説明

塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法

【課題】乾燥処理前の塩素化塩化ビニル系樹脂中の塩酸濃度を低くし、その後の乾燥処理の塩酸除去負荷を軽減し、乾燥機の腐食等の問題を軽減できる塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法は、塩化ビニル樹脂、または塩化ビニルと他の共重合可能な単量体との共重合体を塩素化して得られる塩素化塩化樹脂スラリーから副生される塩酸の水溶液を分離する工程中或いは工程後に、次亜塩素酸塩を塩素化塩化ビニル樹脂スラリーまたは含水樹脂に添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニルまたはその共重合体樹脂を塩素化して、塩素化塩化ビニル系樹脂を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩素化塩化ビニル系樹脂(以下、「CPVC」と記す)は耐熱性に優れた汎用樹脂の一つである。耐熱性はCPVCの分子に含まれる塩素量(塩素化度)が多い程有利であり、その製造方法としては以下の方法が一般的に用いられている。すなわち水性媒体中に塩化ビニル系樹脂(以下、「PVC」と記す)を懸濁させて、これに気体状または液体状の塩素を供給して、PVCの塩素化反応を行う方法である。さらにこのような塩素化方法の中では、光(紫外線)を用いる光塩素化法と熱を用いる熱塩素化法が工業的に実施されている。(特許文献1)
【0003】
この塩素化反応の反応プロセスは、次の3つのプロセスから成り立っていると考えられている。
(1)Cl2 →2Cl・ (ラジカル生成反応)
(2)PVC + Cl・ → PVC・ + HCl (水素引抜き反応)
(3)PVC・ + Cl・ → CPVC (塩素化反応)
(1)は、光または熱によって、塩素を塩素ラジカルにするラジカル生成反応であり、(2)は、塩素ラジカルによって、PVCから水素が引抜かれる水素引抜き反応であり、(3)は、ポリマーラジカル(PVC・)と塩素ラジカルまたは塩素によって、CPVCが生成する反応である。(1)から(3)の反応式をまとめて下記反応式(A)で示される。
(A) PVC + Cl2 → CPVC + HCl
【0004】
従って、(A)のような塩素化反応においては、原料塩素の約半分のみが塩素化反応に利用され、半分は塩酸副生に消費される。そのため塩素化反応後のスラリー中の塩酸濃度が、例えば、スラリー中の水分に対して5〜12重量%となり反応器、乾燥機などの設備腐食が著しくなるため、設備の腐食を防止するため高価な金属などで設備をコーティングするなどの処置が必要であった。そのため少しでも乾燥機の塩酸負荷を軽減するために、その洗浄に多量の水を必要とするという工業的課題があった。
【0005】
これには、温水によって樹脂中の塩酸まで洗浄および除去するプロセスを採用することがコスト的に有利であるが、これによっても乾燥前の塩酸量は1,000ppm程度であり、乾燥工程における塩酸除去負荷を軽減するには乾燥前の塩酸濃度を100ppm以下にしなければならない。
【0006】
塩酸負荷を少しでも改善するために、様々な取り組みがなされており、例えば、副生する塩酸を中和するためにクエン酸やその各種塩を用いる方法(特許文献2)も提案されているが、それらが不純物となるため、その使用と洗浄に多大なコストを要する上に、塩酸残存量を100ppm以下とすることは困難であった。
【0007】
さらには、濾過装置を用いて塩酸を除去する方法(特許文献3)も提案されているが、これを用いても100ppm以下とすることは困難であった。
【0008】
また、さらには塩素化反応を塩素吹き込みではなくプロトン酸と次亜塩素酸塩によって塩素を生成させて塩素化する方法(特許文献4)あるいは塩素による塩素化反応中に次亜塩素酸塩を投入する方法(特許文献5)も提案されているが、これらによって水中の塩酸濃度の低減は可能であるが樹脂中の塩酸残存量を100ppm以下とすることは困難であった。
【0009】
このように、従来におけるCPVCの製造においては、スラリー中の塩酸による設備腐食の問題、初期着色性や透明性低下の問題、といった種々の工業的課題があり、これらのバランスを高める技術開発は、当業者の長年の課題となっている。
【特許文献1】特公昭46−17128号公報
【特許文献2】米国特許第5359011号
【特許文献3】特開2003−238615号公報
【特許文献4】特開2001−11116号公報
【特許文献5】特開2004−99669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
塩素化反応の副生塩酸による設備の塩酸除去にかかる負荷を軽減するべく効率的な塩酸除去を達成した塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討の結果、本発明を完成するに到ったものである。
【0012】
本発明の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法は、塩化ビニル樹脂、または塩化ビニルと他の共重合可能な単量体との共重合体を塩素化して得られる塩素化塩化ビニル系樹脂スラリーから副生される塩酸の水溶液を分離する工程中或いは工程後に、次亜塩素酸塩を塩素化塩化ビニル樹脂スラリーまたは含水樹脂に添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塩化ビニル樹脂、または塩化ビニルと他の共重合可能な単量体との共重合体を塩素化して得られる塩素化塩化ビニル系樹脂スラリーから副生される塩酸の水溶液を分離する工程中或いは工程後に、次亜塩素酸塩を塩素化塩化ビニル樹脂スラリーまたは含水樹脂に添加することにより、塩素化反応で副生される塩酸を効率的に除去できる。これにより、乾燥処理前の塩素化塩化ビニル樹脂または塩素化塩化ビニル共重合体樹脂中の塩酸濃度を低くし、その後の乾燥処理の塩酸除去負荷を軽減し、乾燥機の腐食等の問題を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法は、塩化ビニル樹脂、または塩化ビニルと他の共重合可能な単量体との共重合体を塩素化して得られる塩素化樹脂スラリーから副生される塩酸の水溶液を分離する工程中或いは工程後に、次亜塩素酸塩を塩素化塩化ビニル樹脂スラリーまたは含水樹脂に添加する。
