説明

多孔質材料製造方法、多孔質材料、水素分離モジュールおよび水素製造装置

【課題】緻密膜層が保護された多孔質材料を容易に製造することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明の多孔質材料製造方法は、多孔質層と緻密膜層とを有する多孔質材料を製造する方法であって、セラミック材料からなる多孔質母材25の内部において集光するようにレーザ光Bを該多孔質母材25に対して照射して、多孔質母材25の内部におけるレーザ光集光箇所を選択的に緻密化し、その緻密化した層を緻密膜層とし、その他の部分を多孔質層として、多孔質材料を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質層と該多孔質層より緻密な緻密膜層とを有する多孔質材料、このような多孔質材料を製造する方法、このような多孔質材料を水素分離材料として備える水素分離モジュール、および、このような水素分離モジュールを備える水素製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素エネルギー社会実現のために、水素製造技術や水素利用インフラ整備についての研究開発が進められている。そのなか、自動車用燃料電池、家庭用定置型燃料電池、水素ステーション、また、将来的には大型の化学プラントなどで、使用される高純度水素は、今後大きな需要が見込まれ、その製造には更なる高効率化が求められている。
【0003】
現在、炭化水素燃料を700℃程度の温度で水蒸気改質(CH+HO→CO+3H)した後、さらに数百度程度でCO変成(CO+HO→CO+H)することで、水素が製造される。このような水素製造方法は、価格競争力の点から広く利用されている。これらの反応を経て得られたガスの成分には、水素の他に、二酸化炭素や一酸化炭素、さらには未反応の炭化水素や水が含まれる。
【0004】
近年、家庭への普及が始まった固体高分子型燃料電池システムでは、低コスト化を実現するために水素の高純度化を行わず、水素濃度60%程度の混合ガスをそのまま燃料電池の燃料極に供給している。燃料極の触媒を被毒する一酸化炭素については、供給前に二酸化炭素に酸化し(2CO+O→2CO)、その濃度を10ppm未満まで除去している。
【0005】
しかしながら、混合ガスを用いる燃料電池は純水素燃料電池と比較して発電効率が低いので、さらに純度が高い水素を省スペースで安価に製造する技術が求められている。また、自動車用燃料電池には、上記CO濃度の制限に加えて、99.99%以上の水素を供給する必要があるので、安価な高純度水素を大量に製造する技術が求められている。
【0006】
水素を含む混合ガスから高純度水素を取り出す方法としては、吸収法、深冷分離法、吸着法、膜分離法などが挙げられる。そのうち、膜分離法は、高効率で小型化が容易であるという特徴を有している。また、膜分離法では、水蒸気改質を行う反応容器内に水素分離膜を挿入したメンブレンリアクターを構成することにより、改質反応によって生成した水素を連続的に反応雰囲気から引き抜き、500℃程度の温度でも改質反応とCO変成反応とを同時に促進させ、効率良く高純度水素を製造することが可能となる。
【0007】
さらに、メンブレンリアクターでは、CO変成に使用される白金等の高価な貴金属触媒も不要となり、コストの低減や設備の小型化が可能となる。なお、水素分離膜を通過した水素ガスの純度は水素分離膜の性能に依存する。用途に応じてさらにCO除去や高純度化が必要な場合でも、これらの工程にかかる負荷を軽減することが可能となる。
【0008】
以上説明したように、水素分離膜を用いた水素製造の有利さを背景に、いくつかの水素分離膜が提案されている。例えば、特許文献1に開示された発明は、水素分離膜としての多孔質材料を製造する方法であって、多孔質母材の表面近傍層を加熱することで、多孔質母材より緻密な緻密膜層を形成するものである。
【0009】
この特許文献1に開示された水素分離膜としての多孔質材料は、多孔質層(多孔質母材のうち緻密化されていない層)と、この多孔質層より緻密な緻密膜層とを有する。緻密膜層は、多孔質層の一方の面上に形成された薄膜であって、水素分子を選択的に透過させる一方で他の分子を透過させない程度の緻密さを有する。多孔質層は、薄い緻密膜層を支持する支持体としての役割を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−134979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示された製造方法により製造される多孔質材料では、水素分離を行う上で重要な緻密膜層が多孔質層の一方の面上に露出して形成されている。このことから、緻密膜層が他の構造物に接触した場合等に緻密膜層が損傷することがある。そして、緻密膜層が損傷すると水素分離性能が劣化する。
