説明

多孔質膜及びその製造方法

【課題】 膜厚制御が容易であって、かつ耐スクラッチ性などの機械的特性に優れ、反射防止膜等に用いられる多孔質膜の製造方法を提供するとともに、当該方法により得られた多孔質膜を提供すること。
【解決手段】 本発明の多孔質膜は、基材上に形成された薄膜(A)を有してなる多孔質膜であって、該薄膜(A)の硬度が0.8GPa以上であり、体積密度が30〜60%であることを特徴とし、この多孔質膜は、微粒子分散液に浸漬する工程と、その微粒子の表面電荷と反対電荷のイオン性を有するポリマー溶液に浸漬する工程とを交互に繰り返すことにより、微粒子積層膜を調製し、次いで、この微粒子積層膜を450〜600℃で加熱する工程を含む製造方法により得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、カメラ、ビデオカメラ、CDプレーヤ、VDプレーヤ、液晶プロジェクション、テレビ等に使用される反射防止膜などに用いられる多孔質膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表示パネル、ディスプレイなどの表示部材、レンズ、眼鏡などの光学部品、太陽電池パネルなど種々の製品に高い光透過性と低反射性能を有する膜、すなわち反射防止膜が広範に使用されている。また、薄膜トランジスタや単結晶薄膜シリコン太陽電池を作製するためのレーザアニール時やフォトレジスト工程においても反射防止膜が使用される。レーザアニールや露光などの加工技術及び太陽電池やレンズなどでは反射による光の多重干渉が大きな問題になるからである。
【0003】
現在一般的に行われている反射防止膜の製造方法は、真空蒸着やスパッタ法のようなドライプロセス、あるいはゾルゲル法やパーフルオロ樹脂や部分フッ素化モノマーの重合体を用いた塗布法のようなウエットプロセスである。近年、価格面の要求からドライプロセスに代わるウエットプロセスの反射防止処理が主流となっている。
【0004】
塗布タイプの反射防止膜形成用の主材料は、樹脂材料としては、パーフルオロ樹脂であるパーフルオロアリルビニルエーテルを環化重合したものやテトラフルオロエチレンとパーフルオロジメチルジオキソールとの共重合体があり、部分フッ素化樹脂としてはメタクリル酸あるいはメタクリル酸クロライドとフルオロアルキルアルコールの反応により合成されるモノマーを重合したフルオロアルキルメタクリレート樹脂があり、これらはフッ素系溶剤を用いて基材に塗布される。これらはフッ素含有量を増やせば、屈折率が下げられ、反射率も下がることが期待できるが、塗工時にはじきによるムラやヌケが発生しやすくなるという問題がある(「反射防止膜の特性と最適設計・膜作製技術」、2002、技術情報協会)。
【0005】
また、最近では可視光波長未満の超微粒子が透明材料の屈折率制御の観点から注目され実用化されている。価格、安定性、毒性、環境影響性、入手の容易さ、加工性などを加味すると、高屈折率材料では、酸化チタン、酸化セリウム、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニア、酸化ニオブなどがあり、低屈折率材料ではシリカやフッ化物が代表的なものとなる。これらをバインダー樹脂と混合して、塗布する方法がある(特開平04−202366号公報、特開2001−163906号公報、特開2001−167637号公報)。
【0006】
高屈折率材料の種類の多さに比べ、低屈折率材料はフッ化物を除けばシリカの1.46〜1.48が一番小さい材料である。そこで、さらに屈折率が小さく安定な材料として、シリカを中空化した材料が開発されている(特開2001−233611号公報)。これは、1.34〜1.40程度の屈折率を有しており母体はシリカであるが、フッ化物やフッ素樹脂並みの屈折率を有している。これをバインダーに分散して用いることによりシリカ分散系でありながらフッ素樹脂並みの屈折率の膜を得ることが可能となる(特開平07−48527号公報)。
【0007】
一方、塗布によって形成する反射防止膜は、単層でそれを実現しようとすると、[1/4×λ/層の屈折率](nm)なる計算式で与えられる膜厚を形成する必要がある。この式でのλは反射率が最小となる波長であり、通常は反射防止能をより効果的に人の視感度の中心である550nm付近に設定するため、反射防止膜は100nm前後となる。したがってウエットプロセスにおける最大の課題は、高い精度が要求される膜厚の制御である。
【0008】
例えば図1に示すように、5nmの狂いが最小反射率波長で25nmのずれにつながり、この波長のずれにより、反射色が大きく変化するために、色むらを発生させて実用上大きな問題となる。このような理由から、所定膜厚に対して十分誤差がなく、より均一な塗工が要求されるため、例えばプラスチックフィルムのような柔軟な基材、曲面や凹凸を有する基材、薄いフィルム基材に連続的に塗工、製造することは非常に困難である。
【0009】
さらにフッ素樹脂、または微粒子とバインダー樹脂の混合物を用いても、屈折率を下げるには限界があり、塗布性を満足させるためには、屈折率が1.40程度にならざるを得ない。そこで、反射率を下げるためには高屈折率層を含む、多層構造とすることが一般的である。ドライプロセスでは、真空蒸着法やスパッタ法を用いて、シリカとチタニアの光学的膜厚を多層積層することで、最低反射率波長は0%に近づけることが一般的に行われているが、光学設計した波長からずれた波長での反射率の上昇、すなわち波長依存性が発生して、着色の問題が発生する(図2)。
【0010】
また塗布法において多層構造にすると、下地の膜厚の均一性が厳しくなり、さらに上に積層する塗液が下地の層を侵さないものに限定されるという課題があり、現実的には2層までが限界とされている。したがって現在ウエット法で作製した反射防止膜はドライプロセスに比べて特性が劣る。
【0011】
単層の反射防止膜は、多層構造にするよりも、波長依存性も少ない、すなわち着色が少ないという特長があるため、紫外から可視光領域でも効率よく反射を防止する。したがって、この波長領域でフッ化物以下の屈折率をもつ理想的な材料とそれを均一に形成する製造方法が求められている。
【0012】
単層で反射率0%を達成するためには、次式を満たす反射防止膜の屈折率(n)が求められる。(Macleod, Thin−Film Optical Filters, Elsevier, New York, 1969、または 金原ら、応用物理学選書3 薄膜、裳華房、昭和59年)。
【数1】

