説明

変性ポリシラザン及びコーティング液

【課題】ポリシラザンのSiO転化速度や可とう性、膜厚限界の改善を行いながら、変性に伴うポリシラザンとしての物性低下を最小限にする変性ポリシラザンを提供する。
【解決手段】所定の骨格を有する数平均分子量が300〜50000のポリシラザン主鎖の少なくとも一部を、該ポリシラザンと反応する官能基を有する有機化合物により変性させた変性ポリシラザンにおいて、
(A)前記有機化合物を添加して前記ポリシラザンを変性させる際の該有機化合物の添加量が、該ポリシラザン100質量部に対して0.1〜30質量部であり、かつ、
(B)前記変性ポリシラザンの変性率が10%以下であることを特徴とする変性ポリシラザン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物によって変性されたポリシラザン(以下、変性ポリシラザンと称する)、及び該変性ポリシラザンと溶剤を含むコーティング液に関する。
【背景技術】
【0002】
基材等のコーティングにおいて、高度の耐熱、耐摩耗、耐食性を得るためには、有機系塗料では不十分であり、セラミックス系コーティングが用いられる。従来、セラミックス系コーティングの形成方法としては、PVD(スパッタ法等)、CVD、ゾル−ゲル法などがある。また、塗料を塗布してコーティングを形成する場合には、塗料として、ポリチタノカルボシラン系塗料、ポリ(ジシル)シラザン系塗料、ポリシラザン系塗料、ポリメタロシラザン系塗料などが用いられる。
【0003】
これらの塗料の中でも、シラザン系のプレセラミックポリマーを適当な溶剤に溶解した塗布組成物では、これを基材表面に単に塗布、焼成するだけで空気中の水分と反応し、SiO転化(シリカ転移)する。これにより、緻密かつ高硬度な耐熱性、耐酸化性、耐磨耗性、耐薬品性、高平坦化性を有するセラミックス系コーティングが得られる。
【0004】
しかしながら、一般的にセラミックス系コーティングでは耐熱性、硬度、密着性などには優れるものの、可とう性、膜厚限界などが不十分である。またポリシラザンは、未変性の状態では、SiO転化速度が小さかったり、そのSiO転化に高い焼成温度を必要とする等の問題があった。
【0005】
そこで、これまでにもポリシラザンに見られる前記問題を解決するために、ポリシラザンに各種の反応性化合物を変性剤として反応させて、ポリシラザン変性物とすることが提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1及び2には、金属変性ポリシラザンを用いることで、低温でSiO転化できることが示されている。また、特許文献3〜5には、変性ポリシラザンを用いることで、可とう性、膜厚限界が改善されることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−196986号公報
【特許文献2】特開平9−31333号公報
【特許文献3】特開平5−345826号公報
【特許文献4】特開平6−240208号公報
【特許文献5】特開平7−292321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の変性ポリシラザンでは、ポリシラザンを有機化合物で変性する際の管理手法を以下の(1)〜(3)の方法で行っている。
(1)有機化合物/ポリシラザンそれぞれの質量での管理
(2)有機化合物/ポリシラザンそれぞれの質量と架橋指数(ポリシラザン1分子当たりの架橋点の数)での管理
(3)有機化合物/ポリシラザンそれぞれの分子のモル比での管理。
【0009】
ところで、変性ポリシラザンをSiO転化したときの物性は、ポリシラザンのSi原子が、SiO2結合により3次元的に広がってゆく。このため、「有機化合物の添加量(質量)」と「有機化合物で変性されたポリシラザン中の反応単位の割合(以降、「変性率」という)」の2つの要素で決まる。
【0010】
ここで、ポリシラザンは、モノマー単位すべてで有機化合物との反応単位になりうるため、1分子あたりの反応単位数は、モノマーの重合数または分子量によって大きく異なる。このため、架橋指数や分子のモル比のみでは「変性率」を十分管理できない場合がある。
【0011】
また「有機化合物の質量」のみの管理では、有機物の分子量が異なる材料を用いるとモル数が変わるため、同じ質量を添加しても、やはり「変性率」を管理することは難しい。
【0012】
そのため前記(1)〜(3)のいずれの方法をもってしても、ポリシラザン/有機成分のそれぞれの分子量の組み合わせによっては、変性ポリシラザンの変性率を定量的に管理することが困難な場合があった。その結果、変性時に有機化合物が「過剰に添加される」又は「変性率が大きい」場合がある。このため、当初の目的である可とう性、膜厚限界、SiO転化速度を大きくするといった点は達成できるものの、SiO転化後の物性、特に硬度が変性前のポリシラザンに比べ著しく低下する場合があった。
【0013】
すなわち従来の変性ポリシラザンは、ポリシラザンのSiO転化速度や可とう性、膜厚限界の改善などに主眼が置かれている。
【0014】
それに対して本発明は、ポリシラザンのSiO転化速度や可とう性、膜厚限界の改善を行いながら、変性に伴うポリシラザンとしての物性低下を最小限とする変性ポリシラザンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る変性ポリシラザンは、
下記式(1)で表される骨格を有する数平均分子量が300〜50000のポリシラザン主鎖の少なくとも一部を、該ポリシラザンと反応する官能基を有する有機化合物により変性させた変性ポリシラザンにおいて、
(A)前記有機化合物を添加して前記ポリシラザンを変性させる際の該有機化合物の添加量が、該ポリシラザン100質量部に対して0.1〜30質量部であり、かつ、
(B)前記変性ポリシラザンの変性率が10%以下であることを特徴とする。
【0016】
【化1】

【0017】
