説明

増粘組成物用添加剤

【課題】食品等を高粘度に増粘させ、かつ、工業的に容易に製造することができる増粘組成物用添加剤を提供する。
【解決手段】カルシウム塩の存在下で大麦ベータファイバーを用いることにより、製造工程の最終段階までは粘度は高くなく、取扱いが容易なため簡便な設備で済み、しかし最終段階においては高粘度が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増粘組成物用添加剤に関し、特に、食品を増粘させて得られる増粘食品及び当該食品を調製するための組成物、さらにその組成物用の添加剤に関する。さらに詳細には、本発明は、飲料、菓子、デザート、タレ等飲食可能な食品を、高粘度に増粘させて得られる増粘食品及び当該増粘食品を調製するための組成物、さらにその増粘のための組成物用の添加剤に関する。
【0002】
また、本発明は、食品の増粘方法に関する。さらに、詳細には、本発明は、飲料、菓子、デザート、タレ等飲食可能な食品を高粘度に増粘させるための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来から、食品を増粘させるために、キサンタンガム、グァーガム、ローカストビーンガム、ペクチン、タマリンドシードガム、カラギナン、ジェランガムなどが用いられている。
【0004】
これらの増粘多糖類は、通常粉末等の固体状で市販等されており、これらを食品中に粉末などの固体の状態で溶かすことができれば、求める粘度が容易に得られる。
【0005】
一方、食物繊維、あるいはベータファイバーなどを、整腸作用等の機能性を付与するために食品に添加する場合、1回の摂取で3〜10gの範囲で、添加量としては1%(質量%、以下同様)以上の添加を行うことがあり、最適な粘度を求める技術の開発が十分ではなかった。
【0006】
たとえば、1%以上の高濃度の食物繊維を、食品中にもともと水分が少ない場合、或いは水分はあっても固体(粉末など)状の、食物繊維の溶解を妨げる成分(例えば、アルコールや高い糖濃度など)が存在する場合等において、食品中に固体の状態で溶かすと、不溶性の粒子、いわいる「ままこ」が生じやすく、目的の粘度を得ることが困難である。
【0007】
このような場合、食物繊維をあらかじめ水に溶かして水溶液として、あるいは水とともに食品へ添加する方法、即ち、食物繊維の溶液を別に調製して添加する方法が考えられるが、このような方法により高粘度の食品を工業的に容易に製造することは困難であった。
【0008】
一方、取り扱いを容易にするためにさらに濃度を下げて粘度を下げると、最終的に望む粘度が得られない、つまり、食品に含まれる増粘性成分による溶液の粘度によって食品中における最終的に得られる粘度が制限されることとなる。
【0009】
食品を高粘度に増粘させるために、タマリンドシードガム、タラガム、グルコマンナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、イオタカラギナンに発酵多糖類のシュードモナス・エロディアATCC31461から採取される脱アセチル化ジェランガムはベータグルカン構造をとり、その増粘剤あるいはゲル化剤としての利用を試みている(例えば、特許文献1)。
【0010】
また、発酵ベータグルカンの範囲である、カードランは、加熱時にゲル化し、高温の加熱ではゲル化しない傾向を示すことから、そのまま、あるいはナトリウム塩との併用により食品の粘度を上昇させる目的で利用されるが、カルシウム塩との併用による粘性の変化については検討されていないのが現状である(例えば、非特許文献1)。
【0011】
一方、カルシウム塩との併用により、増粘、ゲル化する多糖類の事例は多く、イオタカラギナン、アルギン酸、LMペクチン、ジェランガムなどが知られており、その用途は広いが、カルシウム塩を用いた場合には、これら多糖類との併用によって形成されるゲルは、硬いゲルとなるか、あるいはゲル化開始温度が高くなり、加えてゲルの融解温度も高くなり、食品加工の上で取り扱いが容易ではないのが現状である(例えば、非特許文献2)。
【0012】
大麦ベータグルカンをヨーグルトに用い、乳製品中のカルシウムは体内に吸収しやすい形態であることが報告され、ヨーグルトに併用し離水がないヨーグルトを製造することの利点を訴求しているが、カルシウムとの併用による影響や粘度の調整についての知見はなく、とくにカルシウム強化飲料などの中性、酸性域での食品への利用分野に応用できる技術が確立していなかったのが現状である(例えば、特許文献2)。
【0013】
【特許文献1】特開平10−251795号公報
【特許文献2】特開2003−274852号公報
【非特許文献1】国崎直道、佐野征男、食品多糖類、p169、幸書房、2001
【非特許文献2】国崎直道、佐野征男、食品多糖類、p161、幸書房、2001
【0014】