【0013】
(nは反射防止膜の屈折率、nは基材の屈折率、nは雰囲気の屈折率)
例えば、ディスプレイに用いられる透明基材であるガラスやプラスチック基板の可視領域での屈折率は約1.52であり、空気の屈折率1との積の平方根をとった1.22から1.25程度の値が最も理想的な値となる。
【0014】
そのような屈折率を持つ膜は、たとえばシリカ膜中に含まれる気孔の濃度によって屈折率を制御した多孔質膜である。しかも、透明であるためには、空隙の孔の径が光を散乱させない100nm以下であることが求められる。
【0015】
反射防止膜付きガラスの製造方法としては、従来法として例えば析出法によりガラス表面に二酸化ケイ素膜を形成する方法が知られている。ケイフッ化水素酸の水溶液にSiO粉末を飽和し、その後ホウ酸水溶液を添加した浸漬液にガラス基板を浸漬すれば、ガラス表面へのSiO膜の析出が始まる。
【0016】
具体的には、ガラス板の両表面をケイフッ化水素酸のシリカ過飽和水溶液で処理して両表面に反射防止層を形成するにあたり、予め表面の異質ガラス層を除去することを特徴とする反射防止膜付きガラスの製造方法が知られている(特開昭57−166337号公報)。
【0017】
また、他の反射防止膜付きガラスとしては、ガラス基板表面の空気側の最上層が、表面に数10〜数100nmの微小な凹凸もしくは径を数10〜数100nmの範囲にした細孔を有し、かつ屈折率を1.40〜1.60、膜厚を70〜130nmの範囲に制御したSiOもしくはSiOと他の酸化物との混合酸化物であり、さらに必要に応じて最上層の表面にポリフルオロアルキル基を含有するシラン化合物を被膜してなる反射防止膜付きガラスがある(特開平5−330856号公報)。
【0018】
さらにまた、この反射防止膜付きガラスにおいて、酸化物の原料溶液として平均分子量が異なる2種類の前駆体ゾル、例えば、平均分子量が数1000と数10万であるような前駆体ゾルを混合したコーティング溶液を被膜、加熱成形して薄膜とする際に前駆体ゾルの混合割合の制御によって表面に細孔を特異に発現させた反射防止膜付きガラスもある(特開平5−147976号公報)。
【0019】
一方、ナノメータースケールの薄膜を溶液から形成する方法として、交互積層法が提案されている。交互積層法は、G.Decherらによって1992年に発表された有機薄膜を形成する方法である(Thin Solid Films, 210/211, p831(1992))。この方法では、正電荷を有するポリマー電解質(ポリカチオン)と負電荷を有するポリマー電解質(ポリアニオン)の水溶液に、基材を交互に浸漬することで基板上に静電的引力によって吸着したポリカチオンとポリアニオンの組が積層して複合膜(交互積層膜)が得られるものである。
【0020】
交互積層法は積層する回数により、形成したい膜厚を調整することが可能である。例えば一回あたりの積層で10nm程度の膜成長が観測されれば、100nmを形成したい場合は十回の積層を繰り返せばよい。
【0021】
交互積層法では、静電的な引力によって、基材上に形成された材料の電荷と、溶液中の反対電荷を有する材料が引き合うことにより膜成長するので、吸着が進行して電荷の中和が起こるとそれ以上の吸着が起こらなくなる。したがって、ある飽和点までに至れば、それ以上膜厚が増加することはない。一回あたりの吸着膜厚が薄いため、精度高い膜厚を、積層する回数によって制御することができるという優れた特長をもつので、ナノメータサイズの光学的な薄膜形成には適当な成膜方法と言える。さらに、真空設備も必要とせず、低コストで高精度な薄膜形成方法である。また、チューブ状の基材の内部や織物の繊維や発泡材の内部など、溶液が浸透する部分にはコーティングが可能という、他の方法にない特徴を持っている。
【0022】
M.Rubnerらによって、基板上にポリアクリル酸とポリアリルアミン塩酸塩との交互積層膜を作製した後、pHが調整された塩酸などの酸溶液に浸すことにより、静電吸着した結合部分を部分的に切断して空隙構造をつくるという報告があり(Langmuir 16、p5017−5023(2000))、これを応用した反射防止膜が提案されている(国際公開WO03/082481 A1(2003)、及びNature Materials, Vol1 p59−63(2002))。
【0023】
白鳥らは、このポリマー多孔質膜を型として用い、金属酸化物を化学溶液析出法によって多孔質膜中に析出させたのち、650℃で焼成してポリマー成分を除き、酸化物のみの多孔質膜を形成している(特開2003−301283号公報)。
【0024】
また、微粒子を積層することにより、多孔質膜を形成する方法が提案されている。Y.Lvovらは交互積層法を、微粒子に応用し、シリカやチタニア、セリアの各微粒子分散液を用いて、微粒子の表面電荷と反対電荷を有するポリマー電解質を交互積層法で積層する方法を報告している(Langmuir、Vol.13、(1997)p6195−6203)。この方法を用いると、負の表面電荷を有するシリカの微粒子とその反対電荷を持つポリカチオンであるポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDDA)またはポリエチレンイミン(PEI)などとを交互に積層することで、シリカ微粒子とポリマー電解質が交互に積層された微粒子積層薄膜を形成することが可能である。
【0025】
ここで、屈折率が1.48のシリカ微粒子を積層して空隙を作り、単層で十分な反射防止膜が得られる屈折率である1.22〜1.30の薄膜を作るために必要なシリカ微粒子の体積密度は、ドルーデの理論から、下記のように近似的に求められる(薄膜・光デバイス 著者 吉田貞史、矢嶋弘義 出版社 1994年 東京大学出版会)。
【数2】

