説明

多孔質EVA塗膜を製造するための組成物

【課題】固体不溶性樹脂を使用せずに多孔質EVA塗膜を製造するための代替的組成物を提供する。
【解決手段】(a)エチレン酢酸ビニルコポリマー;(b)炭酸アンモニウム;(c)アルカリ金属重炭酸塩もしくはアルカリ土類金属重炭酸塩;並びに(d)有機酸を含み;当該水性組成物は8〜10のpHを有する、エチレン酢酸ビニル(EVA)塗膜を製造するための水性組成物。さらに、この水性組成物で基体をコーティングしてコーティングされた基体を製造し、このコーティングされた基体を乾燥させることによる、エチレン酢酸ビニル塗膜を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、多孔質エチレン酢酸ビニル(EVA)塗膜を製造するための改良された組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用装置は多くの場合、装置の包装をエチレンオキシド蒸気に曝露することにより滅菌される。その保存期間中に包装の完全性を維持し、バクテリアおよび他の固体汚染物質の侵入を防ぐポリマー被覆紙または不織物質でこの包装が包まれる。この目的に使用される基体には、スパンボンドポリオレフィン物質および特別グレードの医療用紙が挙げられる。多孔度はポリマー塗膜の重要な特性であり、ポリマー塗膜のガス透過速度は滅菌プロセス中にエチレンオキシド蒸気の効果的透過を可能にするのに充分でなければならない。多くの場合、EVA塗膜がこの目的のために使用され、塗膜の孔は、乾燥塗膜において空隙を作り出す固体不溶性樹脂の粒子を導入することによって作り出される。樹脂の粒子サイズ、乾燥条件、粘着付与剤および他の要因の変動は、固体不溶性樹脂の使用によって一定の多孔度を有する塗膜を達成するのを困難にする場合がある。例えば、米国特許第6,764,566号は固体不溶性樹脂の組み込みによって造られた多孔性塗膜を有する不織物質を開示する。しかし、この文献はこの物質を使用せずに一定の多孔度をもたらす方法を開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,764,566号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明により取り組まれる課題は、固体不溶性樹脂を使用せずに多孔質EVA塗膜を製造するための代替的組成物を見いだすことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はエチレン酢酸ビニル(EVA)塗膜を製造するための水性組成物に関する。本組成物は(a)エチレン酢酸ビニルコポリマー;(b)炭酸アンモニウム;(c)アルカリ金属重炭酸塩もしくはアルカリ土類金属重炭酸塩;並びに(d)有機酸を含み;当該水性組成物は8〜10のpHを有する。
【0006】
本発明はさらに、この水性組成物で基体をコーティングしてコーティングされた基体を製造し、このコーティングされた基体を乾燥させることによる、エチレン酢酸ビニル塗膜を製造する方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
他に示されない限りは、全てのパーセンテージは重量パーセンテージ(重量%)であり、全ての温度は℃単位である。「有機酸」は炭素および水素を含む酸性化合物であり、すなわち、25℃で測定されたpK<6、あるいは5未満の化合物である。言及される全てのpH値は25℃で測定される。
【0008】
好ましくは、本発明において使用される有機酸はカルボン酸である。本発明のある実施形態においては、有機酸はC−Cモノ−、ジ−、またはトリ−カルボン酸である。1種より多い有機酸が本発明の方法において使用されうる。特に好ましい有機酸には、酢酸、リンゴ酸、フマル酸、ソルビン酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、マロン酸およびシュウ酸が挙げられる。本発明のある実施形態においては、本発明において使用されるアルカリ金属重炭酸塩もしくはアルカリ土類金属重炭酸塩はアルカリ金属重炭酸塩もしくはこの組み合わせである。本発明のある実施形態においては、本発明において使用されるアルカリ金属重炭酸塩もしくはアルカリ土類金属重炭酸塩は、重炭酸リチウム、重炭酸ナトリウム、、重炭酸カリウム、重炭酸マグネシウム、重炭酸カルシウムおよびこれらの組み合わせから選択され;あるいは重炭酸ナトリウムもしくは重炭酸カリウムであり;あるいは重炭酸ナトリウムである。