かかる事情から、高濃度の食物繊維を溶液に用いた場合、高粘度の食品を工業的に容易に製造できる方法は従来なく、解決手段が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、かかる事情に鑑みて、開発されたもので、食物繊維を溶液に用いる場合、食品を高粘度に増粘させ、かつ、工業的に容易に製造することができる食品添加剤を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明は、製造工程の最終段階までは粘度は高くなく、取扱いが容易なため簡便な設備で済み、しかし最終段階においては高粘度を実現するという、相反するような課題を解決し、高粘度の食品を工業的に容易に製造することができる食品添加剤を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、従来から、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねていたところ、偶然にも、カルシウム塩の存在下で大麦ベータファイバーを用いることにより、高粘度の液体が得られることを見いだした。
【0018】
そして、増粘の対象とする食品に最終的に大麦ベータファイバーと最適濃度のカルシウム塩とが存在することで、従来になかった、高い粘度を実現することを見いだした。
【0019】
さらに、カルシウム塩の存在下であり、かつ特定比率の条件下で大麦ベータファイバーを用いることにより、高粘度の液体が得られることを見いだし、増粘の対象とする食品等の組成物に最終的に大麦ベータファイバーとカルシウム塩とが存在することで、従来になかった、高い粘度を実現することを確認し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明は、下記に掲げるものである:
項1.カルシウム塩と大麦ベータファイバーを含むことを特徴とする増粘組成物用添加剤。
項2.大麦ベータファイバー10質量部に対し、カルシウム塩0.1〜10質量部の割合で配合したことを特徴とする項1記載の増粘組成物用添加剤。
項3.カルシウム塩と大麦ベータファイバーとを共存させることを特徴とする食品の増粘方法。
項4.カルシウム塩と大麦ベータファイバーとを共存させることにより調製される増粘食品。
項5.カルシウム塩と大麦ベータファイバーとを共存させることにより調製される増粘食品組成物。
【0021】
本発明は、カルシウム塩の存在下で使用される、大麦ベータファイバーを含むことを特徴とする増粘組成物用添加剤、特に増粘食品組成物用添加剤に関するさらに本発明は、カルシウム塩と大麦ベータファイバーとを共存させることにより調製される増粘食品又は増粘食品組成物に関する。
【0022】
本発明は、カルシウム塩と大麦ベータファイバーとを共存させることを特徴とする食品の増粘方法にも関する。
【0023】
詳細には、本発明は、飲料、菓子、デザート、タレ等飲食可能な食品を、高粘度に増粘させて調製される増粘食品及び当該増粘食品を調製するための組成物、その増粘のための組成物用の添加剤に関する。
【0024】
さらに、飲料、菓子、デザート、タレ等飲食可能な食品を、高粘度に増粘させるための方法に関する。
【0025】
本発明で用る大麦ベータファイバーは、大麦を原料とし、酵素アミラーゼを用いて低分子の糖質あるいは穀物に存在するグリコーゲン由来の糖質を除去して分画し、煮沸加熱後に耐熱性酵素アミラーゼでさらに精製し、分子量を調整し、エタノール抽出と乾燥によって得たものであり、例えば、カーギル社から提供された大麦ベータファイバーを用いることができる。
【0026】
一般に、大麦ベータファイバーは大麦種子の胚乳細胞壁を構成する成分として穀類種子に分布しており、食物繊維として整腸作用などが期待されている素材である。ベータファイバー(またはベータグルカンという)の構造はβ−1,3−D−グルコピラノース結合およびβ−1,4−D−グルコピラノース結合を主成分とするグルコースの重合体であるが、この重合体を抽出するための用いる方法は多様であり、その製造方法によって性質が異なることが知られている。
【0027】
従来、大麦ベータファイバーは、これまで増粘剤などの安定剤としても食物繊維としても使用されていないし、当業者においても、たいして特長もなく使用する価値がないものと見られてきた。
【0028】
また、本発明で用いるカルシウム塩とは、カルシウム塩であればよく、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、L−グルタミン酸カルシウム、塩化カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、水酸化カルシウム、ステアロイル乳酸カルシウム、クエン酸リンゴ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウムマグネシウム、パントテン酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、フェロシアン化カルシウム、プロピオン酸カルシウム、ドロマイト、リン酸三カルシウム、リン酸二水素カルシウム、焼成カルシウム(うに殻、貝殻、骨、珊瑚、乳清、卵殻)、未焼成カルシウム、グルコン酸カルシウム、硫酸カルシウムなどの有機塩無機塩、あるいは水に溶解性のカルシウム、水に不溶性のカルシウム塩いずれでもよく、好ましくは、水に溶解性がよく、また、味の穏やかな乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウムがよい。
