説明

塩素化表面を持つプロピレン又はエチレンを基材とする高分子の物質、その製法及び使用

本発明は、塩素化表面プロピレン又はエチレンユニットを有する高分子の物質、特に、成形製品として自動車産業において使用される物質、及び他の各種分野での使用に関する。本発明は、これら物質の製法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素化された表面を持つプロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とする重合体を含有する新規な物質に関する。これらの高分子の物質は、特に、自動車産業、例えば、成型製品又は押出し成形製品において使用され及び各種分野における用途において使用される物質である。本発明は、これら重合体及びこれら物質の製法にも関する。
【背景技術】
【0002】
EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン単量体)の如き多くのエラストマーが、自動車産業において使用されている。EPDM及び他の種類のエラストマーは、特に、気候変化、湿度及び温度の変化に対する抵抗性によって特徴付けられる多数の利点、例えば、化学的及び物理的不活性を有している。しかし、未処理の成型又は押出し成形したEPDMは、他の種類のエラストマーと同様に、比較的高い摩擦係数(乏しい滑り特性のため、特定の用途に関しては妨げとなる)を有している。EPDMは低い不飽和レベルを有する(ノルボルネンの如き基によって提供されるジエンが少量存在する)ため、高不飽和レベルを持つエラストマーに一般的に適用されている炭素−炭素二重結合に塩素を付加する反応法では、EPDMの場合、満足できる摩擦係数を得ることができない。このように、この摩擦係数を低減するために、特に、これらエラストマーの表面をニスにて被覆するか、又は潤滑剤(例えば、フッ素化重合体、グラファイト、二硫化モリブデン、タルク、各種のオイル、及び強化用繊維)を配合することによる各種の技術が提案されている。しかし、これらの潤滑剤又はこれらのニスは高価であり、物質の調製法に、工程を追加するものである。
【0003】
さらに、EPDMの溶液相でのハロゲン化反応も記載されている。しかし、これらの反応は、より詳しくは、ラテックス状態における物質の変性に適用されるものであり、このような物質に対して、本発明が目的とする、いかなる特性をも付与するものではない。さらに、溶媒の使用は、操作の危険性及び汚染の恐れを排除するために、高価な装置を必要とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、これら弾性物質又は可塑性物質の摩擦係数を低減して及び/又は表面張力を増大して、これら物質を、多くの分野において使用されるものとするための簡単な技術を提供することは有益である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
これらの目的及び他の目的は、プロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とする弾性重合体又は可塑性重合体を含有する物質であって、前記物質の表面に存在する前記プロピレン及び/又はエチレンモチーフの少なくともいくつかが塩素化されていることを特徴とする物質を提案する本発明によって達成される。
【0006】
本発明の他の目的は、このように塩素化された重合体を含有する物質を製造する方法であって、(i)ガス状塩素又はプロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とする弾性重合体又は可塑性重合体を含有する物質を、前記モチーフに存在する少なくとも1の水素原子の少なくとも1の塩素原子による置換反応に必要なエネルギーレベルに達するに充分な温度とし、及び(ii)前記工程(i)と同時又は後に、前記物質を、前記ガス状塩素と接触させる工程を包含することを特徴とする物質の製法にある。
【0007】
これにより、本発明による高分子の物質では、表面において及び特に表面においてのみ(表面は厚さ12μm以下である)、前記重合体のプロピレン及び/又はエチレンサイトに存在する水素原子を全て又は部分的に置換した塩素が存在している。塩素原子は重合体(特にEPDM)の炭素鎖に強く結合する(原子価結合)ため、本発明による物質について観察される摩擦係数の低下は、極性又は非極性溶媒、アルカン、アルケン、アルキン、希釈強酸又は希釈強塩基にて洗浄する場合でも不変であるとの利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
