説明

変速機

【課題】シンクロメッシュ機構により変速歯車の切り換えを行う際に、衝撃音が発生することを防止する。
【解決手段】シンクロメッシュ機構は、変速軸10と一体的に回転されるクラッチハブ11の一側に回転自在に支持された変速歯車13にともに回転するように設けられたギヤピース21と、クラッチハブとギヤピースの間に設けられたシンクロナイザリング22を有している。ギヤピースは、その内周の内歯スプライン21cが変速歯車のボス部13aの外周の外歯スプライン13bに円周方向に所定角度範囲だけ相対回動可能にかつ軸線方向摺動可能に係合されて、バイアススプリング25により変速歯車に対し伝達される回転力と抗する向きに弾性的に付勢されて所定角度範囲の一方の終端部において停止され、またギヤピースと変速歯車は軸線方向において互いに弾性的に押圧されて当接されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンクロナイザリングを用いたシンクロメッシュ機構により変速歯車の切り換えを行う自動車などの車両に使用する変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の変速機としては手動変速機が代表的なものであり、例えば特許文献1に開示された技術がある。この技術では、回転軸にスプライン係合されたクラッチハブの外周部に、シフティングキーと共に軸長方向移動可能にスリーブが嵌合され、シフティングキーとスリーブとは突起部を介して弾性的に係合されている。シフティングキーの両側となる回転軸には作動ギヤがそれぞれ空転可能に保持され、各作動ギヤの段部には円錐面状の相手摩擦面を有するギヤピースがそれぞれ固定されている。シフティングキーと各ギヤピース部の間に保持された各シンクロナイザーリングの内周部には、相手摩擦面と摩擦係合可能に対面する摩擦面が形成されている。
【0003】
上述した手動変速機では、運転席の操作レバーによりシフトフォークを介してスリーブ軸長方向に移動することにより変速を行う。すなわち、シフトフォークによりスリーブが軸長方向一方に移動されると、突起部を介してスリーブと弾性的に係合されたシフティングキーが同方向に移動し、これによりシンクロナイザーリングの摩擦面がギヤピース部の相手摩擦面に押圧され、押圧に伴い摩擦面間に生じる伝達トルクによって、シンクロナイザーリングは作動ギヤの回転により引きずられ、スリーブのスプラインとシンクロナイザーリングのスプラインの円周方向にある定量分の位相があったインデックスポジションになる。スリーブが更に移動すると、スリーブはシフティングキーの突起部を超えてシンクロナイザーリングの外歯スプラインを直接軸長方向に押し、これによりシンクロナイザーリングの摩擦面がギヤピース部の相手摩擦面に更に強く圧着されて、クラッチハブ側と作動ギヤ側の同期が更に進む。そしてクラッチハブ側と作動ギヤ側が同期回転になると、両摩擦面に作用していた伝達トルクが消滅し、スリーブのスプラインがシンクロナイザーリングのスプラインを押し分けて、引き続きスリーブと作動ギヤがスプライン係合されて、クラッチハブと変速歯車の間で走行に必要な回転力が伝達されるようになる。
【特許文献1】特開平10−047376号公報(段落〔0010〕〜〔0014〕、図1,図2)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような手動変速機及びクラッチを含む車両の動力伝達装置は複数の部材を直列に配置したものであるが、各部材の連結部にはそれぞれ回転方向に多少のガタが存在し、クラッチが接続された状態では、これらのガタは全て走行に必要な回転力が伝達される方向に詰められ当接されて動力伝達がなされている。このような車両の動力伝達装置では、変速歯車の切り換えに先立ち、エンジンと変速機の間に設けたクラッチによる動力伝達を遮断して伝達トルクを0にする必要があるが、伝達トルクが0になった車両の惰性走行状態でも、動力伝達装置の各部材には油の撹拌や摩擦抵抗やトルクによるねじれの解放により多少の角速度変動が存在するため、それまで走行に必要な回転力が伝達される方向に詰められ当接されていた各部材の連結部が離れて、ガタの範囲内において回転方向に多少の隙間が生じる。
【0005】