(R1、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10の置換又は未置換のアルキル基、炭素数2〜10の置換又は未置換のアルケニル基、炭素数5〜10の置換又は未置換のシクロアルキル基、炭素数6〜10の置換又は未置換のアリール基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を表し、R1、R2及びR3のうち少なくとも1つは水素原子である)。
【0018】
また、前記有機化合物の分子量が、50〜5000であることを特徴とする。
【0019】
また、前記有機化合物が、前記ポリシラザンと架橋構造を形成する2つ以上の同一の官能基を有することを特徴とする。
【0020】
また、前記有機化合物の官能基が、OH基であることを特徴とする。
【0021】
また、前記有機化合物の官能基が、NHR4基であることを特徴とする(R4は水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルキルアミノ基、アリール基、アラルキル基又はアルキルシリル基である)。
【0022】
また、前記有機化合物がポリアミンであることを特徴とする。
【0023】
また、前記有機化合物が対称構造であることを特徴とする。
【0024】
また、(A)前記変性前のポリシラザンをSiO転化したセラミックスと、
(B)前記変性ポリシラザンをSiO転化したセラミックス、のSiO転化率が共に80%であり、かつ、(A)及び(B)のSiO転化率が等しいとき、
(A)及び(B)のダイナミック硬さDUH115°の比が、
((B)のダイナミック硬さDUH115°)/((A)のダイナミック硬さDUH115°)≧0.5
であることを特徴とする。
【0025】
本発明に係るコーティング液は、本発明に係る変性ポリシラザン及び該変性ポリシラザンを溶解可能な溶剤を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明による変性ポリシラザンは、ポリシラザンと比べ、有機化合物の可とう性を分子構造に組み込むことで該ポリシラザンのSiO転化の分子量変化に伴う膜割れを効果的に防ぎ、膜厚を大きく出来る。同時に本発明による変性ポリシラザンは、有機成分の変性率を最小限に抑えているため、ポリシラザンとしての物性低下も最小限であり、硬度低下も少なく、特にセラミックス被膜形成用の塗布組成物成分として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る変性ポリシラザンは、
前記式(1)で表される骨格を有する数平均分子量が300〜50000のポリシラザン主鎖の少なくとも一部を、該ポリシラザンと反応する官能基を有する有機化合物により変性させた変性ポリシラザンにおいて、
(A)前記有機化合物を添加して前記ポリシラザンを変性させる際の該有機化合物の添加量が、該ポリシラザン100質量部に対して0.1〜30質量部であり、かつ、
(B)前記変性ポリシラザンの変性率が10%以下である、ことを特徴とする。
【0028】
すなわち、本発明においては、前記式(1)に示される骨格を有するポリシラザンと有機化合物とを反応し、該ポリシラザンを変性させるとき、該ポリシラザン100質量部に対して有機化合物の添加量が0.1〜30質量部とする。これにより、変性ポリシラザン中の有機成分の絶対量を規定する。また同時に、前記変性ポリシラザンの変性率を10%以下、好ましくは5%以下とする。
【0029】
変性ポリシラザンは、SiO転化した際にポリシラザンの分子の結合状態が3次元に変化する。このときの物性は、有機成分の絶対量と変性率で決まることを見出した。
【0030】
本発明においては、変性ポリシラザン中の有機成分の絶対量、即ち変性に用いる有機化合物の添加量と、変性ポリシラザンの変性率を規定することにより、変性ポリシラザンをSiO転化した際の物性低下を防止することができる。例えば、変性率のみの規定では、有機化合物の分子量が大きい場合、同じ変性率であっても変性ポリシラザン中の有機成分が増加するため物性が低下する。また、有機化合物の添加量のみの規定では、有機化合物の分子量が小さい場合、同じ添加量であっても変性率が大きくなるため物性が低下する。
【0031】
本発明による変性ポリシラザンは、変性していないポリシラザンと比べ、有機化合物の可とう性を分子構造に組み込むことで該ポリシラザンのSiO転化時の分子量変化に伴う膜割れを効果的に防ぎ、膜厚を厚くすることができる。同時に、本発明は有機化合物による変性率を最小限に抑えているため、ポリシラザンとしての物性の低下も最小限であり、硬度低下も少なく、特にセラミックス被膜形成用のコーティング液として有用である。
【0032】
ここで、前記変性率は、以下の式で定義される。
(変性率(%))=(((有機化合物の質量(g))/(有機化合物の分子量))×n)/((ポリシラザンの質量(g))/(ポリシラザン反応単位(モノマー)の分子量))×100
n:有機化合物1分子あたりのポリシラザンと反応する官能基の数。
【0033】
前記変性率を表す式は、「ポリシラザンの反応単位全体量に対して、変性されたポリシラザン反応単位量がどれだけあるか」を示している。
【0034】
ポリシラザンの反応単位全体量は、ポリシラザンの反応単位がポリシラザンの分子量には拠らず、モノマー単位で反応するため、ポリシラザンの反応単位(モノマー)の分子量でポリシラザンの質量をモル数に換算する。よってポリシラザンの反応単位全体量は、以下の式で表される。
(ポリシラザンの反応単位全体量(mol))=(ポリシラザンの質量(g))/(ポリシラザン反応単位(モノマー)の分子量)。
【0035】
それに対して、変性ポリシラザンのSiO転化時の物性低下を最小限に抑えるのに、該有機化合物のモル数に対してポリシラザンは過剰にある。このため、変性されたポリシラザン反応単位量は、該有機化合物のモル数(=(有機化合物の質量(g))/(有機化合物の分子量))に拠る。また該有機化合物が、ポリシラザンと反応する官能基を複数持つ場合には、変性されたポリシラザン反応単位量は、有機化合物のモル数と該官能基の数の積、すなわち以下の式で表される。
