説明

多孔質層を有する積層体、及びそれを用いた機能性積層体

【課題】基材上に高分子を主体とする多孔質層を有する積層体及びその製造方法、前記多孔質層を有する積層体を用いて、光透過性基材上に導電性材料等の機能性材料のパターンが形成された機能性積層体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基材と、前記基材の少なくとも片面上の多孔質層とを含む積層体であって、前記多孔質層は、高分子を主成分として含む組成物から構成され、前記多孔質層における微小孔の平均孔径が0.01〜10μmであり、空孔率が30〜85%であり、前記多孔質層を構成する組成物は20℃以上のガラス転移温度を有し、前記多孔質層は、加熱処理により微小孔が消失し、透明層に変換され得るものである積層体。
前記積層体の前記多孔質層の表面上に導電体層パターンを形成し、加熱処理に付し、前記多孔質層中の微小孔を消失させ、前記多孔質層を透明層に変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に高分子を主体とする多孔質層を有する積層体及びその製造方法、並びに前記多孔質層を有する積層体を用いた機能性積層体及びその製造方法に関する。本発明の多孔質層を有する積層体は、多孔質層の微小孔により優れた印刷特性を示し、また、印刷後に加熱処理により多孔質層の微小孔を消失させこの層を透明化させることによって、電磁波シールドや電磁波吸収体などの電磁波制御材、回路基板、アンテナ、放熱板等、広範囲な基板材料として有用である。
【背景技術】
【0002】
基材上に高分子を主体とする多孔質層を有する積層体及びその製造方法については、例えば、特開2003−313356号公報、特開2005−162885号公報、特開2007−126638号公報、特開2007−246876号公報に開示されている。
【0003】
光透過性基材の表面上に、導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層、又は抵抗体層などの機能性層を形成したものは、電磁波シールドや電磁波吸収体などの電磁波制御材、回路基板、アンテナ、放熱板等として用いることができる。より具体的には、CRT(ブラウン管)、PDP(プラズマディスプレイパネル)、液晶、有機EL等のディスプレイのような透明であることを必要とされる機器において、電磁波シールド材、あるいは電気を供給する回路基板として用いることができる。
【0004】
これらの例として、電磁波シールド材を挙げて説明する。
【0005】
近年、各種の電気設備や電子応用設備の利用の増加に伴い、電磁波障害(Electro-Magnetic Interference:EMI)が急増している。EMIは、周辺の電子、電気機器の誤動作、障害の原因になるほか、これらの装置のオペレーターにも健康障害を与えることが指摘されている。このため、電子電気機器では、電磁波放出の強さを規格又は規制内に抑えることが要求されている。電子電気機器であるCRT(ブラウン管)、PDP(プラズマディスプレイパネル)、液晶、有機EL等のディスプレイのうち、PDPの電磁波発生量が多いために、PDPではより強く電磁波をシールドすることが求められている。PDPででは、電磁波をシールドするために、PDP前面に格子状の配線が設けられた光透過性のフィルムが設置される。
【0006】
電磁波シールド材は、例えば、以下の公報に開示されている。
【0007】
特開平1−278800号公報、特開平5−323101号公報には、透明基材上に、金属又は金属酸化物を蒸着して形成した薄膜導電層を有する電磁波シールド材が開示されている。しかしながら、導電層を透明性が達成できる程度の薄い膜厚とすると、導電層の表面抵抗が大きくなりすぎてシールド効果が低下するという問題がある。また、蒸着技術を用いると、高価な製造装置が必要になり、生産性も一般的に劣ることから、製造コストが高くなるという問題がある。
【0008】
特開平5−327274号公報、特開平5−269912号公報には、良導電性繊維を透明基材に埋め込んだEMIシールド材が開示されている。しかしながら、導電性繊維の繊維径は35μm(特開平5−327274号公報の段落[0014])、76μm(特開平5−269912号公報の段落[0048])と太すぎるため、繊維が見えてしまいディスプレイ用途には適したものではない。
【0009】
特許第3388682号公報には、透明プラスチック基材に接着層を介して金属箔を貼り合わせ、貼り合わせた金属箔にケミカルエッチングを行って金属メッシュを形成する、電磁波シールド性を有するディスプレイ用フィルムの製造方法が開示されている。この方法では、金属箔を用いているため、電磁波シールド効果が向上したディスプレイ用フィルムが得られる。しかしながら、金属箔のエッチングのためにいわゆる長いフォトリソグラフィー工程(レジストフィルム貼り付け−露光−現像−ケミカルエッチング−レジストフィルム剥離)が要求される。よって、高価な製造装置が必要であり、長く複雑な製造工程のために生産効率が悪く、そのため、製造コストが高くなるという問題がある。また、金属箔と透明プラスチック基材との密着性を向上させるために金属箔の貼り合わせ面が粗面化されているため、エッチング後の透明プラスチック基材の表面(金属箔の粗面化された貼り合わせ面と接触していた部分)は凸凹になっており、乱反射のために白色化している。透明性を発現させるためには接着剤等を塗布して平滑にする必要がある。このような工程のためにさらに製造コスト高となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−313356号公報
【特許文献2】特開2005−162885号公報
【特許文献3】特開2007−126638号公報
【特許文献4】特開2007−246876号公報
【特許文献5】特開平1−278800号公報
【特許文献6】特開平5−323101号公報
【特許文献7】特開平5−327274号公報
【特許文献8】特開平5−269912号公報
【特許文献9】特許第3388682号公報
【特許文献10】国際公開WO2007/097249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、公知の電磁波シールド材は、性能が不十分であったり、又は製造コストが高くなる等の問題がある。
【0012】
上述した電磁波シールド材に限らず、基材の表面上に、導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層、又は抵抗体層などの機能性層を形成するに際して、これらの機能性層をパターン化して形成することは、パターン化しない場合に比べると、かなりの困難性を伴う。このことは、例えば、上記特許第3388682号公報における複雑なケミカルエッチング工程からも明らかである。特に、パターンが微細化されると、より困難性は増す。
【0013】
また、国際公開WO2007/097249号公報には、多孔質層を透明化するために、配線が形成された多孔質層積層体を溶剤に濡らして多孔質層を膨潤・軟化させ、多孔質層中の空孔構造を消失させることが開示されている(段落[0228]〜[0232])。しかしながら、多孔質層を膨潤・軟化させた後に、溶剤を乾燥処理する必要があるため、一連の工程が複雑であり、製造コストがかかる。また、用いる溶剤に対する多孔質層の溶解性が高いと、多孔質層自体が溶解してしまうので、多孔質層上に形成された配線パターンを維持することは困難である。
【0014】
本発明の目的は、基材上に高分子を主体とし且つ加熱処理により透明層に変換される多孔質層を有する積層体及びその製造方法を提供することにある。より詳しくは、本発明の目的は、光透過性基材上に簡単に導電性材料等の機能性材料のパターン形成を行うために好適な前記多孔質層を有する積層体及びその製造方法を提供することにある。
【0015】
また、本発明の目的は、前記多孔質層を有する積層体を用いた機能性積層体及びその製造方法を提供することにある。より詳しくは、本発明の目的は、前記多孔質層を有する積層体を用いて、光透過性基材上に導電性材料等の機能性材料のパターンが形成された機能性積層体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明には、以下の発明が含まれる。
(1) 基材と、前記基材の少なくとも片面上の多孔質層とを含む積層体であって、
前記多孔質層は、高分子を主成分として含む組成物から構成され、
前記多孔質層における微小孔の平均孔径が0.01〜10μmであり、空孔率が30〜85%であり、
前記多孔質層を構成する組成物は20℃以上のガラス転移温度を有し、前記多孔質層は、加熱処理により微小孔が消失し、透明層に変換され得るものである積層体。
【0017】
前記多孔質層を構成する組成物は、該組成物のガラス転移温度(Tg)以上、前記基材の耐熱温度未満且つ前記多孔質層を構成する組成物(主成分としての高分子、その他の任意成分を含む)の分解温度未満の温度で軟化、変形するものである。そのため、前記基材の種類にもよるが、前記多孔質層を構成する組成物は例えば280℃以下、好ましくは200℃以下、あるいは130℃以下のガラス転移温度を有することが好ましい。
【0018】
また、前記多孔質層を透明層に変換させるための加熱処理は、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度以上、前記基材の耐熱温度未満且つ前記多孔質層を構成する組成物の分解温度未満の温度で行うことができる。すなわち、前記加熱処理温度の上限は、前記基材の耐熱温度と、前記多孔質層を構成する組成物の分解温度のうちの低い方の温度未満である。
【0019】
加熱処理を安定に行うためには、前記多孔質層を構成する組成物の分解温度(分解開始温度)が、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度よりも15℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上高いことが必要である。この温度差が大きいほど、安定な加熱処理を実行できる。従って、この温度差についての上限値は特に定められないが、一般的には、高分子成分はガラス転移温度(Tg)より200℃以上の高温(Tg+200℃)の領域では分解することが多いので、温度差についての上限値として200℃が挙げられる。
【0020】
加熱処理により、前記多孔質層を構成する組成物が軟化、変形し、微小孔が消失し、前記多孔質層は透明層に変換される。溶剤を用いることなく、加熱処理のみによって、前記多孔質層は透明層に変換される。
【0021】
(2) 前記基材は、透明樹脂フィルム、透明ガラス板、及び透明セラミックス基板からなる群より選択される光透過性基材である、上記(1) に記載の積層体。
【0022】
(3) 前記多孔質層を構成する組成物は、さらに架橋剤及び/又は可塑剤を含む、上記(1) 又は(2) に記載の積層体。前記多孔質層を透明層に変換させるためには、前記多孔質層中において、架橋剤は実質的に未反応の状態である。
【0023】
架橋剤の添加により、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度は、変化(上昇又は低下)するので、該組成物のガラス転移温度の調整を行い得る。また、可塑剤の添加により、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度は、通常低下するので、該組成物のガラス転移温度の調整を行い得る。高分子成分自体のガラス転移温度が高い場合に、架橋剤及び/又は可塑剤を添加してガラス転移温度を低下させることは、本発明において前記多孔質層を透明層に変換させるための加熱処理を安定に行うために有効である。
【0024】
(4) 前記多孔質層は、前記多孔質層を構成すべき高分子を含む多孔質層形成用材料の溶液を、前記基材上にフィルム状に流延し、その後、これを凝固液中に浸漬し、次いで乾燥に付すことにより形成されたものである、上記(1) 〜(3) のうちのいずれかに記載の積層体。すなわち、前記多孔質層は、いわゆる相分離法により形成されたものである。この際の乾燥処理は、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度未満の温度で行われる。
【0025】
(5) 前記多孔質層の表面上にさらに、印刷技術により、導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層、抵抗体層、及び前記層の前駆体層からなる群より選択される少なくとも1種が形成されている、上記(1) 〜(4) のうちのいずれかに記載の積層体。
【0026】
上記(1) 〜(5) のうちのいずれかに記載の積層体において、前記多孔質層の厚みは、例えば、0.1〜100μmである。
【0027】
上記(1) 〜(5) のうちのいずれかに記載の積層体は、例えば、下記方法に基づくテープ剥離試験:
積層体の多孔質層表面に24mm幅の寺岡製作所社製マスキングテープ[フィルムマスキングテープNo.603(#25)]をテープ一端から50mmの長さ分貼り付け、貼り付けられた前記テープを、直径30mm、200gf荷重のローラーで圧着し、その後、引張試験機を用いてテープ他端を剥離速度50mm/分で引っ張り、T型剥離を行う: を行ったとき、前記基材と前記多孔質層との間で界面剥離を起こさないものである。
【0028】
(6) 上記(1) 〜(4) のうちのいずれかに記載の積層体を製造する方法であって、
前記多孔質層を構成すべき高分子を含む多孔質層形成用材料の溶液を、前記基材上にフィルム状に流延し、その後、これを凝固液中に浸漬し、次いで乾燥に付すことを含む、積層体の製造方法。この際の乾燥処理は、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度未満の温度で行われる。
【0029】
(7) 前記多孔質層形成用材料の溶液を前記基材上にフィルム状に流延した後、相対湿度70〜100%、温度15〜100℃の雰囲気下に0.2〜15分間保持し、その後、これを凝固液中に浸漬する、上記(6) に記載の積層体の製造方法。
【0030】
(8) 上記(1) 〜(5) のうちのいずれかに記載の積層体を、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度以上の温度での加熱処理に付し、前記多孔質層中の微小孔を消失させ、前記多孔質層を透明層に変換する方法。
【0031】
前記加熱処理は、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度以上、前記基材の耐熱温度未満の温度且つ前記多孔質層を構成する組成物の分解温度未満で行う。すなわち、前記加熱処理温度の上限は、前記基材の耐熱温度と、前記多孔質層を構成する組成物の分解温度のうちの低い方の温度未満である。加熱処理により、前記多孔質層を構成する組成物が軟化、変形し、微小孔が消失し、前記多孔質層は透明層に変換される。溶剤を用いることなく、加熱処理のみによって、前記多孔質層は透明層に変換される。
【0032】
(9) 基材と、前記基材上の高分子を主成分として含む透明層と、前記透明層上の導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層、及び抵抗体層からなる群より選択される機能性層とを有する機能性積層体を製造する方法であって、
上記(1) 〜(4) のうちのいずれかに記載の積層体の前記多孔質層の表面上に、導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層、抵抗体層、及び前記層の前駆体層からなる群より選択される層を形成し、
得られた積層体を、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度以上の温度での加熱処理に付し、前記多孔質層中の微小孔を消失させ、前記多孔質層を透明層に変換することを含む、機能性積層体の製造方法。
【0033】
前記加熱処理は、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度以上、前記基材の耐熱温度未満の温度且つ前記多孔質層を構成する組成物の分解温度未満で行う。すなわち、前記加熱処理温度の上限は、前記基材の耐熱温度と、前記多孔質層を構成する組成物の分解温度のうちの低い方の温度未満である。加熱処理により、前記多孔質層を構成する組成物が軟化、変形し、微小孔が消失し、前記多孔質層は透明層に変換される。溶剤を用いることなく、加熱処理のみによって、前記多孔質層は透明層に変換される。
【0034】
また、前記層の前駆体層とは、例えば、前駆体層を形成した後の加熱処理等によって、導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層、抵抗体層に変換することのできる層を意味している。