このような状態において前述した変速操作を行うと、シンクロナイザーリングの摩擦面がギヤピース部の相手摩擦面に押圧され、摩擦面間に生じる伝達トルクによって作動ギヤがクラッチハブと同期される向きに回転し始める際に、動力伝達装置の各部材の連結部に生じていた回転方向における隙間が次々と当接され、最後の隙間が当接された瞬間にがた詰まりによる衝撃音が生じる。また、同期作用がさらに進み、クラッチハブ側と作動ギヤ側が同期回転になると、前述のように両摩擦面の間の伝達トルクは消滅し、動力伝達装置の各部材には油の撹拌や摩擦抵抗などのトルクによるねじれの解放による反発力により、再び動力伝達装置の各部材の連結部が離れて回転方向に多少の隙間が生じるので、次にスリーブと作動ギヤがスプライン係合される際にも回転数差により各部材の連結部に生じていた回転方向における隙間が当接され、その際にも衝撃が発生する。これらの衝撃は低速段側から高速段側にシフトアップする際に特に激しく生じ、操作フィーリングを悪化させる原因となる。
【0006】
本発明は、ギヤピースを変速歯車に円周方向に所定角度範囲だけ相対回動可能に取り付けるとともに変速歯車に対し伝達される回転力と抗する向きに弾性的に付勢し、またギヤピースと変速歯車の間に回転方向の衝撃を吸収する緩衝機能を有する部分を設けることにより、このような衝撃及びそれにより発生する衝撃音の発生を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による変速機は、変速軸と一体的に回転されるクラッチハブと、このクラッチハブの一側となる変速軸に回転自在に支持された変速歯車と、この変速歯車のクラッチハブ側に同軸的に取り付けられてともに回転されクラッチハブ側となる突出部の外周面に同軸的に円錐面が形成されたギヤピースと、クラッチハブとギヤピースの間に回転自在にかつ多少距離軸線方向移動可能に支持されギヤピースの円錐面と対向する内周に円錐穴が形成されたシンクロナイザリングと、クラッチハブの外周に形成された外歯スプラインと軸線方向摺動可能に噛合される内歯スプラインが内周に形成されるとともにシフトフォークにより軸線方向に往復動されるスリーブを備えてなり、スリーブの軸線方向移動により、シンクロナイザリングを軸線方向に移動させ円錐穴を円錐面に摩擦係合させるとともにスリーブの内歯スプラインをシンクロナイザリングの外周の外歯スプラインに噛合させて変速歯車の回転とクラッチハブの回転とを同期させ、次いでスリーブの内歯スプラインをギヤピースの外周の外歯スプラインに噛合させることによりスリーブを介してクラッチハブと変速歯車の間で走行に必要な回転力を伝達するようにした変速機において、ギヤピースは変速歯車に円周方向に所定角度範囲だけ相対回動可能にかつ軸線方向摺動可能に取り付けられるとともに変速歯車に対し伝達される回転力と抗する向きに弾性的に付勢されて所定角度範囲の一方の終端部において停止され、またギヤピースと変速歯車は軸線方向において互いに弾性的に押圧されて当接されていることを特徴とするものである。
【0008】
前項に記載の変速機において、ギヤピースの内周に形成した内歯スプラインは変速歯車から軸線方向に突出するボス部の外周に形成した外歯スプラインに円周方向に所定角度範囲だけ相対回動可能にかつ軸線方向摺動可能に係合させることが好ましい。
【0009】
前項に記載の変速機において、ギヤピースは変速歯車のボス部の先端部との間に介装したスプリングにより軸線方向に弾性的に押圧されて変速歯車の端面に当接されていることが好ましい。
【0010】
前各項に記載の変速機において、ギヤピースと変速歯車はそれらの相対回動の中心から偏心した各位置にバイアススプリングの両端をそれぞれ係止して、伝達される回転力と抗する向きに弾性的に付勢されていることが好ましい。
【0011】
前各項に記載の変速機において、ギヤピースと変速歯車は摩擦板を介して弾性的に当接されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
エンジンと変速機の間に設けたクラッチを遮断した状態では、変速歯車に円周方向に所定角度範囲だけ相対回動可能に取り付けられたギヤピースは、変速歯車に対し伝達される回転力と抗する向きに弾性的に付勢されて所定角度範囲の一方の終端部において停止されるとともに、軸線方向において弾性的に押圧されて変速歯車に当接されている。またクラッチを遮断した状態では、従来技術において述べたように、動力伝達装置の各部材の連結部が離れて、ガタの範囲内において回転方向に多少の隙間が生じている。この状態において変速操作を行い、シンクロナイザリングの円錐穴がギヤピースの円錐面に押圧されて、円錐穴と円錐面の間に生じる摩擦伝達トルクによってギヤピースがクラッチハブと同期される向きに回転し始めると、各部材の連結部に生じていた回転方向における隙間は次々と当接され、最後の隙間が当接する瞬間に衝撃を生じようとする。
