説明

変異型D−アミノトランスフェラーゼおよびこれを用いた光学活性グルタミン酸誘導体の製造方法

【課題】甘味度の高い(2R,4R)−モナティンの含有率が高いモナティンを効率よく生成できるD−アミノトランスフェラーゼを提供する。
【解決手段】特定の配列で示される野生型D−アミノトランスフェラーゼのアミノ酸配列のうち、(2R,4R)−モナティンを効率的に生成するために関与する部位(243位、244位)の少なくとも一箇所のアミノ酸残基を置換した変異型D−アミノトランスフェラーゼ;ならびに特定の配列で示される野生型D−アミノトランスフェラーゼおよび上記変異型D−アミノトランスフェラーゼを用いたモナティンの製造方法からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性グルタミン酸誘導体の製法に利用できるD−アミノトランスフェラーゼに関し、詳しくは、野生型D−アミノトランスフェラーゼをアミノ酸置換することにより、モナティン前駆体から(2R,4R)−モナティンを効率的に生成できるよう改変した変異型D−アミノトランスフェラーゼに関する。また、本発明は、当該変異型D−アミノトランスフェラーゼを用いて、モナティン及びその類縁体等のグルタミン酸誘導体の(2R、4R)体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記構造式(3)で示される4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−グルタミン酸(3−(1−アミノ−1,3−ジカルボキシ−3−ヒドロキシ−ブタン−4−イル)−インドール)(以下、「モナティン」と称する。)は、植物シュレロチトン イリシホリアス(Schlerochitom ilicifolius)の根に含有され、甘味強度が著しく高いことから、特に低カロリー甘味料として期待される化合物である(特許文献1参照)。
【0003】
【化1】

【0004】
上記モナティンは2つの不斉(2位、4位)が存在し、天然型の立体異性体は、(2S,4S)体と報告されていた。その他の立体異性体の存在についても、合成的に調製され3種の立体異性体の存在が確認され、何れもショ糖の数十倍から数千倍の甘味強度を有することが確かめられている(表1)。
【0005】
【表1】

【0006】
表1に示すように、天然型の(2S,4S)−モナティンのみならず、その他の立体異性体の何れもがそれぞれ高倍率の甘味強度を有しているが、特に(2R,4R)−モナティンは甘味度がショ糖の2700倍と著しく高く、甘味剤或いは甘味剤成分(甘味料)として最も期待される。従って、(2R,4R)−モナティンの含有率の高いモナティンを効率的に生成する方法の開発が望まれる。
【0007】
モナティンの製造方法については、過去に5例の報告が為されている。詳細は下記の先行技術文献である特許文献1〜3および非特許文献1〜5のうち、特許文献2および非特許文献1〜4に記載の通りである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭64−25757号公報
【特許文献2】米国特許第5994559号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開 0736604
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】テトラヘドロン レターズ(Tetrahedron Letters)、2001年、42巻、39号、6793〜6796頁
【非特許文献2】オーガニック レターズ(Organic Letters)、2000年、2巻、19号、2967〜2970頁
【非特許文献3】シンセティック コミュニケーション(Synthetic Communication)、1994年、24巻、22号、3197〜3211頁
【非特許文献4】シンセティック コミュニケーション(Synthetic Communication)、1993年、23巻、18号、2511〜2526頁
【非特許文献5】Taylor et al.、ジャーナル オブ バクテリオロジー(Journal ofBacteriol.)、1998年、180巻、16号、4319頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記文献には(2R,4R)−モナティンの立体選択的な製造方法については全く触れられておらず、また、何れの方法も多段階の工程を必要とすることから、工業的な実施が難しいのが現実である。
【0011】
かかるなか、本発明者らにより、酵素反応を利用して、下記式(4)に示すように4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸(以下、IHOG)からモナティンを製造する新たな方法が提案された。
【0012】
【化2】

【0013】
この方法は、モナティン前駆体(IHOG)の2位のアミノ化反応を触媒する酵素を利用して、IHOGからモナティンを製造するという新規な方法である。IHOGのアミノ化反応を触媒する酵素のひとつとしてアミノトランスフェラーゼが例示できるが、ここでD−アミノトランスフェラーゼを用いた場合は2R−モナティンを選択的に生成させることができ、L−アミノトランスフェラーゼを用いた場合は2S−モナティンを選択的に生成できる。すなわち、反応を触媒する酵素として、D−アミノトランスフェラーゼを選択することにより、D−アミノ酸供与体のアミノ基をIHOGの2位に転移して、高甘味度異性体である2R体を選択的に生成せしめることができる。
【0014】
IHOGを基質として2R−モナティンを生成する反応を触媒するD−アミノトランスフェラーゼとしては、本発明者らの研究によりBacillus属又はPaenibacillus属にその存在が確認されている。しかし、これらの微生物の産生するD−アミノトランスフェラーゼを用いても、(2R,4R)−モナティンの含有率が高いモナティンを効率よく生成することは困難であった。
【0015】
(2R,4R)−モナティンを効率的に生成できない理由のひとつとして、これらの微生物の産生するD−アミノトランスフェラーゼが、IHOGの4位の不斉を認識できないことが要因であると考えられる。すなわち、Bacillus属又はPaenibacillus属のD−アミノトランスフェラーゼを、IHOGの4位のラセミ混合物(以下、4R,S−IHOGと略す場合がある)に作用させた場合、4R−IHOG、4S−IHOGのいずれにも作用して(2R,4R)−モナティンおよび(2R,4S)−モナティンをほぼ等量の割合で生成してしまう。このため、これらの微生物の産生するD−アミノトランスフェラーゼを用いても4位に光学活性を有するモナティンを製造することはできなかった。
【0016】
また、もうひとつの理由として、モナティンの原料であるIHOGがpHに対して不安定な化合物であることが考えられる。本発明者らは、IHOGアミノ化反応液中でのIHOGの安定性を試験するために、IHOGアミノ化反応溶液の菌体無添加区でのIHOGの経時変化を測定した。100mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.3)、300mM 4R,S−IHOG、600mM DL−Ala、1mM ピリドキサール−5’−リン酸からなる反応液1mlを含む試験管を、37℃で40時間振とうし、反応を実施した。その結果、4R,S−IHOGの残存率は16時間後に81%、24時間後に70%、40時間後には57%にそれぞれ減少しており、IHOGが経時的に分解していることが明らかとなった。これは反応液中でIHOGから3−インドールピルビン酸とピルビン酸に分解する分解反応や、IHOGの環化反応が生じて、モナティンに変換される前にIHOGが消費されることが原因ではないかと推察される。すなわち、Bacillus属又はPaenibacillus属のD−アミノトランスフェラーゼによるアミノ化反応速度が必ずしも十分でないため、IHOGの一部が、アミノ化される前に分解反応や環化反応によってアミノ化不能の状態となり、このことが(2R,4R)−モナティンを効率的に生成できない理由のひとつとして考えられる。
【0017】
従って、モナティンのなかでも最も甘味度の高い(2R,4R)−モナティンを効率的に製造する方法の開発が求められている。
【0018】
本発明が解決しようとする課題は、モナティン及びその類縁体等のグルタミン酸誘導体の(2R,4R)−体を効率的に製造できるD−アミノトランスフェラーゼを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、Bacillus macerans由来のD−アミノトランスフェラーゼおよび Bacillus sphaericus由来のD−アミノトランスフェラーゼのアミノ酸配列において、(2R,4R)−モナティンを効率的に生成するために関与する部位を見出し、この特定部位のアミノ酸残基を置換することにより、(2R,4R)−モナティンを効率的に生成できるD−アミノトランスフェラーゼが得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに到った。
【0020】
また、本発明者らは、上記(2R,4R)−モナティンを効率的に生成するために関与する部位から、モナティン前駆体(IHOG)に対して4R体選択的に作用する部位、および、D−アミノトランスフェラーゼのアミノ基転移活性の向上に関与する部位をそれぞれ特定した。
【0021】
すなわち、本発明のD−アミノトランスフェラーゼは、野生型D−アミノトランスフェラーゼの一部のアミノ酸残基を置換することにより、(2R,4R)−モナティンを効率的に生成できるよう改変した変異型D−アミノトランスフェラーゼに関する。
【0022】
野生型D−アミノトランスフェラーゼは、IHOGの4位の不斉に対して光学選択性を有しないため、4R−IHOG、4S−IHOGのいずれにも作用して(2R,4R)−モナティンおよび(2R,4S)−モナティンをほぼ等量の割合で生成させる。しかし、本発明によれば、野生型D−アミノトランスフェラーゼの特定のアミノ酸残基を置換することにより野生型D−アミノトランスフェラーゼの基質特異性を変化させて4R−IHOGに選択的に作用するよう改変を加え、4R,S−IHOGから(2R,4R)−モナティンを選択的に生成させることにより、(2R,4R)−モナティンを効率的に生成せしめることができる。
【0023】
また、野生型D−アミノトランスフェラーゼはそのD−アミノトランスフェラーゼ活性が必ずしも十分でないため、IHOGの一部が、アミノ化される前に分解反応や環化反応によってアミノ化不能の状態となってしまい、(2R,4R)−モナティンの生成量低下の原因となっていたが、本発明では、野生型D−アミノトランスフェラーゼの特定のアミノ酸残基を置換してD−アミノトランスフェラーゼ活性を向上させることができる。これにより、IHOGの分解反応や環化反応の反応速度に対するアミノ化反応速度の比が向上するため、(2R,4R)−モナティンを効率的に生成せしめることができる。
【0024】
また、もう一つの本発明であるBacillus macerans由来のD−アミノトランスフェラーゼは、配列表配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する野生型のD−アミノトランスフェラーゼである。これまで、Bacillus macerans由来のD−アミノトランスフェラーゼのアミノ酸配列に関する報告は無く、本発明者らによりはじめて単離精製されそのアミノ配列及び塩基配列が明らかにされたものである。Bacillus macerans由来のD−アミノトランスフェラーゼは、2R−モナティンの製造に好適に使用できる。
【0025】
即ち、本発明は以下の通りである。
〔1〕 下記(A)または(B)のアミノ酸配列を有し、かつ、D−アミノトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
(A)配列表の配列番号2記載のアミノ酸配列
(B)配列表の配列番号2記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列
〔2〕 下記(A)または(B)のアミノ酸配列を有するとともに、D−アミノトランスフェラーゼ活性を有し、
配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質と比較して、4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸から生成する(2R、4R)−モナティンの生成量が向上することを特徴とするタンパク質。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列において、100位、180〜183位、243位、244位から選ばれる少なくとも一箇所にアミノ酸残基の置換を有するアミノ酸配列
(B)(A)のアミノ酸配列において、100位、180〜183位、243位、244位以外の箇所に、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列
〔3〕 下記(A)または(B)のアミノ酸配列を有し、かつ、4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸に対し、4R体選択的に作用して、(2R,4R)−モナティンを生成するD−アミノトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列において、下記(a)〜(e)から選ばれる少なくとも1個のアミノ酸残基の置換を有するアミノ酸配列
(a)181位のセリン残基の他のアミノ酸残基への置換
(b)182位のアラニン残基の他のアミノ酸残基への置換
(c)183位のアスパラギン残基の他のアミノ酸残基への置換
(d)243位のセリン残基の他のアミノ酸残基への置換
(e)244位のセリン残基の他のアミノ酸残基への置換
(B)(A)のアミノ酸配列において、181〜183位、243位、244位以外の箇所に、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列
〔4〕 前記(a)〜(e)の置換は、下記(a’)〜(e’)の置換であることを特徴とする、〔3〕記載のタンパク質。
(a’)181位のセリン残基のアスパラギン酸残基への置換
(b’)182位のアラニン残基のリシン残基、またはセリン残基への置換
(c’)183位のアスパラギン残基のセリン残基への置換
(d’)243位のセリン残基のグルタミン酸残基、ロイシン残基、リシン残基、アスパラギン残基、またはグルタミン残基への置換
(e’)244位のセリン残基のリシン残基への置換
〔5〕 下記(A)または(B)のアミノ酸配列を有するとともに、D−アミノトランスフェラーゼ活性を有し、
配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質と比較して、4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸から2R−モナティンを生成するD−アミノトランスフェラーゼ活性が高いことを特徴とするタンパク質。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列において、下記(a)〜(c)から選ばれる少なくとも1個のアミノ酸残基の置換を有するアミノ酸配列
(a)100位のアスパラギン残基の他のアミノ酸残基への置換
(b)181位のセリン残基の他のアミノ酸残基への置換
(c)182位のアラニン残基の他のアミノ酸残基への置換
(B)(A)のアミノ酸配列において、100位、181位および182位以外の箇所に、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列
〔6〕 前記(a)〜(c)の置換は、下記(a’)〜(c’)の置換であることを特徴とする、〔5〕記載のタンパク質。
(a’)100位のアスパラギン残基のアラニン残基への置換
(b’)181位のセリン残基のアラニン残基への置換
(c’)182位のアラニン残基のセリン残基への置換
〔7〕 配列番号2に示すアミノ酸配列において、下記(i)〜(vii)のいずれかから選ばれる置換を有するアミノ酸配列を有するタンパク質。
(i)243位のセリン残基のアスパラギン残基への置換
(ii)244位のセリン残基のリシン残基への置換
(iii)180位のセリン残基のアラニン残基への置換および243位のセリン残基のアスパラギン残基への置換
(iv)180位のセリン残基のアラニン残基への置換および244位のセリン残基のリシン残基への置換
(v)243位のセリン残基のアスパラギン残基への置換および244位のセリン残基のリシン残基への置換
(vi)100位のアスパラギン残基のアラニン残基への置換および243位のセリン残基のアスパラギン残基への置換
(vii)182位のアラニン残基のセリン残基への置換および243位のセリン残基のアスパラギン残基への置換
〔8〕 下記(A)または(B)のアミノ酸配列を有し、かつ、4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸に対し、4R体選択的に作用して、(2R,4R)−モナティンを生成するD−アミノトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
(A)配列番号4に示すアミノ酸配列において、下記(a)、(b)から選ばれる少なくとも1個のアミノ酸残基の置換を有するアミノ酸配列
(a)243位のセリン残基の他のアミノ酸残基への置換
(b)244位のセリン残基の他のアミノ酸残基への置換
(B)(A)のアミノ酸配列において、243位、244位以外の箇所に、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列
〔9〕 前記(a)、(b)の置換は、下記(a’)、(b’)の置換であることを特徴とする、〔8〕記載のタンパク質。
(a’)243位のセリン残基のリシン残基、またはアスパラギン残基への置換
(b’)244位のセリン残基のリシン残基への置換
〔10〕 〔2〕〜〔9〕のいずれか1項に記載のタンパク質、および、アミノ供与体の存在下で、下記一般式(1)
【0026】
【化3】

