説明

変速装置、それを備えた車両、並びに変速機構の制御装置およびその制御方法

【課題】変速ショックを低減することによりドライバビリティを向上する。
【解決手段】変速装置20は、変速機構20aと、モータ駆動部としての駆動回路8と、制御部としてのECU7と、を備えている。変速機構20aは、変速比を無段に変更するモータ30を有する。駆動回路8は、モータ30にパルス電圧を印加する。ECU7は、制御信号を駆動回路8に対して出力する。制御信号は、パルス電圧のデューティー比およびパルス高さのうち少なくとも一方を変化させる信号である。ECU7は、制御信号にローパスフィルタ処理を施した後に駆動回路8に対して出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速装置、それを備えた車両、並びに変速機構の制御装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子制御式の無段変速装置(以下、「ECVT(Electronically-controlled Continuously Variable Transmission)」とする。)が知られている(例えば、特許文献1等)。このECVTでは、エンジンの回転速度にかかわらず変速比を調整することができる。このため、ECVTは、スクーター等の車両に幅広く用いられている。
【0003】
ECVTは、入力軸と、出力軸と、入力軸と出力軸との間の変速比を変更する変速比変更用モータとを備えている。一般的に、変速比変更用モータは、電力ロスを低減する観点から、パルス電圧を印加することにより駆動されている。
【特許文献1】特開2004−19740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のECVTを搭載した車両では、変速比が変化する際に、変速ショックが生じる虞があり、ドライバビリティが十分に良好ではない。
【0005】
例えば、ECVTを含む駆動源ユニットを車体フレームに揺動可能に直接取り付けることも考えられるが、その場合は、変速ショックがライダーに特に伝わりやすく、ドライバビリティがより悪くなる虞がある。
【0006】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ECVTを搭載した車両において、変速ショックを低減することによりドライバビリティを向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る変速装置は、変速機構と、モータ駆動部と、制御部と、を備えている。変速機構は、入力軸と、出力軸と、モータと、を有する。モータは、入力軸と出力軸との間の変速比を無段に変更する。モータ駆動部は、モータにパルス電圧を印加する。制御部は、制御信号をモータ駆動部に対して出力する。制御信号は、パルス電圧のデューティー比およびパルス高さのうち少なくとも一方を変化させる信号である。制御部は、制御信号にローパスフィルタ処理を施した後に、ローパスフィルタ処理後の制御信号をモータ駆動部に対して出力する。
【0008】
本発明に係る車両は、本発明に係る変速装置を備えている。
【0009】
本発明に係る制御装置は、入力軸と、出力軸と、入力軸と出力軸との間の変速比を無段に変更するモータと、を有する変速機構の制御を制御する。本発明に係る制御装置は、モータ駆動部と、制御部と、を備えている。モータ駆動部は、モータにパルス電圧を印加する。制御部は、制御信号をモータ駆動部に対して出力する。制御信号は、パルス電圧のデューティー比およびパルス高さのうち少なくとも一方を変化させる信号である。制御部は、制御信号にローパスフィルタ処理を施した後に、ローパスフィルタ処理後の制御信号をモータ駆動部に対して出力する。
【0010】
本発明に係る制御方法は、入力軸と、出力軸と、入力軸と出力軸との間の変速比を無段に変更するモータと、を有する変速機構の制御を制御する。本発明に係る制御方法は、パルス電圧のデューティー比およびパルス高さのうち少なくとも一方を変化させる制御信号にローパスフィルタ処理を施し、ローパスフィルタ処理後の制御信号により制御されたパルス電圧をモータに印加することによって、モータを駆動する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、変速ショックを低減することによりドライバビリティを向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