【0013】
しかしながらシフトアップの場合には、通常はギヤピースがクラッチハブと同期される向きは走行に必要な回転力を伝達する向きと抗する向きになるので、本発明による変速機によれば、所定角度範囲の一方の終端部において変速歯車に当接されていたギヤピースは、最後の隙間が当接された瞬間に所定角度範囲の一方の終端部において停止された位置から弾性的付勢力と抗する向きに回動して、その当接の瞬間に生じようとする衝撃は、軸線方向における変速歯車とギヤピースの間の弾性的当接部の回動方向の摺動摩擦により緩衝されて吸収される。引き続きスリーブとギヤピースがスプライン係合する際に生じようとする衝撃も、同様に緩衝されて吸収される。従ってシフトアップの場合に生じる衝撃及びそれにより発生する衝撃音を減少させて操作フィーリングの悪化を減少させることができる。
【0014】
ギヤピースの内周に形成した内歯スプラインを変速歯車から軸線方向に突出するボス部の外周に形成した外歯スプラインに円周方向に所定角度範囲だけ相対回動可能にかつ軸線方向摺動可能に係合させた請求項2の発明によれば、変速歯車に対しギヤピースを円周方向に所定角度範囲だけ相対回動可能にかつ軸線方向摺動可能に取り付ける構造を、きわめて簡単かつ確実に実現することができる。
【0015】
ギヤピースを変速歯車のボス部の先端部との間に介装したスプリングにより軸線方向に弾性的に押圧させて変速歯車の端面に当接させた請求項3の発明によれば、ギヤピースと変速歯車が軸線方向において互いに弾性的に押圧されて当接される構造を、きわめて簡単かつ確実に実現することができる。
【0016】
ギヤピースと変速歯車はそれらの相対回動の中心から偏心した各位置にバイアススプリングの両端をそれぞれ係止して、伝達される回転力と抗する向きに弾性的に付勢されるようにした請求項4の発明によれば、変速歯車に対しギヤピースを伝達される回転力と抗する向きに弾性的に付勢する構造を、きわめて簡単かつ確実に実現することができる。
【0017】
ギヤピースと変速歯車が摩擦板を介して弾性的に当接されるようにした請求項5の発明によれば、動力伝達装置の各部材の連結部に生じる隙間が次々と当接されて最後の隙間が当接する瞬間に生じようとする衝撃を摺動摩擦により緩衝して吸収する機能を高め、シフトアップの場合に生じる衝撃及びそれにより発生する衝撃音の発生を大幅に低下させて、操作フィーリングの悪化を一層減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、図1及び図2に示す実施形態により、本発明を手動変速機に適用した場合の説明をする。この手動変速機は、図1に示すように、変速軸10に一体的に設けられたクラッチハブ11と、クラッチハブ11の両側となる変速軸10に回転自在に設けられた第1及び第2変速歯車13,14と、高速段の第1変速歯車13とクラッチハブ11の間に設けられた第1同期噛合手段20と、低速段の第2変速歯車14とクラッチハブ11の間に設けられた第2同期噛合手段30を備えている。
【0019】
クラッチハブ11は変速軸10に同軸的にスプライン係合され、フランジ部10aと止め輪12により軸線方向移動が拘束されて固定されている。クラッチハブ11の外周に形成された外歯スプライン11aには、スリーブ15の内周に形成された内歯スプライン15aが軸線方向摺動自在に噛合され、スリーブ15はその外周に形成した環状溝15bに変速レバーにより作動されるシフトフォーク18が回転自在に係合されて、往復動されるようになっている。クラッチハブ11には、円周方向3カ所に軸線方向及び半径方向摺動可能にシフティングキー16が設けられて、一箇所が切り離された環状のキースプリング17により半径方向外向きに弾性的に付勢されている。シフティングキー16の長手方向中央部には両側にゆるい傾斜面を有する突部16aが形成され、この突部16aはキースプリング17により、スリーブ15の内歯スプライン15aの内側に形成した両側にゆるい傾斜面を有する凹部15cに弾性的に係合されている。
【0020】
