説明

多孔質体

【課題】 本発明は、多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面に金属酸化物膜が成膜された多孔質体であって、種々のデバイス、例えば太陽電池部材、燃料電池部材、ガス改質器等に利用可能な多孔質体を提供することを主目的とするものである。
【解決手段】 本発明は、多孔質部材と金属酸化物膜とを備えた多孔質体であって、上記多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面に上記金属酸化物膜が成膜されてなることを特徴とする多孔質体を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔部を形成する壁部の表面に金属酸化物膜を有し、上記壁部と上記金属酸化物膜との接触面積が大きく、種々のデバイスに利用可能な多孔質体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔質体は様々なデバイスに用いられている。多孔質体の有する特徴の一つに、表面積が大きい点が挙げられる。近年は、太陽電池や燃料電池に代表されるデバイスの小型化・効率化に伴い、多孔質部材と金属酸化物膜の接触面積が大きい多孔質体が求められている。
【0003】
多孔質部材の孔部を形成する壁部と金属酸化物膜との接触面積を、より大きくするためには、多孔質部材内部の壁部表面まで金属酸化物膜で被覆されていることが好ましいが、現在、このような多孔質体はないといえる。例えば、CVD法を用いて上記多孔質体を得ようとした場合、CVD法は基材に熱を付与しなければならないため、ガスが多孔質体内部に至る前に反応してしまい、多孔質部材内部の壁部表面まで金属酸化物膜で被覆された多孔質体を得ることができない。また、スパッタ法は形状追従性に乏しく、多孔質体内部へ金属酸化物膜を成膜することは不可能である。また、ゾルゲルやスラリー塗布法に代表されるウェット法で多孔質体内部へ金属酸化物膜を成膜しようという試みがあるが、ゾルゲルやスラリー塗布法は焼成工程が必須であり、基材と熱膨張率が異なることで金属酸化物膜が剥離してしまうだけでなく、どちらも微粒子を発生させて塗布する手法であるため、微粒子の粒子径より多孔質部材の孔径が極端に大きい場合を除いて、多孔質部材内部への成膜は不可能である。仮に多孔質部材の孔径が極端に大きい場合であったとしても、ゾルゲルやスラリー塗布法では微粒子を塗布するだけであり、孔部を形成する壁部の表面の被覆は不充分なものであった。
【0004】
また、特許文献1には、多孔質シリカと酸化チタンまたは酸化ジルコニウムとを用いた一体型多孔質基材の製造方法が記されているが、上記発明においては、シリカ表面のシラノール基と、酸化チタン等の前駆体となる物質との加水分解・重縮合反応を利用するものであるため、利用できる多孔質体としては、シリカ等に限定されるものであった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−99418公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面に金属酸化物膜が成膜された多孔質体であって、種々のデバイス、例えば太陽電池部材、燃料電池部材、ガス改質器等に利用可能な多孔質体を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、多孔質部材と金属酸化物膜とを備えた多孔質体であって、上記多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面に上記金属酸化物膜が成膜されてなることを特徴とする多孔質体を提供する。
【0008】
本発明によれば、上記多孔質体が、孔部を形成する壁部の表面に金属酸化物膜を有しており、上記壁部と上記金属酸化物膜との接触面積が大きいことから、例えば、太陽電池部材、燃料電池部材、ガス改質器等に上記多孔質体を用いることによって、その性能を向上させることができる。
【0009】
また、上記発明においては、上記多孔質部材の平均孔径が1mm以下であることが好ましい。多孔質部材の平均孔径が小さくなるほど、一般的に多孔質部材の表面積は大きくなるため、上記壁部と上記金属酸化物膜との接触面積を、より大きくすることができる。
【0010】
また、上記発明においては、上記多孔質部材の外表面から10nm以上内部に至る上記壁部の表面に金属酸化物膜が存在することが好ましい。従来の多孔質体は、外表面近傍に金属酸化物膜を有するものであったが、本発明の多孔質体は、多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面にも金属酸化物膜を備えるものであり、上記壁部と上記金属酸化物膜との接触面積が大きいことから、種々のデバイスの性能を向上させることができる。
【0011】
また、上記発明においては、上記多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面が、上記金属酸化物膜に50%以上被覆されていることが好ましい。上記壁部の表面が、50%以上金属酸化物膜に被覆されていることにより、上記壁部と上記金属酸化物膜との接触面積を、充分大きなものとすることができる。
【0012】
また、上記発明においては、上記多孔質部材の孔部を形成する壁部が連続していることが好ましい。例えば、多孔質微粒子をコアとして、金属酸化物膜をシェルとしたコアシェル型微粒子を用いて多孔質体を形成した場合に比べて、上記多孔質部材は、孔部を形成する壁部が連続しているため、多孔質部材内部を介して電子を連続的に伝達させること等の多孔質部材としての機能を効果的に発揮することができる。
【0013】
また、上記発明においては、上記金属酸化物膜が、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、およびTaからなる群から選択される少なくとも一つの金属元素を含有することが好ましい。上記金属元素を含有する金属酸化物膜が成膜された多孔質体は、様々な用途に対して特に有用だからである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の多孔質体は、多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面に金属酸化物膜が成膜されてなるものであり、上記壁部と上記金属酸化物膜との接触面積が大きいことから、種々のデバイス、例えば太陽電池部材、燃料電池部材、ガス改質器等の性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の多孔質体について説明する。
【0016】
