説明

変位抑制装置

【課題】振動の加速度が大きいときにも設置物の変位を抑制する機能を維持できる装置を提供する。
【解決手段】変位抑制装置1は、構造物101に対する設置物103の変位を抑制する装置であって、構造物101及び設置物103の一方に固定される容器3と、構造物101及び設置物103の他方に一端側が固定される可撓性を有するストリング5と、容器3に回転可能に支持され、ストリング5を他端側から巻き取り可能な巻き取り部材15と、ストリング5を巻き取る方向に巻き取り部材15を付勢するばね17と、ストリング5を巻き取り部材15から引き出す運動に対して摩擦抵抗を付与する摩擦装置23と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震等において、什器や機器等の設置物の変位(水平方向・回転方向等)を抑制するなどの変位抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
東北地方太平洋沖地震では、未曾有の大規模地震により甚大な被害が各地で発生した。また、東海地震や東南海、南海地震は、今後30年内の発生確率が87パーセントと言われている。従って、地震への対策は喫緊の課題である。
【0003】
ここで、兵庫県南部地震等の直下型地震では、什器等の設置物による圧死者が犠牲者の1割を占めていたという報告がある。このような設置物の移動・転倒を防止する技術としては、L字型の金具により設置物を構造物に固定するものなどが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−34824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような金具等の固定具では、地震力(加速度)が大きいときに、固定具自体、若しくは、設置物又は構造物の固定具が取り付けられた部分が破損し、固定具の機能が失われるおそれがある。例えば、兵庫県南部地震や東北地方太平洋沖地震では、設置物の自重の1倍乃至3倍程度の荷重を支持する固定具等が必要であったと考えられる。このような大きな荷重に耐える固定具等を作製することは困難である。
【0006】
本発明の目的は、振動の加速度が大きいときにも変位を抑制する機能を維持できる装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の変位抑制装置は、構造物に対する設置物の変位を抑制する変位抑制装置であって、前記構造物及び前記設置物の一方に固定される基体と、前記構造物及び前記設置物の他方に一端側が固定される可撓性を有する長尺部材と、前記基体に回転可能に支持され、前記長尺部材を他端側から巻き取り可能な巻き取り部材と、前記長尺部材を巻き取る方向に前記巻き取り部材を付勢するばねと、前記長尺部材を前記巻き取り部材から引き出す運動に対して摩擦抵抗を付与する摩擦装置と、を有する。
【0008】
好適には、前記摩擦装置は、前記巻き取り部材の回転が伝達されて回転可能な回転部材と、前記基体に対して固定され、前記回転部材に対して当接して前記回転部材との間で摩擦抵抗を生じる固定部材と、有し、前記巻き取り部材と前記回転部材との間には、前記巻き取り部材の前記長尺部材を引き出す方向への回転の前記回転部材への伝達を許容するとともに前記巻き取り部材の前記長尺部材を巻き取る方向への回転の前記回転部材への伝達を規制するワンウェイクラッチが設けられている。
【0009】
好適には、前記摩擦装置が生じる摩擦抵抗は、少なくとも前記長尺部材の巻き取りが完了した状態において前記ばねの復元力よりも大きい。
【0010】
好適には、前記ばねはぜんまいである。
【0011】
本発明の一態様の変位抑制装置は、支持構造物に対する免震対象物の変位を抑制する変位抑制装置であって、前記支持構造物及び前記免震対象物の一方に固定される基体と、前記支持構造物及び前記免震対象物の他方に一端側が固定される可撓性を有する長尺部材と、前記基体に回転可能に支持され、前記長尺部材を他端側から巻き取り可能な巻き取り部材と、前記長尺部材を巻き取る方向に前記巻き取り部材を付勢するばねと、前記長尺部材を前記巻き取り部材から引き出す運動に対して摩擦抵抗を付与する摩擦装置と、を有する。
【0012】
本発明の一態様の変位抑制装置は、構造物の第1部位と第2部位との相対変位を抑制することにより前記構造物の変形を抑制する変位抑制装置であって、前記第1部位に固定される基体と、前記第2部位に一端側が固定される可撓性を有する長尺部材と、前記基体に回転可能に支持され、前記長尺部材を他端側から巻き取り可能な巻き取り部材と、前記長尺部材を巻き取る方向に前記巻き取り部材を付勢するばねと、前記長尺部材を前記巻き取り部材から引き出す運動に対して摩擦抵抗を付与する摩擦装置と、を有する変位抑制装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、振動の加速度が大きいときにも変位を抑制する機能を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る変位抑制装置の概要を説明する模式図。
【図2】図2(a)は変位抑制装置の外観を示す正面図、図2(b)は変位抑制装置の外観を示す平面図。
【図3】図3(a)は図2のIIIa−IIIa線における断面を含む、容器を透視して示す変位抑制装置の正面図、図3(b)は図3(a)のIIIb−IIIb線における断面図。