【0026】
ゆえに
【数3】

【0027】
(nは薄膜の屈折率、nSiO2はシリカ屈折率=1.48、nは空気屈折率=1、ρはシリカ微粒子の体積密度)
【数4】

【0028】
すなわち、41%〜58%となるようなシリカ微粒子の体積密度が必要である(図3)。しかし、これまでの多孔質膜では、気孔率(空隙率)を上げる、すなわちシリカの体積密度を下げることによってさらに機械的強度が低下するという問題があった。つまり、従来の交互積層法で形成された微粒子積層膜は、微粒子同士が主に水素結合のような弱い静電的引力によって吸着されているために、耐スクラッチ性に劣るという問題があった。
【特許文献1】特開平04−202366号公報
【特許文献2】特開2001−163906号公報
【特許文献3】特開2001−167637号公報
【特許文献4】特開2001−233611号公報
【特許文献5】特開平07−48527号公報
【特許文献6】特開昭57−166337号公報
【特許文献7】特開平05−330856号公報
【特許文献8】特開平05−147976号公報
【特許文献9】国際公開WO03/082481号パンフレット
【特許文献10】特開2003−301283号公報
【非特許文献1】「反射防止膜の特性と最適設計・膜作製技術」、2002年、技術情報協会
【非特許文献2】Macleod,「Thin−Film Optical Filters」,Elsevier, New York(1969)
【非特許文献3】金原ら、「応用物理学選書3 薄膜」、裳華房、(昭和59年)。
【非特許文献4】Thin Solid Films, 210/211, p831(1992)
【非特許文献5】Langmuir 16、p5017−5023(2000)
【非特許文献6】Nature Materials, Vol1 p59−63(2002)
【非特許文献7】Langmuir、Vol.13、(1997)p6195−6203
【非特許文献8】吉田貞史、矢嶋弘義「薄膜・光デバイス」 東京大学出版会 1994年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、基材上にナノメートルサイズの空隙構造を有する薄膜の作製が、常温かつ湿式プロセスで行え、膜厚制御が容易であって、かつ耐スクラッチ性などの機械的特性に優れ、反射防止膜等に用いられる多孔質膜の製造方法を提供するとともに、当該方法により得られた多孔質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明者らは、上記目的を達成するため種々検討したところ、基材を微粒子分散液と、その微粒子の表面電荷と反対電荷のイオン性を有するポリマー溶液とに交互に浸漬する工程において、微粒子分散液中の微粒子の表面電位を制御して、所望の体積密度を有する微粒子積層膜を形成し、次いでこの微粒子積層膜を加熱処理することにより、耐スクラッチ性などの機械的特性に優れ、反射防止膜等に用いることができる多孔質膜が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0031】
すなわち、本発明は、基材上に形成された薄膜(A)を有してなる多孔質膜であって、該薄膜(A)の硬度が0.8GPa以上であり、体積密度が30〜60%である多孔質膜であり、好ましくは、前記薄膜(A)のヤング率が、16GPa以上である。これにより多孔質でありながら耐スクラッチ性に優れる機能性膜を提供できる。
【0032】
また、本発明の多孔質膜は、前記薄膜(A)が微粒子の集合体からなり、この薄膜(A)は微粒子積層膜を加熱処理して得られたものである。薄膜(A)中の微粒子の平均粒子径は10〜100nmであり、特に、反射防止膜などの光学機能膜として用いる場合には、多孔質膜に透明性が求められるため、散乱防止のため多孔質膜中の微粒子の平均粒子径が100nm以下であることが好ましい。
【0033】
また、本発明は、上記のような多孔質膜の製造方法の発明であり、当該製造方法は、基材上に、微粒子とポリマーとを交互に積層することを特徴とする多孔質膜の製造方法であって、微粒子分散液に浸漬する工程と、その微粒子の表面電荷と反対電荷のイオン性を有するポリマー溶液に浸漬する工程とを交互に繰り返すことにより、微粒子積層膜を調製し、次いで、この微粒子積層膜を450〜600℃で加熱する工程を含む多孔質膜の製造方法である。このように450〜600℃で一定時間熱処理をすることにより、微粒子積層膜中に含有する水やポリマーが除去され、微粒子間に分子間力、クーロン引力、共有結合ができるために耐スクラッチ性などの良好な機械的特性が得られる。
【0034】
さらに、この製造方法において、前記微粒子分散液に含まれる微粒子の平均一次粒子径は、10〜100nmであることが好ましく、特に、透明性を得るためには光が散乱しない100nm以下の範囲の微粒子径を用いることが好ましい。また、前記微粒子分散液に含まれる微粒子が、図4に示すような数珠状に連なった形状の微粒子であるとより好ましい。数珠状になっていると、立体的な障害により、他の数珠状微粒子や反対電荷を有するポリマーが空間を占めることができず、その結果、より空隙率の高い低屈折率膜が容易に形成できるからである。微粒子としては、多孔質膜の用途に応じて選択され、例えば、反射防止膜のときはシリカ、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化ナトリウムなどの屈折率が小さい化合物が用いられる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の多孔質膜は、耐スクラッチ性などの機械的特性に優れるものである。また、本発明の多孔質膜の製造方法は、交互積層法で形成した微粒子積層膜を、熱処理するだけで、耐スクラッチ性に優れた多孔質膜付き基板を製造できるため、常温かつ湿式プロセスで行え、ナノメートルレベルの膜厚制御が可能であり、量産性に優れる製造方法である。さらに、積層条件や積層回数を変えることにより、微粒子積層膜の体積密度や膜厚を任意に制御できるため、反射率のスペクトルのような光学的特性を制御することも容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明者らは、微粒子分散液と反対電荷を有するポリマー電解質溶液に、交互に浸漬することによって基材上に静電的引力によって形成される微粒子とポリマー電解質との交互積層膜である微粒子積層膜において、微粒子積層膜を形成後に所定の温度で熱処理することにより、光学特性を維持したまま、耐スクラッチ性などの機械的特性を向上させるという発明に至った。また、本発明の微粒子積層膜を加熱処理して得られる薄膜(A)は薄膜中で微粒子が占める体積密度が30〜60%のものであり、このような体積密度を有する薄膜(A)ひいては微粒子積層膜を形成するには、微粒子とポリマーとを相互に積層する工程において、使用する微粒子分散液における微粒子の分散状態を制御する必要がある。以下、本発明の製造方法、使用する材料について順次説明する。
【0037】
(1)電気二重層
液体中に分散している粒子の多くは、プラスまたはマイナスに帯電している。電気的に中性を保とうとして粒子表面の液体中には、粒子とは逆の符号を持つイオンが集まってくる。そのようなイオン群が、粒子表面を取り巻いて球殻状に集まり、荷電を持った層を、反対荷電を持った層が取り巻くことになる。このような状態は、「電気二重層」と表現される。
【0038】
液体中のイオン層のイオン分布は熱運動のために攪乱されている。そのため、表面近傍では反対荷電の濃度が高く、遠ざかるにつれて次第に低下する。粒子と同荷電のイオンは、逆の分布を示し、粒子から充分に離れた領域では、プラスのイオンの荷電とマイナスのイオンの荷電が相殺して、電気的中性が保たれる。上記のコンデンサー型の二重層に対して、液体中において現実に見られるものは、「拡散電気二重層」と呼ばれ、反対荷電のイオン分布が、表面から離れるにつれて、次第にぼやけてゆくような電気二重層である。
【0039】
内側の粒子表面のイオン分布は、「拡散層」と呼ばれる。また微粒子表面から直ちに、拡散層が始まっているとは限らず、一部のイオンが強く表面に引き寄せられて、固定されている場合が多く、この層を「固定層」と呼ぶ。
【0040】
液体中に分散された粒子は、多くの場合に荷電を持ち、そして、粒子の分散状態の安定性は、しばしば荷電状態によって、左右される。粒子は、「固定層」そして「拡散層」の内側の一部を伴って移動すると推定でき、この移動が起こる面を「滑り面」と呼んでいる。
【0041】
粒子から充分に離れて電気的に中性である領域の電位をゼロと定義すると、「ゼータ電位」は、このゼロ点を基準として測った場合の、「滑り面」の電位と定義されている。微粒子の場合、ゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発力が強くなり粒子の安定性は高くなる。逆に、ゼータ電位がゼロに近くなると、粒子は凝集しやすくなる。そこで、ゼータ電位は分散された粒子の分散安定性の指標として用いられる(北原文雄、古澤邦夫、尾崎正孝、大島広行、「Zeta Potentialゼータ電位:微粒子界面の物理化学」、サイエンティスト社、1995)。
【0042】
(2)ゼータ電位の測定方法
帯電した粒子が分散している系に、外部から電場をかけると、粒子は電極に向かって泳動するが、その速度は粒子の荷電に比例するため、その粒子の泳動速度を測定することによりゼータ電位が求められる。
【0043】
例えば、電気泳動光散乱測定法は別名レーザードップラー法と呼ばれ、「光や音波が動いている物体に当たり反射または散乱すると、光や音波の周波数が物体の速度に比例して変化する」というドップラー効果を利用して粒子の泳動速度を求めている。電気泳動している粒子にレーザー光を照射すると粒子からの散乱光は、ドップラー効果により周波数がシフトする。シフト量は粒子の泳動速度に比例することから、このシフト量を測定することにより粒子の泳動速度がわかる。
【0044】
実際に、屈折率(n)の媒体(液)に分散した試料に、波長(λ)のレーザー光を照射し、散乱角(θ)で検出する場合の、泳動速度(V)とドップラーシフト量(Δν)の関係は次式で表される。
【数5】