【0027】
(一般式(1)中、Rは、芳香環または複素環であり、当該芳香環または複素環は、さらにハロゲン原子、水酸基、炭素数3までのアルキル基、炭素数3までのアルコキシ基およびアミノ基の少なくとも1種を有していてもよい。)
で示されるケト酸から、下記一般式(2)
【0028】
【化4】

【0029】
(一般式(2)におけるRは、一般式(1)におけるRと同義である。)
で示される(2R、4R)体のグルタミン酸誘導体(塩の形態を含む)を生成することを特徴とする光学活性グルタミン酸誘導体の製造方法。
〔11〕 前記Rは、フェニル基またはインドリル基であることを特徴とする〔10〕記載の光学活性グルタミン酸誘導体の製造方法。
〔12〕 前記アミノ供与体は、アミノ酸であることを特徴とする〔10〕または〔11〕記載の光学活性グルタミン酸誘導体の製造方法。
〔13〕 反応系にL−アミノ酸をD−アミノ酸に変換する反応を触媒する活性を有する酵素、又は、当該酵素活性を有する微生物を含有することを特徴とする、〔12〕記載の光学活性グルタミン酸誘導体の製造方法。
〔14〕 下記(A)または(B)の塩基配列を有し、かつ、D−アミノトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(A)配列表の配列番号1記載の塩基配列
(B)配列表の配列番号1記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列
〔15〕 下記(A)または(B)のアミノ酸配列を有し、かつ、D−アミノトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(A)配列表の配列番号2記載のアミノ酸配列
(B)配列表の配列番号2記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列
〔16〕 下記(A)または(B)のアミノ酸配列を有するとともに、D−アミノトランスフェラーゼ活性を有し、
配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質と比較して、4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸から(2R、4R)−モナティンを生成するD−アミノトランスフェラーゼ活性が高いタンパク質をコードするDNA。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列において、100位、180〜183位、243位、244位から選ばれる少なくとも一箇所にアミノ酸残基の置換を有するアミノ酸配列
(B)(A)のアミノ酸配列において、100位、180〜183位、243位、244位以外の箇所に、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列
〔17〕 下記(A)または(B)のアミノ酸配列を有し、かつ、4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸に対し、4R体選択的に作用して、(2R,4R)−モナティンを生成するD−アミノトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(A)配列番号4に示すアミノ酸配列において、下記(a)、(b)から選ばれる少なくとも1個のアミノ酸残基の置換を有するアミノ酸配列
(a)243位のセリン残基の他のアミノ酸残基への置換
(b)244位のセリン残基の他のアミノ酸残基への置換
(B)(A)のアミノ酸配列において、243位、244位以外の箇所に、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列
〔18〕 〔14〕〜〔17〕のいずれか1項に記載のDNAとベクターDNAとを接続して得られることを特徴とする組換えDNA。
〔19〕 〔18〕記載の組換えDNAによって形質転換された細胞。
〔20〕 〔19〕記載の細胞を培地中で培養し、培地および/または細胞中にD−アミノトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質を蓄積させることを特徴とするD−アミノトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者らは、IHOGから2R−モナティンを生成する反応を触媒するBacillus属由来のD−アミノトランスフェラーゼのアミノ酸配列(配列表配列番号2)を決定し、研究を重ねた結果、配列表配列番号2に示されるアミノ酸配列のうち、100位、180〜183位、243位および244位が、(2R,4R)−モナティンを効率的に生成するために関与する部位であることを見出した。
【0031】
また、さらに研究を重ねた結果、(2R,4R)−モナティンを効率的に生成するために関与する部位のうち、181〜183位の領域と243〜244位がIHOGの4位の立体認識に関与しうる部位であり、また、100位、181位および182位がD−アミノトランスフェラーゼ活性の向上に関与しうる部位であることを明らかにした。さらに、180位は、4R体選択性にかかわる部位へのアミノ酸残基の置換と組み合わせることにより、D−アミノトランスフェラーゼ活性の低下を抑制できる部位であること明らかにした。
【0032】
以下、本発明について、
〔A〕変異型D−アミノトランスフェラーゼ
〔I〕変異型D−アミノトランスフェラーゼのアミノ酸配列
(i)変異型Bacillus macerans由来D−アミノトランスフェラーゼ
(ii)変異型Bacillus sphaericus由来D−アミノトランスフェラーゼ
〔II〕変異型D−アミノトランスフェラーゼの製造方法
(i)野生型D−アミノトランスフェラーゼ遺伝子の取得
(ii)変異型D−アミノトランスフェラーゼ遺伝子の調製
(iii)変異型D−アミノトランスフェラーゼ産生菌の作製・培養
〔B〕変異型D−アミノトランスフェラーゼを用いた(2R,4R)−グルタミン酸誘導体の製造方法
〔I〕D−アミノトランスフェラーゼ
〔II〕基質ケト酸
〔III〕アミノ供与体
〔IV〕反応条件
の順に詳細に説明する。
【0033】
〔A〕変異型D−アミノトランスフェラーゼ
本発明の変異型D−アミノトランスフェラーゼは、下記式(5)に示すIHOGから2R−モナティンを生成する反応を触媒するBacillus属由来のD−アミノトランスフェラーゼのアミノ酸残基の一部を置換したD−アミノトランスフェラーゼである。本発明の変異型D−アミノトランスフェラーゼは、(2R,4R)−モナティンを効率的に生成できるよう野生型D−アミノトランスフェラーゼの一部のアミノ酸残基を置換した点に特徴を有する。
【0034】
【化5】

【0035】
本願明細書において、「D−アミノトランスフェラーゼ」とは、D−アミノ酸供与体のアミノ基をIHOGに転移することによって2R−モナティンを生成する酵素を意味する。
【0036】
本発明の変異型D−アミノトランスフェラーゼは、(2R,4R)−モナティンを効率的に生成せしめるため改変を加えたものであり、(1)IHOGに対し4R体選択的に作用するよう改変を加えたものと、(2)D−アミノトランスフェラーゼ活性が向上するよう改変を加えたものに大別できる。勿論、IHOGに対し4R体選択的に作用し、且つ、D−アミノトランスフェラーゼ活性が向上するよう改変を加えたもの本発明の変異型D−アミノトランスフェラーゼに属する。
【0037】
ここで、(1)の「4R体選択的に作用する」とは、基質として4R、S−IHOGを用いてモナティンを生成させた場合、生成モナティンの総量に対し53%超の割合で4R−モナティンを生成させることを意味し、「4R体選択性」とは、4R体選択的に作用する性質を意味する。ここで、生成モナティンの総量に占める4R−モナティンの割合は、55%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0038】
また、本発明の変異型D−アミノトランスフェラーゼは、モナティン前駆体(IHOG)に対して4R体選択性を有するのみならず、下記一般式(1)に示すケト酸に対しても同様に4R体選択性を有する場合がある。
【0039】
【化6】