【図4】図4(a)及び図4(b)は変位抑制装置の動作を説明する断面図。
【図5】変位抑制装置に加えられる荷重の変化を比較例との比較において示す図。
【図6】図6(a)及び図6(b)は摩擦装置の変形例を示す図。
【図7】図7(a)〜図7(c)は変位抑制装置の取り付け態様の変形例を示す模式図。
【図8】図8(a)および図8(b)は兵庫県南部地震を想定したシミュレーションの条件および結果を示す図。
【図9】図9(a)および図9(b)は兵庫県南部地震を想定したシミュレーション結果を示す他の図。
【図10】図10(a)および図10(b)は東北地方太平洋沖地震を想定したシミュレーションの条件および結果を示す図。
【図11】図11(a)および図11(b)は東北地方太平洋沖地震を想定したシミュレーション結果を示す他の図。
【図12】図12(a)〜図12(c)は新潟県中越地震を想定したシミュレーションの条件および結果を示す図。
【図13】図13(a)および図13(b)は新潟県中越地震を想定したシミュレーション結果を示す他の図。
【図14】変位抑制装置の他の応用例を示す図。
【図15】図15(a)及び図15(b)は変位抑制装置の更に他の応用例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1(a)〜図1(d)は、本発明の実施形態に係る変位抑制装置1の概要を説明する模式図である。
【0016】
図1(a)の例では、変位抑制装置1は、例えば、一端が構造物101に固定され、他端が設置物103に固定され、構造物101に対して設置物103の移動を規制している。
【0017】
構造物101は、例えば、ビル、店舗、家屋である。設置物103は、例えば、什器や機器である。なお、什器は、箪笥等の家具等を指す場合と、商品陳列用の棚等を指す場合とがあるが、いずれであってもよい。また、機器は、例えば、医療機器や事務機器である。
【0018】
設置物103は、キャスター104によって支持されており、水平方向に移動可能である。従って、図1(c)に示すように、地震等が発生することにより、構造物101が水平方向に振動した場合には、設置物103は、慣性によってその場に残り、構造物101に対して水平方向に相対移動する。そこで、図1(a)に示すように、変位抑制装置1により設置物103の移動を規制する。
【0019】
なお、変位抑制装置1は、構造物101及び設置物103の適宜な位置に取り付けられるが、好ましくは、設置物103の重心と同等の高さにおいて構造物101及び設置物103に固定される。図1(a)では、変位抑制装置1は、構造物101の壁に固定されている。
【0020】
また、図1(b)の例では、設置物105は、キャスター104が設けられおらず、構造物101に対して水平方向に移動不可能に支持されている。変位抑制装置1は、一端が設置物105の重心よりも上方側において設置物103に固定され、他端が構造物101の壁に固定されている。
【0021】
図1(d)に示すように、このような設置物105においては、地震等が発生することにより、構造物101が水平方向に振動した場合には、設置物105の下方は構造物101とともに移動し、上方は慣性によってその場に残るから、設置物105を転倒させようとするモーメントが生じる。そこで、図1(b)に示すように、変位抑制装置1により設置物105の上方の移動を規制することにより、設置物105の転倒が防止される。
【0022】
図2(a)は、変位抑制装置1の外観を示す正面図であり、図2(b)は、変位抑制装置1の外観を示す平面図である。
【0023】
変位抑制装置1は、概略、巻尺のような装置であり、容器3と、容器3からの引き出し及び容器3内への巻き込みが可能なストリング5とを有している。容器3には、構造物101及び設置物103(又は105。以下、105は省略する。)の一方に連結される連結部7が設けられている。ストリング5の先端には、構造物101及び設置物103の他方に固定される接合部9が設けられている。
【0024】
容器3の形状は適宜に設定されてよいが、本実施形態では、薄型の直方体状に形成された場合を例示している。また、容器3の材料も適宜に選択されてよいが、金属やFRP等の強度の高い材料により形成されていることが好ましい。
【0025】
ストリング5は、可撓性を有する長尺状の部材である。ストリング5の断面形状(長尺方向に直交する断面の形状)は適宜に設定されてよいが、本実施形態では、扁平な矩形状に形成された場合を例示している。ストリング5の材料・構造も適宜に選択されてよいが、強度が高く且つ可撓性を十分に確保できる材料・構造とされることが好ましい。例えば、ストリング5は、金属繊維からなる織布、若しくは、アラミド繊維などの強度の高い樹脂繊維からなる織布により構成されている。
【0026】
連結部7は、例えば、一端が容器3に固定される可撓性部材11と、可撓性部材11の他端に設けられた接合部13とを有している。
【0027】
可撓性部材11は、可撓性を有する長尺状の部材である。可撓性部材11の断面形状、材料・構造は、適宜に設定されてよい。例えば、可撓性部材11は、ピアノ線、ワイヤーロープ若しくはチェーンにより構成されてよい。
【0028】
接合部13及び9は、適宜な固定構造とされてよい。例えば、接合部13及び9は、ねじ、若しくは、ボルト及びナットにより取り付けれるものであってもよいし、フック状の部材の係合により取り付けられるものであってもよいし、紐により縛り付けられるものであってもよい。接着や面ファスナー、粘着性材料(マット)でもよい。
