説明

変速機

【課題】変速機の全長を短縮化できる軸受け固定構造をもつ変速機を提供する。
【解決手段】本発明の変速機は、回転軸1と、回転軸1の一端部の外周側に固定される軸受け内周部21と、外周面に周方向に形成された軸受け側固定溝221をもち軸受け内周部21の外周側に回動可能かつ軸方向の移動が規制されるように周設された軸受け外周部22とを備える軸受け2と、軸受け2の軸受け外周部22の軸受け側固定溝内221に内周部が嵌め込まれ略C字形状をもつスナップリング3と、軸受け2の軸受け側固定溝221に対向しかつスナップリング3の外周部が内部に嵌め込まれるケース側固定溝41が内周面に形成され、軸受け2の軸受け外周部22の外面を覆う軸受け固定部42と、軸受け固定部42におけるケース側固定溝41の周方向の一部を含み回転軸1に略垂直方向に開口する作業用口43とをもつケース4と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機に関し、特に軸受けを固定する構造に特徴を有する変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用変速機は、車両のコンパクト化に伴い全長の短縮化が求められている。また、低燃費化を目的とした多段化により、変速段が増加した分を別の箇所や工夫で全長が延長しないよう、あるいは、より短縮するような構造が求められているのが現状である。
【0003】
ところで、従来の一般的に使用されている変速機において、回転軸を変速機のケースに回転可能に支承するための軸受けが固定された状態を示す一部断面図を図2に示している。図2は、市販されているFF自動車用横置き型変速機(日産自動車株式会社、RS5F70A)の一部断面図で、回転軸91の一端側(図面左方)に深溝玉軸受け92が使用されている。軸受けは、歯車により発生する荷重を受けながら軸を回転させるだけでなく、その軸自体の軸方向の位置決めの機能も併せ持つという重要な役割を担っている。そのため、図3に示されるように、軸受け外周部にスナップリング93が使用され、そのスナップリング93を組み付け後、組み付けのために使用した開口部を蓋94で塞ぎ、蓋94を5本のボルト95で固定している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この構造では軸受けの一端側に、「蓋94の厚み+ボルト95の頭部高さ」が必要となり、変速段の多段化等に伴う延長方向と同じ方向に変速機の全長を延ばしている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、変速機の全長を短縮できる軸受け固定構造をもつ変速機を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための請求項1に係る発明の構成上の特徴は、回転軸と、
前記回転軸の一端部の外周側に固定される軸受け内周部と、外周面に周方向に形成された軸受け側固定溝をもち前記軸受け内周部の外周側に回動可能かつ軸方向の移動が規制されるように周設された軸受け外周部とを備える軸受けと、
前記軸受けの前記軸受け外周部の前記軸受け側固定溝内に内周部が嵌め込まれ略C字形状をもつ、拡径方向又は縮径方向に変形可能なスナップリングと、
前記軸受けの前記軸受け側固定溝に対向しかつ前記スナップリングの外周部が内部に嵌め込まれるケース側固定溝が内周面に形成され、前記軸受けの前記軸受け外周部の外面を概ね隙間なく覆う内面形状をもつ軸受け固定部と、前記軸受け固定部における前記ケース側固定溝の周方向の一部を含み前記回転軸に略垂直方向に開口する作業用口とをもち、前記回転軸、軸受け及び前記スナップリングを収納する収納空間を区画するケースと、
を有することである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明においては、ケースが回転軸に対して略垂直方向に開口する作業用口を有することで、スナップリングを組み付けるための蓋とボルトとが回転軸方向から垂直方向に取り付けられるようになるため、回転軸方向に延長しがちな変速機の全長を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係る変速機を、自動車に搭載される変速機に具体化した場合について説明する。
(実施形態1)
本実施形態1の変速機は、図1に示されるように、回転軸1と、軸受け2と、スナップリング3と、ケース4とを有する。
