説明

外観品位に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法

【課題】従来提案されている外観品位改善方法よりも改善効果が大きく、また、外観不良となりやすいPやMn等を含む高強度鋼板においても生産性を落とすことなく適用できる、外観品位に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】鋼板の表面に、Znを85%以上含む鉄−亜鉛合金被覆を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板で、その地鉄表面の組織が、鋼板圧延方向長軸の長さ/鋼板幅方向短軸の長さが5以上であるフェライト粒が面積率で90%以上からなり、地鉄表面から深さ100μm以上の範囲における組織は鋼板圧延方向長軸の長さ/鋼板幅方向短軸の長さが5以上であるフェライト粒が面積率で10%以下であることを特徴とする外観品位に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外観品位に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関するものである。より詳しくは、主として、高強度鋼板を基材とした合金化溶融亜鉛めっき鋼板において、そのめっき後の外観が従来の合金化溶融亜鉛めっき鋼板よりも均一美麗で、また、塗装後の外観にも優れ、自動車用等に用いることができる、外観品位に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、溶接性や塗装性、塗装後耐食性などに優れることから、自動車、家電製品、建材等に多用されている。この合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板を溶融亜鉛めっきした後、加熱処理し、鋼中のFeとめっき中のZnを拡散させ、合金化反応を生じさせることで鋼材表面に鉄−亜鉛合金層を形成させたものである。
【0003】
この合金化反応は、鋼の結晶粒界から優先的に生じると言われるが、鋼板の表面結晶粒径が粗大である場合は、粒径が微細である場合に比べて結晶の総粒界長さが短いため、鋼板全体としての合金化反応速度に差異を生じる。すなわち、結晶が粗大である鋼板の合金化は、結晶が微細である鋼板よりも合金化が遅くなり、めっきが薄くなる。従って、粗大粒と微細粒が混ざっている鋼板では、局所的な合金化速度差を生じることでめっきの凹凸を生み、外観不良となる。
【0004】
また、Pなどの粒界に偏析しやすい元素が多く含まれる場合は、さらにその合金化反応速度差を助長させる働きがあり、めっきの外観不良は一層悪化する。
【0005】
このため、鋼板の表層の結晶粒径を均一化させることによるめっきの外観向上策が種々、提案されている。例えば、特許文献1では、鋼板上のある一点における最表面の平均フェライト粒径d1と、その点から10mm以上離れた点における最表面の平均フェライト粒径d2の比R=d1/d2が、0.9以上1.1以下とすることで、外観品位が向上するとしている。しかしながら、Rが0.9以上1.1以下であっても、近年の、加工性を重視した極低炭素鋼においては、FeとZnの合金化反応が遅い地鉄結晶方位を有しているため、鋼板表面に局所的なP濃度差があった場合には、合金化速度差が助長され、外観品位は十分には向上しない。また、P添加鋼においては、一層合金化速度が遅くなるため、生産性を低下させるため、良策とは言いがたい。
【0006】
特許文献2では、めっき原板となる熱延板の表層組織を、15μm以下のフェライト結晶が400μmの視野において面積率で70%以下とすることで、めっき外観が向上するとしている。しかしながら、15μm以下のフェライト結晶粒が70%以下の面積率を占めていても、その分布に偏りがある場合には、めっきの外観が劣る。
【0007】
また、特許文献3では、熱間圧延の仕上げ圧延終了温度を1000℃ないし、(Ar3変態点+20℃)の範囲にし、次いで700〜820℃の範囲で捲取、その後冷間圧延、焼鈍、溶融亜鉛めっきをすることで、外観品位の優れた溶融亜鉛めっき鋼板が製造できるとしている。しかしながら、仕上げ圧延温度を上記の範囲にすると、未再結晶部の存在に起因するめっき外観不良は抑制できるものの、組織の不均一性(粗大粒と微細粒の混粒組織)に起因するめっき外観不良を解消することは困難である。また、近年の、加工性を重視した極低炭素鋼においては、FeとZnの合金化反応が遅い地鉄結晶方位を有しているため、鋼板表面に局所的なP濃度差があった場合には、合金化速度差が助長され、外観品位は十分には向上しない。P添加鋼においては、一層合金化速度が遅くなるため、生産性を低下させるため、良策とは言いがたい。