【0029】
図3(a)は、図2のIIIa−IIIa線における断面を含む、容器3を透視して示す変位抑制装置1の正面図である。図3(b)は、図3(a)のIIIb−IIIb線における断面図である。なお、各図において、一部の部材は模式的に示されている。
【0030】
容器3内には、ストリング5を巻き取る巻き取り部材15と、巻き取り部材15をストリング5を巻き取る方向に回転させる付勢力を生じるばね17と、ばね17が連結される固定軸19と、巻き取り部材15の回転が伝達され、摩擦抵抗を生じる摩擦装置23と、巻き取り部材15から摩擦装置23への回転の伝達を制御するクラッチ21とが設けられている。
【0031】
巻き取り部材15は、例えば、ストリング5が巻かれる円筒状の筒部15aと、その端面に設けられた一対の円盤状の鍔部15bとを有している。そして、巻き取り部材15は、不図示の軸支機構により筒部15aの軸心回りに回転可能に容器3に支持されている。一対の鍔部15b間の距離は、ストリング5の幅よりも若干大きい程度とされている。
【0032】
そして、ストリング5は、接合部9とは反対側の端部が筒部15aに固定されており、当該端部側から筒部15aに巻かれている。より具体的には、ストリング5は、一巻き毎に内側から外側へ積層されるように巻かれている。
【0033】
ばね17は、図3では模式的に示されているが、例えば、ぜんまい(渦巻きばね)により構成されている。ぜんまいは、非接触型でもよいし、接触型でもよいし、S字型でもよいし、定トルク型でもよいし、定荷重型でもよいし、長さ方向に直交する断面形状が扁平の帯状の素材を巻いたものであってもよいし、長さ方向に直交する断面形状が円形等の線状の素材を巻いたものであってもよい。また、ぜんまいの材料は、例えば、高炭素鋼、ステンレス等の金属である。
【0034】
ばね17は、一端側が固定軸19を介して容器3に固定され、他端側が巻き取り部材15に固定されている。そして、ばね17は、巻き込まれた状態から伸びる方向へ復元力によって変形し、これにより巻き取り部材15を回転させ、巻き取り部材15にストリング5を巻き取らせる。ばね17は、例えば、巻き取り部材15によりストリング5を完全に巻き取り可能に十分に巻き込まれた状態とされている。なお、ストリング5を完全に巻き取った状態は、例えば、接合部9が容器3に到達して係合するなど、ストッパとして機能する部材が係合した状態である。
【0035】
クラッチ21は、入力側回転部材25と、入力側回転部材25の回転が伝達され若しくはその伝達が遮断される出力側回転部材27と、入力側回転部材25と出力側回転部材27との間に介在する介在部材26とを有している。
【0036】
入力側回転部材25は、例えば、クラッチ21の内輪として構成され、概略円環状に形成されるとともに、巻き取り部材15と一体的に回転可能に巻き取り部材15に固定されている。
【0037】
介在部材26は、入力側回転部材25の外周面に対して入出可能に構成されており、不図示のスプリングによって入力側回転部材25の外側へ付勢されている。介在部材26は、入力側回転部材25の円周方向の一方側においては、円周方向に対する傾斜が大きく、他方側においては円周方向に対する傾斜が小さく形成されている。
【0038】
出力側回転部材27は、例えば、クラッチ21の外輪として構成され、入力側回転部材25の外周を囲む円環状に形成されている。その内周面には、複数の介在部材26に対して円周方向において係合可能な複数のせん断キー27bが形成されている。
【0039】
入力側回転部材25が矢印A1(図3(b))で示す方向に回転すると、介在部材26がせん断キー27bに係合して、入力側回転部材25の回転が出力側回転部材27に伝達される。一方、入力側回転部材25が矢印A2で示す方向に回転すると、介在部材26とせん断キー27bとの間に作用する力は介在部材26を入力側回転部材25に押し込む力に変換され(図4(b)参照)、クラッチ21は空転する。
【0040】
摩擦装置23は、出力側回転部材27と、容器3に対して固定され、出力側回転部材27に当接する固定部材29とを有している。従って、出力側回転部材27の回転に対しては、出力側回転部材27と固定部材29との間で摩擦抵抗が生じる。なお、本実施形態では、出力側回転部材27は、摩擦装置23と、クラッチ21とに共用されている。
【0041】
固定部材29は、例えば、回転軸に平行な断面がL字の円環状に形成され、内周側の先端面が出力側回転部材27の外周面に当接している。なお、本実施形態では、出力側回転部材27の外周面には凹溝が形成されており、固定部材29の内周側の先端は当該凹溝に嵌合している。これにより、出力側回転部材27と固定部材29との接触面積が大きくなっている。
【0042】
出力側回転部材27及び固定部材29は、例えば、部材を構成する材料として一般的な材料(例えば金属)により構成されてよい。また、この場合において、これらの部材間には、摩擦係数を適宜な値とするために油が配置されてもよい。また、出力側回転部材27及び固定部材29の摺動面は、アラミド繊維等の適宜な部材が配置されて構成されてもよい。
【0043】
また、出力側回転部材27及び固定部材29は、その全体若しくは摺動面が、自動車等の摩擦ブレーキに使用されている材料により構成されてもよい。このような材料は、例えば、セミメタリック材、ロースチール材、NAO(Non-Asbestos Organic,ノンアスベスト摩擦材料)材である。