【0012】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、緻密膜層が保護された多孔質材料を容易に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の多孔質材料製造方法は、多孔質層と該多孔質層より緻密な緻密膜層とを有する多孔質材料を製造する方法であって、セラミック材料からなる多孔質母材の内部において集光するようにレーザ光を該多孔質母材に対して照射して、多孔質母材の内部におけるレーザ光集光箇所を選択的に緻密化し、その緻密化した層を緻密膜層とし、その他の部分を多孔質層として、多孔質材料を製造することを特徴とする。
【0014】
本発明の多孔質材料製造方法では、多孔質母材の表面におけるレーザ光のビーム半径をRとし、多孔質母材の内部のレーザ光集光箇所におけるレーザ光のビーム半径をRとし、多孔質母材におけるレーザ光の消衰係数をkとし、多孔質母材の充填率をρとし、多孔質母材の表面からレーザ光集光箇所までの距離をzとし、レーザ光の波長をλとしたときに、R>R・exp(2π・k・ρ・z/λ) なる関係式を満たすようにし、多孔質母材の内部のレーザ光集光箇所における単位面積当たりのレーザ光強度が、多孔質母材の表面における単位面積当たりのレーザ光強度より大きくなるように設定して、レーザ光を多孔質母材に対して照射するのが好適である。また、多孔質母材の内部のレーザ光集光箇所における単位面積当たりのレーザ光強度が、多孔質母材の表面における単位面積当たりのレーザ光強度の2倍以上となるように設定して、レーザ光を多孔質母材に対して照射するのが好適である。
【0015】
本発明の多孔質材料製造方法では、多孔質母材の線膨張係数が2×10−6/K以下であり、緻密膜層が水素分離膜層であるのが好適である。多孔質母材が多孔質シリカガラスであり、緻密膜層がシリカガラス膜であるのが好適である。多孔質母材に希土類元素、4B族元素、Al及びGaから選択される少なくとも1種の元素が添加されているのが好適である。多孔質層の気孔率が20〜70%であるのが好適である。緻密膜層に対してレーザ光入射側と反対側の多孔質層の厚みが0.2〜5mmであるのが好適である。また、緻密膜層の厚みが0.2〜50μmであるのが好適である。
【0016】
本発明の水素分離材料は、多孔質層と該多孔質層より緻密な緻密膜層とを有する多孔質材料であって、上記の本発明の多孔質材料製造方法により製造され、緻密膜層が多孔質層により挟まれていることを特徴とする。本発明の水素分離モジュールは、原料ガスを改質して水素ガスを生成する水蒸気改質触媒と、この水蒸気改質触媒により生成された水素ガスを分離して選択的に取り出す上記の本発明の水素分離材料と、を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の水素製造装置は、上記の本発明の水素分離モジュールを備える。本発明の水素製造装置は、上記の本発明の水素分離モジュールと、この水素分離モジュールにより取り出された水素ガスを含むガスからCOガスを除去するCO除去モジュールと、を備えることを特徴とする。CO除去モジュールがCOメタン化触媒を含むのが好適である。また、本発明の水素製造装置は、上記の本発明の水素分離モジュールと、この水素分離モジュールにより取り出された水素ガスを含むガスから水素以外のガスを除去する圧力スウィング吸着(PSA)法を適用した水素高純度化モジュールと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、緻密膜層が保護された多孔質材料を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】多孔質材料の断面図である。
【図2】本実施形態の多孔質材料20の構造を示す図である。
【図3】本実施形態の多孔質材料製造方法を説明する図である。
【図4】本実施形態の多孔質材料製造方法を説明する図である。
【図5】距離zとレーザ光強度Iとの関係を示すグラフである。
【図6】ビームウェスト位置からの距離とビーム半径との関係を示すグラフである。
【図7】本実施形態の水素分離モジュール40の構成を示す図である。
【図8】本実施形態の水素製造装置60の構成を示す図である。