本発明の多孔質体は、多孔質部材と金属酸化物膜とを備えたものであって、上記多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面に上記金属酸化物膜が成膜されてなることを特徴とするものである。本発明においては、上記多孔質部材の外表面にも上記金属酸化物膜が成膜されることがある。
なお、本発明において、「多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面」とは、多孔質部材内部の孔部における、多孔質部材壁部の表面を意味するものである。上記孔部および上記壁部の具体例としては、例えば、図1(a)に示すように、連通孔を有する多孔質部材における孔部および壁部、または図1(b)に示すように、粒状の多孔質部材における孔部および壁部を挙げることができる。一方、多孔質部材の外周表面は、本発明において、「外表面」ということにする。
【0017】
本発明によれば、上記多孔質体が、多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面に金属酸化物膜を有しており、上記壁部と上記金属酸化物膜との接触面積が大きいことから、例えば、太陽電池部材、燃料電池部材、ガス改質器等に上記多孔質体を用いることによって、その性能を向上させることができる。
上記太陽電池部材としては、例えば太陽電池発電層等として使用することができる。具体的には、太陽電池発電層として、TiOからなる多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面に酸化亜鉛が成膜された多孔質体を用いることにより、太陽電池の発電効率を向上させることができる。
また、上記燃料電池用部材としては、例えば燃料極等として使用することができる。具体的には、市販の多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面にサマリウムドーピングセリアと酸化ニッケルとの複合酸化物膜が形成された多孔質体を用いることにより、燃料電池の電極を安価に作製することができる。さらに、多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面と電極(金属酸化物膜)との接触面積が大きいことから、燃料電池の発電効率を向上させることができる。
【0018】
また、本発明の多孔質体は、少なくとも多孔質部材と金属酸化物膜とを備えるものである。以下、本発明の多孔質体の各構成について説明する。
【0019】
1.多孔質部材
本発明に用いられる多孔質部材は、多数の孔部を有し、後述する金属酸化物膜を担持する機能を有するものである。
【0020】
本発明に用いられる多孔質部材の材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、セラミックス、金属、樹脂等が挙げられ、中でも、セラミックスが好ましい。
【0021】
上記セラミックスは、耐熱性、耐酸性、耐薬品性、強度等に優れているため、好適に用いられる。このようなセラミックスとしては、特に限定されるものではないが、具体的には、アルミナ、シリカ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタニア、チタン酸ジルコン酸鉛、ストロンチウムサマリウムマンガンコバルタイト、サマリウムドーピングセリア等が挙げられ、中でも、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニアが汎用性の観点から好ましい。
【0022】
上記金属は、微細加工容易性、高熱伝導性、高電気伝導性等に優れているため、好適に用いられる。このような金属としては、特に限定されるものではないが、具体的には、鉄、銅、ニッケル、クロム、金、白金、ステンレス、鉄とニッケルとの合金等が挙げられ、中でも鉄、ステンレスが汎用性の観点から好ましい。
【0023】
上記樹脂は、加工容易性、経済性等に優れ、軽量であることから好適に用いられる。このような樹脂としては、特に限定されるものではないが、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂;環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;ポリスチレン系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物;ポリビニルアルコール樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のポリビニルアルコール系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリビニルブチラート樹脂;ポリアリレート樹脂;エチレン−四フッ化エチレン共重合体、三フッ化塩化エチレン、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、パーフルオロ−パーフロロプロピレン−パーフロロビニルエーテル共重合体等のフッ素系樹脂;ポリ酢酸ビニル系樹脂;アセタール系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂;ナイロン6(商品名)、ナイロン12(商品名)、共重合ナイロン(商品名)等のポリアミド系樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリサルホン樹脂;ポリエーテルサルホン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂等が挙げられ、中でも、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂が汎用性の観点から好ましい。
【0024】
また、本発明に用いられる多孔質部材の内部構造としては、特に限定されるものではないが、例えば、粒子状、スポンジ状、鱗片状の構造等を挙げることができる。また、上記粒子状の多孔質部材においては、粒子が、コアの部分およびシェルの部分にそれぞれ異なる材料を用いたコアシェル型の粒子であっても良い。
【0025】
また、本発明に用いられる多孔質部材の孔の形状としては、特に限定されるものではないが、具体的には、連通孔、独立孔等を挙げることができる。本発明においては、中でも、連通孔であることが好ましい。後述する溶液法を用いて本発明の多孔質体を作製した場合に、溶液が浸透し易いからである。
【0026】
また、本発明に用いられる多孔質部材の形状としては、特に限定されるものではないが、例えば、膜状、筒状、立方体状、球状等を挙げることができる。また、本発明に用いられる多孔質部材は、表面に溝が刻まれているもの、流路が存在するもの等であっても良い。
【0027】
