得る塩及び淡水の併産方法において、
前記酸添加希薄かん水のpHを7.3以下としてスケールの発生を防止すると共に、
逆浸透膜装置の前段側において、ナノ濾過膜分離装置を用いて希薄かん水中の2価イオンを除去し、
前記逆浸透膜装置からの塩分が濃縮された膜分離濃縮水の全量を前処理装置の後流側に戻すと共に、前記ナノ濾過膜分離装置からの膜分離濃縮水の全量を海域へ排水し、且つ、
リサイクルするリサイクル膜分離濃縮水中の2価のイオン及びSO42-イオンのイオン濃度を検出し、これらのイオン濃度が石膏の飽和濃度以下となるように、海域へ排出する排出膜分離濃縮水の排出量と、原水の供給量との割合を調整することを特徴とする塩及び淡水の併産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−274202(P2010−274202A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129468(P2009−129468)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】