【0045】
[n:媒体(液)の屈折率、θ:検出角度]
ここで得られた泳動速度(V)と電場(E)から電気移動度(U)が求められる。
【数6】

【0046】
電気移動度(U)からゼータ電位(ζ)へは、次式のSmoluchowskiの式を用いて求められる。
【数7】

【0047】
[η:媒体(液)の粘度、ε:媒体(液)の誘電率]
このようにして、泳動している粒子からの散乱光を観測することによって、ゼータ電位が求められる。このようにして求められるゼータ電位は微粒子の表面電位を反映するものであるため、ゼータ電位を大きくすると、微粒子間の静電的な斥力により分散性が良くなる一方、交互積層法で用いる場合は、それと反対電荷を有する基材が存在すると、表面との引力が大きくなるため空隙率の高い膜が形成されにくくなり、すなわち充填の状態が緻密な膜となってしまうために、本発明の目的には好ましくない。したがって、ゼータ電位の絶対値を低く制御することで基材表面に微粒子が緻密に充填されて積層されるのを防ぐことができ、より具体的には、1〜45mVの範囲内に抑えることが好ましい。さらに低く、1mVより低くすると媒体(液)の微粒子分散性が悪くなり、沈殿が起こり、さらに電荷が0に近づくために基材との引力が発生せず、吸着も起こらないため好ましくない。
【0048】
(3)表面電位の制御方法
表面電位を制御する方法は、ゼータ電位を制御することと等価と考えると、ゼータ電位に与える因子を考える必要がある。微粒子表面の拡散電気二重層の厚さを1/κで表すと、この厚さは表面電荷と対イオン(電解質イオン)の間の引力が、それをかき乱そうとする熱運動とつりあう距離である。ここで、κはDebye−Huckelのパラメータと呼ばれ、イオン価zの電解質の場合、
【数8】

【0049】
で表される。ここで(k)=Boltzmann定数、(ε)=真空の誘電率、(ε)=媒体(液)の比誘電率、(T)=絶対温度、(e)単位電荷である。(n)は電解質の数密度で単位は(m−3)である。(n)をアボガドロ数(N)で表すと、n=1000N×濃度(C)となる。この式から、分母に注目すると、電解質濃度、あるいは価数zを上げると拡散電気二重層の厚みが薄くなり、さらにこの式の分子に注目すると、温度Tを上げれば熱運動が活発になって拡散電気二重層は厚くなることを意味する。つまり電解質を加えることによって電気二重層の厚みが薄くなることを意味する。
【0050】
表面電位と電気二重層との関係は、次のような関係式で関連付けられる。つまり、表面電荷密度σによって、媒体(液)中では電場σ/εεが生じる、したがって、電気二重層の厚み(1/κ)の距離を隔てると、電場×距離=(σ/εε)×(1/κ)=(σ/εεκ)の電位差ができる。このことから表面電位(φ)は次式で表される。
【数9】