また、本発明に用いられる多孔質部材は、ガラス、金属、樹脂等の基材上に形成されていても良い。このような基材上に形成された多孔質部材としては、特に限定されるものではないが、例えば、図2に示すように、基材1上に多孔質部材2が積層されたもの(図2(a))、基材1上にパターン状に多孔質部材2が積層されたもの(図2(b))、多孔質部材2が2つの基材1に狭持されたもの(図2(c))等を挙げることができる。
【0028】
また、本発明に用いられる多孔質部材の平均孔径としては、特に限定されるものではないが、具体的には1mm以下であることが好ましく、中でも1nm〜500μmの範囲内、特に10nm〜100μmの範囲内であることがより好ましい。多孔質部材の平均孔径が小さくなるほど、一般的に多孔質部材の表面積は大きくなるため、上記壁部と上記金属酸化物膜との接触面積を、より大きくすることができる。また、従来、平均孔径が1mm以下である多孔質部材の上記壁部の表面に金属酸化物膜を成膜することは困難であった。しかしながら、本発明の多孔質体は、例えば、後述する溶液法を用いることにより、平均孔径が1mm以下の多孔質部材を用いても、多孔質部材内部の孔部を形成する壁部の表面に金属酸化物膜を有するものとすることができる。
【0029】
なお、本発明において、上記平均孔径は、全自動ガス吸着量測定装置(AUTOSORB−1−AG、ユアサアイオニクス株式会社製)を用い、キャリアガスとしてNガスを用い、測定温度77Kで測定することによって求めることができる。また、多孔質部材の平均孔径が200nmを超える場合は、水銀ポロシメーター(PoreMaster、ユアサアイオニクス)を用いて、平均孔径を求めることができる。
【0030】
また、上記多孔質部材の比表面積としては、特に限定されるものではないが、具体的には1m/g以上であることが好ましく、中でも1〜3000m/gの範囲内、特に10〜1500m/gの範囲内であることがより好ましい。本発明において、上記比表面積は、全自動ガス吸着量測定装置(AUTOSORB−1−AG、ユアサアイオニクス株式会社製)を用い、キャリアガスとしてNガスを用い、測定温度77Kで測定することによって求めることができる。また、多孔質部材の平均孔径が200nmを超える場合は、水銀ポロシメーター(PoreMaster、ユアサアイオニクス)を用いて、上記比表面積を求めることができる。
【0031】
また、本発明に用いられる多孔質部材が、例えば、上述した基材上に膜状に形成された場合、その膜厚としては、特に限定されるものではないが、具体的には100nm以上であることが好ましく、中でも100nm〜1mmの範囲内、特に500nm〜100μmの範囲内であることが好ましい。本発明において、上記膜厚は、断面を走査型電子顕微鏡(SEM、S−4500、日立製作所製)で測定することにより求める。
【0032】
2.金属酸化物膜
本発明に用いられる金属酸化物膜は、上記多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面に成膜されるものである。
【0033】
本発明に用いられる金属酸化物膜を構成する金属元素としては、特に限定されるものではないが、具体的には、上記金属酸化物膜が、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、およびTaからなる群から選択される少なくとも一つの金属元素を含有することが好ましく、中でもTi、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、In、Sn、Ceからなる群から選択される少なくとも一つの金属元素を含有することがより好ましい。
【0034】
上記金属元素を用いた金属酸化物としては、特に限定されるものではないが、具体的には、MgO、Al、SiO、TiO、V、MnO、Fe、CoO、NiO、CuO、ZnO、Y、ZrO、AgO、In、SnO、CeO、Sm、PbO、La、HfO、ScO、Gd、Ta等が挙げられる。
【0035】
また、本発明に用いられる金属酸化物膜は上記多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面に成膜されるものである。その膜厚としては、特に限定されるものではないが、具体的には、0.5nm以上の範囲内、中でも1〜500nmの範囲内、特に1〜200nmの範囲内であることが好ましい。本発明において、上記膜厚は、走査型電子顕微鏡(SEM、S−4500、日立製作所製)または透過型電子顕微鏡(TEM、H−9000、日立製作所製)で測定することにより求める。
【0036】
3.多孔質体
本発明の多孔質体は、上述した多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面に、上述した金属酸化物膜が成膜されてものである。
【0037】
本発明の多孔質体においては、上記多孔質部材の外表面から10nm以上内部、好ましくは100nm以上内部、より好ましくは1μm以上内部に至る上記壁部の表面に、上記金属酸化物膜が存在していることが好ましい。従来の多孔質体は、外表面近傍に金属酸化物膜を有するものであったが、本発明の多孔質体は、多孔質部材内部の孔部を形成する壁部の表面にも金属酸化物膜を備えるものであり、上記壁部と上記金属酸化物膜との接触面積が大きいことから、種々のデバイスの性能を向上させることができる。
【0038】
なお、本発明において、上記範囲に金属酸化物膜が存在しているか否かは、断面を走査型電子顕微鏡(SEM、S−4500、日立製作所製)または透過型電子顕微鏡(TEM、H−9000、日立製作所製)で測定し、目視による観察によって判断することができる。また、目視によって確認できない場合であっても、エネルギー分散型X線分析装置付走査型電子顕微鏡(SEM−EDX、SEMEDX−IIIN/H、日立製作所製)、Electron Energy Loss Spectrometer(EELS)を装備した電界放出型透過電子顕微鏡(FE−TEM、日立製作所製)、および電子線マイクロアナライザ(EPMA、JXA−8200、日本電子株式会社製)のいずれかの方法で金属酸化物膜の存在が確認できる場合は、本発明において、金属酸化物膜が存在しているものとする。
【0039】
