説明

変性ポリオレフィン樹脂

メタロセン触媒の共存下で重合して得られる融点が50〜130℃のプロピレン系ランダム共重合体を不飽和カルボン酸および/またはその誘導体でグラフト変性して得られ、重量平均分子量が15,000〜200,000であり、かつ、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体のグラフト重量が0.2〜50重量%である変性ポリオレフィン樹脂は、塗料等が安定して付着しにくい基材に対するバインダー、プライマー、接着剤等とし好適である。本発明のポリオレフィン樹脂は、付着性、耐ガソホール性、耐ブロッキング性などに優れる。また、本発明のポリオレフィン樹脂は低温焼き付けを行った場合でも付着性等に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ポリオレフィン樹脂およびこれを溶媒に溶解または分散させた組成物(以下、「変性ポリオレフィン樹脂等」という場合がある)に関する。より詳しくは、接着剤、バインダー、プライマー等として好適な変性ポリオレフィン樹脂等に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂は、安価で成形性、耐薬品性、耐水性、電気特性など多くの優れた性質を有するため、シート、フィルム、成形物等として、近年広く採用されている。しかし、これらポリオレフィン系樹脂からなる基材(以下、ポリオレフィン系基材)は、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂等の極性基材とは異なり、非極性かつ結晶性であるため、塗装や接着が困難である。
【0003】
そのため、基材と塗料の双方に対し接着性を有する前処理剤を基材の表面に前もって塗布すること行われる。このような前処理剤は、用途によって様々な呼び名があり、例えばバインダー、プライマー、または接着剤等と呼ばれる。前処理剤としては例えば所定の性質を有する樹脂が用いられ、熱をかけて溶融させてバインダー等とするホットメルト系、樹脂を溶剤に溶解させる溶剤系などの前処理剤が提供されている。
【0004】
塩素化ポリオレフィン樹脂をコーティング組成物として用いることにより、ポリオレフィン系基材との親和性を高め、接着性の向上をはかった方法がある。しかし、この手法は、脱塩酸による安定性の問題や、近年の環境意識の高まりにより、塩素の使用が忌避される傾向がある等の問題を有している。
【0005】
そこで、塩素を用いない組成物として、不飽和カルボン酸変性をはじめとする酸変性ポリオレフィン樹脂が提案されている。しかし、従来の酸変性ポリオレフィン樹脂の中で、結晶性ポリオレフィン樹脂を原料として用いているものは、高温接着時の接着強度は高く、タック(tack)による問題も生じないが、低温接着では付着力が発現せず、溶液性も一般的に良くない。
【0006】
これらの課題を解決する為に、非晶性ポリオレフィン樹脂を原料として用いることが行われている。このような樹脂として、プロピレン系ランダム共重合体がよく用いられている。
【0007】
プロピレン系ランダム共重合体は、ポリプロピレン製造時に他のモノマーを添加することにより、ポリプロピレンの結晶性を崩したものである。しかし、プロピレン系ランダム共重合体の酸変性物は、付着力が低く、乾燥塗膜にはタックがあり、フィルム基材に塗布した場合には塗装後の巻き取り時にブロッキングするといった問題が生じた。また、非芳香族溶剤への溶解性が悪いこと、芳香族溶剤には可溶であるが溶液の安定性が悪いこと等の問題があった。
【0008】
このような問題に対して、例えば、ポリオレフィン樹脂にグラフト変性された無水マレイン酸をはじめとする不飽和カルボン酸と、ポリエステルまたはアルコール等を反応させることにより、溶剤溶解性、溶液の長期貯蔵安定性等を改善したという報告がなされている(例えば特許文献1)。また、非晶性ポリオレフィン樹脂を不飽和カルボン酸とアクリル誘導体で変性することにより、付着力、溶剤溶解性、タック性等が改善したと報告されている(例えば特許文献2)。
【0009】
しかし、プロピレン系ランダム共重合体の製造において、従来より広く用いられているチーグラー・ナッタ触媒を用いた製造法では、一般的に精密な分子量・モノマー組成の制御が難しい為、得られたプロピレン系ランダム共重合体中には、低分子量でエチレン成分が比較的多い構造、あるいは、高分子量でプロピレン成分が比較的多い構造等も少なからず存在する。前者はタック性発現や付着力低下の要因であり、また、後者は溶剤溶解性悪化および低温接着性低下の要因である。因って、従来のプロピレン系ランダム共重合体の酸変性物では、得られる物性に限りがあった。
【0010】
また、近年、環境問題の観点から有機溶剤系の塗料や接着剤は敬遠され、前処理剤も水系へと移行する傾向にある。ポリオレフィン基材に付着する水性樹脂組成物としては、例えば特許文献3や4等で開示されている。しかし、水性化処理に供する従来の原料樹脂は、チーグラー・ナッタ触媒を用いて製造されるため、一般的に精密な分子量・モノマー組成の制御が難しく、従って、得られたプロピレン系ランダム共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は広くなる上、低分子量でエチレン成分が比較的多い構造等が存在する。このため、ポリオレフィン基材への付着性、耐水性、耐ガソホール性、耐ブロッキング性が低下する問題があった。
【0011】
これらの改善を目的として、架橋剤を添加する方法がある(例えば、特許文献5および6など)。しかし、この方法はポリウレタン系あるいはビニル系水性樹脂等の他樹脂を混合するため、ポリオレフィン基材に対する付着性に問題がある。
【0012】
加えて、近年、基材へ塗布した後の乾燥・焼付け工程時のエネルギーと時間の削減ために、水性樹脂組成物の低温焼付対応やハイソリッド化が重要視されている。低温焼付条件はさらに厳しくなる方向にあり、60℃を条件とする場合も出てきている。
【0013】
低温焼付に対応する手段の一つとして原料のポリプロピレン系ランダム共重合体の軟化温度を下げる方法が有効である。近年、メタロセン触媒を用いて分子量分布が非常に狭く(Mw/Mn=約2以下)、融点(Tm)が低いプロピレン系ランダム共重合体が製造可能になり、メタロセン触媒発底のプロピレン系ランダム共重合体を塩素化、酸変性し、低温焼付(80〜90℃)に適した水性樹脂組成物の開発が進められている(例えば特許文献7)。特許文献6に記載の塩素系樹脂は、非塩素系樹脂に比べ融点が低いため、その水性樹脂組成物は低温焼付に適している。しかし、最近の環境意識の高まりにより、低温焼付に適した非塩素系の水性樹脂組成物が望まれている。
【0014】
また、メタロセン触媒発底のエチレン・α−オレフィンランダム共重合体を酸変性し、ヒートシール性に優れた水性分散体が開示されている(例えば、特許文献8)。しかし、この水性分散体は主成分がエチレンであるため、ポリプロピレン等の他のポリオレフィン基材に対しては十分な付着性が得られていない。
【0015】
また、一般に酸変性ポリオレフィン水性樹脂組成物は、他樹脂との相溶性に乏しく、塗装のための塗料や印刷用のインキの製造に際し、混合可能な他樹脂が限定される結果、十分な性能の塗料やインキあるいは接着剤などを製造するのが難しいという問題点があった。
【0016】
【特許文献1】特開平11−217537号公報
【特許文献2】特開2002−173514号公報
【特許文献3】特開平6−256592号
【特許文献4】特表2001−504542号
【特許文献5】特開2002−80686号
【特許文献6】特開平6−145286号
【特許文献7】特開2003−327761号
【特許文献8】特開2001−106838号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、ポリオレフィン樹脂などの非極性基材、特に難付着性の基材に対する付着性に優れた新たな樹脂を提供することを課題とする。
さらに本発明は、塗料などの塗布前に塗布される下塗り剤として求められる種々の性質;例えば、耐水性、耐ガソホール性、耐ブロッキング性、貯蔵安定性に優れる;ハイソリッド化しやすい;タック性が低い;低温焼き付けに適する;他の樹脂との相溶性に優れる;などの性質を有する樹脂およびそれを含む組成物を提供することを課題とする。さらに、本発明は、有機溶剤を溶媒とする場合に、溶媒に対する溶解性に優れた樹脂を提供することを課題とする。さらに、本発明は、下塗り剤として好適な、環境に優しい樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、メタロセン系触媒を重合触媒として得られるプロピレン系ランダム共重合体のうち、示差走査型熱量計(DSC)による融点(Tm)が50〜135℃であるものを原料樹脂として、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を単独、または(メタ)アクリル酸化合物を併用してグラフト変性して得られる樹脂を用いることにより、上記のような課題を解決し得ることを見いだし、本発明を成すに至った。