【0051】
この式から、微粒子の表面電位とゼータ電位を下げるためには、分母のDebye−Huckelのパラメータ1/κを下げる(κを大きくする)、すなわち電気二重層を薄くする、さらに言い換えれば電解質濃度を上げることと、溶液の誘電率(ε)を上げ、分子の電荷密度を下げればよいことが分かる。
【0052】
水の誘電率(ε)より高い媒体(液)は一般的ではないため分散液の誘電率を上げることは困難である。したがって、表面電位を下げる方法としては、電解質を加える(電解質濃度を上げる)のが好ましい。電解質としては、水または水、アルコール混合溶媒などに溶解するものであれば限定されるものではないが、アルカリ金属およびアルカリ土類金属、四級アンモニウムイオンなどとハロゲン元素との塩、LiCl、KCl、NaCl、MgCl、CaClなどが用いられる。本発明では、電解質の濃度は0.01〜0.25M(=mol/リットル、以下同じ)程度とすることが好ましい。電解質を0.25Mより多く加えると、表面電位が下がりすぎて分散性が悪くなり、凝集などにより微粒子の沈殿が起こる。
【0053】
また、表面電位は、pHによっても制御できる。なぜなら、粒子表面にある解離基の解離(イオン化)度はpHによって影響を受けるからである。例えば微粒子表面にカルボキシル基(−COOH)や表面水酸基(−OH)がある場合は、pHを上げるとイオン化してカルボキシレート陰イオン(−COO)または水酸化物イオン(−O)となるため、電荷密度σは上がる。一方、アミノ基(−NH)がある場合はpHを下げるとアンモニウムイオン(−NH)となり電荷密度が上がる。すなわち、高いpH領域、及び低いpH領域で電荷密度の上昇がある。したがって、本発明では微粒子分散液のpHを3〜9の範囲内にすることで、アニオン、カチオンいずれについても、電荷密度σの上昇が抑制され、結果として表面電位、さらにはゼータ電位を低く制御することができ、基材表面に微粒子が緻密に充填されて積層されるのを防ぐことができる。
【0054】
(4)微粒子材料
本発明に用いる微粒子分散液に分散されている微粒子は、多孔質膜の用途により選択されるが、一般的に、光学的に透明な微粒子であって、微粒子の粒子径が10nm以上、100nm以下であることが好ましい。10nm以下であると膜成長に時間がかかりすぎるし、100nm以上であると、膜厚の制御がしにくく、また光を散乱しやすくなる。また、粒子径のばらつきが10nm以下であることが好ましい。吸着した粒子の大きさのばらつきが、膜厚のばらつきに影響し、光学的なムラとなる可能性があるからである。
【0055】
微粒子としては、無機系の微粒子を用いることができる。例えば、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化アルミニウム(AlF)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、シリカ(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニア(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化ニオブ(Nb)、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、セリア(CeO)、酸化イットリウム(Y)、酸化ビスマス(Bi)、等が挙げられ、これらは単独で又は二種類以上を混合して使用することができる。
【0056】
多孔質膜を低反射膜のように低屈折率の多孔質膜を目的とする場合には、上記の無機微粒子の中でも屈折率を下げられる点でバルクの屈折率が1.48と比較的低いシリカ(SiO)が好ましく、粒子径を10nmから100nmのように制御した水分散コロイダルシリカ(SiO)が最も好ましい。このような無機微粒子の市販品としては、例えば、スノーテックス、スノーテックスUP(日産化学工業社製)等が挙げられる。より高い空隙率を得るためには、基本となる微粒子が、多孔質となっている微粒子や、図4に示されるように数珠状に連なった粒子形状を含有するものがより好ましい。市販されているものとしては、スノーテックスPSないしスノーテックスUPシリーズ(日産化学工業社製)や、ファインカタロイドF120(触媒化成工業社製)で、パールネックレス状シリカゾルがある。
【0057】
さらに、上記のような無機微粒子は、粒子表面に存在する水酸基が脱水縮合することで結合し、耐スクラッチ性がより向上することができるという点でも好ましいものである。
【0058】
(5)微粒子分散液
本発明で用いる微粒子分散液は、上述の微粒子が、水または、水と水溶性の有機溶媒のような混合溶媒である媒体(液)に分散されたものである。水溶性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリルなどがあげられる。この微粒子分散液中の微粒子の表面電位を示すゼータ電位はその絶対値が1〜45mVの範囲に制御されていることが好ましく、ゼータ電位の制御は、前述のように微粒子分散液のpHの調整や微粒子分散液に電解質を添加することなどによって達成できる。
【0059】
また、微粒子分散液を調製する際に、分散性を改善するために、いわゆる分散剤を用いることができる。このような分散剤としては、界面活性剤やイオン性ポリマーあるいは非イオン性ポリマーなどを用いることができる。これらの分散剤の使用量は、用いる分散剤の種類によって異なるものであるが、一般に0.1%(重量)以下程度であることが好ましく、多すぎるとゲル化・分離を起こしたり、分散液中で微粒子が電気的に中性となり、積層膜が得られなくなる。
【0060】
また、微粒子分散液においては、微粒子分散液のpHは3〜9程度であることが好ましい。pHの調整は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ性水溶液または塩酸、硫酸などの酸性水溶液で、行うことができ、また、分散剤によってもpHを調整することができ、さらに、加える電解質(例えば、強酸と弱塩基や弱酸と強塩基の組み合わせの塩など)によってもpHを調整することができる。微粒子分散液のpHが9よりも大きいか、あるいは3未満であると、反対の電荷を持つポリマーが吸着された基材との静電的引力が強くなり、微粒子が緻密に充填された膜となるか、あるいは基材との静電的引力が働かない上に、分散液の微粒子同士の斥力が低下することにより凝集を起し、微粒子の凝集体が沈殿して微粒子が基材上に積層されないようになる傾向がある。
【0061】
また、微粒子分散液中に占める微粒子の割合は、通常0.01〜10%(重量)程度が好ましく、微粒子の分散は公知の方法によって行うことができる。
【0062】
(6)イオン性ポリマー溶液
この発明で使用するイオン性ポリマー溶液は、微粒子の表面電荷と反対または同種の電荷のイオン性ポリマーを、水または水と水溶性の有機溶媒の混合溶媒に溶解したものである。使用できる水溶性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリルなどがあげられる。このイオン性ポリマー溶液は微粒子積層膜の形成や下地層の形成などに用いられる。
【0063】
