説明

変性された構造のトリグリセリドに基づく燃料または燃料添加剤の使用およびその調製のためのプロセス

本発明は、それ自体はよく知られている変性された構造のトリグリセリドの、燃料、可燃物、または燃料および/もしくは可燃物添加剤としての使用、ならびにそれを含む燃料に関する。説明および特許請求の範囲では、「燃料」との表現は、液体自動車推進材料および/または液体可燃物を意味する。加えて、本発明は、変性された構造のトリグリセリドおよび/またはそれらを含む混合物の簡便で、経済的かつ環境保護的な調製のための新しい手順に関し、そして同時に、公知の手順で大量に生産されるグリセロールを利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それ自体はよく知られている変性された構造のトリグリセリドの、燃料、可燃物、または燃料および/もしくは可燃物添加剤としての使用、ならびにそれを含む燃料に関する。説明および特許請求の範囲では、「燃料」との表現は、液体自動車推進材料および/または液体可燃物を意味する。加えて、本発明は、変性された構造のトリグリセリドおよび/またはそれらを含む混合物の簡便で、経済的かつ環境保護的な調製のための新しい手順に関し、そして同時に、公知の手順で大量に生産されるグリセロールを利用することができる。
【0002】
それ自体で、または通常の液体燃料(すなわち、ディーゼル油、バイオディーゼル、可燃性油など)と混合された変性された構造のトリグリセリドが、ディーゼルエンジンの推進力用および/または油で動作するボイラーでの燃焼用に使用できることが見出された。本発明によれば変性された構造のトリグリセリドの応用の最も重要な分野はエンジン推進材料としてのそれらの使用であるため、本願明細書おいて以下では、本発明は、この応用の分野に関連して説明される。
【背景技術】
【0003】
動物および植物起源の脂質(油脂、すなわち、トリグリセリド)は、いわゆるバイオディーゼル(BD)燃料のもとであり、このバイオディーゼル(BD)燃料は、炭化水素の燃焼熱に近いそのエネルギー含量の結果として、認められかつ支援された代替可燃物として、交通においてますます重要な要因になっている。このように、例えばEU指令によれば、2010年までにそれは、ディーゼルで動作する車両の燃料の5.75%を構成する要素とならなければならない。
【0004】
トリグリセリドは、三価のアルコールであるグリセロールの、異なる脂肪酸とで形成されたトリエステルである。その脂肪酸のほとんどはC16−C22酸であるが、いくつかのトリグリセリドでは、より短い(C4−C15)および/またはより長い(C23−C28)脂肪酸鎖もまた存在し得る。グリセロールをエステル化する脂肪酸は、脂肪ではほとんど飽和であり(すなわちステアリン酸、パルミチン酸)、油では異なる酸が1−3個の不飽和を含有していてもよく(オレイン酸、リノレン酸)、これは後者の脂質のより低い融点の要因である(慣例に従えば、25℃でまだ液体であるトリグリセリドは油と呼ばれる)。そのエネルギー含量の結果として、動物脂肪および植物油は、化学変換をまったく加えることなしに、ディーゼルで動作するエンジンの推進力として応用できるであろう。しかし、それらの分子量および粘度はあまりにも高く(850−1000;40℃で30cStより高い)このように、それらは適正な量および形で現代のエンジンの中へと直接供給または霧化することはできない。それゆえ、その分子量は霧化のための限界値まで低下されなければならない:より低い分子量を有する物質はより薄く、その流動点はより低く、このようにそれらは燃料としても使用することができる。この取り組みは、「バイオディーゼル」(BD、脂肪酸メチルエステルの混合物)につながった:3当量の脂肪酸メチルエステルおよび1当量のグリセロールが、トリグリセリドの「フラグメンテーション」(メタノールとのエステル交換、より正確には、アルコール分解)によって生成される(その分子量は約290−310であり、その粘度は4−5cStである)。
【化1】