【0035】
(10) 前記機能性層は、パターン化されている、上記(9) に記載の機能性積層体の製造方法。
前記多孔質層を構成する組成物がその分解温度未満に溶融温度を有する場合には、前記加熱処理は、前記多孔質層を構成する組成物の溶融温度未満で行うことが好ましい。前記多孔質層組成物が溶融することによって、微小孔が消失し、前記多孔質層は透明層に変換されるが、前記多孔質層組成物が溶融してしまうと、多孔質層上に形成されていたパターン化された機能性層のパターンが維持されにくくなる。
【0036】
(11) 基材と、前記基材上の高分子を主成分として含む透明層と、前記透明層上の導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層、及び抵抗体層からなる群より選択される機能性層とを有する機能性積層体であって、
上記(1) 〜(4) のうちのいずれかに記載の積層体の前記多孔質層の表面上に、導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層、抵抗体層、及び前記層の前駆体層からなる群より選択される層を形成し、
得られた積層体を、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度以上の温度での加熱処理に付し、前記多孔質層中の微小孔を消失させ、前記多孔質層を透明層に変換することにより得られた機能性積層体。
【0037】
(12) 前記機能性層は、パターン化されている、上記(11)に記載の機能性積層体。
【発明の効果】
【0038】
本発明の多孔質層を有する積層体は、前記多孔質層における微小孔の平均孔径、及び空孔率が特定範囲とされ、多孔質層の柔軟性に優れると共に、該多孔質層は基材に裏打ちされているため、十分な強度を有し、耐折性、取扱性に優れている。
【0039】
本発明の多孔質層を有する積層体は、上記特性を有するため、多孔質層表面への印刷性に優れており、導電体材料等の微細化された機能性パターンの印刷が可能である。そして、前記多孔質層を構成する組成物は20℃以上のガラス転移温度を有するので、加熱処理を行うことにより、前記多孔質層を軟化させて微小孔を消失させ、前記多孔質層を膜厚の減少した透明層に変換することができる。すなわち、多孔質層表面へ微細化された機能性パターンを印刷し、印刷後に加熱処理を行うことにより、透明樹脂層上に微細化された機能性パターンを得ることができる。一般に、透明樹脂層上に直接的に導電体材料等の微細化されたパターンを印刷することは、樹脂層の緻密性(クッション性に乏しく、平滑な性質)のために困難であるので、ここに本発明の大きな利点がある。
【0040】
このようにして、本発明の多孔質層を有する積層体を用いて、基材上に、前記多孔質層に由来する透明樹脂層を介して、導電体材料等の微細化された機能性パターンが形成された機能性積層体を得ることができる。基材として、光透過性基材を用いると、全体として透明な機能性積層体を得ることができる。得られた機能性積層体は、電磁波シールドや電磁波吸収体などの電磁波制御材、回路基板、アンテナ、放熱板等の基板材料として広く利用することができる。
【0041】
本発明によれば、多孔質層表面へ微細化された機能性パターンを印刷し、印刷後に加熱処理を行うという簡単な工程によって、低製造コストで、基材上に、前記多孔質層に由来する透明樹脂層を介して、機能性パターンが形成された機能性積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1で得られた積層体の多孔質層表面の電子顕微鏡写真(x1000倍)である。
【図2】実施例1で得られた積層体の断面の電子顕微鏡写真(x1000倍)である。
【図3】実施例7で得られた導電パターンの電子顕微鏡写真(x100倍)である。
【図4】比較例1で得られた導電パターンの電子顕微鏡写真(x100倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
まず、本発明の多孔質層を有する積層体(以下、「多孔質層積層体」と称することもある)について説明する。
【0044】
本発明の多孔質層を有する積層体は、基材と、前記基材の少なくとも片面上の多孔質層とを含む積層体であって、前記多孔質層は、高分子を主成分として含む組成物から構成され、前記多孔質層における微小孔の平均孔径が0.01〜10μmであり、空孔率が30〜85%であり、前記多孔質層を構成する組成物は20℃以上のガラス転移温度を有し、前記多孔質層は、加熱処理により微小孔が消失し、透明層に変換され得るものである。
【0045】
本発明において、多孔質層の多数の微小孔は連通性の低い独立した微小孔であってもよいし、連通性のある微小孔であってもよい。前記多孔質層における微小孔の平均孔径は0.01〜10μmである。平均孔径が0.01μmより小さい多孔質層は本発明の相分離法では製造が困難であり、平均孔径が10μmを超える場合には多孔質層中で孔径分布を均一に制御することが困難になる。
【0046】
多孔質層が多数の微小孔を有するという特徴は電子顕微鏡による観察により、判断することができる。多くの場合、多孔質層表面からの観察により球形状の小室、円形・楕円形状の孔、又は繊維状の構成物等の存在が判断でき、また多孔質層断面の観察により、球形状の壁に囲まれた小室、繊維状の構成物により囲まれた小室の存在を確認することができる。多孔質層の表面に薄いスキン層が形成されたものであってもよいし、孔の開いた状態になっているものでもよい。
【0047】
前記多孔質層は、高分子を主成分として含む組成物から構成されている。前記組成物は20℃以上のガラス転移温度を有しており、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上ガラス転移温度を有している。前記多孔質層を構成する組成物は、該組成物のガラス転移温度以上、前記基材の耐熱温度未満且つ前記多孔質層を構成する組成物(主成分としての高分子、その他の任意成分を含む)の分解温度未満の温度で軟化、変形するものである。そのため、前記基材の種類にもよるが、ガラス転移温度の上限については、前記多孔質層を構成する組成物は例えば280℃以下、好ましくは200℃以下、あるいは130℃以下のガラス転移温度を有することが好ましい。前記多孔質層を構成する組成物は、好ましくは30℃以上130℃以下、より好ましくは40℃以上115℃以下のガラス転移温度を有している。
【0048】
一方、前記基材は多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度より高い耐熱温度を有し、前記多孔質層を構成する組成物が軟化・変形する温度では、実用上の耐熱性を有するものである。
【0049】
本発明の多孔質層積層体は、例えば、下記方法に基づくテープ剥離試験:
積層体の多孔質層表面に24mm幅の寺岡製作所社製マスキングテープ[フィルムマスキングテープNo.603(#25)]をテープ一端から50mmの長さ分貼り付け、貼り付けられた前記テープを、直径30mm、200gf荷重のローラー(Holbein Art Materials Inc.社製、耐油性硬質ゴムローラーNo.10)で圧着し、その後、引張試験機を用いてテープ他端を剥離速度50mm/分で引っ張り、T型剥離を行う:
を行ったとき、前記基材と前記多孔質層との間で界面剥離を起こさないものである。すなわち、基材と多孔質層とが、上記テープ剥離試験で界面剥離が起こらない程度の層間密着強度で直接的に積層されていることを意味している。
【0050】
本発明の多孔質層積層体は、上記のように、基材と多孔質層とが特定の層間密着強度で積層された構成を有するため、柔軟性と優れた空孔特性を備える一方、適度な剛性を有するため取扱性が向上している。基材と多孔質層との層間密着強度は、各層を構成する素材の種類や界面の物理的特性を適宜設定することにより調整することができる。
【0051】
基材としては、前記多孔質層を構成する組成物が軟化・変形する温度では、実用上の耐熱性を有する樹脂材料からなるフィルム(一般にシートと呼ばれるものを含む)、ガラス板、セラミックス基板を用いる。いずれも透明のものを用いることが、後述する用途の上から好ましい。
【0052】
ここで、透明な基材とは、完全に透明なものの他、基材を介して基材の反対側が視認できる程度のいわゆる半透明なものも含まれる。例えば、全光線透過率が30〜100%の基材を用いるとよい。ポリイミドフィルムのような有色透明基材では、一部の波長の光が吸収されるため、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の無色透明基材に比べ、全光線透過率は小さい。また、基材の厚みが増すほど、全光線透過率は小さくなる。
【0053】
基材を構成する樹脂材料としては、例えば、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、フッ素系樹脂、オレフィン系樹脂及びポリアリレート系樹脂等のプラスチック材料が挙げられる。これらの材料は単独で又は2種以上混合して使用してもよく、また、上記樹脂の共重合体(グラフト重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体等)を単独で又は組み合わせて用いることも可能である。さらに、上記樹脂の骨格(ポリマー鎖)を主鎖又は側鎖に含む重合物を用いることも可能である。このような重合物の具体例として、ポリシロキサンとポリイミドの骨格を主鎖に含むポリシロキサン含有ポリイミド等が挙げられる。
【0054】
基材は単層であってもよく、同一又は異なる素材からなる複数の層からなる複合フィルムであってもよい。複合フィルムは、複数のフィルムを必要に応じて接着剤等を用いて積層した積層フィルムであってもよく、コーティング、蒸着、スパッタ等の処理が施されて得られるものでもよい。
【0055】
また、基材の片面のみに多孔質層が形成される場合は、基材の他面には粘着剤層が形成されていてもよく、さらに取り扱いやすいように粘着剤層上に保護フィルム(離型フィルム)が貼られていてもよい。
【0056】
本発明における樹脂基材は、該基材表面上に、多孔質層を構成すべき高分子を含む多孔質層形成用材料の溶液(塗布液)を塗布した時に、樹脂フィルムが溶解したり激しく変形するなどの膜質の変化が生じないか極めて少ないものが好ましい。
【0057】
本発明における基材としては、以下に例示される市販品のフィルム等を用いることもできる。ポリエチレンテレフタレート系樹脂(PET)フィルムとしては、帝人デュポンフィルム株式会社製の「テイジンテトロンフィルム」、「メリネックス」、「マイラー」、東レ株式会社製の「ルミラー」等が市販されている。ポリエチレンナフタレート系樹脂(PEN)フィルムとしては、帝人デュポンフィルム株式会社製の「テオネックス」等が市販されている。ポリイミド系樹脂フィルムとしては、三菱ガス化学株式会社製の「ネオプリム」等が市販され、また、新日本理化株式会社製の「HDN−20」が発表されている。
【0058】
オレフィン系樹脂フィルムとして最も汎用的に使用されるフィルムにはポリプロピレンフィルムが挙げられ、市販のものを容易に入手することができる。その他にも環状構造を持つ環状オレフィン系樹脂製のフィルムを使用することもでき、例えば三井化学株式会社製の「TPX」、日本ゼオン株式会社製の「ゼオノア」、ポリプラスチックス株式会社製の「TOPAS」等の市販の樹脂をフィルム化して用いることが可能である。
【0059】
その他にも、東洋紡績株式会社がポリアミドイミド系樹脂の透明耐熱フィルムの開発品を、グンゼ株式会社が耐熱透明フィルム(Fフィルム)の開発品を、東レ株式会社が無色透明アラミドフィルムの開発品を、新日鉄化学株式会社が高耐熱透明フィルム「シルプラス」をそれぞれ展示会等で紹介しており、このような各フィルムも使用することができる。
【0060】
基材には、易接着処理、静電気防止処理、サンドブラスト処理(サンドマット処理)、コロナ放電処理、プラズマ処理、ケミカルエッチング処理、ウォーターマット処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、紫外線照射処理、シランカップリング剤処理等表面処理が施されていてもよく、このような表面処理が施された市販品も使用可能である。このような基材としては、例えば易接着処理や静電気防止処理が施されたPETフィルムや、プラズマ処理されたポリイミドフィルム等が挙げられる。
【0061】
また、上記表面処理を複数を組み合わせて行うことも可能である。例えば、基材に対し、まず、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、紫外線照射処理等の何れかの処理を施した後、シランカップリング剤処理を行う方法等を利用できる。基材の種類によっては、上記方法は、シランカップリング剤の単独処理と比較して処理が強化される場合があり、特にポリイミド系基材等で高い効果が期待できる。シランカップリング剤としては、信越化学工業社製やジャパンエナジー社製の製品を挙げることができる。
【0062】
樹脂基材の厚みは、例えば1〜300μm、好ましくは5〜200μm、さらに好ましくは5〜100μmである。厚みが薄くなりすぎると取り扱いが困難になり、一方、厚すぎると、樹脂基材の柔軟性が低下する場合がある。上記に例示の市販の基材には、厚みが12μm、12.5μm、25μm、50μm、75μm、125μm等のものがあり、いずれも利用できる。
【0063】
樹脂基材以外の基材として、ガラス板及びセラミックス基板が挙げられる。ガラス板及びセラミックス基板を構成する材料としては、上記テープ剥離試験により多孔質層と界面剥離を生じなけれは特に限定されず、多孔質層を構成する材料に応じて適宜選択できる。透明ガラス板としては、例えば、並質ガラス板、パイレックス(登録商標)ガラス板、石英ガラス等が挙げられる。透明セラミックス基板としては、例えば、神島化学工業株式会社の透明YAGセラミックス等が挙げられる。
【0064】
ガラス板及びセラミックス基板は単層であってもよく、同一又は異なる素材からなる複数の層からなる複合体であってもよい。複合体は、複数のガラス板及びセラミックス基板を必要に応じて接着剤等を用いて積層した積層体であってもよく、コーティング、蒸着、スパッタ等の処理が施されて得られるものでもよい。また、ガラス板及びセラミックス基板の片面のみ多孔質層が形成される場合は、他面には粘着剤層が形成されていてもよく、さらに取り扱いやすいように粘着剤層上に保護フィルム(離型フィルム)が貼られていてもよい。
【0065】
本発明におけるガラス板及びセラミックス基板は、該基材表面上に、多孔質層を構成すべき高分子を含む多孔質層形成用材料の溶液(塗布液)を塗布した時に、ガラス板及びセラミックス基板が溶解したり激しく変形するなどの品質の変化が生じないか極めて少ないものが好ましい。
【0066】
ガラス板及びセラミックス基板には、粗化処理、易接着処理、静電気防止処理、サンドブラスト処理(サンドマット処理)、コロナ放電処理、プラズマ処理、ケミカルエッチング処理、ウォーターマット処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理、酸化処理等の表面処理が施されていてもよく、このような表面処理が施された市販品も使用可能である。このような基材としては、例えばサンドブラスト処理が施されたガラス板等が挙げられる。
【0067】
ガラス板及びセラミックス基板の厚みは、例えば20〜5000μm、好ましくは50〜4000μm、さらに好ましくは100〜3000μmである。厚みが薄くなりすぎると取り扱いが困難になり、一方、厚すぎる場合には用途が制限される。
【0068】
多孔質層は、高分子を主成分として含み且つ20℃以上のガラス転移温度を有する組成物から構成されている。多孔質層を構成する高分子成分としては、例えば、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど)、ポリアミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、セルロース系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルホルマール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、及びアクリル系樹脂等のプラスチック材料が挙げられる。これらの高分子成分は単独で又は2種以上混合して使用してもよく、また、上記樹脂の共重合体(グラフト重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体等)を単独で又は組み合わせて用いることも可能である。さらに、上記樹脂の骨格(ポリマー鎖)を主鎖又は側鎖に含む重合物を用いることも可能である。このような重合物の具体例として、ポリシロキサンとポリイミドの骨格を主鎖に含むポリシロキサン含有ポリイミド等が挙げられる。