また、本発明においては、上記多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面が、上記金属酸化物膜に50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上被覆されていることが好ましい。上記壁部の表面が、上記範囲で金属酸化物膜に被覆されていることにより、上記壁部と上記金属酸化物膜との接触面積を、充分大きなものとすることができる。なお、多孔質部材の孔径が1mm程度以上である場合、ディッピング法やゾルゲル法を用いて、上記壁部の表面に金属酸化物膜を成膜することは不可能ではないが、上記方法においては、必ず焼成を行う必要があり、焼成時または焼成後に金属酸化物膜が剥離し、所望の被覆率を維持できないと考えられる。本発明の多孔質体は、例えば、後述する溶液法等で作製することができるが、溶液法で用いられる金属酸化物膜形成用溶液が多孔質部材の孔部に容易に侵入することができ、さらに、焼成等を必要としないことから、所望の被覆率を有する多孔質体とすることができる。
【0040】
なお、本発明において、上記被覆率は、走査型電子顕微鏡(SEM、S−4500、日立製作所製)または透過型電子顕微鏡(TEM、H−9000、日立製作所製)を用いて測定し、下記計算式により求める。
被覆率(%)=(金属酸化物膜が成膜された上記壁部の表面積)/(上記壁部の全表面積)×100
なお、本発明においては、エネルギー分散型X線分析装置付走査型電子顕微鏡(SEM−EDX、SEMEDX−IIIN/H、日立製作所製)、Electron Energy Loss Spectrometer(EELS)を装備した電界放出型透過電子顕微鏡(FE−TEM、日立製作所製)、および電子線マイクロアナライザ(EPMA、JXA−8200、日本電子株式会社製)のいずれかの方法を用いることによって、被覆率を求めることができる。
【0041】
また、本発明においては、上記多孔質部材の孔部を形成する壁部が連続していることが好ましい。なお、ここでいう「多孔質部材の孔部を形成する壁部が連続している」とは、多孔質部材において、その孔部を形成する壁部が、途中で分断されること無く、連続している状態をいう。従って、例えば図3に示すように、多孔質微粒子3をコアとして、金属酸化物膜4をシェルとしたコアシェル型微粒子5を用いて多孔質体を形成した場合は、多孔質微粒子3の孔部を形成する壁部は、金属酸化物膜4に囲まれており、途中で分断されているため、上記「多孔質部材の孔部を形成する壁部が連続している」には該当しない。さらに、上記コアシェル型微粒子の場合は、多孔質微粒子が金属酸化物膜で被覆されているため、多孔質微粒子のみを介して電子を伝達させること等は不可能であるが、上記多孔質部材は、孔部を形成する壁部が連続している、すなわち、多孔質部材が連続して形成されているため、多孔質部材内部を介して電子を連続的に伝達させること等ができるという利点を有する。
【0042】
なお、上記多孔質部材が「多孔質部材の孔部を形成する壁部が連続している」か否かは、断面を走査型電子顕微鏡(SEM、S−4500、日立製作所製)または透過型電子顕微鏡(TEM、H−9000、日立製作所製)で測定することによって、判断することができる。
【0043】
4.多孔質体の製造方法
次に、本発明の多孔質体の製造方法について説明する。本発明の多孔質体の製造方法の製造方法としては、所望の多孔質体を得ることができる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、以下に述べる溶液法等を挙げることができる。
【0044】
溶液法は、多孔質部材に、金属源として金属塩または金属錯体が溶解した金属酸化物膜形成用溶液を接触させることにより、多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面に金属酸化物膜を得る方法である。上記溶液法は、従来の金属酸化物膜の製造方法に比べて、低温で金属酸化物膜を得ることが可能であることから、本発明の多孔質体を担持する基材として非耐熱性の基材を使用することができ、様々なデバイスの部材に使用することができる。さらに、出発原料に粒子を含まないため、どのような微細な溝や孔へも成膜できる。また、上記金属酸化物膜形成用溶液には、酸化剤および/または還元剤等が含有されていても良い。
【0045】
なお、上記溶液法における「金属錯体」とは、金属イオンに対して無機物または有機物が配位したもの、あるいは、分子中に金属−炭素結合を有する、いわゆる有機金属化合物を含むものである。
【0046】
次に、上記溶液法のメカニズムについて、金属源として硝酸セリウム(Ce(NO)、還元剤としてボラン−ジメチルアミン錯体(別名:ジメチルアミンボラン、DMAB)を用い、酸化セリウム(CeO)膜を形成する場合を用いて説明する。
上記酸化セリウム膜は、まだ明確ではないが、以下の6つの式により形成されると考えられている。
(i) Ce(NO → Ce3++3NO
(ii) (CHNHBH+2HO → BO+(CHNH+7H+6e
(iii) 2HO+2e → 2OH+H
(iv) Ce3+ → Ce4++e
(v) Ce4++2OH → Ce(OH)2+
(vi) Ce(OH)2+ → CeO+H
【0047】
このようなメカニズムについて図面を用いて具体的に説明する。まず、図4(a)に示されるように、硝酸セリウムおよびDMABを溶媒である水に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液6を作製し、この溶液に多孔質部材2を浸漬させる。この時、硝酸セリウムは水溶液中でセリウムイオンとなる((i)式)。続いて、図4(b)に示されるように、還元剤DMABが分解((ii)式)することにより、電子を放出する。その後、図4(c)に示されるように、放出された電子が水の電気分解((iii)式)を誘発し、水酸化物イオンを発生させ金属酸化物膜形成用溶液6のpHを上昇させる。その結果、セリウムイオンは価数を変化させ((iv)式)、さらに発生した水酸化物イオンと反応し((v)式)、図4(d)に示されるように、Ce(OH)2+が生成する。その後、図4(e)に示されるように、多孔質部材2近傍のCe(OH)2+が局所的なpHの上昇によりCeOとなり多孔質部材2の孔部を形成する壁部の表面に成膜される((vi)式)。そして、(ii)〜(vi)式の反応が繰り返されることによって、図4(f)に示されるようなCeO膜(金属酸化物膜4)が形成される。
【0048】
また、図5は、セリウムのプールべ線図であるが、上記反応は、(i)式により生じたCe3+が、(iii)式で生成した水酸化物イオンによるpH上昇によって、CeOの領域に至ったものと考えることができる。このことから、同様の金属酸化物領域を有する金属元素であれば、上記溶液法により、同様に金属酸化物膜を製造することができると考えられる。また、金属水酸化物領域を有する金属元素であっても、金属水酸化物膜を加熱することにより金属酸化物膜が得られる。なお、上記溶液法においては、溶媒として、水ではなく、アルコール、有機溶媒等を使用した際においても、上記反応と類似の反応、もしくは溶媒中に含まれる微量の水分により、金属酸化物膜が生成すると考えられる。
【0049】