【0044】
図4(a)及び図4(b)は、変位抑制装置1の動作を説明する図3(b)と同様の断面図である。
【0045】
地震等が発生し、構造物101が振動すると、図1(a)および図1(c)に例示したように、設置物103は、構造物101に対して相対的に振動する。より具体的には、設置物103は、構造物101の壁から離れる方向への移動と、構造物101の壁へ近づく方向への移動を繰り返そうとする。
【0046】
設置物103が構造物101の壁から離れるときには、図4(a)において矢印H1で示すように、ストリング5は容器3から引き出される。ストリング5の引き出しに伴って、巻き取り部材15は矢印J1で示す方向に回転する。また、入力側回転部材25も矢印A1で示す方向に回転する。このとき、介在部材26はせん断キー27bに係合し、出力側回転部材27は矢印B1で示す方向に回転する。そして、出力側回転部材27と固定部材29とは摺動する。
【0047】
ストリング5が引き出されて設置物103の移動が許容されることにより、設置物103を構造物101に対して金具により固定した場合に比較して、変位抑制装置1(金具)自体、及び、設置物103や構造物101の変位抑制装置1が取り付けられる部分に加えられる荷重は低減される。具体的には、ストリング5の引き出しに際しては、主としてばね17の復元力と摩擦装置23の摩擦力とからなる抵抗力がストリング5に付与され、当該抵抗力が変位抑制装置1等に加えられる荷重の最大値となる。
【0048】
また、摩擦装置23の摩擦力に抗してストリング5が引き出されることにより、当該引き出しに際して設置物103の振動エネルギーが消費され、設置物103の変位が抑制される。
【0049】
一方、設置物103が構造物101の壁に近づくときには、図4(b)において矢印H2で示すように、ストリング5の先端は容器3に近づく。このとき、ばね17の付勢力により巻き取り部材15は矢印J2で示す方向へ回転し、ストリング5は巻き取り部材15に巻き取られて行く。また、入力側回転部材25も、巻き取り部材15とともに矢印A2で示す方向に回転する。このとき、介在部材26はせん断キー27bにより入力側回転部材材25の内部に押し込まれ、出力側回転部材材27に回転を伝達しない。換言すれば、入力側回転部材材25、さらには、入力側回転部材材25に固定された巻き取り部材15は、摩擦装置23から抵抗力を受けない。従って、ストリング5の巻き取りが速やかに行われる。
【0050】
なお、設置物103の水平移動を例にとって説明したが、設置物105(図1(b)及び図1(d))の回転移動についても、変位抑制装置1は同様に機能する。
【0051】
上記の説明から理解されるように、巻き取り部材15の巻き取り方向への回転に対しては、クラッチ21の空転により摩擦装置23の抵抗力は付与されず、また、設置物103の構造物101の壁側への復帰は設置物103の振動によりなされる。従って、ばね17は、ストリング5の撓みを解消可能に巻き取り部材15を回転させることができる程度の付勢力を発揮できればよい。ただし、それ以上の付勢力を発揮可能であってもよい。
【0052】
摩擦装置23の摩擦力は、適宜な大きさとされてよい。摩擦力が小さくても、振動エネルギーが消費され、設置物103の変位が抑制されることに変わりはない。逆に、摩擦力が大きくても、クラッチ21によって巻き取り部材15によるストリング5の巻き取りに対しては摩擦力は作用しないから、ストリング5の巻き取りに支障は生じない。
【0053】
ばね17の復元力及び摩擦装置23の摩擦力は、好適には、想定している設置物の想定している地震における振動が最も抑制されるように、設置物の自重や外力等を考慮して、振動系の運動方程式を解いたり、シミュレーションを行ったりすることにより、設定されることが好ましい。もちろん、その過程においては、変位抑制装置1が種々の設置物等に対して汎用性を有するように、種々の自重や加速度に基づいてばね17の復元力及び摩擦装置23の摩擦力が設定されてもよい。
【0054】
また、ストリング5は、その張力が、ばね17の復元力及び摩擦装置23の静止摩擦力を超えると、引き出しが開始される。換言すれば、ばね17及び摩擦装置23は、加速度の小さい振動においてはストリング5の引き出しを禁止する。従って、ばね17の復元力及び摩擦装置23の摩擦力は、設置物103の移動を完全に禁止する範囲と、設置物103の移動をある程度は許容する代わりに変位抑制装置1の破損を抑制する範囲との境界を適宜に設定するように設定されてもよい。
【0055】
図5は、変位抑制装置1に加えられる荷重の変化を比較例との比較において示す図である。
【0056】
比較例は、従来のL字型の金具のように、設置物103を構造物101の壁に対して完全に固定する固定具を想定している。図5において、横軸は設置物103の構造物101の壁からの移動量Dを示し、縦軸は変位抑制装置1及び比較例の固定具、若しくは、構造物101及び設置物103の変位抑制装置1等が固定される部分に加わる荷重Fを示している。
【0057】
実線L1で示すように、比較例の場合においては、設置物103が構造物101の壁から若干移動しただけで、荷重Fは急激に上昇する。そして、地震力が大きいときには、固定具等の破断に至る。その結果、荷重Fは急激に減少し、換言すれば、設置物103の移動を規制する力は発揮されなくなり、壁からの移動量Dは大きくなっていく。
