説明

多価ヒドロキシ樹脂、エポキシ樹脂、それらの製造方法、エポキシ樹脂組成物及びその硬化物

【課題】難燃性、耐湿性、低弾性等に優れた硬化物を与え、電子部品の封止、回路基板材料等の用途に好適なエポキシ樹脂、多価ヒドロキシ樹脂及びその組成物を提供する。
【解決手段】フェノールノボラック樹脂等の多価ヒドロキシ化合物1モルに対し、スチレン類0.1〜4.0モルを酸触媒の存在下に反応させて得られ、水酸基当量が250〜400g/eq.であるスチレン変性多価ヒドロキシ樹脂、並びにこの多価ヒドロキシ化合物とエピクロルヒドリンを反応させて得られ、エポキシ当量が310〜500g/eq.のエポキシ樹脂である。また、上記多価ヒドロキシ樹脂又はエポキシ樹脂を必須成分として含むエポキシ樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性に優れるとともに、耐湿性、低弾性にも優れた硬化物を与えるエポキシ樹脂、その中間体として適する多価ヒドロキシ樹脂、それらの製造方法、これら用いたエポキシ樹脂組成物並びにその硬化物に関するものであり、半導体封止材、プリント配線板等の電気電子分野の絶縁材料等に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は工業的に幅広い用途で使用されてきているが、その要求性能は近年ますます高度化している。例えば、エポキシ樹脂を主剤とする樹脂組成物の代表的分野に半導体封止材料があるが、半導体素子の集積度の向上に伴い、パッケージサイズは大面積化、薄型化に向かうとともに、実装方式も表面実装化への移行が進展しており、半田耐熱性に優れた材料の開発が望まれている。従って、封止材料としては、低吸湿化に加え、リードフレーム、チップ等の異種材料界面での接着性・密着性の向上が強く求められている。回路基板材料においても同様に、半田耐熱性向上の観点から低吸湿性、高耐熱性、高密着性の向上に加え、誘電損失低減の観点から低誘電性に優れた材料の開発が望まれている。これらの要求に対応するため、様々な新規構造のエポキシ樹脂及び硬化剤が検討されている。更に最近では、環境負荷低減の観点から、ハロゲン系難燃剤排除の動きがあり、より難燃性に優れたエポキシ樹脂及び硬化剤が求められている。
【0003】
従って、上記背景から種々のエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤が検討されている。エポキシ樹脂硬化剤の一例として、ナフタレン系樹脂が知られており、特許文献1にはナフトールアラルキル樹脂を半導体封止材への応用が示されており、難燃性、低吸湿性、低熱膨張性等に優れることが記載されている。また、特許文献2にはビフェニル構造を有する硬化剤が提案され、難燃性向上に有効であることが記載されている。しかし、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂ともに、硬化性に劣る欠点があり、また、難燃性向上の効果についても十分ではない場合があった。
【0004】
一方、エポキシ樹脂についても、これらの要求を満足するものは未だ知られていない。例えば、周知のビスフェノール型エポキシ樹脂は、常温で液状であり、作業性に優れていることや、硬化剤、添加剤等との混合が容易であることから広く使用されているが、耐熱性、耐湿性の点で問題がある。また、耐熱性を改良したものとして、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が知られているが、難燃性に関しては不十分である。
【0005】
ハロゲン系難燃剤を用いることなく難燃性を向上させるための方策として、リン酸エステル系の難燃剤を添加する方法が開示されている。しかし、リン酸エステル系の難燃剤を用いる方法では、耐湿性が十分ではない。また、高温、多湿な環境下ではリン酸エステルが加水分解を起こし、絶縁材料としての信頼性を低下させる問題があった。
【0006】
リン原子やハロゲン原子を含むことなく、難燃性を向上させるものとして、特許文献2及び3ではビフェニル構造を有するアラルキル型エポキシ樹脂を半導体封止材へ応用した例が開示されている。特許文献4には、ナフタレン構造を有するアラルキル型エポキシ樹脂を使用する例が開示されている。しかしながら、これらのエポキシ樹脂は、難燃性、耐湿性又は耐熱性のいずれかにおいて性能が十分でない。なお、特許文献7及び8にはナフトール系アラルキル型エポキシ樹脂及びこれを含有する半導体封止材料が開示されているが、難燃性に着目したものはない。
【0007】
一方、耐湿性、低応力性の向上に着目したエポキシ樹脂組成物の例として、特許文献5及び6にはモノスチレン化フェノールノボラック樹脂及びそのエポキシ樹脂を用いるエポキシ樹脂組成物が開示されているが、これらは難燃性に着目したものではない。また、これらはモノスチレン化フェノールを出発原料として用いられていることから、原料物質であるモノスチレン化フェノールを製造する工程を余分に含む問題があった。また、ノボラック化反応後、残存する高沸点のモノスチレン化フェノールモノマーを除去する必要があり、該樹脂が煩雑な工程によって製造される問題があった。更には、予めモノスチレン化されたフェノール類を出発原料としてノボラック樹脂とした場合、溶融粘度が高くなることから流動性において問題があった。
【0008】
また、特許文献7には、ベンジル化ポリフェノール及びそのエポキシ樹脂が開示されており、耐熱性、耐湿性、耐クラック性等に優れることが記載されているが、難燃性に着目したものではなく、官能基濃度と難燃性の関係に着目したものもなかった。
【0009】
更に、特許文献8には、インデン構造含有のエポキシ樹脂硬化剤が示されており、誘電特性、耐熱性等に優れることが記載されているが、難燃性に着目したものではなかった。更には、剛直性の高いインデン構造を含むため耐熱性に優れるが接着性の点では性能が十分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−344081号公報
【特許文献2】特開平11−140166号公報
【特許文献3】特開2000−129092号公報
【特許文献4】特開2004−59792号公報
【特許文献5】特開平5−132544号公報
【特許文献6】特開平5−140265号公報
【特許文献7】特開平8−120039号公報
【特許文献8】特開平9−208673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、積層、成形、注型、接着等の用途において、難燃性に優れるとともに、耐湿性、低弾性等にも優れた性能を有する多価ヒドロキシ樹脂及びエポキシ樹脂を提供すること、優れた難燃性を有するとともに、耐湿性、低弾性等にも優れた硬化物を与える電気・電子部品類の封止、回路基板材料等に有用なエポキシ樹脂組成物を提供すること、及びその硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表され、水酸基当量が250〜400g/eq.の範囲であることを特徴とする多価ヒドロキシ樹脂である。
【0013】
【化1】

