説明

外輪付きころ軸受

【課題】外輪内に挿入された縮径状態の一つ割り保持器を切り離し端が周方向で対向する状態にスムーズに拡径させることができるようにした外輪付きころ軸受を提供することである。
【解決手段】外輪1内に周方向の一部に軸方向の切り離し部11が形成された保持器10を組込み、その保持器10のポケット12内に転動体20を収容する。保持器10の切り離し端部13における内径面に傾斜部14を形成して、切り離し端部13が半径方向で重なり合う縮径状態の保持器10が外輪1内でスムーズに拡径するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外輪を有するころ軸受、特に、ころが針状ころから成る外輪付きころ軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記外輪付きころ軸受は、両端に内向きのフランジを有する外輪と、その外輪の内側に組込まれた保持器と、その保持器のポケット内に収容されたころから成っている。
【0003】
上記のような外輪付きころ軸受においては、外輪が薄鋼板のプレス成形品から成るものと、削り出しによって形成したものとが存在する。また、削り出しによって形成された外輪には、外輪と共に内向きのフランジを同時に削り出すようにしたものと、外輪とフランジとを別々に形成し、そのフランジを外輪の端部内に圧入し、あるいは嵌合後に加締めにより外輪に一体化したものとがある。
【0004】
上記のような外輪付きころ軸受は、フランジによって保持器を抜け止めするため、上記フランジが外輪に予め設けられていると、フランジの内径より外輪内に保持器を組込むことができない。
【0005】
このため、プレス成形品から成る外輪の場合は、薄鋼板のプレス成形によって一端にフランジを有する外輪を形成したのち、その外輪の他端から内部に保持器を組込み、その組込み後に外輪の他端部を内向きに折曲げてフランジを形成するようにしているが、この場合、外輪の熱処理後に、フランジの折曲げ部位を焼なましてフランジの折曲げを行なう必要が生じるため、外輪の製造コストが高くつくという問題がある。また、焼なまし後にフランジの折曲げを行なうため、折曲げ部位に割れが生じ易く、成形性に問題が生じる。
【0006】
一方、削り出しから成る外輪で、外輪内に保持器を組込んだのち、フランジを圧入し、あるいは嵌合して加締めにより一体化する組立て方法を採用している軸受は、組立てコストが高くつくばかりでなく、フランジの強度や抜け止めに対する耐力が低く、耐久性に優れた外輪付きころ軸受を得ることができないという問題がある。
【0007】
そのような問題を解決するため、特許文献1に記載されたころ軸受においては、保持器を二つ割とし、あるいは保持器に軸方向の切り離し部を形成して、予め形成されたフランジの内側から外輪の内部に保持器を組込むことができるようにしている。
【特許文献1】実開平6−87724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、保持器を二つ割りとした外輪付きころ軸受においては、図7に示すように外輪30の内側に二つ割り保持器31を組込んだ状態において、保持器半体31aの一部分が外輪30に設けられたフランジ30aの内径より内側に配置される場合があり、一対の保持器半体31a間に軸を挿入する場合に、一方の保持器半体31aが軸の挿入を阻害して組立てることが困難になる問題が生じる。
【0009】
一方、軸方向の切り離し部を形成した一つ割り保持器においては、図8に示すように、切り離し端部32を保持器半径方向に位置をずらして保持器31を縮径させ、切り離し端部32が保持器半径方向で重なり合う状態で外輪30の内側に組込み、その組込み後に自己の復元弾性で保持器31を拡径させるようにしているが、切り離し端部32の重なり部における摩擦抵抗や引っ掛りによって保持器31が拡径しない場合があり、軸を挿入し得ない場合が生じる。
【0010】
この発明の課題は、縮径させた一つ割り保持器の外輪内部への組込み後において、保持器を切り離し端が保持器周方向で対向する状態にスムーズに拡径させることができるようにした外輪付きころ軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、この発明においては、両端に内向きのフランジを有する外輪と、その外輪の内側に組込まれ、周方向の一部に軸方向に延びる切り離し部が形成された一つ割りの保持器と、その保持器のポケット内に収容された転動体とから成る外輪付きころ軸受において、前記保持器の自然状態における外径を外輪の軌道面径より大きくし、かつ切り離し部を閉じた状態での保持器の内径を転動体の内接円径より大きくし、前記保持器の切り離し端部における内径面に保持器径方向の厚みが切り離し端に向けて次第に小さくなる傾斜部を設けた構成を採用したのである。
