説明

変性ポリアミド樹脂及びそれを含んでなる樹脂組成物

【課題】耐マイグレーション性に優れ、高湿度下での接着性とハンダ耐熱性に優れたFPC基板用の接着剤に好適に用いられる変性ポリアミド樹脂を提供すること。
【解決手段】アミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物(a)と、一般式(1)で示されるエポキシ基を有する成分(b)及び/又は一般式(2)で示されるジオール成分(c)とを反応させてなる変性ポリアミド樹脂。


(式中、Aは炭素数2〜20のオレフィンの重合体部分であり、Rは水素原子もしくは炭素数1〜18のアルキル基を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物を開環重合してなるポリアミド樹脂であって、反応する過程において、該アミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物以外の他の樹脂原料を共に反応させてなることを特徴とする変性ポリアミド樹脂に関する。
詳しくは、特にフレキシブルプリント配線基板(以下、「FPC基板」と称す)用接着剤に好ましく用いられ得る、耐マイグレーション性に優れた変性ポリアミド樹脂及びそれを用いてなる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や、デジタルカメラ、モバイル型携帯パーソナルコンピューター、携帯型音楽プレーヤー等、電気・電子機器は小型、高性能化が進んでいる。それに伴い、機器内部のFPC基板はより高集積化、多層化されている。これらのFPC基板には、回路の保護や絶縁性を目的として、カバーレイや層間接着剤等の接着剤や、半導体封止剤などが広く用いられている。電気・電子機器の小型、高性能化に伴い、これら接着剤や封止剤にも従来には無い高い性能が求められている。例えば、回路の狭小化に伴う絶縁不良の回避(耐マイグレーション性)や、高温・高湿度下での接着性が要求されている。
さらには、従来のハンダ付け工程が、基板全体を高温に晒す、所謂ハンダリフロー方式に変わったり、環境問題から従来の鉛ハンダから鉛を使わない、所謂鉛フリーハンダが用いられる様になり、接着剤にもさらに高い耐熱性(ハンダ耐熱性)や、さらには上記高湿度下でのハンダ耐熱性が求められるようになった。
【0003】
従来より、FPC基板用接着剤として、高い接着強度やハンダ耐熱性、回路形成時のエッチング工程における耐薬品性向上を目的としたポリアミド系接着剤が用いられている。
ポリアミド系接着剤としては特開平7−197000号公報(特許文献1)や特許第2134660号公報(特許文献2)等が開示されている。
しかしながら、特許文献1や特許文献2に示されている様なポリアミド系接着剤は、耐マイグレーション性や、高湿度下でのハンダ耐熱性が不十分である。耐マイグレーション試験は、銅線間100μmの回路パターンを、85℃−85%RHの環境下で、直流24Vの電圧を印加した状態で、1000時間の間、絶縁抵抗を測定するものである。
一般的に、ポリアミド樹脂は体積固有抵抗値が低く、また吸水率が高いという欠点を有している。かかる性質のため、ポリアミド系の接着剤は耐マイグレーション性が劣ると言われている。
【0004】
例えば、これらの欠点を改善するために、体積固有抵抗値が高く、吸水率の低いオレフィン系樹脂をポリマーブレンドしようとしても、ポリアミド樹脂とオレフィン系樹脂とは相溶性が悪くて分離してしまったりする。
【特許文献1】特開平7−197000号公報
【特許文献2】特許第2134660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題を解決するものであり、その目的は、耐マイグレーション性に優れ、高湿度下での接着性とハンダ耐熱性に優れたFPC基板用の接着剤に好適に用いられる変性ポリアミド樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。即ち、本発明は以下の通りである。
【0007】
即ち、第1の発明は、アミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物(a)と、一般式(1)で示されるエポキシ基を有する成分(b)及び/又は一般式(2)で示されるジオール成分(c)とを反応させてなる変性ポリアミド樹脂(I)であり、
第2の発明は、第1の発明の変性ポリアミド樹脂(I)と、エポキシ化合物(II)とを含有する樹脂組成物である。
【0008】
【化3】

【0009】