【0015】
本発明においては、次亜塩素酸塩を添加することによって含水樹脂または再分散スラリーの25℃におけるpHを3〜8の範囲とすることが好ましい。
【0016】
また、次亜塩素酸塩を添加するときの含水樹脂または再分散スラリー温度が40〜90℃であることが好ましい。
【0017】
また、次亜塩素酸塩を添加する前に塩基性物質を添加することが好ましい。
【0018】
また、次亜塩素酸塩によって処理された含水樹脂またはスラリーを濾過、遠心分離または沈降分離法を用いて樹脂粉粒体を分離した後、乾燥工程において、乾燥機を使用することにより樹脂粉粒体を得ることが好ましい。
【0019】
塩素化塩化ビニル系樹脂の原料である塩化ビニル系樹脂は、水のスラリー状または乾燥粉体樹脂として得られ、スラリー状であればそのままあるいは一度濾過などで水中の不純物除去などを取り除いて、乾燥粉体樹脂であれば水で再度スラリー化して、塩素化工程に供給される。
【0020】
塩素化工程とは、スラリー化した塩化ビニル系樹脂に塩素を付加させて耐熱性を持つ樹脂を製造する工程であり、それには塩素ガスをスラリー中に供給しながら光(紫外線)を照射して塩素を反応させる光塩素化法と熱を用いて塩素を反応させる熱塩素化法が工業的に実施されている。
【0021】
塩素化工程によって塩素化された樹脂、即ち塩素化塩化ビニル系樹脂のスラリーは、その後に続く濾過あるいは遠心分離工程で大半の水および副生塩酸を除き、さらに乾燥工程に送られて最終的に粉体として製品を得る方法がとられる。
【0022】
本発明における塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニルの単独重合体、または塩化ビニルと他の共重合可能な単量体(例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化アリル、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸エステル、ビニルエーテル等)との共重合体を示す。これらの単量体を部分鹸化のポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレンオキサイドなどの分散剤及びラウロイルパーオキサイド、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、α、α'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどの油溶性重合開始剤を使用して懸濁重合で重合される。塩化ビニルと他の共重合可能な単量体の比率は、50重量%/50重量%〜99.9重量%/0.1重量%であることが塩素化塩化ビニル樹脂の耐熱性能を発現するために好ましい。
【0023】
通常、粘度平均重合度が350〜1250のポリ塩化ビニル単独樹脂が好ましく用いられる。粘度平均重合度が350〜1250の範囲のものを使用すると、塩素化塩化ビニル樹脂の耐熱性能、及び成形加工を両立することができるために好ましい。
【0024】
塩素化塩化ビニル系樹脂とは、塩素化工程によって塩化ビニル系樹脂に塩素を付加させたものを示す。塩化ビニル系樹脂を、水性懸濁下で10〜40重量%の樹脂濃度で塩素化して塩素化塩化ビニル系樹脂を得るのが望ましい。10〜40重量%の範囲であれば生産性、水性懸濁溶液の粘度安定性、及び撹拌時の均一混合性の観点から、好ましい。20〜35重量%の範囲であれば、生産性と撹拌の均一混合の観点から更に好ましい。10重量%未満の樹脂濃度で塩素化する場合には、生産コストとのバランスをとる必要は生じるが、さらに塩酸濃度を低減させることができ、塩酸濃度を極力低減させる必要がある場合には、効果的な方法となり得る。塩素化反応には特別の制限はなく、水銀灯で紫外線を照射する光塩素化方法、あるいは触媒を用いて塩素化する方法、熱を加える方法(熱塩素化法)、更にはその組み合わせが可能である。水銀灯とはガラス管内の水銀蒸気中のアーク放電により発生する光放射を利用した光源であり、点灯中の水銀圧力が1〜10kPa程度の低圧水銀灯や点灯中の水銀圧力が100〜1000kPa程度の高圧水銀灯、あるいは点灯中の水銀圧力が1000kPaを超える超高圧水銀灯などがあるが、紫外線放射があればどの水銀灯をもちいてもかまわない。本発明においては、光塩素化法、熱塩素化法、及び触媒を用いて塩素化する方法から選ばれる少なくとも一つの方法を採用できる。
【0025】
例えば水銀灯で紫外線を照射する塩素化反応装置を例に挙げると、特に限定されるものではないが、例えば図1に示すとおり、撹拌機5、冷却ジャケット2、塩素供給装置3、さらに水銀灯4が反応装置1に取り付けられていればよい。反応器内は大量の塩酸が副生物として生成するために、耐酸性金属でコーティングした槽あるいはグラスライニング槽が好適に用いられる。
【0026】
本発明では、水性媒体に供給する塩素は、気体状であっても液体状であっても良いが、取扱いの容易さの観点から、気体状の塩素ガスを水性媒体中に供給する方法が好ましい。
【0027】