《実施形態1》
<本実施形態の概要>
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について、図1に示す自動二輪車1を例に挙げて詳細に説明する。なお、本実施形態では、所謂スクータータイプの自動二輪車1を例に挙げて説明するが、本発明の車両は、所謂スクータータイプの自動二輪車に限定されない。本発明の車両は、例えば、スクータータイプ以外の自動二輪車であってもよい。具体的には、本発明の車両は、オフロードタイプ、モータサイクルタイプ、スクータータイプ、または所謂モペットタイプの自動二輪車であってもよい。また、本発明の車両は、自動二輪車以外の鞍乗型車両であってもよい。具体的には、本発明の車両は、例えば、ATV:All Terrain Vehicle等であってもよい。さらには、本発明の車両は、四輪自動車等の鞍乗型車両以外の車両であってもよい。
【0013】
<自動二輪車1の詳細説明>
図1に自動二輪車1の側面図を示す。自動二輪車1は、車体フレーム9と、駆動源ユニットとしてのエンジンユニット2と、後輪3と、前輪6と、を備えている。
【0014】
(車体フレーム9の構成)
車体フレーム9は、車体前端に配置されたヘッドパイプ9aと、アッパチューブ9bと、ダウンチューブ9cと、シートレール9dと、縦フレーム部材9eとを備えている。ヘッドパイプ9aの上方端には、操向ハンドル4が取り付けられている。一方、ヘッドパイプ9aの下方端には、フロントフォーク5が接続されている。フロントフォーク5の先端部には、前輪6が回転自在に取り付けられている。なお、この前輪6は、エンジンユニット2に接続されていない。すなわち、前輪6は、従動輪を構成している。
【0015】
ダウンチューブ9cは、ヘッドパイプ9aから後方斜め下方に延びている。ダウンチューブ9cは、途中部において折れ曲がり、途中部から略水平に後方に向かって延びている。アッパチューブ9bは、ヘッドパイプ9aとダウンチューブ9cとの接続部から、ダウンチューブ9cよりも上方を後方斜め下方に向かって延びている。ダウンチューブ9cの略水平部には、シートレール9dが接続されている。シートレール9dは、ダウンチューブ9cとの接続部より、後方斜め上方に向かって延びている。アッパチューブ9bの下方端は、このシートレール9dに接続されている。シートレール9dの途中部とダウンチューブ9cの後方端とは、縦フレーム部材9eによって連結されている。
【0016】
車体フレーム9には、車体カバー15がかぶせられている。また、車体カバー15には、ライダーが着座するシート16が取り付けられている。
【0017】
(車体フレーム9とエンジンユニット2との関係)
エンジンユニット2は、車体フレーム9に対して揺動可能に直接取り付けられている。図1に示すように、具体的に、車体フレーム9の縦フレーム部材9eには、ピボット部材9fが取り付けられている。このピボット部材9fは、車幅方向に延びる円筒状に形成されている。ピボット部材9fには、車幅方向に延びるピボット軸9gが取り付けられている。一方、図2に示すように、エンジンユニット2のハウジング2aの前方下部には、ピボット部2bが形成されている。ピボット部2bには、ピボット部材9fの内径と略同一の内径を有する貫通孔2b1が形成されている。この貫通孔2b1には、上記ピボット軸9gが回転自在に挿入されている。
【0018】
また、図1に示すように、エンジンユニット2は、シートレール9dの途中部とリアクッションユニット17によって接続されている。このリアクッションユニット17によってエンジンユニット2の揺動が抑制されている。
【0019】
(エンジンユニット2の構成)
次に、図3を参照しながら、エンジンユニット2の構成について説明する。
【0020】
−エンジン10の構成−