【0040】
(一般式(1)中、Rは、芳香環または複素環であり、当該芳香環または複素環は、さらにハロゲン原子、水酸基、炭素数3までのアルキル基、炭素数3までのアルコキシ基およびアミノ基の少なくとも1種を有していてもよい。)
【0041】
本来、野生型のD−アミノトランスフェラーゼは、モナティン前駆体であるIHOGの光学異性を区別できず、4S体、4R体のいずれにも作用して、(2R,4R)−モナティンおよび(2R,4S)−モナティンをほぼ等量の割合で生成させるが、(1)の変異型D−アミノトランスフェラーゼは、野生型のD−アミノトランスフェラーゼの一部のアミノ酸残基を置換させることにより基質特異性を変化させてIHOGに対して4R体選択的に作用するよう改変を加えたものであり、IHOGから(2R,4R)−モナティンを選択的に生成することを可能としたものである。
【0042】
また、(2)の「D−アミノトランスフェラーゼ活性が向上する」とは、野生型のD−アミノトランスフェラーゼと比較してD−アミノトランスフェラーゼ活性が向上すること、ひいては、IHOGから生成する2R−モナティンの生成量を増加させることを意味する。具体的には、配列番号2の場合について例示するとBacillus macerans由来D−アミノトランスフェラーゼと比較して、4R、S−IHOGから生成する2R−モナティンの生成量が増加していれば当該要件を満たすが、好ましくは、同一の反応条件下で反応させた場合、配列番号2に示すBacillus macerans由来D−アミノトランスフェラーゼの1.1倍、より好ましくは1.2倍、さらに好ましくは1.5倍、特に好ましくは2倍以上の2R−モナティンを生成することが好ましい。
【0043】
一般の酵素反応では、酵素活性が向上しても反応速度が向上するだけで生成物の生成量自体は変わらない。しかし、上述のように、モナティンの原料であるIHOGは不安定な化合物であり、反応液中でIHOGから3−インドールピルビン酸とピルビン酸に分解する分解反応や、IHOGの環化反応が起こっていると考えられるが、D−アミノトランスフェラーゼ活性を向上させることにより、IHOGの分解反応や環化反応の反応速度に対するアミノ化反応速度の比が向上し、(2R,4R)−モナティンを効率的に生成せしめることができる。ここで、D−アミノトランスフェラーゼによるアミノ化反応速度を簡便に測定する方法として、D−Alaとα−ケトグルタル酸を基質としたアミノ基転移活性を、反応進行に伴い生成するピルビン酸をlactate dehydrogenaseを用いて酵素的に定量することにより測定する方法を例示することができる。
【0044】
〔I〕変異型D−アミノトランスフェラーゼのアミノ酸配列
本発明の変異型D−アミノトランスフェラーゼのもととなる野生型D−アミノトランスフェラーゼとしては、IHOGから2R−モナティンを生成する反応を触媒するBacillus属由来のD−アミノトランスフェラーゼを使用できる。このようなD−アミノトランスフェラーゼとしては、Bacillus macerans由来D−アミノトランスフェラーゼや、Bacillus sphaericus由来D−アミノトランスフェラーゼを例示できる。
【0045】
以下、本発明の変異型D−アミノトランスフェラーゼについて、変異型Bacillus macerans由来D−アミノトランスフェラーゼと変異型Bacillus sphaericus由来D−アミノトランスフェラーゼにわけてそのアミノ酸配列について説明する。
【0046】
(I−1) 変異型Bacillus macerans由来D−アミノトランスフェラーゼ
野生型のBacillus maceransAJ1617由来D−アミノトランスフェラーゼは、配列表配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する。
【0047】
(1)4R体選択性にかかわる部位へのアミノ酸置換
配列表配列番号2記載のアミノ酸配列のうち、181〜183位の領域と243〜244位の領域がIHOGの4位の立体認識に関与しうる部位である。
【0048】
すなわち、配列表配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して、181〜183位、243〜244位のうち、少なくとも1箇所のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、IHOGに対して4R体選択的に作用するようにBacillus macerans由来D−アミノトランスフェラーゼを改変することができる。4R体選択性にかかわる部位へのアミノ酸置換は、1箇所でもよいし、2箇所以上行ってもよい。
【0049】
181位のセリン残基をアミノ酸置換する場合は、アスパラギン酸残基へ置換することが好ましい。また、182位のアラニン残基をアミノ酸置換する場合は、リシン残基、またはセリン残基へ置換することが好ましい。また、183位のアスパラギン残基をアミノ酸置換する場合は、セリン残基へ置換することが好ましい。また、243位のセリン残基をアミノ酸置換する場合は、グルタミン酸残基、ロイシン残基、リシン残基、アスパラギン残基、またはグルタミン残基へ置換することが好ましく、特にアスパラギン残基への置換することが好ましい。また、244位のセリン残基をアミノ酸置換する場合は、リシン残基へ置換することが好ましい。
【0050】
上記4R体選択性にかかわる部位のうち、特に、243位、244位へのアミノ酸置換は、4R体選択性を効果的に向上できる場合が多いので好ましい。また、243位と244位の両方のアミノ酸残基をアミノ酸置換すると、4R体選択性をより一層向上できるのでさらに好ましい。
【0051】
上述のように、配列番号2に示すアミノ酸配列において、181〜183位、243〜244位のうち、少なくとも1箇所のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、IHOGに対する4R体選択性を付与することができる。しかし、4R体選択性にかかわる部位以外の部位、すなわち、181〜183位、243位、244位以外の部位に1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列を有する場合であっても、IHOGに対し4R体選択的に作用して、(2R,4R)−モナティンを生成するD−アミノトランスフェラーゼ活性を有する場合は、本発明の変異型D−アミノトランスフェラーゼに該当する。
【0052】
ここで、「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造や、D−アミノトランスフェラーゼ活性、および、IHOGに対する4R体選択性を大きく損なわない範囲のものであり、具体的には、1〜50個、好ましくは1〜30個、さらに好ましくは1〜20個、とりわけ好ましくは1〜10個である。ただし、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を含むアミノ酸配列の場合には、30℃、pH8の条件下で配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質の3%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上のD−アミノトランスフェラーゼ活性を保持していることが望ましい。
【0053】
(2)D−アミノトランスフェラーゼ活性の向上に関与する部位への置換
配列表配列番号2記載のアミノ酸配列のうち、100位、181位および182位がD−アミノトランスフェラーゼ活性の向上に関与する部位である。
【0054】
すなわち、配列表配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して、100位、181位および182位のうち、少なくとも1箇所のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、D−アミノトランスフェラーゼ活性が向上するようにBacillus macerans由来D−アミノトランスフェラーゼを改変することができる。D−アミノトランスフェラーゼ活性の向上に関与する部位へのアミノ酸置換は、1箇所でもよいし、2箇所以上行ってもよい。
【0055】
100位のアスパラギン残基をアミノ酸置換する場合は、アラニン残基へ置換することが好ましい。181位のセリン残基をアミノ酸置換する場合は、アラニン残基へ置換することが好ましい。また、182位のアラニン残基をアミノ酸置換する場合は、セリン残基へ置換することが好ましい。
【0056】
上記D−アミノトランスフェラーゼ活性の向上に関与する部位のうち、特に、2箇所以上を組み合わせて置換すると、D−アミノトランスフェラーゼ活性をより一層向上できるのでさらに好ましい。
【0057】
上述のように、配列番号2に示すアミノ酸配列において、100位、181位および182位のうち、少なくとも1箇所のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、D−アミノトランスフェラーゼ活性を向上させることができる。しかし、当然ながら、D−アミノトランスフェラーゼ活性の向上に関与する部位以外の部位、すなわち、100位、181位および182位以外の部位に1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列を有する場合であっても、配列番号2に示すBacillus macerans由来D−アミノトランスフェラーゼと比較して、IHOGから2R−モナティンを生成するD−アミノトランスフェラーゼ活性が高い場合は、本発明の変異型D−アミノトランスフェラーゼに該当する。
【0058】
ここで、「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造や、D−アミノトランスフェラーゼ活性、および、IHOGに対する4R体選択性を大きく損なわない範囲のものであり、具体的には、1〜50個、好ましくは1〜30個、さらに好ましくは1〜20個、とりわけ好ましくは1〜10個である。ただし、1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を含むアミノ酸配列の場合には、30℃、pH8の条件下で配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質の100%超、好ましくは110%以上、より好ましくは120%以上、さらに好ましくは150%以上、特に好ましくは200%以上のD−アミノトランスフェラーゼ活性を保持していることが望ましい。
【0059】
(3)(2R,4R)−モナティンを効率的に生成できるD−アミノトランスフェラーゼ
本発明においては、上記(1)で説明した4R体選択性にかかわる部位、(2)で説明したD−アミノトランスフェラーゼ活性の向上に関与する部位の少なくとも一方の部位のアミノ酸残基を置換することによって、IHOGから生成する(2R,4R)−モナティンの生成量が向上するD−アミノトランスフェラーゼを調整することが好ましい。
【0060】
「IHOGから生成する(2R,4R)−モナティンの生成量が向上する」とは、野生型のD−アミノトランスフェラーゼと比較して、IHOGから生成する(2R,4R)−モナティンの生成量が向上することを意味する。具体的には、配列番号2の場合について例示すると、Bacillus macerans由来D−アミノトランスフェラーゼと比較して、同一条件下で反応させた場合、4R,S−IHOGから生成する(2R,4R)−モナティンの生成量が増加していれば、当該要件を満たすが、好ましくは、配列番号2に示すBacillus macerans由来D−アミノトランスフェラーゼの1.1倍、より好ましくは1.2倍、さらに好ましくは1.5倍、特に好ましくは2倍以上の(2R,4R)−モナティンの生成量向上がみられることが好ましい。
【0061】
ここで、D−アミノトランスフェラーゼによるアミノ化反応速度を簡便に測定する方法として、D−Alaとα−ケトグルタル酸を基質としたアミノ基転移活性を、反応進行に伴い生成するピルビン酸をlactate dehydrogenaseを用いて酵素的に定量することにより、測定することができる。
【0062】
(2R,4R)−モナティンを効率的に生成できるD−アミノトランスフェラーゼを作製するため、上記(1)で説明した4R体選択性にかかわる部位へのアミノ酸置換と、上記(2)で説明したD−アミノトランスフェラーゼ活性の向上に関与する部位へのアミノ酸置換とを組み合わせて行うことが好ましい。
【0063】
上記(1)で説明した4R体選択性にかかわる部位、および(2)で説明したD−アミノトランスフェラーゼ活性の向上に関与する部位の一方のみにアミノ酸置換を導入すると、酵素としてのバランスが低下する場合がある。すなわち、4R体選択性にかかわる部位のみにアミノ酸置換を導入すると、4R体選択性は向上するものの、D−アミノトランスフェラーゼ活性が低下(生成する2R−モナティンの収率が低下)したり、これとは逆に、D−アミノトランスフェラーゼ活性の向上に関与する部位だけにアミノ酸置換を導入すると、4R体選択性が低下することがある。しかし、これらの置換部位を適宜組み合わせることにより、4R体選択性およびD−アミノトランスフェラーゼ活性の全体的なバランスの高いD−アミノトランスフェラーゼを作製することができる。
【0064】
具体的には、100位または182位への置換と、243位への置換を組み合わせることが好ましい。これにより、4R体選択性およびD−アミノトランスフェラーゼ活性が高い変異型D−アミノトランスフェラーゼを作製できる。
【0065】
また、4R体選択性にかかわる部位へのアミノ酸残基の置換と併せて180位を置換すると、D−アミノトランスフェラーゼ活性の低下を抑制できる場合があるので好ましい。この場合、180位のセリン残基をアラニン残基へ置換することが好ましい。180位への変異の導入は、4R体選択性にかかわる部位へのアミノ酸置換と組み合わせることにより、生成モナティンの収率を向上できる場合がある。特に、243位および/または244位のアミノ酸置換と180位のアミノ酸置換を組み合わせることが好ましい。
【0066】
上述のように、配列番号2に示すアミノ酸配列において、100位、180〜183位、243位および244位のうち、少なくとも1箇所のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、(2R,4R)−モナティンを効率的に生成可能な変異型D−アミノトランスフェラーゼを作製することができる。しかし、当然ながら、(2R,4R)−モナティンを効率的に生成可能な変異に関与する部位以外の部位、すなわち、100位、180〜183位、243位および244位以外の部位に1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列を有する場合であっても、配列番号2に示すBacillus macerans由来D−アミノトランスフェラーゼと比較して、4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸から(2R、4R)−モナティンを生成するD−アミノトランスフェラーゼ活性が高い場合は、本発明の変異型D−アミノトランスフェラーゼに該当する。
【0067】
ここで、「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造や、D−アミノトランスフェラーゼ活性、および、IHOGに対する4R体選択性を大きく損なわない範囲のものであり、具体的には、1〜50個、好ましくは1〜30個、さらに好ましくは1〜20個、とりわけ好ましくは1〜10個である。ただし、1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を含むアミノ酸配列の場合には、30℃、pH8の条件下で、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質と比較して、4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸から(2R、4R)−モナティンを生成するD−アミノトランスフェラーゼ活性が100%超、好ましくは110%以上、より好ましくは120%以上、さらに好ましくは150%以上、特に好ましくは200%以上であることが望ましい。
【0068】
(I−2) 変異型Bacillus sphaericus由来D−アミノトランスフェラーゼ
野生型のBacillus sphaericusATCC10208由来D−アミノトランスフェラーゼは、配列表配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する。Bacillus sphaericus由来D−アミノトランスフェラーゼ遺伝子については、特許文献2、及び、非特許文献5に報告がある。前述のように、Bacillus sphaericusATCC10208由来D−アミノトランスフェラーゼは、Bacillus macerans由来D−アミノトランスフェラーゼと共通する243位、244位に4R体選択性にかかわる部位を有すると予測されている。
【0069】
すなわち、配列表配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して、243位、244位のうち、少なくとも1箇所のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、IHOGに対して4R体選択的に作用するようにD−アミノトランスフェラーゼを改変することができる。4R体選択性にかかわる部位へのアミノ酸置換は、1箇所でもよいし、2箇所行ってもよい。
【0070】
243位のセリン残基をアミノ酸置換する場合は、リシン残基、またはアスパラギン残基へ置換することが好ましい。また、244位のセリン残基をアミノ酸置換する場合は、リシン残基へ置換することが好ましい。
【0071】
上述のように、本発明の変異型Bacillus sphaericus由来D−アミノトランスフェラーゼは、配列番号4に示すアミノ酸配列において、243位、244位のうち、少なくとも1箇所のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、IHOGに対する4R体選択性を付与したものである。しかし、当然ながら、これらの変異型Bacillus sphaericus由来D−アミノトランスフェラーゼの4R体選択性にかかわる部位(243位、244位等)以外の部位に1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列を有する場合であっても、IHOGに対し4R体選択的に作用して、(2R,4R)−モナティンを生成するD−アミノトランスフェラーゼ活性を有する場合は、本発明の変異型D−アミノトランスフェラーゼに該当する。
【0072】
ここで、「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造や、D−アミノトランスフェラーゼ活性、および、IHOGに対する4R体選択性を大きく損なわない範囲のものであり、具体的には、1〜50個、好ましくは1〜30個、さらに好ましくは1〜20個、とりわけ好ましくは1〜10個である。ただし、配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を含むアミノ酸配列の場合には、30℃、pH8の条件下で配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質の3%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上のD−アミノトランスフェラーゼ活性を保持していることが望ましい。
【0073】
以上、本発明の変異型D−アミノトランスフェラーゼについて、変異型Bacillus macerans由来D−アミノトランスフェラーゼと変異型Bacillus sphaericus由来D−アミノトランスフェラーゼに分けて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。すなわち、IHOGから2R−モナティンを生成する反応を触媒する他のBacillus属に由来するD−アミノトランスフェラーゼであっても、Bacillus maceransやBacillus sphaericusで説明した(2R,4R)−モナティンを効率的に生成するために関与する部位(100位、180〜183位、243〜244位)に相当する部位をアミノ酸置換することにより、IHOGから(2R,4R)−モナティンを効率的に生成するように改変された場合は、本発明の変異型D−アミノトランスフェラーゼに該当する。
【0074】
〔II〕変異型D−アミノトランスフェラーゼの製造方法
本発明の変異型D−アミノトランスフェラーゼは、IHOGから2R−モナティンを生成する反応を触媒する野生型のD−アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子に、(2R,4R)−モナティンを効率的に生成するために関与する部位のアミノ酸残基がアミノ酸置換されるような変異を導入した変異型D−アミノトランスフェラーゼ遺伝子を作製し、同変異型遺伝子を適当な宿主を用いて発現させることによって製造することができる。
【0075】
また、変異型D−アミノトランスフェラーゼを産生する変異株から取得した変異型D−アミノトランスフェラーゼ遺伝子を適当な宿主を用いて発現させることによっても、製造することができる。
【0076】
(II−1)野生型D−アミノトランスフェラーゼ遺伝子の取得
IHOGから2R−モナティンを生成する反応を触媒するD−アミノトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードする構造遺伝子を含むDNA断片は、当該酵素活性を有する微生物等の細胞からクローニングすることができる。
【0077】
IHOGから2R−モナティンを生成する反応を触媒するD−アミノトランスフェラーゼ活性を有する細菌としては、Bacillus属に属する細菌が挙げられる。より具体的には以下のような菌株を挙げることができる。
バチルス マセランス Bacillus macerans AJ1617;
バチルス スフェリカス Bacillus sphaericus ATCC10208;
バチルス プルビファシエンス Bacillus pulvifaciens AJ1327;
バチルス レンタス Bacillus lentus AJ12699;
バチルス レンタス Bacillus lentus ATCC 10840
【0078】
尚、バチルス マセランス Bacillus macerans AJ1617については下記の通り寄託されている。
(i)寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)、