このようにして得られた水性懸濁状態の樹脂スラリーを塩素化塩化ビニル系樹脂スラリーという。
【0028】
本発明において「分離」とは、分離装置を使用して前記含水樹脂と副生塩酸水溶液に分ける操作のことをいう。また、分離装置で得られた樹脂を「含水樹脂」といい、塩素化工程によって塩化ビニル系樹脂に塩素を付加して生成する副生物の塩酸が水溶液として塩素化塩化ビニル系樹脂スラリーに溶解している状態の水溶液を「副生塩酸水溶液」という。次亜塩素酸塩を添加する前の樹脂の前処理として、次亜塩素酸塩の効果を高めるために含水樹脂と副生される塩酸の水溶液を分離する装置が必要となる。これには、各種濾過機、遠心分離機などが挙げられ、分離装置内に水を注入して塩酸洗浄効率を上げる機能を付与してもなお良いし、本発明で添加される次亜塩素酸塩を装置内に供給してもよい。濾過機としては、特に限定されないが、加圧濾過機や減圧濾過機などを用いることができ、さらに濾過による水分排除効果を高めるためにフィルタプレスを用いてもよい。遠心分離機としては、遠心力によって水分排除効果を持つものであれば特に限定されないが、回転軸が垂直である竪型遠心分離機や回転軸が水平である横型遠心分離機を用いることができる。水分分離後の含水樹脂の含水率は、特に制限されるものではないが、含水樹脂に対して10〜50重量%とすることが、効率的な塩酸除去の点で有効である。さらに10〜35重量%であれば塩酸除去効率がさらに高まってなお良い。本発明に使用する次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウムなどが使用されるが、取扱いの容易さ、製造コストなどの観点から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましく使用される。
【0029】
次亜塩素酸塩の添加方法としては、特に限定されないが、含水樹脂と副生される塩酸の水溶液を分離する装置の中に定量ポンプなどで供給する方法、その分離装置後に撹拌槽を設けて、その中で含水樹脂と次亜塩素酸塩を混合させる方法、また、その撹拌槽に含水樹脂と次亜塩素酸塩を混合する際に水を加えて撹拌して樹脂を水中に再分散することでスラリー化する方法を用いても良いが、混合の均一性の観点からスラリー化が好ましい。また、分離後次亜塩素酸塩を添加する前に水を添加して再度スラリー化してもよい。スラリー化する場合に使用する水の量は、含水樹脂の樹脂成分100重量部に対して100重量部以上10,000重量部以下が好ましく、含水樹脂を均一に水中に分散させる観点及び生産コストの観点から100重量部以上1,000重量部以下がなお好ましい。さらには、処理中のpHを安定化させるために、次亜塩素酸塩水溶液を間欠的にまたは連続的に添加する方法を用いてもよい。
【0030】
添加する次亜塩素酸塩の有効塩素濃度は、特に限定されないが、1重量%以上16重量%以下が生産コストの観点から好ましく、5重量%以上16重量%以下が生産コストおよび取り扱いやすさの観点でなお好ましい。ここでいう有効塩素濃度とは溶液中の塩素分で次亜塩素酸塩として働く塩素重量をいう。たとえば有効塩素濃度13重量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液とは、次亜塩素酸ナトリウム中の塩素原子が水溶液中13重量%含むものであることを指し、言い換えれば次亜塩素酸ナトリウムを27.3重量%含む次亜塩素酸ナトリウム水溶液である。有効塩素濃度の測定法としては、ヨウ素滴定法がもっとも一般的で、たとえば以下の方法により定量することができる。有効塩素を含む検水を弱酸性にしてヨウ化カリウムを加え、ヨウ素を遊離させる。そのヨウ素を、デンプンを指示薬として、還元剤であるチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し、その滴定量より、検水中の有効塩素濃度を求める。添加する次亜塩素酸塩の量としては、特に限定されないが、CPVC樹脂に対して0.002倍以上0.1倍以下が乾燥前含水樹脂中の塩酸濃度を100ppmとするために好ましく、0.002倍以上0.05倍以下が生産コストの観点でなお好ましい。添加する次亜塩素酸塩の量によっては、ポンプなどで供給する場合の定量性に懸念がある場合も考えられ、その場合はそれらの濃度以下で供給してもかまわないし、上述したスラリー化の場合などで次亜塩素酸塩の希薄溶液(1重量%以下)を作製してから含水樹脂と混合する方法を用いてもかまわない。
【0031】
本発明におけるpHとは、日本工業規格pH測定方法(JIS Z 8802 1984)によって測定された値のことを示し、pHの測定値は、採取したサンプルをビーカーなどの容器に入れ、25℃に保温したウォーターバスなどの中でサンプル温度が25℃になったことを確認して測定した値をいう。次亜塩素酸塩を添加して調整するpHは、本発明の目的を達する事ができれば特に限定されないが、使用する設備の材質および生産コスト、安全性の観点から1〜12が好ましく、塩酸と次亜塩素酸塩との反応性の観点から3〜11が更に好ましい。
【0032】
次亜塩素酸塩を添加する前に、pHを調整するために各種塩基性物質を用いることができる。塩基性物質としては、特に限定されないが、苛性ソーダ、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどの水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムなどのアルカリ性無機塩、アンモニアなどが挙げられる。なかでもコストの観点から苛性ソーダが好ましい。これらは、そのまま用いてもよいし、水溶液として用いてもよい。
【0033】