【0069】
多孔質層を構成する高分子成分の一部として、該高分子成分の単量体成分(原料)や、そのオリゴマー、イミド化や環化等の前の前駆体等を用いてもよい。
【0070】
なかでも、多孔質層を構成する高分子成分として好ましい例として、柔軟性があり、適度な機械的強度があり、基材との密着性が高く、相溶性に優れ、反応性のあるポリビニルアセタール系樹脂が挙げられる。ポリビニルアセタール系樹脂は、通常ポリ酢酸ビニルを鹸化してポリビニルアルコールとした後にアルデヒド化合物と反応させることによって製造することができる。ポリビニルアセタール系樹脂は、アルデヒドの種類、アセタール化度、水酸基、酢酸ビニル基の割合(組成割合)によって物理的、化学的性質が異なり、また、重合度により熱的、機械的性質や溶液粘度が変わった種々のグレードが得られる。ポリビニルアセタール系樹脂の1種としてポリビニルブチラールがある。
【0071】
また、ポリアミドイミド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエチレンナフタレート、ポリビニルホルマール系樹脂等も好ましい。高分子成分それ自体のガラス転移温度が高いものの場合には、架橋剤及び/又は可塑剤を添加することにより、多孔質層を構成する組成物全体のガラス転移温度を低下させるとよい。
【0072】
多孔質層の厚みは、例えば0.1〜100μm、好ましくは0.5〜70μm、さらに好ましくは1〜50μmである。厚みが薄くなりすぎると安定して製造することが困難になり、また、クッション性能が低下したり、印刷特性が低下する場合がある。一方、厚すぎる場合には孔径分布を均一に制御することが困難になる。
【0073】
本発明の多孔質層積層体は、上記テープ剥離試験で界面剥離が起こらない程度の層間密着強度で積層されている。基材と多孔質層との密着性を向上させる手段としては、例えば、基材における多孔質層を積層する側の表面に、サンドブラスト処理(サンドマット処理)コロナ放電処理、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、ケミカルエッチング処理、ウォーターマット処理、火炎処理、シランカップリング剤処理等の適宜な表面処理を施す方法;基材と多孔質層とを構成する成分として、良好な密着性(親和性、相溶性)を発揮しうる素材を組み合わせて用いる方法等が挙げられる。シランカップリング剤としては、公知のものを用いることができる。前記表面処理は、複数を組み合わせて施されてもよく、基材によっては、シランカップリング剤処理と、その他の処理を組み合わせて施されることが好ましい。
【0074】
基材と多孔質層との密着性の観点から、本発明の多孔質層積層体は、例えば、多孔質層を構成する高分子成分が、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルホルマール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、及びアクリル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であり、
光透過性基材が、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、オレフィン系樹脂、及びポリアリレート系樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂材料からなる透明樹脂フィルム、透明ガラス板、及び透明セラミックス基板からなる群より選択される光透過性基材であることが好ましい。
【0075】
本発明における多孔質層は、多数の微小孔を有し、前記微小孔の平均孔径(=多孔質層内部の微小孔の平均孔径)は0.01〜10μm、好ましくは0.05〜5μmである。平均孔径が0.01μmより小さい多孔質層は本発明の相分離法では製造が困難であり、平均孔径が10μmを超える場合には多孔質層中で孔径分布を均一に制御することが困難になる。
【0076】
多孔質層の内部の平均開孔率(空孔率)は、例えば30〜85%、好ましくは40〜85%、さらに好ましくは45〜85%である。空孔率が上記範囲外である場合には、用途に対応する所望の空孔特性が得られにくく、例えば空孔率が低すぎると、クッション性能が低下したり、印刷特性が低下する場合があり、空孔率が高すぎると、強度や耐折性に劣る可能性がある。また、多孔質層の表面の開孔率(表面開孔率)には特に制限はない。適度な開口は、多孔質層の表面に印刷を施す場合には、アンカー効果を発揮させインクとの密着性を確保するために、好ましいこともある。
【0077】
多孔質層は、基材の少なくとも片面に形成されていればよく、両面に形成することもできる。多孔質層を形成することにより、クッション性等が付与された積層体を得ることができる。多孔質層表面上への機能性層の印刷後に多孔質層の透明化処理を施すことができる。透明化処理された機能性積層体は、電磁波シールドや電磁波吸収体などの電磁波制御材、回路基板、アンテナ、放熱板等、広範囲な基板材料として利用可能である。
【0078】
本発明において、前記多孔質層を構成する組成物は、上記高分子成分に加え、さらに架橋剤を含むことができる。架橋剤の添加により、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度は変化(上昇又は低下)する場合があり、該組成物のガラス転移温度の調整を行い得る。前記多孔質層中において、後に実施される透明化のための加熱処理までの間は、架橋剤は実質的に未反応の状態である。後に実施される透明化のための加熱処理よりも前の段階において、前記多孔質層中の架橋剤が反応すると、加熱処理による前記多孔質層の透明化が行いにくくなる。ただし、加熱処理による前記多孔質層の透明化に支障がでない程度であれば、架橋反応が起こっていてもよい。架橋剤を添加し、適切な時期に、すなわち透明化のための加熱処理にやや遅れて(透明化のための加熱処理段階において、透明化よりもやや遅れて)、あるいは透明化のための加熱処理よりも後の段階において、架橋反応させることにより、多孔質層由来の透明樹脂層に、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性、密着性、被膜強度等を付与することができる。
【0079】
多孔質層由来の透明樹脂層に耐薬品性を付与することにより、本発明の機能性積層体の多様な利用形態において、溶剤、酸、アルカリ等に接触した場合に、層間剥離、膨潤、溶解、変質等の不具合を避けることができる点で有利である。高分子と架橋剤を反応させる方法としては、熱、紫外線、可視光線、電子線、放射線等による処理を行うことが挙げられる。適度な温度で熱処理するのが最も一般的である。
【0080】
ここで、本発明の機能性積層体の多様な利用形態において接触する機会のある薬品としては、一概に言うことはできないが、具体例として、(A)ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ピロリドン、シクロヘキサノン、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロルエタン、テトラヒドロフラン(THF)等の強い極性溶媒;(B)水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩;トリエチルアミン等のアミン類;アンモニア等のアルカリを溶解した水溶液や有機溶媒等のアルカリ溶液;(C)塩化水素、硫酸、硝酸等の無機酸;酢酸、フタル酸等のカルボン酸を持つ有機酸等の酸を溶解した水溶液や有機溶媒等の酸性溶液;及び(D)これらの混合物等が挙げられる。
【0081】
架橋剤としては、多孔質層を構成する高分子と反応して架橋するものであれば特に制限されないが、例えば、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂、アルキッド樹脂、ポリイソシアネート化合物、ジアルデヒド化合物、シランカップリング剤等が挙げられる。これらの架橋剤は、1種または2種以上混合して使用することができる。
【0082】
エポキシ樹脂には、ビスフェノールA型やビスフェノールF型等のビスフェノール系、フェノールノボラック型やクレゾールノボラック型等のノボラック系等のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂及びこれらの変性樹脂等の多様な樹脂が含まれる。エポキシ樹脂の市販品としては、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社の「アラルダイト」、ナガセケムテックス社の「デナコール」、ダイセル化学工業社の「セロキサイド」、東都化成社の「エポトート」、ジャパンエポキシレジン社の「jER」等を利用できる。
【0083】
ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、水添MDIなどの脂環族ポリイソシアネートなどが含まれる。
【0084】
このような架橋剤が添加された多孔質層由来の透明樹脂層と機能性層とを有する本発明の機能性積層体は、強い極性溶媒、アルカリ、酸等の薬品と接触した場合にも、透明樹脂層が溶解したり、膨潤して変形するなどの変質が全く生じないか、使用目的や用途に影響のない程度内に変質を抑制することができる。例えば、透明樹脂層と薬品とが接触する時間が短い用途では、その時間内で変質しない程度の耐薬品性が付与されていればよい。
【0085】
また、多孔質層由来の前記透明樹脂層において、高分子に架橋構造が形成されていると、前記透明樹脂層の耐薬品性のみではなく、耐熱性も向上する場合が多い。さらに、高分子に架橋構造が形成されていると、前記透明樹脂層の強度が増したり、基材との密着強度が高くなる場合がある。
【0086】
本発明において、前記多孔質層を構成する組成物は、さらに可塑剤を含むことができる。可塑剤を添加することにより、多孔質層に柔軟性を付与することができる。また、可塑剤の添加により、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度を低下させる場合があり、該組成物のガラス転移温度の調整を行い得る。
【0087】
可塑剤としては、多孔質層を構成する高分子と相溶性のあるものであれば特に制限されないが、例えば、グリコール系可塑剤(トリエチレングリコール、シエチルブチレート、ブチルフタリルグリコール酸ブチル(BPBG)、ポリエチレングリコール(PEG)等)、フォスフェート系可塑剤(トリクレジルフォスフェート(TCP)等)、フタレート系可塑剤(フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジオクチル(DOP)等)、セバケート系可塑剤(ジブチルセバケート、ビス(2−エチルヘキシル)セバケート(DOS)等)、脂肪酸エステル系可塑剤(メチルアセチルリシノレート等)、リン酸エステル系可塑剤(リン酸トリクレジル等)、エポキシ化植物油系可塑剤(エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等)、その他の可塑剤(ひまし油、塩素化パラフィン、トリアセチン等)が挙げられる。
【0088】
本発明の好ましい形態は、基材が樹脂フィルムの場合、基材の片面又は両面に多孔質層が設けられ、前記多孔質層における微小孔の平均孔径が0.01〜10μmであり、空孔率が30〜85%であり、前記多孔質層の厚みが0.1〜100μmであり、前記基材の厚みが1〜300μmである多孔質層積層体である。このような多孔質層積層体は、多孔質層及び基材を構成する材料や厚み、製造条件(例えば、凝固液に導入する前の加湿条件)等を適宜設定することにより製造できる。前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度は、適切な高分子を選択し、さらに、架橋剤及び/又は可塑剤を添加して適宜調整することができる。
【0089】
このような多孔質層積層体は、例えば、
前記多孔質層を構成すべき高分子を含む多孔質層形成用材料の溶液を、前記基材上にフィルム状に流延し、その後、これを凝固液に接触させて多孔化処理を施した後、そのまま乾燥に付して、基材と多孔質層との積層体を得る方法;
前記多孔質層を構成すべき高分子を含む多孔質層形成用材料の溶液を、支持体上にフィルム状に流延し、その後、これを凝固液に接触させて多孔化処理を施した後、得られた多孔質層を支持体から基材表面上に転写し、続いて乾燥に付して、基材と多孔質層との積層体を得る方法;
等により製造できる。本発明では以下に詳述するように前者の方法が好ましく用いられる。
【0090】
本発明の多孔質層積層体の製造方法は、前記多孔質層を構成すべき高分子を含む多孔質層形成用材料の溶液を、前記基材上にフィルム状に流延し、その後、これを凝固液中に導き、次いで乾燥に付して、基材の少なくとも片面に多孔質層を積層することにより多孔質層積層体を得ることを特徴としている。この方法によれば、湿式相転換法を用いて基材上に多孔質層を形成した後、そのまま乾燥に付すため、多孔質層の形成と同時に基材表面に密着して積層することができるため、製造効率を向上することができる。また、多数の微小孔を有する多孔質層は柔軟なため、多孔質層単体では取扱にくく積層工程が困難であるが、製膜と同時に積層する本発明の製造方法によれば、このような問題を回避でき、優れた空孔特性を有する多孔質層と基材とが直接積層された多孔質層積層体を容易に得ることができる。
【0091】
多孔質層形成用材料の溶液(以下、多孔質層用溶液ということもある)は、例えば、多孔質層を構成する主たる素材となる高分子成分、必要に応じて架橋剤、必要に応じて可塑剤、水溶性極性溶媒、必要に応じて水溶性ポリマー、必要に応じて水を含んでなる。
【0092】
前記凝固液の温度は、特に制限されないが、例えば0〜100℃とすることができる。凝固液の温度が0℃未満であると、溶剤等の洗浄効果が低下しやすい。凝固液の温度が100℃を超えると、溶剤や凝固液が揮発して、作業環境が損なわれる。凝固液としては、コスト、安全性、毒性などの観点から、水が好ましく用いられる。凝固液として水を用いた場合には、水の温度5〜60℃程度とすることができる。前記凝固液中への浸漬時間は、溶剤、水溶性ポリマーが十分に洗浄される時間を適宜選択することができる。洗浄時間が短すぎると、残存した溶剤により、乾燥工程で多孔質構造が壊れるおそれがある。洗浄時間が長すぎると、製造効率が低下し、製品コストの上昇に繋がる。洗浄時間は、多孔質層の厚み等にもよるので一概には言えないが、0.5〜30分間程度とすることができる。
【0093】
前記多孔質層用溶液を基材上にフィルム状に流延した後、相対湿度70〜100%、温度15〜100℃の雰囲気下に0.2〜15分間保持し、その後、これを凝固液中に浸漬することが好ましい。
【0094】
前記多孔質層用溶液への水溶性ポリマーや水の添加は、膜構造をスポンジ状に多孔化するために効果的である。水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、多糖類等やその誘導体、及びこれらの混合物などが挙げられる。これらの水溶性ポリマーは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。多孔化の観点から、多孔化のためには、水溶性ポリマーの重量平均分子量は200以上が良く、好ましくは300以上、特に好ましくは400以上(例えば、400〜20万程度)であり、特に分子量1000以上であってもよい。水の添加により孔径を調整でき、例えば多孔質層用溶液への水の添加量を増やすと孔径を大きくすることが可能となる。
【0095】
水溶性ポリマーは、膜構造を均質なスポンジ状多孔構造にするのに非常に有効であり、水溶性ポリマーの種類と量を変更することにより多様な構造を得ることが可能である。このため、水溶性ポリマーは、所望の空孔特性を付与する目的で、多孔質層を形成する際の添加剤として極めて好適に用いられる。
【0096】
水溶性ポリマーの量を増やしていくと、孔の連通性が高くなる傾向がある。連通性が高くなると強度が低下する傾向が見られるので、水溶性ポリマーを過剰に添加するのは好ましくない。また、過剰の添加は洗浄時間を長くする必要が生じ好ましくない。水溶性ポリマーを使用しないことも可能である。
【0097】
水溶性極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド,N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ピロリドン及びこれらの混合物などが挙げられ、前記高分子成分として使用する樹脂の化学骨格に応じて溶解性を有するもの(高分子成分の良溶媒)を使用することができる。
