説明

多孔質ガラスの製造方法及び撮像装置の製造方法

【課題】 面から深さ方向に遠くなるほど空孔率が小さくなっている多孔質ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】 ホウケイ酸塩ガラスを主成分とする母材ガラスに、銀イオンとカリウムイオンとリチウムイオンのうちから選ばれた1種類以上のイオン種を接触させて加熱して、表面から深さ方向に遠くなるほど前記イオン種の濃度が減少しているイオン濃度分布を有するガラス体を形成する工程と、前記ガラス体を加熱して相分離させて相分離ガラスを形成する工程と、前記相分離ガラスをエッチングして、表面から深さ方向に遠くなるほど空孔率が小さくなっている多孔質ガラスを形成する工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ガラスの製造方法及び撮像装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質ガラスの比較的容易な製造法として相分離現象を利用する方法がある。相分離現象を利用する多孔質ガラスの母材は、シリカ、酸化ホウ素、酸化ナトリウムなどを構成要素としたホウケイ酸塩ガラスが一般的である。成型されたホウケイ酸塩ガラスを一定温度で保持する熱処理により相分離現象を起こさせ(以下、相分離処理と言う)、酸溶液によるエッチングで非シリカリッチ相を溶出させて製造する。多孔質ガラスを構成する骨格は主にシリカである。このようにして得られる多孔質ガラスの骨格径や細孔径、空孔率は相分離処理前の組成、相分離処理温度や時間に大きく影響される。更に多孔質ガラスの骨格・細孔径や空孔率はガラスに対する光の反射率、屈折率に影響する。
【0003】
一般的なシリカガラスの場合、空孔率が増えることによって空気の影響が大きくなり、ガラス全体として低屈折率材料となる。また、優れた低反射、反射防止性能を得るための手段としてサブ波長構造を形成させることが知られている。例えば、基材上に形成されたサブ波長構造を有する理想的な膜(基材と膜の屈折率を同じとする)の場合、膜を各層に分割したと想定して考えるとする。この場合、各層が空気から基板に向って空間占有率が0%から100%に連続的に変化していき、有効屈折率も空気の屈折率から基板の屈折率に連続的に変化する。このことで各層界面での反射が非常に小さくなり波長帯域特性および入射角度特性に優れた反射防止性能が得られる。つまり、反射防止性能の優れたガラスを得るため、表面から深さ方向に屈折率が変化する、すなわち空孔率が小さくなっていく多孔質ガラス材料が必要である。
【0004】
例えば特許文献1では、ガラス表面にシリカ(SiO)と反応させる相分離成分を塗布した上で熱処理してシリカ表面近傍で相分離現象を誘起させている。ただし、この手法はガラスの最表面に凹凸をつけ、めっきとの密着を良くするための手法である。すなわち反射防止機能性を有するほどの深さまでの相分離現象誘起や空孔率など多孔質構造を変化させることはできない。
【0005】
また、屈折率を表面から深さ方向に変化させる方法として、特許文献2においてはイオン交換でガラス表面から深さ方向へ組成変化を起こし、屈折率を徐々に変化させる方法を開示している。だが、表面から深さ5mm以上のイオン拡散を狙った方法であり、数百μm以下の範囲のみでイオン拡散の制御をすることが困難である。また、イオン交換で用いるイオンが最終物の特性に影響するため、限られたイオン間で行われるイオン交換では汎用性が低い。更に1300℃以上の高温を用いるため、コストがかかる。
【0006】
特許文献3ではあらかじめ多孔質であるガラスに対し、イオン交換法を用いてガラス表面から深さ方向に組成を変化させる処理方法を開示している。しかし、この方法を適用するには多孔質骨格部分にイオン交換の対象元素をある程度含有している必要があり、主にシリカガラスからなる多孔質ガラスには適用できない。また、イオン交換して導入されるイオンは限定される上、含有することで光学的な影響をもたらす可能性も不適当である。
【0007】