【0019】
即ち、本発明は、下記変性ポリオレフィン樹脂およびその応用を提供するものである。
(1)メタロセン触媒の共存下で重合して得られる融点が50〜130℃のプロピレン系ランダム共重合体を不飽和カルボン酸および/またはその誘導体でグラフト変性して得られ、重量平均分子量が15,000〜200,000であり、かつ、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体のグラフト重量が0.2〜50重量%である、変性ポリオレフィン樹脂。
(2)メタロセン触媒の共存下で重合して得られる融点が50〜130℃のプロピレン系ランダム共重合体を、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体、並びに(メタ)アクリル酸エステルでグラフト変性して得られ、重量平均分子量が15,000〜200,000であり、かつ、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体のグラフト重量が0.1〜20重量%、(メタ)アクリル酸エステルのグラフト重量が0.1〜30重量%である、変性ポリオレフィン樹脂。
(3)上記(1)または(2)に記載の変性ポリオレフィン樹脂を含む接着剤。
(4)上記(1)または(2)に記載の変性ポリオレフィン樹脂を含むプライマー。
(5)上記(1)または(2)に記載の変性ポリオレフィン樹脂を含む塗料用バインダー。
(6)上記(1)または(2)に記載の変性ポリオレフィン樹脂を含むインキ用バインダー。
(7)ポリオレフィン基材と、上記(1)または(2)に記載の変性ポリオレフィン樹脂で形成された下塗り層と、塗料層とを備え、前記下塗り層はポリオレフィン基材上に積層され、前記塗料層は下塗り層上に積層されてなるポリオレフィン成形体。
(8)上記(1)または(2)に記載の変性ポリオレフィン樹脂と有機溶剤とを含む変性ポリオレフィン樹脂組成物。
(9)上記(1)または(2)に記載の変性ポリオレフィン樹脂と、水と、界面活性剤とを含み、水中に分散した変性ポリオレフィン樹脂の平均粒子径が300nm以下である、変性ポリオレフィン樹脂組成物。
【0020】
メタロセン触媒を重合触媒として製造した低融点プロピレン系ランダム共重合体の特徴として、従来のチーグラー・ナッタ触媒を用いたものよりも分子量分布が非常に狭くすることができる(Mw/Mn=約2以下)。それを不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性したプロピレン系ランダム共重合体も、同様に分子量分布が非常に狭いことが判明した。また、変性時に不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体(A)に加え(メタ)アクリル酸化合物(B)を併用することで、他樹脂との相溶性の向上とポリオレフィン骨格の減成による低分子量化を防ぐことができた。
【0021】
上述のように、メタロセン触媒を用いて分子量分布を狭くし低分子量体を減らし、規則的な結晶性を利用し、結晶性を維持しつつ低融点化したことにより、本発明の変性ポリオレフィン系樹脂は、付着性に優れ、耐水性、耐ガソホール性、耐ブロッキング性などの性質に優れる。また、本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、低温焼き付けやハイソリッド化にも好適である。さらに、本発明の変性ポリオレフィン樹脂は他樹脂との相溶性も良好である。
【0022】
本発明の変性ポリオレフィン樹脂は有機溶媒に対する溶解性も良好である。
また、本発明の変性ポリオレフィン樹脂を含む水性樹脂組成物は、水性でありながら、オレフィン系素材との付着性、耐ブロッキング性、耐水性、耐ガソホール性など等の点で優れた性能を兼ね備えている。さらに、水性化工程での溶融粘度増加による分散不良が起こったり、得られた最終製品の粘度が上がったりすることがなく、作業性が良くハイソリッド化にも適し、また、60〜90℃の低温焼付条件でも基材への付着性が優れる。
また、本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、溶媒に溶かした後も貯蔵安定性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
1.本発明の変性ポリオレフィン樹脂
本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、メタロセン触媒の共存下で重合して得られる融点が50〜130℃のプロピレン系ランダム共重合体を不飽和カルボン酸および/またはその誘導体でグラフト変性して得られる。
【0024】
本発明で原料として用いるプロピレン系ランダム共重合体は、重合触媒としてメタロセン触媒を用いて、主成分であるプロピレンと、コモノマーである他のα−オレフィンを共重合して得られた共重合体である。分子中の構成単位としてプロピレン単位:他のオレフィン単位の含有割合(モル比)が、好ましくは100:0〜90:10である。
【0025】
他のα−オレフィンとしては、エチレン又は炭素数4以上のオレフィンからなる群から少なくとも1種を選択することができる。炭素数4以上のオレフィンとしては、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等が挙げられる。これらを用いるとプロピレン系ランダム共重合体を低融点化することができる。
【0026】
本発明で用いるプロピレン系ランダム共重合体の融点(Tm)は、示差走査型熱量計(DSC)で測定した値が、共重合体としては比較的低い50〜135℃であり、より好ましくは70〜90℃である。融点が、135℃より高いと変性後の樹脂の溶融粘度が増加し、水性化工程における作業性が低下する。また、50℃より低いと結晶性が消失し、素材への付着性、耐ブロッキング性、耐水性、耐ガソホール性が低下する。
【0027】
また、特に自動車バンパー部のプライマーといった用途では、塗膜の耐溶剤性(耐ガソリン性、耐ガソホール性等)が強く求められる。樹脂融点が低すぎると、溶剤への溶解性が高くなり、塗膜の耐溶剤性は低下する。また、樹脂融点が高すぎると、特に低温焼付け時の素材への密着性が悪く、やはり塗膜の耐溶剤性は低下するため、最適な融点を有する原料樹脂を使用することが重要である。本発明原料であるプロピレン系ランダム共重合体では、融点が70〜90℃のものが、低温焼付け対応プライマーとして非常に優れた耐溶剤性を発現する。
【0028】
本発明におけるDSCによるTmの測定は、セイコー電子工業製DSC測定装置を用い、約10mgの試料を200℃で5分間融解後、−60℃まで10℃/minの速度で降温して結晶化した後に、更に10℃/minで200℃まで昇温して融解した時の融解ピーク温度で評価した。
【0029】
本発明の樹脂として求められる物性は、高結晶性かつ低融点である。高結晶性だと融点が高いというのが一般的なので、高結晶性で融点が低いという、相反する物性を同時に実現するため、本発明においては特にメタロセン触媒を用いた共重合体を用いることが好適である。
【0030】
メタロセン触媒と並んで一般に用いられるチーグラー・ナッタ触媒を用いて共重合体を製造した場合は、以下の問題が生じる。チーグラー・ナッタ触媒は、マルチサイト触媒であり、触媒活性点が不均一であるために、(i)結晶性、(ii)組成分布、(iii)分子量分布、について本発明が解決しようとする課題に対し悪影響を与える。(i)は完全なアイソタクティック性の制御、シンジオタクティック性の制御、あるいは立体規則性を任意に制御することが困難であることを意味する。その結果、結晶性に偏りが生じ、高分子鎖中に低結晶性部位と高結晶性部位が存在することとなる。低結晶性部位は凝集力が低く、付着力低下の原因となる。また、高結晶性部位が残存するため融点が高い。低融点化するためには、結晶性を崩す必要があるが、チーグラー・ナッター触媒を用いた場合、タクティシティの精密な制御は困難であり、効果的に低融点化することは難しい。故に、融点を下げるためにはエチレン等の他成分を加えることが必要であるが、その際、(ii)が共重合体の物性に大きな影響を与える。チーグラー・ナッタ触媒を用いた場合、エチレン等の他成分が共重合体中に不均一に存在する。即ち、エチレン等の他成分が少ない部分(A)と多い部分(B)が存在する。(A)は共重合体の低融点化を阻害し、(B)によりタックが発現したり、付着性等に問題を生じ、本発明の目的を達成できない。また、(iii)は低分子量体から高分子量体まで非常に分子量分布の広い重合体が合成される事を意味する。その結果、低分子量体が付着力低下、タックの発現を招く。
【0031】