イオン性ポリマーとしては、荷電を有する官能基を主鎖または側鎖に持つ高分子を用いることができる。この場合、ポリアニオンとしては、一般的に、スルホン酸、硫酸、カルボン酸など負電荷を帯びることのできる官能基を有するものであり、たとえば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニル硫酸(PVS)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリマレイン酸、ポリフマル酸などが用いられる。また、ポリカチオンとしては、一般に、4級アンモニウム基、アミノ基などの正荷電を帯びることのできる官能基を有するもの、たとえば、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)、ポリビニルピリジン(PVP)、ポリリジン、ポリアクリルアミドおよびそれらを少なくとも1種以上を含む共重合体などを用いることができる。これらのイオン性ポリマーは、いずれも水溶性あるいは水と有機溶媒との混合液に可溶なものであり、イオン性ポリマーの分子量としては、用いるイオン性ポリマーの種類により一概には定めることができないが、一般に、20,000〜200,000程度のものが好ましい。なお、溶液中のイオン性ポリマーの濃度は、一般に、0.01〜10%(重量)程度が好ましい。また、イオン性ポリマー溶液のpHは、特に限定されない。
【0064】
(7)基材
基材としてはガラス、シリコンなどの半導体、金属、無機酸化物等、極端に疎水性、撥水性のものまたは表面にそのような膜がコートしてあるもの以外であれば全ての固体基材に適応できる。形状はシート、板、曲面を有する形状、筒状、糸状、繊維、発泡材など浸漬して水が入り込むことができるものであれば限定されない。この低屈折率膜を反射防止膜として機能させるためには透明基材が望ましい。LCDディスプレイに用いる偏光板に反射防止機能を付与することもでき、シリコン太陽電池のカバーガラスの反射防止膜としても用いることができる。集光性を得るためにレンズ形状が形成されている基材も含まれる。
【0065】
本発明の微粒子積層膜はこのような基材上に形成されるものであるが、このような透明基材に形成された反射防止膜(微粒子積層膜)の反対側の基材面に粘着剤層が形成されており、被着体としてのディスプレイ表面のガラス基板などに貼り付けて、反射防止膜が空気と面するよう用いることもできる。
【0066】
(8)微粒子積層膜の作製方法
まず、前述のような基材をそのまま用いるか、またはそれらの表面にコロナ放電処理、グロー放電処理、プラズマ処理、紫外線照射、オゾン処理、アルカリや酸などによる化学的エッチング処理、シランカップリング処理などによって極性を有する官能基を導入して基材の表面電荷をマイナスもしくはプラスにする。
【0067】
また、基材表面へ電荷を効率よく導入する方法としては、強電解質ポリマーであるポリカチオン系のPDDAやPEIとポリアニオン系のPSSの交互積層膜を形成することによっても可能である(Advanced Material.13,51−54(2001))。すなわち、このような表面に荷電を有する固体基板を2種類のポリマーイオン溶液(ポリカチオンとポリアニオン)に交互に浸し、ポリマーイオンの薄膜を固体基板上に作製する。表面電荷がマイナスであれば、はじめにカチオン性の溶液に浸漬し、次いで、アニオン性の溶液に浸漬し、必要に応じこれを交互に続けて交互積層膜を形成する。用いるポリマーイオン溶液の濃度、pHの条件および浸漬時間、繰り返し数などの製造条件は、積層したい膜厚によって前記(6)と同様にして適時調整する。また、反対電荷を有する溶液に浸漬する前に溶媒のみのリンスによって余剰の溶液を洗い流すことが好ましい。このような基材に微粒子積層膜を形成するための下地層となるポリマーイオンの交互積層膜としては、1〜5nm程度の膜厚であり、積層回数(カチオンとアニオンの組み合わせを1回とする)は、2〜5回程度であることが好ましく、これにより、その後に積層する微粒子積層膜の均一性の向上が図られる。
【0068】
次いで、このような表面に荷電を有する固体基板を、微粒子分散液と微粒子の表面電荷と反対の電荷を有するポリマーイオン溶液(ポリカチオンあるいはポリアニオン)に交互に浸し、微粒子積層膜の薄膜を固体基板上に作製する。基材の表面電荷が、微粒子の表面電荷と反対の電荷であるときは、微粒子分散液への浸漬から始め、微粒子の表面電荷と同種の時は、イオン性ポリマー溶液への浸漬から始め、必要とする膜厚を得るまで微粒子分散液とイオン性ポリマー溶液への浸漬を繰り返す。最後の浸漬は通常、イオン性ポリマー溶液への浸漬とし、微粒子の吸着を確実なものとする。浸漬時間は用いる微粒子やイオン性ポリマーの種類、積層したい膜厚によって適宜調整する。
【0069】
微粒子分散液あるいはイオン性ポリマー溶液に浸漬後、反対電荷を有する微粒子分散液あるいはイオン性ポリマー溶液に浸漬する前に媒体(液)あるいは溶媒のみのリンスによって余剰の媒体(液)や溶液を洗い流すことが好ましい。このようなリンスに用いるものとしては、水、アルコール、アセトンなどがあるが、通常、過剰なイオンの除去の点から、比抵抗値が18MΩ・cm以上のイオン交換水(いわゆる超純水)が用いられる。静電的に吸着しているために、このリンスの工程で剥離することはない。また、反対電荷の媒体(液)または溶液に、吸着していないポリマーイオンまたは微粒子を持ち込むことを防ぐためにリンスを行ってもよい。これをしない場合は、持ち込みによって媒体(液)や溶液内でカチオン、アニオンが混ざり、微粒子の凝集や沈殿を起こすことがある。また、各溶液に浸漬する前に乾燥を行っても良い。乾燥方法は熱風、ドライエアや窒素などをエアナイフで吹き付ける方法や電熱炉、赤外線炉を通すなど、公知の方法を用いることができる。
【0070】
微粒子分散液またはイオン性ポリマー溶液に浸漬することにより、形成される膜厚は、例えば、積層膜を水晶振動子の上に形成し、その周波数の変化をモニターすることや、得られた積層膜をSEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)やAFM(原子間力顕微鏡)などで観察することにより求めることができる。
【0071】
図5は、微粒子分散液として、スノーテックスPS−Sの水分散液(STps−s)と、ポリマー溶液としてポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDDA)とを用いて、水晶振動子上に微粒子積層膜を形成した時の、トータルの浸漬時間と周波数の変化量を示したグラフであり、上側の曲線は、電解質としてNaClを加えて塩化ナトリウム濃度を0.25モル/リットルとした場合であり、下側の曲線は電解質を添加しない場合(塩化ナトリウムイオンのような電解質濃度は0.01モル/リットル未満)の結果を示している。このグラフから、いずれの場合も微粒子分散液(STps−s)に浸漬した時に、大きな周波数の変化があり、その後飽和していること、またこれに続くポリマー溶液(PDDA)への浸漬では、大きな周波数の変化はないことがわかる。なお、SEM(走査型電子顕微鏡)などの結果から、周波数の変化は、1000Hzが膜厚20〜25nmに相当するものである。すなわち、図5においては、1回の微粒子分散液とイオン性ポリマー溶液との浸漬により、電解質を添加した場合には、30〜36nm程度、また電解質を添加しない場合には、15〜18nm程度の膜厚が得られ、電解質を添加すると形成される膜厚が、電解質を添加しない場合の約2倍程度大きくなることがわかる。すなわち、1回の微粒子分散液とイオン性ポリマー溶液との浸漬により得られる膜厚は、電解質の有無の他、用いる微粒子の大きさや分散液中における微粒子濃度などによって異なるものとなるが、一般に、10〜40nm程度の膜厚が得られることから、微粒子積層膜の膜厚は、浸漬時間と繰り返し数とで制御できることがわかる。なお、電解質を添加すると1回に形成される膜厚が増加することから、その分繰り返し数を減らすことができ、プロセスを簡略化できることはいうまでもないことである。