【図9】他の実施形態の水素製造装置70の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
先ず、図1および図2を用いて、本実施形態の多孔質材料製造方法により製造されるべき多孔質材料の構造の一例を説明する。図1は、多孔質材料の断面図である。同図(a)は比較例の多孔質材料10の断面を示し、同図(b)は本実施形態の多孔質材料20の断面を示す。
【0022】
同図(a)に示される比較例の多孔質材料10は、外形が略円柱形状であり、中心に長手方向に延びる略円形断面の中心孔13を有する。比較例の多孔質材料10は、2層構造を有しており、多孔質層11の外表面上に緻密膜層12が形成されている。
【0023】
これに対して、同図(b)に示される本実施形態の多孔質材料20は、外形が略円柱形状であり、中心に長手方向に延びる略円形断面の中心孔23を有する。本実施形態の多孔質材料20は、3層構造を有しており、多孔質層21aと多孔質層21bとの間に緻密膜層22が形成されている。緻密膜層22は、多孔質層21a,21bと比べて気孔率が小さく緻密である。
【0024】
図2は、本実施形態の多孔質材料20の構造を示す図である。多孔質材料20の寸法の一例として、外径Tは2mm〜50mmであり、内径(中心孔23の径)Pは1.6mm〜48mmであり、長さLは200mm〜400mmである。中心孔23の一方の端部23aは塞がれていることが望ましい。管の表面積を大きくするため、外径Tおよび内径Pが長手方向に周期的に変化していてもよい。また、機械的強度を補強するため、厚みが部分的に変化していてもよい。
【0025】
本実施形態の多孔質材料20では、緻密膜層22は、多孔質層21aと多孔質層21bとにより挟まれて、多孔質層21a,21bによって保護されており、露出していない。したがって、緻密膜層22の損傷が防止され、多孔質材料20の水素分離性能が維持される。
【0026】
次に、図3および図4を用いて、本実施形態の多孔質材料製造方法を説明する。図3および図4は、本実施形態の多孔質材料製造方法を説明する図である。図3(a)は堆積工程を示し、図3(b)は引抜工程を示し、図3(c)および図4は緻密化工程を示す。
【0027】
図3(a)に示される堆積工程では、ダミー棒30の外周にガラス微粒子が堆積される。このときダミー棒30は、先端部が下になるようにして鉛直に配置される。また、ダミー棒30は、水平に配置されてもよい。ダミー棒30の素材としては、アルミナ、ガラス、耐火性セラミクス、カーボンなどが用いられる。ダミー棒30は中心軸を中心として回転されるとともに、OVD法により、ダミー棒30の側方に配置されたバーナ35により、ダミー棒30の外周にガラス微粒子が堆積される。
【0028】
ガラス微粒子には、所望する機械特性や耐水蒸気性に応じて、希土類元素、4B族元素、AlおよびGaから選択される1種または2種以上の元素が添加されてもよい。この製造法により、容易に成分の調整ができる。本実施形態の多孔質材料20が炭化水素燃料の水蒸気改質に用いられる場合、多孔質材料20が温度500℃以上の水蒸気に必然的に接触するので、このように他成分を導入することにより耐水蒸気性能を向上させることが好ましい。
【0029】
この堆積工程におけるガラス微粒子堆積に際して、バーナ35は、ダミー棒30の軸方向に相対的にトラバースされる。そのトラバース毎に供給原料や供給量が異なっていてもよい。これにより、ダミー棒30の外周に堆積されるガラス微粒子は、径方向に所定の組成分布を有することになる。また、ダミー棒30の先端部にもガラス微粒子が堆積されることで、先端が閉じた管状の多孔質シリカガラス(セラミック材料)からなる多孔質母材25が作製される。
【0030】
多孔質シリカガラスからなる多孔質母材25は、シリカガラス微粒子が堆積された後に、その気孔率が20〜70%の範囲になるようにシリカガラス微粒子が加熱焼結され緻密化されてもよい。また、多孔質母材25は、シリカガラス微粒子が堆積される温度が調整されて、その気孔率が制御されてもよい。堆積後の加熱焼結の際の温度は、特に限定されないが、1150℃〜1550℃とすることが好ましい。加熱焼結の際の温度が1150℃未満であると焼結が十分に進行しない場合があり、加熱焼結の際の温度が1550℃を超えると気孔率が小さくなりすぎる場合がある。また、堆積温度により気孔率を調整する場合も、特に温度の限定はないが、例えば1400℃〜1700℃とすることが好ましい。堆積温度が1400℃未満であるとシリカガラス微粒子の焼結が十分に進行しない場合があり、堆積温度が1700℃を超えると気孔率が小さくなりすぎる場合がある。堆積温度は1500℃〜1600℃とすることがより好ましい。