それに対し、メタロセン触媒は、シングルサイト触媒であり、触媒活性点が均一であるために(i)結晶性、(ii)組成分布、(iii)分子量分布について、本発明が解決しようとする課題に対し好影響を与える。(i)は完全なアイソタクティック性、シンジオタクティック性を任意に制御できることを意味する。そのため、結晶性に偏りを生じさせることが無く、分子の構成:例えばプロピレン部位と他の構成単位との並び方;各構成単位の含有割合など;について均一な重合体が得られ、付着力低下の原因となる低結晶性部位が生じる可能性が低い。さらに、(i)は立体規則性を任意に制御することが容易であることも意味し、低融点化するために結晶性を崩す際も、結晶性に規則性があるため他の成分を添加することなくバランスよく崩せ、結果としてある程度結晶性を維持しつつ融点を下げることができる。また、(ii)は他成分を併用する場合に規則的に他成分を導入出来ることを意味し、少ない添加量で融点を効果的に下げることができる。(iii)は非常に分子量分布の狭い重合体が合成される事を意味する。その結果、低分子量体を生じることが無く付着力低下、タックの発現を招かない。従って、本発明の課題を解決するために用いる触媒は、メタロセン触媒が好適である。
【0032】
分子量分布の程度を表す一つの方法として、重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比、Mw/Mnを用いることができる。単分散の場合、この比は1となり、分散が大きいほどこの比の値も大きくなる。
本明細書において分子量分布とは、重合体の重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した数値:Mw/Mnのことをいう。本発明の変性ポリオレフィン樹脂の分子量分布は、目安として3以下が好適である。重量平均分子量の測定法としては、公知の方法、例えばGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法、光散乱法等により求めることができるが、本明細書における重量平均分子量および数平均分子量の値は、GPC法で測定した分子量である。
【0033】
本発明において用いられるメタロセン触媒は、公知のものが使用できる。具体的には以下に述べる成分(a)及び(b)、さらに必要に応じて(c)を組み合わせて得られる触媒が望ましい。
成分(a);共役五員環配位子を少なくとも一個有する周期律表3〜6族の遷移金属化合物であるメタロセン錯体。
成分(b);化合物(b)とメタロセン錯体(a)を反応させることにより、該メタロセン錯体(a)を活性化することのできる助触媒
成分(c);有機アルミニウム化合物。
【0034】
本発明で原料として用いるプロピレン系ランダム共重合体の分子量には、特に制限はない。しかし、変性プロピレン系ランダム共重合体の重量平均分子量が15,000〜200,000となる必要があるため、プロピレン系ランダム共重合体の重量平均分子量が200,000より大きい場合は、熱やラジカルの存在下で減成するなど公知の方法で分子量を適当な範囲に調整する必要がある。これらは、単独でも、複数を併用することもできる。
【0035】
本発明で用いるプロピレン系ランダム共重合体としては、具体的なものとして、ウインテック(日本ポリプロ(株)製)など市販品を用いてもよい。
【0036】
本発明でグラフト変性に用いる不飽和カルボン酸とは、カルボキシル基を有する不飽和炭化水素である。その誘導体には無水物が含まれる。本発明で用いられる不飽和カルボン酸およびその誘導体としては、好ましくは、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸及びこれらの無水物、フマル酸メチル、フマル酸エチル、フマル酸プロピル、フマル酸ブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジブチル、マレイン酸メチル、マレイン酸エチル、マレイン酸プロピル、マレイン酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジブチル等が挙げられ、より好ましくは無水イタコン酸、無水マレイン酸などが例示される。
【0037】
メタロセン触媒を製造触媒として用いたプロピレン系ランダム共重合体を不飽和カルボン酸および/またはその誘導体で変性することによりオレフィン系基材に対する良好な付着性を実現できるが、加えて(メタ)アクリル化合物を併用して変性することにより、付着性、ノントル溶剤への溶解性、他樹脂との相溶性といった物性がより向上する。実際に、接着剤、プライマー等として変性ポリオレフィン樹脂として用いるときは、他樹脂と混合する場合が多く、相溶性は重要な性質の一つである。
【0038】
本明細書において(メタ)アクリル酸化合物とは、分子中に(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個含む化合物である。(メタ)アクリル酸化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、アクリルアミド等が挙げられる。これらは単独でも、あるいは混合して使用することも出来、その混合割合は自由に設定することが出来る。特に、下記一般式(I)で示される(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種以上の化合物を、20重量%以上含むものが好ましい。この条件を充たすことによって分子量分布が非常に狭くすることができ、変性ポリプロピレン樹脂の溶剤溶解性や他樹脂との相溶性をより向上しさせることができる。前述の融点が70〜90℃のプロピレン系ランダム共重合体を上記条件にて変性することにより、耐溶剤性に優れた低温焼付け対応プライマーを得ることが出来る。
【0039】
【化1】

【0040】
本発明の変性ポリプロピレン系ランダム共重合体中における、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体のグラフト重量は、0.2〜50重量%が好ましく、さらに好ましくは0.5〜15重量%であり、特に好ましくは1〜10重量%である。この範囲よりもグラフト重量が少ないとコーティング組成物の被着体に対する接着性が低下する。また、逆に多すぎると未反応物が多く発生するため好ましくない。
【0041】
不飽和カルボン酸および/またはその誘導体と(メタ)アクリル酸化合物とを併用してグラフト変性する場合には、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体のグラフト重量は、0.1〜20重量%、より好ましくは0.5〜15重量%であり、特に好ましくは1〜10重量%であり、(メタ)アクリル酸化合物のグラフト重量は、0.1〜30重量%、より好ましくは0.5〜20重量%である。この範囲よりもグラフト重量が少ないと変性ポリプロピレン系ランダム共重合体の他樹脂との相溶性、付着力が低下する。また、逆に多すぎると、反応性が高い為に超高分子量体を形成して溶融粘度が増加し、ポリプロピレン骨格にグラフトしないホモポリマーやコポリマーの生成量が増加するため好ましくない。また、不飽和カルボン酸誘導体及び/またはその酸無水物(A)のグラフト重量%はアルカリ滴定法により求められるが、誘導体が酸基を持たないエステル等の場合は、FT−IRまたはNMRにより求められる。本発明では、グラフト重量%をアルカリ滴定法が適用可能である場合にはアルカリ滴定法で求め、そうでない場合にはFT−IRまたはNMRにより求める。(メタ)アクリル酸化合物のグラフト重量はNMRによって求めることができる。
【0042】
変性プロピレン系ランダム共重合体を得る方法は、公知の方法で行うことが可能である。例えば、プロピレン系ランダム共重合体をトルエン等の溶剤に加熱溶解し、上記化合物を添加する溶液法や、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機等を使用して溶融したプロピレン系ランダム共重合体に上記化合物を添加する溶融法等が挙げられる。添加に際しては逐次添加しても一括添加してもかまわない。また、使用する目的に応じて不飽和カルボン酸誘導体及び/またはその無水物のグラフト効率向上のために、反応助剤として、スチレン、o−、p−、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン等を添加することもできる。
【0043】
変性プロピレン系ランダム共重合体の重量平均分子量は、15,000〜200,000である。15,000より小さいと非極性基材への付着力や凝集力が劣り、200,000より大きいと水性樹脂組成物製造時の溶融粘度の増加により作業性が低下する。尚、重量平均分子量の測定法は、上記の通りである。
【0044】