(Aは炭素数1〜8のアルキル基若しくは水酸基が置換してもよいベンゼン環又はナフタレン環からなる基を示し、R1は下記式(a)で表される置換基を示し、R2は水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を示し、p及びqは0〜2の数を示すが、p+qは1以上である。Xは下記式(b)又は式(c)で表される架橋基であり、R3、R4、R5及びR6は独立に、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を示し、nは1〜20の数を示す。)
【化2】

【化3】

【0014】
上記多価ヒドロキシ樹脂は、150℃における溶融粘度が0.01〜10.0Pa・sの範囲であることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、下記一般式(2)で表される多価ヒドロキシ化合物のヒドロキシ基1モルに対し、スチレン類0.1〜4.0モルを、酸触媒の存在下に反応させることを特徴とする上記式(a)で表される置換基が多価ヒドロキシ化合物のベンゼン環又はナフタレン環に置換した構造を有する多価ヒドロキシ樹脂の製造方法である。
【化4】

(式中、Aは炭素数1〜8のアルキル基若しくは水酸基が置換してもよいベンゼン環又はナフタレン環からなる基を示し、X及びnは、一般式(1)と同じ意味を有する。)
【0016】
更に、本発明は、下記一般式(3)
【化5】

(Aは炭素数1〜8のアルキル基若しくはグリシジルオキシ基が置換してもよいベンゼン環又はナフタレン環からなる基を示し、Gはグリシジル基を示す。R1、p、q及びnは一般式(1)と同じ意味を有する。)で表され、エポキシ当量が310〜500g/eq.の範囲であることを特徴とするエポキシ樹脂である。
【0017】
上記エポキシ樹脂の150℃における溶融粘度が0.01〜10.0Pa・sの範囲にあることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、上記の多価ヒドロキシ樹脂とエピクロルヒドリンを反応させることを特徴とするエポキシ樹脂の製造方法である。
【0019】
更に、本発明は、エポキシ樹脂及び硬化剤よりなるエポキシ樹脂組成物において、上記の多価ヒドロキシ樹脂及び上記のエポキシ樹脂の一方又は両方を必須成分として配合してなるエポキシ樹脂組成物である。また、本発明は上記のエポキシ樹脂組成物を硬化してなるエポキシ樹脂硬化物である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のエポキシ樹脂及び多価ヒドロキシ樹脂は、エポキシ樹脂組成物に応用した場合、難燃性に優れるとともに、耐湿性及び低弾性にも優れた硬化物を与え、電気・電子部品類の封止、回路基板材料等の用途に好適に使用することが可能である。特に、難燃性に優れ、環境負荷のある難燃剤の使用を不要とさせ又は減少させる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】多価ヒドロキシ樹脂の1H−NMRスペクトル
【図2】多価ヒドロキシ樹脂の赤外吸収スペクトル
【図3】多価ヒドロキシ樹脂のGPCチャート
【図4】多価ヒドロキシ樹脂のFD−MSチャート
【図5】エポキシ樹脂の1H−NMRスペクトル
【図6】エポキシ樹脂の赤外吸収スペクトル
【図7】エポキシ樹脂のGPCチャート
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本発明の多価ヒドロキシ樹脂(以下、PSNと略す)について説明する。本発明のPSNは一般式(1)で表され、これは一般式(2)で表される多価ヒドロキシ化合物(PSNと区別する場合は、多価ヒドロキシ化合物(2)ともいう)とスチレン類を反応させることにより得ることができる。
【0023】
本発明のPSNでは、先ず、多価ヒドロキシ化合物(2)の基本構造に対し、スチレン類を付加させることによって、水酸基当量を任意に調整することができる。ここで、スチレン類を付加させるとは、多価ヒドロキシ化合物(2)のベンゼン環又はナフタレン環の水素と式(a)で表わされる置換基(スチレニル基ともいう)を置換させることをいう。つまり、エポキシ樹脂硬化物においては、エポキシ基と水酸基との反応により生成するヒドロキシプロピル基が燃え易いとされているが、水酸基当量を高くすることで、エポキシ基由来の易燃成分の脂肪族炭素率は低くなり、高度な難燃性を発現させることができる。また、芳香族性に富んだスチレンを付加させることにより、芳香族性はより一層向上し、難燃性に加え耐湿性の向上にも効果的である。
【0024】
よって、これらを用いて高難燃性のエポキシ樹脂組成物、特に半導体封止用エポキシ樹脂組成物が得られる。すなわち、それらの組成物における高難燃性とともに、耐湿性や低弾性に優れた物性が発現され、この材料を用いて信頼性の高い半導体装置が得られる。
【0025】
次に、本発明のPSNでは、スチレン類を付加することで、分子量は増加するが、半導体封止材等に適した溶融粘度範囲を維持できる。このことは半導体封止用材料として使用した場合、シリカ等の高充填化が可能であり、その結果、各種物性の向上、例えば、難燃性の向上や更なる低吸水化や熱膨張係数の減少等により信頼性に優れた材料が得られる。