【0005】
グリセロール(それ自体は10−12%で得られる)は燃料目的には不適切である。その燃焼熱は低く、その粘度は、もとのトリグリセリドの粘度よりも数桁高い。工業的副生成物としての(およびかなりの不純物を含む形の)その出現は、深刻な結果、すなわちグリセロールレーキおよび環境を汚染する汚水をもたらす。それらを取り除くことは、世界中で、環境に関する深刻な負担となっている。このことを認識することで、現在のバイオディーゼルの製造を置き換えるために、本発明者らは、出発物質が同様に天然のトリグリセリドである、新しい技術および新しい種類の燃料を求めて研究を行った。
【0006】
トリグリセリドのアルコール分解は、酸触媒反応または塩基触媒反応によって実行することができる。より高い反応速度に起因して、後者の塩基触媒反応のほうが広く行き渡っている。作業工程は比較的早く(1−3時間、30−70℃)、それは連続的手順であってもよいしバッチ式手順であってもよい。平衡反応であるため、メタノールは少なくとも2倍モル量過剰に使用され、この反応の最後に、過剰分は気化されて再循環される。下側のグリセロール層の分離および水による洗浄後、エステル混合物は真空蒸留され、バイオディーゼルは98−99%収率で得られ、これは炭化水素ベースのディーゼル油と混合される(例えば特許文献1、特許文献2)。非常に過酷な反応条件(260℃、10MPa)を用いる高エネルギー需要を要する手順がある(特許文献3)。
【0007】
アルコール分解は、精製(refined)(精製され(purified)、有機ポリマーおよびワックスを含まない)脂質を用いて実施される。しかし同時に、トリグリセリドの遊離脂肪酸含量が問題として生じる。この遊離脂肪酸含量は、動物脂肪および/または使用済みの家庭用の油の場合は非常に高い(15−20%)可能性がある。この場合、脂肪酸は、一般に、第1段階で酸触媒反応によってエステル化され(塩基触媒を用いると遊離脂肪酸は石鹸を生成し、これによりエマルジョンが生成され、これでは処理することが困難になるためである)、酸性触媒が洗い流され、そしてトリグリセリドのアルコール分解が塩基性条件で実施される(特許文献4)[バイオディーゼル手法の現状に関する優れた総説を文献に見出すことができる:非特許文献1;これはインターネットでも読むことができる]。
【0008】
近年、多くの特許が、この「古典的」バイオディーゼル製造の異なる実施形態を請求している。例えば特許文献5では、脂肪酸メチルエステルの混合物が、第6列の反応に従って明記された起源および組成の天然のトリグリセリド出発物質から調製される。特許文献6ではまた、バイオディーゼルは、第5頁に見られる「慣用的な」反応スキームに従ってメタノールとのエステル交換によって調製される。特許文献7では、脂肪酸メチルエステルは、出発物質としてのトリグリセリドから、すなわち「グリセロール」経路に従って同様に調製される。特許文献8では、従来の経路で調製されるグリセロール副生成物の利用が提案されている。その提案によれば、グリセロール副生成物は、上記のように調製されたメチルエステルの混合物へ、グリセロール−アセタールの形で添加される。特許文献9では、低粘度不飽和脂肪酸メチルエステルおよびグリセロールの混合物が、高不飽和度のトリグリセリドからメタノールとのエステル交換によって生産される。特許文献10もまた、「燃料として応用できる脂肪酸エステル混合物」を、古典的「グリセロール」技術に従って調製する。上記の特許のすべての大きな欠点は、非常に不純物が多いグリセロール副生成物および大量の洗浄廃水の生成である。
【0009】
グリセロールは化学工業にとっては価値ある出発物質であり、それ自体は多くの応用分野で使用することができるが、しかし過去数年間のバイオディーゼル生産の急激な増加の結果として、膨大な量の商品にならない在庫品がこの材料から蓄積し、このために、「グリセロール化学」−すなわち新しい応用分野の研究−は、関心の的になっている。この状況は、高い含水量(8−15%)、メタノール含量(1−10%)、モノグリセリドおよびジグリセリドの存在などを特徴とする粗製グリセロールが異なる技術で生産されるという事実により複雑になっている。グリセロールの脱水は、本質的にエネルギー消費型プロセスであり、このため、他の不純物に関する精製工程と組み合わせると、この潜在的可能性のある「出発物質」は非常に高価なものとなる。
【0010】
まさに膨大な量の生成に起因して、このように調製されたグリセロールの最も有望そうな利用法は、適切な誘導体へと変換したのちの燃料または燃料添加剤としてのその「フィードバック」であろう。実際、最近公開された多くの特許出願がこれに対する解決策を提示している。例えば特許文献11によれば、アセタール、ケタールなどが適切に調製された(精製され、脱水された)グリセロールから調製され、そしてそれらの物理化学的特性から、少量のグリセロールを燃料として、またはバイオディーゼの添加剤として応用することが可能になる。特許文献12によれば、バイオディーゼル生産のグリセロールから、オレフィンを用いてエーテル誘導体が調製され、これは燃料に添加され、これを用いて排出量(emission value)が改善される。しかしこのバイオディーゼルは、その低い燃焼熱に起因して、これらの誘導体を用いてあまりに大きく希釈してはいけない。そして、バイオディーゼル自体は、予測できる期間の範囲内では、石油ディーゼルの(5−20%での)添加剤に過ぎないため、この形での廃棄物のグリセロールの利用は限られたものに過ぎない可能性があることは明らかである。
【0011】
上記の事柄に基づいて、現在のバイオディーゼル生産のコストを大きく下げることはできない、つまり、際立った税務政策をもってしても脂肪酸メチルエステルの競争力を高めることはできないことは明らかである。製造はすでに最適化されかつ自動化されており、植物油の価格は、需要が増加しているため低下しそうになく、メタノールの価格低下の可能性があっても、その消費量が少ないために、バイオディーゼル価格に大きな影響を与えることはできない。グリセロール副生成物は、バイオディーゼル工場にとっては、コスト削減要因というよりはむしろ重荷である。この結果、燃料としてのトリグリセリドの直接の利用は、継続して興味がもたれているという状況になっている(例えば特許文献13を参照)。
【0012】
これに関して、2つの刊行物に言及することができる:2人の周知のこの分野の専門家であるR.O.DunnおよびM.O.Bagbyの系統的な研究に基づき、彼らは、例えば大豆油、2−オクタノールおよびエタノールの3相系を形成することによる、植物油の直接の応用を可能にする粘度低下についての多くの異なる解決策(後の相分離を防ぐためおよび同時に流動点の長期間の低下のための共溶媒の添加および可溶化)を提案する[非特許文献2]。同じ雑誌の7月号に、R.O.Dunnは、新しい多成分系の導入を提案している[非特許文献3]。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−197047号公報
【特許文献2】独国特許第3515403号明細書
【特許文献3】仏国特許第2,752,242号明細書
【特許文献4】国際公開第01/12581号パンフレット
【特許文献5】米国特許第5,730,029号明細書
【特許文献6】欧州特許第626,442号明細書
【特許文献7】国際公開第2005/028597号パンフレット
【特許文献8】米国特許出願公開第20060199970号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第20040108219号明細書
【特許文献10】ハンガリー国特許第207117号明細書
【特許文献11】米国特許第6,890,364号明細書
【特許文献12】仏国特許第2,866,653号明細書
【特許文献13】ハンガリー国特許第208994号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】E.Loteroら、Catalysis、2006年、第19巻、41−83頁
【非特許文献2】R.O.DunnおよびM.O.Bagby、Journal of the American Oil Chemists’ Society、2000年12月、第77巻、第12号、1315−1323頁
【非特許文献3】Journal of the American Oil Chemists’ Society、2002年7月、第79巻、第7号、709−715頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らの研究では、新しい方法が、トリグリセリドの、それぞれ粘度および分子量を低下させるために作り上げられた。グリセロール−トリエステルは、酸官能性(=アシル基)が一部のみ交換するように、(アルコールとではなく)別のエステル、つまり短鎖(C1−C6)カルボン酸のメチル/エチルエステルとの反応に供される。このようにして、変性された構造のトリグリセリドが得られる。この変性された構造のトリグリセリドでは、その脂肪酸基(長い脂肪酸基)の一部は元の(天然の、別の言い方では生物由来として公知の)トリグリセリドにも存在していたものであるが、同時にその別の部分(短鎖脂肪酸基)は化学反応で形成され、そしてエステルとともに導入されたものである。このようにして、元のトリグリセリドの分子量(同時に粘度および流動点)はグリセロールを生産することなく低下するということが達成できる。新しい種類の燃料または燃料成分としてのこの解決策、およびその結果は、技術文献には公知ではない。これは、他の方法を用いてかつ他の応用のために、トリグリセリドを短鎖トリグリセリドに変換することが技術文献から公知であるという事実とは、独立している。
【0016】
当然、この化学反応では、元のトリグリセリドから「置き換えられた」長鎖脂肪酸は、新しい物質の中に留まり、それらは新しい物質の成分となる。なぜなら、本発明者らの手順では、そのメチル/エチルなどのエステル(つまり、現在の「バイオディーゼル」)は、変性された構造のトリグリセリドと並行して自動的に生産されるからである。この成分は、新しい燃料のわずかの部分を構成するのみであるが、それは、変性されたトリグリセリドに加えて自動的に存在する。重要なことは、このようにして、トリグリセリドが廃棄物を出さない技術によって燃料としてすべて利用されるということである。
【化2】

【0017】
多くの異なる手順が、変性された構造のトリグリセリドの調製のために使用することができ、その手順としては例えば短鎖カルボン酸によるバイオマス起源のトリグリセリドの部分酸分解が挙げられるが、しかしこの場合、置き換えられた長鎖脂肪酸は、燃料として使用するために、(例えば、アルカリ洗浄によって)新しく調製されたトリグリセリドから分離されなければならない。なぜなら、これらの酸はその腐食性に起因して燃料成分として直接使用できないからである。この場合、遊離した脂肪酸のエネルギー含量は、燃料から失われる。
【0018】
本発明者らの研究では、一般式(I)を有する変性された構造のトリグリセリドは、燃料または燃料添加剤として非常に良好に使用できることが分かった。
【0019】
本発明は、燃料、可燃物または燃料添加剤および/もしくは可燃物添加剤としての、一般式(I)
【化3】