図3に示すように、エンジンユニット2は、エンジン10と、変速装置20とを備えている。本実施形態では、エンジン10は、強制空冷式の4サイクルエンジンとして説明する。しかしながら、エンジン10は、他の形式のエンジンであってもよい。例えば、エンジン10は、水冷エンジンであってもよい。エンジン10は、2サイクルエンジンであってもよい。また、エンジン10に変えて、電動モータ等の他の駆動源を配置してもよい。すなわち、本発明において、駆動源の種類は特に限定されるのもではない。図3に示すように、エンジン10は、ピストン19に連結されたクランク軸11を備えている。
【0021】
−変速装置20の構成−
変速装置20は、変速機構20aと、制御部としてのECU7と、モータ駆動部としての駆動回路8とにより構成されている。なお、本実施形態では、変速機構20aがベルト式のECVTである例について説明する。しかし、変速機構20aは、ベルト式のECVTに限定されない。変速機構20aは、例えば、トロイダル式のECVTであってもよい。
【0022】
変速機構20aは、プライマリシーブ21と、セカンダリシーブ22と、Vベルト23と、を備えている。Vベルト23は、プライマリシーブ21とセカンダリシーブ22とに巻き掛けられている。Vベルト23は、断面略V字状に形成されている。
【0023】
プライマリシーブ21は、入力軸としてのクランク軸11と一体に回転する。プライマリシーブ21は、固定シーブ体21aと、可動シーブ体21bとを備えている。固定シーブ体21aは、クランク軸11の一端に固定されている。可動シーブ体21bは、固定シーブ体21aに対向して、クランク軸11の軸方向に変位可能に配置されている。可動シーブ体21bは、クランク軸11の軸方向に移動可能である。固定シーブ体21aと可動シーブ体21bとの各対向面によって、Vベルト23が巻き掛けられるベルト溝21cが形成されている。ベルト溝21cは、プライマリシーブ21の径方向外側に向かって幅広となっている。
【0024】
プライマリシーブ21のベルト溝21cの溝幅は、モータ30によって、可動シーブ体21bがクランク軸11の軸方向に駆動されることによって変更される。なお、本実施形態では、モータ30を、パルス幅変調駆動(PWM(Pulse Width Modulation)駆動)されるものとして説明している。
【0025】
セカンダリシーブ22は、プライマリシーブ21の後方に配置されている。セカンダリシーブ22は、従動軸27に対して、遠心クラッチ25を介して取り付けられている。詳細に、セカンダリシーブ22は、円筒状に形成された出力軸22a1が一体に形成された固定シーブ体22aと、可動シーブ体22bとを備えている。可動シーブ体22bは、固定シーブ体22aと対向している。固定シーブ体22aは、従動軸27に遠心クラッチ25を介して連結されている。可動シーブ体22bは、従動軸27の軸方向に移動可能である。これら固定シーブ体22aと可動シーブ体22bとの各対向面によって、Vベルト23が巻き掛けられるベルト溝22cが形成されている。ベルト溝22cは、セカンダリシーブ22の径方向外側に向かって幅広となっている。
【0026】
可動シーブ体22bは、スプリング26によって、ベルト溝22cの溝幅を減じる方向に付勢されている。このことから、モータ30が駆動され、プライマリシーブ21のベルト溝21cの溝幅が小さくなり、プライマリシーブ21に対するVベルト23の巻き掛け径が大きくなると、セカンダリシーブ22側においては、Vベルト23が径方向内側に引かれる。このため、可動シーブ体22bがスプリング26の付勢力に抗してベルト溝22cを広げる方向に移動する。このため、セカンダリシーブ22に対するVベルト23の巻き掛け径が小さくなる。その結果、変速機構20aの変速比が変わる。
【0027】
遠心クラッチ25は、固定シーブ体22aの回転速度に応じて断続される。すなわち、固定シーブ体22aの回転速度が所定の回転速度未満である場合は、遠心クラッチ25がつながっていない。このため、固定シーブ体22aの回転は従動軸27に伝達しない。一方、固定シーブ体22aの回転速度が所定の回転速度以上である場合は、遠心クラッチ25がつながる。このため、固定シーブ体22aの回転が従動軸27に伝達する。