【0026】
本発明のPSNは、一般式(2)で表される多価ヒドロキシ化合物(2)とスチレン類とを付加反応させることにより得られる。この際、多価ヒドロキシ化合物(2)とスチレン類との割合としては、得られる硬化物の難燃性と硬化性のバランスを考慮すると、フェノール成分(一般式(2)中のAで表される基をいう)1モルに対するスチレン類の使用割合が0.1から4.0モルの範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜3.0モルの範囲である。
【0027】
この反応では、スチレン類が多価ヒドロキシ化合物(2)中のOH基を有する芳香族環に付加して上記式(a)で表わされるスチレニル基が置換する。また、スチレン類の付加位置は、主として、多価ヒドロキシ化合物の空位のオルソ及び/又はパラ位である。
【0028】
また、本発明のPSNの製造方法では、フェノール成分に対してスチレン類の使用割合を過剰とすれば、スチレンの付加反応割合が上昇し、分子量を容易に増大させることができる。
【0029】
このようにして得られる本発明のPSNの水酸基当量は250〜400g/eq.の範囲にあり、より好ましくは270〜350g/eq.の範囲である。水酸基当量がこの範囲より低いと高度な難燃性は得られ難く、この範囲より高いと高度な難燃性は得られるが、硬化性に劣り、同用途での使用が困難になる傾向がある。
【0030】
また、本発明のPSNの製造原料となる多価ヒドロキシ化合物(2)としては、汎用のフェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等が挙げられる。より高度な難燃性、耐湿性、接着性を得るためには、アラルキル構造を有する多価ヒドロキシ化合物を用いることが好ましい。すなわち、一般式(2)において、Xが式(c)で表わされる構造を有する多価ヒドロキシ化合物が好ましい。
【0031】
また、本発明のPSNの150℃における溶融粘度は0.01〜10.0Pa・sの範囲のものが好ましい。作業性の面から、溶融粘度は上記範囲において低い程好ましい。
【0032】
さらには、軟化点は40〜150℃であることがよく、好ましくは50〜100℃の範囲である。ここで、軟化点は、JIS−K−2207の環球法に基づき測定される軟化点を指す。これより低いと、これをエポキシ樹脂に配合したとき、硬化物の耐熱性が低下し、これより高いと成形時の流動性が低下する。
【0033】
一般式(1)、(2)及び(3)において、Aを除き、共通の記号は同じ意味を有すると理解される。これらの式において、独立に、Aは炭素数1〜8のアルキル基若しくは水酸基が置換してもよいベンゼン環又はナフタレン環からなる基を示す。ただし、一般式(3)においては、Aは水酸基が置換することはなく、グリシジルオキシ基が置換する点で相違する。また、一般式(2)においては、Aは式(a)で表わされる置換基を有しない点で相違する。なお、一般式(3)において、Gはグリシジル基を示す。一般式(1)、(2)及び(3)において、Aにアルキル基が置換する場合、アルキル基としては炭素数1〜8のアルキル基が好ましい。水酸基が置換する場合、その数は1が好ましい。すなわち、Aに置換する水酸基は合計して1又は2が好ましい。また、一般式(2)においては、Aは式(a)で表わされる置換基と置換可能な水素を1以上、好ましくは3以上有する。
【0034】
1は上記式(a)で表されるスチレニル基を示す。p及びqは0〜2の数を示すが、p+qは1以上である。より好ましくは、p+qは2以上であり、更に好ましくは2.6〜4である。有利には1個のAに対し、平均として0.2〜2個のスチレニル基が置換することが好まく、1.3〜2個が特に好ましい。式(a)において、R2は水素又は炭素数1〜6の炭化水素基を示すが、好ましくは水素又は炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくは水素である。このR2は反応原料として使用するスチレン類によって定まる。ここで、qはnが1以外の数である場合は、平均値である。また、pとqの平均は全部のpとqの平均値を意味する。
【0035】
Xは式(b)又は式(c)で表される架橋基であり、好ましくは式(c)で表される架橋基である。R3、R4、R5及びR6は独立に、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を示すが、好ましくは、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。nは1〜20の数を示すが、好ましくは、平均として1.5〜3.0の範囲である。更にn=2以上である成分がゲルパーミエーションクロマトグラフィーチャートの面積百分率値において30%以上であるものが好ましい。なお、nが異なる混合物である場合は、nは数平均である。
【0036】
次に、本発明のPSNの製造方法について説明する。本発明のPSNを製造する方法で用いる多価ヒドロキシ化合物(2)として、汎用のフェノール樹脂が挙げられる。具体的には一般式(2)における連結基Xがアルデヒド又はケトン類から誘導されたもの、例えば、一般式(5)で表されるものがある。
【0037】
【化6】