1種より多いアルカリ金属重炭酸塩もしくはアルカリ土類金属重炭酸塩が存在しうる。本発明のある実施形態においては、有機酸およびアルカリ金属重炭酸塩もしくはアルカリ土類金属重炭酸塩の合計量は水性組成物中の全固形分の3〜5重量%、あるいは3.5〜5重量%、あるいは3.8〜4.8重量%である。本発明のある実施形態においては、アルカリ金属重炭酸塩もしくはアルカリ土類金属重炭酸塩と有機酸との相対量は、1〜3重量部のアルカリ金属重炭酸塩対0.5〜1.5重量部の有機酸である。本発明のある実施形態においては、有機酸およびアルカリ金属重炭酸塩もしくはアルカリ土類金属重炭酸塩の合計量は水性組成物中の全重量の0.8〜1.35重量%、あるいは0.9〜1.35重量%、あるいは1.03〜1.3重量%である。本発明のある実施形態においては、水性組成物のpHは少なくとも8.2、あるいは少なくとも8.4、あるいは少なくとも8.6、あるいは少なくとも8.8、あるいは少なくとも8.9であり;ある実施形態においては、pHは9.8以下、あるいは9.6以下、あるいは9.4以下、あるいは9.3以下である。
【0009】
本発明の方法においては、有機酸およびアルカリ金属重炭酸塩もしくはアルカリ土類金属重炭酸塩は固体として、8〜10、あるいは8.5〜9.5のpHを有する水性EVA分散物に添加される。この酸および重炭酸塩は別々に任意の順番で添加されることができ、またはそれらは同じ時点で添加されることができ;それらは添加前に一緒にブレンドされることができる。本発明のある実施形態においては、8〜10のpHを有する水性EVA分散物は炭酸アンモニウムおよびアンモニアを、EVAの初期水性分散物に添加することによって製造される。初期水性EVA分散物に添加される他の成分には、水、顔料(例えば、二酸化チタン)、充填剤、界面活性剤、および消泡剤が挙げられる。本発明のある実施形態においては、初期水性EVA分散物は、初期水性EVA分散物の全重量を基準にして、25〜40重量%、あるいは27〜35重量%のポリマー固形分を含む。本発明のある実施形態においては、EVAポリマーは酢酸ビニルモノマーの重合残基を18〜40重量%、およびエチレンモノマーの重合残基を60〜82重量%含み;あるいは、酢酸ビニル残基を22〜32重量%およびエチレン残基を68〜78重量%含む。本発明のある実施形態においては、EVAポリマーは0.5〜400、あるいは0.5〜8のメルトインデックス(MI)を有する。本発明のある実施形態においては、水性EVA分散物は1〜3μmの平均粒子サイズを有する。他の成分、例えば、粘着付与剤樹脂および抗ブロッキング剤(anti−blocking additive)がEVA分散物中に存在することができる。本発明のある実施形態においては、粘着付与剤として使用されるロジンは初期水性EVA分散物の全重量の4〜15重量%、あるいは6〜10重量%を構成する。本発明のある実施形態においては、粘着付与剤として使用されるロジンは、初期水性EVA分散物の全固形分重量の8〜30重量%、あるいは15〜25重量%を構成する。
【0010】
本発明のある実施形態においては、水性組成物は10〜30重量%、あるいは15〜25重量%のポリマー固形分を含む。本発明のある実施形態においては、水性組成物は、組成物の全重量を基準にして炭酸アンモニウムを0.3〜1.5重量%、あるいは少なくとも0.5重量%、あるいは少なくとも0.6重量%有し;ある実施形態においては、組成物は1.3重量%以下、あるいは1.1重量%以下有する。本発明のある実施形態においては、初期水性EVA分散物は水性組成物の35〜60重量%、あるいは45〜55重量%を構成する。
【0011】
本発明のある実施形態においては、アンモニアは水性アンモニアもしくはガス状アンモニア、好ましくは水性アンモニアの形態で、初期水性EVA分散物に添加される。本発明のある実施形態においては、初期水性EVA分散物のpHは少なくとも8.5、あるいは少なくとも8.7、あるいは少なくとも8.9、あるいは少なくとも9に調節される。ある実施形態においては、初期水性EVA分散物のpHは9.7以下、あるいは9.5以下に調節される。本発明のある実施形態においては、アンモニアの添加、並びにアルカリ金属重炭酸塩もしくはアルカリ土類金属重炭酸塩および有機酸の添加は、ほぼ周囲温度で、すなわち、10℃〜35℃、あるいは15℃〜30℃で行われる。