を有する変性された構造のトリグリセリドの使用であって、一般式(I)においてR1、R2およびR3は独立に、水素または任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C28アルキル基を表すが、以下の
(a)少なくとも3%、しかし多くとも97%の存在する前記R1、R2およびR3基は、生物起源のトリグリセリド中に存在する任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むアルキル基を表し、
(b)残りの存在する前記R1、R2およびR3基は、水素および/または任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C5アルキル基を表すという限定を伴い、
かつ、前記特定された%値は前記R1、R2およびR3基の数に関連する、使用に関する。
【0020】
本発明はさらに、式(I)の変性された構造のトリグリセリドの調製のため、および任意に一般式R”−COO−Alk(II)の脂肪酸アルキルエステルの混合物の調製のためのプロセスであって、式中、
(a)R”は、生物起源のトリグリセリド中、ならびに任意にそれらに伴うモノグリセリドおよびジグリセリドならびに遊離脂肪酸中に存在する、任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むアルキル基を表し、このようにして前記生物起源のトリグリセリドに由来する一般式(I)のR1、R23基を網羅し、
(b)Alkは、任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C5アルキル基を表す、プロセスを提供する。
【0021】
本発明の別の態様は、燃料、可燃物または燃料添加剤および/もしくは可燃物添加剤としての、上記の手順に従って調製される一般式(I)および一般式(II)の化合物の混合物の応用である。
【0022】
本発明のさらなる態様は、新しい物質と見なされる一般式(I)および一般式(II)の化合物の混合物を提供する。
【0023】
本発明の別の態様は、一般式(I)の変性された構造のトリグリセリドの調製のためのプロセスであって、生物起源のトリグリセリド、または任意に生物起源のモノグリセリドおよびジグリセリドならびに遊離脂肪酸を含んでいてよいかかるトリグリセリドの混合物が、酸または塩基の存在下で、適切な量のグリセロール(任意に、アルコールおよび/または水を含む)との反応、あるいはかかるグリセロールから予め調製された適切な量のトリアセチル化グリセロール(上記アシル基のR1、R2およびR3部分は一般式(I)に係るものである)と反応されるプロセスを提供する。この場合、本発明の主要部分は、グリセロール分解/エステル交換後に形成される遊離ヒドロキシ基が、一般式R’−COO−Alkのカルボン酸エステル(式中、R’は水素または任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C5アルキル基を表し、Alkは上で定義されたとおりである)でアシル化され、かつ任意に一般式Alk−OHのアルコールおよび一般式R’−COOHの脂肪酸は洗浄によって除去されるということである。
【0024】
本発明の手順のうちの1つにおいて、任意に一般式R”−COOHの遊離脂肪酸ならびに生物起源のモノグリセリドおよびジグリセリドを含んでいてもよい生物起源のトリグリセリド、またはかかるトリグリセリドの混合物は、1種以上の一般式R’−COO−Alkのカルボン酸エステル(式中、R’は水素および/または任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C5アルキル基を表す)との反応に供され、かつ前記一般式R’−COO−Alkのカルボン酸エステルの量は前記生物起源のトリグリセリドの完全エステル交換のために必要な化学量論量の3−97%、および前記任意に存在するモノグリセリドおよびジグリセリドならびに前記一般式R”−COOHの遊離脂肪酸のエステル化のために必要とされる化学量論量に調整され、任意に前記反応は停止され、副生成物として任意に生成された一般式R’−COOHの脂肪酸および一般式Alk−OHのアルコールは洗浄によって除去され、かつ一般式R”−COO−Alkの調製された脂肪酸アルキルエステルは必要に応じて分離される。
【0025】
この反応の停止は、一般式(I)の混合物または化合物の意図された使用が燃料添加剤としてのものである場合には、必要である可能性がある。この場合、生成物の粘度は、実用上4〜6cStの間である。従って、この反応混合物の粘度を測定して、適切な粘度に到達したときに、その反応を停止することが合理的である。他の場合には、例えば、それが可燃物、燃料添加剤または可燃物添加剤として使用される場合には、この停止は必要ではない。
【0026】
当業者にとっては、一般式(I)の上記の定義から、そこで示された%値は統計値を意味していることは明らかである。
【0027】
1、R2および/またはR3の位置の任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込み、かつ生物起源のトリグリセリド中に存在するアルキル基は、異なっていてもよいし、同じでもよいことも、当業者には公知である。同様に、R1、R2および/またはR3の位置の変性基(水素、任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C5アルキル基)もまた、異なっていてもよいし、同じでもよい。
【0028】
1、R2およびR3のうちの少なくとも1つが水素および/または任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C5アルキル基を表し、他方で他の基の少なくとも1つが前記生物起源のトリグリセリド中に存在する、任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むアルキル基である一般式(I)の化合物は、特に好都合である。
【0029】
1、R2、および/またはR3の位置の任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C5アルキル基は、好ましくはメチル、エチル、プロピル、アクリルまたはメタクリル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0030】
本発明はさらに、上記の定義に係る1種以上の一般式(I)のトリグリセリドと、少なくとも1種の通常の燃料成分とを含む燃料を提供する。
【0031】
すでに触れたように、一般式(I)の化合物は、それ自体で燃料として使用することができる。この結果として、上記の混合物中の通常の燃料成分の下限は重要ではなく、それは非常に小さい値であってもよい(例えば、それは数体積%であってもよい)。この通常の燃料成分の上限は、基本的に経済的な検討事項によって決定される。この上限は、例えば90体積%であってよく、好ましくは60−80体積%であり得る。
【0032】
通常の燃料成分は、周知の炭化水素ベースの燃料(すなわちディーゼル油、可燃性油)を含むが、現在の定義に従ってバイオディーゼルと名付けられる燃料(脂肪酸メチルエステル)もまた、これに含めることができる。
【0033】
一般式(I)の変性された構造のトリグリセリドのほとんどは公知の化合物である。技術文献において「合成」または「構造化(structured)トリグリセリド」と呼ばれる化合物は、化粧品用途で、医薬添加剤、ダイエット用サプリメント、非経口的に吸収される栄養剤、粘稠度調整剤として(米国特許第3,000,748号、同第3,936,312号、同第4,137,334号、同第4,832,975号を参照)使用されるが、燃料としてのそれらの使用の可能性は、これらの技術文献では触れられてさえいない。技術文献では、もっぱら、出発の生物起源のトリグリセリドの3つの脂肪酸基のすべてが短鎖脂肪酸基によって置き換えられている合成トリグリセリドを燃料に混合することが記載されている。これは、例えば、欧州特許第1,331,260号およびBiotechnology Letters 第25巻(第15号)、1239−1241)において触れられているトリアセチン(つまり、グリセロール−トリアセテート)であり、これは、粘稠度を改善するために、または菜種油からアルコール分解によって調製された脂肪酸メチルエステルの流動点および粘度を改善するために使用することができる。しかし、これらの完全エステル交換されたトリグリセリドは、一般式(I)の化合物の範囲外にある。なぜなら、一般式(I)の化合物は、どの場合にも部分的にエステル交換されたトリグリセリドと見なされるからである。
【0034】
一般式(I)の化合物の調製について、多くの手順が上で言及した刊行物に記載されており、それらも、いまだ記載されていない一般式(I)の化合物の調製のために使用することができる。かかる公知の方法は、以下のとおりである。
この生物起源のトリグリセリドは、グリセロールとエステル交換され(グリセロール分解)、得られたモノグリセリドおよびジグリセリドの混合物は、酢酸無水物でアシル化され、このようにしてモノアセチル化およびジアセチル化トリグリセリドが得られる。生物起源のトリグリセリドがトリアセチン(トリアセチル−グリセロール)とエステル交換されれば、同じ物質の混合物が得られる。最終目標がより長い脂肪酸官能性、例えばオレイル(oleil)官能性の挿入である場合、グリセロール分解後、モノグリセリドおよびジグリセリドの遊離のヒドロキシ基は、酸スカベンジャーの存在下で、オレイン酸塩化物でアシル化される(米国特許第3,766,227号、同第4,263,216号、同第5,419,925号、同第5,434,278号、同第6,159,933号を参照)。
【0035】
すべてのこれらの公知の方法は、本発明に係る燃料または燃料添加剤として利用できる変性された構造のトリグリセリドの調製のために使用することができる。しかし、これらの公知の手順は、多段階の手順であり、相対的に複雑かつ高価である。
【0036】
本発明者らの研究では、新しい手順は、一般式(I)の化合物の調製についても作り上げられた。この手順は、出発の生物起源のトリグリセリドが、遊離脂肪酸(および、結果としてモノグリセリドおよびジグリセリド)が混入した形で利用できる場合に、非常に良好に適用できる。これらは、例えば使用済みの家庭用の油である。このような油は、トリグリセリドがアルコール分解に供される慣用的なバイオディーゼル調製プロセスになら、予備的精製後にのみ、つまり、遊離脂肪酸ならびにモノグリセリドおよびジグリセリドの除去後にのみ、導入することができたであろう。
【0037】
この新しい手順は、バイオディーゼルとして一般に使用される一般式(II)
【化4】