【0058】
一方、実線L2に示すように、実施形態においては、設置物103が構造物101の壁から移動すると、当初は、荷重Fは急激に上昇する。しかし、荷重Fが、主としてばね17の復元力及び摩擦装置23の静止摩擦力からなる抵抗力を超えると、ストリング5が容器3から引き出され、設置物103の移動が許容される代わりに荷重Fの増加は緩和される。この移動の間においては、上述のように、摩擦抵抗によって振動エネルギーが消費される。そして、振動の半周期が過ぎて設置物103の移動方向が反転すると、荷重Fは急激に下がる。このように、上述した実施形態の作用・効果は、荷重と変位との関係を示すグラフにおいても現れる。
【0059】
図6(a)は、摩擦装置の変形例を示す図3(a)と同様の正面図、図6(b)は図6(a)のVIb−VIb線における断面図である。
【0060】
変位抑制装置201の摩擦装置223は、出力側回転部材227、一若しくは複数の板材228及び固定部材229が積層されて構成されている。これらの部材は、ボルトなどの適宜な部材により積層方向により圧縮されるとともに、その間に油が配置されることなどにより、部材間の摩擦係数が適宜に設定されている。なお、板材228は、出力側回転部材227側から受ける摩擦力と、固定部材229側から受ける摩擦力との差分の力により回転する。
【0061】
図7(a)〜図7(c)は、変位抑制装置1(若しくは201。以下、201は省略)の取り付け態様の変形例を示す模式図である。
【0062】
図7(a)の取り付け例では、変位抑制装置1は、構造物101側の端部は、設置具107を介して構造物101の壁と天井との隅角部に対して固定されている。このように、変位抑制装置1は、壁への固定に限られないとともに、他の部材を介して構造物101に固定されてもよい。
【0063】
図7(b)の取り付け例では、変位抑制装置1は、ストリング5が、設置具107を介して構造物101の壁と床との隅角部に対して固定されている。ここで、ストリング5は、設置物103の角部に当接されることにより屈曲しており、設置物103に対しては概ね水平方向の張力を付与可能であるとともに、設置具107からは、概ね鉛直方向において張力を受けている。
【0064】
このように、変位抑制装置1は、ストリング5を設置物103若しくは構造物101の一部若しくはこれらに固定された部材により適宜に屈曲させて引き回すことにより、構造物103の任意の位置から受けた張力を設置物103の任意の方向へ付与することができる。すなわち、変位抑制装置1は、取り付けの自由度が極めて高いという効果も奏する。
【0065】
図7(c)は、設置具107の一例を示す模式図である。設置具107は、伸縮式のロッドを含んで構成され、ロッド両端は、摩擦力を受けつつ床や壁に対して移動可能に連結されている。
【0066】
(効果の検証)
実際の地震動に基づいて、設置物103や変位抑制装置1の挙動に関するシミュレーションを行い、変位抑制装置1の効果を検証した。実際の地震動としては、兵庫県南部地震、東北地方太平洋沖地震及び新潟県中越地震の地震動を想定した。
【0067】
(兵庫県南部地震の例)
この例では、図1(a)及び図1(c)に示すように、キャスター付きの設置物103の壁に対する水平移動が変位抑制装置1により規制されている場合において兵庫県南部地震が発生したときの設置物103及び変位抑制装置1の挙動を計算した。
【0068】
図8(a)は、シミュレーション条件である地震動の経時変化を示す図であり、横軸は時間を、縦軸は加速度を示している。
【0069】
図8(b)は、シミュレーション結果を示す図であり、横軸は時間を、縦軸は設置物103の壁からの移動量を示している。実線L5は本実施形態の対策が行われた(変位抑制装置1により設置物103が移動が規制された)場合の移動量を示し、点線L6は無対策の(変位抑制装置1も従来の固定具も使用されない)場合の移動量を示している。
【0070】
この図に示されるように、変位抑制装置1により、設置物103の移動は効果的に抑制されている。例えば、無対策の場合の移動量の最大値は1.2m程度であるのに対し、本実施形態の対策がなされた場合の移動量の最大値は0.2m程度であり、人的被害が生じるような設置物103の移動が効果的に抑制されている。
【0071】
図9(a)は、シミュレーション結果を示す他の図であり、横軸は、変位抑制装置1により水平移動が規制された設置物103の壁からの移動量を示し、縦軸は摩擦装置23が生じた摩擦力(F)を設置物103の自重(mg)で除して正規化した値を示している。当該移動量及び摩擦力は、時間の経過に伴って、実線L7に沿って矢印で示す方向に変化していく。
【0072】
図9(a)では、図5と類似した変化が読み取れる。すなわち、地震が発生し、設置物103の壁から離れる移動が開始されると(移動量が0の付近)、摩擦力は急激に上昇する。次に、摩擦力の上昇が頭打ちになるとともに、設置物103の壁からの移動量が増加する。そして、振動の半周期が過ぎて設置物103が壁側へ移動を開始すると、摩擦力はなくなり、その後、設置物103の壁からの移動量は小さくなる。この変化は繰り返し行われる。
【0073】
そして、このような変化により描かれた実線L3に囲まれた領域の面積は、摩擦装置23により消費された振動エネルギーに相当する。実線L3は概ね矩形を描いていることから、移動量(横軸)及び摩擦力(縦軸)に対して効果的に消費エネルギー(面積)が大きくされていることが分かる。