【0072】
製造装置としてはディッパーと呼ばれる交互積層装置を用いても良い。上下左右に動作するロボットアームに基材を取り付け、プログラムされた時間に、基材をカチオン性溶液に漬け、続いてリンス液に漬け、続いてアニオン性溶液に漬け、またリンス液に漬ける。この工程を1サイクルとして、積層したい回数分を連続的に自動的に行うことができる。そのプログラムは2種類以上のカチオン性物質、アニオン性物質を用いた組み合わせをしてもよい。例えば、最初の2層分はポリジメチルジアリルアンモニウム塩化物とポリスチレンスルホン酸ナトリウムの組み合わせ、続く10層はポリジメチルジアリルアンモニウム塩化物とアニオン性シリカゾルの組み合わせを用いることができる。
【0073】
(9)熱処理
次いで、上記のようにして調製した微粒子積層膜を、450〜600℃の温度、好ましくは、500〜600℃、さらに好ましくは、550〜600℃で加熱処理を行う。加熱時間は10分〜2時間程度であり、好ましくは30分〜1時間である。もちろん、加熱温度と加熱時間との関係は、相対的なものであり、処理温度を低くした場合には、その分長い時間にわたって処理を続けることで目的を達成できることはいうまでもない。また、加熱処理の雰囲気に制限はなく、空気中のような酸化性の雰囲気、窒素中のような不活性な雰囲気、あるいは水素などを含む還元性雰囲気であっても差し支えない。加熱方法にも制限はなく、オーブン、誘導加熱装置、赤外線ヒータのような加熱手段ないしは加熱装置を用いて行うことができる。微粒子積層膜の加熱処理により微粒子積層膜中に含有する水やポリマーが除去されるとともに、微粒子間に分子間力、クーロン引力、共有結合が生じ、耐スクラッチ性などの機械的特性の向上が図られる。この工程により、微粒子積層膜は本願でいう薄膜(A)に転換される。加熱温度が450℃未満では微粒子間の縮合が起こらないために十分な膜硬度が得られず、また、600℃以上では微粒子が溶融、融着することにより、多孔質構造がなくなる傾向がある。図6に、加熱処理温度によるシリカ微粒子間の結合の様子を示した概念図を示した。
【0074】
(10)多孔質膜
このようにして微粒子積層膜を調製し、得られた微粒子積層膜を熱処理して多孔質膜を製造すると、すなわち微粒子積層膜から調製された薄膜(A)中で微粒子が占める体積密度が30〜60%程度の多孔質膜が得られる。また、薄膜(A)の硬度が0.8GPa以上の多孔質膜が得られる。さらに、薄膜(A)のヤング率が16GPa以上の多孔質膜が得られる。
【0075】
多孔質膜を反射防止膜として用いるため、微粒子としてシリカを用いた場合には、体積密度が30〜60%、好ましくは41〜58%の低屈折率薄膜とすることができ、これにより屈折率1.30以下の低屈折率の薄膜を得ることができる。上記の方法であると1.22〜1.30のものが作りやすい。屈折率としては、ガラスなどの基板上の反射防止機能付与の観点で1.22〜1.28が好ましく、1.22〜1.27がより好ましく、1.22〜1.26がさらに好ましく、1.22〜1.25が最も好ましいものであり、体積密度としては、同様な観点から41〜55%がより好ましく、41〜50%がさらに好ましいものとなる。
【0076】
このような微粒子積層膜から得られた薄膜(A)は、薄膜(A)中で微粒子が密着することなく一定の空隙をおいて積層していることから、ここでいう体積密度とは、薄膜(A)中の空隙部の体積と微粒子自体が占める体積の合計に対する微粒子自体が占める体積をいい、微粒子自体が占める体積であるから、例えば、微粒子が多孔質の場合や中空の場合には、微粒子内の空隙部は、薄膜(A)中の空隙部の体積に算入される。図3は、シリカの場合の体積密度と屈折率との関係を示すグラフである。すなわち、本発明の薄膜(A)では、微粒子積層膜の調製において、微粒子分散液のpHなどで、分散微粒子のゼータ電位を調整することにより、微粒子の吸着量や吸着密度を制御し、微粒子の体積密度を所定の範囲にすることで、所望の屈折率を得ることができる。なお、好ましい体積密度は、用いる微粒子自体の屈折率により変化するものではあるが、低屈折率の反射防止膜を目的に、微粒子としてシリカを用いる場合については、41〜58%の体積密度の範囲が好ましいことは上述したとおりである。
【0077】
微粒子積層膜中の体積密度は、例えば、水晶振動子を用いて、振動数の変化に基づく積層された微粒子の重量と、電子顕微鏡などにより測定される積層された膜厚との関係から計算によって大まかに求めることができる。また、薄膜(A)の膜厚が1μm程度のものであれば、通常の多孔質物質の細孔率や細孔分布を求めるようなガス吸着による方法によっても求めることができる。
【0078】
しかしながら、本発明においては、薄膜(A)の厚さが全体として、10〜200nm程度であり、特に、反射防止膜として利用する場合には、膜厚は80〜120nm、単層での反射率を考慮すると、好ましくは90〜110nm程度のものであり、しかもイオン性ポリマーの積層により得られる膜厚が、1nm以下程度であって、微粒子の積層によって得られる膜厚(通常、10〜40nm)に比べて極めて薄いことから、このイオン性ポリマーを考慮することなく、微粒子積層膜の測定された屈折率と、微粒子を構成する物質自体(すなわち、バルク)の屈折率および空気の屈折率とから、ドルーデの理論の式(数2)により算出した値ρを体積密度として用いることにした。微粒子がシリカの場合については、図3に示してあるとおりであるが、シリカ以外の微粒子を用いる場合も同様にして求めることができる。
【0079】
また、この薄膜(A)は、特に、低屈折率の反射防止膜として用いる場合には、可視光が散乱しない空隙構造を有していることが必要となる。可視光が散乱しない空隙構造とは、面内にわたり、均一で可視光が散乱しないものであり、構造的にいえば、散乱の原因となる100nmを超える大きさの空隙部分や100nmを超える大きさの微粒子が存在していないことをいい、特性的にいえば、例えば、入射光の透過光と散乱光の割合を示すヘイズ値が、1%以下であることを示す。具体的には、JIS K7105もしくはJIS K7136のいずれかに準拠したヘイズ値が1%以下の透明基材上に製膜した薄膜(A)付きの基材のヘイズ値が2%以下であることが好ましい。
【0080】
さらに、このような低屈折率である薄膜(A)の特徴は、反射率の波長依存性が少なく、100nm〜120nmの膜厚をガラス基板上に形成すると、可視光領域といわれる400nm〜800nmの全範囲で4%以下の表面反射率が得られる。微粒子積層膜中の粒子の集まり方は、粒子同士がほぼ点接触するように空隙を有しながら3次元的に積み重なっている。色は膜厚によって変化するが、100nm〜120nmの膜厚を平滑な透明ガラス基板上に形成すると、反射色は暗い紫色を示す。ヘイズ値は1.0%以下のものが得られる。
【0081】
(11)多孔質膜の硬度の測定
多孔質膜である薄膜(A)のような、薄膜の硬度を測定するには、ナノインデンターを用いる。ダイヤモンドチップから成る三角錐(バーコビッチ型)の圧子を薄膜に膜厚以下の所望の深さまで押し込み、その後圧子を引き上げる。その際の圧子にかかる荷重を測定する。図7にバーコビッチ圧子と試料の接触の様子を示す。図8に弾性/塑性変形物質の典型的な荷重−変位曲線の熱溶融石英を例に示す。この荷重−変位曲線を以下に述べるように解析することで、薄膜の硬度とヤング率を求めることができる。
【0082】
接触深さhは図7に示すように接触点の周辺表面の弾性へこみにより、全体の押込み深さhより浅くなるのが普通である。つまり、
【数10】