【0098】
前記多孔質層用溶液における各成分の配合量は、前記多孔質層用溶液を基準として、前記高分子成分5〜40重量%、前記水溶性ポリマー0〜10重量%、水0〜10重量%、前記架橋剤0〜30重量%、前記可塑剤0〜15重量%、及び水溶性極性溶媒60〜95重量%とすることが好ましい。この際に、高分子成分の濃度が低すぎると多孔質層の厚みが不十分となったり、所望の空孔特性が得られにくく、一方、高分子成分の濃度が高すぎると空孔率が小さくなる傾向にある。また、高分子成分の濃度は、多孔質層用溶液が塗布に適した粘度となるように、前記範囲から適宜選ぶことができる。水溶性ポリマーの濃度が高すぎると、フィルム内部の孔の連通性が高くなり多孔質層の強度を低下させてしまう。水の添加量は孔径の調整に用いることができ、添加量を増やすことで孔径を大きくすることが可能となる。
【0099】
前記多孔質層用溶液を基材上にフィルム状に流延し、得られたフィルムを相対湿度70〜100%、温度15〜100℃からなる雰囲気下に0.2〜15分間保持し、その後、高分子成分の非溶剤からなる凝固液中に導くことが望ましい。加湿下に置くと、水分がフィルム表面から内部へと侵入し、高分子溶液の相分離を効率的に促進すると考えられる。好ましい条件は、相対湿度90〜100%、温度30〜90℃であり、さらに好ましい条件は、相対湿度約100%(例えば、95〜100%)、温度40〜80℃である。空気中の水分量がこれよりも少ない場合は、空孔率が充分でなくなる場合がある。
【0100】
上記方法によれば、例えば、多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔質層を容易に成形することができる。本発明における多孔質層積層体を構成する多孔質層の微小孔の径、空孔率、開孔率は、上記のように、高分子溶液の構成成分の種類や量、流延時の湿度、温度及び時間などを適宜選択することにより所望の値に調整することができる。
【0101】
相転換法に用いる凝固液としては、高分子成分を凝固させる溶剤であればよく、高分子成分として使用する高分子の種類によって適宜選択されるが、例えば、ポリアミドイミド系樹脂の場合は、水;メタノール、エタノール等の1価アルコール、グリセリン等の多価アルコールなどのアルコール;ポリエチレングリコール等の水溶性高分子;これらの混合物などの水溶性凝固液などが使用できる。
【0102】
本発明の製造方法においては、凝固液に導いて基材表面に多孔質層を形成した後、そのまま乾燥に付すことにより、基材の表面に多孔質層が直接積層された構成を有する積層体が製造される。乾燥は、凝固液等の溶剤成分を除去しうる方法であれば特に限定されず、加熱下でもよく、室温による自然乾燥であってもよい。ただし、この際の乾燥処理は、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度未満の温度で行われる。乾燥処理時において、前記多孔質層を構成する組成物が軟化し、微小孔が消失してしまわないように注意する。微小孔が消失すると、前記多孔質層上への印刷特性が低下する。
【0103】
乾燥処理の方法は特に制限されず、熱風処理、熱ロール処理、あるいは、恒温槽やオーブン等に投入する方法でもよく、積層体を所定の温度にコントロールできるものであればよい。乾燥処理時の雰囲気は空気でも窒素や不活性ガスでもよい。空気を使用する場合が最も安価であるが、酸化反応を伴う可能性がある。これを避ける場合は、窒素や不活性ガスを使用するのがよく、コスト面からは窒素が好適である。加熱条件は、生産性、多孔質層及び基材の物性等を考慮して適宜設定される。乾燥に付すことにより、基材表面に多孔質層が直接成形された積層体を得ることができる。
【0104】
本発明の製造方法によれば、基材フィルムの片面、又は両面が高分子多孔質層により被覆されており、高分子多孔質層は多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔質層を有するフィルムを容易に得ることができる。
【0105】
本発明の多孔質層積層体は、上記構成を有するため、広範な分野において多様な用途に適用できる。具体的には、多孔質層が有する空孔特性をそのまま利用することにより、多孔質層上への機能性材料の優れた印刷特性が示される。また、機能性材料の印刷後に多孔質層を形成する組成物のガラス転移温度以上の温度で保持することにより空孔を消失させ透明化させることによって、電磁波シールドや電磁波吸収体などの電磁波制御材、回路基板、アンテナ、放熱板等、広範囲な基板材料として利用可能である。
【0106】
本発明の多孔質層積層体は印刷特性に優れているため、多孔質層の上に印刷によりパターン形成を行い使用することができる。このようにインク受像シート(印刷メディア)としても使用されるために、次に印刷技術について詳しく述べる。
【0107】
現在、多くの印刷法が実用化、利用されており、このような印刷技術として、例えば、インクジェット印刷、スクリーン印刷、ディスペンサ印刷、凸版印刷(フレキソ印刷)、昇華型印刷、オフセット印刷、レーザープリンタ印刷(トナー印刷)、凹版印刷(グラビア印刷)、コンタクト印刷、マイクロコンタクト印刷等を挙げることができる。使用されるインクの構成成分としては、特に制限されないが、例えば導電体、誘電体、半導体、絶縁体、抵抗体、色素等が挙げられる。
【0108】
電子材料を印刷法で作成するメリットとしては、(1)シンプルなプロセスで製造できる、(2)廃棄物の少ない低環境負荷プロセスである、(3)低エネルギー消費によって短時間で製造できる、(4)初期投資額が大幅に低減できる等があるが、その一方、これまでにない高精細な印刷が要求され、技術的に困難であることも事実である。従って、特に電子材料の製造に利用される印刷に関しては、印刷機械の性能だけでなく、インクやインク受像シートの特性が印刷結果に大きな影響を与える。本発明の多孔質層積層体は、多孔質層が基材に密着しており、多孔質層の微細な多孔構造は、そのクッション性のため印刷版と隙間なく密着することができるし、また、インクを吸ったり、インクを精密に固定することができるため、これまでにない高精細な印刷を達成することができ、非常に好ましく用いられる。また、多孔質層が基材に密着しているため、取り扱う上で十分な強度を確保することができ、例えば、ロールツーロールで連続的に印刷することもでき、生産効率を著しく向上することができる。
【0109】
電子材料を印刷により製造する場合、印刷法としては上述の方法を利用できる。印刷により製造される電子材料の具体例としては、電磁波シールドや電磁波吸収体などの電磁波制御材、回路基板、アンテナ、放熱板等を挙げることができ、さらに詳しくは、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、ICカード、ICタグ、太陽電池、LED素子、有機トランジスタ、コンデンサー(キャパシタ)、電子ペーパー、フレキシブル電池、フレキシブルセンサ、メンブレンスイッチ、タッチパネル、EMIシールド等を挙げることができる。
【0110】
上記電子材料を製造する方法は、例えば導電体、誘電体、半導体、絶縁体、抵抗体等の電子素材を含むインクを多孔質層(基板)表面に印刷する工程を含んでいる。例えば多孔質層(基板)表面に誘電体を含むインクで印刷することにより、コンデンサー(キャパシタ)を形成できる。このような誘電体としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等を挙げることができる。また、半導体を含むインクで印刷することにより、トランジスタ等を形成することができる。半導体としては、ペンタセン、液状シリコン、フルオレン−ビチオフェンコポリマー(F8T2)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)等を挙げることができる。
【0111】
導電体を含むインクで印刷することにより、配線を形成することができるため、フレキシブル基板やTAB基板、アンテナ等を製造することができる。前記導電体としては、銀、金、銅、ニッケル、ITO、カーボン、カーボンナノチューブ等の導電性を有する無機粒子;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性の有機高分子からなる粒子を挙げることができる。前記ポリチオフェンとしては、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等を挙げることができる。これらは、溶液やコロイド状のインクとして用いることができる。なかでも、無機粒子からなる導電体粒子が好ましく、特に電気特性やコストのバランスから、銀粒子や銅粒子が特に好ましく用いられる。粒子の形状としては、球状、鱗片状(フレーク状)等が挙げられる。粒子サイズは、特に限定されないが、例えば平均粒径数μm程度のものから、数nmのいわゆるナノ粒子も使用できる。これらの粒子は複数の種類を混合して使用することもできる。導電性のインクとして、容易に入手可能な銀インク(銀ペースト)を例に挙げて以下に説明するが、これに限定されず、他の種類のインクも適用可能である。
【0112】
銀インクは、その構成成分として、一般に銀粒子、界面活性剤、バインダー、溶剤等が含まれている。また、他の例として、酸化銀が加熱により還元される性質を利用して、酸化銀の粒子を含むインクを印刷し、後で加熱還元して銀配線とするものもある。さらに他の例として、有機銀化合物を含むインクを印刷し、後で加熱分解して銀配線とするものもある。有機銀化合物には、溶剤に溶解するものも利用できる。銀インクを構成する粒子として、銀粒子、酸化銀、有機銀化合物等は単独で又は複数を組み合わせて用いてもよく、また異なる粒子径のものを混合して用いることもできる。銀インクを用いて印刷後、インクを硬化させる際の温度(焼成温度)は、インクの組成、粒子径等に応じて適宜選択できるが、通常、100〜300℃程度の範囲内であることが多い。本発明の多孔質層積層体は有機材料であるため、劣化を回避するため焼成温度は比較的低温であることが好ましいが、配線の電気抵抗を小さくするため、一般に高温で焼成されることが好ましく、適当な硬化温度をもつインクを選択して用いる必要がある。このような銀インクの市販品としては、大研化学工業(株)製の商品名「CA−2503」、藤倉化成(株)製の商品名「ナノ・ドータイトXA9053」、ハリマ化成(株)製の商品名「NPS」、「NPS−J」(平均粒子径約5nm)、日本ペイント(株)製の商品名「ファインスフェアSVW102」(平均粒子径約30nm)等が知られている。配線基板に要求される電気抵抗と配線密着性のバランスを考慮して、インクに添加する導電体等の粒子径の大きさや粒度分布、混合比率を選択することが好ましい。
【0113】
スクリーン印刷の場合は、粘度が低すぎるとスクリーンにインクを保持しにくいので、むしろ粘度がある程度高い方が好ましく、インクに含まれる粒子の粒子径は大きくても特に問題はなく、また、粒子径が小さい場合は溶剤量を低減することが好ましい。従って、前記粒子径が0.01〜10μm程度であることが好ましい。
【0114】
次に、本発明の多孔質層積層体の有利な用途、すなわち、多孔質層積層体を用いた機能性積層体について説明する。本発明の多孔質層積層体の多孔質層表面上に機能性層を形成し、得られた積層体を加熱処理に付すことにより、多孔質層の空孔構造を失わせて多孔質層を透明化して、機能性積層体を得ることができる。
【0115】
本発明の多孔質層積層体はその多孔質層の空孔特性により、多孔質層上に高精細な印刷を達成することができるが、その多孔構造は可視光線の乱反射を引き起こして白色化し不透明なため、そのままでは使用用途が制限されてしまう。そこで、多孔質層を構成する組成物としてガラス転移温度が20℃以上のものを選択することにより、加熱処理により多孔質層の空孔構造を失わせて可視光の乱反射を抑え、多孔質層を透明化することができる。
【0116】
多孔質層の透明化は、多孔質層表面に各種の機能性層パターンを形成した多孔質層積層体を加熱することで多孔質層がわずかに軟化し、多孔質内部の空孔構造が消失することにより実現される。
【0117】
この際の加熱処理は、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度以上、前記基材の耐熱温度未満の温度且つ前記多孔質層を構成する組成物の分解温度未満で行う。すなわち、前記加熱処理温度の上限は、前記基材の耐熱温度と、前記多孔質層を構成する組成物の分解温度のうちの低い方の温度未満である。加熱処理により、前記多孔質層を構成する組成物が軟化、変形し、微小孔が消失し、前記多孔質層は透明層に変換される。溶剤を用いることなく、加熱処理のみによって、前記多孔質層は透明層に変換される。
【0118】
前記多孔質層を構成する組成物がその分解温度未満に溶融温度を有する場合には、前記加熱処理は、前記多孔質層を構成する組成物の溶融温度未満で行うことが好ましい。溶融温度以上での加熱処理を行うと、前記多孔質層組成物が溶融することによって、微小孔が消失し、前記多孔質層は透明層に変換されるが、前記多孔質層組成物が溶融してしまうと、多孔質層上に形成されていたパターン化された機能性層のパターンが維持されにくくなる。
【0119】
基材として、光透過性があり、多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度より高い耐熱温度を有し、前記多孔質層を構成する組成物が軟化・変形する温度では、実用上の耐熱性を有するものを選択することで、光透過性基材の上に透明な樹脂層があり、該樹脂層上に印刷により形成された機能性パターンが存在する機能性積層体を製造することができる。このように多孔質層を透明化することにより、得られた機能性積層体を、光透過性が要求される種々の用途、例えばディスプレイ用材料として使用できる。
【0120】
ここで、多孔質層の透明層への変換における透明化の評価について説明する。
多孔質層から変換された透明層の透明度の指標は、次式に示すように、用いられた基材自体の全光線透過率(%)と、透明化された積層体(基材+透明層)の全光線透過率(%)との差の絶対値として表すことができる。
【0121】
透明層の透明度(T)=|基材自体の全光線透過率(Ts)−積層体(基材+透明層)の全光線透過率(Tst)|
【0122】
上記式において、(Ts)と(Tst)の差の絶対値を用いるのは、(Ts)の値よりも(Tst)の値の方が大きくなる場合があるからである。基材自体の表面に微小凹凸が存在しているような場合には、その表面上の透明層の存在により前記微小凹凸が平滑化されて乱反射が抑えられ、(Ts)の値よりも(Tst)の値の方が大きくなると考えられる。
【0123】
本発明において、上記透明層の透明度(T)の値は、例えば0〜30%、好ましくは0〜20%、さらに好ましくは0〜10%、特に0〜5%である。上記透明層の透明度(T)の値が30%を超えると、多孔質層の透明層への変換が不十分であり、好ましくない。この透明化の評価において、積層体(基材+透明層)の全光線透過率(%)は、導電体層等の機能性層の形成されていない部分にて測定する必要がある。機能性層は一般に光線の透過を妨げる。全光線透過率は、JIS K7136に準拠して、日本電色工業(株)製、NDH−5000Wヘイズメーターを用いて測定することができる。
【0124】
得られる透明層の厚みは、多孔質層の厚みと空孔率に基づいて算出される。
透明層の厚み=多孔質層の厚みx(100−空孔率)/100
【0125】
本発明において、多孔質層の厚みが0.1〜100μmであり、空孔率が30〜85%であるので、透明層の厚みは、0.015μm〜70μmの範囲をとり得る。前述した多孔質層の厚みの好ましい範囲、及び空孔率の好ましい範囲を参照して、所望の透明層の厚みを適宜決定するとよい。
【0126】
多孔質層に由来する透明化樹脂層は、例えば配線基板に用いた場合に配線の検査を容易にすることができ、また配線基板をデバイスに組み付ける際には部品の位置関係を認識しやすいなどの取扱性に優れる点で有利である。さらに、多孔質層積層体の基材を、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等の無色透明の基材で構成した場合には、多孔質層を透明化した後には、配線部以外の領域の透明度が非常に高い。このような機能性積層体によれば、ディスプレイ画面自体に配線や回路を形成できるため、回路基板を省略してディスプレイ自体の薄型化が可能となり、また、構造の簡略化によりコストダウンを図ることが可能となる。
【0127】