第1変速歯車13は、図1においてクラッチハブ12の左側となる変速軸10にニードル軸受を介して回転自在に支持され、クラッチハブ11側となる端面13cから同軸的に突出する筒状のボス部13aの外周には外歯スプライン13bが形成されている。第1同期噛合手段20は、ギヤピース21とシンクロナイザリング22よりなり、ギヤピース21はその内周に形成された内歯スプライン21cが低速段の第1変速歯車13のボス部13aの外歯スプライン13bに噛合されている。この噛合は、図2に示すように、外歯スプライン13bの山部と内歯スプライン21cの谷部が嵌合されて回動自在に心出しされ、斜面部に隙間が設けられて、ギヤピース21は第1変速歯車13に対し円周方向に所定角度範囲だけ相対回動可能かつ軸線方向摺動可能に取り付けられている。このギヤピース21は、そのクラッチハブ11側となる端面と第1変速歯車13のボス部13aの先端部に係止したスナップリング24aとの間に介装した環状のスプリング24により、図1において左向きに付勢され、これによりギヤピース21は摩擦板23を介して第1変速歯車13の端面13cに押圧されるようになっている。この摩擦板23は、ギヤピース21の端面21dまたは第1変速歯車13の端面13cに接着されている。
【0021】
また図2に示すように、ギヤピース21と第1変速歯車13には、それらの相対回動の中心から偏心して、第1変速歯車13のボス部13aの外径と摩擦板23の内径の間となりかつ円周方向において互いに接近した各位置に、それぞれ引っ掛け孔21e,13dが形成されている。この各引っ掛け孔21e,13dに、ばね鋼線を略環状に湾曲させたバイアススプリング25の両端の折曲部をそれぞれ係止することにより、ギヤピース21は第1変速歯車13に対し、走行に必要な回転力と抗する向きに弾性的に付勢されて、前述した相対回動可能な所定角度範囲の一方の終端部において停止される。ギヤピース21には、クラッチハブ11側となる筒状の突出部の外周面に同軸的に円錐面21aが形成されている。
【0022】
シンクロナイザリング22は、クラッチハブ11とギヤピース21の間に、軸線方向に多少距離移動可能に設けられ、その内面にはギヤピース21の円錐面21aと係合可能な円錐穴22aが形成されている。またシンクロナイザリング22は、その円周方向3カ所に形成した切欠き部22cがある程度の隙間をおいて各シフティングキー16の軸線方向一端部と係合しており、この隙間の範囲内において、クラッチハブ11に対し相対回動可能である。シンクロナイザリング22とギヤピース21の外周部には、軸線方向に移動するスリーブ15の内周の内歯スプライン15aと係合可能な外歯スプライン22b及び外歯スプライン21bが形成されている。図示は省略したが、各スプライン15a,22b,21bの先端部には係合を容易にするためのチャンファが形成されている。
【0023】
第2同期噛合手段30は、ギヤピース31とシンクロナイザリング32よりなり、ギヤピース31は外歯スプライン14b及び内歯スプライン31cを介して、高速段の第2変速歯車14のボス部14aに圧入固着されており、従って摩擦板23、スプリング24及びバイアススプリング25に相当する部材が存在しない点を除き、第1同期噛合手段20と同じである。この第2同期噛合手段30は、特許文献1で述べた従来技術と実質的に同じである。高速段の動力伝達経路では、本発明が問題とする衝撃音の発生が比較的少ないので、このように従来技術の同期噛合手段を使用することも可能である。
【0024】
次に上述した実施形態の第1同期噛合手段20の作動の説明をする。エンジンと手動変速機の間に設けたクラッチを遮断した状態では、第1変速歯車13に円周方向に所定角度範囲だけ相対回動可能に取り付けられたギヤピース21は、第1変速歯車13に対し伝達される回転力と抗する向きに弾性的に付勢されて所定角度範囲の一方の終端部において停止され、また押圧スプリング24により軸線方向に弾性的に押圧され、摩擦板23を介して第1変速歯車13の端面13cに当接されている。クラッチを遮断した惰性走行状態では、従来技術において述べたように、動力伝達装置の各部材の連結部が離れて、ガタの範囲内において回転方向に多少の隙間が生じている。この状態において変速操作を行い、シンクロナイザリング22の円錐穴22aがギヤピース21の円錐面21aに押圧されて、円錐穴22aと円錐面21aの間に生じる摩擦伝達トルクによってギヤピース21がクラッチハブ11と同期される向きに回転し始めると、各部材の連結部に生じていた回転方向における隙間は次々と当接され、最後の隙間が当接する瞬間に衝撃を生じようとする。
【0025】