また、非特許文献1ではイオン交換法と相分離を用いた多孔質ガラスを製造する方法が開示されている。しかし、あらかじめ相分離したガラスを使用するため、ガラスの多孔質化において制御できる骨格・細孔径、空孔率が限られてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平01−317135号公報
【特許文献2】特開昭62−041725号公報
【特許文献3】特開平06−345446号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A.Flugel,C.Russel,Glastech.Ber.Glass Sci.Technol.,73(2000)No.7,p.204−210
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題に対処するためになされたもので、表面から深さ方向に多孔質構造を変化させた、特に、表面から深さ方向に遠くなるほど空孔率が減少している多孔質ガラスの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決する多孔質ガラスの製造方法は、ホウケイ酸塩ガラスを主成分とする母材ガラスに、銀イオンとカリウムイオンとリチウムイオンのうちから選ばれた1種類以上のイオン種を接触させて加熱して、表面から深さ方向に遠くなるほど前記イオン種の濃度が減少しているイオン濃度分布を有するガラス体を形成する工程と、前記ガラス体を加熱して相分離させて相分離ガラスを形成する工程と、前記相分離ガラスをエッチングして、表面から深さ方向に遠くなるほど空孔率が小さくなっている多孔質ガラスを形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、上記の課題を解決する多孔質ガラスの製造方法は、ホウケイ酸塩ガラスを主成分とする母材ガラスに、銀イオンとカリウムイオンとリチウムイオンのうちから選ばれた1種類以上のイオン種を接触させて加熱して、表面から深さ方向に遠くなるほど前記イオン種の濃度が減少しているイオン濃度分布を形成すると共に相分離させて相分離ガラスを形成する工程と、前記相分離ガラスをエッチングして、表面から深さ方向に遠くなるほど空孔率が小さくなっている多孔質ガラスを形成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、表面から深さ方向に多孔質構造を変化させた、特に、表面から深さ方向に遠くなるほど空孔率が減少している多孔質ガラスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1の相分離後のガラスの、表面から深さ方向に対するKとSiのatom比(K/Si)の変化を示すグラフである。
【図2】実施例1で作製した多孔質ガラスの破断面の電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例1で作製した多孔質ガラスの破断面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0016】
本発明は、課題に対処するためになされたもので、表面から深さ方向に多孔質骨格構造の異なる多孔質シリカガラスを製造する方法を提供する。
【0017】
本発明に係る第一の多孔質ガラスの製造方法は、ホウケイ酸塩ガラスを主成分とする母材ガラスに、銀イオンとカリウムイオンとリチウムイオンのうちから選ばれた1種類以上のイオン種を接触させて加熱して、表面から深さ方向に遠くなるほど前記イオン種の濃度が減少しているイオン濃度分布を有するガラス体を形成する工程と、前記ガラス体を加熱して相分離させて相分離ガラスを形成する工程と、前記相分離ガラスをエッチングして、表面から深さ方向に遠くなるほど空孔率が小さくなっている多孔質ガラスを形成する工程と、を有する。
【0018】
また、本発明に係る第二の多孔質ガラスの製造方法は、ホウケイ酸塩ガラスを主成分とする母材ガラスに、銀イオンとカリウムイオンとリチウムイオンのうちから選ばれた1種類以上のイオン種を接触させて加熱して、表面から深さ方向に遠くなるほど前記イオン種の濃度が減少しているイオン濃度分布を形成すると共に相分離させて相分離ガラスを形成する工程と、前記相分離ガラスをエッチングして、表面から深さ方向に遠くなるほど空孔率が小さくなっている多孔質ガラスを形成する工程と、を有する。