【0083】
ここで、Pは最大加重、εは圧子形状に関係する定数で、バーコビッチでは0.75、Sは圧子と試料間の接触剛性(図8の除荷曲線の傾き)である。
【0084】
次に、圧子と試料間の接触射影面積Aは押込み深さhと圧子の形状を考慮し、次式で与えられる。
【数11】

【0085】
ここで、f(h)は圧子の曲率により求められる補正項である。
【0086】
上式から求めた接触射影面積Aと最大荷重Pから、硬さHは次式で算出される。
【数12】

【0087】
次に、ヤング率は以下のようにして求めることができる。まず圧子と試料の剛性モジュラスEは、図8の荷重−変位曲線から決定される接触剛性Sと試料間の接触射影面積Aとから、次式により決定される。
【数13】

【0088】
そして、試料のモジュラス(ヤング率)Eは次式で算出される。
【数14】

【0089】
ここで、Eは圧子のモジュラス、νは圧子のポアソン比、νは試料のポアソン比である。
【0090】
(12)オーバーコート膜
多孔質膜は、外部に直接触れない部分に用いる場合は良いが、例えば、ディスプレイなどの表面に用いる場合には、水や油脂成分などの汚れを防止するための防汚性やその他の機能性を持たせるために、オーバーコート層を形成して用いることもできる。オーバーコート層の厚さは、光学的に影響を与えないようにするためには20nm以下にする必要がある。代表的には、フッ素系ポリマーを溶液として塗布し40℃以上の温度で熱処理してコーティングする方法があげられる。フッ素系ポリマーとしては、例えば、テフロンSF(デュポン社製)等を用いることができ、溶媒としてはフッ素系溶媒、例えばフロリナートCF−75(3M社製)を使用でき、溶液の濃度としては、0.1〜5重量%が好ましい。また、その他のオーバーコート剤としては、アルコキシ基を持ったパーフルオロシラン類フッ素化合物などの表面コーティング剤がある。シラン化合物はゾルゲル反応と同じく、加水分解により脱水や脱アルコールによる重縮合が起きてネットワーク化する。微粒子にシリカを用いた場合は表面にシラノール基が存在するので、直接コートしても分子間結合をする。これらは最初にアルコキシ基が表面のシラノール基と反応して脱アルコールして固定化され、さらにその後空気中の水分などによって加水分解が進み、縮合によって三次元的に結合したシロキサン結合ができて強固さが増し、表面の摩擦や磨耗等の機械的な耐久性に優れた特性を持つ。また、表面にフッ素を主成分とする疎水基が存在するため高い撥水性を示すため好ましい。このようなコーティング剤の代表的なものとして、オプツールDSX(ダイキン社製)、デュラサーフDS5000(ハーベス社製)、ノベックEGC−1720(住友スリーエム社製)などがある。
【0091】
オーバーコート膜の形成方法は、ロールコートやスピンコート、ディップコートなどのウエットプロセスや、蒸着法、スパッタ法などのドライプロセス、またそれらを組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明の多孔質膜について、シリカを用いた低屈折率薄膜である反射防止膜に用いられる多孔質膜について、実施例によりさらに詳しく説明する。
【0093】
実施例1
材料として、ポリカチオンである、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDDA、平均分子量100000、アルドリッチ社製)とポリアニオンであるポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS、平均分子量70000、アルドリッチ社製)、微粒子分散液として、シリカ微粒子水分散液(ST−PS−S、日産化学工業社製、コロイダルシリカ、スノーテックスPS−S、パールネックレス状シリカゾル)を用いた。
【0094】
ST−PS−Sは、分散性を保持するために、pHが10に調整されている。そこで、本実施例では、重量濃度を調整した後に、1モル/リットルの塩化水素水溶液を滴下して、pHを9に調整して用いる。
【0095】
まず、基材に電荷を効率よく付与するための下地層としてPDDAとPSSの交互積層膜を形成する。基材の片面をマスキングテープで覆い、基材のもう一方の面にのみ下地層と微粒子積層膜からなる交互積層膜を形成させる。溶液としては0.3重量%のPDDA水溶液と0.3重量%のPSS水溶液を調製する。次に、BK−5ガラス基板(マツナミ社製、25mm×75mm×0.7mm厚)を(ア)PDDA水溶液に5分間浸漬した後、リンス用の超純水(比抵抗18MΩ・cm)に3分間浸漬し、(イ)PSS水溶液に5分間浸漬し、リンス用の超純水に3分間浸漬した。(ア)と(イ)の工程を順番に行う工程を1サイクルとして、このサイクルを2回繰り返し、ガラス基板上にPDDAとPSSの交互積層膜を2層積層した。この工程によって、基板表面の電荷密度を均一にすることができ、ムラなく微粒子が吸着する効果がある。
【0096】
続いて、微粒子積層膜の成膜工程を説明する。溶液としては0.3重量%のPDDA水溶液と1重量%、pH=9のST−PS−S水溶液を調製する。微粒子水分散液のゼータ電位を測定したところ、−36mVであった。なお、ゼータ電位の測定は、DELSA 440SX(ベックマン・コールター社製)を用い、定電流値0.7〜1.0mAで行った。これらの液に交互に浸漬してPDDAとシリカ微粒子が交互に積層された微粒子積層膜を得る。その手順は、前述の下地層の最表面がPSSであるため、まず反対電荷のカチオンである(ウ)PDDA水溶液に1分間浸漬し、リンス用の超純水に3分間浸漬し、(エ)1重量%のシリカ微粒子水分散液ST−PS−Sに1分間浸漬した後、リンス用の超純水に3分間浸漬する。(ウ)と(エ)の工程を順番に行う工程を1サイクルとして、このサイクルを8回繰り返した。
【0097】
次にマッフル炉(ヤマト科学社製FP31)を用いて得られた微粒子積層膜を600℃で加熱処理を行う。マッフル炉内の床面にまず厚さ0.5mmのステンレスからなるスライド立て(150mm×82mm×22mm)を置き、このスライト立ての上に厚さ3mmのステンレス板(150mm×200mm)を炉内床面と平行になるようにのせた。この厚さ3mmのステンレス板をマッフル炉内の床面に直接のせず、それらの間にスライドガラスを立てるためのスライド立てを挟むのは、ステンレス板とマッフル炉内の床面との熱伝導を妨げるためである。マッフル炉内温度が600℃になってから1時間経過した後に、微粒子積層膜が形成されたガラス基板をステンレス板の上に、微粒子積層膜面とステンレス板とが接触するようにのせた。その1時間後にこのガラス基板をマッフル炉から取り出し、速やかに空冷した。
【0098】
このガラス基板の透過スペクトルを、可視紫外分光光度計(日立製作所社製)にて測定したところ、波長400〜800nmの範囲での最大の透過率は約95%となり、また、裏面からの反射を無視できるように裏面に黒いテープを貼り付けし、5°入射により可視紫外分光光度計(日立製作所社製)にて反射スペクトルを測定したところ、反射率(表面反射率)は0.2%であった。ただし、標準ミラーとしてはシリコンを用い、その反射率は文献値(D.E.Aspnes and J.B.Theeten, J.Electrochem.Soc. Vol.127, p1359 (1980))を用いた。サンプルの標準ミラーに対する相対反射率からサンプルの絶対反射率を計算している。使用した基材のガラス基板の波長400〜800nmの範囲での透過率は91%であり、表面反射率は4%であることから、ガラス基板上に優れた特性の反射防止膜が形成されたことになる。
【0099】
また、500gのおもりの底面に平滑なガラス基板(25mm×75mm×0.7mm厚)を接着剤で固定し、このガラス基板のおもりとは反対側の面と、薄膜(A)が形成されたガラスを薄膜(A)とは反対側の面とを貼りあわせた。次いで、おもりに固定された薄膜(A)付きガラスを、平滑な面上に固定したスチールウール(日本スチールウール社製、#0000)の上に、薄膜(A)がスチールウールと向い合うように置き、おもりに固定された薄膜(A)付きガラスを1cmの距離で20往復させた。この作業により、薄膜(A)は500gの荷重でスチールウールによって研磨されたことになる。このスチールウール研磨された薄膜(A)の表面を金属顕微鏡等により20倍の倍率で観察および写真撮影し、剥離せずかつ傷つかずに残留した膜の面積の撮影面積に対する割合(100×残留した膜の面積÷撮影した面積)を「残膜率」として求めた。薄膜(A)はスチールウール研磨をしても剥離せず、かつ傷もつかないため、残膜率は100%であり、優れた耐スクラッチ性を示した。
【0100】
次に、膜の硬度及びヤング率をナノインデンター(東陽テクニカ社製)で前述のようにして測定した。測定点は10点とし、押し込み速度は5nm/秒、押し込み限界深さは100nmとした。得られた硬度は0.88GPa、ヤング率は16GPaであった。
【0101】
さらに、同様の工程で、ガラス基板の代わりにシリコンウエハを基材として用い、得られた薄膜(A)をエリプソメータ(DVA−36LA、溝尻光学社製、光源633nm)によって屈折率と膜厚を測定した。その結果、屈折率が1.26〜1.27、膜厚が110nmであった。屈折率から求めた体積密度は49〜51%となった。なお、上記エリプソメータによる屈折率と膜厚は、反射光のP偏光成分とS偏光成分の振幅比とその位相差から、DVA−36LA装置付属のプログラムによるシュミレーションにより求めた。
【0102】
実験例1
実施例1と同様にして微粒子積層膜を調製し、微粒子積層膜を加熱処理しなかったもの、および微粒子積層膜の加熱温度を250、400、450、500および550℃として、1時間加熱処理を行い、得られた薄膜(A)について、実施例1と同様にして「残膜率」を求めた。結果を図9に示した。
【0103】
加熱処理をしなかったものおよび250℃で熱処理したものは、いずれも残膜率が20%以下であった。また、これらのものを実施例1と同条件にて、ナノインデンターで測定したときの、硬度はともに0.17GPa、ヤング率はともに5GPaであった。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1は、シミュレーションで得られたガラス上に形成された屈折率1.30の反射防止膜の膜厚を変化させた時の、波長と反射スペクトルとの関係を示すグラフである。図中、点線は膜厚が105nm、太実線は膜厚が110nm、実線は膜厚が115nmの場合をそれぞれ示している。
【図2】図2は、シミュレーションで得られたガラス上に形成された多層の反射防止膜と単層の反射防止膜における、波長と反射スペクトルとの関係を示すグラフである。図中、実線は屈折率が1.30の多孔質シリカ膜を単層で設けた反射防止膜の場合であり、破線は屈折率が2.2のチタニアと屈折率が1.48のシリカとを、チタニア/シリカ/チタニア/シリカの順にガラス上に形成した4層構造の反射防止膜の場合である。
【図3】図3は、計算から求めた屈折率とシリカの体積密度との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、数珠状に連なった微粒子の状態を示す模式図である。
【図5】図5は、水晶振動子上に微粒子分散液とイオン性ポリマー溶液とに交互に浸漬し、微粒子積層膜を形成したときの、浸漬時間に対する水晶振動子の周波数の変化、すなわち形成される膜厚の変化との関係を示すグラフである。
【図6】図6は、加熱処理温度によるシリカ微粒子間の結合の様子を示した概念図である。
【図7】図7は、バーコビッチ圧子と試料の接触の様子を示す概念図である。
【図8】図8は、熱溶融石英を例として示した、弾性/塑性変形物質の典型的な荷重−変位曲線を示すグラフである。
【図9】図9は、微粒子積層膜の加熱処理温度(1時間)と残膜率との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成された薄膜(A)を有してなる多孔質膜であって、該薄膜(A)の硬度が0.8GPa以上であり、体積密度が30〜60%である多孔質膜。
【請求項2】
前記薄膜(A)のヤング率が、16GPa以上である請求項1記載の多孔質膜。
【請求項3】
前記薄膜(A)が、微粒子の集合体からなる請求項1または請求項2記載の多孔質膜。
【請求項4】
前記薄膜(A)中の微粒子の平均粒子径が、10〜100nmである請求項3記載の多孔質膜。
【請求項5】
基材上に、微粒子とポリマーとを交互に積層することを特徴とする多孔質膜の製造方法であって、該製造方法は、微粒子分散液に浸漬する工程と、その微粒子の表面電荷と反対電荷のイオン性を有するポリマー溶液に浸漬する工程とを交互に繰り返すことにより、微粒子積層膜を調製し、次いで、この微粒子積層膜を450〜600℃で加熱する工程を含む請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項6】
前記微粒子分散液中の微粒子の平均一次粒子径が、10〜100nmである請求項5記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項7】
前記微粒子分散液中の微粒子が、数珠状に連なった微粒子である請求項5記載の多孔質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−341475(P2006−341475A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168889(P2005−168889)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】