(式中、
(a)R”は、生物起源のトリグリセリド中、ならびに任意にそれらに伴うモノグリセリドおよびジグリセリドならびに遊離脂肪酸中に存在する、任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むアルキル基を表し、このようにして前記生物起源のトリグリセリドに由来する一般式(I)のR1、R23基を網羅し、
(b)Alkは、任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C5アルキル基を表す)
の脂肪酸アルキルエステルとともに、一般式(I)の化合物を提供し、この物質の混合物は、燃料または燃料成分として直接使用することができる。この物質の混合物は、新しい種類の燃料および可燃物であり、従ってそれは本発明の範囲に含まれる。一般式(I)および一般式(II)の化合物の混合物は新しい。一般式(II)の化合物においてAlkがメチル基を表す場合が好ましく、他方、Alkの値が2−5である場合が特に好ましい。
【0038】
本発明の別の態様は、生物起源のトリグリセリドと一般式R’−COO−Alkの脂肪酸アルキルエステルとの部分的エステル交換、ならびに任意に付随するモノグリセリドおよびジグリセリドならびに遊離脂肪酸の同時に起こるエステル化による、一般式(I)を有する変性された構造のトリグリセリドおよび一般式(II)の脂肪酸アルキルエステルの混合物の調製のためのプロセスであって、式中、R’は水素または任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C5アルキル基を表し、かつこのようにして生物起源のトリグリセリドに由来しない一般式(I)のR1、R2および/またはR3基を網羅するプロセスを提供する。
【0039】
本発明によれば、任意に一般式R”−COOHの遊離脂肪酸、ならびに生物起源のモノグリセリドおよびジグリセリドを含んでいてもよい生物起源のトリグリセリド、またはかかるトリグリセリドの混合物は、1種以上の一般式R’−COO−Alkのカルボン酸エステル(式中、R’は水素または任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C5アルキル基を表す)との反応に供され、かつ前記一般式R’−COO−Alkのカルボン酸エステルの量は前記生物起源のトリグリセリドの完全エステル交換のために必要な化学量論量の3−97%、ならびに前記任意に存在するモノグリセリドおよびジグリセリドならびに前記一般式R”−COOHの遊離脂肪酸のエステル化のために必要とされる化学量論量に調整され、任意に前記反応は停止され、副生成物として任意に生成された一般式R’−COOHの脂肪酸および一般式Alk−OHのアルコールは洗浄によって除去され、かつ一般式R”−COO−Alkの得られた脂肪酸アルキルエステルは必要に応じて分離される。
【0040】
本発明の手順は、以下のプロセスを含む:一般式R’−COO−Alkのカルボン酸エステルの脂肪酸部分は、出発の生物起源のトリグリセリドの少なくとも1つのエステル化する脂肪酸部分を置き換え、このようにして少なくとも1つのヒドロキシ基上で短鎖脂肪酸によってエステル化されたトリグリセリドが得られ、他方、その試薬のアルコール部分は、置き換えられた脂肪酸のC1−C5アルキルエステルを形成する。この出発の混合物が遊離脂肪酸さえも含有する場合、それはまた、C1−C5アルキルエステルへとエステル化され、他方、上記試薬はC1−C5脂肪酸副生成物へと変換され、これは、反応の最後で混合物のアルカリ洗浄によって除去される。トリグリセリドに付随するモノグリセリドおよびジグリセリドもまた、そのプロセスでアシル化され、それら自身が変性トリグリセリドとなり、その試薬から遊離するアルコールは洗浄工程で除去することができる。
【0041】
一部エステル交換された生物起源のトリグリセリド(低下した分子量を有する)、および得られた脂肪酸のC1−C5アルキルエステルはともに(その好都合な粘度および流動点に起因して)、燃料として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】新しいエンジン燃料を得るための反応の好ましい実施形態を示す図である。
【図2】新しい種類バイオ燃料を得るための反応の好ましい実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
a)触媒反応、反応条件
エステル交換反応は、酸または塩基により触媒され得る。本発明の手順では、出発の天然トリグリセリドの特徴は、選択されるべき触媒を規定する。わずか最少量(<0.5%)の遊離脂肪酸だけが(例えば精製植物油中に)存在する場合、より高い反応速度に起因して、アルカリ触媒は、触媒の量が遊離脂肪酸の量をモルで超えるような比で使用されるべきである。なぜなら、遊離脂肪酸は一部のアルカリ触媒にカルボン酸塩の形で結合するからである。かかる触媒反応は、理論的には均一系または不均一系であってよく、本発明の実施形態では、それは不均一である。なぜなら反応物質(カルボン酸モノエステルおよびトリグリセリド)ならびに生成物(変性トリグリセリドおよび脂肪酸エステル)は、可能性のある様々な触媒(アルカリ−アルコラート/水酸化物/炭酸塩/炭酸水素塩/酸化物)をほとんど溶解させないか、またはまったく溶解させないからである。不活性溶媒(例えばシクロヘキサン)の添加は、アルカリ−アルコレート触媒を溶解させる結果をもたらすが、溶媒を使用する場合には、プロセスの経済性(反応器容積の利用、溶媒気化および再生のためのエネルギー需要、それに関連する損失など)は低下するであろう。このため、付随する脂肪酸とともにカリウム石鹸を形成し、他方それはKHCO3に変換するが(中和反応で水が生成することを防ぐ)、同様にエステル交換反応を触媒する(無水)K2CO3の使用が好ましい。反応混合物を激しく撹拌することで、エステル交換は50℃で2時間以内に起こる(実施例1を参照)。反応の最後で、触媒は濾別され、反応混合物から過剰のカルボン酸エステルを気化させることによって、新しいエンジン燃料が得られる。反応の好ましい実施形態をフローチャート1に示す。
【0044】
原料の植物油、すなわち使用済みのレストランのフライ油、または動物起源の脂肪から出発し、それらの高遊離脂肪酸含量に起因して、エステル交換は酸触媒反応によって実施され、同時にこれらの遊離脂肪酸のエステル化も実施される。好ましくは、p−トルエンスルホン酸が使用され、この反応混合物は、還流温度で5時間撹拌される。この場合、はるかに多くのエステル交換成分が使用され、これにより、平衡反応で遊離脂肪酸のメチルエステル(すなわち、酢酸メチルが使用される場合)が提供され、その間に、かなりの量の酢酸が生成される。冷却後、触媒は酸化カルシウムで中和され、過剰量のエステル交換(および、この場合、エステル化)成分が気化され、カルシウム塩を反応混合物から濾別することによって、新しい種類のバイオ燃料が得られる。この反応の好ましい実施形態は、フローチャート2で示されている。
【0045】
b)モル比
適切なモル比の選択は重要ではない。しかし実用上は、エステル交換(およびエステル化)反応は平衡反応であり、異なる起源(すなわち、その中に結合している異なる脂肪酸)のトリグリセリド、ならびに任意に遊離脂肪酸およびエステル交換成分(ギ酸/酢酸/プロピオン酸のメチル/エチル/プロピルエステル)の構造/組成系が変わると、平衡定数は常に異なる。同じ理由で、得られた生成物(またはその混合物)の物理化学的特徴(流動点、粘度)もまた異なるであろうが、これらの特徴は、エステル交換の速度(すなわち、新しいトリグリセリドに導入されるより短鎖のアシル基の数および種類)を変えることにより、所望の方向に変更することができる。このため、各々の系でパイロット実験を実施することによって最適であると考えられるエステル交換速度を決定することが合理的であるが、最適であると考えられるエステル交換速度は、同一の出発物質の場合には(すなわち、トリグリセリドとしてのX%遊離脂肪酸、およびエステル交換成分としての酢酸メチルを含むヒマワリ油の系では)同じであり、一定の物理化学的特徴(例えば−5℃の濁り点)を有するでろう。代替燃料の生産のために利用できる供給源の数はあまり多くないので(菜種油、ヒマワリ油、食肉解体業者の廃棄物、使用済みのレストランの調理用油)、個々の場合に関連するパラメータの測定は容易に実行することができる。
【0046】
エステル交換成分の使用するべき量は、もう1つの要因、つまり出発のトリグリセリドの含水量によって影響される。それが0.1%を超える場合には、水は、好ましくは、触媒の添加前に酢酸メチルの一部を共沸的に気化させることにより除去されるべきであり、このようにして含水量に敏感な反応のために適切な条件を確実にするべきである。
【0047】
本発明の手順の利点:
・少なくとも10%多いバイオ燃料が、単位量のバイオマスから得られる。
・グリセロールが副生成物として得られない、つまり、脂質の全エネルギー含量がエンジン燃料に変換される。
・すでに稼動しているバイオディーゼル工場で、これらの種類の燃料の製造が、改造なしに継続できる。
・より少ない数の操作工程に起因して、調製のエネルギー要求量および稼動時間需要は下がる。
・物理化学的特性(濁り点/流動点/粘度)を改善するための特別の添加剤の添加を必要としない。
・高遊離脂肪酸含量(未精製)のトリグリセリドを出発物質とする場合には、異なる2工程の方法(脂肪酸の酸触媒による前段階のエステル化、および塩基触媒によるアルコール分解)(「統合されたバイオディーゼル合成」)を省略することができる。
・上記の利点の結果として、高価なトリグリセリド精製を省略することができ、このようにしてエンジン燃料は、はるかに安価な粗製油/脂肪からでさえ直接調製することができる(精製大豆油の価格は、粗製大豆油の価格の約2倍も高い!)。
・粗製植物油の脱ろうも、燃料製造用の調製では省略することができる。なぜなら、エステル交換反応では、ワックス(=脂肪アルコールと形成された脂肪酸の非晶質エステル)は、酢酸メチル(=現在のバイオディーゼル)および脂肪アルコールの酢酸エステルとともに脂肪酸メチルエステルを生成し、これはそれ自体で高エネルギー含量化合物であり、従って、新しい燃料混合物の成分になるからである。
・エステル交換成分の効果によって、生物起源のトリグリセリドにもともと存在するモノグリセリドおよびジグリセリドの遊離のヒドロキシ基もアシル化され、このようにしてこれらの成分も(新しい)トリグリセリドに変換される、すなわち新しい種類の燃料の成分となる。
・各々の場合、同じ出発物質から従来のバイオディーゼル製造よりも低ヨウ素価の生成物が得られる。
【0048】
さらに、本発明は、上記の一般式(I)を有する変性トリグリセリドの調製のための手順を提供する。この手順は非常に有利な態様を有する。すなわちそれは、慣用的なバイオディーゼル製造の過程で副生成物として大量に得られるグリセロールを使用する。
【0049】
技術文献の検討後、本発明者らは、調製されるべきグリセロール誘導体の燃焼熱がディーゼル燃料から最小値として予測される35000kJ/kgの値に達していさえすれば、バイオディーゼル製造の廃棄物のグリセロールを使用することが可能であるという結論に到った。これは、−OH基に適切に高いエネルギー含有置換基を結合することによってのみ、つまり、少なくとも部分的に適切に長い炭素鎖をグリセロールのヒドロキシ基に連結すれば、つまりアルキル化またはアシル化が、かかる官能性を含む化合物を用いて実施されれば、可能である。
【0050】
天然のトリグリセリドの燃焼熱の値は、約39500kJ/kgであり、つまり、これらの物質はそのエネルギー含量に起因してディーゼルエンジン用の適切な燃料であり得る。しかしその高粘度(40℃で35−50cSt)に起因して、それらはこの目的には不適切である。なぜなら、現在の自動車製造品では、それらはその弱い霧化特徴の結果として不完全燃焼し、それらのエンタルピーは、十分な程度には使用されず、これによるエンジンの損傷さえ引き起こす。
【0051】
一般式(II)の物質とともに形成される一般式(I)の物質またはその混合物がそれ自体で(「無希釈で」)ディーゼルエンジンの燃料として、または従来の燃料の添加剤として使用することを意図したものである場合、その調製の過程で天然のトリグリセリドの長鎖アシル基は、一般式(II)の脂肪酸アルキルエステルとともに形成される、得られる一般式(I)の変性トリグリセリド、またはその混合物の動粘度が38℃で5−6cStまで低下する程度まで、短鎖基によって適切に置換される。この値は、現在のEUおよび米国の標準と一致する。本発明者らの実験によれば、この要件は、式R’−COO−Alkのエステル交換のカルボン酸エステルの構造によって変わるが、好ましくは30−50%エステル交換率で満たされる。これは、天然起源の出発のトリグリセリドの35−50cStの粘度が(「親油(parent−oil)」の種類に依存するが)、需要および必要に従って、幅広い範囲で変性(低下)させることができることを必要とする。当然、この粘度は、一般式(I)および一般式(II)の化合物を混合することによって、同様に生成することができる。
【0052】
しかし、バイオディーゼル製造のグリセロール廃棄物の利用のために行った本発明者らの研究においては、実用上の理由から、物理化学的特徴、主に、10%未満および90%超の比で変性されたトリグリセリドの粘度の測定を研究した。グリセロールから調製されたこれらの物質が、エンジン燃料としてそれらを使用する際の基準をどのようにして満たすのかを研究した。グリセロールのヒドロキシ基の大多数、すなわちそれらの90%超は長鎖アシル基でエステル化されるが、他方で残りのヒドロキシ基は短鎖カルボン酸誘導体でアシル化され、このようにして得られた物質は、ディーゼルエンジンの燃料として、または燃料の添加剤としてそれらを使用するために、その高エネルギー含量に加えて適切に低い粘度を有することが判明した。同様に、90%超の短い炭素鎖を含有するグリセロールトリエステルのエネルギー含量はかなり低いが(約20,000kJ/kg)、その好ましい粘度値のために、それらは、粘性の高い燃料の粘稠度をその成分/添加剤として改善することによって、推進材料として使用することが可能である。
【0053】
さらなる手順の作り上げのために、粘度に対してもたらされる効果も研究した。本発明者らは、天然のトリグリセリド(任意にモノグリセリドおよびジグリセリドならびに遊離脂肪酸を含有する)がグリセロール分解に供される、つまりそれらが三価のアルコールであるグリセロールとエステル交換されるように、燃料の調製のためにグリセロールを使用したいと考え、結果として、例えば下に示すように、モノグリセリドおよびジグリセリドの混合物が得られた。
【化5】