本発明の製造方法によって生成する塩素化塩化ビニル系樹脂スラリー、或いは含水樹脂のpHとしては、25℃における測定値で3〜11であることが好ましく、3〜8であればさらに好ましく、3〜7がとくに好ましい。
【0034】
生成する塩素化塩化ビニル系樹脂スラリー、或いは含水樹脂のpHが3〜8の範囲にあれば、生産設備のコストが低減できるほか、使用する次亜塩素酸塩の量を低く抑えることができる。
【0035】
また、スラリーであればスラリーのpHはスラリーに直接測定用のpH電極を漬けて測定する方法で測定することができ、含水樹脂であれば含水樹脂のpHは含水樹脂に少量の純水を添加してからpH電極を漬けその値から以下に示す式(1)によって推定される値を用いた。
【0036】
(含水樹脂のpH)=(測定されたpH)+log(V1/(V1+V2)) (1)
V1=含水樹脂中の水分量(ml)
V2=添加した水分量(ml)
【0037】
次亜塩素酸塩を添加する温度とは、含水樹脂または塩素化塩化ビニル系樹脂スラリーに対して次亜塩素酸塩を添加するときの温度および次亜塩素酸塩処理中の温度を示し、その温度は、特に限定されないが、水を含む操作であるために0〜95℃が好ましく、塩酸と次亜塩素酸塩との反応に要する時間、次亜塩素酸塩の分解など生産コストの観点から40〜95℃がより好ましく、60〜95℃が更に好ましい。
【0038】
次亜塩素酸塩処理後の塩素化塩化ビニル系樹脂の含水樹脂と水を乾燥前に分離する装置としては、各種濾過機、遠心分離機などが挙げられる。分離装置に洗浄能力の機能を付与したものであれば、脱水した樹脂にさらに注水洗浄と、その後の再脱水ができるので、効率の良い洗浄ができる。濾過機としては、特に限定されないが、加圧濾過機や減圧濾過機などを用いることができ、さらに濾過による水分排除効果を高めるためにフィルタプレスを用いてもよい。遠心分離機としては、遠心力によって水分排除効果を持つものであれば特に限定されない。具体的には、回転軸が垂直である竪型遠心分離機や回転軸が水平である横型遠心分離機を用いることができる。特に限定されないが、含水樹脂の取り出しやすさなど生産しやすさの観点から遠心分離機を用いるのが好ましい。分離後再度水でスラリー化し、次亜塩素酸塩やその他生成塩類、残留塩酸を洗浄し、その後、再度分離装置を使用して、含水樹脂と水を分離する方法を用いてもよい。本操作後の含水樹脂の含水率は、特に制限されるものではないが、含水樹脂に対して10〜50重量%とすることが、乾燥でのエネルギー効率の点で有効である。さらに10〜35重量%であれば乾燥でのエネルギー効率がさらに高まってなお良い。
【0039】
また、含水樹脂中の水分の乾燥には各種乾燥機を用いることができる。例えば伝導伝熱方式では、溝型撹拌乾燥機など、熱風受熱方式では流動乾燥機などを用いることにより、製品粉粒体とすることができる。また、その乾燥機の後に押し出し機を設けてペレット化することもできるし、押し出し機に脱気機能を設けて水分の蒸発と同時にペレット化する装置を用いてもよい。乾燥方式としては、特に限定されないが、生産コストの観点から流動乾燥機を用いるのが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を示して、本発明の具体的な実施形態をより詳細に説明するが、これらは何ら本発明を限定するものではない。
【0041】
実施例中、塩酸濃度は樹脂固形分に対する濃度であって、25℃において、対象サンプルのうち樹脂で1.0g相当分をテトラヒドロフラン40mlで溶解して樹脂中塩酸を抽出した後、メタノール:水=5:1(体積比)の混合溶液30ml加えて樹脂成分を再沈させたサンプルを用い、0.01N苛性ソーダ水溶液を用いて滴定してpHが7.0となった時点の滴定量から算出し、サンプルを添加しない場合(ブランク)の滴定量を差し引くことにより定量したものである。
【0042】
実施例中スラリーのpHは、スラリーサンプルを一部採取してビーカーなどの容器に入れ、25℃に保温したウォーターバスの中でサンプル温度が25℃になったことを確認して測定した値をいい、測定には(株)堀場製作所製D−51Sを用いた。
【0043】
(初期着色性の評価方法)
実施例中、初期着色性については以下の方法で評価した。得られたCPVC乾燥粉体100重量部に対して、耐衝撃強化剤(カネカ社製商品名“カネエースB22”)10重量部、ジブチル錫メルカプト系安定剤3重量部、パラフィンワックス1.2重量部を配合し、この配合物を175℃のロールで3分間混練りして厚さ0.6mmのシートを作成した。このシートを重ね合わせて180℃で10分間プレスし、厚み3mmのプレス板を得た。このプレス板は初期着色性に供した。
【0044】
初期着色性は、上記プレス板を目視により次の基準に従った。
A:無色に近い淡黄色
B:淡黄色
C:黄色
【0045】
(実施例1)
撹拌翼、冷却用ジャケット、紫外線照射ランプを付設した内容積50Lの塩素化反応器に、重合度670の塩化ビニル樹脂15kg、イオン交換水35kgを仕込み、攪拌しながら反応器内の真空脱気と窒素置換を所定時間おこなった後、塩素ガスを系内に吹き込み、紫外線を照射して塩素化反応を開始した。なお反応器内の温度及び圧力はそれぞれ50℃、0.02MPaに制御した。経時的に塩酸濃度を測定し、予め作成した検量線より、塩素化度64重量%に到達した時点で、紫外線照射を停止し塩素化反応を終了し、塩素化塩化ビニル樹脂スラリーを得た。
【0046】