(変性されたポリシラザン反応単位量(mol))=(有機化合物のモル数)×(有機化合物1分子あたりのポリシラザンと反応する官能基の数)。
【0036】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0037】
本発明におけるポリシラザンは、前記式(1)で表される骨格を有する。前記式(1)で表される骨格において、R1、R2及びR3はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10の置換又は未置換のアルキル基、炭素数2〜10の置換又は未置換のアルケニル基、炭素数5〜10の置換又は未置換のシクロアルキル基、炭素数6〜10の置換又は未置換のアリール基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を表し、R1、R2及びR3のうち少なくとも1つは水素原子である。
【0038】
また、前記式(1)で表される骨格は環状部分を有していてもよく、その場合にはその環状部分が末端基となりえる。また、環状部分を有さない場合には、主骨格の末端はR1、R2、R3又は水素であってもよい。
【0039】
本発明に用いるポリシラザンとしては、前記式(1)で表わされる骨格のR1、R2及びR3が全て水素である炭素を含まないペルヒドロポリシラザン(以下、PHPSと示す)であることが好ましい。
【0040】
前記ポリシラザンは、数平均分子量が300〜50000である。数平均分子量が300未満である場合、沸点が低すぎるため好ましくない。また、50000を超える場合、溶剤に対する溶解性が低下するため好ましくない。数平均分子量は、好ましくは、500〜5000である。
【0041】
本発明に係る変性ポリシラザンは、前記式(1)に示される骨格を有するポリシラザンと有機化合物とを反応し、該ポリシラザンを変性することにより得ることができる。このとき、本発明においては、該ポリシラザン100質量部に対して有機化合物を0.1〜30質量部添加して反応することで、該ポリシラザンを変性する。該有機化合物の添加量が0.1質量部未満である場合、ポリシラザンのSiO転化速度や可とう性、膜厚限界が十分改善されないため好ましくない。また、30質量部をこえる場合、変性ポリシラザンの耐熱性や耐摩耗性等のセラミックコーティングとしての物性低下が生じるため好ましくない。好ましくは、該有機化合物の添加量は、0.5〜20質量部である。
【0042】
また、本発明に係る変性ポリシラザンの変性率は10%以下である。10%をこえる場合、変性ポリシラザンの耐熱性や耐摩耗性等のセラミックコーティングとしての物性低下が生じるため好ましくない。変性率は、好ましくは5%以下である。
【0043】
本発明におけるポリシラザンと反応性する官能基を有する有機化合物としては、ポリシラザンとの反応性を有する官能基をもつものであれば特に制限されるものではなく、単品又は2種類以上の有機化合物を組み合わせて用いることができる。2種類以上の有機化合物を用いる場合、それぞれの有機化合物の合計量が、本発明における有機化合物の添加量及び変性ポリシラザンの変性率の規定の範囲内となるように適宜調整する。
【0044】
前記官能基を有する有機化合物としては、アルコール、有機酸、エステル、ケトン、アルデヒド、イソシアネート、アミド又はメルカプタンなどが挙げられる。該官能基を有する有機化合物の分子量としては、50〜5000が好ましい。これらを用いて変性した変性ポリシラザンは、ポリシラザンと比較して化学的安定性が高いため、取扱性に優れている。そして化学的安定性が高いため、焼成して得られるセラミックスの性質のバラツキが減少する。
【0045】
さらに、ポリシラザンを前記有機化合物により変性する前に、該ポリシラザンに金属アルコキシド、珪素アルコキシド、アルコール、金属カルボン酸塩、アセチルアセトナト錯体、酸、アミン等を添加して予め変性することができる。予め変性したポリシラザンを前記有機化合物により変性した変性ポリシラザンは、より低温でセラミックス化することができる。以下、このような変性処理を低温セラミックス化処理とする。
【0046】
本発明において、前記有機化合物は、前記ポリシラザンと架橋構造を形成する2つ以上の同一の官能基を有することが好ましい。前記官能基を有することで、変性成分がぶら下がり構造ではなく分子骨格に均質に入りこみ、さらに効果的に可とう性や膜厚限界を改善できる。
【0047】
本発明において、ポリシラザンと架橋構造を形成する場合の好ましい架橋指数、すなわちポリシラザン1分子当たりの好ましい架橋点の数は、所期の目的によって、また出発原料のポリシラザンの分子量によって変わってくる。例えば、架橋後に所望されている分子量が一定である場合、出発原料のポリシラザン分子量が小さいほど架橋指数を高くする必要がある。しかしながら、一般的に架橋指数をあまり高くしようとするとポリマーの三次元化が進み、塗布組成物の成分として望ましくなくなる。したがって、本発明に係る変性ポリシラザンが架橋構造を有する場合、好ましい架橋指数は5以下、より好ましくは1以下である。
【0048】
本発明において、前記有機化合物が有する官能基が、OH基であることが好ましい。特に、OH基を2個以上有する有機化合物を選定することで、その種類や架橋による導入量を調節して、ポリシラザン架橋体由来のセラミックスコーティングの可撓性を効果的に制御することができる。すなわち、一般にセラミックスコーティングの硬度を高めたい場合には、OH基含有有機化合物として炭素原子数の少ないものを選定する。反対にセラミックスコーティングの可撓性を高めたい場合には、OH基含有有機化合物として炭素原子数の多いものを選定すればよく、その選定については必要に応じ適宜行うことができる。
【0049】