ディスプレイ用途などで高い透明性を要求される場合は、多孔質層の材料としては、加熱処理により無色で透明度の高い樹脂層に変換できるものを選択することが好ましく、多孔質層の厚みもできるだけ薄くすることが好ましい。さらに基材についても、PETやPEN等のような透明度の高いものを選択することが好ましい。
【0128】
多孔質層積層体の基材は、多孔質層の透明化のための加熱処理温度において変形しない耐熱性を有するものが好ましい。基材が変形を起こすと、配線基板としての寸法安定性を低下させてしまう。基材によって使用可能な温度は違っており一概には言えないが、PET、PEN、ポリイミド、ガラス板は比較的使用温度が高いために好ましいものである。
【0129】
多孔質層積層体の基材として、透明性、耐熱性、柔軟性、取り扱いやすさ、価格の点から、PETが特に適している。価格は少し高価になるが、PENも適している。価格はさらに少し高価になるが、ポリイミドも適している。また、柔軟性には乏しいが、透明性、優れた耐熱性、取り扱いやすさ、価格の点からはガラス板も適している。
【0130】
多孔質層の透明化のための加熱処理の上限温度は基材により異なり、一概には言えない。例えば、基材としてPETを使用する場合、加熱温度は200℃以下が良く、好ましくは190℃以下、特に好ましくは180℃以下である。PEN又はPPS(ポリフェニレンサルファイド)を使用する場合、加熱温度は300℃以下が良く、好ましくは260℃以下、特に好ましくは200℃以下である。ポリイミドを使用する場合、加熱温度は400℃以下が良く、好ましくは300℃以下、特に好ましくは260℃以下である。ガラス板を使用する場合、加熱温度は800℃以下が良く、好ましくは300℃以下、特に好ましくは260℃以下である。加熱処理時間も多孔質層を構成する成分によって一概には言えないが、1分〜3時間が良く、好ましくは3分〜1時間程度である。加熱は一段階で行ってもよく、二段階で行ってもよい。例えば、銀インクのような低温で焼成できる機能性材料を用いた場合、該インクを印刷し、インクの焼成を行い、その後に、昇温して透明化処理を行ってもよいし、インクの焼成と透明化処理の両方に適用できる温度に設定して一段階で行ってもよい。
【0131】
本発明においては、多孔質層を構成する組成物は、20℃以上のガラス転移温度を有さなければならない。ガラス転移温度が20℃より低ければ室温下でも多孔構造が変化する恐れがあり好ましくない。
【0132】
多孔質層が高分子成分のみから構成されている場合、高分子のガラス転移温度が多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度となる。多孔質層が高分子と架橋剤とから構成されている場合、これら2成分系のガラス転移温度が多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度となる。この場合、架橋剤が高分子に対する可塑剤のような働きをして、ガラス転移温度を低下させる場合がある。架橋剤の種類、量をコントロールすることでガラス転移温度を適当な温度にコントロールすることが可能になる場合がある。また、多孔質層が可塑剤を含んでいると、ガラス転移温度は低下する。ガラス転移温度が高すぎる場合は、多孔質層を透明化させるために高温にする必要が生じ、基材によっては変形等を生じてしまう恐れがある。好ましいガラス転移温度を有する多孔質層を形成することが非常に重要である。
【0133】
導電性材料等からなるパターン配線は、多孔質層の片面のみに形成されてもよく、多孔質層が基材の両面に存在する場合にはその両面に形成されてもよい。両面に配線を形成する場合は、必要に応じて、両面の配線をつなぐビアを形成することもできる。ビアホールはドリルで形成してもよいし、レーザーで形成してもよい。ビアホール内の導電体は、導電ペーストで形成してもよいし、メッキで形成してもよい。
【0134】
また、導電性のインクで形成した配線表面をメッキ又は絶縁体で被覆して使用することができる。特に、銀配線は、銅配線と比較したときに、エレクトロマイグレーションやイオンマイグレーションを起こしやすいとの指摘がある(日経エレクトロニクス2002.6.17号75頁)。そのため、配線の信頼性を向上する目的で、銀インクで形成した配線表面をメッキで被覆することが有効である。メッキとしては、銅メッキ、金メッキ、ニッケルメッキ等が挙げられる。メッキは公知の方法で行うことができる。
【0135】
本発明の機能性積層体は、配線の表面に、金属メッキ層及び/又は磁性メッキ層が積層されていることもある。このような機能性積層体を、本明細書において複合材料と称することがある。
【0136】
金属メッキ層は、例えば、配線表面に薄い金属被覆として形成されていてもよい。金属メッキ層を構成する金属としては、例えば、銅、ニッケル、銀、金、すず、ビスマス、亜鉛、アルミニウム、鉛、クロム、鉄、インジウム、コバルト、ロジウム、白金、パラジウムやこれらの合金等を挙げることができる。さらにニッケル−りん、ニッケル−銅−りん、ニッケル−鉄−りん、ニッケル−タングステン−りん、ニッケル−モリブデン−りん、ニッケル−クロム−りん、ニッケル−ホウ素−りん等多種多様の金属以外の元素を含む合金皮膜も挙げることができる。金属メッキ層は、上記の金属を単独で又は複数を組み合わせて用いてもよく、単層であってもよく、複数の層を積層してもよい。
【0137】
磁性メッキ層を構成する材料としては、磁性を有する化合物であれば特に限定されず、強磁性体及び常磁性体の何れであってもよく、例えばニッケル−コバルト、コバルト−鉄−りん、コバルト−タングステン−りん、コバルト−ニッケル−マンガン等の合金;メトキシアセトニトリル重合体等のラジカルを発生し得る部位を有する化合物、デカメチルフェロセンの電荷移動錯体等の金属錯体系化合物、グラファイト化途上炭素材料であるポリアクリロニトリルなどの化合物からなる有機磁性体等が例示できる。
【0138】
このような複合材料は、上記本発明の配線表面に、金属や有機化合物を用いて層を形成する方法として公知の方法を利用して製造することができる。
【0139】
金属メッキ層の形成には、例えば無電解メッキ及び電解メッキ等の公知の方法を利用できる。本発明の積層体においては、多孔質層由来の透明層が高分子成分を主成分として構成されている点で、後述する無電解メッキが好ましく用いられ、無電解メッキと電解メッキを組み合わせて用いることもできる。
【0140】
金属メッキ層の形成に用いるメッキ液は、各種の組成のものが知られており、メーカーが販売しているものを入手することもできる。メッキ液の組成は特に制限されず、各種の要望(美観、硬さ、耐磨耗性、耐変色性、耐食性、電気伝導性、熱伝導性、耐熱性、摺動性、撥水性、ぬれ性、半田ぬれ性、シール性、電磁波シールド特性、反射特性等)に合ったものを選択すればよい。
【0141】
本発明では、反応基を金属と結合する方法として無電解メッキによる方法が好ましく用いられる。無電解メッキは、一般的にプラスチック等で形成された樹脂層に金属を積層する方法として有用であることが知られている。積層体の配線表面は、金属との密着性を向上する目的で、予め脱脂、洗浄、中和、触媒処理等の処理が施されてもよい。前記触媒処理としては、例えば被処理面に金属の析出を促進しうる触媒金属を付着させる触媒金属核形成法等を利用できる。触媒金属核形成法は、触媒金属(塩)を含むコロイド溶液に接触させた後、酸若しくはアルカリ溶液又は還元剤に接触させて化学メッキを促進させる方法(キャタライザー(触媒)−アクセレータ(促進剤)法);還元剤を含む酸又はアルカリ溶液に接触させた後、触媒金属の酸又はアルカリ溶液に接触させてアクチベーティング(賦活化)液を接触させて触媒金属を析出させる方法(センシタイジング(感作)−アクチベーティング(賦活化)法)等が挙げられる。
【0142】
キャタライザー−アクセレータ法における触媒金属(塩)含有溶液としては、例えばすず−パラジウム混合溶液、硫酸銅等の金属(塩)含有溶液などを用いることができる。キャタライザー−アクセレータ法は、例えば積層体を硫酸銅水溶液中に浸漬した後、必要に応じて過剰な硫酸銅を洗浄除去し、次いで水素化ホウ素ナトリウムの水溶液に浸漬することにより、積層体の配線表面に銅微粒子からなる触媒核を形成できる。センシタイジング−アクチベーティング法は、例えば、塩化すずの塩酸溶液に接触させた後、塩化パラジウムの塩酸溶液に接触させることによりパラジウムからなる触媒核を析出させることができる。これらの処理液に積層体を接触させる方法としては、金属メッキ層を積層させる積層体表面に塗布する方法、積層体を処理液に浸漬する方法等を用いることができる。
【0143】
無電解メッキに用いられる主な金属としては、例えば、銅、ニッケル、銀、金、ニッケル−りん等を挙げることができる。無電解メッキに用いるメッキ液には、例えば、上記金属又はその塩が含まれている他、ホルムアルデヒド、ヒドラジン、次亜リン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸、グリオキシル酸等の還元剤、酢酸ナトリウム、EDTA、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グリシン等の錯化剤や析出制御剤等が含まれており、これらの多くは市販されており簡単に入手することができる。無電解メッキは、上記のメッキ液に上記処理を施した積層体を浸漬することにより行われる。なお、積層体の片面に保護シートを貼った状態で無電解メッキを施すことにより、他の面にのみ無電解メッキが施されるため、例えば基材等への金属の析出を防止することができる。
【0144】
金属メッキ層の厚みは、特に限定されず用途に応じて適宜選択でき、例えば0.01〜20μm程度、好ましくは0.1〜10μm程度である。金属メッキ層の厚みを効率よく厚くするため、例えば無電解メッキと電解メッキとを組み合わせて金属メッキ層を形成する方法が行われる場合がある。より効率のよい電解メッキを施すことによりにより短時間で厚い金属メッキ層を得ることが可能となる。
【0145】
上記方法は、特に回路基板、放熱材又は電磁波制御材に用いられる複合材料を得る方法として好適である。
【0146】
さらに、導電性のインクで形成した配線表面を樹脂で被覆して使用することもできる。上記構成は、配線の保護、配線の絶縁、配線の酸化やマイグレーションの防止、屈曲性向上などの目的に好適に利用できる。例えば、銀配線は酸化により酸化銀に、銅配線は酸化銅となって導電性が低下していくおそれがあるが、配線表面を前記樹脂で被覆することにより、配線が酸素や水分と接触するのを回避でき、導電性の低下を抑制することができる。配線表面を選択的に樹脂被覆する方法としては、例えば、被覆する樹脂として後述する硬化性樹脂や可溶性樹脂を用いた、スポイト、ディスペンサ、スクリーン印刷、インクジェット等の方法が挙げられる。
【0147】
配線を被覆する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、無溶剤で用いられる硬化性樹脂や、溶剤に溶解して利用される可溶性樹脂等が挙げられる。可溶性樹脂を使用する場合には、溶剤が揮発したときの体積減少分を考慮して被覆する必要がある。
【0148】
硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、アクリル系樹脂、ビニルエーテル樹脂等を挙げることができる。
【0149】
エポキシ樹脂には、ビスフェノールA型やビスフェノールF型等のビスフェノール系、フェノールノボラック型やクレゾールノボラック型等のノボラック系等のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂及びこれらの変性樹脂等の多様な樹脂が含まれる。エポキシ樹脂の市販品としては、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社の「アラルダイト」、ナガセケムテックス社の「デナコール」、ダイセル化学工業社の「セロキサイド」、東都化成社の「エポトート」等を利用できる。エポキシ樹脂硬化物は、例えば、エポキシ樹脂に硬化剤を混合して得た硬化性樹脂組成物により硬化反応を開始させ、加熱により反応を促進させる方法により得ることができる。前記エポキシ樹脂の硬化剤には、例えば有機ポリアミン、有機酸、有機酸無水物、フェノール類、ポリアミド樹脂、イソシアネート、ジシアンジアミド等を利用できる。
【0150】
エポキシ樹脂硬化物は、また、エポキシ樹脂に潜在性硬化剤と言われる硬化触媒を混合して得た硬化性樹脂組成物に、加熱又は紫外線などの光照射によって硬化反応を開始させる方法により得ることもできる。前記潜在性硬化剤としては、三新化学工業社の「サンエイドSI」等の市販品を利用できる。
【0151】
エポキシ樹脂硬化物として、可撓性の高いものを用いれば、フレキシブル基板のような柔軟性のあるものとすることができる。また、耐熱性や高い寸法安定性が要求される場合は、硬化性樹脂組成物として硬化後に硬度が高くなる組成物を用いることで、リジッド基板(硬質基板)として用いることも可能である。
【0152】
エポキシ樹脂を被覆に使用する時、硬化性樹脂組成物は低粘度であると取り扱いやすい。このような特徴を持つものとして、ビスフェノールF系の組成、脂肪族ポリグリシジルエーテル系の組成を挙げることができる。
【0153】
オキセタン樹脂としては、東亞合成社の「アロンオキセタン」等をあげることができる。オキセタン樹脂硬化物は、オキセタン樹脂に、例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のカチオン系光重合開始剤「IRGACURE 250」等を混合し、紫外線照射することで硬化反応を開始させる方法により得ることができる。
【0154】
可溶性樹脂としては、三菱ガス化学社製の低誘電性樹脂「オリゴ・フェニレン・エーテル」、東洋紡績社製のポリアミドイミド樹脂「バイロマックス」、宇部興産社製のポリイミドインク「ユピコート」、東都化学工業製のポリイミドインク「エバーレック」、エヌアイマテリアル社製のポリイミドインク「ULIN COAT」、ピーアイ技術研究所製のポリイミドインク「Q−PILON」、日本合成化学社製の飽和ポリエステル樹脂「ニチゴーポリエスター」、アクリル溶剤型粘着剤「コーポニール」、紫外線・電子線硬化型樹脂「紫光」等の市販品を用いることができる。
【0155】
充填時に用いられる可溶性樹脂を溶解する溶剤としては、公知の有機溶剤から樹脂の種類に応じて適宜選択して用いることができる。可溶性樹脂を溶剤に溶解した樹脂溶液(可溶性樹脂溶液)の代表的な例としては、例えば、「オリゴ・フェニレン・エーテル」をメチルエチルケトンやトルエンなどの汎用溶剤に溶解した樹脂溶液;「バイロマックス」をエタノール/トルエン混合溶媒に溶解した樹脂溶液(商品名「HR15ET」);「ユピコート」をトリグライムに溶解した樹脂溶液等を用いることができる。
【0156】
配線を樹脂で被覆する方法としては、特に限定されないが、スポイト、さじ、ディスペンサ、スクリーン印刷、インクジェット等の手段を用いて、上記の硬化性樹脂組成物や可溶性樹脂溶液を多孔質層由来の透明層表面へ展開(塗布)し、必要に応じてヘラ等で余分な樹脂を除去する方法等を用いることができる。前記ヘラとして、例えば、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のフッ素系樹脂、シリコーンゴム等のゴム、ポリフェニレンサルファイド等の樹脂製;ステンレス等の金属製のものを使用できる。なかでも、配線や透明層を傷つけにくい点で樹脂製のヘラが好ましく用いられる。また、ヘラ等を使用することなく、スポイト、ディスペンサ、スクリーン印刷、インクジェット等の吐出量をコントロール可能な手段を用いて、適量を透明層表面に滴下する方法も可能である。
【0157】
多孔質層由来の透明層の表面に樹脂をスムーズに展開するため、未硬化の樹脂として粘度の低いものが好ましく用いられる。また、粘度が高い樹脂は、適温で加熱するなどの手段を用いて粘度を下げて用いることにより取り扱い性を上げることが可能である。但し、硬化性樹脂を用いる場合には、加熱により硬化反応速度を上昇させてしまうため、必要以上の加熱は作業性を悪化させるため好ましくない。
【0158】
上記樹脂成分を多孔質層由来の透明層表面へ展開した後、樹脂の硬化を促進したり、溶剤を揮発する目的で加熱処理が施されることが好ましい。加熱方法は、特に限定されないが、急激な加熱は、樹脂や硬化剤が揮発したり、溶剤が激しく揮発することによりムラができるおそれがあるため、穏やかに昇温する方法が好ましい。昇温は、連続的、逐次的のいずれであってもよい。硬化や乾燥における温度及び時間は、樹脂や溶剤の種類に応じて適宜調整することが好ましい。
【0159】
以下、具体的な用途を説明する。