【0074】
図9(b)は、シミュレーション結果を示す更に他の図であり、横軸は変位抑制装置1により変位が規制された設置物103の速度を示し、縦軸は図9(a)の縦軸と同様に、摩擦装置23が生じた摩擦力を設置物103の自重で除して正規化した値を示している。
【0075】
摩擦力は、設置物103が壁に近づくとき(速度が負のとき)は0であり、且つ、設置物103が壁から離れるとき(速度が正のとき)は、たとえ設置物の速度が低くても大きい。従って、設置物103が壁に近づくときは速やかにストリング5の巻き取りが行われつつ、設置物103が壁から離れるときには速やかに抵抗力を付与できることが確認された。
【0076】
(東北地方太平洋沖地震の例)
この例では、上記の兵庫県南部地震の例と同様に、キャスター付きの設置物103の壁に対する水平移動が変位抑制装置1により規制されている場合において東北地方太平洋沖地震が発生したときの設置物103及び変位抑制装置1の挙動を計算した。
【0077】
図10(a)〜図11(b)はそれぞれ、上述の図8(a)〜図9(b)に対応している。図10(b)において実線L11及び点線L12は、図8(b)の実線L5及びL6と同様に、本実施形態の対策をした場合と無対策の場合とに対応している。
【0078】
これらの図においても、設置物103の移動量が効果的に抑制されていること(図10(b))、振動エネルギーが効果的に消費されていること(図11(a))、摩擦力のON・OFFが好適に行われていること(図11(b))等が読み取れる。
【0079】
(新潟県中越地震の例)
この例では、図1(b)及び図1(d)に示すように、設置物105の回転変位(転倒するような移動)が変位抑制装置1により規制されている場合において新潟県中越地震が発生したときの設置物105及び変位抑制装置1の挙動を計算した。
【0080】
図12(a)及び図12(b)は、シミュレーション条件である地震動の経時変化を示す図である。図12(a)において、横軸は時間を、縦軸は加速度を示している。図12(b)において、横軸は時間を、縦軸は角加速度を示している。
【0081】
図12(c)は、シミュレーション結果を示す図であり、横軸は時間を、縦軸は設置物105の平時の位置からの回転量を示している。実線L21は本実施形態の対策が行われた(変位抑制装置1により設置物105の移動が規制された)場合の回転量を示し、点線L22は変位抑制装置1からクラッチ21を無くした場合の回転量を示し、点線L23は無対策の(変位抑制装置1も従来の固定具も使用されない)場合の回転量を示している。
【0082】
なお、変位抑制装置1からクラッチ21を無くした場合においては、摩擦装置23の摩擦抵抗がばね17の復元力よりも大きい場合を想定した。すなわち、一度引き出されたストリング5が自動で巻き取り部材15に巻き取られることはないものとした。
【0083】
点線L23で示すように、無対策の場合においては、設置物105の回転量は急激に増加し、図12(c)の範囲内で際限なく大きくなっている。これは、設置物105が転倒したことを意味している。
【0084】
点線L22で示すように、変位抑制装置1からクラッチ21を無くした場合においては、初期の振動に対しては設置物105の回転を抑制する機能を果たすものの、ストリング5が巻き戻されず、設置物105の振動を抑制する機能が失われることから、無対策の場合に少し遅れて、無対策の場合と同様に設置物105が転倒する。
【0085】
一方、点線L21で示すように、本実施形態の対策が行われた場合においては、設置物105の回転が継続的に抑制され、その結果、転倒が防止されている。このように、変位抑制装置1が無対策の場合等に比較して設置物105の転倒を防止できることが確認された。
【0086】
図13(a)は、シミュレーション結果を示す、既に説明した図9(a)等に対応する図である。ただし、横軸は、設置物105の回転量を示し、縦軸は摩擦装置23が生じた摩擦モーメントを示している。摩擦モーメントは、支点位置の設置物の慣性モーメントと重力加速度の積で除されて正規化されて示されている。
【0087】
実線L25は、本実施形態の対策が行われた場合を示し、点線L26は、変位抑制装置1においてクラッチ21が無い場合を示している。回転量及び摩擦モーメントは、時間の経過に伴って、実線L25若しくは点線L26に沿って矢印で示す方向に変化していく。
【0088】
実線L25では、図5や図9(a)等と類似した変化が読み取れる。すなわち、実線L25は、概ね、原点(回転量0、摩擦モーメント0)を起点とする矩形を繰り返し描くように延びている。なお、実線L25で囲まれた領域の面積は、図9(a)等と同様に、消費されたエネルギーに相当する。
【0089】
一方、点線L26では、ストリング5が巻き戻されないことから、2回目以降の矩形の起点(摩擦モーメントが上昇を開始する点)は、それ以前の矩形の右下端(摩擦モーメントが下降して0となった点)となっている。すなわち、設置物105の回転量が以前に生じた回転量に到達することにより摩擦モーメントが生じる。その結果、エネルギーの消費が十分でないうちに、回転量は大きくなっていく。
【0090】
このように、クラッチ21により、回転量を抑制しつつ、繰り返しエネルギーを消費できることが確認された。
【0091】