(ii)寄託日:平成13年12月13日
(iii)寄託番号:FERM BP−8243(平成13年12月13日に寄託されたFERM P−18653より平成14年11月22日に国際寄託へ移管)
【0079】
このうち、Bacillus macerans、Bacillus sphaericus が好ましく、特にBacillus macerans AJ1617、Bacillus sphaericus ATCC10208が好ましい。
【0080】
Bacillus macerans AJ1617株由来D−アミノトランスフェラーゼをコードするDNAを配列表の配列番号1に示す。また、バチルス スフェリカス Bacillus sphaericus ATCC10208株由来D−アミノトランスフェラーゼをコードするDNAを配列表の配列番号3に示す。
【0081】
Bacillus macerans AJ1617株由来D−アミノトランスフェラーゼ遺伝子は、Bacillus sphaericus ATCC10208株由来のD−アミノトランスフェラーゼ遺伝子とアミノ酸配列において91%、塩基配列において83.6%の相同性を、Bacillus sp. YM−1株由来のD−アミノトランスフェラーゼ遺伝子とアミノ酸配列において66%の相同性を、Bacillus licheniformis ATCC10716株由来のD−アミノトランスフェラーゼ遺伝子とアミノ酸配列において42%の相同性を有する(ここでの相同性は、遺伝子解析ソフト「genetyx ver.6」(GENETYX社)を用い、各種パラメータは初期設定の通りとして算出した値である)。
【0082】
なお、配列表配列番号1に記載のBacillus macerans AJ1617株由来のD−アミノトランスフェラーゼDNAは、本発明者らによりはじめて塩基配列が明らかにされたものであり、本発明に属する。また、当然ながら、配列表配列番号1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、D−アミノトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明に属する。ここで「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば85%超、好ましくは90%超、特に好ましくは95%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件(ここでいう相同性(homology)は、比較する配列間において一致する塩基の数が最大となるような並べ方にして演算された値であることが望ましい)、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である37℃、0.1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、さらに好ましくは65℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当するに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件があげられる。ただし、配列表の配列番号1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列の場合には、30℃、pH8の条件下で配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質の10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上のD−アミノトランスフェラーゼ活性を保持していることが望ましい。
【0083】
また、配列表の配列番号2に、配列表の配列番号1の塩基配列がコードするBacillus macerans AJ1617株由来D−アミノトランスフェラーゼのアミノ酸配列を示す。配列表の配列番号2は、配列表の配列番号1記載の塩基配列のうち、塩基番号630〜1481の塩基配列がコードするD−アミノトランスフェラーゼのアミノ酸配列である。Bacillus macerans AJ1617株由来D−アミノトランスフェラーゼのアミノ酸配列は、本発明者らによりはじめて明らかにされたものであり、やはり本発明に属する。また当然ながら、配列表の配列番号2において1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列を有する場合であっても、D−アミノトランスフェラーゼ活性を有する場合は、本発明のBacillus macerans由来D−アミノトランスフェラーゼに該当する。ここで、「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造や、D−アミノトランスフェラーゼ活性を大きく損なわない範囲のものであり、具体的には、1〜20個、好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個である。ここで、「D−アミノトランスフェラーゼ活性」とは、D−アミノ酸供与体のアミノ基をIHOGに転移することによって2R−モナティンを生成する活性を意味する。ただし、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を含むアミノ酸配列の場合には、30℃、pH8の条件下で配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質の10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上のD−アミノトランスフェラーゼ活性を保持していることが望ましい。
【0084】
次に、D−アミノトランスフェラーゼ産生菌から野生型D−アミノトランスフェラーゼをコードするDNAを取得する方法について説明する。
【0085】
はじめに、精製されたD−アミノトランスフェラーゼのアミノ酸配列を決定する。この際、エドマン法(Edman,P.、Acta Chem. Scand.、1950年、 4、227頁)を用いてアミノ酸配列を決定することができる。またApplied Biosystems社製のシークエンサーを用いてアミノ酸配列を決定することができる。
【0086】
明らかとなったアミノ酸配列に基づいて、これをコードするDNAの塩基配列を演繹できる。DNAの塩基配列を演繹するには、ユニバーサルコドンを採用する。
【0087】
演繹された塩基配列に基づいて、30塩基対程度のDNA分子を合成する。該DNA分子を合成する方法はテトラヘドロン レターズ(Tetrahedron Letters)、1981年、22、1859頁に開示されている。また、Applied Biosystems社製のシンセサイザーを用いて該DNA分子を合成できる。該DNA分子は、D−アミノトランスフェラーゼをコードするDNA全長を、D−アミノトランスフェラーゼ産生菌染色体遺伝子ライブラリーから単離する際に、プローブとして利用できる。あるいは、本発明のD−アミノトランスフェラーゼをコードするDNAをPCR法で増幅する際に、プライマーとして利用できる。ただし、PCR法を用いて増幅されるDNAはD−アミノトランスフェラーゼをコードするDNA全長を含んでいないので、PCR法を用いて増幅されるDNAをプローブとして用いて、D−アミノトランスフェラーゼをコードするDNA全長をD−アミノトランスフェラーゼ産生菌染色体遺伝子ライブラリーから単離する。
【0088】
PCR法の操作については、White,T.J.et al.,トレンズ ジェネティックス 5(Trends Genet.5),1989年、185頁等に記載されている。染色体DNAを調製する方法、さらにDNA分子をプローブとして用いて、遺伝子ライブラリーから目的とするDNA分子を単離する方法については、モレキュラー クローニング 第2版(Molecular Cloning,2nd edition),Cold Spring Harbor press、1989年等に記載されている。
【0089】
単離されたD−アミノトランスフェラーゼをコードするDNAの塩基配列を決定する方法は、ア プラクティカル ガイド トゥ モレキュラー クローニング(A Practical Guide to Molecular Cloning)、John Wiley & Sons,Inc.、1985年に記載されている。また、Applied Biosystems社製のDNAシークエンサーを用いて、塩基配列を決定することができる。
【0090】
(II−2)変異型D−アミノトランスフェラーゼ遺伝子の調製
上記のD−アミノトランスフェラーゼ産生菌から得られる野生型D−アミノトランスフェラーゼは、モナティン前駆体であるIHOGの光学異性を区別できず、4S体、4R体のいずれのIHOGにも作用して、(2R,4R)−モナティンおよび(2R,4S)−モナティンをほぼ等量の割合で生成させてしまい、また、IHOGの分解反応、環化反応の反応速度に対してアミノ化反応速度が必ずしも十分でないので、(2R,4R)−モナティンを効率的に生成するために関与する部位に人為的に変異を起こさせ、IHOGから(2R,4R)−モナティンを効率的に生成するように改変する。
【0091】
DNAの目的部位に目的の変異を起こす部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi,R.,イン PCR テクノロジー(in PCR technology)、61、Erlich,H.A.Eds.,Stockton press、1989年、Carter,P.,メソッド イン エンザイモロジー(Meth.in Enzymol.),1987年、154、382頁)、ファージを用いる方法(Kramer,W.and Frits,H.J.,メソッド イン エンザイモロジー(Meth.in Enzymol.)1987年、154、350頁、Kunkel,T.A.et al.,メソッド イン エンザイモロジー(Meth.in Enzymol.),1987年、154,367頁)などがある。
【0092】
IHOGから(2R,4R)−モナティンを効率的に生成するように改変されたD−アミノトランスフェラーゼDNAの具体例としては、下記のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAを例示できる。
(1)配列番号2に示すアミノ酸配列において、100位のアスパラギン残基のアラニン残基への置換を有するアミノ酸配列
(2)配列番号2に示すアミノ酸配列において、181位のセリン残基のアスパラギン酸残基への置換を有するアミノ酸配列
(3)配列番号2に示すアミノ酸配列において、182位のアラニン残基のリシン残基への置換を有するアミノ酸配列
(4)配列番号2に示すアミノ酸配列において、182位のアラニン残基のセリン残基への置換を有するアミノ酸配列
(5)配列番号2に示すアミノ酸配列において、183位のアスパラギン残基のセリン残基への置換を有するアミノ酸配列
(6)配列番号2に示すアミノ酸配列において、243位のセリン残基のグルタミン酸残基への置換を有するアミノ酸配列
(7)配列番号2に示すアミノ酸配列において、243位のセリン残基のロイシン残基への置換を有するアミノ酸配列
(8)配列番号2に示すアミノ酸配列において、243位のセリン残基のリシン残基への置換を有するアミノ酸配列
(9)配列番号2に示すアミノ酸配列において、243位のセリン残基のアスパラギン残基への置換を有するアミノ酸配列
(10)配列番号2に示すアミノ酸配列において、243位のセリン残基のグルタミン残基への置換を有するアミノ酸配列
(11)配列番号2に示すアミノ酸配列において、244位のセリン残基のリシン残基への置換を有するアミノ酸配列
(12)配列番号2に示すアミノ酸配列において、180位のセリン残基のアラニン残基への置換および243位のセリン残基のアスパラギン残基への置換を有するアミノ酸配列
(13)配列番号2に示すアミノ酸配列において、180位のセリン残基のアラニン残基への置換および244位のセリン残基のリシン残基への置換を有するアミノ酸配列
(14)配列番号2に示すアミノ酸配列において、243位のセリン残基のアスパラギン残基への置換および244位のセリン残基のリシン残基への置換を有するアミノ酸配列
(15)100位のアスパラギン残基のアラニン残基への置換および181位のセリン残基のアラニン残基への置換
(16)100位のアスパラギン残基のアラニン残基への置換および182位のアラニン残基のセリン残基への置換
(17)181位のセリン残基のアラニン残基への置換および182位のアラニン残基のセリン残基への置換
(18)配列番号2に示すアミノ酸配列において、100位のアスパラギン残基のアラニン残基への置換および243位のセリン残基のアスパラギン残基への置換を有するアミノ酸配列
(19)配列番号2に示すアミノ酸配列において、182位のアラニン残基のセリン残基への置換および243位のセリン残基のアスパラギン残基への置換を有するアミノ酸配列
(20)配列番号4に示すアミノ酸配列において、243位のセリン残基のリシン残基への置換を有するアミノ酸配列
(21)配列番号4に示すアミノ酸配列において、243位のセリン残基のアスパラギン残基への置換を有するアミノ酸配列
(22)配列番号4に示すアミノ酸配列において、244位のセリン残基のリシン残基への置換を有するアミノ酸配列
【0093】
上記(1)〜(22)のアミノ酸配列に基づいて、これをコードするDNAを演繹するには、DNAの塩基配列ユニバーサルコドンを採用すればよい。
【0094】
また、これらの変異型D−アミノトランスフェラーゼの4R体選択性にかかわる部位以外の部位、すなわち、(1)〜(22)において置換した部位以外の部位に1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(2R,4R)−モナティンを効率的に生成できるD−アミノトランスフェラーゼ活性を有する変異型D−アミノトランスフェラーゼをコードするDNAも例示できる。ここで、「1若しくは数個」の定義は、〔I〕変異型D−アミノトランスフェラーゼのアミノ酸配列の項で説明した場合と同じである。
【0095】
また、当然ながら、(1)〜(22)のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、IHOGから(2R,4R)−モナティンを効率的に生成するD−アミノトランスフェラーゼ活性を有する変異型D−アミノトランスフェラーゼをコードするDNAも例示できる。ここで「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば85%超、好ましくは90%超、特に好ましくは95%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件(ここでいう相同性(homology)は、比較する配列間において一致する塩基の数が最大となるような並べ方にして演算された値であることが望ましい)、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である37℃、0.1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、さらに好ましくは65℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当するに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件があげられる。ただし、配列表の配列番号1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列の場合には、30℃、pH8の条件下で配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質の3%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上のD−アミノトランスフェラーゼ活性を保持していることが望ましい。
【0096】
従って、これらの変異型D−アミノトランスフェラーゼをコードするように、上記の部位特異的変異法により、野生型遺伝子の特定の部位において塩基の置換を行えばよい。
【0097】
(II−3)変異型D−アミノトランスフェラーゼ産生菌の作製・培養
上記のようにして得られる変異型D−アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子を含むDNA断片は、適当なベクターに再度組換えて宿主細胞に導入させることにより、変異型D−アミノトランスフェラーゼを発現した組換え菌を得ることができる。
【0098】
尚、組み換えDNA技術を利用して酵素、生理活性物質等の有用タンパク質を製造する例は数多く知られており、組み換えDNA技術を用いることで、天然に微量に存在する有用タンパク質を大量生産できる。組み込まれる遺伝子としては、(ii)変異型D−アミノトランスフェラーゼ遺伝子の調製の項で説明した遺伝子が挙げられる。
【0099】
組み換えDNA技術を用いてタンパク質を大量生産する場合、形質転換される宿主細胞としては、細菌細胞、放線菌細胞、酵母細胞、カビ細胞、植物細胞、動物細胞等を用いることができる。このうち、組換えDNA操作について知見のある微生物としてはBacillus、Pseudonomas、Brevibacterium、Corynebacterium、Streptomyces、及びEscherichia coli等が挙げられる。一般には、腸内細菌を用いてタンパク質を大量生産する技術について数多くの知見があるため、腸内細菌、好ましくはEschelichia coliが用いられる。
【0100】
これら微生物へは、目的とするアミノ基転移酵素遺伝子を塔載したプラスミド、ファージ等のベクターを用いて導入してもよいし、相同組換えによって該細胞の染色体上に目的遺伝子を組み込んでもよい。好ましくは、いわゆるマルチコピー型のプラスミドベクターが挙げられ、例えばEscherichia coliへのベクターとしてはCol E1由来の複製開始点を有するプラスミド、例えばpUC系のプラスミドやpBR322系のプラスミド、或いはその誘導体が挙げられる。これらベクターには目的とするアミノ基転移酵素遺伝子を発現させるプロモーターとして、通常大腸菌においてタンパク質生産に用いられるプロモーターを使用することができ、例えば、T7プロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター、PLプロモーター等の強力なプロモーターが挙げられる。また、生産量を増大させるためには、タンパク質遺伝子の下流に転写終結配列であるターミネーターを連結することが好ましい。このターミネーターとしては、T7ターミネーター、fdファージターミネーター、T4ターミネーター、テトラサイクリン耐性遺伝子のターミネーター、大腸菌trpA遺伝子のターミネーター等が挙げられる。また、形質転換体を選別するために、該ベクターはアンピシリン耐性遺伝子等のマーカーを有することが好ましく、このようなプラスミドとして、例えば、pUC系(宝酒造(株)製)、pPROK系(クローンテック製)、pKK233−2(クローンテック製)等のように強力なプロモーターを持つ発現ベクターが市販されている。
【0101】
なお、本発明の変異型D−アミノトランスフェラーゼは、上述のようにD−アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子を直接変異させることによって得られる変異型遺伝子を発現させることによって得られるが、D−アミノトランスフェラーゼを産生する微生物(例えばBacillus属)を、紫外線照射またはN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)等の通常人工突然変異に用いられている変異剤により処理し、IHOGから(2R、4R)体を効率的に生成するように改変された変異型D−アミノトランスフェラーゼを産生するようになった変異株を培養することによっても得ることができる。
【0102】
次に、本発明における微生物の培養方法について説明する。ここでの用語「微生物」とは、本発明の変異型D−アミノトランスフェラーゼを発現した遺伝子組換え細胞の培養、変異型D−アミノトランスフェラーゼを産生するようになった変異株の培養の両方を意味する。また、ここで説明する培養条件は、微生物に変異型D−アミノトランスフェラーゼを産生させこれを取得するための培養と、微生物を培養して変異型D−アミノトランスフェラーゼを産生させながら同時にグルタミン酸誘導体を生成する反応を行う場合の培養の両方に適用できる。
【0103】
本発明における微生物の培養方法としては、通常この分野において用いられる培地、即ち炭素源、窒素源、無機塩類、微量金属塩類、ビタミン類等を含む培地を用いて行うことができる。また、微生物の種類或いは培養条件によっては、培地中に0.1〜1.0g/dl程度のアミノ酸等のアミノ化合物を添加することによって、アミノ基転移反応活性を促進することもできる。
【0104】
遺伝子組換え細胞を培養する場合は、ベクターの選択マーカーに対応してアンピシリン、カナマイシン、ネオマイシン、クロラムフェニコール等の薬剤を適宜添加することもできる。また、ベクターに塔載されているプロモーターに合わせて、誘導剤を適量添加することによって該組換え遺伝子の発現量を上げることもできる。一例を挙げると、lacプロモーターの下流に目的とする遺伝子を連結してベクターを構築した場合は、イソプロピル1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG)を終濃度0.1mM〜5mMの範囲で適宜添加することも可能であり、また、この代りとしてガラクトースを終濃度0.1〜5g/dl望ましくは0.5g/dl〜2g/dl適宜添加することもできる。
【0105】
培養温度は、通常、利用する微生物が生育する範囲内、即ち10〜45℃で行われるが、好ましくは20℃〜40℃、更に好ましくは25〜37℃の範囲である。また、培地のpH値については、好ましくは2〜12、より好ましくは3〜10、更に好ましくは4〜8の範囲で調節される。通気条件については、利用する微生物の生育に適した条件に設定されるが、好気条件が好ましい。培養時間については、通常12〜120時間、好ましくは24〜96時間程度である。
【0106】
〔B〕変異型D−アミノトランスフェラーゼを用いた(2R,4R)−グルタミン酸誘導体の製造方法
本発明の光学活性グルタミン酸誘導体の製造方法は、IHOGに作用して(2R,4R)−モナティンを生成するD−アミノトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質、および、アミノ供与体の存在下で、下記一般式(1)
【0107】
【化7】