電磁波制御材は、電磁波を遮断(シールド)又は吸収する材料として、周囲の電磁環境に及ぼす影響や、機器自体が周囲の電磁環境から受ける影響を軽減又は抑制するために利用されている。デジタル電子機器の普及、パソコンや携帯電話など、われわれの身近には、電気・電子機器や無線機器、システムなど、多くの電磁波発生源が存在し、それらは様々な電磁波を放射している。これらの機器から放射される電磁波は、周囲の電磁環境に影響を及ぼす可能性があり、また、機器自体も周囲の電磁環境から影響を受ける。これらの対策として電磁波シールド材料、電磁波吸収体材料等の電磁波制御材が年々重要となってきている。本発明の複合材料は、電磁波を遮断して電磁波シールド性を付与でき、電磁波制御材として極めて有用である。
【0160】
電磁波制御材を構成する印刷パターン形成部は、導電性を付与することができるものが好ましく、例えば、ニッケル、銅、銀等で形成されることが効果的である。また、複合材料が、無電解メッキで印刷パターン表面に磁性メッキ層が形成された層構成を有する場合には電磁波吸収体材料として有用である。無電解メッキにより磁性メッキ層を形成する際に用いる材料としては、例えば、ニッケル、ニッケル−コバルト、コバルト−鉄−りん、コバルト−タングステン−りん、コバルト−ニッケル−マンガン等の合金等の磁性材料が挙げられる。本発明の複合材料は、非常に薄く柔軟性の高いものが得られ、折り曲げ耐性(耐折性)を改善することができる。このような複合材料は、電子機器の任意の場所に設置したり、貼り付けたりして使用することができる。
【0161】
そして、電子機器であるPDP等のディスプレイからも電磁波が発生し、周辺機器への悪影響(ノイズ)を生じさせる。このような電磁波を防止(シールド)するため、PDP前面に配置されるフィルターには、電磁波遮蔽機能を付与することが必要とされており、このようなフィルターとして、格子状の配線が設けられたフィルムが用いられている。
【0162】
上記用途の電磁波シールドフィルムは、一般に、高い透明性を有するフィルム(高透明フィルム)に金属層が積層された構成を有している。このようなフィルムは、例えば高透明フィルムに金属層をスパッタリングで設ける方法;高透明フィルムに銅箔等を貼り付けた後にエッチングを行って金属メッシュを設ける方法等により形成できる。このような電磁波シールドフィルムの一例としては、線幅20〜30μmでピッチ(繰り返し間隔)約300μmの格子状パターンのものを挙げることができる。
【0163】
本発明によれば、多孔質層積層体に格子状の配線を形成した後に加熱処理することにより、上記構成の電磁波シールドフィルムを提供することができる。この際、スクリーン印刷などの印刷法を用いて配線を付与し、前記シールドフィルムを簡単に作成することにより、コストダウンを図ることが可能になる。
【0164】
さらに、透明な導電体であるITO(酸化インジウムスズ)インクを用いて印刷することでさらに配線部の透明度を上げることも可能となる。シーアイ化成社製のITOインクやアルバックマテリアル社製のITOインク「ナノメタルインク」等を使用することができる。他の透明な導電体として酸化亜鉛インクを用いて配線を形成する方法を挙げることもできる。
【0165】
また、近年、コンピュータシステムの発展や、事業所PHS及びオフィス内無線LANの通信手段としての普及を背景として、情報機器の使用環境だけではなく、ビル全体又はビルの中枢機能部をシールドした電磁波遮蔽ビル(インテリジェントビル)のニーズがますます高まっている。電磁波遮蔽ビルにおいては、コンピュータの誤作動や情報漏れを防止したり、種々のノイズトラブルを防止し良好な通信環境が維持される。
【0166】
電磁波遮蔽ビルは、1)電磁波を遮蔽する電磁波シールド技術を利用する、又は、2)電磁波を吸収する電磁波吸収技術を利用する、ことで実現される。
【0167】
上記1)電磁波シールド技術の代表的な材料は金属である。ビルの壁、天井、床などを金属で覆い導電性を持たせることにより、電磁波をシールドすることができる。
【0168】
上記2)電磁波吸収技術の代表的な材料はフェライトである。電波障害(ゴースト)防止のためビル外壁にフェライトを用いることにより、電磁波を吸収することができる。
【0169】
インテリジェントビルにおいては、開口部である窓、扉、換気口などからの電磁波の侵入を防ぎ、且つ、ビル内部の電波をビル外部に漏らさないようにする必要がある。しかしながら、窓をシールドするには、窓の透光性機能を維持するために、上記1)や2)の方法を単純に適用することはできない。窓として十分な透光性、視界を確保し、目障りとならないように窓をシールドする必要がある。
【0170】
本発明によれば、透明なフィルム上に微細な導電体のパターンを有する積層体を製造することができ、この透明フィルム積層体を窓ガラスに貼ることによってシールドガラスが得られる。また、透明なガラス上に微細な導電体のパターンを有する積層体を製造することもでき、この透明ガラス積層体をシールドガラスとして用いることができる。
【0171】
回路基板は、一般にガラス・エポキシ樹脂やポリイミド等を素材とする基板表面に銅箔を貼り合わせ、エッチングにより銅箔の不要な部分を除去することにより配線を形成する方法により製造されていた。しかし、このような従来法では、高密度化する回路基板に対応しうる微細な配線の形成が困難になりつつあった。配線の微細化を進めるためには、非常に薄い銅箔をガラス・エポキシ樹脂やポリイミド等を素材とする基板に強く密着させる必要があるが、薄い銅箔は取扱性にきわめて劣り、基板への積層工程が非常に困難であった。また、薄い銅箔の製造はそれ自体が困難で、高価であり、しかも、配線はいわゆる長く複雑なフォトリソ工程を経て作られるため、どうしてもコスト高になるという問題があった。
【0172】
このような背景において、本発明の複合材料によれば、配線形成は基本的に印刷と熱処理だけであるので、非常にシンプルな工程であり、低コストで製造できるという点で好ましい。
【0173】
本発明の多孔質層積層体は、多孔質層が優れた印刷特性を持つために精細な導電体のパターンを形成できるために回路基板として極めて有用である。さらに、加熱により透明化処理を行うことにより、さらに付加価値を提供することができる。このような回路基板を製造する方法としては、上記の電磁波シールド材等の複合材料の製造方法として記載されている方法を利用できる。この方法によれば、本発明の多孔質層積層体を用いるため、印刷技術を用いて精度よく簡単に配線を形成することができる。片面に多孔質層を有するフィルムでは片面配線を形成できるし、両面に多孔質層を有するフィルムでは両面配線を形成できる。両面をつなぐビア配線が必要な場合は従来から用いられているドリル又はレーザーにより穴を開け、導電ペーストの充填やメッキにより形成することができる。
【0174】
本発明の多孔質層積層体に導電体の印刷を施し、加熱処理により多孔質層を透明化したものは、光透過性基材の上に微細線が形成されているため、回路基板は反対側が完全に透けて見えるものとすることができる。
【0175】
最近では、優れたユーザーインターフェイスを提供できるとして、多くの電子機器にタッチパネルが搭載されてきている。電子機器の例として、携帯電話、シリコンオーディオ機器、携帯ゲーム機、携帯情報端末、カーナビゲーション等を挙げることができる。
【0176】
タッチパネルには多くの方式があるが、その中に静電(容量)方式がある。株式会社毎日コミュニケーションズ発行の「iPhone Fan Book 38〜39頁」に記載されているように米Apple社製の携帯電話iPhoneには静電方式のタッチパネルが採用されている。透明な基板に配線が形成されたX電極層とY電極層が使われており、このような部分に本発明のパターン形成物を適用することが可能となる。銀等の導電体でも配線幅を細くすることで使用できると思われるが、透明な導電体であるITOや酸化亜鉛のインクを用いて配線を形成すればさらに透明度を上げることも可能となる。
【0177】
また、近年、資源の枯渇や原油高騰の影響によるエネルギー問題と石炭や原油等の化石エネルギーの消費から発生する二酸化炭素による地球温暖化問題が懸念されている中、再生可能なクリーンエネルギー源として太陽電池が注目されている。太陽電池として、単結晶シリコン系、多結晶シリコン系、薄膜アモルファス系、色素増感系等が挙げられる。
構造も違っており一概には言えないが、太陽電池のセルは太陽光を充分に取り入れるために開口部は大きくなければならないが、光によりセル内で生成した電子を効率よく外部に取り出すためには電極や集電配線は充分に微細でなければならない。このように基材の透明性と微細な配線が必要とされるこのような用途で適用することが可能である。
【0178】
配線基板は、通常、電気を流すためにハンダやコネクタ等で他の部品や基板と接合される。よってその接点部分は、マスキングをした状態で樹脂充填したり、接点部分を避けて樹脂で被覆したりしなければならない。このような樹脂としては、配線を被覆する樹脂として上記例示の硬化性樹脂や可溶性樹脂を用いることができる。
【0179】
また、配線基板は配線だけで形成されるだけではなく、TABやCOF等のように半導体チップ、コンデンサ、抵抗などをハンダやワイヤー・ボンディング等で配線基板上に接合することができる。さらに、配線形成や部品実装は多孔質層積層体の片面だけではなく両面にすることもできるし、基板を複数積層して多層化することも可能である。
【0180】
本発明の複合材料は、また、多孔質層由来の透明層上にカバー層が積層されていてもよい。例えば、フレキシブル基板の場合は、一般的に配線は、配線の保護、配線の絶縁、配線の酸化防止、屈曲性向上の目的で、ポリイミドフィルムやPETフィルム等の樹脂フィルムからなるカバー層で覆われることが多い。このようなカバー層用フィルムとしては、ニッカン工業社製の「ニカフレックス」や、有沢製作所製の製品を挙げることができる。
【0181】
カバー層を積層する方法としては、例えば、多孔質層由来の透明層上に、ポリイミドフィルムやPETフィルム等の片面に接着剤が塗布されたカバー層用フィルムを加熱圧着する方法等が挙げられる。カバー層用フィルムの接着剤としては、公知のものを用いることができ、取り扱いやすいように、半硬化(Bステージ)の状態である場合が多い。
【0182】
多孔質層由来の透明層上の配線の樹脂被覆だけで十分に配線の保護、配線の絶縁、配線の酸化防止、屈曲性確保ができる場合は、必ずしもカバー層は必要というわけではなく、省略することも可能である。
【0183】
本発明の多孔質層積層体を用いて作成した導電体のパターンはアンテナに利用することもできる。
【0184】
最近では、多くの無線機器が使われており、信号の送受信にはアンテナが必要となる。携帯電話、無線LAN、ICカードなどの普及は著しい。例えば、ICカード等にはループ状のRFIDアンテナが使われており、現状これらは、サブトラクティブ法(エッチング法)により作られている。
【0185】
従来から使用されているPET基板等を本発明の多孔質層積層体に置き換えることで、より簡単にアンテナを製造することができる。製造法は回路基板の製造法と同様な方法を用いることができる。従来から行われているサブトラクティブ法は工程が長く、手間とコストがかかる方法である。インク受像シートのところで述べたのと同様に、導電体を含むインクで印刷してアンテナを形成する方法を適用すると、より簡単に低コストで製造することができる。
【実施例】
【0186】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。テープ剥離試験、平均孔径、空孔率、ガラス転移温度、熱分解温度、全光線透過率は以下の方法で測定した。
【0187】
1.テープ剥離試験
(i) 積層体の多孔質層表面に24mm幅の寺岡製作所社製マスキングテープ[フィルムマスキングテープNo.603(#25)]をテープ一端から50mmの長さ分貼り付け、貼り付けられた前記テープを、直径30mm、200gf荷重のローラー(Holbein Art Materials Inc.社製、耐油性硬質ゴムローラーNo.10)で圧着する。
(ii) 万能引張試験機[(株)オリエンテック社製、商品名「TENSILON RTA−500」]を用いてテープ他端を剥離速度50mm/分で引っ張り、T型剥離を行う。
(iii) 多孔質層と基材との界面剥離の有無を観察する。
【0188】
多孔質層の平均孔径及び空孔率は以下の方法で算出した。これらの平均孔径及び空孔率は、電子顕微鏡写真に見えている微小孔のみを対象として求められている。
【0189】
2.平均孔径
電子顕微鏡写真から、積層体の表面又は断面の任意の30点以上の孔についてその面積を測定し、その平均値を平均孔面積Saveとした。孔が真円であると仮定し、下記式を用いて平均孔面積から孔径に換算した値を平均孔径とした。ここでπは円周率を表す。
表面又は内部の平均孔径[μm]=2×(Save/π)1/2
【0190】
3.空孔率
多孔質層内部の空孔率は下記式より算出した。Vは多孔質層の体積[cm3 ]、Wは多孔質層の重量[g]、ρは多孔質層組成物の密度[g/cm3 ](ここで、多孔質層組成物の密度は、該組成物を構成している各成分の密度を重量組成比で分配して算出される)を示す。多孔質層の体積V、多孔質層の重量Wは、それぞれ、基材上に多孔質層が積層された積層体の体積、又は重量から、基材の体積、又は重量を差し引いて算出した。
空孔率[%]=100−100×W/(ρ・V)
【0191】
多孔質層組成物における各成分の密度は以下のとおりである。
ポリビニルブチラール2400の密度:1.08[g/cm3
ポリビニルホルマール ビニレックEタイプの密度:1.23[g/cm3
ポリアミドイミド バイロマックスN−100Hの密度:1.45[g/cm3
エポキシ樹脂 jER828の密度:1.17[g/cm3
酢酸セルロース LT−35の密度:1.35[g/cm3
【0192】
4.ガラス転移温度
ガラス転移温度の測定は、メトラー社製示差走査熱量計DSC600Eを用いて行った。多孔質層積層体をシリカゲル入りデシケーター内に24時間保管し乾燥させ、乾燥させた多孔質層の一部をスパチュラで掻き取り、これを測定用サンプルとした。測定は、基本的にJIS K 7121に従い実施した。1回目昇温時のデータから得られた中間点ガラス転移温度(Tmg)を本発明のガラス転移温度とした。
具体的な測定条件は、昇温速度20℃/min、窒素雰囲気下、容器:標準アルミとした。
【0193】
5.熱分解温度
上記ガラス転移温度の測定におけるのと同様にして測定用サンプルを準備した。JIS K 7120に従い、セイコー電子工業(株)製TG/DTA 6300「高温型示差熱熱重量同時測定装置」を用いて、窒素気流下、昇温速度20℃/minにて、25℃から550℃まで加熱し、この間の重量変化を測定する熱重量分析(TG)を行ない、これによりサンプルの熱分温度を求めた。
【0194】
6.全光線透過率
全光線透過率(%)は、JIS K7136に準拠して、日本電色工業(株)製、NDH−5000Wヘイズメーターを用いて測定した。
【0195】
まず、用いる基材自体の全光線透過率(Ts)を測定した。
そして、加熱処理されていない多孔質層積層体(基材+多孔質層)の全光線透過率(Tsp)を測定した。
最後に、加熱処理により透明化された積層体(基材+透明層)の配線の存在しない部分の全光線透過率(Tst)を測定した。
【0196】
透明層の透明度(T)=|基材自体の全光線透過率(Ts)−積層体(基材+透明層)の全光線透過率(Tst)|
【0197】
多孔質層の不透明度(P)=|基材自体の全光線透過率(Ts)−多孔質層積層体(基材+多孔質層)の全光線透過率(Tsp)|
【0198】
[実施例1:多孔質層積層体]
ポリビニルブチラール系樹脂溶液(和光純薬工業製、「ポリビニルブチラール2400」(平均重合度:約2300〜2500);固形分濃度15重量%、溶剤NMP)を調製し製膜用の原液とした。ガラス板上に、基材である帝人デュポン社製PETフィルム(Sタイプ、厚み100μm)をテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ76μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させ、次いで基材から剥離させることなく室温下で自然乾燥することによって基材上に白色の多孔質層が積層された積層体Aを得た。多孔質層の厚みは約19μmであり、積層体の総厚みは約119μmであった。多孔質層部分のガラス転移温度を測定したところ、79.9℃であった。
【0199】
得られた積層体Aについて前記テープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体Aを電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がPETフィルムに密着しており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径約3μmの微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は72%であった。図1に多孔質層表面の電子顕微鏡写真(x1000倍)を示し、図2に積層体の断面の電子顕微鏡写真(x1000倍)を示す。