【0028】
従動軸27には、減速機構28が連結されている。従動軸27は、この減速機構28を介して車軸29に連結されている。図1に示すように、車軸29には、後輪3が回転可能に取り付けられている。このため、従動軸27が回転すると、車軸29と共に後輪3が回転する。
【0029】
<自動二輪車1の制御システム>
次に、自動二輪車1の制御システムについて、図4を参照しながら詳細に説明する。
【0030】
−自動二輪車1の制御システムの概略−
図4に示すように、ECU7には、シーブ位置センサ40が接続されている。シーブ位置センサ40は、プライマリシーブ21の可動シーブ体21bの、固定シーブ体21aに対する位置(以下、「シーブ位置」とする。)を検出する。言い換えれば、クランク軸11の軸方向において、固定シーブ体21aと可動シーブ体21bとの間の距離(l)を検出する。シーブ位置センサ40は、検出された距離(l)をシーブ位置検出信号としてECU7に出力する。なお、シーブ位置センサ40は、例えば、ポテンショメータ等によって構成することができる。
【0031】
また、ECU7には、プライマリシーブ回転速度センサ43と、セカンダリシーブ回転速度センサ41と、車速センサ42とが接続されている。プライマリシーブ回転速度センサ43は、プライマリシーブ21の回転速度を検出する。プライマリシーブ回転速度センサ43は、検出したプライマリシーブ21の回転速度を、シーブ回転速度信号をECU7に出力する。セカンダリシーブ回転速度センサ41は、セカンダリシーブ22の回転速度を検出する。セカンダリシーブ回転速度センサ41は、検出したセカンダリシーブ22の回転速度を、シーブ回転速度信号をECU7に出力する。車速センサ42は、後輪3の回転速度を検出する。車速センサ42は、検出した回転速度に基づいて車速信号をECU7に出力する。
【0032】
ECU7には、図1に示す操向ハンドル4に取り付けられたハンドルスイッチに接続されている。図4に示すように、ハンドルスイッチは、ハンドルスイッチがライダーにより操作された際に、ハンドルSW信号を出力する。
【0033】
また、上述のように、スロットル開度センサ18aは、スロットル開度信号をECU7に対して出力する。
【0034】
−変速機構20aの制御−
ECU7は、車速信号等に基づいてプライマリシーブ21の可動シーブ体21bのシーブ位置をフィードバック制御する。言い換えれば、ECU7は、車速信号等に基づいて距離(l)をフィードバック制御する。
【0035】
具体的には、図5に示すように、ECU7において、スロットル開度と車速とから目標変速比が決定される。ECU7は、決定された目標変速比からシーブ目標位置を算出する。すなわち、ECU7は、決定された目標変速比から可動シーブ体21bと固定シーブ体21aとの間の目標距離lを算出する。ECU7は、このシーブ目標位置に可動シーブ体21bを変位させるために、現在の可動シーブ体21bの位置とシーブ目標位置とに応じたパルス幅変調信号(PWM(Pulse-Width Modulation)信号)を、常にローパスフィルタ処理を施してから、駆動回路8に対して出力する。図4に示すように、駆動回路8は、そのパルス幅変調信号に応じたパルス電圧をモータ30に対して印加する。これにより可動シーブ体21bが駆動され、変速比が調節される。
【0036】
PWM信号にローパスフィルタ処理を施すとは、言い換えれば、PWM信号を徐変させることをいう。すなわち、PWM信号にローパスフィルタ処理を施すとは、PWM信号の変化を緩やかにすることをいう。これにより、モータ30に印加されるパルス電圧のデューティー比が急に変化するのではなく、徐々に変化する。
【0037】
具体的に、例えば、図6(a)に示すように、ローパスフィルタ処理前のPWM信号を駆動回路8に直接出力した場合は、現在のデューティー比Dからデューティー比Dまで急激に変化することとなる。例えば、図7に示すように、デューティー比が20%である状態(a)から、デューティー比が80%である状態(b)にまで急激に変化する。
【0038】