【0108】
(一般式(1)中、Rは、芳香環または複素環であり、当該芳香環または複素環は、さらにハロゲン原子、水酸基、炭素数3までのアルキル基、炭素数3までのアルコキシ基およびアミノ基の少なくとも1種を有していてもよい。)
で示されるケト酸から、下記一般式(2)
【0109】
【化8】

【0110】
(一般式(2)におけるRは、一般式(1)におけるRと同義である。)
で示されるグルタミン酸誘導体(塩の形態を含む)の(2R、4R)体を生成することを特徴とする。
【0111】
〔I〕D−アミノトランスフェラーゼ
本発明の光学活性グルタミン酸誘導体の製造方法において、「IHOGに作用して(2R,4R)−モナティンを生成するD−アミノトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質」としては、〔A〕変異型D−アミノトランスフェラーゼの項で説明した本発明の変異型D−アミノトランスフェラーゼを用いる。
【0112】
本発明の光学活性グルタミン酸誘導体の製造方法においては、当該D−アミノトランスフェラーゼの存在下で反応を進行させるため、基質としてSR体のケト酸を用いた場合、効率よく(2R、4R)体のグルタミン酸誘導体を生成させることができる。
【0113】
ここで、「D−アミノトランスフェラーゼの存在下で」とは、一般式(1)で示されるケト酸から一般式(2)のグルタミン酸誘導体を生成できる状態で、D−アミノトランスフェラーゼを反応系に存在させることを意味する。即ち、一般式(1)で示されるケト酸を一般式(2)のグルタミン酸誘導体に変換できる限りはいかなる形態でD−アミノトランスフェラーゼを反応系に存在させてもよく、例えば、D−アミノトランスフェラーゼを単体で反応系に添加してもよいし、当該酵素活性を有する微生物(組み換えDNAによって形質転換された細胞、変異株)、該微生物の培養物(液体培養、固体培養等)、培地(培養物から菌体を除去したもの)、該培養物の処理物を反応系に添加してもよい。微生物の培養物を用いる場合は、微生物を培養させながら同時に反応を進行させてもよいし、予め酵素を得るために培養された培養物を用いて反応を行っても良い。また、ここでの「処理」とは、菌体内の酵素を取り出すことを目的として行う処理を意味し、例えば超音波、ガラスビーズ、フレンチプレス、凍結乾燥処理や溶菌酵素、有機溶剤、界面活性剤等による処理等が挙げられる。また、これ等の処理を行った処理物を、定法(液体クロマトグラフィーや硫安分画等)によって調製した粗分画酵素や精製酵素であって、必要とする能力を有するものであれば、これを用いてもよい。
【0114】
例えば、組み換えDNAによって形質転換された細胞を用いて、グルタミン酸誘導体を製造する場合、培養しながら、培養液中に直接基質を添加してもよいし、培養液より分離された菌体、洗浄菌体などいずれも使用可能である。また、菌体を破砕あるいは溶菌させた菌体処理物をそのまま用いてもよいし、当該菌体処理物からD−アミノトランスフェラーゼを回収し、粗酵素液として使用してもよいし、さらに、酵素を精製して用いてもよい。
【0115】
更に、上記培養物或いはその処理物の利用の際、これ等をカラギーナンゲルやポリアクリルアミドに包括、或いはポリエーテルスルホンや再生セルロース等の膜に固定化して使用することも可能である。
【0116】
〔II〕基質ケト酸
本発明においては、基質として一般式(1)のケト酸を用いる。
【0117】
【化9】

【0118】
ここでRは、芳香環または複素環であり、当該芳香環または複素環は、さらにハロゲン原子、水酸基、炭素数3までのアルキル基、炭素数3までのアルコキシ基およびアミノ基の少なくとも1種を有していてもよい。
【0119】
中でも、当該式中、Rは、フェニル基またはインドリル基であることが好ましい。Rがインドリル基の場合、一般式(2)のグルタミン酸誘導体として、(2R、4R)−モナティンが生成される。Rがフェニル基の場合、一般式(2)のグルタミン酸誘導体として、一般式(2)のグルタミン酸誘導体としてモナティンの類縁体である4−フェニルメチル−4−ヒドロキシ−グルタミン酸(PHG)の(2R、4R)体が得られる。
【0120】
前記一般式(1)で示されるケト酸の合成方法としては、特に限定はなく、化学反応系および酵素系のどちらを用いてもよい。以下、化学反応系および酵素系に分けて一般式(1)のケト酸の合成方法を説明するが、一般式(1)のケト酸の合成方法は当然これらの方法に限定されるものではない。
【0121】
(II−1) 化学反応系
化学反応系を利用して一般式(1)の基質ケト酸を合成する場合は、以下に示す方法や後述の参考例を利用して容易に実施することができる。
【0122】
例えば、下記一般式(6)で示される置換ピルビン酸とオキサロ酢酸あるいはピルビン酸を、交差アルドール反応及び脱炭酸反応に付して、一般式(1)で示されるケト酸を製造することができる。前記アルドール反応に付して得られる化合物が、反応系内で形成され重要な中間体となるが、敢えてこの化合物を単離することなく次の工程である脱炭酸反応に進むことができる。
【0123】
【化10】