図13(b)は、シミュレーション結果を示す、既に説明した図9(b)等に対応する図である。この図においても、摩擦モーメントのON・OFFが好適に行われていることが読み取れる。
【0092】
なお、以上の実施形態において、容器3は本発明の基体の一例であり、ストリング5は本発明の長尺部材の一例である。
【0093】
(変位抑制装置の他の応用例)
図14は、変位抑制装置1の他の応用例を示す模式的な断面図である。
【0094】
図14において、変位抑制装置1は、免震装置505の過大な変位を抑制する装置として利用されている。具体的には、免震装置505は、支持構造物501に対して免震対象物503を水平方向に移動可能に支持し、変位抑制装置1は、一端(接合部9又は13)が支持構造物501に固定され、他端が免震対象物503に固定されている。
【0095】
免震装置505は、転がり支承や滑り支承等の適宜な免震支承により構成されてよい。図14では、転がり支承を例示している。支持構造物501及び免震対象物503は、例えば、家屋等の構造物及び当該構造物に支持された什器である。また、例えば、支持構造物501及び免震対象物503は、構造物の基礎部分及び当該基礎部分に支持される家屋等の構造物である。
【0096】
免震装置505は、地震等において支持構造物101の振動が免震対象物503へ伝達されることを抑制する。しかし、長周期の地震が生じたときなどにおいては、免震対象物503の支持構造物101に対する相対変位が大きくなる。その結果、例えば、免震対象物503の破損防止に好ましくない状態が生じ得る。
【0097】
一方、変位抑制装置1は、上述のように、ストリング5が引き出される運動に対して摩擦抵抗を作用させ、振動エネルギーを消費する。従って、免震対象物503の過大な変位が抑制される。なお、免震対象物503は、支持構造物501に対する移動が許容されているものであるから、この応用例においては、変位抑制装置1は、L字の金具等の固定具に代えて用いられるわけではなく、免震装置505に対して新たに付加されることになる。
【0098】
図15(a)及び図15(b)は、変位抑制装置1の更に他の応用例を示す模式的な断面図である。
【0099】
図15において、変位抑制装置1は、構造物601の耐震性を向上させる装置として利用されている。具体的には、変位抑制装置1は、構造物601の第1部位601a及び第2部位602bとに架け渡されるように設置され、これらの部位の相対変位を抑制することにより、構造物601の変形を抑制する。
【0100】
構造物601は、例えば、家屋やビルである。構造物601の構造は、骨組構造や壁式構造等の適宜な構成とされてよい。また、構造物601の平面形状等も適宜な形状とされてよい。第1部位601a及び第2部位601bは、構造部601の変形に伴って相対変位が生じやすい部位であることが好ましい。
【0101】
図15では、骨組構造の矩形の対角線上に変位抑制装置1が配置された場合を例示している。なお、対角線は、水平フレームの対角線(水平面に平行な矩形の対角線)であってもよいし、鉛直フレームの対角線(壁面等に平行な矩形の対角線)であってもよいし、立体フレームの対角線(直方体内部を通過する対角線)であってもよい。
【0102】
図15(a)において矢印y1で示すように強い地震力が加えられると、図15(b)において矢印y2示すように、矩形の構造物601は菱形に変形する。このとき、矢印y3で示すように、構造物601の対角線は延び、これに伴いストリング5が引き出される。従って、変位抑制装置1は、構造物601の変形を許容して過度の荷重が変位抑制装置1等に加わることを抑制しつつ、摩擦抵抗により変形のエネルギーを消費して、構造物601の変形を抑制することができる。
【0103】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0104】
ワンウェイクラッチは設けられなくてもよい。この場合であっても、巻き取り部材を巻き取り方向に付勢するばねの付勢力が摩擦装置の摩擦力よりも大きければ、長尺部材(ストリング)を巻き取ることは可能である。
【0105】
ただし、共振による予期しない振動の増大を回避する観点からは、摩擦力がばねの付勢力よりも大きいことが好ましい。換言すれば、ワンウェイクラッチは、摩擦力がばねの付勢力よりも大きいときにその効果が顕著となる。なお、ばねの付勢力は、その構成によっては、長尺部材の引き出しに伴って増大する。摩擦力は、長尺部材が完全に引き出されるまで付勢力よりも大きいことが好ましいが、少なくとも巻き取りが完了した状態において付勢力よりも大きくてもよい。
【0106】
また、ワンウェイクラッチは、スプラグ型のものやローラ型のものなど、一般に広く用いられているものであってもよい。また、ワンウェイクラッチは、一方向の回転においては接続状態となり、他方向の回転においては半クラッチ状態となるものであってもよい。
【0107】
巻き取り部材を軸支する基体は、容器に限定されず、例えば、骨組構造のものであってもよい。換言すれば、長尺部材(ストリング)は、巻き取りが完了した状態において外部に露出していてもよい。
【0108】
長尺部材は、一巻き毎に積層される扁平なものに限定されない。長手方向に直交する断面が円形で乱巻きされるようなものであってもよい。また、長尺部材は、扁平に形成可能な織布に限定されず、ピアノ線、ワイヤーロープ若しくはチェーンであってもよい。
【0109】