それに対して、ローパスフィルタ処理することで、PWM信号が、デューティー比Dからデューティー比Dまで緩やかに変化させる信号になるため、図6(b)に示すように、ローパスフィルタ処理後のPWM信号を駆動回路8に出力した場合は、デューティー比Dからデューティー比Dまで緩やかに変化する。例えば、図8に示すように、デューティー比が20%である状態(a)から、デューティー比が40%の状態(b)、デューティー比が60%の状態(c)を経て、デューティー比が80%の状態(d)にまで徐々に変化する。そのため、モータ30に印加される有効電圧の大きさも緩やかに変化する。
【0039】
<作用および効果>
以上説明したように、本実施形態では、ECU7においてローパスフィルタ処理を施された後の制御信号(具体的には、PWM信号)が、モータ駆動部としての駆動回路8に出力される。そして、そのローパスフィルタ処理後の制御信号に応じたパルス電圧がモータ30に印加される。したがって、図6(b)に示すように、モータ30に印加されるパルス電圧のデューティー比の変化が緩やかになる。その結果、モータ30に印加される有効電圧が緩やかに変化する。よって、モータ30のトルクが急激に変化せず、モータ30のトルクが緩やかに変化する。したがって、モータ30の変速比が変化した際に自動二輪車1に生じる変速ショックが低減される。これにより、自動二輪車1のドライバビリティを向上することができる。自動二輪車1の変速ショックを低減する観点からは、本実施形態のように、駆動回路8に出力されるPWM信号に対して、ローパスフィルタ処理を常に行うことが好ましい。
【0040】
なお、自動二輪車1に生じる変速ショックをより低減する観点からは、モータ30に印加される有効電圧の変化をより緩やかにすることが好ましい。このため、自動二輪車1に生じる変速ショックをより低減する観点からは、PWM信号に対して行うローパスフィルタ処理のカットオフ周波数を比較的低くすることが好ましい。ただし、ローパスフィルタ処理のカットオフ周波数を比較的低くすると、その分だけ、目標変速比が変化した際のモータ30の追随速度が低下することとなる。その結果、自動二輪車の動作の機敏性が低下する。このため、機敏な動作が要求されるような自動二輪車では、カットオフ周波数は比較的大きい方が好ましい。すなわち、動作の機敏性がそれほど要求されることなく、かつ自動二輪車の変速ショックを特に小さくすることが要求されるような車種においては、カットオフ周波数を比較的低く設定することが好ましい。一方、変速ショックを低減することよりも動作の機敏性が高いことが要求されるような車種においては、カットオフ周波数を比較的高くすることが好ましい。つまり、カットオフ周波数は、車種に応じて適宜設定することができる。
【0041】
例えば、エンジンユニット2と車体フレーム9とが、車体フレーム9に対して揺動可能な1または複数のリンク機構を介して連結されており、後輪3で発生するトルクの変動が直接車体フレーム9に伝達しないような自動二輪車では、変速比が急激に変化しても、車体フレーム9にそれほど大きな変速ショックが加わらない。このため、モータ30に印加される有効電圧の急激な変化を低減する要求はそれほど大きくない。
【0042】
それに対して、本実施形態のように、駆動源ユニットとしてのエンジンユニット2が車体フレーム9に対して揺動可能に直接取り付けられている自動二輪車1では、エンジンユニット2に加わる前後方向の振動や揺動が車体フレーム9に直接伝達される。よって、後輪3で発生するトルクの変動が車体フレーム9に伝達しやすい。このため、機敏な動作が可能となっている反面、変速ショックが車体フレーム9に伝達しやすい。このため、本実施形態のように、駆動源ユニットとしてのエンジンユニット2が車体フレーム9に対して揺動可能に直接取り付けられている自動二輪車1では、モータ30に印加される有効電圧の急激な変化を低減することに対する要求が大きい。したがって、本実施形態のように、モータ30に印加される有効電圧の急激な変化を抑制することが特に効果的である。また、本実施形態の自動二輪車1では、ローパスフィルタ処理のカットオフ周波数を比較的低くすることが好ましい。
【0043】
また、PWM信号にローパスフィルタ処理を施してモータ30に印加される有効電圧の急激な変化を抑制することによって、モータ30に流れる突入電流を小さくすることができる。