【0012】
ここで、傾斜部は、テーパ面であってもよく、あるいは円弧面であってもよい。また、テーパ面と円弧面の組合わせから成るものであってもよい。
【0013】
この発明に係る外輪付きころ軸受において、保持器の切り離し端面における一方に突出部を設け、他方に上記突出部が係合可能な係合凹部を設けておくと、保持器に縮径する方向の力が加わって保持器が縮径した場合に、突出部が係合凹部に係合し、その係合により保持器は円形状態に保持されることになる。このため、切り離し端部が半径方向で重なり合う螺旋状に保持器が縮径するのを防止することができ、外輪内から保持器が脱落するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
上記のように、自然状態における保持器の外径を外輪の軌道面径より大きくしたことによって、切り離し端部が保持器半径方向で重なり合う縮径状態の保持器を外輪内に挿入することにより、その保持器を自己の復元弾性によって自然に拡径させることができる。
【0015】
また、保持器の切り離し端部の内径面に傾斜部を設けたことにより、外輪内で縮径状態の保持器が自己の復元弾性で拡径するとき、切り離し端部が引っ掛り合うという不都合の発生はなく、切り離し端が保持器周方向で対向する状態に保持器をスムーズに拡径させることができ、適正な組込み状態を得ることができる。
【0016】
さらに、切り離し部を閉じた状態での保持器の内径を転動体の内接円径より大きくしたことによって、外輪内に対する保持器の組込み状態において転動体の内接円内に軸をスムーズに挿入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態を図1乃至図5に基づいて説明する。図1はシェル型ころ軸受を示し、外輪1と、その外輪1内に組込まれた保持器10と、その保持器10に保持された針状ころから成る転動体20とから成っている。
【0018】
外輪1は薄鋼板のプレス成形品から成り、その内周は軌道面2とされ、両端には内向きのフランジ3が設けられている。
【0019】
保持器10には周方向の一部に軸方向に延びる切り離し部11が形成されている。この保持器10には、図2に示すように、複数のポケット12が周方向に間隔をおいて形成され、各ポケット12内に転動体20が収容されている。
【0020】
図2は、保持器10の自然状態を示し、その自然状態における保持器10の外径D1 は、図1に示す外輪1の軌道面径d1 より大径とされている。保持器10の切り離し端部13の内径面には傾斜部14が設けられている。傾斜部14は、切り離し端部13の保持器半径方向の厚みが切り離し端に向けて次第に小さくなるような勾配をもつものであればよい。
【0021】
図3(I)乃至(IV)は傾斜部14の各例を示している。図3(I)に示す傾斜部14はテーパ面aから成り、図3(II)は円弧面bから成っている。また、図3(III )は、テーパ面aの端に円弧面bを連続させた複合面から成り、さらに、図3(IV)は円弧面bの端にテーパ面aを連続させた複合面から成っている。
【0022】
図4は、保持器10を縮径させて切り離し端面15を互に衝合させた状態を示し、その縮径状態における保持器10の内径d2 は転動体20の内接円径d3 より大径とされている。
【0023】
実施の形態で示すシェル型ころ軸受は上記の構造から成り、このシェル型ころ軸受の組立てに際しては、保持器10の切り離し端部13の一方を半径方向内方に弾性変形させて図2の鎖線(イ)で示すように、切り離し端部13を保持器10の半径方向に位置をずらしたのち、保持器10を縮径し、図2の鎖線(ロ)で示すように切り離し端部13が半径方向に重なり合う縮径状態でフランジ3の内側から外輪1内に挿入し、上記外輪1内に保持器10の全体が挿入される状態で保持器10の縮径を解除する。
【0024】
上記のように、外輪1内に対する縮径状態の保持器10の挿入後に縮径を解除すると、保持器10は自己の復元弾性によって拡径する。このとき、保持器10の半径方向で互に重なり合う一対の切り離し端部13のうち、外側に位置する切り離し端部13の内径面には傾斜部14が設けられているため、保持器10の拡径時に切り離し端部13同士が引っ掛かり合うという不都合の発生はない。
【0025】