(1)金属酸化物膜形成用溶液
次に、上記溶液法に用いられる金属酸化物膜形成用溶液について説明する。上記溶液法に用いられる金属酸化物膜形成用溶液は、金属源として金属塩または金属錯体と、溶媒とを少なくとも含有するものである。また、上記溶液法においては、金属酸化物膜形成用溶液が、酸化剤および/または還元剤を含有していても良い。
【0050】
(a)金属源
上記金属酸化物膜形成用溶液に用いられる金属源は、金属酸化物膜形成用溶液に溶解し、金属酸化物膜を与えるものである。本発明に用いられる金属源は、後述する溶媒に溶解するものであれば、金属塩であっても良く、金属錯体であっても良い。
【0051】
金属酸化物膜形成用溶液における上記金属源の濃度としては、金属源が金属塩の場合、通常0.001〜1mol/lであり、中でも0.01〜0.1mol/lであることが好ましく、金属源が金属錯体である場合、通常0.001〜1mol/lであり、中でも0.01〜0.1mol/lであることが好ましい。濃度が上記範囲以下であると、金属酸化物膜の成膜反応が起こり難く、所望の金属酸化物膜を得ることができない可能性があり、濃度が上記範囲以上であると、沈殿物となる可能性があるからである。
【0052】
このような金属源を構成する金属元素としては、所望の金属酸化物膜を得ることができれば特に限定されるものではないが、上記「2.金属酸化物膜」に記載した金属元素等を挙げることができる。上記金属元素は、プールベ線図において金属酸化物領域、あるいは金属水酸化物領域を有しているため、金属酸化物膜の主用構成元素として適している。
【0053】
上記金属塩としては、具体的には、上記金属元素を含む塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等を挙げることができる。中でも、本発明においては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩等を使用することが好ましい。これらの化合物は汎用品として入手が容易だからである。
【0054】
また、上記金属錯体としては、具体的には、マグネシウムジエトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、カルシウムジ(メトキシエトキシド)、グルコン酸カルシウム一水和物、クエン酸カルシウム四水和物、サリチル酸カルシウム二水和物、チタンラクテート、チタンアセチルアセトネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、チタニウムビス(エチルヘキソキシ)ビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンペロキソクエン酸アンモニウム四水和物、ジシクロペンタジエニル鉄(II)、乳酸鉄(II)三水和物、鉄(III)アセチルアセトナート、コバルト(II)アセチルアセトナート、ニッケル(II)アセチルアセトナート二水和物、銅(II)アセチルアセトナート、銅(II)ジピバロイルメタナート、エチルアセト酢酸銅(II)、亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、サリチル酸亜鉛三水和物、ステアリン酸亜鉛、ストロンチウムジピバロイルメタナート、イットリウムジピバロイルメタナート、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレート、ペンタ−n−ブトキシニオブ、ペンタエトキシニオブ、ペンタイソプロポキシニオブ、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、トリシクロヘキシルすず(IV)ヒドロキシド、ランタンアセチルアセトナート二水和物、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、ペンタイソプロポキシタンタル、ペンタエトキシタンタル、タンタル(V)エトキシド、セリウム(III)アセチルアセトナートn水和物、クエン酸鉛(II)三水和物、シクロヘキサン酪酸鉛等を挙げることができる。中でも、本発明においては、マグネシウムジエトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、チタンラクテート、チタンアセチルアセトネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、乳酸鉄(II)三水和物、鉄(III)アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、ストロンチウムジピバロイルメタナート、ペンタエトキシニオブ、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、ランタンアセチルアセトナート二水和物、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、セリウム(III)アセチルアセトナートn水和物を使用することが好ましい。
また、本発明においては、金属酸化物膜形成用溶液が上記金属元素を2種類以上含有していても良く、複数種の金属元素を使用することにより、例えば、ITO、Gd−CeO、Sm−CeO、Ni−Fe等の複合金属酸化物膜を得ることができる。
【0055】
(b)酸化剤
上記金属酸化物膜形成用溶液に用いられる酸化剤は、上述した金属源が溶解してなる金属イオン等の酸化を促進する働きを有するものである。金属イオン等の価数を変化させることにより、金属酸化物膜の発生しやすい環境とすることができる。
【0056】
上記酸化剤の濃度としては、酸化剤の種類に応じて異なるものではあるが、通常0.001〜1mol/lであり、中でも0.01〜0.1mol/lであることが好ましい。濃度が上記範囲以下であると、金属酸化物膜の成膜反応が起こり難く、充分な成膜速度を得ることができない可能性があり、濃度が上記範囲以上であると、得られる効果に大差が見られず、コスト上好ましくないからである。
【0057】
このような酸化剤としては、後述する溶媒に溶解し、金属源の酸化を促進することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、過酸化水素、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、酸化銀、二クロム酸、過マンガン酸カリウム等が挙げられ、中でも過酸化水素、亜硝酸ナトリウムを使用することが好ましい。
【0058】
(c)還元剤
上記金属酸化物膜形成用溶液に用いられる還元剤は、分解反応により電子を放出し、水の電気分解によって水酸化物イオンを発生させ、金属酸化物膜形成用溶液のpHを上げる働きを有するものである。pHを上昇させ、プールベ線図における金属酸化物領域あるいは金属水酸化物領域へ誘導し、金属酸化物膜の発生しやすい環境とすることができる。