【0029】
LMペクチンとカルシウム塩との相乗作用でゲル化し、高粘度が得られることは知られていた(非特許文献 国崎直道、佐野征男、食品多糖類、p63、幸書房、2001)ものの、この事実からは、カルシウムでゲル化したものは糖、pH、固形分の量などにあまり影響がなく、ゲル化することが示されているが、ミルクゼリー、ヨーグルト、トマトアイスピックに応用することが開示されているだけである。
【0030】
本発明に係る増粘組成物用添加剤は、カルシウム塩の存在下で使用される、大麦ベータファイバーを含むことを特徴とする増粘組成物用添加剤である。
【0031】
さらに、本発明に係る増粘組成物用添加剤は、カルシウム塩及び大麦ベータファイバーを含むことを特徴とする増粘組成物用添加剤であり、特に増粘食品組成物用添加物であることが好ましい。
【0032】
本発明のカルシウム塩及び大麦ベータファイバーの使用量は、イオン交換水を用いた、大麦ベータファイバーとカルシウム塩の純粋な水溶液の系では、大麦ベータファイバー0.01質量%〜5質量%、カルシウム塩0.001質量%〜0.5質量%で増粘効果が見られ、その配合比率は大麦ベータファイバー 10に対し、カルシウム塩0.1〜2の配合比率が好ましく、より好ましくは大麦ベータファイバー10に対し、カルシウム塩0.2〜1.6の配合比率がより好ましい。
【0033】
上記のように、大麦ベータファイバーとカルシウム塩各々の濃度範囲が示されるが、適用する食品によっては、糖濃度や配合成分等が異なり、大麦ベータファイバーとカルシウム塩との配合割合は応用事例ごとに適切に決定されるものである。
【0034】
即ち、大麦ベータファイバーとカルシウム塩との組合せによって、ゲル化しない範囲で有効な粘度が得られるよう、当業者は適宜調節し得るものであり、上記の濃度範囲に制限されるものではない。
【0035】
また、使用されるpHについてもは特に制限はなく、食品の種類や目的等によって、適宜選択・調整され得るものであるが、一般には、pH2〜8が好ましく、pH3〜7がより好ましい。
【0036】
本発明に係る食品の増粘方法は、食品に、最終的に大麦ベータファイバーとカルシウム塩とを共存させ、増粘効果を発揮させるものであればよい。即ち、大麦ベータファイバーとカルシウム塩とを、食品又はその製造過程のものに、有効な粘度が得られるよう配合すればよく、添加の時期、順序に特に制限はない。
【0037】
好ましい方法としては、大麦ベータファイバー及びカルシウム塩を溶液として予め調製しておいて、又は水と共に食品に添加する方法が挙げられる。より好ましい方法としては、大麦ベータファイバー溶液及びカルシウム塩の溶液を別々に調製しておいて、食品に添加する方法が挙げられる。この場合、大麦ベータファイバー及びカルシウム塩を食品中に存在させることにより、相乗作用によって食物繊維として要求される粘度を達成するが、各々の溶液は粘度が低く取り扱いが容易となる。
【0038】
上記溶液の粘度は、溶液の状態において高い粘度を付与できる添加量の粘度であれば、とくに限定されない。
【0039】
本発明の増粘組成物用添加剤は、カルシウム塩と大麦ベータファイバーを含有するものであればよく、これらの混合物をそのまま用いるか、あるいは、これら以外の成分として希釈剤、担体またはその他の添加物を含有していてもよい。
【0040】
希釈剤または担体としては、本発明の効果を妨げないものであれば特に制限されず、例えばシュクロース、グルコース、デキストリン、澱粉類、サイクロデキストリン、トレハロース、乳糖、マルトース、水飴、液糖などの糖類;エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール類;ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール等の糖アルコール類;カラギナン、ローカストビーンガム、ペクチン、プルラン 等の多糖類;または水を挙げることができる。また添加剤としては、抗酸化剤、キレート剤等の助剤、香料、香辛料抽出物、防腐剤などを挙げることができる。
【0041】
使用上の利便等から、これらの希釈剤、担体または添加剤を用いて増粘組成物用添加剤を調製する場合は、カルシウム塩と大麦ベータファイバーが、増粘組成物用添加剤100質量%中に9:1〜2:5の割合、好ましくは3:2〜1:3の割合で含まれるように調製することが望ましい。
