説明

変速機の同期装置

【課題】シンクロスリーブのスプライン歯に先行歯を設け、かつ、ブロッキングリングのドグ歯の一部を間引いた構成の同期装置において、部品の加工が簡単な構成で、軸方向へ移動するシンクロスプリングの動きを規制できるようにする。
【解決手段】ブロッキングリング30の外周には、周方向に沿って等間隔に配列された複数のドグ歯33のうちの一部が間引かれた部分である欠歯部36が設けられている。この欠歯部36に、シンクロスプリング40の内周縁40aよりも外径側に突出した突起状の座部39が形成されていることで、シンクロスリーブ10のスプライン歯11で押圧されて軸方向へ移動するシンクロスプリング40を座部39で受け止めることが可能となる。したがって、欠歯部36に対応する位置のシンクロスプリング40がドグ歯33の配列位置を乗り越えて変速ギヤ20側に飛び出すことを規制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の手動変速機などに用いられる同期装置(シンクロメッシュ装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などに搭載される手動変速機(マニュアルトランスミッション)は、シフトレバーの操作に応じて各段のギヤの噛み合いを変化させることで変速段を切り替えるように構成されている。これにより、エンジンなど駆動源の駆動力を走行条件に応じて変換して取り出し、車輪を駆動する。このような手動変速機には、例えば特許文献1に示すように、変速動作を迅速且つ容易に行うための同期装置(シンクロメッシュ装置)が設けられている。
【0003】
上記の同期装置では、シンクロスリーブがブロッキングリング(シンクロナイザーリング)を押すことによってその摩擦面に同期荷重を発生させ、それまで差回転を生じていた変速ギヤとシンクロスリーブを同期させる。その後、役割を終えたブロッキングリングは、シンクロスリーブによって掻き分けられる。次に、シンクロスリーブは変速ギヤ側のスプライン歯(ドグスプライン)を掻き分けるのであるが、シンクロスリーブがすり抜けた後のブロッキングリングは、同期荷重を発生しないために、シンクロスリーブのスプライン歯がドグスプラインに接触するまでに僅かな差回転が生じることがある(所謂同期崩れ)。この同期崩れが発生した場合、シンクロスリーブのスプライン歯とドグスプラインとが干渉することとなって、不快な振動が発生する。この現象は一般的に二段入り又は二段モーションと呼ばれ、シフトフィーリングを悪化させる原因となる。
【0004】
そこで、こうした二段入りを低減する対策として、特許文献1に記載された技術では、シンクロスリーブのスプライン歯をドグ掻き分け歯(先行歯)と同期作用を有する同期歯(後退歯)といった長さを異ならせた長短2つの歯で構成しておき、ブロッキングリングのドグ歯に当接してこれを掻き分ける後退歯に対して、ドグスプラインに掻き込む先行歯を先行させることで、同期崩れに起因する二段入りの発生を低減するようにしている。そしてこの構成では、後退歯がブロッキングリングのドグ歯に当接する際に、先行歯がブロッキングリングの他のドグ歯と干渉しないようにするために、先行歯に対応する部分のブロッキングのドグ歯を欠歯させている。すなわち、ブロッキングに設けたドグ歯は、ブロッキングリングの外周面において、周方向に沿って等間隔に対して幾つかが間引かれた状態で、いわば間欠的に設けられている。
【0005】
その一方で、特許文献2に示すようなスプリング式の同期装置では、ブロッキングリングの外周側におけるドグ歯とシンクロハブの端部との間に設置した環状のシンクロスプリングを備えている。このシンクロスプリングは、同期動作の際にシンクロスリーブのスプライン歯の先端で押されて軸方向へ移動することで、ブロッキングリングを変速ギヤ側へ押圧する作用を有している。これにより、ブロッキングリングと変速ギヤとの間の摩擦面を摩擦係合させるようになっている。このとき、シンクロスリーブのスプライン歯で軸方向に押圧されたシンクロスプリングは、隣接するブロッキングのドグ歯の端面で受け止められる。
【0006】
しかしながら、上記のような先行歯を有する同期装置では、ブロッキングリングのドグ歯の一部を間引いている(欠歯させている)ことにより、当該ドグ歯が間引かれた部分では、シンクロスプリングを受け止めてその軸方向の移動を規制することができない。そのため、シンクロスリーブで押圧されて移動するシンクロスプリングは、その欠歯部に対応する部分がドグ歯の配列位置を越えて変速ギヤ側に押し出されてしまうことがある。これによりシンクロスプリングに変形などの不具合が生じるおそれがある。万一このようなことが生じると、同期装置による同期動作の際にいわゆるギヤ鳴きなどの異音が発生したり、同期不良が生じたりする懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4121821号公報