【0044】
変速比を変更するモータ30は、通常のモータと比較して、反転駆動される回数および起動される回数が非常に多い。このため、モータ30の起動時および反転時に突入電流が発生する頻度が高い。その結果、モータ30およびその駆動回路8への負担が大きく、モータ30および駆動回路8の耐久性が低下することとなる。
【0045】
ここで、例えば、図9において点線で示すように、PWM信号にローパスフィルタ処理を施さない場合は、モータ30に印加されるパルス電圧のデューティー比が急激に変化する。その結果、モータ30に印加される有効電圧も急激に変化する。このため、図9(a)の点線で示すように、モータ30に印加されるパルス電圧のデューティー比が急激に変化する際に、大きな突入電流が発生する。したがって、図10の(b)に示すように、可動シーブ体21bのシーブ位置が変化した際に大きな突入電流が生じ、モータ30および駆動回路8に負荷がかかる。
【0046】
それに対して、図9(b)において実線で示すように、PWM信号にローパスフィルタ処理を施すことで、モータ30に印加される有効電圧の急激な変化が抑制される。その結果、図9(a)において実線で示すように、モータ30に流れる電流の増大が抑制される。すなわち、モータ30に流れる突入電流を小さくすることができる。したがって、図11の(b)に示すように、可動シーブ体21bのシーブ位置が変化した際に生じる突入電流を抑制することができ、モータ30および駆動回路8にかかる負荷を軽減することができる。よって、モータ30および駆動回路8の寿命を長くすることができる。
【0047】
本実施形態では、モータ30は、PWM制御される。このため、簡単な回路構成で、モータ30の駆動時の電力ロスが低減され、高いエネルギー効率が実現される。
【0048】
《変形例1》
上記実施形態では、モータ30に印加するパルス電圧のデューティー比を制御信号により変化させる例について説明した。しかし、モータ30に印加するパルス電圧のパルス高さ(印加電圧)を制御信号により変化させるようにしてもよい。すなわち、モータ30をPAM(pulse amplitude modulation)制御してもよい。この場合は、制御信号として、モータ30に印加されるパルス電圧のパルス高さを変化させるPAM信号が、ローパスフィルタ処理を施された後に、ECU7から駆動回路8に対して出力される。このため、図12や図13に示すように、モータ30に印加されるパルス電圧のパルス高さ(印加電圧)の変化が緩やかになる。その結果、変速ショックも抑制され、モータ30に印加される有効電圧の変化も緩やかになる。よって、上記実施形態の場合と同様に、ドライバビリティが向上されると共に、モータ30や駆動回路8に流れる突入電流も小さくすることができる。
【0049】
《その他の変形例》
上記実施形態では、所謂スクータータイプの自動二輪車1を例に挙げて説明したが、本発明の車両は、所謂スクータータイプの自動二輪車に限定されない。本発明の車両は、例えば、スクータータイプ以外の自動二輪車であってもよい。具体的には、本発明の車両は、オフロードタイプ、モータサイクルタイプ、スクータータイプ、または所謂モペットタイプの自動二輪車であってもよい。また、本発明の車両は、自動二輪車以外の鞍乗型車両であってもよい。具体的には、本発明の車両は、例えば、ATV:All Terrain Vehicle等であってもよい。さらには、本発明の車両は、四輪自動車等の鞍乗型車両以外の車両であってもよい。
【0050】
ただし、本発明は、自動二輪車に特に有効である。四輪自動車等の車両重量が比較的重い車種であれば、変速ショックがライダーに伝わりにくいため、変速ショックは比較的大きな問題となりにくい。それに対して、自動二輪車は、車両重量が比較的重いため、変速ショックがライダーに伝わりやすい。よって、変速ショックが比較的大きな問題となるからである。
【0051】
変速機構20aは、ベルト式のECVTに限定されない。変速機構20aは、例えば、トロイダル式のECVTであってもよい。
【0052】