【0031】
堆積工程の後に引抜工程が行われる。図3(b)に示されるように引抜工程では、多孔質シリカガラスからなる多孔質母材25からダミー棒30が引き抜かれる。引抜により形成される中心孔23は、貫通しておらず、下端側(先端側)23aが塞がれていて、上端側のみが開口している(図2参照)。なお、引き抜きを容易にするために、予めダミー棒30の表面にカーボンや窒化物等が塗布されていることが好ましい。
【0032】
図3(c)に示される緻密化工程では、多孔質母材25に対してレーザ光が照射される。このとき、レーザ光は、レンズ36により収斂され、多孔質母材25の内部において集光される。そして、多孔質母材25の内部におけるレーザ光集光箇所が選択的に緻密化される。このとき照射されるレーザ光として、COレーザ光源から出力される波長10.6μmのレーザ光が好適に用いられる。
【0033】
多孔質母材25のうち緻密化された層は、シリカガラス膜からなる緻密膜層22となる。多孔質母材25のうち緻密化されなかった他の部分は、多孔質シリカガラスからなる多孔質層21a,21bとなる。このようにして、緻密膜層22が多孔質層21a,21bにより挟まれた構造を有する多孔質材料20が製造される。
【0034】
なお、緻密化工程は、上述のように引抜工程の後に行われてもよいし、引抜工程の前に行われてもよい。後者の場合、ダミー棒30の周囲に多孔質母材25が堆積された状態で、その多孔質母材25に対してレーザ光が集光照射されて緻密膜層22が形成され、その後にダミー棒30が引き抜かれて、多孔質材料20が製造される。
【0035】
多孔質母材25の線膨張係数が2×10−6/K以下であり、シリカガラス膜からなる緻密膜層22が水素分離膜層であるのが好ましい。多孔質母材25の線膨張係数が2×10−6/Kを超えると、発生する熱応力が大きくなり、所望の耐熱衝撃性が得られない。
【0036】
水素透過膜として使用される緻密膜層22は、水素脆性や原料不純物との反応による膜の劣化が抑制される。緻密膜層22の厚みは、特に限定されるものではないが、0.2〜50μmであることが好ましく、0.5〜30μmであることがより好ましく、1〜20μmであることが更に好ましい。緻密膜層22の厚みが0.2μm未満であると、透過ガスの水素純度が低くなりすぎ、また、緻密膜層22の厚みが50μmを超えると、水素透過速度が小さくなりすぎ、実用上十分な水素分離性能が得られにくくなる場合がある。
【0037】
多孔質層21a,21bの各厚みは、特に限定されるものではないが、機械的強度とガス透過性のバランスから0.2〜5mmであることが好ましく、0.5〜3mmであることがより好ましい。
【0038】
多孔質層21a,21bは、多孔質シリカガラスからなり、熱衝撃に強く、シリカガラス膜からなる緻密膜層22との密着性が良い。また、多孔質層21a,21bは、緻密膜層22における水素の透過を干渉することなく、緻密膜層22を支持することができる。多孔質層21a,21bの気孔率は、特に限定されるものではないが、機械的強度とガス透過性のバランスから20〜70%であることが好ましい。なお、「気孔率」は、単位体積当たりの空気容積が占める割合である。
【0039】
次に、図4を用いて緻密化工程について更に説明する。レンズ36により収斂されたレーザ光Bの集光箇所は、多孔質母材25の表面領域Aではなく、多孔質母材25の内部領域Aである。この内部領域Aが加熱されて緻密化される。また、多孔質母材25の表面に平行な方向にレーザ光Bの集光箇所が二次元走査されることで、緻密膜層22が形成される。
【0040】
多孔質母材25へのレーザ光照射に際して、多孔質母材25の内部のレーザ光集光箇所における単位面積当たりのレーザ光強度が、多孔質母材25の表面における単位面積当たりのレーザ光強度より大きくなるように設定される。好ましくは、多孔質母材25の内部のレーザ光集光箇所における単位面積当たりのレーザ光強度が、多孔質母材25の表面における単位面積当たりのレーザ光強度の2倍以上となるように設定される。このように設定されることで、多孔質母材25の表面領域Aでは緻密化されることなく、多孔質母材25の内部領域Aでは選択的に緻密化される。
【0041】
ここで、多孔質母材25の表面におけるレーザ光Bのビーム半径をRとし、多孔質母材25の内部のレーザ光集光箇所におけるレーザ光Bのビーム半径をRとし、レーザ光Bの波長をλとし、レーザ光Bをガウシアンビームとする。多孔質母材25におけるレーザ光Bの消衰係数をkとし、多孔質母材25の充填率(=1−気孔率)をρとし、多孔質母材25の表面からレーザ光集光箇所までの距離をzとする。