しかしながらシフトアップの場合には、通常はギヤピース21がクラッチハブ11と同期される向きは走行に必要な回転力を伝達する向きと反対であり、一方、ギヤピース21はバイアススプリング25により走行に必要な回転力と逆向きに付勢されて所定角度範囲の一方の終端部において第1変速歯車13に当接して停止されているので、最後の隙間が当接された瞬間に第1変速歯車13に対し停止されていた位置からバイアススプリング25により与えられる弾性的付勢力に抗して、図2において反時計回転方向に回動する。従って、最後の隙間が当接する瞬間に生じようとする衝撃は、スプリング24により軸線方向において弾性的に互いに当接される第1変速歯車13とギヤピース21の間に介装された摩擦板23と第1変速歯車13及び/またはギヤピース21の間の回動方向の摺動摩擦により緩衝されて吸収される。引き続きスリーブとギヤピースがスプライン係合する際に生じようとする衝撃も、同様に緩衝されて吸収される。従ってシフトアップの場合に生じる衝撃を減少させて操作フィーリングの悪化を減少させることができる。
【0026】
上述した実施形態では、ギヤピース21の内周に形成した内歯スプライン21cを第1変速歯車13から軸線方向に突出するボス部13aの外周に形成した外歯スプライン13bに円周方向に所定角度範囲だけ相対回動可能にかつ軸線方向摺動可能に係合させており、そのようにすれば、第1変速歯車13に対しギヤピース21を円周方向に所定角度範囲だけ相対回動可能にかつ軸線方向摺動可能に取り付ける構造を、きわめて簡単かつ確実に実現することができる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、種々の異なる構造を用いて実施することも可能である。
【0027】
また上述した実施形態では、ギヤピース21を第1変速歯車13のボス部13aの先端部に係止したスナップリング24aとの間に介装したスプリング24により軸線方向に弾性的に押圧させて第1変速歯車13の端面13cに当接させており、このようにすれば、ギヤピース21と第1変速歯車13が軸線方向において互いに弾性的に押圧されて当接される構造を、きわめて簡単かつ確実に実現することができる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、これと異なる構造でギヤピース21を第1変速歯車13に弾性的に押圧するようにして実施することも可能である。
【0028】
また上述した実施形態では、ギヤピース21と第1変速歯車13はそれらの相対回動の中心から偏心した各位置にバイアススプリング25の両端をそれぞれ係止して、伝達される回転力と抗する向きに弾性的に付勢されるようにしており、このようにすれば、第1変速歯車13に対しギヤピース21を伝達される回転力と抗する向きに弾性的に付勢する構造を、きわめて簡単かつ確実に実現することができる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、これと異なる構造で第1変速歯車13に対しギヤピース21を伝達される回転力と抗する向きに弾性的に付勢するようにして実施することも可能である。
【0029】
さらに上述した実施形態では、ギヤピース21と第1変速歯車13が摩擦板23を介して弾性的に当接されるようにしており、このようにすれば、動力伝達装置の各部材の連結部に生じる隙間が次々と当接されて最後の隙間が当接する瞬間に生じようとする衝撃を摺動摩擦により緩衝して吸収する機能を高めて、シフトアップの場合に生じる衝撃及びそれにより発生する衝撃音の発生を大幅に低下させて、操作フィーリングの悪化を一層減少させることができる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、摩擦板を廃しギヤピース21の端面21dを第1変速歯車13の端面13cに直接当接するようにしてもよく、その場合は各端面13c,21dを互いに係合可能な円錐面とすることにより充分な摩擦伝達トルクを得ることができる。
【0030】
なお前述のように、高速段の動力伝達経路では本発明が問題とする衝撃及びそれにより発生する衝撃音の発生が比較的少ないので、場合によっては、上述した実施形態のように、高速段である第2変速歯車14とクラッチハブ11の間には特許文献1で述べた従来技術と実質的に同じ第2同期噛合手段30を使用することも可能である。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、低速段の第1変速歯車13とクラッチハブ11の間だけでなく、高速段の第2変速歯車14とクラッチハブ11の間にも、ギヤピースを円周方向に所定角度範囲だけ相対回動可能にかつ軸線方向摺動可能に変速歯車に取り付けるとともに伝達される回転力と抗する向きに弾性的に付勢し、またギヤピースと変速歯車を軸線方向において互いに弾性的に押圧するようにした第1同期噛合手段20と同じ同期噛合手段を設けるようにして実施することも可能である。
【0031】