【0019】
具体的には、本発明の多孔質ガラスの製造方法は、ホウケイ酸塩ガラスを主成分とするガラスの表面から深さ数百μmまでの範囲で、イオン交換法により組成の段階的な変化をつけた上での相分離処理により、表面から深さ方向に異なった相分離発現を誘起する。さらに相分離処理したガラスの非シリカリッチ相をエッチングで除去することにより、表面から深さ方向に多孔質構造を変化させた、特に、表面から深さ方向に遠くなるほど空孔率が減少している多孔質シリカガラスを作製することが可能である。
【0020】
本発明に用いられる原料の母材ガラスは、相分離が可能なホウケイ酸塩ガラスが挙げられる。ホウケイ酸塩ガラスは、シリカ、酸化ホウ素、ナトリウムを含有する酸化物を主成分とするアモルファスである。一般にホウケイ酸塩ガラスはシリカ(SiO)、酸化ホウ素(B)、アルカリ金属酸化物に換算した重量比で表現される。アルカリ金属酸化物としては、酸化ナトリウム(NaO)が挙げられる。
【0021】
なお、「相分離」について、たとえばガラス体に酸化ケイ素、酸化ホウ素、アルカリ金属を有する酸化物を含むホウケイ酸塩ガラスを用いた場合を例に説明する。「相分離」とは、ガラス内部でアルカリ金属を有する酸化物と酸化ホウ素を相分離前の組成より多く含有する相(非シリカリッチ相)と、アルカリ金属を有する酸化物と酸化ホウ素を相分離前の組成より少なく含有する相(シリカリッチ相)に、数nmスケールの構造で分離することを意味する。
【0022】
ホウケイ酸塩ガラスの特定の組成において、熱印加時にシリカを主成分とするシリケート相と酸化ホウ素とアルカリ金属酸化物を主成分とする相に分離する相分離現象を起こす。相分離するホウケイ酸塩ガラスとしては、SiO(55から80重量%)−B−NaO−(Al)系ガラス、SiO(35から55重量%)−B−NaO系ガラス、SiO−B−CaO−NaO−Al系ガラス、SiO−B−NaO−RO(R:アルカリ土類金属、例えばZn)系ガラス、SiO−B−CaO−MgO−NaO−Al−TiO(TiOは49.2モル%まで)などが挙げられる。
【0023】
本発明においては、最初に、ホウケイ酸塩ガラスを主成分とする母体ガラスにイオン種を接触させて加熱して、表面から深さ方向に遠くなるほど前記イオン種の濃度が減少しているイオン濃度分布を有するガラス体(母体ガラスとイオン種を含む膜との積層体)を形成する工程を行う。
【0024】
このようなイオン濃度分布を形成して、ガラス体内の組成を表面から深さ方向において変化させることにより、次の相分離処理での相分離発現を局所的に変化させることができる。
【0025】
このようなイオン濃度分布を形成する方法は、母体ガラスにイオン種を接触させ、加熱することにより行なわれる。母体ガラスにイオン種を接触させる方法は、母体ガラスをイオン種の有する化合物の中に浸漬させる方法、母体ガラス表面にイオン種を有する化合物の膜を形成させる方法などが挙げられる。母体ガラスの表面に存在するイオン種は、拡散、イオン交換等により、母体ガラスの中へ侵入し、イオン種のイオン濃度分布が形成される。
【0026】
イオン種が、銀イオンとカリウムイオンとリチウムイオンのうちから選ばれた1種類以上であることが好ましい。前記イオン種を用いるには、イオン種を含む化合物として、銀イオンおよび上記のアルカリ金属イオンの硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩等が用いられる。
【0027】
本発明において、このイオン濃度分布を形成される範囲は、ガラス体の表面から深さ方向の長さが500μm以下、好ましくは200μm以下の範囲が好ましい。
【0028】
本発明において、深さ方向に前記イオン種のイオン濃度分布を形成する工程が、イオン交換により行なわれるのが好ましい。イオン交換によってホウケイ酸塩ガラスをイオン交換する場合、ガラスに含有されるイオン交換の対象となる成分は、主に1価のナトリウムイオン(Na)である。一方、本発明で使用するイオン種である、銀イオンとカリウムイオンとリチウムイオンは1価のイオンが安定であり、このイオン種とナトリウムイオンとが1対1で交換する。0価、1価、2価の複数のイオン状態で安定となるようなイオン種ではイオン交換の条件を制御することが難しく、本発明のイオン種には適さない。