(式中、Aは炭素数2〜20のオレフィンの重合体部分であり、Rは水素原子もしくは炭素数1〜18のアルキル基を表わす。)
【0010】
【化4】

【0011】
(式中、Aは炭素数2〜20のオレフィンの重合体部分であり、Rは水素原子もしくは炭素数1〜18のアルキル基を表わす。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の変性ポリアミド樹脂は、前述した様に、相互に混ざり合わないポリアミド樹脂とオレフィン系樹脂とを、化学結合によりポリアミド樹脂の分子中にオレフィン系樹脂を導入することにより複合化してなる樹脂である。体積固有抵抗値が低く、吸水率が高いために耐マイグレーション性に劣るポリアミド樹脂の分子中に、オレフィン系樹脂を導入することにより、耐マイグレーション性を改善できる。また、吸水率が低下することにより、高湿度下でのハンダ耐熱性も向上する。かかる変性ポリアミド樹脂を用いることにより、高接着強度を有し、耐マイグレーション性と高湿度下でのハンダ耐熱性に優れた、FPC基板用の接着剤として好適に用いられ得る樹脂組成物を提供することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の変性ポリアミド樹脂とは前述した様に、アミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物を開環重合してなるポリアミド樹脂であって、反応する過程において、アミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物(a)と共に、前記一般式(1)で示されるエポキシ基を有する成分(b)及び/又は一般式(2)で示されるジオール成分(c)を樹脂原料として反応してなるものである。
ポリアミド樹脂原料として、アミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物(a)としては、β−ラクタム、α−ピロリドン、α−ピペリドン、ε−カプロラクタム、ω−カプリロラクタム、カプリンラクタム、ω−ラウリンラクタム等が挙げられる。
これらアミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物(a)は、目的に応じて適宜組み合わせて用いることが出来るが、接着剤組成物として用いる場合には、有機溶剤に溶解した溶液として用いる場合が多いので、有機溶剤に溶解するような組み合わせで用いることが好ましい。一般的に、アミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物を一種類で用いた、所謂ホモポリマーの場合には有機溶剤に対する溶解性が乏しい。好ましくは2種類以上を組み合わせた方が、上記有機溶剤に対する溶解性が良好となる。
【0014】
本発明において用いられる、アミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物(a)以外の樹脂原料は一般式(1)で示されるエポキシ基を有する成分(b)である。
【0015】
【化5】

【0016】
(式中、Aは炭素数2〜20のオレフィンの重合体部分であり、Rは水素原子もしくは炭素数1〜18のアルキル基を表す)。
【0017】
本発明において用いられる、アミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物(a)以外の他の樹脂原料は、一般式(2)で示されるジオール成分(c)である。
【0018】
【化6】

【0019】
(式中、Aは炭素数2〜20のオレフィンの重合体部分であり、Rは水素原子もしくは炭素数1〜18のアルキル基を表す)。
【0020】
前記ポリアミド樹脂原料であるアミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物(a)と一般式(1)で示されるエポキシ基を有する成分(b)及び/又は一般式(2)で示されるジオール成分(c)とは、一括仕込みで共重合反応させ、無溶剤下に広く知られている開環重合や脱水縮合反応、付加反応により合成することが出来る。
この反応は、常圧下、減圧下の何れで行っても良い。
樹脂の酸価、アミン価が低いほど、樹脂の分子量は高分子量となり、酸価、アミン価が高くなるに伴い、樹脂の分子量は低下する傾向を示す。
酸価、アミン価が高い低分子量の樹脂を5mmHg以下の減圧下でさらに反応させると、高分子量化することができる。
【0021】