使用するプロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とする弾性重合体又は可塑性重合体は、一般に、その主鎖にプロピレン及び/又はエチレンユニットを有する重合体である。
【0009】
本発明による物質に含有されるプロピレン及び/又はエチレンを基材とする重合体は、主鎖に対する炭化水素鎖ペンダントを有することができ、又は有していなくてもよい。これらの炭化水素鎖は、官能基を有することができ、又は有していなくてもよい。本発明によるプロピレン及び/又はエチレンを基材とする重合体は、重合体に、それら自身への折重ねを付与する及び/又はいくつかの重合体間のネットワークを形成する架橋モチーフを有することができる。
【0010】
プロピレン及び/又はエチレンを基材とする重合体は、天然のものでもよく、又は有利には合成のものである。これらは、特に、その主鎖に、不飽和モチーフ(特に、炭素−炭素二重結合タイプ)を有する単量体ユニット、例えば、5-エチリデン-2-ノルボルネン、1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、シクロヘキサジエン、5-ブチリデン-2-ノルボルネン及びジシクロペンタジエン単量体を有することができる。主に、本発明において使用されるプロピレン及び/又はエチレンを基材とする重合体における不飽和モチーフを有する単量体の割合は20質量%以下である。
【0011】
プロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とする弾性重合体の例としては、EODM(エチレン・オレフィン・ジエン単量体)、特に、EPDM、EOM(エチレン・オレフィン単量体:ジエンモチーフを持たない)、さらに具体的には、EPM(エチレン・プロピレン単量体:ジエンモチーフを持たない)又はEPT(エチレン・プロピレンターポリマー)が挙げられる。とりわけ、EPDMが使用される。
【0012】
本発明に従って使用されるエラストマーは硬化されても、又はされなくてもよく、酸化防止剤によって保護されても、又はされなくてもよい。
【0013】
本発明において使用されるEODMは、低不飽和レベルを持つ弾性重合体として定義される。これらは、一般的に、エチレン単量体、炭素原子3〜8個を有する少なくとも1のα-モノオレフィン、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン及び1-デセン等(好ましくは、プロピレン)、及び直鎖又は分枝鎖を持つ非環式又は脂環式ジエン(例えば、上述の不飽和モチーフを有する単量体)を有する。特に、EPDMが挙げられる。特に適用されるEPDMは、エチレン20〜80%、プロピレン80〜20%及び非共役ジエン2〜11%を含有するものである(%は質量基準である)。一般に、共役ジエンはノルボルンネンである。
【0014】
プロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とする可塑性重合体の例としては、ポリプロピレン又はポリエチレン(特に、高密度ポリエチレン:HDPEと称される)が挙げられる。
【0015】
プロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とする重合体を含有する物質は、特に、カーボンブラック、オイル、架橋剤、活性剤(例えば、酸化亜鉛、他の金属酸化物、脂肪酸(例えば、ステアリン酸)又はその塩)、充填剤又は強化剤(例えば、炭酸カルシウム又は炭酸マグネシウム、シリカ、アルミニウムケイ酸塩等)、可塑化剤及び紫外線安定剤;抗劣化剤;軟化剤;ワックス及び顔料を含む他の成分を含有することもできる。
【0016】
物質は、プロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とする重合体の主マトリックスとブレンドされた他の重合体、特に、高不飽和レベル(特に、エチレン系不飽和)を持つ天然又は合成の重合体、例えば、天然又は合成のポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、スチレン化ポリブタジエン(SBT)又はニトリル化ポリブタジエン(NBR)等を含有できる。もちろん、当業者であれば、これらブレンドの適正な適合性及び量を決定でき、また、本発明の範囲内において、所望の特性を損なうことはないであろう。
【0017】
上述のように定義され、本発明による物質中に存在するプロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とする重合体の質量比は、物質の総質量に関して、有利には60%以上、特に80%以上である。
【0018】
物質におけるこれら重合体の最大量は、100%まで達することができる。
【0019】