【0029】
一方、イオン交換によって導入するイオン種はイオン交換元と同じ価数の金属イオンである。ホウケイ酸塩ガラスにおいては、1価のアルカリ金属イオン、銀イオンが導入されやすい。イオン交換の進行速度はホウケイ酸塩ガラスの組成、交換に導入されるイオン種、イオン交換に用いる塩、処理温度に大きく影響を受ける。一般にホウケイ酸塩ガラスにおいてイオン交換処理は、加熱処理は200℃から550℃程度の範囲が好ましい。加熱処理時間は、0.3時間から50時間の範囲が好ましい。
【0030】
イオン交換処理によりホウケイ酸塩ガラスの表面から深さ方向へ段階的に組成を変化させ、その後に相分離処理を行うことによって、局所的に構造が異なる相分離の発現が起こる。このイオン交換と相分離の処理は、イオン交換で先に段階的な組成の変化が起こるのであれば、別々に行っても連続して行っても良い。またイオン交換と相分離の熱処理を別々に行う場合、その間にイオン交換用の塩を取り除くなどの処理が入ってもよい。またイオン交換法の際の処理温度が相分離発現する温度範囲内の場合、イオン交換反応の方が比較的早く進むため、イオン交換と相分離の処理とを分けることなく、一定温度で長時間保持して同時に誘起させることも良い。
【0031】
イオン交換処理などにより、ガラス体の表面から深さ方向に組成を変化させた様子は破断面のエネルギー分散型X線分析(EDX)などによって確認できる。
【0032】
次に、前記イオン種のイオン濃度分布を形成したガラスを加熱して相分離処理する工程を行う。
【0033】
ガラス相分離現象は一般的に500から700℃付近で保持する相分離処理により、スピノーダル構造またはバイノーダル構造を形成することで発現する。相分離処理における工程は、一定温度で保持しても良く、もしくは一定の昇温レートまたは降温レートを保った熱印加処理しても良い。500から700℃付近で保持する相分離処理工程の時間は1分以上であり、より好ましくは5分以上である。
【0034】
ガラス組成や温度、保持時間により、相分離の発現の様子が変化し、多孔質ガラスが得られた際の骨格径や細孔径、空孔率が変化する。
【0035】
相分離したホウケイ酸塩ガラス(相分離ガラス)において、主に酸化ホウ素やアルカリ金属酸化物より形成される非シリカリッチ相は酸溶液に対して可溶である。そのために酸処理を施すことで、非シリカリッチ相の可溶相が反応して溶出し、主にシリカより形成される相のみが骨格として残り、多孔質が形成される。この構造は走査型電子顕微鏡(SEM)などの観察で容易に確認できる。
【0036】
相分離処理はその相分離温度領域内で温度が高いほど、また保持時間が長いほど、多孔質の骨格径や細孔径が大きくなり、同時に空孔率も増大する傾向がある。この現象についてメカニズムは明確になっていないが、以下のように考えられる。ある温度における相分離の平衡状態に達するまでには、数百時間ほどの時間がかかる。数時間から数十時間の相分離処理の時間領域では時間が長いほど、相分離の平衡状態に近づき、より相分離が顕著になる、すなわち骨格径や細孔径が大きくなると考えられる。また温度が上がることで反応速度が増す効果が現れ、温度が高いほど同じ処理時間で、相分離の平衡状態に近づくことにより、相分離の様子が顕著になる、すなわち骨格径や細孔径が大きくなる。加えて、温度が上がることで、相分離の平衡状態における互いの相の組成がわずかに近づく。非シリカリッチ相へのシリカの含有量が多くなるため、酸エッチングにより除去される部分も比較的多くなり、空孔率が大きくなると考えられる。
【0037】
これらのことから、相分離を誘起する温度で長時間保持するという従来の相分離処理方法では、ガラス内の組成が均一なホウケイ酸塩ガラスにおいて、ガラス内部で局所的に骨格径や細孔径、空孔率の顕著な変化を起こすことは困難であった。
【0038】