【0008】
さらに、特許文献4では、Ti含有鋼における鋼表面のフェライト粒径を8μm以上とすることで、微細組織起因のめっき外観不良を抑制できるとしている。しかしながら、表層フェライト粒径を8μm以上にしても、局所的に著しく粗大な結晶がある場合など、粒径にばらつきがある場合には、めっき外観は向上しない。
【0009】
【特許文献1】特開平7−228944号公報
【特許文献2】特開2001−316763号公報
【特許文献3】特開2001−342522号公報
【特許文献4】特開2−38550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、外観品位に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板、また、その製造方法が種々提案されているが、いずれも、近年の需要家からの厳しい外観品位の要求に対しては、十分に応えられるものではない。また、PやMn等を含む高強度鋼板を下地とした場合には一層外観が劣化しやすいが、これらの鋼板に対しても従来提案されている方法では改善の効果が小さく、また、生産性を低下させるものもあり、工業的に良策とは言えない。
【0011】
そこで本発明は、このような、従来提案されている方法よりも改善効果が大きく、また、外観不良となりやすい、PやMn等を含む高強度鋼板においても生産性を落とすことなく適用できる、外観品位に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板、およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らは、Pを0.005%〜0.2%含む鋼板を基材とした合金化溶融亜鉛めっき鋼板で、地鉄表層の組織のみを粗大とすることで、外観品位が極めて美麗で、かつ、同等成分の鋼よりもFeとZnの合金化速度を速くする、すなわち、生産性を向上できることを見出した。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0013】
(1)質量%で、
C;0.001%以上0.01%以下、
Si;0.001%以上0.2%以下、
Mn;0.01%以上3%以下、
P;0.005%以上0.2%以下、
S;0.001%以上0.03%以下、
Al;0.005%以上0.1%以下、
さらに質量%で、
Ti;0.001%以上0.05%以下、
Nb;0.001%以上0.05%以下、
B;0.0001%以上0.005%以下、
N;0.0001%以上0.05%以下
の1種または2種以上を含み、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板の表面に、Znを85%以上含む鉄−亜鉛合金被覆を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板で、その地鉄表面の組織が、鋼板圧延方向長軸の長さ/鋼板幅方向短軸の長さが5以上であるフェライト粒が面積率で90%以上からなり、地鉄表面から深さ100μm以上の範囲における組織は鋼板圧延方向長軸の長さ/鋼板幅方向短軸の長さが5以上であるフェライト粒が面積率で10%以下であることを特徴とする外観品位に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【0014】
(2)(1)に記載の成分からなる低炭素鋼スラブを熱間圧延した後、酸洗、冷間圧延、焼鈍、溶融亜鉛めっき、加熱合金化処理を施す合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、熱間仕上圧延時に、下記(A)式で定義した異周速率が1.05以上1.50以下の異周速圧延を1パス以上施し、かつ、Ar3温度を下記(C)式で定義するとき、熱間仕上圧延終了温度が鋼板幅方向、鋼板圧延方向のいずれの方向においても、(Ar3点−30℃)以上、Ar3点以下であることを特徴とする外観品位に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
異周速率=高速側ロール周速/低速側ロール周速 ・・・(A)
Ar3=900−500×(C%)−50×(Mn%)+200×(P%)・・・(C)
C%:熱間圧延される鋼板のC質量%、Mn%:熱間圧延される鋼板のMn質量%、
P%:熱間圧延される鋼板のP質量%
【0015】