本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、付着性や接着性が低く、塗料等の塗布、接着が難しい基材に対して、中間媒体として機能し得る。例えば、ポリオレフィン系樹脂からなる基材の表面に本発明の変性ポリオレフィン樹脂をホットメルト方式で積層し、さらにその上に、塗料等を塗布することにより、塗料の付着安定性等を向上させることができる。また、接着性の乏しいポリオレフィン系樹脂同士の接着としても有用である。すなわち、本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、接着剤、プライマー、塗料用バインダー、インキ用バインダー等として好適に用い得る。
【0045】
本発明の変性ポリオレフィン樹脂を好適に用い得る被着材(基材)としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの非極性基材のシート、フィルム形成物などが例示される。本発明の水性樹脂は、これらの基材がプラズマ、コロナ等による表面処理がなされていない難付着性のものであっても使用できることを特徴としているが、表面処理されている基材であっても同様に使用可能である。
【0046】
2.本発明の有機溶剤系樹脂組成物
本発明の他の形態として、変性ポリオレフィン樹脂を溶媒に溶解または分散させた変性ポリオレフィン樹脂組成物が提供される。まず、溶媒として有機溶剤を用いる形態について説明する。
有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ノナン、デカン等の脂肪族溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶剤、あるいは前記の溶剤の混合物が使用が例示される。環境問題の観点からは、シクロヘキサン系脂肪族溶剤とエステル系あるいはケトン系溶剤の混合物を使用することが好ましい。
【0047】
有機溶剤系の変性ポリオレフィン樹脂組成物は、付着性等に特に優れ、非極性基材用の接着剤、プライマー、塗料用バインダー樹脂、インキ用バインダー樹脂として使用できる。また、用途などの必要性に応じて、さらに溶液、粉末、シート等の形態に変更して使用してもよい。また、その際に必要に応じて添加剤、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、無機充填剤等を配合できる。
【0048】
接着剤、インキ用バインダー樹脂用途では、ポリエチレン、ポリプロピレン等の非極性基材だけでなく、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド等の極性基材を併用することも多いが、本発明の樹脂はこのような極性基材への付着性も有することから同用途にも適する。
【0049】
同様にプライマー、塗料用バインダー樹脂として用いる場合も上塗り塗料やクリアーとの付着性に優れるため、同用途にも適する。本発明の変性ポリオレフィン樹脂は他の樹脂との相溶性にも優れている。塗料、インキ用バインダーとして用いる場合、必要に応じてウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、硝化綿等の他樹脂をブレンドすることもできる。
【0050】
3.本発明の水性樹脂組成物
本発明の他の形態として、上記本発明の変性ポリオレフィン樹脂と、水と、界面活性剤とを含む変性ポリオレフィン樹脂組成物が提供される。
【0051】
本願発明においては、本願発明の樹脂を水中に分散、乳化させるために界面活性剤を用いる。
本発明における界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤のどちらでも使用できる。ノニオン界面活性剤の方が、乳化された水性樹脂組成物の耐水性に、より良好な影響を与えるため、好適である。
【0052】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレンポリオール、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシアルキルキレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどが挙げられる。
【0053】
アニオン界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、メチルタウリル酸塩、スルホコハク酸塩、エーテルスルホン酸塩、エーテルカルボン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられ、好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸塩などが挙げられる。
【0054】
界面活性剤の添加量は変性ポリオレフィン樹脂組成物に対して0.1〜30重量%であり、より好ましくは、5〜20重量%である。30重量%よりも多い場合は水性樹脂組成物を形成するのに十分な量以上の乳化剤が系内に存在することになり、付着力を著しく低下させ、また、乾燥被膜とした際に可塑効果、ブリード現象を引き起こし、ブロッキングが発生しやすい。
【0055】
本発明における水性樹脂組成物のpHは5以上になることが望ましく、特にpH=6〜10が好ましい。pH=5未満では中和が不十分であるために変性ポリオレフィン樹脂が水に分散しない、あるいは分散しても経時的に沈殿・分離が生じやすく、貯蔵安定性が悪化するので好ましくない。また、pH=10以上では、他成分との相溶性や作業上の安全性に問題を生じる。変性ポリオレフィン樹脂組成物中の酸成分を中和し、水に分散させることを目的として塩基性物質を添加してもよい。塩基性物質として好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、プロピルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モルホリン等が挙げられ、より好ましくはアンモニア、トリエチルアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モルホリンなどが挙げられる。その使用量は変性ポリオレフィン樹脂組成物の酸成分の量より任意に添加できるが、水性樹脂組成物のpHが5以上、好ましくはpH6〜10になるように添加しなくてはならない。
【0056】
本発明の水性樹脂組成物において、水中に乳化・分散した樹脂の平均粒子径は、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下に調製される。300nm以上であると、水性樹脂組成物の貯蔵安定性や他樹脂との相溶性が悪化し、更に、基材への付着性、耐ガソホール性、耐水性、耐ブロッキング性等の被膜物性が低下する。また、平均粒子径は、好ましくは50nm以上に調製される。粒子径は限りなく小さくすることが可能であるが、この場合、一般的には乳化剤の添加量が多くなり、基材への付着性、耐水性、耐ガソホール性等の被膜物性が低下する傾向が現れやすくなる。なお、本明細書における平均粒子径の値は、光散乱法を用いた粒度分布測定により得られたものである。粒子径の調整は、乳化剤の添加量、種類、水中で樹脂を乳化する際の攪拌力等により行うことができる。
【0057】
水性樹脂組成物の乳化方法は公知の強制乳化法、転相乳化法、D相乳化法、ゲル乳化法等のいずれの方法でも構わず、使用機器は攪拌羽根、ディスパー、ホモジナイザー等による単独攪拌及びこれらを組み合わせた複合攪拌、サンドミル、多軸押出機の使用が可能である。しかしながら、水性樹脂組成物の平均粒子径を300nm以下にするためには、転相乳化法あるいは高いシェア力を持つ複合攪拌、サンドミル、多軸押出機等を用いる方法が好ましい。
【0058】
本発明では、用途、目的に応じて前記水性樹脂組成物に架橋剤を用いても構わない。架橋剤とは、変性ポリオレフィン樹脂、界面活性剤、塩基性物質等に存在する水酸基、カルボキシル基、アミノ基等活性水素と反応し架橋構造を形成する化合物を意味し、それ自体水溶性でもよいし、何らかの方法で水に分散されているものでもよい。具体例として、ブロックイソシアネート化合物、脂肪族または芳香族のエポキシ化合物、アミン系化合物、アミノ樹脂等が挙げられる。
【0059】
架橋剤の添加方法は特に限定されるものではない。例えば、水性化工程途中で配合してもよいし、水性化後に添加してもよい。
【0060】
この他本発明の水性樹脂組成物には、用途により水性アクリル樹脂、水性ウレタン樹脂、低級アルコール類、低級ケトン類、低級エステル類、防腐剤、レベリング剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、金属塩、酸類等を配合できる。
【0061】
4.変性ポリオレフィン樹脂を積層した成形品
上記のような特性を有する本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、塗料などの付着性が困難なポリオレフィン基材などに対するプライマー等として極めて有用である。例えば、ポリオレフィン基材の表面に、本発明の変性ポリオレフィン樹脂または樹脂組成物を塗布して下塗り層を形成し、その上に塗料等を塗布する。得られる成形品は、塗料等の付着安定性などに優れる。
【0062】
