説明

変性ポリシロキサン

【課題】本発明は、高い耐光性と耐熱性を有する硬化物を与える変性ポリシロキサンを提供することを目的とする。
【解決手段】多環脂環式炭化水素基とエポキシ基を特定割合で導入した変性ポリシロキサンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード、フォトダイオード等の光半導体の封止剤、電子部品用の接着剤、シール剤等として有用な硬化性樹脂組成物及びそれを調製する為の変性ポリシロキサンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、光半導体装置は発光ダイオード、フォトダイオード等の光半導体素子をエポキシ樹脂組成物によって樹脂封止することにより構成されている。一方、近年注目されている青色LEDや白色LEDの場合、封止剤として従来のエポキシ組成物を用いると耐光性が不充分であり、短期間に輝度の低下が起こる。耐光性を向上させる手段として脂環式のエポキシ樹脂を用いる検討が、例えば特許文献1等に開示されているが、未だ不充分であり、更なる耐光性の向上が強く求められている。
一方、エポキシ基を有するシリコーン樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物を光半導体の封止剤として用いる検討が、例えば特許文献2等に開示されている。しかしながら、一般にエポキシ基を有するシリコーン樹脂はガラス転移温度が低く、それを用いた組成物で青色LEDや白色LEDを封止すると通電による発熱により封止剤が軟化すると言う課題を有し、耐熱性の向上が強く求められている。
【特許文献1】特開2001−19742号公報
【特許文献2】特開平6−240001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、高い耐光性と耐熱性を有する硬化物を与える変性ポリシロキサンおよび硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、脂環式炭化水素基と架橋点となる置換基を特定割合で導入した変性ポリシロキサンを硬化性樹脂組成物の一成分として使用することにより、上記の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は下記の通りである。1)平均組成式(1)
【0005】
【化1】

【0006】
(但し、Rは水素基あるいは炭素数が1〜6の脂肪族炭化水素基、Rは化学式(2)あるいは化学式(3)で示される置換基、Rは炭素数が5〜20の多環脂環式炭化水素基である。RはR〜Rの何れかの基である。x,y,zはそれぞれ、0≦x≦50,1≦y≦50,1≦z≦50の整数である。)
化学式(2)
【0007】
【化2】

【0008】
化学式(3)
【0009】
【化3】

【0010】
(但しRは炭素数が1〜10,酸素数が0〜2の2価の有機基)
で示される変性ポリシロキサン。
2)x、y、zの合計に対するyの比率が5〜80%である上記1)記載の変性ポリシロキサン。
3)x、y、zの合計に対するzの比率が5〜50%である上記1)記載の変性ポリシロキサン。
4)上記1)〜3)に記載の変性ポリシロキサンとエポキシ樹脂用硬化剤を含有する硬化性樹脂組成物。
5)さらに芳香環を有さないエポキシ樹脂を含有する上記4)記載の硬化性樹脂組成物。
6)硬化剤が酸無水物系硬化剤である上記4),5)記載の硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の変性ポリシロキサンを用いた硬化性樹脂組成物は、エポキシ基を含有する置換基と多環脂環式炭化水素を含有する置換基の両方を有する変性ポリシロキサンを用いているため、耐光性に優れると共に高い耐熱性を有する。これを封止剤として用いて得られる光半導体装置は、半導体素子の特性低下が少なく信頼性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の変性ポリシロキサンは、平均組成式(1)に示す構造を有する。
【0013】
【化4】

【0014】
(但し、Rは水素基あるいは炭素数が1〜6の脂肪族炭化水素基、Rは化学式(2)あるいは化学式(3)で示される置換基、Rは炭素数が5〜20の脂環式炭化水素基である。RはR〜Rの何れかの基である。x,y,zはそれぞれ、0≦x≦50,1≦y≦50,1≦z≦50の整数である。)
化学式(2)
【0015】
【化5】