【0054】
試薬のモル比を変えることによって、互いに対する得られるモノグリセリドおよびジグリセリドの比は、変更されるであろう。すなわちグリセロールのモル比を高くすることによって遊離のヒドロキシ基の数は生成物において増加し、他方、反対の場合ではその相対的な数は減少すると考えられる。この後、得られたヒドロキシ基が短鎖カルボン酸誘導体でアシル化(エステル化)されると、所定の部分のアシル基は生物起源のトリグリセリド(長鎖、例えばC16−C22脂肪酸の官能性)から由来し、他方で他の部分はエステル化で使用された短鎖アシル基であろうトリグリセリドが得られる:
【化6】

【0055】
新しい/変性(トリ)グリセリドの生産について、グリセロール分解自体は周知であり、よく使用される手順である。例えば米国特許第4,263,216号では、飽和脂肪酸アシル官能性を含むトリグリセリドは、グリセロールとの反応に供され、異なるジグリセリドがこのようにして調製される。米国特許第6,159,993号では、植物油からグリセロール分解によって得られたモノグリセリドは、酢酸無水物でアシル化され、このようにして好適に変えられた物理化学的特性を有するジアセチル化モノグリセリドが得られる(つまり、これら自体は、「アセト脂肪(aceto−fat)」または「アセトグリセリド(aceto−glyceride)」として文献で公知のトリグリセリドである)。
【0056】
本発明者らの新しい手順では、必要とされる特性(粘度の低下をもたらす分子量低下)を得るために、新しく得られたヒドロキシ基は、適切に短鎖カルボン酸のアルキルエステルまたはアルケニルエステル(例えば酢酸メチル)との反応に供され、生成物に加えて、エステル交換カルボン酸エステルに結合したアルコールが得られ、これは、まさに平衡反応を生成物の方向に移動させるために、反応混合物から気化される(メタノール−酢酸メチル共沸混合物の沸点は54℃であり、酢酸メチルの沸点は57℃であり、メタノールの沸点は65℃であり、すなわちこの平衡は、酢酸メチルを過剰に使用することによって生成物の方向へと押すことができる)。
【化7】