そのために、本発明は、ホウケイ酸塩ガラスを主成分とするガラスの表面から深さ方向にイオン種のイオン濃度分布を形成することにより、ガラス内部で局所的に骨格径や細孔径、空孔率の顕著な変化を起こすことが可能となる。
【0039】
本発明は、ホウケイ酸塩ガラスを主成分とする母体ガラスにイオン種を接触させて相分離を誘起する温度で保持することにより、表面から深さ方向に前記イオン種のイオン濃度分布を形成する工程と相分離処理する工程を同時に行っても良い。つまり、ホウケイ酸塩ガラスを主成分とする母材ガラスにイオン種を接触させて加熱して、表面から深さ方向に遠くなるほどイオン種の濃度が減少しているイオン濃度分布を形成すると共に相分離させて相分離ガラスを形成してもよい。この工程では、加熱処理温度は、500から700℃であることが好ましい。また、イオン種には、銀イオンカリウムイオン、リチウムイオンを用いるのが好ましい。
【0040】
次に、本発明においては、相分離ガラスをエッチングして、表面から深さ方向に多孔質構造を変化させた、特に表面から深さ方向に遠くなるほど空孔率が小さくなっている多孔質ガラスを得る工程を行う。本発明の多孔質ガラスは、表面から内部にわたって全体的に孔が形成されている。
【0041】
前記エッチングにより、相分離ガラスから酸溶液によって非シリカリッチ相を除去する。具体的には、相分離ガラスをエッチングにより、ガラス中の非シリカリッチ相を選択的に溶出させるために、酸溶液へ浸漬させる。酸のエッチング液は塩酸、硫酸、燐酸、硝酸であり、酸の濃度は0.1mol/L(0.1N)から5mol/L(5N)であり、好ましくは0.5mol/L(0.5N)から2mol/L(2N)が望ましい。
【0042】
ガラス組成によって、相分離ガラス表面にエッチングを阻害するシリカ層が数百ナノメートル程度発生する場合がある。この表面シリカ層を研磨やアルカリ処理などで除去することもできる。
【0043】
ガラス組成によって、シリカ骨格にシリカゲルが堆積する場合がある。必要であれば、酸性度が異なる酸エッチング液又は水を用い、多段階でエッチングする方法を用いることができる。エッチング温度として、室温から95℃でエッチングを行うこともできる。また必要であれば、エッチング処理中に超音波を印加して行うこともできる。
【0044】
酸溶液による浸漬処理の後、多孔質ガラス中に付着した酸や溶出せずに残った可溶層を除去する目的で、水によるリンスを行うのが一般的である。
【0045】
エッチングが完了して得られたガラスの多孔質構造、すなわち表面から深さ方向へ多孔質の骨格径・細孔径、空孔率が変化している多孔質構造の様子は、ガラスの破断面からのSEMなどの観察手法で確認できる。
【0046】
本発明の多孔質ガラスは光学部材として用いることができる。多孔質ガラス構造を幅広く制御可能なため撮像、観察、投射および走査光学系の光学レンズやディスプレイ装置に用いる偏光板などの光学部材として用途が期待される。多孔質ガラスを光学部材として使用する場合、ガラス内部よりもガラス表層部が光の入射面側に配置されるようにした場合、低反射な光学部材を提供することができる。
本発明は、筐体内に配置された撮像素子を有する撮像装置(例えばデジタルカメラやデジタルビデオカメラなど)の中に配置される光学部材の一部として使用されてもよい。本発明は、光学部材として使用される多孔質ガラスを上述した方法で製造される撮像装置の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0048】
本発明の実施例および比較例に用いるために相分離可能な組成で母材ガラスを作成した。原料化合物としては、シリカ粉末(SiO)、酸化ホウ素(B)、炭酸ナトリウム(NaCO)であり、アルミナ(Al)も用いた。含有組成は、各金属元素の酸化物における重量%で換算して、SiO:59wt%、B:30.5wt%、NaCO:9wt%、アルミナAl:1.5wt%を混合した粉末を白金るつぼ中に入れ、1500℃、24時間溶融した。その後、ガラスを1300℃に下げてから、グラファイトの型に流し込んだ。空気中で20分間冷却した後、得られたホウケイ酸塩ガラスのブロックを40mm×30mm×11mmとなるように切断加工し、鏡面まで両面研磨を行った。