ここで、R7は水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基又は水酸基を示し、R3及びR4は独立に、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を示す。nは1〜20の数を示す。
【0038】
また、フェノールアラルキル樹脂も同様に挙げられる。具体的には一般式(2)における連結基Xがキシリレングリコール類、キシリレングリコールジメチルエーテル類、キシリレンジクロライド類、ジビニルベンゼン類、ジイソプロペニルベンゼン類等から誘導されたもの、例えば、一般式(6)で表されるものである。
【0039】
【化7】

ここで、R7は水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基又は水酸基を示し、R5及びR6は独立に、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を示す。nは1〜20の数を示す。
【0040】
更には、ナフトールアラルキル樹脂も同様に挙げられる。具体的には一般式(2)におけるAがナフタレン環を示し、連結基Xがキシリレングリコール類、キシリレングリコールジメチルエーテル類、キシリレンジクロライド類等から誘導されたもの、例えば、一般式(7)で表されるものである。
【0041】
【化8】

ここで、一般式(7)において、R5、R6、R7及びnは一般式(6)と同じ意味を有する。
【0042】
これらの多価ヒドロキシ化合物(2)を得るために用いられるフェノール類又はナフトール類としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、エチルフェノール類、イソプロピルフェノール類、ターシャリーブチルフェノール類、アリルフェノール類、フェニルフェノール類、2,6−キシレノール、2,6−ジエチルフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、1−ナフトール、2−ナフトール、1,5−ナフタレンジオール、1,6−ナフタレンジオール、1,7−ナフタレンジオール、2,6−ナフタレンジオール、2,7−ナフタレンジオールなどが挙げられる。これらのフェノール類又はナフトール類は単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
反応に用いるスチレン類は、スチレン又は炭素数1〜6の炭化水素基若しくは水酸基が置換したスチレンである。このスチレン類は少量の他の反応成分を含んでもよい。他の反応成分として、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、インデン、クマロン、ベンゾチオフェン、インドール、ビニルナフタレン等の不飽和結合含有成分を含む場合、得られる多価ヒドロキシ樹脂にはこれらから生ずる基が芳香環上に置換した化合物が含まれることになる。本発明の多価ヒドロキシ樹脂の製造方法で得られるフェノール樹脂は、このような置換基を有する多価ヒドロキシ樹脂を含み得る。同様に、本発明のエポキシ樹脂の製造方法で得られるエポキシ樹脂は、このような置換基を有するエポキシ樹脂を含み得る。
【0044】
スチレン類を多価ヒドロキシ化合物(2)に反応させる本発明の方法において、スチレン類の使用量は、多価ヒドロキシ化合物のフェノール成分1モルに対し、0.1〜4モルの範囲が好ましい。より好ましくは、1.3〜3モルの範囲である。そして、一般式(1)におけるpとqが平均1.3〜2の範囲となることが好ましい。この範囲より少ない場合は、原料の多価ヒドロキシ化合物の性質が改良されないままの状態であり、この範囲より多い場合は、官能基密度が低くなり過ぎて硬化性が低下する傾向がある。本発明では、これらスチレン類の使用量により、PSNの水酸基当量を250g/eq〜400g/eq.に調整することが可能である。この結果、エポキシ樹脂組成物の難燃性、耐湿性、低弾性等の優れた物性を発現し、半導体封止材料等の用途で難燃性及び信頼性等に優れた組成物を与える。それ故、スチレン類の使用割合は、原料の多価ヒドロキシ化合物自身の水酸基当量により、変更される。すなわち、フェノールノボラック樹脂のような水酸基当量の小さいものは、比較的スチレン類の使用割合が多くなり、アルキル置換フェノールノボラック類、フェノールアラルキル樹脂類、ナフトールアラルキル樹脂類等では相対的に使用割合が少なくてもよい。
【0045】
この反応は酸触媒の存在下に行うことができる。この酸触媒としては、周知の無機酸、有機酸より適宜選択することができる。例えば、塩酸、硫酸、燐酸等の鉱酸や、ギ酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等の有機酸や、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化鉄、三フッ化ホウ素等のルイス酸あるいはイオン交換樹脂、活性白土、シリカ−アルミナ、ゼオライト等の固体酸等が挙げられる。
【0046】
また、この反応は通常、10〜250℃で1〜20時間行われる。更に、反応の際には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のアルコール類や、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族化合物等を溶媒として使用することができる。
【0047】
この反応を実施する具体的方法としては、全原料を一括装入し、そのまま所定の温度で反応させるか、又は、多価ヒドロキシ化合物と触媒を装入し、所定の温度に保ちつつ、スチレン類を滴下させながら反応させる方法が一般的である。この際、滴下時間は、5時間以下が好ましく、通常、1〜10時間である。反応後、溶媒を使用した場合は、必要により、触媒成分を取り除いた後、溶媒を留去させて本発明の樹脂を得ることができ、溶媒を使用しない場合は、直接熱時排出することによって目的物を得ることができる。
【0048】
次に、本発明のエポキシ樹脂について述べる。
本発明のエポキシ樹脂(PSNEと略す)は一般式(3)で表される。また、多価ヒドロキシ樹脂(PSN)は一般式(1)で表される。PSNEは、PSNをエポキシ化することにより得ることができる。
【0049】
一般式(3)において、一般式(1)と共通な記号及び式は、特に断らない限り同じ意味を有する。Gはグリシジル基を表すが、一般式(1)の水酸基が反応して生じる。R1は式(a)で表わされる置換基である。
【0050】
Xは式(b)又は式(c)で表される架橋基であるが、R3、R4、R5及びR6は独立に、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を示す。XはAを架橋するが、Xの置換位置は、特に限定するものではない。
本発明のPSNEは、上記一般式(1)で表されるPSNと、エピクロルヒドリンを反応させることより製造することが有利であるが、この反応に限らない。
【0051】
PSNをエピクロルヒドリンと反応させる反応の他、PSNとハロゲン化アリルを反応させ、アリルエーテル化合物とした後、過酸化物と反応させる方法をとることもできる。上記PSNをエピクロルヒドリンと反応させる反応は、通常のエポキシ化反応と同様に行うことができる。
【0052】