【0200】
[実施例2:多孔質層積層体]
ポリビニルブチラール系樹脂溶液(和光純薬工業製、「ポリビニルブチラール2400」(平均重合度約2300〜2500);固形分濃度15重量%、溶剤NMP)100重量部に、水溶性ポリマーとして和光純薬工業製ポリエチレングリコール400(平均分子量360〜440)10重量部を加えて製膜用の原液とした。ガラス板上に、基材である帝人デュポン社製PETフィルム(Sタイプ、厚み100μm)をテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ102μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させ、次いで基材から剥離させることなく室温下で自然乾燥することによって基材上に白色の多孔質層が積層された積層体Bを得た。多孔質層の厚みは約20μmであり、積層体の総厚みは約120μmであった。多孔質層部分のガラス転移温度を測定したところ、76.9℃であった。
【0201】
得られた積層体Bについて前記テープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体Bを電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がPETフィルムに密着しており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径約2μmの微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は70%であった。
【0202】
[実施例3:多孔質層積層体]
実施例2において、基材として、帝人デュポン社製PETフィルム(Sタイプ、厚み100μm)の代わりに、東レ製PETフィルム(商品名「ルミラーT60」、厚み100μm)を用いたこと以外は実施例2と同様の操作を行い、基材上に白色の多孔質層が積層された積層体Cを得た。得られた多孔質層の厚みは約15μmであり、積層体の総厚みは約115μmであった。
【0203】
得られた積層体Cについて前記テープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体Cを電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がPETフィルムに密着しており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径約2μmの微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は71%であった。
【0204】
[実施例4:多孔質層積層体]
実施例2において、基材として、帝人デュポン社製PETフィルム(Sタイプ、厚み100μm)の代わりに、並質ガラス板(厚み3mm)を用いたこと以外は実施例2と同様の操作を行い、基材上に白色の多孔質層が積層された積層体Dを得た。得られた多孔質層の厚みは約19μmであり、積層体の総厚みは約3019μmであった。
【0205】
得られた積層体Dについて前記テープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体Dを電子顕微鏡で観察したところ、全域に亘って平均孔径約2μmの微小孔が存在していた。
【0206】
[実施例5:多孔質層積層体]
ポリビニルブチラール系樹脂溶液(和光純薬工業製、「ポリビニルブチラール2400」(平均重合度約2300〜2500);固形分濃度15重量%、溶剤NMP)100重量部に、架橋剤としてエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製jER828)5重量部を加えて製膜用の原液とした。ガラス板上に、基材である帝人デュポン社製PETフィルム(Sタイプ、厚み100μm)をテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ102μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させ、次いで基材から剥離させることなく室温下で自然乾燥することによって基材上に白色の多孔質層が積層された積層体Eを得た。多孔質層の厚みは約36μmであり、積層体の総厚みは約136μmであった。多孔質層部分のガラス転移温度を測定したところ、49.7℃であった。
【0207】
得られた積層体Eについて前記テープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体Eを電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がPETフィルムに密着しており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径約3μmの微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は68%であった。
【0208】
[実施例6:多孔質層積層体]
実施例5において、基材として、帝人デュポン社製PETフィルム(Sタイプ、厚み100μm)の代わりに、東レ製PETフィルム(商品名「ルミラーT60」、厚み100μm)を用いたこと以外は実施例5と同様の操作を行い、基材上に白色の多孔質層が積層された積層体Fを得た。得られた多孔質層の厚みは約25μmであり、積層体の総厚みは約125μmであった。
【0209】
得られた積層体Fについて前記テープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体Fを電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がPETフィルムに密着しており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約3μmの微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は68%であった。
【0210】
[実施例7:導電パターン形成]
実施例1で得た積層体A[基材/多孔質層がPETフィルム(100μm)/ポリビニルブチラール(19μm)]の多孔質層表面に、導電インク[藤倉化成株式会社製銀ペースト、ナノ・ドータイトXA9053]で、印刷スピードは15mm/sec、印圧0.1MPa、クリアランス1.5mmの条件で、格子状パターン(線幅20μm、ピッチ300μm)をスクリーン印刷方式にて印刷を施した。使用したスクリーン印刷機はニューロング精密工業株式会社製LS−150TVAであった。スクリーン版はメッシュ株式会社製のものを使用した。印刷後、180℃で30分間の加熱処理を行い、導電インクを硬化させて配線を形成した。使用したインクは酸化銀が加熱により還元されて銀になるタイプのものであって、印刷直後は黒色であったが、加熱後には金属銀の光沢を示した。ただし、フィルム接触部は黒色のままであった。また、加熱前に白色であった多孔質層は透明化した。このようにして、電磁波シールドフィルムを製造した。得られた電磁波シールドフィルムを電子顕微鏡で観察したところ、線幅20μm、ピッチ300μmの格子状導電パターンが形成されていた。図3に導電パターンの電子顕微鏡写真(x100倍)を示す。
【0211】
帝人デュポン社製PETフィルム(Sタイプ、厚み100μm)の全光線透過率(Ts)は85.8%、
積層体Aの全光線透過率(Tsp)は31.9%、 透明化された積層体の配線の存在しない部分の全光線透過率(Tst)は87.7%であった。
従って、透明層の透明度(T)は1.9%であった。なお、多孔質層の不透明度(P)は53.9%であった。
【0212】
[実施例8:導電パターン形成]
実施例7において、積層体として実施例2で得た積層体B[基材/多孔質層がPETフィルム(100μm)/ポリビニルブチラール(20μm)]を用いたこと以外は実施例7と同様の操作を行い、格子状パターン(線幅20μm、ピッチ300μm)をスクリーン印刷方式にて印刷を施し、180℃で30分間の加熱処理を行い、電磁波シールドフィルムを製造した。得られた電磁波シールドフィルムを電子顕微鏡で観察したところ、線幅20μm、ピッチ300μmの格子状導電パターンが形成されていた。
【0213】
[実施例9:導電パターン形成]
実施例7において、積層体として実施例3で得た積層体C[基材/多孔質層がPETフィルム(100μm)/ポリビニルブチラール(15μm)]を用いたこと以外は実施例7と同様の操作を行い、格子状パターン(線幅20μm、ピッチ300μm)をスクリーン印刷方式にて印刷を施した。印刷後、導電インクの硬化として150℃で30分間の加熱処理を行い、引き続き多孔質層の透明化処理として180℃で30分間の加熱処理を行った。このように加熱処理を2段階で行い、電磁波シールドフィルムを製造した。得られた電磁波シールドフィルムを電子顕微鏡で観察したところ、線幅20μm、ピッチ300μmの格子状パターンが形成されていた。
【0214】
[実施例10:導電パターン形成]
実施例7において、積層体として実施例4で得た積層体D[基材/多孔質層が並質ガラス板(3mm)/ポリビニルブチラール(19μm)]を用いたこと以外は実施例7と同様の操作を行い、格子状パターン(線幅20μm、ピッチ300μm)をスクリーン印刷方式にて印刷を施し、180℃で30分間の加熱処理を行い、電磁波シールドガラス板を製造した。得られた電磁波シールドガラス板を電子顕微鏡で観察したところ、線幅20μm、ピッチ300μmの格子状パターンが形成されていた。
【0215】
[実施例11:導電パターン形成]
実施例7において、積層体として実施例5で得た積層体E[基材/多孔質層がPETフィルム(100μm)/ポリビニルブチラール+jER828(36μm)]を用いたこと以外は実施例7と同様の操作を行い、格子状パターン(線幅20μm、ピッチ300μm)をスクリーン印刷方式にて印刷を施し、180℃で30分間の加熱処理を行い、電磁波シールドフィルムを製造した。得られた電磁波シールドフィルムを電子顕微鏡で観察したところ、線幅20μm、ピッチ300μmの格子状パターンが形成されていた。
【0216】
[実施例12:導電パターン形成]
実施例7において、積層体として実施例6で得た積層体F[基材/多孔質層がPETフィルム(100μm)/ポリビニルブチラール+jER828(25μm)]を用いたこと以外は実施例7と同様の操作を行い、格子状パターン(線幅20μm、ピッチ300μm)をスクリーン印刷方式にて印刷を施し、180℃で30分間の加熱処理を行い、電磁波シールドフィルムを製造した。得られた電磁波シールドフィルムを電子顕微鏡で観察したところ、線幅20μm、ピッチ300μmの格子状パターンが形成されていた。
【0217】
[比較例1:導電パターン形成]
実施例7において、積層体Aの代わりに印刷基材として帝人デュポン社製PETフィルム(Sタイプ、厚み100μm)を用いたこと以外は実施例7と同様の操作を行い、PETフィルム上に直接、格子状パターン(線幅20μm、ピッチ300μm)をスクリーン印刷方式にて印刷を施し、180℃で30分間の加熱処理を行い、電磁波シールドフィルムの作成を試みた。しかし、得られたフィルムは一見して印刷にムラが見られ、さらに電子顕微鏡で観察したところ、線幅は場所によって不均一で、また約50〜150μm程度まで広がってしまっており、電磁波シールドフィルムとしての使用は不可能であった。図4に導電パターンの電子顕微鏡写真(x100倍)を示す。
【0218】
[実施例13:多孔質層積層体]
ポリビニルブチラール系樹脂溶液(電気化学工業製、「デンカブチラール#6000−AS」(平均重合度約2200);固形分濃度15重量%、溶剤NMP)を調製し製膜用の原液とした。ガラス板上に、基材である帝人デュポン社製PETフィルム(Sタイプ、厚み100μm)をテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ102μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させ、次いで基材から剥離させることなく室温下で自然乾燥することによって基材上に白色の多孔質層が積層された積層体Gを得た。多孔質層の厚みは約16μmであり、積層体の総厚みは約116μmであった。多孔質層部分のガラス転移温度を測定したところ、89.8℃であった。
【0219】
得られた積層体Gについて前記テープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体Gを電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がPETフィルムに密着しており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径約2μmの微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は72%であった。
【0220】
[実施例14:導電パターン形成]
実施例7において、積層体として実施例13で得た積層体G[基材/多孔質層がPETフィルム(100μm)/ポリビニルブチラール(16μm)]を用いたこと以外は実施例7と同様の操作を行い、格子状パターン(線幅20μm、ピッチ300μm)をスクリーン印刷方式にて印刷を施し、180℃で30分間の加熱処理を行い、電磁波シールドフィルムを製造した。得られた電磁波シールドフィルムを電子顕微鏡で観察したところ、線幅20μm、ピッチ300μmの格子状導電パターンが形成されていた。
【0221】
[実施例15:多孔質層積層体]
実施例13において、基材として、帝人デュポン社製PETフィルム(Sタイプ、厚み100μm)の代わりに、東レ社製PPS(ポリフェニレンサルファイド)フィルム(商品名「トレリナ3030」、厚み50μm、コロナ処理面を使用)を用いたこと以外は実施例13と同様の操作を行い、基材上に白色の多孔質層が積層された積層体Hを得た。得られた多孔質層の厚みは約17μmであり、積層体の総厚みは約117μmであった。
【0222】
得られた積層体Hについて前記テープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体Hを電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がPPSフィルムに密着しており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径約2μmの微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は71%であった。
【0223】
[実施例16:導電パターン形成]
実施例7において、積層体として実施例15で得た積層体H[基材/多孔質層がPPSフィルム(50μm)/ポリビニルブチラール(17μm)]を用いたこと以外は実施例7と同様の操作を行い、格子状パターン(線幅20μm、ピッチ300μm)をスクリーン印刷方式にて印刷を施し、180℃で30分間の加熱処理を行い、電磁波シールドフィルムを製造した。得られた電磁波シールドフィルムを電子顕微鏡で観察したところ、線幅20μm、ピッチ300μmの格子状導電パターンが形成されていた。
【0224】
[実施例17:多孔質層積層体]
実施例13において、基材として、帝人デュポン社製PETフィルム(Sタイプ、厚み100μm)の代わりに、寺岡製作所製PENフィルム粘着テープ(商品名「635F #25」、PEN厚み25μm、粘着層厚み30μm)の粘着層面に東レ・デュポン社製ポリイミドフィルム カプトン200H(厚み50μm)を貼り合わせたものを用いたこと以外は実施例13と同様の操作を行い、基材のPEN面上に白色の多孔質層が積層された積層体Iを得た。得られた多孔質層の厚みは約20μmであり、積層体の総厚みは約120μmであった。
【0225】
得られた積層体Iについて前記テープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体Iを電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がPENフィルムに密着しており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径約2μmの微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は71%であった。