得られた塩素化塩化ビニル樹脂スラリー1.5Lを、ブフナーロートで濾過して含水樹脂を得た。濾過は吸引濾過瓶およびダイヤフラム式真空ポンプを用いて約300mmHgの圧力で25℃雰囲気下で1分間減圧濾過する方法で実施した。得られた含水樹脂の含水率は含水樹脂に対して約25重量%であった。これを内容積2Lのガラス製撹拌槽に入れ、水を追加してスラリー体積を1.5Lとした。これを恒温水槽に入れて内温を80℃としたのち、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度13重量%)を添加してpHを6.5とした。その後もpH6.5となるよう監視しながら次亜塩素酸ナトリウム水溶液を滴下し、次亜塩素酸ナトリウム添加開始から60分で終了し、再度ブフナーロートで濾過して含水樹脂を得た。濾過は吸引濾過瓶およびダイヤフラム式真空ポンプを用いて約300mmHgの圧力で25℃雰囲気下で1分間減圧濾過する方法で実施した。得られた含水樹脂の含水率は含水樹脂に対して約25重量%であった。
【0047】
このとき、次亜塩素酸ナトリウム添加1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は70ppmであった。結果を表1に示す。
【0048】
得られた含水樹脂を熱風温度120℃の箱型乾燥機にて含水率0.1重量%以下になるまで乾燥させたところ、得られた乾燥粉体樹脂中の塩酸濃度は70ppmであり乾燥中塩酸が揮発していないことが確認された。
【0049】
更に、この乾燥粉体樹脂を前記した初期着色性の評価方法に基づいて評価した。初期着色性はA(無色に近い淡黄色)であった。
【0050】
(実施例2)
次亜塩素酸ナトリウム処理中の内温を70℃とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0051】
このとき、次亜塩素酸ナトリウム添加1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は70ppmであった。結果を表1に併せて示す。
【0052】
得られた含水樹脂を実施例1と同様に乾燥させたところ、得られた乾燥粉体中の塩酸濃度は同様に70ppmであり乾燥中塩酸が揮発していないことが確認された。
【0053】
(実施例3)
次亜塩素酸ナトリウム処理中の内温を65℃とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0054】
このとき、次亜塩素酸ナトリウム添加1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は70ppmであった。結果を表1に併せて示す。
【0055】
得られた含水樹脂を実施例1と同様に乾燥させたところ、得られた乾燥粉体中の塩酸濃度は同様に70ppmであり乾燥中塩酸が揮発していないことが確認された。
【0056】
(実施例4)
次亜塩素酸ナトリウム処理中のpHを4.0とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0057】
このとき、次亜塩素酸ナトリウム添加1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は70ppmであった。結果を表1に併せて示す。
【0058】
得られた含水樹脂を実施例1と同様に乾燥させたところ、得られた乾燥粉体中の塩酸濃度は同様に70ppmであり乾燥中塩酸が揮発していないことが確認された。
【0059】
(実施例5)
苛性ソーダ水溶液でpHを2.0とした後、次亜塩素酸ナトリウムを加え次亜塩素酸ナトリウム処理中のpHを6.5とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0060】
このとき、次亜塩素酸ナトリウム添加1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は70ppmであった。結果を表1に併せて示す。
【0061】
得られた含水樹脂を実施例1と同様に乾燥させたところ、得られた乾燥粉体中の塩酸濃度は同様に70ppmであり乾燥中塩酸が揮発していないことが確認された。
【0062】
(実施例6)
実施例1において、塩素化塩化ビニル樹脂スラリー1.5Lを1分間減圧濾過した後に、更に樹脂洗浄液として含水樹脂に対して250重量部のイオン交換水を追加して再び濾過した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0063】
得られた含水樹脂の含水率は含水樹脂に対して約25重量%であった。
【0064】
このとき次亜塩素酸ナトリウム添加1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は70ppmであった。結果を表1にまとめて示す。
【0065】
得られた含水樹脂を熱風温度120℃の箱型乾燥機にて含水率0.1重量%以下になるまで乾燥したところ、得られた塩酸濃度は70ppmであり、乾燥中、塩酸が揮発していないことが確認された。
【0066】
更に、この乾燥粉体樹脂を前記の初期着色性の評価方法に基づいて評価した。初期着色性はA(無色に近い淡黄色)であった。
【0067】
(実施例7)
処理剤を次亜塩素酸カリウムとした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0068】
このとき、次亜塩素酸カリウム添加1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は70ppmであった。結果を表1にまとめて示す。
【0069】
(実施例8)
処理剤を次亜塩素酸カルシウムとした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0070】
このとき、次亜塩素酸カリウム添加1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は70ppmであった。結果を表1にまとめて示す。
【0071】
(実施例9)
次亜塩素酸ナトリウム処理中のpHを3.0とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0072】
