説明

多孔質焼結体及びその製造方法

【課題】 従来の多孔性材料にはない極めて微細な空隙を有し、材料硬さがHV=1500 以上で、耐摩耗性に優れる複炭化物を含む多孔質焼結体を得る。
【解決手段】 近似球形の造粒粉や焼結粒を使わずに、セラミックス粉と金属粉から成る圧粉成型体を用い、炭化物成分と金属成分から複炭化物を形成する反応を利用して、圧粉成型体中に冶金反応による3次元網目構造を形成可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複炭化物を含む多孔質焼結体に関するもので、従来の多孔性材料にはない極めて微細な空隙を有し、材料硬さもHV=1500 以上と極めて高く、耐摩耗性に優れることから、タイヤ成型金型や射出成型金型のエア抜き材料として、あるいは積層コンデンサ用成型吸引工具として、あるいは各種流体に関するフィルター用途に適用される。
【背景技術】
【0002】
従来の多孔質材料はステンレス粒や超硬合金粒からなり、適当な大きさの粒子を結合させて、多孔質材料とすることが行われてきた。例えば、特開平3−138304号では、造粒した 150μの超硬粒をカーボン製成形型に充填し、これを焼結することで、多孔質焼結体が得られる。しかしながら、超硬粒そのものが完全な球ではないため、粒相互のブリッジを形成してしまい、空隙の大きさに大きなバラツキを生じていた。
【0003】
又、この問題を解決するために、特開2003−129111号では、粒子サイズをより小さくした2層の多孔質焼結体を提案しているが、この方法においても、同様の問題が完全には解消されなかった。又、両提案品に共通する課題として、隣接粒子間の結合力の弱い粒子の脱落が発生し、脱落粒子が製品に混入すると言う問題もある。
【特許文献1】特開平3−138304号公報
【特許文献2】特開2003−129111公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのため、ブリッジ等による空隙寸法のバラツキを抑え、空隙部の寸法を 5〜10μ の範囲に制御し、且つ粒子の脱落を生じない、全く新しい多孔質焼結体の提供が望まれる。
本件発明は、近似球形の造粒粉や焼結粒を使わずに、セラミックス粉と金属粉から成る圧粉成型体を用い、炭化物成分と金属成分から複炭化物を形成する反応を利用すれば、圧粉成型体中に冶金反応による3次元網目構造が形成可能なことを見い出し、本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は多孔質焼結体であって、その全体若しくは所望の要部に、主成分が、式:M6W6C、M3W3C、M2W4C又はM3W9C4で示される複炭化物(式中、M は周期律表のFe 族元素を示す)のいずれか一種以上を含み、デンドライト状の3次元網目構造を有することを特徴とする多孔質焼結体を提供することにある。
【0006】
本発明は、セラミックス粉として炭化タングステン粉 ( WC )と、Fe系金属粉としてコバルト粉 ( Co )を用いる場合を例にすると、Co-W-C 3元状態図中の WC-γ-η 3相共存域の組成に調整した原料から圧粉成型体を作製し、所定の温度域まで加熱し、保持することで、単独相であった Co, WC, W が相互に冶金反応して Co6W6C 〜 Co3W9C4 までの複炭化物を形成する。この反応に伴い、圧粉体中に目的とする3次元網目構造が形成されるいう現象を利用するものである。
【0007】
本発明に係る多孔質焼結体の空隙率は 30〜50vol% であるのが適当である。
30%以下では、空隙率が小さすぎて、流体に対する抵抗が大きく、また目詰まりを生じ易くなる。50%以上では3次元網目構造の強度が低下してしまう。
【0008】
また、上記主成分以外に、IVa, Va, VIa 族炭化物、窒化物、炭窒化物、あるいは硼化物及び/又は式:M6(WS)6X、M3(WS)3X、M2(WS)4X又はM3(WS)94(式中、M は周期律表のFe 族元素、S は周期律表の IVa, Va, VIa 族元素を、XはC,NまたはBを示す)で示される固溶体複炭化物、複窒化物又は複硼化物を含むことができる。