このようなOH基を2個以上有する有機化合物の具体例としては、特に限定されるものではなく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ヒドロキノン、アルキルヒドロキノンのほか、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アルキドポリオール、アクリルポリオールのポリオール類などが挙げられる。
【0050】
これらOH基を2個以上有する有機化合物は2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、OH基を2個以上有する有機化合物として、塩基性溶媒中で加水分解してポリシラザンと反応することできる有機化合物を使用してもよい。具体的には、上記具体例に挙げた有機化合物のエステル化物、例えば、酢酸エステル、プロピオン酸エステル等を使用することもできる。
【0051】
本発明において、前記有機化合物としてNHR4基を有する有機化合物を用いても本発明は有効に作用する。
【0052】
ポリシラザンはR1、R2においてアミン化合物と反応してアミン交換を生じるため、変性したポリシラザンの分子量が変化する。しかしながら、本発明における変性ポリシラザンの「変性率」は、変性ポリシラザンの分子量が変化しても、変性率は明確に定義できる。
【0053】
ここでR4は水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルキルアミノ基、アリール基、アラルキル基及びアルキルシリル基からなる群から選ばれる。具体的には、R4及びR5は、水素原子、メチル、エチル、プロピル、ブチル、オクチル、デシル等の炭素数1〜10のアルキル基、ビニル、アリル、ブテニル、オクテニル、デセニル等の炭素数2〜10のアルケニル基、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル等の炭素数5〜10のシクロアルキル基、メチルアミノ、エチルアミノ等の炭素数1〜10のアルキルアミノ基、フェニル、トリル、キシリル、ナフチル等の炭素数6〜10のアリール基、ベンジル等のアラルキル基、メチルシリル、エチルシリル、プロピルシリル、ブチルシリル、オクチルシリル又はデシルシリル等の炭素数1〜10のアルキルシリル基が挙げられる。これらのアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルキルアミノ基、アリール基、アラルキル基及びアルキルシリル基は、それぞれ場合により、塩素、臭素、よう素等のハライド類;エトキシ等のアルコキシ基、また、アセチル及びプロピオニル等のアシル基等の、ヘテロ原子を含む一以上の置換基で置換されていてもよい。
【0054】
具体例としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン等のアルキルアミン類や、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、ナフチルアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。これらは1種又は2種以上を併用してもよい。
【0055】
前記NHR4基を有する有機化合物がポリアミンである場合には、先に述べたように、変性成分が分子骨格に入りこみ、効果的に可とう性や膜厚限界を改善できる。前記ポリアミンは、下記式(2)で示される。
4HN−A−NHR5 (2)。
【0056】
前記式(2)中、Aは多価の有機又は無機金属を含む有機基であり、追加のNHR基(RはR4又はR5)を含んでいてもよい。前記式(2)におけるR4及びR5は、前記NHR4基におけるR4と同義である。
【0057】
前記ポリアミンとしては、芳香族、脂肪族及び脂環式ポリアミン類が挙げられ、代表的な例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン(DETA又はDTA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、ヘキサメチレンジアミン、m−フェニレンジアミン(MPA)、ジアミノジフェニルスルホン(DADPS又はDDS)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を併用してもよい。
【0058】
なお、本発明において、「ポリアミン」という用語は、複数(例えば、二以上)のNHR4基を含む単量体、オリゴマー又は高分子状化合物のいずれかを意味するものとする。また、「ポリアミン」は、3種のタイプのアミン全て、即ち、第1、第2および第3アミンが含まれる。第1および第2アミン類は変性に用いられる。一方、第3アミンは、硬化を促進することが切望される場合に用いられる。
【0059】
本発明において、対称構造を有する有機化合物でポリシラザンを変性させることで、ポリシラザンと有機化合物との反応が均質に起きるため、局所的な高分子化などが原因による変性ポリシラザンのゲル化をより抑制することができる。
【0060】
対称構造を有する有機化合物の代表的な例としては、エチレングリコール、1、4−ブタンジオール、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ポリエステルポリオールなどのポリオール類及びエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン及びそれらの2級アミン類を含むジアミン類をなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上を併用してもよい。
【0061】
本発明における変性ポリシラザンの製造(合成)方法は、一般に、前記ポリシラザンを必要に応じて適当な溶剤に溶解した溶液を調製し、これに反応性を高める目的で塩基性溶媒を添加してポリシラザン溶液を作製する。そこに前記有機化合物を添加することにより行われる。
【0062】