【0049】
(実施例1)
母材ガラスから15mm×15mm×1.1mmを切り出し、硝酸カリウム15gと共にPtるつぼに入れ、母材ガラスを硝酸カリウムの粉末の中に浸漬した。次に、表1に示すように、所定の温度および時間でイオン交換処理した(第一熱処理工程)。その後、相分離処理を所定の温度および時間で行った(第二熱処理工程)。
【0050】
相分離後のガラスサンプルの破断面をEDXで含有組成分析を行った。カリウムの濃度分布は、ガラスの表面から深さ120μmまで段階的に減少しながら拡散していることが確認された。ガラス表面からの深さ方向に対するKとSiのatom比(K/Si)の変化を図1に示す。
【0051】
ガラスに含まれるナトリウムの濃度分布を測定した結果、ガラスの表面から深さ120μmまで段階的にナトリウムは増加し、それより深い部分では一定の値を示した。
【0052】
相分離後のガラスサンプルを酸溶液によりエッチングを行った。酸溶液には1mol/Lの硝酸50gを用いた。ポリプロピレン製の容器に硝酸を入れ、予めオーブンで80℃にとした。その中へガラスを白金ワイヤーで溶液内中心部に来るように吊るして入れた。ポリプロピレン容器に蓋をし、80℃に保ったまま、24時間放置した。硝酸による処理が終わったガラスを80℃の水に入れてリンス処理を行った。
【0053】
SEMによる観察により、多孔質ガラスとなっていることを確認した。図2に、実施例1で作製した多孔質ガラスの破断面の電子顕微鏡写真を示す。図2(A)は、表面から10μm付近、図2(B)は表面から100μm付近、図2(C)表面から500μm付近の電子顕微鏡写真である。破断面のSEM観察により、多孔質骨格径、空孔率が表面から深さ方向へ段階的に変化していることが確認された。
【0054】
(実施例2)
母材ガラスから15mm×15mm×1.1mmを切り出し、硝酸銀15gと共にPtるつぼに入れた。次に、表1に示すように、所定の温度および時間でイオン交換処理した。その後、相分離処理を所定の温度および時間で行った。
【0055】
相分離後のガラスサンプルの破断面をEDXで含有組成分析を行った。銀は、表面から深さ100μmまで段階的に減少しながら拡散していることが確認された。
【0056】
相分離後のガラスサンプルを実施例1同様、酸溶液によりエッチングを行った。SEMによる観察により、多孔質ガラスとなっていることを確認した。また、破断面のSEM観察により、多孔質骨格径、空孔率が表面から深さ方向へ段階的に変化していることが確認された。
【0057】
(実施例3)
母材ガラスから15mm×15mm×1.1mmを切り出し、硝酸リチウム15gと共にPtるつぼに入れた。次に、表1に示すように、所定の温度および時間でイオン交換処理した。その後、相分離処理を所定の温度および時間で行った。
【0058】
相分離後のガラスサンプルの破断面をEDXで含有組成分析を行った。リチウムは軽元素で測定できないため、ナトリウムの濃度分布を測定した。表面から深さ80μmまで段階的にナトリウムは増加し、それより深い部分では一定の値を示した。これにより、表面から深さ80μmまでリチウムが交換されていると考えられる。
【0059】
相分離後のガラスサンプルを実施例1と同様に、酸溶液によりエッチングを行った。SEMによる観察により、多孔質ガラスとなっていることを確認した。また、破断面のSEM観察により、多孔質骨格径、空孔率が表面から深さ方向へ段階的に変化していることが確認された。
【0060】
(実施例4)
母材ガラスから15mm×15mm×1.1mmを切り出し、硝酸ナトリウム7gおよび硝酸銀7gと共にPtるつぼに入れた。次に、表1に示すように、イオン交換処理と相分離処理を所定の温度および時間で同時に行った。
【0061】
相分離後のガラスサンプルの破断面をEDXで含有組成分析を行った。銀は、表面から深さ60μmまで段階的に減少しながら拡散していることが確認された。
【0062】
相分離後のガラスサンプルを実施例1と同様に、酸溶液によりエッチングを行った。SEMによる観察により、多孔質ガラスとなっていることを確認した。また、破断面のSEM観察により、多孔質骨格径、空孔率が表面から深さ方向へ段階的に変化していることが確認された。