ポリオレフィン系樹脂で基材による成形品としては、例えば、自動車用のバンパーがある。自動車用バンパーなどにおいては、特に耐ガソホール性、耐ガソリン性などの性能についての要求が厳しい。上記のように本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、付着性に加え、耐ガソホール性、耐ガソリン性などの性能にも優れるため、これらの性能に優れた自動車用バンパーとすることができる。また、バンパー製造においては、低コスト化をはかるため低温焼き付けの要請が極めて強い。本発明の上記成形品は、低温や焼き付けにて優れた付着性等の性能を発揮するため、安価に製造可能である。また、近年は環境に対する配慮が特に要求される。本発明の変性ポリオレフィン樹脂は水性樹脂組成物としても付着性等に優れるため、環境に配慮した製造を行うことができる。
【実施例】
【0063】
次に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、試作例中に示した重量平均分子量およびグラフト重量は、変性ポリオレフィン樹脂組成物を大量のメタノールにて洗浄した後、測定した。
【0064】
重量平均分子量、数平均分子量は、GPC法により測定し、グラフト重量は、不飽和カルボン酸誘導体については、酸基を持つものについてはアルカリ滴定法で、酸基を持たないエステル等の場合は、FT−IRで、(メタ)アクリル酸化合物の場合は、NMRにより測定した。
水性樹脂組成物の平均粒子径は、光散乱法により測定した。
【0065】
以下に、各測定条件を示す。
[GPC]
高速GPC装置(東ソー製 HLC-8120GPC)を用いて測定した。
測定条件:
カラム:TSKgel (G6000HXL、G5000HXL、G4000HXL、G3000HXL、G2000HXL)
カラム温度:40℃
検出器:RI
展開溶媒:THF
【0066】
[アルカリ滴定法]
KOHの1mol/lメタノール溶液にて中和滴定し、測定した。
【0067】
[FT−IR]
FT−IR測定機器(日本分光製 FT-IR-350)を用いて測定した。
分解能:4cm-1
【0068】
[NMR]
NMR測定機器(Varian製 Mercury400型 核磁気共鳴装置)を用いて測定した。
測定条件:
観測核:1H、13C
測定溶媒:o-ジクロロベンゼンとベンゼン-d6の混合溶液
測定温度:135℃
【0069】
[光散乱法]
粒子径測定装置(MALVERN Instruments社製 ZETASIZER 3000HAS)を用いて、PCS(Photon Correlation
Spectroscopy)法にて測定した。
【0070】
実施例中のMFRとはMelt Flow Rateの略である。MFRは樹脂の溶融流れ性を示す指標であり、JIS K7210で規定された試験法で測定した値である。
[実施例1]
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分97モル%、エチレン成分3モル%、MFR=2.0g/10min、Tm=125℃)をバレル温度350℃に設定した二軸押出機に供給して熱減成を行い、190℃における溶融粘度が約2000mPa・sのプロピレン系ランダム共重合体を得た。この樹脂100gを、撹拌機、冷却管、及び滴下ロートを取りつけた四つ口フラスコ中で、トルエン400g中に加熱溶解させた後、系の温度を110℃に保持して撹拌しながらジクミルパーオキサイド1gを滴下し、その後1時間減成処理した。次に無水イタコン酸5g、過酸化ベンゾイル2.0gをそれぞれ3時間かけて滴下し、さらに1時間反応させた。反応後、室温に冷却させた後、反応物を大量のアセトン中に投入して精製し、重量平均分子量が75,000、無水イタコン酸のグラフト重量が4.1重量%の変性プロピレン樹脂を得た。
【0071】
[実施例2]
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分97モル%、エチレン成分3モル%、MFR=7.0g/10min、Tm=125℃)100重量部、無水マレイン酸8重量部、メタクリル酸メチル10重量部、ジクミルパーオキサイド3重量部を、180℃に設定した二軸押出機を用いて反応した。押出機内にて脱気も行い、残留する未反応物を除去した。得られた変性ポリプロピレン樹脂は、重量平均分子量が95,000、無水マレイン酸のグラフト重量が5.7重量%、メタクリル酸メチルのグラフト重量が6.4重量%であった。
【0072】
[実施例3]
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分96%、エチレン成分4モル%、重量平均分子量65,000、Tm=80℃)100重量部、無水マレイン酸8重量部、メタクリル酸ラウリル4重量部、メタクリル酸ステアリル4重量部、ジ−t−ブチルパーオキシド3重量部を180℃に設定した二軸押出機を用いて反応した。押出機内にて脱気も行い、残留する未反応物を除去した。得られた変性ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量は66,000、無水マレイン酸のグラフト重量は6.0重量%、メタクリル酸ラウリルのグラフト重量は3.2重量%、メタクリル酸ステアリルのグラフト重量は3.1重量%であった。
【0073】
[実施例4]
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分96%、エチレン成分4モル%、重量平均分子量55,000、Tm=67℃)100重量部、無水マレイン酸8重量部、メタクリル酸ラウリル4重量部、メタクリル酸ステアリル4重量部、ジ−t−ブチルパーオキシド3重量部を180℃に設定した二軸押出機を用いて反応した。押出機内にて脱気も行い、残留する未反応物を除去した。得られた変性ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量は58,000、無水マレイン酸のグラフト重量は6.1重量%、メタクリル酸ラウリルのグラフト重量は3.1重量%、メタクリル酸ステアリルのグラフト重量は3.1重量%であった。
【0074】
[実施例5]
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分96モル%、エチレン成分4モル%、重量平均分子量55,000、Tm=67℃)100g、トルエン400gを撹拌機、冷却管、及び滴下ロートを取りつけた四つ口フラスコ中に入れ、系の温度を110度に保持して加熱溶解した後、無水マレイン酸14g、アクリル酸8g、メタクリル酸シクロヘキシル8g、メタクリル酸トリデシル9g、過酸化ベンゾイル3.5gをそれぞれ3時間かけて滴下し、さらに1時間反応させた。反応後、室温に冷却させた後、反応物を大量のアセトン中に投入して精製し、重量平均分子量が62,000、無水マレイン酸のグラフト重量が7.2重量%、アクリル酸のグラフト重量が4.9重量%、メタクリル酸シクロヘキシルのグラフト重量が4.6重量%、メタクリル酸トリデシルのグラフト重量が5.2重量%の変性プロピレン樹脂を得た。
【0075】
[比較例1および2]
実施例1および2のそれぞれについて、メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体のかわりにチーグラ・ナッタ触媒を用いて製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分72モル%、エチレン成分7モル%、ブテン成分21モル%、重量平均分子量120,000、Tm=100℃)を原料樹脂として、同様の変性反応を行い、比較例1および2の樹脂を得た。
[比較例3]
実施例3において、メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体のかわりにチーグラ・ナッタ触媒を用いて製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分68モル%、エチレン成分8モル%、ブテン成分24モル%、重量平均分子量50,000、Tm=70℃)を原料樹脂として、同様の変性反応を行った。
【0076】
[比較例4]
実施例5において、メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体のかわりにチーグラ・ナッタ触媒を用いて製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分68モル%、エチレン成分8モル%、ブテン成分24モル%、重量平均分子量50,000、Tm=70℃)を原料樹脂として、同様の変性反応を行った。
【0077】
〔試験方法〕
上記、実施例1〜5、比較例1〜4で得られた変性ポリプロピレン樹脂のそれぞれについて15重量%のトルエン溶液を調製し、以下の試験を行った。
【0078】
試験1:溶剤溶解性試験
上記トルエン溶液の、1週間経過後の溶液性状を観察した。結果を表1に示す。
評価基準:
○:沈殿が生じておらず、ツブが見られない
△:若干の沈殿及び/又はツブの発生が認められる
×:ツブの発生が著しい、又は、不溶、又は、2層分離
【0079】
試験2:接着強度試験
ポリプロピレン、PETに対する接着性:
表面処理が施されていない二軸延伸ポリプロピレンフィルム又はPETフィルムに#16のマイヤーバーを用いて上記トルエン溶液を塗布し、室温で24時間乾燥した。乾燥後、塗布していない二軸延伸ポリプロピレンフィルム又はPETフィルムと重ね合わせ、No.276ヒートシールテスター(安田精機製作所)を用いて1.5kgf/cm2、110℃、3秒間の条件でヒートシールを行った。各試験片を15mm幅となるように切断し、引っ張り試験機を用いて100mm/minで引き剥がし、その剥離強度を測定した。3回試験を行って、その平均値を結果とした。結果を表1に示す。
【0080】
アルミ箔に対する接着性:
圧延油処理が施されていないアルミ箔に#16のマイヤーバーを用いて上記トルエン溶液を塗布し、室温で24時間乾燥した。乾燥後、無延伸ポリプロピレンフィルムと重ね合わせ、No.276ヒートシールテスター(安田精機製作所)を用いて1.5kg/cm2、200℃、1秒間の条件でヒートシールを行った。各試験片を15mm幅となるように切断し、引っ張り試験機を用いて100mm/minで引き剥がし、その剥離強度を測定した。3回試験を行って、その平均値を結果とした。結果を表1に示す。
【0081】
試験3:タック性試験
[指タック試験]
表面処理が施されていない二軸延伸ポリプロピレンフィルムに#16のマイヤーバーを用いて上記トルエン溶液を塗布し、室温で24時間乾燥した。乾燥後、塗布面が重なるようにフィルムを折り曲げ、指で軽く押さえた後で引き剥がし、その剥がれやすさからタックを評価した。結果を表1に示す。
【0082】
評価基準:
無:指を離した直後にフィルムが乖離し、タックは認められない。
弱:指を離した後、一呼吸置いてフィルムが乖離する。
中:指を離した後、数秒後にフィルムが乖離する。
強:指を離した後、10秒以上経過してもフィルムが乖離しない。
【0083】
[加温加熱タック試験]
表面処理が施されていない二軸延伸ポリプロピレンフィルムに#16のマイヤーバーを用いて上記トルエン溶液を塗布し、室温で24時間乾燥した。乾燥後、塗布していない二軸延伸ポリプロピレンフィルムと重ね合わせ、30gf/cm2の荷重を加え、10%RH以下、50℃の雰囲気下に保管した。24時間経過後、重ね合わせたフィルムを剥がし、その剥がれやすさからタックを評価した。
【0084】
評価基準:
無:剥がす際に引っ掛かりが全く無い。
弱:剥がす際に若干の引っ掛かりが生じる。
中:剥がす際に引っ掛かりが生じ、上述のヒートシール強度試験と同様に試験片を細断し引っ張り試験機にて引っ張ると、100gf以上の剥離強度を示す。
強:剥がす際に強い引っ掛かりが生じ、上述のヒートシール強度試験と同様に試験片を細断し引っ張り試験機にて引っ張ると、200gf以上の剥離強度を示す。
【0085】
試験4:プライマー試験
上記トルエン溶液を超高剛性ポリプロピレン板に乾燥被膜厚が10以上15μm以下となるようにスプレー塗布し、80℃で30分間乾燥を行った。次に2液型上塗り白塗料を乾燥被膜厚が45以上50μm以下となるようスプレー塗布し、15分室温に静置した後、90℃で30分間焼付を行った。試験片を室温で3日間静置した後、上記の塗料試験と同様の試験を行った。結果を表2に示す。
【0086】
[付着性]
塗面上に2mm間隔で素地に達する100個の碁盤目を作り、その上にセロハン粘着テープを密着させて180度方向に引き剥し、塗膜の残存する程度で判定した。
【0087】
[耐湿性]
40℃の温水に塗装板を240時間浸漬した後、塗面上に2mm間隔で素地に達する100個の碁盤目を作り、その上にセロハン粘着テープを密着させて180゜方向に引き剥し、塗膜の残存する程度で判定した。
【0088】
[ピール強度]
各塗膜表面に、水系接着剤を用いてさらし布を貼り、裏打ちする。布の上からカッターナイフで1mm幅の切れ目を入れ、基材と本発明品塗膜間から剥がれる様に、端から途中まで注意深く剥がす。このようにして作成した試験体を、引っ張り試験機を用いて100mm/minで引き剥がし、その剥離強度を測定した。
【0089】
[耐ガソリン性]
各塗膜表面に素地に達するスクラッチ(×印)をカッターナイフで入れ、ガソリンに浸漬し塗膜の状態を目視にて観察した。
【0090】
評価基準:
◎:12時間経過後変化無し
○:2〜12時間経過時に塗膜剥離発生
△:30分〜2時間経過時に塗膜剥離発生
×:30分以内に塗膜剥離発生
【0091】
[耐ガソホール性]
各塗膜表面に素地に達するスクラッチ(×印)をカッターナイフで入れ、ガソリンとエタノールを9/1(vol/vol)に混合した溶液に浸漬し塗膜の状態を目視にて観察した。
【0092】
評価基準:
◎:12時間経過後変化無し
○:2〜12時間経過時に塗膜剥離発生
△:30分〜2時間経過時に塗膜剥離発生
×:30分以内に塗膜剥離発生
【0093】
試験5:インキ試験
上記トルエン溶液130gと二酸化チタン20gをサンドミルで3時間練肉した後、#3ザーンカップで25〜30秒/20℃の粘度になるようにトルエンで希釈しインキを調製した。得られたインキについて、下記の要領にて粘着テープ剥離試験とヒートシール試験を行った。結果を表2に示す。
【0094】
[粘着テープ剥離試験]
調製したインキを、#14のマイヤーバーを用いて未処理ポリプロピレンフィルム(以下、未処理PP)に塗工し、24時間室温で乾燥した後、セロファン粘着テープをインキ塗工面に貼り付け、弱剥離及び強剥離した時の塗工面の状態を調べた。
【0095】
評価基準:
良好:剥がれが全くない状態
不良:剥がれがある状態
【0096】
[ヒートシール試験]
粘着テープ剥離試験と同様な方法で未処理PPにインキを塗工し、24時間室温で乾燥した後、塗工面を重ね合わせ、No.276ヒートシールテスター(安田精機製作所)を用いて1.5kg/cm2、110℃、3秒間の条件でヒートシールを行った。各試験片を15mm幅となるように切断し、引っ張り試験機を用いて100mm/minで引き剥がし、その剥離強度を測定した。3回試験を行って、その平均値を結果とした。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
[実施例6](試作例1)
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分97%、エチレン成分3モル%、MFR=7.0g/10min、Tm=125℃)100重量部、無水イタコン酸8重量部、ジ−t−ブチルパーオキシド3重量部を160℃に設定した二軸押出機を用いて反応した。押出機内にて脱気も行い、残留する未反応物を除去した。得られた変性ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量は98,000、分子量分布(Mw/Mn)が2.7、無水イタコン酸のグラフト重量は5.8重量%であった。
【0100】
[実施例7](試作例2)
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分96%、エチレン成分4モル%、重量平均分子量55,000、Tm=67℃)100重量部、無水マレイン酸8重量部、メタクリル酸メチル8重量部、ジクミルパーオキサイド3重量部を、180℃に設定した二軸押出機を用いて反応した。押出機内にて脱気も行い、残留する未反応物を除去した。得られた変性ポリプロピレン樹脂は、重量平均分子量が58,000、分子量分布(Mw/Mn)が2.6、無水マレイン酸のグラフト重量が5.7重量%、メタクリル酸メチルのグラフト重量が6.4重量%であった。
【0101】
[実施例8](試作例3)
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分97モル%、エチレン成分3モル%、MFR=7.0g/10min、Tm=125℃)100重量部、無水イタコン酸8重量部、メタクリル酸ステアリル8重量部、ジ−t−ブチルパーオキシド3重量部を180℃に設定した二軸押出機を用いて反応した。押出機内にて脱気も行い、残留する未反応物を除去した。得られた変性ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量は75,000、分子量分布(Mw/Mn)が3.0、無水イタコン酸のグラフト重量は6.1重量%、メタクリル酸ステアリルのグラフト重量は6.2重量%であった。
【0102】
[実施例9](試作例4)