なお、本発明においては、アミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物(a)の開環重合反応の開始を容易にするために、少量の一塩基酸を併用することが好ましい。
用いられ得る一塩基酸としては、安息香酸などを例として挙げることができる。
【0022】
変性ポリアミド樹脂の分子量としては、数平均分子量が5000〜50000が好ましく、数平均分子量が10000〜30000であることがより好ましい。変性ポリアミド樹脂の数平均分子量が5000未満では、接着強度が低下する傾向にあり、50000を超えると、前記有機溶剤に対する溶解性が劣る傾向にある。
【0023】
本発明の変性ポリアミド樹脂のアミン価は5〜50(mgKOH/g)であることが好ましい。アミン価が5未満では、前記エポキシ化合物(II)との反応性が低下して変性ポリアミド樹脂とエポキシ化合物(II)との硬化物の物性が劣る傾向があり、アミン価が50を超えると、変性ポリアミド樹脂の分子量は小さくなり、接着強度が低下する傾向にある。
【0024】
前記一般式(1)で示されるエポキシ基を有する成分(b)はアミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物が開環して生成するアミノ基と反応するため、得られる変性ポリアミド樹脂のアミン価が5を下回らない添加量にする必要がある。また、一般式(2)で示されるジオール成分(c)はアミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物が開環して生成するカルボキシル基と反応するため、アミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物の開環重合反応を停止させない範囲で用いることが必要である。即ち、一般式(1)で示されるエポキシ基を有する成分(b)及び一般式(2)で示されるジオール成分(c)は、それぞれアミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物のモル数の1/2を越えない範囲の量を用いることが重要である。
【0025】
本発明の変性ポリアミド樹脂中において、一般式(1)で示されるエポキシ基を有する成分(b)及び/又は一般式(2)で示されるジオール成分(c)の量は、変性ポリアミド樹脂100重量%中、エポキシ基を有する成分(b)及びジオール成分(c)が有するポリオレフィンセグメントの重量が1重量%〜50重量%、好ましくは5重量%〜30重量%の範囲となる量である。1重量%未満の場合、変性ポリアミド樹脂の体積固有抵抗値や吸水率をあまり変化させることが出来ず、耐マイグレーション性や高温・高湿度下でのハンダ耐熱性の向上効果が十分に得られない。一方、50重量%を超えると、変性ポリアミド樹脂としての良好な接着性が損なわれる傾向にある。
【0026】
一般式(1)で示されるエポキシ基を有する成分(b)の製造方法は、特開2005−154620号公報や特開2006−22318号公報、特開2006−28492号公報等で既に公知となっている方法により製造することが出来る。即ち、片側末端にビニル型またはビニリデン型二重結合を含んでなる、エチレン単独の、もしくはエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとからなる重合体で融点が100℃以上のものと、過酸化水素とを、VI属遷移金属触媒及び相間移動触媒の存在下で反応させて得られるものである。
片側末端にビニル型またはビニリデン型二重結合を含んでなる、エチレン単独の、もしくはエチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンとからなる低分子量重合体の製造方法は、特開2001−2731号公報や特開2003−73412号公報等で公知となっている方法により製造することが出来る。
【0027】
一般式(2)で示されるジオール成分(c)の製造方法は、特開2006−22318号公報や特開2006−28492号公報等で公知となっている方法により製造することが出来る。
すなわち、一般式(1)で示されるエポキシ基を有する化合物(b)は、片側末端にビニル型またはビニリデン型二重結合を含んでなる、エチレン単独の、もしくはエチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンとからなる低分子量重合体を、過酸化水素水等の過酸により酸化する等の方法により得られる。また、一般式(2)で示されるジオール成分(c)は、一般式(1)で示されるエポキシ基を有する化合物(b)と水とを反応させることにより得ることが出来る。