このため、保持器10はスムーズに拡径して、図1に示すように、切り離し端面15が互に対向する状態となると共に、自然状態における保持器10の外径は外輪1の軌道面径より大径であるため、保持器10の拡径により、転動体20は外輪1の軌道面2に接触する状態となり、適正な組立て状態を得ることができる。
【0026】
また、外輪1内に対する保持器10の組込み状態において、図4に示すように、切り離し端面15が衝合する組込みとされても、保持器10の内径は転動体20の内接円径より大きくされているため、保持器10の内径が軸の挿入を阻害することはなく、転動体20の内接円内に軸を挿入することができる。
【0027】
図5(I)は保持器10の他の例を示している。この例では、保持器10の切り離し端面15における一方に突出部16を設け、他方に上記突出部16が係合可能な係合凹部17を形成している。
【0028】
上記のように、保持器10の切り離し端面15に突出部16と係合凹部17を形成すると、外輪1内に保持器10が組込まれた状態で保持器10に縮径させるような外力が負荷されて縮径すると、図5(II)に示すように、一対の切り離し端面15が互に衝突すると共に、突出部16が係合凹部17に係合し、その係合によって保持器10は円形の状態に保持される。
【0029】
このため、保持器10は一対の切り離し端部13が半径方向で重なり合う螺旋状に縮径するというようなことはなく、外輪1内から保持器10が脱落するのを防止することができる。
【0030】
なお、図5(I)に示す保持器10においては、一方の切り離し端面15に形成した突出部16として、端面形状を半円状とする突出部とし、他方の切り離し端面15に形成した係合凹部17を端面形状が半円状の溝から成るものを示したが、突出部16および係合凹部17の形状はこれに限定されるものではない。
【0031】
例えば、図6(I)に示すように、突出部16の端面形状をV形とする突出部とし、係合凹部17をV溝としてもよい。あるいは、図6(II)に示すように、突出部16の端面形状を鋸歯状とする突出部とし、係合凹部17を端面形状を鋸歯状とする溝としてもよい。
【0032】
実施の形態では、ころ軸受として、外輪1が薄鋼板のプレス成形品から成るシェル型ころ軸受を示したが、ころ軸受はこれに限定されるものではない。例えば、外輪が削り出しによって形成されたころ軸受であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(I)はこの発明に係るシェル型ころ軸受の実施形態を示す縦断正面図、(II)は断面図
【図2】自然状態の保持器を示す一部切欠正面図
【図3】(I)乃至(IV)は傾斜部の各例を示す正面図
【図4】保持器の切り離し端面が衝合した状態の正面図
【図5】(I)は保持器の他の例を示す一部分のみの正面図、(II)は縮径状態を示す正面図
【図6】(I)、(II)は保持器の切り離し端面に形成される突出部および係合凹部の他の例を示す正面図
【図7】従来のシェル型ころ軸受を示す縦断正面図
【図8】従来のシェル型ころ軸受の他の例を示す縦断正面図
【符号の説明】
【0034】
1 外輪
3 フランジ
10 保持器
11 切り離し部
12 ポケット
13 切り離し端部
14 傾斜部
16 突出部
17 係合凹部
20 転動体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に内向きのフランジを有する外輪と、その外輪の内側に組込まれ、周方向の一部に軸方向に延びる切り離し部が形成された一つ割りの保持器と、その保持器のポケット内に収容された転動体とから成る外輪付きころ軸受において、前記保持器の自然状態における外径を外輪の軌道面径より大きくし、かつ切り離し部を閉じた状態での保持器の内径を転動体の内接円径より大きくし、前記保持器の切り離し端部における内径面に保持器径方向の厚みが切り離し端に向けて次第に小さくなる傾斜部を設けたことを特徴とする外輪付きころ軸受。
【請求項2】
前記保持器の切り離し端面における一方に突出部を形成し、他方に上記突出部が係合可能な係合凹部を形成した請求項1に記載の外輪付きころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−57707(P2006−57707A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239564(P2004−239564)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【出願人】(000108926)ダイコー化学工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】