物質中に他の重合体が存在する場合、不飽和重合体(特に、エラストマー)の相対量は、存在する重合体100部当たり40部以下である。このように、得られるブレンドの重合体(特に、エラストマー)の質量相対割合は、プロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とする重合体(特に、EPDMタイプの弾性重合体)60%及び不飽和重合体(特に、不飽和エラストマー)40%に達することができる。
【0020】
本発明による方法において使用される原料重合体は、当業者にとって公知の各種の方法によって、予め、成型、押出し成形又は成形される。重合体は硬化されてもよく、されなくてもよい。重合体を硬化させる方法は、一般的に使用されているものである(イオウ、過酸化物等による硬化)。
【0021】
このように、原料重合体は、ワイパーブレードの形状、又は他の用途、例えば、シール、自動車のドアガラスウェザーストリップ、自動車のドアシールに適合する各種の他の形状でもよい。
【0022】
従って、本発明による方法は、驚くべきことには、及び有利なことには、重合体のエチレン又はプロピレンモチーフに存在する水素原子を塩素原子によって置換することを可能にする。これら重合体の塩素化は、前記重合体を含有する物質の摩擦係数を低下させ、その表面エネルギーを増大させることを可能にする。このようにして塩素化された重合体を含有する物質は、低減された粘着作用及び/又は改善された「バリヤー」特性(又はシーリング特性)有しており、これら特性は、これら物質が、ワイパーブレード(弾性物質製)、自動車のドアウインドウウェザーストリップ及びシールとして、又は原油タンクの内装コーティング(又は物質を構成するため)として使用することを可能にする。
【0023】
本発明による物質の重合体に存在する塩素の含量は、特に、使用される物理的パラメーター(例えば、温度、圧力、又は塩素との反応時間)を関数として、広い範囲で変動できる。本発明による物質の重合体に存在する塩素の含量は、物質の表面から厚さ3μmの部分において、塩素/(存在する化学元素の合計)の原子百分率として表示して、有利には8%以上、好ましくは、10%(できれば、12%)である。最大塩素含量は、所望の品質に従って変動できる。例えば、塩素/(存在する化学元素の合計)の原子百分率として表示して、表面の厚さ3μmの部分において、20%までの値、できれば30%に達することができる。塩素含量については、走査電子顕微鏡を使用し、JEOL 5310LVタイプのEDS(電子分散分光分析)法(エネルギー:20kV;高真空モード;炭素層の析出によるサンプル調製;実験条件:倍率:×200,プローブ電流:1nA,捕捉時間:400秒,アナライザー:ケイ素−リチウム)によって測定した。較正NaCl基準を使用して、塩素含量を決定した。
【0024】
本発明の方法の工程(i)によれば、ガス状塩素及び/又はプロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とする弾性重合体又は可塑性重合体を、前記モチーフに存在する少なくとも1の水素原子の少なくとも1の塩素原子による置換反応に必要なエネルギーレベルに達するに充分な温度とする。
【0025】
工程(i)の好適な1具体例によれば、プロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とする弾性重合体又は可塑性重合体を、前記モチーフに存在する少なくとも1の水素原子の少なくとも1の塩素原子による置換反応に必要なエネルギーレベルに達するに充分な温度とする。この場合、ガス状塩素を加熱しても、加熱しなくてもよく、有利には、室温(約18〜25℃)に維持する。
【0026】
工程(i)の他の1具体例によれば、塩素ガスを、前記モチーフに存在する少なくとも1の水素原子の少なくとも1の塩素原子による置換反応に必要なエネルギーレベルに達するに充分な温度とする。塩素ガスは重合体よりも一般に小さい熱容量を有するため、満足できる塩素化レベルを達成するためには、工程(ii)の塩素化反応の時間は、この具体例によれば、一般的に長い。この場合、プロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とする弾性重合体又は可塑性重合体を加熱しても、又は加熱しなくてもよい。
【0027】