【0028】
一般式(1)で示されるエポキシ基を有する成分(b)及び一般式(2)で示されるジオール成分(c)の重量平均分子量に特に制限はないが、500〜10000が好ましい。より好ましくは1000〜3000である。一般式(1)で示されるエポキシ基を有する成分(b)及び一般式(2)で示されるジオール成分(c)の重量平均分子量が500未満では、変性ポリアミド樹脂の耐マイグレーション性と高湿度下でのハンダ耐熱性を十分に向上させることが出来ず、重量平均分子量が10000を超えると、変性ポリアミド樹脂中に占めるポリオレフィンセグメントが過多となり、変性ポリアミド樹脂としての良好な接着性が損なわれる傾向にある。
【0029】
本発明の変性ポリアミド樹脂を得るにあたっては、一般式(2)で示されるジオール成分(c)以外のジオール成分(d)を併用することも出来る。ジオール成分(d)としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ビスフェノールAもしくはビスフェノールFにエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドを付加したもの、水添ビスフェノールA等の脂肪族二価アルコール等が挙げられる。これらのジオール成分(d)は、
〔アミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物+一般式(1)及び/又は一般式(2)+ジオール成分(d)〕の合計100モル%中50モル%以下の割合において用いることが好ましい。
【0030】
本発明の変性ポリアミド樹脂は公知の有機溶剤に溶解した状態で使用しても良いし、溶融押し出しで使用してもよい。使用する有機溶剤としては、メタノールやエタノール、プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコールが溶解性の点で好ましく、また、トルエンやキシレン等の芳香族炭化水素系溶剤を、溶解性が低下しない範囲で併用しても良い。
これら有機溶剤の沸点以下の温度で本発明の変性ポリアミド樹脂を加熱溶解したものは、常温に戻ると流動性の無くなった、所謂ゲル状になる場合があるが、再度加熱すれば流動性は元に戻り、問題なく使用できる。溶融押し出しで使用する場合には、変性ポリアミド樹脂の融点以上の温度に加熱して使用できる。
【0031】
本発明の変性ポリアミド樹脂(I)とともに樹脂組成物を構成するエポキシ化合物(II)は、該変性ポリアミド樹脂(I)を硬化させる硬化剤の役割を担う。エポキシ化合物(II)の例としては、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、及びそのオリゴマー、オルトフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、p−ヒドロキシ安息香酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、及びアルキレングリコールジグリシジルエーテル類、トリメリット酸トリグリシジルエステル、トリグリシジルイソシアヌレート、1,4−グリシジルオキシベンゼン、ジグリシジルプロピレン尿素、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールエタングリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、グリセロールアルキレンオキサイド付加物のトリグリシジルエーテル、テトラフェニルグリシジルエーテルエタン、トリフェニルグリシジルエーテルエタン等が挙げられる。
【0032】
また、フェノールノボラックエポキシ樹脂やクレゾールノボラックエポキシ樹脂等は多官能エポキシ樹脂として、フルオレン系エポキシ化合物は耐熱性エポキシ樹脂として好適に用いられる。これらは、それぞれ単独、または併用して用いることが出来る。
【0033】
本発明の樹脂組成物は、変性ポリアミド樹脂(I)とエポキシ化合物(II)とを、変性ポリアミド樹脂(I)/エポキシ化合物(II)=99/1〜50/50(重量比)の範囲内で含有することが好ましい。さらに好ましくは、変性ポリアミド樹脂(I)とエポキシ化合物(II)とを、変性ポリアミド樹脂(I)/エポキシ化合物(II)=97/3〜60/40(重量比)の範囲内で含有することが、良好な性能を発揮する。
【0034】
エポキシ化合物(II)の含有割合が1未満では変性ポリアミド樹脂(I)の硬化が不十分となり、強固な接着強度が得られない。一方、エポキシ化合物(II)の含有割合が50を超えると、樹脂組成物中に占めるポリオレフィンセグメントの割合が低くなり、耐マイグレーション性と高湿度下でのハンダ耐熱性が低下する傾向にある。