【特許文献2】特開2011−64308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ブロッキングリングのドグ歯の一部を欠歯させた構成の同期装置において、部品の加工が簡単であり、かつ安価な構成で、シンクロスリーブに押されたシンクロスプリングの動きを規制でき、シンクロスプリングに変形などの不具合が生じることを防止できる変速機の同期装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、回転軸(2)に相対回転可能に支持された変速ギヤ(20)と、回転軸(2)に結合されたシンクロハブ(5)と、シンクロハブ(5)の外周に軸方向へ移動可能にスプライン結合されたシンクロスリーブ(10)と、シンクロスリーブ(10)の内周に形成したスプライン歯(11)と、シンクロハブ(5)と変速ギヤ(20)との間に配置されて変速ギヤ(20)側との摩擦係合が可能なブロッキングリング(30)と、変速ギヤ(20)の外周に形成されてシンクロスリーブ(11)のスプライン歯(11)が噛合可能なドグスプライン(26)と、ブロッキングリング(30)の外周に形成されてシンクロスリーブ(11)のスプライン歯(11)が噛合可能なドグ歯(33)と、ブロッキングリング(30)の外周側においてドグ歯(33)に隣接して設置され、シンクロスリーブ(10)のスプライン歯(11)で押圧されることで軸方向に移動可能な環状のシンクロスプリング(40)と、を備えた変速機の同期装置(1)において、ブロッキングリング(30)の外周には、周方向に沿って等間隔に配列された複数のドグ歯(33)の一部が間引かれた部分である欠歯部(36)が設けられており、欠歯部(36)には、シンクロスプリング(40)の内周縁(40a)よりも外径側に突出した突起状の座部(39)が形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明にかかる変速機の同期装置では、上記のように、ブロッキングリングの外周におけるドグ歯が間引かれている欠歯部に突起状の座部を設けている。この構成により、シンクロスリーブのスプライン歯で押圧されて移動するシンクロスプリングを座部で受け止めることが可能となる。したがって、シンクロスリーブのスプライン歯に先行歯を設けた構成の同期装置において、ブロッキングリングのドグ歯を間引いたことでシンクロスリーブのスムーズな動作を確保しながらも、シンクロスプリングがドグ歯の配列位置を越えて変速ギヤ側に飛び出すことを規制できる。したがって、シンクロスプリングに変形などの不具合が生じることを防止でき、同期動作に支障を来たすことを回避できる。
【0011】
また、上記の同期装置では、座部(39)は、欠歯部(36)において本来等間隔に配列されるべき各ドグ歯(33)の一部が除去された残余部分であってよい。この構成によれば、予めブロッキングリングの外周に沿って等間隔で形成した複数のドグ歯うち、欠歯部に対応する部分のドグ歯の一部を切除などにより除去することで、その残余部分で座部を構成することができる。したがって、本発明にかかるブロッキングリングを簡単な工程で安価に製作することができる。また、ドグ歯の一部を除去する際にその除去量を調節するだけで、座部の突出寸法の調整が行えるので、簡単な工程でシンクロスプリングが変速ギヤ側に突出しないように構成できる。
【0012】
またこの場合、ドグ歯(33)は、ブロッキングリング(30)の外周面に突出形成された歯元部(34)と、該歯元部(34)の上端部(外径側の端部)に一体形成された歯先部(35)とを有し、歯元部(34)は、そのシンクロスプリング(40)側の端面(34a)が平面状であり、歯先部(35)は、そのシンクロスプリング(40)側の端面が先尖状であり、欠歯部(36)の座部(39)は、ドグ歯(33)の歯元部(34)と同一の形状であるとよい。
【0013】