前記モチーフに存在する少なくとも1の水素原子の、塩素ガスからの少なくとも1の塩素原子による置換反応に必要なエネルギーレベルに達するに充分な温度とは、塩素化反応を行うことができるエネルギーの1形態である。この熱エネルギーは、他のエネルギー源、例えば、特に、電磁放射線によって供給されるエネルギーによって、部分的に又は完全に交換される。適用されたエネルギーは、特に、重合体及び/又は塩素ガスが、塩素化反応に必要な活性化エネルギー閾値に達することを許容する。特に、紫外線から(さらに詳しくは、400 nm以下の波長の放射線に対して透過性の石英壁を持つ反応器を通して)エネルギーを得ることができる。ガス状プラズマへの塩素の導入によって、反応は開始(及び実施)される。プラズマによって放出されたエネルギーは、プロピレン及び/又はエチレンモチーフのメチル官能基の飽和炭素にグラフトできるラジカル塩素原子を得ることを可能にする。
【0028】
工程(i)における加熱は、赤外線、マイクロ波又は当業者にとって公知の他の手段によって行われる。赤外線による加熱は、加熱されるべき反応体が置かれた反応器のガラス壁を通して行われる。
【0029】
本発明の方法によれば、重合体とガス状塩素との接触を一緒に行う(溶媒の不存在下において)。実際には、接触は、重合体をガス状塩素浴に浸漬することによって、又は重合体が配置された装置においてガス状塩素を循環させることによって行われる。
【0030】
本発明による方法において使用されるガス状塩素は純粋なものであるか、又は、他のガス、例えば、窒素、酸素、又は塩素と適合する及び反応に関して不活性である他のガスにて、各種の割合で希釈されたものである。塩素ガスは、有利には、液体塩素のリザーブから取出されるか、又は二酸化マグネシウム‐塩酸タイプの化学反応を使用して発生される。
【0031】
前記モチーフに存在する少なくとも1の水素原子の少なくとも1の塩素原子による置換反応に必要なエネルギーレベルに達するに充分な温度は、使用する重合体によって変動できる。しかし、1例を示せば、この温度は、一般に、弾性重合体に関しては、100℃(又は110℃、できれば、120℃)以上であり、可塑性重合体に関しては、80℃(又は90℃、できれば、100℃)以上である。有利には、温度は、重合体の分解又は溶融温度未満である。この温度は、重合体の性質によって変動する。このように、例えば、EPDM又はEPMの分解開始温度は約240℃であり、ポリプロピレンの溶融温度は約145℃、ポリエチレンの溶融温度は90〜110℃(分子量によって変動)である。
【0032】
方法の工程(i)の好適な態様によれば、EPDMを、130〜220℃、特に、135〜215℃、できれば、140〜180℃の温度とする。
【0033】
方法の工程(i)の他の好適な態様によれば、EPMを、150〜210℃、特に、155〜215℃、できれば、160〜201℃の温度とする。
【0034】
本発明による方法(工程(i)及び/又は工程(ii))の圧力は、一般的及び有利には、大気圧である。もちろん、圧力が大気圧よりも高い又は低い場合、工程(i)の加熱温度及び反応時間は、特に、上述の活性化エネルギー閾値に達するように変更される。より低い圧力は、より長い反応時間及び/又はより高い温度によって補正されなければならない。これに対して、高い圧力は、反応時間及び温度を低減することを可能にする。
【0035】
工程(ii)の反応時間は、使用する他の物理的及び化学的パラメーターを関数として変動する。また、反応時間は、重合体に関して望まれる及び求められる(塩素化サイトの)塩素化の深度及び密度に左右される。1例を示せば、活性化温度に達している又は超えている場合の1秒、好ましくは5秒から、温度が活性化温度よりも数度低い場合の数分(有利には1分)までの範囲で変動できる。
【0036】
本発明による方法は、上述の工程に適合する装置において実施される。方法は、特に、端部に膜を具備する管状反応器(反応器内において、必要な温度となるように処理されるべきプロフィール(又は物質)が循環される)において行われる。
【0037】
増大された表面張力及び低減された摩擦係数を有する本発明による物質は、広い範囲の用途において、特に、自動車産業、航空機産業及び建設業において使用される。本発明による物質は成型され、及びシール、特に、ドア又はウインドウシール、プロフィール(特に、建設業において)、ケーブル、パイプ、カテーテルとして、又は靴、グローブ又はブーツとしても使用される。物質は、上述のように、内部コーティングとしても使用され、また、ガソリン又はエンジン用に使用される各種の他の石油製品のためのタンクの原料を構成できる。最後に、物質は、ワイパーブレードとしても使用される。
【0038】
このように、改善された表面張力及び低減された摩擦係数は、ドア及びウインドウが、成型部品の部分で動かなくなることを防止し、成型されたエラストマーの表面において動かなくなりがちなガラス又は各種の他の物質の後退を促進する。低減された摩擦係数は、例えば、自動車のドアのウインドウが上昇又は降下される際の「ウェザーストリップ」のきしみ音の発生を防止し、これに関連するモーターの電力を低減する。フロントガラス又はヘッドライト用のワイパーブレードの場合には、これらの特性は、高不飽和レベルを持つ塩素化エラストマー製のブレードの摺動性に関する利点を有するが、それらの欠点、すなわち、特に、亀裂の発生(時間の経過又は天候条件に左右される)を持たないようにすることを可能にする。