【0035】
本発明の樹脂組成物は、変性ポリアミド樹脂(I)とエポキシ化合物(II)との硬化反応におけるエポキシ基の開環触媒として、広く知られる硬化触媒を用いることが出来る。このような硬化触媒としては、三級アミン(塩)類、イミダゾール類、ルイス酸(塩)類等が挙げられる。
【0036】
三級アミン(塩)類の例としては、トリエチルアミン、N,N’−ジメチルベンジルアミン、アミノエチルピペラジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、テトラメチルグアニジン、2−メチルアミノメチルフェノール等が挙げられる。
【0037】
イミダゾール類の例としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジン等が挙げられる。
【0038】
三フッ化ホウ素などのルイス酸をアミン塩としたものや、カルボン酸ブロック化物、オニウム塩等は常温では安定であるが、加熱により急激に反応し、潜在性硬化剤として用いられる。
【0039】
これらの硬化触媒は、本発明の樹脂組成物100重量部に対して0.1〜10重量部の割合で用いられる。
【0040】
本発明の変性ポリアミド樹脂(I)を硬化させるにあたっては、前記エポキシ化合物(II)以外の硬化剤をエポキシ化合物(II)と併用しても良い。これらエポキシ化合物(II)以外の硬化剤としては、イソシアネート化合物やレゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0041】
本発明の樹脂組成物は変性ポリアミド樹脂(I)とエポキシ化合物(II)とから構成されるものであるが、必要に応じて難燃剤やフィラーを添加することが出来る。難燃剤としては、窒素系難燃剤、リン系難燃剤、無機物系難燃剤等が挙げられ、フィラーとしては、熱膨張収縮の抑制や疎水化を目的として、シリカ、アルミナ、珪藻土、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0042】
本発明の変性ポリアミド樹脂(I)とエポキシ化合物(II)とを含有する樹脂組成物は、前記有機溶剤に溶解したものを使用しても良いし、溶融押し出しで使用してもよい。FPC基板用接着剤として用いる場合の使用方法としては、有機溶剤に溶解したものや、溶融押し出ししたものを、ポリイミドフィルムやPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等に直接塗布し、必要に応じて有機溶剤を揮発させた後、銅箔等をラミネートして硬化させる方法や、
一旦、離形紙等に塗布し、必要に応じて有機溶剤を揮発させてシート状にしたものを、ポリイミドフィルムやPETフィルム等と銅箔等との間にサンドイッチ状に積層してから硬化させる方法がある。有機溶剤に溶解したものは、刷毛塗りや、浸漬塗布、ロールコーター塗装、スプレー塗装、カーテン塗装等の従来公知の方法で塗布される。
【0043】
本発明の樹脂組成物の硬化方法は、従来公知の各種方法を用いることが出来る。例えば、40〜60℃の温度で3日〜5日程度の所謂エージングや、100℃〜150℃の温度で1時間〜3時間程度の硬化、180℃〜200℃の温度で5分〜10分程度の硬化、200℃以上の温度で数秒〜1分間程度の硬化方法等が用いられる。加熱の方法としては、恒温室でのエージングや、熱風乾燥炉、遠赤外線乾燥炉、高周波誘導加熱炉等の加熱方法が用いられる。また、加熱プレス機による加圧下での加熱等の方法も用いられることもある。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。例中、単に部とあるものは、重量部を示す。
【0045】
(合成例1) 片末端エポキシ基含有エチレン重合体(b−1)の合成
原料となる片末端二重結合含有エチレン系重合体は特開2006−22318号公報の合成例1に記載されている方法に従って合成した。次いで、この片末端二重結合含有エチレン系重合体を原料として、特開2006−22318号公報の合成例2にて開示されている方法に従って、片末端エポキシ基含有エチレン重合体(b−1)を合成した。重合物はホモポリエチレンで、数平均分子量(以下、「Mn」と略す):1120、重量平均分子量(以下、「Mw」と略す):2060(GPCによる)、融点:121℃(DSCによる)であった。
【0046】
(合成例2) 片末端エポキシ基含有エチレン−プロピレン共重合体(b−2)の合成