この構成によれば、ブロッキングリングのドグ歯を上記の歯元部と歯先部とで構成し、欠歯部に設けた座部をドグ歯の歯元部と同一の形状としたことで、欠歯部に対応する部分の各ドグ歯の歯先部を除去することで、その残余部分である歯元部で本発明の座部を構成することができる。したがって、より簡単な加工工程で座部の形成が可能となる。また、歯元部と同一の形状である座部は、そのシンクロスプリング側の端面が平面状であるため、軸方向に移動するシンクロスプリングを当接させて確実に受け止めることが可能となる。また、当接するシンクロスプリングに変形などの不具合が生じるおそれがない。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態における構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる変速機の同期装置によれば、ブロッキングリングのドグ歯の一部を間引いた構成の同期装置において、部品の加工が簡単であり、かつ安価な構成で、シンクロスリーブに押されて軸方向へ移動するシンクロスプリングの動きを効果的に規制でき、シンクロスプリングに変形などの不具合が生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態にかかる変速機の同期装置を示す側断面図である。
【図2】図1のX−X矢視断面図である。
【図3】ブロッキングリングを示す図で、(a)は、軸方向から見た側面図、(b)は、(a)のY部分の部分拡大斜視図である。
【図4】ブロッキングリングに対するシンクロスプリングの配置を説明するための図で、(a)は、ブロッキングリング及びシンクロスプリングの一部を示す部分拡大側面図、(b)は、(a)のZ−Z矢視断面を示す図である。
【図5】同期装置による同期動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる変速機の同期装置1を示す側断面図であり、図2は、図1のX−X矢視断面図である。また、図3は、後述するブロッキングリング30を示す図で、(a)は、軸方向から見た側面図、(b)は、(a)のY部分の部分拡大斜視図である。図1に示す同期装置1は、N速段とN+1速段の変速段を設定可能な同期装置の一部であり、例えば前進6速及び後進1速など複数段の変速段を設定可能な車両用のマニュアルトランスミッションに搭載されて好適な同期装置である。なお、図1に示す同期装置1は、実質的に同一の構成であるN速用の同期機構とN+1速用の同期機構を左右対称に備えているが、ここでは、右側の同期機構(N速用の同期機構)のみを図示している。
【0017】
本実施形態の同期装置1は、回転軸2にスプライン嵌合されたシンクロハブ5と、シンクロハブ5の外周に軸方向へ摺動自在にスプライン結合されたシンクロスリーブ10と、シンクロハブ5及びシンクロスリーブ10に対する軸方向の側部に設置された変速ギヤ20とを備えている。変速ギヤ20は、ニードルベアリング3を介して回転軸2上に回転自在に支持されている。変速ギヤ20のシンクロハブ5側には、外周にドグスプライン26が形成されたドグギヤ25がスプライン嵌合している。シンクロスリーブ10は、図示しないシフトフォークの摺動により、図1に示すニュートラル位置から軸方向に沿って左右に移動する。そして、右側のN速位置への移動によりN速変速段が確立される。
【0018】
シンクロハブ5の外周面には、スプライン歯6が形成されており、シンクロスリーブ10の内周面には、シンクロハブ5のスプライン歯6に噛み合うスプライン歯11が形成されている。図2に示すように、シンクロスリーブ10のスプライン歯11は、複数のドグ掻き分け歯(以下、「先行歯」と称す。)12と複数の同期歯(以下、「後退歯」と称す。)14とからなる。先行歯12は、後退歯14よりもその先端部(変速ギヤ20側の端部)が変速ギヤ20側に突出して設けられている。また、先行歯12と後退歯14それぞれの先端部には、該先端部を先尖状に面取り加工してなるチャンファ面12a,14aが形成されている。これらの先行歯12と後退歯14の各々は、シンクロスリーブ10の円周方向に沿って等間隔に形成されている。また、先行歯12と後退歯14は、それぞれが複数個ずつの組として設けられている。なお、シンクロスリーブ10が備える先行歯12と後退歯14それぞれの個数及び配列態様は、任意の個数及び配列であってよい。
【0019】
図1に示すように、ドグギヤ25のシンクロハブ5側に延びたボス部27の外周には、軸方向に対して円錐状に傾斜する傾斜面からなるテーパコーン面28形成されている。テーパコーン面28の外径側には、ブロッキングリング(シンクロナイザーリング)30が嵌合している。ブロッキングリング30は、所定幅を有する円形環状の部材で、その内周面には、ボス部27のテーパコーン面28に摺接する円錐状の傾斜面からなるテーパコーン面38が形成されている。また、ブロッキングリング30は、図3に示すように、その外周面における等間隔の複数箇所(図では3箇所)に形成した小突起からなる係合部31を備えており、該係合部31をシンクロハブ5に設けた凹部からなる受入部(図示せず)に対して周方向に僅かな隙間を有した状態で係合させている。これにより、ブロッキングリング30は、シンクロハブ5及びシンクロスリーブ10に対して、後述するドグ歯33の半ピッチ分だけ相対回転するようになっている。