このとき、次亜塩素酸ナトリウム添加1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は70ppmであった。結果を表1に併せて示す。
【0073】
得られた含水樹脂を実施例1と同様に乾燥させたところ、得られた乾燥粉体中の塩酸濃度は同様に70ppmであり乾燥中塩酸が揮発していないことが確認された。
【0074】
(実施例10)
次亜塩素酸ナトリウム処理中のpHを8.0とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0075】
このとき、次亜塩素酸ナトリウム添加1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は90ppmであった。結果を表1に併せて示す。
【0076】
得られた含水樹脂を実施例1と同様に乾燥させたところ、得られた乾燥粉体中の塩酸濃度は同様に70ppmであり乾燥中塩酸が20ppmだけ揮発していることが確認された。
【0077】
(比較例1)
実施例1で得られた塩素化塩化ビニル樹脂スラリーをブフナーロートで濾過する際に、濾過後樹脂に対して10倍量の純水を含水樹脂に加え、再度濾過した。濾過は吸引濾過瓶およびダイヤフラム式真空ポンプを用いて約300mmHgの圧力で25℃雰囲気下で1分間減圧濾過する方法で実施した。得られた含水樹脂の含水率は含水樹脂に対して約25重量%であった。このとき含水樹脂に含まれる塩酸濃度は800ppmであった。これを内容積2Lのガラス製撹拌槽に入れ、純水を追加してスラリー体積を1.5Lとした。これを恒温水槽に入れて内温を80℃として撹拌した。
【0078】
このとき、1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は460ppmであった。さらに3時間後まで延長しても220ppmであった。結果を表1に併せて示す。
【0079】
得られた含水樹脂を実施例1と同様に乾燥させたところ、得られた乾燥粉体中の塩酸濃度は70ppmであり乾燥中塩酸が150ppm揮発していることが確認された。
【0080】
更に、この乾燥粉体樹脂を前記の初期着色性の評価方法に基づいて評価した。初期着色性はB(淡黄色)であった。
【0081】
また、比較例1と前記実施例1,4との樹脂中塩酸濃度経時変化のグラフを図2に示す。本発明の実施例1,4の塩酸濃度は、比較例1に比べて、短時間に大きく低下することがわかる。
【0082】
(比較例2)
内温を110℃とした以外は比較例1と同様に実施した。
【0083】
このとき、1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は350ppmであった。さらに3時間後まで延長しても220ppmであった。結果を表1に併せて示す。
【0084】
得られた含水樹脂を実施例1と同様に乾燥させたところ、得られた乾燥粉体中の塩酸濃度は70ppmであり乾燥中塩酸が150ppm揮発していることが確認された。
【0085】
(比較例3)
次亜塩素酸ナトリウムではなく苛性ソーダ水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0086】
このとき、苛性ソーダ水溶液添加1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は400ppmであった。さらに3時間後まで延長しても190ppmであった。結果を表1に併せて示す。
【0087】
得られた含水樹脂を実施例1と同様に乾燥させたところ、得られた乾燥粉体中の塩酸濃度は70ppmであり乾燥中塩酸が120ppm揮発していることが確認された。
【0088】
更に、この乾燥粉体樹脂を前記の初期着色性の評価方法に基づいて評価した。初期着色性はB(淡黄色)であった。
【0089】
(比較例4)
次亜塩素酸ナトリウムではなく炭酸ナトリウム水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0090】
このとき、炭酸ナトリウム水溶液添加1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は450ppmであった。さらに3時間後まで延長しても210ppmであった。結果を表1に併せて示す。
【0091】
得られた含水樹脂を実施例1と同様に乾燥させたところ、得られた乾燥粉体中の塩酸濃度は70ppmであり乾燥中塩酸が140ppm揮発していることが確認された。
【0092】
更に、この乾燥粉体樹脂を前記の初期着色性の評価方法に基づいて評価した。初期着色性はB(淡黄色)であった。
【0093】
(比較例5)
次亜塩素酸ナトリウムではなくクエン酸ナトリウム水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0094】
このとき、クエン酸ナトリウム水溶液添加1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は500ppmであった。さらに3時間後まで延長しても220ppmであった。結果を表1に併せて示す。
【0095】
得られた含水樹脂を実施例1と同様に乾燥させたところ、得られた乾燥粉体中の塩酸濃度は70ppmであり、乾燥中塩酸が150ppm揮発していることが確認された。
【0096】
(比較例6)
比較例1において、塩素化塩化ビニル樹脂スラリーを1分間減圧濾過した後に、更に樹脂洗浄液として含水樹脂に対して250重量部のイオン交換水を追加して再び濾過した以外は、比較例1と同様の操作を行った。
【0097】