原料となる片末端二重結合含有エチレン−プロピレン共重合体は特開2006−22318号公報の合成例3に記載されている方法に従って合成した。次いで、この片末端二重結合含有エチレン−プロピレン共重合体を原料として、特開2006−22318号公報の合成例4にて開示されている方法に従って、片末端エポキシ基含有エチレン−プロピレン共重合体(b−2)を合成した。重合物はエチレン−プロピレン共重合体で、Mn:1090、Mw:1720(GPCによる)、融点:100℃(DSCによる)であった。
【0047】
(合成例3) ジオール成分(c−1)の合成
原料となる片末端二重結合含有エチレン系重合体は特開2006−22318号公報の合成例1に記載されている方法に従って合成した。次いで、この片末端二重結合含有エチレン系重合体を原料として、特開2006−22318号公報の合成例5にて開示されている方法に従って、ジオール成分(c−1)を合成した。重合物はホモポリエチレンで、Mn:900、Mw:1960(GPCによる)、融点:122℃(DSCによる)であった。
【0048】
(合成例4) 変性ポリアミド樹脂(A−1)の合成
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流脱水装置及び蒸留管を備えたフラスコに、イオン交換水180部、β−ラクタム96.6部、ε−カプロラクタム96.6部、ω−ラウリンラクタム96.8部、安息香酸1.14部、合成例1で合成した片末端エポキシ基含有エチレン重合体(b−1)10部を仕込んだ。発熱の温度が一定になるまで撹拌し、温度が安定したら110℃まで昇温した。水の留出を確認してから30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分毎に10℃づつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が220℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、目標酸価になったことを確認して変性ポリアミド樹脂(A−1)を得た。その特性値を表−1に示す。
【0049】
(合成例5〜10) 変性ポリアミド樹脂(A−2)〜(A−7)の合成
合成例4と同様の方法で、表−1の仕込み重量部に従って合成を行い、表−1に示した特性値の変性ポリアミド樹脂(A−2)〜(A−7)を得た。
【0050】
《酸価の測定》
変性ポリアミド樹脂1gをエタノール/トルエン=70/30(重量比)の混合溶剤30mlに溶解し、0.1mol/LのKOHエタノール溶液で滴定して、樹脂1g当りのKOHのmg数を求めた。
【0051】
《アミン価の測定》
変性ポリアミド樹脂1gをオルソジクロロベンゼン50mlとメタノール70mlとの混合溶剤に溶解し、自動滴定装置にて0.1mol/Lの塩酸水溶液で滴定して、樹脂1g当りの塩酸と当量のKOHのmg数を求めた。
【0052】
(実施例1)
合成例4で得られた変性ポリアミド樹脂(A−1)を、エタノール/トルエン=70/30(重量比)の混合溶剤で固形分30%になる様に溶解した。この溶液を樹脂分換算で(以下樹脂分換算で示す)90部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂「エピコート828」(ジャパンエポキシレジン社製)を10部取り、エタノール/トルエン=70/30(重量比)の混合溶剤で固形分濃度が25%となる様に混合溶解して接着剤溶液を得た。次いで、以下に示す方法により接着剤積層物を作製し、以下に示す方法により各種試験を行った。その結果を表−2に示す。
【0053】
(実施例2〜5)
実施例1と同様の方法で、変性ポリアミド樹脂(A−2)〜(A−5)をそれぞれ溶解し、実施例1と同様の方法で、表−2の組成に従って接着剤溶液を得た。次いで、以下に示す方法により接着剤積層物を作製し、以下に示す方法により各種試験を行った。その結果を表−2に示す。
【0054】
(比較例1、2)
実施例1と同様の方法で、変性ポリアミド樹脂(A−6)と(A−7)をそれぞれ溶解し、実施例1と同様の方法で、表−2の組成に従って接着剤溶液を得た。次いで、以下に示す方法により接着剤積層物を作製し、以下に示す方法により各種試験を行った。その結果を表−2に示す。
【0055】
(試験方法)
1.接着強度試験