【0059】
金属酸化物膜形成用溶液における上記還元剤の濃度としては、還元剤の種類に応じて異なるものではあるが、通常0.001〜1mol/lであり、中でも0.01〜0.1mol/lであることが好ましい。濃度が上記範囲以下であると、金属酸化物膜の成膜反応が起こり難く、充分な成膜速度を得ることができない可能性があり、濃度が上記範囲以上であると、得られる効果に大差が見られず、コスト上好ましくないからである。
【0060】
このような還元剤としては、後述する溶媒に溶解し、分解反応により電子を放出することができるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、ボラン−tert−ブチルアミン錯体、ボラン−N,Nジエチルアニリン錯体、ボラン−ジメチルアミン錯体、ボラン−トリメチルアミン錯体等のボラン系錯体、水酸化シアノホウ素ナトリウム、水酸化ホウ素ナトリウム等を挙げることができ、中でもボラン系錯体を使用することが好ましい。
【0061】
また、上記溶液法においては、還元剤と酸化剤とを組み合わせて使用しても良い。このような還元剤および酸化剤の組合せとしては、特に限定されるものではないが、例えば、過酸化水素または亜硝酸ナトリウムと任意の還元剤との組合せ、任意の酸化剤とボラン系錯体との組合せ等が挙げられ、中でも、過酸化水素とボラン系錯体との組合せが好ましい。
【0062】
(d)添加剤
また、上記金属酸化物膜形成用溶液は、補助イオン源や界面活性剤等の添加剤を含有していても良い。
【0063】
上記補助イオン源は、電子と反応し水酸化物イオンを発生するものであり、金属酸化物膜形成用溶液のpHを上昇させ、金属酸化物膜の形成しやすい環境とすることができる。また、上記補助イオン源の使用量は、使用する金属源や還元剤に合わせて適宜選択して使用することが好ましい。
【0064】
このような補助イオン源としては、具体的には、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、臭素酸イオン、次臭素酸イオン、硝酸イオン、および亜硝酸イオンからなる群から選択されるイオン種を挙げることができる。これらの補助イオン源は、溶液中で下記の反応を起こすと考えられている。
ClO + HO + 2e ⇔ ClO + 2OH
ClO + HO + 2e ⇔ ClO + 2OH
ClO + HO + 2e ⇔ ClO + 2OH
2ClO + 2HO + 2e ⇔ Cl(g)+ 4OH
BrO + 2HO + 4e ⇔ BrO + 4OH
2BrO + 2HO + 2e ⇔ Br + 4OH
NO + HO + 2e ⇔ NO + 2OH
NO + 3HO + 3e ⇔ NH + 3OH
【0065】
また、上記界面活性剤は、金属酸化物膜形成用溶液と多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面との界面に作用し、上記壁部の表面に金属酸化物膜が生成し易くする働きを有するものである。上記界面活性剤の使用量は、使用する金属源や還元剤に合わせて適宜選択して使用することが好ましい。
このような界面活性剤は、具体的にはサーフィノール485、サーフィノールSE、サーフィノールSE−F、サーフィノール504、サーフィノールGA、サーフィノール104A、サーフィノール104BC、サーフィノール104PPM、サーフィノール104E、サーフィノール104PA等のサーフィノールシリーズ(以上、全て日信化学工業(株)社製)、NIKKOL AM301、NIKKOL AM313ON(以上、全て日光ケミカル社製)等を挙げることができる。
【0066】
(e)溶媒
上記金属酸化物膜形成用溶液に用いられる溶媒は、上述した金属源、酸化剤、還元剤、添加剤等を溶解、分散することができるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、金属源が金属塩の場合は、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール、トルエン、およびこれらの混合溶媒等を挙げることができ、金属源が金属錯体の場合は、水、上述した低級アルコール、トルエン、およびこれらの混合溶媒を挙げることができる。また、本発明においては、上記溶媒を組み合わせて使用しても良く、例えば、水への溶解性は低いが有機溶媒への溶解性は高い金属錯体と、有機溶媒への溶解性は低いが水への溶解性が高い還元剤とを使用する場合は、水と有機溶媒とを混合することにより両者を溶解させ、均一な金属酸化物膜形成用溶液とすることができる。
【0067】
(2)多孔質部材と金属酸化物膜形成用溶液との接触方法
次に、上記溶液法における多孔質部材と金属酸化物膜形成用溶液との接触方法について説明する。上記接触方法としては、上述した多孔質部材と上述した金属酸化物膜形成用溶液とを接触させる方法であれば、特に限定されるものではなく、具体的には、ロールコート法、ディッピング法、枚葉式による方法、溶液を霧状にして塗布する方法等が挙げられる。
【0068】
例えば、ロールコート法は、例えば図6に示すように、ロール7とロール8の間に、多孔質部材2を通過させることにより、多孔質部材2の孔部を形成する壁部の表面に金属酸化物膜を形成する方法であり、連続的な金属酸化物膜の製造に適している。また、ディッピング法は、多孔質部材を金属酸化物膜形成用溶液に浸漬することにより、多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面に金属酸化物膜を形成する方法であって、例えば図7(a)に示すように、多孔質部材2全体を金属酸化物膜形成用溶液6に浸漬することにより、多孔質部材2の孔部を形成する壁部の表面に金属酸化物膜を形成する方法である。また、例えば図7(b)に示すように、金属酸化物膜形成用溶液6を一定の流量で流し、筒状の多孔質部材2の内周面側の孔部を形成する壁部の表面に金属酸化物膜形成用溶液6を接触させることにより、多孔質部材2の内周面側の孔部を形成する壁部の表面に金属酸化物膜を設けることができる。また、枚葉式による方法は、例えば図8に示すように、金属酸化物膜形成用溶液6をポンプ9で循環させ、多孔質部材2のみを加熱することにより、多孔質部材2近傍における金属酸化物膜形成反応を促進し、多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面に金属酸化物膜を形成する方法である。
【0069】
また、上記溶液法においては、多孔質部材と金属酸化物膜形成用溶液とを接触させる際に、酸化性ガスを混合すること、紫外線を照射すること、加熱すること、またはこれらを組み合わせることにより、金属酸化物膜の生成速度を向上させることができる。以下、これらの方法について説明する。