【0020】
ブロッキングリング30の外周面には、径方向の外側に突出する複数のドグ歯33が形成されている。ドグ歯33は、ブロッキングリング30の外周面における軸方向の一方(変速ギヤ20側)の端部において周方向に沿って複数個が等間隔に配列されている。
【0021】
そして、本実施形態のブロッキングリング30には、周方向に沿って等間隔に配列された複数のドグ歯33のうちの一部が間引かれた部分である欠歯部36が設けられている。図3(a)に示す構成例では、ブロッキングリング30の外周面に本来配列されるべき39個のドグ歯33のうち、等間隔の3箇所の欠歯部36においてそれぞれ8個ずつのドグ歯33が間引かれている。したがって、ブロッキングリング30は、周方向の3箇所にそれぞれ5個ずつ配列した合計15個のドグ歯33のみを有している。そして、欠歯部36における各ドグ歯33に対応する位置(等間隔のドグ歯33が本来配列されるべき各位置)には、突起状の座部39が形成されている。
【0022】
図3(b)に示すように、ドグ歯33は、ブロッキングリング30の外周面に形成された略四角柱状の突起からなる歯元部34と、該歯元部34の上端部(外径側の端部)に一体形成された歯先部35とを有している。歯元部34は、略矩形状の小突起からなり、そのシンクロスリーブ10側(すなわち、後述するシンクロスプリング40側)の端面34aが平面状になっている。また、歯先部35は、上端側(径方向の外側)に向かって次第に細くなっており、かつ、そのシンクロスリーブ10側の端面(側面)が先尖状に面取り形成されたチャンファ面35aになっている。一方、欠歯部36に設けた座部39は、ドグ歯33の歯元部34と同一の形状である。したがって、座部39は、略区形状の小突起からなり、そのシンクロスリーブ10側の端面39aが平面状になっている。この座部39は、ドグ歯33の一部である歯先部35が切除された後の残余部分に相当する。
【0023】
また、図1に示すように、ブロッキングリング30の外周には、環状のシンクロスプリング40が設置されている。シンクロスプリング40は、弾性金属製の線材を円形環状に形成した部品であって、ブロッキングリング30の外周において、ドグ歯33に対して軸方向でシンクロハブ5及びシンクロスリーブ10側に隣接して設置されている。このシンクロスプリング40は、シンクロスリーブ10がニュートラル位置にあるとき、ブロッキングリング30のドグ歯33と、シンクロハブ5の軸方向の端面と、シンクロスリーブ10のスプライン歯11の先端部(変速ギヤ20側の端部)とに囲まれた位置にある。そして、シンクロスリーブ10が変速ギヤ20側に摺動すると、スプライン歯11の先端部の下端に設けた突出部11aで押圧されることで、ドグ歯33側に向かって軸心側(図の右斜め下側)へ押し出されるようになっている。
【0024】
図4は、ブロッキングリング30に対するシンクロスプリング40の配置関係を説明するための図で、(a)は、ブロッキングリング30及びシンクロスプリング40の一部を軸方向から見た部分拡大側面図、(b)は、(a)のZ−Z矢視断面を示す図で、ブロッキングリング30の外周側とシンクロスプリング40の側断面図である。なお、図4(a)では、シンクロスプリング40を点線で示している。また、図4(b)では、欠歯部36におけるドグ歯33の歯先部35に対応する部分を仮想線で記載している。同図に示すように、シンクロスプリング40は、その内周径がブロッキングリング30の外周径よりも大きな寸法に形成されている。そして、ブロッキングリング30に形成した座部39の上端面(外径側の端面)39bは、シンクロスプリング40の内周縁40aよりも外径側に突出している。これにより、シンクロスプリング40の変速ギヤ20側の端面は、欠歯部36に対応する位置を含む周方向の全体がドグ歯33の端面33aと座部39の端面39aとに対向している。したがって、シンクロスプリング40は、その全体がドグ歯33の配列位置を越えて変速ギヤ20側(図4(b)の右側)に飛び出すことが無いように構成されている。
【0025】