【0039】
従って、本発明の他の目的は、このように塩素化された重合体を含有する(又は重合体でなる)なる物質又はデバイスにある。これらの物質又はデバイスは、特に、シール、主としてドア又はウインドウシール、船舶又は航空機のポートホール、自動車ドアのウインドウ用ウェザーストリップ、プロフィール、ケーブル、パイプ、カテーテル、靴、ブーツ、ガソリン又はエンジン用に使用される各種の他の石油製品のためのタンクの内部コーティングである。
【0040】
本発明の他の態様及び利点は、下記の実施例から明確になるであろう。しかし、これら実施例は、単に説明のためのものであって、発明を制限するものではない。
【実施例】
【0041】
EPDMタイプのエラストマーを、水素原子の置換反応に必要なエネルギーレベルに達するに充分な温度160℃に加熱し、ついで、処理を受けるプロフィール(又は部品)よりも2〜3倍大きい直径を持ち、ガス状塩素を収容する管状のガラス反応器において、大気圧で、5秒間浸漬する。塩素ガスを、液体塩素リザーブから発生させるか、又は二酸化マグネシウム‐塩酸タイプの化学反応を利用して発生させる。ガスを、その分圧の単なる作用(これにより、密度の差異によって空気を排斥する)のもとで、反応器の基底部において導入する。エラストマーによって供給される熱エネルギーは、表面付近に位置する塩素原子に伝達され、このようにして、プロピレン(又はエチレン)基の水素の塩素原子による置換反応が行われる。5秒が経過した時点で、プロフィール(又は部品)を反応器から取出し、冷却させる。
【0042】
測定された効果:
EPDM/ガラスの摩擦係数は低下され、ワイパーブレードによって、一般に、値1.2が得られるが、値1.0も達成される。測定を、プレートガラス(「フロート」サイド上)の上において、速度300 mm/秒、負荷約0.15 N/cmについて行った。
塩素含量を、重合体の表面において、JEOL 5310LVタイプのEDS(電子分散分光分析)(エネルギー:20kV;高真空モード;炭素層の析出によるサンプル調製;実験条件:倍率:×200,プローブ電流:1nA,捕捉時間:400秒,アナライザー:ケイ素−リチウム)によって測定した。較正NaCl基準を使用して、塩素含量を決定した。
一般的な液体又はガスハロゲン化法は、Bayer社によって市販されているENB(エチレン−ノルボルネン)8%のBUNA 3850タイプのEPDMに関して、表面から厚さ3μmの部分における塩素含量(塩素/(塩素+炭素)の原子比として表される)7%を示す。
本発明による均一のラジカル塩素化の場合には、表面から厚さ3μmの部分における塩素含量(塩素/(存在する全ての化学元素の合計)の原子%として表される)は20%に達し、摩擦係数が大いに低減され、粘つき感がない。
本発明による処理の後、表面を水、洗剤又は溶媒(極性又は非極性)による洗浄又はブラッシングによっても、塩素が物質に化学的に結合し、単に表面に吸着されたものでないため、塩素含量は低減されず、摩擦係数も変化されない。硬化したEPDM(表面において塩素と結合できる不飽和成分を含有する)の場合、塩素がEPDMの炭素鎖と結合していれば、表面の清浄化によっても、塩素含量は何ら変化しない。溶媒による清浄化後では、EDSアナライザーのX線に対するバリヤーを形成する生成物が除去されるため、わずかではあるが、塩素含量の増大が測定された。
EPDM物質は、その本体では、変性されず、損なわれることもない。処理は、深さ約10μmを越えて進行することはない。
本発明による処理の場合、高倍率での観察でも、塩素化ジエンエラストマーについてしばしば存在する亀裂現象は認められなかった。
表面エネルギー(界面張力)が大いに増大され、これにより、コーティング、接着剤、インク等の良好な接着を可能にする。
測定されるべき表面エネルギー範囲をカバーする既知の表面張力を持つ液体を使用する、「表面湿式」と称される測定方法に従って:
未処理物質:表面張力=50mN/m
本発明による塩素化の後:表面張力=70mN/m
塩素原子によって置換されたプロピレン又はエチレンモチーフのメチル官能基の数は、エネルギー(熱エネルギー、等)及び重合体/ガスの接触時間の関数である。
EPDMの熱活性化(熱分解)の場合、温度は160℃より高い(大気圧において)。時間は2秒以上である。
【0043】
イオウにて硬化させたEPDM(前記のものと同一)に関して得られた値:
エラストマーの温度:170〜180℃;大気圧における、純粋な塩素ガスへの3〜5秒間の浸漬