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分97モル%、エチレン成分3モル%、MFR=7.0g/10min、Tm=125℃)100重量部、無水マレイン酸8重量部、アクリル酸2重量部、メタクリル酸シクロヘキシル2重量部、メタクリル酸トリデシル2重量部、ジ−t−ブチルパーオキシド3重量部を160℃に設定した二軸押出機を用いて反応した。押出機内にて脱気も行い、残留する未反応物を除去した。得られた変性ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量は133,000、分子量分布(Mw/Mn)が3.2、無水マレイン酸のグラフト重量は5.8重量%、アクリル酸のグラフト重量が1.2重量%、メタクリル酸シクロヘキシルのグラフト重量が1.3重量%、メタクリル酸トリデシルのグラフト重量が1.0重量%であった。
【0103】
[実施例10](試作例10)
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分96モル%、エチレン成分4モル%、重量平均分子量65,000、Tm=80℃)100重量部、無水マレイン酸8重量部、メタクリル酸メチル8重量部、ジクミルパーオキサイド3重量部を、180℃に設定した二軸押出機を用いて反応した。押出機内にて脱気も行い、残留する未反応物を除去した。得られた変性ポリプロピレン樹脂は、重量平均分子量が66,000、分子量分布(Mw/Mn)が2.5、無水マレイン酸のグラフト重量が5.6重量%、メタクリル酸メチルのグラフト重量が6.5重量%であった。
【0104】
[比較例5](試作例5)
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体の替わりに、チーグラー・ナッタ触媒を用いて製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分72モル%、エチレン成分7モル%、ブテン成分21モル%、重量平均分子量120,000、Tm=100℃)を原料樹脂として用い、それ以外は実施例6(試作例1)と同様の変性反応を行い、重量平均分子量が82,000、分子量分布(Mw/Mn)が5.5、無水マレイン酸のグラフト重量は5.2重量%の変性プロピレン樹脂を得た。
【0105】
[比較例6](試作例6)
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体の替わりに、チーグラー・ナッタ触媒を用いて製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分68モル%、エチレン成分8モル%、ブテン成分24モル%、重量平均分子量50,000、Tm=70℃)を原料樹脂として用いた以外は実施例7(試作例2)と同様の変性反応を行い、重量平均分子量が55,000、分子量分布(Mw/Mn)が6.4、無水マレイン酸のグラフト重量が5.9重量%、メタクリル酸メチルのグラフト重量が6.3重量%の変性プロピレン樹脂を得た。
【0106】
[比較例7](試作例7)
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体の替わりに、チーグラー・ナッタ触媒を用いて製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分68モル%、エチレン成分8モル%、ブテン成分24モル%、重量平均分子量50,000、Tm=70℃)を原料樹脂として用いた以外は実施例8(試作例3)と同様の変性反応を行い、重量平均分子量が57,000、分子量分布(Mw/Mn)が7.2、無水イタコン酸のグラフト重量は6.0重量%、メタクリル酸ステアリルのグラフト重量は5.9重量%の変性プロピレン樹脂を得た。
【0107】
[比較例8](試作例8)
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体の替わりに、チーグラー・ナッタ触媒を用いて製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分72モル%、エチレン成分7モル%、ブテン成分21モル%、重量平均分子量120,000、Tm=100℃)を原料樹脂とし、190℃に設定した二軸押出機を用い、その他は実施例9(試作例4)と同様の変性反応を行い、重量平均分子量が140,000、分子量分布(Mw/Mn)が6.2、無水マレイン酸のグラフト重量は6.6重量%、アクリル酸のグラフト重量が1.4重量%、メタクリル酸シクロヘキシルのグラフト重量が1.6重量%、メタクリル酸トリデシルのグラフト重量が1.2重量%の変性プロピレン樹脂を得た。
【0108】
[比較例9](試作例9)
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体の種類を、スペックの異なるプロピレン系ランダム共重合体(サンアロマー株式会社製、MFR=45.0g/10min、Tm=148℃)に替えて、その他は実施例8(試作例3)と同様の変性反応を行い、重量平均分子量は220,000、分子量分布(Mw/Mn)が2.8、無水イタコン酸のグラフト重量は5.8重量%、メタクリル酸ステアリルのグラフト重量は6.2重量%の変性プロピレン樹脂を得た。
【0109】
[実施例11]
攪拌機、冷却管、温度計および滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコ中に、実施例6(試作例1)で得られた変性ポリオレフィン樹脂100重量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩10重量部を添加し、120℃で30分混練した。次に、ジメチルエタノールアミン10重量部を5分かけて添加し、5分保持した後、90℃のイオン交換水300重量部を40分かけて添加した。引き続き、室温まで攪拌しながら冷却し、水性樹脂組成物を得た。水性樹脂組成物の固形分は30重量%、pH=7.5で、粘度は47mPa・s/25℃であり、平均粒子径は122nmであった。
【0110】
[実施例12]
実施例7(試作例2)にて得られた変性ポリオレフィン樹脂100重量部を用い、また界面活性剤をポリオキシエチレンアルキルアミン10重量部に替え、その他は実施例11と同様の操作によって、水性樹脂組成物を得た。水性樹脂組成物の固形分は30重量%、pH=7.9で、粘度は76mPa・s/25℃であり、平均粒子径は86nmであった。
【0111】
[実施例13]
実施例8(試作例3)にて得られた変性ポリオレフィン樹脂300重量部を用い、また界面活性剤をポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩10重量部に替え、その他は実施例11と同様の操作によって水性樹脂組成物を得た。水性樹脂組成物の固形分は50重量%、pH=6.8で、粘度は136mPa・s/25℃であり、平均粒子径は75nmであった。
【0112】
[実施例14]
攪拌機、冷却管、温度計および滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコ中に、試作例4で得られた変性ポリオレフィン樹脂100重量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルアミン10重量部、メチルシクロヘキサン18重量部を添加し、120℃で30分混練した。次に、モルホリン10重量部を5分かけて添加し、5分保持した後、90℃のイオン交換水300重量部を40分かけて添加した。減圧処理を行い、メチルシクロヘキサンを除去した後、室温まで攪拌しながら冷却し、水性樹脂組成物を得た。水性樹脂組成物の固形分は30重量%、pH=7.9で、粘度は70mPa・s/25℃であり、平均粒子径は110nmであった。
【0113】
[実施例15]
実施例10(試作例10)にて得られた変性ポリオレフィン樹脂100重量部を用い、また界面活性剤をポリオキシエチレンアルキルアミン10重量部に替え、その他は実施例11と同様の操作で水性樹脂組成物を得た。水性樹脂組成物の固形分は30重量%、pH=7.9で、粘度は68mPa・s/25℃であり、平均粒子径は76nmであった。
【0114】
[比較例10]
比較例5(試作例5)にて得られた変性ポリオレフィン樹脂100重量部を用い、実施例11と同様の操作によって水性樹脂組成物を得た。水性樹脂組成物の固形分は30重量%、pH=7.3で、粘度は75mPa・s/25℃であり、平均粒子径は108nmであった。
【0115】
[比較例11]
比較例6(試作例6)にて得られた変性ポリオレフィン樹脂100重量部を用い、実施例12と同様の操作によって水性樹脂組成物を得た。水性樹脂組成物の固形分は30重量%、pH=7.9で、粘度は108mPa・s/25℃であり、平均粒子径は92nmであった。
【0116】
[比較例12]
比較例7(試作例7)にて得られた変性ポリオレフィン樹脂300重量部を用い、また界面活性剤をポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩10重量部に替え、その他は実施例12と同様の操作で水性樹脂組成物を得た。水性樹脂組成物の固形分は50重量%、pH=6.8で、粘度は279mPa・s/25℃であり、平均粒子径は86nmであった。