(3)(1)に記載の成分からなる低炭素鋼スラブを熱間圧延した後、酸洗、冷間圧延、焼鈍、溶融亜鉛めっき、加熱合金化処理を施す合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、熱間仕上圧延時に、下記(B)式で定義した上下圧延ロールの径の比が1.2以上1.5以下である異径ロール圧延を1パス以上施し、かつ、Ar3温度を下記(C)式で定義するとき、熱間仕上圧延終了温度が鋼板幅方向、鋼板圧延方向のいずれの方向においても、(Ar3点−30℃)以上、Ar3点以下であることを特徴とする外観品位に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
各スタンドにおける上下圧延ロールの径の比=上下のうち大径側ロール径/上下のうち小径側ロール径 ・・・(B)
Ar3=900−500×(C%)−50×(Mn%)+200×(P%) ・・・(C)
【0016】
(4)(2)または(3)に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、冷間圧延時の圧延油吹付け量を冷間圧延後の鋼板上の圧延油付着量で0.1mg/m以上5mg/m以下とすることを特徴とする外観品位に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板、また本発明の製造法を経た合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、外観品位に優れ、また、摺動性、密着性、生産性にも優れる。このため、自動車や家電製品、建材等に用いることができ、産業上の価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
まず、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の鋼成分の限定理由について説明する。
【0020】
C;0.001%以上0.01%以下
Cは鋼の強化に必要な元素である。C量が0.001%未満では強度が不足し、0.01%を超えると脆化、およびr値の低下を招く。このため、C量は0.001%以上0.01%以下とする。
【0021】
Si;0.001%以上0.2%以下
Siは鋼の強化、脱酸の効果を有する元素である。Siが0.001%未満ではその効果が不十分で、一方、過剰に添加すると脆化しやすくなるだけでなく、溶融亜鉛めっき時にめっきの濡れ性を阻害し、めっき密着性も劣化させる。このため、Siは0.001%以上0.2%以下とする。
【0022】
Mn;0.01%以上3%以下
Mnは鋼の強化、脱酸の効果を有する元素である。Mnが0.01%未満であればその効果が不十分で、一方、過剰に添加すると脆化、および、r値の低下を招く。このため、Mnは0.01%以上3%以下とする。
【0023】
P;0.005%以上0.2%以下
Pは鋼の強加に必要な元素である。Pが0.005%未満ではその効果が不十分で、一方、過剰に添加すると脆化し易くなる。このため、Pは0.005%以上0.2%以下とする。
【0024】
S;0.001%以上0.03%以下
Sは不純物であり、加工性や熱間脆性を劣化させるため少ないほうが望ましい。但し、過度に低減することは製造コストの増大を招く。このためSは0.001%以上0.03%以下とする。
【0025】
Al;0.005%以上0.1%以下
Alは脱酸の効果がある。また、鋼中のNとの親和力が強く、固溶しているNを析出物として固定し加工性を向上させる効果がある。しかし、過剰に添加すると逆に加工性を劣化させる。このためAlは0.005%以上0.1%以下とする。
さらに選択元素としてTi,Nb,B,Nのうち1種または2種以上を任意に添加でき、その範囲を以下に規定する。
【0026】
Ti;0.001%以上0.05%以下
Tiは鋼中のC、Nを析出物として固定し、加工性を向上させる効果がある。Tiが0.001%未満であればその効果に乏しく、0.05%超添加してももはやその効果は飽和し、徒にコストを増大させるだけである。このためTiは0.001%以上0.05%以下とすることが好ましい。
【0027】
Nb;0.001%以上0.05%以下
Nbは鋼中のCを析出物として固定し、加工性を向上させる効果がある。Nbが0.001%未満であればその効果に乏しく、0.05%超添加してももはやその効果は飽和し、徒にコストを増大させるたけである。このためNbは0.001%以上0.05%以下とすることが好ましい。
【0028】
B;0.0001%以上0.005%以下