【0057】
このグリセロール分解自体は、まさにすべてのエステル化(交換)反応のように、塩基または酸によって触媒され得る。塩基性触媒(アルカリアルコラート、金属ナトリウム、金属水素化物)を用いて実行されるエステル化は非常に速く、それらは数時間以内に起こるが、この手順は痕跡量の水に非常に敏感であり、痕跡量の水はかかる触媒を非常に素早く不活性化する。つまり、本発明の場合では、バイオディーゼル調製の高含水量の廃棄物グリセロールをエステル化(エステル交換)することを欲する場合、適切に酸触媒反応(硫酸、有機スルホン酸)が用いられるが、この場合にははるかに長い反応時間が必要である。一般に、グリセロール分解は100−120℃で実施され、本発明の場合では、上記反応は高含水量に起因して90−95℃で行われる。
【0058】
グリセロール分解後のエステル化もまた、アシル化剤(酸無水物、酸塩化物、本発明の場合にはカルボン酸エステル)の品質に依存して、酸または塩基によって触媒され得る。上記のことから、本発明では、適切に酸触媒反応が使用され、そしてこのようにして短鎖アシル基とエステル化したモノグリセリドおよびジグリセリド(すなわち、変性トリグリセリド)は、グリセロール分解後の反応で得られることが導かれる。この(「第2の」)反応の温度は、使用されるアシル化剤の沸点によって限定され、それは、酢酸無水物の場合では、100℃を超える可能性があるが、本発明の場合では使用される低分子カルボン酸エステルの沸点に依存して40−60℃である。この結果として、第2のアシル化反応は、大気圧ではかなり遅い。
【0059】
本発明者らは反応速度論研究は行っていないが、少なくとも一部は、別の反応の可能性が、技術文献から本発明者らにとっては明らかである。つまり、遊離ヒドロキシル基のアシル化が圧力下で実施される場合、新しく得られるヒドロキシル基をそのままアシル化するために、使用される低沸点カルボン酸エステルは、グリセロール分解の最初に添加することもできる。しかし、この場合はグリセロール−カルボン酸エステルエステル交換反応もまた同時に起こる。
【化8】

【0060】
しかし、この経路の存在は、最終生成物の視点からはまったく重要ではない。なぜなら、エステル交換試薬としてのアシル化されたグリセロール(これもまた、トリグリセリドである!)は導入された生物起源のトリグリセリドと反応し、短鎖アシル基をも含む最終生成物(つまり、変性トリグリセリド)をもたらすであろうからである。
【化9】

【0061】
英語の技術文献では、2つのトリグリセリドのかかる相互エステル交換は、「相互エステル化(interesterification)」または「ランダム化」と呼ばれる。なぜなら、グリセロール骨格上の個々のアシル基の位置はランダムだからである(例えば米国特許第5,434,278号)。
【0062】
しかしこの反応経路は、大気圧ででも実行することができる。過剰の酢酸メチルが含水グリセロールに添加され、その一部が水と共沸的に気化されるであろう。この後、触媒が反応混合物に添加され(本発明の系は脱水されていたため、この場合はアルカリアルコラートでさえ)、グリセロールのトリアセテート、すなわちトリアセチンが調製される。天然トリグリセリドの量は、調製されるべき最終生成物に応じて選択される(つまり、トリアセチン:グリセロールのモル比が調整される)。トリアセチンの分子量は218であるため、菜種油の分子量(平均分子量)は878であり、反応するモル量では、トリアセチン:トリグリセリド質量比はほとんど正確に1:4である。過去数年で蓄積したグリセロールの迅速な処理のために、本発明者らの物質が例えば9:1トリアセチン−トリグリセリドモル比(=2.2:1質量比)で反応する場合、以下の平均組成を有する以下の混合物がエステル交換後に得られる。
【化10】

つまり、本発明の混合物は、バイオマス起源のアシル基をわずか3/30=10%だけ含む。かかる混合物のエネルギー含量は、成分のエンタルピーの重み付けされた平均である(分子部分に関して、これは90%トリアセチン(その燃焼熱は19860kJ/kgである)、および10%天然トリグリセリド(その燃焼熱は39500kJ/kgである)の混合物に等しい)。
0.9×19860+0.1×39500=21824kJ/kg
つまり、その低燃焼熱に起因して、それはエンジン燃料自体には適切ではない。この目的に適した混合物を得るために、トリアセチンの量(またはトリアセチン「等価物」、3つのアセトキシ基の存在率であるTA)は以下の等式によって得られる。
TA×19860+(1−TA)×39500=35000
【0063】
これよりTA=0.23である。それゆえ、所望の燃焼熱を得るために、トリアセチン含量(短いアシル基の比である)は、得られるトリグリセリド混合物において23%未満でなければならず、これは以下のものに等しい:出発のグリセロール:バイオマス起源のトリグリセリド(脱水の場合)の質量比は1:8以下(つまり、1000kgの出発混合物中でグリセロールの量は最大110kgであることができ、つまりこの場合はモル比は1.2:1である)。
【0064】
それゆえ、上記の内容によれば、無水条件で作業する場合、10−11重量%のグリセロールが添加されれば、さらに適切なエネルギー含量を有する直接に使用できるエンジン燃料が得られる。より大量のグリセロール過剰量が添加されれば、調製される混合物のより低いエネルギー含量のために、それは可燃物および/またはバイオディーゼル添加剤としてしか使用することはできない。
【0065】
例えば、(21824kJ/kgエネルギー含量を有する)上で論じた混合物が20%比でバイオディーゼルと混合されると、
0.2×21824+0.8×40000=36365kJ/kg
のエネルギー含量を有する混合物が得られ、これはディーゼルエンジン用に適切な燃料である。
【0066】
本発明者らの研究では、グリセロールの含水量の役割もまたグリセロール除去の間に検討し、以下の関係を見出した。反応の条件では、不純物を含むグリセロールの含水量は、加えられたトリグリセリドエステル官能性を加水分解する。
【化11】

【0067】
引き続くアシル化反応では、このアルカンカルボン酸エステル(すなわち酢酸メチル)はヒドロキシ基とエステル結合を形成し、加水分解時に放出された脂肪酸をそのメチルエステル(=バイオディーゼル)に変換する。このプロセスでは、メタノールおよび酢酸が得られる。
【化12】

メタノールおよび過剰の酢酸エチルを気化させることにより、かつアルカリ洗浄によって酢酸を除去することにより、変性された構造のトリグリセリドおよびバイオディーゼルの混合物が得られる。
【0068】
例えば、1000gの90%含水グリセロール廃棄物+2000g菜種油(約4.3:1モル比)の場合では、以下のことが起こる。
【表1】