【0117】
[比較例13]
比較例8(試作例8)にて得られた変性ポリオレフィン樹脂100重量部を用い、実施例14と同様の操作で水性樹脂組成物を得た。水性樹脂組成物の固形分は30重量%、pH=7.9で、粘度は132mPa・s/25℃であり、平均粒子径は191nmであった。
【0118】
[比較例14]
攪拌機、冷却管、温度計および滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコ中に、比較例8(試作例9)で得られた変性ポリオレフィン樹脂100重量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩10重量部、トルエン25重量部を添加し、155℃で30分混練した。次に、モルホリン10重量部を5分かけて添加し、5分保持した後、90℃のイオン交換水300重量部を40分かけて添加し水性化を試みたが、溶融粘度が非常に高く、水性樹脂組成物を得るに至らなかった。
【0119】
[比較例15]
実施例8(試作例3)にて得られた変性ポリオレフィン樹脂100重量部を用い、界面活性剤の添加量を2重量部に替え、その他は実施例13と同様の操作で水性樹脂組成物を得た。水性樹脂組成物の固形分は30重量%、pH=6.7で、粘度は237mPa・s/25℃であり、平均粒子径は342nmであった。上記実施例11〜15、比較例10〜15の物性等について表3にまとめて示す。
【0120】
【表3】

【0121】
上記、実施例11〜15、比較例10〜15で得られた水性樹脂組成物について、以下の試験を行った。その結果を表4に示す。
【0122】
[耐ブロッキング性試験]
表面処理されていないポリプロピレンフィルムに#7のマイヤーバーを用いて水性樹脂組成物を塗布し、室温で15時間乾燥した。被膜面が重なるように試験片を折り曲げ、指で軽く押さえた後で引き剥がし、その剥がれ易さから耐ブロッキング性を評価した。
【0123】
[付着性試験]
水性樹脂組成物を超高剛性ポリプロピレン板に乾燥被膜厚10μm以上15μm以下となるようにスプレー塗装し、70℃で30分乾燥させた。試験片を室温で3日間静置した後、塗膜表面にカッターで素地に達する切れ目を入れ、1mm間隔で100個の碁盤目を作り、その上にセロハン粘着テープを密着させて180度方向に5回引き剥がし、残存する碁盤目の数を数えた。
【0124】
[ヒートシール強度試験]
表面処理されていないポリプロピレンフィルムまたはPETフィルムに#7のマイヤーバーを用いて水性樹脂組成物を塗布し、室温で15時間乾燥した。被膜面を重ね合わせ、No.296ヒートシールテスター(安田精機製作所)を用いて1.5kg/cm2、90℃、10秒間の条件でヒートシールを行った。各試験片を1.5cmの幅になるように切断し、引っ張り試験機を用いて5kg重、100mm/minの条件で引き剥がし、その剥離強度を測定した。3回試験を行って、その平均値を結果とした。
【0125】
[貯蔵安定性試験]
水性樹脂組成物を室温にて保存し、3ヶ月後の様子を観察した。
【0126】
[相溶性試験]
水性化ポリウレタンを固形分比で1:1になるように配合し、十分攪拌したものを室温
で30日間保存し、溶液性状を確認した。
【0127】
【表4】

【0128】
表4に示されるように、メタロセン触媒を用いて製造した共重合体のうち、グラフト変性時にアクリル酸を加えたものについては、全ての評価項目で良好な結果を得た。アクリル酸を加えないものについても、相溶性以外は良好な結果を得た。メタロセン触媒の代わりチーグラー・ナッター触媒を用いると、耐ブロッキング性、付着性、ヒートシール強度が、著しく低下した。また、メタロセン触媒を用いても、共重合体の重量平均分子量が20万以上、融点135℃以上だと、水性化を試みても溶融粘度が高く、水性樹脂組成物を得ることができなかった。実施例13に示されるように、水性樹脂組成物の固形分濃度を高くしても物性値は良好であり、ハイソリッド化に適している。
【0129】
比較例15に示すように、平均粒子径が300nmを越えると耐ブロッキング性、付着性、ヒートシール強度の結果はよいものの、貯蔵安定性、相溶性が劣る。
【0130】
試験6:プライマー試験
実施例11〜15、比較例10〜15で得られた水性樹脂組成物について、それぞれ固形分が10重量%になるように調整し、超高剛性ポリプロピレン板に乾燥被膜が10以上15μm以下になるようにスプレー塗装し、60℃で30分間乾燥を行った。次に2液型上塗り白塗料を乾燥被膜厚が45以上50μm以下になるようにスプレー塗装し、15分室温に静置した後、70℃で30分強制乾燥した。試験片を3日間静置した後、以下の試験を行った。結果を表5に示す。
【0131】
[付着性試験]
前記と同様の碁盤目試験を行った。
「耐水性試験]
【0132】
試験片を40℃の温水に240時間浸漬し、塗膜の状態を目視にて観察し、さらに碁盤目試験による付着試験を行った。
【0133】
[ピール強度]
各塗膜表面に、水系接着剤を用いてさらし布を貼り、裏打ちする。布の上からカッターナイフで1mm幅の切れ目を入れ、基材と本発明品塗膜間から剥がれる様に、端から途中まで注意深く剥がす。このようにして作成した試験体を、引っ張り試験機を用いて100mm/minで引き剥がし、その剥離強度を測定した。
【0134】
(iv)耐ガソリン性試験
各塗膜表面に素地に達するスクラッチ(×印)をカッターナイフで入れ、ガソリンに浸漬し塗膜の状態を目視にて観察した。
評価基準:
◎:12時間経過後変化無し
○:2〜12時間経過時に塗膜剥離発生
△:30分〜2時間経過時に塗膜剥離発生
×:30分以内に塗膜剥離発生
【0135】
[耐ガソホール性試験]
各塗膜表面に素地に達するスクラッチ(×印)をカッターナイフで入れ、ガソリンとエタノールを9/1(vol/vol)に混合した溶液に浸漬し塗膜の状態を目視にて観察した。
【0136】
評価基準:
◎:12時間経過後変化無し
○:2〜12時間経過時に塗膜剥離発生
△:30分〜2時間経過時に塗膜剥離発生
×:30分以内に塗膜剥離発生
【0137】
【表5】

【0138】
表5に示されるように、メタロセン触媒を用いて製造した共重合体については、全ての評価項目で良好な結果を得た。メタロセン触媒の代わりチーグラー・ナッター触媒を用いると、全ての評価項目の結果が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタロセン触媒の共存下で重合して得られる融点が50〜130℃のプロピレン系ランダム共重合体を不飽和カルボン酸および/またはその誘導体でグラフト変性して得られ、
重量平均分子量が15,000〜200,000であり、かつ、
不飽和カルボン酸および/またはその誘導体のグラフト重量が0.2〜50重量%である、
変性ポリオレフィン樹脂。
【請求項2】
メタロセン触媒の共存下で重合して得られる融点が50〜130℃のプロピレン系ランダム共重合体を、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体、並びに(メタ)アクリル酸エステルでグラフト変性して得られ、
重量平均分子量が15,000〜200,000であり、かつ、
不飽和カルボン酸および/またはその誘導体のグラフト重量が0.1〜20重量%、(メタ)アクリル酸エステルのグラフト重量が0.1〜30重量%である、
変性ポリオレフィン樹脂。
【請求項3】
請求項1または2に記載の変性ポリオレフィン樹脂を含む接着剤。
【請求項4】
請求項1または2に記載の変性ポリオレフィン樹脂を含むプライマー。
【請求項5】
請求項1または2に記載の変性ポリオレフィン樹脂を含む塗料用バインダー。
【請求項6】
請求項1または2に記載の変性ポリオレフィン樹脂を含むインキ用バインダー。
【請求項7】
ポリオレフィン基材と、請求項1または2に記載の変性ポリオレフィン樹脂で形成された下塗り層と、塗料層とを備え、前記下塗り層はポリオレフィン基材上に積層され、前記塗料層は下塗り層上に積層されてなるポリオレフィン成形体。
【請求項8】
請求項1または2に記載の変性ポリオレフィン樹脂と有機溶剤とを含む変性ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1または2に記載の変性ポリオレフィン樹脂と、水と、界面活性剤とを含み、水中に分散した変性ポリオレフィン樹脂の平均粒子径が300nm以下である、変性ポリオレフィン樹脂組成物。

【国際公開番号】WO2005/082963
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510395(P2006−510395)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002178
【国際出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(502368059)日本製紙ケミカル株式会社 (86)
【Fターム(参考)】