【0009】
回転軸1は、一端側が後述するケース4に軸受け2を介して回転自在に支承される。回転軸1には、図示が省略されているが、一端側から他端側の間に、複数の歯車が同軸で回転自在あるいは一体回転可能に支承されている。
【0010】
軸受け2は、回転軸1の一端側で回転軸1の軸方向の移動を規制するように、回転軸1の外周側でかつケース4の内周側に配設される部材である。つまり、回転軸1の一端側とケース4との間に位置する部材である。軸受け2は、回転軸1の一端部の外周側に固定される軸受け内周部21と、軸受け内周部21より外周側に位置しケース4に接する軸受け外周部22と、軸受け内周部21及び軸受け外周部22の間に位置し回転自在なボール状のベアリング23とを有する。そして、軸受け外周部22は外周面に周方向に形成された軸受け側固定溝221を有する。
【0011】
スナップリング3は、内周部が軸受け外周部22の軸受け側固定溝221に嵌め込まれ、外周部が後述するケース4のケース側固定溝41に嵌め込まれる略C字形状の部材で、切り欠き部分の両端が外周側に曲がっているつまみ部31を有する。スナップリング3は、通常形態と径が拡大する拡径方向とに変形可能で、通常形態あるいは通常形態より若干拡径方向に変形されている状態で軸受け2を軸方向への移動を規制してケース4に固定し、拡径方向に変形した状態で軸受け2のケース4への固定を解除する。
【0012】
ケース4は、回転軸1、軸受け2、スナップリング3及び複数の歯車等の変速を行うための部材が内部に収納される収納空間40をもつ変速機のケースである。ケース4は、ケース側固定溝41と、軸受け固定部42と、作業用口43と、蓋44とをもつ。
【0013】
ケース側固定溝41は、軸受け固定部42の内面側であって、軸受け2の軸受け外周部22の軸受け側固定溝221に対向する位置でスナップリング3の外周部が嵌め込まれる内周側が開口した周方向に連続して形成された溝である。ケース側固定溝41は、軸方向の幅がスナップリング3と厚みと同程度で、径方向にスナップリング3が拡径方向に変形している場合にスナップリング3全体が嵌入されるだけの深さがある。つまり、スナップリング3が通常形態ではスナップリング3の外周がケース側固定溝41の内周面に接しないだけの余裕があるように、ケース側固定溝41の深さが決定されている。
【0014】
軸受け固定部42は、軸受け2の軸受け外周部22の外周面を概ね隙間なく覆う内面形状をもつ。作業用口43は、軸受け固定部42におけるケース側固定溝41の周方向の一部を含み、軸方向でスナップリング3の厚さより少し広く、円周方向でスナップリング3の切り欠きよりも広く、回転軸1に略垂直方向、図1において、上方に開口している。そして、外周面近くでは、軸方向及び周方向で内周側より大きく開口するように形成されている。蓋44は、作業用口43をケース4外面から覆い隠す板状の部材で、蓋44をケース4に固定するためのボルト孔(図示略)を2カ所有する。
【0015】
次に、本実施形態1の変速機において、回転軸1をケース4に回転自在に支承する方法(軸受け2をケース4に固定する方法)について説明する。
【0016】
まず、回転軸1の一端側を軸受け2の軸受け内周部21に嵌入し、軸受け2を回転軸1に固定する。次に、スナップリング3をケース4の軸受け固定部42の内径より縮めて、図1(b)における右側からケース4のケース側固定溝41に嵌め込む。そして、スナップリングプライヤでスナップリング3をケース側固定溝41内にて拡径方向に変形する。スナップリング3が拡径方向に変形することで、スナップリング3の内径はケース4の軸受け固定部42の内径とほぼ同じになり、軸受け2が軸方向で軸受け固定部42内周側に嵌入することができる。よって、図1(b)において、軸受け2が固定された回転軸1を軸受け2を左側にして、ケース4の右側から左側に挿入できる。軸受け2の軸受け外周部22の外周面がケース4の軸受け固定部42に接するまで、回転軸1は挿入される。スナップリングプライヤをスナップリング3から外し、作業用口43から取り出す。この際、スナップリング3が通常形態で、軸受け2の軸受け外周部22の軸受け側固定溝221にスナップリング3の内周部が嵌入されるように、回転軸1を軸方向で調節する。スナップリング3が軸受け側固定溝221に嵌合している状態で、ケース4に軸受け2が固定され、回転軸1に回転自在にケース4に支承される。そして、作業用口43に蓋44を上方から被せ、ボルト5を上方から下方にケース4に螺合し、蓋44をケース4に固定する。