Bは結晶粒界に優先濃化し、粒界エネルギーを低下させ脆化を抑制させる効果がある。Bが0.0001%未満であればその効果が不十分で、一方、0.005%超添加すると加工性が低下する。このためBは0.0001%以上0.005%以下とすることが好ましい。
【0029】
N;0.0001%以上0.05%以下
Nは0.05%超では加工性を低下させるため、極力少ない方が好ましい。しかしながら、過度の低減は徒にコストを増大させるだけであるため0.0001%を下限とする。このためNは0.0001%以上0.05%以下とすることが好ましい。
【0030】
本発明の鋼においては、上記これらの成分以外にも、Cu、Cr、Co、Ni、Mo、W、Mg、V、Ce、La、Nd、Pr、Smなど、必要に応じて添加することができる。
【0031】
次に鉄−亜鉛合金被覆について説明する。鉄−亜鉛合金被覆中のZn含有率は85%以上とする。85%未満であれば、塗装性と溶接性、また塗装後耐食性に劣る。この鉄−亜鉛合金被覆の付着量は特に規定するものではないが、耐食性および加工性の観点から、20〜100g/mであることが望ましい。
【0032】
次に、地鉄組織について説明する。図1は合金化溶融亜鉛めっき鋼板の地鉄の組織を示す図であり、図2は鋼板圧延方向長軸の長さおよび鋼板圧延幅方向短軸の長さを説明するための図である。本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の地鉄表面の組織は、図1および図2に示すように鋼板圧延方向長軸1の長さ/鋼板幅方向短軸2の長さが5以上であるフェライト粒が面積率で90%以上からなる。このようなサイズを有する延伸フェライト粒は、結晶粒内に歪を過剰に有しているため、めっき合金化の速度は地鉄結晶方位の影響をあまり受けずにFeとZnの合金化反応が急激に起こるために均一にめっきが成長し、外観が美麗となる。さらに、合金化反応が速いが故に、合金化加熱温度を低減させることや、通板速度を上昇させることが可能となり、生産性が上がる利点もある。一方、鋼板圧延方向長軸の長さ/鋼板幅方向短軸の長さが5未満であれば、結晶内の歪量が不十分であり、めっき合金化の速度は地鉄結晶方位の影響などを大きく受けるため、種々の結晶方位を有する結晶粒3からなる地鉄4上で成長しためっき合金層5は激しい凹凸を有し、外観の劣る合金化溶融亜鉛めっきとなり、また生産性も劣る。その模式図を図3に示す。また、図4は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の任意の200倍に拡大した500μmの×500μmの視野における任意の箇所のめっき厚みと、それぞれの箇所に対応するめっき下地組織の関係を示した図である。鋼板圧延方向長軸の長さ/鋼板幅方向短軸の長さが5未満である、地鉄結晶上に生成するめっき厚みは約1〜9μmとばらつきが大きく、これはそれぞれの地鉄結晶方位が異なるためにめっき合金化速度に差が生じた結果であると考えられる。一方、鋼板圧延方向長軸の長さ/鋼板幅方向短軸の長さが5以上である地鉄結晶上に生成するめっき厚みは約5〜8μmと前者に比べばらつきが小さい。これはそれぞれの結晶上でほぼ等しい速度でめっきの合金化が進んだ結果であると考えられる。このように地鉄表面の組織は、鋼板圧延方向長軸の長さ/鋼板幅方向短軸の長さが5以上であるフェライト粒からなることが重要である。
【0033】
しかしながら、地鉄表面組織が、鋼板圧延方向長軸の長さ/鋼板幅方向短軸の長さが5以上であるフェライト粒で完全に覆われる必要はなく、地鉄表面を90%以上占めればよい。目視観察で外観むらの程度に応じて×、○、◎の3段階で評価すると、図5に占めるように90%以上を占めれば目視上ほぼ均一な外観となり概ね良好で、好ましい範囲は、98%以上である。なお、ここで定義する地鉄表面の組織とは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の任意の箇所を発煙硝酸に浸漬して、結晶粒界をエッチングした地鉄表面の任意の箇所を500μm×500μmの視野にて光学顕微鏡、または走査型電子顕微鏡で観察した際に認められる地鉄の組織である。
【0034】