【表2】

すなわち、28726kJ/kgであり、これは燃料としての直接の応用には不適であり、これは添加剤として使用することができるだけである。
【0069】
しかし、菜種油の量を2倍にすることによって、31975kJ/kgの燃焼値(combustion value)がすでに得られ、そして含水グリセロールの量を10%まで減らすことによって36062kJ/kgの値が得られ、つまり水が予め除去されなくとも、この廃棄物グリセロールもまた、バイオマス起源のトリグリセリドに添加することができる(このように、グリセロール:油のモル比は約1:1である)。この事実から、驚くべきことに、含水グリセロールが脱水グリセロールと同様に使用することができることが導かれる。
【0070】
上記の計算に基づき、含水量を増加させることにより、より多くの量の天然トリグリセリドが加水分解し、得えられるヒドロキシ基の数、従って短いアシル基を含む低エネルギー含量成分の量は、生成物混合物において増加し、その燃焼値は低下するであろうということを認めることができる。しかしながら、より低い燃焼値を有する混合物は、他の燃料工学目的で、例えばオイルボイラーでの燃焼用に非常によく利用できる。このようにして、グリセロール廃棄物の全範囲の利用が可能である。
【0071】
蓄積され定期的に生成される廃棄物グリセロールを直接に利用できる燃料の生産のために使用することを欲する場合、それは、プロセス、すなわち新しい種類の燃料としての変性された構造のトリグリセリドの調製における添加剤として、10%未満の比で使用されるべきである。廃棄物をより素早く除去することを欲する場合、この成分の比は、50%を超えるところまでさえ上げることができる。しかしこの場合、得られる生成物は、可燃物の燃料添加剤として使用することができるだけである。
【0072】
本発明者らの方法を用いて調製されるトリグリセリド混合物の重要な特徴は、変性トリグリセリド中での短鎖アシル基の出現(分子量低下)に起因する粘度の著しい低下である。それゆえ、かかる添加剤を加えることによって、使用される燃料の霧化特性は好都合に変わる。
【0073】
最後に、グリセロール廃棄物の他の混入物の効果を、応用の過程で研究した。言及したとおり、バイオディーゼル生産のアルコール分解工程から残存するメタノール(1−10%)は、共沸混合物の形で添加された酢酸メチルの一部分の気化によって除去することはできるが、まさに水のように、それは天然のトリグリセリドエステル官能性と反応することができ、その間に脂肪酸メチルエステル(バイオディーゼル)および遊離ヒドロキシ基が形成し(メタノール分解)、すでに記載したように、この遊離ヒドロキシ基も酢酸メチルによってアシル化され、このようにして低エネルギー含量アセトキシ基の数が増加する。結果として、目標が燃料品質の生成物の生産である場合には、このメタノールは予め適切に蒸留される。
【0074】
グリセロール廃棄物中に最少量で存在するモノグリセリドおよびジグリセリド自体は、有用なトリグリセリドへと変換される。
【0075】
本発明者らの理論的考察および作業仮説は、実験的に証明された。上記新しい燃料および可燃物、ならびにそれらを調製するための手順が、以下の非限定的な実施例に記載される。
【実施例】
【0076】
(実施例1)
885g(約1mol)の精製した、無水ヒマワリ油(遊離脂肪酸含量 0.5%未満)および148g(2mol)の酢酸メチルの混合物に、20gの無水(粉末にした)K2CO3を加え、この混合物を50−55℃で2時間撹拌した。冷却後、K2CO3を濾別し、10gの酢酸の添加後、未反応の酢酸メチルを気化させた。残渣を2×100mlのNaHCO3溶液で洗浄し、Na2SO4で乾燥し、真空蒸留した(5mmHg(約7kPa))。945gの生成物(ジアセチル化トリグリセリドおよび脂肪酸メチルエステルの混合物である)が得られ、その動粘度は40℃で6.5cStであり(精製ヒマワリ油の動粘度は38℃で37.1cStであり、それから調製したメチルエステルの混合物の40℃での動粘度は4.2cStである)、その濁り点(turbidity point)は−6℃であった(ヒマワリ油の濁り点は+7.2℃であり、上記メチルエステルの濁り点は0℃である)。蒸留残渣:29g。
【0077】
(実施例2)
970g(約1mol)の精製かつ無水の菜種油(遊離脂肪酸含量 0.5%未満)、120g(2mol)のギ酸メチルおよび10gのp−トルエンスルホン酸の混合物を5時間撹拌し、その間、ギ酸メチルを還流させた(32℃)。冷却後、触媒を5gのCaOで中和し、反応混合物を濾過し、ギ酸メチルの未反応部分を気化させた。残渣を2×100mlのNaHCO3溶液で洗浄し、Na2SO4で乾燥し、真空蒸留した(5mmHg(約7kPa))。1015gの生成物が得られ(蒸留残渣:33g)、その動粘度は40℃で7.2cStであり、その濁り点は−4℃であった(菜種油およびそれから調製した脂肪酸メチルエステル混合物のそれぞれの値:37cSt[38℃]および−3.9℃、または6.7cSt[40℃]および−2℃)。
【0078】
(実施例3)
970g(約1mol)の精製菜種油および140g(0.5mol)のオレイン酸(無水)の混合物に、210g(3.5mol)のギ酸メチルおよび10gのp−トルエンスルホン酸を加えた。この反応液を還流しながら5時間撹拌し、ついでこれを15gのCaOで中和し、濾過した。未反応のギ酸メチルを気化させ、残渣を2×100mlの2% NaHCO3溶液で洗浄し、Na2SO4で乾燥し、5mmHg(約7kPa)で真空蒸留した。1185gの生成物が得られ(蒸留残渣41g)、その動粘度は40℃で6.5cStであり、濁り点は−7℃であった)。
【0079】
(実施例4)
1600ml(1450g)の脱水脱酸した菜種油(遊離脂肪酸含量 0.2%未満)および2000ml(1860g)の酢酸エチルの混合物に、32gのナトリウムメチラートを、強く撹拌しながら添加した。これを室温で1時間撹拌し、この反応混合物を18ml(33g)の96%硫酸で中和した。沈殿した硫酸ナトリウムをG4フィルターで濾別し、結晶を少量の酢酸エチルで洗浄した。アンモニアガスを濾液に1分間、撹拌しながら吹き込んだ。沈殿した硫酸アンモニウムをG5フィルターで濾別し、過剰の酢酸エチルを回転式蒸留器で濾液から気化させた。濃縮物をG5フィルターで濾過した。1810ml(1640g)の燃料が得られ(13.1%重量増加)、その粘度は40℃で5.3cStであった。この燃料は、ディーゼルエンジンの推進力のために直接使用することができた。
【0080】
(実施例5)
10.2gの、90%含水グリセロール(0.1molのグリセロール、0.057molの水)および25gの酢酸メチルの混合物から、水−酢酸メチル共沸混合物(54−55℃)、および過剰の酢酸メチルを気化させた。87.8g(0.1mol)の精製菜種油および1gのp−トルエンスルホン酸を残渣に加え、この混合物を95℃で12時間撹拌した。この後、44.4g(0.6mol)の酢酸メチルを茶色になった反応混合物に加え、モノグリセリドおよびジグリセリドの混合物を還流温度(60−65℃)で8時間アシル化した。この後、触媒を0.5gのCaOで中和し、このCa塩を濾別し、得たメタノールおよび過剰の酢酸メチルを気化させた。105g(96%)の、変性された構造のトリグリセリド混合物が得られ、その燃焼値は35580kJであり、その粘度は40℃で8cStであった。
【0081】
(実施例6)
実施例1に係る脱水を2倍量の酢酸メチルを用いて実施し、共沸混合物(30g)の気化後、0.5g Na−メチラートを加え、6時間還流し、触媒を2mlの酢酸で中和し、過剰の酢酸メチルを気化させた。この後、87.8(0.1mol)の精製菜種油および1.5gのp−トルエンスルホン酸を得られたトリアセチンに加え、エステル交換を90℃で36時間以内で実施した。この後、触媒および酢酸の痕跡量を1gのCaOで中和し、このCa塩を濾別した。103g(94%)の、実施例1に列挙した特徴を有する変性された構造のトリグリセリド混合物を得た。
【0082】
(実施例7)
10.2gの90%含水グリセロール(0.1molのグリセロール、0.057molの水)を、90−95℃で12時間、87.8g(0.1mol)の菜種油および1.5gのp−トルエンスルホン酸と反応させた。この後、50g(0.68mol)の酢酸メチルを加え、8時間還流させた。冷却後、触媒および得られた酢酸を1gのCaOで中和し、濾過後に過剰の酢酸メチルおよび得られたメタノールを気化させた。109g(95%)の燃料が得られ、その燃焼値は35144kJ/kgであり、その粘度は40℃で7cStであった。
【0083】
(実施例8)
100gのバイオディーゼル製造のグリセロール相に、3mlの50%硫酸を加え、付随する脂肪酸を、撹拌しながらそのカリウム塩(「石鹸」)から遊離させた。878gの菜種油および15gのp−トルエンスルホン酸を添加した後、温度を徐々に90℃まで上昇させ、この間、混入したメタノールを気化させた(4g)。12時間後、反応混合物を冷却し、500gの酢酸メチルを加え、この混合物を10時間還流させた。冷却後、触媒および硫酸および得られた酢酸を12gのCaOで中和し、塩を濾別した後、過剰の酢酸メチルおよび得られたメタノールを気化させた。1055g(92%)の燃料/可燃物が得られ、その燃焼値は34920kJ/kgであり、その粘度は40℃で6.5cStであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)の変性された構造のトリグリセリド
【化1】