【0016】
化学式(3)
【0017】
【化6】

【0018】
(但しRは炭素数が1〜10,酸素数が0〜2の2価の有機基)
は具体的には水素基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等があげられる。好ましくはメチル基である。該置換基は1種類でも数種の混合でも良い。
は反応して架橋点となる置換基であり、具体的にはグリシジル基、エチニルグリシジルエーテル基、プロピレニルグリシジルエーテル基、エチニルシクロヘキセンオキシド基等があげられる。特にエチニルシクロヘキセンオキシド基が好ましい。該置換基は1種類でも数種の混合でも良い。yは硬化が十分にできる量あればよく2以上である事が好ましい。x、y、zの合計に対するyの比率は好ましくは5〜80%である。更に好ましくは10〜60%、一層好ましくは15〜50%、更に一層好ましくは20〜40%である。yの比率が5%以上有する事で、十分な低吸水性が得られ、また、硬化剤等との高い相溶性が得られる。一方、yの比率が80%以下で、高い耐クラック性が得られる。
【0019】
は耐熱性を付与する置換基であり、具体的には、ノルボルナニル基、ノルボルネニル基、ジシクロペンタジエニル基、エチニルデカヒドロナフタレン基等があげられる。特にノルボルナニル基が好ましい。該置換基は1種類でも数種の混合でも良い。zは耐熱性を向上させる効果が発現できる量あればよい。x、y、zの合計に対するzの比率は好ましくは5〜50%であり、更に好ましくは10〜40%一層好ましくは15〜30%である。zの比率が5%以上で高い耐熱性が得られ、一方、zの比率が50%以下で、高い耐光性が得られる。
は、具体的には−CH−、−CH−CH−、−O−CH−CH−、−CH−CH−O−、−CH−CH−CH−O−等が挙げられる。
【0020】
本発明の変性ポリシロキサンは従来周知の方法で合成する事ができる。具体的には、SiH基を含有するオルガノポリシロキサンにハイドロシリレーション反応によって置換基を導入する方法、オルガノハロシラン及びオルガノアルコキシシランを単独にあるいは混合して加水分解する方法や、さらに再平衡化重合する方法、環状オルガノシロキサンを開環重合する方法等があげられる。なかでもSiH基を含有するオルガノポリシロキサンにハイドロシリレーション反応によって置換基を導入する方法が簡便であり好ましい。以下、具体的にこの方法について述べる。
ハイドロシリレーション反応は、必要に応じて触媒の存在下、SiH基含有オルガノポリシロキサンに置換基となるビニル基を含有する不飽和化合物を段階的にあるいは一度に反応させる方法である。
【0021】
置換基となるビニル基を含有する不飽和化合物としては以下のものが挙げられる。
反応してRになる化合物としては、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ビニルシクロヘキセンオキシド等が挙げられる。
反応してRになる化合物としては、ノルボルネン、ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキセン、ビニルデカヒドロナフタレン等があげられる。
反応温度は特に制限はないが、反応の速度と収率の観点から10〜200℃、好ましくは30〜150℃、特に好ましくは、50〜120℃である。反応は無溶媒下でも進行するが溶媒を使用しても良い。溶媒として、ジオキサン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、酢酸ブチル等が使用される。
シロキサン骨格は本質的に耐光性を有する。しかしながら耐熱性をあげるために一般的に用いられるフェニル基を置換基として用いると、このフェニル基が耐光性を低下させてしまう。よって、これまでに耐光性と耐熱性に優れたポリシロキサンは提供されていなかった。本発明者らは、脂環式炭化水素基とエポキシ基を特定割合で導入した変性ポリシロキサンを硬化性樹脂組成物の一成分として使用することにより、上記の目的が達成されることを見出し本発明を完成した。
【0022】
本発明で使用されるエポキシ樹脂用硬化剤は、例えば、エチレンジアミン、トリエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、ダイマー酸変性エチレンジアミン、N−エチルアミノピペラジン、イソホロンジアミン等の脂肪族アミン類、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェノルスルホン、4,4’−ジアミノジフェノルメタン、4,4’−ジアミノジフェノルエーテル等の芳香族アミン類、メルカプトプロピオン酸エステル、エポキシ樹脂の末端メルカプト化合物等のメルカプタン類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、テトラフルオロビスフェノールA、ビフェノール、ジヒドロキシナフタレン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4−(1−(4−(1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル)フェニル)エチリデン)ビスフェノール、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、臭素化フェノールノボラック、臭素化ビスフェノールAノボラック等のフェノール樹脂類、これらフェノール樹脂類芳香環を水素化したポリオール類、ポリアゼライン酸無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物等の脂環式酸無水物類、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の芳香族酸無水物類、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類およびその塩類、上記脂肪族アミン類、芳香族アミン類、及び/またはイミダゾール類とエポキシ樹脂との反応により得られるアミンアダクト類、アジピン酸ジヒドラジド等のヒドラジン類、ジメチルベンジルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等の第3級アミン類、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類、ジシアンジアミド等が挙げられる。中でも酸無水物類が好ましく、より好ましくは、脂環式酸無水物類であり、特に好ましくは、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物である。
【0023】