また、このような延伸組織は、外観上は、地鉄内部に存在していてもなんら問題はない。しかしながら、板厚中心部まで延伸組織であれば加工性を損ない実用に適さない。そのため、地鉄表面から深さ100μm以上の範囲における組織は鋼板圧延方向長軸の長さ/鋼板幅方向短軸の長さが5以上であるフェライト粒が面積率で10%以下である必要がある。加工性をJIS13B引っ張り試験片で引っ張り試験を実施した場合、伸びが20%未満の場合を×、20%以上40%未満の場合を○、40%以上の場合を◎で評価すると、フェライト粒が面積率で10%超である場合、図6に示すように加工性に劣り実用に適さない。なお、ここで定義する地鉄表面から深さ100μm以上の範囲における組織とは、鋼板断面の、表面(表裏面)から深さ100μm以上の任意の200倍に拡大した500×500μmの視野を、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡で観察した際に認められる地鉄の組織である。
【0035】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、低炭素鋼スラブを熱間圧延した後、酸洗し、さらに冷間圧延、焼鈍、溶融亜鉛めっき、加熱合金化処理を施して、製造する。スラブ加熱条件は、特に規定するものでなく、一般的な鋼板を製造する条件であればなんら問題ないが、熱間仕上圧延時に、異周速率が1%以上20%以下の異周速圧延を1パス以上、および/または、上下圧延ロールの径の比が1.2以上1.5以下である異径ロール圧延を1パス以上施し、かつ、仕上げ圧延終了温度が板幅、圧延方向の熱間圧延時の仕上げ圧延温度は、板幅および圧延方向のいずれの方向においても、(Ar3点−30℃)以上、Ar3点以下とする必要がある。
【0036】
異周速率を1.05以上1.50以下とした理由は、1.05未満であれば、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の地鉄表面組織を本発明で規定する延伸フェライト組織とできず、1.50を超える場合は、もはやこれ以上組織に及ぼされる影響は小さく、操業が困難になるだけだからである。好ましい範囲は1.20以上1.40以下である。ここで、本発明の異周速率とは、各スタンドの上下ロールにおける周速の比、すなわち、
異周速率=高速側ロール周速/低速側ロール周速 ・・・(A)
で表されるものである。その圧延パス数は1パスで十分であるが、それ以上のパス数を施してもなんら問題はない。また、異周速圧延をするスタンドも特に規定するものではないが、最終スタンドで実施すると最大の効果を得ることができ、望ましい。
【0037】
また、上下圧延ロールの径の比を1.2以上1.5以下の範囲とした理由は、1.2未満であれば、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の地鉄表面組織を本発明で規定する延伸フェライト組織とできず、1.5を超える場合は、逆に地鉄内部まで異常組織となるからである。好ましい範囲は1.25以上1.35未満である。ここで、上下圧延ロールの径の比とは、
各スタンドにおける上下圧延ロールの径の比=上下のうち大径側ロール径/上下のうち小径側ロール径 ・・・(B)
で表されるものである。その圧延パス数は1パスで十分であるが、それ以上のパス数を施してもなんら問題はない。また、異径ロール圧延をするスタンドも特に規定するものではないが、最終スタンドで実施すると最大の効果を得ることができ、望ましい。
【0038】
仕上げ圧延温度を(Ar3点−30℃)以上、Ar3点以下とした理由は、Ar3点−30℃未満の温度域では、本発明で規定する延伸フェライト組織が合金化溶融亜鉛めっき鋼板の内部まで生成し、加工性に劣るためである。一方、Ar3点を超える温度では、本発明で規定する延伸フェライト組織が合金化溶融亜鉛めっき鋼板の地鉄表面に生成しない。好ましい範囲は(Ar3点−20℃)以上、(Ar3点−10℃)以下である。
【0039】
なお、仕上げ圧延温度のみを、(Ar3点−30℃)以上、Ar3点以下としても、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることはできず、上述の異周速圧延、または、異径ロール圧延と組み合わせることによる相乗効果で、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を実現することができる。異周速圧延と異径ロール圧延の両方を組み合わせて実施してもなんら問題はない。
【0040】
なお、ここで言うAr3点とは、冷却過程におけるγ→α変態温度のことであり、次式から求められるものである。
Ar3=900−500×(C%)−50×(Mn%)+200×(P%) ・・・(C)
ここでC%は熱間圧延される鋼板のC質量%、Mn%は熱間圧延される鋼板のMn質量%、P%は熱間圧延される鋼板のP質量%である。
【0041】
