説明

壁施工方法及び構造

【課題】接着剤が硬化するまでの間にタイル等の建築化粧材がズリ下がることを十分に防止することができる壁施工方法及び構造を提供する。
【解決手段】金属サイディング10の前面側の金属板11は、平部1と、平部1より凹陥する多数の凹穴2とで形成されている。平部1よりも突出する突部は存在しない。この凹穴2には、繭形ないし豆形の凹穴2A,2B,2C,2Dや、略円形の凹穴2Eなどがある。非円形の凹穴2A〜2Dにあっては、長手方向aは、非均一であり、一方向に配向していない。この実施の形態では、非円形の凹穴2A〜2Eの長手方向はランダムとなっている。金属サイディング10を建築物躯体にアンカーボルト、ビス等によって固定した後、金属板11の前面に弾性接着剤14を塗布し、陶磁器製のタイル15を張り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面にタイル等の建築化粧材を張り付ける壁施工方法及び構造に係り、特に金属サイディングにタイル等の建築化粧材を張り付ける方法及び構造に関する。
【背景技術】
【0002】
タイル壁施工方法の従来技術として、特開2002−364096号公報には、金属板と断熱材とを一体化させてなる断熱パネルを壁面に取り付け、この断熱パネルの前面の該金属板に接着剤によってタイルを接着することが記載されている。この断熱パネルの前面の金属板に多数個の円形の有底穴よりなる凹部が設けられ(第0025段落、図3,4)、タイルの背面側に少なくとも10個の凹部を配置する(第0026段落)。このように凹部を設けておくと、アンカー効果によりタイルの固着が強固になる(第0026段落)。
【特許文献1】特開2002−364096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特開2002−364096号公報では、同号公報図4(b)の通り断熱パネルの前面に設ける凹部が円形であり、また凹部が比較的まばらに配置されている。このため、未硬化の接着剤の塑性流動変形が十分には阻止されず、接着剤が硬化するまでの間にタイルがズリ下がるおそれがある。
【0004】
また、同号公報図4(a)のように、凹穴は入口が狭く且つ奥行きが深い形状のものとなっているため、未硬化の接着剤の塑性流動変形が十分には阻止されず、これによっても、接着剤が硬化するまでの間にタイルがズリ下がるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、接着剤が硬化するまでの間にタイル等の建築化粧材がズリ下がることを十分に防止することができる壁施工方法及び構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の壁施工方法は、建築物の壁面に金属サイディングを設置し、該金属サイディングに接着剤を介して建築化粧材を接着する壁施工方法であって、該金属サイディングの表面に多数の凹穴を設けておく壁施工方法において、該凹穴の半数以上は、非円形であり、かつ凹穴の長手方向が非均一となっており、凹穴の面積の平均値が3〜20mmであり、金属サイディングの表面の面積に対する凹穴の面積の割合が10〜60%であることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の壁施工構造は、建築物の壁面に金属サイディングを設置し、該金属サイディングに接着剤を介して建築化粧材を接着した壁施工構造であって、該金属サイディングの表面に多数の凹穴が設けられている壁施工構造において、該凹穴の半数以上は、非円形であり、かつ凹穴の長手方向が非均一となっており、凹穴の面積の平均値が3〜20mmであり、金属サイディングの表面の面積に対する凹穴の面積の割合が10〜60%であることを特徴とするものである。
【0008】
本発明では、凹穴の平均深さは0.2〜2mm程度が好ましい。
【0009】
本発明では、建築化粧材を張った後、建築化粧材間の目地部に向けて化粧用粒子を吹き付け、目地部に露呈している接着剤に該粒子を付着させてもよい。
【0010】
この建築化粧材としてはタイルが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の壁施工方法及び構造では、凹穴が非円形であり、且つ凹穴の長手方向が非均一となっており、また比較的小さい凹穴が多数設けられている。このため、建築化粧材との間に介在する硬化前の接着剤に対し建築化粧材重量によってズリ下がり方向の力が加えられた場合、凹穴の縁部付近において接着剤の変形が阻害され、建築化粧材のズリ下がりが十分に防止される。
【0012】
凹穴の深さを0.2〜2mmとした場合、凹穴が過度に深くないため、接着剤の使用量が少なくて済み、低コストになる。また、接着剤が溶剤を含むタイプのものであるときには、接着剤の硬化時間が短縮される。
【0013】
建築化粧材を張った後、建築化粧材間の目地部に向けて化粧用粒子を吹き付け、目地部に露呈している接着剤に該粒子を付着させるようにした場合には、目地部の意匠性が改善されるだけでなく、目地部に露呈した接着剤の流動性が低下し、これによっても建築化粧材のズリ下がりが防止されるようになる。
【0014】
本発明は、重量が樹脂等に比べて大きいタイルを張る場合に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。図1(a)は実施の形態に係るタイル壁施工方法及び構造に用いられる金属サイディングの斜視図、図1(b)はこの金属サイディングの表面の略実際寸法の正面図、図2(a)は図1(b)の一部の拡大図、図2(b)はこの金属サイディングの厚み方向の断面図、図2(c)はこの金属サイディングにタイルを張った状態の断面図である。
【0016】
この金属サイディング10は、1対の金属板11,12の間に樹脂発泡体よりなる断熱材13を介在させたサンドイッチ構造のものであり、金属板11が前面側となるように使用される。なお、裏側の金属板12は、樹脂フィルム、防水シート等であってもよい。
【0017】
この金属サイディング10の前面側の金属板11は、平部1と、平部1より凹陥する多数の凹穴2とで形成されている。平部1よりも突出する突部は存在しない。この凹穴2には、繭形ないし豆形の凹穴2A,2B,2C,2Dや、略円形の凹穴2Eなどがある。
【0018】