例えば、上記PSNを過剰のエピクロルヒドリンに溶解した後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の存在下に、20〜150℃、好ましくは、30〜80℃の範囲で1〜10時間反応させる方法が挙げられる。この際のアルカリ金属水酸化物の使用量は、PSNの水酸基1モルに対して、0.8〜1.5モル、好ましくは、0.9〜1.2モルの範囲である。また、エピクロルヒドリンはPSN中の水酸基1モルに対して過剰に用いられるが、通常、PSN中の水酸基1モルに対して、1.5〜30モル、好ましくは、2〜15モルの範囲である。反応終了後、過剰のエピクロルヒドリンを留去し、残留物をトルエン、メチルイソブチルケトン等の溶剤に溶解し、濾過し、水洗して無機塩を除去し、次いで溶剤を留去することにより目的のエポキシ樹脂を得ることができる。
【0053】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、少なくともエポキシ樹脂及び硬化剤を含むものであるが、次の3種類がある。
1)エポキシ樹脂の一部又は全部として前記PSNEを配合した組成物。
2)硬化剤の一部又は全部として前記PSNを配合した組成物。
3)エポキシ樹脂及び硬化剤の一部又は全部として前記PSNEとPSNを配合した組成物。
【0054】
上記2)及び3)の組成物の場合、PSNの配合量は、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して2〜200重量部、好ましくは5〜80重量部の範囲である。これより少ないと難燃性及び耐湿性向上の効果が小さく、これより多いと成形性及び硬化物の強度が低下する問題がある。
【0055】
硬化剤の全量としてPSNを用いる場合、通常、PSNの配合量は、PSNのOH基とエポキシ樹脂中のエポキシ基の当量バランスを考慮して配合する。エポキシ樹脂及び硬化剤の当量比は、通常、0.2〜5.0の範囲であり、好ましくは0.5〜2.0の範囲である。これより大きくても小さくても、エポキシ樹脂組成物の硬化性が低下するとともに、硬化物の耐熱性、力学強度等が低下する。
【0056】
硬化剤としてPSN以外の硬化剤を併用することができる。その他の硬化剤の配合量は、PSNの配合量が、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して2〜200重量部、好ましくは5〜80重量部の範囲が保たれる範囲内で決定される。PSNの配合量がこれより少ないと低吸湿性、密着性及び難燃性向上の効果が小さく、これより多いと成形性及び硬化物の強度が低下する問題がある。
【0057】
PSN以外の硬化剤としては、一般にエポキシ樹脂の硬化剤として知られているものはすべて使用でき、ジシアンジアミド、酸無水物類、多価フェノール類、芳香族及び脂肪族アミン類等がある。これらの中でも、半導体封止材等の高い電気絶縁性が要求される分野においては、多価フェノール類を硬化剤として用いることが好ましい。以下に、硬化剤の具体例を示す。
【0058】
酸無水物硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル無水ハイミック酸、無水ドデシニルコハク酸、無水ナジック酸、無水トリメリット酸等がある。
【0059】
多価フェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4'−ビフェノール、2,2'−ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール等の2価のフェノール類、あるいは、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o-クレゾールノボラック、ナフトールノボラック、ポリビニルフェノール等に代表される3価以上のフェノール類がある。更には、フェノール類、ナフトール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4'−ビフェノール、2,2'−ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール等の2価のフェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−キシリレンジクロライド、ビスクロロメチルビフェニル、ビスクロロメチルナフタレン等の縮合剤により合成される多価フェノール性化合物等がある。
【0060】
アミン類としては、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルプロパン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、m−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン等の芳香族アミン類、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、リエチレンテトラミン等の脂肪族アミン類がある。
上記組成物には、これら硬化剤の1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0061】
上記組成物に使用されるエポキシ樹脂としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有するもの中から選択される。例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4'−ビフェノール、2,2'−ビフェノール、テトラブロモビスフェノールA、ハイドロキノン、レゾルシン等の2価のフェノール類、あるいは、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタンや、フェノール、クレゾール、ナフトール等のノボラック樹脂、フェノール、クレゾール、ナフトール等のアラルキル樹脂等の3価以上のフェノール性化合物のグルシジルエーテル化物等がある。これらのエポキシ樹脂は1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0062】
上記1)及び3)の組成物の場合、このエポキシ樹脂組成物中には、エポキシ樹脂成分として、PSNE以外に別種のエポキシ樹脂を配合してもよい。この場合のエポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ基を2個以上有する通常のエポキシ樹脂はすべて使用できる。例を挙げれば、ビスフェノールA、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4'−ビフェノール、2,2'−ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン等の2価のフェノール類、あるいは、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック等の3価以上のフェノール類、フェノール系アラルキル樹脂類、ビフェニルアラルキル樹脂類、ナフトール系アラルキル樹脂類又はテトラブロモビスフェノールA等のハロゲン化ビスフェノール類から誘導されるグルシジルエーテル化物等がある。これらのエポキシ樹脂は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。そして、本発明のPSNEを必須成分とする組成物の場合、PSNEの配合量はエポキシ樹脂全体中、5〜100%、好ましくは60〜100%の範囲であることがよい。