具体例としては、Co6(WTi)6C,Co3(WTi)3C,Co2(WV)4C,Co2(WTi)4C,Ni3(WTi)9C4,Ni3(WMo)9C4,(CoNi)3(WTi)3C を上げることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明による多孔質焼結体は、極めて微細・均一な網目構造を有するため、空隙域の寸法バラツキは全く問題が無く、又、粒を使用しないために、脱落等の問題も全く生じない。
【0010】
しかも複炭化物相は極めて硬度が高いために非常に優れた耐摩耗性を有し、さらには、使用元素を選択することで、耐食性や触媒機能などを適宜付加することが可能であるため、極めて広範な産業用途に適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、所望する形状の圧粉成型体を作製して、拡散熱処理するという極めて簡単な工程で3次元網目構造が得られるものであるが、拡散熱処理した後で得られた多孔質焼結体の組成が、Co-W-C 3元状態図中の WC-γ-η 3相共存域内にあり、主相が複炭化物相となっている。以下、Fe系金属粉としてCoを代表例として説明するが、他のFe系金属粉Ni、Feにおいても多孔質焼結体はNi-W-C又はFe-W-C3元状態図中の WC-γ-η 3相共存域内にあり、主相が複炭化物相となるので、同等の作用効果を奏するものである。
【0012】
1)出発原料組成を Co-W-C 3元状態図中の WC-γ-η 3相共存域組成に調整する。
この時、複炭化物相(η相)の体積率は、50vol% 以上になるように調整することが望ましい。この体積率が小さくなると、十分な3次元網目構造が形成されないためであり、組成調整の際に出来るだけ低炭素領域とすることが必要である。
この配合調整を終えた原料をミリングして、所定量のWax を添加し、完粉原料とする。
【0013】
2)圧粉成型体の作製については、最終の空隙率を勘案して、成型体寸法を決定する。
例えば、空隙率 40vol% を狙う場合は、最終焼結体寸法において空隙率 40vol% が必要であるため、必要原料重量を計算して型内に配置し、圧粉成型を行う。その後成型体の Wax を除去するために 600〜1200℃ の中間熱処理を行い、必要であれば、さらに研削加工を行い、所望の形状に仕上げる。
【0014】
3)準備が完了した圧粉成型体は、最後の工程として、複炭化物3次元構造組織を形成するために拡散熱処理を行う。温度範囲としては 600〜1300℃ の範囲で 1〜5Hr 処理されるが、600〜800℃ の低温側では M6W6C 型の複炭化物が主体となり、より高温側の1100〜1300℃ では M3W9C4 型の複炭化物が主体となる。中間温度域での複炭化物としては M3W3C, M2W4C 型が形成される。
【0015】
4)熱処理前の圧粉成型体を W イオンを含む水溶液、若しくはアルコール溶液中に30〜60sec 浸漬し、乾燥させて、所定の拡散熱処理を施すようにしてもよい。
この方法によれば、圧粉成型体の表面から 5 mm 程度の深さまでの表層部で、粒子表面に高濃度のW 被覆層が形成されるため、拡散熱処理における複炭化物形成の際に、より強固な3次元網目構造組織が得られる。ここで W イオンの原料ソースとしては、次のものが上げられる。
パラタングステン酸アンモニウム( APT )、メタタングステン酸アンモニウム( AMT )、オキシ二塩化タングステン( WO2Cl2 )、タングステン酸( H2WO4 )等。
【0016】
5)別法として、熱処理前の圧粉成型体を酸化水溶液中に数秒間浸漬し、直ちに乾燥させて、所定の拡散熱処理を施すようにしてもよい。ここで用いる酸化水溶液としては、硝酸、酢酸、蓚酸、過酸化水素、等の酸化剤を 10% 濃度以下に希釈したものが望ましい。この方法を用いると、圧粉成型体表層部が酸化され、拡散熱処理過程で、炭化物中の炭素による自己還元反応が優先的に生じるため、表層部が脱炭して活性な W が増大し、4)と同様に、より強固な3次元網目構造組織が得られる。
【0017】
6)さらに別法として、出発原料組成を Co-W-C 3元状態図中の WC-γ 2相共存組成に調整し、ミリング後、Wax 添加して完粉を作製する。この原料を圧粉成型して、中間熱処理を行った後、Fe 族金属塩と W イオン原料ソースとを含む水溶液、又はアルコール溶液中に30〜60sec 浸漬し、直ちに乾燥させて、所定の拡散熱処理を施す。この方法を用いれば、2)および3)と同様の効果が得られる。