非円形の凹穴2A〜2Dにあっては、長手方向aは、非均一であり、一方向に配向していない。この実施の形態では、非円形の凹穴2A〜2Eの長手方向はランダムとなっている。
【0019】
この金属サイディング10にあっては、すべての凹穴2の合計の面積は、金属板11の面積の10〜60%特に20〜50%程度が好ましい。全凹穴数Nに対し、非円形の凹穴2A〜2Eの数は50%以上(半数以上)、特に80%以上であることが好ましい。凹穴の平均の面積は3〜20mm特に5〜15mm程度が好ましい。凹穴2の平均深さdは0.2〜2mm特に0.5〜2mm程度が好ましい。
【0020】
この金属サイディング10を建築物躯体にアンカーボルト、ビス等によって固定した後、金属板11の前面に弾性接着剤14を塗布し、陶磁器製のタイル15を張り付ける。この弾性接着剤としては、シリコーン系、エポキシ系、ウレタン系など各種のものを用いることができる。弾性接着剤14の塗布厚み(平部1における厚み)は0.8〜5mm特に1〜2mm程度が好適である。
【0021】
この金属サイディング10にあっては、金属板11に凹穴12を設けており、接着剤14が硬化する前であってもタイル15がズリ下がることがない。
【0022】
即ち、凹穴2A〜2Dが非円形であり、且つ凹穴2の長手方向aがランダムとなっており、また比較的小さい凹穴2が多数設けられている。このため、タイル15と金属板11との間に介在する硬化前の接着剤14に対しタイル重量によってズリ下がり方向の力が加えられた場合、各凹穴2の縁部付近のアンカー効果により接着剤の変形が阻害され、タイルのズリ下がりが十分に防止される。凹穴2の形状が非円形であると、同一面積の円形凹穴に比べて辺縁の周長が長いので、辺縁のアンカー効果が強い。また、凹穴2の長手方向が一方向(例えば斜め方向)に配向していると、タイルは当該一方向にズリ下り易くなるが、凹穴2の長手方向aがランダムであると、タイルのズリ下がりが確実に防止される。
【0023】
この実施の形態では、凹穴2の深さを0.2〜2mmと比較的深くしているので、凹穴2が過度に深くなく、接着剤の使用量が少なくて済み、低コストになる。使用する接着剤が溶剤を含むタイプのものであるときには、接着剤の硬化時間が短縮される。
【0024】
本発明では、タイルを張った後、タイル15,15間の目地部に向けて化粧用粒子を吹き付け、目地部に露呈している接着剤14に該粒子を付着させるようにしてもよい。これにより、目地部の意匠性が改善されるだけでなく、目地部に露呈した接着剤の流動性が低下し、これによってもタイルのズリ下がりが防止されるようになる。この粒子としては、珪砂や各種鉱物の粒子が好適であり、その平均粒径は10〜1000μm程度が好適である。
【0025】
本発明では、タイル15の裏面は全く又は殆ど平坦であることが好ましい。これにより、タイル15の裏面全体で弾性接着剤14を金属板11に均一に押し付け、該弾性接着剤14を凹穴2内に十分に押し込むことが可能となる。
【0026】
上記実施の形態では、タイルを張り付けているが、石材、樹脂化粧材、木質系化粧材、ガラス、セメント系化粧材、石灰又は石膏系化粧材を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1(a)は実施の形態に係るタイル壁施工方法及び構造に用いられる金属サイディングの斜視図、図1(b)はこの金属サイディングの表面の略実際寸法の正面図である。
【図2】図2(a)は図1(b)の一部の拡大図、図2(b)はこの金属サイディングの厚み方向の断面図、図2(c)はこの金属サイディングにタイルを張った状態の断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 平部
2 凹穴
10 金属サイディング
11,12 金属板
13 断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の壁面に金属サイディングを設置し、該金属サイディングに接着剤を介して建築化粧材を接着する壁施工方法であって、
該金属サイディングの表面に多数の凹穴を設けておく壁施工方法において、
該凹穴の半数以上は、非円形であり、かつ凹穴の長手方向が非均一となっており、
凹穴の面積の平均値が3〜20mmであり、
金属サイディングの表面の面積に対する凹穴の面積の割合が10〜60%であることを特徴とする壁施工方法。
【請求項2】
請求項1において、各凹穴の平均深さが0.2〜2mmであることを特徴とする壁施工方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、建築化粧材を張った後、建築化粧材間の目地部に向けて化粧用粒子を吹き付け、目地部に露呈している接着剤に該粒子を付着させることを特徴とする壁施工方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、該建築化粧材はタイルであることを特徴とする壁施工方法。
【請求項5】
建築物の壁面に金属サイディングを設置し、該金属サイディングに接着剤を介して建築化粧材を接着した壁施工構造であって、
該金属サイディングの表面に多数の凹穴が設けられている壁施工構造において、
該凹穴の半数以上は、非円形であり、かつ凹穴の長手方向が非均一となっており、
凹穴の面積の平均値が3〜20mmであり、
金属サイディングの表面の面積に対する凹穴の面積の割合が10〜60%であることを特徴とする壁施工構造。
【請求項6】
請求項5において、各凹穴の平均深さが0.2〜2mmであることを特徴とする壁施工構造。
【請求項7】
請求項5又は6において、建築化粧材間の目地部に露呈している接着剤に粒子を付着させてあることを特徴とする壁施工構造。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか1項において、該建築化粧材はタイルであることを特徴とする壁施工構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−45972(P2006−45972A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−230454(P2004−230454)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】