異周速圧延や異径ロール圧延に用いられる圧延ロールは、その表面粗度をRaで0.5μm以上、1.5μm以下とすることが望ましい。本範囲の粗度の圧延ロールを用いることで、鋼板表面層のみに適度な歪を導入することができ、合金化溶融亜鉛めっき後の地鉄表面に、効果的に延伸組織を形成させることができる。
【0042】
熱間圧延後は酸洗し、熱間圧延時に生成したスケールを除去する。酸洗条件は、従来から行われている方法で実施すればよく、例えば、50℃以上の塩酸中に鋼板を浸漬する。
酸洗後は冷間圧延するが、その圧下率は70%以上90%以下とすることが好ましい。70%未満では焼鈍後に板厚中心部まで未再結晶組織が残りやすく加工性に劣り、90%を超えた圧下率では、鋼板表面まで再結晶微細組織と成り易く、本発明の地鉄表面組織が得られ難い。また、冷間圧延後の鋼板上の圧延油付着量は、0.1mg/m以上5mg/m以下とすることが望ましい。冷間圧延中の圧延油吹き付け量を絞ることなどでこの範囲の圧延油付着量となるが、この結果ロールと鋼板の間に適度な摩擦力を生じさせ、本発明の延伸組織を効果的に形成させることができる。なお、圧延油付着量は、冷間圧延後の鋼板表面に付着している油分量のことであり、その測定法としては、例えば、冷延鋼板表面の一定面積部分を布などの拭き取り媒体で拭き取り、その拭き取り媒体をノルマル−ヘキサンや、四塩化炭素、四塩化炭素代替物(S−316)などに浸漬して油分を抽出、採取、また、濾過等の処置をし、その液を市販の油分濃度計(例えば、堀場製作所製OCMA−300)や、赤外分光光度計で測定し、求めることなどを挙げることができる。
【0043】
冷間圧延後は750℃以上850℃以下の均熱温度で30秒以上150秒以内加熱して焼鈍することが好ましい。この範囲を下回る場合、板厚中心部まで未再結晶組織が残りやすく加工性に劣り、上回る場合は、鋼板表面まで再結晶微細組織と成り易く、本発明の地鉄表面組織が得られ難い。焼鈍後は、溶融亜鉛めっき、加熱合金化処理を行う。亜鉛めっき浴の温度は440℃〜500℃、加熱合金化温度は480〜560℃とすることが望ましい。以上のような条件で製造することで、本発明の外観品位に優れた溶融亜鉛合金めっき鋼板を実現できる。
【実施例1】
【0044】
表1に示す組成の鋼を溶製し、連続鋳造してスラブとした。そのスラブを1200℃で1時間加熱後、熱間圧延して板厚4mmの熱延鋼板とした。その後、冷間圧延、焼鈍、溶融亜鉛めっき、加熱合金化処理をし、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を作製した。熱延条件および冷間圧延条件の詳細は、表2、表3に示す。なお、熱間圧延時に用いた上下の圧延ロールの径の比は1.0、すなわち同径ロールである。冷間間圧延後の焼鈍はいずれも800℃で120秒間加熱し、溶融亜鉛めっきは浴温460℃のZn−0.13%Alめっき浴に3秒間浸漬し、ワイピングで付着量が45g/mとなるように調整し、その後、480〜580℃の温度で加熱合金化処理した。作製した合金化溶融亜鉛めっき鋼板は下記の評価をした。
【0045】
(1)外観
目視観察し、外観むらの程度に応じて×、○、◎の3段階で評価した。
【0046】
(2)地鉄表面フェライトおよび地鉄表面から100μm以上の深さのフェライト組織観察
10%塩酸でめっきを溶解し、光学顕微鏡で200倍に拡大した500×500μmの視野における地鉄表面を観察し、鋼板圧延方向長軸の長さ/鋼板幅方向短軸の長さが5以上であるフェライト粒の面積率を求めた。尚、地鉄表面から100μm以上の深さのフェライトとしては板厚中心部で観察した。
【0047】
(3)加工性
JIS13B引っ張り試験片で、引っ張り試験を実施し、伸びが20%未満の場合を×、20%以上40%未満の場合を○、40%以上の場合を◎で評価した。結果を表2および表3に示す。
【0048】
表2は鋼Aにおける結果である。A1からA3は仕上げ圧延温度を本発明の範囲内で変えた場合である。いずれも外観、加工性ともに良好であるが、(Ar3点−20℃)以上、(Ar3点−10℃)以下の範囲であるA2が特に優れる。A4は異周速率をA2よりも低減させた場合であり、外観品位がやや低下するものの合格レベルである。A5は圧延パス数をA2よりも増やした場合であるが、外観や加工性は特に変わらない。A6は圧延ロールの粗度をA2よりも減少させた場合であり、外観品位がやや低下するものの合格レベルである。A7は圧延ロールの粗度をA2よりも増加させた場合であり、外観は向上するが加工性はやや低下した。A8およびA9は、冷間圧延時の圧下率をA2よりも減少または増加させた場合であり、A2よりも、外観と加工性の総合性能ではやや劣るものの、いずれも合格レベルである。A10は冷間圧延時の圧延油量をA2よりも増加させた場合であり、潤滑性が向上し鋼中の歪量が減少したため、外観品位はやや低下するが、合格レベルである。一方、A11は異周速率が本発明の範囲外の場合であり、地鉄表面に延伸組織は認められず、外観に劣る。A12は仕上げ圧延温度が本発明の範囲を超える場合であり、地鉄全体が再結晶組織となるため、外観に劣る。