硬化剤の使用量は変性ポリシロキサン100部に対して、任意に選択できるが、好ましくは、0.1〜200質量部である。より好ましくは0.2〜100質量部である。これらの硬化剤は単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
本発明の芳香環を有さないエポキシ樹脂とは、脂環式エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂等が挙げられる。芳香環を水添したエポキシ樹脂では、本質的に芳香環を有していない事が必須であり、このエポキシ樹脂の組成物への添加量にもよるが、その水添率が好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。また、その添加量は本発明の変性ポリシロキサンに対して100重量%以下であり、より好ましくは50重量%以下である。
【0024】
本発明の硬化性樹脂組成物は、上記成分以外に必要に応じて、硬化促進剤、染料、変性剤、変色防止剤等の従来公知の添加剤を適宜配合することができる。
硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の第3級アミン類、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類、トリフェニルホスホニウムブロマイド等のホスホニウム塩類、アミノトリアゾール類、オクチル酸錫、ジブチル錫ジラウレート等の錫系、オクチル酸亜鉛等の亜鉛系、アルミニウム、クロム、コバルト、ジルコニウム等のアセチルアセトナート等の金属触媒類等が用いられる。これらの硬化促進剤は単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いての光半導体素子の封止は、特に限定されることなく、通常の注型等の公知のモールド方法により行うことができる。
【実施例】
【0025】
本発明について、以下具体的に説明する。
評価方法は以下の通りとする。
透過率
厚さ2mmの硬化物を用いて、(株)島津製作所のUV−2500PCを用いて430nmの光透過率を測定した。
透過率保持率
厚さ2mmの硬化物に、高圧水銀ランプを用いて500時間紫外線を照射する。紫外線照射前後の430nmの光透過率を(株)島津製作所のUV−2500PCを用いて測定し、その保持率が80%以上を○とし、60〜80%を△、それ以下を×とした。
耐熱性
厚さ2mmの硬化物を150℃で10時間保持した時に軟化しないものを○とした。
本発明を実施例に基づいて説明する。
【0026】
[実施例1]
還流冷却器、温度計及び撹拌装置を有する1Lの反応器にメチルハイドロジェンシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー(旭化成ワッカーシリコーン社製:V58)100g、ジオキサン100gを入れ、撹拌下60℃に加熱した。これにジシクロペンタジエニル白金ジクロライドの0.5重量%ジオキサン溶液を0.45g添加した後、ノルボルネン(和光純薬株式会社製:試薬特級)の20重量%ジオキサン溶液165gを120分かけて滴下し、さらに60℃で1時間撹拌を続けた。これにジシクロペンタジエニル白金ジクロライドの0.5重量%ジオキサン溶液を0.2g追加添加した後、続けてビニルシクロヘキセンオキシド(ダイセル化学工業株式会社製:セロキサイド2000)の20重量%ジオキサン溶液217gを120分かけて滴下し、さらに60℃で1時間撹拌を続けた。
この反応液を加熱減圧下、溶媒等を留去することにより本発明の変性ポリシロキサン168gを得た。なお、各ステップで反応液をサンプリングし、アルカリで分解して水素ガスの発生を確認することにより、反応が定量的に進行している事を確認した。
【0027】
[参考例1]
実施例1で得られた変性ポリシロキサンとメチルヘキサヒドロ無水フタル酸をエポキシ基と無水カルボン酸が当量となるように混合し、変性ポリシロキサンに対して0.5重量%のナフテン酸コバルトを混合し、全体が均一になるまで撹拌して硬化性樹脂組成物を得た。この組成物を深さ2mmの型に流し込み、120℃で2時間、更に150℃で6時間硬化反応を行い、硬化物を得た。物性を表1に示す。
【0028】
[参考例2]
変性ポリシロキサンに対して10重量%の脂環式エポキシ樹脂である3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(東京化成株式会社製)を添加し、両方のエポキシ基に対して無水カルボン酸が当量となるように混合した以外は参考例1と同様にして硬化物を得た。物性を表1に示す。
【0029】
[参考例3]
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートのみを用いて、このエポキシ基に対して無水カルボン酸が当量となるように混合した以外は参考例1と同様にして硬化物を得た。物性を表1に示す。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の変性ポリシロキサンを用いた硬化性樹脂組成物は、エポキシ基を含有する置換基と多環脂環式炭化水素を含有する置換基の両方を有する変性ポリシロキサンを用いているため、耐光性に優れると共に高い耐熱性を有する。これを封止剤として用いて得られる光半導体装置は、半導体素子の特性低下が少なく信頼性が高い。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均組成式(1)
【化1】

(但し、Rは水素基あるいは炭素数が1〜6の脂肪族炭化水素基、Rは化学式(2)あるいは化学式(3)で示される置換基、Rは炭素数が5〜20の多環脂環式炭化水素基である。RはR〜Rの何れかの基である。x,y,zはそれぞれ、0≦x≦50,1≦y≦50,1≦z≦50の整数である。)
化学式(2)
【化2】

化学式(3)
【化3】

(但しRは炭素数が1〜10,酸素数が0〜2の2価の有機基)
で示される変性ポリシロキサン。
【請求項2】
x、y、zの合計に対するyの比率が5〜80%である請求項1記載の変性ポリシロキサン。
【請求項3】
x、y、zの合計に対するzの比率が5〜50%である請求項1記載の変性ポリシロキサン。

【公開番号】特開2008−63583(P2008−63583A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273871(P2007−273871)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【分割の表示】特願2002−321566(P2002−321566)の分割
【原出願日】平成14年11月5日(2002.11.5)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】