ここで、混合溶液中で局所的にポリシラザンと有機化合物とが反応し高分子化して、ポリシラザンが不溶化(ゲル化)することがあるため、有機化合物を添加する際にはゲル化を防止する意味で、溶剤に溶解しゆっくり滴下することが好ましい。
【0063】
前記溶剤としては、変性ポリシラザンを含む塗布組成物の溶剤でもあることが好ましく、芳香族化合物、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン及びトリエチルベンゼン;シクロヘキサン、シクロヘキセン、デカヒドロナフタレン、ジペンテン;飽和炭化水素化合物、例えばn−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、n−ノナン、i−ノナン、n−デカン及びi−デカン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、p−メンタン;エーテル類、例えばジプロピルエーテル、ジブチルエーテル及びジペンチルエーテル;並びにケトン類、例えばメチルイソブチルケトン(MIBK)、が挙げられる。このような溶剤を用いて合成された変性ポリシラザンは、そのまま塗布組成物として使用することができる。
【0064】
前記塩基性溶媒としては、三級アミン類が挙げられ、例えばトリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、ピリジン類、例えばピリジン、ピコリン、ルチジン、ピリミジン及びピリダジン、並びに有機強塩基性化合物、例えば1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕−7−ウンデセン(DBU)及び1,5−ジアザビシクロ〔4.3.0〕−5−ノネン(DBN)が挙げられる。
【0065】
このような塩基性溶媒中で反応を行うことにより、得られるポリシラザン架橋体の分子鎖中にOH基などポリシラザンと反応する置換基が残存することがなくなる。特に好適な塩基性溶媒としては、トリエチルアミン、ピリジン、DBU及びDBNである。また前記溶剤よりも低沸点の塩基性溶媒を選ぶことで、反応終了後ロータリーエバポレーターなどで簡単に塩基性溶媒を除去できる。なお、ポリシラザンと有機化合物の反応性が高い場合には、塩基性溶媒を添加しなくてもよい。
【0066】
本発明による変性ポリシラザンの合成反応では、0.01〜90質量%、好ましくは1〜10質量%のポリシラザンと、99.99〜10質量%、好ましくは99〜90質量%の溶剤及び塩基性溶媒に対して、前記有機化合物を、該ポリシラザンの質量に対して0.1〜30質量%、好ましくは0.1〜10質量%を添加する。その際、ポリシラザンの変性率は10%以下、好ましくは5%以下にする。
【0067】
また前記有機化合物がポリシラザンと架橋構造を形成する場合、架橋指数を5以下、好ましくは1以下にすることで溶液の安定性を確保できる。
【0068】
前記変性ポリシラザンの合成反応は、使用する溶剤の凝固点以上、沸点以下の範囲の任意の温度で行われるが、通常は0〜100℃で行われる。
【0069】
本発明における変性ポリシラザンの合成反応における反応圧力については特に制限はなく、一般には常圧乃至は加圧下で行われる。反応圧力は1×105Pa〜9.8×105Pa(1〜10kg/cm2G)の範囲が好ましい。
【0070】
反応時間については特に制限はないが、一般には120分以下反応を行う。
【0071】
得られた変性ポリシラザンは、主鎖が実質的にSi−N結合からなり、ゲル透過クロマトグラフィーによるポリスチレン換算数平均分子量が500〜100,000、好ましくは500〜10,000、より好ましくは500〜5,000が好ましい。また本発明による変性ポリシラザンは、遊離した官能基を実質的に含まないので、保存期間中に架橋が進んで分子量が高くなることはほとんどない。
【0072】
本発明における変性ポリシラザンを含むコーティング液を、金属、ガラス、シリコン基板、プラスチック、等の各種基材に塗布し、これをSiO転化することにより、セラミックコーティングとすることができる。該セラミックコーティングは、例えば、半導体、液晶等の絶縁平坦化膜、金属表面の酸化防止膜、酸素、水蒸気、Na等のバリア膜、プラスチック等軟性基板の保護膜として有用である。
【0073】
したがって、本発明の別の態様によれば、このような変性ポリシラザン及び該ポリシラザンを溶解可能な溶剤を含む組成物(コーティング液)が提供される。
【0074】
前記溶剤としては先に記載した溶剤を用いることができる。なお、前記溶剤は、上記に挙げた1種でもよく、変性ポリシラザンの溶解度や溶剤の蒸発速度を調節するために沸点の異なる2種以上の溶剤に溶解させてもよい。
【0075】
溶剤の使用量(割合)は採用するコーティング方法により作業性がよくなるように適宜選択される。また用いる変性ポリシラザンの平均分子量、分子量分布、その構造によっても適宜前記溶剤を自由に混合することができる。好ましくは変性ポリシラザン含有率が0.01〜70質量%の範囲となるように混合することができる。
【0076】
また、本発明のコーティング液において、必要に応じて適当な充填剤及び/又は増量剤を加えることができる。充填剤の例としてはシリカ、アルミナ、ジルコニア、マイカを始めとする酸化物系無機物あるいは炭化珪素、窒化珪素等の非酸化物系無機物の微粉等が挙げられる。また用途によってはアルミニウム、亜鉛、銅等の金属粉末の添加も可能である。これら充填剤は、針状(ウィスカーを含む。)、粒状、鱗片状等種々の形状のものを単独又は2種以上混合して用いることができる。また、これら充填剤の粒子の大きさは1回に塗布可能なセラミックコーティングの膜厚よりも小さいことが望ましい。さらに、充填剤の添加量は変性ポリシラザン1質量部に対し0.01質量部〜100質量部の範囲が好ましく、より好ましい添加量は0.1質量部〜10質量部の範囲である。
【0077】