【0049】
表3は鋼Bにおける結果である。B1からB3は仕上げ圧延温度を本発明の範囲内で変えた場合である。いずれも外観、加工性ともに良好であるが、(Ar3点−20℃)以上、(Ar3点−10℃)以下の範囲であるB2が特に優れる。B4は異周速率をB2よりも低減させた場合であり、外観品位がやや低下するものの合格レベルである。B5は圧延パス数をB2よりも増やした場合であるが、外観や加工性は特に変わらない。B6は圧延ロールの粗度をB2よりも減少させた場合であり、外観品位がやや低下するものの合格レベルである。B7は圧延ロールの粗度をB2よりも増加させた場合であり、外観は向上するが加工性はやや低下した。B8およびB9は、冷間圧延時の圧下率をB2よりも減少または増加させた場合であり、B2よりも、外観と加工性の総合性能ではやや劣るものの、いずれも合格レベルである。B10は冷間圧延時の圧延油量をA2よりも増加させた場合であり、潤滑性が向上し鋼中の歪量が減少したため、外観品位はやや低下するが、合格レベルである。一方、B11は異周速率が本発明の範囲外の場合であり、地鉄表面に延伸組織は認められず、外観に劣る。B12は仕上げ圧延温度が本発明の範囲を超える場合であり、地鉄全体が再結晶組織となるため、外観に劣る。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【実施例2】
【0053】
表1のAに示す組成の鋼を溶製し、連続鋳造してスラブとした。そのスラブを1200℃で1時間加熱後、熱間圧延して板厚4mmの熱延鋼板とした。その後、冷間圧延、焼鈍、溶融亜鉛めっき、加熱合金化処理をし、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を作製した。熱延条件および冷間圧延条件の詳細は、表4に示す。なお、熱間圧延は全6スタンドで圧延し、後段4〜6スタンドにおいて、異型ロール圧延をした。いずれのスタンドにおいても周速率は1.0である。冷間圧延後の焼鈍はいずれも800℃で120秒間加熱し、溶融亜鉛めっきは浴温460℃のZn−0.13%Alめっき浴に3秒間浸漬し、ワイピングで付着量が45g/mとなるように調整し、その後、480〜580℃の温度で加熱合金化処理した。作製した合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、実施例1と同じ評価をした。結果を表4に示す。
【0054】
A13からA15は仕上げ圧延温度を本発明の範囲内で変えた場合である。いずれも外観、加工性ともに良好であるが、(Ar3点−20℃)以上、(Ar3点−10℃)以下の範囲であるA14が特に優れる。A16は4スタンドから6スタンドまでの上下ロールの径の比をA14よりも増加させた場合であり、外観品位がやや低下するものの合格レベルである。A17は圧延ロールの粗度をA14よりも増加させた場合であり、外観は向上するが加工性はやや低下した。A18は、冷間圧延時の圧下率をA14よりも増加させた場合であり、A14よりも、外観と加工性の総合性能ではやや劣るものの、いずれも合格レベルである。A19は冷間圧延時の圧延油量をA14よりも増加させた場合であり、潤滑性が向上し鋼中の歪量が減少したため、外観品位はやや低下するが、合格レベルである。一方、A20は上下ロール径の比が本発明の範囲を下回る場合であり、地鉄表面に延伸組織は認められず、外観に劣る。A21は上下ロール径の比が本発明の範囲を上回る場合であり、地鉄内部まで異常組織となり加工性に劣る。A22は仕上げ圧延温度が本発明の範囲を超える場合であり、地鉄全体が再結晶組織となるため、外観に劣る。
【0055】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】合金化溶融亜鉛めっき鋼板の地鉄の組織を示す図である。
【図2】鋼板圧延方向長軸の長さおよび鋼板圧延幅方向短軸の長さを説明するための図である。
【図3】種々の結晶方位を有する結晶からなる地鉄上で成長した激しい凹凸を有するめっき合金層の模式図である。
【図4】合金化溶融亜鉛めっき鋼板の任意の200倍に拡大した500μmの×500μmの視野における任意の箇所のめっき厚みと、それぞれの箇所に対応するめっき下地組織の関係を示した図である。