【0124】
例えば、Rがインドリル基である場合、即ち置換ピルビン酸としてインドール−3−ピルビン酸を用いた場合には、モナティン製造の重要中間体であるIHOG(又はその塩)を製造することができる。また、例えばRがフェニル基である場合、即ち置換ピルビン酸としてフェニルピルビン酸を用いた場合には、モナティンの類縁体である4−フェニルメチル−4−ヒドロキシグルタミン酸(以下、PHG)に対応する中間体ケト酸である4−フェニルメチル−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸(以下、PHOG)(又はその塩)を製造することができる。
【0125】
当該アルドール反応の条件には特に困難は無く、無機塩基又は有機塩基存在下において適当な溶媒中にて置換ピルビン酸及びオキサロ酢酸あるいはピルビン酸を作用させるだけで容易に進行する。
【0126】
用いる溶媒の種類としては、反応に不活性なものであれば特に制限は無い。
【0127】
当業者であれば、本発明の実施を妨げない範囲で反応温度、塩基の使用量、反応時間、出発物質の添加方法を適宜選択することができる。
【0128】
溶媒として好ましくは、水、メタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒等を挙げることができる。
【0129】
使用する場合の塩基として好ましくは、無機塩基、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム等のアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属に対応する水酸化物、若しくは炭酸化物や、有機塩基、例えばトリエチルアミン等を挙げることができる。
【0130】
反応温度としては、好ましくは−20〜100℃程度、より好ましくは0〜60℃程度を採用することができる。
【0131】
なお、置換ピルビン酸とオキサロ酢酸を基質として用いて得られたアルドール反応縮合物を脱炭酸させる反応においては、自発的な脱炭酸反応によっても達成されるが、反応液に酸又は金属イオン又はその両方を添加することで脱炭酸反応をより効果的に行うことができる。その場合に使用する酸としては、塩酸、硫酸、燐酸、酢酸、パラトルエンスルホン酸、イオン交換樹脂等の固体酸等を、金属イオンとしては、ニッケルイオン、銅イオン、鉄イオン等の遷移金属イオン等を、それぞれ挙げることができる。反応温度として好ましくは−10〜100℃程度、より好ましくは0〜60℃程度を選択することができる。
【0132】
(II−2) 酵素系
酵素系を利用して一般式(1)の基質ケト酸を製造する場合は、上記一般式(6)で示される置換ピルビン酸とピルビン酸(ないしオキサロ酢酸)から一般式(1)で示されるケト酸を生成する反応を触媒する酵素(アルドラーゼ)を用いることにより、特に困難なく、一般式(1)で示されるケト酸を生成できる。
【0133】
上記反応を触媒するアルドラーゼの取得源となる微生物としてはPseudomonas属、Erwinia属、Flavobacterium属、Xanthomonas属に属する微生物を例示できる。
【0134】
Pseudomonas属、Erwinia属、Flavobacterium属、Xanthomonas属のうち、インドール−3−ピルビン酸とピルビン酸(ないしオキサロ酢酸)から前駆体ケト酸(IHOG)を合成する反応を触媒するアルドラーゼを生成する微生物であれば、いかなるものも本発明に使用可能であるが、Pseudomonas taetrolens ATCC4683、Pseudomonas coronafaciens AJ2791、Pseudomonas desmolytica AJ1582、Erwinia sp.AJ2917、Xanthomonas citri AJ2797、Flavobacterium rhenanum AJ2468がより好ましい。このうち、特にPseudomonas taetrolens ATCC4683、Pseudomonas coronafaciens AJ2791が好ましい。これらの微生物の寄託先を下記に示す。
【0135】
(1)Pseudomonas coronafaciens AJ2791株
(i)受託番号 FERM BP−8246(平成14年6月10日に寄託されたFERM P−18881より平成14年11月22日に国際寄託へ移管)
(ii)受託日 2002年6月10日
(iii)寄託先 独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)
(2)Pseudomonas desmolytica AJ1582株
(i)受託番号 FERM BP−8247(平成14年6月10日に寄託されたFERM P−18882より平成14年11月22日に国際寄託へ移管)
(ii)受託日 2002年6月10日
(iii)寄託先 独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)
(3)Erwinia sp. AJ2917株
(i)受託番号 FERM BP−8245(平成14年6月10日に寄託されたFERM P−18880より平成14年11月22日に国際寄託へ移管)
(ii)受託日 2002年6月10日
(iii)寄託先 独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)
(4)Flavobacterium rhenanum AJ2468株
(i)受託番号 FERM BP−1862
(ii)受託日 1985年9月30日
(iii)寄託先 独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)
(5)Xanthomonas citri AJ2797株
(i)受託番号 FERM BP−8250(昭和60年9月30日に寄託されたFERM P−8462より平成14年11月27日に国際寄託へ移管)
(ii)受託日 1985年9月30日
(iii)寄託先 独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)
【0136】
アルドラーゼを取得するには、上記アルドラーゼ産生菌を微生物培養することによりアルドラーゼを生成蓄積させてもよいし、組み換えDNA技術によりアルドラーゼを生成する形質転換体を作成し、当該形質転換体を培養することによりアルドラーゼを生成蓄積させてもよい。
【0137】
アルドラーゼの存在下、反応を進行させるには、アルドラーゼ、一般式(6)で示される置換ピルビン酸、および、オキサロ酢酸またはピルビン酸のうち少なくとも一種を含む反応液を20〜50℃の適当な温度に調整し、pH6〜12に保ちつつ、30分〜5日静置、振とう、または攪拌すればよい。
【0138】
当該反応液にMg2+、Mn2+、Ni2+、Co2+などの2価のカチオンを添加することによって反応速度を向上させることもできる。コスト等の面から、好ましくはMg2+を用いることがある。
【0139】
これら2価カチオンを反応液に添加する際は、反応を阻害しない限りにおいてはいずれの塩を用いてもよいが、好ましくはMgCl、MgSO、MnSO等を用いることがある。これら2価カチオンの添加濃度は当該業者であれば簡単な予備検討によって決定することができるが、0.01mM〜10mM、好ましくは0.1mM〜5mM、さらに好ましくは0.1mM〜1mMの範囲で添加することができる。
【0140】
反応を実施する際の好ましい反応条件の一例を挙げれば、100mM バッファー、50mM インドール−3−ピルビン酸、250mM ピルビン酸、1mM MgCl、1%(v/v)トルエンからなる反応液に、酵素源としてアルドラーゼ発現E.coliの洗浄菌体を10%(w/v)となるように添加し、33℃で4時間振とう反応させることにより、4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸(IHOG)が得られる。
【0141】
生成した一般式(1)のケト酸は、公知の手法により分離精製することができる。例えば、イオン交換樹脂に接触させて塩基性アミノ酸を吸着させ、これを溶離後晶析する方法または溶離後、活性炭等による脱色濾過し晶析する方法等が挙げられる。
【0142】
〔III〕アミノ供与体
本発明においては、D−アミノトランスフェラーゼを用いるため、アミノ供与体としてD−アミノ酸を用いる。ここでいうアミノ供与体には、天然及び非天然D−アミノ酸等のアミノ化合物が含まれる。即ち、D−グルタミン酸、D−アスパラギン酸、D−アラニン、D−トリプトファン、D−フェニルアラニン、D−イソロイシン、D−ロイシン、D−チロシン、D−バリン、D−アルギニン、D−アスパラギン、D−グルタミン、D−メチオニン、D−オルニチン、D−セリン、D−システイン、D−ヒスチジン、D−リジン等がアミノ酸の例として挙げられる。反応に添加するアミノ供与体は1種類でもよいし、複数の供与体の混合物でもよい。また、安価なDL−アミノ酸を用いることもできる。
【0143】
また、L−アミノ酸またはDL−アミノ酸を反応液中に添加し、該アミノ酸をラセミ化する反応を触媒する酵素を共存させることにより、D−アミノ酸供与体として供与体を供給することもできる。このようなラセミ化酵素としてはアラニンラセマーゼ、グルタミン酸ラセマーゼ、アスパラギン酸ラセマーゼ、フェニルアラニンラセマーゼ等を好ましい例として挙げることができる。この場合、L−アラニン、L−グルタミン酸、L−フェニルアラニン、L−アスパラギン酸、或いは前記L−アミノ酸のラセミ混合物をグルタミン酸誘導体の生成中に反応溶液に添加することができる。
【0144】
〔IV〕反応条件
本発明の光学活性グルタミン酸誘導体の製造方法は、D−アミノトランスフェラーゼ、および、アミノ供与体の存在下で、一般式(1)の基質ケト酸から、(2R、4R)体のグルタミン酸誘導体を効率的に生成するものである。
【0145】
前述のように、D−アミノトランスフェラーゼは、酵素活性を発揮する限りいかなる形態で反応系に添加してもよく、例えば、組み換えDNAによって形質転換された細胞を用いてグルタミン酸誘導体を製造する場合、培養しながら、培養液中に直接基質ケト酸およびアミノ供与体を添加して反応液としてもよいし、溶媒中に培養液より分離された菌体や精製酵素、基質ケト酸、アミノ供与体を添加して反応液としてもよい。
【0146】
D−アミノトランスフェラーゼ源として、微生物菌体を用いる場合、すなわち培養液や洗浄菌体を用いる場合は、基質ケト酸の菌体内への透過性を高めるために、トライトン X(Triton X)やトゥイーン(Tween)等の界面活性剤やトルエン、キシレン等の有機溶媒を利用することもできる。また、反応促進物質として、ピリドキサール−5−リン酸等の補酵素類を上記培地に添加してもよい。上記培地成分として用いる具体的物質として、例えば、炭素源としては、利用する微生物が利用可能であれば制限は無く、例えばグルコース、シュークロース、フルクトース、グリセロール、酢酸等、又はこれらの混合物を使用することができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、尿素、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物等、或いはこれらの混合物を使用することができる。具体的な培地組成として、例えばフマル酸 0.5g/dl、酵母エキス 1g/dl、ペプトン 1g/dl、硫安 0.3g/dl、KHPO 0.3g/dl、KHPO 0.1g/dl、FeSO・7HO 1mg/dl、及びMnSO・4HO 1mg/dl(pH7.0)を含む培地等が挙げられる。
【0147】
また、酵素を生産させるための培養とグルタミン酸誘導体製造工程を分割して順次行わせる場合は、グルタミン酸誘導体製造工程では必ずしも好気的雰囲気下で反応を行う必要はなく、むしろ嫌気的雰囲気下で、更には窒素ガス置換、アルゴンガス置換、亜硫酸ソーダ添加等によって反応液中の溶存酸素を除いた系で反応を行わせることも可能である。
【0148】
反応温度については、通常、利用する酵素が活性を有する範囲内、即ち好ましくは10〜50℃で行われるが、より好ましくは20〜40℃、更に好ましくは25〜37℃の範囲で行われる。反応溶液のpH値については、通常、2〜12、好ましくは6〜11、より好ましくは7〜9の範囲で調節される。pHが高いと、モナティンの原料となるIHOGが自発的に3−インドールピルビン酸とピルビン酸に分解され易く、また、pHが低いと、IHOGが環化し易くアミノ化できなくなるので好ましくない。モナティンの原料となるIHOGの分解反応および環化反応を効果的に抑制するためには、反応溶液をpH8〜8.5の範囲に保つことが好ましいことがある。反応時間については、通常1〜120時間程度、好ましくは1〜72時間程度、更に好ましくは1〜24時間程度が選択される。
【0149】
尚、反応液中のグルタミン酸誘導体又は基質ケト酸を定量する場合、周知の方法を用いて速やかに測定することができる。即ち、簡便にはMerck社製「Silicagel 60F254」等を利用した薄層クロマトグラフィーを利用することができ、より分析精度を高めるには、ジーエルサイエンス社製「Inertsil ODS−80A」やダイセル化学工業(株)製「CROWNPAK CR(+)」等の光学分割カラムを利用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いればよい。このようにして、反応液中に蓄積されたグルタミン酸誘導体は、常法により反応液中より採取して用いることができる。反応液中からの採取は、このような場合に当該分野において通常使用されている周知の手段、例えば濾過、遠心分離、真空濃縮、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、結晶化等の操作が必要に応じて適宜組み合わせて用いられる。
【0150】
尚、目的とするグルタミン酸誘導体は遊離体の形で取得することができるが、必要により塩の形態で取得することもできる。塩の形態としては、塩基との塩を挙げることができる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の無機塩基、アンモニア、各種アミン等の有機塩基を挙げることができる。
【実施例】
【0151】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0152】
本実施例において、モナティン及び4−フェニルメチル−4−ヒドロキシ−グルタミン酸(以下、「PHG」と略記する。)の定量は、ジーエルサイエンス社製「Inertsil ODS−80A」(5μm,6X150mm)を利用した高速液体クロマトグラフィーにより行った。分析条件は、以下に示す通りである。
移動相:12%(v/v)アセトニトリル/0.05%(v/v)トリフルオロ酢酸水溶液
流速:1.5ml/min
カラム温度:30℃
検出:UV210nm
【0153】
本分析条件により、(2S,4S)−モナティン及び(2R,4R)−モナティンは12.1分に、(2S,4R)−モナティン及び(2R,4S)−モナティンは9.7分に、(2S,4S)−PHG及び(2R,4R)−PHGは7.2分に、(2S,4R)−PHG及び(2R,4S)−PHGは6.0分のリテンションタイムにて分別定量ができる。
【0154】
また、必要に応じて、ダイセル化学工業製光学分割カラム「CROWNPAK CR(+)」(4.6X150mm)を利用した高速液体クロマトグラフィーによる分析も行った。分析条件は以下に示す通りである。
【0155】
(モナティンの場合)
移動相:過塩素酸水溶液(pH1.5)/10%(v/v)メタノール
流速:0.5ml/min
カラム温度:30℃
検出:UV210nm
【0156】
本条件によりモナティン光学異性体は(2R,4S)、(2R,4R)、(2S,4R)、及び(2S,4S)の順に42分、57分、64分、及び125分のリテンションタイムにて分別定量ができる。
【0157】
(PHGの場合)
移動相:過塩素酸水溶液(pH1.5)
流速:1ml/min
カラム温度:30℃
検出:UV210nm
【0158】
本条件によりPHGの光学異性体は(2R,4S)、(2R,4R)、(2S,4R)、及び(2S,4S)の順に20分、28分、31分、及び46分のリテンションタイムにて分別定量ができる。
【0159】
実施例1 PHOGアミノ化活性を有するD−アミノトランスフェラーゼ活性菌株のスクリーニング
ブイヨン平板培地(栄研化学)に試験する微生物菌株を接種し、30℃で24時間培養した。ここから菌体をかきとり、これを100mM Tris−HCl(pH7.6)、50mM PHOG、100mM D−グルタミン酸、100mM D−アラニン、1mM ピリドキサール−5’−リン酸、及び0.5%(v/v)トルエンからなる反応液1mlに約5重量%湿菌体となるように接種し、30℃で16時間インキュベートした。反応終了後に、生成したPHGを定量した。その結果、表2に示す微生物においてPHOGからの2R−PHG生成活性が見出され、PHOGから(2R,4S)−PHG及び(2R,4R)−PHGを生成せしめることができた。
【0160】
【表2】