次に、上記構成の同期装置1による同期動作について説明する。図5は、同期動作を説明するための図で、図1のX−X矢視に対応する部分を示す図である。シフトレバー(図示せず)のシフト操作によって、シンクロスリーブ10を変速ギヤ20側に移動(摺動)させると、シンクロスリーブ10のスプライン歯11の突出部11a(図1参照)がシンクロスプリング40を径方向の内側及び軸方向の変速ギヤ20側へ押圧する。これにより、シンクロスプリング40を介してブロッキングリング30がドグギヤ25側に押圧される。
【0026】
このとき、シンクロスリーブ10のスプライン歯11で押圧されて移動するシンクロスプリング40は、ドグ歯33(歯元部34)の端面34a及び座部39の端面39aに当接して受け止められる。したがって、既述のように、シンクロスプリング40はその周方向の全体がドグ歯33の配列位置を越えて変速ギヤ20側へ飛び出すことがない。なおこのとき、シンクロスリーブ10のスプライン歯11(先行歯12及び後退歯14)は、図5(a)に示す位置にある。
【0027】
シンクロスリーブ10が変速ギヤ20側へさらに移動すると、図5(b)に示すように、シンクロスリーブ10の後退歯14のチャンファ面14aがブロッキングリング30のドグ歯33のチャンファ面35aに接触して、後退歯14によるドグ歯33の掻き分けが開始される。それと共に、図1に示すブロッキングリング30のテーパコーン面38とドグギヤ25のテーパコーン面28とが当接し、それらの間に摩擦トルクが発生してドグギヤ25が同期回転を始める。
【0028】
シンクロスリーブ10がさらに移動すると、後退歯14のチャンファ面14aがドグ歯33のチャンファ面35aに摺接しながらドグ歯33を掻き分けて前進し、さらに、図5(b)に点線で示すように、後退歯14のチャンファ面14aとドグ歯33のチャンファ面35aとの接触が解除されて、ブロッキングリング30の掻き分けが完了する。これにより、ブロッキングリング30のテーパコーン面38とドグギヤ25のテーパコーン面28との間の摩擦トルクがなくなり、ブロッキングリング30とドグギヤ25の同期動作が終了する。
【0029】
上記のようにしてシンクロスリーブ10とドグギヤ25を同期させた後にシンクロスリーブ10を更に移動させると、シンクロスリーブ10の先行歯12が後退歯14に先行してドグギヤ25のドグスプライン26に接触する。シンクロスリーブ10をさらに移動させると、図5(c)に示すように、先行歯12及び後退歯14が共にドグスプライン26に噛み込み係合する。これにより、シンクロスリーブ10と変速ギヤ20との結合が完了する。
【0030】
以上説明したように、本実施形態の変速機の同期装置1では、ブロッキングリング30の外周には、周方向に沿って等間隔に配列された複数のドグ歯33の一部が間引かれた部分である欠歯部36が設けられており、この欠歯部36には、シンクロスプリング40の内周縁40aよりも外径側に突出した突起状の座部39が形成されている。この構成により、シンクロスリーブ10のスプライン歯11で押圧されて軸方向に移動するシンクロスプリング40を座部39で受け止めることが可能となる。したがって、シンクロスリーブ10のスプライン歯11に先行歯12及び後退歯14を設けた構成の同期装置1において、ブロッキングリング30のドグ歯33を間引いたことで、シンクロスリーブ10のスムーズな動作を確保しながらも、欠歯部36に対応する位置のシンクロスプリング40がドグ歯33の配列位置を乗り越えて変速ギヤ20側に飛び出すことを規制できる。したがって、シンクロスプリング40に変形などの不具合が生じることを防止でき、同期動作に支障を来たすことを回避できる。
【0031】
また、上記の同期装置1では、座部39は、欠歯部36において間引かれている各ドグ歯33の一部が除去された後の残余部分である。この構成により、予めブロッキングリング30の外周に沿って等間隔で形成した複数のドグ歯33うち、欠歯部36に対応する部分のドグ歯33の一部を切除することで、その残余部分で座部39を構成することができる。したがって、本発明にかかる座部39を有するブロッキングリング30を簡単な工程で安価に製作することができる。また、ドグ歯33の一部を除去する際にその除去量を調節するだけで座部39の突出寸法の調整が行えるので、簡単な工程でシンクロスプリング40が変速ギヤ20側に突出しないように構成できる。
【0032】