【0042】
多孔質母材25の距離zの位置におけるレーザ光強度Iは下記(1)式で表される。
=I・exp(−4π・k・ρ・z/λ) …(1)
また、多孔質母材25の表面における単位面積当たりのレーザ光強度はI/Rであり、多孔質母材25の距離zの位置における単位面積当たりのレーザ光強度はI/Rであるから、これらの間に下記(2)式の関係が成り立つ。
/R<I/R …(2)
そして、これら(1)式および(2)式から下記(3)式が得られる。この(3)式が満たされるように設定が行われればよい。
>R・exp(2π・k・ρ・z/λ) …(3)
【0043】
COレーザ光源から出力されたレーザ光Bを用いるとすると、レーザ光Bの波長は10.6μmである。多孔質母材25が多孔質シリカガラスからなるとすると、多孔質母材25におけるレーザ光Bの消衰係数kは0.074であり、屈折率は2.131である。以下には、この条件での計算結果が示されている。
【0044】
図5は、距離zとレーザ光強度Iとの関係を示すグラフである。ここでは、充填率ρを 1.0、0.6 および 0.4の各値とした。このグラフから判るように、充填率0.4(すなわち、気孔率0.6)の多孔質シリカガラスの場合は、表面での光強度Iに対して光強度Iが約1/4となるのは、表面からの距離zが約35μmである位置である。
【0045】
この条件の場合、多孔質母材25の表面でのビーム半径Rが、多孔質母材25の表面から距離35μmだけ内部に入った位置でのビーム半径Rの1.85倍(=exp(2π・0.074・0.4・35/10.6))以上となっていれば、多孔質母材25の内部のレーザ光集光箇所における単位面積当たりのレーザ光強度が、多孔質母材25の表面における単位面積当たりのレーザ光強度より大きくなって、多孔質母材25の内部での選択的な緻密化が実現できる。
【0046】
また、多孔質母材25の表面でのビーム半径Rが、多孔質母材25の表面から距離35μmだけ内部に入った位置でのビーム半径Rの2.62倍(=1.85×21/2)以上となっていれば、多孔質母材25の内部のレーザ光集光箇所における単位面積当たりのレーザ光強度が、多孔質母材25の表面における単位面積当たりのレーザ光強度の2倍以上となる。
【0047】
図6は、ビームウェスト位置からの距離とビーム半径との関係を示すグラフである。ここでは、ガウシアンビームであるレーザ光BのNAを0.2、0.3 および 0.4の各値とした。ガウシアンビームは光の波動性を有し、回折限界により決まる値までしかビーム半径を絞ることができない。ビームウェスト位置でのビーム半径はNAにより異なる。このグラフから判るように、NAが0.4である場合、ビーム半径が最小に絞られている位置におけるビーム半径と比較すると、ビーム半径が最小に絞られている位置から距離35μmの位置におけるビーム半径は約3倍となっている。
【0048】
したがって、図5および図6から、充填率0.4の多孔質母材25の場合、多孔質母材25の内部での選択的な緻密化が可能であることが判る。また、多孔質母材25の内部のレーザ光集光箇所における単位面積当たりのレーザ光強度が、多孔質母材25の表面における単位面積当たりのレーザ光強度の2倍以上となるように、設定をすることが可能であることも判る。
【0049】
このように、多孔質母材25において緻密化したい位置の深さzに応じてビームのNAが適宜に設定されることにより、多孔質母材25の内部のレーザ光集光箇所における単位面積当たりのレーザ光強度は、多孔質母材25の表面における単位面積当たりのレーザ光強度より大きくなるように設定され、また更には、多孔質母材25の表面における単位面積当たりのレーザ光強度の2倍以上となるように設定される。
【0050】
なお、ここまでは多孔質母材25の表面および集光箇所それぞれにおけるレーザ光強度の相対値を議論してきた。しかし、絶対値として、多孔質母材25の内部の集光箇所においては緻密化が可能なレーザ光強度が得られるように設定され、かつ、多孔質母材25の表面においては緻密化されないようなレーザ光強度とされていることが前提条件として必要となる。
【0051】
次に、本実施形態の多孔質材料20を水素分離材料として備える水素分離モジュールを説明する。図7は、本実施形態の水素分離モジュール40の構成を示す図である。本実施形態の水素分離モジュール40は、水素分離材料(多孔質材料)20および水蒸気改質触媒41を反応容器42内に備える。反応容器42は、原料ガス50を反応容器42内に導入する導入口43と、反応容器42から排ガス51を排出する排出口44と、水素分離材料20を反応容器42内に設置するための設置口45とを備える。水蒸気改質触媒41は、反応容器42内の水素分離材料20の周囲に詰められる。