【0012】
水性組成物は当該技術分野で知られている任意の標準的な技術によって基体上にコーティングされる。好ましい技術には、例えば、エアナイフ、グラビアおよびロールコートが挙げられる。塗膜の厚みは、好ましくは2〜10 lb./リーム(3.3〜16.7g/m)、あるいは4〜8 lb./リーム(6.7〜13.4g/m)の範囲である。本発明のある実施形態においては、水性組成物はほぼ周囲温度で、すなわち、10℃〜35℃、あるいは15℃〜30℃で基体上にコーティングされる。本発明のある実施形態においては、基体は不織布または紙(例えば、クラフト紙)である。本発明のある実施形態においては、基体は3〜12mil(0.076〜0.305mm)の厚みを有する。本発明のある実施形態においては、基体はスパンボンドポリオレフィンであり、その一例は、医療用グレードのTYVEK(タイベック)布(スパンボンドポリエチレン、デュポンコーポレーションから入手可能)である。
【0013】
本発明のある実施形態においては、コーティングされた基体は75℃〜200℃、あるいは85℃〜140℃の乾燥温度で乾燥させられる。ある実施形態においては、コーティングされた基体は乾燥オーブン内で乾燥させられ、乾燥温度はオーブン温度である。基体がスパンボンドポリオレフィンである本発明のある実施形態においては、好ましい乾燥温度範囲には、90℃〜140℃、95℃〜130℃、および110℃〜125℃が挙げられる。基体が紙である本発明のある実施形態においては、好ましい乾燥温度範囲には、85℃〜200℃、95℃〜160℃、および100℃〜140℃が挙げられる。本発明のある実施形態においては、コーティングされた基体は強制通風対流式オーブン内で乾燥させられる。本発明のある実施形態においては、乾燥時間は10秒から10分、あるいは15秒から5分、あるいは20秒から3分である。
【実施例】
【0014】
実施例1:水性EVAコーティング組成物の製造
初期水性EVA分散物が以下の表に記載される。
【0015】
【表1】

NVM=不揮発性物質;PBW=重量部;PHR=100あたりの部;酸価mgKOH/g;VA=酢酸ビニル;E=エチレン。
【0016】
最終水性組成物が以下の表に記載される。上記初期EVA分散物がアンモニア、重炭酸ナトリウムおよびクエン酸以外の以下に示された材料と混合される。アンモニアが添加されてpH9〜9.5にされ、続いて、重炭酸ナトリウムおよびクエン酸が添加され、その後pHはほぼ9であった。8.9〜9.2のpH値を有する組成物のサンプルが製造され、全て良好な貯蔵安定性を示した。
【0017】
【表2】

【0018】
TAMOL1254分散剤はロームアンドハースカンパニー(Rohm and Haas Co.)から入手可能である;SURFYNOL−440はエアプロダクツカンパニー(Air Products Co.)から入手可能である;NO FOAMはシャムロックケミカルズ(Shamrock Chemicals)から入手可能である;R902はデュポン(DuPont)から入手可能である;MISTRON VAPORはサイプラスケミカルズ(Cyprus Chemicals)から入手可能である。
【0019】
実施例2:EVA塗膜
実施例1の組成物およびいくつかの比較の水性組成物が、医療用グレードのTYVEK(タイベック)(商標)(スタイル1073B)上にコーティングされた。全ての塗膜は、#16メイヤー(Meyer)ロッドを用いて、8”×12”(20.3×30.5cm)TYVEK(商標)シート上に、約6.0 lb/リーム(10g/m)(乾燥)で適用され、強制通風オーブン内で120℃で1分間乾燥させられた。コーティングされたTYVEK(商標)シートのそれぞれの多孔度は、次いで、ガーレイデンシトメーター(Gurley densitometer)を用いて測定された。次の表は、コーティングされたTYVEK(商標)を通過する100mLの空気置換の秒数の結果であり、全ての多孔度の値は5回の読み取り値の平均である。コーティングされた基体へのヒートシール結合の強度を評価するために、それは265℃で1秒間、60psi(513kPa)で医療用トレイにヒートシールされた。結合強度はその結合を1インチ(2.5cm)幅のシール領域にわたって12インチ/分(30.5cm/分)で引き離すことにより試験された。ヒートシール結合は特定されるような範囲である。