塩素含量を、重合体の表面において、JEOL 5310LVタイプのEDS(電子分散分光分析)(エネルギー:20kV;高真空モード;炭素層の析出によるサンプル調製;実験条件:倍率:×200,プローブ電流:1nA,捕捉時間:400秒,アナライザー:ケイ素−リチウム)によって測定した。較正NaCl基準を使用して、塩素含量を決定した。
固定された塩素:17〜20%(塩素/表面から厚さ3μmの部分に存在する全ての元素の合計の原子%で表される)
【0044】
過酸化物にて硬化させたEPDM(前記のものと同一)に関する値:
エラストマーの温度:180〜190℃;大気圧における、純粋な塩素ガスへの3〜5秒間の浸漬
分析条件は上述のとおりである。
固定された塩素:18〜20%(塩素/表面から厚さ3μmの部分に存在する全ての元素の合計の原子%で表される)
【0045】
エチレン、プロピレン及びジエンを異なる割合で含有するEPDM硬化物に関する値:
この実験の範囲内で、4つの処方を調製した。使用したエラストマーの特性は下記のとおりである。百分率は、重合体の合計質量に対する各モチーフの相対質量として表される。
【表1】

下記の処方に従って、成型プレートの形の硬化物を調製する。
硬化物1、2、3及び4は、それぞれ、BUNA 6470、3440、3850及び2050を含有する物質に相当する。
【表2】

硬化物プレートから、100×20×2mmの矩形テストピースを切取る。
硬化物の塩素化を、ガス状塩素が供給されるガラス管において、大気圧で実施する。硬化物を赤外線によって加熱する。3種の加熱温度を適用した:135℃、165℃及び215℃。反応器における滞留時間は4秒である。
塩素含量に関する結果(上述のものと同一の条件下で分析を行い、%(塩素/存在する全ての元素の合計の比)として得られたもの)を次表に示す。
【表3】

135℃では、得られた値から、摩擦係数の好適な減少が生じていないものと思われる。適合する表面変性のための最適な塩素化は、温度165〜215℃に関して得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
EODM、EOM及びEPTの中から選ばれる、プロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とする弾性重合体を含有する、特に、ワイパーブレードとして使用される物質であって、前記物質の表面に存在するプロピレン及び/又はエチレンモチーフの少なくともいくつかを塩素化したことを特徴とする物質。
【請求項2】
弾性重合体が、特に、5-エチリデン-2-ノルボルネン、1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、シクロヘキサジエン、5-ブチリデン-2-ノルボルネン及びジシクロペンタジエン単量体のような不飽和モチーフ(特に、炭素−炭素二重結合タイプ)を有する単量体ユニットを有するものである請求項1に記載の物質。
【請求項3】
プロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とするEODM又はEOM弾性重合体が、EPDM又はEPMである請求項1又は2に記載の物質。
【請求項4】
弾性重合体がEPDMである請求項1〜3のいずれかに記載の物質。
【請求項5】
EPDMが、エチレンモチーフ20〜80%、プロピレンモチーフ80〜20%及び非共役ジエン2〜11質量%を含有するものである請求項4に記載の物質。
【請求項6】
ジエンがノルボルネンである請求項5に記載の物質。
【請求項7】
さらに、高不飽和レベルを持つ他の重合体、特に、天然又は合成の重合体を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の物質。
【請求項8】
不飽和重合体(特に、エラストマー)の相対量が、存在する重合体100部当たり40部以下である請求項7記載の物質。
【請求項9】
物質の表面から厚さ3μmの部分における塩素含量が、8%、好ましくは10%以上である請求項1〜8のいずれかに記載の物質。
【請求項10】
物質の表面から厚さ3μmの部分において測定した最大塩素含量が30%である請求項1〜9のいずれかに記載の物質。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の高分子の物質を製造する方法であって、(i)ガス状塩素又はEODM、EOM及びEPTの中から選ばれる、プロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とする弾性重合体を含有する物質を、前記モチーフに存在する少なくとも1の水素原子の少なくとも1の塩素原子による置換反応に必要なエネルギーレベルに達するに充分な温度とし、及び(ii)前記工程(i)と同時又は後に、前記物質の弾性重合体を、前記ガス状塩素と接触させる工程を包含することを特徴とする物質の製法。