また、本実施形態の同期装置1では、ブロッキングリング30のドグ歯33を上記の歯元部34と歯先部35とで構成し、欠歯部36に設けた座部39をドグ歯33の歯元部34と同一の形状としている。したがって、予めブロッキングリング30の外周に沿って等間隔に複数のドグ歯33を形成し、その後、欠歯部36に対応する部分の各ドグ歯33の歯先部35を除去することで、その残余部分である歯元部34で座部39を構成することができる。したがって、より簡単な加工工程で座部39の形成が可能となる。また、ドグ歯33の歯元部34と同一の形状である座部39は、そのシンクロスプリング40側の端面39aが平面状になっているので、軸方向に移動するシンクロスプリング40を当接させて確実に受け止めることが可能となる。また、当該端面39aが平面状になっていることで、シンクロスプリング40が当接しても変形などの不具合が生じるおそれがない。
【0033】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、本発明にかかる同期装置の構成は、上記の実施形態に示すシングルコーンタイプの同期装置だけでなく、マルチコーンタイプの同期装置にも適用することが可能である。
【0034】
また、上記の実施形態では、欠歯部に設けた座部の構成例として、矩形状の突起からなる座部39を等間隔に配列形成した場合を示したが、本発明にかかる欠歯部に設ける座部は、上記実施形態に示す以外にも、例えば、詳細な図示は省略するが、隣接する各座部39及び各ドグ歯33の歯元部34を周方向で連結することで、座部39及び歯元部34がブロッキングリング30の周方向の全体で連続した一本の帯状の突起となるように構成することも可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 同期装置
2 回転軸
3 ニードルベアリング
5 シンクロハブ
6 スプライン歯
10 シンクロスリーブ
11 スプライン歯
11a 突出部
12 先行歯(ドグ掻き分け歯)
14 後退歯(同期歯)
14a チャンファ面
20 変速ギヤ
25 ドグギヤ
26 ドグスプライン
27 ボス部
28 テーパコーン面
30 ブロッキングリング
33 ドグ歯
34 歯元部
34a 端面
35 歯先部
35a チャンファ面
36 欠歯部
38 テーパコーン面
39 座部
39a 端面
40 シンクロスプリング
40a 内周縁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に相対回転可能に支持された変速ギヤと、
前記回転軸に結合されたシンクロハブと、
前記シンクロハブの外周に軸方向へ移動可能にスプライン結合されたシンクロスリーブと、
前記シンクロスリーブの内周に形成したスプライン歯と、
前記シンクロハブと前記変速ギヤとの間に配置されて前記変速ギヤ側との摩擦係合が可能なブロッキングリングと、
前記変速ギヤ側に形成されて前記シンクロスリーブのスプライン歯が噛合可能なドグスプラインと、
前記ブロッキングリングの外周に形成されて前記シンクロスリーブのスプライン歯が噛合可能なドグ歯と、
前記ブロッキングリングの外周側において前記ドグ歯に隣接して設置され、前記シンクロスリーブの前記スプライン歯で押圧されることで軸方向に移動可能な環状のシンクロスプリングと、
を備えた変速機の同期装置において、
前記ブロッキングリングの外周には、周方向に沿って等間隔に配列された複数の前記ドグ歯の一部が間引かれた部分である欠歯部が設けられており、
前記欠歯部には、前記シンクロスプリングの内周縁よりも外径側に突出した突起状の座部が形成されている
ことを特徴とする変速機の同期装置。
【請求項2】
前記座部は、前記欠歯部において本来等間隔に配列されるべき各ドグ歯の一部が除去された残余部分である
ことを特徴とする請求項1に記載の変速機の同期装置。
【請求項3】
前記ドグ歯は、前記ブロッキングリングの外周面に突出形成された歯元部と、該歯元部の上端部に一体形成された歯先部とを有し、
前記歯元部は、前記シンクロスプリング側の端面が平面状であり、前記歯先部は、前記シンクロスプリング側の端面が先尖状であり、
前記欠歯部の前記座部は、前記ドグ歯の前記歯元部と同一の形状である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の変速機の同期装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−113404(P2013−113404A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261811(P2011−261811)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】