【0063】
本発明のエポキシ樹脂組成物中には、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリウレタン、石油樹脂、インデン樹脂、インデン・クマロン樹脂、フェノキシ樹脂等のオリゴマー又は高分子化合物を他の改質剤等として適宜配合してもよい。添加量は、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して、2〜30重量部の範囲である。
【0064】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、無機充填剤、顔料、難然剤、揺変性付与剤、カップリング剤、流動性向上剤等の添加剤を配合できる。無機充填剤としては、例えば、球状あるいは、破砕状の溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末、又はマイカ、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、水和アルミナ等が挙げられ、半導体封止材に用いる場合の好ましい配合量は70重量%以上であり、更に好ましくは80重量%以上である。
【0065】
顔料としては、有機系又は、無機系の体質顔料、鱗片状顔料等がある。揺変性付与剤としては、シリコン系、ヒマシ油系、脂肪族アマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス、有機ベントナイト系等を挙げることができる。
【0066】
更に、本発明のエポキシ樹脂組成物には必要に応じて硬化促進剤を用いることができる。例を挙げれば、アミン類、イミダゾール類、有機ホスフィン類、ルイス酸等があり、具体的には、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの三級アミン、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−へプタデシルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフイン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレートなどのテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換
ボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などがある。添加量としては、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.2から5重量部の範囲である。
【0067】
更に必要に応じて、本発明の樹脂組成物には、カルナバワックス、OPワックス等の離型剤、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング剤、カーボンブラック等の着色剤、三酸化アンチモン等の難燃剤、シリコンオイル等の低応力化剤、ステアリン酸カルシウム等の滑剤等を使用できる。
【0068】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、有機溶剤を溶解させたワニス状態とした後に、ガラスクロス、アラミド不織布、液晶ポリマー等のポリエステル不織布、等の繊維状物に含浸させた後に溶剤除去を行い、プリプレグとすることができる。また、場合により銅箔、ステンレス箔、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム等のシート状物上に塗布することにより積層物とすることができる。
【0069】
本発明のエポキシ樹脂組成物を加熱硬化させれば、エポキシ樹脂硬化物とすることができ、この硬化物は低吸湿性、高耐熱性、密着性、難燃性等の点で優れたものとなる。この硬化物は、エポキシ樹脂組成物を注型、圧縮成形、トランスファー成形等の方法により、成形加工して得ることができる。この際の温度は通常、120〜220℃の範囲である。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
ここで、粘度はB型粘度計を用い、軟化点はJIS−K−2207に従い環球法で測定した。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定条件は、装置;MODEL151(ウォーターズ(株)製)、カラム;TSK−GEL2000×3本及びTSK−GEL400×1本(いずれも東ソー(株)製)、溶媒;テトラヒドロフラン、流量;1 ml/min、温度;38℃、検出器;RIであり、検量線にはポリスチレン標準液を使用した。
【0071】
(多価ヒドロキシ樹脂の合成)
実施例1
1Lの4口フラスコに、多価ヒドロキシ化合物成分としてフェノールノボラック(昭和高分子製;BRG−555、水酸基当量105g/eq.、軟化点67℃、150℃での溶融粘度0.08Pa・s、GPC測定によるn=1の成分(38%)、n=2以上の成分(62%))を105g、酸触媒としてp−トルエンスルホン酸0.13gを仕込み150℃に昇温した。次に、150℃にて攪拌しながら、スチレン類としてスチレン156g(1.5モル)を3時間かけて滴下し反応させた。さらに150℃にて1時間反応後、MIBK500gに溶解させ、80℃にて5回水洗を行った。続いて、MIBKを減圧留去した後、多価ヒドロキシ樹脂255gを得た。その軟化点は75℃、150℃での溶融粘度は0.16Pa・s、水酸基当量は261g/eq.であり、p、qの平均は1.5であった。この化合物をPSN−Aという。PSN−Aの1H−NMRスペクトルを図1、赤外吸収スペクトルを図2、GPCチャートを図3、FD−MSチャートを図4に示す。
【0072】
実施例2
多価ヒドロキシ化合物成分として、ビスフェノールF(本州化学製、4,4’体(31%)、2,4’体(49%)、2,2’体(20%))を100g、酸触媒としてp−トルエンスルホン酸0.13gを仕込み150℃に昇温した。次に、150℃にて攪拌しながら、スチレン類としてスチレン156g(1.5モル)を3時間かけて滴下し反応させた。その後、実施例1と同様な処理を行った後、多価ヒドロキシ樹脂251gを得た。その軟化点は50℃、150℃での溶融粘度は0.020Pa・s、水酸基当量は256g/eq.であり、p、qの平均は1.5であった。この化合物をPSN−Bという。
【0073】
実施例3
多価ヒドロキシ化合物成分として、フェノールアラルキル樹脂(明和化成株式会社製;MEH−7800SS、水酸基当量175g/eq.、軟化点66℃、150℃での溶融粘度0.07Pa・s)を175g、酸触媒としてp−トルエンスルホン酸0.16gを仕込み150℃に昇温した。次に、150℃にて攪拌しながら、スチレン類としてスチレン135g(1.3モル)を3時間かけて滴下し反応させた。その後、実施例1と同様な処理を行った後、多価ヒドロキシ樹脂305gを得た。その軟化点は82℃、150℃での溶融粘度は0.45Pa・s、水酸基当量は310g/eq.であり、p、qの平均は1.3であった。この化合物をPSN−Cという。