【0018】
7)1)、6)で調整した原料において、WC 以外に周期律表の IVa, Va, VIa 族元素の炭化物、窒化物、炭窒化物あるいは硼化物を含んでも構わない。あるいは固溶体炭化物、例えば (W/Ti)C, (W/Ta)C, (W/Ti/Ta)C や、複炭化物、例えば M6W6C, M3W3C, M2W4C, M3W9C4 [ M は Fe 族元素 ]、さらには固溶体複炭化物、例えば、
M3(W/Ti)3C, M3(W/Ta)3C 等を添加しても差し支えない。
【0019】
8)あるいは、4)、5)、6)において、成型体表面の要部を残してマスキングし、浸漬時間を短くして、即乾燥し、所定の拡散熱処理を施すことも出来る。あるいは、浸漬方法として要部のみを浸す方法を採用しても良い。例えば、部分浸漬やスプレー等による液散布、あるいはハケ等による塗液の部分塗り等がある。これらの方法により、成型体の所望の領域に限定して、3次元網目構造組織を作ることが出来る。
【0020】
以上の方法により得られる3次元多孔質焼結体として、M3W9C4 型の複炭化物では3次元網目構造の基軸の太さが、M6W6C 型のそれよりも大きく、かつ、空隙域も大きく形成される。
【0021】
これらのことから、多孔質焼結体として、より微細孔が必要な場合は拡散熱処理の温度を小さくして、M6W6C 型の3次元網目構造組織とし、より粗大孔が必要な場合には、拡散熱処理の温度を高くして M3W9C4 型の3次元網目構造組織とすればよい。
但し、温度を 1300℃ 以上に高くすると、複炭化物相の緻密化が開始されるので、空隙率の確保が困難になり、適用用途が制限されるので好ましくない。
【実施例1】
【0022】
出発原料として、平均粒度 1.5μm WC 粉末と、平均粒度 1.2μm W 粉末、及び平均粒度 1.4μm Co 粉末を用いて、WC-20%Co 合金組成に配合した。この時の結合炭素量は C/WC=3.5% に調整した。配合原料をエタノール中で 30Hr ボールミリングし、ミキサーにてパラフィンワックスを 1.5% 添加して、完成粉原料とした。
次に、この原料を用いて、成型体寸法 70×70×10mm の大きさにプレス成型し、脱 Wax を含む中間熱処理を 950℃×2Hr 行った。
【0023】
中間熱処理完了後、そのまま 1000℃×2Hr の拡散熱処理を行って、3次元網目構造を有する多孔質焼結体を得た。この組織例を図1に示す。又、この時の複炭化物相の同定をX線回折にて行ったところ、Co6W6C, Co3W3C が主体であり、微細な3次元網目構造であることが判る。
又、得られた多孔質焼結体の空隙率を算出したところ、空隙率は 45vol% で有り、十分な空隙率を有するものと確認できた。
【実施例2】
【0024】
実施例1で作製した 70×70×10 mm プレス成型体を用いて、1200℃×2 Hr の中間熱処理を行った。処理後、製品の4箇所にφ7×6 L mm の穴加工を行い、浸漬処理を実施した。
浸漬処理溶液としては、パラタングステン酸アンモニウム 60% 水溶液を用いて、その中に徐々に成型体を漬けてゆき、成型体全体に溶液が染みこんでから、30 sec 液中保持した。取り出した後、直ちに 120℃ にて乾燥を行い、その後、1300℃×2 Hr の拡散熱処理を行った。得られた多孔質焼結体の組織例を図2に示す。図1と比較すると明らかに、本実施例の方が複炭化物相の基軸の大きさが大きくなっていることが判る。同時に
【0025】
X線回折の結果では、Co2W4C, Co3W9C4 が複炭化物相の主体であった。
得られた多孔質焼結体の空隙率は、およそ 38vol% で有り、実施例1と比較すると緻密化が進行していることが判る。積層コンデンサー用途には、空隙率範囲としては 35 vol% が下限と想定されている。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上のように、本発明に関わる多孔質焼結体は、極めて均一微細な空隙が容易に形成され、且つ、高硬度な複炭化物相が主要な構成相となっているため、耐摩耗性にも極めて優れている。
さらに、添加元素を任意に選択できることに特徴があり、例えば、水溶液に対する耐食性を高めるには、Co 金属を Ni に換え、Cr 元素を添加することで、極めて耐食性に優れた多孔質焼結体が得られる。