【0020】
【表3】

【0021】
塗膜Aは、アンモニアで安定化された、エチレン、酢酸ビニルおよびメタクリル酸の高分子量ターポリマーである;塗膜Bは、KOHで安定化された、高および低分子量EVAコポリマーのブレンドである;塗膜Cは、KOHで安定化された高分子量EVAおよびワックスである;塗膜Dは、KOHで安定化された、高分子量EVA、ワックスおよび増粘剤である;塗膜Eは、アンモニアで安定化された、エチレン、酢酸ビニルおよびメタクリル酸の低分子量ターポリマーである;塗膜Fは、KOHで安定化された、高および低分子量EVAコポリマーのブレンドである。
本発明のコーティング組成物は、他のEVAコーティング組成物よりも顕著に高い多孔度を有するEVA塗膜を生じさせることは明らかである。
【0022】
実施例3:アルカリ金属重炭酸塩および有機酸の量の変動
上記実施例1および2におけるように塗膜が製造されたが、ただし、アルカリ金属重炭酸塩および有機酸の量(水性組成物中の全固形分を基準にする)を変更した。結果は以下の表に記載される。
【0023】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン酢酸ビニル塗膜を製造するための水性組成物であって、
当該組成物が(a)エチレン酢酸ビニルコポリマー;(b)炭酸アンモニウム;(c)アルカリ金属重炭酸塩もしくはアルカリ土類金属重炭酸塩;および(d)有機酸を含み;
当該水性組成物が8〜10のpHを有する、
水性組成物。
【請求項2】
有機酸が、酢酸、リンゴ酸、フマル酸、ソルビン酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、マロン酸およびシュウ酸からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
アルカリ金属重炭酸塩もしくはアルカリ土類金属重炭酸塩を1〜3重量部および有機酸を0.5〜1.5重量部含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
有機酸とアルカリ金属重炭酸塩もしくはアルカリ土類金属重炭酸塩との合計量が、組成物中の固形分の全重量の3〜5重量%である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
アルカリ金属重炭酸塩もしくはアルカリ土類金属重炭酸塩が重炭酸ナトリウムであり、かつ有機酸がクエン酸である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
エチレン酢酸ビニルコポリマーが、酢酸ビニルモノマーの重合残基を18〜40重量%、およびエチレンモノマーの重合残基を60〜82重量%含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
(a)エチレン酢酸ビニルコポリマー;(b)炭酸アンモニウム;(c)アルカリ金属重炭酸塩もしくはアルカリ土類金属重炭酸塩;および(d)有機酸を含み;8〜10のpHを有する水性組成物で基体上をコーティングして、コーティングされた基体を生じさせ;および
当該コーティングされた基体を乾燥させる;
ことを含む、エチレン酢酸ビニル塗膜を製造する方法。
【請求項8】
基体が不織布もしくは紙であり、かつコーティングされた基体が75℃〜200℃の乾燥温度で乾燥させられる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
基体がスパンボンドポリオレフィンであり、かつ組成物が3.3〜16.7g/mの量でスパンボンドポリオレフィン上にコーティングされる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
コーティングされた基体が90℃〜140℃のオーブン温度で乾燥させられる、請求項9に記載の方法。

【公開番号】特開2010−229395(P2010−229395A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−31314(P2010−31314)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】