このとき含水樹脂に含まれる塩酸濃度は800ppmであった。これを内容積2Lのガラス製攪拌槽に入れ、純水を追加してスラリー体積を1.5Lとした。これを恒温水槽に入れて内温を80℃として攪拌した。1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は460ppmであった。さらに3時間後まで延長しても220ppmであった。結果を表1にまとめて示す。
【0098】
更に、この乾燥粉体樹脂を前記の初期着色性の評価方法に基づいて評価した。初期着色性はB(淡黄色)であった。
【0099】
(比較例7)
比較例3において、塩素化塩化ビニル樹脂スラリーを1分間減圧濾過した後に、更に樹脂洗浄液として含水樹脂に対して250重量部のイオン交換水を追加して再び濾過した以外は、比較例3と同様の操作を行った。
【0100】
このとき苛性ソーダ水溶液添加1時間後の含水樹脂の塩酸濃度は400ppmであった。さらに3時間後まで延長しても190ppmであった。結果を表1にまとめて示す。
【0101】
得られた含水樹脂を実施例1と同様に乾燥させたところ、得られた乾燥粉体中の塩酸濃度は70ppmであり、乾燥中塩酸が150ppm揮発していることが確認された。
【0102】
更に、この乾燥粉体樹脂を前記の初期着色性の評価方法に基づいて評価した。初期着色性はB(淡黄色)であった。
【0103】
(比較例8)
比較例4において、塩素化塩化ビニル樹脂スラリーを1分間減圧濾過した後に、更に樹脂洗浄液として含水樹脂に対して250重量部のイオン交換水を追加して再び濾過した以外は、比較例4と同様の操作を行った。
【0104】
このとき炭酸ナトリウム水溶液添加1時間後の含水樹脂の塩酸濃度は450ppmであった。さらに3時間後まで延長しても210ppmであった。結果を表1にまとめて示す。
【0105】
得られた含水樹脂を比較例4と同様に乾燥させたところ、得られた乾燥粉体中の塩酸濃度は70ppmであり、乾燥中塩酸が140ppm揮発していることが確認された。
【0106】
更に、この乾燥粉体樹脂を前記の初期着色性の評価方法に基づいて評価した。初期着色性はB(淡黄色)であった。
【0107】
(比較例9)
比較例9は前記特許文献4に記載の例の追試であり、本発明の実施例と比較する。
【0108】
撹拌翼、冷却用ジャケットを付設した内容積50Lの塩素化反応器に、重合度670の塩化ビニル樹脂5kg、イオン交換水12kg、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度13%)21.8kgを仕込み、攪拌しながら反応器内の真空脱気と窒素置換を所定時間おこなった後、35重量%塩酸水溶液を8.3kgを添加して塩素化反応を開始した。なお反応器内の温度は60℃に制御した。6時間後塩素化反応を終了し、塩素化塩化ビニル樹脂スラリーを得た。このとき次亜塩素酸ナトリウムは樹脂スラリー中に残存していなかった。
【0109】
得られた塩素化塩化ビニル樹脂スラリー1.5Lを、ブフナーロートで濾過して、濾過後樹脂に対して10倍量の純水を含水樹脂に加え、再度濾過した。濾過は吸引濾過瓶およびダイヤフラム式真空ポンプを用いて約300mmHgの圧力で25℃雰囲気下で1分間減圧濾過する方法で実施した。得られた含水樹脂の含水率は含水樹脂に対して約25重量%であった。このとき含水樹脂に含まれる塩酸濃度は800ppmであった。これを内容積2Lのガラス製撹拌槽に入れ、純水を追加してスラリー体積を1.5Lとした。これを恒温水槽に入れて内温を80℃として撹拌した。
【0110】
このとき、1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は460ppmであった。さらに3時間後まで延長しても220ppmであった。結果を表1に併せて示す。
【0111】
得られた含水樹脂を実施例1と同様に乾燥させたところ、得られた乾燥粉体中の塩酸濃度は70ppmであり乾燥中塩酸が150ppm揮発していることが確認された。
【0112】
(比較例10)
比較例10は前記特許文献5に記載の例の追試であり、本発明の実施例と比較する。
【0113】
撹拌翼、冷却用ジャケット、紫外線照射ランプを付設した内容積50Lの塩素化反応器に、重合度670の塩化ビニル樹脂7.5kg、イオン交換水42.5kg、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度13重量%)2.1kg(次亜塩素酸ナトリウム0.58kg)を仕込み、攪拌しながら反応器内の真空脱気と窒素置換を所定時間おこなった後、塩素ガスを系内に吹き込み、紫外線を照射して塩素化反応を開始した。なお反応器内の温度及び圧力はそれぞれ50℃、0.02MPaに制御した。経時的に塩酸濃度を測定し、予め作成した検量線より、塩素化度64重量%に到達した時点で、紫外線照射を停止し塩素化反応を終了し、塩素化塩化ビニル樹脂スラリーを得た。このとき次亜塩素酸ナトリウムは樹脂スラリー中に残存していなかった。
【0114】
得られた塩素化塩化ビニル樹脂スラリー1.5Lを、ブフナーロートで濾過して、濾過後樹脂に対して10倍量の純水を含水樹脂に加え、再度濾過した。濾過は吸引濾過瓶およびダイヤフラム式真空ポンプを用いて約300mmHgの圧力で25℃雰囲気下で1分間減圧濾過する方法で実施した。得られた含水樹脂の含水率は含水樹脂に対して約25重量%であった。このとき含水樹脂に含まれる塩酸濃度は800ppmであった。これを内容積2Lのガラス製撹拌槽に入れ、純水を追加してスラリー体積を1.5Lとした。これを恒温水槽に入れて内温を80℃として撹拌した。
【0115】
このとき、1時間後の含水樹脂中の塩酸濃度は460ppmであった。さらに3時間後まで延長しても220ppmであった。結果を表1に併せて示す。
【0116】