【0042】
本発明の増粘組成物用添加剤はその形態を特に制限するものではなく、例えば粉末状、顆粒状、錠剤状などの固体状;液状、乳液状等の溶液状;またはペースト状等の半固体状などの、任意の形態に調製することができる。
【0043】
本発明の増粘組成物用添加剤は様々な増粘食品等に広く適応することができ、例えば飲食物、化粧品、医薬品、医薬部外品、飼料等をあげることができる。
【0044】
なお、増粘食品とは、製造段階を問わず、いずれかの段階においてゲル化させることなく、所望の粘度を呈するものであればよい。
【0045】
また、増粘食品組成物とは、例えば、増粘食品の原料がセットとなったものであって、家庭においてそれら材料を混合し、適宜水、砂糖等を加えてもよく、加熱、冷蔵する等して最終的な食品を得るようなものをいう。
【0046】
本発明が対象とする飲食物としては、例えば乳飲料、乳酸菌飲料、果汁入り清涼飲料、清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実混合飲料、アルコール飲料、粉末飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、緑茶飲料、麦茶飲料などの飲料類;ヨーグルト等のデザート類;コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類;浅漬け、醤油漬け、塩漬け、味噌漬け、粕漬け、麹漬け、糠漬け、酢漬け、芥子漬、もろみ漬け、梅漬け、福神漬、しば漬、生姜漬、梅酢漬け等の漬物類;セパレートドレッシング、ノンオイルドレッシング、ケチャップ、たれ、ソースなどのソース類;ストロベリージャム、ブルーベリージャム、マーマレード、リンゴジャム、杏ジャム、プレザーブ等のジャム類;ホイップクリーム等の酪農・油脂製品類;等の種々の加工食品を挙げることができる。好ましくは飲料、デザート及びスープ類である。
【0047】
本発明の飲食物は、製造の任意の工程で本発明の増粘組成物用添加剤を配合することを除けば、各種飲食物の慣用の製造方法に従って製造することができる。増粘組成物用添加剤の配合方法やその順番に特に制限はない。
【0048】
本発明が対象とする化粧品としてはスキン化粧料(ローション、乳液、クリームなど)、口紅、日焼け止め化粧品、メークアップ化粧品等を;医薬品としては各種錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、トローチ剤、うがい薬等を;医薬部外品としては歯磨き剤、口中清涼剤、口臭予防剤等を;また飼料としてはキャットフードやドッグフード等の各種ペットフード、観賞魚若しくは養殖魚の餌等を一例として挙げることができるが、これらに制限されるものではない。
【0049】
これらの化粧品、医薬品、医薬部外品または飼料などの各種製品は、それら製造の任意の工程で本発明の増粘組成物用添加剤を配合することを除けば、各種製品の慣用方法に従って製造することができる。化粧品、医薬品、医薬部外品または飼料に対する増粘組成物用添加剤の配合時期も特に制限されない。
【発明の効果】
【0050】
本発明によると、食物繊維を溶液に用いる場合、食品を高粘度に増粘させ、かつ、工業的に容易に製造することができる食品添加剤を提供することができる。
【0051】
また、本発明によると、製造工程の最終段階までは粘度は高くなく、取扱いが容易なため簡便な設備で済み、しかし最終段階においては高粘度を実現するという、相反するような課題を解決し、高粘度の食品を工業的に容易に製造することができる食品添加剤を提供するができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、特に記載のない限り「%」とは「質量%」を、「部」とは、「質量部」を意味するものとする。
【0053】
実験例1
大麦ベータファイバー3%に乳酸カルシウムを無添加区、1%添加区、3%添加区および5%添加区を調製し、水にて全量100%とし、85℃15分間の加熱溶解を行い、室温まで冷却した後に、粘度を測定した結果を表1に示した。また、調製した溶液を耐熱性カップに充填し、大麦ベータファイバーの溶液を観察するため、8時間後の溶液の状態を観察した。
【0054】
【表1】

【0055】
本試験で用いた大麦ベータファイバーに乳酸カルシウムを添加した場合には、添加量が増えるに従って、粘度が上昇し、5%の添加区では、無添加区の2倍に粘度が上昇していることが見出された。
【0056】