【0063】
(比較例1)
実施例1で用いた母材ガラスを使用した。母材ガラスから15mm×15mm×1.1mmを切り出し、表1で示したように、相分離処理のみを所定の温度および時間で行った。
【0064】
相分離後のガラスサンプルを実施例1同様、酸溶液によりエッチングを行った。SEMによる観察により、多孔質ガラスとなっていることを確認した。図3に、比較例1で作製した多孔質ガラスの破断面の電子顕微鏡写真を示す。図3(A)は表面から10μm付近、図3(B)は表面から500μm付近の電子顕微鏡写真である。破断面のSEM観察により、多孔質骨格径、空孔率は表面と深い部分で変化は確認されなかった。
【0065】
(比較例2)
実施例1で用いた母材ガラスを使用した。母材ガラスから15mm×15mm×1.1mmを切り出し、表1で示したようにと相分離処理のみを所定の温度および時間で行った。その後、ガラスサンプルを硝酸銀15gと共にPtるつぼに入れ、イオン交換処理を表1で示したように所定の温度および時間で行った。
【0066】
相分離後のガラスサンプルを実施例1同様、酸溶液によりエッチングを行った。SEMによる観察により、多孔質ガラスとなっていることを確認した。だが、破断面のSEM観察により、多孔質骨格径、空孔率は表面と深い部分で変化は確認されなかった。
【0067】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の多孔質ガラスの製造方法は、シリカガラスの表面から深さ方向へ多孔質構造を段階的に変化させることができるため、光学部材用に幅広く応用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウケイ酸塩ガラスを主成分とする母材ガラスに、銀イオンとカリウムイオンとリチウムイオンのうちから選ばれた1種類以上のイオン種を接触させて加熱して、表面から深さ方向に遠くなるほど前記イオン種の濃度が減少しているイオン濃度分布を有するガラス体を形成する工程と、
前記ガラス体を加熱して相分離させて相分離ガラスを形成する工程と、
前記相分離ガラスをエッチングして、表面から深さ方向に遠くなるほど空孔率が小さくなっている多孔質ガラスを形成する工程と、
を有することを特徴とする多孔質ガラスの製造方法。
【請求項2】
ホウケイ酸塩ガラスを主成分とする母材ガラスに、銀イオンとカリウムイオンとリチウムイオンのうちから選ばれた1種類以上のイオン種を接触させて加熱して、表面から深さ方向に遠くなるほど前記イオン種の濃度が減少しているイオン濃度分布を形成すると共に相分離させて相分離ガラスを形成する工程と、
前記相分離ガラスをエッチングして、表面から深さ方向に遠くなるほど空孔率が小さくなっている多孔質ガラスを形成する工程と、
を有することを特徴とする多孔質ガラスの製造方法。
【請求項3】
イオン交換によって、前記表面から深さ方向に遠くなるほど前記イオン種の濃度を減少させることを特徴とする請求項1または2記載の多孔質ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記エッチングが、相分離ガラスから酸溶液によって非シリカリッチ相を除去することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の多孔質ガラスの製造方法。
【請求項5】
多孔質ガラスを含む光学部材と撮像素子とを備える撮像装置の製造方法であって、
前記多孔質ガラスが請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多孔質ガラスの製造方法で製造されたことを特徴とする撮像装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−131695(P2012−131695A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253073(P2011−253073)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】