実施形態では、基体(容器3)を構造物若しくは設置物に固定する構成として可撓性部材11を含む固定部材を例示したが、固定部材は、他の構成とされてもよい。例えば、固定部材は、基体を構造物等に対して移動不可能に固定するものであってもよいし、可撓性部材に代えてユニバーサルジョイントによって基体の向きを変更可能に基体を固定するものであってもよい。
【0110】
なお、本実施形態からは、より上位概念化した以下の発明を抽出可能である。
(発明1)
構造物に対する設置物の変位を抑制する変位抑制装置であって、
前記構造物及び前記設置物の一方に固定される基体と、
前記構造物及び前記設置物の他方に一端側が固定される可撓性を有する長尺部材と、
前記基体に回転可能に支持され、前記長尺部材を他端側から巻き取り可能な巻き取り部材と、
前記長尺部材を巻き取る方向に前記巻き取り部材を回転させる駆動部と、
を有する変位抑制装置。
【0111】
上記の発明1においては、駆動部は、ばねに限定されず、例えば、モータやカウンターウェイトであってもよい。また、摩擦装置が無く、引き出しをばねの復元力により規制する態様が含まれてもよいし、摩擦装置に代えて、他の減衰装置(例えば、粘性流体の粘性抵抗を利用した装置、面ファスナーの剥離抵抗を利用した装置、シリンダからピストンを引抜くときに真空が形成されることによる抵抗を利用した装置)が用いられてもよい。
【0112】
(発明2)
構造物に対する設置物の変位を抑制する変位抑制装置であって、
前記構造物及び前記設置物の一方に固定される基体と、
前記構造物及び前記設置物の他方に一端側が固定される可撓性を有する長尺部材と、
前記基体に回転可能に支持され、前記長尺部材を他端側から巻き取り可能な巻き取り部材と、
前記長尺部材を巻き取り部材から引き出す運動に対して減衰抵抗を付与する減衰装置と、
を有する変位抑制装置。
【0113】
上記の発明2においては、ばねが無く、巻尺の一度の引き出しのみにおいて摩擦力を付与する態様が含まれてもよいし、ばねに代えて、モータやカウンターウェイトが用いられてもよい。また、減衰装置は、摩擦装置に限定されず、例えば、粘性流体の粘性抵抗を利用した装置、面ファスナーの剥離抵抗を利用した装置、シリンダからピストンを引抜くときに真空が形成されることによる抵抗を利用した装置であってもよい。
【符号の説明】
【0114】
1…変位抑制装置、3…容器(基体)、5…ストリング(長尺部材)、15…巻き取り部材、17…ばね、23…摩擦装置、101…構造物、103…設置物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に対する設置物の変位を抑制する変位抑制装置であって、
前記構造物及び前記設置物の一方に固定される基体と、
前記構造物及び前記設置物の他方に一端側が固定される可撓性を有する長尺部材と、
前記基体に回転可能に支持され、前記長尺部材を他端側から巻き取り可能な巻き取り部材と、
前記長尺部材を巻き取る方向に前記巻き取り部材を付勢するばねと、
前記長尺部材を前記巻き取り部材から引き出す運動に対して摩擦抵抗を付与する摩擦装置と、
を有する変位抑制装置。
【請求項2】
前記摩擦装置は、
前記巻き取り部材の回転が伝達されて回転可能な回転部材と、
前記基体に対して固定され、前記回転部材に対して当接して前記回転部材との間で摩擦抵抗を生じる固定部材と、
有し、
前記巻き取り部材と前記回転部材との間には、前記巻き取り部材の前記長尺部材を引き出す方向への回転の前記回転部材への伝達を許容するとともに前記巻き取り部材の前記長尺部材を巻き取る方向への回転の前記回転部材への伝達を規制するワンウェイクラッチが設けられている
請求項1に記載の変位抑制装置。
【請求項3】
前記摩擦装置が生じる摩擦抵抗は、少なくとも前記長尺部材の巻き取りが完了した状態において前記ばねの復元力よりも大きい
請求項2に記載の変位抑制装置。
【請求項4】
前記ばねはぜんまいである
請求項1〜3のいずれか1項に記載の変位抑制装置。
【請求項5】
支持構造物に対する免震対象物の変位を抑制する変位抑制装置であって、
前記支持構造物及び前記免震対象物の一方に固定される基体と、
前記支持構造物及び前記免震対象物の他方に一端側が固定される可撓性を有する長尺部材と、
前記基体に回転可能に支持され、前記長尺部材を他端側から巻き取り可能な巻き取り部材と、
前記長尺部材を巻き取る方向に前記巻き取り部材を付勢するばねと、
前記長尺部材を前記巻き取り部材から引き出す運動に対して摩擦抵抗を付与する摩擦装置と、
を有する変位抑制装置。
【請求項6】
構造物の第1部位と第2部位との相対変位を抑制することにより前記構造物の変形を抑制する変位抑制装置であって、
前記第1部位に固定される基体と、
前記第2部位に一端側が固定される可撓性を有する長尺部材と、
前記基体に回転可能に支持され、前記長尺部材を他端側から巻き取り可能な巻き取り部材と、
前記長尺部材を巻き取る方向に前記巻き取り部材を付勢するばねと、
前記長尺部材を前記巻き取り部材から引き出す運動に対して摩擦抵抗を付与する摩擦装置と、
を有する変位抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−2532(P2013−2532A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133389(P2011−133389)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】