上記実施形態では、ECU7においてソフトウェア的な処理により制御信号にローパスフィルタ処理を施す例について説明した。しかし、本発明では、ECU7と駆動回路8との間にローパスフィルタ処理を行うローパスフィルタ回路を配置し、このローパスフィルタ回路により制御信号にローパスフィルタ処理を施すようにしてもよい。
【0053】
動作の機敏性がそれほど要求されることなく、かつ自動二輪車の変速ショックを特に小さくすることが要求されるような車種においては、カットオフ周波数を比較的低く設定することが好ましい。一方、変速ショックを低減することよりも動作の機敏性が高いことが要求されるような車種においては、カットオフ周波数を比較的高くすることが好ましい。つまり、カットオフ周波数は、車種に応じて適宜設定することができる。
【0054】
上記実施形態では、制御信号にローパスフィルタ処理が常に施される例について説明した。しかしながら、本発明はこの構成に限定されない。例えば、変速比が比較的大きく変更されるときのみ、制御信号にローパスフィルタ処理が施されるように設定してもよい。また、ライダーが制御信号にローパスフィルタ処理が施されるオンモードと、制御信号にローパスフィルタ処理が施されないオフモードとを選択することができるようにしてもよい。具体的には、オンモードとオフモードとを選択するための選択スイッチを車両に配置し、ライダーがオンモードを選択した場合のみ、制御信号にローパスフィルタ処理が施されるようにしてもよい。
【0055】
上記実施形態および変形例1では、モータ30に印加するパルス電圧のデューティー比およびパルス高さのうちの一方のみを制御信号により変化させる例について説明した。しかし、モータ30に印加するパルス電圧のデューティー比およびパルス高さの両方を制御信号によって変化させるようにしてもよい。
【0056】
《本明細書における用語等の定義》
「駆動源」とは、動力を発生させるものである。「駆動源」は、例えば、内燃機関や電動モータ等であってもよい。
【0057】
「パルス電圧のパルス高さ」とは、実際にモータ30に印加されるパルス電圧の大きさのことをいう。すなわち、「有効電圧」とは、パルス電圧の大きさにデューティー比を乗じたものである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、ECVTに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明を実施した自動二輪車の側面図である。
【図2】エンジンユニットの側面視における部分断面図である。
【図3】エンジンユニットの部分断面図である。
【図4】自動二輪車の制御システムを表すブロック図である。
【図5】シーブ位置制御を表すブロック図である。
【図6】モータ30に印加されるパルス電圧のデューティー比の変化を説明するための模式図である。詳細には、(a)は、PWM信号にローパスフィルタ処理を施さない場合の、モータ30に印加されるパルス電圧のデューティー比の変化を表すグラフである。(b)は、PWM信号にローパスフィルタ処理を施した場合の、モータ30に印加されるパルス電圧のデューティー比の変化を表すグラフである。
【図7】ローパスフィルタ処理前のPWM信号を駆動回路8に直接出力した場合のパルス電圧の波形の変化を示す模式図である。
【図8】ローパスフィルタ処理後のPWM信号を駆動回路8に出力した場合のパルス電圧の波形の変化を示す模式図である。
【図9】モータに印加されるパルス電圧のデューティー比と、モータに流れる電流との関係を説明するための模式図である。
【図10】PWM信号にローパスフィルタ処理を施さない場合におけるモータ30に流れる電流を表すグラフである。詳細に、(a)は、プライマリシーブの可動シーブ体の位置を表すグラフである。(b)は、モータ30に流れる電流を表すグラフである。(c)モータ30に印加されるパルス電圧のデューティー比を表すグラフである。
【図11】PWM信号にローパスフィルタ処理を施す場合におけるモータ30に流れる電流を表すグラフである。詳細に、(a)は、プライマリシーブの可動シーブ体の位置を表すグラフである。(b)は、モータ30に流れる電流を表すグラフである。(c)モータ30に印加されるパルス電圧のデューティー比を表すグラフである。