【0074】
実施例4
多価ヒドロキシ化合物成分として、1−ナフトールアラルキル樹脂(東都化成株式会社製;SN−475、水酸基当量210g/eq.、軟化点77℃、150℃での溶融粘度0.04Pa・s)を210g、酸触媒としてp−トルエンスルホン酸0.17gを仕込み150℃に昇温した。次に、150℃にて攪拌しながら、スチレン類としてスチレン135g(1.3モル)を3時間かけて滴下し反応させた。その後、実施例1と同様な処理を行った後、多価ヒドロキシ樹脂340gを得た。その軟化点は88℃、150℃での溶融粘度は0.41Pa・s、水酸基当量は345g/eq.であり、p、qの平均は1.3であった。この化合物をPSN−Dという。
【0075】
ここで、p、qの平均は、pとqは実質的に等価であるので、1つのAに置換したR1の平均の数を意味する。なお、反応に使用したスチレンはほぼ全量が反応する。
【0076】
合成例1
多価ヒドロキシ化合物成分として、フェノールノボラック(昭和高分子製;BRG−555、水酸基当量105g/eq.、軟化点67℃、150℃での溶融粘度0.08Pa・s)を105g、酸触媒としてp−トルエンスルホン酸0.10gを仕込み150℃に昇温した。次に、150℃にて攪拌しながら、スチレン類としてスチレン73g(0.7モル)を2時間かけて滴下し反応させた。その後、実施例1と同様な処理を行った後、多価ヒドロキシ樹脂172gを得た。その軟化点は72℃、150℃での溶融粘度は0.11Pa・s、水酸基当量は178g/eq.であり、p、qの平均は0.7であった。
【0077】
合成例2
多価ヒドロキシ化合物成分として、ビスフェノールF(本州化学製、4,4’体(31%)、2,4’体(49%)、2,2’体(20%))を200gを仕込み175℃まで昇温させた。溶融後、撹拌しながらp−トルエンスルホン酸0.13gを仕込み、150℃においてインデン116g(1.0モル)を約3時間かけて滴下した。その後、実施例1と同様な処理を行った後、多価ヒドロキシ樹脂413gを得た。その軟化点は78℃、150℃での溶融粘度は0.06Pa・s、水酸基当量は216g/eq.であり、p、qの平均は1.0であった。
【0078】
(エポキシ樹脂の合成)
実施例5
四つ口セパラブルフラスコに実施例1で得たPSN−A150g、エピクロルヒドリン306g、ジエチレングリコールジメチルエーテル46gを入れ撹拌溶解させた。均一に溶解後、130mmHgの減圧下65℃に保ち、48%水酸化ナトリウム水溶液47.9gを4時間かけて滴下し、この滴下中に還流留出した水とエピクロルヒドリンを分離槽で分離しエピクロルヒドリンは反応容器に戻し、水は系外に除いて反応した。反応終了後、濾過により生成した塩を除き、更に水洗したのちエピクロルヒドリンを留去し、エポキシ樹脂172gを得た(PSNE−A)。得られた樹脂のエポキシ当量は329g/eq.、軟化点は62℃、150℃における溶融粘度は0.18Pa・sであった。PSNE−Aの1H−NMRスペクトルを図5、赤外吸収スペクトルを図6、GPCチャートを図7に示す。
【0079】
実施例6
実施例2で得たPSN−B150gを用い、実施例5と同様に反応させエポキシ樹脂171gを得た(PSNE−B)。得られた樹脂のエポキシ当量は322g/eq.、150℃における溶融粘度は0.03Pa・sであった。
【0080】
実施例7
実施例3で得たPSN−C150gを用い、実施例5と同様に反応させエポキシ樹脂165gを得た(PSNE−C)。得られた樹脂のエポキシ当量は378g/eq.、軟化点は71℃、150℃における溶融粘度は0.57Pa・sであった。
【0081】
実施例8
実施例4で得たPSN−D150gを用い、実施例5と同様に反応させエポキシ樹脂162gを得た(PSNE−E)。得られた樹脂のエポキシ当量は411g/eq.、軟化点は84℃、150℃における溶融粘度は0.62Pa・sであった。
【0082】
合成例3
合成例1で得た樹脂を用い、実施例5と同様に反応させエポキシ樹脂171gを得た。得られた樹脂のエポキシ当量は246g/eq.、軟化点は57℃、150℃における溶融粘度は0.14Pa・sであった。
【0083】
合成例4
合成例2で得た樹脂を用い、実施例5と同様に反応させエポキシ樹脂169gを得た。得られた樹脂のエポキシ当量は278g/eq.、軟化点は58℃、150℃における溶融粘度は0.05Pa・sであった。
【0084】
実施例9〜13及び比較例1〜4
エポキシ樹脂成分としてo-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(OCNE;エポキシ当量200、軟化点65℃)を使用し、硬化剤として実施例1、2、3、4で得たPSN−A、PSN−B、PSN−C,PSN−D、合成例1、2で得た樹脂の他、フェノールノボラック(硬化剤A:群栄化学製、PSM−4261;OH当量103、軟化点 82℃)又はフェノールアラルキル樹脂(硬化剤B;明和化成製、MEH−7800SS、OH当量175、軟化点67℃)を使用した。充填剤としてシリカ(平均粒径18μm)、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンを表1及び表3に示す配合で混練しエポキシ樹脂組成物を得た。このエポキシ樹脂組成物を用いて175℃にて成形し、175℃にて12時間ポストキュアを行い、硬化物試験片を得た後、各種物性測定に供した。
【0085】
ガラス転移点(Tg)及び線膨張係数(CTE)の測定は、熱機械測定装置を用いて10℃/分の昇温速度で求めた。また吸水率は、直径50mm、厚さ3mmの円形の試験片を用いて、85℃、85%RHの条件で100時間吸湿させた後の重量変化率とした。接着強度は、銅板2枚の間に25mm×12.5mm×0.5mmの成形物を圧縮成形機により175℃で成形し、180℃にて12時間ポストキュアを行った後、引張剪断強度を求めることにより評価した。難燃性は、厚さ1/16インチの試験片を成形し、UL94V-0規格によって評価し、5本の試験片での合計の燃焼時間で表した。結果を表2に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
実施例14〜19及び比較例5〜6
エポキシ樹脂成分として、実施例5、6、7、8で得たPSNE−A、PSNE−B、PSNE−C,PSNE−D、合成例3、4で得た樹脂の他、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(OCNE;エポキシ当量200、軟化点65℃)を用い、硬化剤成分として、実施例1で合成したPSN−A、フェノールノボラック(硬化剤A:群栄化学製、PSM−4261;OH当量103、軟化点 82℃)又はフェノールアラルキル樹脂(硬化剤B;明和化成製、MEH−7800SS、OH当量175、軟化点67℃)を用いた。更に、充填剤として球状シリカ(平均粒径 18μm)、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンを用い、表3に示す配合でエポキシ樹脂組成物を得た。表中の数値は配合における重量部を示す。
【0089】
このエポキシ樹脂組成物を用いて175℃で成形し、更に175℃にて12時間ポストキュアを行い、硬化物試験片を得た後、各種物性測定に供した。結果を表4に示す。
【0090】
【表3】