上述した実施形態では、本発明を手動変速機に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、シンクロメッシュ機構を使用して変速歯車の切り換えを行う変速機を車速などに応じて自動的に切り替えるようにした自動変速機にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による変速機の一実施形態の歯車切換部分の構造を示す断面図である。
【図2】図1に示す一実施形態の2−2線に沿った部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0033】
10…変速軸、11…クラッチハブ、11a…外歯スプライン、13…変速歯車(第1変速歯車)、13a…ボス部、13b…外歯スプライン、13c…端面、15…スリーブ、15a…内歯スプライン、18…シフトフォーク、21…ギヤピース、21a…円錐面、21b…外歯スプライン、21c…内歯スプライン、22…シンクロナイザリング、22a…円錐穴、22b…外歯スプライン、23…摩擦板、24…スプリング、25…バイアススプリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速軸と一体的に回転されるクラッチハブと、このクラッチハブの一側となる前記変速軸に回転自在に支持された変速歯車と、この変速歯車の前記クラッチハブ側に同軸的に取り付けられてともに回転され前記クラッチハブ側となる突出部の外周面に同軸的に円錐面が形成されたギヤピースと、前記クラッチハブと前記ギヤピースの間に回転自在にかつ多少距離軸線方向移動可能に支持され前記ギヤピースの円錐面と対向する内周に円錐穴が形成されたシンクロナイザリングと、前記クラッチハブの外周に形成された外歯スプラインと軸線方向摺動可能に噛合される内歯スプラインが内周に形成されるとともにシフトフォークにより軸線方向に往復動されるスリーブを備えてなり、前記スリーブの軸線方向移動により、前記シンクロナイザリングを軸線方向に移動させ前記円錐穴を前記円錐面に摩擦係合させるとともに前記スリーブの内歯スプラインを前記シンクロナイザリングの外周の外歯スプラインに噛合させて前記変速歯車の回転と前記クラッチハブの回転とを同期させ、次いで前記スリーブの内歯スプラインを前記ギヤピースの外周の外歯スプラインに噛合させることによりスリーブを介してクラッチハブと変速歯車の間で走行に必要な回転力を伝達するようにした変速機において、前記ギヤピースは前記変速歯車に円周方向に所定角度範囲だけ相対回動可能にかつ軸線方向摺動可能に取り付けられるとともに前記変速歯車に対し伝達される前記回転力と抗する向きに弾性的に付勢されて前記所定角度範囲の一方の終端部において停止され、また前記ギヤピースと変速歯車は軸線方向において互いに弾性的に押圧されて当接されていることを特徴とする変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の変速機において、前記ギヤピースの内周に形成した内歯スプラインは前記変速歯車から軸線方向に突出するボス部の外周に形成した外歯スプラインに円周方向に所定角度範囲だけ相対回動可能にかつ軸線方向摺動可能に係合させたことを特徴とする変速機。
【請求項3】
請求項2に記載の変速機において、前記ギヤピースは前記変速歯車のボス部の先端部との間に介装したスプリングにより軸線方向に弾性的に押圧されて前記変速歯車の端面に当接されていることを特徴とする変速機。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の変速機において、前記ギヤピースと変速歯車はそれらの相対回動の中心から偏心した各位置にバイアススプリングの両端をそれぞれ係止して、伝達される前記回転力と抗する向きに弾性的に付勢されていることを特徴とする変速機。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の変速機において、前記ギヤピースと変速歯車は摩擦板を介して弾性的に当接されていることを特徴とする変速機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−75672(P2008−75672A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252334(P2006−252334)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】