【図12】モータ30に印加されるパルス電圧のパルス高さ(印加電圧)の変化を説明するための模式図である。詳細には、(a)は、PWM信号にローパスフィルタ処理を施さない場合の、モータ30に印加されるパルス電圧のパルス高さ(印加電圧)の変化を表すグラフである。(b)は、PWM信号にローパスフィルタ処理を施した場合の、モータ30に印加されるパルス電圧のパルス高さ(印加電圧)の変化を表すグラフである。
【図13】ローパスフィルタ処理後のPAM信号を駆動回路8に出力した場合のパルス電圧の波形の変化を示す模式図である。
【符号の説明】
【0060】
1 自動二輪車
2 エンジンユニット(駆動源ユニット)
3 後輪(駆動輪)
6 前輪(従動輪)
7 ECU(制御部)
8 駆動回路(モータ駆動部)
9 車体フレーム
10 エンジン
11 クランク軸(入力軸)
20 変速装置
20a 変速機構
21 プライマリシーブ
21a 固定シーブ体
21b 可動シーブ体
22 セカンダリシーブ
22a 固定シーブ体
22a1 出力軸
22b 可動シーブ体
23 Vベルト
25 遠心クラッチ
27 従動軸
28 減速機構
29 車軸
30 モータ
40 シーブ位置センサ
42 車速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、出力軸と、前記入力軸と前記出力軸との間の変速比を無段に変更するモータと、を有する変速機構と、
前記モータにパルス電圧を印加するモータ駆動部と、
前記パルス電圧のデューティー比およびパルス高さのうち少なくとも一方を変化させる制御信号を前記モータ駆動部に対して出力する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記制御信号にローパスフィルタ処理を施した後に、前記ローパスフィルタ処理後の制御信号を前記モータ駆動部に対して出力する変速装置。
【請求項2】
請求項1に記載された変速装置において、
前記制御部は、前記制御信号にローパスフィルタ処理を常に施す変速装置。
【請求項3】
請求項1に記載された変速装置において、
前記制御信号は、前記パルス電圧のデューティー比を制御するパルス幅変調制御信号である変速装置。
【請求項4】
請求項1に記載された変速装置を備えた車両。
【請求項5】
請求項4に記載された車両において、
前記入力軸に接続され、前記変速装置と共に駆動源ユニットを構成する駆動源と、
車体フレームと、
をさらに備え、
前記駆動源ユニットは、前記車体フレームに対して揺動可能に直接取り付けられている車両。
【請求項6】
自動二輪車である請求項4に記載の車両。
【請求項7】
入力軸と、出力軸と、前記入力軸と前記出力軸との間の変速比を無段に変更するモータと、を有する変速機構の制御装置であって、
前記モータにパルス電圧を印加するモータ駆動部と、
前記パルス電圧のデューティー比およびパルス高さのうち少なくとも一方を変化させる制御信号を前記モータ駆動部に対して出力する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記制御信号にローパスフィルタ処理を施した後に、前記ローパスフィルタ処理後の制御信号を前記モータ駆動部に対して出力する制御装置。
【請求項8】
入力軸と、出力軸と、前記入力軸と前記出力軸との間の変速比を無段に変更するモータと、を有する変速機構の制御方法であって、
パルス電圧のデューティー比およびパルス高さのうち少なくとも一方を変化させる制御信号にローパスフィルタ処理を施し、前記ローパスフィルタ処理後の制御信号により制御されたパルス電圧を前記モータに印加することによって、前記モータを駆動する変速機構の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−185187(P2008−185187A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21241(P2007−21241)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】