および一般式R”−COO−Alk(II)の脂肪酸アルキルエステルの混合物であって、一般式(I)においてR1、R2およびR3は独立に水素または任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C28アルキル基を表すが、以下の
(a)少なくとも3%、しかし多くとも97%の存在する前記R1、R2およびR3基は、生物起源のトリグリセリド中に存在する任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むアルキル基を表し、
(b)残りの存在する前記R1、R2およびR3基は、水素および/または任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C5アルキル基を表すという限定を伴い、かつ、前記特定された%値は前記R1、R2およびR3基の数に関連し、かつ一般式(II)において、
(a)R”は、生物起源のトリグリセリド中、ならびに任意にそれらに伴うモノグリセリドおよびジグリセリドならびに遊離脂肪酸中に存在する、任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むアルキル基を表し、このようにして前記生物起源のトリグリセリドに由来する一般式(I)の前記R1、R23基を網羅し、
(b)Alkは、任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C5アルキル基を表す、混合物。
【請求項2】
一般式(II)において、Alkが、任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC2−C5アルキル基を表す、請求項1に記載の混合物。
【請求項3】
燃料、可燃物または燃料添加剤および/もしくは可燃物添加剤としての、請求項1または請求項2に記載の混合物の使用。
【請求項4】
任意に少なくとも1種の通常の燃料成分とともに請求項1または請求項2に記載の混合物を含有することを特徴とする、燃料。
【請求項5】
燃料、可燃物または燃料添加剤および/もしくは可燃物添加剤としての、一般式(I)の変性された構造のトリグリセリドの使用であって、一般式(I)においてR1、R2およびR3は独立に、水素または任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C28アルキル基を表すが、以下の
(a)少なくとも3%、しかし多くとも97%の存在する前記R1、R2およびR3基は、生物起源のトリグリセリド中に存在する任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むアルキル基を表し、
(b)残りの存在する前記R1、R2およびR3基は、水素および/または任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C5アルキル基を表すという限定を伴い、かつ、前記特定された%値は前記R1、R2およびR3基の数に関連する、使用。
【請求項6】
一般式(I)においてR1、R2およびR3は独立に、水素または任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C28アルキル基を表すが、以下の
(a)少なくとも10%、しかし多くとも90%の存在する前記R1、R2およびR3基は、生物起源のトリグリセリド中に存在する任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むアルキル基を表し、
(b)少なくとも10%、しかし多くとも90%の残りの存在する前記R1、R2およびR3基が、水素および/または任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C5アルキル基を表すという限定を伴い、かつ、前記特定された%値は前記R1、R2およびR3基の数に関連する、請求項5に記載の燃料、可燃物または燃料添加剤および/もしくは可燃物添加剤としての一般式(I)の変性された構造のトリグリセリドの使用。
【請求項7】
1、R2およびR3のうちの少なくとも1つが水素および/または任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C5アルキル基を表し、他方で少なくとも1つの別のものが前記生物起源のトリグリセリド中に存在する、任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むアルキル基を表す一般式(I)の化合物が使用されることを特徴とする、請求項3、請求項5または請求項6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
1、R2およびR3の位置に見出される、任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込む前記C1−C5アルキル基がメチル、エチル、プロピル、アクリルまたはメタクリル基である一般式(I)の化合物が使用されることを特徴とする、請求項3または請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
1、R2およびR3の位置に見出される前記C1−C5アルキル基がメチル基である一般式(I)の化合物が使用されることを特徴とする、請求項3または請求項5から請求項8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
請求項5から請求項9のいずれか1項に記載の一般式(I)の変性トリグリセリドの1種以上、および少なくとも1種の通常の燃料成分を含有することを特徴とする、燃料。
【請求項11】
ディーゼル油、可燃性油および/または公知のバイオディーゼルを通常の燃料成分として含有することを特徴とする、請求項10に記載の燃料。
【請求項12】
0.75−85体積%の一般式(I)の変性トリグリセリドを含有することを特徴とする、請求項10または請求項11に記載の燃料。
【請求項13】
一般式(I)の変性トリグリセリド、および任意に一般式R”−COO−Alk(II)の脂肪酸アルキルエステルの調製方法であって、式中、R1、R23R”およびAlkは請求項1で定義されたとおりであり、任意に一般式R”−COOHの遊離脂肪酸ならびに生物起源のモノグリセリドおよびジグリセリドを含む生物起源のトリグリセリド、またはかかるトリグリセリドの混合物は、1種以上の一般式R’−COO−Alkのカルボン酸エステル(式中、R’は水素および/または任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C5アルキル基を表す)との反応に供され、かつ前記一般式R’−COO−Alkのカルボン酸エステルの量は前記生物起源のトリグリセリドの完全エステル交換のために必要な化学量論量の3−97%、ならびに前記任意に存在するモノグリセリドおよびジグリセリドならびに前記一般式R”−COOHの遊離脂肪酸のエステル化のために必要とされる化学量論量に調整され、任意に前記反応は停止され、副生成物として任意に生成された一般式R’−COOHの脂肪酸および一般式Alk−OHのアルコールは洗浄によって除去され、かつ前記一般式R”−COO−Alkの前記調製された脂肪酸アルキルエステルは必要に応じて分離されることを特徴とする、方法。
【請求項14】
前記一般式(I)および一般式(II)の化合物の混合物が調製されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
土類金属もしくはアルカリ土類金属のアルコラート、水酸化物、酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩、または水酸化物イオンサイクルのイオン交換樹脂がアルカリ触媒として使用されることを特徴とする、請求項13または請求項14に記載の方法。
【請求項16】
鉱酸、ルイス酸または有機スルホン酸、および水素イオンサイクルのイオン交換樹脂が酸性触媒として使用されることを特徴とする、請求項13または請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記エステル交換の温度の下限が20℃であり、前記温度の上限が、使用される一般式R’−COO−Alkのカルボン酸エステルの沸点であることを特徴とする、請求項13または請求項14に記載の方法。
【請求項18】
任意に生物起源のモノグリセリドおよびジグリセリドならびに遊離脂肪酸を含む生物起源のトリグリセリド、またはかかるトリグリセリドの混合物と適切な量のグリセロール(任意に、アルコールおよび/または水を含む)との反応、あるいはかかるグリセロールから予め調製された適切な量のトリアセチル化グリセロールとの反応による、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の一般式(I)の変性された構造のトリグリセリドの調製方法であって、グリセロール分解/相互エステル化後に形成される遊離ヒドロキシ基が一般式R’−COO−Alkのカルボン酸エステル(式中、R’は水素または任意に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を組み込むC1−C5アルキル基を表し、かつAlkは請求項1で定義されたとおりである)でアシル化され、かつ任意に副生成物として得られる一般式Alk−OHのアルコールおよび一般式R’−COOHの脂肪酸は洗浄によって除去されることを特徴とする、方法。
【請求項19】
鉱酸、ルイス酸または有機スルホン酸、および水素イオンサイクルのイオン交換樹脂が酸性触媒として使用されることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
土類金属もしくはアルカリ土類金属のアルコラート、水酸化物、酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩、または水酸化物イオンサイクルのイオン交換樹脂がアルカリ触媒として使用されることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記アシル化反応が、20℃と前記使用される一般式R’−COO−Alkのカルボン酸エステルの沸点との間で実施されることを特徴とする、請求項18から請求項20のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−518220(P2010−518220A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548754(P2009−548754)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【国際出願番号】PCT/HU2008/000013
【国際公開番号】WO2008/096187
【国際公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(509222855)
【出願人】(509222866)
【出願人】(509222877)
【出願人】(509278678)
【Fターム(参考)】