【図5】鋼板圧延方向長軸の長さ/鋼板幅方向短軸の長さが5以上であるフェライト粒が地鉄表面に占める割合と、外観品位との関係を示す図である。
【図6】鋼板圧延方向長軸の長さ/鋼板幅方向短軸の長さが5以上であるフェライト粒が地鉄表面から100μm以上の領域に占める割合と、加工性との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 鋼板圧延方向長軸
2 鋼板幅方向短軸
3 結晶粒
4 地鉄
5 めっき合金層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C;0.001%以上0.01%以下、
Si;0.001%以上0.2%以下、
Mn;0.01%以上3%以下、
P;0.005%以上0.2%以下、
S;0.001%以上0.03%以下、
Al;0.005%以上0.1%以下、
さらに質量%で、
Ti;0.001%以上0.05%以下、
Nb;0.001%以上0.05%以下、
B;0.0001%以上0.005%以下、
N;0.0001%以上0.05%以下
の1種または2種以上を含み、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板の表面に、Znを85%以上含む鉄−亜鉛合金被覆を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板で、その地鉄表面の組織が、鋼板圧延方向長軸の長さ/鋼板幅方向短軸の長さが5以上であるフェライト粒が面積率で90%以上からなり、地鉄表面から深さ100μm以上の範囲における組織は鋼板圧延方向長軸の長さ/鋼板幅方向短軸の長さが5以上であるフェライト粒が面積率で10%以下であることを特徴とする外観品位に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
請求項1に記載の成分からなる低炭素鋼スラブを熱間圧延した後、酸洗、冷間圧延、焼鈍、溶融亜鉛めっき、加熱合金化処理を施す合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、熱間仕上圧延時に、下記(A)式で定義した異周速率が1.05以上1.50以下の異周速圧延を1パス以上施し、かつ、Ar3温度を下記(C)式で定義するとき、熱間仕上圧延終了温度が鋼板幅方向、鋼板圧延方向のいずれの方向においても、(Ar3点−30℃)以上、Ar3点以下であることを特徴とする外観品位に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
異周速率=高速側ロール周速/低速側ロール周速 ・・・(A)
Ar3=900−500×(C%)−50×(Mn%)+200×(P%)・・・(C)
C%:熱間圧延される鋼板のC質量%、Mn%:熱間圧延される鋼板のMn質量%、
P%:熱間圧延される鋼板のP質量%
【請求項3】
請求項1に記載の成分からなる低炭素鋼スラブを熱間圧延した後、酸洗、冷間圧延、焼鈍、溶融亜鉛めっき、加熱合金化処理を施す合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、熱間仕上圧延時に、下記(B)式で定義した上下圧延ロールの径の比が1.2以上1.5以下である異径ロール圧延を1パス以上施し、かつ、Ar3温度を下記(C)式で定義するとき、熱間仕上圧延終了温度が鋼板幅方向、鋼板圧延方向のいずれの方向においても、(Ar3点−30℃)以上、Ar3点以下であることを特徴とする外観品位に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
各スタンドにおける上下圧延ロールの径の比=上下のうち大径側ロール径/上下のうち小径側ロール径 ・・・(B)
Ar3=900−500×(C%)−50×(Mn%)+200×(P%)・・・(C)
【請求項4】
請求項2または3に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、冷間圧延時の圧延油吹付け量を、冷間圧延後の鋼板上の圧延油付着量で0.1mg/m以上5mg/m以下とすることを特徴とする外観品位に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−231447(P2008−231447A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68155(P2007−68155)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】