得られた含水樹脂を実施例1と同様に乾燥させたところ、得られた乾燥粉体中の塩酸濃度は70ppmであり乾燥中塩酸が150ppm揮発していることが確認された。
【0117】
【表1】

【0118】
以上のように、実施例1〜10で得られた乾燥処理前のCPVC樹脂、すなわち含水樹脂中の塩酸濃度が低いことが確認でき、これにより、その後の乾燥処理の塩酸除去負荷を軽減することができた。また、初期着色性についても改善がみられた。
【0119】
また、比較例1〜10の態様は、乾燥後の樹脂中の塩素残存濃度が70ppmになっていた。理由は定かではないが、本発明の実施例1〜10の態様と異なり、いずれも初期着色が劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】図1は本発明の一実施例における塩素化反応装置の説明図である。
【図2】図2は本発明の実施例1,4および比較例1における樹脂中塩酸濃度経時変化の説明図である。
【符号の説明】
【0121】
1 反応装置
2 冷却ジャケット
3 塩素供給装置
4 水銀灯
5 撹拌機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂、または塩化ビニルと他の共重合可能な単量体との共重合体を塩素化して得られる塩素化塩化ビニル系樹脂スラリーから副生される塩酸の水溶液を分離する工程中或いは工程後に、次亜塩素酸塩を塩素化塩化ビニル樹脂スラリーまたは含水樹脂に添加する塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記次亜塩素酸塩を添加することによって塩素化塩化ビニル系樹脂スラリーまたは含水樹脂の25℃におけるpHを3〜8とする請求項1に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記塩素化塩化ビニル系樹脂スラリーまたは含水樹脂に、次亜塩素酸塩の水溶液を間欠的または連続的に添加することにより、処理中のpHを安定化させる請求項2に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記次亜塩素酸塩を添加するときの含水樹脂または再分散スラリー温度は、0〜95℃である請求項1〜3のいずれか1項に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、及び次亜塩素酸カルシウムから選ばれる少なくとも一つである請求項1〜4のいずれか1項に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記塩素化は、スラリー化した塩化ビニル系樹脂に塩素を付加させるに際し、塩素ガスを前記スラリー中に供給しながら光を照射して塩素を反応させる光塩素化法、熱を用いて塩素を反応させる熱塩素化法、及び触媒を用いて塩素化する方法から選ばれる少なくとも一つの方法で行う請求項1〜5のいずれか1項に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記塩素化前の含水樹脂の含水率を、含水樹脂に対して10〜50重量%の範囲にしておく請求項1〜6のいずれか1項に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記塩素化塩化ビニル系樹脂スラリーまたは含水樹脂中の次亜塩素酸塩の有効塩素濃度は、1重量%以上16重量%以下の範囲である請求項1〜7のいずれか1項に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記次亜塩素酸塩を添加する前に塩基性物質を添加してpHを調整する請求項1〜8のいずれか1項に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記塩基性物質は、苛性ソーダ、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、及びアンモニアから選ばれる少なくとも一つである請求項9に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項11】
前記次亜塩素酸塩によって処理された含水樹脂またはスラリーを、さらに濾過、遠心分離または沈降分離法を用いて樹脂粉粒体を分離した後、乾燥工程において、乾燥機を使用することにより樹脂粉粒体を得る請求項1〜10のいずれか1項に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項12】
前記塩化ビニルと他の共重合可能な単量体が、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化アリル、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸エステル、及びビニルエーテルから選ばれる少なくとも一つである請求項1〜11のいずれか1項に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項13】
前記塩化ビニルと他の共重合可能な単量体の比率が、塩化ビニル/他の共重合可能な単量体=50重量%/50重量%〜99.9重量%/0.1重量%の範囲である請求項1〜12のいずれか1項に記載の塩素化塩化ビニル系樹脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−38129(P2008−38129A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350243(P2006−350243)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】