【0052】
原料ガス50は、都市ガス、プロパンガス、灯油、石油、バイオメタノール、天然ガス、メタンハイドレート等の燃料を燃焼することにより得られる。原料ガス50は、導入口43から反応器42内に導入された後に温度500℃程度で加熱され、水蒸気改質触媒41(例えばRu系触媒)により改質されて、水素ガスを生成する。この改質反応で生成された水素ガスは、管状の水素分離材料20によって選択的に引抜かれて管の内部の中心孔23まで透過され、反応器42の外へ取り出される。そのため、化学平衡的に水素生成が促進され、反応の低温化を実現することができ、同時にCO変成反応も起こるので、CO変成触媒は理論的に不要となる。
【0053】
次に、本実施形態の水素分離モジュール40を備える水素製造装置を説明する。本実施形態の水素分離モジュール40により分離生成された水素は99%以上の高純度であると考えられるが、混入するCO量をより低減するため(好ましくは10ppm以下に低減するため)、例えば家庭用定置型燃料電池に用いる水素を製造する水素製造装置は、COメタン化触媒等を有するCO除去モジュールを更に備えることが好ましい。
【0054】
なお、COメタン化触媒の代わりにCO選択酸化触媒を用いてもよい。しかし、CO選択酸化触媒を用いる場合、水素分離モジュールとCO除去モジュールとの間で酸素または空気を供給する必要があること、水素と酸素との反応による水生成や窒素などの混入により水素濃度が低下することなどの欠点がある。自動車用燃料電池に用いる水素を製造する水素製造装置は、更にCO濃度が低く(1ppm未満)高純度の水素(99.99%以上)が求められるので、圧力スウィング吸着(PSA)法を適用した水素高純度化モジュールを更に備えることが好ましい。以下では、図8および図9を用いて、水素製造装置の2つの実施形態について説明する。
【0055】
図8は、本実施形態の水素製造装置60の構成を示す図である。この図に示される水素製造装置60は、水素分離モジュール40およびCO除去モジュール65を備える。CO除去モジュール65は、CO除去反応が行なわれる反応容器61と、この反応容器61の内部に容れられたCOメタン化触媒(例えばRu系触媒)62とを備える。また、水素製造装置60は、水素分離モジュール40の近傍に原料ガス50の水蒸気改質反応を起こすための発熱体53を更に備え、また、CO除去モジュール65の近傍にCO除去反応を起こすための発熱体63を更に備える。CO除去モジュール65は、連結管54を介して連結継手48を用いて水素分離モジュール40に連結されている。水素分離モジュール40により生成された水素ガスは、連結管54を通じてCO除去モジュール65に導入され、CO除去反応に供される。このようにして、より高純度化された水素ガスは排出口64から取り出される。
【0056】
図9は、他の実施形態の水素製造装置70の構成を示す図である。この図に示される水素製造装置70は、複数個の水素分離モジュール40と、圧力スウィング吸着(PSA)法を適用した水素高純度化モジュール(PSAユニット)75とを備える。各々の水素分離モジュール40は、その水素分離材料20における水素排出部分が連結管71を介してPSAユニット75に連結されている。複数の水素分離モジュール40の近傍には、水蒸気改質反応を生起するためのパネル状の発熱体(点線で示す)72が設置されている。生成した水素ガスは、連結管71を通じてPSAユニット75に導入された後、水素以外のガス成分が除去される。このようにして、高純度の水素ガスが製造される。
【符号の説明】
【0057】
20…多孔質材料、21a,21b…多孔質層、22…緻密膜層、25…多孔質母材、30…ダミー棒、35…バーナ、36…レンズ、40…水素分離モジュール、41…水蒸気改質触媒、42、61…反応容器、43…導入口、44、64…排出口、45…設置口、48…連結継手、50…原料ガス、51…排ガス、53、63、72…発熱体、54、71…連結管、60、70…水素製造装置、62…COメタン化触媒、65…CO除去モジュール、75…水素高純度化モジュール(PSAユニット)、T…外径、P…内径、L…長さ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質層と該多孔質層より緻密な緻密膜層とを有する多孔質材料を製造する方法であって、