【0017】
本実施形態1の変速機によれば、軸受け2をケース4に固定及び解除するためにスナップリング3を変形させるための作業用口43が回転軸1に対して略垂直方向に開口するようにケース4に形成されているため、回転軸1の軸方向に蓋やその蓋をケース4に固定するためのボルトの頭分の長さがなくなり、これまでより短縮される。
(実施形態2)
本発明の実施形態2について具体的に説明する。本実施形態2は実施形態1と基本的には同様の構成及び同様の作用効果を有する。以下、異なる部分を中心に説明する。
【0018】
本実施形態2の変速機で用いられるスナップリング3は、通常形態あるいは通常形態から若干縮径方向に縮小した状態で軸受け2をケース4に固定し、縮径方向の変形した状態で軸受け2の固定を解除する。よって、軸受け2の軸受け外周部22の軸受け側固定溝221の径方向の深さが、スナップリング3の縮径方向の変形でスナップリング3の内周面が軸受け側固定溝221の底部である外周面に接し、スナップリング3の通常形態ではスナップリング3の内周面が軸受け側固定溝221の外周面に接しない。そして、ケース4のケース側固定溝41の径方向の深さは、スナップリング3が通常形態でスナップリング3の外周面がケース側固定溝41の内周面に接する程度である。
【0019】
本実施形態2の変速機において、軸受け2が固定された回転軸1をケース4に固定する際、スナップリング3は軸受け2の軸受け外周部22の軸受け側固定溝221に縮径方向の変形で嵌め込まれている。回転軸1をケース4に挿入後、作業用口43から軸受け2の軸受け側固定溝221に嵌め込まれているスナップリング3を通常形態に戻す。そして、蓋44をボルト5でケース4に固定する。
【0020】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、ケース4の作業用口43は、上方に限られず、回転軸1に対して略垂直方向であり、回転軸方向に延長しないように、蓋やボルトが配置するものであれば、どこでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は(b)のA−A’断面図で、(b)本実施形態1の変速機の軸方向の一部断面図である。
【図2】従来技術の変速機の一部断面図である。
【図3】従来技術の変速機で用いられるケースの一部斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1:回転軸、
2:軸受け、21:軸受け内周、22:軸受け外周部、221:軸受け側固定溝、23:ベアリング、
3:スナップリング、31:つまみ部、
4:ケース、41:ケース側固定溝、42:軸受け固定部、43:作業用口、44:蓋、
5:ボルト、
91:回転軸、92:軸受け、93:スナップリング、94:蓋、95:ボルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸の一端部の外周側に固定される軸受け内周部と、外周面に周方向に形成された軸受け側固定溝をもち前記軸受け内周部の外周側に回動可能かつ軸方向の移動が規制されるように周設された軸受け外周部とを備える軸受けと、
前記軸受けの前記軸受け外周部の前記軸受け側固定溝内に内周部が嵌め込まれ略C字形状をもつ、拡径方向又は縮径方向に変形可能なスナップリングと、
前記軸受けの前記軸受け側固定溝に対向しかつ前記スナップリングの外周部が内部に嵌め込まれるケース側固定溝が内周面に形成され、前記軸受けの前記軸受け外周部の外面を概ね隙間なく覆う内面形状をもつ軸受け固定部と、前記軸受け固定部における前記ケース側固定溝の周方向の一部を含み前記回転軸に略垂直方向に開口する作業用口とをもち、前記回転軸、軸受け及び前記スナップリングを収納する収納空間を区画するケースと、
を有することを特徴とする変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−133376(P2009−133376A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308963(P2007−308963)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】