また、8時間後の大麦ベータファイバーの溶液の状態を観察したところ、無添加区および1%添加区では、流動性のよい溶液状態を維持していた(図1)が、5%添加区では、ドロッとした状態となり、ややゲル状の粘ちょう物の状態となった(図2)。このことは、本発明の大麦ベータファイバーはカルシウムとの相互作用を示すことが粘度の値から判断でき、また、その溶液の特長はカルシウムの添加量が増加するにつれて、流動性が低下する特徴を観察することができた。粘度計の回転数を早めるに従い、大麦ベータファイバーはシュードプラスチックな性質を示していたが、カルシウム塩を添加することで、ニュートン粘性に近い状態に変化していることが観察された。
【0057】
実施例2
実施例1にクエン酸0.3%を添加したとき、溶液のpHは、5.7からpH4付近に低下し、酸性側に調整した大麦ベータファイバーと乳酸カルシウム混合水溶液の粘度を測定した。
測定条件は実施例1と同じとした。
【0058】
【表2】

【0059】
以上の結果から、実施例1での粘度と酸性側にある実施例2の溶液の粘度に大きな差異はなかったが、酸性物質が存在していても、カルシウム塩との増粘効果を維持していることがわかった。一般にイオタカラギナンはカルシウム塩と反応し、ゲルを形成することが知られているが、酸性側で加熱した場合に、カラギナンが酸分解し、ゲル破断強度などの測定値が低下することが知られている。また、発酵ベータグルカンの種類であるジェランガムはカルシウムと併用した場合で、中性と酸性でのゲル強度は、酸性側の方が高い値を示しており、中性側でのカルシウムなどのとの相互作用効果は期待しにくいのが現状である。
【0060】
本発明による大麦ベータファイバーは、酸性、中性のいずれの領域でも安定なカルシウム塩との相互作用効果を示すことができる。
【0061】
いずれの場合においても、大麦ベータファイバーを単独で用いた場合は粘度が低いが、カルシウム塩を併用することによって相乗作用により高い粘度(約2倍の粘度)が得られていることがわかる。
【0062】
実施例3 カルシウム強化乳飲料
牛乳10%、脱脂粉乳3%、全脂加糖練乳4%、砂糖10%、精製やし油4.5%、大麦ベータファイバー5%、炭酸カルシウム0.5%、グリセリン脂肪酸エステル0.1%、ミルクフレーバー0.1%を用い、水にて全量100%とする。
【0063】
上記の配合を予備加熱85℃15分行い、均質化(14.71MPa=150kgf/cm)し、125℃4秒間のUHT殺菌し、65℃にて容器に充填し、冷却し、カルシウム強化乳飲料を調製した。
【0064】
得られた乳飲料は適度な粘度を持ち、カルシウムに起因する凝集沈殿もなく、飲用しやすい特長を有していた。
【0065】
実施例4 ドリンクヨーグルト
脱脂粉乳20%を溶解した水溶液を予め93℃15分間で加熱殺菌し、次に40℃にまで冷却した脱脂粉乳溶液に乳酸菌(ブルガリア菌、明治乳業社製、市販品)のスターターを3%添加し、40℃で4時間発酵させた。次に砂糖18%、グルコン酸カルシウム1.8%、大麦ベータファイバー(カーギル社製)6%を併用し、85℃15分加熱して予調製した。上記発酵した溶液と糖溶液を4:6の割合で混合し、均質化(14.71MPa=150kgf/cm)し、容器に充填し、4℃で保管した。
【0066】
得られたドリンクヨーグルトは、適度な粘度を持ち、カルシウムに起因する凝集や沈殿はなく、飲みやすい特長のある溶液であり、さらにカルシウム強化作用と食物繊維の整腸作用を訴求する飲料を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によると、製造工程の最終段階までは粘度は高くなく、取扱いが容易なため簡便な設備で済み、しかし最終段階においては高粘度を実現するという、相反するような課題を解決し、高粘度の食品を工業的に容易に製造することができる増粘組成物用添加剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例1の大麦ベータファイバー 1%水溶液の写真を示す。
【図2】実施例1の大麦ベータファイバー 5%水溶液の写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム塩と大麦ベータファイバーを含むことを特徴とする増粘組成物用添加剤。
【請求項2】
大麦ベータファイバー10質量部に対し、カルシウム塩0.1〜10質量部の割合で配合したことを特徴とする請求項1記載の増粘組成物用添加剤。
【請求項3】
カルシウム塩と大麦ベータファイバーとを共存させることを特徴とする食品の増粘方法。
【請求項4】
カルシウム塩と大麦ベータファイバーとを共存させることにより調製される増粘食品。
【請求項5】
カルシウム塩と大麦ベータファイバーとを共存させることにより調製される増粘食品組成物。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−217836(P2006−217836A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32625(P2005−32625)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】