【0091】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(ここで、Aは炭素数1〜8のアルキル基若しくは水酸基が置換してもよいベンゼン環又はナフタレン環からなる基を示し、R1は下記式(a)で表される置換基を示し、R2は水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を示し、p及びqは0〜2の数を示すが、p+qは1以上である。Xは下記式(b)又は式(c)で表される架橋基であり、R3、R4、R5及びR6は独立に、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を示し、nは1〜20の数を示す。)
【化2】

【化3】

で表され、水酸基当量が250〜400g/eq.の範囲であることを特徴とする多価ヒドロキシ樹脂。
【請求項2】
150℃における溶融粘度が0.01〜10.0Pa・sの範囲である請求項1に記載の多価ヒドロキシ樹脂。
【請求項3】
下記一般式(2)で表される多価ヒドロキシ化合物のヒドロキシ基1モルに対し、スチレン類0.1〜4.0モルを、酸触媒の存在下に反応させて、式(a)で表される置換基を多価ヒドロキシ化合物のベンゼン環又はナフタレン環に置換させることを特徴とする多価ヒドロキシ樹脂の製造方法。
【化4】

【化5】

【化6】

(ここで、Aは炭素数1〜8のアルキル基若しくは水酸基が置換してもよいベンゼン環又はナフタレン環からなる基を示し、Xは式(b)又は式(c)で表される架橋基であり、R2、R3、R4、R5及びR6は独立に、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を示し、nは1〜20の数を示す。)
【請求項4】
エポキシ樹脂及び硬化剤よりなるエポキシ樹脂組成物において、硬化剤の一部又は全部として、請求項1又は2に記載の多価ヒドロキシ樹脂を必須成分としてなることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなることを特徴とするエポキシ樹脂硬化物。
【請求項6】
下記一般式(3)
【化7】

(ここで、Aは炭素数1〜8のアルキル基若しくはグリシジルオキシ基が置換してもよいベンゼン環又はナフタレン環からなる基を示し、Gはグリシジル基を示し、R1は下記式(a)で表される置換基を示し、R2は炭素数1〜6の炭化水素基を示し、p及びqは0〜2の数を示すが、p+qは1以上である。Xは下記式(b)又は式(c)で表される架橋基であり、R3、R4、R5及びR6は独立に、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を示し、nは1〜20の数を示す。)
【化8】

【化9】

で表され、エポキシ当量が310〜500g/eq.の範囲であることを特徴とするエポキシ樹脂。
【請求項7】
150℃における溶融粘度が0.01〜10.0Pa・sの範囲である請求項6に記載のエポキシ樹脂。
【請求項8】
請求項1に記載の多価ヒドロキシ樹脂とエピクロルヒドリンを反応させて、多価ヒドロキシ樹脂のヒドロキシ基をグリシジルエーテル基とすることを特徴とするエポキシ樹脂の製造方法。
【請求項9】
エポキシ樹脂及び硬化剤よりなるエポキシ樹脂組成物において、請求項6又は7に記載のエポキシ樹脂を必須成分として配合してなるエポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
請求項9に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなるエポキシ樹脂硬化物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−235819(P2010−235819A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86384(P2009−86384)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】