【0070】
(a)酸化性ガスの混合による成膜速度の向上
上記溶液法においては、多孔質部材と金属酸化物膜形成用溶液とを接触させる際に、酸化性ガスを混合することが好ましい。
このような酸化性ガスとしては、酸化能を有する気体であって、金属酸化物膜の成膜速度を向上させることができるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、酸素、オゾン、亜硝酸ガス、二酸化窒素、二酸化塩素、ハロゲンガス等が挙げられ、中でも酸素およびオゾンを使用することが好ましく、特にオゾンを使用することが好ましい。工業的に入手が容易であり、低コスト化を図ることができるからである。
【0071】
また、上記酸化性ガスの混合方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、上述した浸漬法を用いた場合は、多孔質部材と金属酸化物膜形成用溶液とが接触している部分に、気泡状の上記酸化性ガスを接触させる方法が挙げられる。このような気泡状の酸化性ガスの導入は、特に限定されるものではないが、例えば、バブラーを用いる方法を挙げることができる。バブラーを使用することにより、酸化性ガスと上記溶液の接触面積を増大させることができ、効率的に金属酸化物膜の成膜速度を向上させることができるからである。このようなバブラーとしては、一般的なバブラーを使用することができ、例えば、ナフロンバブラー(アズワン社製)等を挙げることができる。また、上記酸化性ガスは、通常ガスボンベから供給することができ、オゾンに関しては、オゾン発生装置から金属酸化物膜形成用溶液に供給することができる。
【0072】
(b)紫外線の照射による成膜速度の向上
また、上記溶液法においては、多孔質部材と金属酸化物膜形成用溶液とを接触させる際に、紫外線を照射することが好ましい。紫外線を照射することによって、水の電気分解に相当する反応を誘発することや還元剤の分解を促進することができると考えられ、発生した水酸化物イオンによって、上記金属酸化物膜形成用溶液のpHを上昇させ、金属酸化物膜の形成しやすい環境とすることができるからである。また、紫外線を照射することにより、上述した補助イオン源から水酸化物イオンを発生させることができる。
【0073】
また、紫外線の照射方法としては、多孔質部材と金属酸化物膜形成用溶液との接触部分に照射する方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、上述した浸漬法を用いる場合は、図9に示すように、多孔質部材2を金属酸化物膜形成用溶液6に浸漬させ、溶液側から紫外線10を照射する方法等が挙げられる。
【0074】
上記紫外線の波長としては、通常、185〜470nmであり、中でも185〜260nmであることが好ましい。また、上記紫外線の強度としては、通常、1〜20mW/cmであり、中でも5〜15mW/cmであることが好ましい。
このような紫外線照射を行う紫外線照射装置としては、一般に市販されているUV光照射装置やレーザー発振装置等を使用することができるが、例えば、SEN特殊光源社製のHB400X−21等を挙げることができる。
【0075】
(c)加熱による成膜速度の向上
また、本発明においては、多孔質部材と金属酸化物膜形成用溶液とを接触させる際に、加熱を行うことが好ましい。加熱することにより、酸化剤、還元剤等の反応を促進させることができ、成膜速度を向上させることができるからである。加熱を行う方法としては、金属酸化物膜の成膜速度を向上させることができる方法であれば特に限定されるものではないが、中でも多孔質部材を加熱することが好ましく、特に多孔質部材および金属酸化物膜形成用溶液を加熱することが好ましい。多孔質部材近傍での還元剤の分解反応を促進することができるからである。
このような加熱温度としては、使用する還元剤や多孔質部材の特徴に合わせて適宜選択することが好ましいが、具体的には50〜150℃の範囲内であることが好ましく、中でも70〜100℃の範囲内であることがより好ましい。
【0076】
(3)その他
また、上記溶液法においては、上述した接触方法等により得られた金属酸化物膜の洗浄および乾燥を行っても良い。上記金属酸化物膜の洗浄は、金属酸化物膜の表面等に存在する不純物を取り除くために行われるものであって、例えば、金属酸化物膜形成用溶液に使用した溶媒を用いて洗浄する方法等を挙げることができる。また、上記金属酸化物膜の乾燥は、常温で放置することにより乾燥しても良いが、オーブン等の中で乾燥しても良い。
【0077】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0079】
[実施例1]
燃料電池の燃料極(日本ファインセラミックス社製、サマリウムドーピングセリア&酸化ニッケル多孔質部材、平均孔径1μm、厚み800μm、平均粒子径1μm)に対して、電解質であるガドリニウムドーピングセリア膜を成膜した。まずは金属酸化物膜であるガドリニウムドーピングセリア膜の成膜から述べる。
初めに、金属酸化物膜形成用溶液を作製した。酢酸セリウム(関東化学社製)0.05mol/l溶液1000g(水:エタノール=50:50)に硝酸ガドリニウム(関東化学社製)を0.015mol/lとなるように添加し、還元剤であるボラン−トリメチルアミン錯体(関東化学社製)を0.03mol/lとなるように添加し、金属酸化物膜形成用溶液とした。次に、上記金属酸化物膜形成用溶液を60℃となるまで加熱した。この時、フィルターを通すことで異物を排除した。金属酸化物膜形成用溶液を温度60℃一定の元、上記燃料極(多孔質部材)を浸漬して12時間保持し、金属酸化物膜成膜済み燃料極(多孔質体)のサンプルを得た。
このサンプルの断面を上記走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、厚み方向で400μmの部分において金属酸化物膜が確認された。このサンプルの断面図を図10に示す。なお、図10において、図10(a)は成膜前の燃料極の断面図であり、図10(b)は図10(a)の白線で囲んだ領域を拡大したものであり、図10(c)は成膜後のサンプルの断面図であり、図10(d)は図10(c)の白線で囲んだ領域を拡大したものである。
【0080】
[実施例2]