【0027】
又、WC の一部を TiC, TaC あるいは (W/Ti)C, (W/Ti/Ta)C 等に置き換えることで、高温環境下での耐酸化性に優れた多孔質焼結体が得られる。さらには、これら炭化物の一部、又は全部を窒化物、炭窒化物に置き換えることで、さらに優れた耐酸化性が得られる。
あるいは、多孔質焼結体の表面に、例えば、TiO2 の薄膜を形成させることで、 機能性触媒としての新たな物性が付与される。
このように、本発明多孔質焼結体は、その簡易な工程と優れた構造特性から、多孔性としての単純な用途から、各種の機能性付与の可能性を秘めた、先進材料としての新たな出発材料となる可能性が高く、産業上の各種分野に発展的に貢献できるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は実施例1で得られた多孔質焼結体の顕微鏡写真である。
【図2】図2は実施例2で得られた多孔質焼結体の顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質焼結体であって、その全体若しくは所望の要部に、主成分が、式:M6W6C、M3W3C、M2W4C又はM3W9C4で示される複炭化物(式中、M は周期律表のFe 族元素を示す)のいずれか一種以上を含み、デンドライト状の3次元網目構造を有することを特徴とする多孔質焼結体。
【請求項2】
空隙率が 30〜50vol% である請求項1記載の多孔質焼結体。
【請求項3】
上記主成分以外に、IVa, Va, VIa 族炭化物、窒化物、炭窒化物、あるいは硼化物及び/又は式:M6(WS)6X、M3(WS)3X、M2(WS)4X又はM3(WS)94(式中、M は周期律表のFe 族元素、S は周期律表の IVa, Va, VIa 族元素を、XはC,NまたはBを示す)で示される固溶体複炭化物、複窒化物又は複硼化物を含むことを特徴とする多孔質焼結体。
【請求項4】
WC粉とFe族金属粉とを含む混合粉で、WCとFe系金属の状態図において、複炭化物相を含む3相共存域の組成範囲に調整した出発原料を圧粉成型し、該圧粉成型体を600〜1300℃ の温度域にて2〜5Hr の拡散熱処理を行い、複炭化物からなる3次元網目構造を形成することを特徴とする多孔質焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記圧粉成型体を上記拡散熱処理前に Wイオンを含む水溶液若しくはアルコール溶液中に浸漬した後、乾燥させる請求項4記載の多孔質焼結体の製造方法。
【請求項6】
W イオンを含む水溶液又はアルコール溶液が、パラタングステン酸アンモニウム( APT )、メタタングステン酸アンモニウム( AMT )、オキシ二塩化タングステン( WO2Cl2 )、またはタングステン酸( H2WO4 )を含む請求項5記載の多孔質焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記圧粉成型体を上記拡散熱処理前に酸化水溶液中に浸漬した後、乾燥させる請求項4記載の多孔質焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記酸化水溶液中として、硝酸、酢酸、蓚酸、過酸化水素等の酸化剤を水で希釈して水溶液として使用する請求項7記載の多孔質焼結体の製造方法。
【請求項9】
WC と Fe 族金属との状態図における2相共存域の組成に調整した出発原料を圧粉成型し、Fe 族金属塩及び W イオンを含む水溶液、若しくはアルコール溶液中に浸漬した後、乾燥させ、600〜1300℃ の温度域にて 2〜5Hr の還元・拡散熱処理を行うことを特徴とする多孔質焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−131434(P2006−131434A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319217(P2004−319217)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(390000022)サンアロイ工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】