セラミック材料からなる多孔質母材の内部において集光するようにレーザ光を該多孔質母材に対して照射して、前記多孔質母材の内部におけるレーザ光集光箇所を選択的に緻密化し、その緻密化した層を前記緻密膜層とし、その他の部分を前記多孔質層として、前記多孔質材料を製造する、
ことを特徴とする多孔質材料製造方法。
【請求項2】
前記多孔質母材の表面における前記レーザ光のビーム半径をRとし、前記多孔質母材の内部のレーザ光集光箇所における前記レーザ光のビーム半径をRとし、前記多孔質母材における前記レーザ光の消衰係数をkとし、前記多孔質母材の充填率をρとし、前記多孔質母材の表面からレーザ光集光箇所までの距離をzとし、前記レーザ光の波長をλとしたときに、R>R・exp(2π・k・ρ・z/λ) なる関係式を満たすようにし、
前記多孔質母材の内部のレーザ光集光箇所における単位面積当たりのレーザ光強度が、前記多孔質母材の表面における単位面積当たりのレーザ光強度より大きくなるように設定して、前記レーザ光を前記多孔質母材に対して照射する、
ことを特徴とする請求項1に記載の多孔質材料製造方法。
【請求項3】
前記多孔質母材の内部のレーザ光集光箇所における単位面積当たりのレーザ光強度が、前記多孔質母材の表面における単位面積当たりのレーザ光強度の2倍以上となるように設定して、前記レーザ光を前記多孔質母材に対して照射する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質材料製造方法。
【請求項4】
前記多孔質母材の線膨張係数が2×10−6/K以下であり、
前記緻密膜層が水素分離膜層である、
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の多孔質材料製造方法。
【請求項5】
前記多孔質母材が多孔質シリカガラスであり、
前記緻密膜層がシリカガラス膜である、
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の多孔質材料製造方法。
【請求項6】
前記多孔質母材に希土類元素、4B族元素、Al及びGaから選択される少なくとも1種の元素が添加されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の多孔質材料製造方法。
【請求項7】
前記多孔質層の気孔率が20〜70%であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の多孔質材料製造方法。
【請求項8】
前記緻密膜層に対してレーザ光入射側と反対側の前記多孔質層の厚みが0.2〜5mmであることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の多孔質材料製造方法。
【請求項9】
前記緻密膜層の厚みが0.2〜50μmであることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の多孔質材料製造方法。
【請求項10】
多孔質層と該多孔質層より緻密な緻密膜層とを有する多孔質材料であって、請求項1〜9の何れか1項に記載の多孔質材料製造方法により製造され、前記緻密膜層が前記多孔質層により挟まれている、ことを特徴とする水素分離材料。
【請求項11】
原料ガスを改質して水素ガスを生成する水蒸気改質触媒と、
この水蒸気改質触媒により生成された水素ガスを分離して選択的に取り出す請求項10に記載の水素分離材料と、
を備えることを特徴とする水素分離モジュール。
【請求項12】
請求項11に記載の水素分離モジュールを備える水素製造装置。
【請求項13】
請求項11に記載の水素分離モジュールと、
この水素分離モジュールにより取り出された水素ガスを含むガスからCOガスを除去するCO除去モジュールと、
を備えることを特徴とする水素製造装置。
【請求項14】
前記CO除去モジュールがCOメタン化触媒を含むことを特徴とする請求項13に記載の水素製造装置。
【請求項15】
請求項11に記載の水素分離モジュールと、
この水素分離モジュールにより取り出された水素ガスを含むガスから水素以外のガスを除去する圧力スウィング吸着(PSA)法を適用した水素高純度化モジュールと、
を備えることを特徴とする水素製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−71999(P2012−71999A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216777(P2010−216777)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】