本実施例は、多孔質体に基材を設け、太陽電池の太陽電池発電層として用いたものである。まず、ガラス上にTiO微粒子をペースト状に塗布することによって、ガラス/多孔質TiOを作成した。具体的な製造方法としては、まず、溶媒である水およびイソプロピルアルコールに、一次粒子20nmの酸化チタン微粒子(日本アエロジル社製、P25)37.5重量%、アセチルアセトン1.25重量%、ポリエチレングリコール(平均分子量3000)1.88重量%となるように添加し、ホモジナイザーを用いて上記試料が溶解、分散されたスラリーを作製した。このスラリーをドクターブレード法にてガラス基材上に塗布後、20分放置し、100℃で30分間乾燥させた。続いて、電気マッフル炉(デンケン社製、P90)を用い500℃で30分間、大気圧雰囲気下にて焼成した。これにより、ガラス/多孔質TiOを得た。得られたガラス/多孔質TiOの平均孔径は50nmであった。
次に、金属酸化物膜形成用溶液を作製した。酢酸亜鉛(関東化学社製)の0.05mol/l溶液1000g(水:エタノール=50:50)に、還元剤であるボラン−ジメチルアミン錯体(関東化学社製)を0.05mol/lとなるように添加し、金属酸化物膜形成用溶液を得た。次に、この金属酸化物膜形成用溶液を温度70℃となるまで加熱した。この時、フィルターを通すことで異物を排除した。温度70℃一定の元、上記ガラス/多孔質TiOを浸漬して12時間保持し、金属酸化物膜成膜済みのガラス/多孔質TiOサンプルを得た。
このサンプルの断面を上記走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、厚み方向で3μmの部分において金属酸化物膜が確認された。このサンプルの断面図を図11に示す。なお、図11において、図11(a)は成膜前のガラス/多孔質TiOの断面図であり、図11(b)は成膜後のサンプルの断面図である。
【0081】
[実施例3]
本実施例は、金属からなる多孔質部材に複合金属酸化物膜を作製したものである。フェライト系ステンレス鋼の粒径10μm〜100μmの微粒子をバインダーと混合し、混練し、成形した後に乾燥させ、最後に真空中焼結させる一般的な方法によって多孔質部材を作製した。得られた多孔質部材の平均孔径は、10μmであった。
次に、金属酸化物膜形成用溶液を作製した。酢酸コバルト(II)0.01mol/l(関東化学社製)、酢酸マンガン(II)0.01mol/l(関東化学社製)を0.05mol/lとなるように添加し、金属酸化物膜形成用溶液を得た。次に、この金属酸化物膜形成用溶液を温度60℃となるまで加熱した。この時、フィルターを通すことで異物を排除した。温度70℃一定の元、上記金属多孔質部材を浸漬して20時間保持し、金属酸化物膜形成済みの金属多孔質体サンプルを得た。
このサンプルの断面を上記走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、厚み方向で300μmの部分において、金属酸化物膜が確認された。
【0082】
[比較例1]
実施例1で適用した燃料極(日本ファインセラミックス社製、サマリウムドーピングセリア&酸化ニッケル多孔質部材、平均孔径1μm、厚み800μm、平均粒子径1μm、)に対して、ディップコート法にて成膜を試みた。
ガドリニウムドーピングセリアの粉体(日本ファインセラミックス社製、平均粒子径50nm)の20重量%添加溶液(水:エタノール=70:30)に燃料極を浸漬した後、1300℃で2時間焼成した。その結果、膜が剥離してしまい、成膜が不可であるだけでなく、内部400μmまでガドリニウムドーピングセリア粉体が至っていないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に用いられる多孔質部材における孔部および壁部の一例を示した説明図である。
【図2】本発明に用いられる多孔質部材の一例の断面図を示す説明図である。
【図3】コアシェル型微粒子を用いた多孔質体の一例の断面図を示す説明図である。
【図4】溶液法における成膜反応の一例を示す説明図である。
【図5】セリウムに対するpHと電位との関係を示す関係図(プールベ線図)である。
【図6】本発明の多孔質体の製造方法の一例を示す説明図である。
【図7】本発明の多孔質体の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図8】本発明の多孔質体の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図9】本発明の多孔質体の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図10】実施例1により得られた多孔質体の断面図を示すSEM画像である。
【図11】実施例2により得られた多孔質体の断面図を示すSEM画像である。
【符号の説明】
【0084】
1 … 基材
2 … 多孔質部材
3 … 多孔質微粒子
4 … 金属酸化物膜
5 … コアシェル型微粒子
6 … 金属酸化物膜形成用溶液
7、8 … ローラー
9 … ポンプ
10 … 紫外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質部材と金属酸化物膜とを備えた多孔質体であって、前記多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面に前記金属酸化物膜が成膜されてなることを特徴とする多孔質体。
【請求項2】
前記多孔質部材の平均孔径が1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質体。
【請求項3】
前記多孔質部材の外表面から10nm以上内部に至る前記壁部の表面に金属酸化物膜が存在することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多孔質体。
【請求項4】
前記多孔質部材の孔部を形成する壁部の表面が、前記金属酸化物膜に50%以上被覆されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の多孔質体。
【請求項5】
前記多孔質部材の孔部を形成する壁部が連続していることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の多孔質体。
【請求項6】
前記金属酸化物膜が、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、およびTaからなる群から選択される少なくとも一つの金属元素を含有することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の多孔質体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−225211(P2006−225211A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−43169(P2005−43169)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】