【0226】
[実施例18:導電パターン形成]
実施例7において、積層体として実施例17で得た積層体I[基材/多孔質層がPENフィルム粘着テープ(25μm)+粘着層(30μm)+ポリイミドフィルム(50μm)/ポリビニルブチラール(20μm)]を用いたこと以外は実施例7と同様の操作を行い、格子状パターン(線幅20μm、ピッチ300μm)をスクリーン印刷方式にて印刷を施し、180℃で30分間の加熱処理を行い、電磁波シールドフィルムを製造した。得られた電磁波シールドフィルムを電子顕微鏡で観察したところ、線幅20μm、ピッチ300μmの格子状導電パターンが形成されていた。
【0227】
[実施例19:多孔質層積層体]
ポリビニルホルマール系樹脂溶液(チッソ製、「ビニレックEタイプ」(分子量95000〜134000);固形分濃度15重量%、溶剤NMP)を調製し製膜用の原液とした。ガラス板上に、基材である帝人デュポン社製PETフィルム(Sタイプ、厚み100μm)をテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ102μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させ、次いで基材から剥離させることなく室温下で自然乾燥することによって基材上に白色の多孔質層が積層された積層体Jを得た。多孔質層の厚みは約16μmであり、積層体の総厚みは約116μmであった。多孔質層部分のガラス転移温度を測定したところ、93.2℃であった。
【0228】
得られた積層体Jについて前記テープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体Jを電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がPETフィルムに密着しており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径約1.5μmの微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は70%であった。
【0229】
[実施例20:導電パターン形成]
実施例7において、積層体として実施例19で得た積層体J[基材/多孔質層がPETフィルム(100μm)/ポリビニルホルマール(16μm)]を用いたこと以外は実施例7と同様の操作を行い、格子状パターン(線幅20μm、ピッチ300μm)をスクリーン印刷方式にて印刷を施し、180℃で30分間の加熱処理を行い、電磁波シールドフィルムを製造した。得られた電磁波シールドフィルムを電子顕微鏡で観察したところ、線幅20μm、ピッチ300μmの格子状導電パターンが形成されていた。
【0230】
[実施例21:多孔質層積層体]
ポリアミドイミド系樹脂溶液(東洋紡績社製の商品名「バイロマックスN−100H」;固形分濃度20重量%、溶剤NMP、溶液粘度350dPa・s/25℃)、溶剤としてのNMP、水溶性ポリマーとしてのアルドリッチ社製ポリビニルピロリドン(分子量1万)、及び架橋剤としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製の商品名「jER 828」)を、ポリアミドイミド系樹脂/NMP/ポリビニルピロリドン/ビスフェノールA型エポキシ樹脂の重量比が15/85/25/10となる割合で混合して製膜用の原液とした。ガラス板上に、基材であるポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製の商品名「カプトン200H」、厚み50μm)をテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ51μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させ、次いで基材から剥離させることなく室温下で自然乾燥することによって基材上に多孔質層が積層された積層体Kを得た。多孔質層の厚みは約23μmであり、積層体の総厚みは約73μmであった。
【0231】
多孔質層部分のガラス転移温度を測定したところ、DSCにおいて、160℃までガラス転移温度に相当する吸熱は観測されなかったが、架橋反応によると思われる202℃にピークを有する大きな発熱が160℃から280℃まで観測され、その他には、280℃から300℃まで吸発熱とも確認されなかった。実施例21の多孔質層組成物は、ポリアミドイミド系樹脂が架橋剤により可塑化され、架橋剤を加えない以下の比較例4で得られる多孔質層組成物のガラス転移温度(287℃)より低いガラス転移温度を有すると推定され、上記DSC結果を考慮すると、160℃〜280℃の範囲内にガラス転移温度を有すると考えられる。DSCでは、架橋反応による発熱で妨害され、ガラス転移温度を直接的に測定することはできなかった。
【0232】
得られた積層体Kについて前記テープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体Kを電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がポリイミドフィルムに密着しており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約0.5μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は76%であった。
【0233】
[実施例22:導電パターン形成]
実施例21で得た積層体K[基材/多孔質層がポリイミドフィルム(50μm)/ポリアミドイミド系樹脂+jER 828(23μm)]の多孔質層表面に、導電インク[藤倉化成株式会社製銀ペースト、ナノ・ドータイトXA9053]で、印刷スピードは15mm/sec、印圧0.1MPa、クリアランス1.5mmの条件で、格子状パターン(線幅20μm、ピッチ300μm)をスクリーン印刷方式にて印刷を施した。使用したスクリーン印刷機はニューロング精密工業株式会社製LS−150TVAであった。スクリーン版はメッシュ株式会社製のものを使用した。印刷後、200℃に設定したホットプレート上で30分間の加熱処理を行い、導電インクを硬化させて配線を形成した。サンプル全体が均質に加熱されるように、サンプルの上から深さ約20mmのアルミ製のバットを被せて加熱した。使用したインクは酸化銀が加熱により還元されて銀になるタイプのものであって、印刷直後は黒色であったが、加熱後には金属銀の光沢を示した。ただし、フィルム接触部は黒色のままであった。また、加熱前に黄白色であった多孔質層は透明化していた。このようにして、電磁波シールドフィルムを製造した。得られた電磁波シールドフィルムを電子顕微鏡で観察したところ、線幅20μm、ピッチ300μmの格子状導電パターンが形成されていた。
【0234】
ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製の商品名「カプトン200H」、厚み50μm)の全光線透過率(Ts)は41.0%、
積層体Kの全光線透過率(Tsp)は8.1%、
透明化された積層体の配線の存在しない部分の全光線透過率(Tst)は38.1%であった。
従って、透明層の透明度(T)は2.9%であった。なお、多孔質層の不透明度(P)は32.9%であった。
【0235】
[比較例2:多孔質層積層体]
ポリアミドイミド系樹脂溶液(東洋紡績社製の商品名「バイロマックスN−100H」;固形分濃度20重量%、溶剤NMP、溶液粘度350dPa・s/25℃)、溶剤としてのNMP、水溶性ポリマーとしてのアルドリッチ社製ポリビニルピロリドン(分子量1万)を、ポリアミドイミド系樹脂/NMP/ポリビニルピロリドンとの重量比が15/85/25となる割合で混合して製膜用の原液とした。ガラス板上に、基材であるポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製の商品名「カプトン200H」、厚み50μm)をテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ51μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させ、次いで基材から剥離させることなく室温下で自然乾燥することによって基材上に多孔質層が積層された積層体を得た。多孔質層の厚みは約22μmであり、積層体の総厚みは約72μmであった。
【0236】
多孔質層部分のガラス転移温度を測定したところ、287℃であった。また、熱重量分析(TG)において、300℃から重量の減少が始まり340℃から急激な減量が認められたことから、多孔質層は300℃以上の加熱で徐々に劣化を始め、340℃以上で完全に分解してしまうことが確認された。
【0237】
得られた積層体について前記テープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がポリイミドフィルムに密着しており、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約0.5μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は72%であった。
【0238】
[比較例3:導電パターン形成]
実施例7において、積層体として比較例2で得た積層体[基材/多孔質層がポリイミドフィルム(50μm)/ポリアミドイミド系樹脂(22μm)]を用いたこと以外は実施例7と同様の操作を行い、格子状パターン(線幅20μm、ピッチ300μm)をスクリーン印刷方式にて印刷を施し、200℃に設定したホットプレート上で30分間の加熱処理を行い、電磁波シールドフィルムを製造した。サンプル全体が均質に加熱されるように、サンプルの上から深さ約20mmのアルミ製のバットを被せて加熱した。得られた電磁波シールドフィルムを電子顕微鏡で観察したところ、線幅20μm、ピッチ300μmの格子状導電パターンが形成されていた。ただし、印刷後の200℃で30分間の加熱処理によっても、多孔質層は透明化せずに、加熱処理前とほぼ変化のない黄白色のままであった。
【0239】
ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製の商品名「カプトン200H」、厚み50μm)の全光線透過率(Ts)は41.0%、
比較例2で得た積層体の全光線透過率(Tsp)は8.2%、
加熱処理後の積層体の配線の存在しない部分の全光線透過率(Tst)は8.1%であった。
従って、加熱処理後の透明度(T)は32.9%であった。なお、加熱処理前の多孔質層の不透明度(P)は32.8%であった。
【0240】
[比較例4:導電パターン形成]
比較例3における印刷後の加熱処理条件を、300℃に設定したホットプレート上で30分間の加熱処理に変更したこと以外は比較例3と同様の操作を行い、電磁波シールドフィルムを製造した。得られた電磁波シールドフィルムを電子顕微鏡で観察したところ、線幅20μm、ピッチ300μmの格子状導電パターンが形成されていたが、ただし、多孔質層は透明化せず、黄白色であったものが黄土色に変色する劣化現象が見られた。
【0241】
ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製の商品名「カプトン200H」、厚み50μm)の全光線透過率(Ts)は41.0%、
比較例2で得た積層体の全光線透過率(Tsp)は8.2%、
加熱処理後の積層体の配線の存在しない部分の全光線透過率(Tst)は4.3%であった。
従って、加熱処理後の透明度(T)は36.7%であった。なお、加熱処理前の多孔質層の不透明度(P)は32.8%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも片面上の多孔質層とを含む積層体であって、
前記多孔質層は、高分子を主成分として含む組成物から構成され、
前記多孔質層における微小孔の平均孔径が0.01〜10μmであり、空孔率が30〜85%であり、
前記多孔質層を構成する組成物は20℃以上のガラス転移温度を有し、前記多孔質層は、加熱処理により微小孔が消失し、透明層に変換され得るものである積層体。
【請求項2】
前記基材は、透明樹脂フィルム、透明ガラス板、及び透明セラミックス基板からなる群より選択される光透過性基材である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記多孔質層を構成する組成物は、さらに架橋剤及び/又は可塑剤を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記多孔質層は、前記多孔質層を構成すべき高分子を含む多孔質層形成用材料の溶液を、前記基材上にフィルム状に流延し、その後、これを凝固液中に浸漬し、次いで乾燥に付すことにより形成されたものである、請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記多孔質層の表面上にさらに、印刷技術により、導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層、抵抗体層、及び前記層の前駆体層からなる群より選択される少なくとも1種が形成されている、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の積層体を製造する方法であって、
前記多孔質層を構成すべき高分子を含む多孔質層形成用材料の溶液を、前記基材上にフィルム状に流延し、その後、これを凝固液中に浸漬し、次いで乾燥に付すことを含む、積層体の製造方法。
【請求項7】
前記多孔質層形成用材料の溶液を前記基材上にフィルム状に流延した後、相対湿度70〜100%、温度15〜100℃の雰囲気下に0.2〜15分間保持し、その後、これを凝固液中に浸漬する、請求項6に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載の積層体を、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度以上の温度での加熱処理に付し、前記多孔質層中の微小孔を消失させ、前記多孔質層を透明層に変換する方法。
【請求項9】
基材と、前記基材上の高分子を主成分として含む透明層と、前記透明層上の導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層、及び抵抗体層からなる群より選択される機能性層とを有する機能性積層体を製造する方法であって、
請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の積層体の前記多孔質層の表面上に、導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層、抵抗体層、及び前記層の前駆体層からなる群より選択される層を形成し、
得られた積層体を、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度以上の温度での加熱処理に付し、前記多孔質層中の微小孔を消失させ、前記多孔質層を透明層に変換することを含む、機能性積層体の製造方法。
【請求項10】
前記機能性層は、パターン化されている、請求項9に記載の機能性積層体の製造方法。
【請求項11】
基材と、前記基材上の高分子を主成分として含む透明層と、前記透明層上の導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層、及び抵抗体層からなる群より選択される機能性層とを有する機能性積層体であって、
請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の積層体の前記多孔質層の表面上に、導電体層、誘電体層、半導体層、絶縁体層、抵抗体層、及び前記層の前駆体層からなる群より選択される層を形成し、
得られた積層体を、前記多孔質層を構成する組成物のガラス転移温度以上の温度での加熱処理に付し、前記多孔質層中の微小孔を消失させ、前記多孔質層を透明層に変換することにより得られた機能性積層体。
【請求項12】
前記機能性層は、パターン化されている、請求項11に記載の機能性積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−18026(P2010−18026A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138109(P2009−138109)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】