コーティング液には、必要に応じて各種顔料、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤(酸化亜鉛、酸化チタン、等を含む)、紫外線吸収剤、pH調整剤、分散剤、表面改質剤、可塑剤、乾燥促進剤、流れ止め剤を加えてもよい。
【0078】
前記変性ポリシラザン含有コーティング液を基材に1回又は2回以上繰り返し塗布した後、焼成し、水蒸気雰囲気にさらす、もしくは触媒を含有した蒸留水に浸す、またはこれらの両方を行うことにより、セラミックス被覆膜を形成することができる。
【0079】
塗布方法は、通常実施されているプラスチック材料への塗布方法、すなわち浸漬、ロール塗り、バー塗り、刷毛塗り、スプレー塗り、フロー塗り等が用いられる。特に好ましい塗布方法はグラビアコーティング法である。
【0080】
本発明では、従来の変性ポリシラザン以上に、有機化合物による変性ポリシラザンの変性率を定量的に管理しているため、
(A)前記変性前のポリシラザンをSiO転化したセラミックスと、
(B)前記変性ポリシラザンをSiO転化したセラミックス、のSiO転化率が共に80%以上であり、かつ、(A)及び(B)のSiO転化率が等しいとき、
(A)及び(B)のダイナミック硬さDUH115°の比が、
((B)のダイナミック硬さDUH115°)/((A)のダイナミック硬さDUH115°)≧0.5
であることを特徴とする。
【0081】
SiO転化を行う際の条件は、用いる変性ポリシラザンまたはコーティング液によって異なり、またコーティングを施す基板製品によって選択することができる。
【0082】
低温セラミックス化処理した変性ポリシラザンは、特に低温形成方法を使用せず通常の焼成を行ってもより低い温度でセラミックス化することができ、変性ポリシラザン中の有機物をより安定にSiO転化後の構造に組み込むことができる。なお、「焼成」とは、50℃以上での加熱操作を示す。
【0083】
低温セラミックス化コーティング液(特に、変性ポリシラザンの金属カルボン酸塩付加物、アセチルアセトナト錯体付加物、金属微粒子付加物)を併用し、この後、低温形成方法を採用しない場合、焼成は250〜1000℃の範囲で行うことが好ましい。より好ましい焼成温度は、250〜400℃、さらに好ましくは250〜350℃の範囲にある。焼成雰囲気は酸素中、空気中あるいは不活性ガス等のいずれであってもよいが、空気中がより好ましい。
【0084】
空気中での焼成により、低温セラミックス化コーティング液の酸化あるいは空気中に共存する水蒸気による加水分解が進行する。このため、上記のような低い焼成温度でSi−O結合あるいはSi−N結合を主体とする三次元構造を有し、かつ変性部分の有機成分が残存した強靱なセラミックス膜の形成が可能となる。
【0085】
更に、コーティングする低温セラミックス化コーティング液の種類によっては、前記低温形成方法すなわち50℃以上での焼成を全く行わず、塗布後の被覆膜を50℃未満の条件で長時間保持することで、被覆膜の性質を向上させることが可能である。この場合の保持雰囲気は空気中が好ましく、また水蒸気圧を高めた湿潤空気中でも更に好ましい。保持する時間は特に限定されるものではないが、10分以上、30日以内が現実的に適当である。また、保持温度は特に限定されるものではないが、0℃以上、50℃未満が現実的に適当である。
【0086】
この空気中での保持により金属カルボン酸塩と変性ポリシラザンとの反応物の酸化、あるいは空気中に共存する水蒸気による加水分解が進行する。また、セラミックスへの転化が完了して、Si−O結合あるいはSi−N結合を主体とした三次元構造を有し、かつ架橋部分の有機成分が残存した強靱な被覆膜の形成が可能となる。以上の方法によれば、高い焼成温度に起因する種々の問題を大幅に軽減することができ、場合によっては室温付近でのSiO転化が可能となる。
【0087】
一方、低温形成方法を採用する場合には、昇温速度は特に限定しないが、0.5〜5℃/分の昇温速度が好ましい。好ましいSiO転化温度は室温〜250℃であるが、プラスチック材料等への塗布には、プラスチック材料としての性質を損なわない温度、好ましくは150℃以下で加熱処理を施す。一般に、加熱処理を150℃以上で行うと、プラスチック材料が変形したり、その強度が劣化するなど、プラスチック材料としての性質が損なわれる。しかしながら、ポリイミド等の耐熱性の高いプラスチック材料の場合にはより高温での処理が可能であり、この加熱処理温度は、プラスチック材料の種類によって当業者が適宜設定することができる。
【0088】
焼成雰囲気は酸素中、空気中あるいは不活性ガス等のいずれであってもよいが、空気中がより好ましい。
【0089】
またセラミックスへの転化が不完全な場合、水蒸気雰囲気中で熱処理する方法、及び、触媒を含有した蒸留水中に浸す方法のいずれか一方又は双方によってセラミックスに転化させることが可能である。
【0090】
水分との反応によって、変性ポリシラザンに含まれるSi−N、Si−H、N−H結合等は消失し、Si−O結合を主体とする三次元構造を有し、かつ有機成分が残存した強靱なセラミックス膜が形成される。
【0091】
これらの方法によって得られるセラミックス膜の膜厚は、好ましくは5nm〜10μmの範囲である。膜厚が10μmよりも厚いと熱処理時に割れが入ることが多く、更に可撓性が低下し、折り曲げなどによる割れや剥離も生じ易くなる。反対に、膜厚が5nmよりも薄いと所期の効果、例えば所望のガスバリヤ性や耐磨耗性が得られない。
【0092】
被腹膜の膜厚は、コーティング液の濃度を変更することによって制御することができる。すなわち、膜厚を増加したい場合にはコーティング液の固形分濃度を高くする(溶剤濃度を低くする)ことができる。また、コーティング液を複数回適用することによって膜厚をさらに増加させることもできる。
【0093】
かくして得られた本発明の変性ポリシラザンをSiO転化したセラミックスと、変性前のポリシラザンをSiO転化したセラミックスの硬度を比較する場合、一般的にポリシラザンの変性に用いた有機化合物の影響のほか、SiO転化率によっても影響を受ける。そこで本発明では、SiO転化率による影響を除外するためにSiO転化率を同じにして比較する必要がある。