【0161】
実施例2 Bacillus macerans AJ1617株由来dat遺伝子(以下、bmdat)のクローニングと発現プラスミドの採取
(1)染色体DNAの調製
Bacillus macerans AJ1617株を50mlのブイヨン培地を用いて30℃で一晩培養した(前培養)。この培養液5mlを種菌として、50mlのブイヨン培地を用いて本培養を行った。対数増殖後期まで培養した後、培養液50mlを遠心分離操作(12000xg、4℃、15分間)に供し、集菌した。この菌体を用いて定法に従って染色体DNAを調製した。
【0162】
(2)遺伝子ライブラリからのbmdat遺伝子の単離
まず、Bacillus macerans AJ1617株の染色体DNA30μgに制限酵素EcoRIを1U添加し、37℃にて3時間反応させて部分消化した。次にこのDNAからアガロースゲル電気泳動にて3〜6kbpの断片を回収した。これをプラスミドpUC118のEcoRI切断物(BAP処理済み・宝酒造製)1μgにライゲーションし、E.coli JM109を形質転換して遺伝子ライブラリを作製した。これをアンピシリン 0.1mg/mlを含むLB培地(トリプトン1%、酵母エキス0.5%、塩化ナトリウム1%、寒天2%、pH7.0)にプレーティングして、コロニーを形成させた。出現したコロニーをアンピシリン 0.1mg/mlとイソブチル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG)を0.1mM含むLB液体培地1mlに接種し、37℃で一晩培養した。培養液200〜400μlを遠心分離により集菌・洗浄し菌体を得た。得られた菌体を、100mM Tris−HCl(pH8.0)、50mM ピルビン酸ナトリウム、100mM D−グルタミン酸、1mM ピリドキサール−5’−リン酸、1%(v/v)トルエンからなる反応液200μlに接種し、30℃で30分間反応させた。反応終了後、反応液を遠心分離した上清5μlを200μlのピルビン酸定量反応液(100mM Tris−HCl(pH7.6)、1.5mM NADH、5mM MgCl、16U/ml Lactate dehydrogenase(オリエンタル酵母製))を含む96ウェルプレートに加え、30℃で10分間反応させた後に340nmの吸光度をプレートリーダー(SPECTRA MAX190、Molecular Device社製)を用いて測定した。同様の反応を終濃度0.2mM〜1mMのピルビン酸ナトリウムを添加して実施し、これをスタンダードとしてピルビン酸の減少量を定量し、D−アミノトランスフェラーゼ(以下、DAT)活性を検出した。
【0163】
上記のDAT活性クローンのスクリーニングにより、DAT活性を示すクローンを採取した。この形質転換体よりD−アミノトランスフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドを調製し、pUCBMDATと命名した。プラスミドpUCBMDATをEcoRI処理してアガロースゲル電気泳動に供したところ、挿入断片の長さは約3.3kbpと見積もられた。
【0164】
(3)挿入断片の塩基配列
プラスミドpUCBMDATの挿入断片の塩基配列をジデオキシ法によって決定したところ、配列表1に示す配列のうち、630番から1481番に対応する約850bpからなるORFを見出した。本ORFについて既知配列との相同性検索を行ったところ、Bacillus sphaericus ATCC10208株由来のD−アミノトランスフェラーゼ遺伝子とアミノ酸配列において91%の相同性を、Bacillus sp.YM−1株由来のD−アミノトランスフェラーゼ遺伝子とアミノ酸配列において66%の相同性を、Bacillus licheniformis ATCC10716株由来のD−アミノトランスフェラーゼ遺伝子とアミノ酸配列において42%の相同性を示した。なお、ここでの相同性は、遺伝子解析ソフト「genetyx 6」(GENETYX社)を用い、各種パラメータは初期設定の通りとして算出した値である。この結果より、本ORFはD−アミノトランスフェラーゼ遺伝子をコードしていることが明らかとなった。
【0165】
実施例3 Bacillus macerans由来D−アミノトランスフェラーゼ(以下、BMDAT)発現E.coliを用いたIHOGからの2R−モナティンへの変換およびPHOGからの2R−PHGへの変換
(1)BMDAT発現E.coliの調製
pUCBMDATを持つE.coli形質転換体を0.1mg/ml アンピシリン、0.1mM イソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG)を含む3mlのLB培地(バクトトリプトン 1g/dl、酵母エキス 0.5g/dl、及びNaCl 1g/dl)に接種し、37℃、16時間振とう培養した。得られた培養液より集菌、洗浄し、BMDAT発現E.coliを調製した。
【0166】
(2)BMDAT発現E.coliを用いた洗浄菌体反応
上記(1)で調製した菌体を100mM Tris‐HCl(pH8.0)、50mM IHOG、200mM D−アラニン、1mM ピリドキサール−5’−リン酸、及び0.5%(v/v)トルエンからなる反応液1mlに、湿菌体重量で2%となるように懸濁した後に、33℃で16時間振とう反応した。反応終了後に生成した2R−モナチンを定量した。その結果、16.4mMの(2R,4S)−モナティンと17.0mMの(2R,4R)−モナティンが生成した。
【0167】
また、100mM Tris‐HCl(pH8.0)、50mM PHOG、200mM D−アラニン、1mM ピリドキサール−5’−リン酸、及び0.5%(v/v)トルエンからなる反応液を用いて同様の反応を実施し、生成した2R−PHGを定量した。その結果、17.1mMの(2R,4S)−PHGと19.2mMの(2R,4R)−PHGが生成した。
【0168】
実施例4 変異型BMDATの作製
(1)変異型プラスミドの作製
部位特異的変異(Site−Directed mutagenesis)による変異型BMDAT発現プラスミドの作製には、STRATAGENE社製QuikChange Site−Directed Mutagenesis Kitを使用した。まず、目的とする塩基置換を導入し、かつ2本鎖DNAのそれぞれ鎖に相補的になるように設計した合成オリゴDNAプライマーをそれぞれ(2本1組)合成した。作製した変異型酵素と変異導入に使用した合成オリゴDNAプライマーの配列を表3に示す。
【0169】
変異型酵素の名称についてであるが、「野生型酵素でのアミノ酸残基→残基番号→置換したアミノ酸残基」の順に表記する。例えばS243N変異型酵素は野生型酵素の243番目のSer(S)残基をAsn(N)残基に置換した変異型酵素であることを意味する。
【0170】
【表3】

【0171】
該キットの方法に従い、実施例2にて採取した野生型BMDAT発現プラスミドpUCBMADTを鋳型として変異型プラスミドを作製した。例えば、pS243Nの作製にあたっては、pUCBMDATを鋳型としてプライマーS243N−S,S243N−ASを用いて、以下の条件で変異型BMDAT発現プラスミドを増幅した。
95℃ 30秒
55℃ 1分
68℃ 8分 ×18サイクル
【0172】
メチル化DNAを認識して切断する制限酵素DpnI処理によって鋳型pUCBMDATを切断した後に、得られた反応液でE.coli JM109を形質転換した。形質転換体よりプラスミドを回収して塩基配列を決定し、目的とする塩基置換が導入されていることを確認した。
【0173】
2重変異型酵素発現プラスミドの作製は、一方の変異型発現プラスミドを鋳型として、上記と同様に作製した。具体的には、pS243N/S180AはpS243Nを鋳型としてプライマーS180A−S,S180A−ASを用いて作製した。pS244K/S180AはpS244Kを鋳型としてプライマーS180A−S,S180A−ASを用いて作製した。pS243N/S244KはpS244Kを鋳型としてプライマーS243NS244K−S、S243NS244K−ASを用いて作製した。
【0174】
(2)変異型BMDAT発現E.coliの作製
各種変異型BMDAT遺伝子塔載プラスミドあるいはpUCBMDATを持つE.coli形質転換体を0.1mg/ml アンピシリン、0.1mM イソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG)を含む3mlのLB培地(バクトトリプトン 1g/dl、酵母エキス 0.5g/dl、及びNaCl 1g/dl)に接種し、37℃、16時間振とう培養した。得られた培養液より集菌、洗浄し、BMDAT発現E.coliを調製した。各種変異型BMDATの発現の確認は、SDS−PAGEにて行った。培養液250μlより遠心分離により集菌して得られる菌体を500μlのSDS−PAGEサンプルバッファーに懸濁して10分間煮沸させ、溶菌・変性させた。遠心分離(10,000×g,10min)により得られる上清5〜10μlをSDS−PAGEに供したところ、野生型およびすべての変異型BMDAT発現プラスミド導入株にて約32kDa付近の位置に特異的に出現するバンドを認め、野生型および変異型BMDATの発現を確認した。
【0175】
実施例5 変異型BMDAT発現E.coliを用いたIHOGからの2R−モナティンへの変換およびPHOGからの2R−PHGへの変換
実施例4にて調製した各種変異型BMDAT発現E.coliを用いて4R,S−IHOGからの2R−モナティンの生産と4R,S−PHOGからの2R−PHGの生産を実施した。400μl培養液より遠心分離にて調整した菌体を以下の組成の反応液にそれぞれ懸濁した。
【0176】
IHOG反応溶液:100mM Tris−HCl(pH8.0)、50mM 4R,S−IHOG、200mM D−Ala、1mMピリドキサール−5’−リン酸、0.5%(v/v)トルエン
【0177】
PHOG反応溶液:100mM Tris−HCl(pH8.0)、50mM 4R,S−PHOG、200mM D−Ala、1mMピリドキサール−5’−リン酸、0.5%(v/v)トルエン
【0178】
反応液を30℃で16時間インキュベートした後に、生成した2R−モナティンおよび2R−PHG量を定量した。結果を表4に示す。
【0179】
【表4】

【0180】
その結果、S181、A182、N183、S243、S244に変異を導入した変異型BMDATにおいて4R体選択性が向上することが明らかとなった。ここでいう4R体選択性とは、生成した2R−PHGあるいは2R−モナティンのうち(2R,4R)体が占める割合のことである。特にS243Nにおいて12.9mMの(2R,4R)−モナティンと1.0mMの(2R,4S)−モナティンが生成し、4R体選択性が93%に向上した。またS244Kにおいて12.0mMの(2R,4R)−モナティンと5.5mMの(2R,4S)−モナティンが生成し、4R体選択性が69%に向上した。
【0181】
これらの変異型DATにさらにS180Aの変異を導入した2重変異型酵素を作製したところ、S243N/S180Aにおいて17.5mMの(2R,4R)−モナティンと1.9mMの(2R,4S)−モナティンが生成し(4R体選択性90%)、S243Nと比較して、4R体選択性はわずかに低下したものの、(2R,4R)−モナティンの生成量が増加した。またS244K/S180Aにおいて15.0mMの(2R,4R)−モナティンと6.6mMの(2R,4S)−モナティンが生成し(4R体選択性79%)、(2R,4R)−モナティンの生成量がS244Kと比較して増加した。即ち、4R体選択性の向上した変異型BMDATにさらにS180Aの変異を導入することにより、(2R,4R)−モナティンの生成量が増加することが明らかとなった。
【0182】
またS243N/S244Kの2重変異型酵素を作製したところ、11.0mMの(2R,4R)−モナティンと0.2mMの(2R,4S)−モナティンが生成し、4R体選択性が98%にまで向上した。
【0183】
実施例6 Bacillus sphaericus由来D−トランスアミナーゼ(以下、BSDAT)発現E.coliの作製と洗浄菌体反応による2R−モナティンの製造
(1)発現プラスミドの構築
バチルス スフェリカス(Bacillus sphaericus)由来D−トランスアミナーゼ遺伝子(以下「bsdat」と略記する。)をE.coliで発現させるために、pUC18のlacプロモーターの下流にbsdat遺伝子を連結したプラスミドpUCBSDATを以下のようにして構築した。先ず、バチルス スフェリカス(Bacillus sphaericus)ATCC10208株の染色体DNAを鋳型とし、下記表5に示すオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCRにより当該遺伝子を増幅した。これにより、欧州公開特許EP0736604本文中、配列番号2記載のdat塩基配列において、8番目から1275番目までに相当するDNA断片が増幅される。この断片をBamHI、PstIにて処理し、pUC18のBamHI、PstI切断物とライゲーションした後、E.coli JM109に導入した。アンピシリン耐性株の中から目的のプラスミドを持った株を選択し、発現プラスミドpUCBSDATを構築した。
【0184】
【表5】

【0185】
(2)BSDAT発現E.coliの調製
pUCBSDATを持つE.coli形質転換体0.1mg/ml アンピシリンを含むLB培地(バクトトリプトン 1g/dl、酵母エキス 0.5g/dl、及びNaCl 1g/dl)で37℃、16時間シード培養した。LB培地50mlを張り込んだ500ml容坂口フラスコにこのシード培養液を1ml添加し、37℃にて本培養を行った。培養開始2.5時間後に、終濃度1mMとなるようにイソプロピル1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、更に4時間培養を行った。得られた培養液より集菌、洗浄し、BSDAT発現E.coliを調製した。
【0186】
(3)BSDAT発現E.coliを用いた洗浄菌体反応
上記(2)で調製した菌体を100mM Tris−HCl(pH7.6)、50mM IHOG、200mM D−Ala、1mM ピリドキサール−5’−リン酸、及び0.5%(v/v)トルエンからなる反応液1mlに、湿菌体重量で5%となるように懸濁した後に、10ml容試験管に移し、30℃で18時間振とう反応した。反応終了後に生成した2R−モナティンを定量した。その結果IHOGから13.8mMの(2R,4R)−モナティンおよび12.7mMの(2R,4S)−モナティンを生成せしめることができた。
【0187】
実施例7 変異型BSDATの作製
(1)変異型プラスミドの作製
部位特異的変異 (Site−Directed mutagenesis)による変異型BSDAT発現プラスミドの作製には、STRATAGENE社製QuikChange Site−Directed Mutagenesis Kitを使用した。まず、目的とする塩基置換を導入し、かつ2本鎖DNAのそれぞれ鎖に相補的になるように設計した合成オリゴDNAプライマーをそれぞれ(2本1組)合成した。作製した変異型酵素と変異導入に使用した合成オリゴDNAプライマーの配列を表6に示す。変異型酵素の名称についてであるが、「野生型酵素でのアミノ酸残基→残基番号→置換したアミノ酸残基」の順に表記する。例えばS243N変異型酵素は野生型酵素の243番目のSer(S)残基をAsn(N)残基に置換した変異型酵素であることを意味する。
【0188】
【表6】

【0189】
該キットの方法に従い、実施例6にて採取した野生型BSDAT発現プラスミドpUCBSADTを鋳型として変異型プラスミドを作製した。例えば、pBS−S243Nの作製にあたっては、pUCBSDATを鋳型としてプライマーBS−S243N−S,BS− S243N−ASを用いて、以下の条件で変異型BSDAT発現プラスミドを増幅した。
95℃ 30秒
55℃ 1分
68℃ 8分 ×18サイクル
【0190】
メチル化DNAを認識して切断する制限酵素DpnI処理によって鋳型pUCBSDATを切断した後に、得られた反応液でE.coli JM109を形質転換した。形質転換体よりプラスミドを回収して塩基配列を決定し、目的とする塩基置換が導入されていることを確認した。
【0191】
(2)変異型BSDAT発現E.coliの作製
各種変異型BSDAT遺伝子塔載プラスミドあるいはpUCBSDATを持つE.coli形質転換体を0.1mg/ml アンピシリン、0.1mM イソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG)を含む3mlのLB培地(バクトトリプトン 1g/dl、酵母エキス 0.5g/dl、及びNaCl 1g/dl)に接種し、37℃、16時間振とう培養した。得られた培養液より集菌、洗浄し、BSDAT発現E.coliを調製した。各種変異型BSDATの発現の確認は、SDS−PAGEにて行った。培養液250μlより遠心分離により集菌して得られる菌体を500μlのSDS−PAGEサンプルバッファーに懸濁して10分間煮沸させ、溶菌・変性させた。遠心分離(10,000×g,10min)により得られる上清5〜10μlをSDS−PAGEに供したところ、野生型およびすべての変異型BSDAT発現プラスミド導入株にて約32kDa付近の位置に特異的に出現するバンドを認め、野生型および変異型BSDATの発現を確認した。
【0192】
実施例8 変異型BSDAT発現E.coliを用いたIHOGからの2R−モナティンへの変換
実施例7にて調製した各種変異型BSDAT発現E.coliを用いて4R,S−IHOGからの2R−モナティンの生産を実施した。400μL培養液より遠心分離にて調整した菌体を以下の組成の反応液にそれぞれ懸濁した。
IHOG反応溶液:100mM Tris−HCl(pH8.0)、50mM 4R、S−IHOG,200mM D−Ala、1mMピリドキサール−5’−リン酸、0.5%(v/v)トルエン
【0193】
反応液を30℃で16時間インキュベートした後に、生成した2R−モナティン量を定量した。結果を表7に示す。
【0194】
【表7】