上記接着剤溶液を、離形紙に乾燥後の厚みが30μmとなる様に塗布し、80℃で2分乾燥してシート状の接着剤層を得た。次に厚さ50μmのポリイミドフィルム上に、上記接着剤シートを接着剤層の面がポリイミドフィルムと接する様に重ね合わせ、80℃、1kgf/cm2、150mm/minの条件でラミネートした。次に、前記離形紙を剥がして露出した接着剤層に、厚さ50μmのポリイミドフィルムを重ね合わせ、80℃、1kgf/cm2、150mm/minの条件でラミネートした。
この様にして得られた、ポリイミドフィルム/接着剤層/ポリイミドフィルムの積層物を加熱プレス機にて、150℃、10MPaの条件下で2分間熱圧着した後、150℃のオーブンで3時間熱処理して硬化させた。このサンプルを10mmの幅にカットして、引っ張り速度50mm/minで180度剥離試験を行った。
【0056】
2.半田耐熱性試験(常態)
上記接着強度試験で作製したサンプルを10mmの幅にカットしたものを、260℃で溶融した鉛フリー半田浴に1分間平らに乗せた後、取り出して接着剤層の発泡状態を観察した。
◎ :試験前の状態と全く変化なし
〇 :試験片に5個以下の膨れが発生するが、実用上問題なし
△ :試験片の面積の1/2に膨れが発生
× :試験片全面に膨れが発生
【0057】
3.半田耐熱試験(加湿処理後)
上記接着強度試験で作製したサンプルを10mmの幅にカットしたものを、60℃、90%加湿下にて1時間放置した後、260℃で溶融した鉛フリー半田浴に1分間平らに乗せた後、取り出して接着剤層の発泡状態を観察した。
◎ :試験前の状態と全く変化なし
〇 :試験片に5個以下の膨れが発生、実用上問題なし
△ :試験片の面積の1/2に膨れが発生
× :試験片全面に膨れが発生
【0058】
4.耐マイグレーション性
上記接着剤溶液を、離形紙に乾燥後の厚みが30μmとなる様に塗布し、80℃で2分乾燥してシート状の接着剤層を得た。次いで、厚さ25μmのポリイミドフィルムに、上記接着剤シートを接着剤層の面がポリイミドフィルムと接する様に重ね合わせ、80℃、1kgf/cm2、150mm/minの条件でラミネートした。次いで、前記離形紙を剥がして露出した接着剤層に、厚さ35μmの圧延銅箔を、圧延銅箔の酸処理面が接着剤層と接するようにして重ね合わせ、80℃、1kgf/cm2、150mm/minの条件でラミネートした。
得られた、ポリイミドフィルム/接着剤層/圧延銅箔の積層物を150℃、10MPaの加圧下で2分間プレスした後、さらに150℃にて3時間熱処理して硬化させて、銅貼り積層板を得た。この銅貼り積層板を常法により銅箔面にフォトレジスト塗布、パターン露光、現像、銅箔パターンエッチング、フォトレジスト剥離工程を経て、銅線間が100μmとなる櫛型の導電パターンを有するパターン基板を作製した。
【0059】
また、上記と同様の方法で離型紙上にシート状の接着剤層を得て、厚さ50μmのポリイミドフィルムとラミネートし、フレキシブルプリント配線板用カバーフィルムを得た。このカバーフィルムの離型紙を剥がし、露出した接着剤層と前記パターン基板の導電パターン形成面とを貼り合わせ、150℃、10MPaの加圧下にて2分間プレスし、ラミネートした。この積層物を150℃にて3時間熱処理して目的のサンプルを得た。この様にして得られた耐マイグレーション試験用FPCについて、温度85℃、湿度85%の環境下で、印加電圧DC24V、1000時間の導電試験を行った。
◎ :短絡の発生、及び基板の変色が全くなし
〇 :短絡の発生は無く、基板が僅かに変色するが実用上問題なし
△ :600時間で短絡が発生、基板の変色が著しい
× :300時間で短絡が発生、基板の変色が著しい
上記、各試験の結果を表−2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノカルボン酸の分子内環状アミド化合物(a)と、下記一般式(1)で示されるエポキシ基を有する成分(b)及び/又は下記一般式(2)で示されるジオール成分(c)とを反応させてなる変性ポリアミド樹脂(I)。
【化1】

(式中、Aは炭素数2〜20のオレフィンの重合体部分であり、Rは水素原子もしくは炭素数1〜18のアルキル基を表わす。)
【化2】

(式中、Aは炭素数2〜20のオレフィンの重合体部分であり、Rは水素原子もしくは炭素数1〜18のアルキル基を表わす。)
【請求項2】
請求項1記載の変性ポリアミド樹脂(I)と、エポキシ化合物(II)とを含有する樹脂組成物。


【公開番号】特開2008−31283(P2008−31283A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205850(P2006−205850)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】