【0094】
またSiO転化率があまりに低いと、前述のように塗布膜のセラミックス化が不十分となり、所期の効果(例えばガスバリヤ性や耐磨耗性)が得られないため、SiO転化率80%以上で比較することが望ましい。
【0095】
本発明の変性ポリシラザンをSiO転化したセラミックス(B)は、有機化合物の添加量や変性ポリシラザンの変性率を管理したものであるため、硬度をはじめとするセラミックス膜としての各種物性の低下が最小限に抑えられている。
【0096】
そのため、変性前のポリシラザンをSiO転化したセラミックス(A)と比較して、
(B)の硬度/(A)の硬度≧0.5
であり、すなわち(B)の硬度は(A)の硬度の50%以上であることを特徴としている。なお、前記硬度は、ダイナミック硬さDUH115°のことを示す。具体的には、「DUH−W201Sダイナミック微小硬度計」(商品名、島津製作所製)にて、先端圧子115°三角錐圧子を使用し試験力1mNにてダイナミック硬さDUH115°を5回測定し、その平均値を採用する。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を、実施例を用いて具体的に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0098】
(実施例1)
「ペルヒドロポリシラザンPHPS」(AZエレクトロニックマテリアル社製、数平均分子量1000(GPCにより測定)、以下PHPSと示す)20wt%キシレン溶液(商品名:「アクアミカNN110」、モノマー分子量45)5gにMIBKを10g、トリエチルアミンを1g加え、均一の溶液とした。該溶液に、1,4−ブタンジオール(分子量90、OH官能基数2)10wt%MIBK溶液を0.2g(0.00022mol)添加した。なお、1,4−ブタンジオール10wt%MIBK溶液を添加する際、ポリシラザン溶液を撹拌しながら約10分間かけて添加した。さらにスターラーで1時間混合した後、ロータリーエバポレーターでトリエチルアミンを除去して無色透明のコーティング液を得た。
【0099】
次に前記コーティング液を用い、76×26×1mmの脱脂したスライドガラスに流し塗りにより施工し、室温で10分間乾燥した。次に100℃で1時間焼き付けし、更に90%RH(相対湿度)中、大気圧下80℃で24h加熱した。
【0100】
(実施例2)
1,4−ブタンジオール10wt%MIBK溶液0.2g(0.00022mol)添加を、ポリ(エチレンアジペート)グリコール(商品名:「ニッポラン4002」、日本ポリウレタン工業社製、分子量1000、OH官能基数2)10wt%MIBK溶液を3g(0.00030mol)添加、に変更した以外は実施例1と同様に行った。
【0101】
(実施例3)
1,4−ブタンジオール10wt%MIBK溶液0.2g(0.00022mol)添加を、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(キシダ化学社製、分子量198、NH2官能基数2)10wt%MIBK溶液を1.1g(0.00056mol)添加、に変更した以外は実施例1と同様に行った。
【0102】
(実施例4)
1,4−ブタンジオール10wt%MIBK溶液の添加量を1.0g(0.00111mol)に変更した以外は実施例1と同様に行った。
【0103】
(比較例1)
1,4−ブタンジオール10wt%MIBK溶液の添加量を1.5g(0.00167mol)に変更した以外は実施例1と同様に行った。
【0104】
(比較例2)
1,4−ブタンジオール10wt%MIBK溶液を0.2g(0.00022mol)添加を、ポリ(エチレンアジペート)グリコール(商品名:「ニッポラン4002」、日本ポリウレタン工業社製、分子量1000、OH官能基数2)10wt%MIBK溶液を5g(0.00050mol)添加、に変更した以外は実施例1と同様に行った。
【0105】
(比較例3)
1,4−ブタンジオール10wt%MIBK溶液を添加しないこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0106】
(比較例4)
比較例3のコーティング液を用い、76×26×1mmの脱脂したスライドガラスに流し塗りにより施工し、室温で10分間乾燥した。次に100℃で1時間焼き付けし、更に90%RH(相対湿度)中、大気圧下で80℃×15h加熱した。それ以外は比較例3と同様に行った。
【0107】
以上の実施例、比較例を表1に示す。なお、PHPSと有機化合物の質量比は、使用したPHPSの質量を1としたときの質量比で示している。
【0108】
また、SiO転化条件は、以下のa又はbで示している。
a:100℃で1時間焼き付けし、更に90%RH(相対湿度)中80℃で24h加熱
b:100℃で1時間焼き付けし、更に90%RH(相対湿度)中80℃で10h加熱。
【0109】
【表1】

【0110】
[膜特性の評価]
実施例及び比較例で得られた皮膜の特性を以下の方法で評価した。
【0111】
(有機化合物添加量)
有機化合物の添加量は、以下の式で算出した。
(有機化合物添加量(質量%))=(表1における有機化合物質量比)×100。
【0112】
(架橋指数)
有機化合物の架橋指数は、以下の式で算出した。なお実施例3は、置換基がアミンであり架橋構造を示さないため架橋指数はない。
(架橋指数)=(有機化合物(mol))/(PHPSと反応する有機化合物の官能基の数)/(PHPS(mol))。
【0113】
(変性率)
PHPSの変性率は、以下の式で算出した。
(変性率(%))=(有機化合物(mol))×(PHPSと反応する有機化合物の官能基の数)/((PHPS質量(g))/(PHPSモノマー分子量))×100。
【0114】
(膜厚)
UV−visスペクトルの光学干渉波にて膜厚を測定し、皮膜割れの発生しない膜厚の最大値を記入した。
【0115】
(シリカ転化率(SiO転化率))