【0195】
その結果、S243,S244に変異を導入した変異型BSDATにおいて4R体選択性が向上することが明らかとなった。ここでいう4R体選択性とは、生成した2R−モナティンのうち(2R,4R)体が占める割合のことである。特にS243Nにおいて9.9mMの(2R,4R)−モナティンと1.0mMの(2R,4S)−モナティンが生成し、4R体選択性が92%に向上した。またS244Kにおいて12.7mMの(2R,4R)−モナティンと6.1mMの(2R,4S)−モナティンが生成し、4R体選択性が68%に向上した。
【0196】
この結果から、BMDATと相同性を有するDAT(一例を挙げるとBSDAT)についても、BMDATへ変異を導入することによってモナティンの4R体選択性を付与することができる部位(一例を挙げるとS243、S244)に相当する部位へ変異を導入することにより、モナティンの4R体選択性を付与せしめることが可能であることが示された。
【0197】
実施例9 変異型BMDATの作製
実施例4と同様の方法で、変異型BMDAT発現プラスミドを作製し、BMDAT発現E.coliを調製した。変異導入に使用した合成オリゴDNAプライマーの配列を表8に示す。
【0198】
【表8】

【0199】
実施例10 変異型BMDAT発現E.coliを用いたIHOGからの2R−モナティンへの変換およびPHOGからの2R−PHGへの変換
実施例9にて調製した各種変異型BMDAT発現E.coliを用いて4R,S−IHOGからの2R−モナティンの生産と、4R,S−PHOGからの2R−PHGの生産を実施した。400μl培養液より遠心分離にて調製した菌体を以下の組成の反応液にそれぞれ懸濁した。
【0200】
IHOG反応溶液:100mM Tris−HCl(pH8.0)、100mM 4R,S−IHOG、400mM D−Ala、1mM ピリドキサール−5’−リン酸、0.5%(v/v)トルエン
【0201】
PHOG反応溶液:100mM Tris−HCl(pH8.0)、100mM 4R,S−PHOG、400mM D−Ala、1mM ピリドキサール−5’−リン酸、0.5%(v/v)トルエン
【0202】
反応液を30℃で16時間インキュベートした後に、生成した2R−モナティンおよび2R−PHGを定量した。結果を表9に示す。
【0203】
その結果、A182S、S243N/N100A、S243N/A182S、N100A/S181A、N100A/A182Sの各変異型BMDATにおいて、野生型酵素と比較して、2R,4R−モナティン生成量が増加することが明らかとなった。特にS243N/N100A、S243N/A182S変異型BMDATにおいては、80%以上の4R−選択性を維持したまま、2R,4R−モナティン生成量が増加することが明らかとなった。
【0204】
【表9】

【0205】
実施例11 変異型BMDATのアミノ化反応速度の測定
各種変異型BMDAT遺伝子搭載プラスミドあるいはpUCBMDATを持つE.coli形質転換体を0.1mg/mlアンピシリン、0.1mM IPTGを含む3mlのカザミノ酸培地(0.5g/dl 硫酸アンモニウム、0.14g/dl KHPO、0.23g/dl クエン酸・2Na・3HO、0.1g/dl MgSO・7HO、2mg/dl FeSO、2mg/dl MnSO、2mg/dl 塩酸ピリドキシン、0.1mg/dl thiamine、1g/dl カザミノ酸、0.3g/dl グリセロール、pH7.5)に接種し、37℃、16時間振とう培養した。得られた培養液1mlより集菌、洗浄し、1mlの20mM Tris−HCl(pH7.6)に懸濁し、4℃にて30分間超音波破砕した。超音波破砕液を15000rpmで5分間遠心分離した上清を酵素源とした。D−アミノトランスフェラーゼ活性(以下、DAT活性)の測定は、D−Alaをアミノドナーとしたα−ケトグルタル酸へのアミノ基転移活性を、反応の進行に従ってD−Alaより生成するピルビン酸を酵素的に定量することにより行った。結果を表10に示す。
【0206】
反応条件:100mM Tris−HCl(pH8.0)、0.2mM NADH、0.1mM ピリドキサール−5’−リン酸、5U/ml lactate dehydrogenase、10mM D−Ala、10mM α−ケトグルタル酸、30℃、340nmの吸光度の減少を測定
【0207】
その結果、N100A、S181A、A182S、N100A/S181A、N100A/A182S、S181A/A182S、S243N/N100A、N243N/A182S各変異型BMDATにおいて、野生型酵素と比較してDAT活性が増加していることが明らかとなった。
【0208】
【表10】

【0209】
実施例12 S243N/A182S変異型BMDATを用いた4R,S−IHOGの2R−モナティンへの変換
(1)菌体の調製
pS243N/A182Sを持つE.coli形質転換体を0.1mg/ml アンピシリンを含む3mlのLB培地(バクトペプトン 1g/dl、酵母エキス 0.5g/dl、NaCl 1g/dl)に接種し、37℃、16時間シード培養した。この培養液2.5mlを、0.1mg/ml アンピシリン、0.1mM IPTGを含むカザミノ酸培地(0.5g/dl 硫酸アンモニウム、0.14g/dl KHPO、0.23g/dl クエン酸・2Na・3HO、0.1g/dl MgSO・7HO、2mg/dl FeSO、2mg/dl MnSO、2mg/dl 塩酸ピリドキシン、0.1mg/dl thiamine、1g/dl カザミノ酸、0.3g/dl グリセロール、pH7.5)50mlを張り込んだ500ml容坂口フラスコに添加し、37℃、18時間振とう培養した。得られた培養液より集菌、洗浄し、S243N/A182S変異型BMDAT発現E.coliを調製した。
【0210】
(2)IHOGアミノ化反応
上記(1)にて、240ml培養液より集菌・洗浄して調製した菌体を、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.3)、244mM 4R,S−IHOG、600mM DL−Ala、1mM ピリドキサール−5’−リン酸からなる反応液120mlに懸濁し、37℃で24時間攪拌し、反応を実施した。反応中のpHの低下を防ぐため、1N KOHにてpHをpH8.4±0.1に制御した。その結果、24時間で79.2mMの(2R,4R)−IHOGが反応液中に蓄積した(対4R−IHOGモル収率65%)。得られた反応液を5000rpmで10分間遠心分離して上清を取得した。
【0211】
(3)酵素反応液からの(2R,4R)−モナティンの採取
酵素反応液121.84g((2R,4R)−モナティン 2.72wt%)を合成吸着剤(三菱化学製DIAION−SP207)が600ml充填された樹脂塔(直径4cm)に通し、流速7.5/分で純水を3時間通液し、更に流速7.5/分で15%2−プロパノール水溶液を3時間通液し、2.6〜3.5〔溶出液量/樹脂用量(L/L−R)〕を収集することにより、(2R,4R)−モナティンをほぼ定量的に分取した。
【0212】
得られた処理液を13.3gまで濃縮し、2−プロパノール64mlを添加して10℃で16hr撹拌した。結晶をろ過した後、得られた湿結晶3.0gを水10mlに溶解し、2−プロパノール30mlを35℃で添加し、更に35℃で2−プロパノール30mlを2時間かけて滴下した。溶液を室温に冷却し、結晶をろ過した後、減圧乾燥にて(2R,4R)−モナティンのカリウム塩2.59gを得た(area純度97.4%)。
【0213】
<参考例1> IHOGの合成
水酸化カリウム18.91g(286.5mmol、含量85重量%)を溶解した水64.45mlに、インドール−3−ピルビン酸7.50g(35.8mmol、含量97.0重量%)とオキサロ酸14.18g(107.4mmol)を加えて溶解させた。この混合溶液を35℃にて24時間攪拌した。
【0214】
更に、3N−塩酸40.0mlを加えて中和(pH=7.0)し、153.5gの反応中和液を得た。この反応中和液には、IHOGが5.55g含まれており、収率53.3%(対インドール−3−ピルビン酸)であった。
【0215】
この反応中和液に水を加え、168mlとし、合成吸着剤(三菱化学製DIAION−SP207)840mlにて充填された樹脂塔(直径4.8cm)に通液した。更に、流速23.5ml毎分にて純水を通液し、1.73〜2.55(L/L−R)を収集することにより、高純度のIHOGを3.04g含む水溶液を、収率54.7%(樹脂への投入量に対して)にて得た。
【0216】
(NMR測定)
H−NMR(400MHz,DO):3.03(d,1H,J=14.6Hz),3.11(d,1H,J=14.6Hz),3.21(d,1H,J=18.1Hz),3.40(d,1H,J=18.1Hz),7.06−7.15(m,3H),7.39(d,1H,J=7.8Hz),7.66(d,1H,J=7.8Hz).
13C−NMR(100MHz,DO):35.43,47.91,77.28,109.49,112.05,119.44,119.67,121.91,125.42,128.41,136.21,169.78,181.43,203.58
【0217】
<参考例2> PHOGの合成
水酸化カリウム(純度85%)13.8gを溶解した水25mlに対し、フェニルピルビン酸5.0g(30.5mmol)、オキサロ酢酸12.1g(91.4mmol)を加えて室温にて72時間反応させた。濃塩酸を用いて反応液のpH値を2.2に調節し、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥を行った後に、濃縮して残渣を得た。残渣を酢酸エチルとトルエンから再結晶を行い、PHOG2.8g(11.3mmol)を結晶として得た。
【0218】
(NMR測定)
H−NMR(DO)δ:2.48(d,J=14.4Hz,0.18H),2.60(d,J=14.4Hz,0.18H),2.85−3.30(m,3.64H),7.17−7.36(m,5H)
【0219】
(分子量測定)
ESI−MS 計算値 C1212=252.23,分析値251.22(MH
【産業上の利用可能性】
【0220】
本発明により、甘味料等として期待できるモナティンのなかでも最も甘味度の高い(2R,4R)−モナティンを酵素反応を利用して効率良く製造することができるので、本発明は工業上、特に食品の分野において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)または(B)のアミノ酸配列を有し、かつ、4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸に対し、4R体選択的に作用して、(2R,4R)−モナティンを生成するD−アミノトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
(A)配列番号4に示すアミノ酸配列において、下記(a)、(b)から選ばれる少なくとも1個のアミノ酸残基の置換を有するアミノ酸配列
(a)243位のセリン残基の他のアミノ酸残基への置換
(b)244位のセリン残基の他のアミノ酸残基への置換
(B)(A)のアミノ酸配列において、243位、244位以外の箇所に、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列
【請求項2】
前記(a)、(b)の置換は、下記(a’)、(b’)の置換であることを特徴とする、請求項1記載のタンパク質。
(a’)243位のセリン残基のリシン残基、またはアスパラギン残基への置換
(b’)244位のセリン残基のリシン残基への置換
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のタンパク質、および、アミノ供与体の存在下で、下記一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、Rは、芳香環または複素環であり、当該芳香環または複素環は、さらにハロゲン原子、水酸基、炭素数3までのアルキル基、炭素数3までのアルコキシ基およびアミノ基の少なくとも1種を有していてもよい。)
で示されるケト酸から、下記一般式(2)
【化2】

(一般式(2)におけるRは、一般式(1)におけるRと同義である。)
で示される(2R、4R)体のグルタミン酸誘導体(塩の形態を含む)を生成することを特徴とする光学活性グルタミン酸誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記Rは、フェニル基またはインドリル基であることを特徴とする請求項3記載の光学活性グルタミン酸誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記アミノ供与体は、アミノ酸であることを特徴とする請求項3または請求項4記載の光学活性グルタミン酸誘導体の製造方法。
【請求項6】
反応系にL−アミノ酸をD−アミノ酸に変換する反応を触媒する活性を有する酵素、又は、当該酵素活性を有する微生物を含有することを特徴とする、請求項5記載の光学活性グルタミン酸誘導体の製造方法。
【請求項7】
下記(A)または(B)のアミノ酸配列を有し、かつ、4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸に対し、4R体選択的に作用して、(2R,4R)−モナティンを生成するD−アミノトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(A)配列番号4に示すアミノ酸配列において、下記(a)、(b)から選ばれる少なくとも1個のアミノ酸残基の置換を有するアミノ酸配列
(a)243位のセリン残基の他のアミノ酸残基への置換
(b)244位のセリン残基の他のアミノ酸残基への置換
(B)(A)のアミノ酸配列において、243位、244位以外の箇所に、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列
【請求項8】
請求項7記載のDNAとベクターDNAとを接続して得られることを特徴とする組換えDNA。
【請求項9】
請求項8記載の組換えDNAによって形質転換された細胞。
【請求項10】
請求項9記載の細胞を培地中で培養し、培地および/または細胞中にD−アミノトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質を蓄積させることを特徴とするD−アミノトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質の製造方法。

【公開番号】特開2010−42014(P2010−42014A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230961(P2009−230961)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【分割の表示】特願2005−502362(P2005−502362)の分割
【原出願日】平成15年12月9日(2003.12.9)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】