【請求項12】
工程(i)で使用する弾性重合体が、請求項1〜6のいずれかにおいて定義されたものである請求項11に記載の製法。
【請求項13】
工程(i)で使用する弾性重合体が、予め、成型、押出し成形、及び硬化されたもの又は硬化されていないものである請求項11又は12に記載の製法。
【請求項14】
弾性重合体を、モチーフに存在する少なくとも1の水素原子の少なくとも1の塩素原子による置換反応に必要なエネルギーレベルに達するに充分な温度とする請求項11〜13のいずれかに記載の製法。
【請求項15】
工程(i)で適用する熱エネルギーを、電磁放射線によって供給されるエネルギーのような他のエネルギー源によって、部分的に又は完全に置き換える請求項11〜14のいずれかに記載の製法。
【請求項16】
工程(i)における加熱を、赤外線又はマイクロ波によって行う請求項11〜15のいずれかに記載の製法。
【請求項17】
工程(i)における温度が、弾性重合体に関しては、100℃(又は110℃、できれば、120℃)以上である請求項11〜16のいずれかに記載の製法。
【請求項18】
工程(i)の温度が、使用する弾性重合体の分解又は溶融温度未満である請求項11〜17のいずれかに記載の製法。
【請求項19】
EPDMを、130〜220℃、特に135〜215℃、できれば140〜180℃の温度とする請求項11〜18のいずれかに記載の製法。
【請求項20】
EPMを、150〜210℃、特に155〜215℃、できれば160〜210℃の温度とする請求項11〜18のいずれかに記載の製法。
【請求項21】
工程(ii)の弾性重合体とガス状塩素との接触を一緒に行う請求項11〜20のいずれかに記載の製法。
【請求項22】
工程(ii)の弾性重合体とガス状塩素との接触を、弾性重合体をガス状塩素浴に浸漬することによって、又は弾性重合体が配置された装置においてガス状塩素を循環させることによって行う請求項11〜21のいずれかに記載の製法。
【請求項23】
プロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とする弾性重合体又は可塑性重合体を含有する物質であって、前記物質の表面に存在するプロピレン及び/又はエチレンモチーフのいくつかが塩素化されている、特に、ワイパーブレードとして使用される物質を製造する方法であって、(i)ガス状塩素又は前記弾性重合体又は可塑性重合体を含有する物質を、前記モチーフに存在する少なくとも1の水素原子の少なくとも1の塩素原子による置換反応に必要なエネルギーレベルに達するに充分な温度とし、及び(ii)前記工程(i)と同時又は後に、前記物質の重合体を、前記ガス状塩素と一緒に接触させる工程を包含することを特徴とする物質の製法。
【請求項24】
プロピレン及び/又はエチレンモチーフを基材とする可塑性重合体が、ポリプロピレン又はポリエチレンである請求項23に記載の製法。
【請求項25】
シール、特に、ドア又はウインドウシール、プロフィール、自動車のドアウインドウウェザーストリップ、自動車のドアシール、ケーブル、パイプ、カテーテル、靴又はブーツ、グローブ、ガソリン又はエンジン用に使用される各種の他の石油製品のためのタンクの内部コーティング又は材料、又はフロントガラス又はヘッドライト用のワイパーブレードとして使用される請求項1〜10のいずれかに記載の物質。
【請求項26】
シール、特にドア又はウインドウシール、プロフィール、自動車のドアウインドウウェザーストリップ、自動車のドアシール、ケーブル、パイプ、カテーテル、靴又はブーツ、グローブ、ガソリン又はエンジン用に使用される各種の他の石油製品のためのタンクの内部コーティング又は材料、又はフロントガラス又はヘッドライト用のワイパーブレードとしての、請求項1〜10のいずれかに記載の物質又は請求項23又は24に記載の製法によって製造された物質の使用。

【公表番号】特表2008−500415(P2008−500415A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513775(P2007−513775)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【国際出願番号】PCT/EP2005/005558
【国際公開番号】WO2005/116121
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(590003744)ヴァレオ システム デシュヤージュ (74)
【氏名又は名称原語表記】VALEO SYSTEMES D’ESSUYAGE
【Fターム(参考)】