シリカ転化率はセラミック化の度合いを示すものであり、測定方法は以下の式で、IR(赤外分光法)で評価を行った。
(シリカ転化率)=(加熱後のSiO吸光度)/(加熱後のSiN吸光度)。
【0116】
シリカ添加率は、セラミックス化進行の指標となるものであり、シリカ転化率が大きいほどセラミックス化が進んでいることを示す。なお、ここでSiN、SiOの特性吸収はそれぞれ約850、1100cm-1の吸収を用いた。また吸光度は、吸光度=1og(Io/I)にて計算した。Iは吸収ピークの透過率、Ioはピークのベースとなる透過率である。測定は、商品名:「V−560」(日本分光社製)を用いて行った。
【0117】
(硬度(DUH115°))
硬度は「DUH−W201Sダイナミック微小硬度計」(商品名、島津製作所製)にて、先端圧子115°三角錐圧子を使用し試験力1mNにてダイナミック硬さDUH115°を5回測定し、その平均値を測定値とした。
【0118】
(変性前後の硬さ比)
シリカ転化率が同じ場合、以下の式で変性前後の硬さ比を計算した。
(変性前後の硬さ比)=(変性前のポリシラザンDUH115°)/(変性前のポリシラザンDUH115°)。
【0119】
(スチールウール硬さ)
スチールウール硬さは、スチールウール#000番、荷重200g、(面積1cm角)10往復の条件で試験し、目視で傷の数を観察し、A〜Dの等級付けをした。
評価A:傷なし
評価B:傷2本以下
評価C:傷3〜10本
評価D:傷11本以上。
【0120】
以上の評価結果を表2に示す。
【0121】
【表2】

【0122】
表2に示すようにシリカ転化率が100%の例(実施例1〜4及び比較例1〜3)を比較すると、それぞれ膜の硬度は異なる。ここで、実施例1〜4で用いている変性ポリシラザンは、有機化合物の添加量や変性率が本発明の範囲で管理されているため、変性前後の硬さ比は0.5以上であった。また、膜の実用的な硬さを示すスチールウール硬さ評価の差はなく、良好な硬さを示した。
【0123】
それに対して、比較例1では変性ポリシラザンの変性率が15%、比較例2では有機化合物の添加量が50%であるため、変性前後の硬さ比は0.5未満であり、スチールウール硬さ評価で傷が多く発生した。また、比較例3はポリシラザンを変性していないため、膜厚が2μmと他の例と比べ低く、膜厚限界が低かった。なお、シリカ転化率が78%の例(比較例4)では、セラミックス化の割合が低いため、やはりスチールウール硬さ評価で傷が発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される骨格を有する数平均分子量が300〜50000のポリシラザンの少なくとも一部を、該ポリシラザンと反応する官能基を有する有機化合物により変性させた変性ポリシラザンであって、
(A)前記有機化合物を添加して前記ポリシラザンを変性させる際の該有機化合物の添加量が、該ポリシラザン100質量部に対して0.1〜30質量部であり、かつ、
(B)前記変性ポリシラザンの変性率が10%以下であることを特徴とする変性ポリシラザン。
【化1】

(R1、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10の置換又は未置換のアルキル基、炭素数2〜10の置換又は未置換のアルケニル基、炭素数5〜10の置換又は未置換のシクロアルキル基、炭素数6〜10の置換又は未置換のアリール基、又は炭素数1〜10のアルコキシ基を表し、R1、R2及びR3のうち少なくとも1つは水素原子である。)
【請求項2】
前記有機化合物の分子量が、50〜5000であることを特徴とする請求項1に記載の変性ポリシラザン。
【請求項3】
前記有機化合物が、前記ポリシラザンと架橋構造を形成する2つ以上の同一の官能基を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の変性ポリシラザン。
【請求項4】
前記有機化合物の官能基が、OH基であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の変性ポリシラザン。
【請求項5】
前記有機化合物の官能基が、NHR4基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の変性ポリシラザン。
(R4は水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルキルアミノ基、アリール基、アラルキル基又はアルキルシリル基である)
【請求項6】
前記有機化合物がポリアミンであることを特徴とする請求項1、2又は5に記載の変性ポリシラザン。
【請求項7】
前記有機化合物が対称構造であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の変性ポリシラザン。
【請求項8】
(A)前記変性前のポリシラザンをSiO転化したセラミックスと、
(B)前記変性ポリシラザンをSiO転化したセラミックスと、
のSiO転化率が共に80%以上であり、かつ、SiO転化率が等しいとき、
(A)及び(B)のダイナミック硬さDUH115°の比が、
((B)のダイナミック硬さDUH115°)/((A)のダイナミック硬さDUH115°)≧0.5
であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の変性ポリシラザン。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の変性ポリシラザン及び該変性ポリシラザンを溶解可能な溶剤を含むことを特徴とするコーティング液。

【公開番号】特開2010−180301(P2010−180301A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23717(P2009−23717)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】